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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1370005
異議申立番号 異議2019-700805  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-04 
確定日 2020-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6499545号発明「金属セラミック接合基板及び、その製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6499545号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕、16について訂正することを認める。 特許第6499545号の請求項1?16に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6499545号の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成27年8月7日に出願され、平成31年3月22日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:同年4月10日)がされたものであって、本件特許異議の申立てに係る主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和元年10月4日
特許異議申立人 廣瀬妙子(以下「申立人」という。)による
請求項1?16に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年1月23日付け
取消理由通知
同年3月27日
特許権者による意見書の提出及び訂正請求
(当該訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)
同年5月11日
申立人による意見書の提出
同年7月7日付け
取消理由通知(決定の予告)
同年9月7日
特許権者による意見書の提出


第2.本件訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所に下線を付し、また削除された文字の前後1文字に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項11に、
「前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上」
とあるのを、
「前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?14も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「である金属セラミック接合基板。」
とあるのを、
「であり、前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上である金属セラミック接合基板。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?14も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に、
「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上であり、該導体層の厚みが10μm以上かつ200μm以下である」
とあるのを、
「前記導体層の厚みが10μm以上かつ200μm以下である」
に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?14も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項16に、
「100wtppm以上である」
とあるのを、
「100wtppm以上2000wtppm以下である」
に訂正する。

2.一群の請求項
本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接または間接に引用する請求項2?14について訂正することを求めるものであるから、訂正後の請求項〔1?14〕は、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項である。

3.本件訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において「接合層中の酸素濃度」の上限が規定されていなかったところ、その上限を「1×10^(22)atoms/cm^(3)以下」と規定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の段落【0033】には、
「接合層4中の酸素濃度が低いと上記のピール強度が低下することがあるので、この酸素濃度は、3×10^(19)atoms/cm^(3)以上とすることが好ましい。一方、酸素の上限は1×10^(22)atoms/cm^(3)とすることが好適である。」
と記載されているから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1においては、「銅又は銅合金からなる導体層」に関する導電率について規定されていなかったところ、「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上であ」ることを規定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の請求項7には、
「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上であり、」
と記載され、また本件特許明細書等の段落【0038】には、
「なお、導体層3を構成する銅または銅合金の導電率は、IACS80%以上であれば導体層として有効に機能することができる。」
と記載されているから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項7に「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上であり」と記載されていたところ、訂正事項2により、訂正後の請求項1において「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上であ」ることが規定されたことに伴い、記載の重複を避けるべく訂正後の請求項7において当該記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項16において「前記スパッタリング法又は蒸着法による成膜の際に用いられるチタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度」の上限が規定されていなかったところ、その上限を「2000wtppm以下」と規定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書等の段落【0042】には、
「ここで、上記のスパッタリング法又は蒸着法では、窒化珪素基板の表面への成膜に用いるチタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度を、100wtppm以上とすることが、ピール強度の向上の観点から好ましい。・・・一方、酸素が多すぎると窒素と酸素の反応によりNOxが生成し境界部にガス溜りができ、剥離が生じる可能性がある。そのため、チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度は、2000wtppm以下とすることが好ましい。」
と記載されているから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4.小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、本件訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?14〕、16について訂正することを認める。


第3.訂正後の本件発明
上記第2.のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?16は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?16に記載された、次のとおりのものである。
なお、訂正特許請求の範囲の請求項1?16に係る発明を、以下「本件発明1」等という。

「【請求項1】
窒化珪素基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板であって、
前記窒化珪素基板と導体層との間に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、及び、窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み且つ銀を含まない接合層が介在し、該接合層の介在下で、前記窒化珪素基板と導体層とが接合されてなり、
前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下であり、前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上である金属セラミック接合基板。
【請求項2】
前記接合層の厚みが、500nm以上かつ5000nm以下である請求項1に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項3】
前記接合層の厚みが、2000nm以上かつ4000nm以下である請求項2に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項4】
前記導体層から接合層への銅の拡散距離が、該導体層と接合層との界面から厚み方向に沿って測って500nm以上である請求項1?3のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項5】
前記窒化珪素基板と導体層とのピール強度が、0.4kN/m以上である請求項1?4のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項6】
前記窒化珪素基板を、曲げ強度が400MPa以上であり、表面粗さRaが0.1μm以上かつ1.0μm以下であるものとしてなる請求項1?5のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項7】
前記該導体層の厚みが10μm以上かつ200μm以下である請求項1?6のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項8】
厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×10^(21)atoms/cm^(3)以上である請求項1?7のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項9】
前記接合層中のチタン、ジルコニウム、バナジウム、及び/又は、アルミニウムの含有量が、該接合層の厚み方向の中間領域にピークを有するとともに、該中間領域から、厚み方向で導体層側及び窒化珪素基板側のそれぞれに向かうに従い減少してなる請求項1?8のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項10】
車載用又は民生機器搭載用のパワー半導体素子が搭載されるパワーモジュール用基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項11】
前記導体層に回路パターンが形成された金属回路基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項12】
LED用基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項13】
MEMS用基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項14】
マルチコアMCUに用いられる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項15】
窒化珪素基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板を製造する方法であって、
窒化珪素基板又は導体層の、少なくとも一方の表面上に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を、スパッタリング法又は蒸着法により、膜厚が300nm以上になるまで成膜し、その後、成膜した薄膜層上に、導体層又は窒化珪素基板を、真空又は不活性ガス雰囲気の下、所定の温度条件で、5MPa以上かつ150MPa以下の加圧力の作用により圧着させて、前記窒化珪素基板と導体層とを接合し、
前記スパッタリング法又は蒸着法により成膜される材料が、チタン、ジルコニウム、及び、バナジウムからなる群から選択される少なくとも一種である場合、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、750℃以上かつ950℃以下とし、または、前記スパッタリング法又は蒸着法により成膜される材料が、アルミニウムである場合、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、400℃以上かつ600℃以下とする金属セラミック接合基板の製造方法。
【請求項16】
前記スパッタリング法又は蒸着法による成膜の際に用いられるチタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度が、100wtppm以上2000wtppm以下である請求項15に記載の金属セラミック接合基板の製造方法。」


第4.取消理由の概要
本件特許の請求項1?16に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和2年7月7日付けの取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

4)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
5)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



理由4(特許法第29条第1項第3号)について
本件発明1?6、8?11は、引用文献1に記載された発明である。

理由5(特許法第29条第2項)について
本件発明1?14は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開平9-153567号公報(当審が新たに引用する文献)
引用文献2:「活性金属法による窒化物セラミックスと金属の接合機構」、中橋昌子 他2名、日本金属学会誌、公益社団法人日本金属学会、第53巻、第11号(1989)1153-1160(甲第5号証)
引用文献3:特開2002-201076号公報(当審が新たに引用する文献)
引用文献4:特開平2-177463号公報(甲第4号証)


第5.当審の判断
1.理由4(特許法第29条第1項第3号)について
(1)引用文献に記載された事項
以下、引用文献1に記載された発明を「引用発明A」、引用文献2等に記載された事項を「引用文献2記載事項」などという。
ア.引用文献1には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】 25℃下における熱伝導率が60W/m・K 以上である窒化珪素セラミック板に、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含む中間層を介して、金属回路板が接合されていることを特徴とする高熱伝導性窒化珪素回路基板。
・・・
【請求項5】 金属回路板が、銅、アルミニウムまたはニッケルから構成される、請求項1記載の高熱伝導性窒化珪素回路基板。」

(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたもので、焼結した窒化珪素セラミック回路板が本来備える高強度特性を利用し、さらに熱伝導率が高く放熱性に優れるとともに耐熱サイクル特性を大幅に改善した高熱伝導性窒化珪素回路基板を提供するとともにこの窒化珪素基板を利用することで熱サイクルに対する信頼性を向上させた半導体装置を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0021】チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブおよびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含む中間層としては、例えば上記元素の酸化物、アルミネイト、シリケイト等の化合物、例えば、アルミニウムを含有する中間相としては、Al_(2)O_(3)、ムライト(Al_(2)O_(3)-SiO_(2))、希土類アルミネイト、サイアロン(SIALON)等の化合物を挙げることができる。またこれら金属元素を含むガラスなどのアモルファス相でも好適である。これらの中間層に含まれる元素と酸素が金属回路板の共晶液相の濡れ性を改善すると同時に、これら中間層に含まれる金属元素と金属回路板構成元素-酸素からなる化合物が生成して金属回路板と中間層を強固に接合し、さらに中間層と窒化珪素セラミック板をも強固に接合することが可能となる。特に、金属回路板がアルミニウムを主成分とし、中間層にアルミニウムを含有する場合には、金属回路板のアルミニウムと中間層に含まれるアルミニウムが相互に拡散して、強固に接合することも判明した。」

(エ)「【0023】上記中間層は、焼結後の窒化珪素セラミック板表面に種々の方法により形成される。ゾルゲル法、ディップ法などによって前駆体となる均質な膜を形成し、これを熱処理することによって目的の化合物の中間層を作製する方法、あるいはCVD法、PVD法などによって直接中間層となる化合物を形成する方法等が挙げられる。・・・次にこの窒化珪素セラミック表面を酸素を含む雰囲気中で熱処理することによって、所望の中間層を形成して金属回路板を接合する方法である。」

(オ)「【0026】金属回路板の接合は、例えば金属回路板が銅の場合には以下のような方法で行われる。すなわち、所望の厚さをもつチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブおよびアルミニウムから選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含有する中間層を形成した高熱伝導性窒化珪素セラミック板の表面の所定の位置に、酸素を含有する銅回路板を接触配置させ、必要ならば荷重をかけた状態で銅と酸化銅(Cu_(2)O)の共晶温度(1,065℃)以上に加熱して一定時間保持することで共晶液相を生成させ、この液相を接合剤として銅回路板が高熱伝導性窒化珪素セラミック板表面に接合される。他の種類の金属回路板も使用可能であるが、その場合はこの共晶液相が生じる温度を鑑みて熱処理する温度を設定する必要がある。」

(カ)「【0052】次にこの窒化珪素セラミック板表面に金属回路板を接合するための中間層を以下の方法で作製した。窒化珪素セラミック板をスパッタ装置内にチタンターゲットに対向する形で設置し、Arの分圧0.1Pa、O_(2)の分圧を0.2Paとしてチタンをスパッタした。このスパッタを窒化珪素セラミック板の両面に対して行った。この結果、窒化珪素セラミック板表面には厚さ1.5μm の結晶性は悪いがTiO_(2)薄膜が得られた。表面にTiO_(2)薄膜をもつ窒化珪素セラミック板の両面に厚さ0.3mmのタフピッチ銅からなる銅回路板を接触配置し、これをベルト式加熱炉に挿入して窒素雰囲気中で最高温度1,075℃で1分間加熱処理することにより銅回路板を窒化珪素セラミック板に接合した。」

(キ)「【図2】



上記(ア)?(キ)から、引用文献1には、以下の引用発明Aが記載されている。
「窒化珪素セラミック板に、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含む中間層を介して、金属回路板が接合されており、
金属回路板が、タフピッチ銅から構成される
高熱伝導性窒化珪素回路基板。」

イ.引用文献2には、次の記載がある。
(ア)「セラミックスと金属の界面に結合を生成する方法として,両者を高温高圧で加熱接合する固相接合^((1)(2))や,非金属元素との親和力が大きく活性なTiやZrを利用した活性金属法^((3)(4))などが知られている.・・・
活性金属法においては,セラミックスが窒化物の場合,界面に活性金属の窒化物^((6))が,・・・生成するという報告^((7))であり,いずれも反応層の生成を伴っている.」
(1153ページ左欄14行?右欄6行)

(イ)「2.接合におけるTiの挙動
接合機構について検討するために・・・これらの接合材は,100μmのCuとセラミックスの間に3μmのTi箔を挿入し,1293K,360s加熱してTiとCuの一部をTi-Cuろう材合金として作製したものである.・・・Fig.3のSEM像から,いずれのセラミックス表面にも,約2μmのTi凝集層が存在し,さらにTi-Cuの共晶組織を経て金属Cu層へ続いていることがわかる.・・・」
(1154ページ右欄下から15?3行)

(ウ)「


(1155ページ)

(エ)上記(イ)及び(ウ)の記載、特に(ウ)の右側に示されたSEM像によれば、Si_(3)N_(4)セラミックスとTi箔と金属Cuを加熱して積層した場合、中間のTi箔は、Ti凝集層とTi-Cu共晶組織となること、Ti凝集層は約2μmでありTi-Cu共晶組織はTi凝集層とほぼ同じ厚さであること、が看て取れる。

(2)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と引用発明Aを対比すると、引用発明Aの「窒化珪素セラミック板」は本件発明1の「窒化珪素基板」に相当し、以下同様に「中間層」は「接合層」に、「金属回路板」は「導体層」に、「高熱伝導性窒化珪素回路基板」は「金属セラミック接合基板」にそれぞれ相当する。

引用発明Aの「窒化珪素セラミック板に」「中間層を介して」「金属回路板が接合されて」いる「高熱伝導性窒化珪素回路基板」は、本件発明1の「窒化珪素基板の少なくとも一方の表面側に」「導体層を積層してなる金属セラミック接合基板」であること、及び「前記窒化珪素基板と導体層との間に」「接合層が介在し、該接合層の介在下で、前記窒化珪素基板と導体層とが接合されて」いることと一致する。
引用発明Aの「金属回路板が、タフピッチ銅から構成される」点は、本件発明1の「銅又は銅合金からなる導体層」と一致する。

よって、本件発明1と引用発明Aは、以下の点で一致する。
<一致点1>
「窒化珪素基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板であって、
前記窒化珪素基板と導体層との間に、接合層が介在し、該接合層の介在下で、前記窒化珪素基板と導体層とが接合されてなる
金属セラミック接合基板」

そして、本件発明1と引用発明Aは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、及び、窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み且つ銀を含まない接合層」であるのに対して、引用発明Aは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含む中間層である点。

<相違点2>
本件発明1は、「前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下」なのに対して、引用発明Aは、中間層が酸素を含むものの酸素濃度が明記されていない点。

<相違点3>
本件発明1は、「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上」なのに対して、引用発明Aは、導電率が明記されていない点。

イ.相違点についての検討
<相違点1>について検討する。
引用発明Aは、引用文献1の「これら中間層に含まれる金属元素と金属回路板構成元素-酸素からなる化合物が生成して金属回路板と中間層を強固に接合し、さらに中間層と窒化珪素セラミック板をも強固に接合することが可能となる。」(段落【0021】)なる記載から、中間層に酸化物が生成されることは明示されているものの、窒化物が生成されることについては記載も示唆もない。
また、窒化珪素セラミック板にチタン等を含む中間層を積層して接合させた場合に、窒素が拡散して中間層のチタン等が窒化物となり得ることが技術常識(引用文献2(上記(1)イ.)を参照)であるとしても、引用発明Aは、中間層を生成するにあたって、窒化珪素セラミック板の表面に含ませたチタン等の金属を事前に酸化物の表面層(段落【0023】?【0024】)としている。
ここで、Ti0_(2)からTiNを生成することについては、例えば、特公平4-24308号公報(乙第1号証)の特に2ページの表1及び同ページ3欄26?35行にあるように、窒化の前に炭素等によりTi0_(2)を還元処理する必要があることが技術常識であるところ、引用発明Aは、チタン等の金属を積極的に酸化物の表面層とするものであって、還元処理を行うものではない。
そうすると、引用発明Aは、中間層に含まれているチタン等のごく一部が窒化物となっている可能性があるという程度のものである。

一方、本件発明1は、「前記窒化珪素基板と導体層との間に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、及び、窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み且つ銀を含まない接合層が介在し、該接合層の介在下で、前記窒化珪素基板と導体層とが接合されてなり」(【請求項1】)という構成により、「窒化珪素基板と導体層とを、チタン、ジルコニウム、バナジウム及び/又はアルミニウムの薄膜層の介在下でホットプレスやHIP(熱間等方圧加圧)等することで、製造された金属セラミック接合基板では、窒化珪素基板に含まれる窒素及び、導体層に含まれる銅のそれぞれが、上記の薄膜層側に拡散するとともに化合物となって接合層を形成することにより、比較的薄い接合層で、窒化珪素基板と導体層とが強固に接合される」(段落【0011】)ものであるから、窒化チタン等の窒化物が接合層として機能するものである。

そうすると、中間層に含まれているチタン等のごく一部が窒化物となっている可能性があるという程度の引用発明Aは、そのようなごくわずかな窒化物が接合層としての機能を有しているとまではいえない。
よって、<相違点1>は、実質的な相違点であるか。ら、<相違点2>及び<相違点3>について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明Aではない。

ウ.上記のとおり、<相違点1>は実質的な相違点であるから、<相違点2>及び<相違点3>について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明Aではない。

(3)本件発明2?6、8?11について
本件発明2?6、8?11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2?6、8?11についても同様に、引用発明Aではない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?6、8?11は、引用発明Aではなく、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すことはできない。


2.理由5(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献の記載
引用文献1、2に記載された事項、及び引用発明Aについては、上記1.(1)で述べたとおりである。

(2)本件発明1について
上記1.(2)のとおり、本件発明1と引用発明Aは、<一致点1>で一致し、<相違点1>?<相違点3>で相違するものである。
そして、<相違点1>は、実質的な相違点であるから、<相違点1>の容易想到性についてまず検討する。

引用発明Aは、中間層を生成するにあたって、窒化珪素セラミック板の表面に含ませたチタン等の金属を事前に酸化物の表面層(段落【0023】?【0024】)としている。
そして、Ti0_(2)をTiNとするには、酸化物が安定的であるため、窒化物とするには還元処理が必要であることが技術常識であるところ、引用発明Aは、チタン等の金属を積極的に酸化物の表面層とするものであるから、還元処理を行うことに阻害事由がある。
さらに、引用発明Aは、「これら中間層に含まれる金属元素と金属回路板構成元素-酸素からなる化合物が生成して金属回路板と中間層を強固に接合し、さらに中間層と窒化珪素セラミック板をも強固に接合することが可能となる。」(段落【0021】)ものであるから、酸化物の生成に着目しているものであって、窒化物をより多く生成する動機付けがない。
そうすると、引用発明Aの中間層に含まれているチタン等のごく一部が窒化物となっている可能性があるとはいえるものの、そのようなごくわずかな窒化物が接合層としての機能を有するとまではいえず、窒化物を積極的に増やす動機付けもなく、また、窒化物を増やすための還元処理に阻害事由があるから、引用発明Aにおいて、<相違点1>に係る本件発明1の構成とすることが容易になし得るものであるとはいえない。

よって、<相違点2>及び<相違点3>について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明Aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(3)本件発明2?14について
本件発明2?14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2?14についても同様に、引用発明Aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?14は、引用発明Aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。


第6.取消理由(予告)としなかった令和2年1月23日付けの取消理由について
1.取消理由(予告)としなかった令和2年1月23日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。

1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
5)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)接合層中の酸素濃度について発明の詳細な説明には、3×1019atoms/cm^(3)?1×1022atoms/cm^(3)とすることによって、強固に接合するという課題を解決できることは記載されているけれども、上限について、無制限に大きい値であっても課題を解決できる旨の記載はない。
本件発明1?14は、課題を解決できる3×1019atoms/cm^(3)?1×1022atoms/cm^(3)の範囲を超えた酸素濃度を含むものであるから、本件発明1?14は、課題を解決できないものを含むものである。
(2)原材料中の酸素濃度について発明の詳細な説明には、100wtppm?2000wtppmとすることによって、強固に接合するという課題を解決できることが記載されているけれども、上限について、無制限に大きい値であっても課題を解決できる旨の記載はない。
本件発明16は、課題を解決できる100wtppm?2000wtppmの範囲を超えた酸素濃度を含むものであるから、本件発明16は、課題を解決できないものを含むものである。

理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1の「前記接合層中の酸素濃度が3×1019atoms/cm^(3)以上である」、及び請求項16の「チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度が、100wtppm以上である」は、不明確である。
(2)請求項8の「厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×1021atoms/cm^(3)以上である」は、不明確である。

理由3(特許法第36条第4項第1号)について
(1)本件発明1の「前記接合層中の酸素濃度が3×1019atoms/cm^(3)以上である」、及び本件発明16の「チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度が、100wtppm以上である」ことにつき、どのようにすればその実施が可能であるのか、本件特許明細書等には記載されていない。
(2)本件発明8の「厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×1021atoms/cm^(3)以上である」ことにつき、どのようにすればその実施が可能であるのか、本件特許明細書等には記載されていない。

理由5(特許法第29条第2項)について
本件発明15及び16は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本件発明が解決すべき課題
本件発明は、
「窒化珪素基板と導体層との間に、銀を含むろう材を介在させることにより、それらをろう付け法で接合させて、金属セラミック接合基板を製造した場合は、窒化珪素基板と導体層とを強固に接合させるために、ろう材の厚みを比較的厚くせざるを得ないが、銀ろう材の厚みが厚くなると、たとえばピッチ100μm以下の微細な回路パターンの形成が困難になるという問題があった。
また、このようにろう材の厚みを厚くすると、使用に際し、厚みのあるろう材が、半導体素子で生じる熱の放散を阻害し、金属セラミック接合基板による所要の放熱性能を確保できないことがあった。」(段落【0008】)
ことを背景として
「窒化珪素基板と導体層とを、比較的薄い厚みの接合層によって有効に接合させることにより、微細な回路パターンを形成可能とし、また所要の放熱性能を発揮することのできる金属セラミック接合基板及び、その製造方法を提供すること」(段落【0009】)
を解決すべき課題としており、本件発明の構成によって
「この発明の金属セラミック接合基板によれば、窒化珪素基板と導体層との間に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム及び/又は窒化アルミニウムを含む接合層が介在することより、従来技術の銀ろう材に比して薄い厚みの接合層で構成でき、該接合層により、半導体素子から発生する熱を、有効に放散することができ、その結果として、放熱性能を大きく高めることができる。さらに、窒化珪素基板と導体層とを強固に接合することができるので、微細な回路のパターニングが可能になる。」(段落【0020】)
という効果を得ることができ、上記課題を解決しているとするものである。

(2)本件特許明細書等の記載(特に酸素濃度について)
ア.接合層中の酸素濃度について
段落【0033】には、
「接合層4中の酸素濃度が低いと上記のピール強度が低下することがあるので、この酸素濃度は、3×10^(19)atoms/cm^(3)以上とすることが好ましい。一方、酸素の上限は1×10^(22)atoms/cm^(3)とすることが好適である。」
と記載されるとともに、実施例の【表1】には、上記酸素濃度の数値範囲内の数値とすることが記載されているから、接合層中の酸素濃度を3×10^(19)atoms/cm^(3)?1×10^(22)atoms/cm^(3)とすることによって、強固に接合するという課題を解決できることが記載されている。

イ.原材料中の酸素濃度について
段落【0042】には、
「ここで、・・・原料中の酸素濃度を、100wtppm以上とすることが、ピール強度の向上の観点から好ましい。これはすなわち、酸素が存在すると窒化珪素基板中の窒素との置換反応が促進されて、Si_(3)N_(4)がSiO_(3)となり、吐き出された窒素がTiNを形成する。従って、ここでの酸素が少ないと、製造された金属セラミック接合基板で窒素の接合層への拡散が不十分となり十分なピール強度が得られないことが懸念される。一方、酸素が多すぎると窒素と酸素の反応によりNOxが生成し境界部にガス溜りができ、剥離が生じる可能性がある。そのため、チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度は、2000wtppm以下とすることが好ましい。」
と記載されているから、原材料中の酸素濃度を100wtppm?2000wtppmとすることによって、強固に接合するという課題を解決できることが記載されている。

(3)本件発明1?14、及び16について
ア.本件発明1
本件訂正事項1により、請求項1は、上記第3.に示したとおりのものとなった。
これにより、「前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下」で、上限下限の両方が規定されたから、本件発明1は、課題を解決できないものを含まないものとなった。

イ.本件発明2?14
本件発明2?14は、本件発明1を直接又は間接に引用するものであり、本件発明1と同様に課題を解決できるものである。

ウ.本件発明16
本件訂正事項4により、請求項16は、上記第3.に示したとおりのものとなった。
これにより、「前記スパッタリング法又は蒸着法による成膜の際に用いられるチタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度が、100wtppm以上2000wtppm以下」で、上限下限の両方が規定されたから、本件発明16は、課題を解決できないものを含まないものとなった。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?14、及び16は、本件発明の課題を解決できるものであって発明の詳細な説明に記載した発明であり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当するものとはいえない。

3.理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1の「前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下である」、及び請求項16の「チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度が、100wtppm以上2000wtppm以下である」という記載について、接合層中に酸素がどのように含まれているのか、また原材料に酸素がどのように含まれているのか、本件特許明細書等には、具体的な記載はない。
しかしながら、チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム等の原材料に金属の酸化物やNOx等として酸素がある程度含まれていることは技術常識であり、「100wtppm以上2000wtppm以下」の酸素濃度を有する原材料は特別なものではなく、普通に調整、あるいは調達することが可能であることは、当業者にとって明らかであるから、請求項16の記載は明確である。
そして、請求項1において、「接合層」がどのような方法で形成されるか特定されておらず、また、「金属セラミック接合基板」がどのような製造方法で製造されるものであるのかも特定されていないけれども、原材料に含まれる酸素が「100wtppm以上2000wtppm以下」である請求項16に記載された原材料を用いて接合層を形成し、導体層、接合層、窒化珪素基板の間で銅や窒素と等の拡散が起きるように加熱して接合することで「金属セラミック接合基板」を製造さえすれば、接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下となるように含まれることは、当業者には明らかであるから、請求項1の記載は明確である。
なお、接合層の酸素濃度は「atoms/cm^(3)」、原材料の酸素濃度は「wtppm」のように単位が異なることは、酸素の異なる含まれ方を意味しているものではなく、測定方法の違い等によるものにすぎない。

(2)請求項8の「厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×10^(21)atoms/cm^(3)以上である」という記載について、請求項1では、接合層が「窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、及び、窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含」むことが記載されていることから、請求項1を引用する請求項8においては、接合層中に窒素が少なくとも窒化物の形態で含まれていることは明らかである。
そして、(1)で述べたとおり、原材料に含まれる酸素が「100wtppm以上2000wtppm以下」である請求項16に記載された原材料を用いて接合層を形成し、導体層、接合層、窒化珪素基板の間で銅や窒素と等の拡散が起きるように加熱して接合することで「金属セラミック接合基板」を製造さえすれば、厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×10^(21)atoms/cm^(3)以上となるように含まれることは、当業者には明らかであるから、請求項8記載は明確である。

(3)小括
以上のとおり、請求項1、8、16の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているから、本件特許は特許法第113条第4号に該当するものとはいえない。

4.理由3(特許法第36条第4項第1号)について
(1)本件発明1の「前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下である」、及び本件発明16の「チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度が、100wtppm以上2000wtppm以下である」ことにつき、どのようにして接合層中の酸素濃度や原材料中の酸素濃度を特定の値に調整するのか、本件特許明細書等には具体的な記載はない。
しかしながら、上記2.で述べたとおり、チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム等の原材料に金属の酸化物やNOx等として酸素がある程度含まれていることは技術常識であり、「100wtppm以上2000wtppm以下」の酸素濃度を有する原材料は特別なものではなく、普通に調整、あるいは調達することが可能であることは、当業者にとって明らかである。
そしてまた、上記2.で述べたとおり、請求項1において、「接合層」がどのような方法で形成されるか特定されておらず、また、「金属セラミック接合基板」がどのような製造方法で製造されるものであるのかも特定されていないけれども、原材料に含まれる酸素が「100wtppm以上2000wtppm以下」である請求項16に記載された原材料を用いて接合層を形成し、導体層、接合層、窒化珪素基板の間で銅や窒素と等の拡散が起きるように加熱して接合することで「金属セラミック接合基板」を製造さえすれば、接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下となるように含まれることは、当業者には明らかである。
よって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載と技術常識を勘案すれば、本件発明1、16を実施可能であるといえる。

(2)本件発明8の「厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×10^(21)atoms/cm^(3)以上である」ことにつき、どのようにして接合層中の窒素濃度を特定の値に調整するのか、本件特許明細書等には具体的な記載はない。
しかしながら、上記2.で述べたとおり、原材料に含まれる酸素が「100wtppm以上2000wtppm以下」である請求項16に記載された原材料を用いて接合層を形成し、導体層、接合層、窒化珪素基板の間で銅や窒素と等の拡散が起きるように加熱して接合することで「金属セラミック接合基板」を製造さえすれば、厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×10^(21)atoms/cm^(3)以上となるように含まれることは、当業者には明らかである。
よって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載と技術常識を勘案すれば、本件発明8を実施可能であるといえる。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1、8、16が実施可能であることは、本件特許明細書等の記載、及び技術常識から明らかであり、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているから、本件特許は特許法第113条第4号に該当するものとはいえない。

5.理由5(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献の記載
引用文献1及び2に記載された事項については、上記第5.1.(1)で述べたとおりであるところ、引用文献1には、その記載(上記第5.1.(1)ア.)からみて、以下の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されている。
「窒化珪素セラミック板に、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含む中間層を介して、金属回路板を接合してなる高熱伝導性窒化珪素回路基板の製造方法において、
金属回路板が、銅から構成され、
中間層がCVD法、PVD法などによって形成され、その厚さは10.5?10μmの範囲であり、
中間層を形成した窒化珪素セラミック板に金属回路板を接触配置させ、荷重をかけた状態で、銅と酸化銅(Cu_(2)O)の共晶温度(1,065℃)以上に加熱して窒化珪素セラミック板と金属回路板を接合する、
高熱伝導性窒化珪素回路基板の製造方法。」

(2)本件発明15について
ア.対比
本件発明15と引用発明Bを対比すると、引用発明Bの「窒化珪素セラミック板」は本件発明15の「窒化珪素基板」に相当し、以下同様に、「銅から構成され」る「金属回路板」は「銅又は銅合金からなる導体層」に、「高熱伝導性窒化珪素回路基板の製造方法」は「金属セラミック接合基板を製造する方法」に、「CVD法、PVD法」は「スパッタリング法又は蒸着法」に、「中間層」の「厚さは10.5?10μmの範囲」は「膜厚が300nm以上になるまで成膜」にそれぞれ相当する。
また、引用発明Bの「チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含む中間層」は、本件発明15の「チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種」の「薄膜層」に相当する。

引用文献1には、実施例としていずれも、窒化珪素セラミック板と金属回路板の接合を窒素雰囲気、すなわち不活性ガス雰囲気の下で行うことが記載されているから、引用発明Bの「中間層を形成した窒化珪素セラミック板に金属回路板を接触配置させ、荷重をかけた状態で加熱して窒化珪素セラミック板と金属回路板を接合する」ことは、「成膜した薄膜層上に、導体層又は窒化珪素基板を、真空又は不活性ガス雰囲気の下、所定の温度条件で、加圧力の作用により圧着させて、前記窒化珪素基板と導体層とを接合」する限りにおいて、本件発明15の「成膜した薄膜層上に、導体層又は窒化珪素基板を、真空又は不活性ガス雰囲気の下、所定の温度条件で、5MPa以上かつ150MPa以下の加圧力の作用により圧着させて、前記窒化珪素基板と導体層とを接合」することと一致する。

よって、本件発明15と引用発明Bは、以下の点で一致する。
<一致点>
「窒化珪素基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板を製造する方法であって、
窒化珪素基板又は導体層の、少なくとも一方の表面上に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を、スパッタリング法又は蒸着法により、膜厚が300nm以上になるまで成膜し、その後、成膜した薄膜層上に、導体層又は窒化珪素基板を、真空又は不活性ガス雰囲気の下、所定の温度条件で、加圧力の作用により圧着させて、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する、
金属セラミック接合基板の製造方法。」

そして、本件発明15と引用発明Bは、以下の点で相違する。
<相違点4>
加熱・加圧条件について、本件発明15は、加圧力が「5MPa以上かつ150MPa以下」、所定の温度条件が「前記スパッタリング法又は蒸着法により成膜される材料が、チタン、ジルコニウム、及び、バナジウムからなる群から選択される少なくとも一種である場合、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、750℃以上かつ950℃以下とし、または、前記スパッタリング法又は蒸着法により成膜される材料が、アルミニウムである場合、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、400℃以上かつ600℃以下とする」ものであるのに対して、引用発明Bは、加熱温度が銅と酸化銅(Cu_(2)O)の共晶温度(1,065℃)以上であり、荷重がどの程度であるのかが明記されていない点。

イ.相違点についての検討
<相違点4>について検討する。
引用文献1には、
「【0026】金属回路板の接合は、例えば金属回路板が銅の場合には以下のような方法で行われる。すなわち、所望の厚さをもつチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブおよびアルミニウムから選択される少なくとも一種の元素と酸素とを含有する中間層を形成した高熱伝導性窒化珪素セラミック板の表面の所定の位置に、酸素を含有する銅回路板を接触配置させ、必要ならば荷重をかけた状態で銅と酸化銅(Cu_(2)O)の共晶温度(1,065℃)以上に加熱して一定時間保持することで共晶液相を生成させ、この液相を接合剤として銅回路板が高熱伝導性窒化珪素セラミック板表面に接合される。他の種類の金属回路板も使用可能であるが、その場合はこの共晶液相が生じる温度を鑑みて熱処理する温度を設定する必要がある。」
と記載されているから、引用発明Bにおける加熱温度は、「加熱して一定時間保持することで共晶液相を生成させこの液相を接合剤として銅回路板が高熱伝導性窒化珪素セラミック板表面に接合」するために、「銅と酸化銅(Cu_(2)O)の共晶温度(1,065℃)以上」とすることが必須の要件である。
そうすると、引用発明Bにおいて、加熱温度を<相違点4>に係る構成である「750℃以上かつ950℃以下」や「400℃以上かつ600℃以下」まで下げることには、阻害事由がある。
よって、加熱温度としてより低い温度条件が知られているとしても、引用発明Bにおいて、加熱温度を<相違点4>に係る本件発明15の構成とすることは、当業者が適宜なし得るものであるとはいえない。
また、本件発明15は、<相違点4>に係る構成により、
「【0044】
・・・成膜された材料が、チタン、ジルコニウム及びバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種である場合は、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、750℃?950℃とする。これは、接合層材料が十分にセラミック基板側へ熱拡散するためである。言い換えれば、この接合時の温度が750℃未満とすると、接合層材料の熱拡散が不十分となり、密着性が十分に得られないという不都合があり、この一方で、950℃より高くすると、銅体層材料である銅もしくは銅合金の融点に近づき、リメルトの危険性があり、接合層材料金属が導体層中に溶解して合金化して電気抵抗が高くなる可能性がある。・・・
あるいは、成膜された材料がアルミニウムである場合は、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、400℃以上かつ600℃以下とする。これは、接合層材料が十分にセラミック基板側へ熱拡散するためからである。言い換えれば、この接合時の温度が400℃未満とすると、接合層材料の熱拡散が不十分となり、密着性が十分に得られないという不都合があり、この一方で、600℃より高くすると、アルミニウムの融点に近い温度となり、リメルトして積層体構造を壊す可能性がある。」
ことから、
「【0045】
これにより、図2、3に例示する金属セラミック接合基板のように、導体層に含まれる銅が、チタン、ジルコニウム、バナジウム及び/又はアルミニウムの薄膜層側に拡散するとともに、窒化珪素基板に含まれる窒素が、当該薄膜層側に拡散し、さらに、薄膜層のチタン、ジルコニウム、バナジウム及び/又はアルミニウムが窒化珪素基板側及び導体層側のそれぞれに拡散することになる。
・・・
【0046】
その結果として、それぞれの界面での拡散作用に起因する化合物の形成により、接合層の厚みがそれほど厚くなくとも、導体層と窒化珪素基板とが強固に接合された金属セラミック接合基板を製造することができ、微細な回路パターンの形成が可能になる。・・・」
という格別の作用効果を発揮するものである。

ウ.よって、本件発明15は、引用発明Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(3)本件発明16について
本件発明16は、本件発明15の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明16についても同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明15及び16は、引用発明Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

6.申立人の主張について
(1)申立人は、令和2年5月11日付けの意見書(以下「申立人意見書」という。)において、以下のように主張している。
ア.「・・・しかしながら、本件特許明細書の[表1]の実施例には、接合層中の酸素濃度が「3×10^(19)atoms/cm^(3)以上80×10^(19)atoms/cm^(3)以下である」例しか記載されておりません。本件特許発明における・・・という効果は、接合層中の酸素濃度によって大きく異なります。
上記酸素濃度範囲において、3×10^(19)atoms/cm^(3)と1×10^(22)atoms/cm^(3)では酸素濃度が約1000倍異なります。酸素濃度が1000倍異なれば特性が大きく異なると思料します。・・・
したがって、訂正後の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえません。したがって、訂正後の請求項1、及び請求項1を引用する請求項2?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないため、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであると確信いたします。」
(申立人意見書2ページ18行?3ページ11行)

イ.「・・・しかしながら、「導体層として有効に機能することができる。」との効果は、「従来技術の銀ろう材に比して薄い厚みの接合層で構成でき、該接合層により、半導体素子から発生する熱を、有効に拡散することができ、その結果として、放熱性能を大きく高めることができる」という効果を概念的に下位にしたものではありません。
従って、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、全ての訂正要件に適合しておりません。」
(申立人意見書4ページ10行?4ページ17行)

ウ.「・・・しかしながら、本件特許明細書の[表1]の実施例には、上記原料中の酸素濃度について記載されておりません。本件特許発明における上記効果は、上記原料中の酸素濃度によって大きく異なります。・・・
したがって、訂正後の請求項16に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえません。したがって、訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないため、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであると確信いたします。」
(申立人意見書7ページ19行?8ページ5行)

(2)そこで検討する。
ア.上記主張ア.について
上記2.で述べたとおり、本件発明1?14は、本件発明の課題を解決できるものであって発明の詳細な説明に記載した発明であり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当するものとはいえない。

請求項1に記載された「3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下」のうち、実施例として3×10^(19)atoms/cm^(3)以上80×10^(19)atoms/cm^(3)以下の例しか記載されていないとしても、本件発明1は、普通に調整、あるいは調達することが可能な原材料等を用いて、通常の成膜、積層方法等によって製造された金属セラミック複合基板を含むものであって、そのような原材料等を用いた通常の成膜、積層方法によって得られる酸素濃度のため「3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下」という広い範囲であるのだから、実施例としてさらなる記載を要しないものであることは、当業者であれば理解できる。
そして、本件発明1については、通常と異なる酸素濃度を有する特別な原材料等を用いるものではなく、特殊な成膜、積層方法によって、接合層に酸素を通常と異なるように含ませる操作を行うものでもないから、本件発明1の「3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下」が特別な範囲であるとする根拠はなく、そのため、実施例として上記範囲内の数値をことさら多く例示せずとも、当業者であれば発明の詳細な説明に開示されたものと理解可能である。
よって、申立人の上記主張ア.は、採用できない。

イ.上記主張イ.について
上記第2.で述べたとおり、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ここで、本件発明1の「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率」は、導体層を構成することになる原材料としての銅又は銅合金の導電率を意味することは、その文言上明らかである。
さらに検討すると、接合後の導体層は、【図2】、【図3】に示されているように、銅又は銅合金以外に少なくともO、Cを含むものであるところ、接合後の導体層の状態で、O、Cや酸化銅といった銅又は銅合金以外の成分を除いた「銅又は銅合金の導電率」を測定することが技術的に不可能であることが技術常識である。
そうすると、本件特許明細書等の記載を総合し、さらに技術常識を勘案すれば、「前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率」は、導体層を構成することになる原材料としての銅又は銅合金の導電率を意味するものであることが理解できる。一方、接合後の導体層の状態で、O、Cや酸化銅といった銅又は銅合金以外の成分を除いた「銅又は銅合金の導電率」を意味するものであると理解する根拠はない。
してみると、特許権者が意見書で主張している「導体層として有効に機能することができる。」との効果については、接合後の導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上であることによるものではなく、接合前の銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上であることによるものである。
よって、申立人の上記主張イ.は、採用できない。

ウ.上記主張ウ.について
上記2.で述べたとおり、本件発明16は、本件発明の課題を解決できるものであって発明の詳細な説明に記載した発明であり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当するものとはいえない。

請求項16に記載された「100wtppm以上2000wtppm以下」について、実施例として具体的な数値が記載されていないとしても、チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム等の原材料に金属の酸化物やNOx等として酸素がある程度含まれていることは技術常識であり、「100wtppm以上2000wtppm以下」の酸素濃度を有する原材料は特別なものではなく、普通に調整、あるいは調達することが可能であることは、当業者にとって明らかである。
すなわち、当業者であれば、スパッタリング法に用いられるスパッタリングターゲット等の原材料中の酸素濃度を適宜調整することが可能であり、また、そのような酸素濃度を有する原材料を適宜調達することが可能であることは明らかであって、そのような調整、調達できる範囲の通常の値の範囲が「100wtppm以上2000wtppm以下」であるのだから、実施例として記載を要しないものであることは、当業者であれば理解できる。
よって、申立人の上記主張ウ.は、採用できない。

エ.以上のとおり、申立人の上記主張ア.?ウ.は、いずれも採用できない。


第7.取消理由としなかった申立理由について
1.申立人が申立てた理由のうち、取消理由又は取消理由(予告)としなかった理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件発明1?14は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(以下「申立理由1」という。)

(2)本件発明15及び16は、甲第4号証に記載された発明、甲第6号証及び甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(以下「申立理由2」という。)

甲第1号証:特開2003-285195号公報
甲第2号証:特開2001-121287号公報
甲第3号証:特開2001168482-号公報
甲第4号証:特開平2-177463号公報(引用文献4)
甲第5号証:「活性金属法による窒化物セラミックスと金属の接合機構」、中橋昌子 他2名、日本金属学会誌、公益社団法人日本金属学会、第53巻、第11号(1989)1153-1160(引用文献2)
甲第6号証:「SPUTTERING MATERIALS FOR VLSI AND THIN FILMS DEVICES」、Jaydeep Sarkar、William Andrew、2014年、295ページ
甲第7号証:東邦チタニウム株式会社チタン営業部、”製品・サービス情報 金属チタン 高純度チタン”、[online]、[2019年10月1日印刷]、インターネット
<URL:https://www.toho-titanium.co.jp/products/htpi.html>

2.申立理由1について
(1)甲第1号証の記載事項
以下、甲第1?7号証を「甲1」等という。
甲1の【請求項1】、段落【0007】、【0008】、【0015】、【0019】?【0021】の記載、特に【表1】に記載された実施例4に着目すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。
「セラミック基板上にCuを主成分とした金属回路層(Cu90質量%以上(100質量%を含む。))及び放熱層(Cu90質量%以上(100質量%を含む。))のうちの少なくとも金属回路層が活性金属を含んだろう材を用いた活性ろう付けによって接合されているセラミック回路基板において、
セラミック基板は、窒化珪素であり、
金属回路層及び放熱層はCu板であり、
ろう材は、該ろう材の全質量を100質量%とする場合、Ag0.0質量%、Al2.7質量%、Si4.0質量%、Sn3.0質量%、Ti6.0質量%、残部Cuとからなり、
接合したときのろう材及びセラミック基板の基材との反応により、ろう材層の下層に厚さ数μmのTiN反応層等が生成されている、セラミック回路基板。」

(2)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「窒化珪素」である「セラミック基板」は、本件発明1の「窒化珪素基板」に相当する。
甲1発明の「Cu板」である「Cuを主成分とした金属回路層(Cu90質量%以上(100質量%を含む。))及び放熱層(Cu90質量%以上(100質量%を含む。))」は、本件発明1の「銅又は銅合金からなる導体層」に相当する。
甲1発明の「ろう材の全質量を100質量%とする場合、Ag0.0質量%、Al2.7質量%、Si4.0質量%、Sn3.0質量%、Ti6.0質量%、残部Cu」からなる「ろう材」は、「接合したときのろう材及びセラミック基板の基材との反応により、ろう材層の下層に厚さ数μmのTiN反応層等が生成されている」ものであるから、本件発明1の「窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、及び、窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み且つ銀を含まない接合層」に相当する。

よって、本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の点で相違している。
<相違点A>
本件発明1は、「前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下であ」るのに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。

イ.相違点についての検討
<相違点A>について検討する。
甲2には、窒化珪素セラミックス基板とAlを主成分とする金属板とを接合するろう材について、酸素量が0.5質量%以下であることが記載(特に【請求項1】、【請求項4】を参照)されている。
この「酸素量が0.5質量%以下」とする点につき、甲2には、以下のように記載されている(以下「甲2記載事項」という。)。
「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成するために、Al系ろう材について詳細に検討した結果、セラミックス基板とAlを主成分とする回路用金属板とをAl系ろう材で接合する際、Al系ろう材中の酸素量が特定量以下とするときに、セラミックス基板とAl系ろう材、更にAl系ろう材と回路用金属板との接合状態を良好とできることを見いだした。その結果、得られるセラミックス回路基板が実使用下で受ける加熱、冷却のサイクルによっても、回路材の剥離が起こったり、セラミックス基板にクラックを生じたりすることがない、という知見を得て、本発明に至ったものである。前記の理由については明かでないが、Al系の接合用ろう材は、原料としてAlは再生品が使われることが多いこと、合金を溶融製造する際に酸化されやすいこと、また、ろう材としては金属粉末として用いられることが少なくなく、このために空気中の酸素により金属粉末表面が酸化されやすいこと等の理由から、含有酸素の量が多くなる場合がある。この含有酸素は、しかし、ろう材中ではほとんどが金属酸化物となって存在していると考えられ、このためにAl系ろう材中の酸素量が多いと、セラミックス基板とろう材、並びに金属回路板とろう材の接触が不充分となり、その結果、接合状態が不良なろう接状態しか得られないと考えられる。そして、見掛け上接合しているように見える回路基板は、ヒートサイクル試験等において、回路用金属板がセラミックス基板から剥離する等の問題点が生じ、充分な信頼性が確保できないというものである。」(下線部は当審が付した。)
上記記載によれば、甲2記載事項は、セラミックス基板とAlを主成分とする金属板を、Al系ろう材により接合する場合に特有の課題を解決するために、「酸素量が0.5質量%以下」とするものであることが理解できる。

一方、甲1発明は、セラミック基板とCu板を、Cuが主成分のろう材により接合するものであり、甲2記載事項とは金属板もろう材も異なるものであるから、甲1発明に甲2記載事項を適用する動機付けがない。
また、その他の甲号証をみても、甲1発明に甲2記載事項を適用する動機付けとなる記載乃至示唆がない。
よって、甲1発明に甲2記載事項を適用することは、当業者が容易になし得るものであるということができない。

ウ.よって、本件発明1は、甲1発明、及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(3)本件発明2?14について
本件発明2?14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2?14についても同様に、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?14は、甲1発明、及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

3.申立理由2について
(1)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
なお、下線部は、当審が付した。
ア.「2.特許請求の範囲
セラミック板の両面に厚み0.1μm?3μmの活性金属からなる薄膜層を介して第一および第二の銅部材を密接させると共に前記両銅部材のうち一方の銅部材の未対接面に熱緩衝用金属板を介して半導体素子接合用銅部材を密接させてなる基板部材を、前記第一および第二の銅部材と活性金属とによって形成される合金の融点から第一および第二の銅部材の融点未満の温度に前記活性金属と反応されにくい雰囲気中で加熱させ、かつ厚み方向に加圧することを特徴とするセラミック-金属複合基板の製造方法。」
(1ページ左欄4?15行)

イ.「この際、薄膜層21がセラミック基材1に対接されるように銅部材2a,2bをセラミック基材1の両側に装着させる。そして、この治具ごと各部材を接合装置としての真空ホットプレス装置に装着させる。接合装置としては、雰囲気形成,加圧,加熱が可能な装置であれば、前記ホットプレス装置以外の装置でもよい。接合装置内に装着された後、接合装置内にアルゴンガスや窒素ガスあるいは10^(-4)Torr程度の真空等活性金属と反応されにくい雰囲気を形成し、次いで、第1図(b)に示すように、加圧,加熱を行なう。」
(4ページ左上欄17行?右上欄8行)

ウ.「第3図は第2図と同様に横軸に温度、縦軸にピール強度をとり、銅とアルミナの関係を示した特性図で、活性金属としてはチタンを例にとっている。・・・銅とチタンの共晶温度は約880℃であり、銅およびチタンの融点より低く、共晶組成はこれ以上の温度となると溶融を開始する。従来より利用されているろう付け法は、数種類の材料が混合され被接合物の融点より低い融点を有する厚み数十μm程度の厚いろう材が使用され、ろう材が融点以上の温度に加熱されると急激に溶融されるが、本発明においては活性金属からなる薄膜層21と同部材2a、2bとが反応して初めて溶融層が形成されるため、この薄膜層21の厚みを変えて形成することによって溶融層の量を変えることができ、反応速度も制御することができる。」
(4ページ右下欄3行?5ページ左上欄1行)

エ.「以上のことから銅部材2a,2bとセラミック基材1との接合は、薄膜層21の厚みを0.1μm?3μmとし、接合加圧力を1?20MPa、接合温度を薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金の融点以上で銅部材2a,2bの融点未満の範囲と設定することにより、銅部材2a,2cと拘束部材3との接合と同時に行なうことができる。
なお、前記実施例ではプリコートする薄膜層21をチタンによって形成した例を示したが、・・・但し、銅部材2a,2cと拘束部材3との接合強度は900℃程度以上の温度で安定した値が得られるため、銅部材2a,2bと薄膜層21によって形成される合金の融点は排出現象等を抑制するために900℃に近いことが望ましい。」
(5ページ右上欄4行?20行)

オ.上記ウ.及びエ.の実施例では、薄膜21としてチタンが用いられているから、「薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金」は、「銅-チタン合金」が例示されていることが理解できる。

カ.上記ア.によれば、加熱温度は「前記第一および第二の銅部材と活性金属とによって形成される合金の融点から第一および第二の銅部材の融点未満の温度」とされている。このことは、実施例である上記エ.の「接合温度を薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金の融点以上で銅部材2a,2bの融点未満の範囲と設定する」という記載と一致している。

キ.ここで、合金は、一点の温度を意味する「融点」で融解するのではなく、状態図において固相線と液相線で囲まれた「温度領域」で融解することが技術常識であるから、「合金の融点」は、技術的に理解できない。
また、加熱時における薄膜21と銅部材2a,2bは、それぞれ別部材であって合金ではないから、「薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金」がどのようなものであるのか、把握できない。

ク.一方、上記ウ.には、「銅とチタンの共晶温度は約880℃であり、銅およびチタンの融点より低く、共晶組成はこれ以上の温度となると溶融を開始する」とあるが、加熱時におけるチタンの薄膜21と銅部材2a,2bは、それぞれ別部材であって共晶組成となっていないものであるから、「約880℃」に加熱しても、チタンの薄膜21と銅部材2a,2bが溶融を開始しないことは自明である。
また、上記ウ.には、「本発明においては活性金属からなる薄膜層21と同部材2a、2bとが反応して初めて溶融層が形成される」とあるが、共晶反応とは、ただ一つの液相が冷却中に分離して異なる二つの固相になる反応を意味するものであるから、加熱時に溶融層を形成するための「反応」は、共晶反応を意味するものでないことが明らかである。
そうすると、先に記載された「銅とチタンの共晶温度」である「約880℃」という温度と、その後に記載された「活性金属からなる薄膜層21と同部材2a、2bとが反応して初めて溶融層が形成される」温度との関係は、理解することができない。
よって、上記ウ.の記載によっても、「薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金の融点」は、理解することができない。

ケ.そして、甲4のその他の記載及び技術常識を勘案しても、「薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金の融点」がどのようなものであるのか理解することができない。

コ.そうすると、甲4の記載からは、「薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金の融点」が理解できないから、甲4に記載された発明を認定することができない。

サ.よって、本件発明15及び16は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

(2)予備的検討
上記(1)で述べたとおり、甲4に記載された発明を認定することができないが、上記(1)ア.及びエ.の「薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成される合金の融点」が、「薄膜21と銅部材2a,2bとによって形成されることとなる合金が融解する温度領域」であると理解して、以下検討する。

ア.甲4の記載(上記(1)ア.?エ.)によれば、甲4には、以下の甲4発明が記載されている。
「セラミック板の両面に厚み0.1μm?3μmの活性金属からなる薄膜層を介して第一および第二の銅部材を密接させると共に両銅部材のうち一方の銅部材の未対接面に熱緩衝用金属板を介して半導体素子接合用銅部材を密接させてなる基板部材を、第一および第二の銅部材と活性金属とによって形成されることとなる合金が融解する温度領域から第一および第二の銅部材の融点未満の温度に活性金属と反応されにくい雰囲気中で加熱させ、かつ厚み方向に加圧する、セラミック-金属複合基板の製造方法であって、
セラミック板は、アルミナ部材であり、
薄膜層は、Tiを第一および第二の銅部材のそれぞれの一面に一連に真空蒸着させることによって形成され、
厚み方向の加圧は、1?20MPaである、セラミック-金属複合基板の製造方法。」

イ.本件発明15について
(ア)対比
本件発明15と甲4発明を対比する。
甲4発明の「第一および第二の銅部材」は、本件発明15の「銅又は銅合金からなる導体層」に相当する。
甲4発明の「活性金属からなる薄膜層」が「Ti」であることは、本件発明15の「薄膜層」が「チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種」であることに相当する。
甲4発明の「活性金属からなる薄膜層」が「Tiを第一および第二の銅部材のそれぞれの一面に一連に真空蒸着させることによって形成され」ることは、本件発明15の「薄膜層」が「導体層の、少なくとも一方の表面上に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を、スパッタリング法又は蒸着法により」「成膜」することに相当する。
甲4発明の「活性金属からなる薄膜層」が「厚み0.1μm?3μm」であることは、本件発明15の「薄膜層」の「膜厚が300nm以上」であることと一部重複する。
甲4発明の「前記活性金属と反応されにくい雰囲気中で加熱」することは、本件発明15の「真空又は不活性ガス雰囲気の下、所定の温度条件」に相当する。
甲4発明の「厚み方向の加圧は、1?20MPaである」ことは、本件発明15の「5MPa以上かつ150MPa以下の加圧力の作用により圧着させ」ることと一部重複する。
甲4発明の「セラミック-金属複合基板の製造方法」は、本件発明15の「金属セラミック接合基板を製造する方法」に相当する。

よって、本件発明15と甲4発明は、少なくとも以下の点で相違している。
<相違点B>
基板について、本件発明15は、「窒化珪素基板」であるのに対して、甲4発明は、アルミナ部材である点。

<相違点C>
加熱温度について、本件発明15は、「前記スパッタリング法又は蒸着法により成膜される材料が、チタン、ジルコニウム、及び、バナジウムからなる群から選択される少なくとも一種である場合、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、750℃以上かつ950℃以下」としているのに対して、甲4発明は、第一および第二の銅部材とTiからなる活性金属とによって形成されることとなる合金が融解する温度領域から第一および第二の銅部材の融点未満の温度である点。

<相違点D>
薄膜層の膜厚について、本件発明15は、「300nm以上」であるのに対して、甲4発明は、0.1μm?3μmである点。

<相違点E>
加圧力について、本件発明15は、「5MPa以上かつ150MPa以下」であるのに対して、甲4発明は、1?20MPaである点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず<相違点C>について検討する。
合金が融解する「温度領域」の上下限温度は、状態図において固相線と液相線で囲まれた領域であり、合金の組成(銅-チタン合金の場合、銅とチタンの組成)によって数百度も異なることが技術常識であるところ、甲4の「第一および第二の銅部材と活性金属とによって形成されることとなる合金」(甲4に例示されていると理解できる「銅-チタン合金」)は、その組成が不明であるから、甲4の温度領域が具体的に何℃であるのか、把握することができない。
また、甲4に記載されている「約880℃」という温度と甲4発明の「温度領域」については、上記(1)ク.で述べたとおり、その関係が理解できず、「900℃に近いことが望ましい」(上記(1)エ.)という温度の記載は、甲4発明の「第一および第二の銅部材と活性金属とによって形成されることとなる合金が融解する温度領域から第一および第二の銅部材の融点未満の温度」という温度範囲内において、900℃に近いことが望ましいことを意味するものであって、当該温度範囲を超えて900℃に近い温度にすることを意味するものではない。
そして、甲4のその他の記載及び技術常識を勘案しても、甲4発明の「第一および第二の銅部材と活性金属とによって形成されることとなる合金が融解する温度領域」が具体的に何℃であるのか特定することができず、また、その他の甲号証をみても、甲4発明の「温度領域」を「750℃以上かつ950℃以下」を含むような範囲とすることにつき記載も示唆もない。
よって、甲4発明において、<相違点C>に係る本件発明15の構成とすることは、当業者が容易になし得るものであるということができない。

(ウ)したがって、<相違点B>、<相違点D>及び<相違点E>について検討するまでもなく、本件発明15は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

ウ.本件発明16について
本件発明16は、本件発明15の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明16についても同様に、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

エ.小括
以上のとおり、本件発明15及び16は、甲41発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。


第8.むすび
以上のとおり、本件発明1?16に係る特許は、申立人の主張する申立理由、取消理由通知及び取消理由通知(予告)の取消理由によって取り消すことができない。
また、他に本件発明1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板であって、
前記窒化珪素基板と導体層との間に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、及び、窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み且つ銀を含まない接合層が介在し、該接合層の介在下で、前記窒化珪素基板と導体層とが接合されてなり、
前記接合層中の酸素濃度が3×10^(19)atoms/cm^(3)以上1×10^(22)atoms/cm^(3)以下であり、前記導体層を構成する銅又は銅合金の導電率がIACS80%以上である金属セラミック接合基板。
【請求項2】
前記接合層の厚みが、500nm以上かつ5000nm以下である請求項1に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項3】
前記接合層の厚みが、2000nm以上かつ4000nm以下である請求項2に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項4】
前記導体層から接合層への銅の拡散距離が、該導体層と接合層との界面から厚み方向に沿って測って500nm以上である請求項1?3のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項5】
前記窒化珪素基板と導体層とのピール強度が、0.4kN/m以上である請求項1?4のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項6】
前記窒化珪素基板を、曲げ強度が400MPa以上であり、表面粗さRaが0.1μm以上かつ1.0μm以下であるものとしてなる請求項1?5のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項7】
前記導体層の厚みが10μm以上かつ200μm以下である請求項1?6のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項8】
厚み方向で、窒化珪素基板と接合層との界面から導体層側に向かって、500nm離れた位置における窒素の濃度が、5×10^(21)atoms/cm^(3)以上である請求項1?7のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項9】
前記接合層中のチタン、ジルコニウム、バナジウム、及び/又は、アルミニウムの含有量が、該接合層の厚み方向の中間領域にピークを有するとともに、該中間領域から、厚み方向で導体層側及び窒化珪素基板側のそれぞれに向かうに従い減少してなる請求項1?8のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項10】
車載用又は民生機器搭載用のパワー半導体素子が搭載されるパワーモジュール用基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項11】
前記導体層に回路パターンが形成された金属回路基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項12】
LED用基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項13】
MEMS用基板としてなる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項14】
マルチコアMCUに用いられる請求項1?9のいずれか一項に記載の金属セラミック接合基板。
【請求項15】
窒化珪素基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板を製造する方法であって、
窒化珪素基板又は導体層の、少なくとも一方の表面上に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を、スパッタリング法又は蒸着法により、膜厚が300nm以上になるまで成膜し、その後、成膜した薄膜層上に、導体層又は窒化珪素基板を、真空又は不活性ガス雰囲気の下、所定の温度条件で、5MPa以上かつ150MPa以下の加圧力の作用により圧着させて、前記窒化珪素基板と導体層とを接合し、
前記スパッタリング法又は蒸着法により成膜される材料が、チタン、ジルコニウム、及び、バナジウムからなる群から選択される少なくとも一種である場合、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、750℃以上かつ950℃以下とし、または、前記スパッタリング法又は蒸着法により成膜される材料が、アルミニウムである場合、前記窒化珪素基板と導体層とを接合する際の温度を、400℃以上かつ600℃以下とする金属セラミック接合基板の製造方法。
【請求項16】
前記スパッタリング法又は蒸着法による成膜の際に用いられるチタン、ジルコニウム、バナジウムおよびアルミニウム原料中の酸素濃度が、100wtppm以上2000wtppm以下である請求項15に記載の金属セラミック接合基板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-10 
出願番号 特願2015-157363(P2015-157363)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安積 高靖  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 間中 耕治
横溝 顕範
登録日 2019-03-22 
登録番号 特許第6499545号(P6499545)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 金属セラミック接合基板及び、その製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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