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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
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管理番号 | 1370902 |
異議申立番号 | 異議2020-700894 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-20 |
確定日 | 2021-02-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6706523号発明「電気絶縁紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6706523号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6706523号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年3月25日の出願であって、令和2年5月20日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、特許掲載公報が同年6月10日に発行され、その後、その特許に対し、同年11月20日に特許異議申立人 笹井栄治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件特許発明1」などといい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 カナダ標準濾水度(CSF)が300?340mLであるパルプを原料とし、密度が1.0g/cm^(3)以上であり、前記パルプが未晒しクラフトパルプのみからなり、前記未晒しクラフトパルプの90質量%以上が針葉樹未晒しクラフトパルプであり、電気絶縁紙が前記未晒しクラフトパルプのみからなることを特徴とする電気絶縁紙。 【請求項2】 未晒しクラフトパルプを、濾水度を300?340mL(CSF)となるように叩解処理を行い、得られたパルプスラリーを抄紙し、その後、カレンダー処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の電気絶縁紙を製造するための方法。 【請求項3】 前記カレンダー処理において、常温で1ニップの15?80kg/cmの線圧で処理し、次いで、80℃?110℃のロール加熱条件で2?4ニップ、100?120kg/cmの線圧で処理することを特徴とする、請求項2に記載の方法。」 第3 特許異議申立理由の概要 1 特許異議申立理由の要旨 特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由は、おおむね次のとおりである。 ・ 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許発明1ないし3は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 証拠方法 特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。 (1)甲1:特公昭46-2762号公報 (2)甲2:特許第4881899号公報 (3)甲3:斉藤幸男、武祐一郎「電気絶縁紙」-第5章絶縁破壊特性- 株式会社コロナ社発行、昭和44年12月20日、 P208?P209 (4)甲4:JIS C2300-1:2010、 「電気用セルロース紙-第1部:定義及び一般要求事項」 日本工業規格、財団法人日本規格協会 平成22年6月21日 (5)甲5:特開2000-8299号公報 第4 当審の判断 当審は、以下に述べるように、申立理由1には、理由はないと判断する。 1 甲1の記載事項等 (1) 甲1の記載事項 甲1には、「電気絶縁紙の製造方法」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様。)。 ア 「特許請求の範囲 1 25°SR以上、50°SR以下の低叩解度に叩解した絶縁紙用未晒クラフトパルプに、80°SR以上、97°SR以下の高叩解度に叩解した同質のパルプを重量比にて10%以上、50%以下の割合に混合して得られたパルプから製造することを特徴とする低誘電正接、高電気破壊強度を有する電気絶縁紙の製造方法。」(第6欄第12ないし19行) イ 「発明の詳細な説明 本発明は、低叩解度に叩解した未晒クラフトパルプに、高叩解度に叩解して150メツシユ以下の低デイメンジヨンの微細繊維量を増加させた未晒クラフトパルプを混合して抄紙することを特徴とする低誘電正接でしかも高電気破壊強度を有する電気絶縁紙の製造方法に関するものである。」(第1欄第25ないし31行) ウ 「本発明者らは、絶縁紙用の未晒クラフトパルプを化学的な処理は一切ほどこさず、高叩解処理すれば上記のような諸欠点のない微細繊維が得られ、これを用いることによつて安価でしかも絶縁耐力の高い絶縁紙が得られるものと考え、種々検討の末、本発明を完成するに至つた。 即ち本発明は、絶縁紙用として製造した未晒クラフトパルプを高叩解度に叩解して、150メツシユ通過分以下の微細繊維を多量に含ませたものを、低叩解度に叩解した同種のパルプ中へ混入して絶縁紙を抄紙する方法である。この方法によれば紙中に含まれる微細繊維は比表面積は大であるため他の繊維との結合が良好であり、しかも化学的な処理は一切行なわれないのでtanδを悪くする危険もない。したがつて機械的あるいは誘電的な特性を不良にすることなしに電気破壊度を向上させた絶縁紙が得られる。」(第2欄第9ないし25行) エ 「しかもこの混合パルプから抄紙した絶縁紙は普通の叩解法で得たパルプから抄紙した電気破壊強度が同一レベルにある絶縁紙よりも密度を低下させることができるのでε(誘電率)、tanδを低くすることができる。」(第2欄第25ないし29行) オ 「第4図は絶緑紙の密度に対してJIS1号絶縁油中に含浸した場合のインパルス破壊強度をプロツトしたものである。実線は40°SRに叩解した未晒クラフト低叩解度パルプに95°SRに叩解した同種の高叩解度パルプを混合率を変化させながら混合して抄紙した絶縁紙の、また点線は普通の叩解方法で得られた未晒クラフトパルプから製造した絶縁紙の特性である。第4図から明らかなように前者と後者と密度が同一であつても、インパルス破壊強度は前者の方が高いことがわかる。換言すれば、前者は低密度でインパルス破壊強度を高めることができる。」(第3欄第18ないし29行) カ 「実施例 1 絶緑紙用として製造した未晒クラフトパルプをビーターで40°SRの低叩解度に叩解したものに、別に95°SRに高叩解した未晒クラフトパルプをビーター中で30重量%添加混合したのち通常の抄紙方法で抄紙する。・・・低叩解度パルプおよび微細セルロースの混合率(27%)を同一にして抄紙した紙との比較を次表に示す。・・・ 実施例 2 実施例1で用いた低叩解度および高叩解度未晒クラフトパルプを用い、高叩解度未晒クラフトパルプの混合率を10%にして抄紙した紙の特性を微細セルロースの混合率(21%)を同一にしたアビセル混抄紙との比較を次表に示す。 上記実施例1、2に示した通り、本発明の方法によれば、天然繊維を薬品処理して、αセルロースの含有量を高めた超微細セルロースに比較して、絶縁紙の諸特性は著しく改善される。」(第4欄第18行ないし第5欄第14行) キ 「 」 (2) 甲1に記載された発明 甲1には、特許請求の範囲の記載から、電気絶縁紙の製造方法、及び当該方法で得られた電気絶縁紙に関し、以下の発明が記載されていると認める。 「25°SR以上、50°SR以下の低叩解度に叩解した絶縁紙用未晒クラフトパルプに、80°SR以上、97°SR以下の高叩解度に叩解した同質のパルプを重量比にて10%以上、50%以下の割合に混合して得られたパルプから製造して得られた電気絶縁紙」(以下、「甲1発明」という。) 「25°SR以上、50°SR以下の低叩解度に叩解した絶縁紙用未晒クラフトパルプに、80°SR以上、97°SR以下の高叩解度に叩解した同質のパルプを重量比にて10%以上、50%以下の割合に混合して得られたパルプから製造する電気絶縁紙の製造方法。」(以下、「甲1方法発明」という。) 2 甲2の記載事項 (1) 「【請求項1】 少なくとも2種類の異なるフリーネスを有する針葉樹クラフトパルプを含む原料パルプからなる電線巻紙用クラフト紙であって、 前記原料パルプは、JIS P8121に準拠したカナダ標準フリーネスが340?360mlの第1の針葉樹クラフトパルプと、JIS P8121に準拠したカナダ標準フリーネスが640?660mlの第2の針葉樹クラフトパルプと、を含み、 前記原料パルプ中に、針葉樹クラフトパルプが80?100重量%であり、第1の針葉樹クラフトパルプが50?90質量%含まれ、第2の針葉樹クラフトパルプが10?50質量%含まれ、 JIS C2111:2002に準拠した坪量が15?35g/m^(2)、JIS C2111:2002に準拠した縦方向の伸びが1.8?3.6%、JIS C2111:2002に準拠した縦方向の引張強度が1.60?4.50kN/mである、電線巻紙用クラフト紙。」 (2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、クラフト紙に関するものであり、特に電線内の配線を束ねる電線巻紙用途に適したクラフト紙に関するものである。」 (3) 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、クラフト紙を電線巻紙用途で用いる場合、抄紙後のクラフト紙に4mm程度の巾のスリットを入れ、テープ状に裁断して、束ねた配線にらせん状に巻きつけて用いる。このような使用方法において、麻を混抄したクラフト紙の場合には、麻の結束が原因で、スリット加工時に紙切れが生じやすいという問題があった。 【0007】 上述の問題点を解決するため、本発明は、麻を配合しなくても、電線巻紙として適した引張強度および伸びを有するクラフト紙を提供することを目的とする。」 (4) 「【0019】 高フリーネス針葉樹クラフトパルプとしては、JIS P 8121に準拠したカナダ標準フリーネスが640?660mlのものを使用することが好ましく、さらに好ましくは、645?655mlのものを使用する。640ml未満となると、十分な伸び率を確保出来ない問題があり、660mlを超えると、引張強度が弱くなる問題がある。また、低フリーネス針葉樹クラフトパルプとしては、JIS P 8121に準拠したカナダ標準フリーネスが340?360mlのものを使用することが好ましく、さらに好ましくは、345?355mlのものを使用する。340ml未満となると、十分な伸び率を確保出来ない問題があり、360mlを超えると、引張強度が弱くなる問題がある。」 3 甲5の記載事項 (1) 「【請求項1】表層、中芯層、裏層からなる多層構造を有し、且つ以下の構成を具備する難燃絶縁紙。 (1)表層、および裏層の難燃絶縁紙に対する割合が35?85重量%以下であること (2)表層及び裏層の限界酸素指数が各々27以上であること (3)中芯層に限界酸素指数が18以上、24以下の層を1層以上含むこと」 (2) 「【0011】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、安全性に優れ、環境に悪影響を及ぼすことのない非アンチモン系難燃剤を用いて、UL規格94V-0を満足する高い難燃性を持つ難燃絶縁紙をより安価に提供しようとするものである。」 (3) 「【0026】実施例1 NUKP(針葉樹未晒クラフトパルプ)を常法によりカナディアン・スタンダード・フリーネス(CSF)350mlで叩解したパルプスラリーを作成した。このパルプスラリーに含有ソーダ分が0.06重量%の水酸化アルミニウム(住友化学工業製、「CL-310」)添加し、混合スラリーを作成した。上記スラリーを実験室角形手抄きマシンを用いて、水酸化アルミニウムを23重量%含有する限界酸素指数23の坪量約120g/m^(2)の基紙、および坪量約170g/m^(2)の基紙を作成した。この限界酸素指数23の坪量約120g/m^(2)の基紙に燐酸グアニジン(三和ケミカル製、「アピノン307」)を含浸し、限界酸素指数27の坪量約135g/m^(2)のシートを作成した。上記の限界酸素指数23の坪量約170g/m^(2)の基紙、および限界酸素指数27の坪量約135g/m^(2)のシートをラボマシンカレンダーを用いて密度1.2g/cm^(3)のシートを作成した。上記の限界酸素指数27の坪量約135g/m^(2)のシートを表層と裏層に、中芯層1に限界酸素指数23の坪量約170g/m^(2)のシートを用い、中芯層1の表裏面に接着剤をバー塗工により塗布し、表層、および裏層と重ね合わせた後にエッチャーを用いて密着し、シリンダードライヤにて乾燥し、難燃絶縁紙(実施例1)を作成した。」 4 本件特許発明1について (1) 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の電気絶縁紙は、上記1(1)ウの「絶縁紙用の未晒クラフトパルプを化学的な処理は一切ほどこさず、高叩解処理すれば上記のような諸欠点のない微細繊維が得られ、これを用いることによつて安価でしかも絶縁耐力の高い絶縁紙が得られるものと考え、種々検討の末、本発明を完成するに至つた。」、及び、「化学的な処理は一切行なわれないのでtanδを悪くする危険もない。」との記載、並びに上記1(1)カに摘記した実施例1及び2は、低叩解度および高叩解度未晒クラフトパルプのみを用いて電気絶縁紙を得ていることから、甲1発明の電気絶縁紙は、未晒しクラフトパルプのみからなると認められる。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「パルプを原料とし、前記パルプが未晒しクラフトパルプのみからなり、電気絶縁紙が前記未晒しクラフトパルプのみからなる電気絶縁紙。」 <相違点1> 未晒しクラフトパルプに関し、本件特許発明1は、「カナダ標準濾水度(CSF)が300?340mLであるパルプを原料」とするのに対し、甲1発明は、そのように特定されない点。 <相違点2> 電気絶縁紙の密度に関し、本件特許発明1は、「1.0g/cm^(3)以上」とするのに対し、甲1発明は、そのように特定されない点。 <相違点3> 未晒しクラフトパルプの組成に関し、本件特許発明1は、「90質量%以上が針葉樹未晒しクラフトパルプ」とするのに対し、甲1発明は、そのように特定されない点。 (2) 相違点についての検討 相違点1に関し、カナダ標準濾水度(CSF)は、叩解の度合いが反映されるパラメータであるところ、甲1の明細書には、カナダ標準濾水度を用いてパルプの評価を行うことにつき記載がない。 一方、甲2記載の技術事項は、CSFが340?360mlの第1の針葉樹クラフトパルプと、CSFが640?660mlの第2の針葉樹クラフトパルプを混合して用いるものであるが、その段落【0019】には、CSFが「340ml未満となると、十分な伸び率を確保出来ない問題」があることが記載されており(上記2(4))、甲1発明に甲2記載の技術事項を組み合わせてCSFを340mL以下にする動機付けもなく、むしろ、阻害事由があるというべきものである。 また、甲5には、「NUKP(針葉樹未晒クラフトパルプ)を常法によりカナディアン・スタンダード・フリーネス(CSF)350mlで叩解したパルプスラリーを作成」し、それを抄造して難燃絶縁紙を作成した実施例 及び比較例が記載されている(上記3(3)等)。しかしながらCSFを指標として、叩解の程度を調整することについて、甲5に記載も示唆もされておらず、実施例及び比較例に記載されたCSFが350mlのパルプスラリーのCSFを340mL以下にする動機付けはない。 そして、本件特許発明1は、「カナダ標準濾水度(CSF)が300?340mLであるパルプを原料」とすることによって、引張強さや絶縁破壊強度等の諸強度をより好適なものとするという格別顕著な効果を有するものである。 次に相違点2について検討する。 甲1には、電気絶縁紙の密度に関し、その値を1.0g/cm^(3)以上にすることについて、記載されていない。 そこで、電気絶縁紙の密度と絶縁破壊強度に相関関係があることは、当業者にとって技術常識であるが、甲1には、「しかもこの混合パルプから抄紙した絶縁紙は普通の叩解法で得たパルプから抄紙した電気破壊強度が同一レベルにある絶縁紙よりも密度を低下させることができるのでε(誘電率)、tanδを低くすることができる。」(上記1(1)エ)及び「第4図から明らかなように前者と後者と密度が同一であつても、インパルス破壊強度は前者の方が高いことがわかる。換言すれば、前者は低密度でインパルス破壊強度を高めることができる。」(上記1(1)オ)と記載されており、密度を高めて電気破壊強度を最適化することについて動機付けがないというべきである。 そして、本件特許発明1は、特定のパルプを原料としつつ密度を1.0g/cm^(3)以上にすることによって、電気絶縁性のみならず、機械的強度及び寸法安定性において顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (3) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書第10ないし12ページにおいて、以下の主張をしている。 上記相違点1に関し、本件特許明細書の段落【0014】及び表1の記載から、「カナダ標準濾水度(CSF)が360mLよりも高くなると所定の効果を得られにくくなるということは理解できるとしても、カナダ標準濾水度(CSF)が340mLを境に効果に有意な差があるとはいえない。」として、本件特許発明1に対して「甲第2号証や甲第5号証に記載されているカナダ標準濾水度(CSF)には実質的な技術的な違いがあるものとはいえないし、カナダ標準濾水度(CSF)が300?340mLと限定することは当業者が容易になし得ることである。」。 また、相違点2に関し、「絶縁紙の密度と絶縁破壊強度の関係は甲第3号証の図5・4に示されているように周知ともいうべき知見であるし、また、甲第5号証の【0026】の実施例においても、絶縁紙の密度が1.2g/cm^(3)であることが記載されている。 そして、この甲第3号証の図5・4から明らかなように密度が1.0g/cm^(3)以上であると絶縁破壊強度が優れるのであるから、電気絶縁紙の密度が1.0g/cm^(3)以上と限定することは当業者が容易になし得ることにすぎない。」 上記主張について検討する。 上記相違点1に係る、本件特許発明1における「カナダ標準濾水度(CSF)が340mLを境に効果に有意な差があるとはいえない。」との特許異議申立人の主張に関し、本件特許明細書に記載される実施例1(CSF330mL)と参考例4(CSF=360mL)とを比較すると、絶縁破壊強さにおいて、前者は11.0kV/mm、後者は8.0kV/mmであって、本件特許明細書の段落【0022】に、更に好ましいものとする10.0kV/mmを越える優位な差が現れている。 また、相違点2に係る上記主張に関し、上記(2)で述べたように甲1発明において、密度を1.0g/cm^(3)以上とする動機付けがなく、甲1の実施例においても、比較対照とされる「アビセル混抄紙」より甲1の「本発明の紙」の密度が低く、しかも0.73g/cm^(3)や0.63g/cm^(3)である。なお、特許異議申立人による、甲3の図5・4から密度が1.0g/cm^(3)以上であると絶縁破壊強度が優れるとの主張については、同図5・4において、同じ密度においても縦軸に示される交流短時間破壊強度にばらつきが見られることが看取できること及び「同じ密度および気密度でも絶縁紙の抄造条件により交流短時間破壊強度は異なる^(2)).」(甲3第209ページ第7ないし10行)との記載から、絶縁破壊強度は密度とその他の条件によって総合的に変化するものであって、甲3の図5・4の記載から一概に言えるものではない。 よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。 (4) 本件特許発明1についての小括 そうすると、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 5 本件特許発明2について (1) 対比 上記4(1)で述べたことと同様に、甲1方法発明における電気絶縁紙は、未晒しクラフトパルプのみからなると認められるから、本件特許発明2と甲1方法発明を対比すると、一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「パルプを原料とし、前記パルプが未晒しクラフトパルプのみからなり、電気絶縁紙が前記未晒しクラフトパルプのみからなる電気絶縁紙を製造するための方法。」 <相違点4> 未晒しクラフトパルプに関し、本件特許発明2は、「カナダ標準濾水度(CSF)が300?340mLであるパルプを原料」とするのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されない点。 <相違点5> 電気絶縁紙の密度に関し、本件特許発明2は、「1.0g/cm^(3)以上」とするのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されない点。 <相違点6> パルプの組成に関し、本件特許発明2は、「90質量%以上が針葉樹未晒しクラフトパルプ」とするのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されない点。 <相違点7> 電気絶縁紙の製造工程に関し、本件特許発明2は、「未晒しクラフトパルプを、濾水度を300?340mL(CSF)となるように叩解処理を行い、得られたパルプスラリーを抄紙し、その後、カレンダー処理を行う」とするのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されない点。 (2) 相違点についての検討 上記相違点4ないし6は、上記4(1)で述べた相違点1ないし3にそれぞれ相当する。 そして、相違点4及び5については、それぞれ上記4(2)及び(3)にて相違点1及び2について述べたことと同様の理由で、甲1方法発明から当業者が容易に想到し得るものとはいえないから、本件特許発明2は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6 本件特許発明3について 本件特許発明2が、甲1方法発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記5のとおりであるから、本件特許発明2の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明3についても同様であって、本件特許発明3は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 7 申立理由1のまとめ したがって、本件特許発明1ないし3は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする申立理由1には理由がない。 第5 むすび したがって、特許異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-02-05 |
出願番号 | 特願2016-62152(P2016-62152) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松尾 俊介、土谷 慎吾 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
大畑 通隆 神田 和輝 |
登録日 | 2020-05-20 |
登録番号 | 特許第6706523号(P6706523) |
権利者 | 北越コーポレーション株式会社 |
発明の名称 | 電気絶縁紙 |