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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
管理番号 1370025
異議申立番号 異議2020-700807  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-19 
確定日 2021-01-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6684946号発明「乳成分とサリチル酸メチルを含有する茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6684946号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6684946号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、令和1年6月10日に特許出願され、令和2年4月1日に特許権の設定登録がされ、同年同月22日にその特許公報が発行され、その後、同年10月19日に、特許異議申立人 斉藤 出(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?3に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明3」といい、まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料であって、
(a)飲料の甘味度が1?6であり、
(b)サリチル酸メチルを50?1500ppb含有し、
乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上である、上記茶飲料。
【請求項2】
紅茶抽出物を含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
サリチル酸メチルを110?1500ppb含有する、請求項1又は2記載の飲料。」

第3 特許異議申立理由
1 新規性
異議申立理由1-1:請求項1?2に係る発明は、下記の甲第3号証?甲第5号証を参照すると、本件特許出願日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

異議申立理由1-2:請求項1?3に係る発明は、下記の甲第3号証?甲第5号証を参照すると、本件特許出願日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 進歩性
異議申立理由2-1:請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明および甲第3号証?甲第11号証、甲第14号証に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

異議申立理由2-2:請求項2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明および甲第2号証?甲第11号証、甲第14号証に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

異議申立理由2-3:請求項3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第11号証、甲第14号証に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 実施可能要件
異議申立理由3:請求項1?3に係る発明について、甲第12号証の技術常識からみて、茶の香ばしさは、茶の種類、焙煎や乾燥の程度で違い、実施例の評価は紅茶抽出物で、含有量も極めて狭い範囲のみであり、甘味度を求める計算過程が不明であり、甲第13号証の技術常識からみて、茶抽出物に含有するブドウ糖、果糖、ショ糖は考慮されておらず、タンパク質の含量の特定手法開示がなく、牛乳の場合に改善できても植物性ミルク(豆乳、アーモンドミルク)の場合に課題の存在や効果があるといえないので、本件特許発明を当業者が実施できず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 サポート要件
異議申立理由4:請求項1?3に係る発明について、実施例では、紅茶抽出物の含有量が極めて狭い濃度のみで、かつ甲第11号証の記載から、スクロース量が増えると異臭成分が増加するのに対して、糖の種類によっては、その傾向は種々であり、実施例に対して、茶葉の含有量、糖質の種類を限定していない特許請求の範囲があまりに広いから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



甲第1号証:特開2009-45021号公報
甲第2号証:特開2015-122969号公報
甲第3号証:K.O.Abraham 外3名,Mikrochimica Acta[Wien]1976 I,p.11?15
甲第4号証:日本食品標準成分表2015年版(7訂)炭水化物成分表編,13乳類
甲第5号証:日本食品標準成分表2015年版(7訂),13乳類
甲第6号証:国際公開2019/039490号
甲第7号証:国際公開2017/073720号
甲第8号証:国際公開2019/050041号
甲第9号証:特開2005-82488号公報
甲第10号証:Zihan Qin 外5名,Food Research International,53,2013年,p.864?874
甲第11号証:特開2006-94856号公報
甲第12号証:農研機構のホームページ,野菜茶業研究所2015年の成果情報,焙煎された茶に含まれる香気寄与成分,インターネット[検索日:2020年10月16日]<http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/vegetea/2015/vegetea15_s25.html
甲第13号証:水野 卓,茶業研究報告,1970巻,Appendix2号,p.40?51頁,インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/cha1953/1970/Appendix2/1970_Appendix2_40/_article/_char/ja/>
甲第14号証:岩本道代著,紅茶ドリンク246,初版,株式会社柴田書店,1996年3月10日,p.36?41

第4 当審の判断
異議申立理由1(新規性:異議申立理由1-1、1-2)及び2(進歩性:異議申立理由2-1?2-3)について

1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本願の出願前頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】
シソ科メンタ属植物(Mentha)の葉又は茎の乾燥物の溶媒抽出物からなることを特徴とする香味又は香気改善剤。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、飲食品等の熱による劣化、特に牛乳類入り飲食品の加熱による劣化臭を効果的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは牛乳類入り飲食品の加熱による劣化を詳細に検討した結果、シソ科メンタ属植物(Mentha)の葉又は茎の乾燥物の溶媒抽出物に、牛乳類入り飲食品の加熱による劣化臭を抑える効果があることを見出した。さらに、この溶媒抽出物は牛乳類入り飲食品のみならず、他の飲食品、香粧品等の熱による劣化臭を抑制する効果があることを見出し、本発明を完成した。」

(1c)「【0030】
〔香味又は香気改善剤の製造例〕
ペパーミントの乾燥葉300gを2250gの50%エタノール水溶液で、60℃で60分間抽出した。抽出後、遠心分離により抽出液を分離し、抽出液の固形分質量に対して30%の活性炭を加え、30分撹拌した後、セライト濾過により、活性炭を除去した。
得られた抽出液は減圧濃縮によりエタノールを除去し、水で固形分濃度が5質量%となるよう調製した。これに固形分質量の25%のヘスペリジナーゼ(田辺製薬(株)製「可溶性ヘスペリジナーゼ<タナベ>2号」)を添加して、60℃で12時間撹拌した。その後、セライト濾過により酵素を除去し、固形分濃度が31%となるまで濃縮した。
【0031】
この濃縮液を予め0℃に冷却した95%エタノール中に撹拌しながら徐々に加え、液温を0?5℃に保ちながら30分間撹拌した(この工程で酵素は失活する)。析出した不溶物をセライト濾過により除去し、減圧濃縮した後、水で濃度調整し、固形分濃度10%、エタノール濃度50%のエキス650gを得た。
このエキスの50%エタノール溶液中における紫外線吸収スペクトル(濃度:100ppm)を図1に示した。
【0032】
〔試験例1〕<牛乳入り紅茶飲料に対する香味又は香気改善効果>
250gの湯(80℃)にL-アスコルビン酸ナトリウム0.3gを溶かし、紅茶葉8gを5分間抽出し、メッシュで濾過した。濾液を20℃以下に冷却した後、これに、牛乳200g、砂糖57g、予め溶かしておいた乳化剤0.3g及び水にて全量1000gとし、重曹でpH6.8に調整して牛乳入り紅茶飲料を製造した。
この紅茶飲料をベースに何も添加しない紅茶飲料と、上記製造例で得られた香味又は香気改善剤を1ppm添加した紅茶飲料とをそれぞれ缶に充填し殺菌して、缶入りの2種類の牛乳入り紅茶飲料を製造した。
【0033】
それらを、60℃で4週間保管した後、習熟した14名のパネルを選んで官能評価を行った。そして、この場合、香味変化のない対照としては何も添加しない冷蔵保管品を使用し、香味の変化(劣化)の度合いを評価した。その結果は表1及び表2の通りである。
なお、表1中の評価の点数は、「異味・異臭が非常に強い」を4点、「異味・異臭がない」を0点とし、絶対評価を行った各パネルの平均点である。また、表2は、紅茶感(紅茶が本来有している香味)、牛乳感(牛乳が本来有している香味)、後キレ(後キレの良さ=飲んだ後に後味が長く残らないこと)について、無添加60℃、4週間保管品の場合を4点、無添加冷蔵保管品を8点とした場合の各パネルの評価の平均点である。」

(1d)「【0034】
【表1】

【0035】
【表2】



(2)甲第2号証
本願の出願前頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【請求項1】
乳入り紅茶飲料において、飲料全量に対して0.6重量%以上の難消化性デキストリンを添加し、長期保存により発生する異臭味の発生を防止したことを特徴とする長期保存に対して香味の保持された容器詰乳入り紅茶飲料。」

(2b)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、容器詰乳入り紅茶飲料の長期保存により発生する異臭味の発生を防止し、長期保存に対して香味の保持された容器詰乳入り紅茶飲料及び、その製造方法を提供することにある。特に、容器詰乳入り紅茶飲料の長期保存により発生する乳酸敗臭、酸味及びオフフレーバーのような異臭味の発生を、効果的に防止し、長期保存に対して香味の保持された容器詰乳入り紅茶飲料、及び、その製造方法を提供することにある。」

(2c)「【実施例1】
【0031】
[(1)難消化性デキストリンの添加による、容器詰乳入り紅茶飲料の香味への影響]
脂肪ゼロ(栄養表示上の0.5g/100ml以下である。)、砂糖不使用(高甘味度甘味料使用)での容器詰乳入り紅茶飲料における難消化性デキストリンの香味への影響を検討した。
【0032】
(1.紅茶抽出物の調製)
スリランカ産紅茶葉100gを、95℃のイオン交換水3000gに入れ、10分間抽出した。得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た。得られた紅茶抽出液は、液量が3000gとなるようにイオン交換水を加えて調整した後、酒石酸鉄吸光光度法を用いて総ポリフェノール量を測定した。その結果、紅茶抽出液の総ポリフェノール量は、81mg/100mlであった。
【0033】
(2.難消化性デキストリン入り紅茶飲料の調製)
下記表1及び表2に示す配合で、定法に従って、原料を混合し、得られた混合液をUHTにて殺菌、PETに充填を行い、容器詰乳入り紅茶飲料を得た(試験例1?7)。具体的には、上記の(1.紅茶抽出物の調製)の方法で紅茶葉から抽出した紅茶抽出物に、乳(脱脂粉乳)、香料、乳化剤、ビタミンC、高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム、スクラロース)、及び水を添加してpHが6.9となるように調整し、混合液を調製した。難消化性デキストリンの添加量は、表2となるように、それぞれ配合した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】



(3)甲第3号証
本願出願前頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(3a)「
実験
材料

紅茶葉:市販の異なるグレード(A,B,C,D)の茶葉のサンプルを入手し、使用した。
ガスクロマトグラフ:グリフィン・アンド・ジョージ、モデルMK II
サリチル酸メチル(A.R.):ヘキサンの標準溶液(5mg/ml)を調製した。」(12頁1?7行)

(3b)「 表II 茶の分析^(*)
・・・
サンプル サリチル酸メチル、ppm 総合的な品質スコア^(**) 香り の特徴
・・・・・・追加量 検出量
A・・・・・- 11.2 7 花のような香 り、より良い風味
B・・・・・- 7.5 7 良い香り、よ り良い風味
C・・・・・- 4.8 6 典型的な茶の 香り、標準的な風味
D・・・・・- 0.4 5 匂いがあまり ないが典型的な茶
、標準的な風味
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結果は3回の分析結果の平均である。
* (a)1日後、(b)1か月後、(c)2か月後に分析された。
** この評価は、サンプルDを5(5>優れている;<5劣る)として数値で求められた。」(14頁表II)

(4)甲第4号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「13乳類 可食部100g当たり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・食品名・・・・・・・・・・・・・・・・・・乳糖・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・普通牛乳・・・・・・・・・・・・・・・・・4.4・・・・・・・
」(55頁の13乳類の表)

(5)甲第5号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「13乳類
・・・・・・・・・・・可食部100g当たり・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・食品名・・・・・・・・たんぱく質・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・普通牛乳・・・・・・・3.3・・・・・・・・・・・・・・・・・
」(1/2頁 13乳類の表)

(6)甲第6号証
本願の出願前の電子的情報である甲第6号証には、以下の記載がある。
(6a)「[請求項1]
3-メントキシ-1,2-プロパンジオール、N-[(エトキシカルボニル)メチル]-p-メンタン-3-カルボキサミド、1,8-シネオール、イソブチルサリシレート、メンチル3-ヒドロキシブチレート、L-メントール、メチルサリシレート、エチルサリシレート、L-メンチルアセテート、及びL-メンチルラクテートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有するタンパク臭抑制剤。」

(6b)「[0051]
[表12]
タンパク質の種類 タンパク類含有組成物に含まれるタンパク類10000 質量部に対する各マスキング化合物の量(質量部)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
乳タンパク・・・・・・・・・・・0.00002以上、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好0.00002-0.2・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(6c)「[0071]
実験例2 タンパク類由来のオフフレーバー化合物に対するマスキング効果 下記の被験化合物について、タンパク類由来のオフフレーバー化合物(メチオナール、2-メチル-3-フランチオール、o-アミノアセトフェノン)に起因する臭いに対するマスキング効果を評価した。
[被験化合物]
(1)3-メントキシ-1,2-プロパンジオール
・・・
(7)メチルサリシレート
・・・」

(6c)「[0086]
この結果から、オフフレーバー化合物(0.001?0.012ppm)に対して、被験化合物(1)?(4)、(8)及び(10)を0.001ppm以上の濃度、好ましくは0.001?10ppmの範囲で併用することで、また被験化合物(5)?(7)及び(9)を0.0001ppm以上の濃度、好ましくは0.0001?1ppmの範囲で併用することで、オフフレーバー化合物の臭いをマスキングできることが確認された。また、いずれの被験化合物も、オフフレーバー評価液I?IVに対する配合量が増すにつれて、被験化合物自体の風味が発現するようになった。被験化合物自体の風味発現の影響なく、オフフレーバー化合物(0.001?0.012ppm)の臭いがマスキングできる被験化合物(1)?(10)の濃度としては、下記を挙げることができる。
被験化合物(1):0.001?10ppm、好ましくは0.001?5ppm、より好ましくは0.001?1ppm
・・・
被験化合物(7):0.0001ppm?0.5ppm、好ましくは0.0001ppm?0.1ppm、より好ましくは0.0001?0.05ppm
・・・」

(7)甲第7号証
本願の出願前の電子的情報である甲第7号証には、以下の記載がある。
(7a)「[請求項1]
以下のA乃至E群からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物を含有する、乳製品の劣化臭マスキング剤;
A群:メンチルアセテート、リナリルアセテート、イソアミルイソバレレート、及びイソアミルブチレート、
B群:ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、及び1,8-シネオール、
C群:マルトールイソブチレート、エチルピルベート、ヘリオトロピン、及びジエチルマロネート、
D群:エチルピルベート、γ-ブチロラクトン、エチルレブリネート、及びベンジルアルコール、並びに
E群:ヘキサナール、γ-ヘキサラクトン、エチルプロピオネート、及びアミルアセテート。」

(7b)「[0008]
本発明者らは、劣化臭(具体的には、光劣化臭)の主要臭気物質を同定し、及び更に
乳製品の劣化臭をマスキングすることが可能な化合物について鋭意検討した結果、A群(メンチルアセテート、リナリルアセテート、イソアミルイソバレレート、イソアミルブチレート)、B群(ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、1,8-シネオール)、C群(マルトールイソブチレート、エチルピルベート、ヘリオトロピン、ジエチルマロネート)、D群(エチルピルベート、γ-ブチロラクトン、エチルレブリネート、ベンジルアルコール)、及びE群(ヘキサナール、γ-ヘキサラクトン、エチルプロピオネート、アミルアセテート)からなる群より選ばれる化合物が、前記劣化臭の主要臭気物質である化合物に対して各々優れたマスキング効果を有することを見出し、本願発明を完成するに至った。」

(7c)「[0019]
B群に記載された化合物である、ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、及び1,8-シネオールは、それぞれ、乳製品の劣化臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した劣化臭の主要臭気物質の1つである、1-オクテン-3-オンに対するマスキング剤として効果的に機能する。」

(8)甲第8号証
本願の出願前の電子的情報である甲第8号証には、以下の記載がある。
(8a)「[請求項1]
50?14000ppbのリナロールと、
ゲラニオール、サリチル酸メチル、β-ダマセノン、ベンズアルデヒド、デカン酸、ラウリン酸、ブチル酸、オクタン酸、およびパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも一種とを含有する飲料であって、以下の条件(i)?(v)を満たす前記飲料:
(i)波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、
(ii)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下であり、
(iii)甘味度が3?10であり、
(iv)pHが4.0?7.0であり、そして
(v)以下の条件(ア)?(ケ)のうちいずれか一以上を満たす:
(ア)ゲラニオールの含有量が5?2000ppbである;
(イ)サリチル酸メチルの含有量が1?200ppbである;
(ウ)β-ダマセノンの含有量が1?100ppbである;
(エ)ベンズアルデヒドの含有量が5?300ppbである;
(オ)デカン酸の含有量が5?5000ppbである;
(カ)ラウリン酸の含有量が5?5000ppbである;
(キ)ブチル酸の含有量が5?5000ppbである;
(ク)オクタン酸の含有量が5?5000ppbである;
(ケ)パルミチン酸の含有量が5?5000ppbである。」

(8b)「[0007]
そこで本発明は、リナロールを含有するpHが4.0?7.0の無色透明飲料において、飲用時に感じられる舌のざらつきを軽減することを目的とする。
[0008]
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リナロールを含有するpHが4.0?7.0の無色透明飲料に、ゲラニオール、サリチル酸メチル、β-ダマセノン、ベンズアルデヒド、デカン酸、ラウリン酸、ブチル酸、オクタン酸、およびパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも一種の香気成分を添加することが有用であることを見出し、本発明を完成させた。
・・・
[0010]
本発明によれば、飲用時の舌のざらつきが軽減された、リナロールを含有するpHが4.0?7.0の無色透明飲料を提供することができる。また、本発明では、飲用時の舌のざらつきの軽減とともに、リナロールにより得られる味の厚みや広がり、及びトップの香り立ちを感じるpHが4.0?7.0の無色透明飲料を提供することができる。なお、本明細書において「ざらつき」とは、舌全体で感じるざらつきであり、特に舌にまとわりつくような物理的な感触がある状態を意味する。」

(9)甲第9号証
本願の出願前頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の記載がある。
(9a)「【請求項1】
タンパク質を合成するのに必要なアミノ酸群から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸と、カルボン及び/又はサリチル酸メチルとを配合したことを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
タンパク質を合成するのに必要なアミノ酸群から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸を含有する口腔用組成物の該アミノ酸に由来する異味異臭をマスキングする方法であって、異味異臭のマスキング剤としてカルボン及び/又はサリチル酸メチルを上記口腔用組成物に配合することを特徴とする上記アミノ酸含有口腔用組成物における異味異臭のマスキング方法。」

(9b)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、タンパク質を合成するアミノ酸群を配合したときに生じる異味異臭をマスキングし、使用感に優れた口腔用組成物及び異味異臭のマスキング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、タンパク質を合成するアミノ酸群と特定の香料、即ちカルボン及び/又はサリチル酸メチルを組み合わせて口腔用組成物に配合することにより、アミノ酸群由来の異味異臭を十分にマスキングし、使用感を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(10)甲第10号証
本願の出願前頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(10a)「
表4 GC-MSによって得られた紅茶及び緑茶の高・中・低グレードにお ける揮発性化合物(ng/g)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
揮発性化合物・匂いの感知・・緑茶 紅茶
高 中 低 高 中 低
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サリチル酸メチル 甘い・801±96 832±53 945±88 4175±213 1295±159 1074±105
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
」(869頁表4)

(11)甲第11号証
本願の出願前頒布された刊行物である甲第11号証には、以下の記載がある。
(11a)「【0021】
【表1】



(12)甲第12号証
電子的情報である甲第12号証には、以下の記載がある。
(12a)「表1 焙煎された茶に含まれる香気成分とそのFDファクターの指数
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
香気寄与成分 匂いの性質 bg_(10)FDファクター
原料 弱焙煎 中焙煎 強焙煎
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・3 3 3 4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 3 4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・2 3 3 4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
」(表1)

(13)甲第13号証
本願出願前の電子的情報である甲第13号証には、以下の記載がある。
(13a)「緑茶や紅茶には,D-グルコース,D-フラクトース,サッカロースのほかにL-アラビノース,D-キシロース,D-リボース,L-ラムノースなどが検出されている。^(7,8,9))
」(40頁下から1行?41頁2行)

(14)甲第14号証
本願出願前頒布された刊行物である甲第14号証には、以下の記載がある。
(14a)「
ロイヤル・ミルク・ティー(A)
・・・
茶葉・・・・・ 5g
牛乳 80cc
熱湯または水 80cc
・・・・・・・・・・・・・・・・
ロイヤル・ミルク・ティー(B)
・・・
茶葉・・・・・ 5g
熱湯 少量
牛乳 150cc
・・・・・・・・・・・・・・・・
テ・オ・レ(ロイヤル・ミルク・ティー(C))
・・・
茶葉・・・・・ 3g
熱湯 80cc
牛乳 70cc
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
」(36頁上段,38頁上段,40頁頁上段)

2 甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
摘記(1c)には、香味又は香気改善剤の製造例として、「ペパーミントの乾燥葉300gを2250gの50%エタノール水溶液で、60℃で60分間抽出した。抽出後、遠心分離により抽出液を分離し、抽出液の固形分質量に対して30%の活性炭を加え、30分撹拌した後、セライト濾過により、活性炭を除去した。
得られた抽出液は減圧濃縮によりエタノールを除去し、水で固形分濃度が5質量%となるよう調製した。これに固形分質量の25%のヘスペリジナーゼ(田辺製薬(株)製「可溶性ヘスペリジナーゼ<タナベ>2号」)を添加して、60℃で12時間撹拌した。その後、セライト濾過により酵素を除去し、固形分濃度が31%となるまで濃縮した。・・・この濃縮液を予め0℃に冷却した95%エタノール中に撹拌しながら徐々に加え、液温を0?5℃に保ちながら30分間撹拌した(この工程で酵素は失活する)。析出した不溶物をセライト濾過により除去し、減圧濃縮した後、水で濃度調整し、固形分濃度10%、エタノール濃度50%のエキス650gを得た。」(下線は、当審にて追加。以下同様。)と記載され、試験例1として、「250gの湯(80℃)にL-アスコルビン酸ナトリウム0.3gを溶かし、紅茶葉8gを5分間抽出し、メッシュで濾過した。濾液を20℃以下に冷却した後、これに、牛乳200g、砂糖57g、予め溶かしておいた乳化剤0.3g及び水にて全量1000gとし、重曹でpH6.8に調整して牛乳入り紅茶飲料を製造した。
この紅茶飲料をベースに何も添加しない紅茶飲料と、上記製造例で得られた香味又は香気改善剤を1ppm添加した紅茶飲料とをそれぞれ缶に充填し殺菌して、缶入りの2種類の牛乳入り紅茶飲料を製造した。」と記載されている。

したがって、甲第1号証には、香味又は香気改善剤を1ppm添加した牛乳入り紅茶飲料として、「ペパーミントの乾燥葉300gを2250gの50%エタノール水溶液で、60℃で60分間抽出し、抽出後、遠心分離により抽出液を分離し、抽出液の固形分質量に対して30%の活性炭を加え、30分撹拌した後、セライト濾過により、活性炭を除去し、得られた抽出液は減圧濃縮によりエタノールを除去し、水で固形分濃度が5質量%となるよう調製し、これに固形分質量の25%のヘスペリジナーゼを添加して、60℃で12時間撹拌し、セライト濾過により酵素を除去し、固形分濃度が31%となるまで濃縮し、この濃縮液を予め0℃に冷却した95%エタノール中に撹拌しながら徐々に加え、液温を0?5℃に保ちながら30分間撹拌し、析出した不溶物をセライト濾過により除去し、減圧濃縮した後、水で濃度調整し、固形分濃度10%、エタノール濃度50%のエキス650gを得た香味又は香気改善剤を、250gの湯(80℃)にL-アスコルビン酸ナトリウム0.3gを溶かし、紅茶葉8gを5分間抽出し、メッシュで濾過し、濾液を20℃以下に冷却した後、これに、牛乳200g、砂糖57g、予め溶かしておいた乳化剤0.3g及び水にて全量1000gとし、重曹でpH6.8に調整して製造した牛乳入り紅茶飲料に、1ppm添加し、缶に充填し殺菌した牛乳入り紅茶飲料」に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第2号証に記載された発明
摘記(2c)には、「(1.紅茶抽出物の調製)」方法として、「スリランカ産紅茶葉100gを、95℃のイオン交換水3000gに入れ、10分間抽出した。得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た。」こと、「表1・・・に示す配合で、定法に従って、原料を混合し、得られた混合液をUHTにて殺菌、PETに充填を行い、容器詰乳入り紅茶飲料を得た(試験例1?7)。具体的には、上記の(1.紅茶抽出物の調製)の方法で紅茶葉から抽出した紅茶抽出物に、乳(脱脂粉乳)、香料、乳化剤、ビタミンC、高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム、スクラロース)、及び水を添加してpHが6.9となるように調整し、混合液を調製した。難消化性デキストリンの添加量は、表2となるように、それぞれ配合した。」ことが記載されているので、甲第2号証には、難消化性デキストリンが添加された乳入り紅茶飲料として、
「スリランカ産紅茶葉100gを、95℃のイオン交換水3000gに入れ、10分間抽出して得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た後、飲料1000gあたりのg数として、該紅茶抽出液を紅茶葉換算で10g、乳(脱脂粉乳)25g、香料1g、乳化剤0.7g、ビタミンC0.3g、高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム、スクラロース)0.24g、難消化デキストリン(それぞれ、0,4.7,6.5,11,17,33、47g添加)及び水を添加してpHが6.9となるように調整し、混合液を調製し、UHTにて殺菌、PETに充填を行った容器詰乳入り紅茶飲料」に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「牛乳」「紅茶飲料」は、本件特許発明1の「乳成分」「茶飲料」に該当し、牛乳入り紅茶飲料の殺菌が加熱によって殺菌されることは技術常識であるから、甲1発明の「缶に充填し殺菌した牛乳入り紅茶飲料」は、本件特許発明1の「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」に該当する。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明1においては、「飲料の甘味度が1?6」と特定されているのに対して、甲1発明においては、「砂糖」等甘味成分を含んでいるものの飲料全体の甘味度が明らかでない点

相違点2-1:乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料中のサリチル酸メチルの含有量について、本件特許発明1においては、「サリチル酸メチルを50?1500ppb含有」することが特定されているのに対して、甲1発明においては、牛乳入り紅茶飲料にサリチル酸メチルが含有されていること、その含有量ともに明らかではない点。

相違点3-1:乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率について、本件特許発明1においては、「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上」であると特定されているのに対して、甲1発明においては、サリチル酸メチルが含有されていること、乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率ともに明らかではない点

(イ)判断
事案に鑑み相違点2-1、相違点3-1をまず検討する。
a 相違点2-1について
(a)甲第1号証においては、甲1発明の牛乳入り紅茶飲料にサリチル酸メチルが含有されているか否か、及びその含有量は明らかでない。
そして、甲第3号証の摘記(3a)(3b)から、市販の紅茶茶葉A,B,C,Dをガスクロマトグラフ:グリフィン・アンド・ジョージ、モデルMK IIで、サリチル酸メチル(A.R.):ヘキサンの標準溶液(5mg/ml)で調製した場合にサリチル酸メチルが、それぞれ、11.2ppm、7.5ppm、4.8ppm、0.4ppm検出されたことは理解できるものの、甲1発明は、上述のとおり、「ペパーミントの乾燥葉300gを2250gの50%エタノール水溶液で、60℃で60分間抽出し、抽出後、遠心分離により抽出液を分離し、抽出液の固形分質量に対して30%の活性炭を加え、30分撹拌した後、セライト濾過により、活性炭を除去し、得られた抽出液は減圧濃縮によりエタノールを除去し、水で固形分濃度が5質量%となるよう調製し、これに固形分質量の25%のヘスペリジナーゼを添加して、60℃で12時間撹拌し、セライト濾過により酵素を除去し、固形分濃度が31%となるまで濃縮し、この濃縮液を予め0℃に冷却した95%エタノール中に撹拌しながら徐々に加え、液温を0?5℃に保ちながら30分間撹拌し、析出した不溶物をセライト濾過により除去し、減圧濃縮した後、水で濃度調整し、固形分濃度10%、エタノール濃度50%のエキス650gを得た香味又は香気改善剤を、250gの湯(80℃)にL-アスコルビン酸ナトリウム0.3gを溶かし、紅茶葉8gを5分間抽出し、メッシュで濾過し、濾液を20℃以下に冷却した後、これに、牛乳200g、砂糖57g、予め溶かしておいた乳化剤0.3g及び水にて全量1000gとし、重曹でpH6.8に調整して製造した牛乳入り紅茶飲料に、1ppm添加し、缶に充填し殺菌」することによって得たものであるから、甲第3号証で得た市販の紅茶葉の検出値と抽出条件の前提が異なっているといえ、甲1発明の殺菌した牛乳入り紅茶飲料のサリチル酸メチルの含有量を推定することはできない。
したがって、上記相違点2-1は、実質的相違点である。

(b)次に、相違点2-1について、他の甲号証を参酌して相違点2-1が容易に想到し得るか検討する。
甲第4号証には、牛乳の乳糖含有量が4.4%であることや甲第5号証には、牛乳中のたんぱく質が3.3%であることが食品標準成分表の表示として記載され、甲第6号証には、動植物由来のタンパク質、その分解物またはペプチドに由来する不快臭を抑制するためメチルサリシレートをはじめとした膨大なタンパク臭抑制剤が記載され、甲第7号証には、乳製品の製造、流通、保管、及び販売等の各段階での劣化臭(例えば光劣化臭)の劣化臭マスキング剤として、メチルサリシレートをはじめとした膨大な例が記載され、甲第8号証には、リナロールを含有する無色透明飲料において、飲用時に感じられる舌のざらつきを軽減する目的で、サリチル酸メチルをはじめとした香気成分を添加することが記載され、甲第9号証には、アミノ酸特有の異味異臭をマスキングするために、サリチル酸メチルを添加することが記載され、甲第10号証には、緑茶又は紅茶にGC-MSで検出の結果、サリチル酸メチル等の揮発性化合物が含有されていることが示されており、甲第11号証には、乳又は乳製品の乳加熱臭の発生を抑制するためにα?グルコシルトレハロースを含有させることが記載され、甲第14号証には、いくつかのロイヤルミルクティー等のレシピが示されている。
まず、甲1発明は、シソ科メンタ属植物(Mentha)の葉又は茎の乾燥物の溶媒抽出物からなる香味又は香気改善剤を用いて牛乳入り紅茶等の加熱劣化臭を抑制することを課題とするものであり、甲第3号証の紅茶葉から検出された茶葉A?D等のサリチル酸メチル量を参考に、飲料全体に対するサリチル酸メチル量を調整する動機付けがない。
また、甲第4?11,14号証いずれを参照しても、サリチル酸メチルとは関係のない文献か(甲第4,5,11,14号証)、膨大な例示の中からサリチル酸メチル自体に着目していない文献か(甲第6?8号証)、殺菌した牛乳入り紅茶飲料等の加熱劣化臭を抑制するためにサリチル酸メチルを添加しているものではない文献であるので(甲第6?11,14号証)、甲1発明において、甲第3?11,14号証記載の技術的事項を参酌しても、乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料中の「サリチル酸メチルを50?1500ppb含有」することを特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

b 相違点3-1について
(a)甲第1号証においては、甲第3号証を参照しても、甲1発明の殺菌した牛乳入り紅茶飲料にサリチル酸メチルが含有されているか否か、及びその含有量は明らかでないことは、上記aの相違点2-1で検討したとおりである。
したがって、甲第4号証の牛乳の乳糖含有量が4.4%であることや甲第5号証の牛乳中のたんぱく質が3.3%であることの食品標準成分表の表示として記載を甲1発明にそのまま適用できるかどうかはさておき、殺菌した牛乳入り紅茶飲料中のサリチル酸メチル含有量が特定できない以上、「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上」であると推定できないことは明らかであり、相違点3-1は実質的な相違点である。

(b)また、甲1発明において、甲第3?11,14号証記載の技術的事項を参酌しても、乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料中のサリチル酸メチル含有量が特定できないことは、上記aの相違点2-1で述べたとおりであるので、「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上」であること特定することも当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

c 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料において、「飲料の甘味度が1?6」「サリチル酸メチルを50?1500ppb含有」「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上」との構成を採用することで、本件明細書【0010】に記載される「甘味度が1?6の乳成分含有茶飲料において、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減を抑制することが可能とな」り、「茶の味わいとともに乳のフレッシュ感やコクも併せて感じ、さらに甘味を抑えたスッキリした味わいを有する加熱殺菌済みの容器詰め茶飲料を提供する」という顕著な効果を奏している。

d 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、甲第3号証の市販の紅茶葉をヘキサンの標準溶液を用いたサリチル酸メチルの検出値に基づき、甲第1号証の[試験例1]の紅茶葉中のサリチル酸メチルも同じ量であるとの前提で、甲第3?5号証の値から計算することによって、甘味度範囲、サリチル酸メチルの含有量範囲、乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が満たされている旨の新規性の主張、甲第6号証のメチルサリシレートの使用時の濃度、甲第8号証のサリチル酸メチルの含有量、甲第14号証の紅茶葉の使用量の指摘や、単なる設計事項であるとの進歩性の主張をしている。
しかしながら、上述のとおり、甲第1号証に記載された[試験例1]の殺菌した牛乳入り紅茶飲料の飲料におけるサリチル酸メチル含有量が、甲第3号証に記載された紅茶葉中のサリチル酸メチル検出量と同じ意味を持つとはいえないし、甲第3号証の市販品A、Bのサリチル酸メチル含有量と同じであるともいえない(市販品C、Dの場合は本件特許発明1の範囲を外れる。)。
また、本件特許発明1において特定された数値範囲において、効果を奏するための技術的意義が本件特許明細書の一般的記載や実施例において明らかにされているのであるから、単なる設計事項であるということもできない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、相違点1-1を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲1発明及び甲第3?11,14号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

イ 甲2発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「乳」「紅茶飲料」は、本件特許発明1の「乳成分」「茶飲料」に該当し、甲2発明の「UHTにて殺菌」は、本件特許発明1の「加熱殺菌」に該当するから、甲2発明の「UHTにて殺菌、PETに充填を行った容器詰乳入り紅茶飲料」は、本件特許発明1の「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」に該当する。

したがって、本件特許発明1は、甲2発明と、「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-2:本件特許発明1においては、「飲料の甘味度が1?6」と特定されているのに対して、甲2発明においては、「高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム、スクラロース)0.24g」を含んでいるものの飲料全体の甘味度が明らかでない点

相違点2-2:乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料中のサリチル酸メチルの含有量について、本件特許発明1においては、「サリチル酸メチルを50?1500ppb含有」することが特定されているのに対して、甲2発明においては、容器詰乳入り紅茶飲料にサリチル酸メチルが含有されていること、その含有量ともに明らかではない点。

相違点3-2:乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率について、本件特許発明1においては、「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上」であると特定されているのに対して、甲2発明においては、サリチル酸メチルが含有されていること、乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率ともに明らかではない点

(イ)判断
事案に鑑み、相違点2-2、相違点3-2から検討する。

a 相違点2-2について
(a)甲第2号証においては、甲2発明の容器詰乳入り紅茶飲料にサリチル酸メチルが含有されているか否か、及びその含有量は明らかでない。
そして、甲第3号証の摘記(3a)(3b)から、市販の紅茶茶葉A,B,C,Dをガスクロマトグラフ:グリフィン・アンド・ジョージ、モデルMK IIで、サリチル酸メチル(A.R.):ヘキサンの標準溶液(5mg/ml)で調製した場合にサリチル酸メチルが、それぞれ、11.2ppm、7.5ppm、4.8ppm、0.4ppm検出されたことは理解できるものの、甲2発明は、上述のとおり、「スリランカ産紅茶葉100gを、95℃のイオン交換水3000gに入れ、10分間抽出した。得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た後、飲料1000gあたりのg数として、該紅茶抽出液を紅茶葉換算で10g、乳(脱脂粉乳)25g、香料1g、乳化剤0.7g、ビタミンC0.3g、高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム、スクラロース)0.24g、難消化デキストリン(それぞれ、0,4.7,6.5,11,17,33、47g添加)及び水を添加してpHが6.9となるように調整し、混合液を調製し、UHTにて殺菌、PETに充填」することによって得たものであるから、甲第3号証で得た市販の紅茶葉の検出値と抽出条件の前提が異なっているといえ、甲2発明の容器詰乳入り紅茶飲料のサリチル酸メチルの含有量を推定することはできない。
したがって、上記相違点2-2は、実質的相違点である。

(b)また、相違点2-2について、他の甲号証を参酌して相違点2-2が容易に想到し得るか検討する。
甲1発明との対比・判断で述べたとおり、甲第4号証には、牛乳の乳糖含有量が4.4%であることや甲第5号証には、牛乳中のたんぱく質が3.3%であることが食品標準成分表の表示として記載され、甲第6号証には、動植物由来のタンパク質、その分解物またはペプチドに由来する不快臭を抑制するためメチルサリシレートをはじめとした膨大なタンパク臭抑制剤が記載され、甲第7号証には、乳製品の製造、流通、保管、及び販売等の各段階での劣化臭(例えば光劣化臭)の劣化臭マスキング剤として、メチルサリシレートをはじめとした膨大な例が記載され、甲第8号証には、リナロールを含有する無色透明飲料において、飲用時に感じられる舌のざらつきを軽減する目的で、サリチル酸メチルをはじめとした香気成分を添加することが記載され、甲第9号証には、アミノ酸特有の異味異臭をマスキングするために、サリチル酸メチルを添加することが記載され、甲第10号証には、緑茶又は紅茶にGC-MSで検出の結果、サリチル酸メチル等の揮発性化合物が含有されていることが示されており、甲第11号証には、乳又は乳製品の乳加熱臭の発生を抑制するためにα?グルコシルトレハロースを含有させることが記載され、甲第14号証には、いくつかのロイヤルミルクティー等のレシピが示されている。
甲2発明は、容器詰乳入り紅茶飲料の長期保存により発生する異臭味の発生を防止し、長期保存に対して香味の保持された容器詰乳入り紅茶飲料を提供することにあり、特に、容器詰乳入り紅茶飲料の長期保存により発生する乳酸敗臭、酸味及びオフフレーバーのような異臭味の発生を、効果的に防止することを課題とするものであり、甲第3号証の紅茶葉から検出された茶葉A?D等のサリチル酸メチル量を参考に、飲料全体に対するサリチル酸メチル量を調整する動機付けがない。
また、甲第4?11,14号証いずれを参照しても、サリチル酸メチルに関係ない文献か(甲第4,5,11,14号証)、膨大な例示の中からサリチル酸メチル自体に着目していない文献か(甲第6?8号証)、殺菌した牛乳入り紅茶飲料等の加熱劣化臭を抑制するためにサリチル酸メチルを添加しているものではない文献であるので(甲第6?11,14号証)、甲2発明において、甲第3?11,14号証記載の技術的事項を参酌しても、容器詰乳入り紅茶飲料乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料中の「サリチル酸メチルを50?1500ppb含有」することを特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

b 相違点3-2について
(a)甲第2号証においては、甲第3号証を参照しても、甲2発明のUHTにて殺菌、PETに充填を行った容器詰乳入り紅茶飲料にサリチル酸メチルが含有されているか否か、及びその含有量は明らかでないことは、上記aの相違点2-2で検討したとおりである。
したがって、甲第4号証の牛乳の乳糖含有量が4.4%であることや甲第5号証の牛乳中のたんぱく質が3.3%であることの食品標準成分表の表示として記載を甲2発明にそのまま適用できるかどうかはさておき、UHTにて殺菌、PETに充填を行った容器詰乳入り紅茶飲料のサリチル酸メチル含有量が特定できない以上、「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上」であると推定できないことは明らかであり、相違点3-2は実質的な相違点である。

(b)また、甲2発明において、甲第3?11,14号証記載の技術的事項を参酌しても、乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料中のサリチル酸メチル含有量が特定できないことは、上記aの相違点2-2で述べたとおりであるので、「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上」であること特定することも当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(c)本件特許発明1の効果については、前記ア(イ)cで述べたのと同様に、甲2発明との対比においても、当業者の予測を超える顕著な効果を奏しているといえる。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、相違点1-2を検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲2発明及び甲第3?11,14号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「牛乳」は、本件特許発明2の「乳成分」に該当し、甲1発明の「紅茶飲料」は、本件特許発明2の「紅茶抽出物を含む」「茶飲料」に相当し、牛乳入り紅茶飲料の殺菌が加熱によって殺菌されることは技術常識であるから、甲1発明の「缶に充填し殺菌した牛乳入り紅茶飲料」は、本件特許発明2の「紅茶抽出物を含む」「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」に該当する。

したがって、本件特許発明2は、甲1発明と、「紅茶抽出物を含む」「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」の点で一致し、上記(1)のア(ア)で認定した相違点1-1?相違点3-1の点で相違する。

(イ)判断
上記(1)の本件特許発明1に関してア(イ)(ウ)で判断したのと同様に、本件特許発明2は、相違点1-1を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲1発明及び甲第3?11,14号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

イ 甲2発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明2と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「乳」は、本件特許発明2の「乳成分」に該当し、甲2発明の「紅茶飲料」は、本件特許発明2の「紅茶抽出物を含む」「茶飲料」に相当し、甲2発明の「UHTにて殺菌」は、本件特許発明2の「加熱殺菌」に該当するから、甲2発明の「UHTにて殺菌、PETに充填を行った容器詰乳入り紅茶飲料」は、本件特許発明2の「紅茶抽出物を含む」「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」に該当する。

したがって、本件特許発明2は、甲2発明と、「紅茶抽出物を含む」「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」の点で一致し、上記(1)のイ(ア)で認定した相違点1-2?相違点3-2の点で相違する。

(イ)判断
上記(1)の本件特許発明1に関してイ(イ)(ウ)で判断したのと同様に、本件特許発明2は、相違点1-2を検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲2発明及び甲第3?11,14号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2において、サリチル酸メチルの含有量の下限を「50ppb」から「110ppb」に限定した点でのみ異なる発明であるから、上記(1)又は(2)で検討したのと同様に、本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲1発明並びに甲第3?11,14号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(4)本件特許発明2,3に関する異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書15頁14?15行、16頁3?5行において、本件特許発明2,3に関して、甲第2号証に記載された技術的事項も考慮した進歩性の主張をしているが、甲第2号証に関しては、具体的には、甲2発明認定のための実施例(【0033】)に関する主張がなされているだけで、上述のとおり、甲第2号証に記載された技術的事項を考慮しても、本件特許発明2,3は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

4 異議申立理由1及び2の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明、並びに甲第3号証?甲第11号証,甲第14号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。
また、本件特許発明2は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明、並びに甲第2号証?甲第11号証、甲第14号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。
さらに、本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証記載の発明、及び甲第2号証?甲第11号証、甲第14号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。
したがって、異議申立理由1,2には、理由がない。

異議申立理由3(実施可能要件)について
特許異議申立人は、第3 3に記載のように実施可能要件について理由を述べている。
1 異議申立理由3の概要
(1)異議申立理由3-1:甲第12号証の技術常識からみて、茶の香ばしさは、茶の種類、焙煎や乾燥の程度で違い、実施例の評価は紅茶抽出物で、含有量も極めて狭い範囲のみであるので請求項1?3に係る発明を実施できず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備である。

(2)異議申立理由3-2:甘味度を求める計算過程が不明であり、甲第13号証の技術常識からみて、茶抽出物に含有するブドウ糖、果糖、ショ糖は考慮されておらず、タンパク質の含量の特定手法の開示がなく、牛乳の場合に改善できても植物性ミルク(豆乳、アーモンドミルク)の場合に課題の存在や効果があるといえないので請求項1?3に係る発明を実施できず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備である。

2 判断
異議申立理由3-1について
請求項1?3に係る発明は、「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」において、
「(a)飲料の甘味度が1?6であ」ること、
「(b)サリチル酸メチルを50?1500ppb含有」すること
「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上である」ことを特定することによって、「甘味度が1?6の乳成分含有茶飲料において、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減を抑制することが可能とな」り、「茶の味わいとともに乳のフレッシュ感やコクも併せて感じ、さらに甘味を抑えたスッキリした味わいを有する加熱殺菌済みの容器詰め茶飲料を提供する」(【0010】)ことを技術思想とするもので、本件特許明細書【0022】には、サリチル酸メチル含有量の数値範囲の技術的意義が記載され、【0023】には、乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率に関する記載があり、【0026】に茶飲料の種類、原料、抽出方法についての記載があり、【0032】に飲料の製造方法についての記載がある。
そして、【0034】?【0048】に、紅茶抽出物を例として、抽出量4g/飲料1kgの場合と(実施例1)、抽出量160g/飲料1kgの場合(実施例2)に具体的にサリチル酸メチル含有量及び乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が特定範囲の場合に、官能評価が向上することが示されている。
したがって、茶の香ばしさが、茶の種類、焙煎や乾燥の程度で違うことが技術常識であるからといって、当業者であれば、上記技術的意義、抽出方法、飲料製造方法、具体的結果参考に、請求項1?3に係る発明を理解することができ、当業者が実施することに過度な試行錯誤を要するとはいえず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載に不備があるとはいえない。

異議申立理由3-2について
特許異議申立人は、請求項1?3に係る発明について、甘味度を求める計算過程について記載がないことや茶抽出物に含有するブドウ糖等が考慮されていないことやタンパク質含量を特定する手法が開示されていないことや植物性ミルクの場合の課題や効果の記載がないことを指摘している。
しかしながら、本件特許明細書【0013】?【0015】には、本件特許発明における乳成分の範囲、乳成分の含有量、飲料中の乳タンパク質の含有量及びその技術的意議の記載があり、【0016】?【0021】には、飲料の甘味度の範囲やその技術的意議の記載、甘味成分の種類、ショ糖換算に関する記載、甘味成分を用いた飲料の甘味度調整の記載(原料としての配合、高甘味度甘味量の添加)があり、Brix値による甘味成分の種類や濃度の調整に関する記載もなされている。
また、具体例においては、具体的乳タンパク質量(重量%)で示され、実施例1では、豆乳が成分として使用し、官能評価が向上したことも示されている。
したがって、上記技術的意義、具体的結果を参考に、甘味度を求める計算過程やタンパク質含量を特定する手法は、本件明細書の記載および技術常識から、当業者であれば理解できる事項であり(本件特許明細書【0017】の記載からみて、甘味度は、原料の全成分を対象としていることは明らかである。)、乳成分が植物性ミルクの場合にも一定の有用性を有することも当然理解できる。
よって、請求項1?3に係る発明を当業者が実施することに過度な試行錯誤を要するとはいえず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載に不備があるとはいえない。

3 異議申立理由3の判断のまとめ
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載が、請求項1?3に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるので、異議申立理由3には、理由がない。

異議申立理由4(サポート要件)について
特許異議申立人は、第3 4に記載のようにサポート要件について理由を述べている。
1 異議申立理由4の概要
請求項1?3に係る発明について、実施例では、紅茶抽出物の含有量が極めて狭い濃度のみで、かつ甲第11号証の記載から、スクロース量が増えると異臭成分が増加するのに対して、糖の種類によっては、その傾向は種々であり、実施例に対して、茶葉の含有量、糖質の種類を限定していない特許請求の範囲があまりに広いから、本件特許発明1?3の課題を解決できると当業者が認識できるといえず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備である。

2 判断
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、【0007】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び本件特許明細書全体の記載からみて、本件特許発明の課題は、甘味度が1?6の乳成分含有茶飲料において、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減が抑制された飲料を提供することにあるといえる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料」として、「(a)飲料の甘味度が1?6であ」ること、「(b)サリチル酸メチルを50?1500ppb含有」すること、「乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が0.008×10^(-3)以上である」ことを特定した物の発明が記載され、請求項2には、請求項1において、さらに「紅茶抽出物を含む」ことを特定した物の発明が、請求項3には、請求項1又は2において、「サリチル酸メチルを110?1500ppb含有する」ことを特定した物の発明が記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、異議申立理由3(実施可能要件)についての2で記載したように、【0013】?【0015】には、本件特許発明における乳成分の範囲、乳成分の含有量、飲料中の乳タンパク質の含有量及びその技術的意議の記載があり、【0016】?【0021】には、飲料の甘味度の範囲やその技術的意議の記載、ショ糖換算に関する記載、甘味成分の種類、甘味成分を用いた飲料の甘味度調整の記載(原料としての配合、高甘味度甘味量の添加)があり、Brix値による甘味成分の種類や濃度の調整に関する記載もなされている。
また、【0022】には、サリチル酸メチル含有量の数値範囲の技術的意義が記載され、【0023】には、乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率に関する記載があり、【0026】に茶飲料の種類、原料、抽出方法についての記載があり、【0032】に飲料の製造方法についての記載がある。
さらに、具体例においては、【0034】?【0048】に、紅茶抽出物を例として、抽出量4g/飲料1kgの場合と(実施例1)、抽出量160g/飲料1kgの場合(実施例2)に具体的にサリチル酸メチル含有量及び乳タンパク質含有量に対するサリチル酸メチル含有量の比率が特定範囲の場合に本件特許発明の範囲外の比較例に対して官能評価が向上することが示されている。

(5)判断
発明の詳細な説明においては、実施例、比較例の記載として、表1には、甘味度0.2?8.0の場合の加熱前後の乳のフレッシュ感の変化が1.0?6.0で大きいことが示され、表2には、サリチル酸メチル含有量が50?1500ppbの場合に20ppbの場合より官能評価が向上することが示され、表3-1、表3-2では、甘味度1.0?6.0いずれにおいても、官能評価が高いことが示され、表4では、紅茶抽出量を増加させて添加した場合にも差があることが示されている。
したがって、当業者であれば、発明の詳細な説明に記載された、上記数値範囲の技術的意義、具体的結果等の記載を参考にすることによって、本件特許発明の課題が解決できると認識できるといえ、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

特許異議申立人は、甲第11号証の【0021】の表1を指摘し、スクラロースの添加の場合と他の糖の添加の場合で、ジメチルスルフィドやジメチルジスルフィドなどの異臭成分の増加傾向は、一様でないことから、本件特許発明において、スクラロース(ショ糖)以外の場合に課題が解決できるか示されていない旨主張している。
しかしながら、甲第11号証は、乳又は乳製品における乳加熱臭の抑制をするために、α-グルコシルトレハロースを添加することで、ジメチルスルフィドおよびジメチルジスルフィドに起因する乳加熱臭が生成抑制できたことが記載されているだけで、本件特許発明の乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料に関する技術ではない上に、本件特許発明における加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減が抑制できることとの関係も明らかではない。
したがって、スクラロースの添加の場合と他の糖の添加の場合で、ジメチルスルフィドやジメチルジスルフィドなどの異臭成分の増加傾向は、一様でないからといって、本件特許発明の課題が一定程度解決できると当業者が認識できることは、上述のとおりであり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

3 異議申立理由4の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるので、異議申立理由4には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1?3に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-12-25 
出願番号 特願2019-107817(P2019-107817)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23F)
P 1 651・ 121- Y (A23F)
P 1 651・ 537- Y (A23F)
P 1 651・ 113- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 林 康子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 瀬良 聡機
安孫子 由美
登録日 2020-04-01 
登録番号 特許第6684946号(P6684946)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 乳成分とサリチル酸メチルを含有する茶飲料  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  
代理人 武田 健志  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中西 基晴  
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