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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1370898
異議申立番号 異議2020-700859  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-10 
確定日 2021-02-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6693963号発明「塩化水素の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6693963号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6693963号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2016年(平成28年) 7月25日(優先権主張 平成27年 8月10日)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 4月20日にその特許権の設定登録がされ、同年 5月13日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年11月10日付けで、特許異議申立人 大矢 真紀子により甲第1?4号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
濃度が20質量%以上50質量%以下の塩酸に不活性ガスを気液接触させる気液接触工程と、
前記気液接触工程で不活性ガスを気液接触させた塩酸を蒸留して塩酸から塩化水素を分離し粗塩化水素を得る分離工程と、
前記分離工程で得られた粗塩化水素を脱水する脱水工程と、
前記脱水工程で得られた、脱水された粗塩化水素を圧縮して液化し、その液状の粗塩化水素を蒸留により精製する精製工程と、
を備える塩化水素の製造方法。
【請求項2】
前記気液接触工程は、不活性ガスと、線速度0.1m/h以上15m/h以下且つ空間速度0.1/h以上10/h以下の流量の塩酸とを向流接触させることにより、塩酸に不活性ガスを気液接触させる工程であり、塩酸の体積流量に対する不活性ガスの体積流量の比が0.01以上100以下である請求項1に記載の塩化水素の製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 各甲号証
甲第1号証:特開2007-91560号公報
甲第2号証: 日本ソーダ工業会ソーダハンドブック編集ワーキンググループ編,「ソーダ技術ハンドブック2009」,2009年 6月30日,日本ソーダ工業会,p.296-299
甲第3号証:特開2006-167570号公報
甲第4号証:化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典4 縮刷版」,縮刷版第16刷,昭和49年 3月10日,共立出版株式会社,p.820-823

2 特許法第29条第2項について
本件発明1は、甲第1号証に記載される発明及び甲第2号証に記載される技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2は、甲第1号証に記載される発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載される技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件発明は、「前記気液接触工程で不活性ガスを気液接触させた塩酸を蒸留して塩酸から塩化水素を分離し粗塩化水素を得る分離工程」との発明特定事項(以下、「発明特定事項[B]」という。)を有し、前記発明特定事項[B]について、本件特許明細書には、塩酸から塩化水素を「放散」させて粗塩化水素を得るのではなく、塩酸を「蒸留」することにより粗塩化水素を得ることが、高純度塩化水素を得る上で重要な技術要素であることが記載されており(【0015】)、実際に、気液接触させた塩酸を塩酸送液管を介して蒸留塔に送液し、塩酸を「蒸留」して粗塩化水素を得た実施例1?4に比べて、塩酸から塩化水素を「放散」させて粗塩化水素を得た比較例1では、不純物である臭化水素が多量に残留したことが記載されている(【0024】?【0036】、図1、2)。
しかし、前記発明特定事項[B]における「蒸留」は、実際には塩化水素の蒸気を再び液化させる凝縮工程を含まず、塩酸の加熱により当該塩酸から蒸発した塩化水素ガスをガス状のまま回収する操作であると解され、前記発明特定事項[B]は、塩酸から塩化水素を「放散」させて粗塩化水素を得ることと技術的にどのような違いがあるのかが不明である。
したがって、前記発明特定事項[B]を有する本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段、すなわち、前記発明特定事項[B]における「蒸留」が、気液接触させた塩酸を、塩酸送液管を介して蒸留塔の高さ方向中央部付近に送液して蒸留塔の頂部から粗塩化水素を得、蒸留塔の塔底から塩酸を留出するものであり、かつ、これが「放散」とは異なる操作であることが十分に反映されておらず、本件発明は本件特許明細書の発明の詳細な説明の範囲を超えるものである。

4 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
前記3に記載したのと同様の理由により、前記発明特定事項[B]が、塩酸から塩化水素を「放散」させて粗塩化水素を得ることと技術的にどのような違いがあるのかが不明であり、本件発明においては、前記発明特定事項[B]における「蒸留」が「放散」とは異なる操作であることが特定されていないから、当業者は、前記発明特定事項[B]の技術的意味を理解できないので、本件発明は明確でない。

第4 当審の判断
1 特許法第29条第2項について
(1)各甲号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には以下(1a)?(1e)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含んでなることを特徴とする塩化水素ガスの精製方法。
(a)クロロジフルオロメタンの製造において、副生成物として排出される、フッ化カルボニルを少なくとも含むフッ素系化合物を含有してなる塩化水素ガスを、水又は塩酸水溶液よりなる吸収液と接触せしめて、該塩化水素ガスを塩酸水溶液とする塩化水素吸収工程。
(b)前記塩化水素吸収工程より得られる塩酸水溶液を、空気および/または不活性ガスによりエアレーションするエアレーション工程。
(c)前記エアレーション工程より得られる塩酸水溶液を放散塔に導き、該放散塔の塔頂より塩化水素をガス状で回収する塩化水素ガス放散工程。
(d)前記塩化水素ガス放散工程より得られる塩化水素ガスを、該塩化水素ガスに含まれるフッ素系化合物との反応生成物が固体である除去剤または吸着剤と接触させる塩化水素ガス精製工程。」

(1b)「【0014】
以上の通り、クロロジフルオロメタン製造工程において、副生成物として排出されるフッ化カルボニルを少なくとも含むフッ素系化合物を含有してなる塩化水素ガスから、他の塩素化製品の製造工程に原料として再利用可能なレベルまで精製された状態で塩化水素をガス状で回収して再利用する技術については殆ど検討されておらず、ましてや、課題すら開示がないのが現状である
従って、本発明の目的は、クロロジフルオロメタン製造工程において、副生成物として排出される、少なくともフッ化カルボニルを含むフッ素系化合物を不純物とする塩化水素ガスを、該フッ素系化合物の含有量の極めて低い、高純度の塩化水素とする精製方法を提供することにある。」

(1c)「【0024】
(a)塩化水素吸収工程
本発明において、塩化水素吸収工程は、クロロジフルオロメタン製造工程で副生成物として排出される、フッ化カルボニルを少なくとも含むフッ素系化合物を含有してなる塩化水素ガスを、水又は塩酸よりなる吸収液に吸収させて、該塩化水素ガスを塩酸水溶液とする工程である。

【0029】
本発明において、前記塩化水素吸収工程より取り出される塩酸中の塩化水素濃度は、可及的に高い方が好ましいが、吸収効率等を考慮すれば、前記吸収液の初期の塩化水素濃度より高く、且つ、10?40質量%の塩化水素濃度で取り出すことが好ましい。特に、続く塩化水素放散工程の設備費を勘案すると、塩化水素と水の共沸組成以上の濃度で取り出すことが好ましい。…」

(1d)「【0037】
(c)塩化水素ガス放散工程
本発明において、前記エアレーション工程より得られる塩酸水溶液、または前記塩酸水溶液精製工程より得られる塩酸水溶液は、次いで放散塔に送られ、該放散塔の塔頂より塩化水素をガス状で回収する塩化水素ガス放散工程で処理される。
【0038】
本発明の塩化水素ガス放散工程において、放散塔に供給する塩酸水溶液中にフッ化水素およびフッ化カルボニルの加水分解により生成するフッ化水素が含有される場合、該放散塔に、供給液供給段の上部に蒸留段を設けることが、得られる塩化水素ガス中のフッ化水素(フッ素系化合物)の量を一層低減せしめるために好ましい。より具体的には、塩酸水溶液中のフッ化水素の濃度が塩化水素に対する重量比で300ppm未満の場合、放散塔への供給液供給段上部に0段を超える理論段の蒸留塔を、また、該フッ化水素の濃度が300ppm以上である場合、1段以上の理論段の蒸留段を設けることにより、フッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で100?40ppmの範囲に制御した精製塩化水素ガスが回収可能となる。但し、上記理論段の上限は、経済性を考慮して10段以下とすることが好ましい。
【0039】
また、前記したように、放散塔の塔頂部において、還流操作を行うことにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で40ppm未満、場合によっては、5?15ppm程度、フッ化カルボニル濃度1ppm以下、トリフルオロメタン濃度が2?10ppmおよびモノクロロジフルオロメタン2?10ppmと低減された塩化水素ガスを得ることができる。」

(1e)「【0055】
本発明の塩化水素ガス精製工程において、前記塩化水素ガス放散工程より得られる塩化水素ガスを精製することにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度は、5ppm以下、より好ましくは1ppm以下とすることが可能となる。最終的に、フッ化カルボニルを含むフッ素系化合物の全濃度は、塩化水素ガス中5ppm以下好ましくは2ppm以下にすることが可能となる。その結果、多量の回収塩化水素ガスをエチレンジクロライド製造工程、塩化メチル製造工程、塩酸酸化による塩素製造工程等に好適に利用できる。」

(イ)前記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には「塩化水素ガスの精製方法」が記載されており、当該「塩化水素ガスの精製方法」は、下記の工程を含んでなるものである。
(a)クロロジフルオロメタンの製造において、副生成物として排出される、フッ化カルボニルを少なくとも含むフッ素系化合物を含有してなる塩化水素ガスを、水又は塩酸水溶液よりなる吸収液と接触せしめて、該塩化水素ガスを塩酸水溶液とする塩化水素吸収工程。
(b)前記塩化水素吸収工程より得られる塩酸水溶液を、空気および/または不活性ガスによりエアレーションするエアレーション工程。
(c)前記エアレーション工程より得られる塩酸水溶液を放散塔に導き、該放散塔の塔頂より塩化水素をガス状で回収する塩化水素ガス放散工程。
(d)前記塩化水素ガス放散工程より得られる塩化水素ガスを、該塩化水素ガスに含まれるフッ素系化合物との反応生成物が固体である除去剤または吸着剤と接触させる塩化水素ガス精製工程。
また、前記(ア)(1c)?(1e)によれば、前記「塩化水素ガスの精製方法」における「塩化水素吸収工程」より取り出される塩酸中の塩化水素濃度は、可及的に高い方が好ましいが、吸収効率等を考慮すれば、前記吸収液の初期の塩化水素濃度より高く、且つ、10?40質量%の塩化水素濃度で取り出すことが好ましいものであり、「塩化水素ガス放散工程」は、「エアレーション工程」により得られた、放散塔に供給する塩酸水溶液中にフッ化水素およびフッ化カルボニルの加水分解により生成するフッ化水素が含有される場合、該放散塔に、供給液供給段の上部に蒸留段を設けることが、得られる塩化水素ガス中のフッ化水素(フッ素系化合物)の量を一層低減せしめるために好ましいものであり、具体的には、塩酸水溶液中のフッ化水素の濃度が塩化水素に対する重量比で300ppm未満の場合、放散塔への供給液供給段上部に0段を超える理論段の蒸留塔を、また、該フッ化水素の濃度が300ppm以上である場合、1段以上の理論段の蒸留段を設けることにより、フッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で100?40ppmの範囲に制御した精製塩化水素ガスが回収可能となるものであり、放散塔の塔頂部において、還流操作を行うことにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で40ppm未満、場合によっては、5?15ppm程度、フッ化カルボニル濃度1ppm以下、トリフルオロメタン濃度が2?10ppmおよびモノクロロジフルオロメタン2?10ppmと低減された塩化水素ガスを得ることができるものである。
そして、前記「塩化水素ガスの精製方法」は、「塩化水素ガス精製工程」において、前記塩化水素ガス放散工程より得られる塩化水素ガスを精製することにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度は、5ppm以下、より好ましくは1ppm以下とすることが可能となるものであり、最終的に、フッ化カルボニルを含むフッ素系化合物の全濃度は、塩化水素ガス中5ppm以下好ましくは2ppm以下にすることが可能となるものであり、その結果、多量の回収塩化水素ガスをエチレンジクロライド製造工程、塩化メチル製造工程、塩酸酸化による塩素製造工程等に好適に利用できるものである。

(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、
「下記の工程を含んでなる塩化水素ガスの精製方法であって、
(a)クロロジフルオロメタンの製造において、副生成物として排出される、フッ化カルボニルを少なくとも含むフッ素系化合物を含有してなる塩化水素ガスを、水又は塩酸水溶液よりなる吸収液と接触せしめて、該塩化水素ガスを塩酸水溶液とする塩化水素吸収工程。
(b)前記塩化水素吸収工程より得られる塩酸水溶液を、空気および/または不活性ガスによりエアレーションするエアレーション工程。
(c)前記エアレーション工程より得られる塩酸水溶液を放散塔に導き、該放散塔の塔頂より塩化水素をガス状で回収する塩化水素ガス放散工程。
(d)前記塩化水素ガス放散工程より得られる塩化水素ガスを、該塩化水素ガスに含まれるフッ素系化合物との反応生成物が固体である除去剤または吸着剤と接触させる塩化水素ガス精製工程。
塩化水素吸収工程より取り出される塩酸中の塩化水素濃度は、可及的に高い方が好ましいが、吸収効率等を考慮すれば、前記吸収液の初期の塩化水素濃度より高く、且つ、10?40質量%の塩化水素濃度で取り出すことが好ましいものであり、
前記塩化水素ガス放散工程は、エアレーション工程により得られた、放散塔に供給する塩酸水溶液中にフッ化水素およびフッ化カルボニルの加水分解により生成するフッ化水素が含有される場合、該放散塔に、供給液供給段の上部に蒸留段を設けることが、得られる塩化水素ガス中のフッ化水素(フッ素系化合物)の量を一層低減せしめるために好ましいものであり、
具体的には、塩酸水溶液中のフッ化水素の濃度が塩化水素に対する重量比で300ppm未満の場合、放散塔への供給液供給段上部に0段を超える理論段の蒸留塔を、また、該フッ化水素の濃度が300ppm以上である場合、1段以上の理論段の蒸留段を設けることにより、フッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で100?40ppmの範囲に制御した精製塩化水素ガスが回収可能となるものであり、放散塔の塔頂部において、還流操作を行うことにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で40ppm未満、場合によっては、5?15ppm程度、フッ化カルボニル濃度1ppm以下、トリフルオロメタン濃度が2?10ppmおよびモノクロロジフルオロメタン2?10ppmと低減された塩化水素ガスを得ることができ、
塩化水素ガス精製工程において、前記塩化水素ガス放散工程より得られる塩化水素ガスを精製することにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度は、5ppm以下、より好ましくは1ppm以下とすることが可能となるものであり、最終的に、フッ化カルボニルを含むフッ素系化合物の全濃度は、塩化水素ガス中5ppm以下好ましくは2ppm以下にすることが可能となるものであり、その結果、多量の回収塩化水素ガスをエチレンジクロライド製造工程、塩化メチル製造工程、塩酸酸化による塩素製造工程等に好適に利用できる、
塩化水素ガスの精製方法。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には以下(2a)の記載がある。
(2a)「(2)塩化水素の高純度化^(65-67))
高純度塩化水素は,一例としてエピタキシャルシリコンウェーハ製造工程でのCVD炉内のウェーハの“in-situ-cleaning”や,CVD炉,サセプタなどのクリーニングガスとして広く使用されている。
高純度塩化水素の製造は,前項の高純度塩酸と同様に,まず合成塩酸などを放散させて高純度の塩化水素ガスを生成させる。次に,乾燥工程で,加熱に伴う蒸気圧分の水蒸気や塩化水素に同伴するミストを除去・精製し,乾燥された塩化水素ガスを圧縮・液化させて液体塩化水素を得る。その後,蒸留を行い,液体塩化水素に含まれていた不純物をさらに除去・高度精製し,高純度液体塩化水素が生産される。高圧ガス貯槽に貯蔵された高純度液体塩化水素は,十分に前処理された高圧ガス容器に充填される。」(298頁3行?13行)

ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には以下(3a)?(3b)の記載がある。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩水に次亜塩素酸イオンを添加し、空気または不活性ガスと接触させて食塩水中の臭素イオンを除去する方法において、次亜塩素酸イオンを分割添加すると共に、放散塔を用いて食塩水と空気または不活性ガスとを向流接触させることを特徴とする食塩水中の臭素イオンの除去方法。」

(3b)「【0004】
本発明の目的は、食塩水中の臭素イオンを高い除去率で効率的に除去できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはかかる課題を解決するために、食塩水中の臭素イオンを除去する方法について鋭意検討した結果、次亜塩素酸イオンを分割添加すると共に、放散塔を用いて食塩水と空気または不活性ガスとを向流接触させることによって、食塩水中の臭素イオンを高い除去率で効率的に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には以下(4a)?(4b)の記載がある。
(4a)「じょうりゅう 蒸留 [^(英)distillation ^(独)Destillation] 溶液をその沸点まで熱し,出てくる蒸気を冷却して再び液体として受ヶ器にためる操作であって,溶液中の成分を分離する目的に用いられる.混合液をフラスコに入れて加熱し,出てくる蒸気を凝縮器で凝縮させると,その液は初めの液よりも沸点が低く,したがって揮発性の大きな成分に富んでいるのが普通である.そしてフラスコ内に残った液は逆に沸点の高い揮発しにくい成分が多くなっている.このように液体混合物の各成分の揮発度の差を利用して,蒸発凝縮を組み合わせて原液よりも揮発しやすい部分と揮発しにくい部分とに分ける操作が蒸留である.」(821頁右欄34行?47行)

(4b)「この欠点を補うために考案されたのが蒸留塔であって,蒸留フラスコ(工業的には蒸留カン)の上に細長い塔を設け,その中に蒸気および液が適当に接触しながら流れることができるようなタナ段を適当な間隔で設置したり(タナ段塔^(*)),または塔内に充テン物を詰めたり(充テン塔^(*))し,塔頂から出た蒸気を凝縮させたのちに一部を塔頂に戻し(還流^(*)という)て塔内を流れ落ちるようにしたものである.…また蒸留の方式には連続蒸留と回分蒸留とがあって,前者(図参照)では原料を連続的に蒸留カンまたは蒸留塔の中央付近に供給し,頂部およびカン底から連続的に軽い成分と重い成分とを抜き出し,また回分蒸留では蒸留カンに初めに一度に原料を仕込んで蒸留を行ない,ある程度まで軽い成分を留出させてしまえば蒸留を停止するのである.」(822頁左欄10行?46行)

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「塩化水素ガスの精製方法」は、本件発明1における「塩化水素の製造方法」に相当する。
また、甲1発明においては、「塩化水素吸収工程」より取り出される塩酸中の塩化水素濃度は、10?40質量%の塩化水素濃度で取り出すことが好ましいものであり、そのような塩酸は、本件発明1における「濃度が20質量%以上50質量%以下の塩酸」に相当し、甲1発明における「エアレーション工程」は、「塩化水素吸収工程」より得られる塩酸水溶液を、空気および/または不活性ガスによりエアレーションするものであるから、本件発明1における「濃度が20質量%以上50質量%以下の塩酸に不活性ガスを気液接触させる気液接触工程」に相当する。
更に、甲1発明の「塩化水素ガス放散工程」は、「エアレーション工程」より得られた、放散塔に供給する塩酸水溶液中にフッ化水素およびフッ化カルボニルの加水分解により生成するフッ化水素が含有される場合、該放散塔に、供給液供給段の上部に蒸留段を設けることが、得られる塩化水素ガス中のフッ化水素(フッ素系化合物)の量を一層低減せしめるために好ましいものであり、具体的には、塩酸水溶液中のフッ化水素の濃度が塩化水素に対する重量比で300ppm未満の場合、放散塔への供給液供給段上部に0段を超える理論段の蒸留塔を、また、該フッ化水素の濃度が300ppm以上である場合、1段以上の理論段の蒸留段を設けることにより、フッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で100?40ppmの範囲に制御した精製塩化水素ガスが回収可能となるものであり、放散塔の塔頂部において、還流操作を行うことにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度を塩化水素に対する重量比で40ppm未満、場合によっては、5?15ppm程度、フッ化カルボニル濃度1ppm以下、トリフルオロメタン濃度が2?10ppmおよびモノクロロジフルオロメタン2?10ppmと低減された塩化水素ガスを得ることができるものであり、「エアレーション工程」からの塩酸水溶液を蒸留して塩化水素ガスを分離し、フッ素系化合物の量が低減された塩化水素を得るものといえるから、本件発明1における「前記気液接触工程で不活性ガスを気液接触させた塩酸を蒸留して塩酸から塩化水素を分離し粗塩化水素を得る分離工程」に相当する。
なお、申立人は、前記発明特定事項[B]における「蒸留」は、塩酸の加熱により蒸発した塩化水素ガスの凝縮工程(液化工程)を含まず、単に塩酸の加熱により当該塩酸から塩化水素ガスを蒸気として回収する操作であると解され、前記発明特定事項[B]における「蒸留」と甲1発明における「放散」に実質的な差異は認められない旨を主張しているが、事案に鑑み、前記主張については、後記2において検討する。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「濃度が20質量%以上50質量%以下の塩酸に不活性ガスを気液接触させる気液接触工程と、
前記気液接触工程で不活性ガスを気液接触させた塩酸を蒸留して塩酸から塩化水素を分離し粗塩化水素を得る分離工程と、
を備える塩化水素の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点:本件発明1は、「塩化水素の製造方法」が、「前記分離工程で得られた粗塩化水素を脱水する脱水工程と、前記脱水工程で得られた、脱水された粗塩化水素を圧縮して液化し、その液状の粗塩化水素を蒸留により精製する精製工程と、を備える」のに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。

イ 判断
(ア)以下、前記ア(イ)の相違点について検討すると、前記(1)イ(2a)によれば、甲第2号証には、一例としてエピタキシャルシリコンウェーハ製造工程でのCVD炉内のウェーハの“in-situ-cleaning”や、CVD炉、サセプタなどのクリーニングガスとして広く使用される高純度塩化水素は、合成塩酸などを放散させて高純度の塩化水素ガスを生成させ、次に、乾燥工程で、加熱に伴う蒸気圧分の水蒸気や塩化水素に同伴するミストを除去・精製し、乾燥された塩化水素ガスを圧縮・液化させて液体塩化水素を得て、その後蒸留を行い、液体塩化水素に含まれていた不純物をさらに除去・高度精製して生産されることが記載されている。

(イ)一方、前記(1)ア(ア)(1b)によれば、甲1発明は、クロロジフルオロメタン製造工程において、副生成物として排出されるフッ化カルボニルを少なくとも含むフッ素系化合物を含有してなる塩化水素ガスから、他の塩素化製品の製造工程に原料として再利用可能なレベルまで精製された状態で塩化水素をガス状で回収して再利用することを意図したものであって、塩化水素の精製後の純度は、他の塩素化製品の製造工程に原料として再利用可能なレベルにとどまるものであり、具体的には、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度は5ppm以下、より好ましくは1ppm以下、フッ化カルボニルを含むフッ素系化合物の全濃度は、塩化水素ガス中5ppm以下好ましくは2ppm以下、といった程度にとどまるものである。
そして、そのような甲1発明において、塩化水素を、エピタキシャルシリコンウェーハ製造工程でのCVD炉内のウェーハの“in-situ-cleaning”や、CVD炉、サセプタなどのクリーニングガスとして使用されるレベルの純度にまで更に精製する動機付けは存在しないから、甲1発明において、「塩化水素の製造方法」を、「前記分離工程で得られた粗塩化水素を脱水する脱水工程と、前記脱水工程で得られた、脱水された粗塩化水素を圧縮して液化し、その液状の粗塩化水素を蒸留により精製する精製工程と、を備える」ものとして、前記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件発明1を、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)本件発明2について
本件発明2は本件発明1を引用するものであって、本件発明2と甲1発明と対比した場合、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点において相違する。
そして、甲1発明において、「塩化水素の製造方法」を、「前記分離工程で得られた粗塩化水素を脱水する脱水工程と、前記脱水工程で得られた、脱水された粗塩化水素を圧縮して液化し、その液状の粗塩化水素を蒸留により精製する精製工程と、を備える」ものとして、前記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(2-1)イ(イ)に記載のとおりであって、このことは、甲第3号証の記載事項に左右されるものでもない。
そうすると、前記(2-1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を甲1発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
よって、本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び第2号(明確性)について
(ア)申立人は、前記発明特定事項[B]における「蒸留」に関して、その後工程である脱水工程の具体的な形態では、「【0026】…すなわち、粗塩化水素は塩化水素用配管31を介して蒸留塔20から凝縮器30に送り、-5℃に冷却して粗塩化水素中の水分を凝縮させ、粗塩化水素中の水分の一部を除去した。」と記載されており、塩化水素は融点が約-114℃、沸点が約-85℃であるから、ガス状の塩化水素を単に「-5℃」へと冷却しても液化し得ないので、前記発明特定事項[B]において塩酸を「蒸留」して得られる粗塩化水素はその後の脱水工程においても未だガスの状態であり、更に、この塩化水素ガスは、脱水工程の後圧縮して液化するものであるから、前記発明特定事項[B]で得られた粗塩化水素はガス状であり、ガス状の粗塩化水素は脱水工程を経た後に精製工程に付すために初めて液化される旨、このような本件特許明細書の記載や本件発明1の発明特定事項に照らすと、前記発明特定事項[B]における「蒸留」の意味は、「蒸留」との用語が使われているものの、この「蒸留」は塩酸の加熱により蒸発した塩化水素ガスの凝縮工程(液化工程)を含まず、単に塩酸の加熱により当該塩酸から塩化水素ガスを蒸気として回収する操作であると解され、前記発明特定事項[B]における「蒸留」と甲1発明における「放散」に実質的な差異は認められない旨、本件特許明細書の【0018】によれば、前記発明特定事項[B]における「蒸留」の操作条件は、操作圧力が「0.1MPa以上0.5MPa以下(絶対圧)」、操作温度が「100℃以上150℃以下」である一方、甲第1号証の【0042】に記載される塩化水素ガスの「放散条件」は、ほぼ同じ「温度90?150℃、圧力50?500Kパスカルゲージ」であり、このことに照らしても、前記発明特定事項[B]における「蒸留」と甲1発明の「放散」との間に実質的な差異は認められない旨を主張している(特許異議申立書16頁15行?17頁17行)。

(イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、前記(1)エ(4a)、(4b)によれば、蒸留塔における「蒸留」は、塔頂から出た蒸気を凝縮させたのちに一部を塔頂に戻し(還流^(*)という)て塔内を流れ落ちるようにしたものであり、このことは、本件特許の優先日当時の技術常識といえるから、本件発明1における「蒸留」は、前記技術常識にのっとれば、「分離工程」及び「精製工程」ともに、塩酸の加熱により蒸発した塩化水素ガスの凝縮工程(液化工程)を含むものと解するのが妥当である。
また、本件特許明細書には、【0015】に「そこで、本実施形態においては、加熱や不活性ガスの導入により塩酸から塩化水素を放散させて粗塩化水素を得るのではなく、塩酸を蒸留することにより粗塩化水素を得る。」との記載があり、前記記載によれば、前記発明特定事項[B]における「蒸留」は、「放散」とは異なるものである。
更に、本件特許明細書の【0024】?【0028】に記載される実施例1は、「蒸留塔20」により「分離工程」を行った結果、最終的に得られた高純度塩化水素が含有する臭化水素の濃度が0.2体積ppmであったのに対して、同【0036】に記載される比較例1は、「分離工程の内容を下記の通り変更した点以外は、実施例1と同様にして塩化水素を製造した」ものであり、「実施例1の分離工程においては、塩酸を蒸留して塩酸から塩化水素を分離して粗塩化水素を得たが、比較例1の分離工程においては、蒸留塔20の代わりに塩酸放散塔を用いて塩酸を単に加熱することにより、塩酸から塩化水素を放散させて粗塩化水素を得た」ものであるが、最終的に得られた塩化水素が含有する臭化水素の濃度が4体積ppmであったものであり、前記実施例1及び比較例1とを対比すると、「分離工程」における「蒸留」と「放散」の相違のみによって、最終的に得られる塩化水素が含有する臭化水素の濃度が大きく異なるものである。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者は、前記発明特定事項[B]における「蒸留」は、単に塩酸の加熱により当該塩酸から塩化水素ガスを蒸気として回収する操作である「放散」とは異なるものであることを理解する。
また、甲1発明の「塩化水素ガス放散工程」は、「エアレーション工程」より得られた塩酸水溶液中にフッ化水素およびフッ化カルボニルの加水分解により生成するフッ化水素が含有される場合、該放散塔に、供給液供給段の上部に蒸留段を設けることが、得られる塩化水素ガス中のフッ化水素(フッ素系化合物)の量を一層低減せしめるために好ましいものであり、放散塔の塔頂部において還流操作を行うことにより、塩化水素ガス中のフッ化水素濃度、フッ化カルボニル濃度、トリフルオロメタン濃度及びモノクロロジフルオロメタンを低減された塩化水素ガスを得ることができるものであることは、前記1(2)(2-1)ア(ア)に記載のとおりであるが、このとき、前記「塩化水素ガス放散工程」は、放散塔の塔頂より塩化水素をガス状で回収して、「塩化水素ガス精製工程」に送るものである。
そうすると、甲第1号証には、塔頂で還流操作を伴う「蒸留」を行ったとしても、当該塔頂から塩化水素をガスで取り出すことが開示されているといえるから、前記発明特定事項[B]で得られた粗塩化水素がガス状であるとしても、このことから、前記発明特定事項[B]において還流操作が行われていないということはできない。
更に、甲第1号証に記載される操作圧力、操作温度の放散条件は、放散塔の塔頂部において還流操作を伴う「蒸留」を行った上で、当該放散塔の塔頂から塩化水素ガスを回収することも想定したものと認められるから、本件特許明細書と甲第1号証に記載される操作圧力、操作温度の条件がほぼ同じであるとしても、このことから、前記発明特定事項[B]における「蒸留」が、凝縮工程(液化工程)を含まない「放散」と差異がないということはできない。
これらのことからすれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、前記発明特定事項[B]における「蒸留」は、前記技術常識のとおり、塩酸の加熱により蒸発した塩化水素ガスの凝縮工程(液化工程)を含むものと解するのであって、単に塩酸の加熱により当該塩酸から塩化水素ガスを蒸気として回収する操作である「放散」と実質的な差異がないものとは解しないから、前記(ア)の主張は採用できない。
そして、甲1発明の「塩化水素ガス放散工程」は、放散塔の供給液供給段の上部に蒸留段を設けて、放散塔の塔頂部において還流操作を行うものである点で、前記技術常識にのっとった「蒸留」を行うものといえ、この点で、前記発明特定事項[B]における「蒸留」と合致するというべきである。

(ウ)したがって、前記発明特定事項[B]における「蒸留」が、実際には塩化水素の蒸気を再び液化させる凝縮工程を含まず、塩酸の加熱により当該塩酸から蒸発した塩化水素ガスをガス状のまま回収する操作であると解されるものではなく、前記発明特定事項[B]と、塩酸から塩化水素を「放散」させて粗塩化水素を得ることとの技術的な違いは明確であるというべきであるから、本件発明1は明確であるというべきである。
また、前記発明特定事項[B]を有する本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段、すなわち、前記発明特定事項[B]における「蒸留」が、気液接触させた塩酸を、塩酸送液管を介して蒸留塔の高さ方向中央部付近に送液して蒸留塔の頂部から粗塩化水素を得、蒸留塔の塔底から塩酸を留出するものであり、かつ、これが「放散」とは異なる操作であることが反映されているというべきであるから、本件発明1はサポート要件に適合するというべきである。
そして、このことは、本件発明1を引用する本件発明2についても同様であるから、前記第3の3及び4の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-02-09 
出願番号 特願2017-534163(P2017-534163)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 壷内 信吾  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 村岡 一磨
金 公彦
登録日 2020-04-20 
登録番号 特許第6693963号(P6693963)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 塩化水素の製造方法  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  
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