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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08G |
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管理番号 | 1370013 |
異議申立番号 | 異議2019-700990 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-05 |
確定日 | 2020-12-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6526943号発明「熱安定性に優れたポリカーボネートジオールおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6526943号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6526943号の請求項1?4、6に係る特許を維持する。 特許第6526943号の請求項5に係る異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6526943号は平成26年3月24日(優先権主張 平成25年3月27日)に出願され、令和元年5月17日に特許権の設定登録がなされ、同年6月5日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?6に係る特許に対して、同年12月5日に特許異議申立人 小林武(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。 令和2年2月10日付け:取消理由の通知 同年5月14日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 同年7月28日 :意見書の提出(申立人) 第2 訂正の可否 1 訂正の内容 令和2年5月14日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。 訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1の 「前記ポリカーボネートジオールが原料モノマーとしてジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物とを用いて、エステル交換触媒の存在下、エステル交換反応により得られたものであり、」を、 「前記ポリカーボネートジオールが原料モノマーとしてジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物とを用いて、エステル交換触媒の存在下、エステル交換反応により得られたものであり、 前記ジヒドロキシ化合物は、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物からなり、 【化1】 (上記式(A)において、nは0または1、R_(1)およびR_(2)はそれぞれ独立に炭素数1?15のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基およびアルコキシ基よりなる群から選ばれる基であり、前記炭素数の範囲で、酸素原子、硫黄原子、窒素原子若しくはハロゲン原子またはこれらを含む置換基を有していてよい。Xはヘテロ原子を含有してもよい炭素数1?15の2価の基を表す。) 【化2】 (前記式(B)において、前記式(B)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。)」に訂正する。 訂正事項2:特許請求の範囲の請求項1の 「リン酸及び/又は亜リン酸を含有し、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上50モル倍以下であり、」を 「リン酸及び/又は亜リン酸を含有し、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上2.0モル倍以下であり、」に訂正する。 訂正事項3:特許請求の範囲の請求項5を削除する。 訂正事項4:特許請求の範囲の請求項6の 「前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(A)で表される化合物、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、イソソルビドからなる群より選ばれた少なくとも1種のジヒドロキシ化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール生成物。」を、 「前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(A)で表される化合物、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、及びイソソルビド、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール生成物。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る「ジヒドロキシ化合物」に関し、その選択肢を訂正前の請求項5に規定されたものにのみ限定し、他のジヒドロキシ化合物を排除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る、「エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対」する、「リン原子換算」の「リン酸と亜リン酸の合計含有量」の上限を、【0034】の「本発明のポリカーボネートジオールはリン酸及び/又は亜リン酸を含有する。具体的には、前記ポリカーボネートジオール中の…長周期型周期表第2族元素の合計含有量に対して、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、0.1モル倍以上50モル倍以下である。…上限は…特に好ましくは2モル倍…である。」との記載に基づき、「50モル倍」から「2.0モル倍」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 訂正事項4は、訂正前の請求項6に係る「ジヒドロキシ化合物」に関し、他のジヒドロキシ化合物を排除するように限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の各規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件訂正後の請求項1?6に係る発明 本件訂正により訂正された訂正請求項1?6に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明6」といい、まとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 含有するポリカーボネートジオールの数平均分子量が250以上5500以下であり、 前記ポリカーボネートジオールが原料モノマーとしてジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物とを用いて、エステル交換触媒の存在下、エステル交換反応により得られたものであり、 前記ジヒドロキシ化合物は、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物からなり、 【化1】 (上記式(A)において、nは0または1、R_(1)およびR_(2)はそれぞれ独立に炭素数1?15のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基およびアルコキシ基よりなる群から選ばれる基であり、前記炭素数の範囲で、酸素原子、硫黄原子、窒素原子若しくはハロゲン原子またはこれらを含む置換基を有していてよい。Xはヘテロ原子を含有してもよい炭素数1?15の2価の基を表す。) 【化2】 (前記式(B)において、前記式(B)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。) リン酸及び/又は亜リン酸を含有し、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上2.0モル倍以下であり、 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素が、長周期型周期表第2族元素及び長周期型周期表第4族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含み、 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量が0.1ppm以上100ppm以下であり、 積分球式濁度計にて測定した濁度が2.0ppm以下であり、 160℃で4時間加熱後のJIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、45以下であることを特徴とするポリカーボネートジオール生成物。 【請求項2】 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素が、マグネシウム及び/又はチタンを含む請求項1に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【請求項3】 前記カーボネート化合物がジアリールカーボネートであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【請求項4】 JIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、60以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(A)で表される化合物、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、及びイソソルビド、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【化3】 (上記式(A)において、nは0または1、R_(1)およびR_(2)はそれぞれ独立に炭素数1?15のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基およびアルコキシ基よりなる群から選ばれる基であり、前記炭素数の範囲で、酸素原子、硫黄原子、窒素原子若しくはハロゲン原子またはこれらを含む置換基を有していてよい。Xはヘテロ原子を含有してもよい炭素数1?15の2価の基を表す。)」 第4 取消理由通知について 1 取消理由通知の概要 当審は、令和2年2月10日付け取消理由通知において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。 「A (新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 B (実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 C (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 D (明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 … 2 理由Aについて ・本件発明1、2、4?6 ・引用例1:特開2005-54034号公報(甲第1号証) … 3 理由Cについて … そうすると、本件発明は、少なくとも「PCD-D」を用いた系において、どのようにすれば本件発明の課題を解決できるのか理解できない。 したがって、本件発明は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件発明1?6に係る特許は取り消すべきものである。 4 理由B、Cについて (1)… これらのデータに鑑みると、エステル交換触媒の金属種や金属元素量により、得られるポリカーボネートジオール生成物の濁度の値は変化しており、また、それらの間に何らかの相関性が見いだせるものとはいえない。 そして、これらのデータのみならず、本件明細書のいかなる記載を参照しても、エステル交換触媒と金属元素量において本件発明の規定を満たすものであっても、また、「長周期型周期表第2族元素」をエステル交換触媒に用いたものであっても、本件発明の濁度はどのようにすれば調整しうるのか見当が付かない。 したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?6は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件発明1?6に係る特許は取り消すべきものである。 更に、本件発明の詳細な説明は、本件発明1の「積分球式濁度計にて測定した濁度が2.0ppm以下」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本件発明1?6に係る特許は取り消すべきものである。 (2)… このため、本件発明1及び4に規定される「ハーゼン色数」は、どのようにすれば調整しうるのか見当が付かない。 したがって、本件発明1、4及びこれを引用する本件発明2、3、5、6は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件発明1?6に係る特許は取り消すべきものである。 また、本件発明の詳細な説明は、本件発明1の「160℃で4時間加熱後のJIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、45以下」、及び、本件発明4の「JIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、60以下」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本件発明1?6に係る特許は取り消すべきものである。 5 理由Dについて … このため、「式(B)で表される化合物」とは何であるか、この規定からは明らかでない。 したがって、本件発明5は明確ではない。」 2 「2 理由Aについて」で示した取消理由 (1)引用例1の記載事項 「【実施例】 … <参考例1> 【0023】 電磁攪拌装置を備えた内容積5Lの反応容器に、ジエチルカーボネート1807g(15.3mol)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール1776g(15.0mol)、1,6-ヘキサンジオール197g(1.7mol)およびテトライソプロピルチタネート0.14g(0.49mmol)を入れ、常圧、窒素雰囲気下において徐々に200℃まで加熱し、副生するエタノールを系外に留去しながら20時間反応を行なった。ついで、放冷後、0.4kPa下で再び200℃まで加熱し、適宜サンプリングして生成したポリカーボネートポリオールの水酸基価を測定しながら、反応容器内のジオール成分を留去することにより、数平均分子量1990のポリカーボネートジオール2580gを得た。得られたポリカーボネートジオールのチタン原子含有量は9ppmであった。また、該ポリカーボネートジオールのヘイズは0.7%であった。 <実施例1> 【0024】 内容積1Lのセパラブルフラスコに、参考例1で得られたポリカーボネートジオール500gおよび亜リン酸ジドデシル250mg(0.6mmol)を入れ、100℃で1時間攪拌することによりポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物A」と称する。)を得た。得られたポリオール組成物Aのヘイズ、反応速度定数および増粘時間に関するデータを表1に示す。 <実施例2> 【0025】 内容積1Lのセパラブルフラスコに、参考例1で得られたポリカーボネートジオール500gおよび85%リン酸11mg(0.095mmol)を入れ、100℃で1時間攪拌した。次いで、亜リン酸ジドデシル250mg(0.6mmol)を加え、100℃でさらに1時間攪拌し、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物B」と称する。)を得た。得られたポリオール組成物Bのヘイズ、反応速度定数および増粘時間に関するデータを表1に示す。 <実施例3> 【0026】 内容積1Lのセパラブルフラスコに、参考例1で得られたポリカーボネートジオール500gを取り、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)50mg(0.16mmol)を加え、100℃で1時間攪拌した。次いで、亜リン酸ジドデシル250mg(0.6mmol)を加え、さらに100℃で1時間攪拌し、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物C」と称する。)を得た。得られたポリオール組成物Cのヘイズ、反応速度定数および増粘時間に関するデータを表1に示す。 <比較例1> 【0027】 亜リン酸ジドデシル250mg(0.6mmol)の代わりに水10g(0.5mol)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行ない、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物D」と称する。)を得た。得られたポリオール組成物Dのヘイズ、反応速度定数および増粘時間に関するデータを表1に示す。 <比較例2> 【0028】 85%リン酸11mg(0.095mmol)の代わりに水10g(0.5mol)を使用する以外は、実施例2と同様の操作を行ない、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物E」と称する。)を得た。得られたポリオール組成物Eのヘイズ、反応速度定数および増粘時間に関するデータを表1に示す。 <比較例3> 【0029】 亜リン酸ジドデシル250mg(0.6mmol)の代わりに85%リン酸を11mg(0.095mmol)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行ない、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物F」と称する。)を得た。得られたポリオール組成物Fのヘイズ、反応速度定数および増粘時間に関するデータを表1に示す。 <比較例4> 【0030】 亜リン酸ジドデシル250mg(0.6mmol)の代わりにリン酸ジ2-エチルヘキシルを50mg(0.16mmol)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行ない、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物G」と称する。)を得た。得られたポリオール組成物Gのヘイズ、反応速度定数および増粘時間に関するデータを表1に示す。 【0031】 」 (2)引用例1に記載された発明 上記【0023】から、引用例1に記載されたポリカーボネートジオールは、数平均分子量1990であり、エステル交換触媒であるテトライソプロピルチタネート由来と解されるチタン原子含有量は9ppmである。 上記【0029】で示される、比較例3におけるポリカーボネートジオール500gは、上記【0023】から、そのチタン原子含有量が9ppmであると解され、そうすると、該ポリカーボネートジオールには、チタン原子が0.094mmol(=500×9×10-6/47.867)含まれることとなる。これに対しリン酸(リン原子は1個存在)は0.095mmol使用されるのであるから、比較例3におけるリン酸の含有量は、リン原子換算でエステル交換触媒に由来するチタン原子含有量に対して1.01モル倍となる。 そして、本件訂正発明1は「ポリカーボネートジオール生成物」と規定されているが、本件明細書【0061】の記載をみると、これと引用例1に記載された「ポリカーボネートジオール」との間に差異はない。 そうすると、引用例1比較例3から、引用例1には、以下の「引用発明」が記載されていると認められる。 「含有するポリカーボネートジオールの数平均分子量が1990であり、 前記ポリカーボネートジオールが原料モノマーとして3-メチル-1,5-ペンタンジオール並びに1,6-ヘキサンジオールとジエチルカーボネートとを用いて、エステル交換触媒であるテトライソプロピルチタネートの存在下、エステル交換反応により得られたものであり、 リン酸を含有し、その含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来するチタン原子含有量に対して1.01モル倍であり、 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素の含有量が9ppmであり、 ヘイズが0.8%であることを特徴とするポリカーボネートジオール生成物。」 (3)対比及び判断 ア 本件訂正発明1 本件訂正発明1と引用発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致する。 相違点1:含有するポリカーボネートジオールの原料モノマーとしてのジヒドロキシ化合物において、本件訂正発明1は「下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物(決定注:式(A)及び(B)は上記第3参照。以下同様。)から」なるのに対し、引用発明は「3-メチル-1,5-ペンタンジオール並びに1,6-ヘキサンジオール」である点。 相違点2:本件訂正発明1は「積分球式濁度計にて測定した濁度が2.0ppm以下」であるのに対し、引用発明は濁度の記載はなく「ヘイズが0.8%」である点。 相違点3:本件訂正発明1は「160℃で4時間加熱後のJIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、45以下」であるのに対し、引用発明ではそのような特定はされていない点。 相違点1について検討する。 引用発明の「1,6-ヘキサンジオール」は本件訂正発明1の「直鎖状の末端ジオール類」に相当するが、「3-メチル-1,5-ペンタンジオール」は本件訂正発明1の「下記式(A)で表される化合物」、「下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物」、及び「直鎖状の末端ジオール類」のいずれにも相当しない。そうすると、引用発明は、含有するポリカーボネートジオールの原料モノマーとしてのジヒドロキシ化合物において、「下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物から」なるものとはいえず、相違点1は実質的な相違点である。 このため、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は引用例1に記載された発明であるとはいえない。 イ 本件訂正発明2、4、6について 本件訂正発明2、4、6は、本件訂正発明1を更に限定するものである。 したがって、本件訂正発明1が引用例1に記載された発明であるとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明2、4、6も引用例1に記載された発明であるとはいえない。 (4)まとめ よって、本件訂正発明1、2、4、6に関する上記取消理由Aには、理由がない。 3 「3 理由Cについて」で示した取消理由 本件明細書【0060】には以下の記載がある。 「リン酸及び/又は亜リン酸の添加量…。前記範囲内であることにより、エステル交換触媒を効率よく失活させることが可能となる。そのため、エステル交換反応後に残存モノマー類の除去や分子量調整を行う場合において、加熱による着色や分子量等の変化がなく、品質の安定したポリカーボネートジオールを製造することが可能となる。」 NPC(ネオペンチルカーボネート:本件明細書【0074】参照)は、本件訂正発明の「ジヒドロキシ化合物」の「式(A)で表される化合物」に相当するネオペンチルグリコールの環状カーボネートエステルであり、上記【0060】における「残存モノマー類」に相当するといえる。 本件訂正発明は、「リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上2.0モル倍以下」のものとなった。 そうすると、本件明細書【表6】の実施例18は本件訂正発明の実施例とはいえず、本件訂正発明の「リン酸と亜リン酸の合計含有量」の規定を満たす「PCD-D」を用いた実施例のうち、「NPC濃度」において最も高い値をとる実施例15を、比較例12や本件訂正発明の範囲外となった実施例18と対比すると、本件訂正発明は明らかに「NPC濃度」が抑えられている。そして、上記【0060】の記載事項を参酌すると、「エステル交換触媒を効率よく失活させることが可能となる」と解され、「エステル交換反応後に残存モノマー類の除去や分子量調整を行う場合において、加熱による着色や分子量等の変化がなく、品質の安定したポリカーボネートジオールを製造することが可能となる」といえる。 このため、「PCD-D」を用いた系においても、本件訂正発明の「熱安定性に優れたポリカーボネートジオール」、「加熱による分子量上昇や組成変化、着色が少なくかつ透明性の高いポリカーボネートジオール」(【0001】)を提供することという課題を解決するものといえる。 よって、本件訂正発明は、本件発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件訂正発明に関する上記取消理由Cには、理由がない。 4 「4 理由B、Cについて」で示した取消理由 (1)本件訂正発明は、上記第3に記載されたとおりである。すなわち、「含有するポリカーボネートジオールの数平均分子量が250以上5500以下」であり、「前記ポリカーボネートジオールが原料モノマーとしてジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物とを用いて、エステル交換触媒の存在下、エステル交換反応により得られたもの」であり、「前記ジヒドロキシ化合物は、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物から」なるものであり、「リン酸及び/又は亜リン酸を含有し、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上2.0モル倍以下」であり、「ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素が、長周期型周期表第2族元素及び長周期型周期表第4族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含(む)」ものであり、「ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量が0.1ppm以上100ppm以下」である。 (2)そして、本件明細書実施例には、特に、「ジヒドロキシ化合物」として、「1,6-ヘキサンジオール」と「イソソルビド」、「1,6-ヘキサンジオール」と「ネオペンチルグリコール」、「1,4-ブタンジオール」と「イソソルビド」、「1,4-ブタンジオール」と「1,10-デカンジオール」という、各種「下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物」からなるものを用いて、「リン酸及び/又は亜リン酸を含有し、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上2.0モル倍以下」とした各種「ポリカーボネートジオール生成物」が記載されており、更に発明の詳細な説明には、 「本発明のポリカーボネートジオールはリン酸及び/又は亜リン酸を含有する。具体的には、前記ポリカーボネートジオール中の長周期型周期表第1族元素(水素を除く)及び長周期型周期表第2族元素の合計含有量に対して、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、0.1モル倍以上50モル倍以下である。…上限は…特に好ましくは2モル倍…である。リン酸と亜リン酸の合計含有量が少ないとポリカーボネートジオールを加熱すると、色調が悪化し、ポリカーボネートジオールの分子量上昇、組成変化が起こる場合がある。またリン酸と亜リン酸の合計含有量が多いと、該ポリカーボネートジオールを原料としてポリウレタンとしたときに、ポリウレタンが加水分解しやすく、更に、リン酸や亜リン酸がブリードアウトする可能性がある。 リン酸及び/又は亜リン酸を含有することで、加熱による分子量上昇や組成変化、色調悪化の少ないポリカーボネートジオールが得られる。中でもポリカーボネートジオールの色調悪化抑制、ポリウレタン化の際の反応性や色調への影響が少ない等の観点からリン酸がより好ましい。」(【0034】?【0035】)、 「濁りは主に、触媒成分の凝集・析出、添加剤の凝集・析出、溶解度の低い環状オリゴマー等の生成が原因と考えられ、濁度を2.0ppm以下にするためには、ポリカーボネートジオール製造時の触媒、添加剤の種類や量の選択、熱履歴、重合中および重合終了後のモノヒドロキシ化合物の濃度や未反応モノマーの濃度を総合的に制御する必要がある。例えば、触媒自体のポリカーボネートジオールへの溶解度が低いと触媒の析出が起こり易くなり、濃度が高いと析出を助長する。一方、溶解度に劣る環状オリゴマーの生成を抑制するためには、モノマーであるジヒドロキシ化合物の選択や組合せも重要である。例えば、ホモポリマーの場合、環状オリゴマーが生成しやすい傾向にあるが、共重合にすることにより、安定な環状構造を取り難くなり、濁度が下がる傾向にある。」(【0037】)、 「ポリカーボネートジオール中には、製造時の原料として使用したカーボネート化合物が残存することがある。…ポリカーボネートジオールのカーボネート化合物含有量が多すぎるとポリウレタン化の際の反応を阻害する場合がある。」(【0040】)、 「ポリカーボネートジオールには、製造時に使用したジヒドロキシ化合物が残存する場合がある。…ポリカーボネートジオール中のジヒドロキシ化合物の残存量が多いと、ポリウレタンとした際のソフトセグメント部位の分子長が不足し、所望の物性が得られない場合がある。」(【0041】)、 「ポリカーボネートジオール中には、製造の際に副生した環状のカーボネート(環状オリゴマー)を含有する場合がある。例えば前記式(A)で表される化合物として2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを用いた場合、2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オンもしくはさらにこれらが2分子ないしそれ以上で環状カーボネートとなったものなどが生成してポリカーボネートジオール中に含まれる場合がある。これらの化合物は、ポリウレタン化反応においては副反応をもたらす可能性があり、また濁りの原因となるため、ポリカーボネートジオールの重合反応の圧力を絶対圧力として1kPa以下の高真空にしたり、ポリカーボネートジオールの合成後に薄膜蒸留等を行ったりしてできる限り除去しておくことが好ましい。」(【0042】)と記載されており、上記(1)に規定される構成を有するものが、「熱安定性に優れたポリカーボネートジオール」、「加熱による分子量上昇や組成変化、着色が少ないポリカーボネートジオール」(【0001】)を提供するものと理解することができる。 (3)このため、本件訂正発明は、本件発明の詳細な説明に記載したものといえる。そして、本件訂正発明の「濁度」や「ハーゼン色数」は、本件明細書や実施例を参照することで、各々調整できることが理解でき、本件発明の詳細な説明は、本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。 (4)申立人は、平成2年7月28日提出の意見書において、以下のとおり主張する。 「高い透明性が達成されていると解する余地があるものは、濁度2.0ppm以下であることが明記されている合成例1?8のみである。その金属含有量は1.65?3.35ppmというごく限られた範囲にすぎず。また、使用されている触媒はいずれも酢酸マグネシウムの1種のみである。 しかしながら、合成例1?4,6,8においては、「エステル交換触媒に対して特定量のリン酸及び/又は亜リン酸を含有すること」という要件は満たさないものであり、合成例5,7は、当該要件を満たすものであるが、それらの濁度に大きな違いは認められず、「エステル交換触媒に対して特定量のリン酸及び/又は亜リン酸を含有すること」と濁度(透明性)との間に関連性は認められない。」 しかし、「エステル交換触媒に対して特定量のリン酸及び/又は亜リン酸を含有する」ポリカーボネートジオールが「濁度2.0ppm以下」という規定を満たさないということではないので、合成例1?4,6,8が本件訂正発明の「エステル交換触媒に対して特定量のリン酸及び/又は亜リン酸を含有すること」という要件を否定するものではない。 また、金属含有量にしても、「100ppm」のものにおいて、高い透明性を有しないものとなり得るものがあることは本件明細書の記載や本件出願時の技術常識からうかがい知ることはできず、申立人もそれを示さない。 そうであれば、本件訂正発明の「濁度」の規定は、上記(3)と同様、本件発明の詳細な説明に記載したものといえ、本件明細書や実施例を参照することで、各々調整できることが理解できるといえる。 (5)また申立人は、同意見書において、下記の甲各号証と共に、以下のとおり主張する。 甲第6号証:特開平6-100680号公報 甲第7号証:特開2004-124067号公報 甲第8号証:特開2004-339511号公報 甲第9号証:特開2005-179828号公報 甲第10号証:特表2005-533645号公報 甲第11号証:特開2008-111088号公報 (以下、甲第6?11号証を「甲6」?「甲11」という。) 「エステル交換反応触媒を用いてポリエステルを製造する技術分野においては、チタン系触媒を用いた場合に得られるポリエステルが着色しやすいというのが周知である。 … 以上のとおり、少なくとも触媒種によって着色が生じることは広く知られた課題であり、本件発明においても触媒種の違いでハーゼン色数が異なることは、当業者であれば十分に想定し得る。」 しかし、甲8を除きポリエステルを製造する技術分野に関するものであり、また甲8においては、本件訂正発明のような「長周期型周期表第4族元素」を含むエステル交換触媒を用いても「オリゴカーボネートポリオール」の着色を防ぐことが可能であることを示すものではなく、これら甲各号証の知見を本件訂正発明に係るポリカーボネートジオールを製造する技術分野にそのまま当てはまるものと解しうる根拠を本件出願時の技術常識からうかがい知ることはできず、申立人もそれを示さない。 加えて同意見書において追試験を行った旨主張するが、この追試験が本件訂正発明を忠実に実施したものであることを証明することができず、申立人もそれを示さない。 したがって、これらの主張を勘案することはできない。 そうであれば、本件訂正発明の「ハーゼン色数」の規定は、上記(3)と同様、本件発明の詳細な説明に記載したものといえ、本件明細書や実施例を参照することで、各々調整できることが理解できるといえる。 (6)よって、本件訂正発明に関する上記取消理由B、Cには、理由がない。 5 「5 理由Dについて」で示した取消理由 本件訂正前の請求項5の「式(B)で表される化合物」との規定は、本件訂正後の請求項1において「式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物」となった。 そうであれば、式(B)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く、式(B)で表されるオキシメチレン単位を有するジヒドロキシ化合物として明確なものとなったといえる。 よって、本件訂正発明は明確であるから、本件訂正発明に関する上記取消理由Dには、理由がない。 第5 異議申立ての理由についての検討 1 申立人の異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 甲第1号証:特開2005-54034号公報 甲第2号証:特開2001-270938号公報 甲第3号証:特開2013-10948号公報 甲第4号証:特開2013-10950号公報 甲第5号証:国際公開第2011/074617号 (以下、甲第1?5号証を「甲1」?「甲5」という。) ・申立ての理由1 本件発明1?6は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件発明1?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由2 本件発明1?6は、甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された周知の技術的事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件発明1?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由3 本件発明1?6は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件発明1?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由4 本件発明1?6は、甲3に記載された発明及び甲1、4、5に記載された周知の技術的事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件発明1?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由5 本件発明1?6は発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。 よって、本件発明1?6に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由6 本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。 よって、本件発明1?6に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由7 本件特許請求の範囲に記載された発明は、特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。 よって、本件発明1?6に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立ての理由1、2について (1)本件訂正発明1、2、4、6については、上記第4 2で検討したとおりである。本件訂正発明3は、本件訂正発明1を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1が甲1に記載された発明であるとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明3も甲1に記載された発明であるとはいえない。 よって、申立ての理由1には理由がない。 (2)第4 2(3)アに示した相違点について検討する。 引用例1すなわち甲1には、ポリカーボネートジオールの原料モノマーとしてのジヒドロキシ化合物として「エチレングリコール、…1,3-プロパンジオール、…1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、…1,5-ペンタンジオール、…1,6-ヘキサンジオール、…1,9-ノナンジオール、…1,10-デカンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール…;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコール」(【0009】)といった、本件訂正発明1の「下記式(A)で表される化合物」、「下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物」、及び「直鎖状の末端ジオール類」の例示はあるものの、「下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物」からなるものとすることを容易に想到させる根拠は、甲1のみならずその余の甲各号証並びに本件出願前の技術常識からは見いだすことができない。 このため、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された周知の技術的事項から容易になしえたものということはできない。 そして、本件訂正発明2?4、6は、本件訂正発明1を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1が甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された周知の技術的事項から容易になしえたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明2?4、6も甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された周知の技術的事項から容易になしえたものとはいえない。 よって、申立ての理由2には理由がない。 3 申立ての理由3、4について (1)甲3の記載事項 ア 「【請求項1】 下記式(A)で表される繰り返し単位を有し、且つ水酸基価が10mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であるポリカーボネートポリオールの製造方法であって、 ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを、触媒の存在下でエステル交換反応により重縮合反応する工程を含み、 エステル交換反応によって副生するモノヒドロキシ化合物を留出する反応器の少なくとも1つが、熱媒体を用いて反応器を加熱するための加熱手段および還流冷却器を具備した内容積20L以上の反応器であり、該熱媒体の温度と該反応器中の反応液の温度差が少なくとも5℃以上であり、且つ全反応段階で留出するモノマーの合計量が、原料モノマーの総量に対して15重量%以下である、ポリカーボネートポリオールの製造方法。 【化1】 (前記式(A)において、Xはヘテロ原子を含有してもよい炭素数1?20の2価の基を表す。) 【請求項2】 前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、および下記式(C)で表されるジヒドロキシ化合物から選ばれる少なくとも1つのジヒドロキシ化合物を含有する、請求項1に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 【化2】 (前記式(B)において、前記式(B)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。) 【化3】 (前記式(C)において、mは0または1である。R^(1)およびR^(2)はそれぞれ独立に炭素数1?15の、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基およびアルコキシ基よりなる群から選ばれる基であり、前記炭素数の範囲で、酸素原子、硫黄原子、窒素原子若しくはハロゲン原子またはこれらを含む置換基を有していてもよい。Yはヘテロ原子を含有してもよい炭素数1?20の2価の基を表す。) … 【請求項5】 前記触媒として、周期表第2族金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を有する化合物を、その全金属原子の合計量として、原料として用いた全ジヒドロキシ化合物1molあたり5μmol以上500μmol以下用いる、請求項1から請求項4の何れか1項に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 【請求項6】 前記触媒が、マグネシウム化合物およびカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物である、請求項5に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 【請求項7】 前記炭酸ジエステルが、ジアリールカーボネートである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 … 【請求項11】 前記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(D)で表されるジヒドロキシ化合物である、請求項2から請求項10のいずれか1項に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 【化4】 【請求項12】 前記ジヒドロキシ化合物が、脂肪族ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物を含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 【請求項13】 得られるポリカーボネートポリオールの数平均分子量が、250以上5000以下である、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 【請求項14】 得られるポリカーボネートポリオールの、JIS-K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、100以下である、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。 【請求項15】 得られるポリカーボネートポリオールの、塩化メチレンで50%濃度に希釈した場合の濁度が、1.0ppm以下である、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のポリカーボネートポリオールの製造方法。」 イ 「【0099】 <APHA値> 本発明に係るポリカーボネートポリオールの色は、得られるポリウレタンの色目に影響を与えない範囲が好ましく、着色の程度をハーゼン色数(JIS K0071-1(1998)に準拠)で表した場合の値(以下「APHA値」と表記する。)は特に限定されないが、100以下が好ましく、より好ましくは80以下、さらに好ましくは50以下である。 【0100】 <濁度> 本発明のポリカーボネートポリオールの濁度は、三菱化学株式会社製積分球式濁度計PT-200にて、10mmのセルにポリカーボネートポリオールの50%塩化メチレン溶液を入れ、予め装置に設定されているポリスチレン検量線を使用して測定された値として、2.0ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0ppm以下、特に好ましくは0.5ppm以下である。濁度が2.0ppmより大きいと、ポリカーボネートポリオールを原料として得られるポリウレタンの透明性悪化を招いて商品価値を低下させたり、機械的物性を低下させたりすることがある。濁りは主に、触媒成分の失活・析出、溶解度の低い環状オリゴマー等の生成が原因と考えられ、濁度を低くするためには、ポリカーボネートポリオール製造時の触媒の種類や量の選択、熱履歴、重合中および重合終了後のモノヒドロキシ化合物の濃度や未反応モノマーの濃度を総合的に制御する必要がある。例えば、触媒自体のポリカーボネートジオールへの溶解度が低いと触媒の析出が起こり易くなり、濃度が高いと析出を助長する。一方、溶解度に劣る環状オリゴマーの生成を抑制するためには、モノマーであるジヒドロキシ化合物の選択や組合せも重要である。例えば、ホモポリマーの場合、環状オリゴマーが生成しやすい傾向にあるが、共重合にすることにより、安定な環状構造を取り難くなり、濁度が下がる傾向にある。また、ポリカーボネートポリオール製造時の温度が高いと、熱力学的に環状オリゴマーが生成し易くなるため、重合温度を低下させることは有効である。但し、低下させすぎると生産性に支障が出たり、過度に時間がかかって、色調の悪化を招いたり、濁度の悪化を招いたりするので好ましくない。」 ウ 「【0105】 ・エステル交換触媒 本発明のポリカーボネートポリオールを製造する場合には、後述するように、重合を促進するために必要に応じてエステル交換触媒を用いることが可能である。その場合、得られたポリカーボネートポリオール中にその触媒が残存することがあるが、過度に多くの触媒が残存するとポリウレタン化反応の際に反応の制御が困難となり、ポリウレタン化反応を想定以上に促進してゲル化してしまい、均一なポリウレタンが得られない場合があり、残存しない方が好ましい。 【0106】 ポリカーボネートポリオール中に残存する触媒量の上限は、特に限定されないが、このポリカーボネートポリオールから均質なポリウレタンを得る観点から、触媒金属換算の含有量として通常100重量ppmであり、好ましくは50重量ppm、より好ましくは30重量ppmであり、特に好ましくは10重量ppmである。残存する金属の種類としては、後述のエステル交換能を有する触媒活性成分の金属が挙げられる。 【0107】 また、ポリカーボネートポリオール中に残存する触媒量の下限は、特に限定されないが、触媒金属換算の含有量として通常0.01重量ppm、好ましくは0.1重量ppm、より好ましくは1重量ppmであり、特に好ましくは5重量ppmである。通常、ポリカーボネートポリオールを製造する際に使用した触媒を、製造後に除去することが難しく、残存する触媒量を後述する使用量の下限値未満にすることが困難な場合が多い。」 エ 「【0128】 前述の如く、重合反応の際に触媒を用いた場合、通常得られたポリカーボネートポリオールには触媒が残存し、金属触媒の残存で、ポリウレタン化反応を行う際に反応の制御ができなくなる場合がある。この残存触媒の影響を抑制するために、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルの例えばリン系化合物を添加してもよい。さらには添加後、後述のように加熱処理すると、エステル交換触媒を効率的に不活性化することができる。 【0129】 エステル交換触媒の不活性化に使用されるリン系化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸等の無機リン酸や、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリフェニル等の有機リン酸エステル等が挙げられる。 これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 前記リン系化合物の使用量は、特に限定はされないが、前述したように、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルであればよく、具体的には、使用されたエステル交換触媒1モルに対して上限が好ましくは5モル、より好ましくは2モルであり、下限が好ましくは0.8モル、より好ましくは1.0モルである。これより少ない量のリン系化合物を使用した場合は、前記反応生成物中のエステル交換触媒の失活が十分でなく、得られたポリカーボネートポリオールを例えばポリウレタン製造用原料として使用する時、該ポリカーボネートポリオールのイソシアネート基に対する反応性を十分に低下させることができない場合がある。また、この範囲を超えるリン系化合物を使用すると得られたポリカーボネートポリオールが着色してしまう可能性がある。」 オ 「【実施例】 【0194】 以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。 … 【0201】 <濁度> 三菱化学株式会社製積分球式濁度計PT-200にて、10mmのセルにポリカーボネートジオールの50%塩化メチレン溶液を入れ、予め装置に設定されているポリスチレン検量線を使用して測定した。 <触媒量> ポリカーボネートポリオール生成物を約0.1g測り取り、4mLのアセトニトリルに溶解した後、20mLの純水を加えてポリカーボネートポリオールを析出させ、析出したポリカーボネートポリオールをろ過にて除去した。そしてろ過後の溶液を純水で所定濃度まで希釈し、金属イオン濃度をイオンクロマトグラフィーで分析した。なお、溶媒として使用するアセトニトリルの金属イオン濃度をブランク値として測定し、溶媒分の金属イオン濃度を差し引いた値をポリカーボネートポリオールの触媒金属イオン濃度とした。測定条件は以下の表1に示す通りである。分析結果と予め作成した検量線を使用し、マグネシウム濃度を求めた。 … 【0205】 [実施例1] (第1段階の反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD、沸点253℃)12.13kg、イソソルビド(ISB)15.00kg、ジフェニルカーボネート32.87kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液11.0mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物2.2g)を入れ、窒素ガス置換した。… 【0206】 (第2段階の反応) …ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表2に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は30.44kg(収率97.8%)であった。 【0207】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明固体であり、分子量900、APHA50、全体比は16HD/ISB=50/50、ジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの含有量は2.15重量%、フェノール含有量は0.78重量%で、フェノキシド末端、イソソルビド骨格以外のエーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は2.5重量%であった。 【0208】 [実施例2] (第1段階の反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)12.33kg、イソソルビド(ISB)15.25kg、ジフェニルカーボネート32.43kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液2.2mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物0.44g)を入れ、窒素ガス置換した。… 【0209】 (第2段階の反応) …ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表2に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は30.4kg(収率96.3%)であった。 【0210】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明液体であり、分子量770、APHA50、全体比は16HD/ISB=50/50、ジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの含有量は4.17重量%、フェノール含有量は0.64重量%で、フェノキシド末端、イソソルビド骨格以外のエーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は4.4重量%であった。 【0211】 [実施例3] (第1段階の反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)14.52kg、イソソルビド(ISB)17.95kg、ジフェニルカーボネート37.53kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液5.3mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物1.06g)を入れ、窒素ガス置換した。… 【0212】 (第2段階の反応) …ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表2に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は35.6kg(収率96.2%)であった。 【0213】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明液体であり、分子量790、APHA40、全体比は16HD/ISB=52/48、ジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの含有量は7.35重量%、フェノール含有量は0.30重量%で、フェノキシド末端、イソソルビド骨格以外のエーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は4.0重量%であった。 【0214】 [実施例4] (反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)14.52kg、イソソルビド(ISB)17.95kg、ジフェニルカーボネート37.53kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液2.6mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物0.52g)を入れ、窒素ガス置換した。…ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表2に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は35.5kg(収率95.8%)であった。 【0215】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明液体であり、分子量770、APHA50、全体比は16HD/ISB=51/49、ジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの含有量は5.67重量%、フェノール含有量は0.65重量%で、フェノキシド末端、イソソルビド骨格以外のエーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は4.7重量%であった。 【0216】 [比較例1] (第1段階の反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)14.52kg、イソソルビド(ISB)17.95kg、ジフェニルカーボネート37.53kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液0.53mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物0.11g)を入れ、窒素ガス置換した。… 【0217】 (第2段階の反応) …ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表2に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は28.4kg(収率86.1%)であった。 【0218】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明液体であり、分子量890、APHA40、全体比は16HD/ISB=43/57、ジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの含有量は1.9重量%、フェノール含有量は0.12重量%で、フェノキシド末端、イソソルビド骨格以外のエーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は15.8重量%であった。 【0219】 [比較例2] (反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)14.52kg、イソソルビド(ISB)17.95kg、ジフェニルカーボネート37.53kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液5.3mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物1.06g)を入れ、窒素ガス置換した。…ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表2に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は36.6kg(収率98.8%)であった。 【0220】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明液体であり、分子量700、APHA300、全体比は16HD/ISB=53/47、ジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの含有量は6.0重量%、フェノール含有量は0.45重量%で、フェノキシド末端、イソソルビド骨格以外のエーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は0.4重量%であった。 【0221】 [比較例3] 熱媒体ジャケット、攪拌機、留出液トラップ、コールドトラップ、真空ポンプを備えた5Lガラス製セパラブルフラスコに1,6-ヘキサンジオール(16HD)707.3g、イソソルビド(ISB):777.7g、ジフェニルカーボネート:1843.4g、酢酸マグネシウム4水和物水溶液:13.2mL(濃度:8.4g/L、酢酸マグネシウム4水和物:111mg)を入れ、窒素ガス置換した。…ポリカーボネートポリールを得た。この結果を下記表2に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は1641.4g(収率96.5%)であった。 【0222】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明固体であり、分子量930、APHA60、全体比は16HD/ISB=53/47、ジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの含有量は3.78重量%、フェノール含有量は1.14重量%で、フェノキシド末端、イソソルビド骨格以外のエーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は4.8重量%であった。 実施例1?4および比較例1?3の反応結果を表2にまとめて示す。 【0223】 [実施例5] (第1段階の反応) 原料に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)11.92kg、ネオペンチルグリコール(NPG、沸点210℃)15.76kg、ジフェニルカーボネート42.32kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液13.5mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物2.7g)を使用し、内温105℃にて内容物がほぼ完全に溶解したのを確認してから攪拌を開始した以外は実施例1と同様な方法にて反応を行った。その際の重合反応槽の熱媒体オイルの温度は141?147℃であった。 【0224】 (第2段階の反応) 実施例1と同様な方法にて反応を行った。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は31.7kg(収率96.6%)であった。この結果を下記表3に示す。 【0225】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量810、APHA30、全体比は16HD/NPG=43/57、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は2.15重量%、副生物のネオペンチルカーボネートの含有量は1.79重量%、フェノール含有量は1.79重量%で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は7.6重量%であった。 【0226】 [実施例6] (第1段階の反応) 原料に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)11.92kg、ネオペンチルグリコール(NPG)15.76kg、ジフェニルカーボネート42.32kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液13.5mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物2.7g)を使用し、内温105℃にて内容物がほぼ完全に溶解したのを確認してから攪拌を開始し、還流器に蒸気を流さなかった以外は実施例1と同様な方法にて反応を行った。その際の重合反応槽の熱媒体オイルの温度は136?146℃であった。 【0227】 (第2段階の反応) 実施例1と同様な方法にて反応を行った。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は31.2kg(収率95.1%)であった。この結果を下記表3に示す。 【0228】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量860、APHA20、全体比は16HD/NPG=44/56、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は0.99重量%、副生物のネオペンチルカーボネートの含有量は2.41重量%、フェノール含有量は0.62重量%で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は8.2重量%であった。 【0229】 [実施例7] (第1段階の反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)11.19kg、ネオペンチルグリコール(NPG)14.80kg、ジフェニルカーボネート44.01kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液2.5mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物0.50g)を入れ、窒素ガス置換した。… 【0230】 (第2段階の反応) …ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表3に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は27.9kg(収率89.0%)であった。 【0231】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量1960、APHA30、全体比は16HD/NPG=45/55、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は0.17重量%、副生物のネオペンチルカーボネート含有量は2.81重量%、フェノール含有量は0.09重量%で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は8.9重量%であった。 【0232】 [実施例8] (第1段階の反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)10.90kg、ネオペンチルグリコール(NPG)14.41kg、ジフェニルカーボネート44.69kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液2.5mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物0.50g)を入れ、窒素ガス置換した。… 【0233】 (第2段階の反応) …ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表3に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は28.9kg(収率94.0%)であった。 【0234】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量2010、APHA20、全体比は16HD/NPG=44/56、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は0.15重量%、副生物のネオペンチルカーボネート含有量は3.92重量%、フェノール含有量は0.24重量%で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は5.1重量%であった。 【0235】 [実施例9] (反応) 熱媒体ジャケット、攪拌機、還流器、コンデンサー、留出液タンク、コールドトラップ、真空ポンプを具備した180Lの重合反応槽に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)10.95kg、ネオペンチルグリコール(NPG)14.48kg、ジフェニルカーボネート44.56kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液5.0mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物1.00g)を入れ、窒素ガス置換した。…ポリカーボネートポリオールを得た。この結果を下記表3に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は27.7kg(収率89.8%)であった。 【0236】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量1930、APHA30、全体比は16HD/NPG=45/55、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は0.15重量%、副生物のネオペンチルカーボネート含有量は3.13重量%、フェノール含有量は0.05重量%で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は7.6重量%であった。 【0237】 [比較例4] (反応) 原料に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)11.31kg、ネオペンチルグリコール(NPG)14.95kg、ジフェニルカーボネート43.74kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液0.51mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物0.10g)を用い、内温110℃にて内容物がほぼ完全に溶解した以外は比較例1と同様な方法で反応を行った。その際の熱媒体温度、内温、結果を下記表3に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は25.5kg(収率80.8%)であった。 【0238】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量2830、APHA30、全体比は16HD/NPG=49/51、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は0.40重量%、副生物のネオペンチルカーボネート含有量は4.01重量%、フェノール含有量は0.32重量%で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は18.5重量%であった。 【0239】 [比較例5] (反応) 原料に、1,6-ヘキサンジオール(16HD)10.74kg、ネオペンチルグリコール(NPG)14.20kg、ジフェニルカーボネート45.06kg、酢酸マグネシウム4水和物水溶液4.9mL(濃度:200g/L、酢酸マグネシウム4水和物0.98g)を用い、内温110℃にて内容物がほぼ完全に溶解した以外は比較例2と同様な方法で反応を行った。この結果を下記表3に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は29.9kg(収率98.3%)であった。 【0240】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量2030、APHA250、全体比は16HD/NPG=42/58、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は0.16重量%、副生物のネオペンチルカーボネート含有量は2.91重量%、フェノール含有量は0.74重量%で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は0.6重量%であった。 【0241】 [比較例6] 熱媒体ジャケット、攪拌機、留出液トラップ、コールドトラップ、真空ポンプを備えた5Lガラス製セパラブルフラスコに1,6-ヘキサンジオール(16HD):424.4g、ネオペンチルグリコール(NPG):374.0g、ジフェニルカーボネート:1201.6g、酢酸マグネシウム4水和物水溶液:9.2mL(濃度:8.4g/L、酢酸マグネシウム4水和物:77.3mg)を入れ、窒素ガス置換した。…この結果を下記表3に示す。得られたポリカーボネートポリオール生成物の収量は819.4g(収率86.8%)であった。 【0242】 (反応結果) 得られたポリカーボネートポリオール生成物の性状は常温で透明粘性液体であり、分子量850、APHA20、全体比は16HD/NPG=55/45、ジヒドロキシ化合物であるネオペンチルグリコールの含有量は0.03重量%、副生物のネオペンチルカーボネート含有量は0.28重量%、フェノール含有量は0.01重量%以下で、フェノキシド末端、エーテル結合は検出されなかった。また、残存ジフェニルカーボネートは定量限界以下(0.01重量%以下)であった。留出したモノマー量は13.1重量%であった。 実施例5?9および比較例4?6の反応結果を表3にまとめて示す。 【0243】 【表2】 【0244】 【表3】 」 (2)甲3に記載された発明 実施例1?9には、数平均分子量770?2010であり、原料モノマーが、ジヒドロキシ化合物として1,6-ヘキサンジオールとイソソルビド、又は、1,6-ヘキサンジオールとネオペンチルグリコール、カーボネート化合物としてジフェニルカーボネート、エステル交換触媒として酢酸マグネシウムを用い、生成物中の金属元素が1.5?10.2ppm、積分球式濁度計にて測定した濁度が0.14?0.67ppmのポリカーボネート生成物が記載されている。 そうすると、甲3には、以下の「甲3発明」が記載されていると認められる。 「含有するポリカーボネートジオールの数平均分子量が770?2010であり、 前記ポリカーボネートジオールが原料モノマーとして1,6-ヘキサンジオールとイソソルビド、又は、1,6-ヘキサンジオールとネオペンチルグリコール、並びに、ジフェニルカーボネートとを用いて、エステル交換触媒である酢酸マグネシウムの存在下、エステル交換反応により得られたものであり、 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素が、マグネシウムを含み、 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素の含有量が1.5?10.2ppmであり、 積分球式濁度計にて測定した濁度が0.14?0.67ppmであることを特徴とするポリカーボネートジオール生成物。」 (3)対比及び判断 ア 本件訂正発明1 本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致する。 相違点4:本件訂正発明1は「リン酸及び/又は亜リン酸を含有し、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上2.0モル倍以下」であるのに対し、甲3発明ではそのような特定はされていない点。 相違点5:本件訂正発明1は「160℃で4時間加熱後のJIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、45以下」であるのに対し、甲3発明ではそのような特定はされていない点。 相違点4について検討する。 上記のとおり、本件訂正発明1と甲3発明とは、相違点4において相違する。このため、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明とはいえない。 そして、甲3には「重合反応の際に触媒を用いた場合、通常得られたポリカーボネートポリオールには触媒が残存し、金属触媒の残存で、ポリウレタン化反応を行う際に反応の制御ができなくなる場合がある。この残存触媒の影響を抑制するために、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルの例えばリン系化合物を添加してもよい。… エステル交換触媒の不活性化に使用されるリン系化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸等の無機リン酸や、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリフェニル等の有機リン酸エステル等が挙げられる。 これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 前記リン系化合物の使用量は、特に限定はされないが、前述したように、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルであればよく、具体的には、使用されたエステル交換触媒1モルに対して上限が好ましくは5モル、より好ましくは2モルであり、下限が好ましくは0.8モル、より好ましくは1.0モルである。これより少ない量のリン系化合物を使用した場合は、前記反応生成物中のエステル交換触媒の失活が十分でなく、得られたポリカーボネートポリオールを例えばポリウレタン製造用原料として使用する時、該ポリカーボネートポリオールのイソシアネート基に対する反応性を十分に低下させることができない場合がある。また、この範囲を超えるリン系化合物を使用すると得られたポリカーボネートポリオールが着色してしまう可能性がある。」(上記(1)エ)と記載されているが、「リン系化合物」として「リン酸、亜リン酸等の無機リン酸」が他の「リン系化合物」よりも優位であることを甲3から見いだすことができず、また、そのような優位性が本件出願時において技術常識であったと解することはできない。 このため、相違点5について検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲3に記載された発明であるとも、甲3に記載された発明及び甲1、4、5に記載された周知の技術的事項から容易になしえたものともいえない。 イ 本件訂正発明2?4、6について 本件訂正発明2?4、6は、本件訂正発明1を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1が甲3に記載された発明であるとも、甲3に記載された発明及び甲1、4、5に記載された周知の技術的事項から容易になしえたものともいえないことに鑑みると、本件訂正発明2?4、6も甲3に記載された発明であるとも、甲3に記載された発明及び甲1、4、5に記載された周知の技術的事項から容易になしえたものともいえない。 (4)まとめ よって、申立ての理由3、4には、理由がない。 4 申立ての理由5について (1)主張(5-1) ア 申立人は「実施例1?6は、PCD-AおよびPCD-B…例であるが、加熱後の変化についてはAPHAしか評価されておらず、加熱による分子量上昇や組成変化の抑制については一切評価されていない。」、「実施例13?18と比較例12は、PCD-D…例であるが、リン酸または亜リン酸の添加の有無にかかわらず、加熱後APHAは全て25で一律に等しく、加熱による着色は何ら改善されていない。むしろ、加熱による分子量変化については、リン酸または亜リン酸を添加した実施例13?17の方が、比較例12よりも悪化することが示されている。」、「透明性の向上については、いずれの実施例及び比較例において評価が一切されておらず、本件発明の構成要件を満たしたとしても、透明性が向上することを理解することはできない。」と主張する。 イ 実施例1?6については、表4においてAPHAのデータが示されたことで、本件訂正発明は、その課題である「加熱による…着色が少ない」、「熱安定性に優れたポリカーボネートジオール」(【0001】)を提供するものであると認識できる。 実施例13?17(実施例18は本件訂正発明の範囲外である。)については、表6におけるNPC濃度のデータにより、上記第4 3で検討したとおりの本件訂正発明の課題を解決したものといえる。 透明性の向上については、本件訂正発明は濁度が「2.0ppm以下」であることに鑑みると、透明性は向上したものと解される。 ウ 以上のことから申立人の上記主張を採用することはできない。 (2)主張(5-2) ア 申立人は、「ア 加熱後の着色について」において、「本件発明は達成すべき結果により限定された発明であるところ、発明の詳細な説明には一切説明がなく、ごく限られた原料モノマー、触媒、製法を用いた実施例が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、実施例で使用されていない原料モノマー、触媒、製法によっても、加熱による着色の防止という課題を解決し得ることが、当業者に理解できるように記載されているとはいえない。」と主張する。 また、申立人は、「イ 透明性について」において、「当業者の技術常識に照らしても、エステル交換触媒に由来する金属元素が1?100ppmという広範な範囲にわたって高い透明性を達成できるとは到底考えられず、また、酢酸マグネシウム以外の触媒を使用した場合に必ずしも高い透明性を達成できると解することもできない。」と主張する。 イ しかし、これらにおいて本件訂正発明が所望の課題を解決できることは上記第4 4にて検討したとおりである。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (3)主張(5-3) ア 申立人は、平成30年12月27日に提出した意見書における特許権者の主張は、当業者が理解できないものである旨主張する。 イ しかし、この特許権者の主張がどうあれ、本件訂正発明は、本件発明の詳細な説明の記載から所望の課題を解決できると解されることは、上記検討したとおりである。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (4)まとめ よって、申立ての理由5には、理由がない。 5 申立ての理由6について (1)主張(6-1) この主張については、上記第4 4にて検討したとおりである。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (2)主張(6-2) 申立人は、甲5を示しつつ、「原料モノマーおよび触媒を何ら具体的に規定しない本件発明1に係る発明は、上述した反応が進行しない組み合わせも含むところ、本件発明の詳細な説明には、上述した反応が進行しない組み合わせにおいても反応を進行させる具体的な方法について一切開示がないから、当業者は本件発明の詳細な説明を参照しても、特許請求の範囲の全域にわたって発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとは言えない。」と主張する。 しかし、本件訂正発明は、特定の原料モノマーと特定の触媒を用いるものであり、またそれだけでなく、得られたポリカーボネートジオール生成物が「積分球式濁度計にて測定した濁度が2.0ppm以下」であり、「160℃で4時間加熱後のJIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、45以下」であることも、その構成要素としたものであり、仮に反応が進行しない組合せが存在しても、その組合せがこれらの「濁度」や「ハーゼン色数」の特徴を有すると解される根拠を見いだすことはできない。 したがって、本件発明の詳細な説明は、本件訂正発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえ、申立人の上記主張を採用することはできない。 (3)まとめ よって、申立ての理由6には、理由がない。 6 申立ての理由7について (1)主張(7-1) 申立人は「明細書【0061】及び【0086】によれば、本件発明におけるポリカーボネートジオールの「生成物」とは、「原料ジヒドロキシ化合物、原料カーボネート化合物、副生する軽沸の環状カーボネート、カーボネート化合物から副生するアルコール類、フェノール類および添加した触媒」を含むものであることが記載されている。 一方で、明細書【0089】及び【0090】によれば、薄膜蒸留後のポリカーボネートジオールについても「生成物」と記載されている。 そうすると、明細書の記載に鑑みても、生成物という用語は、薄膜蒸留などの精製前の状態を指すのか、精製後の状態まで包むのかが明確ではなく、特許発明の技術的範囲を明確に把握することができない。」と主張する。 【0061】には以下のとおりの記載がある。 「ポリカーボネートジオールにリン酸及び/又は亜リン酸添加後に精製工程を有することが好ましい。精製工程とはポリカーボネートジオール生成物中の原料ジヒドロキシ化合物、原料カーボネート化合物、副生する軽沸の環状カーボネート、カーボネート化合物から副生するアルコール類、フェノール類および添加した触媒などを除去する目的で精製する工程であり、例えば、減圧蒸留、水蒸気蒸留および薄膜蒸留などが挙げられ、中でも薄膜蒸留が効果的である。」 この記載、特に「ポリカーボネートジオール生成物中の…を除去する」との記載からみて、「原料ジヒドロキシ化合物、原料カーボネート化合物、副生する軽沸の環状カーボネート、カーボネート化合物から副生するアルコール類、フェノール類および添加した触媒など」は除去される対象であるから、これらは「生成物」には含まれない、すなわち「生成物」は精製後のものと解するのが相当である。 したがって、本件訂正発明の「生成物」は明確であり、申立人の上記主張を採用することはできない。 (2)主張(7-2) 申立人は「少なくとも、ポリカーボネートジオール生成物そのものと、ポリカーボネートジオールの50%塩化メチレン溶液とは、測定の対象が異なるのであるから、得られる濁度も異なると考えるのが自然である。 そうすると、明細書の記載に鑑みても、濁度の定義は明確ではなく、特許発明の技術的範囲を明確に把握することができない。」と主張する。 【0037】には以下のとおりの記載がある。 「<1-9.濁度> 本発明のポリカーボネートジオールの濁度は、三菱化学株式会社製積分球式濁度計PT-200にて、10mmのセルにポリカーボネートジオールの50%塩化メチレン溶液を入れ、予め装置に設定されているポリスチレン検量線を使用して測定された値として、2.0ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0ppm以下、特に好ましくは0.5ppm以下である。」 上記のように、本件訂正発明の「濁度」は【0037】に定義されており、この記載を考慮して意義を解釈すれば、係る「濁度」を明確に把握することができる。 したがって、本件訂正発明の「濁度」は明確であり、申立人の上記主張を採用することはできない。 (3)主張(7-3) この主張については、上記第4 5で検討したとおりである。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (4)まとめ よって、申立ての理由7には、理由がない。 7 まとめ 以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1?4、6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項5に係る特許については、上述のとおり、この請求項を削除する訂正を含む本件訂正が認容されるため、特許異議申立ての対象となる特許が存在しないものとなったことから、同請求項に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 含有するポリカーボネートジオールの数平均分子量が250以上5500以下であり、 前記ポリカーボネートジオールが原料モノマーとしてジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物とを用いて、エステル交換触媒の存在下、エステル交換反応により得られたものであり、 前記ジヒドロキシ化合物は、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物、及び直鎖状の末端ジオール類、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物からなり、 【化1】 (上記式(A)において、nは0または1、R_(1)およびR_(2)はそれぞれ独立に炭素数1?15のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基およびアルコキシ基よりなる群から選ばれる基であり、前記炭素数の範囲で、酸素原子、硫黄原子、窒素原子若しくはハロゲン原子またはこれらを含む置換基を有していてよい。Xはヘテロ原子を含有してもよい炭素数1?15の2価の基を表す。) 【化2】 (前記式(B)において、前記式(B)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。) リン酸及び/又は亜リン酸を含有し、リン酸と亜リン酸の合計含有量がリン原子換算で、エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量に対して0.1モル倍以上2.0モル倍以下であり、 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素が、長周期型周期表第2族元素及び長周期型周期表第4族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含み、 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素の合計含有量が0.1ppm以上100ppm以下であり、 積分球式濁度計にて測定した濁度が2.0ppm以下であり、 160℃で4時間加熱後のJIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、45以下であることを特徴とするポリカーボネートジオール生成物。 【請求項2】 ポリカーボネートジオール生成物中の前記エステル交換触媒に由来する金属元素が、マグネシウム及び/又はチタンを含む請求項1に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【請求項3】 前記カーボネート化合物がジアリールカーボネートであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【請求項4】 JIS K0071-1(1998)に準拠して測定したハーゼン色数が、60以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記ジヒドロキシ化合物が、下記式(A)で表される化合物、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、及びイソソルビド、からなる群より選ばれたジヒドロキシ化合物からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール生成物。 【化3】 (上記式(A)において、nは0または1、R_(1)およびR_(2)はそれぞれ独立に炭素数1?15のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基およびアルコキシ基よりなる群から選ばれる基であり、前記炭素数の範囲で、酸素原子、硫黄原子、窒素原子若しくはハロゲン原子またはこれらを含む置換基を有していてよい。Xはヘテロ原子を含有してもよい炭素数1?15の2価の基を表す。) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-11-16 |
出願番号 | 特願2014-60712(P2014-60712) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C08G)
P 1 651・ 536- YAA (C08G) P 1 651・ 121- YAA (C08G) P 1 651・ 537- YAA (C08G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 海老原 えい子 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
安田 周史 大熊 幸治 |
登録日 | 2019-05-17 |
登録番号 | 特許第6526943号(P6526943) |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | 熱安定性に優れたポリカーボネートジオールおよびその製造方法 |
代理人 | 下田 俊明 |
代理人 | 下田 俊明 |
代理人 | 高田 大輔 |
代理人 | 佐貫 伸一 |
代理人 | 高田 大輔 |
代理人 | 佐貫 伸一 |