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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B01D
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1370010
異議申立番号 異議2019-700912  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-15 
確定日 2020-11-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6514426号発明「溶液処理装置および溶液処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6514426号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕及び〔5?8〕について訂正することを認める。 特許第6514426号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6514426号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)11月2日(優先権主張 平成30年7月18日)を国際出願日とする出願であって、平成31年4月19日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月15日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年11月15日 :特許異議申立人 星正美による請求項1?
8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 2月27日付け:取消理由通知書
同年 5月 7日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
なお、上記訂正の請求に対して、特許異議申立人から意見書の提出はされなかった。

第2 訂正の適否についての判断

令和2年5月7日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)は、以下のとおり、適法になされたものと判断する。
1 訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項を構成する請求項1?4及び他の一群の請求項を構成する請求項5?8を訂正の単位として請求されたものであり、特許法第120条の5第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 一群の請求項1?4に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「・・・制御することを特徴とする溶液処理装置。」と記載されているのを、「・・・制御し、前記制御手段による前記第2気液分離手段の制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理装置。」(当審注:「・・・」は記載の省略を表し、また、下線を付した部分が訂正箇所である。以下、同じ。)に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2?4も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
明細書の段落【0007】に、「・・・呈することを特徴とする。」と記載されているのを、「・・・呈し、前記制御手段は、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率となるように前記第1気液分離手段の留出率を制御し、前記制御手段による前記第2気液分離手段の制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする。」に訂正する。

(2) 一群の請求項5?8に係る訂正
ア 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「・・・留出率とすることを特徴とする溶液処理方法。」と記載されているのを、「・・・留出率とし、前記第2気液分離工程における制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離工程において保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理方法。」に訂正し、その結果として、請求項5を引用する請求項6?8も同様に訂正する。

イ 訂正事項4
明細書の段落【0008】に、「・・・呈することを特徴とする。」と記載されているのを、「・・・呈し、前記第1気液分離工程における留出率を、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率とし、前記第2気液分離工程における制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離工程において保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 一群の請求項1?4に係る訂正について
ア 訂正事項1について
(ア) 訂正の目的の適否
本件訂正前の請求項1に係る発明において、「・・・制御することを特徴とする溶液処理装置。」と記載されていたところ、「・・・制御し、前記制御手段による前記第2気液分離手段の制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理装置。」とするものであり、制御手段による制御内容を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項の有無
また、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0064】には、「また、溶液処理装置1Aの制御については、定常状態において、第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の温度が「限界濃縮液温度」の99℃に達したタイミングでバルブV5を開き、所定の液面高さまで濃縮液を抜き出すという制御を実施した。」との記載がなされており、また、同段落【0067】には、「溶液処理装置1Aの制御については、第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の温度に基づく制御を実施しなかった。その代わりに、第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の液面の変化速度(液面の上昇速度)に基づいて、バルブV5の制御を実施した。具体的には、濃縮液の液面の変化速度が顕著に遅くなったタイミングでバルブV5を開き、所定の液面高さまで濃縮液を抜き出した。」との記載がなされており、更に、同段落【0051】における「第2気液分離手段(第2気液分離工程)において被処理液の不揮発性成分が析出するような高いレベルの条件で蒸発処理を実施しても、析出成分の付着に伴う処理効率の低下を抑制することができる。」なる記載及び同明細書の実施例1?3において最終的な留出率が不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも高いことが示されているので、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
更に、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための、明細書の訂正であるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2) 一群の請求項5?8に係る訂正について
ア 訂正事項3について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「・・・留出率とすることを特徴とする溶液処理方法。」と記載されているのを、「・・・留出率とし、前記第2気液分離工程における制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離工程において保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理方法。」に訂正するものであり、第2気液分離工程における制御内容を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3が限定する当該制御内容は、上記訂正事項1が限定する制御内容と同様であるから、訂正事項3は、上記(1)ア(イ)と同様、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。
更に、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項3に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための、明細書の訂正であるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?4〕及び〔5?8〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明

上記「第2」のとおり本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
有機溶媒と不揮発性成分とを含む被処理液から、留出蒸気として有機溶媒を分離する溶液処理装置であって、
被処理液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第1気液分離手段と、
前記第1気液分離手段から缶出する濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第2気液分離手段と、
前記第1気液分離手段において被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように、前記第1気液分離手段を制御する制御手段と、を備え、
前記第2気液分離手段の濃縮液を加熱する箇所であるとともに濃縮液に接する接液箇所が、不揮発性成分に対して耐付着性を呈し、
前記制御手段は、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率となるように前記第1気液分離手段の留出率を制御し、
前記制御手段による前記第2気液分離手段の制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理装置。

【請求項2】
前記第2気液分離手段の内部の濃縮液を所定の流速で送液するポンプを備え、
前記制御手段は、前記所定の流速が、析出した不揮発性成分を堆積させない流速となるように前記ポンプを制御することを特徴とする請求項1に記載の溶液処理装置。

【請求項3】
前記制御手段は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液温が所定の温度に達したタイミング、および、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の量が所定の量に達したタイミング、の少なくとも1つを満たしたタイミングで、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液が所定量となるまで濃縮液を缶出させるように制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶液処理装置。

【請求項4】
前記接液箇所は、耐付着性材料により被覆された状態、または、表面粗さが1μm以下の状態であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶液処理装置。

【請求項5】
有機溶媒と不揮発性成分とを含む被処理液から、留出蒸気として有機溶媒を分離する溶液処理方法であって、
被処理液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第1気液分離工程と、
前記第1気液分離工程で缶出された濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第2気液分離工程と、を含み、
前記第1気液分離工程において、被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように制御し、
前記第2気液分離工程において、濃縮液を加熱する箇所であるとともに濃縮液に接する接液箇所が、不揮発性成分に対して耐付着性を呈し、
前記第1気液分離工程における留出率を、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率とし、
前記第2気液分離工程における制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離工程において保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理方法。

【請求項6】
前記第2気液分離工程において、濃縮液の流速を、析出した不揮発性成分を堆積させない流速とすることを特徴とする請求項5に記載の溶液処理方法。

【請求項7】
前記第2気液分離工程において、保持されている濃縮液の液温が所定の温度に達したタイミング、および、保持されている濃縮液の量が所定の量に達したタイミング、の少なくとも1つを満たしたタイミングで、保持されている濃縮液が所定量となるまで濃縮液を缶出させることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の溶液処理方法。

【請求項8】
前記接液箇所は、耐付着性材料により被覆された状態、または、表面粗さが1μm以下の状態であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の溶液処理方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?8に係る発明に対して、当審が令和2年2月27日付けで特許権者に通知した取消理由(サポート要件違反)の要旨は、次のとおりである。
(1) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明は、第1気液分離手段(工程)において不揮発性成分の析出が確認される留出率よりも大幅に低い留出率を設定値にした制御を行う場合を包含し、これは、「被処理液の不揮発性成分が析出しても、優れた処理効率を発揮することができる溶液処理装置および溶液処理方法を提供する」という本件発明の課題を解決し得ないものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1」という。)。

(2) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明は、第2気液分離手段(工程)において、限界濃縮液温度に基づく制御と、第2気液分離容器に保持されている濃縮液の液面の変化速度(液面の上昇速度)に基づく制御の何れも行わない場合を包含するものであり、上記本件発明の課題の解決をなし得ないものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

2 取消理由1及び2(サポート要件違反)についての当審の判断
(1) 取消理由1について
本件発明1における「第2気液分離手段」及び本件発明5における「第2気液分離工程」は、「析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高める」ように制御されるものであるから、本件発明は、「被処理液の不揮発性成分が析出しても、優れた処理効率を発揮することができる溶液処理装置および溶液処理方法を提供する」(本件明細書の段落【0006】参照。)という本件発明の課題を解決するものと当業者が認識し得る範囲内のものであるといえ、したがって、上記取消理由1には理由がない。

(2) 取消理由2について
本件発明1における「第2気液分離手段の制御」及び本件発明5における「第2気液分離工程における制御」は、「限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき」行うものであるから、本件発明は、上記本件発明の課題を解決するものと当業者が認識し得る範囲内のものであるといえ、したがって、上記取消理由2には理由がない。

3 小括
以上のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、サポート要件に違反しているということはできないから、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法113条第4号に該当しないため、取消理由1及び2(サポート要件違反)を理由に、取り消すことはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 採用しなかった特許異議申立理由の概要
異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1) (進歩性欠如)本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2) (サポート要件違反)本件請求項1、4、5及び8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

(3) (明確性要件違反)本件請求項1及び5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)。

2 申立理由1(進歩性欠如)についての当審の判断
特許異議申立人は、申立理由1を立証するための証拠として、甲第1?11号証(以下、単に「甲1」などという。)を提出し、本件発明1?8について、甲1に記載された発明を主たる引用発明とする進歩性欠如を主張する。
しかしながら、当該主張は、以下の理由により、採用することはできない。
(1) 証拠一覧
甲1:藏方伸ほか,“『廃塗料リサイクルシステム』の開発”,
塗料の研究,2000年4月,No.134,
p.50?54
甲2:特開2003-277405号公報
甲3:佐藤靖,“ブラスト表面の粗さと塗膜性能”,
実務表面技術,1984年,Vol.31,No.7,
p.318?323
甲4:特表2007-522303号公報
甲5:特開昭57-162703号公報
甲6:特開2013-189400号公報
甲7:特開2004-67863号公報
甲8:特開昭62-36346号公報
甲9:特開昭63-175002号公報
甲10:特開2004-339183号公報
甲11:特開2003-135902号公報
なお、甲2?11は、不揮発成分を含有する有機廃液の処理に関する文献ではなく、また、甲2?5、7及び9は重合体等の反応容器等への付着防止に関する周知技術を示す文献である。

(2)甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
ア 第51頁左欄第6?最終行
「2.2 廃塗料・廃溶剤発生工程と排出量
図1に、塗料工場における『廃塗料リサイクルシステム』のフローを示した。塗料工場から排出される廃塗料・廃溶剤は、主に塗料製造設備の色・品種変更時の洗浄廃溶剤として発生し、樹脂、顔料を含んでいる。この洗浄廃溶剤は、従来から常圧蒸留装置で溶剤を回収し、洗浄溶剤として再使用していた(一次回収溶剤)。しかし、樹脂分を含む廃溶剤は、蒸留による固形分濃度の上昇に伴い増粘し、粘着性が強くなる。さらに濃縮していくとゲル状物となり、装置の運転ができなくなると共に、装置からの蒸留残さの排出が困難となる。そのため、完全に溶剤を回収できずに、固形分濃度40%程度の蒸留残さを廃油として廃棄していた。また、廃塗料は固形分濃度が数十パーセントであり、同様に廃油として廃棄していた。
蒸留残さおよび廃塗料は大量の溶剤を含有している。即ち、従来の処分方法では溶剤を焼却処分していたことになる。この廃棄していた溶剤を全量回収すれば(二次回収溶剤)、産業廃棄物量の削減が図られると共に、石油資源の有効利用となる。」

イ 第51頁図1




ウ 第52頁図2




エ 第52頁左欄第2?最終行
「3.1 『廃塗料リサイクルシステム』の概要
図2に、『廃塗料リサイクルシステム』の概念図を示した。原料である廃塗料をポンプにより真空蒸留機に送り込み、揮発した溶剤は凝縮器で回収され、乾燥した固形物は排出器からコンテナへ落とされる仕組みとした。
本装置を設計する上で必要とされた条件は次の通りである。
1.高温・真空蒸留
高沸点溶剤の蒸発、乾燥過程で半固形状になった廃塗料からの溶剤蒸発を効率良く行う。
2.真空蒸留機内部の付着物除去機能
伝熱面への粘着物付着防止による蒸発効率の維持と装置内閉塞の防止を図る。
3.固形物の粉砕・送り出し機構
固形物の排出配管、バルブの閉塞を防止する。
4.回収溶剤および固形物の連続排出機構
真空蒸留装置内の真空を保ったまま、溶剤と固形物のそれぞれを連続的に系外へ排出することで運転効率を上げ、あわせて、運転エネルギーの抑制を図る。
5.低沸点溶剤と高沸点溶剤を分離回収
分離回収により、回収した溶剤のリサイクルを容易にする。」(当審注:上記「1.」?「5.」は原文では丸数字である。)

オ 第52頁右欄第5?最終行
「3.2 連続式真空蒸留機の選定
廃塗料・廃溶剤を溶剤と固形物に分離する真空蒸留機は、本装置の中心部であり、薄膜蒸留機などの数種類の小型実験装置で、数十?数百時間に及ぶ実液運転を行い、性能を比較した。その結果、ほとんどの機種が付着物による装置内部閉塞により、連続運転は困難と判断された。最終的に、伝熱面への付着を防止できる混練押出し機構を有した機種を採用した。特徴は以下の通りである。
1.密閉されたケーシングに、混練押出し翼が水平に配置されている。
2.ケーシング外面のジャケットと、翼軸内部に熱媒が通り、接液部全体が伝熱面となって処理液を加熱、乾燥させる。
3.加熱温度は、熱媒オイルを使用して200℃まで可能。
4.翼回転によって、付着物を削り落とすとともに排出口側へ送り出し、伝熱面の付着堆積を防ぐ。
5.乾燥した固形物は、排出口へ送られる過程で数mm?数cmに粉砕されて排出される。」(当審注:上記「1.」?「5.」は原文では丸数字である。)

カ 第54頁表3




(3) 甲1に記載された発明(甲1発明及び甲1’発明)
ア 上記(2)アには、廃塗料リサイクルシステムに関し、塗料工場から排出される廃塗料・廃溶剤は樹脂及び顔料を含むこと、常圧蒸留装置で廃塗料・廃溶剤から溶剤を回収(一次回収溶剤)することが記載されているといえる。

イ 上記(2)イの廃塗料リサイクルシステムのフロー図から、上記常圧蒸留装置からの蒸留残さを真空蒸留機に送り、真空蒸留機において、二次回収溶剤と乾燥固形物に分離することが看取できる。

ウ 上記(2)ウの廃塗料リサイクル装置概略図及びエの記載から、上記真空蒸留機から揮発した溶剤は凝縮器で回収され、乾燥固形物は排出器からコンテナへと落とされることが読み取れる。

エ 上記(2)オには、上記真空蒸留機は、密閉されたケーシングに、混練押出し翼が水平に配置され、ケーシング外面のジャケットと、翼軸内部に熱媒が通り、接液部全体が伝熱面となって処理液を加熱、乾燥させ、翼回転によって、付着物を削り落とすとともに排出口側へ送り出し、伝熱面の付着堆積を防ぐものであることが記載されているといえる。

オ 以上からすると、甲1には、装置に関する次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「塗料工場から排出され、樹脂及び顔料を含む廃塗料・廃溶剤から、溶剤を回収(一次回収溶剤)する常圧蒸留装置と、
常圧蒸留装置からの蒸留残さが送られる真空蒸留機と、
真空蒸留機から揮発した溶剤を回収(二次回収溶剤)する凝縮器と、
真空蒸留機の排出口から排出される乾燥固形物を受け取る排出器と、
排出器から落とされる乾燥固形物を受け取るコンテナと、を備え、
真空蒸留機は、密閉されたケーシングと、ケーシングに水平に配置される混練押出し翼と、ケーシング外面のジャケットと、翼軸内部を通る熱媒と、を備え、接液部全体が伝熱面となって処理液を加熱、乾燥させ、翼回転によって、付着物を削り落とすとともに排出口側へ送り出し、伝熱面の付着堆積を防ぐものである、
廃塗料リサイクル装置。」

また、甲1には、方法に関する次の発明(以下、「甲1’発明」という。)も記載されていると認められる。
「塗料工場から排出され、樹脂及び顔料を含む廃塗料・廃溶剤から、常圧蒸留装置において溶剤を回収(一次回収溶剤)し、
常圧蒸留装置からの蒸留残さを真空蒸留機に送り、
真空蒸留機から揮発した溶剤を凝縮器で回収(二次回収溶剤)し、
真空蒸留機の排出口から乾燥固形物を排出器へ排出し、
排出器からから乾燥固形物をコンテナへ落とし、
真空蒸留機は、密閉されたケーシングに、混練押出し翼が水平に配置され、ケーシング外面のジャケットと、翼軸内部に熱媒が通り、接液部全体が伝熱面となって処理液を加熱、乾燥させ、翼回転によって、付着物を削り落とすとともに排出口側へ送り出し、伝熱面の付着堆積を防ぐ、
廃塗料リサイクル方法。」

(4)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両発明は少なくとも次の相違点を有するものといえる。
<相違点>
本件発明1において、「前記第2気液分離手段の制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき」行われるのに対し、甲1発明において、本件発明1の「第2気液分離手段」に相当する「真空蒸留機」の制御を、「限界濃縮液温度」や当該「真空蒸留機」における液面の変化速度に基づいて制御を行っていない点。

イ 相違点について
甲1には、「真空蒸留機」の制御を「限界濃縮液温度」や当該「真空蒸留機」における液面の変化速度に基づいて制御を行うことに関し、何らの記載も示唆もなく、また、そのような制御が本件出願当時の技術常識であるとの証拠も見当たらないので、甲1発明においてそのような制御を行うことを、当業者が容易に想到し得たものであるとはいい難い。一方、本件発明1は当該制御を行うことにより、「被処理液の不揮発性成分が析出しても、優れた処理効率を発揮することができる」(本件明細書の段落【0009】参照。)という有利な効果を発揮するものといえる。
なお、甲2?11は、不揮発成分を含有する有機廃液の処理に関する文献ではなく、上記「第2気液分離手段」を「限界濃縮液温度」や当該「真空蒸留機」における液面の変化速度に基づいて制御することに関し、何ら記載されたものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

(5) 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(4)の本件発明1についての検討と同様の理由により、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

(6) 本件発明5について
本件発明5と甲1’発明とを対比すると、両発明は少なくとも上記(4)アの相違点と同様の相違点を有するものといえる。
そして、当該相違点についての検討は、上記(4)イでの検討と同様であるといえるから、本件発明5は、甲1’発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

(7) 本件発明6?8について
本件発明6?8は、本件発明5の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(6)の本件発明5についての検討と同様の理由により、甲1’発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

(8) まとめ
以上の検討のとおり、本件発明1?8は、甲1に記載された発明に対して進歩性が欠如するということはできないから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、申立理由1(進歩性欠如)を理由に、取り消すことはできない。

3 申立理由2(サポート要件違反)についての当審の判断
(1) 申立理由2(サポート要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、本件発明4及び8並びに本件明細書の段落【0026】の記載を根拠に、本件発明1及び5における「不揮発性成分に対して耐付着性を呈する」なる発明特定事項の具体的態様として、「表面粗さが1μm以下の状態」が規定されているとし、一方で、本件明細書の比較例1において、接液箇所の表面粗さが0.7μmであるにもかかわらず、「第2蒸発器22である多管式熱交換器の接液箇所(熱媒体Hにより加熱される管の内壁の伝熱面)を確認したところ、析出した不揮発性成分が固着しており、濃縮液が流れなくなっていた。」(本件明細書の【0071】参照。)としており、してみれば、接液箇所の表面粗さが0.7μmの場合を包含する本件発明1、4、5及び8は、「被処理液の不揮発性成分が析出しても、優れた処理効率を発揮することができる溶液処理装置および溶液処理方法を提供する」という上記本件発明の課題を解決できない態様を含むものであり、したがって、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないこととなるというものである。

(2) しかしながら、本件発明1及び5における「不揮発性成分に対して耐付着性を呈する」なる発明特定事項について、本件明細書の段落【0023】によれば、「析出した不揮発性成分が付着し難い状態となるような処理が施されていること」と定義されており、また、同段落【0051】によれば、それにより、「第2気液分離手段(第2気液分離工程)において被処理液の不揮発性成分が析出するような高いレベルの条件で蒸発処理を実施しても、析出成分の付着に伴う処理効率の低下を抑制することができる」という作用効果が得られることを理解できるので、当該発明特定事項により規定される本件発明1、4、5及び8は、上記本件発明の課題を解決するものと当業者が認識し得る範囲内のものであるといえる。

(3) なお、第2蒸発器の接液箇所において「析出した不揮発性成分が固着しており、濃縮液が流れなくなっていた」上記比較例2は、接液箇所が「不揮発性成分に対して耐付着性を呈する」ものとはいえないので、本件発明に包含される態様でないことは明らかであるといえる。
また、上記「析出した不揮発性成分が付着し難い状態」に関し、当該析出物の付着の程度は、有機溶媒や不揮発性成分の種類、被処理液の流れや速度等により変化するのが通常であるから、上記「耐付着性」を呈する「平坦な状態」の具体的な表面粗さも、それに応じて変化するものといえ、「1μm」や「0.7μm」といった絶対的な数値により一義的に決まるものでないことは、当業者であれば理解するものといえる。

(4) 以上のとおりであるから、請求項1、4、5及び8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないため、申立理由2(サポート要件違反)を理由に、取り消すことはできない。

4 申立理由3(明確性要件違反)についての当審の判断
(1) 申立理由3(明確性要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、本件発明1及び5における「耐付着性」なる発明特定事項が指示する比較の基準又は程度が不明確であり、接液箇所がどのような性質を有していれば、本件発明1及び5の範囲に入るのかを当業者が理解することができないというものである。

(2) しかしながら、本件発明1及び5における「不揮発性成分に対して耐付着性を呈する」なる発明特定事項について、本件明細書の段落【0023】によれば、「析出した不揮発性成分が付着し難い状態となるような処理が施されていることを示しており」と定義されており、また、同段落【0023】?【0026】によれば、当該処理が施された状態として具体的に、「耐付着性材料により被覆された状態」及び研磨処理による「平坦な状態」が示されているのだから、そのような処理により得られる物性により、析出した不揮発性成分が付着し難い状態となる程度であることを、当業者は理解するものといえ、 更に、同段落【0051】によれば、当該「耐付着性」が「第2気液分離手段(第2気液分離工程)において被処理液の不揮発性成分が析出するような高いレベルの条件で蒸発処理を実施しても、析出成分の付着に伴う処理効率の低下を抑制することができる」という作用効果が得られる程度であることを理解できるといえるので、当該発明特定事項の意味内容を当業者が理解できない結果、発明が不明確となるものとはいえない。

(3) 以上のとおりであるから、請求項1及び5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないため、申立理由3(明確性要件違反)を理由に、取り消すことはできない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
溶液処理装置および溶液処理方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒に不揮発性成分が混合した被処理液から、有機溶媒を分離する溶液処理装置および溶液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒には、樹脂等の対象物を溶解させる溶解剤や分散させる分散剤という用途が存在する。また、有機溶媒は、液晶基板や半導体集積回路の製造工程においても、フォトレジストと呼ばれる感光性樹脂の剥離剤として使用されている。
そして、このような用途で使用された有機溶媒は、不純物を除去しリサイクルされることが多いが、有機溶媒のリサイクルについては、通常、蒸留という不純物の分離方法が適用される。
【0003】
有機溶媒を蒸留によってリサイクルする技術については様々な技術が提案されており、例えば、特許文献1では、レジスト塗布装置から排出されるレジストと有機溶剤の混合液を回収する工程と、前記有機溶剤を揮発させて前記混合液を濃縮する工程と、揮発した前記有機溶剤を液化する工程と、有機溶剤を前記濃縮混合液に加えることにより前記混合液の粘度を所望の値に調整する工程とを具備することを特徴とするレジスト再生方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-082602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているような従来の方法では、有機溶媒に溶解している樹脂等の不揮発性成分が析出し、有機溶媒を蒸発させるための蒸発器の接液箇所に対して析出した不揮発性成分が付着(固着、粘着等)する虞がある。その結果、従来の方法では、蒸発器の加熱性能の経時的な低下が起こり、溶剤の回収率向上、管路内の断熱ロス防止、省エネルギー化、という期待される効果を発揮できなくなってしまう。
この問題への対応策としては、不揮発性成分が析出しない条件で有機溶媒の分離作業を行うという方法が挙げられるが、この対応策では、有機溶媒の処理効率(留出率)が悪くなるとともに、廃棄物の量が増加するため、経済的、環境的にも好ましい方法とはいえない。
【0006】
そこで、本発明は、被処理液の不揮発性成分が析出しても、優れた処理効率を発揮することができる溶液処理装置および溶液処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る溶液処理装置は、有機溶媒と不揮発性成分とを含む被処理液から、留出蒸気として有機溶媒を分離する溶液処理装置であって、被処理液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第1気液分離手段と、前記第1気液分離手段から缶出する濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第2気液分離手段と、前記第1気液分離手段において被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように、前記第1気液分離手段を制御する制御手段と、を備え、前記第2気液分離手段の濃縮液を加熱する箇所であるとともに濃縮液に接する接液箇所が、不揮発性成分に対して耐付着性を呈し、前記制御手段は、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率となるように前記第1気液分離手段の留出率を制御し、前記制御手段による前記第2気液分離手段の制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る溶液処理方法は、有機溶媒と不揮発性成分とを含む被処理液から、留出蒸気として有機溶媒を分離する溶液処理方法であって、被処理液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第1気液分離工程と、前記第1気液分離工程で缶出された濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第2気液分離工程と、を含み、前記第1気液分離工程において、被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように制御し、前記第2気液分離工程において濃縮液を加熱する箇所であるとともに濃縮液に接する接液箇所が、不揮発性成分に対して耐付着性を呈し、前記第1気液分離工程における留出率を、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率とし、前記第2気液分離工程における制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離工程において保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被処理液の不揮発性成分が析出しても、優れた処理効率を発揮することができる溶液処理装置および溶液処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る溶液処理装置の模式図である。
【図2】変形例に係る溶液処理装置の模式図である。
【図3A】実施例1における事前試験で得られた結果を示す表である。
【図3B】実施例1における事前試験で得られた濃縮液温度と不揮発性成分濃度とのグラフである。
【図3C】実施例1における事前試験で得られた濃縮液温度と留出率とのグラフである。
【図4A】実施例3における事前試験で得られた結果を示す表である。
【図4B】実施例3における事前試験で得られた濃縮液温度と不揮発性成分濃度とのグラフである。
【図4C】実施例3における事前試験で得られた濃縮液温度と留出率とのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係る溶液処理装置、および、溶液処理方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0012】
まず、本実施形態に係る溶液処理装置の概略について、図1を参照して説明する。
≪本実施形態に係る溶液処理装置の概略≫
本実施形態に係る溶液処理装置1Aは、有機溶媒と不揮発性成分とを含む被処理液L1から、留出蒸気G4として有機溶媒を分離する装置である。
そして、図1に示すように溶液処理装置1Aは、第1気液分離手段10(第1気液分離容器11、第1蒸発器12)と、第2気液分離手段20(第2気液分離容器21、第2蒸発器22)と、制御手段30と、を備える。
また、溶液処理装置1Aは、各部材間(および外部)が配管t1?t11によって繋がっているとともに、これらの配管および各部材の内部における溶液(被処理液、濃縮液)の流れを調整するために、ポンプP1、P2、バルブV1?5を備える。
また、溶液処理装置1Aは、固体除去手段40を備えるとともに、流量計F1?F4、液面計S1、S2、温度計T1、T2といった計器を備える。
次に、本実施形態に係る溶液処理装置1Aの各部材について、図1を参照して説明する。
【0013】
<第1気液分離手段>
第1気液分離手段10は、被処理液L1を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる手段である。
そして、第1気液分離手段10は、第1気液分離容器11と第1蒸発器12とを含んで構成される。
なお、この第1気液分離手段10では、被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように制御が実施されるが、詳細な制御方法は後に詳述する。
【0014】
(第1気液分離容器)
第1気液分離容器11は、配管t1を介して供給される被処理液L1、配管t4およびt9を介して供給される蒸気G1およびG3が後記の気液分離器13で凝縮され流下する濃縮液、さらには、配管t4を介して供給される濃縮液、を容器の底部に所定量保持するとともに、底部から所定の流量で缶出させる。
また、第1気液分離容器11は、配管t4およびt9を介して供給される蒸気G1およびG3のうち、後記の気液分離器13で気液分離された蒸気を容器の頂部から留出させ、配管t10を介して留出蒸気G4として外部に送出する。
そして、第1気液分離容器11には、容器の内部であって配管t1、t4、t9の接続箇所よりも上方に気液分離器13が設けられているとともに、容器の底部に保持される濃縮液(被処理液L1も含む)の液面の高さを計測する液面計S1と、濃縮液の温度を計測する温度計T1とが設けられている。
【0015】
なお、第1気液分離容器11は、図1では塔状を呈しているが、特に形状は限定されず、サイズについても、被処理液L1の処理量等に応じて、適宜設定すればよい。
また、気液分離器13は、気体中から液体を分離できる機器であれば特に限定されず、例えば、ミストエリミネーター、サイクロン式の気液分離器といった公知の機器を適用することができる。
【0016】
(第1蒸発器)
第1蒸発器12は、第1気液分離容器11から缶出され、配管t2、t3を介して供給される濃縮液を、加熱し蒸発させる。そして、第1蒸発器12は、発生させた蒸気G1および加熱された濃縮液を配管t4を介して第1気液分離容器11に供給する。
【0017】
なお、第1蒸発器12は、濃縮液を加熱し蒸発することができる機器であれば特に限定されず、多管式、プレート式、ジャケット式、コイル式、二重管式といった様々な形式の熱交換器等を適用することができる。そして、詰まり防止等のために、第1蒸発器12の上流側または下流側にストレーナーを設けるのが好ましい。
【0018】
<第2気液分離手段>
第2気液分離手段20は、第1気液分離手段10から缶出する濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる手段である。
そして、第2気液分離手段20は、第2気液分離容器21と第2蒸発器22とを含んで構成される。
【0019】
(第2気液分離容器)
第2気液分離容器21は、配管t5を介して第1気液分離容器11から供給される濃縮液を、容器の底部に所定量保持するとともに、底部から所定の流量で缶出させる。
また、第2気液分離容器21は、配管t8を介して供給される蒸気G2を、容器の頂部から留出させ、配管t9を介して蒸気G3として第1気液分離容器11に供給する。
そして、第2気液分離容器21には、容器の底部に保持される濃縮液の液面の高さを計測する液面計S2と、濃縮液の温度を計測する温度計T2とが設けられている。
【0020】
なお、第2気液分離容器21は、第1気液分離容器11と同様、図1の構成に限定されない。
また、図1には示していないが、第2気液分離容器21には、第1気液分離容器11に設けられているような気液分離器13を、容器の内部であって配管t8の接続箇所よりも上方に設けてもよい。
【0021】
(第2蒸発器)
第2蒸発器22は、第2気液分離容器21から缶出され配管t6、t7を介して供給される濃縮液を、加熱し蒸発させる。そして、第2蒸発器22は、発生させた蒸気G2を配管t8を介して第2気液分離容器21に供給する。
なお、第2蒸発器22は、第1蒸発器12と同様、様々な構成のものを適用することができる。
【0022】
(接液箇所:場所)
第2蒸発器22(第2気液分離手段20)の濃縮液を加熱する箇所であるとともに濃縮液に接する接液箇所は、不揮発性成分に対して耐付着性を呈する。
この「接液箇所」は、例えば、第2蒸発器22において、熱媒体Hから濃縮液への熱エネルギーの移動が生じる箇所であって、熱媒体Hと濃縮液との間を仕切る部材(管、プレート等)の壁面のうち濃縮液側(濃縮液と接する側)の面である。
【0023】
(接液箇所:状態)
この「不揮発性成分に対して耐付着性を呈する」とは、析出した不揮発性成分が付着し難い状態となるような処理が施されていることを示しており、具体的には、「耐付着性材料により被覆された状態」または「平坦な状態」である。
【0024】
「耐付着性材料により被覆された状態」とは、耐付着性材料が接液箇所に対して1?100μm、好ましくは5?50μmの厚さで被覆されている状態である。耐付着性材料の厚さを所定値以上とすることによって、耐付着性を確実なものとすることができるとともに、耐付着性材料の厚さを所定値以下とすることによって、伝熱効率の低下を抑制することができる。
【0025】
そして、耐付着性材料は、例えば、有機系材料として、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられ、無機系材料として、耐付着性を呈する金属酸化物含有塗料、カーボン含有塗料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
特に、後記するフォトレジスト(樹脂)を含む被処理液を対象とする場合、耐付着性材料は、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、金属酸化物含有塗料、および、カーボン含有塗料のうちの少なくとも一つが好ましい。
なお、フッ素樹脂としては、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体などが挙げられる。
【0026】
「平坦な状態」とは、表面粗さが1μm以下の状態である。そして、「平坦な状態」とする方法は、第2蒸発器22の接液箇所に対して電解研磨やバフ研磨等の研磨処理を施すことによって、表面粗さを所定値以下とするという方法であってもよいし、表面粗さが所定値以下である材料(板材等)を選択して、第2蒸発器22の接液箇所に適用するという方法であってもよい。
なお、この表面粗さとは、詳細には、算術平均粗さ(Ra)である。
【0027】
(固体除去手段)
固体除去手段40は、濃縮液中に含まれる固体(析出した不揮発性成分等)を濃縮液から除去する手段である。この固体除去手段40は、後記するポンプに固体が流入するのを防止するという役割を果たす。
固体除去手段40は、液体から固体を分離できる機器であれば特に限定されず、例えば、バケットストレーナー、ろ過フィルター、液体サイクロン、遠心沈降装置、静置沈降装置等を適用することができる。
なお、固体除去手段40は、図1では、不揮発性成分が析出する可能性の高い第2気液分離容器21と第2蒸発器22との間に設けているが、第1気液分離容器11と第1蒸発器12との間に設けてもよい。
【0028】
<ポンプ>
ポンプP1は、第1気液分離容器11から第1蒸発器12に配管t2、t3を介して濃縮液を送液するとともに、第1気液分離容器11から第2気液分離容器21に配管t2、t5を介して濃縮液を送液する。
ポンプP2は、第2気液分離容器21から第2蒸発器22に配管t6、t7を介して濃縮液を送液するとともに、第2気液分離容器21から外部に配管t6、t11を介して濃縮液を送液する。
なお、ポンプは、液体を送液可能な構成のものであれば特に限定されず、公知のポンプを適用することができる。また、ポンプの設置箇所は、各部材間において適切に濃縮液を送液可能であれば、図1の設置箇所に限定されず、さらに、ポンプの設置数を適宜増減させてもよい。
【0029】
<バルブ>
バルブV1は、外部から第1気液分離容器11に配管t1を介して供給される被処理液L1の流量を調整する。
バルブV2は、第1気液分離容器11から第1蒸発器12に配管t2、t3を介して供給される濃縮液の流量を調整する。
バルブV3は、第1気液分離容器11から第2気液分離容器21に配管t2、t5を介して供給される濃縮液の流量を調整する。
バルブV4は、第2気液分離容器21から第2蒸発器22に配管t6、t7を介して供給される濃縮液の流量を調整する。
バルブV5は、第2気液分離容器21から外部に配管t6、t11を介して排出される濃縮液の流量を調整する。
なお、バルブは、開閉のレベル(流路が開いている・閉まっている度合い)の調整等によって、液体の流量を調整可能な構成のものであれば特に限定されず、公知のバルブを適用することができる。また、バルブの設置箇所は、各部材間において適切に濃縮液の流量を調整可能であれば、図1の設置箇所に限定されず、さらに、バルブの設置数を適宜増減させてもよい。
【0030】
<計器>
溶液処理装置1Aは、前記した液面計S1、S2、温度計T1、T2以外に、各配管内の溶液(被処理液、濃縮液)の流量を測定する流量計F1、F2、F3、F4を備える。
これらの計器は、所望の情報を入手できる構成のものであれば特に限定されず、公知の計器を適用することができる。
【0031】
<制御手段>
制御手段30は、各計器からデータを読み出し、当該データに基づいて、バルブ等を制御する手段である。そして、制御手段30には、制御の基準とするデータを記憶する記憶部(図示せず)が備えられている。
なお、制御手段30による制御方法は後に詳述する。
【0032】
制御手段30は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラムの実行処理や、専用回路等によって実現される。また、制御手段30に備えられる記憶部は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の一般的な記憶装置で構成することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係る溶液処理装置の処理の対象となる被処理液について説明する。
≪被処理液≫
被処理液L1は、有機溶媒と不揮発性成分とを含む溶液である。
そして、被処理液L1は、例えば、液晶基板や半導体集積回路を製造する際のフォトリソグラフィ工程において発生するフォトレジストと称される樹脂(不揮発性成分)を含んだ剥離液が挙げられる。
【0034】
被処理液L1の有機溶媒としては、例えば、モノエタノールアミン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられるがこれに限定されるものではない。
被処理液L1の不揮発性成分としては、例えば、前記したフォトレジストなどの樹脂(感光性樹脂材料)が挙げられ、具体的には、ノボラック樹脂を想定しているがこれらに限定されるものではない。
なお、被処理液L1に含まれる不揮発性成分(樹脂)の含有量は、適切に分離処理を実施するという観点から、0.1?5.0質量%であるのが好ましい。
【0035】
そして、被処理液L1の「不揮発性成分」とは、溶液処理装置の運転時において揮発しない成分、詳細には、溶液処理装置の蒸発器(第1蒸発器12及び第2蒸発器22)の運転時の圧力における沸点が当該蒸発器の加熱温度よりも高い成分である。よって、不揮発性成分としては、前記した樹脂以外にも、液晶基板や半導体集積回路の製造時に発生する無機物粒子等の懸濁物質、さらには、被処理液L1に溶解した高沸点成分(例えば、腐食防止剤や防食剤に含まれるソルビトールなどの成分)を挙げることができる。
なお、被処理液L1に含まれる全ての不揮発性成分の含有量(総量)は、適切に分離処理を実施するという観点から、0.1?5.0質量%であるのがより好ましい。
被処理液L1に不揮発性成分として樹脂だけでなく懸濁物質を含む場合、析出した樹脂が懸濁物質を凝集させる結果、第2蒸発器22等において析出する物質(適宜「析出成分」という)のサイズや量を増大させる傾向がある。しかしながら、このような場合であろうと、本発明によると、析出成分が第2蒸発器22の接液箇所に付着するのを抑制し、適切に濃縮液を加熱し所望の効果(優れた処理効率)を得ることができる。
なお、被処理液L1には、前記した有機溶媒、不揮発性成分以外にも、水が含まれていてもよい。
【0036】
次に、本実施形態に係る溶液処理方法について、図1を参照して説明する。なお、前記した本実施形態に係る溶液処理装置の動作も併せて説明する。
≪本実施形態に係る溶液処理方法≫
本実施形態に係る溶液処理方法は、第1気液分離工程と、第2気液分離工程と、を含む。
以下、各工程を説明する。
【0037】
<第1気液分離工程>
第1気液分離工程とは、被処理液L1を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる工程である。
詳細には、第1気液分離工程では、第1気液分離容器11から缶出され、配管t2、t3を介して供給される濃縮液を、第1蒸発器12によって加熱し蒸発させる。そして、第1蒸発器12において発生させた蒸気G1と加熱された濃縮液とを配管t4を介して第1気液分離容器11に供給する。そして、第1気液分離容器11の気液分離器13によって気液分離された蒸気を容器の頂部から留出させ、配管t10を介して留出蒸気G4として外部に送出する。一方、第1気液分離容器11の気液分離器13によって凝縮され流下する濃縮液を容器の底部に所定量保持するとともに、底部から所定の流量で缶出させる。そして、この缶出させた濃縮液が第1蒸発器12および第2気液分離容器21に供給されることとなる。
【0038】
そして、この第1気液分離工程では、被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように第1気液分離手段10を制御する。
具体的な第1気液分離工程での制御の内容について以下に例示するが、以下の内容に限定されない。
【0039】
まず、事前に、実機での条件を模した条件下において、対象となる被処理液L1を用いて蒸発濃縮試験を実施し、不揮発性成分の析出が始まる留出率(適宜「第1留出率」という)と濃縮液の温度(適宜「第1濃縮液温度」という)とを検査し、得られた第1留出率と第1濃縮液温度とを制御手段30の記憶部に記憶させる。
なお、事前の蒸発濃縮試験で不揮発性成分の析出する留出率が83%であった場合、当該数値よりも若干小さい値(例えば80%)を「第1留出率」に設定してもよく、不揮発性成分の析出する濃縮液温度が97.7℃であった場合、当該数値よりも若干小さい値(例えば97℃)を「第1濃縮液温度」に設定してもよい。
【0040】
第1気液分離工程では、流量計F1の被処理液L1の流量データ、流量計F2の濃縮液の流量データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、これらのデータに基づいて第1気液分離手段10の留出率を算出し、記憶部に記憶されている第1留出率と比較する。留出率が第1留出率以上となる場合は、バルブV1の開度のレベル(流路が開いている度合い)を大きくするという制御、バルブV3の開度のレベルを大きくするという制御のうちの少なくとも1つの制御を制御手段30が実施する。一方、算出された留出率が低過ぎる場合は、制御手段30が、前記の制御とは逆の制御を実施すればよい。
また、第1気液分離工程では、温度計T1の温度データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、読み出した濃縮液の温度と記憶部に記憶されている第1濃縮液温度とを比較する。濃縮液の温度が第1濃縮液温度以上となる場合は、第1蒸発器12の加熱温度を低くする(熱媒体Hの温度を低下する、熱媒体Hの流量を減少する)という制御、バルブV1の開度のレベルを大きくするという制御、バルブV3の開度のレベルを大きくするという制御のうちの少なくとも1つの制御を制御手段30が実施する。一方、濃縮液の温度が低過ぎる場合は、制御手段30が、前記の制御とは逆の制御を実施すればよい。
なお、制御手段30による制御(データの読み出し、比較、バルブ等の制御)のタイミングは、適宜、所定間隔または連続的に実施するという設定とすればよく、さらには、定常状態になった後に当該タイミングの間隔を広める(または、制御を停止する)といった設定であってもよい。この点については、以下の制御においても同様である。
【0041】
第1気液分離工程において、第1気液分離容器11での濃縮液の保持量を所定範囲内とする観点から、次のような制御を実施してもよい。
第1気液分離工程では、液面計S1の液面データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、このデータに基づいて第1気液分離容器11に保持されている濃縮液の量を算出し、記憶部に記憶されている所定の量(上限量、下限量)と比較する。算出した濃縮液の量が上限量に達した場合、バルブV3の開度のレベルを大きくするという制御、バルブV1の開度のレベルを小さくするという制御のうちの少なくとも1つの制御を制御手段30が実施する。また、算出した濃縮液の量が下限量に達した場合、前記の制御とは逆の制御を実施すればよい。
【0042】
第1気液分離工程における前記した「留出率」とは、例えば、被処理液L1が1000kg/hで第1気液分離容器11に供給され、濃縮液が配管t5を介して200kg/hで第2気液分離容器21に供給されていた場合、80%(=(1000-200)/1000×100)と算出することができる。つまり、第1気液分離工程(第1気液分離手段10)の留出率は、流量計F1と流量計F2の流量データに基づいて算出することができる。
また、前記した「不揮発性成分の析出」という状態とは、被処理液L1が加熱されることによって析出した不揮発性成分が蒸発器や配管等の壁面に付着している状態である。言い換えると、蒸発器(第1蒸発器12、蒸発濃縮試験で使用する蒸発器)に不揮発性成分が析出し付着することによって、本来の蒸発器が示す総括伝熱係数(不揮発性成分が付着しておらず伝熱効率が全く低下していない状態の蒸発器の総括伝熱係数)から当該係数が10%以上低下した状態である。なお、蒸発器の性能を示す係数である総括伝熱係数Uは、「Q(交換熱量:kcal/hr)=U(総括伝熱係数:kcal/m^(2)hr℃)×A(伝熱面積:m^(2))×ΔT(被加熱媒体と熱媒体との平均温度差:℃)」の式から算出することができる。
【0043】
<第2気液分離工程>
第2気液分離工程とは、第1気液分離工程で缶出された濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる工程である。
詳細には、第2気液分離工程では、第2気液分離容器21から缶出され、配管t6、t7を介して供給される濃縮液を、第2蒸発器22によって加熱し蒸発させる。そして、第2蒸発器22において発生させた蒸気G2を配管t8を介して第2気液分離容器21に供給する。そして、この蒸気を第2気液分離容器21の頂部から蒸気G3として留出させ、配管t9を介して第1気液分離容器11に供給する。
【0044】
そして、第2気液分離工程では、保持する濃縮液の温度が、留出率の上昇が停滞するような所定の温度以下となるように制御する。
具体的な第2気液分離工程での制御の内容について以下に例示するが、以下の内容に限定されない。
【0045】
まず、事前に、実機での条件を模した条件下において、対象となる被処理液L1を用いて蒸発濃縮試験を実施し、留出率の上昇が停滞する温度(適宜「限界濃縮液温度」という)を検査し、得られた限界濃縮液温度を制御手段30の記憶部に記憶させる。
なお、事前の蒸発濃縮試験で留出率の上昇が停滞する温度が99.4℃であった場合、当該数値よりも若干小さい値(例えば99℃)を「限界濃縮液温度」に設定してもよい。
【0046】
第2気液分離工程では、温度計T2の温度データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、読み出した濃縮液の温度と記憶部に記憶されている限界濃縮液温度とを比較する。濃縮液の温度が限界濃縮液温度を超える場合は、バルブV5の開度のレベルを大きくするという制御、バルブV3の開度のレベルを大きくするという制御、第2蒸発器22の加熱温度を低くする(熱媒体Hの温度を低下する、熱媒体Hの流量を減少する)という制御のうちの少なくとも1つの制御を制御手段30が実施する。なお、濃縮液の温度が低過ぎる場合は、制御手段30が、前記の制御とは逆の制御を実施すればよい。
【0047】
第2気液分離工程において、配管t11から濃縮液L2を外部に排出するにあたり、前記のような制御の下で常に所定量を排出するという構成でもよいが、以下のように、所定のタイミングで排出するという構成であってもよい。
具体的には、第2気液分離工程において、液面計S2の液面データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、このデータに基づいて第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の量を算出し、記憶部に記憶されている所定の量(上限量、下限量)と比較する。算出した濃縮液の量が上限量に達したタイミングで、バルブV5を閉→開とする制御を実施し、下限量に達したタイミングで、バルブV5を開→閉とする制御を実施するという構成であってもよい。
また、第2気液分離工程において、温度計T2の温度データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、読み出した濃縮液の温度と記憶部に記憶されている限界濃縮液温度とを比較する。濃縮液の温度が限界濃縮液温度に達したタイミングで、バルブV5を閉→開とする制御を実施する。なお、バルブV5を開→閉とするタイミングは、前記のように、液面計S2の液面データに基づいて算出された濃縮液の量が下限量に達したタイミングとすればよい。
【0048】
(第2気液分離工程における濃縮液の流速)
第2気液分離工程において、第2蒸発器22内での濃縮液の流速は、析出した不揮発性成分を堆積させない流速、詳細には、0.5?2.0m/s、好ましくは1m/s以上となるように制御する。
第2蒸発器22内での濃縮液の速度を所定値以上とすることにより、不揮発性成分が析出したとしても、第2蒸発器2内において析出成分が堆積するのを抑制できることから、接液箇所への析出成分の付着を非常に高いレベルで抑制することができる。
具体的には、次のような制御を実施する。
【0049】
第2気液分離工程では、流量計F3の流量データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、読み出した流量データから算出される第2蒸発器22内での濃縮液の流速と記憶部に記憶されている所定の流速(例えば前記した0.5m/s)とを比較する。濃縮液の流速が所定の流速未満となる場合は、ポンプP2の送液のレベルを強くするという制御を制御手段30が実施する。一方、濃縮液の流速が大き過ぎる場合は、制御手段30が、前記の制御とは逆の制御を実施すればよい。
なお、第2蒸発器22内での濃縮液の流速は、流量計F3の流量データと第2蒸発器22の濃縮液が流れる流通路の断面積から算出することができる。例えば、第2蒸発器22が多管式熱交換器であって濃縮液が複数の管内を流れる場合、各管の内側の断面積を合計して総断面積を算出し、流量データの値(m^(3)/s)を当該総断面積(m^(2))で除することで、濃縮液の流速(m/s)を算出することができる。
【0050】
(第2気液分離工程における濃縮液の流速:沈降速度の算出式に基づく判断)
流体が層流のとき、粒子の密度ρ_(p)(kg/m^(3))、流体の密度ρ_(f)(kg/m^(3))、粒子の代表径d_(p)(m)、重力加速度g(m/s^(2))、流体粘度η(Pa・s)とした場合、粒子の沈降速度V(m/s)は「V=(ρ_(p)-ρ_(f))d_(p)^(2)・g/(18η)」で表すことができる。
この式は、沈降速度を算出する式として公知の式であって、レイノルズ数が6未満の場合に適合する式であるが、特に、対象となる粒子の直径が1mm以下の場合に、よく適合する。
例えば、配管等での詰まりのトラブルを回避するために、直径が1mmを超える粒子をストレーナーで除外することを想定し、粒子の代表径を1mmと規定した場合、当該粒子の沈降速度は、流体の密度が1000kg/m^(3)、粒子の密度が2000kg/m^(3)、流体の粘度が0.01Pa・sとすると、約0.05m/sと算出できる。なお、この場合のレイノルズ数は、5.45となり6未満である。
よって、流体中における粒子の沈降速度(約0.05m/s)を考慮すると、この速度の10倍である流速(0.5m/s以上)で濃縮液を流すことによって、第2蒸発器22内における析出成分の堆積を防止できるとの前記した判断は妥当であることがわかる。
【0051】
≪作用効果≫
以上のような本実施形態に係る溶液処理装置および溶液処理方法によれば、次のような作用効果を奏することができる。
本実施形態に係る溶液処理装置および溶液処理方法は、被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように制御する第1気液分離手段(第1気液分離工程)と、接液箇所が不揮発性成分に対して耐付着性を呈する第2気液分離手段(第2気液分離工程)と、で気液分離処理を実施する。つまり、本実施形態に係る溶液処理装置および溶液処理方法は、2段階での気液分離処理を実施するだけでなく、第2気液分離手段(第2気液分離工程)において被処理液の不揮発性成分が析出するような高いレベルの条件で蒸発処理を実施しても、析出成分の付着に伴う処理効率の低下を抑制することができる。よって、本実施形態に係る溶液処理装置および溶液処理方法によると、被処理液の不揮発性成分が析出しても、優れた処理効率を発揮することができる。
【0052】
≪変形例≫
以上、本実施形態に係る溶液処理装置および溶液処理方法について説明したが、本実施形態はこれに限定されず、例えば、次のように変更できる。
【0053】
図1の溶液処理装置1Aでは、第1気液分離容器11と第1蒸発器12とを別体としたが、図2に示す溶液処理装置1Bのように、第1蒸発器102を第1気液分離容器101内に設置することで第1気液分離手段100を一体としてもよい。
なお、図2に示す第1気液分離手段100は、第1気液分離容器101の底部に保持される濃縮液を加熱できるように、内部を熱媒体Hが流通する伝熱管102(第1蒸発器102)を備える構成となっている。
【0054】
前記のとおり、第2蒸発器22は、濃縮液を加熱し蒸発できる機器であれば特に限定されず、図2に示すようなプレート式熱交換器202(第2蒸発器202)であってもよい。
【0055】
図1に示す第2気液分離手段20において、不揮発性成分の濃度が高くなることによって、濃縮液が固化し易い状態(または、粘度が高く流れにくい状態)となる可能性が高い。よって、第2気液分離手段20内の濃縮液を固化しないレベル(または、ポンプP2による送液が可能な粘度のレベル)まで加温する加温手段を設けてもよい。
なお、加温手段は、濃縮液が流通する箇所(詳細には、第2気液分離容器21の濃縮液が保持されている底部、および、配管t6、t7、t11)に対して外部から熱を加える機器であれば特に限定されず、加温箇所を熱媒体に浸すことができる熱溶媒収容タンクやヒーター等が挙げられる。
【0056】
図1に示す第2蒸発器22の濃縮液に接する接液箇所が、不揮発性成分に対して耐付着性を呈する場合を説明したが、耐付着性を呈する箇所は、この接液箇所に限定されない。
例えば、第2気液分離手段20のうちの濃縮液が流通する箇所(詳細には、第2気液分離容器21の濃縮液が保持されている底部、および、配管t6、t7、t11)であって濃縮液に接する内側面についても、耐付着性を呈する構成としてもよい。
なお、第1蒸発器12内の接液箇所についても耐付着性を呈する構成としてもよいが、加工の費用が発生するとともに、第1蒸発器12における伝熱性が低下し、全体としての処理効率が若干低下してしまうと想定される。
【0057】
図1に示す第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の量に基づいてバルブV5を制御する構成を説明したが、濃縮液の液面の変化速度(液面が上昇する速度)に基づいてバルブ5を制御するという構成であってもよい。
例えば、液面計S2の液面データを制御手段30が読み出す。そして、制御手段30が、読み出した液面データから算出される第2蒸発器22内での濃縮液の液面の変化速度と記憶部に記憶されている所定の速度とを比較する。濃縮液の液面の変化速度が所定の速度未満となるタイミングで、バルブV5を閉→開とする制御を実施するという構成であってもよい。
【0058】
被処理液L1に含まれる不揮発性成分(フォトレジスト)が、硫黄原子を含む成分、例えば、感光剤である1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル(NQD)系化合物からなるレジスト等である場合、第2気液分離容器21において、以下に示すように「不揮発性成分量」や「粘度」を測定する構成としてもよい。
第2気液分離容器21の濃縮液に含まれるNQD系化合物(不揮発性成分)の測定は、蛍光X線硫黄分析装置を用いて得られるデータから算出することができる。ここで、硫黄原子は蛍光X線の照射によって、約2.3keVのエネルギーの蛍光X線を放出することから、スペクトルの中から、硫黄原子によるX線量を計測することで、硫黄濃度の定量分析を行うことができる。そして、硫黄濃度の定量分析の結果とあらかじめ作成した検量線とに基づいて、第2気液分離容器21の濃縮液中の「不揮発性成分量」や「粘度」を算出することができる。
なお、このような測定を行う場合は、第2気液分離容器21の下部に、濃縮液の一部を抜き取り・返送する配管を設けるとともに、当該配管内にT字継手とバルブを設け、当該T字綱手に蛍光X線硫黄分析装置に供給する配管を繋ぐことで、連続的に測定できる構成とすることができる。
そして、第2気液分離容器21の濃縮液を測定して得られた「不揮発性成分量」や「粘度」に基づいて、バルブV5を制御するという構成(不揮発性成分量が所定量以上となるタイミング、又は、粘度が所定値以上となるタイミングでバルブV5を閉→開)としてもよい。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0060】
≪実施例1≫
(被処理液)
水分5質量%、モノエタノールアミン28.2質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテル65.8質量%、不揮発性成分であるフォトレジスト1質量%からなる被処理液を準備した。
【0061】
(事前試験)
前記の被処理液を2kPaabsという圧力条件下において蒸発濃縮試験(事前試験)を実施し、留出率、不揮発性成分濃度(留出液中)、濃縮液温度(沸点)を確認した。また、この試験中において不揮発性成分の析出が開始するタイミングを確認するとともに、留出率の上昇が停滞するタイミングを蒸発限界と認定した。
この事前試験の結果を図3A?Cに示す。
【0062】
(事前試験:結果)
事前試験では、留出率が83%で濃縮液温度の上昇が停滞し、このタイミングで不揮発性成分の析出が確認できた。そして、留出率83%での濃縮液温度は97.7℃であった。
また、留出率は95%で停滞することが確認できた。そして、留出率95%での濃縮液温度は99.4℃であった。
以上の結果から、本試験での第1気液分離工程における「第1留出率」を80%、「第1濃縮液温度」を97℃に設定し、第2気液分離工程における「限界濃縮液温度」を99℃に設定した。
【0063】
(本試験:溶液処理装置)
実施例1の本試験では、図1に示す溶液処理装置1Aを用いた。そして、第2蒸発器22である多管式熱交換器の接液箇所(熱媒体Hにより加熱される管の内壁の伝熱面)は、表面粗さが当初0.7μmであったものを0.1μmまで電解研磨を施した。
【0064】
(本試験:制御)
溶液処理装置1Aの制御については、定常状態において、第1気液分離容器11の留出率が「第1留出率」の80%以下、第1気液分離容器11に保持されている濃縮液の温度が「第1濃縮液温度」の97℃以下となるように、第1蒸発器12の加熱温度とバルブV1、V2、V3の開閉のレベルとを設定(制御)した。加えて、第1気液分離容器11に保持されている濃縮液の量が所定量を超えないように監視した。
また、溶液処理装置1Aの制御については、定常状態において、第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の温度が「限界濃縮液温度」の99℃に達したタイミングでバルブV5を開き、所定の液面高さまで濃縮液を抜き出すという制御を実施した。
そして、第2蒸発器22内での濃縮液の流速が0.5m/sとなるように、ポンプP2の流量を設定した。
【0065】
(本試験:結果)
実施例1の本試験によると、最終的な留出率(=留出蒸気G4量/被処理液L1量×100)を95%まで高めることができた。また、有機溶媒の回収率(=留出蒸気G4中の有機溶媒量/被処理液L1中の有機溶媒量×100)は、96%であった。また、外部に排出する濃縮液L2中の不揮発性成分の濃度は20質量%であった。
そして、実施例1の本試験の処理時間内(約1000時間)において、第2蒸発器22の接液箇所における析出した不揮発性成分の固着は確認できなかった。
以上の結果から、実施例1に係る溶液処理装置および溶液処理方法によると、優れた処理効率を発揮することができることが確認できた。
【0066】
≪実施例2≫
実施例2については、前記した実施例1と異なる点のみを以下に示す。
【0067】
(本試験:制御)
溶液処理装置1Aの制御については、第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の温度に基づく制御を実施しなかった。その代わりに、第2気液分離容器21に保持されている濃縮液の液面の変化速度(液面の上昇速度)に基づいて、バルブV5の制御を実施した。具体的には、濃縮液の液面の変化速度が顕著に遅くなったタイミングでバルブV5を開き、所定の液面高さまで濃縮液を抜き出した。
【0068】
(本試験:結果)
実施例2の本試験によると、最終的な留出率を94%まで高めることができた。また、外部に排出する濃縮液L2中の不揮発性成分の濃度は17質量%であった。
そして、実施例2の本試験の処理時間内(約1000時間)において、第2蒸発器22の接液箇所における析出した不揮発性成分の固着は確認できなかった。
以上の結果から、実施例2に係る溶液処理装置および溶液処理方法によると、優れた処理効率を発揮することができることが確認できた。
【0069】
≪比較例1≫
比較例1については、前記した実施例1と異なる点のみを以下に示す。
【0070】
(本試験:溶液処理装置)
比較例1の第2蒸発器22である多管式熱交換器の接液箇所(熱媒体Hにより加熱される管の内壁の伝熱面)は、表面粗さが当初の0.7μmのままであった。
【0071】
(本試験:結果)
比較例1の本試験によると、留出率が85%を超えた時点でポンプP2の圧力が上がり始めたため、装置の運転を停止した。その後、第2蒸発器22である多管式熱交換器の接液箇所(熱媒体Hにより加熱される管の内壁の伝熱面)を確認したところ、析出した不揮発性成分が固着しており、濃縮液が流れなくなっていた。
【0072】
≪実施例3≫
(被処理液)
被処理液としては、イソプロピルアルコール-エチルベンゼンの有機溶媒に、半導体集積回路の製造工程で発生する無機粒子(懸濁物質)と樹脂とを含有した溶液を準備した。
なお、被処理液に含まれる不揮発性成分(無機粒子と樹脂との合計)の濃度は、3質量%であったが、ろ過フィルターを使用して溶解している不揮発性成分(樹脂)を検査したところ、被処理液に含まれる樹脂の濃度は、0.3質量%であることを確認した。
【0073】
(事前試験)
前記の被処理液を常圧という圧力条件下において第1蒸発濃縮試験(事前試験)を実施し、留出率、不揮発性成分濃度(留出液中)、濃縮液温度(沸点)を確認した。また、この試験中おいて不揮発性成分の析出が開始するタイミングを確認した。
また、前記した第1蒸発濃縮試験において留出率60%として得られた濃縮液を用いるとともに、接液箇所がフッ素樹脂でコーティングされた蒸発器を用いて第2蒸発濃縮試験を実施し、濃縮液の流動性が確保できないタイミングを蒸発限界と認定した。
この第1蒸発濃縮試験の結果を図4A?Cに示す。
【0074】
(事前試験:結果)
第1蒸発濃縮試験では、留出率が64%のタイミングで不揮発性成分の析出が確認できた。そして、留出率が64%のタイミングでの濃縮液温度は91.7℃であった。
また、第2蒸発濃縮試験では、濃縮液の粘度が0.3Pa・sを超えると流動性が悪化し、配管摩擦等の圧力損失上昇によってポンプの能力や配管のサイズで特定される所定条件下での流動性が確保できなくなるが、濃縮液の不揮発性成分濃度が23質量%以下であれば一定以上の流動性が確保できることが確認できた。そして、濃縮液の不揮発性成分濃度が23質量%のときの留出率は85%であった。
以上の結果から、本試験での第1気液分離工程における「第1留出率」を60%、「第1濃縮液温度」を90℃に設定した。また、本試験での第2気液分離工程における「限界濃縮液温度」を濃縮液の粘度が0.3Pa・sとなる温度である100℃に設定した。
【0075】
(本試験:溶液処理装置)
実施例3の本試験では、図2に示す溶液処理装置1Bを用いた。そして、第2蒸発器202であるプレート式熱交換器の接液箇所(熱媒体Hにより加熱されるプレートの内壁の伝熱面)には、厚さが20μmのフッ素樹脂層を被覆した。
【0076】
(本試験:制御)
溶液処理装置1Bの制御については、定常状態において、第1気液分離容器101の留出率が「第1留出率」の60%以下、第1気液分離容器101に保持されている濃縮液の温度が「第1濃縮液温度」の90℃以下となるように、第1蒸発器102の加熱温度とバルブV1、V2、V3の開閉のレベルとを設定(制御)した。加えて、第1気液分離容器11に保持されている濃縮液の量が所定量を超えないように監視した。
また、溶液処理装置1Bの制御については、定常状態において、第2気液分離容器201に保持されている濃縮液の温度が「限界濃縮温度」の100℃以下となるように各バルブの開閉レベルを設定(制御)した。
そして、第2蒸発器202内での濃縮液の流速が0.5m/sとなるように、ポンプP12の流量を設定(制御)した。
【0077】
(本試験:結果)
実施例3の本試験によると、留出率を85%まで高めることができた。
そして、実施例3の本試験の処理時間内(約2000時間)において、第2蒸発器202の接液箇所における析出した不揮発性成分の固着が僅かに確認できたものの、処理能力が低下することなく試験を終了することができた。
以上の結果から、実施例3に係る溶液処理装置および溶液処理方法によると、優れた処理効率を発揮することができることが確認できた。
【0078】
≪比較例2≫
比較例2については、前記した実施例3と異なる点のみを以下に示す。
【0079】
(本試験:制御)
第2蒸発器202内での濃縮液の流速が0.1m/sとなるように、ポンプP12の流量を設定(制御)した。
【0080】
(本試験:結果)
比較例2の本試験によると、ポンプP12の圧力が徐々に上昇してしまったため、装置の運転を停止した。装置の停止後、第2蒸発器202を確認したところ、プレート式熱交換器202の溶液供給側から最も離れた接液箇所において、析出成分は付着していないものの堆積することによって流路の一部が塞がれていたことが確認できた。
なお、比較例2で使用した被処理液は、粘度や密度は低いものの、懸濁物質(平均粒子径0.18μm)を含んでいたことにより、加熱途中で析出した樹脂が懸濁物質を同士を凝集させ、凝集した懸濁物質が沈降し堆積してしまったものと想定される。
【符号の説明】
【0081】
1A、1B 溶液処理装置
10、100 第1気液分離手段
11、101 第1気液分離容器
12、102 第1蒸発器
13、103 気液分離器
20、200 第2気液分離手段
21、201 第2気液分離容器
22、202 第2蒸発器
30、300 制御手段
40 固体除去手段
L1 被処理液
L2 濃縮液
G4 留出蒸気
F 流量計
S 液面計
T 温度計
V バルブ
t 配管
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒と不揮発性成分とを含む被処理液から、留出蒸気として有機溶媒を分離する溶液処理装置であって、
被処理液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第1気液分離手段と、
前記第1気液分離手段から缶出する濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第2気液分離手段と、
前記第1気液分離手段において被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように、前記第1気液分離手段を制御する制御手段と、を備え、
前記第2気液分離手段の濃縮液を加熱する箇所であるとともに濃縮液に接する接液箇所が、不揮発性成分に対して耐付着性を呈し、
前記制御手段は、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率となるように前記第1気液分離手段の留出率を制御し、
前記制御手段による前記第2気液分離手段の制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理装置。
【請求項2】
前記第2気液分離手段の内部の濃縮液を所定の流速で送液するポンプを備え、
前記制御手段は、前記所定の流速が、析出した不揮発性成分を堆積させない流速となるように前記ポンプを制御することを特徴とする請求項1に記載の溶液処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の液温が所定の温度に達したタイミング、および、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液の量が所定の量に達したタイミング、の少なくとも1つを満たしたタイミングで、前記第2気液分離手段に保持されている濃縮液が所定量となるまで濃縮液を缶出させるように制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶液処理装置。
【請求項4】
前記接液箇所は、耐付着性材料により被覆された状態、または、表面粗さが1μm以下の状態であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶液処理装置。
【請求項5】
有機溶媒と不揮発性成分とを含む被処理液から、留出蒸気として有機溶媒を分離する溶液処理方法であって、
被処理液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第1気液分離工程と、
前記第1気液分離工程で缶出された濃縮液を加熱し、蒸気を留出させるとともに、保持する濃縮液の一部を缶出させる第2気液分離工程と、を含み、
前記第1気液分離工程において、被処理液に含まれる不揮発性成分が析出しないように制御し、
前記第2気液分離工程において、濃縮液を加熱する箇所であるとともに濃縮液に接する接液箇所が、不揮発性成分に対して耐付着性を呈し、
前記第1気液分離工程における留出率を、被処理液に含まれる不揮発性成分の析出が始まる留出率よりも低い留出率とし、
前記第2気液分離工程における制御は、限界濃縮液温度、又は、前記第2気液分離工程において保持されている濃縮液の液面の変化速度、に基づき行い、前記した析出が始まる留出率よりも最終的な留出率を高めることを特徴とする溶液処理方法。
【請求項6】
前記第2気液分離工程において、濃縮液の流速を、析出した不揮発性成分を堆積させない流速とすることを特徴とする請求項5に記載の溶液処理方法。
【請求項7】
前記第2気液分離工程において、保持されている濃縮液の液温が所定の温度に達したタイミング、および、保持されている濃縮液の量が所定の量に達したタイミング、の少なくとも1つを満たしたタイミングで、保持されている濃縮液が所定量となるまで濃縮液を缶出させることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の溶液処理方法。
【請求項8】
前記接液箇所は、耐付着性材料により被覆された状態、または、表面粗さが1μm以下の状態であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の溶液処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-10 
出願番号 特願2019-509001(P2019-509001)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (B01D)
P 1 651・ 121- YAA (B01D)
P 1 651・ 537- YAA (B01D)
P 1 651・ 851- YAA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菊地 寛  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
村岡 一磨
登録日 2019-04-19 
登録番号 特許第6514426号(P6514426)
権利者 リファインホールディングス株式会社 パナソニック株式会社
発明の名称 溶液処理装置および溶液処理方法  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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