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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G21D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21D
管理番号 1370442
審判番号 不服2020-6525  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-14 
確定日 2021-02-09 
事件の表示 特願2018-527810「蒸気発生器並びに対応する製造及び使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日国際公開、WO2017/089658、平成31年 1月24日国内公表、特表2019-502106、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)11月24日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成30年10月24日 :手続補正書の提出
令和 元年 6月24日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 1月 6日 :意見書の提出
令和 2年 1月 9日付け:拒絶査定
令和 2年 5月14日 :審判請求書及び手続補正書(以下、この手続補正書によりなされた補正を「本件補正」という。)の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 本件補正前の請求項1?5及び14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 本件補正前の請求項1?8及び14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本件補正前の請求項9?13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(引用文献等一覧)
1.特開2002-121630号公報
2.特開2006-292531号公報(周知技術を示す文献)
3.原子力ハンドブック編集委員会,「原子力ハンドブック」,日本,株式会社オーム社,2007年11月20日,第1版第1刷,第262頁(周知技術を示す文献)
4.国際公開第2013/146034号(周知技術を示す文献)
5.国際公開第2010/093034号(周知技術を示す文献)
6.特開2002-322553号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明13」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される発明であるところ、本願発明1は次のとおりである。
「加圧水型原子炉のための蒸気発生器であって、前記蒸気発生器(13)は、
上流コンパートメント(23)及び下流コンパートメント(25)に分割された水室(19)が区切られている外囲体(15)であって、前記上流コンパートメント(23)は、前記原子炉の容器(33)の出口(31)と流体連通するように設計され、前記下流コンパートメント(25)は、前記原子炉の前記容器(23)の入口(35)と流体連通するように設計されている、外囲体(15)と、
少なくとも1つの要素(1)であって、各要素(1)は、上流端部を通って前記上流コンパートメント(23)内に、且つ前記上流端部と反対側の下流端部を通って前記下流コンパートメント(25)内に開放している管、又はプレートであり、各要素(1)は、ニッケル系合金から作製され、且つ前記合金は、以下の質量含有率:
50%を超えるNi、
14%?45%のCr
を有する、要素(1)と
を備え、
前記要素(1)は、液体に曝されるように意図された内側において、酸化物層(3)で覆われた内面(5)を有する表面金属層(7)を有し、前記表面金属層(7)は、前記内面(5)からの深さpにおいて、クロムの質量含有率w_(Cr)(p)、炭素の質量含有率w_(c)(p)及び有効クロム含有率w_(Cr_dispo)(p)を有し、ここで、w_(Cr_dispo)(p)=w_(Cr)(p)-16.61w_(c)(p)であり、
前記内面(5)からの前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記有効クロム含有率w_(Cr_dispo)(p)は、0を超え、
前記内面(5)から前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記クロム含有率w_(Cr)(p)は、45%未満であり、
前記内面(5)から前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記ニッケル含有率は、40%を超えることを特徴とする蒸気発生器。」

なお、本願発明2?13の概要は、以下のとおりである。
本願発明2?8は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明9?11は、本願発明1?8に係る蒸気発生器を製造する方法の発明である。
本願発明12は、本願発明1?8に係る蒸気発生器の要素に対する表面処理の使用の発明である。
本願発明13は、本願発明1?8に係る蒸気発生器の使用の発明である。

第4 引用文献及び引用文献に記載された発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した(以下同じ。)。なお、半角文字は全角文字に置き換えて表記している。)。
ア 「【特許請求の範囲】」、
「金属元素の総量に占めるCrが50質量%以上であるCr_(2)O_(3)を主体とする第1層、およびこの第1層の外側に存在するMnCr_(2)O_(4)を主体とする第2層の少なくとも2層を含む酸化皮膜が表面に存在し、上記第1層のCr_(2)O_(3)の結晶粒径が50?1000nmであり、酸化皮膜の全厚みが180?1500nmであるNi基合金製品。」(【請求項1】)、
「母材が、質量%でC:0.01?0.15%、Mn:0.1?1.0%、Cr:10?40%、Fe:5?15%およびTi:0.1?0.5%を含み、残部がNiおよび不純物からなるNi基合金である請求項1に記載のNi基合金製品。」(【請求項2】)

イ 「【発明の属する技術分野】」、
「本発明は、高温水環境で長期間にわたり使用しても、Niの溶出が少ないNi基合金製品およびその製造方法に関する。このNi基合金製品は、原子力構造部材等の用途に好適である。」(【0001】)

ウ 「【従来の技術】」、
「Ni基合金は、機械的性質にも優れているので種々の部材として使用されている。特に原子炉の部材として使用される材料としては、高温水に曝されるので耐食性に優れたNi基合金が使用され、たとえば、加圧水型原子炉(PWR)の蒸気発生器にはアロイ690合金(60%Ni-30%Cr-10%Fe、商品名)が使用されている。」(【0002】)、
「これらの方法は、いずれもCr_(2)O_(3)を主体とする酸化皮膜を熱処理により生成させることにより金属溶出量を低減させるものである。しかし、これらの方法で得られたCr_(2)O_(3)皮膜は、長期間の使用では損傷等によって溶出防止の効果が失われる。これは、皮膜厚さが不十分なこと、皮膜構造が不適当なこと、および皮膜中のCr含有量が少ないことが原因であると考えられる。」(【0009】)

エ 「【発明が解決しようとする課題】」、
「本発明の課題は、長期間にわたり高温水環境でNiの溶出が極めて少ないNi基合金製品およびその製造方法を提供することにある。」(【0010】)

オ 「【課題を解決するための手段】」、
「本明細書における「Ni基合金製品」には、Ni基合金で作られた各種の製品、例えば管、板、棒およびそれらから成形された容器等を含む。また、Ni基合金製品の表面とは、同製品表面の一部分または全部をいう。例えば、製品が蒸気発生器管であれば、その内表面だけに酸化皮膜を形成させてもよい。」(【0016】)

カ 「【発明の実施の形態】」、
「2.酸化皮膜
(1)酸化皮膜の構造
図1は本発明のNi基合金製品の表面付近の断面を模式的に示したものである。図示のように、Ni基合金製品の表面には酸化皮膜2があるが、その断面構造は、大別すると母材1に近い方からCr_(2)O_(3)を主体とする第1層3とその外側のMnCr_(2)O_(4)を主体とする第2層4からなる。」(【0028】)、

「図2は、Crが29.3%、Feが9.7%、残部がNiである合金を母材として、その表面に酸化皮膜を生成させた試料の2次イオン質量分析法(SIMS)による分析結果である。この図のCrの構成比の高い部分がCr_(2)O_(3)を主体とする第1層であり、Mnの構成比の高い最外層がMnCr_(2)O_(4)を主体とする第2層である。これらの層にはMn、Al、Ti等の酸化物も含まれるがそれらの量はわずかである。」(【0029】)


キ 「【実施例】」、
「実施例により本発明を詳細に説明する。」(【0055】)、
「表1に示す化学組成の合金を真空中で溶解し、そのインゴットを以下の工程で板材にした。まず、インゴットを熱間鍛造した後、900℃に加熱し約40mm厚さ、200mm幅の板に圧延した。さらに冷間圧延して、厚さ26mm、幅200mmの板とした。この板に大気中において1080℃で焼きまなしを施し、表面の酸化皮膜を機械的に除去した後、一部はそのまま、残りはさらに冷間圧延して8.8mm(加工度:35%)および5.5mm(加工度:78%)の厚さの板とした。」(【0056】)、


」(【0057】)、
「上記の板材から溶出試験用の試験片として、厚さ5mm、幅30mm,長さ50mmの短冊状の試験片を機械加工により採取した。試験片の表面は湿式研磨で#600に研磨した。」(【0058】)、
「上記の試験片を最終の焼きなましとして、水素または水素とアルゴンとの混合ガス雰囲気にわずかに水蒸気を添加した雰囲気で熱処理した。加熱条件は600?1350℃、加熱時間は0.5分から25時間(1500分)、水分の添加量は露点で-65?+30℃の範囲で変化させた。」(【0059】)、
「各試験片の表面に生成した酸化皮膜をSIMS分析法で調べて第1層(Cr_(2)O_(3)主体の酸化膜)の厚さと第2層(MnCr_(2)O_(4)主体の皮膜)の厚さを調べた。また、試験片をブロム-メタノール液に浸漬して分離した酸化皮膜をFE-SEMで観察し、Cr_(2)O_(3)の結晶粒径を調べた。」(【0060】)、
「一部の試験片はそのまま溶出試験に供しイオン溶出量を分析した。残りの試験片は、さらに、真空中で特殊熱処理[TT(Thermal Treatment)処理]を行い,その後の溶出試験を実施した。TT処理の条件は、温度700℃、時間15時間(900分)である。」(【0061】)、
「溶出試験ではオートクレーブを使用し、純水中でNiイオンの溶出量を測定した。試験片を白金製の容器に入れることで、オートクレーブから溶出してくるイオンにより試験液が汚染するのを防いだ。試験温度は320℃とし、1000時間(60,000分)純水中に浸漬した。試験終了後、すぐに溶液を高周波プラズマ溶解法(ICP)により分析し、Niイオンの溶出量を調べた。」(【0062】)、
「皮膜形成の条件および試験結果を表2に示す。No.1から18までは本発明の例である。No.19?22は比較例である。No.3、5、9、12、18では、特殊熱処理(TT処理)を実施していない。」(【0063】)、
「溶出したNiイオンのICP分析の結果、本発明の条件で作製した試験片からのNi溶出量は0.01?0.03ppmの範囲で極めて少ない。一方、比較例の試験片では0.12?0.92ppmであった。」(【0064】)、


」(【0065】)

ク 「【発明の効果】」、
「【0066】本発明のNi基合金製品は、高温水環境で長期間にわたり使用してもNiの溶出が極めて少ないものである。このNi基合金製品は本発明の方法によって容易に製造できる。本発明製品は、特に原子炉構造部材に使用するのに好適である。」

(2)上記(1)の各記載によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明を認定する際に用いた段落番号等を括弧内に付してある。
「Ni基合金製品が使用されている加圧水型原子炉の蒸気発生器であって、(【0001】・【0002】)
前記Ni基合金製品は、金属元素の総量に占めるCrが50質量%以上であるCr_(2)O_(3)を主体とする第1層、およびこの第1層の外側に存在するMnCr_(2)O_(4)を主体とする第2層の少なくとも2層を含む酸化皮膜が表面に存在し、上記第1層のCr_(2)O_(3)の結晶粒径が50?1000nmであり、酸化皮膜の全厚みが180?1500nmであって、(【請求項1】)
母材が、質量%でC:0.01?0.15%、Mn:0.1?1.0%、Cr:10?40%、Fe:5?15%およびTi:0.1?0.5%を含み、残部がNiおよび不純物からなるNi基合金であるNi基合金製品であり、(【請求項2】)
Ni基合金製品は、Ni合金で作られた管、板を含み、(【0016】)
Ni基合金製品は、高温水環境で長期間にわたり使用しても、Niの溶出が少ない、(【0001】)
蒸気発生器。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として提示された引用文献2には、次の事項が記載されている。
「・・・図1は本発明の第1実施形態に係る蒸気発生器用伝熱管の表面処理方法を示す要部断面図である。
図1において、100は蒸気発生器、1は蒸気発生器100の蒸気発生器本体を構成するシェル、120はシェル1の下部内周に固定された管板、2は下端部を管板120に支持された伝熱管である。これら伝熱管2は高NiのNi-Cr-Fe系合金からなり、下端部が開放されたU字状の曲管に形成され、各伝熱管2の下端部が前記管板120にロウ付け等によって固定されている。
4は高温流体(高温水)が導入される高温流体入口室、5は高温流体出口室であり、これら高温流体入口室4と高温流体出口室5とは仕切板04で仕切られている。10は高温流体入口室4に高温流体を導入するための高温流体入口ノズル、11は高温流体出口室5からの高温流体を導出するための高温流体出口ノズルである。」(【0020】)


3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として提示された引用文献3には、次の事項が記載されている。
「[1]蒸気発生器
蒸気発生器は、熱交換器であり、竪型U字管式のものが主流である(図3-6-7)。また、その伝熱管は1次系と2次系の境界を形成している。1次冷却材は、蒸気発生器下部の入口水室に入り、伝熱管内を流れて出口水室から出ていく。・・・伝熱管は耐食性に優れたニッケル基合金製であり、管板に拡管により取り付けて端部をシール溶接する。」


4 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として提示された引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「石油精製、石油化学プラントなど、炭化水素ガス、COガスなどを含有する浸炭性ガス雰囲気で使用される熱交換器管などには、Crを20?35質量%およびNiを20?70質量%含有する金属管が用いられること、([0002])
金属管内面の全域にわたり、耐浸炭性および耐コーキング性を有するCr主体の酸化スケール層を均一に形成するための方法について鋭意研究を行った結果、不均一なスケールの表面には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の一方または両方が検出され、これら元素が冷間加工時の潤滑剤に由来するものであり、金属管表面に残存した潤滑剤がCr主体の酸化スケール層の形成を阻害する要因であることが判明したこと、([0012]?[0014])
金属管内面にブラスト等の機械的処理を実施することによって、金属管全長にわたり、その内面の潤滑剤を均一に除去し得ること、([0015])
金属管を加工する場合に、金属管と加工工具との摩擦を低減するために潤滑剤が使用されるところ、潤滑剤は、通常、加工後に脱脂および洗浄を行うことで除去されるが、潤滑剤の一部は管内面に残存するし、その残存した潤滑剤がCr主体の酸化スケール層の形成を阻害するので、これを除去するために機械的処理を行うこと、([0043]?[0046])」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを以下に対比する。
ア 本願発明1の「加圧水型原子炉のための蒸気発生器であって、」との特定事項について
引用発明の「加圧水型原子炉の蒸気発生器」は、本願発明1の「加圧水型原子炉のための蒸気発生器」に相当する。
よって、引用発明は、本願発明1の特定事項を備える。

イ 本願発明1の「前記蒸気発生器(13)は、上流コンパートメント(23)及び下流コンパートメント(25)に分割された水室(19)が区切られている外囲体(15)であって、前記上流コンパートメント(23)は、前記原子炉の容器(33)の出口(31)と流体連通するように設計され、前記下流コンパートメント(25)は、前記原子炉の前記容器(23)の入口(35)と流体連通するように設計されている、外囲体(15)と、少なくとも1つの要素(1)であって、各要素(1)は、上流端部を通って前記上流コンパートメント(23)内に、且つ前記上流端部と反対側の下流端部を通って前記下流コンパートメント(25)内に開放している管、又はプレートであり、各要素(1)は、ニッケル系合金から作製され、且つ前記合金は、以下の質量含有率:50%を超えるNi、14%?45%のCrを有する、要素(1)とを備え、」との特定事項について
(ア)加圧水型原子炉の蒸気発生器が、上流コンパートメント及び下流コンパートメントに分割された水室が区切られている外囲体であって、前記上流コンパートメントは、前記原子炉の容器の出口と流体連通するように設計され、前記下流コンパートメントは、前記原子炉の前記容器(23)の入口と流体連通するように設計されている、外囲体を備えることは技術常識(例えば、引用文献2及び引用文献3を参照。)であるから、引用発明の「加圧水型原子炉の蒸気発生器」が、本願発明1でいう「上流コンパートメント(23)及び下流コンパートメント(25)に分割された水室(19)が区切られている外囲体(15)であって、前記上流コンパートメント(23)は、前記原子炉の容器(33)の出口(31)と流体連通するように設計され、前記下流コンパートメント(25)は、前記原子炉の前記容器(23)の入口(35)と流体連通するように設計されている、外囲体(15)」を備えることが、明らかである。

(イ)加圧水型原子炉の蒸気発生器が伝熱管や高温流体入口室と高温流体出口室とを仕切る仕切板を有することは技術常識(例えば、引用文献2を参照。)であることにも照らせば、引用発明の「Ni合金で作られた管、板」が、本願発明1の「上流端部を通って前記上流コンパートメント(23)内に、且つ前記上流端部と反対側の下流端部を通って前記下流コンパートメント(25)内に開放している管、又はプレート」である「少なくとも1つの要素(1)」に相当することが、明らかである。

(ウ)引用発明の「母材が、質量%でC:0.01?0.15%、Mn:0.1?1.0%、Cr:10?40%、Fe:5?15%およびTi:0.1?0.5%を含み、残部がNiおよび不純物からなるNi基合金」「であるNi基合金製品」、及び、同合金で「作られた管、板」は、いずれも、本願発明1の「以下の質量含有率:50%を超えるNi、14%?45%のCrを有する、」「ニッケル系合金」とは、「50%を超えるNi」及び所定の質量含有率の「Cr」「を有する」「ニッケル系合金」「を有する、要素(1)」である点で一致する。

(エ)よって、引用発明は、本願発明1とは、「前記蒸気発生器(13)は、上流コンパートメント(23)及び下流コンパートメント(25)に分割された水室(19)が区切られている外囲体(15)であって、前記上流コンパートメント(23)は、前記原子炉の容器(33)の出口(31)と流体連通するように設計され、前記下流コンパートメント(25)は、前記原子炉の前記容器(23)の入口(35)と流体連通するように設計されている、外囲体(15)と、少なくとも1つの要素(1)であって、各要素(1)は、上流端部を通って前記上流コンパートメント(23)内に、且つ前記上流端部と反対側の下流端部を通って前記下流コンパートメント(25)内に開放している管、又はプレートであり、各要素(1)は、ニッケル系合金から作製され、且つ前記合金は、以下の質量含有率:50%を超えるNi、所定の質量含有率のCrを有する、要素(1)とを備え」る点で一致するが、前記合金におけるCrの所定の質量含有率が、本願発明1は14%?45%であるのに対し、引用発明は10?40%である点で相違する。

ウ 本願発明1の「前記要素(1)は、液体に曝されるように意図された内側において、酸化物層(3)で覆われた内面(5)を有する表面金属層(7)を有し、前記表面金属層(7)は、前記内面(5)からの深さpにおいて、クロムの質量含有率w_(Cr)(p)、炭素の質量含有率w_(c)(p)及び有効クロム含有率w_(Cr_dispo)(p)を有し、ここで、w_(Cr_dispo)(p)=w_(Cr)(p)-16.61w_(c)(p)であり、前記内面(5)からの前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記有効クロム含有率w_(Cr_dispo)(p)は、0を超え、前記内面(5)から前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記クロム含有率w_(Cr)(p)は、45%未満であり、前記内面(5)から前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記ニッケル含有率は、40%を超える」との特定事項について
(ア)引用発明の「Ni合金で作られた管、板」が(本願発明1でいう)「液体に曝されるように意図された内側」を備えることは、技術常識に照らして明らかである。

(イ)引用発明の「酸化皮膜」は、本願発明1の「酸化物層(3)」に相当する。
そして、引用発明の「酸化皮膜」が上記(ア)でいう「液体に曝されるように意図された内側」に存在することは、明らかである。
また、引用発明の「Ni基合金製品」は、当該「酸化皮膜が表面に存在」するのであるから、本願発明1でいう「酸化物(3)で覆われた内面(5)」を有しているといえる。そして、引用発明における「内面(5)」が、「Ni基合金製品」に含まれる何らかの構造上に存在することは、自明である。

(ウ)よって、本願発明1と引用発明とは、「前記要素(1)は、液体に曝されるように意図された内側において、酸化物層(3)で覆われた内面(5)を有する」所定の構造「を有し」ている点で一致する。
しかし、引用発明において、「所定の構造」が、本願発明1の「表面金属層(7)」を含むのかは不明である。

エ 本願発明1の「蒸気発生器」との特定事項について
引用発明の「蒸気発生器」は本願発明1の「蒸気発生器」に相当する。

(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本願発明1と引用発明とは、
「加圧水型原子炉のための蒸気発生器であって、前記蒸気発生器(13)は、
上流コンパートメント(23)及び下流コンパートメント(25)に分割された水室(19)が区切られている外囲体(15)であって、前記上流コンパートメント(23)は、前記原子炉の容器(33)の出口(31)と流体連通するように設計され、前記下流コンパートメント(25)は、前記原子炉の前記容器(23)の入口(35)と流体連通するように設計されている、外囲体(15)と、
少なくとも1つの要素(1)であって、各要素(1)は、上流端部を通って前記上流コンパートメント(23)内に、且つ前記上流端部と反対側の下流端部を通って前記下流コンパートメント(25)内に開放している管、又はプレートであり、各要素(1)は、ニッケル系合金から作製され、且つ前記合金は、以下の質量含有率:
50%を超えるNi、
所定の質量含有率のCr
を有する、要素(1)と
を備え、
前記要素(1)は、液体に曝されるように意図された内側において、酸化物層(3)で覆われた内面(5)を有する所定の構造を有している、
蒸気発生器。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「ニッケル系合金」「が有する」Crの所定の質量含有率が、本願発明1は、「14%?45%」であるのに対し、引用発明は、「10?40%」である点。

[相違点2]
「酸化物層(3)で覆われた内面(5)を有する」所定の構造が、本願発明1は、「表面金属層(7)」であり、「前記表面金属層(7)は、前記内面(5)からの深さpにおいて、クロムの質量含有率w_(Cr)(p)、炭素の質量含有率w_(c)(p)及び有効クロム含有率w_(Cr_dispo)(p)を有し、ここで、w_(Cr_dispo)(p)=w_(Cr)(p)-16.61w_(c)(p)であり、
前記内面(5)からの前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記有効クロム含有率w_(Cr_dispo)(p)は、0を超え、
前記内面(5)から前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記クロム含有率w_(Cr)(p)は、45%未満であり、
前記内面(5)から前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記ニッケル含有率は、40%を超える」のに対し、引用発明はそうであるのか不明である点。

(3)相違点の判断
ア 相違点2について
事案にかんがみ、相違点2より判断する。
(ア)本願発明1の「表面金属層」及び「有効クロム含有率」について
相違点2に係る構成には、「表面金属層」及び「有効クロム含有率」に関する特定事項が含まれているので、まずは、これらの技術的な意味について検討する。
a 本願の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)の記載
本願明細書等には、次の記載がある。
「要素1は、一次液体に曝されるように意図された内側において、酸化物層3によって覆われた内面5を有する表面金属層7を有する。」(【0028】)、
「表面金属層7は、ニッケル系合金の組成と異なるが依然と近い組成を有する。表面金属層7の真下に管のベース金属9がある。・・・」(【0032】)、
「ベース金属9は、実質的に、管を作製するために使用される合金の質量含有率を有する。表面金属層7は、金属酸化物ではなく、主に金属から作製されるが、非金属含有物、すなわち、より大きい寸法の場合に最大数百ナノメートルであり得る含有物を含有する。それは、管の製造中に施される処理からもたらされる、ベース金属の質量含有率とわずかに異なる質量含有率を有する。」(【0034】)、
「・・・従来技術の蒸気発生器の管において、酸化物層3上に金属酸化物の形態のフィラメント11が形成される。一般に、これらのフィラメント11は、主にニッケルから構成される。・・・」(【0035】)、
「本出願人は、意外なことに、特に一次媒体の速度が低い場合及び一次媒体がイオン形態のニッケルで飽和する傾向がある場合に形成される、フィラメント11の形成の速度により、管材料の酸化速度の相当な割合が特徴付けられ得ることを発見した。」(【0036】)、
「本出願人は、意外なことに、表面金属層7において著しい有効クロム質量含有率を維持しながら、一次媒体におけるフィラメント11の形成を制限又はさらに防止すること、したがって金属材料の酸化形態の1つを低速にするか又は除去することが可能であることを発見した。低炭素含有率を維持することは、フィラメント11の形成を、それが発生する可能性がある条件下で防止するためにも役立つ。・・・」(【0037】)、
「この理論によって拘束されることなく、本出願人は、実際に、フィラメント11の形成が、表面層7において、炭化物の内側又は炭化物の外側に存在する炭素含有率がフィラメントの形成に寄与するという事実からもたらされることを発見した。さらに、この層では、クロムの大部分が炭化物の形態で存在する。炭化物に組み込まれたクロムは、フィラメント11の形成の防止に寄与せず、又はほとんど寄与しない。反対に、有効クロム、すなわち炭化物に一体化されていないクロムは、フィラメントの形成の防止に役立つ。」(【0041】)、
「したがって、フィラメントが形成される領域は、その形態(イオン又はコロイド)に関わらず、合金の酸化及び放出のための最も好都合な領域である。これらの領域は、酸化物層における低レベルの有効クロム及び/又は溶性酸化物の存在によって特徴付けられる。」(【0042】)、
「有効クロムの質量含有率は、以下の方法で評価される。」(【0043】)、
「以下では、w_(Cr)(p)は、管の内面から深さpにおける表面金属層のクロム質量含有率であり、w_(C)(p)は、深さpにおける表面金属層の炭素質量含有率であり、w_(Cr_carbure)(p)は、炭化物が深さpにおいて表面金属層の化学量論に対してCr_(23)C_(6)を有するという仮定に基づく、炭化物に統合された可能性があるクロム含有率であり、w_(Cr_dispo)(p)は、深さpにおける層表面金属の有効クロム含有率である。」(【0044】)、
「図1に示すように、深さpは、内面5からベース金属9に向かって半径方向にとられる。」(【0045】)、

「ここで、質量含有率は、所与の表面金属層の単位体積に対してクロム又は炭素原子の質量を表面金属層の質量で割った値として定義される。」(【0046】)、
「この場合、炭化クロムは、化学式C_(6)Cr_(23)を有する、要素1に対して考慮される合金のタイプにおいて熱力学的に安定しているとみなされる。これが最も重要な仮説であることが留意されるべきである。消費するクロムがより少ない他の形態の炭化物がある。」(【0047】)、
「炭素及びクロムのモル質量は、それぞれ12及び52である。したがって、深さpにおける有効クロムの質量含有率w_(Cr_dispo)(p)は、以下のように評価することができる。
w_(Cr_dispo)(p)=w_(Cr)(p)-w_(Cr_carbure)(p)=w_(Cr)(p)-23/6×52/12×w_(c)(p)、又は
w_(Cr_dispo)(p)=w_(Cr)(p)-16.61w_(c)(p) 式1」(【0048】)、
「深さpにおける有効クロムの質量含有率w_(Cr_dispo)(p)は、負の値を有する可能性がある。負の値は、物理的な意味を有さないが、非炭化可能クロムの欠乏の大きさ又は過剰な炭素の大きさを表す。」(【0049】)、
「本発明によれば、内面5からの表面金属層7の厚さ全体にわたって平均された有効クロムの質量含有率は、0を超える。」(【0050】)、
「換言すれば、要素1には、内面5の真下に位置する表面金属層7において、平均して有効クロムの欠乏があってはならない。」(【0051】)、
「この表面金属層の厚さを通した自由クロム含有率は、その酸化中にクロムに富む酸化物層を形成し、したがって、それは、要素1が加圧水型原子炉で使用される場合、ニッケルに富むフィラメント11の形成とニッケルに富むコロイド又はイオン化合物の放出とを有効に防止するバリアを構成する。」(【0052】)、
「以下の場合、有効クロム含有率はゼロ未満である。
要素1の内面における且つ表面金属層7での炭素及び炭化物含有率が高い。
表面金属層7においてクロムが減少している。」(【0053】)、
「概して、炭素又は高炭化物含有率は、要素1の製造時の不純物、特に潤滑剤の高温転化からもたらされる。それは、管自体の製造のために使用された合金鋳造が高い炭素含有率を有していたという事実に起因する可能性もある。」(【0054】)、
「上で示したように、表面金属層7は、ニッケル系合金の組成から外れるが依然として近い組成を有する。それは、要素1の製造中に適用される処理からもたらされる、ベース金属、すなわちニッケル系合金の質量含有率とわずかに異なる質量含有率を有する。」(【0087】)

b 「表面金属層(7)」について
本願発明1の「表面金属層(7)」は、当該「表面金属層」との文言及び「前記要素(1)は、・・・表面金属層(1)を有し」の特定事項からみて、要素(1)の表面部に存在する金属からなる層であると解され、本願明細書等にはその理解に反する記載は存在しない。
そして、上記aの各記載によれば、本願発明1の「表面金属層」は、「ニッケル系合金」の組成とは異なるが近い組成を有し、主に金属から作製されるものであって(【0032】・【0034】・【0087】)、例えば、管の製造中に施される潤滑剤によって「ニッケル系合金」の表面部の組成が変化して形成される層(【0034】・【0054】・【0087】)を想定しているものであることが理解できる。

c 「有効クロム含有率」について
上記aの各記載(【0043】?【0048】)によれば、本願発明1の「有効クロム含有率」は、クロムの炭化物がCr_(23)C_(6)を有するという仮定に基づき計算された、炭化物に統合されていないと推測されるクロムの質量含有率であって、これは、換言すれば、酸素に結合可能であると推測されるクロムの質量含有率であるといえる。なお、質量含有率は、所与の表面金属層の単位体積に対してクロム又は炭素原子の質量を表面金属層の質量で割った値として定義されるものである(【0046】)。
そして、本願発明1において「前記内面(5)からの前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された」「有効クロム含有率」を0を超えるようにする技術的意義は、そのような有効クロム含有率を有する表面金属層が、その酸化中にクロムに富む酸化物層を形成し、その酸化物層は、要素1が加圧水型原子炉で使用される場合、ニッケルに富むフィラメント11の形成とニッケルに富むコロイド又はイオン化合物の放出とを有効に防止するバリアを構成する(【0052】)ことにあると認められる。
ここで、上記フィラメント11に含まれるニッケルは、要素1を構成するニッケル系合金に由来するものと解され、このことは、フィラメント11の形成の速度により、管材料の酸化速度の相当な割合が特徴付けられ得る(【0036】)ことから明らかである。

(イ)引用発明についての検討
以上を踏まえ、引用発明について検討する。
a 本願発明1の「表面金属層」には、上記(ア)bのとおり、例えば、管の製造中に施される潤滑剤によって「ニッケル系合金」の表面部の組成が変化して形成される層が想定されているところ、引用発明の「(母材である)Ni合金で作られた管、板」には、これが管及び板である以上、次の技術常識、すなわち、管や板が製造されるにあたり、圧延などの処理がなされ、その際に、潤滑油が使用されるという技術常識、に照らせば、母材の組成からなる構造が変化して得られた「表面金属層」が存在していると解する余地がある。
加えて、引用発明は、「Ni基合金製品は、高温水環境で長期間にわたり使用しても、Niの溶出が少ない」とされるとともに、「Cr_(2)O_(3)を主体とする第1層」を含む「酸化皮膜」を有していることから、上記(ア)cに照らせば、引用発明には、ニッケルに富むイオン化合物の放出を有効に防止するバリアであるクロムに富む酸化物層が存在していると解する余地があり、そうであるならば、引用発明の「Ni合金で作られた管、板」には、その表面金属層に、有効クロム含有率が0を超える領域が存在していると解する余地もある。

b しかしながら、引用発明を仮に上記aのとおり解することができるとしても、以下のとおり、引用発明が相違点2に係る構成を備えているとは言い難い。
(a)相違点2に係る構成では、有効クロム含有率が、「前記内面(5)からの前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された」(以下「表面金属層厚さ全体平均」ということがある。)値において、0を超える必要があり、さらに、表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率が45%未満であるとともに同平均のニッケルの質量含有率が40%を超える必要があるものである。つまり、相違点2に係る構成は、表面金属層厚さ全体平均の有効クロム含有率が0を超えつつも、同平均のクロムの質量含有率をあまり大きくすることなく、同平均のニッケルの質量含有率をあまり小さくすることがないものであるといえる。

(b)次に引用発明についてみると、まず、引用発明の「表面金属層」(この「b」項の冒頭で存在が仮定されたもの。以下同じ。)に有効クロム含有率が0を超える領域が存在するとしても、このことは、相違点2に係る構成のように、「表面金属層厚さ全体平均」における有効クロム含有率が0を超えることをただちに意味するものではない。

(c)加えて、引用発明は、表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率が45%未満であるとともに、同平均のニッケルの質量含有率が40%を超えるものとも言い難い。
すなわち、引用発明は、母材のNi基合金におけるCrの質量%が10?40%とされる一方、酸化皮膜の第1層における金属元素の総量に占めるCrが50質量%以上とされている。そして、引用発明の「表面金属層」は、「母材」の組成からなる構造(上記a参照。)と「酸化皮膜の第1層」との間に存在するとみる余地があるところ、「母材」の組成からなる構造及び「酸化皮膜の第1層」におけるCrの質量%の値の大小関係からみて、「表面金属層」における金属元素の総量に占めるCrの質量%は、酸化皮膜の第1層のものよりも小さく、母材のものよりも大きく含まれていると考えられる。このように、引用発明は、金属元素の総量に占めるCrの質量%が、表面金属層の値の方が母材の値よりも大きくなっているのであり、このことは、引用発明が(表面金属層のさらに上にある)酸化皮膜中のCr含有量を少なくしない(引用文献1の【0009】)ものであることを反映していると解される。そうすると、引用発明は、表面金属層における金属元素の総量に占めるCrの質量%が、大きい方が好ましいという方向性を有しているものといえる。また、引用発明のような「Ni基合金製品」において、Crの質量%を大きくするためには、Niの質量%を小さくする必要があると解されるから、引用発明は、表面金属層における金属元素の総量に占めるNiの質量%が、小さい方が好ましいという方向性を有しているものといえる。
しかるところ、上記の金属元素の総量に占めるCr及びNiの質量%は、金属元素以外の元素の質量が考慮されていない点で、本願発明1の「質量含有率」(所与の表面金属層の単位体積に対してクロム又は炭素原子の質量を表面金属層の質量で割った値として定義され(【0046】)、ニッケルについても同様であると解される。)とは異なるものであるが、このことを考慮するとしても、引用発明の上記の方向性からみて、引用発明が、相違点2に係る構成のように、表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率をあまり大きくすることがなく、かつ、同平均のニッケルの質量含有率をあまり小さくすることがないことを指向したものであるとは言い難い。そして、引用発明の表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率が45%未満になるとも、同平均のニッケルの質量含有率が40%を超えるともいえないのであり、このことは、引用発明の表面金属層における金属元素以外の物質(上記aのとおり、管や板へ加工する際に、混入してくるものである。)の量が不明であることや、第1層のCrが50質量%以上であることからみて、表面金属層のCrの質量%も相応に高くなるとともに同層のNiの質量%も相応に低くなると解されることからも首肯される。
そうすると、引用発明は、相違点2に係る構成のうち、表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率が45%未満であり、かつ、同平均のニッケルの質量含有率が40%を超えることを満たしているとはいえない。

(d)以上によれば、引用発明が相違点2に係る構成を備えているとはいえないのであり、よって、相違点2は、実質的なものというべきである。

c そこで進んで、引用発明において相違点2に係る構成に至ることが容易に想到しうるかどうかについて検討すると、このような構成に至るためには、第一に、有効クロム含有率が、表面金属層厚さ全体平均において0を超える必要がある。しかるに、これを実現するためには、表面金属層における炭素を除去するか、同層におけるクロムを増加させることが考えられるところであるが、前者については、引用文献1にそのような記載も示唆もないし、後者については、相違点2に係る構成のうちの「表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率が45%未満である」との構成に、より至り難い方向の変更となる。
当該構成に至るためには、第二に、表面金属層におけるクロムの質量含有率を低下させるとともに同層におけるニッケルの質量含有率を上昇させる方向性の変更をも要するが、このことが、酸化皮膜中のCr含有量を少なくしないことを指向した引用発明に相容れるとも言い難い。
したがって、引用発明において相違点2に係る構成に至ることが、当業者に容易に想到し得たこととはいえない。
そして、以上の認定判断は、引用文献2?6の記載を踏まえても左右されない。なお、引用文献5には、上記第4の4のとおりの技術的事項が記載されているが、その技術分野が本願発明1のものとは相違することから、当業者がこれを適用することを容易に想到し得るとはいえない。

d 以上については、引用文献1に記載された図2及び【0029】並びに実施例をみても、次のとおり、左右されることはない。
(a)まず、図2及び【0029】は、酸化皮膜の構造を開示したものであるところ、「図2は、Crが29.3%、Feが9.7%、残部がNiである合金を母材として、その表面に酸化皮膜を生成させた試料」に係るものであるから、管や板に加工されたものとはいえない。そうすると、当該図2に係る構造は、管又は板に加工されたものを前提とする本願発明1と対比できるものではない。
また、それを措くとしても、次のとおり、図2に係る構造において、相違点2に係る構成を得ることを、引用文献1?引用文献6の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るとはいえない。
図2のグラフによれば、表面からの深さが1000nmから2000nm付近において、母材とは組成が異なる金属からなる層があることが見て取れるところ、当該層は、試料の表面部にあるといえるから、「表面金属層」に相当するといえる。しかし、図2でグラフ化されている「金属元素の構成比」は、上記b(c)で説示したとおり、金属元素以外の元素の質量を考慮したものではなく、仮に、管等の製造工程において炭素等の非金属元素が混入されたとしてもそれが反映されないことも相俟って、図2に係る構造において、表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率が45%未満になるのか、同平均のニッケルの質量含有率が40%を超えるのか、同平均の有効クロム含有率が0を超えるのかは、不明と言わざるを得ない。もっとも、引用発明においては、Niの溶出量が少ないことから、図2に係る構造の表面金属層にも有効クロム含有率が0を超える領域が存在すると解する余地があるが、そうだとしても、上記b(b)で説示したとおり、そのことは、「表面金属層厚さ全体平均」における有効クロム含有率が0を超えることをただちに意味するものではない。
そして、図2に係る構造において、相違点2に係る構成に至るためには、表面金属層厚さ全体平均の有効クロム含有率が0を超えるようにしつつ、表面金属層厚さ全体平均のクロムの質量含有率が45%未満になるようにし、かつ同平均のニッケルの質量含有率が40%を超えるようにする必要があるが、それらが当業者にとって容易想到し得ることとはいえないことは、上記cで説示したとおりである。
よって、図2に係る構造を考慮しても、相違点2に係る構成を、引用文献1?引用文献6の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(b)次に、実施例(【0055】?【0065】)は、インゴットを圧延等して板材にしたものである(【0056】)から、上記(a)のような管や板に加工されていないという問題はなく、「溶出試験用の試験片」(【0058】)であることを措けば、管又は板に加工されたものを前提とする本願発明1と対比し得るものである。
さらに、実施例では、試験片の表面を湿式研磨しているものでもある(【0058】)。
しかしながら、表2に記載された各結果をみても、表面金属層の具体的な組成やプロファイルが不明であるから、当該各結果が、相違点2に係る構成を満たしているともいえないし、それに至ることが当業者にとって容易に想到し得るともいえない。

(ウ)相違点2についての小括
したがって、引用発明において相違点2に係る構成に至ることは、引用文献1?引用文献6に記載された技術的事項を踏まえても、当業者が容易に想到し得るものではない。

相違点の判断についての小括
よって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献1?6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本願発明1についての小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用発明、引用文献1?6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 本願発明2?13について
本願発明2?13は、上記第3で説示したとおりのものであるところ、いずれも、相違点2に係る構成を含むものである。
よって、本願発明2?13は、上記1と同様の理由で、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用発明、引用文献1?6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第6 原査定についての判断
本件補正後の請求項1には、「前記内面(5)からの前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記クロム含有率w_(Cr)(p)は、45%未満であり、前記内面(5)から前記表面金属層(7)の厚さ全体にわたって平均された前記ニッケル含有率は、40%を超える」との特定事項が追加された。
そして、この特定事項は、上記第5の1(3)ア(イ)b(c)のとおり引用文献1に記載されているとはいえないから、原査定の拒絶の理由のうち、新規性欠如の理由は解消した。また、引用発明がこの特定事項を満たすようにすることは、同cのとおり、当業者が容易に想到し得たこととはいえないから、原査定の拒絶の理由のうち、進歩性欠如の理由も解消した。
以上については、本件補正後の他の請求項についても同様である。
したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
そして、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-01-22 
出願番号 特願2018-527810(P2018-527810)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G21D)
P 1 8・ 121- WY (G21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村川 雄一  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
野村 伸雄
発明の名称 蒸気発生器並びに対応する製造及び使用方法  
代理人 佐藤 さおり  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  
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