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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1370052
異議申立番号 異議2020-700650  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-02 
確定日 2021-01-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6658988号発明「表面処理鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6658988号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6658988号(請求項の数5。以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和1年5月27日(優先権主張 平成30年5月25日(JP)日本国)を国際出願日とする特願2019-547730号として特許出願されたものであって、令和2年2月10日に特許権の設定登録がされ、同年3月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?5に係る特許に対し、同年9月2日に、特許異議申立人である安藤宏(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」といい、総称して「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
鋼板、前記鋼板上の少なくとも片面に形成されたZn系合金めっき層、及び前記Zn系合金めっき層上に形成され、着色顔料と防錆顔料とバインダー樹脂とを含む平均厚さT_(1)の塗膜を有し、
前記Zn系合金めっき層の化学組成が、質量%で、
Al:0.01?60%、
Mg:0.001?10%、及び
Si:0?2%であり、
前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9であり、
前記着色顔料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、アルミニウム、又はカーボンブラックであり、
T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)ことを特徴とする、表面処理鋼板。
【請求項2】
前記塗膜中の前記防錆顔料の平均濃度が、質量%で、3?12%であり、
前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記防錆顔料の平均濃度C_(B1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記防錆顔料の平均濃度C_(B2)との比C_(B1)/C_(B2)が1.3?4.0であり、
前記防錆顔料が、シリカ、カルシウム修飾シリカ、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カルシウム、又は酸化タングステンであり、
T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)ことを特徴とする、請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記着色顔料が、5?30μmである長径X_(1)と、1?30μmである短径X_(2)と、0.0025μm以上である厚さX_(3)とを有し、平均粒径=(X_(1)+X_(2))/2、及び平均アスペクト比=(X_(1)+X_(2))/2X_(3)とした場合に、前記着色顔料の平均粒径が7?30μmであり、平均アスペクト比が20以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記塗膜の平均厚さT_(1)が3?15μmであることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記着色顔料の厚さが0.5T_(1)以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。」

第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1?8号証(以下、単に「甲1」?「甲8」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1-1(進歩性)
本件発明1、4は、甲1に記載された発明(或いはさらに甲3?5に記載された技術)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲6に記載された技術(或いはさらに甲3?5に記載された技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明3、5は、甲1に記載された発明及び甲7に記載された技術(或いはさらに甲3?5に記載された技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1?5に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

2 申立理由1-2(進歩性)
本件発明1、4は、甲2に記載された発明及び甲3?5、8に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲3?6、8に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明3、5は、甲2に記載された発明及び甲3?8に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1?5に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

3 申立理由2(サポート要件)
本件発明1?5については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1?5に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。

4 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1?5については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1?5に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。

5 証拠方法
甲1:国際公開第2018/062515号
甲2:特許第4323530号公報
甲3:特開2017-145374号公報
甲4:特開平03-215580号公報
甲5:特開2010-214288号公報
甲6:特開2012-050938号公報
甲7:特開2009-275096号公報
甲8:ニクスカラーSGL(登録商標)のパンフレット 日鉄住金鋼板株式会社 2017年8月発行

第4 当審の判断
1 本件明細書の記載事項
本件明細書には以下の記載がある(なお、下線は当審が付与した。「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板に関する。」

「【0005】
亜鉛めっき鋼板の耐食性をさらに高めた技術としてZn-Al-Mg系合金めっき等のZn系合金めっきをした鋼板が知られている。
【0006】
Zn系合金めっき鋼板においては、短期耐食性及び長期耐食性の両方が求められている。「短期耐食性」とは、例えば、施工者が発注者にめっき鋼板を引き渡すまでの期間(約1年)に腐食しないことを意味し、「長期耐食性」とは、例えば、建材用などの製品が腐食により減肉し、必要な強度が得られなくなるまでの期間を可能な限り長くすることを意味する。
【0007】
Zn系合金めっき鋼板に対して要求される別の特性としては耐黒変性がある。黒変とは、めっき層が、酸化して黒く変色することを意味する。黒変は、特に、亜鉛めっき中にAlやMgを添加したZn-Al系合金めっき鋼板やZn-Al-Mg系合金めっき鋼板において顕著に発生する。このようなめっき層の黒変により、めっき鋼板の変色が外観から視認されるのは使用上好ましくない。したがって、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板のようなZn系合金めっき鋼板においては、耐食性を有しつつ、優れた耐黒変性が求められている。
【0008】
特許文献1では、鋼板と、鋼板の表面に形成されたZn-Al-Mg系合金めっき層と、合金めっき層上に形成されたアルミニウムを含む皮膜とを含む、耐黒変性と耐食性に優れた亜鉛めっき鋼板が開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、金属板の少なくとも片面に、有機樹脂を造膜成分とし、表面が不活性化処理されたフレーク状のアルミニウム顔料を含む塗膜を有するクロメートフリー塗装金属板が開示されており、このような金属板は耐食性及び耐黒変性に優れることが教示されている。
【0010】
さらに、特許文献3では、鋼板及び鋼板の表面に配置されためっき層を有するめっき鋼板と、めっき層の表面に配置された化成処理皮膜とを有し、化成処理皮膜が、フッ素樹脂、基材樹脂、金属フレーク及び化成処理成分を含有する化成処理鋼板が開示されており、このような鋼板を用いると、耐食性や耐黒変性を改善できることが教示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】 国際公開第2015/075792号
【特許文献2】 国際公開第2013/065354号
【特許文献3】 特開2016-121390号公報

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のZn-Al-Mg系合金めっき鋼板では、皮膜中のアルミニウム顔料の一部が、製造後又は皮膜の表面が樹脂の劣化により減肉した際に皮膜の表面から突出する場合がある。そうすると、その突出した顔料を起点にして、酸素等の腐食因子が皮膜中を通過することができるパスが形成されて、その結果、そのパスを通じて下地のめっき層に腐食因子が侵入し、めっき層の腐食が進行するおそれがある。したがって、耐食性に改善の余地を残している。また、特許文献1では、アルミニウム顔料の皮膜中の濃度分布については必ずしも十分に検討がなされておらず、耐黒変性について依然として改善の余地がある。
【0013】
また、特許文献2及び3では、フレーク状のアルミニウム等の顔料の濃度分布の制御については必ずしも十分な検討がなされておらず、耐黒変性について依然として改善の余地がある。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑み、Zn系合金めっき鋼板において、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、このような高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得るためには、Zn系合金めっき層上に形成される塗膜中のアルミニウム顔料等の着色顔料の平均濃度を、質量%で、5?15%に制御することが重要であることを見出した。このような制御により、塗膜の表面に垂直な方向から観察した場合に着色顔料がZn系合金めっき層を十分に覆い隠すため、着色顔料がZn系合金めっき層の黒変を見えなくし、それにより外観上の変化を抑制でき優れた耐黒変性を得ることができる。
【0016】
本発明者らはまた、塗膜中において着色顔料をZn系合金めっき層側に濃化させることが重要であることを見出した。このようにZn系合金めっき層側に着色顔料を濃化させることにより、着色顔料が塗膜の表面から突出するのを抑制し、それにより腐食因子のパス形成を抑制することができ耐食性を担保することができる。さらに、着色顔料をZn系合金めっき層側に濃化させることにより、着色顔料を、塗膜中で狭い領域にかつ互いにより近い距離に配置することが可能となる。したがって、着色顔料を塗膜中において高密度で分布させ、より広範囲のZn系合金めっき層を効果的に見えなくすることができ、その結果として耐黒変性が向上する。」

「【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塗膜中の着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、かつ、塗膜中において着色顔料がZn系合金めっき層側に濃化していることで、着色顔料が塗膜から突出して腐食因子のパスが形成されるのを抑制し、塗膜の表面に垂直な方向から観察した場合に着色顔料がZn系合金めっき層を十分に見えなくするため、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供することができる。特に、本発明に係る表面処理鋼板は、塗膜中の着色顔料がZn系合金めっき層側に濃化していることにより、塗膜の厚さを薄くした場合であっても、高い耐食性及び耐黒変性を提供することができる。」

「【0026】
<塗膜>…なお、本明細書において「耐黒変性」とは、塗膜の下地のZn系合金めっき層の黒変の発生を抑制するという意味ではなく、当該Zn系合金めっき層に黒変が生じても、塗膜中の着色顔料により外部から黒変を見えないようにして、表面処理鋼板に外観上の変化を生じさせないことを意味する。」

「【0029】
塗膜中の着色顔料の平均濃度(平均含有量)は、質量%で、5?15%である。着色顔料の平均濃度をこのような範囲にするとともに、Zn系合金めっき層との界面付近に着色顔料を濃化させることで、たとえ一般的な塗装鋼板の塗膜に比べ比較的薄い膜厚であっても、塗膜の表面に垂直な方向から観察した場合に着色顔料がZn系合金めっき層を十分に覆い隠す量を確保できる。さらに、塗膜の表面から着色顔料が突出するのを十分に抑制することができる。したがって、高い耐食性を維持しつつ、着色顔料がZn系合金めっき層の黒変を見えなくし、それにより外観上の変化を抑制でき優れた耐黒変性を得ることができる。塗膜中の着色顔料の平均濃度が5%未満だと、Zn系合金めっき層の黒変を見えなくするための塗膜中での着色顔料の密度が不足し、耐黒変性が低下する。一方、塗膜中の着色顔料の平均濃度が15%超だと、塗膜中に着色顔料が多く存在することとなり、塗膜が減肉した場合に比較的早い段階で着色顔料の一部が塗膜の表面から突出する可能性が高くなり、耐食性が悪化するおそれがある。さらに、密着性も低下するおそれがある。塗膜中の着色顔料の平均濃度は、6%以上、7%以上であってよく、また、12%以下又は10%以下であってよい。塗膜中の着色顔料の平均濃度は、好ましくは5?12%、より好ましくは5?10%である。」

「【0031】
塗膜中の着色顔料はZn系合金めっき層側に濃化している。着色顔料の濃化の指標は、塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する着色顔料の平均濃度C_(A1)と、塗膜のZn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)で決定される。本発明に係る表面処理鋼板の比C_(A1)/C_(A2)は0.2以上0.9以下である。ここで、上記幅T_(2)は以下の式:T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmで決定される。すなわち、塗膜の平均厚さT_(1)の値に応じて、着色顔料の平均濃度C_(A1)及びC_(A2)の測定領域の幅T_(2)が決定される。より具体的に説明すると、上述したように塗膜の断面観察から塗膜の平均厚さT_(1)を決定し、そのT_(1)を基に上記式からC_(A1)及びC_(A2)の測定領域の幅T_(2)を決定し、そして、その幅T_(2)内で着色顔料の平均濃度C_(A1)及びC_(A2)を測定する。なお、C_(A1)を決定する領域と、C_(A2)を決定する領域とが重複する場合(すなわち、T_(2)>0.5T_(1)である場合)であっても、上記のようにC_(A1)及びC_(A2)を測定し、比C_(A1)/C_(A2)を決定することができる。なお、T_(2)>T_(1)となる場合(例えばT_(1)=1.2μmである場合)、そのような表面処理鋼板は、本発明の範囲に含まれない。
【0032】
本発明に係る表面処理鋼板の比C_(A1)/C_(A2)は0.2以上0.9以下である。この比C_(A1)/C_(A2)が0.2未満になると、相対的に防錆顔料が塗膜の表面側に濃化しすぎてしまい、塗膜が減肉した場合に比較的短時間で防錆顔料の濃度の低い層が露出し、十分な長期耐食性が得られない。一方、比C_(A1)/C_(A2)が0.9超になると、着色顔料の濃化の効果を得られず、着色顔料の一部が塗膜から突出し、耐食性が不十分になる。さらに、塗膜が減肉した場合に塗膜中の着色顔料の濃度が不足するため、効果的にZn系合金めっき層を見えなくすることができず、耐黒変性が不十分になる。C_(A1)/C_(A2)比は、例えば、0.3以上又は0.4以上であってよく、また、0.8以下又は0.7以下であってよい。C_(A1)/C_(A2)比は、好ましくは0.3以上0.8以下であり、より好ましくは、C_(A1)/C_(A2)比は0.4以上0.7以下である。」

「【0034】
塗膜中の着色顔料を、塗膜中で上記の比C_(A1)/C_(A2)の値が0.2以上0.9以下になるよう塗膜中のZn系合金めっき層側に濃化させることにより、相対的に塗膜の表面側の着色顔料濃度が低くなる。それにより、製造後又は塗膜の表面が減肉した際に、着色顔料の一部が塗膜の表面から突出することを抑制することができる。したがって、腐食因子の通過パスが生成されることを抑制することができるため、高い耐食性を担保することができる。また、塗膜の表面側の着色顔料の濃度が低くなることにより、塗膜の表面が減肉した際に、着色顔料の脱落が抑制され、長期にわたって耐黒変性が維持される。したがって、塗膜中の着色顔料の平均濃度が一定の条件下では、本発明に係る表面処理鋼板は、着色顔料が塗膜中で均一に分布している場合に比べてZn系合金めっき層を外部から効果的に見えないようにでき、したがって耐黒変性が著しく向上する。これに加えて、着色顔料が狭い領域に分布する別の利点として、高い平均アスペクト比を有するような配向性を有する顔料(例えば、鱗片状、扁平状など)を使用した場合に、着色顔料の向きを塗膜の表面に対して平行又は略平行に揃えることができ、さらに効果的にめっき層を見えなくし、耐黒変性を向上させることができる。」

「【0048】
(バインダー樹脂)
本発明における塗膜の成分として使用されるバインダー樹脂は、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、又はアクリル樹脂であるとよい。本発明においては、これらの樹脂の硬化剤としてイミノ基型メラミン樹脂を使用することが重要である。好ましくは、本発明におけるバインダー樹脂はポリエステル樹脂である。また、本発明で使用されるポリエステル樹脂としては、-20?70℃のガラス転移温度Tgと、3000?30000の数平均分子量を有するものが好ましい。バインダー樹脂がウレタン樹脂の場合、Tgは0?50℃、数平均分子量は5000?25000のものが好ましい。バインダー樹脂がアクリル樹脂の場合、Tgは0?50℃、数平均分子量は3000?25000のものが好ましい。また、本発明においては、バインダー樹脂に対する溶媒には水性溶媒を用いる。
【0049】
本発明における塗膜中には、必要に応じて、ポリエチレンワックス又はPTFEワックスのようなワックス、アクリル樹脂ビーズ又はウレタン樹脂ビーズのような樹脂ビーズ、並びにフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、メチルオレンジ、メチルバイオレット、又はアリザリンのような染料等を添加することができる。これらを添加することで塗膜の強度が高まったり、塗膜に所望の色を付与できたりするためより好ましい。これらの添加量は、本発明における塗膜にとって不利にならないよう、適宜決定すればよい。
【0050】
特に、本発明における塗膜、したがって本発明に係る表面処理鋼板に所望の色を付与するために、着色剤として染料を使用することができる。染料は単独で使用してもよく、複数の染料を組み合わせて使用してもよい。本発明における塗膜中で使用できる染料の種類としては、特に限定はされないが、公知の染料を使用することができ、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、メチルオレンジ、メチルバイオレット、又はアリザリンを使用することができる。
【0051】
[表面処理鋼板の製造方法]
本発明に係る表面処理鋼板の製造方法の例を以下で説明する。本発明に係る表面処理鋼板は、例えば、鋼板上に形成されたZn系合金めっき層上に、着色顔料及び防錆顔料を添加し、イミノ基型メラミン樹脂をバインダー樹脂の硬化剤として添加した水性塗料を塗布し、所定のヒートパターンにより加熱して塗料を硬化させることで製造することができる。
【0052】
<Zn系合金めっき層の形成>
鋼板としては、任意の板厚及び化学組成を有するものを使用することができる。例えば、板厚0.25?3.5mmの冷延鋼板を使用することができる。Zn系合金めっき層は、例えば鋼板上にZn-Al-Mg合金めっきを溶融めっきで1?30μmの厚さで形成することができる。溶融めっきは、例えば、各種金属を添加した400?550℃の溶融めっき浴で行うことができる。Al及びMg含有量は、質量%で、Al:0.01?60%、Mg:0.001?10%であり、残部は典型的にZn及び不純物である。また、上記のような化学組成に加えて、質量%で、Si:0.001?2%を含み、Zn-Al-Mg-Si合金めっき層を形成することもできる。
【0053】
<塗料の調製>
塗料は、溶媒に分散させたポリエステル樹脂(例えば、分子量:16000、Tg:10℃)等のバインダー樹脂とイミノ基型メラミン樹脂とを、固形分質量比100:10?100:30で混合し、次いで、その混合物に所定量の着色顔料及び防錆顔料を分散させることで得ることができる。また、溶媒としては、水性溶媒(例えば水)を使用する。
【0054】
本発明に係る表面処理鋼板は、上述したように、塗膜中の防錆顔料が塗膜の表面側に濃化し、塗膜中の着色顔料がZn系合金めっき層側に濃化している。このような防錆顔料及び着色顔料の濃度分布の形成は、特定の条件下において、イミノ基型メラミン樹脂が硬化する際に塗膜の表層に濃化する現象を利用することで可能となることを本発明者らは見出した。すなわち、防錆顔料の塗膜の表面側への濃化は、着色顔料に比べて見かけの比重が小さい、すなわち比表面積が大きい防錆顔料(例えば、多孔質シリカ)を選択することで、イミノ基型メラミン樹脂が塗膜の表層に濃化する際に防錆顔料がメラミン樹脂と共に表層に移動することで可能となる。この濃化のメカニズムについては、着色顔料と防錆顔料との見かけの比重差の効果だけではなく、イミノ基型メラミン樹脂と防錆顔料との間に化学的親和性があり、それらが互いに相互作用することで、イミノ基型メラミン樹脂の表層への濃化と共に防錆顔料が塗膜の表面側に濃化するとも考えられる。
【0055】
また、本発明のように、塗膜を形成するための塗料として水性塗料を用いた場合は、溶剤系を用いた場合よりもイミノ基型メラミン樹脂の表層への濃化が顕著であることを本発明者らは見出した。これは、塗料が硬化して塗膜が形成される際にポリエステル等と架橋しなかったイミノ基型メラミン樹脂が、水性塗料では溶剤系塗料に比べて多く存在するためであると考えられる。別の表現をすれば、水系塗料の場合には、ポリエステル樹脂等がエマルジョン状態で分散されていることで、エマルジョン粒子内側の反応性官能基(OH基)とイミノ基型メラミン樹脂の架橋反応が阻害され、余剰なイミノ基型メラミン樹脂が多くなるためであると考えられる。それにより、架橋反応よりもイミノ基型メラミンの自己縮合反応が起こりやすくイミノ基型メラミン樹脂の表層への濃化が顕著であったと考えられる。さらに、水系塗料においてイミノ基型メラミン樹脂の濃化の効果が大きいのは、水とメラミンとの相溶性が低く、水に比べイミノ基型メラミン樹脂の表面自由エネルギーが小さいことにより、イミノ基型メラミン樹脂が表層に浮上しやすくなるためであるとも考えることができる。したがって、本発明においては、イミノ基型メラミン樹脂の表層への濃化を促進するために、溶媒として水性溶媒を用いることが有効である。
【0056】
メラミン樹脂としては、本発明で用いるイミノ基型メラミン樹脂の他にメチル化メラミン樹脂やブチル化メラミン樹脂が一般的に知られている。しかしながら、水性塗料中に硬化剤としてメチル化メラミン樹脂を添加した場合は、焼付け時における防錆顔料の表層への濃化現象が顕著に発生しないこと、及び、水性塗料中に硬化剤としてブチル化メラミン樹脂を用いた場合は、水性溶媒と混合した際に塗料が固化し、塗料として使用することができないことを本発明者らは見出した。したがって、本発明のような塗膜を得るには、水性溶媒と、バインダー樹脂と、バインダー樹脂の硬化剤としてのイミノ基型メラミン樹脂との組み合わせを使用することが極めて有効である。
【0057】
このような水性塗料中のイミノ基型メラミン樹脂の性質により、塗膜中で防錆顔料が塗膜の表面側に濃化すると、塗膜中のアルミニウムのような比較的重い着色顔料は塗膜の表面側に分布しにくくなり、相対的にZn系合金めっき層側に濃化する。別の表現をすれば、防錆顔料が塗膜の表面側に濃化することにより、着色顔料は塗膜中のZn系合金めっき層側に留まるように押さえつけられる。このようにして、塗膜中の防錆顔料の比C_(B1)/C_(B2)が1.2以上5.0以下、好ましくは1.3以上4.0以下である表面処理鋼板が得られ、さらに、塗膜中の着色顔料の比C_(A1)/C_(A2)が0.2以上0.9以下である本発明に係る表面処理鋼板が得られる。また、水性塗料中のイミノ基型メラミン樹脂の性質により防錆顔料及び着色顔料をそれぞれ表層側及びZn系合金めっき層側に濃化させるには、防錆顔料の粒径及び比重を選択することが有効である。本発明に係る防錆顔料及び着色顔料の濃度分布を得るには、防錆顔料の平均粒径を0.2?10μmとし、比表面積を20m^(2)/g以上とすることが有効である。」
「【0059】
<塗膜の形成>
次いで、得られた塗料をZn系合金めっき層上に所定の厚さになるように、例えばロールコーター等で塗布し、所定のヒートパターンで焼付け、硬化させることができる。焼付けは、5?70℃/秒の加熱速度で最終的に180?230℃の鋼板温度になるように加熱する。具体的には、当該鋼板温度に加熱するプロセスにおいて、70?150℃、好ましくは100?150℃の間の温度において、1?5秒間、好ましくは1?3秒間、鋼板温度を保持することが重要である。すなわち、塗料をZn系合金めっき層上に塗布した後に、室温(例えば20℃)のめっき鋼板を一旦70?150℃に加熱し(第1加熱工程)、その温度で1?5秒間保持した後(温度保持工程)、さらに180?230℃に加熱する(第2加熱工程)ことで、本発明における塗膜が得られる。このようなヒートパターンは、2つの加熱炉で実現することができる。具体的には、塗料を塗布したZn系合金めっき鋼板の通板方向に対して、順番に、加熱炉A及び加熱炉Bを設置し、加熱炉Aと加熱炉Bとの間に加熱処理を行わない温度保持領域を設けるとよい。したがって、加熱炉Aで塗料を塗布しためっき鋼板を70?150℃の間の温度に昇温し、その温度において温度保持領域で1?5秒間保持した後、加熱炉Bで180?230℃の間の温度に昇温し、塗料を硬化させることができる。なお、上記ヒートパターンは、上述のように連続式に行ってもよいし、バッチ式に行ってもよい。
【0060】
上記のような保持温度及び保持時間で温度保持工程を実施することにより、イミノ基型メラミン樹脂の表層濃化に伴い防錆顔料を表層へ効率的に濃化させることができる。上記のような保持時間を設けない場合、及び/又は、第1加熱工程での温度が高すぎる場合は、本発明に係る防錆顔料の濃化、したがって着色顔料の濃化を効率的に得られない場合がある。特に、保持温度が150℃超となると、バインダー樹脂と硬化剤とが反応し、塗料の粘度が増加し、防錆材料が表層へ移動しにくくなるため、所望の防錆顔料の表層濃化を得られない場合がある。」

「【0065】
(塗料の調製)
水中にバインダー樹脂としてポリエステル樹脂(分子量:16,000;ガラス転移点:10℃)をエマルジョンとして分散させ、pHが8.0?9.0となるように調整した。その中にイミノ基型メラミン樹脂を混合した。ポリエステル樹脂とイミノ基型メラミン樹脂との濃度の比は100:20であった。次いで、その混合物中に、着色顔料として平均粒径10μm・平均アスペクト比25(長径X_(1):12μm、短径X_(2):8μm、厚さX_(3):0.40μm)の樹脂コーティングアルミニウム、及び、防錆顔料として平均粒径3μmのSi化合物2種(シリカA:比表面積320m^(2)/g、シリカB:比表面積180m^(2)/g)、Ba化合物2種(ホウ酸バリウムA:比表面積40m^(2)/g、ホウ酸バリウムB:比表面積4.2m^(2)/g)、Mo化合物(モリブデン酸カルシウム:比表面積80m^(2)/g)又はW化合物(酸化タングステン:比表面積40m^(2)/g)のいずれかを添加して塗料を調製した。着色顔料及び防錆顔料の添加量は、後述するように、GD-OESを用いて測定した場合に塗膜中で所望の濃度が得られるように適宜調整した。添加した防錆顔料の種類を表1に示した(Si-AはシリカA、Si-BはシリカB、Ba-Aはホウ酸バリウムA、Ba-Bはホウ酸バリウムB、Moはモリブデン酸カルシウム、及びWは酸化タングステンを示す)。また、試料No.32は、防錆顔料を添加しなかった例であり、試料No.35は、イミノ基型メラミン樹脂の代わりにメチル化メラミン樹脂を用いた例である。なお、表1には記載していないが、イミノ基型メラミン樹脂の代わりにブチル化メラミン樹脂を用いた塗料も調製したが、調製時に塗料が固化したため塗膜を形成できなかった。表1では、イミノ基型メラミン樹脂を用いたものは「イミノ基型」、メチル化メラミン樹脂を用いたものは「メチル化」と示した。
【0066】
(塗膜の形成)
上記のように調製した塗料を、形成される塗膜の平均厚さT_(1)が5μmになるようにZn系合金めっき層上にロールコーターで塗布し、焼付けることで硬化させた。焼付けは、表1に記載したような条件(到達温度A、加熱時間A、加熱速度A、保持時間、到達温度B、加熱時間B、加熱速度B)で行った。具体的には、まず、上記のZn系合金めっき層を形成しためっき鋼板の焼付け開始時の温度を20℃に維持し、当該めっき鋼板に上記の塗料を塗布後、表1に記載されるように加熱炉Aで到達温度Aまで加熱速度Aで昇温し、到達温度Aで所定の保持時間保持した後、加熱炉Bで到達温度Bまで加熱速度Bで昇温した。焼付けの際の加熱速度と鋼板の到達温度と保持時間との組み合わせを変更して、表面処理鋼板の試料の比C_(A1)/C_(A2)及び/又は比C_(B1)/C_(B2)を調整した。
【0067】
得られた塗膜から、塗膜中の着色顔料の平均濃度;塗膜中の防錆顔料の平均濃度;着色顔料についての比C_(A1)/C_(A2);及び防錆顔料についての比C_(B1)/C_(B2)を、GD-OESを用いて元素分析することで決定した。このように決定した値を表1に示した。
【0068】
<表面処理鋼板の試料の評価>
上記のように表面処理鋼板の試料を作成し、表1に示したようなめっき化学組成、着色顔料及び防錆顔料の濃度及び濃度分布並びに防錆顔料の種類を有する各試料について、以下のように耐食性及び耐黒変性の評価試験を行った。
【0069】
(耐食性の評価試験)
それぞれの試料について、耐食性の評価試験として塩水噴霧試験(JASO M609-91法に準拠)を行った。この塩水噴霧試験は、(1)塩水噴霧2時間(5%NaCl、35℃);(2)乾燥4時間(60℃);及び(3)湿潤2時間(50℃、湿度95%以上)を1サイクルとして合計120サイクル(合計960時間)実施した。端面からの腐食を防ぐため、各試料の端面をテープによりシールして試験した。各試料は幅50mm、長さ100mmとした。
【0070】
耐食性の評価は、塩水噴霧試験960時間後の試料の表面(平面部)を光学顕微鏡で観察し、錆発生面積率Zを決定することで行った。具体的には、まず、試料の表面をスキャナーで読み込んだ。その後、画像編集ソフトを用いて錆が発生している領域を選択し、錆発生面積率を求めた。この手順を5つの試料に対して行い、錆発生面積率の平均化して「錆発生面積率Z」を決定した。このように各試料で決定した「錆発生面積率Z」を基に、以下のように8段階で各試料の評点を決定した。評点3以上を耐食性の合格点とした。
評点8:Z=0%
評点7:0%<Z≦5%
評点6:5%<Z≦10%
評点5:10%<Z≦20%
評点4:20%<Z≦30%
評点3:30%<Z≦40%
評点2:40%<Z≦50%
評点1:50%<Z
【0071】
(耐黒変性の評価試験)
それぞれの試料について、耐黒変性の評価試験として、サンシャイン・カーボン・アーク灯式耐候性試験(SWOM)(JIS D0205に準拠)を行った。試験は、60分間のアークランプ噴射時間中に水を12分間噴射し、これを合計500時間行った。各試料は幅50mm、長さ50mmとした。
【0072】
耐黒変性の評価は、耐候性試験を行う前後での試料の表面の「色調変化ΔL^(*)」(試験後の試料の明度L-試験前の試料の明度L)を測定することで決定した。ΔL^(*)は、分光測色計(スガ試験機株式会社:SC-T45)を使用して、CIE表色系(L*a*b*表色系)に基づく色調測定(JIS Z8729)により決定した。測定したΔL^(*)に従って、以下のように評点を8段階で決定した。評点3以上を耐黒変性の合格とした。
評点8:ΔL^(*)≦1
評点7:1<ΔL^(*)≦2
評点6:2<ΔL^(*)≦3
評点5:3<ΔL^(*)≦4
評点4:4<ΔL^(*)≦5
評点3:5<ΔL^(*)≦6
評点2:6<ΔL^(*)≦7
評点1:7<ΔL^(*)
【0073】
表面処理鋼板の試料No.1?40について、上記のように耐食性及び耐黒変性の評価試験を行い、それぞれの評点を決定した。得られた結果を表1に示す。
【0074】
【表1】


「【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、高い耐食性を有し優れた耐黒変性を有する表面処理鋼板を提供できる。これにより、建材や家電用の製品に使用する鋼板として、短期耐食性及び長期耐食性を担保することが可能となり、さらに長期間にわたり鋼板の外観の変化を生じさせないようにすることが可能となる。したがって、本発明は産業上の価値が極めて高い発明といえるものである。」

2 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載にされた発明
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 本件優先日(平成30年5月25日)前に頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。
「[0019] 亜鉛系合金めっき層またはアルミニウム系めっき層を有するめっき金属板としては、具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)やZn-Al-Mgめっき鋼板が挙げられる。Zn-Al-Mgめっき鋼板を原板に用いると、溶融亜鉛めっき鋼板よりも優れた耐食性が得られるので、好ましい。Zn-Al-Mgめっきは、各成分の割合によって、Zn-6%Al-3%Mg、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si、微量のNiを含有するもの等が種々存在するが、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Siの成分比率のZn-Al-Mgめっき鋼板が特に好ましい。」
「[0025] プライマー層中のバナジウム化合物の含有量は、プライマー層の全固形分質量に対して、3?50質量%であることが好ましい。この含有量が3質量%未満であると、プライマー層の膜厚方向断面の下側表面(めっき金属板とプライマー層との界面)から膜厚方向に1.0μm以内の領域に、バナジウム元素を十分に密に存在させることができず、耐食性や耐薬品性が低下することが懸念されるので好ましくない。
一方、プライマー層の全固形分質量に対するバナジウム化合物の含有量が50質量%を超えると、耐食性や耐薬品性向上の効果が飽和して経済的でないだけでなく、顔料の合計含有量の上昇を招き、加工性が低下する場合があるので好ましくない。…」
「[0028] プライマー層中のマグネシウム化合物の量は、プライマー層の全固形分質量に対して、3?50質量%であることが好ましい。プライマー層の全固形分質量に対するマグネシウム化合物の含有量が3質量%未満であると、プライマー層の断面の下側表面(めっき金属板とプライマー層との界面)から膜厚方向に1.0μm以内の領域にマグネシウム元素を十分に密に存在させることができず、耐食性や耐薬品性が低下することが懸念されるので好ましくない。
一方、プライマー層の全固形分質量に対するマグネシウム化合物の含有量が50質量%を超えると、耐食性や耐薬品性向上の効果が飽和して経済的でないだけでなく、顔料の合計含有量の上昇を招き、加工性が低下する場合があるので好ましくない。…」
「[0039] 顔料粒子(バナジウム化合物である顔料粒子、マグネシウム化合物である顔料粒子、及びそれ以外の顔料粒子)の合計含有量は、プライマー層の全固形分質量に対して、15?70質量%であることが好ましい。含有量が15質量%未満であると、塗膜の剛性と凝集力とが低下することにより、鋼板のプレス加工の際に塗膜表面が金型と擦れた時に塗膜剥離が発生(塗膜齧り)しやすくなるため、好ましくない。また、合計含有量が70質量%を超えると、加工性が低下するので、好ましくない。…」
「[0045] 本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層は、防錆顔料、体質顔料、バインダー樹脂以外に、着色剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでもよい。」
「[0049] 上層皮膜の厚みは、乾燥膜厚として5?50μmであることが好ましい。5μm未満では耐薬品性や耐食性が低下することが懸念されるばかりでなく、色の隠蔽性が低下し、意匠性が十分に得られない。また乾燥膜厚が50μmを超えると加工性が悪くなる。上層皮膜の厚みは、10?25μmであることがより好ましい。」
「実施例
[0057] 以下、本発明を、実施例を用いて説明する。…実施例(本発明例)および比較例で使用した、めっき金属板、プライマー層、上層皮膜の内容を表1?表4及び以下に示す。
[0058]
<めっき金属板>
SD:Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板(板厚:0.6mm、めっき付着量:片面当たり40g/m^(2))
GI:溶融亜鉛めっき鋼板(板厚:0.6mm、めっき付着量:片面当たり40g/m^(2))
これらの原板の表裏面をアルカリ脱脂した後、クロメートフリー化成処理液(シランカップリング剤、タンニン酸、シリカ、及びポリエステル樹脂混合系)により化成処理(付着量:片面100mg/m^(2))してから使用した。めっき層は金属板の両面に形成した。
[0059]
<プライマー層>
化成処理されためっき金属板の片面にプライマー層を形成した。実施例および比較例に用いたプライマー層のバインダー樹脂に使用したフィルム形成性樹脂成分および硬化剤は、以下のとおりである。
[0060] (フィルム形成性樹脂成分)
・ポリエステル樹脂「バイロン300」(東洋紡社製;Tg7℃、数平均分子量26000、水酸基価4、酸価2以下)
[0061] (硬化剤)
・メラミン樹脂「サイメル235」(三井化学社製;メトキシ/ブトキシ混合変性メラミン樹脂)
・イソシアネート「コロネート2536」(日本ポリウレタン工業社製;ラクタムブロック/メチレンジイソシアネート(MDI))
フィルム形成性樹脂成分と硬化剤の混合比率は、硬化剤がメラミン樹脂の場合は80対20、硬化剤がイソシアネートの場合は90対10(いずれも固形分重量比率)とした。
[0062] 実施例および比較例に用いたプライマー層に使用したバナジウム化合物顔料およびマグネシウム化合物顔料、その他防錆顔料は以下のとおりである。
A:バナジン酸カルシウム
B:バナジン酸マグネシウム
C:バナジン酸カルシウム-マグネシウム
D:酸化マグネシウム
E:Caイオン交換シリカ(グレース社製:シールデックスC303)
F:リン酸アルミ(テイカ社製:K-ホワイト#82)
表1中、顔料濃度が斜体で示されているものは、粒径1.0μm未満の顔料を除去して使用したことを示している。
[0063] また、一部のプライマー層には、下記の顔料を下記の添加量(固形分重量%)で添加した。
G:硫酸バリウム(堺化学工業社製:沈降性硫酸バリウム100)5%
H:酸化チタン(石原産業社製:CR95)2%
[0064] 上記のバインダー樹脂および顔料を種々選択し、表1に示すような顔料重量濃度(PWC)、組成比率にて混合・分散し、プライマー層形成用塗布液を作製した。その後、シクロヘキサノン、ソルベッソ150(炭化水素系有機溶剤)の1対1混合溶剤を添加して希釈し、所定の塗料粘度になるように調整した。
[0065] 作製した種々のプライマー層形成用塗布液を、化成処理を施した金属板の表面に種々の乾燥膜厚になるようにバーコーターで塗布し、PMT(到達板温度)215℃に45秒で到達する条件で、高周波誘導加熱オーブンにて乾燥させた。
[0066] <上層皮膜>
プライマー層を形成させた上に、プレコート用白色塗料(日本ペイント社製の高分子ポリエステル/ブチル化メラミン硬化型FLC7000塗料(酸化チタン白色顔料を固形分濃度で50質量%含有))を、種々の乾燥膜厚になるようにバーコーターで塗布し、PMT(到達板温度)230℃に45秒で到達する条件で熱風オーブンにて乾燥させた。」

「[0086]
[表1]


「[0088]
[表3]


イ 以上から、特に実施例16に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されている。
「めっき層を金属板の両面に形成したZn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板を化成処理してから、
フィルム形成性樹脂成分であるポリエステル樹脂「バイロン300」と、硬化剤であるイソシアネート「コロネート2536」をバインダー樹脂として使用し、バナジン酸マグネシウム15固形分質量%、酸化マグネシウム15固形分質量%、硫酸バリウム5固形分質量%と酸化チタン2固形分質量%を使用した顔料と、Caイオン交換シリカ5固形分質量%とリン酸アルミ5固形分質量%を使用した防錆顔料とを使用したプライマー層形成用塗布液を作成して、これにシクロヘキサノン、ソルベッソ150の1対1混合溶剤を添加して希釈して所定の塗料粘度になるように調整して、これをZn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板の片面に塗布し、乾燥させて厚さ5μmのプライマー層を形成し、
プライマー層を形成した上に、プレコート用白色塗料である酸化チタン白色顔料を固形分濃度で50質量%含有する高分子ポリエステル/ブチル化メラミン硬化型FLC7000塗料を塗布し、乾燥させて厚さ15μmの上層皮膜を形成した、
プレコート金属板。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 本件優先日前に頒布された刊行物である甲2は、以下の記載がある。
「【請求項1】
(A)水酸基含有塗膜形成性樹脂、(B)架橋剤及び(C)防錆顔料混合物を含有する塗料組成物であって、該防錆顔料混合物(C)が、(1)五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びメタバナジン酸アンモニウムのうちの少なくとも1種のバナジウム化合物、(2)金属珪酸塩及び(3)リン酸系カルシウム塩、からなるものであって、該樹脂(A)及び該架橋剤(B)の合計固形分100質量部に対して、
該バナジウム化合物(1)の量が3?50質量部、
金属珪酸塩(2)の量が3?50質量部、及び
該リン酸系カルシウム塩(3)の量が3?50質量部
であり、かつ該防錆顔料混合物(C)の量が10?150質量部であることを特徴とする耐食性に優れた塗料組成物。」
「【0008】
本発明の目的は、塗装金属板などにおける一般部の耐食性のみならず、加工部や端面部の耐食性に優れた塗膜を形成できる非クロム系塗料組成物およびそれを用いた塗装金属板を提供することである。」
「【0033】
架橋剤(B)
架橋剤(B)は、前記水酸基含有塗膜形成樹脂(A)と反応し、硬化途膜を形成するものであり、加熱などにより前記水酸基含有塗膜形成樹脂(A)と反応して硬化させることができるものであれば特に制限なく使用することができるが、なかでもアミノ樹脂、フェノール樹脂及びブロック化されていてもよいポリイソシアネート化合物が好適である。これらの架橋剤は、1種で又は2種以上組合せて使用することができる。」
「【0046】
架橋剤(B)がブロック化ポリイソシアネート化合物である場合には、硬化剤であるブロック化ポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離を促進する硬化触媒が好適であり、好適な硬化触媒として、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、2-エチルヘキサン酸鉛などの有機金属触媒などを挙げることができる。」
「【0066】
塗装金属板
本発明塗料組成物は、金属板上に塗装し硬化させることによって塗装金属板を得ることができる。塗装される金属板としては、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、鉄-亜鉛合金メッキ鋼板(ガルバニル鋼板)、アルミニウム-亜鉛合金メッキ鋼板(合金中アルミニウムを約55%含有する「ガルバリウム鋼板」、合金中アルミニウムを約5%含有する「ガルファン」など)、ステンレス鋼板、アルミニウム板、銅板、銅メッキ鋼板、錫メッキ鋼板等の金属板が挙げられ、これらの金属板表面は、化成処理がなされていてもよい。化成処理としては、例えば、リン酸亜鉛処理やリン酸鉄処理などのリン酸塩処理、複合酸化膜処理、リン酸クロム処理、クロメート処理などを挙げることができる。
【0067】
本発明組成物は、上記金属板上に、ロールコート法、カーテンフローコート法、スプレー法、刷毛塗り法、浸漬法などの公知の方法により塗装することができる。本発明組成物から得られる塗膜の硬化膜厚は、特に限定されるものではないが、通常2?10μm、好ましくは3?6μmの範囲で使用される。塗膜の硬化は、使用する樹脂の種類などに応じて適宜設定すればよく、コイルコーティング法などによって塗装したものを連続的に焼付ける場合には、通常、素材到達最高温度が160?250℃、好ましくは180?230℃となる条件で15?60秒間焼付けられる。バッチ式で焼付ける場合には、80?200℃で10?30分間焼付けることによっても行うことができる。また、架橋剤(B)として、ブロック化していないポリイソシアネートを用いる場合や、樹脂(A)としてビスフェノール型エポキシ樹脂を用い架橋剤(B)としてアミン化合物を用いる場合のような、塗膜形成過程における架橋反応に特に加熱を必要としない組み合わせの場合には、常法に従い、常温乾燥にて硬化させることが出来る。
【0068】
本発明の塗装金属板は、化成処理されていてもよい金属板上に、上記本発明塗料組成物による塗膜が設けられており、この本発明塗料組成物による塗膜を形成した塗装金属板そのものを使用に供することができるが、さらに、この塗膜の上に上塗塗膜を設けることもできる。上塗塗膜の膜厚は、通常、8?30μm、好ましくは10?25μmであることが好適である。」
「【実施例】
【0071】
以下、製造例、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下、「部」および「%」はいずれも質量基準によるものである。」
「【0073】
製造例2 裏面用塗料の製造
エピコート#1009(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水酸基含有樹脂)80部を混合溶剤1[シクロヘキサノン/エチレングリコールモノブチルエーテル/ソルベッソ150(エッソ石油社製、高沸点芳香族炭化水素系溶剤)=3/1/1(質量比)]120部に溶解したエポキシ樹脂溶液200部に、チタン白40部、バリタ40部及び混合溶剤2[ソルベッソ150(エッソ石油社製、高沸点芳香族炭化水素系溶剤)/シクロヘキサノン=1/1(質量比)]の適当量を混合し、ツブ(顔料粗粒子の粒子径)が20ミクロン以下となるまで顔料分散を行った。次いで、この分散物にデスモジュールBL-3175(住化バイエルウレタン社製、メチルエチルケトオキシムでブロック化したHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物溶液、固形分約75%)26.7部(固形分量で20部)、タケネートTK-1(武田薬品社製、有機錫系ブロック剤解離触媒、固形分約10%)2部を加えて均一に混合し、さらに上記混合溶剤2を加えて粘度約80秒(フォードカップ#4/25℃)に調整して裏面用塗料を得た。
【0074】
防錆塗料組成物の製造
実施例1
エピコート#1009(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水酸基含有樹脂)85部を混合溶剤1[シクロヘキサノン/エチレングリコールモノブチルエーテル/ソルベッソ150(エッソ石油社製、高沸点芳香族炭化水素系溶剤)=3/1/1(質量比)]135部に溶解したエポキシ樹脂溶液225部に、五酸化バナジウム5部、メタ珪酸カルシウム3部、リン酸カルシウム3部、チタン白20部、バリタ20部及び混合溶剤2[ソルベッソ150(エッソ石油社製、高沸点芳香族炭化水素系溶剤)/シクロヘキサノン=1/1(質量比)]の適当量を混合し、ツブ(顔料粗粒子の粒子径)が20ミクロン以下となるまで顔料分散を行った。次いで、この分散物にデスモジュールBL-3175(住化バイエルウレタン社製、メチルエチルケトオキシムでブロック化したHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物溶液、固形分約75%)20部(固形分量で15部)、タケネートTK-1(武田薬品社製、有機錫系ブロック剤解離触媒、固形分約10%)2部を加えて均一に混合し、さらに上記混合溶剤2を加えて粘度約80秒(フォードカップ#4/25℃)に調整して防錆塗料組成物を得た。」
「【0076】
表1に樹脂成分(水酸基含有樹脂と架橋剤との合計固形分質量100質量部)に対する各防錆顔料の量の合計を、25℃の5質量%濃度の塩化ナトリウム水溶液10000質量部に添加して6時間攪拌し25℃で48時間静置した上澄み液を濾過した濾液のpH(防錆顔料溶解液のpH)も記載する。例えば、実施例1の防錆顔料溶解液のpHは、25℃の5質量%濃度の塩化ナトリウム水溶液10000質量部に、五酸化バナジウム5質量部、メタ珪酸カルシウム3質量部及びリン酸カルシウム3質量部を添加して上記条件にて溶解させた上澄み液を濾過した濾液のpHである。
【0077】
【表1】


【0078】
【表2】

【0079】
上記表1において、表中の(注)は、それぞれ下記の意味を有する。
(注1)エポキー837:三井化学(株)社製、商品名、ウレタン変性エポキシ樹脂、水酸基含有樹脂、1級水酸基価約35、酸価約0。
(注2)バイロン296:東洋紡績(株)社製、商品名、エポキシ変性ポリエステル樹脂、水酸基含有樹脂、水酸基価7、酸価6。
(注3)アラキード7018:荒川化学(株)社製、商品名、ポリエステル樹脂、水酸基含有樹脂、水酸基価約10、酸価3以下。
(注4)スミジュールN3300:住化バイエルウレタン(株)社製、イソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物、固形分100%
(注5)サイメル303:日本サイテックインダストリイズ(株)社製、商品名、メチルエーテル化メラミン樹脂。
(注6)sandvor3058:クラリアント社製、商品名、ヒンダードアミン系紫外線安定剤。
【0080】
試験用塗装板の作成
上記実施例1?21、比較例1?8ならびに参考例1及び2で得た各防錆塗料組成物及び上塗塗料を用い、下記の塗装仕様にて各素材に塗装し焼付けを行い、各試験用塗装板を得た。
【0081】
塗装仕様1:
化成処理が施されたガルバリウム鋼板(板厚0.35mm、アルミニウム-亜鉛合金メッキ鋼板、合金中アルミニウムを約55%含有、合金メッキ目付量150g/m^(2)、表2中「GL鋼板」と表示する。)に、前記製造例2で得た裏面用塗料を乾燥膜厚8μmとなるようにバーコーターにて塗装し、素材到達最高温度が180℃となるようにして30秒間焼き付けて裏面塗膜を形成した。この裏面塗膜を形成した塗装板の裏面塗膜と反対側の鋼板面に、上記各例で得た各防錆塗料組成物を乾燥膜厚5μmとなるようにバーコーターにて塗装し、素材到達最高温度が220℃となるようにして40秒間焼き付けて各プライマー塗膜を形成した。冷却後、これらのプライマー塗膜上に、KPカラー1580B40(関西ペイント社製、商品名、ポリエステル系上塗塗料、青色、硬化塗膜のガラス転移温度約70℃)をバーコーターにて乾燥膜厚が約15μmとなるように塗装し、素材到達最高温度が220℃となるようにして40秒間焼き付けて各試験用塗装板を得た。」
「【0101】
【表3】


【0102】
【表4】


イ 以上から、特に実施例1で得た防錆塗料組成物及び上塗塗料を用いて塗装仕様1によって得られた試験用塗装板に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されている。なお、甲2の【0071】には、「以下、「部」および「%」はいずれも質量基準によるものである。」と記載されていることから、甲2の実施例中に記載の「部」は、「質量部」、「%」は「質量%」と読み替えて認定した。
「化成処理が施され、合金中アルミニウムを約55質量%含有されたアルミニウム-亜鉛合金メッキ鋼板であるガルバリウム鋼板に、裏面用塗料を鋼板面に塗装し焼き付けて裏面塗膜を形成し、
水酸基含有成分であるエピコート#1009 85質量部をシクロヘキサン/エチレングリコール/ソルベッソ150=3/1/1(質量比)の混合溶剤1に溶解したエポキシ樹脂溶液225質量部に、5酸化バナジウム5質量部、メタケイ酸カルシウム3質量部、リン酸カルシウム3質量部を含む防錆顔料と、チタン白20質量部とバリタ20質量部を含むその他顔料とソルベッソ150/シクロヘキサン=1/1(質量比)の混合溶剤2の適当量を混合し、ツブ(顔料素粒子の粒子径)が20ミクロン以下となるまで顔料分散を行い、次いで、この分散物に硬化剤であるメチルエチルケトオキシムでブロック化したHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物溶液のデスモジュールBL-3175 20質量部、タケネートTK-1 2質量部を加えて均一に混合し、さらに上記混合溶剤2を加えて粘度約80秒に調整して得た防錆塗料組成物を、裏面塗膜と反対側の鋼板面に、乾燥膜厚5μmとなるように塗装し、焼き付けてプライマー塗膜を形成し、
冷却後、プライマー塗膜上に、KPカラー1580B40を乾燥膜厚が15μmとなるように塗膜し、焼き付けた、
試験用塗装板。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲3の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には、以下の記載がある。
「【請求項3】
脂肪酸変性樹脂(A)、イミノ基含有メラミン樹脂(B)及び活性メチ
レンブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分合計100質量部を基準にして、下記特徴の二酸化チタンを10?150質量部含有する請求項1又は2に記載の塗料組成物。
二酸化チタン:二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムの少なくとも2種類の表面処
理を施した二酸化チタンであって、該二酸化チタンの固形分に基づいて、二酸化ケイ素1.0?8.0質量%及び酸化アルミニウム2.0?4.5質量%の割合で表面処理されてなる二酸化チタン顔料」
「【0061】
塗膜形成方法(1)
本発明の塗膜形成方法としては、例えば、化成処理が施されていてもよい金属板上に、プライマー塗膜を施し又はプライマー塗膜を施さずに、前記本発明の塗料組成物による塗膜を形成する方法が挙げられる。」

(4)甲4の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲4には、以下の記載がある。
「1.金属素材上にプライマーを塗装し、ついで上塗としてポリ塩化ビニルプラスチゾルを塗装して、高光沢仕上げ塗膜を得るための該上塗塗料組成物が、
(A)重合度が650?1200のポリ塩化ビニル、又は塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合比が固形分比で98/2?88/12の範囲で、且つ重合度が1000?1800の塩化ビニル・酢酸ビニル共重合物60?90重量部及び
(B)可塑剤10?40重量部の合計100重量部に対して、
(C)無機顔料3?15重量部及び/又は有機顔料0.5?10重量部
を加えてなることを特徴とするポリ塩化ビニルプラスチゾル塗料組成物。」




(5)甲5の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲5には、以下の記載がある。
「【0004】
そこで上塗り塗膜は、装飾性の目的のみならず、従来は中塗りによって目的が達成されていた下塗りの隠蔽、耐チッピング、耐候性等の機能をも求められる。特に、日射による高温、風雨による多湿等の環境、即ち屋外で利用される自動車の塗装技術では、高い耐候性と装飾性との両者が求められる。従来の自動車の塗装技術では基本的に、車体の内外の表面に化成処理等を施した上で、錆防止を目的とする電着塗装(下塗り)を施す。更に耐チッピングを目的とする中塗りを施して基準色に塗装した下地の上に、所望の色で装飾性を目的とする上塗り塗装を施す。」
「【0254】
図11は、本実施の形態にて実施例の塗膜を形成するために調製した塗料の配合量を示す説明図である。図11に示すように、予め単位配合量当たりの吸収係数K_(i)及び散乱係数S_(i)が求めてある顔料1?7を用いたペースト(製造例1?6、及びアルミペースト)を用い、選定された顔料、配合量にて配合した塗料A?Iを調製した。
【0255】
塗料Aは、ブラックの塗膜を形成するための塗料である。塗料Aは、顔料1の配合量が選定された2.8質量%となるように製造例1のブラックペーストを20.0部用いて調整した。塗料Aは、当該ブラックペーストに、主たるバインダーとしてアクリルエマルション樹脂を100.0部、サイメル327を16.7部、ブチルセロソルブを25.0部混合した後、粘性剤(増粘剤)としてアデカノールUH-814Nを1.0部混合して攪拌し、イオン交換水を150.0部加えて得た。」

(6)甲6の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲6には、以下の記載がある。
「【請求項1】
赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料及び艶調整材を含む塗料組成物であって、塗装して得られる塗膜に対して45度の角度から照射した光を正反射光に対して45度の角度で受光した光の分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*が0?40の範囲内である塗料組成物。」
「【請求項3】
艶調整材が微粉シリカである1項又は2項に記載の塗料組成物。」
「【0018】
本発明の塗料組成物における艶調整材の好ましい配合量は、塗料組成物中のビヒクル固形分100質量部に対して、1?50質量部である。1質量部未満では、塗膜の光沢を抑制する効果が不十分であり、50質量部を超えると塗膜の仕上がり外観が低下する恐れがある。より好ましくは5?30質量部である。」

(7)甲7の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲7には、以下の記載がある。
「【請求項2】
原料鱗片状アルミニウムフレークの平均粒径(d50)が2から40μm、平均厚み(t)が0.01から2μm、平均アスペクト比(平均厚み(t)に対する平均粒径(d50)の比)が10から2500である請求項1に記載の有機モリブデン化合物含有アルミニウム顔料組成物の製造方法。」
「【0007】
以下、本発明について、特にその好ましい態様を中心に、詳細に説明する。本発明に用いるアルミニウムフレークとしては、表面光沢性、白度、光輝性等メタリック顔料用に要求される表面性状、粒径、形状を有するものが適している。形状としては、鱗片状のものが好ましい。アルミニウムフレークについて例示すると、平均粒径(d50)が2から40μmであり、平均厚み(t)が0.01から2μmの範囲であることが好ましく、平均アスペクト比が10から2500の範囲であることが好ましい。ここで、平均粒径(d50)は、レーザー法(LMS-24;セイシン企画株式会社製)により求められる。平均厚み(t)は、測定により得られたアルミニウム金属成分1g当たりの水面拡散面積WCA(m2/g)を用いて下記式により算出した値である。
t=0.4/WCA
上記した平均厚みの算出方法は、例えば、Aluminium Paint and Powder,J.D.Edwards & R.I.Wray著、第3版、Reinhold Publishing Corp.New York(1955)の第16から22頁に記載されている。水面拡散面積は、一定の予備処理を行ったのち、JIS K 5906:1998に従って求める。なお、JISに記載されている水面拡散面積の測定方法はリーフィングタイプの場合のものであるのに対し、本発明のアルミニウム顔料はノンリーフィングタイプである。しかし、本発明における水面拡散面積の測定方法は、試料を5%ステアリン酸のミネラルスピリット溶液で予備処理を行う以外は、全てJIS K 5906:1998に記載のリーフィングタイプの場合と同様である。試料の予備処理については、塗料原料時報、第156号、第2から16頁(1980.9.1旭化成工業株式会社発行)に記載されている。平均アスペクト比は、アルミニウムフレークの平均粒径(d50)を平均厚み(t)で割った値である。また、アルミニウムフレークが含有する有機溶剤可溶不揮発性成分は、原料鱗片状アルミニウムフレーク中のアルミニウム金属成分100重量部に対して0.7重量部以下、好ましくは0.6重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。ここでいう有機溶剤可溶不揮発性成分とは、原料である鱗片状アルミニウムフレークを50重量倍のクロロホルム中で攪拌洗浄し、ろ過によりアルミニウム金属成分を除去した抽出液をエバポレーター(湯浴25℃)で濃縮した後の残渣不揮発成分を言う。」

(8)甲8の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲8には、以下の記載がある。
「厳しい腐食環境でもガルバリウム鋼板を超える耐食性を実現。
カラー鋼板の下地としても最適で、加工性も良好です。」
「次世代ガルバリウム鋼板 SGL」
「3倍超のメカニズム(55%Al+2%Mg)
ガルバリウム鋼板のめっき構造を引き継ぎつつ、マグネシウム添加により、その特徴をさらに引き出すめっき構造を有しています。」
「3倍超の事実
独自の耐食性向上メカニズムにより、きわめて高い耐食性を有しています。その実力は、各種試験や限界評価によっても実証されています。」

3 申立理由1-1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「めっき層を金属板の両面に形成し」、「化成処理」された「Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板は、「鋼板」と「前記鋼板上の少なくとも片面に形成されたZn系合金めっき層」を有しているものと認められるから、本件発明1の「鋼板、前記鋼板上の少なくとも片面に形成されたZn系合金めっき層」に相当する。

(イ)甲1発明のプライマー層形成用塗布液の顔料における「硫酸バリウム5固形分質量%と酸化チタン2固形分質量%を使用した顔料」と、上層皮膜を形成するためのプレコート用白色塗料中の「酸化チタン白色顔料」は、本件発明1における「前記着色顔料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、アルミニウム、又はカーボンブラック」に含まれる顔料であることから、本件発明1の「着色顔料」に相当する。
甲1発明のプライマー層形成用塗布液における「Caイオン交換シリカ5固形分質量%とリン酸アルミ5固形分質量%を使用した防錆顔料」は、本件発明1の「防錆顔料」に相当する。
甲1発明のプライマー層形成用塗布液における「フィルム形成性樹脂成分であるポリエステル樹脂「バイロン300」と、硬化剤であるイソシアネート「コロネート2536」」を使用した「バインダー樹脂」は、本件発明1の「バインダー樹脂」に相当する。
そうすると、甲1発明の「フィルム形成性樹脂成分であるポリエステル樹脂「バイロン300」と、硬化剤であるイソシアネート「コロネート2536」をバインダー樹脂として使用し、バナジン酸マグネシウム15固形分質量%、酸化マグネシウム15固形分質量%、硫酸バリウム5固形分質量%と酸化チタン2固形分質量%を使用した顔料と、Caイオン交換シリカ5固形分質量%とリン酸アルミ5固形分質量%を使用した防錆顔料とを使用したプライマー層形成用塗布液を作成して、これにシクロヘキサノン、ソルベッソ150の1対1混合溶剤を添加して希釈して所定の塗料粘度になるように調整して、これをZn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板の片面に塗布し、乾燥させて」形成した「厚さ5μmのプライマー層」と、「プライマー層を形成した上に、プレコート用白色塗料である酸化チタン白色顔料を固形分濃度で50質量%含有する高分子ポリエステル/ブチル化メラミン硬化型FLC7000塗料を塗布し、乾燥させ」て形成した「厚さ15μmの上層皮膜」は、これらを併せたものが、本件発明1の「前記Zn系合金めっき層上に形成され、着色顔料と防錆顔料とバインダー樹脂とを含む平均厚さT_(1)の塗膜」に相当する。

(ウ)甲1発明の「プレコート金属板」は、本件発明1の「表面処理鋼板」に相当する。

(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明との「一致点」並びに「相違点1」及び「相違点2」は以下のとおりである。
(一致点)
「鋼板、前記鋼板上の少なくとも片面に形成されたZn系合金めっき層、及び前記Zn系合金めっき層上に形成され、着色顔料と防錆顔料とバインダー樹脂とを含む平均厚さT_(1)の塗膜を有し、
前記着色顔料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、アルミニウム、又はカーボンブラックである、
表面処理鋼板。」

(相違点1)
本件発明1では、「前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)」「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」「の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」であるのに対し、甲1発明では、「厚さ5μmのプライマー層には硫酸バリウム5重量%と酸化チタン2重量%、厚さ15μmの上層皮膜には酸化チタン50質量%を含有している」である点。

(相違点2)
本件発明1の「前記Zn系合金めっき層の化学組成が、質量%で」、「Al:0.01?60%」、「Mg:0.001?10%」、及び「Si:0?2%」と「質量%」で化学組成が特定されているのに対し、甲1発明では、「Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si」と表記され、「質量%」で特定されているものか明らかではない点。

イ 相違点1に係る容易想到性の判断
(ア)本件明細書の【0029】、【0034】によれば、塗膜中の着色顔料の平均濃度を、質量%で、5?15%として、平均濃度の比C_(A1)/C_(A2)を0.2?0.9とすることで、一般的な塗装鋼板の塗膜に比べ比較的薄い膜厚であっても、塗膜の表面に垂直な方向から観察した場合に着色顔料がZn系合金めっき層を十分に覆い隠す量を確保でき、塗膜の表面から着色顔料が突出するのを十分に抑制することができる結果、高い耐食性を維持しつつ、着色顔料がZn系合金めっき層の黒変を見えなくし、それにより外観上の変化を抑制でき優れた耐黒変性を得ることができるとしている。そして、本件明細書の表1に記載された実施例2?7、9?19、21?24、26?31、36?40は、比較例よりも耐食性と耐黒変性が総合して良好である旨が示されている。
したがって、本件発明1は、上記塗膜中の着色顔料の平均濃度を、質量%で、5?15%として、平均濃度の比C_(A1)/C_(A2)を0.2?0.9とすることにより、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得られるものと認められる。

(イ)他方、甲1の請求の範囲、[0002]?[0010]、[0013]によれば、甲1に記載された発明は、耐食性に加えて高度の耐薬品性を備えたプレコート金属板を提供することを目的としており、めっき金属板と、前記めっき金属板の表面に形成されたプライマー層と、前記プライマー層の表面に形成された上層皮膜と、を有し、前記プライマー層が、バインダー樹脂と、バナジウム化合物及びマグネシウム化合物を含む顔料粒子とを含む、プレコート金属板に関するものであって,プライマー層中のバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の分布が層内下部に密に存在するようにコントロールすることにより、プライマー層の下部に、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物の濃度が薄い部分が形成されない、優れた耐食性及び高度の耐薬品性を備えるプレコート金属板が得られるというものである。
上記ア(イ)のとおり、甲1発明の「プライマー層」と「上層皮膜」を併せたものが、本件発明1の「塗膜」に相当するものであるが、甲1発明は、「厚さ5μmのプライマー層」において「硫酸バリウム5重量%と酸化チタン2重量%」、「プライマー層の上の厚さ15μmの上層皮膜」において「酸化チタン50質量%」を含有している。
しかし、甲1には、「前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)」「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」「の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)」が「0.2?0.9」となりうることや、そもそも塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させることについては記載も示唆もない。さらに、甲1には高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることについても記載も示唆もされていない。
また、甲3?7にも「C_(A1)/C_(A2)」が「0.2?0.9」とすることについて記載も示唆もされていないのみならず、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることや塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させることについても記載も示唆もされていない。
さらに、上記「C_(A1)/C_(A2)」を「0.2?0.9」とするように、塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させて高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることが技術常識であるともいえない。
そうすると、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることを目的としておらず、塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させることを考慮していない甲1発明において、相違点1に係る特定事項を備えようとする動機付けがない。

(ウ)さらに、本件発明1の高い耐食性を有し耐黒変性に優れたとの効果は、甲1発明若しくは甲1及び甲3?7に記載された事項から予測可能なものとはいえず、顕著な効果であるといえる。

(エ)したがって、甲1発明において、「前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(オ)なお、申立人は、特許異議申立書の第23?24頁において、概略、甲1の【0039】、【0045】の「顔料粒子(バナジウム化合物である顔料粒子、マグネシウム化合物である顔料粒子、及びそれ以外の顔料粒子)の合計含有量は、プライマー層の全固形分質量に対して、15?70質量%含む」、「本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層は、防錆顔料、体質顔料、バインダー樹脂以外に、着色剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでいてもよい」との記載、甲1の【0025】、【0028】における「プライマー層中のバナジウム化合物の含有量は、プライマー層中の全固形分質量に対して、3?50質量%であることが好ましい」、「プライマー層中のマグネシウム化合物の含有量は、プライマー層中の全固形分質量に対して、3?50質量%であることが好ましい」との記載から、プライマー層のZn系合金めっき層側の濃度(C_(A2))を64質量%とし、上層皮膜における着色顔料の濃度(C_(A1))を50質量%とすることによって、C_(A1)/C_(A2)を0.78に設定することも可能であり、加えてプライマー層のZn系合金めっき層側の濃度(C_(A2))を64質量%とし、上層皮膜における着色顔料の濃度(C_(A1))を50質量%とすることは、甲1発明の範囲に包含されるものであり、当業者が甲1発明の実施に当たって条件を適宜変更することで容易に得られる条件であり、甲3?5等の公知技術を参照し、C_(A1)として用いることも可能であり、その場合もC_(A1)/C_(A2)を0.2?0.9の範囲内に設定することが可能である旨を主張する。
しかしながら、上記のとおりプライマー層における顔料の含有量は硫酸バリウム5固形分重量%と酸化チタン2固形分重量%であり、プライマー層のZn系合金めっき層側の濃度(C_(A2))は5固形分重量%と2固形分重量%とで7固形分重量%になると認められるが、上記(イ)のとおり、甲1には塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させることや、甲1には高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることについて記載も示唆もなく、甲3?5においても同様にこれらのことについて記載も示唆もなく、甲1発明のみから、もしくは甲1発明と甲3?5に記載された技術により、プライマー層のZn系合金めっき層側の濃度(C_(A2))を64質量%と増加させる動機付けはない。
なお、仮に、プライマー層のZn系合金めっき層側の顔料の濃度(C_(A2))を64質量%にすることができたとしても、上記のとおり、上層皮膜は酸化チタン白色顔料を50質量%含有しており、プライマー層と上層皮膜中の顔料の平均濃度は、明らかに本件発明1における「前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%」の範囲を逸脱してしまい、この点で本件発明1と甲1発明との相違点が生じ、この相違点を解消する理由はない。
よって、申立人の主張を採用できない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明若しくは甲1に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?5も、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明若しくは甲1に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)申立理由1-1(進歩性)のまとめ
以上のとおりであるから、甲1を主たる引用例とする申立理由1-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由1-2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「化成処理が施され、合金中アルミニウムを約55質量%含有されたアルミニウム-亜鉛合金メッキ鋼板であるガルバリウム鋼板」は、メッキ鋼板であることから少なくとも鋼板の片方にはアルミニウム-亜鉛合金メッキが形成され、また、アルミニウム-亜鉛合金メッキであることからアルミニウムの含有量の方が多いが亜鉛を含んだメッキであると認められる。
他方、本件発明1では「前記Zn系合金めっき層の化学組成が、質量%で」、「Al:0.01?60%…」とZnを含んだめっきにおいて、Alの方がZnよりも多く含まれる場合であっても「Zn系合金めっき」とするものと認められるから、甲2発明の「化成処理が施され、合金中アルミニウムを約55質量%含有されたアルミニウム-亜鉛合金メッキ鋼板であるガルバリウム鋼板」は、本件発明1の「鋼板」と「前記鋼板上の少なくとも片面に形成されたZn系合金めっき層」に相当する。

(イ)チタン白は酸化チタンであり、本件発明1の「前記着色顔料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、アルミニウム、又はカーボンブラックであ」るの構成に含まれるものであるから、甲2発明の防錆塗料組成物における「チタン白20質量部」「を含むその他顔料」は、本件発明1の「着色顔料」に相当する。
甲2発明の防錆塗料組成物における「5酸化バナジウム」と「メタケイ酸カルシウム」と「リン酸カルシウム」「を含む防錆顔料」は、本件発明1の「防錆顔料」に相当する。
甲2の【0033】には、「架橋剤(B)は、前記水酸基含有塗膜形成樹脂(A)と反応し、硬化途膜を形成するものであり」と記載され、甲2の【0046】には、「架橋剤(B)がブロック化ポリイソシアネート化合物である場合には、硬化剤であるブロック化ポリイソシアネート化合物」と記載され、甲2発明の「水酸基含有成分であるエピコート#1009」は甲2の【0033】に記載の「水酸基含有塗膜形成樹脂(A)」であり、甲2発明の「メチルエチルケトオキシムでブロック化したHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物溶液のデスモジュールBL-3175」は「ブロック化ポリイソシアネート化合物」からなる硬化剤で「架橋剤(B)」であり、これらで硬化塗膜を形成するものであって、本件発明1の塗膜の成分として使用される「バインダー樹脂」と同様の機能を有しているから、甲2発明の防錆塗料組成物における「水酸基含有成分であるエピコート#1009 85質量部」と「硬化剤であるメチルエチルケトオキシムでブロック化したHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物溶液のデスモジュールBL-3175 20質量部」は、本件発明1の「バインダー樹脂」に相当する。
そうすると、甲2発明の「水酸基含有成分であるエピコート#1009 85質量部をシクロヘキサン/エチレングリコール/ソルベッソ150=3/1/1(質量比)の混合溶剤1に溶解したエポキシ樹脂溶液225質量部に、5酸化バナジウム5質量部、メタケイ酸カルシウム3質量部、リン酸カルシウム3質量部を含む防錆顔料と、チタン白20質量部とバリタ20質量部を含むその他顔料とソルベッソ150/シクロヘキサン=1/1(質量比)の混合溶剤2の適当量を混合し、ツブ(顔料素粒子の粒子径)が20ミクロン以下となるまで顔料分散を行い、次いで、この分散物に硬化剤であるメチルエチルケトオキシムでブロック化したHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物溶液のデスモジュールBL-3175 20質量部、タケネートTK-1 2質量部を加えて均一に混合し、さらに上記混合溶剤2を加えて粘度約80秒に調整して得た防錆塗料組成物を、裏面塗膜と反対側の鋼板面に、乾燥膜厚5μmとなるように塗装し、焼き付けて」形成した「プライマー塗膜」と、「冷却後、プライマー塗膜上に、KPカラー1580B40を乾燥膜厚が15μmとなるように塗膜し、焼き付け」た膜は、これらを併せたものが、本件発明1の「前記Zn系合金めっき層上に形成され、着色顔料と防錆顔料とバインダー樹脂とを含む平均厚さT_(1)の塗膜」に相当する。

(ウ)甲2発明の「試験用塗装板」は、本件発明1の「表面処理鋼板」に相当する。

(エ)以上によれば、本件発明1と甲2発明との「一致点」並びに「相違点3」及び「相違点4」は以下のとおりである。
(一致点)
「鋼板、前記鋼板上の少なくとも片面に形成されたZn系合金めっき層、及び前記Zn系合金めっき層上に形成され、着色顔料と防錆顔料とバインダー樹脂とを含む平均厚さT_(1)の塗膜を有し、
前記着色顔料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、アルミニウム、又はカーボンブラックである表面処理鋼板。」

(相違点3)
本件発明1では、「前記Zn系合金めっき層の化学組成が、質量%で、Al:0.01?60%、Mg:0.001?10%、及びSi:0?2%」であるのに対し、甲2発明では、「アルミニウム-亜鉛合金メッキは」、「アルミニウムを約55質量%含有」している点。

(相違点4)
本件発明1では、「前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)」「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」「の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」であるのに対し、甲2発明では、「乾燥膜厚5μmのプライマー層中のチタン白は、20質量部で、全組成物は151質量部」であり、さらに、甲2発明の上塗塗装中に含まれる着色顔料の物質、着色顔料の平均濃度が特定できず、プライマー層と上塗塗装とからなる塗装中に含まれる着色顔料の平均濃度比「C_(A1)/C_(A2)」も規定されていない点。

イ 相違点4に係る容易想到性の判断
(ア)事案を鑑み、相違点4から検討する。上記3でも検討したとおり、本件発明1は、上記塗膜中の着色顔料の平均濃度を、質量%で、5?15%として、平均濃度の比C_(A1)/C_(A2)を0.2?0.9とすることにより、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得られるものと認められる。

(イ)他方、甲2の特許請求の範囲、【0001】?【0009】によれば、甲2に記載された発明は、塗装金属板などにおける一般部の耐食性のみならず、加工部や端面部の耐食性に優れた塗膜を形成できる非クロム系塗料組成物およびそれを用いた塗装金属板を提供することを目的としており、水酸基含有塗膜形成性樹脂、架橋剤及び防錆顔料混合物を含有する耐食性に優れた塗料組成物に関するものであって、水酸基含有塗膜形成性樹脂系に、防錆顔料として、特定のバナジウム化合物、特定の珪素含有物及びリン酸系カルシウム塩を所定量配合した塗料組成物によって、平面部の耐食性のみならず、塗装金属板などにおける加工部や端面部の耐食性に優れた塗膜を形成できるというものである。
上記ア(イ)のとおり、甲2発明の「プライマー層」とその上の膜とを併せたものが、本件発明1の「塗膜」に相当するものであるが、甲2発明は、これらの層のうち、プライマー層中のチタン白は、20質量部で、全組成物は151質量部(=85(エピコート#1009)+15(デスモジュールBL3115)+5(5酸化バナジウム)+3(メタケイ酸カルシウム)+3(リン酸カルシウム)+20(チタン白)+20(バリタ))である。
しかし、甲2には、「前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)」「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」「の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)」が「0.2?0.9」となりうることや、そもそも塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させることについては記載も示唆もない。さらに、甲2には、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることについても記載も示唆もされていない。
また、甲3?8にも「C_(A1)/C_(A2)」が「0.2?0.9」とすることや塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させることについて記載も示唆もされていないのみならず、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることについても記載も示唆もされていない。
さらに、上記3でも検討したとおり、上記「C_(A1)/C_(A2)」を「0.2?0.9」とするように、塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させて高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることも技術常識であるともいえない。
そうすると、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を得ることを目的としておらず、塗膜中で着色顔料をめっき層側に濃化させることを考慮していない甲2発明において、相違点3に係る特定事項を備えようとする動機付けがない。

(ウ)さらに、本件発明1の高い耐食性を有し耐黒変性に優れたとの効果は、甲2発明若しくは甲2及び甲3?8に記載された事項から予測可能なものとはいえず、顕著な効果であるといえる。
したがって、甲2発明において、「前記塗膜中の前記着色顔料の平均濃度が、質量%で、5?15%であり、前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(エ)なお、申立人は、特許異議申立書の第27?28頁において、当審が相違点4として判断した事項に関連して、概略、甲3の「塗料組成物中に二酸化チタンを9?60質量%程度含有させること(請求項3等)」、甲4の「上塗塗料組成物において、チタン白を9質量%程度含有させること(第5頁の表1)」、甲5の「表面処理鋼板上に形成する塗膜用の組成物中に、カーボンブラックを11質量%程度含有させること(図11の表中の塗料A)」のような周知技術を採用して、上塗塗膜における着色顔料の濃度(C_(A1))を規定することは容易なことであり、例えば甲3に開示された周知技術に基づいて甲2発明における上塗塗膜中の着色顔料の濃度を設定した場合、C_(A1)は9?60質量%程度となり、上記C_(A1)/C_(A2)は0.2?0.9の範囲内に含まれることになる旨を主張する。
しかしながら、上記(イ)で検討したとおり、C_(A1)/C_(A2)は0.2?0.9の範囲内に含まれるように二酸化チタンの範囲を限定して甲3等の「塗料組成物中に二酸化チタンを9?60質量%程度含有させる」技術を採用する動機付けはないことから、上記申立人の主張を採用することはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明若しくは甲2に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?5について
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?5も、本件発明1と同様の理由で、甲2に記載された発明若しくは甲2に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由1-2(進歩性)のまとめ
以上のとおりであるから、甲2を主たる引用例とする申立理由1-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由2(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10042号、同年11月11日特別部判決)。以下、検討する。

(2)本件発明1について
ア 上記本件明細書【0001】、【0012】?【0014】の記載から、本件発明の解決すべき課題(以下、単に「課題」という。)は、Zn系合金めっき鋼板において、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供することである。

イ 本件明細書の記載によれば、上記課題は、表面処理鋼板において、以下のA、Bの各要件を備えることによって、解決できるとされている。
A 塗膜中の着色顔料の平均濃度(平均含有量)は、質量%で、5?15%であること(【0029】等)
B 塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する着色顔料の平均濃度C_(A1)と、塗膜のZn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)は0.2以上0.9以下であって、幅T_(2)は以下の式:T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmで決定されること(【0031】?【0032】等)

ウ また、本件明細書の【0074】【表1】には、各種の表面処理鋼板の例が記載されている。
本件明細書の【0074】【表1】中の試料No.1?8は、着色顔料平均濃度が10質量%で上記イAの要件を満たすものであり、Bの要件である着色顔料濃度比C_(A1)/C_(A2)の値を異なるものとしている。そして、上記イBの要件を満たす実施例である試料No.2?7は、耐食性評点と耐黒変性評点が合格点である3以上で、耐食性と耐黒変性が優れたものと評価されている一方、上記イBの要件を満たさない比較例である試料No.1は耐黒変性評点が1で合格点ではなく、耐黒変性が不十分であり、また比較例の試料No.8は耐食性評点と耐黒変性評点が共に1で合格点ではなく、耐食性と耐黒変性が不十分であると評価されている。
本件明細書の【0074】【表1】中の試料No.20?25は、着色顔料濃度比C_(A1)/C_(A2)が0.5で上記イBの要件を満たすものであり、上記イAの要件である塗膜中の着色顔料の平均濃度を変更したものとしている。そして、上記イAの要件を満たす実施例である試料No.21?24は、耐食性評点と耐黒変性評点が合格点である3以上で、耐食性と耐黒変性が優れたものであると評価されている一方、上記イAの要件を満たさない比較例の試料No.20は耐黒変性評点が2で合格点ではなく、耐黒変性が不十分であり、また比較例である試料No.8は耐食性評点が2で合格点ではなく、耐食性が不十分であると評価されている。
本件明細書の【0074】【表1】中の比較例であるNo.32は、着色顔料平均濃度が10質量%であるが、着色顔料濃度比C_(A1)/C_(A2)が1であり、上記イAの要件を満たすが、上記イBの要件を満たすものではない。そして、比較例の試料No.32は耐食性評点が1、耐黒変性評点2で合格点ではなく、耐食性と耐黒変性が不十分であると評価されている。
本件明細書の【0074】【表1】中の比較例であるNo.33?35は、着色顔料平均濃度が10質量%であるが、着色顔料濃度比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9の範囲になく、上記イAの要件を満たすが、上記イBの要件を満たすものではない。そして、比較例である試料No.33は耐食性評点と耐黒変性評点が共に2で合格点ではなく、比較例である試料No.34は耐食性評点が1で合格点ではなく、比較例である試料No.35は耐食性評点と耐黒変性評点が共に1で合格点ではない。
そして、本件明細書の【0074】【表1】中のその他の実施例であるNo.9?19、26?31、36?40も上記イA、Bの要件を満たしており、耐食性評点と耐黒変性評点も共に3以上で、耐食性と耐黒変性が優れたものであると評価されている。
そうすると、実施例である試料No.2?7、9?19、21?24、26?31、36?40は、上記イA、Bの各要件を備えるものである一方、比較例である試料No.1、8、20、25、32?35は上記イA、Bの要件を全て満たすものではないところ、上記イA、Bの各要件を備えた上記実施例である試料No.2?7、9?19、21?24、26?31、36?40は、高い耐食性を有し耐黒変性に優れたZn系合金めっき鋼板であることが理解できる。

エ 他方、上記実施例以外の場合であっても、上記イA、Bの各要件を備えるZn系合金めっき鋼板が上記課題を解決し得るものであるかについて、本件明細書の記載に基いて検討すると、本件明細書【0029】、【0031】?【0032】、【0034】には、上記イA、Bの要件を備えることで、着色顔料の平均濃度を質量%で、5?15%の範囲にするとともに、Zn系合金めっき層との界面付近に着色顔料を濃化させることで、たとえ一般的な塗装鋼板の塗膜に比べ比較的薄い膜厚であっても、塗膜の表面に垂直な方向から観察した場合に着色顔料がZn系合金めっき層を十分に覆い隠す量を確保でき、さらに塗膜の表面から着色顔料が突出するのを十分に抑制することができる旨が記載されていることから、上記イA、Bの各要件を備えるZn系合金めっき鋼板が、どのような作用機序によって、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板となるのかについて説明がなされている。
そうすると、例えば、特定の硬化剤とバインダー樹脂は、単層の塗膜を製造する場合に用いられるというだけで、上記課題を解決するための手段として必須ということではないから、バインダー樹脂としてポリエステル以外のものを用いるか、硬化剤としてイミノ基型メラミン樹脂以外のものを用いるような、上記実施例以外の場合であっても、上記イA、Bの各要件を備える表面処理鋼板であれば、上記実施例の場合と同様に、Zn系合金めっき鋼板において、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供することが、当業者であれば理解できるといえる。また、上記イA、Bの各要件を満たす塗膜にさらに保護膜等の膜を積層して複数層の塗膜を形成した場合であっても、上記イA、Bの各要件を備える表面処理鋼板であれば、上記実施例の場合と同様に、Zn系合金めっき鋼板において、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供することは、当業者であれば理解できるといえる。

オ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記イA、Bの各要件を備える本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものである。

カ なお、申立人は、特許異議申立書の第30?32頁において、概略、
(ア)本件発明1では、一層からなる塗膜(単層膜)と複数の層からなる塗膜(複層膜)を包含しうるものであるが、本件明細書に記載の塗膜は単層層の形成を前提にして記載されており、複層膜においてC_(A1)/C_(A2)は0.2以上0.9以下を実現できることができない、
(イ)本件発明1では、塗膜中のバインダー樹脂について特に限定はなく、あらゆる種類のバインダー樹脂を含みうるが、実施例に係る表面処理鋼板の塗膜は硬化剤として全てイミノ基メラミン樹脂を用いており、メチル化メラミン樹脂を用いた比較例については、所望の効果を得られておらず、また、実施例に係る表面処理鋼板の塗膜は全てポリエステル樹脂をバインダー樹脂として用いており、その他のバインダー樹脂を用いた例については存在せず、ポリエステル樹脂以外のバインダー樹脂を用いた場合も同様に、着色顔料をZn系合金めっき層側に濃化させる効果が得られるか否かは不明である、
と主張する。
これら(ア)(イ)の主張については、上記エで検討したとおり、上記イA、Bの各要件を備える表面処理鋼板であればZn系合金めっき鋼板において、高い耐食性を有し耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供することが、当業者であれば理解できるといえるから、採用することはできない。

(3)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を引用するものであるが、上記(2)で本件発明1について述べたのと同様の理由により、本件発明2?5は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の請求項2?5の記載は特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものである。

(4)申立理由2(サポート要件)のまとめ
よって、申立理由2(サポート要件)には理由がなく,申立理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由3(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載が、物の発明について、実施可能要件を満たしているというためには、「その物を作れ」、かつ「その物を使用できる」ように記載されていなければならないと解するのが相当であるから、以下この観点で検討する。

(2)表面処理鋼板に形成された塗膜の態様について
本件発明では、一層からなる塗膜(単層膜)及び複数の層からなる塗膜(複層膜)についての限定が無いことから塗膜がいずれの場合をも包含しうるため(特許異議申立書第32頁エ(ア)において申立人も同様の指摘をしている。)、この点について検討する。
ア まず、本件明細書の【0053】?【0060】、【0065】?【0066】の記載から、塗膜が単層膜である場合には、溶媒に分散させたポリエステル樹脂(例えば、分子量:16000、Tg:10℃)等のバインダー樹脂とイミノ基型メラミン樹脂とを、固形分質量比100:10?100:30で混合し、次いで、その混合物に所定量の着色顔料及び防錆顔料を分散させて得られた塗料をZn系合金めっき層上にロールコーター等で塗布し、所定のヒートパターンで焼付け、硬化させることによって、塗膜中で防錆顔料が塗膜の表面側に濃化して、塗膜中のアルミニウムのような比較的重い着色顔料は塗膜の表面側に分布しにくくなり、相対的にZn系合金めっき層側に濃化することから、本件請求項1に係る「前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」であって、「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」とするよう作ることは、当業者にとって実施可能である。また、このように作られた塗膜を有した表面処理鋼板を建材や家電用の製品に使用することについても本件明細書の【0089】に記載されているように当業者にとって実施可能である。

イ 次に、本件発明には、仮に複層膜からなる塗膜が含まれるとした場合について検討する。このような場合について、本件明細書には記載がないが、例えば、複数の層からなる塗膜の表面側から幅T_(2)にある層中とめっき層側から幅T_(2)にある層中のそれぞれの着色顔料の濃度が異なり、本件請求項1に係る「前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」であって、「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」とすることが実施可能か問題となる。
このような場合につき、本件明細書には記載がないため、技術常識を考慮して判断する。例えば、複数の層のうち、めっき層側から幅T_(2)における着色顔料の濃度が高い単層/複層を形成し、この層、もしくはこの層に積層された単層/複層に、表層側から幅T_(2)の着色顔料の濃度が低い単層/複層を積層して、本件請求項1に係る「前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」であって、「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」となる複数層を形成することは、本件明細書には具体的な記載がないものの、塗膜を構成する複数層の各層に含まれる顔料の量を適宜調整すれば製造できることは、当業者には明らかである。また、このように作られた塗膜を有した表面処理鋼板を建材や家電用の製品に使用することについても本件明細書の【0089】に記載されているように当業者にとって実施可能である。

(3)塗膜に含まれるバインダー樹脂と硬化剤について
上記(2)と同様に、塗膜が単層膜の場合と複層膜の場合とに分けて検討する。
ア 塗膜が単層膜の場合は、本件明細書の【0065】、【0074】【表1】に記載のとおり、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を、硬化剤としてイミノ基型メラミン樹脂を用いる実施例が記載されており、本件発明の表面処理鋼板を作ることは当業者にとって実施可能であるし、このような本件発明の表面処理鋼板を建材や家電用の製品に使用することについても本件明細書の【0089】に記載されているように当業者にとって実施可能である。

イ 塗膜が複層膜の場合は、本件明細書に記載されていないが、塗膜を構成する複数層の各層に含まれる顔料の量を適宜調整することで、複数の層からなる塗膜の表面側から幅T_(2)にある層中とめっき層側から幅T_(2)にある層中のそれぞれの着色顔料の濃度が異なるようにして塗膜を作ることが可能なのは、当業者にとって明らかである。また、このような塗膜を有する表面処理鋼板を建材や家電用の製品に使用することについても本件明細書の【0089】に記載されているように当業者にとって実施可能である。

(4)したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、同様の理由により、引用により本件発明1の特定事項を全て備える本件発明2?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に適合するものである。

(5)なお、申立人は、特許異議申立書の第32?34頁において、概略、
(ア)本件発明1では、一層からなる塗膜(単層膜)と複数の層からなる塗膜(複層膜)を包含しうるものであるが、本件明細書に記載の塗膜は単層層の形成を前提にして記載されており、複層膜においてC_(A1)/C_(A2)は0.2以上0.9以下を実現することができない、
(イ)本件発明1では、塗膜中のバインダー樹脂について特に限定はなく、あらゆる種類のバインダー樹脂を含みうるが、実施例に係る表面処理鋼板の塗膜は硬化剤として全てイミノ基メラミン樹脂を用いており、メチル化メラミン樹脂を用いた比較例については、所望の効果を得られておらず、また、実施例に係る表面処理鋼板の塗膜は全てポリエステル樹脂をバインダー樹脂として用いており、その他のバインダー樹脂を用いた例については存在せず、ポリエステル樹脂以外のバインダー樹脂を用いた場合も同様に、着色顔料をZn系合金めっき層側に濃化させる効果が得られるか否かは不明である、
と主張する。
上記(ア)の主張については、上記(2)で検討したとおり、例えば、複数の層のうち、めっき層側から幅T_(2)における着色顔料の濃度が高い単層/複層を形成し、この層、もしくはこの層に積層された単層/複層に、表層側から幅T_(2)の着色顔料の濃度が低い単層/複層を積層して、本件請求項1に係る「前記塗膜の表面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A1)と、前記塗膜の前記Zn系合金めっき層側の界面から塗膜の厚さ方向に幅T_(2)の領域に存在する前記着色顔料の平均濃度C_(A2)との比C_(A1)/C_(A2)が0.2?0.9」であって、「T_(2)(μm)=0.1×T_(1)(μm)+1.1μmである(T_(2)>T_(1)となる場合を除く)」となる複数層を形成することは、本件明細書には具体的な記載がないものの、塗膜を構成する複数層の各層に含まれる顔料の量を適宜調整すれば製造できることは、当業者には明らかであるから、上記(ア)の主張を採用することはできない。
また、上記(イ)の主張については、上記3アで検討したとおり、本件明細書の【0065】、【0074】【表1】に記載のとおり、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を、硬化剤としてイミノ基型メラミン樹脂を用いる実施例が記載されており、本件発明の表面処理鋼板を作ることは当業者にとって実施可能であるが、詳言すると本件明細書中に記載のイミノ基型メラミン樹脂とポリエステル樹脂を用いて本件発明における塗膜を作ることができ、そうすると本件発明の表面処理鋼板を製造することは当業者にとって実施可能であるといえ、上記(イ)の主張を採用することはできない。

(6)よって、申立理由3(実施可能要件)には理由がなく、申立理由3(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

7 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-01-13 
出願番号 特願2019-547730(P2019-547730)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 536- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 井上 猛
村川 雄一
登録日 2020-02-10 
登録番号 特許第6658988号(P6658988)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 表面処理鋼板  
代理人 福地 律生  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 齋藤 学  

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