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審決分類 審判 全部無効 発明同一  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1370436
審判番号 無効2017-800154  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-12-22 
確定日 2021-01-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第5766124号発明「炎症性疾患および自己免疫疾患の処置の組成物および方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5766124号の請求項1?19に係る特許についての出願は、平成22年1月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年1月21日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立てにおいて訂正請求(平成28年7月27日付け)がなされ、平成28年11月7日付けで訂正を認め、特許を維持する旨の特許異議の決定がなされ、同異議の決定は確定した。
そして、請求人エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフトは、平成29年12月20日付け(平成29年12月22日受付)審判請求書によって、上記請求項1?19に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判を請求した。

以後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 5月14日付け 審判事件答弁書(被請求人)
同年 7月 4日付け 審理事項通知書(請求人、日付は起案日)
同年 7月 4日付け 審理事項通知書(被請求人、日付は起案日)
同年 8月23日付け 上申書(請求人)
同年 8月23日付け 口頭審理陳述要領書(1)(被請求人)
同年 9月 6日付け 口頭審理陳述要領書(1)(請求人)
同年 9月20日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
同年 10月 4日付け 口頭審理
同年 10月11日付け 上申書(請求人)
同年 11月 1日付け 上申書(被請求人)

第2 本件発明
本件特許の請求項1?19に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

なお、以下、本件特許の請求項1?19に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明19」という。また、本件発明1?19をまとめて「本件発明」ということがある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための組成物であって、該組成物は、IL-2改変体を含み、該IL-2改変体は、
(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含み、
(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し、
(c)配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しており、および
(d)(i)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(ii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(iii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか、または、(iv)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し、
該炎症性疾患、障害または状態は、自己免疫疾患、器官移植片拒絶、または、移植片対宿主病である、組成物。
【請求項2】
前記炎症性疾患、障害または状態は、喘息、糖尿病、関節炎、アレルギー、器官移植片拒絶、および移植片対宿主病からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記IL-2改変体は、配列番号1に少なくとも95%同一のアミノ酸の配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記IL-2改変体は、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記IL-2改変体は、インビトロにおいて、FOXP3陽性調節性T細胞の成長または生存を促進する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記IL-2改変体は、アミノ酸30、アミノ酸31、アミノ酸35、アミノ酸69、およびアミノ酸74からなる群より選択される位置に、配列番号1において記載されるポリペプチド配列において変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記30位の変異は、N30Sである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記31位の変異は、Y31Hである、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記35位の変異は、K35Rである、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
前記69位の変異は、V69Aである、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
前記74位の変異は、Q74Pである、請求項6に記載の組成物。
【請求項12】
前記IL-2改変体は、機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボFOXP3陽性T細胞においてSTAT5リン酸化を誘発するが、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が、配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して低下している、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記IL-2改変体は、配列番号1において記載されるポリペプチド配列の88位において変異を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記88位の変異は、N88Dである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記IL-2改変体は、インビボにおいて該IL-2改変体の血清半減期を延長する化学物質またはポリペプチドに結合体化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
炎症性疾患、障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用であって、該IL-2改変体は、
(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含み、
(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し、
(c)配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しており、および
(d)(i)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(ii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(iii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか、または、(iv)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し、
該炎症性疾患、障害または状態は、自己免疫疾患、器官移植片拒絶、または、移植片対宿主病である、使用。
【請求項17】
前記IL-2改変体は、インビボにおいて該IL-2改変体の血清半減期を延長する化学物質またはポリペプチドに結合体化されている、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記IL-2改変体は、
配列番号3に記載のアミノ酸;
配列番号4に記載のアミノ酸;
配列番号5に記載のアミノ酸;
配列番号6に記載のアミノ酸;
配列番号8に記載のアミノ酸;および
配列番号9に記載のアミノ酸;
からなる群より選択されるアミノ酸の配列を含む、請求項1?15のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
前記IL-2改変体は、
配列番号3に記載のアミノ酸;
配列番号4に記載のアミノ酸;
配列番号5に記載のアミノ酸;
配列番号6に記載のアミノ酸;
配列番号8に記載のアミノ酸;および
配列番号9に記載のアミノ酸;
からなる群より選択されるアミノ酸の配列を含む、請求項16?17のいずれかに記載の使用。」

第3 当事者の主張及び提出した証拠方法
1 請求人の主張及び提出した証拠方法
(1)請求人の主張する無効理由
請求人は、「特許第5766124号の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1?7を主張し、証拠方法として、甲第1?11及び13号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出している。

無効理由1(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく新規性欠如)(なお、事実又は周知技術を示す証拠として甲4、;事実を示す証拠として甲5及び本件明細書;周知技術を示す証拠として甲9)
本件特許の請求項1?3、5及び12?17に記載の発明は、優先権主張の利益を享受できないものであり、本件特許の請求項1?3、5及び12?17に記載の発明は、甲1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由2(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1、甲1及び甲2、又はこれらと甲3?9のうちの一ないし複数との組み合わせに基づく進歩性欠如)(なお、周知技術を示す証拠として甲3及び甲9;事実又は周知技術を示す証拠として甲4、甲6及び甲7;事実を示す証拠として甲5及び本件明細書)
本件特許の請求項1?19に記載の発明は、優先権主張の利益を享受できないものであり、本件特許の請求項1?19に記載の発明は、甲1、甲1及び甲2、又はこれらと甲3?9のうちの一ないし複数との組み合わせに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由3(仮に優先権主張の利益を享受できるとした場合の甲1に基づく拡大先願) (なお、周知技術を示す証拠として甲3及び甲9;事実又は周知技術を示す証拠として甲4、甲6及び甲7;事実を示す証拠として甲5及び本件明細書)
本件特許の請求項1?3、5及び12?17に記載の発明は、甲1の国際出願日における国際出願の明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が甲1に係る上記発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が甲1の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

無効理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1?17に記載の発明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないため、特許法第36条第4項1号の規定を満たさないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

無効理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1?17に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないため、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

無効理由6(甲2に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1?17に記載の発明は、甲2に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

無効理由7(甲2に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1?19に記載の発明は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2) 証拠方法
甲1:国際公開第2009/135615号
甲2:米国特許出願公開第2005/0142106号明細書
甲3:国際公開第99/060128号
甲3の2:特表2002-515247号公報
甲4:Journal of Autoimmunity, 2008,Vol.31,No.1, p.7-12
甲5:Nature Biotechnology, 2000,Vol.18,p.1197-1202
甲6:The Journal of Immunology,2009,Vol.182,p.2124-2130
甲7:Gut,2009,Vol.58,p.520-529
甲8:国際公開第2008/003473号
甲8の2:特表2009-542592号公報
甲9:特表2005-529108号公報
甲10:J.Immunother.,2009,Vol.32,No.9,p.887-894
甲11:米国特許仮出願第61/146,111号明細書等
甲13:Blood,2007,Vol.109,No.5,p.2014-2022

2 被請求人の主張及び証拠方法
(1)被請求人の主張
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判請求費用は請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として、乙第1?3及び5号証(以下、それぞれ「乙1」等という。)を提出している。

(2)証拠方法
乙1:本件特許に対する異議事件(異議2016-700139)に係る異議の決定
乙2:Immunity,2005,Vol.22,p.329-341
乙3:米国特許出願公開第2005/0142106号明細書
乙5:Science,2005,Vol.310,p.1159-1163

第4 証拠の記載事項
1 甲号証の記載事項
請求人が提出した甲1?8及び11には、それぞれ以下の事項が記載されている。なお、甲1?8及び11は、外国語で記載されているので、日本語による訳文にて表記する。また、下線は合議体が付した。

(1)甲1の記載事項
甲1-ア(特許請求の範囲)
「【請求項1】
野生型ヒトインターロイキン2(hIL-2)のアミノ酸番号に基づいて、第20位、第88位および第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つが置換されているhIL-2変異タンパク質またはそのフラグメントの、自己免疫疾患の治療および/または予防のための薬剤を製造するための使用。
【請求項2】
第88位の置換により、アスパラギンがアルギニンに置換されている(hIL-2-N88R)、グリシンに置換されている(hIL-2-N88G)、またはイソロイシンに置換されている(hIL-2-N88I)ことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
第20位の置換により、アスパラギン酸がヒスチジンに置換されている(hIL-2-D20H)、イソロイシンに置換されている(hIL-2-D20I)、またはチロシンに置換されている(hIL-2-D20Y)ことを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
第126位の置換により、グルタミンがロイシンに置換されている(hIL-2-Q126L)ことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。
・・・
【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載の使用におけるhIL-2変異タンパク質またはそのフラグメントを含むことを特徴とする、自己免疫疾患の治療および/または予防のための医薬組成物。
・・・」

甲1-イ(1頁3?6行)(訳文【0001】)
「本発明は、自己免疫疾患の治療および/または予防のための薬剤、生物体における制御性T細胞(T_(Reg))形成のための薬剤、ならびに本発明の薬剤の種々の使用方法に関する。」

甲1-ウ(6頁5行?10行)(訳文【0020】)
「本発明者らは、このようなhIL-2変異タンパク質またはそのフラグメントが、意外にも、自己免疫疾患の治療および予防に用いる治療薬としての可能性が高いことを見出した。例えば、本発明者らは、hIL-2変異タンパク質が、生物体において、CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導することを様々な実験で実証することができた。」

甲1-エ(7頁3行?14行)(訳文【0025】)
「さらに、野生型hIL-2とは対照的に、本発明のhIL-2変異タンパク質は、意外にも、CD8陽性の細胞傷害性T細胞(ナイーブCD8T細胞、セントラルメモリーCD8T細胞、初期分化CD8T細胞、および後期分化CD8T細胞ともいう)の増殖に対して全く影響を及ぼさない、及ぼしてもわずかに過ぎないことが、細胞傷害性CD3^(+)CD8^(+)CD45RO^(+)T細胞に基づいて初めて示された。このことは、CD8^(+)細胞傷害性T細胞が自己免疫疾患における慢性的な持続性の炎症過程を引き起こす原因であるとするならば、有利であると言える(Liu et al.(2007),Multiple Sclerosis,13,p.149,and Haegele et al.(2007),Neuroimmunol,183,p.168参照)。従って、野生型hIL-2とは対照的に本発明のhIL-2変異タンパク質は、CD8^(+)T細胞に起因するこのような炎症反応がさらに激化するのを防ぐ。このことも本発明のhIL-2変異タンパク質の忍容性が高いという利点を示す。」

甲1-オ(9頁下から3行?10頁10行)(訳文【0038】)
「さらに、上述したアミノ酸番号において、分子間の架橋結合または不適切なジスルフィド架橋結合が形成される場を提供するような置換を施さないことが好ましい。従って、本発明のhIL-2変異タンパク質において、第20位の置換は、アスパラギン酸(D)からアルギニン(R)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、ロイシン(L)、リジン(K)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、トレオニン(T)またはトリプトファン(W)への置換でないことが好ましい。第88位の置換は、アスパラギン(N)からアスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、トリプトファン(W)またはプロリン(P)への置換でないことが好ましい。さらに、第126位の置換は、グルタミン(Q)からアラニン(A)、ヒスチジン(H)、トリプトファン(W)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)またはリジン(K)への置換でないことが好ましい。」

甲1-カ(10頁下から7行?末行)(訳文【0040】)
「本発明の特に好ましいhIL-2変異タンパク質として、第88位のアスパラギン(N)がアルギニン(R)に置換された変異タンパク質(hIL-2-N88R)が挙げられ、当業者は、BAY50-4798として入手することができる(・・・)。hIL-2-N88Rのアミノ酸配列を、添付の配列表の配列番号3に開示する。」

甲1-キ(12頁下から5行?13頁2行)(訳文【0053】)
「本発明の使用において、第88位の置換により、アスパラギンがアルギニンに置換されている(hIL-2-N88R)、グリシンに置換されている(hIL-2-N88G)、またはイソロイシンに置換されている(hIL-2-N88I)こと、および/または第20位の置換により、アスパラギン酸がヒスチジンに置換されている(hIL-2-D20H)、イソロイシンに置換されている(hIL-2-D20I)、またはチロシンに置換されている(hIL-2-D20Y)こと、または第126位の置換により、グルタミンがロイシンに置換されている(hIL-2-Q126L)ことが好ましい。」

甲1-ク(31頁1行?12行)(訳文【0104】)
「2.3 hIL-2-N88Rは多発性硬化症患者において制御性T細胞を誘導する
次に、本発明のhIL-2変異タンパク質であるhIL-2-N88Rが、免疫細胞の抗原特異的な活性化も刺激するかどうか調べた。そのために、多発性硬化症患者2名のPBMC(10^(6)cell/ml)を、多発性硬化症関連ペプチドの存在下または非存在下において、10^(-11)?10^(-6)MのhIL-2-N88R(BAY 50-4798、ロット#PR312C008)または野生型hIL-2(プロロイキン)で刺激した。また、5μg/ml PHAで刺激したもの、および培地のみを加えたものも用意した。次いで、制御性T細胞CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)のサブポピュレーション量をそれぞれ求めた。それぞれの結果を、図5および表7ならびに図6および表8に示す。」

甲1-ケ(表7)




甲1-コ(表8)




甲1-サ(33頁下から4行?34頁2行)(訳文【0106】)
「hIL-2-N88Rで処理することにより、多発性硬化症患者においても制御性T細胞が顕著に増加することが明らかになった。CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)のサブポピュレーションの場合には10^(-8)Mおよび10^(-7)Mの濃度における増加量が、CD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)のサブポピュレーションの場合には10^(-6)Mの濃度における増加量が、同じ濃度の野生型IL-2(プロロイキン)刺激による増加量を大幅に上回っている。」

甲1-シ(34頁3行?9行)(訳文【0107】)
「2.4 多発性硬化症患者および健康な被験者においてhIL-2-N88Rは細胞傷害性CD8^(+)T細胞の増殖をほとんど誘導しない
さらに、細胞傷害性CD8+セントラルメモリーT細胞の賦活化実験を行った。そのために、健康な被験者または多発性硬化症患者のPBMCに対して、2.3と同様の処理を行った。CFSElow/CD3^(+)CD8^(+)CD45RO^(+)T細胞のパーセンテージを分析により求めた。結果を、図7および表9ならびに図8および表10に示す。」

甲1-ス(表9)




甲1-セ(表10)




甲1-ソ(36頁下から2行?37頁2行)(訳文【0109】)
「野生型hIL-2とは対照的に、多発性硬化症患者においても、健康な被験者においても、hIL-2-N88Rに起因するセントラルメモリーCD8^(+)T細胞の増殖はわずかであり、これは検討したすべての供試濃度において共通している。」

(2)甲2の記載事項
甲2-ア(特許請求の範囲)
「1.配列番号2に対して少なくとも80%同一であり、かつ配列番号3によって表されるポリペプチドがIL-2Rαに結合する親和性よりも高い親和性でIL-2Rαサブユニット(IL-2Rα)に結合するアミノ酸配列を含む変異インターロイキン-2(IL-2)ポリペプチド。
・・・
19.アミノ酸配列が配列番号2に対して少なくとも90%同一である、請求項1に記載の変異IL-2ポリペプチド。
・・・
36.治療有効量の請求項1に記載の変異IL-2ポリペプチドを患者に投与することを含む、癌またはウイルス感染を有する患者を処置する方法。」

甲2-イ(段落[0006]1行?8行)
「[0006]従って、本発明は、配列番号2に対して少なくとも80%同一(例えば85、87、90、95、97、98、又は99%同一)であるアミノ酸配列を含み、野生型IL-2(配列番号2)又はPROLEUKIN(配列番号3で表される)がIL-2Rαに対して結合する親和性よりも高い親和性を以ってIL-2受容体αサブユニット(IL-2Rα)に結合する、変異インターロイキン-2(IL-2)ポリペプチドを特徴とする。」

甲2-ウ(段落[0016])
「[0016]・・・我々は、IL-2のα受容体サブユニットに対して向上した親和性を有するIL-2の変異体が、IL-15によって送られるものを想起させるような、持続した増殖シグナルを送ると考えた。このような変異IL-2ポリペプチドは、活性化T細胞をより刺激し、結果として、癌性又はウイルス感染細胞の細胞傷害性T細胞/リンパ球(CTL)攻撃の効力を増強する。」

甲2-エ(段落[0042]1行?8行)
「[0042]抗原活性化T細胞ではIL-2Rαの発現が上方制御される(・・・)。通常、NK細胞はIL-2Rβ及びIL-2Rγサブユニットのみを発現する(・・・)。このため、IL-2Rαに対する親和性が上昇すれば、NK細胞と比べて活性化T細胞に対するIL-2の特異性が上昇すると予想される。」

甲2-オ(段落[0092]及び[0093])
「[0092]皮膚障害の例としては、乾癬、乾癬性関節炎、皮膚炎(湿疹)、例えば、剥脱性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎、毛孔性紅色粃糠疹、粃糠疹酒さ、類乾癬、苔癬状粃糠疹、扁平苔癬、光沢苔癬、魚鱗癬様皮膚症、角皮症、皮膚症、円形脱毛症、壊疽性膿皮症、白斑、類天疱瘡(例えば眼類瘢痕性類天疱瘡又は水疱性類天疱瘡)、じんま疹、汗孔角化症、関節包の基底にある上皮関連細胞の過剰増殖及び炎症を伴う関節リウマチ;皮膚炎、例えば脂漏性皮膚炎及び日光皮膚炎;角化症、例えば脂漏性角化症、加齢角化症、ヒ素角化症、光誘発性角化症、及び毛包性角化症;尋常性座瘡;ケロイド及びケロイド形成に対する予防;母斑;いぼ、例えば疣贅、コンジローマ又は尖圭コンジローマ、及びヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma viral; HPV)感染、例えば性病いぼ;白板症;扁平苔癬;及び角膜炎等が挙げられる。皮膚障害としては、皮膚炎、例えば、アトピー性皮膚炎又はアレルギー性皮膚炎、又は乾癬が挙げられる。
[0093]治療感受性の患者は、乾癬を有していてもよい。「乾癬」という語は、その医薬的な意味、即ち主に皮膚及び皮膚産物産生、硬化、鱗化、非瘢痕病変を患う疾患を意味することを意図する。病変は通常、明確に境界画定された紅斑性丘疹であり、光沢のある鱗片によって覆われている。これらの鱗片は通常は銀色又は僅かに乳白色を帯びている。しばしば爪の巻き込みが生じ、その結果として圧痕、爪の剥離、厚化及び変色が生じる。場合により乾癬は関節炎を伴い、麻痺を生じる場合もある。ケラチノサイトの過剰増殖は、上皮炎症及びケラチノサイトの分化の減退と共に、乾癬性上皮過形成の主な特徴である。乾癬の特徴たるケラチノサイトの過剰増殖を説明するために、多数の機序が提案されてきた。また、障害性細胞免疫についても、乾癬の病理との関連が指摘されている。乾癬性障害の例としては、慢性停止性乾癬、尋常性乾癬、噴出性(gluttate)乾癬、乾癬性紅皮症、全身性膿疱性乾癬(Von Zumbusch)、輪状膿疱性乾癬、及び局所性膿疱性乾癬が挙げられる。」

甲2-カ(表II)


上記表IIタイトル部分の訳:YT-2C2細胞上のIL-2Rβに対するIL-2変異体の結合親和性
上記表II右欄の項目の訳:66%信頼区間」

甲2-キ(段落[0138])
「[0138]著者等の仮説を検証するために、IL-15のIL-15Rαに対する親和性と近い範囲のIL-2Rα親和性を有するIL-2変異体(表III)を、IL-2Rα及びIL-15Rαサブユニットの双方を発現するT細胞系F15R-KitのIL-15と比較した。IL-2Rα及びIL-15Rαを発現するF15R-Kit細胞を、C125S、IL-2変異体又はIL-15により、37℃で30分間(pH7.4)標識した。フローサイトメトリーを用いて細胞表面結合タンパク質を測定した。2つの個別の実験から得られた結果(図12)を用いてK_(d)値を推定した。


上記表IIIタイトル部分の訳:増加したIL-2Rα結合親和性を有するIL-2変異体
上記表III左欄の項目の訳:タンパク質
上記表III左から2欄の項目の訳:変異
上記表III右欄の項目の訳:66%信頼区間」

甲2-ク(図12?図20)


縦軸の訳:結合分画
横軸の訳:濃度(pM)

縦軸の訳:細胞表面結合インターロイキン

縦軸の訳:持続性
横軸の訳:初期結合α受容体

縦軸の訳:比(pH7.5/pH5)
横軸の訳:濃度(pM)

縦軸の訳:生細胞(/mL)
横軸の訳:時間(日)

横軸の訳:初期結合α受容体
Figure17Aの縦軸の訳:全体(細胞-日/mL)
Figure17Bの縦軸の訳:最大生細胞数(/mL)

縦軸の訳:正規化生細胞密度
横軸の訳:時間(日)

縦軸の訳:正規化性細胞密度
横軸の訳:時間(日)

縦軸の訳:時間的推移
横軸の訳:初期結合α受容体」

(3)甲3の記載事項
甲3-ア(請求項1)
「【請求項1】 野生型IL-2に従って番号をつけたヒトインターロイキン-2ムテインを含んでなり、ここで、該ヒトIL-2が位置20、88または126の少なくとも1つで置換されており、それにより該ムテインがナチュラルキラー細胞よりT細胞を優先的に活性化するポリペプチド。」

(4)甲4の記載事項
甲4-ア(要約)
「要約
IL-2を通じたシグナル伝達は、エフェクターT細胞の増殖、生存、及びサイトカイン産生に至る経路の活性化を導く。しかし、IL-2は、負のフィードバック機構、IL-2受容体の内在化、活性化により誘発される細胞死の誘導、及び調節性T細胞の生成を通じて、炎症応答の抑制も促進する。調節性T細胞では、IL-2シグナル伝達によってFoxP3の発現が亢進される。TGF-βによる調節性T細胞の誘導にもIL-2が必要である。更に、IL-2刺激によるPI3Kを伴う炎症促進及び生存促進経路は、調節性T細胞ではPTENにより阻害される。重要なのは、調節性T細胞の発生、増大、及び維持にとって、IL-2シグナル伝達が大きな役割を果たすという点である。しかし、γ_(c)サイトカインは、調節性T細胞におけるIL-2の要求を代替し得るが、その効率は同等ではない。炎症におけるIL-2の二重の役割は、FoxP3及びIL-2の双方を欠損するマウスが示す症状が、FoxP3欠損マウスと比べてより軽度であるとの結果により立証される。最後に、IL-2は、エフェクターT細胞及び調節性T細胞の誘導に大きな役割を果たすのみならず、IL-17発現T細胞を抑制する。炎症応答におけるIL-2相互作用の複雑な動態を理解することにより、免疫関連疾患を制御するための治療法を開発又は修正することができるかもしれない。」

甲4-イ(8頁右欄1行?9頁左欄9行)
「3.IL-2受容体シグナル伝達
3.1.一般的なT細胞シグナル伝達経路
IL-2受容体サブユニットの細胞質ドメインの長さから明らかなように、IL-2Rβ及びγ_(c)はIL-2シグナル伝達に関与している。従来のT細胞では、IL-2が結合すると、β及びγ_(c)サブユニットのヘテロ二量体化によって、Janusキナーゼ(Jak)の活性化及び動員が誘発され、次いでP鎖の細胞質ドメインにおけるチロシン残基のリン酸化を招く(図1)[10]。具体的に、Jak1はP鎖のセリン豊富ドメインに動員される一方、Jak3はγ_(c)細胞質ドメインに結合する。次に、リン酸化チロシンは、src相同及びコラーゲン(SHC)タンパク質やSTAT5等のアダプタータンパク質のドッキング部位として機能する[22]。最終的に、SHCタンパク質はRas-Raf-MAPキナーゼ及びP13K経路の活性化を導き、これによってサイトカイン転写、生存、細胞周期の開始及び成長が促進される。リン酸化チロシンによる活性化の結果、STAT5は二量体化して核に移行し、そこでインターフェロン-γ-活性化部位(GAS)を含むDNA結合部位に結合する。GASは細胞増殖に関与し、細胞分裂及び生存遺伝子の発現を調節する部位である[23]。興味深いことに、IL-2RαプロモーターもSTAT5の標的であり、3つの正の調節性領域(PRR)を含む。PRRIはNF-kβ血清応答因子によって認識される一方、PPRIIはElf-1及び高移動度群タンパク質(HMG-I/Y)の標的となる。STAT5、Elf-1及びGATA-1様タンパク質はPRRIIIに結合する[21]。これは、IL-2受容体シグナル伝達によって更なるIL-2受容体産生がもたらされる正のフィードバックループの存在を示唆している。」

甲4-ウ(図1)


上記図1説明部分の訳
図1:従来の及び調節性T細胞におけるIL-2受容体シグナル伝達。この図は、IL-2結合がIL-2Rβ及びγ_(c)鎖の細胞質ドメインのJAKの活性化及び結合をもたらすことを示す。次いで、JAKはIL-2Rβ上のチロシンドメインをリン酸化し、SHCなどのアダプタータンパク質を動員し、MAPC及びPI3K経路を活性化する。PTENは、調節性T細胞においてPI3K経路を阻害する。また、IL-2Rβのチロシンリン酸化の際に、STAT5が動員され、二量体化され、核に転移され、従来の及び/又は調節性T細胞における炎症促進性並びにFOXP3プロモーターを含むGASモチーフに結合する。」

(5)甲5の記載事項
甲5-ア(要約)
「要約
ヒトインターロイキン2(IL-2;プロロイキン)は、進行期転移癌について承認された治療薬である。しかし、強い全身毒性ゆえにその使用は制限されている。そのT細胞活性化の中心的メディエーターとしての機能が、その癌治療効果に関与している可能性がある。しかし、治療的に投与されるIL-2によるナチュラルキラー(NK)細胞の活性化により、毒性が仲介されている可能性がある。著者等は、ヒトIL-2の標的突然変異生成を用いて、インビトロでのNK細胞に対するT細胞の選択性が、野生型IL-2と比較して?3,000倍にも向上した突然変異タンパク質を生成した。著者等は、BAY50-4798と命名されたこの変異体を、チンパンジーを用いた治療投与計画において、ヒトIL-2(プロロイキン)と比較したところ、BAY50-4798のT細胞動員及び活性化特性はヒトIL-2に匹敵するにもかかわらず、BAY50-4798はチンパンジーにおいてより優れた耐容性を示すことを見いだした。また、BAY50-4798は、マウス腫瘍モデルにおいて転移を阻害することも示された。これらの結果は、ヒト癌及びAIDSの治療において、BAY50-4798がIL-2に比較して、より高い治療指数を示しうることを示唆している。」

甲5-イ(1197頁左欄下から10行?下から2行)
「インターロイキン2は、T細胞により生産される、4つの螺旋が束になったサイトカインである(Fig.1A)。IL-2受容体は、3つのサブユニット:IL-2Rα、IL-2Rβ、及びIL-2Rγで構成される(・・・)。IL-2Rβγは中アフィニティー受容体を形成し(例えば、NK細胞又は単球に発現される)、IL-2Rαβγは高アフィニティー受容体を形成する(例えば、活性化T細胞に発現される)。IL-2Rαは、それ自身でIL-2に結合するであろう一方(K_(d)≒1×10^(-8)M)、・・・IL-2Rγは、IL-2Rβγの複合体としてIL-2と結合するのみであろう(K_(d)≒1×10^(-9)M)。」

甲5-ウ(1198頁左欄14?22行)
「BAY 50-4798の結合速度論は、あり得る受容体サブユニットの組み合わせのそれぞれを用いて、表面プラズモン共鳴により、野生型IL-2のそれと比較された(表1)。IL-2の既知の受容体結合ドメインから予測されるように(Fig.1)、BAY 50-4798のIL-2Rαへの結合は本質的に影響されておらず、このことはBAY 50-4798の全体的な構造整合性が維持されていることを示唆する。」

甲5-エ(1198頁表1)


上記表1のタイトル部分の訳
表1:BAY50-4798及びヒトIL-2のIL-2受容体サブユニット及び複合体に対する25℃での動力学的結合特性

上記表1説明部分の訳
^(a) IL-2Rγ単独では結合は観察されなかった。IL-2Rγ表面に対する検体の応答を用いて非特異的結合を決定した。
^(b) K_(d)はk_(off)/k_(on)比から算出した。k_(off)及びk_(on)は、大量移送の証拠を示さないデータを用い、CLAMPプログラム^(36)により算出した。
^(c) ND(not determined:未決定)。IL-2Rβ単独に対するBAY50-4798の相互作用は計測されなかった。
^(d) NA(not applicable:未適用)。
^(e) k_(off)を1×10^(-6)で固定した。
^(f) 表面不均質モデル^(36)使用、A+B=AB及びA+B^(*)=AB^(*)、ここでAはBAY50-4798、BはIL-2Rαγ、B^(*)はIL-2Rαβγ。この式では遊離IL-Rα無しと仮定。式におけるIL-2Rαγ要素の値(A+B=AB)は、k_(on)=1.0x10^(7)、k_(off)=3.1x10^(-2)。」

(6)甲6の記載事項
甲6-ア(図1)


上記図1説明部分1?14行の訳
図1 FOXP3^(+)CD8^(+)T細胞は、ヒト末梢血中では稀であるが、ヒト扁桃に存在する。A.ヒト血液又は口蓋扁桃由来のCD8^(+)T細胞におけるFOXP3の発現をフローサイトメトリーによって分析したものである。1人のドナーのCD8^(+)CD3^(+)T細胞でゲートされたCD8及びFOXP3又はアイソタイプ対照の代表的なドットプロットを示す。ドットプロットには、FOXP3^(+)細胞の平均頻度(±SD)を含めている。グラフは、血液及び扁桃由来のCD8^(+)T細胞中のFOXP3^(+)細胞の頻度を示す。各記号は、1人のドナーからのデータを表す(n=10)。」

甲6-イ(2126頁左欄第7?12行)
「ヒトCD8^(+)T細胞がTreg特異的転写因子FOXP3を発現し、免疫寛容に潜在的に関与するかどうかを調べるために、フローサイトメトリーによりヒト末梢血由来のCD8^(+)T細胞のFOXP3発現を分析した。FOXP3^(+)CD8^(+)T細胞はPBMCの微量画分を構成し、平均で0.15±0.14%のCD8^(+)T細胞がFOXP3を発現している(図1A)。」

(7)甲7の記載事項
甲7-ア(図1の説明、1行?4行)


上記図1説明部分の訳
図1 調節性T8(T8reg)細胞の割合は、結腸直腸癌(CRC)患者の血液中で上昇し、T8reg表現型は、T4regのものと非常に似ている。(A)末梢血単核細胞(PBMC)のフローサイトメトリーにより、CD4^(+)T細胞中のCD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)細胞の割合を決定した。標準値の平均誤差(SEM)での平均を示す。(B)PBMCのフローサイトメトリーにより、CD8^(+)T細胞中のCD8^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)細胞の割合を決定した。標準値の平均誤差(SEM)での平均を示す。」

甲7-イ(523頁右欄4行?8行)
「図1Aに示したように、T4regのパーセンテージは、正常ボランティアよりもCRC患者の血液中で有意に高く(5.2%±1.8% vs 3%±0.9% 、p<0.05)、また、CD8^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)T細胞集団(T8reg)のパーセンテージも同様であった(0.45%±0.3% vs 0.22%±0.1% 、p<0.05)(図1B)。」

(8)甲8の記載事項
甲8-ア(段落[0053]、[0054])(訳文【0024】)
「発明の詳細な説明
免疫療法を用いる癌の治療における大きな課題の1つは、免疫系活性化を調節するように設計された免疫系の制御システムを同時に活性化することなしに抗腫瘍活性を促進する必要性である。本発明によれば、IL-2に反応した細胞傷害性CD8^(+)T細胞増殖をCD25^(+)T_(reg)阻害の調節から免除する方法が開示されている。T_(reg)阻害を低減または排除するこのような機構は、T_(reg)の細胞表面上のCD25受容体を遮断することおよび/またはCD4^(+)細胞を枯渇させることを含む。また、同じ結果を達成するためのもう1つの機構は、CD25受容体との結合を低減または排除するIL-2の変異である。
IL-2免疫サイトカインの投与と組み合わせた、T_(reg)の細胞表面上のCD25受容体および/またはCD4^(+)細胞の遮断、あるいは代わりに、CD25への結合を低減または排除された変異体IL-2部分を有するIL-2免疫サイトカインの投与は、野生型IL-2が投与される場合に観察されるレベルをはるかに超えたCD8^(+)T細胞増殖の劇的な増加をもたらす。このアプローチが、例えばIL-2を変異させることにより細胞表面CD25誘導の遮断または欠如を含む場合、中親和性IL-2受容体を有するさらなる免疫細胞型、最も代表的にはNK細胞および顆粒球の増殖が起こる。
ウイルス感染または腫瘍増殖を患っている哺乳動物において、CD8^(+)細胞障害性T細胞(CTL)、および/またはNK細胞などの活性化T細胞の数を増加させることは有用である。T細胞およびNK細胞は、一般にIL-2刺激に感受性を示す。本発明は、哺乳動物におけるIL-2治療の有効性を高める方法を提供する。」

(9)甲11の記載事項
甲11-ア(14?16頁 請求の範囲)
「1 対象において炎症性障害を治療するための方法であって、
IL-2改変体の治療有効量を対象に投与することを含み、前記IL-2改変体が、
(a)配列番号1と少なくとも80%同一なアミノ酸の配列を含み、
(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し、かつ
(c)配列番号1に示されるポリペプチドと比較して、FOXP3陽性調節性T細胞においてAKTのリン酸化を誘発するための能力が低下している、方法。
・・・
3 前記IL-2改変体が、配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸の配列を含む、請求項1に記載の方法。
・・・
5 前記IL-2改変体が、配列番号1に示されるポリペプチドよりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する、請求項1に記載の方法。
・・・
8 位置30における変異がN30SまたはN30Dである、請求項7に記載の方法。
・・・
13 前記IL-2改変体が、機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボのT細胞におけるSTAT5リン酸化を誘発するが、野生型IL-2と比較して、前記エクスビボT細胞においてAKTのリン酸化を誘発するための能力が低下している、請求項1に記載の方法。
14 前記IL-2改変体が、位置88において、配列番号1に示されるポリペプチド配列中に変異を含む、請求項13に記載の方法。
15 前記位置88における変異が、N88Dである、請求項14に記載の方法。
・・・」

甲11-イ(1頁26行?2頁7行)
「概要
IL-2の免疫抑制変異性改変体が、本明細書において提供される。当該改変体は、望ましくない炎症を抑制する調節性T細胞を優先的に促進する。本明細書において記載されるように、ある種のIL-2改変体は、調節性T細胞の増殖、生存、成長、又は活性化を優先的に誘発するシグナル伝達事象を誘発する。ある実施形態では、IL-2改変体は、STAT5リン酸化ならびに/またはIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子、たとえばp38、ERK、JNK、およびSYK)のリン酸化を刺激する。他の実施形態では、IL-2改変体は、AKTの非効率的なリン酸化、リン酸化の低下、リン酸化の欠如などのような、PI3Kにより誘発されるシグナル伝達の非効率的な刺激、刺激の低下、または刺激の欠如を示す。さらに他の実施形態では、IL-2改変体は、STAT5リン酸化及び/又はIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激し、さらに、AKTの非効率的なリン酸化、リン酸化の低下、又はリン酸化の欠如を示す。」

甲11-ウ(2頁17行?3頁5行)
「好ましい実施形態の詳細な説明
・・・
Tregの成長/生存を選択的に促進する突然変異改変体が本明細書において記載される。特に、本明細書に記載のIL-2改変体は、Treg細胞の成長/生存を促進するが、非調節性細胞(FOXP3^(-)IL-2Rα^(+)CD4^(+))の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下している。ある実施形態では、そのようなIL-2改変体は、非シグナル性IL-2RサブユニットIL-2Rαに対する親和性の上昇及びシグナル伝達サブユニットIL-2Rβに対する親和性の低下の組み合わせを通して機能する。IL-2およびその改変体は、例えば、癌または感染症疾患を治療する方法において、免疫刺激剤として当技術分野において使用されているが、本明細書において記載されるIL-2改変体は、例えば、炎症性障害を治療する方法において、免疫抑制剤として特に有用である。」

甲11-エ(3頁6?17行)
「IL-2改変体は、野生型IL-2に対して・・・、少なくとも90%、・・・同一のアミノ酸の配列を含む。・・・「野生型IL-2」は、次のアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味するものとする: APTSSSTKKTQLQLEHLLLDLQMILNGINNYKNPKLTRMLTFKFYMPKKATELKHLQCLEEELKPLEEVLNLAQSKNFHLRPRDLISNINVIVLELKGSETTFMCEYADETATIVEFLNRWITFXQSIISTLT
ここで、Xは、C又はS(配列番号1)である。」

甲11-オ(3頁18行?4頁2行)
「一態様では、本発明は、野生型IL-2よりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する免疫抑制IL-2改変体を提供する。米国特許出願公開第2005/0142106号(その全体が参照によって本明細書において組み込まれる)は、野生型IL-2が有するよりも、IL-2Rαに対する高い親和性を有するIL-2改変体及びそのような改変体を作製し、かつスクリーニングするための方法を記載する。好ましいIL-2改変体は、IL-2Rαに接触するIL-2配列の位置か、又はIL-2αに接触する他の位置の方向づけを改変するIL-2配列の位置に1つまたは複数の変異を含み、IL-2Rαに対するより高い親和性がもたらされる。・・・。IL-2Rαに接触すると考えられるIL-2残基は、K35、R38、F42、K43、F44、Y45、E61、E62、K64、P65、E68、V69、L72、及びY107を含む。
IL-2Rαに対するより大きな親和性を有するIL-2改変体は、N29、N30、Y31、K35、T37、K48、E68、V69、N71、Q74、S75、又はK76における変化を含むことができる。好ましい改変体は、1つまたは複数の以下の変異を有するものを含む:N30S、N30D、Y31H、Y31S、K35R、V69A、およびQ74P。」

甲11-カ(4頁3?15行)
「免疫抑制IL-2改変体はまた、IL-2Rを介して野生型IL-2によって活性化されるある種の経路を通してのシグナル伝達の改変を示し、Tregの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体をも含む。IL-2Rの活性化に際してリン酸化されることが公知の分子は、STAT5、p38、ERK、JNK、SYK、およびAKTを含む。野生型IL-2と比較して、免疫抑制IL-2改変体は、低下したPI3Kシグナル伝達能力を有することができ、これは、野生型IL-2と比較した、AKTのリン酸化における低下によって測定することができる。そのような改変体は、IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か、又はIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含んでいてもよい。IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基は、L12、Q13、H16、L19、D20、M23、R81、D84、S87、N88、V91、I92、およびE95を含む。IL-2Rγに接触すると考えられるIL-2残基は、Q11、L18、Q22、E110、N119、T123、Q126、S127、I129、S130、およびT133を含む。好ましい実施形態では、IL-2改変体はN88に、N88Dを含む変異を含む。」

甲11-キ(4頁16?26行)
「IL-2改変体は、野生型IL-2配列と比較して、IL-2Rα又はIL-2Rβγに対する親和性に対して効果を有していない1つ又は複数の変異をさらに含んでいてもよいが、IL-2改変体が、FOXP3を発現しない他のT細胞の増殖/生存/活性化よりも、FOXP3^(+)Tregの優先的な増殖/生存/活性化を促進することを条件とする。・・・」

甲11-ク(12頁5?25行)
「実施例1:選択的Treg増殖/生存
本実施例は、総PBMCをIL-2変異体と共に他の刺激の不在下で培養した場合に、IL-2変異体(2-4)が選択的にTreg増殖を促進することを示す。2-4は配列番号1に以下の変異を含む;N29S、Y31H、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、Q74P、N88D、I89V(米国特許出願公開第2005/0142106号明細書)。
PBMCを、96ウェルの平底プレートにおいて、wtIL-2又はIL-2の2-4変異体の存在下・・・培養した。6日の培養後、フローサイトメトリーで決定されるFOXP3^(+)細胞の存在数は、wtIL-2の存在下と比べて2-4の存在下では2?8倍に高まった。対して、wtIL-2と共に培養したPBMCは、より多くのFOXP3^(-)CD25^(+)CD4^(+)T細胞を含んでいた。FOXP3^(+)細胞の増加は、部分的には、細胞分裂を観察するためのCFSE標識により示されるように、FOXP3^(+)細胞の増加した増殖及び/又は生存によるものであった。これら2つの変異がN88及びI89に戻された2-4の改変型(mod2-4)は、wtIL-2と同様の挙動を示したことから、2-4のN88D及び/又はI89V変異は、そのFOXP3^(+)細胞の増加を促進する能力に関与していた。
FOXP3^(+)細胞の増殖を優先的に促進する2-4の能力は、予め活性化したT細胞でも観察された。これらの実験では、総PBMCを抗CD3(100ng/ml OKT3)で3日間刺激し、洗浄し、培地中で5日間放置した。続いて細胞をwtIL-2、2-4、又はmod2-4と共に0.5?1時間培養し、3回洗浄し、数日培養した。IL-2でパルスしてから3日後、2-4と共に培養したCD4^(+)T細胞は、wtIL-2又はmod2-4と培養した細胞と比較してFOXP3^(+)細胞の含有比率が2?3倍に高まっていた。」

甲11-ケ(12頁27行?13頁20行)
「実施例2:IL-2受容体シグナル伝達
2-4がwtIL-2又はmod2-4と比較して、IL-2Rを通じて質的に異なるシグナルを誘発したのか決定するために、予め活性化及び放置したT細胞を、上記三種のIL-2に短時間曝露した後、IL-2受容体シグナル伝達カスケードの一部として既知のタンパク質のリン酸化状態を観察した。STAT5及びAKTのリン酸化は、フローサイトメトリー及びELISAにより決定された。wtIL-2及びmod2-4は何れもAKT及びSTAT5リン酸化を刺激する能力を有していたのに対して、2-4はAKTリン酸化を刺激することはできず、CD4^(+)T細胞のあるサブセットについてのみ、STAT5リン酸化を刺激した。2-4への暴露後にSTAT5リン酸化を誘導する能力を有していたCD4^(+)T細胞は、より高いレベルのCD25を発現し、FOXP3^(+)細胞の全てを含んでいた。本発明は何ら特定の生物学的機能の理論に限定されることを意図するものではないが、これらの結果は、2-4が有するCD25への高い親和性によって、2-4がIL-2RβおよびIL-2Rγと、STAT5シグナルを誘発するのに十分であるが、AKTシグナルを誘発するには十分でない時間、接触することを可能にする機序があり、斯かる差分的なシグナル伝達が、FOXP3^(+)調節性T細胞の増殖及び/又は維持に寄与していることを示唆している。
方法:・・・」

2 乙号証の記載事項
請求人が提出した乙2、3及び5には、それぞれ以下の事項が記載されている。乙2、3及び5は、外国語で記載されているので、日本語による訳文にて表記する。

(1)乙2の記載事項
乙2-ア(329頁右欄33?35行)
「さらに、CD4^(+)CD25^(-)T細胞及びCD8^(+)T細胞、ならびにB220^(+)細胞において、低レベルのFoxp3発現が報告されている。」

(2)乙3の記載事項
乙3-ア([0120]?[0122])
「実施例5
IL-2Rαに対する向上した結合を有するクローンについてのIL-2ライブラリーのスクリーニング
[0120]
上記のIL-2変異体の酵母ディスプレイライブラリーを、フローサイトメトリーによるソーティングの4回のラウンドによってスクリーニングし、各ソーティングの間に再成長および表面発現の再誘導を伴い、可溶性IL-2Rαへの向上した結合を有するクローンを単離した。
[0121]
ソーティングの4回のラウンドの後のクローンは全体として、酵母表面上のIL-2融合の数に対して標準化して、0.4nMの可溶性IL-2Rαにおいて、C125Sと比較して向上した結合を示した(図2A?2B)。
[0122]
20個の変異体を配列決定し(表I)、そして、これらの20クローンから、7つの異なる配列が取得された。最も頻繁に生じていた変異(V69AおよびQ74P)は、IL-2のそのレセプターサブユニットへの結合のホモロジーモデルによって、IL-2/IL-2Rα界面にあると予測された領域に密集している(図3)。変異体M6は、変異I128Tも有しており、これは、予測されたIL-2/IL-2βおよびIL-2/IL-2Rγ界面(Bamborough et al., Structure 2:839-851,1994;Berman et al., Nucleic Acids Res. 28:235-242,2000)に近接している。」

(3)乙5の記載事項
乙5-ア(要約)
「インターロイキン-2(IL-2)は、α(IL-2Rα)、β(IL-2Rβ)及び共通γ鎖(γ_(c))受容体を含む4次受容体シグナル伝達複合体を介して作用する免疫調節性サイトカインである。2.3Åの分解能で視覚化された第4の外部ドメイン複合体の構造において、IL-2RαのIL-2への結合は、IL-2Rβ複合体によって形成された複合表面に動員される。γ_(c)は、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15及びIL-12の共有受容体としてのその役割と一致して、IL-2との縮重接触を形成する。・・・」

乙5-イ(1159頁左欄下から3行?中欄3行)
「IL-2存在下でのIL-2Rβ及びγ_(c)の会合は、細胞質ドメインのヘテロ二量体化及びその後の複数のシグナル伝達経路のキナーゼ活性化を介して効果的なシグナル伝達に必要かつ十分である。」

乙5-ウ(1159頁右欄14?18行)
「IL-2/IL-2RαおよびIL-2/IL-2Rβの接触は独立しており、他方で、IL-2およびIL-2Rβは、γ_(c)との複合界面を形成し、複合体アセンブリの協調的性質を反映している。」

乙5-エ(1160頁左欄8行?中欄19行)
「IL-2Rαは、IL-2Rβ又はγ_(c)のいずれかと何らかの接触をしているようには見えない。このことは、IL-2がIL-2Rβ単独に結合(K_(d)=100nM)するよりも遙かに高いアフィニティーをもって、IL-2/IL-2Rα複合体がIL-2Rβに結合(K_(d)=30pM)することと、IL-2RβについてのIL-2のオンレートが、IL-2Rα存在下では3?10倍速いこととを鑑みると、むしろ驚くべきことである。IL-2についての複合的なレセプター表面が存在する証拠は見当たらないというのに、何がこの協同性の基盤になるのか?一つの可能性は、IL-2Rαが、IL-2Rβ及びγ_(c)に呈示するためにフリーのIL-2を細胞表面で捕捉し濃縮することによる、単純なエントロピーの減少であろう。もう一つの可能性は、3次複合体の形成を安定化する、IL-2Rα誘導性の構造変化であろう。
後者のメカニズムを検討するため、我々は、4次複合体中、2次複合体中、及び非結合状態における、IL-2の構造を比較した。異なるIL-2分子間における、ヘリックスコア中のCα原子の二乗平均平方根偏差は、0.29Å?057Åの範囲であり、ほぼ同一の構造であることを示した。一つの注目すべき例外は、IL-2のヘリックスCの始まりにおいて、2次及び4次複合体中で、ヘリックスCのいくつかのターンが少しほどけており、IL-2Rβに向かって約1.0Å平行移動されていることである(図2A)。この局所的な構造調節は、IL-2の残基Asn^(88)を、IL-2Rβの残基Arg^(42)と水素結合する距離に移動させる(図2B)。この動きは、より相補的なIL-2Rβ結合部位を形成することにより、複合体構造中の次のステップを「下準備する」のかもしれない。このことと整合して、IL-2のAsn^(88)変異は、IL-2Rβへの結合を減少させている。IL-2Rαは、IL-2Rβへの結合に適するIL-2ヘリックスCの構造を安定化し、IL-2Rβへの結合の際に被るであろう構造上のエントロピーペナルティーを減少するのかもしれない。この、IL-2Rαによる、IL-2中の「静止した」IL-2Rβ結合部位の下準備は、IL-2RβとのIL-2の相互作用についてのオンレートを、観察されているように、効果的に上昇できるだろう。」

第5 当審の判断
1 本件特許出願における新規性及び進歩性の判断の基準日について
(1)本件特許出願のような優先権主張を伴う出願についての特許法第29条第1項及び第2項の判断の基準日は優先日であるところ、無効理由1及び2は、いずれも本件特許においては優先権主張の利益を享受できないとの主張を前提とするものである。

そこで、本件特許出願の優先基礎の米国仮出願第61/146,111号(甲11:以下、「基礎出願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「基礎出願明細書等」という。)の記載(上記第4 1(9)に摘記)に基づき、優先権主張の利益の享受の可否について、以下検討する。

請求人の主張の概要は次のとおりである。
(1)「(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し」(以下、「発明特定事項(b)」ということがある。)が基礎出願明細書等に記載されていない。
(2)「(c)配列番号1として記載されるポリペプチド(審決注:以下、単に「野生型IL-2」又は「wtIL-2」ということがある。)と比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しており」(以下、「発明特定事項(c)」ということがある。)が基礎出願明細書等に記載されていない。
(3)「(d)(i)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(ii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(iii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか、または、(iv)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し」(以下、「発明特定事項(d)」ということがある。)のうち、発明特定事項(d)(i)、(iii)及び(iv)については、基礎出願明細書等に根拠となる記載がない。
(4)基礎出願明細書等には、発明特定事項(b)、発明特定事項(c)、及び発明特定事項(d)の3つの技術的特徴を選択し、これらを組み合わせる根拠が記載されていない。
(5)発明特定事項(b)、発明特定事項(c)、及び発明特定事項(d)が基礎出願明細書等に実施可能に開示されていない。
(6)基礎出願明細書等に開示されているのは、本件発明とは異なる技術思想である。

(2)判断
ア 発明特定事項(b)について
本件発明1の発明特定事項(b)は、「FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し」というものであるところ、基礎出願明細書等の特許請求の範囲の請求項1に発明特定事項として、「FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激」することが記載されている(上記記載事項甲11-ア)。
また、基礎出願明細書等には、IL-2改変体が、IL-2Rを介したシグナル伝達の改変によって、Treg細胞の優先的な増殖/生存/活性化をもたらすことが記載され、IL-2Rの活性化に際して、リン酸化されることが公知の分子の1つとしてSTAT5が挙げられている(上記記載事項甲11-カ)。
ここで、FOXP3は、Tregを同定する際のマーカー分子として用いられることは、本件優先日当時の技術常識であることを考慮すると(上記記載事項甲6-イ等)、上記記載事項甲11-カにおける「Treg細胞」は、「FOXP3陽性調節性T細胞」と同義である。
そうすると、基礎出願明細書等には、FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激しているIL-2改変体が記載されているといえる。

イ 発明特定事項(c)について
基礎出願明細書等には、IL-2改変体が、Treg細胞の成長/生存を促進するが、非調節性細胞(FOXP3^(-)IL-2Rα^(+)CD4^(+))の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているものであることが記載されている(上記記載事項甲11-ウ)。
ここで、甲4には、「一般的なT細胞シグナル伝達経路」という章において、「リン酸化チロシンによる活性化の結果、STAT5は二量体化して、核に移行し、そこで、GASを含むDNA結合部位に結合する。GASは細胞増殖に関与し・・・」と記載されている(上記記載事項甲4-イ)。そして、この章で言及する図1のタイトルは「通常のT細胞及び調節性T細胞におけるIL-2シグナル伝達」であることからみて(上記記載事項甲4-ウ)、調節性T細胞であるか、非調節性T細胞であるかにかかわらず、T細胞が増殖する際には、STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じることは本件優先日当時の技術常識である。この技術常識を踏まえると、本件発明1のIL-2改変体において、非調節性T細胞(FOXP3^(-)IL-2Rα^(+)CD4^(+))の増殖/生存を促進するための能力が低下するということは(上記記載事項甲11-ウ)、STAT5がリン酸化する能力が低下することと同義であるといえる。
そうすると、基礎出願明細書等には、野生型IL-2と比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているIL-2改変体が開示されているものであり、発明特定事項(c)は基礎出願明細書等に記載されている。

ウ 発明特定事項(d)並びに発明特定事項(b)、(c)及び(d)の組み合わせについて
(ア)上記記載事項甲11-ウには、IL-2改変体は、Treg細胞(すなわち、FOXP3陽性調節性T細胞)の成長/生存を促進するが、非調節性細胞(FOXP3^(-)IL-2Rα^(+)CD4^(+))(すなわち、FOXP3陰性T細胞)の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているものであることが記載されている。
そして、甲11-オの前段において、IL-2改変体の一態様として、(1)野生型IL-2よりもIL-2Rαに対する高い親和性を有するIL-2改変体が記載され、その改変体の具体例が甲11-オの後段に記載されている。
また、甲11-カには、Tregの優先的な増殖/生存/活性化をもたらすIL-2改変体は、低下したPI3Kシグナル伝達能力を有しており、このPI3Kシグナルの低下は、AKTのリン酸化の低下を指標として測定することができ、さらに、そのような改変体は、(2)「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」(すなわち、親和性に関与する位置)に変異を含み得るものであって、その改変体の具体例も記載されている。なお、甲11-カにおける「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」に変異を含み得る旨の記載は、甲11-ウの「シグナル伝達サブユニットIL-2Rβに対する親和性の低下」との記載を考慮すると、IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異を含むこと、又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異を含むこと(すなわち、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する。)を意味すると理解するのが自然である。
そうすると、確かに、甲11-ウには、Treg細胞の成長/生存は促進するが、非調節性細胞の成長/生存は促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているIL-2改変体は、IL-2Rαに対する親和性の上昇及びIL-2Rβに対する親和性の低下の組み合わせを通して機能することが記載されているものの(発明特定事項(d)(ii)に対応する。)、甲11-オ((1))又は甲11-カ((2))のいずれかの態様のみのものも具体的に示されており、また、甲11-カにおける、Tregの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体は、IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か、又はIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含む旨の記載から、IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異、又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異(発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する。)が、FOXP3陰性T細胞よりも、FOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を発揮するのに重要であることが理解できる。
したがって、当業者であれば、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する構成を有するIL-2改変体は、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有することを合理的に推認できる。

(イ)発明特定事項(d)(ii)又は(iv)は、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対して、さらにIL-2Rαに対する親和性が向上していることを規定するものであるところ、基礎出願明細書等には、Treg細胞の成長/生存の活性を促進するが、非調節性T細胞の成長/生存を促進するための能力が低下しているIL-2改変体について、IL-2Rαに対する親和性の上昇及びIL-2Rβに対する親和性の低下の組み合わせを通して機能することが記載されているから(上記記載事項甲11-ウ)、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に加えて、IL-2Rαに対する親和性が向上していても良いことが理解できる。
したがって、当業者であれば、発明特定事項(d)(ii)又は(iv)に対応する構成を有するIL-2改変体は、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有することを合理的に推認できる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)で述べた、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用とは、甲4に示された、調節性T細胞であるか、非調節性T細胞であるかにかかわらず、T細胞が増殖する際には、STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じるという技術常識を考慮すれば、FOXP3陰性T細胞において、STAT5リン酸化を誘発する能力が低下すること(発明特定事項(c)に対応する。)及びFOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激すること(発明特定事項(b)に対応する。)を意味する。
したがって、当業者であれば、発明特定事項(d)に対応する構成を有するIL-2改変体は、発明特定事項(b)及び発明特定事項(c)に規定された性質を有するものであることを合理的に推認できる。

(エ)以上のとおりであるから、基礎出願明細書等には、発明特定事項(d)が記載されており、また、発明特定事項(b)、発明特定事項(c)及び発明特定事項(d)の組み合わせも基礎出願明細書等の記載から把握できる。

エ 本件発明1が基礎出願明細書等に実施可能に記載されているか
(ア)請求人は、基礎出願明細書等は、実質的にIL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する変異を有する改変体を主とした発明を開示するものであり、これ以外については実施可能に開示していないこと、及び基礎出願明細書等に記載された所望の効果を奏する唯一のIL-2改変体である2-4は、IL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する8つの変異と、IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基の1つの変異と、I89V変異を有するものであるところ、その他の改変体であるI89V変異を有さない改変体やIL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する変異を有さない改変体でも、同様の効果を奏することは推認できない旨主張する。

(イ)しかしながら、合議体は、基礎出願明細書等は当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると判断する。
a 発明特定事項(b)、発明特定事項(c)及び発明特定事項(d)が基礎出願明細書等に記載されており、これらの組み合わせも記載されていることは、上記ア?ウで検討したとおりであって、基礎出願明細書等の記載から、IL-2Rαに対する親和性の向上は必須ではなく、IL-2Rαに対する親和性が向上していなくても、本件発明1の、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を有することを理解できる。

b そして、このことは、基礎出願明細書等の実施例においても裏付けられている。
基礎出願明細書等には、野生型よりも高いIL-2Rα親和性を付与する変異のみを有するmod2-4がwtIL-2と同様の挙動を示したことが記載されていることから(上記記載事項甲11-ク)、IL-2Rαに対する親和性を向上させる変異は、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を有するものではないことが理解できる。
一方、このmod2-4(野生型よりも高いIL-2Rα親和性を付与する変異のみを有するIL-2改変体)に、さらに、上記ウで検討したように、野生型よりも低下したIL-2Rβ親和性を付与すると理解できる変異(N88D)及び基礎出願明細書等には触れられていない変異(I89V)を有するIL-2改変体2-4は、野生型と比較して、2?3倍高い比率でFOXP3^(+)細胞を含有していたことが記載されている(上記記載事項甲11-ク)。
ここで、上記記載事項甲11-オには、IL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する具体的な変異の位置が記載され、上記記載事項甲11-カには、IL-2Rβ又はIL-2Rγに接触する位置が記載されているところ、89位は、そのどちらにも記載されていないことから、I89Vは、IL-2Rに対する親和性に影響を与えない変異であることが理解できる。そして、基礎出願明細書等には、IL-2改変体が、IL-2Rを介したシグナル伝達の改変によって、Treg細胞の優先的な増殖/生存/活性化をもたらすものであるという技術的思想が記載されていることに鑑みると(上記記載事項甲11-カ)、IL-2改変体2-4によるFOXP3^(+)細胞の増加の結果は、IL-2Rに対する親和性に影響を与えない変異であるI89Vではなく、野性型よりも低下したIL-2Rβ親和性を付与する変異(N88D)に起因するものであると考えるのが自然である。
そうすると、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を有するためには、IL-2Rαに対する向上した親和性ではなく、IL-2Rβに対する低下した親和性が重要であることが実施例の記載からも理解される。

c したがって、当業者であれば、基礎出願明細書等の記載に基づいて、I89V変異を有さない改変体やIL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する変異を有さない改変体でも、所望の作用を有することを合理的に推認できる。

(ウ)以上のとおり、本件発明1は、基礎出願明細書等に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。

オ 請求人は、基礎出願明細書等に開示されている技術的思想は本件発明1とは異なる旨主張するが、上記ア?ウにて検討したとおり、本件発明1のIL-2改変体に係る発明特定事項(b)、発明特定事項(c)及び発明特定事項(d)について、基礎出願明細書等の記載から把握できる事項であり、これらの組み合わせも記載されているといえるから、請求人の主張は採用できない。

カ 以上のとおりであるから、本件発明1は、優先権主張の利益を享受することができる。

キ 本件発明2?6、8?11及び13?15
請求人は、本件発明2?6、8?11及び13?15は、請求項1を直接又は間接的に従属する請求項に係る発明であり、本件発明1の発明特定事項をすべて含むため、本件発明1と同様に優先権が無効である旨主張する。
しかしながら、本件発明1が優先権主張の利益を享受できるのは上記のとおりであるから、本件発明2?6、8?11及び13?15は、本件発明1と同様に優先権主張の効果が認められる。

ク 本件発明7
請求人は、本件発明7について、N30S変異を有するIL-2改変体の例は、基礎出願明細書等には記載されていない旨主張するが、基礎出願明細書等の特許請求の範囲の請求項8には、「位置30における変異がN30S」であることが記載されているから(上記記載事項甲11-ア)、本件発明7は基礎出願明細書等に記載されている。

ケ 本件発明12
請求人は、本件発明12は、発明特定事項(b)を「機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボFOXP3陽性T細胞」におけるものに限定するものであるところ、「機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボFOXP3陽性T細胞」という技術的特徴は、基礎出願明細書等に記載されていない旨主張する。
しかしながら、基礎出願明細書等には、平底プレートにおいて、PBMCをIL-2改変体2-4で培養したところ、wtIL-2の存在下と比較して、FOXP3^(+)細胞の存在数は、2?8倍に高まったこと(上記記載事項甲11-ク)、予め活性化したT細胞を2-4変異体と共に培養したところ、wtIL-2又はmod2-4と培養した細胞と比較して、CD4^(+)T細胞は、2?3倍高い比率でFOXP3^(+)細胞を含有していたこと(上記記載事項甲11-ク)、及び予め活性化され休止したT細胞をIL-2改変体2-4に短時間暴露したところ、IL-2受容体シグナルカスケードの一部として既知であるSTAT5のリン酸化が刺激されたこと(上記記載事項甲11-ケ)が記載されている。
これらの実験において使用されたT細胞は、エクスビボの状態であると認められ、また、2-4変異体は、IL-2受容体を通じて、エクスビボFOXP3陽性T細胞の増殖を促進したものであることから、基礎出願明細書等には、「機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボFOXP3陽性T細胞」においてSTAT5リン酸化を刺激するIL-2改変体は記載されているといえる。
よって、本件発明12は基礎出願明細書等に記載されている。

コ 本件発明16及び17
請求人は、本件発明16は、医薬の調製におけるIL-2改変体の使用である点を除けば、実質的に本件発明1と同一の発明特定事項によって特定されており、その技術的効果も本件発明1と実質的に同一であるから、本件発明1と同様に優先権が無効である旨主張する。また、本件発明17は、請求項16に従属する請求項に係る発明であり、本件発明16の発明特定事項をすべて含むため、本件発明16と同様に優先権が無効である旨主張する。
しかしながら、本件発明1が優先権主張の利益を享受できるのは上記のとおりであるから、本件発明16及び17についても同様に優先権主張の利益を享受できる。

サ 本件発明18及び19
請求人は、本件発明18及び19に係る具体的な配列(配列番号3?6、8及び9)が基礎出願明細書等に記載されていない旨主張するので以下に検討する。
本件発明18において規定される配列番号3のアミノ酸は、野生型IL-2配列(配列番号1)に対して、N29S、Y31H、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、Q74P、N88Dの変異を含むものである。
本件発明18において規定される配列番号4のアミノ酸は、野生型IL-2配列(配列番号1)に対して、N29S、Y31H、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、Q74P、N88D、E15Qの変異を含むものである。
本件発明18において規定される配列番号5のアミノ酸は、野生型IL-2配列(配列番号1)に対して、N29S、Y31H、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、Q74P、N88D、H16Nの変異を含むものである。
本件発明18において規定される配列番号6のアミノ酸は、野生型IL-2配列(配列番号1)に対して、N29S、Y31H、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、Q74P、N88D、Q22Eの変異を含むものである。
本件発明18において規定される配列番号8のアミノ酸は、野生型IL-2配列(配列番号1)に対して、N29S、Y31H、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、Q74P、N88D、D84Nの変異を含むものである。
本件発明18において規定される配列番号9のアミノ酸は、野生型IL-2配列(配列番号1)に対して、N29S、Y31H、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、Q74P、N88D、E95Qの変異を含むものである。
これらの特定の変異を含む配列番号3?6、8及び9のアミノ酸配列を有するIL-2改変体は、基礎出願明細書等には記載されていないので、本件発明18及び19は、優先権主張の利益を享受することはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?17は優先権主張の利益を享受できる。
また、本件発明18及び19は、優先権主張の利益を享受することはできない。

2 無効理由1(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく新規性欠如)
(1)本件発明1?3、5及び12?17
無効理由1の新規性欠如に係る請求人の主張は、本件特許は優先権主張の利益を享受することができないから、本件発明の新規性進歩性の判断基準日が、国際出願日である平成22年1月20日となることを前提とするものであるが、上記1のとおり、本件発明1?3、5及び12?17について、その優先権主張の利益を享受でき、その新規性進歩性の判断において出願日とみなされる日(判断基準日)は優先日であり、甲1の国際公開日(2009年(平成21年)11月12日)より前である、平成21年1月21日となるから、本件発明1?3、5及び12?17の新規性が甲1により否定されないことは明らかである。
よって、本件発明1?3、5及び12?17に係る特許を無効理由1によって無効にすることはできない。

仮に、本件発明1?3、5及び12?17が、優先権主張の利益を享受できない場合であっても、下記4(無効理由3)(2)ア(ア)b及びc、並びに(2)ア(イ)b及びcで述べるように、本件発明1と甲1に記載された発明の間には、相違点1?3又は相違点4?6があり、このうち、少なくとも相違点2及び相違点3、若しくは、相違点5は、実質的な相違点であるため、両者は同一ではないから、無効理由1の結論を左右しない。

3 無効理由2(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1、甲1及び甲2、又はこれらと甲3?9のうちの一ないし複数との組み合わせに基づく進歩性欠如)
(1)本件発明1?17
無効理由2は、優先権主張の利益を享受できないこと、すなわち、本件発明の新規性進歩性の判断基準日が平成22年1月20日であることを前提とするものであるところ、本件発明1?17については、優先権の利益が享受できるものであって、その判断基準日が平成21年1月21日であることは上記1のとおりである。
したがって、本件発明1?17の進歩性が甲1、甲1及び甲2、又はこれらと甲3?9のうちの一ないし複数との組合わせにより否定されないことは明らかである。
よって、本件発明1?17に係る特許を無効理由2によって無効にすることはできない。

仮に、本件発明1?17が優先権主張の利益を享受できない場合であっても、下記4(無効理由3)(2)ア(ア)b及びc、並びに(2)ア(イ)b及びcで述べるように、本件発明1と甲1に記載された発明の間には、相違点1?3又は相違点4?6があり、このうち、相違点2又は相違点5は、本件発明1は配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることが特定されているのに対し、甲1に記載された発明は、CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものである点であるところ、甲1に記載された発明において、「配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下して」いることは、いずれの証拠にも記載も示唆もされていないから、相違点2又は相違点5に係る構成は当業者が容易に想到し得るものではない。この点は、甲2?甲9に記載の事項を組み合わせてみても同様である。また、本件発明1のIL-2改変体は、FOXP3陰性T細胞の活性化について、CD8^(+)及びCD4^(+)の両方において低下を示すものであって(Fig.2B及びFig.2C)、望ましくない炎症を総合的に抑制することができるという顕著な効果を奏するものであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明に甲2?甲9に記載の事項を組み合わせてみても、当業者が容易に発明することができるものではない。本件発明2?17も同様である。
そうすると、仮に本件発明1?17が優先権主張の利益を享受できないとしても、無効理由2の結論を左右しない。

(2)本件発明18及び19
上記1のとおり、本件発明18及び19については、優先権主張の利益を享受することはできないから、甲1は公知文献となるため、以下に本件発明18及び19に対する無効理由2を検討する。

上記記載事項甲1-アによれば、甲1には、野生型IL-2において、
・第88位の置換により、アスパラギンがアルギニンに置換されているhIL-2-N88R、グリシンに置換されているhIL-2-N88G、イソロイシンに置換されているhIL-2-N88I、
・第20位の置換により、アスパラギン酸がヒスチジンに置換されているhIL-2-D20H、イソロイシンに置換されているhIL-2-D20I、またはチロシンに置換されているhIL-2-D20Y、及び
・第126位の置換により、グルタミンがロイシンに置換されているhIL-2-Q126L
は記載されているものの、本件発明18又は19で規定する配列番号3?6、8及び9に記載のアミノ酸配列を含むIL-2改変体は記載されていない。
そして、甲1には、IL-2におけるIL-2Rに対する親和性について何ら記載されていないから、甲1発明において、IL-2Rαに対して向上した親和性を付与する変異やIL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対して低下した親和性を付与する変異を導入して、特定の配列である配列番号3?6、8及び9からなるアミノ酸配列を含むIL-2改変体を得ようとする動機付けがない。
さらに、甲2?甲9にも、IL-2において、IL-2Rαに対して向上した親和性を付与する変異やIL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対して低下した親和性を付与する変異を導入することなどは記載も示唆もないし、動機付けもない。
したがって、本件発明18及び19は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲1に記載された発明に甲2を組み合わせてみても、さらに、甲1又は甲2に甲3?甲9を組み合わせてみても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明18及び19に係る特許を無効理由2によって無効にすることはできない。

4 無効理由3(仮に優先権主張の利益を享受できるとした場合の甲1に基づく拡大先願)
(1)甲1の優先権主張の適否
請求人は、甲1(国際公開第2009/135615号)として提示された国際特許出願PCT/EP2009/003076には、hIL-2-N88Rが、野生型IL-2と比較して、CD8^(+)細胞傷害性T細胞の増殖に対する活性をほとんどあるいはまったく有さないことが記載されていることを根拠に、本件発明1?3、5及び12?17は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない旨主張する。
しかし、甲1の優先権主張の基礎とされた独国特許出願10 2008 023 820.1号の明細書、特許請求の範囲及び図面には、hIL-2-N88Rが、野生型IL-2と比較して、CD8^(+)細胞傷害性T細胞の増殖に対する活性をほとんどあるいはまったく有さないことが記載されていないから、請求人の主張する事項は優先権主張の利益を享受することはできず、甲1の先願としての地位の基準日(後願排除の基準日)は、甲1の特許出願日である平成21年4月28日となる。
そうすると、甲1は、本件発明1?3、5及び12?17に係る特許の出願日とみなされる日である平成21年1月21日より前の「他の特許出願」には該当しないから、無効理由3は理由がない。

(2)仮に、請求人の主張する事項が優先権主張の利益を享受できる場合であっても、以下に述べるとおり、無効理由3は理由がないと合議体は判断する。
ア 本件発明1
(ア)先願発明1(技術的思想)に基づく拡大先願
a 先願発明1
甲1の特許法第184条の4第1項の国際出願日の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「先願明細書等」という。)には、上記第4 1(1)で摘記した事項が記載されている。

先願明細書等には、自己免疫疾患の治療のための、hIL-2変異タンパク質を含む医薬組成物が記載されている(上記記載事項甲1-アの請求項1及び請求項11)。
先願明細書等には、上記医薬組成物に含まれるhIL-2変異タンパク質は、野生型インターロイキン2(hIL-2)のアミノ酸番号に基づいて、第20位、第88位および第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つが置換されているhIL-2タンパク質であることが記載されている(上記記載事項甲1-アの請求項1及び請求項11)。
先願明細書等には、hIL-2変異タンパク質が、CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導することが記載されている(上記記載事項甲1-ウ、甲1-ケ、甲1-コ及び甲1-サ)。
先願明細書等には、hIL-2変異タンパク質が、CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対する活性をほとんどあるいは全く有さないことが記載されている(上記記載事項甲1-エ、甲1-ス、甲1-セ及び甲1-ソ)。
そうすると、先願明細書等には、次の発明が記載されていると認められる。
「被験体において自己免疫疾患を治療する方法において使用するための組成物であって、該組成物は、IL-2改変体を含み、該IL-2改変体は、
(a)野生型IL-2のアミノ酸配列に対して、第20位、第88位及び第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つが置換されており、
(b)CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導し、
(c)野生型IL-2と比較して、CD8陽性の細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさない、
自己免疫疾患を治療するための組成物。」(以下、「先願発明1」という。)

b 対比
本件発明1と先願発明1を対比する。
先願発明1における「野生型IL-2のアミノ酸配列」は、本願発明1の「配列番号1」のアミノ酸配列に相当する。そして、野生型IL-2は、133アミノ酸残基からなるものであるから、先願発明1の「(a)野生型IL-2のアミノ酸配列に対して、第20位、第88位及び第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つが置換されて」いることは、本願発明1の「配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含」むことに相当する。
そうすると、両者は、「医薬組成物であって、該組成物は、IL-2改変体を含み、該IL-2改変体は、(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含むものである組成物。」である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1は、IL-2改変体は、FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激するものであるのに対し、先願発明1は、CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導するものである点。
・相違点2
本件発明1は、IL-2改変体は、配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているものであるのに対し、先願発明1は、CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものである点。
・相違点3
本件発明1は、IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性が(d)(i)?(iv)として特定されているのに対し、先願発明1にはそのような特定はない点。

c 判断
(a)相違点1について
先願発明1は「CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導」するものであるところ、「制御性T細胞」は「調節性T細胞」と同義であるから、先願発明1の「CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞」は、「FOXP3陽性調節性T細胞」に相当する。
そして、甲4によれば、調節性T細胞であるか、非調節性T細胞であるかにかかわらず、T細胞が増殖する際には、STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じることは、本件優先日当時の技術常識であることを考慮すると(上記記載事項甲4-イ及び甲4-ウ)、先願発明1における「CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を誘導」する際には、STAT5のリン酸化の刺激が起きているものである。
そうすると、先願発明1の「CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導」することは、本件発明1の「FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激」することに相当する。
よって、この相違点は実質的な相違点ではない。

(b)相違点2について
上記(a)で述べた甲4に示された技術常識を考慮すれば、「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」の増殖が促進されなかったことは、「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることを意味するといえる。
ここで、請求人は、甲6及び甲7を挙げて、先願発明1における「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」は、本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」に相当する旨主張する。
しかしながら、甲6及び甲7は、むしろCD8^(+)FOXP3^(+)T細胞が存在することを開示するものであること(上記記載事項甲6-イ及び甲7-イ)、また、乙2には、CD8陽性細胞においてFOXP3は低レベルで発現していることが記載されていること(上記記載事項乙2-ア)を踏まえると、「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」は、必ずしも「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえない。
したがって、先願明細書等には、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているIL-2改変体が記載されているとはいえない。
仮に、先願発明1における「CD8陽性細胞傷害性T細胞」が本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」に相当するとしたとしても、以下の理由により、先願発明1に含まれるIL-2改変体は、「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」する性質を有するものとはいえないと合議体は判断する。
本件明細書の背景技術の欄には、以下のとおり記載されている(下線は合議体が付した。)。
「【0003】
T細胞は、典型的に組織中に存在する低濃度のIL-2に応答するためにCD25の発現を必要とする。CD25を発現するT細胞は、自己免疫性炎症を抑制するのに不可欠であるCD4^(+)FOXP3^(+)調節性T細胞(T-reg細胞)およびCD25を発現するように活性化されたFOXP3^(-)T細胞の両方を含む。FOXP3^(-)CD25^(+)Tエフェクター細胞(T-eff)は、CD4^(+)細胞またはCD8^(+)細胞のいずれかであってもよく、これらの両方は、炎症誘発性(pro-inflammatory)となり得、自己免疫病、器官移植片拒絶、または移植片対宿主病の一因となり得る。IL-2刺激STAT5シグナル伝達は、正常なT-reg細胞の成長および生存にとってならびに高FOXP3発現にとって重大である。」

本件発明1の組成物は「被験体において炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用する」ためのものであって、それに含まれるIL-2改変体は、「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下している」という性質を有するものであるところ、本件明細書の段落【0003】の、FOXP3陰性T細胞には、CD4^(+)細胞とCD8^(+)細胞があり、これらの両方は、炎症誘発性となり得るものである旨の記載を考慮すると、本件発明1の組成物を規定する用途に使用するためには、「FOXP3陰性T細胞」に含まれるCD4^(+)細胞とCD8^(+)細胞の両方において、「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」している必要があるものといえる。
一方、先願発明1において、「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」については、STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているとしても、それ以外の「FOXP3陰性T細胞」(例えば、CD4^(+)細胞)におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることは、先願明細書等には記載されていない。
そして、本件明細書の段落【0003】にも示されるように、CD4^(+)細胞も炎症誘発性になり得るものであるから、「FOXP3陰性T細胞」全体のうち、一部である「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることをもって、本件発明1の「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していることに相当するとはいえない。

(c)相違点3について
先願明細書等には、IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性について何ら記載されていないから、この相違点は実質的な相違点となる。

d まとめ
以上のとおり、本件発明1は、先願発明1と少なくとも相違点2及び相違点3で相違するから、本件発明1は先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

(イ)先願発明2(特定の改変体)に基づく拡大先願
a 先願発明2(特定の改変体)
上記記載事項甲1-ア、甲1-カ、甲1-ク?サ及び甲1-シ?ソによれば、先願明細書等には、次の発明が記載されていると認められる。
「被験体において自己免疫疾患を治療する方法において使用するための組成物であって、該組成物はIL-2改変体を含み、
該IL-2改変体は、
hIL-2-N88Rであり、
CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を誘導し、
CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさない、
組成物。」(以下、「先願発明2」という。)

b 対比
本件発明1と先願発明2を対比する。
先願発明2の「hIL-2-N88R」は、野生型のIL-2において、88位のNがRに変異したものであって、133アミノ酸からなる野生型のIL-2のうち1アミノ酸が変異したものであるから、先願発明2の「hIL-2-N88R」は、本願発明1の「該IL-2改変体は、(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含むもの」に相当する。
そうすると、両者は、「医薬組成物であって、該組成物は、IL-2改変体を含み、該IL-2改変体は、(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含むものである組成物。」である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点4
本件発明1は、IL-2改変体は、FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激するものであるのに対し、先願発明2は、CD4^(+)CD25^(+)Foxp3^(+)およびCD4^(+)CD25^(-)Foxp3^(+)などの制御性T細胞の形成を誘導するものである点。
・相違点5
本件発明1は、IL-2改変体は、配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているものであるのに対し、先願発明2は、CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものである点。
・相違点6
本件発明1は、IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性が(d)(i)?(iv)として特定されているのに対し、先願発明2にはそのような特定はない点。

c 判断
(a)相違点4について
上記(ア)c(a)(相違点1について)で述べたとおり、この相違点4は実質的な相違点ではない。

(b)相違点5について
上記(ア)c(b)(相違点2について)で述べたとおり、この相違点は実質的な相違点である。

(c)相違点6について
上記記載事項甲5-エの表1における「IL-2Rβ」の行における結合解離定数であるK_(d)値をみると、hIL-2-N88Rは野生型よりもK_(d)値が大きいことが読み取れる。K_(d)値は、大きいほど親和性が低下していることを意味するから、hIL-2-N88Rは野生型よりもIL-2Rβに対する親和性が低下しているものである。
そうすると、先願発明2のIL-2改変体は、本件発明1の発明特定事項(d)(i)の、野生型、すなわち、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも「低下したIL-2Rβ親和性を有する」ことに該当するものである。

d まとめ
以上のとおり、本件発明1は先願発明2と少なくとも相違点5で相違するから、本件発明1は先願発明2と同一であるとはいえない。

イ 本件発明2、3、5及び12?15
本件発明2、3、5及び12?15は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。

ウ 本件発明16及び17
本件発明16の「炎症性疾患、障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用。」は、本件発明1の「炎症性疾患、障害または状態の処置する方法において使用するための組成物。」に含まれるIL-2改変体のカテゴリーを「使用」に変更したものであるところ、上記(1)に説示したとおり、本件発明1は、先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえないものであるから、本件発明16も先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。

本件発明17は、本件発明16をさらに限定した発明であるから、本件発明16と同様の理由により、本件発明17は、先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。

エ 小括
よって、本件発明1?3、5及び12?17に係る特許を無効理由3によって無効にすることはできない。

5 無効理由6(甲2に基づく新規性欠如)
(1)本件発明1
ア 甲2に記載された発明
甲2には、配列番号2に対して少なくとも90%同一である変異IL-2ポリペプチドが記載され、該変異IL-2ポリペプチドは、配列番号3の野生型IL-2よりも高い親和性でIL-2Rαに結合することが記載され、該変異IL-2ポリペプチドは、癌またはウイルス感染を有する患者の処置のために使用することが記載されている(上記記載事項甲2-ア)。
また、上記記載事項甲2-ウによれば、該変異IL-2ポリペプチドは、活性化T細胞をより刺激し、結果として、癌性またはウイルス感染細胞の細胞傷害性T細胞/リンパ球(CTL)攻撃の効力を増強することが記載されている。
そうすると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「(1)被験体において、癌またはウイルス感染を処置する方法において使用される変異IL-2ポリペプチドであって、
(2)該変異IL-2ポリペプチドは、
(a)配列番号2に対して少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
(b)細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化し、
(d)IL-2Rαに対して向上した親和性を有している、
(3)癌またはウイルス感染を処置する方法において使用される変異IL-2ポリペプチド。」(以下、「甲2発明」という。)

この点、請求人は、甲2には、
「被験体において関節炎、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、または、乾癬の治療を処置する方法において使用するための組成物であって、
該組成物は、IL-2改変体を含み、該IL-2改変体は、
甲2の図12?20に記載のIL-2改変体から選択されるIL-2改変体(例えば、本件特許の基礎出願明細書実施例にて使用された「2-4」)である、
組成物。」
なる発明が記載されている旨主張する。

しかしながら、甲2において、図12?20に記載のIL-2改変体が「関節炎、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎または乾癬」の処置のために使用できることは具体的に確認されておらず、上記記載事項甲2-オには、何ら裏付けされることなくこれらの医薬用途が単に列挙されているだけであるから、図12?20に記載されたIL-2改変体を請求人が主張する医薬用途に使用できることが明らかであるように甲2に記載されているとはいえないため、甲2の記載に基づいて請求人の主張する発明を認定することはできない。
よって、請求人の主張は採用しない。

イ 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の配列番号2は、本件発明1の配列番号1と同一であるから、甲2発明の「配列番号2に対して少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含」むことは、本件発明1の「配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含」むことに相当する。
そうすると、両者は、配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むIL-2改変体に関する発明である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点7
本件発明1は、対象疾患が、自己免疫疾患、器官移植片拒絶、または、移植片対宿主病である炎症性疾患であるのに対し、甲2発明は癌またはウイルス感染である点。
・相違点8
本件発明1は、IL-2改変体は、FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激することを特定しているのに対して、甲2発明はCTLを活性化することを特定している点
・相違点9
本件発明1は、IL-2改変体は、FOXP3陰性T細胞においてSTAT5リン酸化を誘発する能力が低下していることを特定しているのに対して、甲2発明にはそのような特定がない点
・相違点10
本件発明1は、IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性について、「(d)(i)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(ii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2Rβ親和性を有するか、(iii)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか、または、(iv)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い、IL-2Rα親和性を有し、かつ、配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した、IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し」と特定されているのに対し、甲2発明には、IL-2Rαに対して向上した親和性を有することが特定されている点

ウ 判断
本件発明1は、甲2発明と少なくとも相違点7?相違点10で相違するから、本件発明1が甲2に記載された発明と同一であるとはいえない。

請求人は、甲2に記載されていると主張する発明に係る「関節炎、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、または、乾癬」は、本件発明1の「自己免疫疾患、器官移植片拒絶、または、移植片対宿主病」の下位概念であるため、一致点となる旨主張する。
しかし、請求人が主張する医薬用途に係る発明を引用発明として認定することができないことは、上記アで述べたとおりであって、請求人の主張は採用できない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明と少なくとも相違点7?相違点10で相違するから、本件発明1が甲2に記載された発明と同一であるとはいえない。

(2)本件発明2?15
本件特許発明2?15は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明と同一であるとはいえない。

(3)本件発明16及び17
本件発明16の「炎症性疾患、障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用。」は、本件発明1の「炎症性疾患、障害または状態の処置する方法において使用するための組成物。」に含まれるIL-2改変体のカテゴリーを「使用」に変更したものであるところ、上記(1)に説示したとおり、本件発明1は、甲2発明と同一であるとはいえないものであるから、本件発明16も甲2発明と同一であるとはいえない。

本件発明17は、本件発明16をさらに限定した発明であるから、本件発明16と同様の理由により、本件発明17は、甲2発明と同一であるとはいえない。

(4)小括
よって、本件発明1?17に係る特許を無効理由6によって無効にすることはできない。

6 無効理由7(甲2に基づく進歩性欠如)
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲2発明は、少なくとも上記5(1)イで述べた相違点7?相違点10の点で相違する。

イ 判断
(ア)相違点7について
甲2には、甲2発明の変異IL-2ポリペプチドが、細胞傷害性T細胞/リンパ球(CTL)攻撃の効力を増強することが記載されている(上記記載事項甲2-ウ)。細胞傷害性T細胞/リンパ球(CTL)攻撃の効力の増強は炎症を増強するものであるから、当業者は、甲2発明の変異IL-2ポリペプチドを「炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するため」に用いることは動機付けられない。

(イ)相違点8について
甲2には、甲2発明の変異IL-2ポリペプチドが、FOXP3陽性調節性T細胞を活性化することも、当該細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激することも記載されておらず、また、周知の事項でもないから、本件発明1の発明特定事項(b)に係る構成は当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)相違点9について
甲2には、甲2発明の変異IL-2ポリペプチドが、FOXP3陰性T細胞の活性化を低下させることも、当該細胞においてSTAT5のリン酸化誘発能力を低下させることも記載されておらず、また、周知の事項でもないから、本件発明1の発明特定事項(c)に係る構成は当業者が容易に想到し得るものではない。

(エ)相違点10について
甲2は、甲2発明の変異IL-2ポリペプチドにおけるIL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対する低下した親和性については記載されておらず、また、周知の事項でもないから、本件発明1の発明特定事項(d)に係る構成は当業者が容易に想到し得るものではない。

ウ 請求人の主張
請求人は、甲2には、本件基礎出願の実施例で用いられたIL-2改変体2-4を含む改変体の用途として、乾癬、乾癬性関節炎、慢性関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、アレルギー皮膚炎等が記載されているところ、本件発明1の対象疾患である自己免疫疾患は、乾癬等を上位概念化したものである旨主張する。
しかし、請求人が主張する医薬用途に係る発明を引用発明として認定することができないことは、上記5(1)アで述べたとおりであって、甲2発明として、それらの医薬用途が記載されていることを前提とする請求人の主張は前提が成り立たないものであるから、採用できない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?15及び18
本件発明2?15及び18は、本件発明1をさらに限定する内容の発明であるから、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明16、17及び19
本件発明16の「炎症性疾患、障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用。」は、本件発明1の「炎症性疾患、障害または状態の処置する方法において使用するための組成物。」に含まれるIL-2改変体のカテゴリーを「使用」に変更したものであるところ、上記(1)に説示したとおり、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明16も甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

本件発明17及び19は、本件発明16をさらに限定した発明であるから、本件発明16と同様の理由により、本件発明17及び19は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?19に係る特許を無効理由7によって無効にすることはできない。

7 無効理由4(実施可能要件違反)
(1)請求人の主張
請求人は、無効理由4に関して、以下の事項を主張する。
(1)本件明細書の実施例に記載されたIL-2改変体は、(d)(ii)又は(iv)に対応するものであり、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する構成を有するIL-2改変体が、実施例に示された特定のIL-2改変体と同様の効果を奏すことを予測する根拠はないから、本件発明1はその全範囲にわたって使用できない。また、本件明細書の実施例で具体的に示された変異の組み合わせを有するIL-2改変体以外は、本件発明の効果を奏することは確認できないから、本件発明1を使用できるように発明の詳細な説明が記載されていない。
(2)発明特定事項(d)(i)又は(iii)を満たしつつ、発明特定事項(b)及び発明特定事項(c)を満たすIL-2改変体を作ることができるように発明の詳細な説明が記載されていない。
(3)本件明細書には、発明特定事項(d)について、IL-2Rに対する親和性の測定方法が記載されておらず、どのような方法で測定した親和性を比較すべきなのかも特定されていないから、本件発明に係る物を作ることができない。

(2)判断
ア 本件発明1
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
本件摘示ア
「【0002】
(背景)
IL-2は、IL-2結合に際して細胞内シグナル伝達事象を一緒に活性化するIL-2RβおよびIL-2Rγならびに他の2つの受容体サブユニットにIL-2を提示する役目をするCD25(IL-2Rα)の3つの膜貫通受容体サブユニットに結合する。IL-2Rβγによって伝えられるシグナルは、PI3-キナーゼ、Ras-MAP-キナーゼ、およびSTAT5経路のシグナルを含む。」

本件摘示イ
「【0006】
(概要)
炎症誘発性であり得るFOXP3^(-)CD25^(+)T細胞の成長/生存よりも、FOXP3^(+)調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進する、IL-2の免疫抑制変異性改変体が、本明細書において提供される。他のT細胞に対するT-regの比を増加させることによっておよび/またはFOXP3^(-)CD25^(+)T細胞を活性化せずに、T-regにおけるFOXP3発現を増加させることによって、これらの改変体は、望ましくない炎症を抑制するはずである。
【0007】
これらのIL-2改変体の特有の特性は、2組の変異から生じる。1組の変異は、IL-2受容体のシグナル伝達鎖(IL-2Rβ/CD122および/もしくはIL-2Rγ/CD132)に対する親和性の低下ならびに/またはIL-2受容体の一方もしくは両方のサブユニットからのシグナル伝達事象を誘発するための能力の低下をもたらす。変異の第2の組は、CD25(IL-2Rα)に対するより高い親和性を付与し、Raoら(米国特許出願公開第2005/0142106号)によって記載される変異を含んでいてもよい。
【0008】
本明細書において記載されるように、ある種のIL-2改変体は、T-reg細胞の生存、増殖、活性化、および/または機能を優先的に誘発するシグナル伝達事象を誘発する。ある実施形態では、IL-2改変体は、T-reg細胞において、STAT5リン酸化ならびに/またはIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子、たとえばp38、ERK、SYK、およびLCKのリン酸化を刺激するための能力を保持する。他の実施形態では、IL-2改変体は、T-reg細胞の生存、増殖、活性化、および/または機能にとって重要である、FOXP3またはIL-10などのような、遺伝子またはタンパク質の転写またはタンパク質発現をT-reg細胞において刺激するための能力を保持する。他の実施形態では、IL-2改変体は、CD25^(+)T細胞の表面上のIL-2/IL-2R複合体のエンドサイトーシスを刺激するための能力の低下を示す。他の実施形態では、IL-2改変体は、AKTおよび/またはmTOR(哺乳類ラパマイシン標的)の非効率的なリン酸化、リン酸化の低下、リン酸化の欠如などのような、PI3-キナーゼシグナル伝達の非効率的な刺激、刺激の低下、または刺激の欠如を示す。他の実施形態では、IL-2改変体は、wt IL-2がSTAT5リン酸化および/またはT-reg細胞におけるIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激する能力を保持し、さらに、FOXP3^(-)CD4^(+)細胞もしくはFOXP3^(-)CD8^(+)T細胞またはNK細胞におけるSTAT5、AKT、および/もしくはmTORまたはIL-2Rの下流の他のシグナル伝達分子の非効率的なリン酸化、リン酸化の低下、またはリン酸化の欠如を示す。他の実施形態では、IL-2改変体は、FOXP3^(-)CD4^(+)細胞もしくはFOXP3^(-)CD8^(+)T細胞またはNK細胞の生存、成長、活性化および/または機能を刺激するのに非効率的であるかまたは刺激することができない。」

本件摘示ウ
「【0016】
ある実施形態では、作用物質は、IL-2改変体である。特に、IL-2改変体は、T-reg細胞の成長/生存のこれらの活性を促進するが、非調節性T細胞(FOXP3^(-)CD25^(+))およびナチュラルキラー細胞の増殖、生存、活性化、および/または機能を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下している。ある実施形態では、そのようなIL-2改変体は、IL-2RサブユニットIL-2Rα(CD25)に対する親和性の上昇ならびにシグナル伝達サブユニットIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性の低下の組み合わせを通して機能する。IL-2およびその改変体が、免疫賦活剤として、たとえば、がんまたは感染症を処置するための方法において、当技術分野において使用されてきたのに対して、本明細書において記載されるIL-2改変体は、免疫抑制作用物質として、たとえば、炎症性障害を処置するための方法において、特に有用である。」

本件摘示エ
「【0020】
一態様では、本発明は、野生型IL-2よりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する免疫抑制IL-2改変体を提供する。米国特許出願公開第2005/0142106号(その全体が参照によって本明細書において組み込まれる)は、野生型IL-2が有するよりも、IL-2Rαに対する高い親和性を有するIL-2改変体およびそのような改変体を作製し、かつスクリーニングするための方法を記載する。好ましいIL-2改変体は、IL-2Rαに接触するIL-2配列の位置か、またはIL-2Rαに接触する他の位置の方向づけを改変するIL-2配列の位置に1つまたは複数の変異を含み、IL-2Rαに対するより高い親和性がもたらされる。変異は、公開された結晶構造に基づいて、IL-2Rαに極めて接近していることが公知のエリア中にまたはその近くにあってもよい(Xinquan Wang、Mathias Rickert、K. Christopher Garcia. Science 310巻:1159頁 2005年)。IL-2Rαに接触すると考えられるIL-2残基は、K35、R38、F42、K43、F44、Y45、E61、E62、K64、P65、E68、V69、L72、およびY107を含む。
【0021】
IL-2Rαに対するより大きな親和性を有するIL-2改変体は、N29、N30、Y31、K35、T37、K48、E68、V69、N71、Q74、S75、またはK76における変化を含むことができる。好ましい改変体は、1つまたは複数の以下の変異を有するものを含む:N29S、N30S、N30D、Y31H、Y31S、K35R、T37A、K48E、V69A、N71R、およびQ74P。
【0022】
免疫抑制IL-2改変体はまた、IL-2Rを介して野生型IL-2によって活性化されるある種の経路を通してのシグナル伝達の改変を示し、T-regの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体をも含む。IL-2Rの活性化に際してリン酸化されることが公知の分子は、STAT5、p38、ERK、SYK、LCK、AKT、およびmTORを含む。野生型IL-2と比較して、免疫抑制IL-2改変体は、FOXP3^(-)T細胞において低下したPI3Kシグナル伝達能力を有することができ、これは、野生型IL-2と比較した、AKTおよび/またはmTORのリン酸化における低下によって測定することができる。そのような改変体は、IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か、またはIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含んでいてもよい。IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基は、L12、Q13、H16、L19、D20、M23、R81、D84、S87、N88、V91、I92、およびE95を含む。IL-2Rγに接触すると考えられるIL-2残基は、Q11、L18、Q22、E110、N119、T123、Q126、S127、I129、S130、およびT133を含む。ある実施形態では、IL-2改変体は、E15、H16、Q22、D84、N88、またはE95に変異を含む。そのような変異の例は、E15Q、H16N、Q22E、D84N、N88D、およびE95Qを含む。
【0023】
ある実施形態では、IL-2改変体は、変異の組み合わせを含む。変異の組み合わせを有するIL-2改変体の例は、図1に提供され、haWT(配列番号2)、haD(配列番号3)、haD.1(配列番号4)、haD.2(配列番号5)、haD.4(配列番号6)、haD.5(配列番号7)、haD.6(配列番号8)、haD.8(配列番号9)、およびhaD.11(配列番号10)dを含む。好ましい実施形態では、IL-2改変体は、FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激するが、野生型IL-2と比較して、FOXP3陰性T細胞において、STAT5およびAKTリン酸化を誘発する能力が低下している。そのような特性を有する好ましい改変体は、haD、haD.1、haD.2、haD.4、haD.5、haD.6、およびhaD.8を含む。
【0024】
IL-2改変体は、野生型IL-2配列と比較して、IL-2RβまたはIL-2Rγに対する親和性に対して効果を有していない1つまたは複数の変異をさらに含んでいてもよいが、IL-2改変体が、FOXP3を発現しない他のT細胞よりも、FOXP3^(+)T-regの優先的な増殖、生存、活性化、または機能を促進することを条件とする。好ましい実施形態では、そのような変異は、保存的変異である。」

本件摘示オ
「【0026】
(免疫抑制IL-2改変体を作製するための方法)
免疫抑制IL-2改変体は、免疫賦活IL-2改変体を産生するための米国特許第6,955,807号(参照によって本明細書において組み込まれる)において記載されるものを含む、当技術分野において公知の任意の適した方法を使用して産生することができる。そのような方法は、IL-2改変体をコードするDNA配列を構築するステップおよび適切に形質転換された宿主においてそれらの配列を発現するステップを含む。この方法は、本発明の組換え改変体を産生する。しかしながら、改変体はまた、化学合成または化学合成および組換えDNA技術の組み合わせによって産生されてもよい。バッチ式産生方法または灌流産生方法は、当技術分野において公知である。Freshey, R. I.(編)、「Animal Cell Culture: A Practical Approach」、第2版、1992年、IRL Press. Oxford、England;Mather, J. P.「Laboratory Scaleup of Cell Cultures (0.5-50 liters)」、Methods Cell Biolog 57巻:219?527頁(1998年);Hu, W. S.およびAunins, J. G.、「Large-scale Mammalian Cell Culture」、Curr Opin Biotechnol 8巻:148?153頁(1997年);Konstantinov, K. B.、Tsai, Y.、Moles, D.、Matanguihan, R.、「Control of long-term perfusion Chinese hamster ovary cell culture by glucose auxostat.」、Biotechnol Prog 12巻:100?109頁(1996年)を参照されたい。
【0027】
改変体を産生するための組換え法の一実施形態では、DNA配列は、野生型IL-2をコードするDNA配列を単離または合成し、次いで、部位特異的変異誘発によって1つまたは複数のコドンを変化させることによって構築される。この技術は、周知である。たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるMarkら、「Site-specific Mutagenesis Of The Human Fibroblast Interferon Gene」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81巻、5662?66頁(1984年);および米国特許第4,588,585号を参照されたい。
【0028】
IL-2改変体をコードするDNA配列を構築するための他の方法は、化学合成である。これは、たとえば、本明細書において記載される特性を示すIL-2改変体をコードするタンパク質配列の化学的手段によるペプチドの直接的な合成を含む。この方法は、IL2Rα、IL-2Rβ、またはIL-2RγとのIL-2の相互作用に影響を与える位置に天然アミノ酸および非天然アミノ酸を組み込んでいてもよい。その代わりに、所望のIL-2改変体をコードする遺伝子は、オリゴヌクレオチドシンセサイザーを使用して化学的手段によって合成されてもよい。そのようなオリゴヌクレオチドは、所望のIL-2改変体のアミノ酸配列に基づき、その中で組換え改変体が産生される宿主細胞において有利なコドンを好ましくは選択して設計される。この点に関して、遺伝子コードが縮重しており、アミノ酸が1つを超えるコドンによってコードされてもよいことが十分に認識される。たとえば、Phe(F)は、2つのコドン、TTCまたはTTTによってコードされ、Tyr(Y)は、TACまたはTATによってコードされ、his(H)は、CACまたはCATによってコードされる。Trp(W)は、単一のコドン、TGGによってコードされる。したがって、特定のIL-2改変体をコードする所与のDNA配列について、そのIL-2改変体をコードする多くのDNA縮重配列があるということが理解される。
【0029】
IL-2改変体をコードするDNA配列はまた、特定部位の変異誘発、化学合成、または他の方法によって調製されるかどうかに関わらず、シグナル配列をコードするDNA配列を含んでいてもよいし、または含んでいなくてもよい。そのようなシグナル配列は、存在する場合、IL-2改変体の発現のために選ばれた細胞によって認識されるシグナル配列であるべきである。それは、原核生物、真核生物、またはその2つの組み合わせであってもよい。それはまた、本来のIL-2のシグナル配列であってもよい。シグナル配列の包含は、IL-2改変体が作製される組換え細胞から、IL-2改変体を分泌することが所望されるかどうかに依存する。選ばれた細胞が原核生物である場合、DNA配列がシグナル配列をコードしないことが一般に好ましい。選ばれた細胞が真核生物である場合、シグナル配列がコードされること、最も好ましくは、野生型IL-2シグナル配列が使用されることが一般に好ましい。
【0030】
標準的な方法は、IL-2改変体をコードする遺伝子を合成するために適用されてもよい。たとえば、完全なアミノ酸配列は、逆翻訳遺伝子を構築するために使用されてもよい。IL-2改変体をコードするヌクレオチド配列を含有するDNAオリゴマーが合成されてもよい。たとえば、所望のポリペプチドの部分をコードするいくつかの小さなオリゴヌクレオチドが合成され、次いで、ライゲーションされてもよい。個々のオリゴヌクレオチドは、典型的に、相補的な組み立てのために5’または3’オーバーハングを含有する。
【0031】
一度、組み立てられたら(合成、特定部位の変異誘発、または他の方法によって)、IL-2改変体をコードするDNA配列は、発現ベクターの中に挿入され、所望の形質転換宿主におけるIL-2改変体の発現に適切な発現制御配列に作動可能に連結される。適切な組み立ては、ヌクレオチド配列決定、制限酵素マッピング、および適した宿主における生物学的に活性なポリペプチドの発現によって確認されてもよい。当技術分野において周知であるように、宿主においてトランスフェクトされた遺伝子の高い発現レベルを得るために、遺伝子は、選ばれた発現宿主において機能的な転写および翻訳発現制御配列に作動可能に連結されなければならない。発現制御配列および発現ベクターの選択は、宿主の選択に依存する。種々様々の発現宿主/ベクター組み合わせが使用されてもよい。
【0032】
細菌、真菌類(酵母を含む)、植物、昆虫、哺乳動物、または他の適切な動物細胞もしくは細胞株およびトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を含む、任意の適した宿主が、IL-2改変体を産生するために使用されてもよい。特に、これらの宿主は、E.coli、Pseudomonas、Bacillus、Streptomyces、真菌、酵母、Spodoptera frugiperda(Sf9)などのような昆虫細胞、組織培養における、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)およびNS/Oなどのようなマウス細胞、COS1、COS7、BSC1、BSC40、およびBNT10などのようなアフリカミドリザル細胞、およびヒト細胞などのような動物細胞、ならびに植物細胞の株などのような周知の真核生物および原核生物の宿主を含んでいてもよい。動物細胞発現については、培養物中のCHO細胞およびCOS7細胞、特にCHO細胞株CHO(DHFR-)またはHKB株が好ましい。
【0033】
もちろん、すべてのベクターおよび発現制御配列が機能して、本明細書において記載されるDNA配列を等しく十分に発現するとは限らないということを理解されたい。また、すべての宿主が同じ発現系で等しく十分に機能するとは限らない。しかしながら、当業者は、不必要な実験作業を用いずに、これらのベクター、発現制御配列、および宿主から選択を行ってもよい。たとえば、ベクターを選択する際に、ベクターはその中で複製しなければならないので、宿主は考慮されなければならない。ベクターコピー数、そのコピー数を制御する能力、および抗生物質マーカーなどのような、ベクターによってコードされる任意の他のタンパク質の発現もまた考慮されたい。たとえば、本発明における使用のための好ましいベクターは、IL-2改変体をコードするDNAのコピー数が増幅されることを可能にするものを含む。そのような増幅可能なベクターは、当技術分野において周知である。それらは、たとえば、DHFR増幅(たとえばKaufman、米国特許第4,470,461号、KaufmanおよびSharp、「Construction Of A Modular Dihydrafolate Reductase cDNA Gene: Analysis Of Signals Utilized For Efficient Expression」、Mol. Cell. Biol.、2巻、1304?19頁(1982頁)を参照されたい)またはグルタミンシンテターゼ(「GS」)増幅(たとえば米国特許第5,122,464号および欧州特許出願公開第338,841号を参照されたい)によって増幅することができるベクターを含む。
【0034】
IL-2改変体は、改変体を産生するために使用される宿主生物に依存して、グリコシル化されても、グリコシル化されなくてもよい。細菌が宿主に選ばれる場合、産生されるIL-2改変体は、グリコシル化されない。他方、おそらく、本来のIL-2がグリコシル化されるのと同じ方法ではないが、真核細胞は、IL-2改変体をグリコシル化する。形質転換宿主によって産生されるIL-2改変体は、任意の適した方法によって精製することができる。IL-2を精製するための様々な方法が公知である。たとえばCurrent Protocols in Protein Science、2巻 編:John E. Coligan、Ben M. Dunn、Hidde L. Ploehg、David W. Speicher、Paul T. Wingfield、Unit 6.5 (Copyright 1997、John Wiley and Sons, Inc)を参照されたい。」

本件摘示カ
「【0047】
(実施例)
(実施例1:IL-2変異体のパネル)
T-regではなく、FOXP3^(-)CD25^(+)「エフェクター」T細胞(T-eff)を刺激する能力が低下したIL-2改変体を生成する可能性を試験するために、IL-2Rβ鎖および/またはIL-2Rγ鎖と相互作用することが予測されるアミノ酸が改変された一連のIL-2変異体を生成した。これらの改変体はまた、CD25に対する高い親和性を付与した1組の以前に記載された変異を含有した(Raoら、Biochemistry 44巻、10696?701頁(2005年)における改変体「2?4」)。この一連の改変体を図1に示す。改変体haWTは、CD25に対する高い親和性に寄与する変異のみを含有した。改変体haD、haD.1、haD.2などはまた、IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγとの相互作用を改変することが予測される変異を含有した。すべてのアッセイにおいて、改変体haD.11は、いかなるシグナルをも誘発することができず、いかなる細胞表現型をも改変することができず、そのため、IL-2Rシグナル伝達を伴わないCD25結合についての対照として役立った。すべてのIL-2改変体は、製造しやすさの改善のためにC125S変異を含有し、FLAGおよびHISタグ配列(DYKDDDDKGSSHHHHHH)(配列番号11)で終結した。
【0048】
いくつかのアッセイは、IL-2改変体がシグナル伝達事象およびT細胞成長を誘発する能力を評価するために使用した。これらは、
1.T細胞サブセットの成長および生存ならびにFOXP3発現の測定
2.細胞シグナル伝達(たとえばフローサイトメトリー法およびELISAベースの方法を使用する、リン酸化STAT5およびAKTの検出)
を検出するためのアッセイを含んだ。
【0049】
(実施例2:FOXP3^(+)細胞の豊富化および長期T細胞培養の間のFOXP3アップレギュレーションの保持)
全PBMCを、100ng/ml抗CD3(OKT3)を用いてウェル当たり4×10^(6)細胞で24ウェルプレート中で活性化した。培養の3日目に、細胞を3回洗浄し、3日間新鮮な培地中に置いた。次いで、細胞を洗浄し、10nMまたは100pMのIL-2改変体を有する96ウェル平底プレート中に接種した。3日後、細胞は、フローサイトメトリーによってカウントし、分析した(図2A)。
【0050】
期待されるように、CD8^(+)CD25^(+)T細胞は、WT IL-2および改変体haWTにとりわけ反応したが、変異IL-2Rβおよび/またはγ接触残基を含有したすべての改変体は、活性化CD8^(+)CD25^(+)T細胞の蓄積の促進で非常に非効率的であった(図2B)。同様の傾向は、CD4^(+)CD25^(+)FOXP3^(-)T細胞について観察された(図2C)。対照的に、FOXP3^(+)CD4^(+)T細胞の成長/生存は、WT IL-2に類似する程度までいくつかのIL-2改変体によって刺激された(図2D)。その結果として、CD4^(+)CD25^(+)T細胞の中のFOXP3^(-)T細胞に対するFOXP3^(+)T細胞の比は、IL-2Rβγ接触残基変異を有するいくつかのIL-2改変体によって増加した(図2E)。さらに、変異は、T-regにおいてIL-2刺激FOXP3アップレギュレーションを弱めなかった(図2F)。
【0051】
(実施例3:FOXP3^(-)T細胞においてシグナル伝達を低下させるが、T-regにおいてSTAT5シグナル伝達を刺激する変異)
IL-2改変体を、T細胞サブセットにおいて、AKTおよびSTAT5のリン酸化を刺激するそれらの能力についてスクリーニングした。いくつかのIL-2改変体は、刺激の10分後のFOXP3^(+)T細胞におけるSTAT5の刺激において、wt IL-2と同じくらい強力であったか、またはほぼ同じくらい強力であった。培地からIL-2を洗い流してから3時間後に、いくつかのIL-2改変体(haD、haD.1、haD.2、haD.4、haD.6、およびhaD.8)は、wt IL-2で見られたものよりも高いレベルで持続性のSTAT5シグナル伝達を刺激し続けた。対照的に、FOXP3-T細胞について、10分間の刺激後、haD改変体に対するSTAT5およびAKTの反応は、wt IL-2またはhaWTによって刺激されたものに比べれば全く高くなかった。3時間後に、wt IL-2で見られたものに類似する弱いSTAT5およびAKTのシグナルが、T-effにおいて観察されたが、この後期の時点で、wt IL-2シグナル伝達は大幅に小さくなった。FOXP3^(+)T細胞において、AKTシグナル伝達は、IL-2によって通常刺激されない(Zeiser Rら、2008年 Blood 111巻:453頁)、したがって、全T細胞溶解物において観察されたホスホ-AKTシグナルは、T-effに起因し得る。
【0052】
方法:あらかじめ活性化させ(2?3日間、抗CD3を用いて)、置いておいた(2?5日間、新鮮な培地中で)T細胞を、37℃で10分間、1nM wtまたは変異体IL-2に曝露した。次いで、細胞は、染色し(10分の時点)または洗浄し、さらに3時間培養した(3時間の時点)。ELISAによってホスホ-AKTを測定するために、50μl培養物を、等容量の2×溶解緩衝液を追加することによって停止させ、溶解物は、製造業者のプロトコールに従って多重ELISAプレートを用いて、ホスホ-AKTについて測定した(MesoScale Discovery、Gaithersburg、Maryland)。フローサイトメトリーによってホスホ-STAT5を測定するために、50μl培養物は、1mlのFOXP3 Fix/Perm緩衝液(BioLegend、San Diego、CA)の追加によって停止させ、20分間25℃でインキュベーションし、そしてBioLegend FOXP3染色プロトコールに従い細胞表面マーカー、FOXP3およびホスホ-STAT5を染色した。」

本件摘示キ(Fig.2B?Fig.2E)




(イ)主張(1)について
a 請求人は、本件発明1の発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する構成を有するIL-2改変体が、実施例に示された特定のIL-2改変体と同様の効果を奏することを予測する根拠はないから、本件発明1はその全範囲にわたって使用できない旨主張するので検討する。

b 本件明細書の段落【0006】において、本件発明1は、FOXP3^(-)CD25^(+)T細胞の成長/生存よりも、FOXP3^(+)調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進する、IL-2の免疫抑制変異性改変体を提供するものであることが記載されている。
そして、段落【0008】において、IL-2改変体の実施形態として、T-reg細胞におけるIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激する能力を保持するものであることが記載され、FOXP3^(-)CD4^(+)細胞もしくはFOXP3^(-)CD8^(+)T細胞におけるSTAT5の非効率的なリン酸化、リン酸化の低下、またはリン酸化の欠如を示すものであることが記載されている。
また、段落【0020】において、本件発明1のIL-2改変体の一態様として、(a)「野生型IL-2よりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する」改変体が記載され、その改変体の具体例が段落【0021】に記載されている。
また、段落【0022】には、T-regの優先的な増殖/生存/活性化をもたらすIL-2改変体は、FOXP3陰性T細胞において低下したPI3Kシグナル伝達能力を有しており、このPI3Kシグナルの低下は、AKTのリン酸化の低下を指標として測定することができ、さらに、そのような改変体は、(b)「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」(すなわち、親和性に関与する位置)に変異を含み得るものであって、その改変体の具体例も記載されている。なお、段落【0022】における「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」に変異を含み得る旨の記載は、段落【0007】の「IL-2受容体のシグナル伝達鎖(IL-2Rβ/CD122および/もしくはIL-2Rγ/CD132)に対する親和性の低下」との記載、及び段落【0016】の「シグナル伝達サブユニットIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性の低下」との記載を考慮すると、IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異を含むこと、又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異を含むこと(すなわち、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する。)を意味すると理解するのが自然である。
そして、段落【0023】には、(a)IL-2Rαに対する高い親和性を付与する変異と、(b)IL-2Rβ対して親和性を低下させる変異又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異の両変異を組み合わせたIL-2改変体の具体例も記載されている。
そうすると、確かに、段落【0007】には、IL-2改変体の特有の特性は、(a)IL-2Rαに対する高い親和性を付与する変異と、(b)IL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異の2組の変異から生じる旨が記載され、段落【0016】には、IL-2改変体の実施形態として、(a)IL-2RサブユニットIL-2Rα(CD25)に対する親和性の上昇、並びに(b)シグナル伝達サブユニットIL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対する親和性の低下の組み合わせを有するものが記載されていることから、両変異を含む段落【0023】に記載のIL-2改変体が最良の実施形態であると思われるものの、段落【0020】又は段落【0022】のいずれかの態様のみのものも具体的に示されており、また、段落【0022】の、T-regの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体は、IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か、又はIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含む旨の記載から、IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異、又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異(発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する。)が、本件発明1の、FOXP3陰性T細胞よりも、FOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を発揮するのに重要であることが理解できる。

そして、このFOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用とは、甲4に示された、調節性T細胞であるか、非調節性T細胞であるかにかかわらず、T細胞が増殖する際には、STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じるという技術常識を考慮すれば、FOXP3陰性T細胞において、STAT5リン酸化を誘発する能力が低下すること(発明特定事項(c)に対応する。)及びFOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激すること(発明特定事項(b)に対応する。)を意味する。

c このことは、本件明細書の実施例においても裏付けられている。
本件明細書の実施例2において、IL-2Rα(CD25)に対する親和性を向上させる変異のみを有するIL-2改変体(haWT)は、野生型IL-2(WT)と比較して、FOXP3^(+)細胞及びFOXP3^(-)細胞の成長/生存に対して同様に作用し(Fig.2B?Fig.2C)、FOXP3^(+)/FOXP3^(-)細胞の比率についてほとんど違いがないことから(Fig.2E)、IL-2Rαに対する親和性を向上させる変異は、発明特定事項(b)及び発明特定事項(c)に規定される性質にほとんど影響を与えず、その結果、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用において、さほど重要なものではないことが理解できる。
一方、このhaWTに対して、IL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対する親和性を低下させる変異を有するIL-2改変体(haD、haD2、haD4、haD5、haD6及びhaD8)(なお、これらは順に、配列番号3及び5?9に対応するものであることは、Fig.1及び配列表の記載から明らかである。)は、FOXP3^(+)/FOXP3^(-)細胞の比率を増加させるものである(Fig.2E)。
そして、Fig.2Dをみると、これらの改変体は、haWTと同程度にFOXP3^(+)T細胞を刺激するのに対し、Fig.2B及びFig2Cをみると、これらの改変体は、haWTよりもFOXP3^(-)T細胞の蓄積が非常に非効率的であることが読み取れる。
そうすると、Fig.2EでみられたFOXP3^(+)/FOXP3^(-)細胞の比率の増加は、FOXP3^(+)T細胞の増殖を抑制することなく(Fig.2D)、その一方で、FOXP3^(-)T細胞の増殖を抑制した結果(Fig.2B及びFig.2C)によるものである。
このように、本件発明1のIL-2改変体が、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有するには、IL-2Rαに対する向上した親和性ではなく、IL-2Rβ又は、IL-2Rβ及びIL-2Rγに対する低下した親和性が重要であることが実施例の記載からも理解される。

d したがって、当業者であれば、発明特定事項(d)(i)及び(iii)に対応する構成を有するIL-2改変体は、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有することを合理的に推認できる。

e この点に関して、請求人は、乙5には、IL-2/IL-2Rα間の結合が、IL-2/IL-2Rβ間の結合に影響を与えることが示されており、両者は独立しているわけではないことが記載されていることを考慮すると、IL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する変異は、IL-2とIL-2Rαとの結合に影響を及ぼし、その結果、IL-2とIL-2Rβの結合にも影響を及ぼす蓋然性が高いから、IL-2Rβ関連の変異単独によってもたらされる生物活性を合理的に推測することはできない旨主張する。
しかしながら、本件発明1における発明特定事項(d)(i)又は(iii)は、IL-2Rαに対する親和性については特定していないものであるから、IL-2Rαに対する親和性が向上していなくても、野生型程度のIL-2Rαに対する親和性を依然として有するものを含むものであり、そのようなIL-2改変体は、IL-2Rα、IL-2Rβ及びIL-2Rγを発現するT細胞と相互作用することができ、その結果、本件発明1の所望の作用を有することを当業者は理解できる。
よって、請求人の当該主張は採用できない。

f また、請求人は、本件明細書の実施例で具体的に示された変異の組み合わせを有するIL-2改変体以外は、本件発明の効果を奏することは確認できないから、本件発明1を使用できるように発明の詳細な説明が記載されていない旨主張する。

g しかし、上記b?dにて説示したとおり、本件明細書の記載に基づいて、本件発明1の(d)(i)又は(iii)に対応する構成を有するIL-2改変体は、IL-2Rβ及び/又はIL-2Rγへの親和性の低下により、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有することになることを当業者は理解できる。
よって、当業者であれば、本件明細書の実施例において具体的に示されたIL-2改変体以外の、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する構成を有するIL-2改変体であっても、本件発明1の所望の効果がもたらされることを合理的に推認できたものと考えられる。

h したがって、請求人が無効理由4に関して主張する主張(1)は理由がない。

(ウ)主張(2)について
a 請求人は、本件明細書には、発明特定事項(d)(i)又は(iii)を満たしつつ、発明特定事項(b)又は発明特定事項(c)を満たすIL-2改変体を作ることは記載されておらず、当業者にとってこのようなIL-2改変体を作るには、過度な検討が必要となる旨主張する。

b しかし、上記(イ)で説示したとおり、本件明細書の段落【0007】及び【0016】の記載を踏まえれば、段落【0022】における「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」に変異を含み得る旨の記載は、IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異を含むこと、又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異を含むこと(すなわち、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に対応する。)を意味すると理解できる。

c そして、本件明細書の段落【0022】には、
「IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基は、L12、Q13、H16、L19、D20、M23、R81、D84、S87、N88、V91、I92、およびE95を含む。IL-2Rγに接触すると考えられるIL-2残基は、Q11、L18、Q22、E110、N119、T123、Q126、S127、I129、S130、およびT133を含む。ある実施形態では、IL-2改変体は、E15、H16、Q22、D84、N88、またはE95に変異を含む。そのような変異の例は、E15Q、H16N、Q22E、D84N、N88D、およびE95Qを含む。」
と記載されており、IL-2RβやIL-2Rγに対する親和性の低下を実現するために、IL-2において変異すべき位置が具体的に示され、さらに、変異後のアミノ酸残基の種類についても例示されている。
また、本件明細書の段落【0026】?段落【0034】には、遺伝子工学的に免疫抑制IL-2改変体を作製するための方法が記載されている。
そして、本件明細書の実施例には、IL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対する親和性を低下する変異を有するIL-2改変体であるhaD、haD2、haD4、haD5、haD6及びhaD8(順に、配列番号3及び5?9に対応)が具体的に記載されている。

d このような本件明細書の記載に接した当業者は、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に規定する親和性を有するIL-2改変体を作ることができる。

e そして、上記dで作成したIL-2改変体の中から、実施例2のフローサイトメトリーによるFOXP3陽性T細胞数及びFOXP3陰性T細胞数の測定を行うことにより、発明特定事項(b)及び発明特定事項(c)に規定される性質を有するものを確認することは、当業者にとって過度な検討を要することとは認められない。

f したがって、請求人が無効理由4に関して主張する主張(2)は理由がない。

(エ)主張(3)について
a 請求人は、本件明細書には、発明特定事項(d)について、IL-2Rに対する親和性の測定方法が記載されておらず、どのような方法で測定した親和性を比較すべきなのかも特定されていないから、本件発明に係る物を作ることができない旨主張する。

b しかしながら、乙3には、IL-2Rαに対する向上した親和性を有するIL-2改変体のスクリーニング方法が記載されているし(上記記載事項乙3-ア)、甲2には、フローサイトメトリーを用いて細胞表面結合タンパク質を測定し、2つの個別の実験から得られた結果を用いてIL-2とIL-2Rα間の結合解離定数であるK_(d)値を推定したことが記載され(上記記載事項甲2-キ)、甲5には、表面プラズモン共鳴により、IL-2とあり得るIL-2Rサブユニットの組み合わせのそれぞれを用いて、K_(d)値を求めたことが記載されている(上記記載事項甲5-ウ)。
そうすると、IL-2とIL-2R間の親和性の測定方法は、本件出願日当時の技術常識であったといえる。
そして、このような技術常識を考慮すれば、IL-2におけるIL-2Rに対する親和性は、当業者であれば測定することができる。

c 請求人は、本件明細書中に、IL-2Rに対する親和性の測定方法が特定されていない旨主張するが、たとえ、本件明細書中にどのような方法で測定したか特定されていないとしても、発明特定事項(d)は、比較対象として「配列番号1として記載されるポリペプチド」と規定しており、本件優先日当時に汎用のいずれの方法を用いたとしても、「配列番号1として記載されるポリペプチド」と比較して親和性が向上又は低下していればよいのであるから、本件明細書中にIL-2Rに対する親和性の測定方法を特定する必要はない。

d また、請求人は、本件発明1の「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」は、「IL-2Rβ」と「IL-2Rγ」を独立して解釈すべきであり、甲5の表1の脚注によれば、IL-2Rγ親和性の測定はできないから、本件発明1は実施できない旨主張する。

しかしながら、本件明細書の段落【0002】には、「IL-2Rβγによって伝えられるシグナル」と記載され、段落【0050】には、「IL-2Rβγ接触残基変異を有するいくつかのIL-2改変体」と記載されており、また、乙5(上記記載事項乙5-ア及び乙5-イ)及び甲5(上記記載事項甲5-イ)には、IL-2RβとIL-2Rγは複合体を形成して、IL-2と結合することが記載されていることを考慮すると、「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」は、IL-2Rβγ(IL-2βγ複合体)を意味すると解釈できる。
そして、IL-2Rβγへの親和性は、上記bで説示したとおり、本件出願日当時の技術常識により測定可能である。
よって、請求人の主張は採用できない。

e 以上のとおりであるから、請求人が無効理由4に関して主張する主張(3)は理由がない。

イ 本件発明2?15
本件発明2?15についての請求人の主張は、無効理由4が本件発明1について理由があるという前提の下、本件発明2?15が本件発明1に従属していることのみをその根拠とするものであり、上記のとおり、無効理由4は、本件発明1について理由がない以上、本件発明2?15についても理由がない。

ウ 本件発明16及び17
本件発明16及び17についての請求人の主張は、無効理由4が本件発明1について理由があるという前提の下、本件発明16及び17が、医薬の調製におけるIL-2改変体の使用である点を除けば、実質的に本件発明1と同一の発明特定事項によって特定されていることのみをその根拠とするものであり、上記のとおり、本件発明1について無効理由4は理由がない以上、本件発明16及び17についても理由がない。

(3)小括
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?17を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は無効理由4によって無効とすることはできない。

8 無効理由5(サポート要件違反)
(1)請求人の主張
請求人は、無効理由4で述べたとおり、本件明細書には、実施例に具体的に開示された特定の変異の組み合わせを有するIL-2改変体による発明が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1が課題解決を理解できる範囲を超えて、(b)、(c)及び(d)(i)又は(iii)で規定される全範囲まで拡張ないし一般化できない旨主張する。

(2)判断
本件発明1が解決しようとする課題は、本件発明1の記載からみて、「IL-2改変体を含む、被験体において炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための医薬組成物を提供すること」であると認められる。
そして、上記7(無効理由4:実施可能要件)で説示したとおり、発明特定事項(d)(i)又は(iii)に規定するIL-2Rに対する親和性を有するIL-2改変体は、FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を有するものであるから、ひいては、被験体において炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用できることは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できるものである。
してみると、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されている範囲内のものである。

本件発明2?17についての無効理由5は、本件発明1についてのそれと趣旨を同じくするものであるから、上記のとおり、本件発明1について無効理由5は理由がない以上、本件発明2?17についても理由がない。

(3)小括
よって、本件発明1?17に係る特許を無効理由5によって無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?19に係る特許は、請求人が主張するいずれの無効理由によっても無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-01-08 
結審通知日 2019-01-10 
審決日 2019-01-22 
出願番号 特願2011-548074(P2011-548074)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 537- Y (A61K)
P 1 113・ 113- Y (A61K)
P 1 113・ 161- Y (A61K)
P 1 113・ 536- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 冨永 みどり
田村 聖子
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5766124号(P5766124)
発明の名称 炎症性疾患および自己免疫疾患の処置の組成物および方法  
代理人 ▲駒▼谷 剛志  
代理人 三坂 和也  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 富樫 征也  
代理人 難波 早登至  
代理人 千田 史皓  
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