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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1370704
審判番号 不服2019-5457  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-24 
確定日 2021-01-26 
事件の表示 特願2016-227687「ワイヤレス電力デバイスを検出および識別するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月20日出願公開、特開2017- 77169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年9月5日を国際出願日とする特願2014-529819号の一部を平成28年11月24日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
なお、以下(第2 本願発明)で説明するとおり、特願2014-529819号では、US61/532,818(出願日:2011年9月9日。以下、「優先基礎出願1」という。)及びUS13/464,834(出願日:2012年5月4日。以下、「優先基礎出願2」という。)に基づく優先権主張がなされているが、令和2年6月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1から11に記載された事項は、優先基礎出願1に開示されたものではないため、優先基礎出願1に基づき主張された優先日は有効ではないから、優先日は2012年5月4日とする。

平成29年 9月21日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 4月23日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成30年 7月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年12月21日付け:補正の却下の決定、拒絶査定
平成31年 4月24日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 3月11日付け:当審による拒絶理由の通知
令和 2年 6月12日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本件特許出願の請求項に係る発明は、令和2年6月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1から11に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。(なお、下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
1つまたは複数のワイヤレス電力受信機に電力を送信するように構成されたワイヤレス電力送信機の電力送出領域内の非準拠デバイスを検出するための、前記ワイヤレス電力送信機に含まれた装置であって、
前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機に前記電力を提供する前記電力送出領域内のワイヤレスフィールドを生成するように構成された送信回路と、
コントローラであって、
前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機の電気的特性に対応する前記送信回路の予想されるインピーダンス応答を識別することであって、前記予想されるインピーダンス応答は、前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機が前記電力送出領域内に存在する場合に前記送信回路によって観察されることになるインピーダンスの変化である、識別することと、
前記送信回路によって観察されるインピーダンスシフトを示す前記送信回路のインピーダンス応答を監視することと、
前記予想されるインピーダンス応答と、前記監視されたインピーダンス応答との間の差異を決定することに基づいて、前記非準拠デバイスの存在を識別することと
を行うように構成されたコントローラと
を備え、
前記予想されるインピーダンス応答が、前記コントローラによってアクセス可能なルックアップテーブルに基づき、
前記ルックアップテーブルは、予め定められたしきい値を含み、
前記予め定められたしきい値は、前記送信回路のドライバの設計によって定められ、
前記非準拠デバイスは、近距離通信(NFC)デバイス、無線周波数識別(RFID)デバイス、無許可のワイヤレス電力受信機、金属片、および、無許可のデバイスのうちの1つであり、
前記コントローラは、前記非準拠デバイスの前記存在を識別すると、第1の電力レベルで前記電力を提供することから第2の電力レベルで前記電力を提供することへ前記送信回路を遷移するようにさらに構成され、
前記第1の電力レベルは前記第2の電力レベルより高く、
前記非準拠デバイスの前記存在を識別した後、前記電力を提供することは前記第2の電力レベルで継続される、装置。」

ここで、本願発明について、上記優先基礎出願1に基づき主張された優先日(2011年9月9日)が有効であるか否かについて検討する。

優先基礎出願1の明細書及び図面を参照すると、段落[0055]-[0063]及び図7に、受信機におけるレギュレータの電圧Vregの変化及び送信機における電力増幅器への入力電流IPAの変化に基づいて、潜在的な金属、NFCデバイス、又は充電可能デバイスが存在することを検出することが記載されている。しかしながら、優先基礎出願1には「インピーダンス応答」や「インピーダンスの変化」に関する記載はなく、「予想されるインピーダンス応答」が、「ルックアップテーブルに基づき、前記ルックアップテーブルは、予め定められたしきい値を含み、前記予め定められたしきい値は、送信回路のドライバの設計によって定められている」旨の記載もない。

また、「送信機における電力増幅器への入力電流IPA」は、「電流」であって「インピーダンス」ではない。そして、一般に「インピーダンスの変化」は「電流の変化」のみによって決まるものではない(例えば、電圧が変化するのか否か、変化するならばどのように変化するかに応じて、インピーダンスは異なる値となる)から、優先基礎出願1において、検出される「入力電流IPAの変化」が「送信回路によって観察されることになるインピーダンスの変化」と同視できるものであるとはいえない。
また、請求人からは、優先基礎出願1における具体的な記載等の根拠は何ら示されていない。

したがって、本願発明の「前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機の電気的特性に対応する前記送信回路の予想されるインピーダンス応答を識別することであって、前記予想されるインピーダンス応答は、前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機が前記電力送出領域内に存在する場合に前記送信回路によって観察されることになるインピーダンスの変化である、識別することと」、「前記送信回路によって観察されるインピーダンスシフトを示す前記送信回路のインピーダンス応答を監視することと」、「前記予想されるインピーダンス応答と、前記監視されたインピーダンス応答との間の差異を決定することに基づいて、前記非準拠デバイスの存在を識別することと」、「前記予想されるインピーダンス応答が、前記コントローラによってアクセス可能なルックアップテーブルに基づき、前記ルックアップテーブルは、予め定められたしきい値を含み、前記予め定められたしきい値は、前記送信回路のドライバの設計によって定められ」ていることは、優先基礎出願1に開示されていない。

以上のとおり、本願発明が優先基礎出願1に開示されているとは認められないから、優先基礎出願1に基づき主張された優先日(2011年9月9日)は有効でない。
他方、優先基礎出願2には段落[0068]-[0082]及び図9-14に、上記構成が明記されており、優先基礎出願2に基づき主張された優先日(2012年5月4日)を本願発明についての新規性進歩性等の判断の基準とした。


第3 令和2年3月11日付け当審の拒絶理由通知の概要
令和2年3月11日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由3は以下のとおりである。
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2012-065477号公報
(なお、当審の拒絶理由通知においても、優先基礎出願1に基づき主張された優先日は有効ではなく、優先基礎出願2に基づき主張された優先日に基づいて新規性進歩性等の判断を行った。)

第4 引用文献
引用文献1には、図面とともに、次の記載がある。なお、下線部は当審で付与した。

ア.「【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図1は、第1の実施形態の無線電力伝送装置の全体構成を示す図である。
【0012】
(構成)
まず、第1の実施の形態の構成を説明する。図1は、高周波電源1、周波数制御部2、共振回路3(送電側共振回路3a、受電側共振回路3b)、送電用コイル4、受電用コイル5、インピーダンス検出装置6、負荷7、送電装置20、受電装置21で構成される。
【0013】
高周波電源1は、周波数制御部2、インピーダンス検出装置6、受電側共振回路3bと接続される。周波数制御部2は、高周波電源1、インピーダンス検出装置6と接続される。送電側共振回路3aは、高周波電源1、送電用コイル4と接続される。受電側共振回路3bは、受電用コイル5、負荷7と接続される。送電用コイル4は、送電側共振回路3aと接続される。受電用コイル5は受電側共振回路3bと接続される。インピーダンス検出装置6は、高周波電源1、周波数制御部2、高周波電源1と送電側共振回路3a間と接続される。送電装置20は、送電側共振回路3aと送電コイル4で構成される。受電装置21は、受電側共振回路3bと受電コイル5で構成される。
【0014】
(作用)
本実施の形態の作用を以下に説明する。周波数制御部2は高周波電源1の出力周波数を決定する。無線で電力を伝送する送電装置20には、高周波電源1から出力される周波数制御部2によって決定された高周波交流電力が印加される。送電装置20に印加された高周波交流電力は、受電装置21に印加される。印加された高周波交流電力を負荷7に供給することで、負荷7は駆動する。
【0015】
高周波電源1から送電装置20へ高周波交流電源を出力する際に、インピーダンス検出装置6で、高周波電源1から出力されるインピーダンスを検出する。インピーダンスはコイルのインダクタンス、キャパシタンス、抵抗値などで決まる。また、コイルの周波数特性を表わすQ値も、インダクタンス、キャパシタンス、抵抗値で決まる。通常、送電装置20および受電装置21のそれぞれのコイル4、7が持つQ値は非常に大きい。そして、このQ値はコイルの状況や異物の挿入などによって変化する。しかし、Q値を検出するためには、正確な共振周波数を求め、その時の振動エネルギーに対して、半分の振動エネルギーとなる周波数を探す必要がある。そこで、本発明では、ある二点以上、周波数を変化させて、インピーダンスを検出する。この時、Q値が高いとその変化は大きなものとなる。一方で、Q値が低いと、その変化は小さくなる。これにより、簡易にQ値の変化を知ることができる。インピーダンスはコイルのインダクタンス、キャパシタンス、抵抗値などで決まる。例えば、表面が酸化するなどして、コイルの抵抗値が増加するとQ値は低下する。通常、このような送電装置20および受電装置21のコイルが持つQ値は非常に大きく、このQ値はコイルの状況や異物の挿入などによって変化する。例えば、表面が酸化するなどして、コイルの抵抗値が増加するとQ値は低下する。このようなQ値を検出するためには、正確な共振周波数を求め、その時の振動エネルギーに対して、半分の振動エネルギーとなる周波数を探す必要がある。通常、このようなQ値検出のためには送電用コイル4の共振周波数付近で周波数を連続的に変化させる必要があるが、本実施形態では、二点以上の任意の周波数を変化させ、その周波数をインピーダンス検出のために使用する。
【0016】
二点以上の任意の周波数を使用することで、コイルのQ値が高いとインピーダンスの変化は大きなものとなり、Q値が低いと、インピーダンスの変化は小さくなる結果が検出される。そのため、インピーダンスの変化の大小を見ることで容易にQ値の変化を検出ことができる。インピーダンスの特性上、インピーダンスの変化を検出することで、コイルの状況を把握することが可能となる。しかも、周波数を連続的に変化させて、特性を取得する必要がないため、短時間で検出することが可能になる。
【0017】
上述のように、本実施の形態によれば、任意の二点以上でのインピーダンス変化から、簡易にコイルの状態を知ることが可能となる。」

イ.「【0048】
(第9の実施形態)
第9の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図9は、第9の実施形態の無線電力伝送装置の全体構成を示す図である。尚、図1乃至8と同一の構成をとるものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0049】
(構成)
図9では、インピーダンス検出装置6に盗電検出装置14が追加されている。
【0050】
(作用)
本実施の形態の作用を以下に説明する。受電側が1つの状態から2つに増え、ともに電力を受電しようとすると、送電側から見たとき、抵抗成分が変化する。したがって、かりに高周波電源1の電圧が同じであれば、受電側が2つに増えると、高周波電源の電圧と電流は位相は変化しないで、電流の大きさが変化する。また、コイル特性が同一であれば、共振周波数は変化していない。したがって、少なくとも2点の周波数におけるインピーダンスを測定することで、この変化を検出でき、盗電を検出することが可能となる。つまり、任意の二点以上でのインピーダンス変化などから、盗電検出が可能となる。盗電検出に用いるのは、インピーダンスだけではなく、電圧変化量や電流変化量であっても、なんら問題はない。また、送電側だけでなく、受電側でも可能である。」

上記アによれば、無線電力伝送装置が、高周波電源1、周波数制御部2、送電側共振回路3a、受電側共振回路3b、送電用コイル4、受電用コイル5、インピーダンス検出装置6、負荷7で構成されることが記載されている。また、上記イによれば、実施形態として、インピーダンス検出装置6に盗電検出装置14が追加されることが記載されている。
よって、上記ア、イ及び図9によれば、無線電力伝送装置において、送電側が、高周波電源1、周波数制御部2、送電側共振回路3a、送電用コイル4、インピーダンス検出装置6及び盗電検出装置14からなる装置で構成され、受電側が、受電側共振回路3b、受電用コイル5及び負荷7から構成されることが記載されている。

上記アによれば、高周波電源1の出力周波数を決定する周波数制御装置2について記載されている。

上記アによれば、高周波電源1から出力されるインピーダンスを検出するインピーダンス検出装置6について記載されている。

上記ア及びイによれば、受電側が1つの状態から2つに増え、ともに電力を受電しようとすると、送電側から見たとき、抵抗成分が変化するため、少なくとも2点の周波数におけるインピーダンスを測定することで、この変化を2点以上でのインピーダンス変化から検出でき、盗電検出が可能となることが記載されている。

上記ア及びイの記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「高周波電源1、高周波電源1の出力周波数を決定する周波数制御部2、送電側共振回路3a、受電側共振回路3b、送電用コイル4、受電用コイル5、高周波電源1から出力されるインピーダンスを検出するインピーダンス検出装置6、負荷7、盗電検出装置14で構成される無線電力伝送装置であって、送電側が高周波電源1、周波数制御部2、送電側共振回路3a、送電用コイル4、インピーダンス検出装置6及び盗電検出装置14からなる装置で構成され、受電側が、受電側共振回路3b、受電用コイル5及び負荷7から構成され、受電側が1つの状態から2つに増え、ともに電力を受電しようとすると、送電側から見たとき、抵抗成分が変化するため、少なくとも2点の周波数におけるインピーダンスを測定することで、この変化を2点以上でのインピーダンス変化から検出でき、盗電検出が可能となる、無線電力伝送装置。」


第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「受電側共振回路3b」、「受電用コイル5」からなるものは、受電側に存在するから、本願発明の「ワイヤレス電力受信機」に相当する。また、引用発明の「高周波電源1」、「周波数制御部2」、「送電側共振回路3a」、「送電用コイル4」、「インピーダンス検出装置6」、「盗電検出装置14」からなるものは、送電側に存在するから、本願発明の「ワイヤレス電力受信機に電力を送信するように構成されたワイヤレス電力送信機」に相当する。

(2)引用発明の送電側が「受電側が1つの状態から2つに増え、ともに電力を受電しようとする」こと、すなわち「盗電」を検出することは、許可されていない機器による盗電を検出しているといえ、本願発明の「無許可のワイヤレス受信機」を含む「非準拠デバイス」を「検出」することに相当する。よって、引用発明の送電側の「高周波電源1、周波数制御部2、送電側共振回路3a、送電用コイル4、インピーダンス検出装置6、盗電検出装置14」からなる装置は、本願発明の「ワイヤレス電力送信機の電力送出領域内の非準拠デバイスを検出するための、前記ワイヤレス電力送信機に含まれた装置」に相当する。

(3)引用発明の送電側の「高周波電源1」、「送電側共振回路3a」、「送電用コイル4」からなるものは、これらを用いて受電側に対して無線電力を供給するものであり、周囲に無線給電のための磁界領域を形成していることは明らかであるから、本願発明の「ワイヤレス電力受信機に前記電力を提供する前記電力送出領域内のワイヤレスフィールドを生成するように構成された送信回路」に相当する。また、引用発明の「周波数制御部2、インピーダンス検出装置6、及び盗電検出装置14」からなるものは、周波数を決定し、盗電を検出する制御装置といえ、本願発明の「コントローラ」に相当する。さらに、引用発明の周波数制御部2に接続される「高周波電源1」は、本願発明の「前記送信回路のドライバ」に相当する。

(4)引用発明の送電側は、「受電側が1つの状態から2つに増え、ともに電力を受電しようとすると、送電側から見たとき、抵抗成分が変化する」ことを、周波数を変化させて「2点以上でのインピーダンス変化から盗電検出」を行うものであり、引用発明に記載の「2点以上でのインピーダンス変化」は「インピーダンスシフト」を示す「インピーダンス応答」と言い得るものである。そうすると、引用発明の送電側は、「受電側が1つの状態」である場合に予想されるインピーダンス応答と、測定されたインピーダンス応答との間の差異から、盗電、つまりは非準拠デバイスの存在を検出していると認められ、予想されるインピーダンス応答を識別し、インピーダンス応答を監視するものである。
したがって、引用発明の送電側の「周波数制御部2、インピーダンス検出装置6、及び盗電検出装置14」は、「受電側が1つの状態」である場合に予想されるインピーダンス応答を識別しており、本願発明の「ワイヤレス電力受信機の電気的特性に対応する前記送信回路の予想されるインピーダンス応答を識別することであって、前記予想されるインピーダンス応答は、ワイヤレス電力受信機が前記電力送出領域内に存在する場合に前記送信回路によって観察されることになるインピーダンスの変化である、識別すること」に相当する。また、引用発明の送電側の「周波数制御部2、インピーダンス検出装置6、及び盗電検出装置14」は、インピーダンス応答を監視するものであるから、本願発明の「前記送信回路によって観察されるインピーダンスシフトを示す前記送信回路のインピーダンス応答を監視すること」に相当し、引用発明の送電側の「周波数制御部2、インピーダンス検出装置6、及び盗電検出装置14」は、「受電側が1つの状態」である場合に予想されるインピーダンス応答と、測定されたインピーダンス応答との間の差異から、盗電、つまりは非準拠デバイスの存在を検出するものであるから、本願発明の「前記予想されるインピーダンス応答と、前記監視されたインピーダンス応答との間の差異を決定することに基づいて、前記非準拠デバイスの存在を識別することとを行うように構成されたコントローラ」に相当する。

(5)引用発明の「盗電」を検出することは、許可されていない機器による盗電を検出しているといえ、本願発明の「無許可のワイヤレス受信機」を含む「非準拠デバイス」を検出しているから、本願発明の「前記非準拠デバイスは、近距離通信(NFC)デバイス、無線周波数識別(RFID)デバイス、無許可のワイヤレス電力受信機、金属片、および、無許可のデバイスのうちの1つである」ことに相当する。

(6)本願発明は「前記予想されるインピーダンス応答が、前記コントローラによってアクセス可能なルックアップテーブルに基づき、前記ルックアップテーブルは、予め定められたしきい値を含み、前記予め定められたしきい値は、前記送信回路のドライバの設計によって定められ」ているのに対し、引用発明ではその旨の特定がなされていない点、及び、本願発明は「前記コントローラは、前記非準拠デバイスの前記存在を識別すると、第1の電力レベルで前記電力を提供することから第2の電力レベルで前記電力を提供することへ前記送信回路を遷移するようにさらに構成され、前記第1の電力レベルは前記第2の電力レベルより高く、前記非準拠デバイスの前記存在を識別した後、前記電力を提供することは前記第2の電力レベルで継続される」のに対し、引用発明では非準拠デバイスの存在を識別する点については開示されているものの、非準拠デバイスの存在を識別した後の制御について特定されていない点で相違する。

よって、本願発明と引用発明とは、

「1つまたは複数のワイヤレス電力受信機に電力を送信するように構成されたワイヤレス電力送信機の電力送出領域内の非準拠デバイスを検出するための、前記ワイヤレス電力送信機に含まれた装置であって、
前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機に前記電力を提供する前記電力送出領域内のワイヤレスフィールドを生成するように構成された送信回路と、
コントローラであって、
前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機の電気的特性に対応する前記送信回路の予想されるインピーダンス応答を識別することであって、前記予想されるインピーダンス応答は、前記1つまたは複数のワイヤレス電力受信機が前記電力送出領域内に存在する場合に前記送信回路によって観察されることになるインピーダンスの変化である、識別することと、
前記送信回路によって観察されるインピーダンスシフトを示す前記送信回路のインピーダンス応答を監視することと、
前記予想されるインピーダンス応答と、前記監視されたインピーダンス応答との間の差異を決定することに基づいて、前記非準拠デバイスの存在を識別することと
を行うように構成されたコントローラと
を備え、
前記非準拠デバイスは、近距離通信(NFC)デバイス、無線周波数識別(RFID)デバイス、無許可のワイヤレス電力受信機、金属片、および、無許可のデバイスのうちの1つである、装置。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は「前記予想されるインピーダンス応答が、前記コントローラによってアクセス可能なルックアップテーブルに基づき、前記ルックアップテーブルは、予め定められたしきい値を含み、前記予め定められたしきい値は、前記送信回路のドライバの設計によって定められ」ているのに対し、引用発明ではその旨の特定がなされていない点。

(相違点2)
本願発明は「前記コントローラは、前記非準拠デバイスの前記存在を識別すると、第1の電力レベルで前記電力を提供することから第2の電力レベルで前記電力を提供することへ前記送信回路を遷移するようにさらに構成され、前記第1の電力レベルは前記第2の電力レベルより高く、前記非準拠デバイスの前記存在を識別した後、前記電力を提供することは前記第2の電力レベルで継続される」のに対し、引用発明では非準拠デバイスの存在を識別する点については開示されているものの、非準拠デバイスの存在を識別した後の制御について特定されていない点。


第6 判断
以下、相違点について検討する。
(1)相違点1について
コントローラを用いて状態検出を行う技術分野において、測定値が「予め定められたしきい値」の範囲内か否かに応じて状態変化の検出を行うことは周知の技術であり、ルックアップテーブルを用いてしきい値を管理することも普通に行われているから、引用発明において盗電を検出する際に上記周知技術を適用し、受電側が1つの状態である場合に予想されるインピーダンス変化の範囲の「しきい値」を、負荷条件や送信回路のドライバの設計に応じて設定して、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)相違点2について
ワイヤレス電力送信機において、異常を検出した場合に電力レベルを低下させると共に低下させた電力レベルで給電を継続することは周知の技術である(必要であれば、特開2012-016171号公報の段落【0079】-【0080】や特開2010-252498号公報の段落【0051】-【0052】等を参照)。
引用発明において、非準拠デバイスの存在を識別した後の制御として上記周知技術を適用し上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
なお、この点について、請求人は令和2年6月12日付けの意見書にて、引用文献1には、異物を検出した場合に、電力を停止する代わりに、低いレベルで電力を提供することは開示されていないと主張している。
しかしながら、上記判断のように、異常を検出した場合に、電力を停止する代わりに低いレベルで電力を提供することは本願出願時において周知の技術であり、引用発明に当該周知技術を適用することは当業者が適宜なし得たことである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-08-24 
結審通知日 2020-08-31 
審決日 2020-09-11 
出願番号 特願2016-227687(P2016-227687)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 堂夫阿部 陽  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 赤穂 嘉紀
酒井 朋広
発明の名称 ワイヤレス電力デバイスを検出および識別するためのシステムおよび方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 黒田 晋平  

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