• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1370893
異議申立番号 異議2020-700882  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-18 
確定日 2021-02-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6695102号発明「加工システム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6695102号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6695102号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は,平成27年5月26日に出願され,令和2年4月23日にその特許権の設定登録がされ,令和2年5月20日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和2年11月18日に特許異議申立人 星 正美は,特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6695102号の請求項1ないし7に係る特許は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
加工システムであって,
保持面で被加工物を保持する保持手段と,該保持手段に保持された被加工物を切削加工する切削ブレードが装着された切削手段と,該保持手段と該切削手段とを相対的に移動させる送り手段と,を含む機能手段を備える切削装置と,
該機能手段の一部又は全部に設けられ,該切削ブレードの振動を検出する振動検出手段と,
該振動検出手段から出力された信号に含まれる情報であって,該切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報をデータとして蓄積するデータ蓄積手段と,
該機能手段の正常時に該振動検出手段から出力される信号に含まれる情報であって,被加工物に対応する適正な切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報を正常データとして記憶する正常データ記憶手段と,
該データ蓄積手段に蓄積された該データに基づいて該機能手段の状態を判断する判断手段と,
該保持面に平行なXY平面内で該保持手段又は該切削手段の位置を検出するXY位置検出手段と,を備え,
該データ蓄積手段は,該振動検出手段から出力された信号に含まれる情報を該XY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積し,
該判断手段は,該データ蓄積手段に蓄積された該データと該正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して被加工物が正常に切削加工されたか否かを判断することを特徴とする加工システム。
【請求項2】
該データ蓄積手段に蓄積された該データは,被加工物の品質管理,該機能手段の管理,連続稼働の管理,故障の原因調査,操作ミスの検証,のいずれかに利用されることを特徴とする請求項1記載の加工システム。
【請求項3】
該加工装置で加工した被加工物の品質を測定する測定手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の加工システム。
【請求項4】
該データ蓄積手段に蓄積された該データを出力するデータ出力手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の加工システム。
【請求項5】
該判断手段は,該データ蓄積手段に蓄積された該データと該正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して該切削手段に装着された切削ブレードが適正か否かを判断することを特徴とする請求項1記載の加工システム。
【請求項6】
該判断手段は,該データ蓄積手段に蓄積された該データと該正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して該切削手段に装着された切削ブレードの欠け,摩耗の程度,目詰まりの発生のいずれかを判断することを特徴とする請求項1記載の加工システム。
【請求項7】
該保持面に垂直なZ軸方向において該切削手段の位置を検出するZ位置検出手段を更に備え,
該振動検出手段は,該切削手段に装着された該切削ブレードがZ軸方向に移動して該保持手段の外周部に接触する際の振動に対応する信号を出力し,
該データ蓄積手段は,該切削ブレードが該外周部に接触した際の振動の情報を該Z位置検出手段で検出したZ軸方向の位置に対応させて接触データとして蓄積し,
該判断手段は,該接触データに基づいて,該切削ブレードが該外周部に接触した際のZ軸方向の位置を該切削ブレードの切り込み原点の位置と判断することを特徴とする請求項1記載の加工システム。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人 星 正美は,主たる証拠として
特公昭62-11959号公報(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として
特開2012-254499号公報(以下「文献2」という。),
特開平10-156668号公報(以下「文献3」という。),
特開2001-110758号公報(以下「文献4」という。),
特開平4-372341号公報(以下「文献5」という。)
を提出し,請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし6に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。

また,特許異議申立人 星 正美は,文献5(必要であれば文献4)に示す周知技術を前提として,主たる証拠として文献2及び従たる証拠として文献1,文献3ないし5を組み合わせることで,請求項1ないし6に係る特許は当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反し,請求項1ないし6に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。

さらに,特許異議申立人 星 正美は,本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
また,特許異議申立人 星 正美は,本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 文献の記載
(1)文献1には,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付加した。以下同じ。)
「特許請求の範囲
1 工作機械から検出した振動波形の積分値が所定値になると一定周期のパルスを発生し,且つパルス発生周期を金型,被加工材料等の加工条件に応じて可変し得るパルス発生装置,工作機械の正常動作時の振動波形積分値のアナログデジタル変換値を記憶するメモリ,この記憶された正常時の積分値のデジタル値と,工作機械の振動の積分値のデジタル値とを上記パルスの周期に同期して比較器により比較して振動の異常を検出するようにしたことを特徴とする工作機械の異常検出装置。
発明の詳細な説明
この発明は,工作機械のうち,たとえばプレス機械等のように反復動作を行なうものにおいて,加工中の異常振動を検出して,工作機械の異常や,金型,あるいは被加工物の異常を検出する工作機械の異常検出装置に関するものである。
従来,工作機械の内,プレス機のような反復動作を行なう工作機械の自動運転時には,作業者による監視,または適切な異常検出装置がないため,機械の異常や,金型の破損等が発生していても,これに気付くまでは多数の不良加工品を作ることが多く,その頻度も案外多く,損失が大きい。
この発明はかかる点に着目しなされたもので,プレス機等の工作機械の反復動作毎に発生する振動波形を処理し,予め記憶させている正常時の値と比較,照合して異常を検出して自動的に機械を停止させるようにした異常検出装置を提供しようとするものである。
第1図は,この発明の一実施例を示すブロツク図で,1はプレス機(図示せず)のベツド等の所定位置に装着され,このプレス機の振動を検出する振動センサ,2はこの振動センサ1の出力を増巾して積分する積分器,3はこの積分器2の出力が予め可変抵抗器31によつて設定されている値以上になつたことを検出するアナログ比較器,4はこの比較器3の出力を記憶する第1のフリツプフロツプ,5は上記第1のフリツプフロツプ4の出力と,周期設定器61によつて設定される周期のパルスを発生するパルス発生器6の出力との論理積(AND)演算を行なう第1のAND回路,7は上記第1のAND回路5の出力パルス数が所定の計数値に達すると,上記第1のフリツプフロツプ4を反転させ,また積分器2をリセツトする出力を出すカウンタ,8は上記積分器2の出力のアナログ-デジタル変換を行なうアナログ-デジタル変換器,9は,動作モードを切換えるスイツチ,10はこの動作モードスイツチ9が「書き込み」モードのとき,アナログ-デジタル変換によるデジタル値を記憶するメモリ,11はこのメモリ10の出力と,上記切換スイツチ9が「モニタ」のとき,アナログ-デジタル変換器8の出力を減算する減算器,12はこの減算器11と,所定の設定値を比較するデジタル比較器,13はこのデジタル比較器12の出力を上記第1のAND回路5からのパルスのAND演算を行なう第2のAND回路,14はこの第2のAND回路13の出力を記憶するフリツプフロツプ,15はこのフリツプフロツプ14の出力を異常検出出力として取り出す端子である。
次に,上記のように構成されたこの発明の異常検出回路の動作を第2図の波形図により説明する。
すなわち,プレス機が正常な動作をしているときに,切換スイツチ9を「書き込み」に設定する。そして,プレス機の動作に伴なう振動波形は振動センサ1によつて検出され,第2図aに示すようになる。このaの波形は積分器2によつて積分され,第2図bに示すようになる。そして,この積分器2の出力「b」はアナログ比較器3に与えられ,可動抵抗器31によつて設定された値「E」以上になると,第2図Cに示すように,比較器3から出力が出て,これがフリツプフロツプ4のセツト入力「S」となつてフリツプフロツプ4に記憶される。このフリツプフロツプ4の出力「d」と,パルス発生器6の出力パルスとが第1のAND回路5においてAND演算され,第2図eに示すようにゲートされたパルス出力となる。このパルス出力「e」は,メモリ10に与えられ,このメモリ10のアドレスカウンタ(図示せず)等を動作させる,同時に積分器2の出力「b」をアナログ-デジタル変換器8によつてデジタル値に変換し,この値を上記パルス出力「e」に同期してメモリ10に書き込み,記憶させておく。
また,パルス出力「e」はカウンタ7にも出力され,所定の計数値になると,出力「f」を出し,積分器2と,フリツプフロツプ4をリセツトする。以上の正常時動作をメモリ10に記憶させておく。
次に,プレス機の反復動作時には,スイツチ9を「モニタ」に設定することにより,第2図に示すa?fまでの波形の動作は上述した場合と同様であるが,スイツチ9が「モニタ」に設定されているため,メモリ10の書き込み動作は行なわれない。その代りに,読み出しが行なわれる。すなわち,振動波形aをデジタル値に変換し,波形aからfまでの動作は上述した場合と同様であり,パルス出力「e」をメモリ10に与えて,上述した書き込み時に記憶させていた値を読み出す。この読み出した値と,アナログ-デジタル変換器8の出力が減算器11によつて減算され,この減算値をデジタル比較器12に与える。
このデジタル比較器12には,予め設定値が与えられており,この設定値よりも上述した減算値か例えば2倍,または1/2倍になると,デジタル比較器12から出力を出すようにしておく。この出力は第2のAND回路13においてパルス出力「e」と,AND演算を行ない,パルス出力「e」と同期をとるようにする。この同期をとる理由は,メモリ10の読み出し出力がパルス出力「e」に同期しており,デジタル比較器12の出力と同期させる必要があるからである。次に,第2のAND回路13の出力は,第2のフリツプフロツプ14のセツト入力となり,その出力は端子15に出されて,上述した減算値がデジタル比較器12の設定値の2倍,または1/2倍になつたときに異常検出出力となる。なお,上記フリツプフロツプ14のリセツト「R」には手動のリセツト(図示せず)信号等が与えられて,異常検出出力をリセツトするようになされており,また,上記カウンタ7によるフリツプフロツプ4と,積分器8のリセツト動作は,プレス機の毎回のプレス動作にこの発明の装置を追従させるためである。さらに,プレス機のプレス動作はその機械によつて所定時間毎のプレス回数が異なり,さらに金型や,被加工材料によつて振動波形が異なるため,これを補正するため,パルス出力「C」によるサンプリングの密度(回数)を変え得るように,パルス発生器6の出力パルスの周期を周期設定器61によつて設定するようになされている。
なお,本発明における工作機械とは,プレス機,切削機,研削機のように振動を発生させる機械を対象とするものであり,従つて,上述の実施例ではプレス機についてのみ説明したが,この実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
以上述べたように,この発明の工作機械における異常検出装置の狙いとするところは,まず,信号処理を容易にするために,振動波形を積分し,正常時の積分値をデジタル値に変換してメモリに記憶しておき,この正常時の積分のデジタル値と,工作機械の毎回の振動の積分のデジタル値を,設定積分値になつてから発生するパルスに同期して比較・照合させるところにある。このように,正常時の値を記憶しておいて,これを基準にして工作機械の毎回の反復動作の値を比較することにより,金型や,被加工材料の相違による比較値の調整が不要になり,きわめて便利である。この発明は一種の学習制御手段であり,この学習制御の一効果によつて金型や,被加工材料の相違による補正が不要となるばかりでなく,工作機械の毎回の反復動作ごとに監視が可能となり,金型の異常や,被加工材料の加工不良等の異常検出が容易かつ迅速に行ない得られる優れた効果を有するものである。更に,この発明では,パルス発生器の出力パルスの周期は周期設定器で可変しうるので,金型や,被加工材料によつて振動波形が異なつても,これを補正してパルス出力によるサンプリングの密度を変えることにより,金型や被加工材料等の加工条件の変化に対応させて異常を確実に検出できるという効果も有する。」(第1ページ左欄第1行?第3ページ右欄第5行)









上記記載から,文献1には,次の技術的事項が記載されていることが認められる。
・文献1に記載された発明は,工作機械のうち,たとえばプレス機械等のように反復動作を行なうものにおいて,加工中の異常振動を検出して,工作機械の異常や,金型,あるいは被加工物の異常を検出する工作機械の異常検出装置に関するものであること。

・従来,工作機械の内,プレス機のような反復動作を行なう工作機械の自動運転時には,作業者による監視,または適切な異常検出装置がないため,機械の異常や,金型の破損等が発生していても,これに気付くまでは多数の不良加工品を作ることが多く,その頻度も案外多く,損失が大きいことから,文献1に記載された発明はかかる点に着目し,プレス機等の工作機械の反復動作毎に発生する振動波形を処理し,予め記憶させている正常時の値と比較,照合して異常を検出して自動的に機械を停止させるようにした異常検出装置を提供したものであること。

・文献1に記載された発明における工作機械とは,プレス機,切削機,研削機のように振動を発生させる機械を対象とするものであり,従つて,上述の実施例ではプレス機についてのみ説明したが,この実施例に限定されるものでないことはいうまでもないこと。

・文献1に記載された発明の工作機械における異常検出装置の狙いとするところは,まず,信号処理を容易にするために,振動波形を積分し,正常時の積分値をデジタル値に変換してメモリに記憶しておき,この正常時の積分のデジタル値と,工作機械の毎回の振動の積分のデジタル値を,設定積分値になつてから発生するパルスに同期して比較・照合させるところにあること。

・文献1に記載された発明は一種の学習制御手段であり,この学習制御の一効果によつて金型や,被加工材料の相違による補正が不要となるばかりでなく,工作機械の毎回の反復動作ごとに監視が可能となり,金型の異常や,被加工材料の加工不良等の異常検出が容易かつ迅速に行ない得られる優れた効果を有するものであること。

・文献1の発明の詳細な説明には,文献1の特許請求の範囲に記載された「工作機械から検出した振動波形の積分値が所定値になると一定周期のパルスを発生し,且つパルス発生周期を金型,被加工材料等の加工条件に応じて可変し得るパルス発生装置,工作機械の正常動作時の振動波形積分値のアナログデジタル変換値を記憶するメモリ,この記憶された正常時の積分値のデジタル値と,工作機械の振動の積分値のデジタル値とを上記パルスの周期に同期して比較器により比較して振動の異常を検出するようにしたことを特徴とする工作機械の異常検出装置。」に係る発明の実施例が,第1図,第2図を用いて説明されていること。

さらに,文献1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていることが認められる。
「切削機と,
前記切削機の所定位置に装着され,この切削機の振動を検出する振動センサ1と,
前記振動センサ1の出力を増巾して積分する積分器2と,
前記積分器2の出力が予め可変抵抗器31によつて設定されている値以上になつたことを検出するアナログ比較器3と,
前記比較器3の出力を記憶する第1のフリツプフロツプ4と,
前記第1のフリツプフロツプ4の出力と,周期設定器61によつて設定される周期のパルスを発生するパルス発生器6の出力との論理積(AND)演算を行なう第1のAND回路5と,
前記第1のAND回路5の出力パルス数が所定の計数値に達すると,前記第1のフリツプフロツプ4を反転させ,また積分器2をリセツトする出力を出すカウンタ7と,
前記積分器2の出力のアナログ-デジタル変換を行なうアナログ-デジタル変換器8と,
動作モードを切換えるスイツチ9と,
前記動作モードスイツチ9が「書き込み」モードのとき,アナログ-デジタル変換によるデジタル値を記憶するメモリ10と,
前記メモリ10の出力と,前記切換スイツチ9が「モニタ」のとき,アナログ-デジタル変換器8の出力を減算する減算器11と,
前記減算器11と,所定の設定値を比較するデジタル比較器12と,
前記デジタル比較器12の出力を上記第1のAND回路5からのパルスのAND演算を行なう第2のAND回路13と,
前記第2のAND回路13の出力を記憶するフリツプフロツプ14と
前記フリツプフロツプ14の出力を異常検出出力として取り出す端子15と,
を含む,異常検出装置を備えた切削機であって,
前記切削機が正常な動作をしているときに,切換スイツチ9を「書き込み」に設定し,
そして,切削機の動作に伴なう振動波形は振動センサ1によつて検出され,
前記検出された振動波形は積分器2によつて積分され,
前記積分器2の出力がアナログ比較器3に与えられ,可動抵抗器31によつて設定された値以上になると,比較器3から出力が出て,これがフリツプフロツプ4のセツト入力となつてフリツプフロツプ4に記憶され,
前記フリツプフロツプ4の出力と,パルス発生器6の出力パルスとが第1のAND回路5においてAND演算されゲートされたパルス出力となり,
前記パルス出力は,メモリ10に与えられ,このメモリ10のアドレスカウンタ等を動作させると同時に積分器2の出力をアナログ-デジタル変換器8によつてデジタル値に変換し,この値を上記パルス出力に同期してメモリ10に書き込み,記憶させておき,
さらに,パルス出力はカウンタ7にも出力され,所定の計数値になると,出力を出し,積分器2と,フリツプフロツプ4をリセツトして,以上の正常時動作をメモリ10に記憶させておき,
次に,切削機の反復動作時には,スイツチ9を「モニタ」に設定することにより,メモリ10の書き込み動作を行わず,代りに,読み出しを行い,すなわち,振動波形をデジタル値に変換し,パルス出力をメモリ10に与えて,上述した書き込み時に記憶させていた値を読み出し,この読み出した値と,アナログ-デジタル変換器8の出力が減算器11によつて減算し,この減算値をデジタル比較器12に与え,
このデジタル比較器12には,予め設定値が与えられており,この設定値よりも上述した減算値か例えば2倍,または1/2倍になると,デジタル比較器12から出力を出すようにされており,
この出力は第2のAND回路13においてパルス出力と,AND演算を行ない,パルス出力と同期をとるようにされており,
次に,第2のAND回路13の出力は,第2のフリツプフロツプ14のセツト入力となり,その出力は端子15に出されて,上述した減算値がデジタル比較器12の設定値の2倍,または1/2倍になつたときに異常検出出力となる,
異常検出装置を備えた切削機。」

(2)次に,文献2には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
NC制御される工作機械の加工異常検知装置であって,切削加工中の切削工具の座標値に関連した加工条件が記憶された切削位置・加工条件記憶手段と,前記切削工具の座標値に関連付けられた切削力の計算値を記憶する切削力計算値記憶手段と,切削加工中の切削工具の実切削力を計測する計測手段と,当該切削加工中の切削工具の実座標値を取得する座標値取得手段と,前記切削力計算値記憶手段より予め記憶した切削力の計算値のパターンと前記計測手段で取得した実切削力のパターンとを比較して同一とされる切削力計算値パターン抽出手段と,この切削力計算値パターン抽出手段で実切削力パターンと切削力計算値パターンとの比較により実切削力の遅れ時間を演算する遅れ時間演算手段と,加工条件に基づいた異常認定の切削力しきい値が切削工具の座標値に関連づけて記憶された切削力しきい値記憶手段と,前記切削工具の座標値での実切削力と前記検知認定の切削力しきい値とを比較することによって異常の有無を判定する異常判定手段を有することを特徴とする工作機械の加工異常検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械の加工異常検知装置において,前記計測手段を加工装置の主軸部に内蔵した力センサで構成したことを特徴とする工作機械の加工異常検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の工作機械の加工異常検知装置において,前記計測手段を加工装置のテーブルと被削材との間に設置した力センサで構成したことを特徴とする工作機械の加工異常検知装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,NC制御工作機械,特に,フライス切削加工に用いるNC制御工作機械において,加工中に発生する工具摩耗やびびり振動などの加工異常を検知し,摩耗過大によるワーク損傷や,びびり振動による加工異常を抑制する制御装置及びその制御方法に関するものである。
【0002】
また,本発明は,NC制御工作機械において,切削条件に対応した切削シミュレーションにより異常判定値(モデル)となる切削力としきい値情報を予め算出しておき,実切削加工中に取得した工作機械の切削工具の位置座標と実切削力の計測結果を得て,比較すべきしきい値を決定して異常判定ができるようにした工作機械の加工異常検知装置及び加工異常検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
工作機械を用いたエンドミル加工は,金属部品をさまざまな形状に加工する手法として一般的な加工方法であり,回転工具に取り付けられた切刃を被削材に切り込み,材料を除去することで様々な形状に加工する。通常,切削加工は角材や丸棒材などから部品形状を削りだす工程が多く,複雑な形状を有する部品を加工する場合は除去量が多くなるため,切込量や送り速度,工具回転速度を大きくする等して,高能率化を図っている。ここで,最近では製品性能向上のため,切削加工対象となる部品にNi基合金や高硬度鋳鋼材などの高強度・難削材が適用される場合が多く,加工能率を低下させた切削条件に落とさざるを得ず,自動化・高能率化する上での問題となっている。また,加工形状も3次元曲面を有する複雑な形状が多くなってきており,5軸マシニングセンタのような多軸工作機械で加工するケースが多くなっており,先の問題に対する加工能率の向上が課題となっている。
【0004】
このような材料や加工形状においては,切り込み量や回転軸の回転速度によっては,切込量や工具回転数を上げた際に,切刃にかかる力が大きくなるため,工具の振動(びびり)や切刃の摩耗,折損等に因る加工トラブルが発生しやすい。このような加工トラブルが発生すると,加工部分の表面粗さが悪化したり,傷ついたりするため,材料を廃棄することとなり,コストの高い高強度材や工具などが試損となる上に,廃棄コストがかかることとなり製造コスト上昇の原因となっている。そこで,工作機械の振動状態や加工状態をモニタリングし,異常が発生する直前に工作機械に指令を与えて加工条件を変更(工具回転数の減速等)する手法や,加工を停止することができる加工制御システム及び制御方法を構築する技術が必要となっている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら,部品毎に予め設定値を設定しておく方法では,部品形状毎にしきい値設定のための実験や試作作業が必要となり,部品種類が多い場合には現実的な解決手段とはならない。また,加工パス毎にあらかじめしきい値を設定する方法では,一つの加工パスにおける切込量が一定のときのみ適用可能であり,切込量が変化して加工負荷が変化する場合には適用が難しい。また,切削パターンを予め定義しておいて加工する方法も,部品形状がある程度切削パターンに分解できる場合はよいが,切込みが変動する曲面を加工する場合には,比較するしきい値の設定が困難である。特に,5軸切削加工装置で加工するような切込み,送り速度などが時々刻々変化するような複雑な3次元形状の加工では,短い加工パスを多数分割する必要があり,それぞれの加工パスに対してのしきい値の設定が難しい。
【0011】
ここで,特許文献2または3で示されているように,切削条件から切削力を予測したシミュレーション結果と比較して異常を検知する方法は,一定の切削パターンには有効である。しかし,曲面加工など切削条件が変化する場合は,現在どこを加工しているかを認識することが難しい。本発明の目的は,切込量が時々刻々と変化する加工パスにおいても,現在どこを加工しているかの認識を可能とし,切削の異常検知のためのしきい値の決定を可能とする方法を提供することにある。」

「【実施例1】
【0020】
図1?図9を用いて第一の実施例を説明する。図2に本発明に基づく実施例の工作機械の加工制御システムの装置の構成要素の概要を示す。なお,本実施例では3軸制御の機械加工装置を例に説明するが,制御軸数や装置構成はこれに限られるものではない。本加工制御システムは,一般的な3軸制御の工作機械である機械加工装置10に適用されるものであり,機械加工装置10の筐体11,加工工具14,加工工具14を保持して回転させる主軸13,主軸13をZ軸方向(垂直方向)に移動させる主軸ステージ12,被削材15,被削材を保持してXY軸方向(水平方向)に移動させるテーブル16,機械加工装置10をXYZ軸方向に移動制御せしめるためのNC制御装置17,主軸13に取付けて切削力を計測するための切削力測定センサ21a,テーブル16と被削材15の間に取り付けて切削力を計測する切削力測定センサ21b,及び,NC制御装置17との通信と切削力測定センサ21aと21bの計測値を保管する制御PC30で構成される。
【0021】
本発明の加工制御システムが適用されている機械加工装置10は,一般的な3軸制御の工作機械であり,加工工具14を回転させて被削材15に切り込み,被削材15を除去することによって,被削材15の形状を加工するものである。加工工具14は,被削材15から受ける力により,加工工具14や筐体11等が振動して加工面の表面粗さが低下したり,加工工具14が折損したりする等の不具合が発生することがあった。このような,一般的な機械加工装置10に対しても,力センサアンプ20と制御PC30を取り付けることによって本発明が適用可能なものである。」

「【0024】
図1に本発明の加工異常判定方法の処理フローを示す。まず,制御PC30側からNC制御装置17を介して,加工装置10により現在切削加工を行っている切削加工位置情報の取得ステップ(S1)を実施する。次に,加工装置10に取り付けた切削力測定センサ21a,21bにより,加工中の切削力の検出ステップ(S2)を実施する。次に,S2において取得した切削力を経時的に集積して切削力パターンとし,その切削力パターン(実切削力パターン)と予め保存した計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)を比較して合致する計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)の抽出ステップ(S3)を実施する。次に,この比較結果より,実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(切削力取得までの遅れ時間)の算出ステップ(S4)を実施する。次に,この遅れ時間の算出結果より予め保存した切削力予測値としての比較値の決定ステップ(S5)を実施する。次に,このステップ(S5)より決定した比較対象予測値(モデル切削力パターンの特定の座標位置での切削力)と測定した切削力(特定の座標位置での実切削力)の比較をすることによって加工異常の判定ステップ(S6)を実施する。
【0025】
以下,各ステップを詳細に説明する。切削加工位置情報の取得ステップ(S1)では,加工装置10のNC制御装置17より加工制御PC30を用いて加工装置10の加工工具14の各軸座標値を取得する。通常のNC制御の工作機械においては,NC制御装置17より加工制御PC30と通信するためのI/Oポートは標準的に備えられており,これを用いて通信することにより加工位置となる各軸座標値の現在値の取得が可能である。つまり,加工制御PC30から,NC制御装置17に対して現在の位置情報を問い合わせることにより,NC制御装置17から現在のX軸,Y軸,Z軸の値が出力される。なお,このようにして加工位置の取得は可能であるが,通信のためのクロック周波数と通信速度の影響をうけるため,取得した各軸の座標値は取得指令を出した瞬間の切削加工位置とは一致しない。このような位置の不一致を解決することが本発明の課題である。
【0026】
ここで,図3に加工制御PC30のデータ記憶部の構成を示す。このデータ記憶部の構成は,大きく3つの階層にわかれており,第1の階層31は,加工装置10を移動させるためのNCプログラム31aと,切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとその時の加工機の各軸座標値31cを記憶する。第2の階層32は,切削中に加工装置10に備えた切削力センサ21a,21bより取得した切削力32aを記憶する。第3の階層33は,加工装置10より取得した切削加工位置情報33aを記憶する。」

「【0028】
ここで,力センサ21a,21bによる切削力測定の具体例を説明する。図7(a)は,工具回転数3300/min(rpm)で2枚刃の工具を回転させ,図4で示した直線切削のような定常切削状態での力センサ21a,21bにより得られる切削力信号の例を示す。工具回転数に対応し,0.009秒間隔で切削力21が取得されている。図7(a)に示されるように,切削工具14の刃先が空走する時間があるため,断続的な切削力がかかっている。このように,図4に示すような切込みが一定の際は,切削力の測定結果は図7(a)のように一定となり,この切削加工の状態においては,実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(切削力取得までの遅れ時間)は大きな問題とはならず,しきい値の設定は容易となる。これに対して,図5や図6に示された一般的な切削加工の場合では,図7(b)に示すように,力センサ21a,21bにより得られる切削力信号は,各軸方向への切込み変化により切削力21の値は変動し切削軌跡に応じた変化をしめす。ここで,切削力21の最大値を外挿したもの曲線(プロフィール)が切削力曲線22(切削力パターン)である。このようなプロフィール曲線は,測定結果として得られるものではなく,制御PC30により,実測切削力の最大値を外挿したものとして得られる。
【0029】
次に,取得した切削力パターンとの比較により,予め保存した計算値の切削力パターンの抽出ステップ(S3)とその方法について図8を用いて説明する。
まず,予め設定された加工条件から計算によって切削力の変化値を算出しておく。切削力の計算は,工具形状と加工条件より算出することが可能であり,市販のFEM解析ソフトを用いる場合や切取り厚さと生成する切り屑長さから算出する方法などがある。このような技術は公知のものであり,本明細書においては更に詳細な説明は行わない。この公知の手法によって算出した切削力より,図8の点線に示した切削力曲線23(モデル切削力パターン)を算出する。この切削力曲線23(モデル切削力パターン)は,複数の工具形状と複数の加工条件(切削加工の面形状等)に応じて複数の切削力曲線(モデル切削力パターン)を,加工制御PC30のデータ記憶部の第1の階層31の切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとして記憶している(図3)。
【0030】
S1で取得した加工座標値を元に,計算により算出した切削力曲線23(モデル切削力パターン)と,S2で取得した実切削力の切削力曲線22(実切削力パターン)との比較を行い,プロフィールの一致したパターンの抽出を行う(S3)。図8に示したのはその一例であり,取得した各座標値を基準にすることで切削力曲線22(実切削力パターン)と23(モデル切削力パターン)の変化値がほぼ一致するモデル切削力パターンを抽出することが可能である。
【0031】
このモデル切削力パターンを抽出は,一連の加工が終了した後に,モデル切削力パターンと実切削力パターンとの比較を行って,実質的に同一のモデル切削力パターンを抽出することもできるし,途中段階までのパターンを比較することにより抽出することもできる。一連の加工が終了した後にモデル切削力パターンを抽出する場合には,次の加工の際に実切削力と切削力予測値との比較を行うようにする。また,途中段階までのパターンの比較によりモデル切削力パターンを抽出する場合には,その後の加工異常検知に用いて加工力を制御することができる。
【0032】
続いて,この切削力曲線22(実切削力パターン)と切削力曲線23(モデル切削力パターン)との比較結果より実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(遅れ時間)の算出ステップ(S4)について説明する。
図8に示したように,S3の切削力曲線のパターンが抽出されることにより,切削力曲線22(実切削力パターン)と切削力曲線23(モデル切削力パターン)との比較により,切削力曲線23(モデル切削力パターン)に対する切削力曲線22(実切削力パターン)の時間ずれ量を算出する。図8において,測定によって取得した切削力曲線22は,算出した切削力曲線23に対して,時間Tdだけ遅れていることがわかる。これは,切削力曲線22はNC制御装置17を介して取得した座標値を元に算出しているためほぼリアルタイムで計算できるのに対し,切削力曲線23は力センサ20からの信号を制御PC30が取得して計測することで通信時間分の遅れが生じており,その分が遅れとなって検出されるためである。このように,切削力曲線22と23とを比較して,両者のパターンをほぼ一致させるために必要な時間変化量を算出することにより,図8に示した遅れ時間Tdを算出するものである。この遅れ時間Tdは,工具の送り速度が増加するほど大きくなる。ここで,図9に示すように,予め遅れ時間Tdを送り速度と遅れ係数の二つをパラメータとしてテーブルに持たせておき,加工の始まりの制御の際に,このパラメータを参照して制御できるようにしておいてもよい。さらに,実際の加工では,予め設定したパラメータ(図9)に対して,リアルタイムで遅れ量(時間:Td)を計算することで,パラメータ化したテーブルの値を実際に計算したTdによって更新することで,加工初期から,より精度よく遅れ時間を算出することも可能である。一般的には,加工始点から加工を始める際には,予め設定したパラメータ(図9)を利用して制御を行い,計測により得た遅れ時間Tdにより制御する方式を採用することができる。
【0033】
次に,この遅れ時間Tdの算出結果より,予め保存したモデル切削力パターンの切削力予測値23aとしての比較値の決定ステップ(S5)を実施する。そのために,遅れ時間Tdが算出されていれば,実切削力22aから遅れ時間Td先行している切削力予測値23aを比較することで,各軸方向の切削力を比較することができ(図8(a)(b)参照),例えば,加工面が傾斜しており,X,Y,Z軸方向の切削力が時々刻々変化する場合でも,比較すべき切削力成分が判別できる。
【0034】
次に,S5にて決定した比較値23aに対して,実切削力22aとの異常判定ステップ(S6)を実施する。この異常判定ステップ(S6)においては,必ずしも3方向(X,Y,Z軸方向)の異常判定をする必要はなく,代表的な方向,例えば,図5で示すような径切り込み方向の信号成分の力Fyを用いて判定すれば十分である。あるいは,切削状態量の変動が顕著に表れる方向の信号成分の力(例えば,図6の場合はFz)で判定してもよい。切削状態量の変動が顕著に表れる方向は,工具移動方向等によって決まる。異常判定のしきい値の算出手法は,切削力の大きさに対する,加工工具14と被削材15の剛性,および径切込量,軸切込量に依存し,各条件におけるしきい値を,あらかじめシミュレーションや実験によって算出した切削力に対してマージンを加えた値を導出しておき,テーブルに設定しておくことで異常判定のしきい値とすることができる。異常判定ステップ(S6)ではS5で求めた実切削力22aと異常検知しきい値を比較することによって,切削異常を検知する。本実施例によれば,径切り込みが時々刻々と変化する加工パスにおいて,動的に異常検知しきい値を決定する方法を提供することが可能なため,加工失敗による不良品発生を回避することができるとともに,製造コストの削減に寄与する。」

上記記載から,文献2には,次の技術的事項が記載されていることが認められる。
・文献2に記載された発明は,NC制御工作機械,特に,フライス切削加工に用いるNC制御工作機械において,加工中に発生する工具摩耗やびびり振動などの加工異常を検知し,摩耗過大によるワーク損傷や,びびり振動による加工異常を抑制する制御装置及びその制御方法に関するものであること。

・工作機械を用いたエンドミル加工は,金属部品をさまざまな形状に加工する手法として一般的な加工方法であり,回転工具に取り付けられた切刃を被削材に切り込み,材料を除去することで様々な形状に加工するものであり,加工形状も3次元曲面を有する複雑な形状が多くなってきており,5軸マシニングセンタのような多軸工作機械で加工するケースが多くなっており,先の問題に対する加工能率の向上が課題となっているところ,このような材料や加工形状においては,切り込み量や回転軸の回転速度によっては,切込量や工具回転数を上げた際に,切刃にかかる力が大きくなるため,工具の振動(びびり)や切刃の摩耗,折損等に因る加工トラブルが発生しやすいので,工作機械の振動状態や加工状態をモニタリングし,異常が発生する直前に工作機械に指令を与えて加工条件を変更(工具回転数の減速等)する手法や,加工を停止することができる加工制御システム及び制御方法を構築する技術が必要となっていること。

・文献2に記載された発明は,切削条件から切削力を予測したシミュレーション結果と比較して異常を検知する方法では,一定の切削パターンには有効であるが,曲面加工など切削条件が変化する場合は,現在どこを加工しているかを認識することが難しいという課題を解決して,切込量が時々刻々と変化する加工パスにおいても,現在どこを加工しているかの認識を可能とし,切削の異常検知のためのしきい値の決定を可能とする方法を提供することにあること。

さらに,文献2には,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていることが認められる。
「切削条件に対応した切削シミュレーションにより異常判定値(モデル)となる切削力としきい値情報を予め算出しておき,実切削加工中に取得した工作機械の切削工具の位置座標と実切削力の計測結果を得て,比較すべきしきい値を決定して異常判定ができるようにしたNC制御工作機械(機械加工装置)であって,
前記機械加工装置10は,
筐体11と,
加工工具14と,
加工工具14を保持して回転させる主軸13と,
主軸13をZ軸方向(垂直方向)に移動させる主軸ステージ12と,
被削材15と,
被削材を保持してXY軸方向(水平方向)に移動させるテーブル16と,
機械加工装置10をXYZ軸方向に移動制御せしめるためのNC制御装置17と,
主軸13に取付けて切削力を計測するための切削力測定センサ21aと,
テーブル16と被削材15の間に取り付けて切削力を計測する切削力測定センサ21bと,及び,
NC制御装置17との通信と切削力測定センサ21aと21bの計測値を保管する制御PC30と,
で構成されるものであり,
前記加工装置10のNC制御装置17は,加工制御PC30を用いて加工装置10の加工工具14の各軸座標値を取得するものであって,加工制御PC30から,NC制御装置17に対して現在の位置情報を問い合わせることにより,NC制御装置17から現在のX軸,Y軸,Z軸の値が出力されるものであり,
前記加工制御PC30のデータ記憶部の構成は,大きく3つの階層にわかれており,
第1の階層31は,加工装置10を移動させるためのNCプログラム31aと,切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとその時の加工機の各軸座標値31cを記憶し,
第2の階層32は,切削中に加工装置10に備えた切削力センサ21a,21bより取得した切削力32aを記憶し,
第3の階層33は,加工装置10より取得した切削加工位置情報33aを記憶するように構成されており,
前記異常判定は,
予め設定された加工条件から計算によって切削力の変化値を算出しておくステップであって,切削力の計算は,工具形状と加工条件より算出することが可能であり,公知の手法によって算出した切削力より,切削力曲線23(モデル切削力パターン)を算出し,この切削力曲線23(モデル切削力パターン)を,複数の工具形状と複数の加工条件(切削加工の面形状等)に応じて複数の切削力曲線(モデル切削力パターン)として,加工制御PC30のデータ記憶部の第1の階層31の切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとして記憶するステップと,
制御PC30側からNC制御装置17を介して,加工装置10により現在切削加工を行っている切削加工位置情報を取得するステップ(S1)と,
加工装置10に取り付けた切削力測定センサ21a,21bにより,加工中の切削力を検出するステップ(S2)と,
S2において取得した切削力を経時的に集積して切削力パターン(実切削力パターン)として得るステップであって,所定の工具回転数で工具を回転させた際には,切削工具14の刃先が空走する時間があるため,力センサ21a,21bにより得られる切削力信号は断続的な切削力を示すとともに,各軸方向への切込み変化により切削力21の値は変動し切削軌跡に応じた変化をしめすところ,当該切削力21の最大値を外挿したものの曲線(プロフィール)を切削力曲線22(切削力パターン)として得るステップと,
切削力パターン(実切削力パターン)と予め保存した計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)を比較して合致する計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)を抽出するステップ(S3)と,
この比較結果より,実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(切削力取得までの遅れ時間)を算出するステップ(S4)と,
この遅れ時間の算出結果より予め保存した切削力予測値としての比較値の決定をするステップ(S5)と,
このステップ(S5)により決定した比較対象予測値(モデル切削力パターンの特定の座標位置での切削力)と測定した切削力(特定の座標位置での実切削力)の比較をすることによって加工異常の判定ステップ(S6)を実施するステップと,
を含むものである,
NC制御工作機械(機械加工装置)。」

(3)次に,文献3には,以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は,半導体ウエハ等に対し切断加工を行うダイシング装置,特にその切断加工状態を表示する装置に関する。」

「【0019】
すると,X軸モータ2は,X軸コントローラ8及びX軸ドライバ6を介して制御駆動され,テーブル1,即ちテーブル1,即ち半導体ウエハWは,X軸モータ2により回転するボールねじによりX軸線方向に送られ,半導体ウエハWの最後に切断された切断線が適宜の高さに調節された顕微鏡11の視野内の所定位置に位置する。
【0020】
それと共に,顕微鏡11で拡大された切断線の画像がCCDカメラ12で検知され,CCDカメラ12から切断線の画像信号が入力された画像処理装置13は,CPU4から指令信号に基づいて画像信号を処理し,切断線の加工状態を示すその画像の諸元,例えば切断線の幅,加工中心線の位置ずれ,チッピングの大きさ等の測定検出データをCPU4に入力する。
【0021】
CPU4においては,画像処理装置13からの測定検出データをメモリ5に入力すると共に,メモリ5に予め入力記憶されている切断線の諸元の許容値を呼び出し,画像処理装置13からの測定検出データと比較する。(ステップ3)
画像処理装置13からの測定検出データが許容値範囲から逸脱している場合には,CPU4から加工停止指令が全ての作動部に入力され,加工作動は停止される。(ステップ4)
【0022】
画像処理装置13からの測定検出データが許容値範囲から逸脱していない場合には,メモリ5に測定検出データが入力記憶される。(ステップ5)
メモリ5には,切断線の諸元の許容値が予め入力記憶されており,その許容値と逐次入力記憶された測定検出データのうち最新の所定回数,例えば25回の入力記憶分(既に入力記憶された回数が所定回数以下の場合は全回数の入力記憶分)とがメモリ5からCPU4に呼び出された上,CRTコントローラ16に入力され,CRTコントローラ16において線図データとされて,CRT15に図2に示すような切断線加工状態の諸元が許容値と共に線図として表示される。(ステップ6)
【0023】
作業者は,最新の測定検出から所定回数遡った測定検出までの間の全測定検出データの線図表示(図2参照)から切断線の加工品質レベル及びその変化傾向及び許容値範囲との比較を視覚的に知り,品質異常の生起を予知して,品質低下への対処,例えば,切断刃の交換,切断速度の低減,冷却水流尋の調節等を講じる。」

(4)次に,文献4には,以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体装置の切削加工,特に半導体ウエハのダイシングに用いられる切削加工装置であって,切削刃の振動を制御し,安定した半導体ウエハの切削切断と半導体ウエハのスクライブレーン幅の縮小を可能とする切削加工装置に関する。」

「【0009】
【課題を解決するための手段】以上述べた課題を解決するために,本発明の切削加工装置は,被切削加工物を切削加工する可動ブレード部と,可動ブレード部からの切削加工中の振動を検知する振動検知手段と,振動検知手段が検知した振動と予め設定された所定の振動とを比較して,制御信号を発生する手段と,制御信号に基づいて切削加工中の可動ブレード部の振動を所定の振動の範囲内に制御する振動制御手段とを備える。
【0010】このような構成にすることによって,切削加工中の振動が自動的に検出され,許容される所定の振動の範囲内に制御されるので,ブレード破損,チッピングの発生頻度,チッピングの大きさを減少させることができる。また,スクライブレーンの幅を従来以上に減少でき,ウエハあたりの半導体チップなどの収量を増加させることができる。」

「【0021】図4に固有振動振幅の経時変化を示す。横軸にブレード摩耗率をとり,縦軸に固有振動値をプロットした。振動制御ありの場合のデータは,制御値を0.06μm以下に設定して測定したものである。振動制御無しの場合のデータは,バランス調製を行わずに測定したものである。ブレード摩耗率はブレードの摩耗量が所定の値になった状態を100%とするもので,ブレードがすべてなくなった状態ではない。従来の固有振動を抑制する機構のない装置では,ブレード摩耗率の増加に従って固有振動振幅が増加する傾向にあることがわかる。」

(5)次に,文献5には,以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はドリル,タップ,エンドミル等の回転工具の折損,欠損,摩耗等の異常状態の発生を予め検出する回転工具の異常予知装置に関する。
【0002】
【従来の技術】ドリル,タップ,エンドミル等の回転工具により加工物を切削加工する場合,回転工具に折損,欠損,摩耗等を生じると,加工物に対して所期の加工を行なうことができないばかりでなく,そのような異常状態のままの運転が継続されることにより,加工物が破損し,工作機械に損害を生じる場合がある。
【0003】そのため,回転工具に実際に折損,欠損,摩耗等が生じる前に,これらの異常状態の発生を予知する必要があり,このための方法が種々提案されている。すなわち,一つの方法としては,回転工具を装着する装着装置の主軸を駆動するモータの駆動電流を検出し,この駆動電流の増大により回転工具の異常状態の発生を予知する方法であり,また,他の方法は,回転工具の振動をAEセンサ等の振動検出器で検出して,この振動値の増大により回転工具の異常状態の発生を予知する方法である。さらに,特開昭62-166948号公報に開示された方法は,回転工具の切削力を切削力検出器で検出して,この切削力検出器で検出された切削力若しくはその平均値若しくは前回検出した切削力と今回検出した切削力との差又は連続する所定回数の切削力の平均値とそれに引続いて連続する所定回数の切削力の平均値との差をそれぞれ所定の閾値と比較することにより,回転工具の異常状態の発生を予知する方法である。」

「【0008】本発明は,従来の回転工具の異常予知装置のこのような欠点を解消するためになされたものであり,回転工具の切削力,振動,駆動電流等のわずかな変動を検出して異常状態を極めて初期の状態から予知し,また,回転工具に堆積された内部疲労から異常状態を予知し,さらに,上記値の絶対値の変動にもかかわらず,操作の度ごとに閾値を設定し直す必要がなく,かつ雑音によって誤動作することもない回転工具の異常予知装置を提供することを目的とする。」

「【0046】さらに,本実施例では,回転工具の切削力を異常状態の検出データとして用いたが,該切削力を間接的に表わす回転工具の振動又は回転工具を駆動する駆動装置の駆動電流を異常状態の検出データとして用いてもよい。この場合には,切削力がこれらの振動又は駆動電流により徴憑されることとなる。
【0047】
【発明の効果】本発明の回転工具の異常予知装置においては,回転工具の異常状態を示す検出データの所定の周波数帯域成分の最大値若しくは所定周波数成分又はそれぞれの積分値を所定の閾値と比較するようにしたので,検出データの微小な変動も異常状態の初期のうちから高精度で検出でき,回転工具の内部疲労による異常状態の発生も予知でき,ノイズによる誤動作も少なく,閾値を頻繁に設定し直す必要もない。」

5 文献1を主たる証拠とした特許法第29条第2項(進歩性)についての当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「切削機」,「振動センサ1」は,それぞれ,本件発明の「切削装置」,「振動検出手段」に相当する。

イ 切削機が,被加工物を切削加工する切削工具,及び,前記切削工具が装着された切削手段を備えることは,切削機が,切削という機能を果たすために必須である。
そして,引用発明1の当該「切削工具」と,本件発明の「切削ブレード」とは,「切削工具」である点で一致する。
したがって,引用発明1と,本件発明は,「被加工物を切削加工する切削工具が装着された切削手段を含む機能手段を備える」点で一致する。

ウ 引用発明1の「メモリ10」は,本件発明の「該機能手段の正常時に該振動検出手段から出力される信号に含まれる情報であって,被加工物に対応する適正な切削工具で被加工物を切削加工した際の振動の情報を正常データとして記憶する正常データ記憶手段」に相当する。

エ 引用発明1の「『前記メモリ10の出力と,前記切換スイツチ9が「モニタ」のとき,アナログ-デジタル変換器8の出力を減算する減算器11』と,『前記減算器11と,所定の設定値を比較するデジタル比較器12』とからなる手段であって,『上述した減算値がデジタル比較器12の設定値の2倍,または1/2倍になつたときに異常検出出力となる』手段」と,本件発明の「『該データ蓄積手段に蓄積された該データに基づいて該機能手段の状態を判断する判断手段』であって,『該データ蓄積手段に蓄積された該データと該正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して被加工物が正常に切削加工されたか否かを判断する』『判断手段』」とは,「『該機能手段の状態を判断する判断手段』である点において一致する。

オ そうすると,本件発明の「加工システム」と,引用発明1の「異常検出装置を備えた切削機」とは,以下の相違点を除いて,「加工システム」である点で一致する。

そうすると,本件発明と,引用発明1とは,以下の点で一致し,相違する。
<一致点>
「加工システムであって,
被加工物を切削加工する切削工具が装着された切削手段を含む機能手段を備える切削装置と,
振動検出手段と,
該機能手段の正常時に該振動検出手段から出力される信号に含まれる情報であって,被加工物に対応する適正な切削工具で被加工物を切削加工した際の振動の情報を正常データとして記憶する正常データ記憶手段と,
該機能手段の状態を判断する判断手段と,を備えた加工システム。」

<相違点>
<相違点1> 本件発明の切削装置が,「保持面で被加工物を保持する保持手段と,該保持手段に保持された被加工物を切削加工する切削ブレードが装着された切削手段と,該保持手段と該切削手段とを相対的に移動させる送り手段と,を含む機能手段を備える」ものであるのに対して,
引用発明1の切削機は,被加工物を切削加工する切削工具が装着された切削手段を備えることが特定されているだけである点。

<相違点2> 本件発明の振動検出手段が,「該機能手段の一部又は全部に設けられ,該切削ブレードの振動を検出する」ものであるのに対して,
引用発明1の振動センサ1は,そのような構成が特定されていない点。

<相違点3> 本件発明が,「該保持面に平行なXY平面内で該保持手段又は該切削手段の位置を検出するXY位置検出手段」と,
「『該振動検出手段から出力された信号に含まれる情報であって,該切削工具で被加工物を切削加工した際の振動の情報をデータとして蓄積するデータ蓄積手段』であって,『該振動検出手段から出力された信号に含まれる情報を該XY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積』する『データ蓄積手段』」とを備え,
本件発明の「判断手段」が,当該「データ蓄積手段」に蓄積されたデータに基づいて機能手段の状態を判断するもの,すなわち,「データ蓄積手段に蓄積された該データと該正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して被加工物が正常に切削加工されたか否かを判断する」ものであるのに対して,
引用発明1は,「減算値がデジタル比較器12の設定値の2倍,または1/2倍になつたときに異常検出出力」をするものである点。

そこで,事案にかんがみ,上記相違点1と相違点3を併せて検討する。
引用発明1の「切削機」とは,被加工物を「切削加工」する「工作機械」を意味するものであると理解することが自然かつ合理的であって,文献1には,このような理解を妨げる特段の記載は認められない。
一方,文献2に記載された「フライス切削加工に用いるNC制御工作機械」は,「切削機」の一種といえるところ,文献2に示された「フライス切削加工に用いるNC制御工作機械」の「加工工具」は,「切削ブレード」ではない。
さらに,文献5の「ドリル,タップ,エンドミル等の回転工具により加工物を切削加工する場合,回転工具に折損,欠損,摩耗等を生じると,加工物に対して所期の加工を行なうことができないばかりでなく,そのような異常状態のままの運転が継続されることにより,加工物が破損し,工作機械に損害を生じる場合がある。」との記載に照らして,切削加工に用いる切削工具として,ドリル,タップ,エンドミル等が存在することも明らかである。
そうすると,特許異議申立人 星 正美は,特許異議申立書において,「甲第1号証の前述した記載により,プレス機の振動は,切削機の振動に置き換えることができることから,甲第1号証には,請求項1に係る本件発明の構成要件Cに対応する『該機能手段の一部又は全部に設けられ,切削ブレードの振動を検出する振動検出手段』が実質的に開示してある。なお,甲第1号証には,切削ブレードの文言の記載はないが,切削機に切削ブレードが装着してあることは,周知の事実であり,切削機の振動には切削ブレードの振動も含まれる。」と主張するが,切削機が切削に使用する切削工具としては,ドリル,タップ,エンドミル等が存在するから,文献1の記載からは,引用発明の「切削機」が,切削ブレードが装着されたものを特定しているとは認めることはできない。
したがって,「甲第1号証には,請求項1に係る本件発明の構成要件Cに対応する『該機能手段の一部又は全部に設けられ,切削ブレードの振動を検出する振動検出手段』が実質的に開示してある。」との主張は採用することはできない。

そこで,引用発明1を,「保持面で被加工物を保持する保持手段と,該保持手段に保持された被加工物を切削加工する切削ブレードが装着された切削手段と,該保持手段と該切削手段とを相対的に移動させる送り手段と,を含む機能手段を備える」切削装置に適用して,振動検出手段から出力された信号に含まれる情報をXY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積するデータ蓄積手段に蓄積されたデータと正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して被加工物が正常に切削加工されたか否かを判断する構成を採用することが容易であったかについて検討する。

まず,文献2,5には,切削ブレードが装着された切削手段が開示されていないから,本件発明は,引用発明1と,文献2,5に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に想到し得たものではない。

他方,文献3,4には,「保持面で被加工物を保持する保持手段と,該保持手段に保持された被加工物を切削加工する切削ブレードが装着された切削手段と,該保持手段と該切削手段とを相対的に移動させる送り手段と,を含む機能手段を備える」切削装置が記載されている。
しかしながら,文献1ないし5のいずれからも,引用発明1を,文献3,4に記載された構造を有する切削装置に適用する動機を見いだすことはできない。
したがって,本件発明は,引用発明1と,文献2ないし5に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に想到し得たものではない。

なお,仮に,引用発明1を,文献3,4に記載された構造を有する切削装置に適用する動機が存在して,引用発明1を,文献3,4に記載された構造を有する切削装置に適用したとしても,引用発明1に,振動検出手段から出力された信号に含まれる情報をXY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積するデータ蓄積手段に蓄積されたデータと正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して被加工物が正常に切削加工されたか否かを判断する手段を設けることが,文献1ないし5の記載からは当業者が容易に想到することができたとは認められないから,本件発明は,引用発明1と,文献2ないし5に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に想到し得たものではない。

すなわち,文献1に記載されるとおり,従来,工作機械の内,プレス機のような反復動作を行なう工作機械の自動運転時には,作業者による監視,または適切な異常検出装置がないため,機械の異常や,金型の破損等が発生していても,これに気付くまでは多数の不良加工品を作ることが多く,その頻度も案外多く,損失が大きいことから,引用発明1においては,プレス機等の工作機械の反復動作毎に発生する振動波形を処理し,予め記憶させている正常時の値と比較,照合して異常を検出して自動的に機械を停止させるようにした異常検出装置を提供することを解決すべき課題としたものであって,引用発明1によって特定される構成を有する異常検出装置を備えた切削機において,「減算値がデジタル比較器12の設定値の2倍,または1/2倍になつたときに異常検出出力」することによって前記課題を解決したものである。
そうすると,引用発明1が解決しようとする前記課題に照らして,引用発明1においては,振動検出手段から出力された信号に含まれる情報をXY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積することは必要とされないから,引用発明1において,振動検出手段から出力された信号に含まれる情報をXY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積するデータ蓄積手段に蓄積されたデータと正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して被加工物が正常に切削加工されたか否かを判断する手段を設ける動機はなく,引用発明1に前記手段を設けることを当業者が容易になし得たということはできない。

(2)請求項2ないし6に係る発明について
請求項2ないし6に係る発明は,請求項1に係る発明に対して,さらに技術的事項を追加したものである。よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,請求項2ないし6に係る発明は,上記文献1に記載された発明及び文献2ないし5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

6 文献2を主たる証拠とした特許法第29条第2項(進歩性)についての当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
本件発明と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「切削工具」としての「加工工具14」と,本件発明の「切削ブレード」とは,「切削工具」である点で一致する。

イ 引用発明2の「被削材15」は,本件発明の「被加工物」に相当する。そうすると,引用発明2の「『加工工具14を保持して回転させる主軸13と,主軸13をZ軸方向(垂直方向)に移動させる主軸ステージ12と,』『被削材を保持してXY軸方向(水平方向)に移動させるテーブル16と,機械加工装置10をXYZ軸方向に移動制御せしめるためのNC制御装置17と』を備えた『機械加工装置10』」は,本件発明の「保持面で被加工物を保持する保持手段と,該保持手段に保持された被加工物を切削加工する切削工具が装着された切削手段と,該保持手段と該切削手段とを相対的に移動させる送り手段と,を含む機能手段を備える切削装置」に相当する。

ウ 引用発明2の「『切削力を計測するための切削力測定センサ21a』『切削力を計測するための切削力測定センサ21b』」と,本件発明の「切削ブレードの振動を検出する振動検出手段」とは,「該機能手段の一部又は全部に設けられた検出手段」である点で一致する。

エ 引用発明2の「『加工制御PC30のデータ記憶部』の『切削中に加工装置10に備えた切削力センサ21a,21bより取得した切削力32aを記憶』する『第2の階層32』及び『加工装置10より取得した切削加工位置情報33aを記憶する』『第3の階層33』」は,本件発明の「該検出手段から出力された信号に含まれる情報であって,該切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報をデータとして蓄積するデータ蓄積手段」に相当する。

オ 引用発明2の「『加工制御PC30のデータ記憶部』の『切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとその時の加工機の各軸座標値31cを記憶』する『第1の階層31』」は,本件発明の「該機能手段の正常時に該振動検出手段から出力される信号に含まれる情報であって,被加工物に対応する適正な切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報を正常データとして記憶する正常データ記憶手段」に相当する。

カ 引用発明2の「加工制御PC30」は,本件発明の「該データ蓄積手段に蓄積された該データに基づいて該機能手段の状態を判断する判断手段」に相当する。

キ 引用発明2の「NC制御工作機械(機械加工装置)」と,本件発明の「加工システム」とは,以下の相違点を除いて,「加工システム」である点で一致する。

そうすると,本件発明と,引用発明2とは,以下の点で一致し,相違する。
<一致点>
「加工システムであって,
保持面で被加工物を保持する保持手段と,該保持手段に保持された被加工物を切削加工する切削工具が装着された切削手段と,該保持手段と該切削手段とを相対的に移動させる送り手段と,を含む機能手段を備える切削装置と,
該機能手段の一部又は全部に設けられた検出手段と,
該検出手段から出力された信号に含まれる情報であって,該切削工具で被加工物を切削加工した際の情報をデータとして蓄積するデータ蓄積手段と,
該機能手段の正常時に該検出手段から出力される信号に含まれる情報であって,被加工物に対応する適正な切削工具で被加工物を切削加工した際の情報を正常データとして記憶する正常データ記憶手段と,
該データ蓄積手段に蓄積された該データに基づいて該機能手段の状態を判断する判断手段と,
該保持面に平行なXY平面内で該保持手段又は該切削手段の位置を検出するXY位置検出手段と,を備え,
該データ蓄積手段は,該振動検出手段から出力された信号に含まれる情報を該XY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積し,
該判断手段は,該データ蓄積手段に蓄積された該データと該正常データ記憶手段に記憶された該正常データとを比較して被加工物が正常に切削加工されたか否かを判断する加工システム。」

<相違点>
<相違点1> 本件発明の切削工具が,「切削ブレード」であるのに対して,引用発明2では,「NC制御工作機械(機械加工装置)」における「切削工具」としての「加工工具14」である点。

<相違点2> 本件発明の検出手段が,「切削ブレードの振動を検出する振動検出手段」であるのに対して,引用発明2では,「『切削力を計測するための切削力測定センサ21a』『切削力を計測するための切削力測定センサ21b』」である点。

<相違点3> 本件発明の正常データ記憶手段が,「該機能手段の正常時に該振動検出手段から出力される信号に含まれる情報であって,被加工物に対応する適正な切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報」を正常データとして記憶するのに対して,引用発明2では,「公知の手法によって算出した切削力より,切削力曲線23(モデル切削力パターン)を算出し,この切削力曲線23(モデル切削力パターン)を,複数の工具形状と複数の加工条件(切削加工の面形状等)に応じて複数の切削力曲線(モデル切削力パターン)として,加工制御PC30のデータ記憶部の第1の階層31の切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとして記憶する」ものである点。

そこで,事案にかんがみ,上記相違点1と相違点2を併せて検討する。
上記4(2)のとおり,文献2に記載された発明は,NC制御工作機械,特に,フライス切削加工に用いるNC制御工作機械において,回転工具に取り付けられた切刃を被削材に切り込み,材料を除去することで様々な形状に加工する際に,加工形状が3次元曲面を有する複雑な形状の場合,曲面加工など切削条件が変化する場合は,現在どこを加工しているかを認識することが難しいという課題を解決して,切込量が時々刻々と変化する加工パスにおいても,現在どこを加工しているかの認識を可能とし,切削の異常検知のためのしきい値の決定を可能とする方法を提供することにあるところ,「切削ブレード」を用いた切削加工においては,加工形状は直線であって,3次元曲面を有する複雑な形状ではない。
すなわち,切削工具として,「切削ブレード」を用いる加工装置において,文献2に記載された前記課題が生じることはないから,引用発明2の「加工工具14」として,「切削ブレード」を適用する動機を見いだすことはできない。
しかも,引用発明2の異常判定は,「切削力パターン(実切削力パターン)と予め保存した計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)を比較して合致する計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)を抽出するステップ(S3)と,この比較結果より,実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(切削力取得までの遅れ時間)を算出するステップ(S4)と」を含むところ,引用発明2の測定センサによって検出される計測量が「切削力」ではなく,「切削ブレードの振動」であった場合には,前記切削力取得までの遅れ時間を算出することができないから,引用発明2において,検出手段として,「切削ブレードの振動を検出する振動検出手段」を採用することには阻害事由が存在する。
さらに,上記相違点1,2について,本件発明の構成を採用する動機は,文献1,文献3ないし5の記載からも見いだすことはできない。
したがって,本件発明は,文献2に記載された発明及び文献1,文献3ないし5に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に想到し得るものではない。

(2)請求項2ないし6に係る発明について
請求項2ないし6に係る発明は,請求項1に係る発明に対して,さらに技術的事項を追加したものである。よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,請求項2ないし6に係る発明は,上記文献2に記載された発明及び文献1,文献3ないし5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

7 進歩性についてのまとめ
以上のとおり,請求項1ないし6に係る発明は,文献1ないし5に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

8 特許法第36条第6項第1号,第2号についての当審の判断
(1)特許異議申立人 星 正美は,特許異議申立書において,「請求項1に記載の『機能手段の一部又は全部に設けられ』が不明確であり,法36条6項2号違反であり,または請求項1に記載の発明は,発明の詳細な説明に記載されていない発明を含み,法36条6項1号違反である。」と主張する。
しかしながら,請求項1に記載の「機能手段の一部又は全部に設けられ」が,保持手段,切削手段,送り手段とを含む機能手段の内のいずれでもよいことを意味していることは日本語として明確であり,このように解することを妨げる格別の事情も認められない。
また,特許異議申立人 星 正美は,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,振動検出手段が,切削手段(切削ユニット)に設けられている例のみが開示され,切削装置のその他箇所に取り付けられる例が開示されていないことを指摘して,請求項1の前記記載が,保持手段,切削手段,送り手段とを含む機能手段の内のいずれでもよいことを意味している場合には,発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むことになり,法36条6項1号違反である旨を主張するが,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものであると認められるから,発明の詳細な説明には,請求項1に記載された要素の組合せの全ての場合についての実施例が記載されていることを要しないといえる。
さらに,特許異議申立人 星 正美は,振動検出手段が,送り手段や保持手段に取り付けられる場合には,切削ブレード以外の振動(たとえば送り手段の送り振動,あるいは保持手段の振動)も検出することになるが,その場合に,どのようにして切削ブレードの振動を検出するのかも不明であるから,請求項1に記載の「機能手段の一部又は全部に設けられ,該切削ブレードの振動を検出する振動検出手段」の記載が不明確である(法36条6項2号)旨を主張するが,仮に,送り手段,あるいは,保持手段自体に起因する振動が存在したとしても,振動検出手段が,これらの振動と共に切削ブレードの振動を検出することが可能であることは自明である。
したがって,特許異議申立人 星 正美の,特許法第36条第6項第1号,第2号についての上記主張は採用することはできない。

(2)特許異議申立人 星 正美は,特許異議申立書において,「請求項1において,『切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報をデータとして蓄積するデータ蓄積手段』の技術的意義が不明確である。切削加工をリアルタイムで測定する場合には,データ蓄積手段は,データを一時的に保存する減算器などの論理回路(甲第1号証などに開示)と区別が付かない。また,本件明細書の記載によれば請求項1に記載のデータ蓄積手段と,請求項1に記載の正常データ記憶手段との区別が曖昧であり,請求項1に記載の『データ蓄積手段』が不明確であり,法36条6項2号違反である。」と主張する。
しかしながら,減算器などの論理回路にデータを一時的に保存することは,「蓄積」ではないから,,「請求項1において,『切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報をデータとして蓄積するデータ蓄積手段』の技術的意義が不明確であるとはいえない。
さらに,請求項1に記載の「データ蓄積手段」は,「該振動検出手段から出力された信号に含まれる情報であって,該切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報をデータとして蓄積する」ものであって,「該振動検出手段から出力された信号に含まれる情報を該XY位置検出手段で検出した位置に対応させて該データとして蓄積」するものであり,請求項1に記載の「正常データ記憶手段」は,「該機能手段の正常時に該振動検出手段から出力される信号に含まれる情報であって,被加工物に対応する適正な切削ブレードで被加工物を切削加工した際の振動の情報を正常データとして記憶する」ものであり,両者は明確に特定されているから,両者の区別が曖昧であるということはできない。

(3)特許法第36条第6項第1号,第2号についてのまとめ
以上のとおり,請求項1の記載が,特許法第36条第6項第1号,第2号違反であるということはできない。そして,請求項1に従属する請求項2ないし7に関しても同様に特許法第36条第6項第1号,第2号違反であるということはできない。

9 むすび
以上のとおり,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-02-03 
出願番号 特願2015-106801(P2015-106801)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀江 義隆  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
▲吉▼澤 雅博
登録日 2020-04-23 
登録番号 特許第6695102号(P6695102)
権利者 株式会社ディスコ
発明の名称 加工システム  
代理人 松本 昂  
代理人 岡本 知広  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ