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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06F
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G06F
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06F
審判 一部無効 2項進歩性  G06F
管理番号 1371060
審判番号 無効2018-800104  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-08-20 
確定日 2021-02-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3754438号発明「情報管理方法、情報管理プログラム、及び情報管理装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第3754438号についての出願は,平成16年8月13日(優先権主張平成16年7月28日)に出願され,平成17年12月22日にその請求項1乃至15に係る発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して,請求人により平成30年8月20日に本件無効審判の請求がなされたものである。

本件無効審判に係る手続の経緯は,概略以下のとおりである。

平成30年 8月20日 無効審判請求
平成30年11月12日 被請求人より答弁書提出
平成31年 1月11日付け 審理事項通知
平成31年 2月15日 請求人より,口頭審理陳述要領書提出
平成31年 2月15日 被請求人より,口頭審理陳述要領書提出
平成31年 2月20日付け 審理事項(2)通知
平成31年 3月 8日 請求人より,口頭審理陳述要領書(2)提出
平成31年 3月 8日 被請求人より,口頭審理陳述要領書(2)提

平成31年 3月15日 第1回口頭審理


第2 本件特許発明

本件無効審判請求に係る,本件特許の請求項1及び14に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」及び「本件発明14」という。)はそれぞれ,特許請求の範囲の請求項1及び14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお,請求項1には,「A:」乃至「H:」なる記号により分説されていないものの,これらの分説記号は,以下の便宜のため当審で付加したものである。)

「【請求項1】
A:コンピュータが情報を管理する情報管理方法であって、
B:前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された管理すべき情報を、前記ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む文書ファイルとして前記コンピュータが記憶する情報記憶ステップと、
C:前記情報記憶ステップで記憶された前記文書ファイルの情報を前記コンピュータが表示する情報表示ステップと、
D:前記ノードデータに含まれるスクリプトを前記コンピュータが実行する情報評価ステップとを備え、
E:前記ノードデータは、ルートノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノード識別情報を含んでおり、
F:前記スクリプトは、当該ノードデータに含まれる変数データである自ノード変数データと、当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って、前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトを含んでおり、
G:前記情報表示ステップは、前記親ノード識別情報を利用して、前記ノードの木構造を表示する木構造表示ステップと、前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ、前記上位ノード変数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表示ステップを含み、
H:前記情報評価ステップは、前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新するステップを含む情報管理方法。

【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項記載の情報管理方法における各ステップを、コンピュータに実行させるための情報管理プログラム。」


第3 請求人の主張の概要
1 請求の趣旨
特許第3754438号の請求項1及び14に係る発明の特許を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。

2 請求の理由

(1)無効理由1(特許法29条1項3号違反(特許法123条1項2号):新規性)
本件発明1及び14は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。

ア 甲第1号証に記載された発明
請求人は,甲第1号証の記載及び各甲号証に記載の技術的事項に基づいて,甲第1号証には,下記「甲1発明1」が記載されていると主張している。
以下,主な主張点を示す。

(ア)「(d)構成甲1-d
スクリプトとは、「コンピュータで、一連の処理手順を記述した簡易プログラム」を意味する(甲14、広辞苑第七版)。
前述したとおり、甲1の知識ベースは「所定の知識記述言語で記述された一種の《コンピュータプログラム》」(当審注:傍点を《》で表した。以下同様。)であるから(甲1の段落0002)、甲1のデータがスクリプトを含むことは明らかである。
実際、甲1の段落0022には、ノードの属性値として、数値に限らず、数式や条件分岐が入力可能であると記載されており、図6では、「引き出し」のノードの決定属性である「内箱の高さ」、「内箱の幅」について、「自己の高さ-外箱の肉厚×2」などといった数式が入力されているところ、これを実際にコンピュータが計算して値を求めるためには、スクリプトの存在が不可欠である。さらに、甲1は、知識ベースへの記述が「知識記述言語」というコンピュータプログラムによって行われることを開示している(段落0002)。この知識記述言語が、XMLなどの構造化文書構造と同様に、スクリプトを記載することのできるものであることは明らかである。 このことからも、甲1のデータがスクリプトを含むといえる。
さらに、知識記述言語がスクリプトを記載できる言語であることは技術常識である。例えば、甲8には、以下の記載がある。

「LONLIは推論機構を内蔵した知識記述言語として注目されているPrologと同じ分野の言語で…」(1頁要約部分4行?5行)

…(中略)…

甲8には、上述のとおり知識記述言語であるLONLIによるプログラム例が記載されている。ここで、図1には、知識記述言語で記載されたソースコードに直接「リンゴ、赤」などの「知識」を記載する例が記載されている。次に、図2を見ると、図2では、図1と異なり、知識は外部データベースから呼び出すこととしているものの(右欄2行目等の「extdb」関数により知識の保存されたデータベースを呼び出して、X、Yなどの変数に代入している。)、知識記述言語によるソースコードにスクリプトが記載されていることが理解できる。したがって、図1及び図2を合わせみれば、知識記述言語に知識及びスクリプトの両方を記載することが可能であることが明らかである。
さらに、甲9には以下の記載がある。

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、知識データをコンピュータに蓄積するためには、コンピュータが扱う知識記述言語によりプログラムを作成しなければならない」
「【0013】請求項5記載の発明は、前記処理情報には、計算式、所定の機能を示す関数名、知識データを示す名称、マクロ名のうちの何れか一つが記述されている。この表現方法によれば、知識データに、計算式、既存の関数、既に作成した知識データ、マクロプログラムを記述可能にすることで、作成済みの資源を有効に活用することができる。」
「【0083】(6)知識データ16aには、ラベル、分岐命令、終了命令を記述することができる。その結果、単純な処理手順を組み合わせて複雑な処理手順を作成する、即ち高度な処理を実行させることができる。」
「【0086】・「処理情報」に処理中断、停止などの制御を記述する(知識データ処理エンジン21が解析可能に構成する)ようにしてもよい。
・出力情報として、エラーメッセージの表示を記述するようにしてもよい。」

…(中略)…

甲9の段落0013には、知識データに「マクロプログラム」が記述可能であることが明示されている。さらに、段落0083及び0086には、知識データに「分岐命令」や「終了命令」、「処理中断・停止などの制御」を記述可能であることが明示されている、また、図13には、具体的に知識データに数式処理が記載された例が開示されている。
以上のとおり、甲8及び甲9に代表される技術常識から、知識記述言語がスクリプトを記載できる言語であることが理解できる。
そして、甲1には次のとおり記載されている。

「【0023】上記の処理(S3?S6)が最上位のノードに至るまで繰り返される。この結果、全てのノードについて、図3のステップS6に示す如きイメージのデータ構造が形成される。ここで、最上位のノードに入力属性として定義されている属性名が、知識ベース運用の際にデータを入力すべき項目であり、該データ入力によって知識ベースが動作を開始することになる。」
「【0025】上記の処理によってデータベース(4)の登録が終了した後、その旨を知識ベース構築システム(2)にデータ入力すれば、データ変換装置(3)がデータベース(4)内のデータを自動的に所定の知識記述言語に変換して、知識ベース(1)に記述する。」
「【0031】この様にして全てのデータ入力作業が終了すれば、データベース内には、図6に示す如きイメージでデータ構造が登録され、最上位のノードである“引き出し”の“高さ”“幅”“長さ”が、知識ベースに対する入力データとなる。」

上記段落には、詳細知識定義装置(6)によって知識を定義した後、知識を知識ベースに変換し、最上位のノードの入力属性として定義されている属性を入力することにより、知識ベースが《動作を開始する》ことが記載されている。ここで、動作を開始するとは、言うまでもなく、最上位のノードに入力された入力データに基づき、当該ノードの決定属性、並びに下位のノードの入力属性及び決定属性を知識ベースに記載されたスクリプトの動作により代入することを意味している。
したがって、甲1は、

「甲1-d スクリプトを前記コンピュータが実行する実行ステップとを備え、」

との構成を開示している。」(審判請求書(以下単に「請求書」という。)25ページ17行乃至30ページ1行)

(イ)「(f)構成甲1-f
甲1の段落0020及び段落0021には、以下の記載がある。

「【0020】…選択されたノードについて、…属性の分類(S5)…の定義(S6)が行われる。…
【0021】属性の分類(S5)においては、定義された属性の性質に応じて、入力属性と決定属性に分類される。ここで、入力属性は、自己の親ノードからその属性値を入力すべき属性(例えば“高さ”、“幅”、“長さ”)であり、決定属性は、自己のノードにて属性値を決定すべき属性(例えば色、材質)である。これによって、データベースには図示のイメージのデータ構造が形成される。」

この記載から、甲1では、各ノードデータに含まれる属性が「入力属性」と「決定属性」とに分類され、入力属性については、親ノードから属性値を入力するものとされていることが分かる。そして、実際に、例えば図6の「内箱」のノードと「内箱本体」のノードを参照すると(以下、再掲する。赤字は請求人が説明の便宜のために付したものである。)、内箱本体のノードの入力属性である「高さ」、「幅」及び「厚さ」が、内箱のノードの決定属性である「内箱本体の高さ」、「内箱本体の幅」及び「内箱本体の長さ」によって決定される例が記載されている(段落0029参照)。

…(中略)…

そうすると、甲1では、例えば、

「自ノードである『内箱本体』のノードの『高さ』=親ノードである『内箱』のノードの『内箱本体の高さ』」

という式を用いて、親ノードの属性値(『内箱本体の高さ』)を自ノードの属性値(『高さ』)として代入しているということができる。
そして、かかる代入は、前述のとおり、「スクリプト」を用いて実行されるものである。
したがって、甲1は、

「甲1-f 前記スクリプトは、当該ノードの親ノードのノードデータに含まれる属性値である親ノード属性値(『内箱本体の高さ』)を当該ノードデータに含まれる属性値である自ノード属性値(『高さ』)として代入するスクリプトを含んでおり、」

との構成を開示している。」(請求書31ページ4行乃至32ページ最終行)

(ウ)「(h)構成甲1-h
段落0030及び段落0031には、以下の記載がある。

「【0028】その後、詳細知識定義装置(6)の操作によって、図6に示す如く各ノードに詳細知識が定義される。この作業は、下位のノードから上位のノードへ向かって進められる。例えば、“取っ手”は、予め規定された形状のものを用いるので、全ての属性値を自己のノードにて決めることが出来る。したがって、属性は決定属性のみから構成される。
【0029】一方、"内箱本体"は、その大きさが上位の部品の大きさから決定されるべきものであるから、“高さ”“幅”“長さ”は親ノードである“内箱”に委ねられる。“外箱”についても同様である。
【0030】“内箱”のノードでは、“内箱本体”に入力すべき3つの属性(“高さ”“幅”“長さ”)を自己の大きさから決定する。又、“内箱”自身の大きさは、親ノードである“引き出し”にその決定を委ねる。
【0031】この様にして全てのデータ入力作業が終了すれば、データベース内には、図6に示す如きイメージでデータ構造が登録され、最上位のノードである“引き出し”の“高さ”“幅”“長さ”が、知識ベースに対する入力データとなる。」(下線は請求人が追加した。)

これらの段落は、詳細知識定義装置(6)の操作によって知識を定義する方法を述べるものであるが、その段落0031には、データ入力作業が終了した後において、最上位のノードである引き出しの「高さ」、「幅」、「長さ」が知識ベースへの入力データとなることが記載されている。ここで、この「高さ」、「幅」、「長さ」は、図6を参酌すると、全て最上位のノードの「入力属性」であることが分かる。したがって、この記載からは、甲1において、全てのデータ入力作業が終了した後、最終的にユーザが入力するのは最上位のノードの入力属性の属性値のみであることが理解できる。最上位のノードの決定属性の値、並びにその他のノードの入力属性及び決定属性の値については、入力された最上位のノードの入力属性の値に基づいて、前述のとおり「親ノードの属性値を自ノードの属性値として代入する」方法によって計算される。
そして、これも既に述べたとおり、かかる代入は、簡易プログラムである「スクリプト」を用いて実行される。
したがって、甲1は、

「甲1-h 前記実行ステップは、前記スクリプトの実行により、親ノード属性値を自ノード属性値として代入して、自ノード属性値を求めるステップを含む」

との構成を開示している。」(請求書35ページ4行乃至36ページ12行)

(エ)以上総合して,甲第1号証には次の発明(甲1発明1)が記載されていると主張されている。

「甲1-a コンピュータが知識ベースを構築する知識ベース構築方法であって、
甲1-b 前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された知識を、前記ノードを定義するノード名称に対応付けられた複数のノードデータを含むものとして前記コンピュータが記憶する記憶ステップと、
甲1-c 前記記憶ステップで記憶された知識を前記コンピュータが表示する表示ステップと、
甲1-d スクリプトを前記コンピュータが実行する実行ステップとを備え、
甲1-e 前記ノードデータは、最上位のノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノードの名称を含んでおり、
甲1-f 前記スクリプトは、当該ノードの親ノードのノードデータに含まれる属性値である親ノード属性値(『内箱本体の高さ』)を当該ノードデータに含まれる属性値である自ノード属性値(『高さ』)として代入するスクリプトを含んでおり、
甲1-g 前記表示ステップは、前記親ノードの名称を利用して、前記ノードのツリーを表示するツリー表示ステップと、前記表示されたツリーのノードのうちの選択されたノードの前記自ノード属性値、前記親ノード属性値を表示する属性値表示ステップを含み、
甲1-h 前記実行ステップは、前記スクリプトの実行により、親ノード属性値を自ノード属性値として代入して、自ノード属性値を求めるステップを含む
知識ベース構築方法」(請求書36ページ16行乃至37ページ14行)

イ 甲1発明1と本件発明1との対比
請求人は,甲1発明1と本件発明1との一致点及び相違点は次のとおりと主張している。
なお,一致点については,請求書の49ページ2行乃至58ページ14行において各構成要素毎の一致点の認定を行っていて,これらをまとめた一致点を示す。

〈一致点〉
コンピュータが情報を管理する情報管理方法であって、
前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された管理すべき情報を、前記ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含むものとして前記コンピュータが記憶する情報記憶ステップと、
前記情報記憶ステップで記憶された情報を前記コンピュータが表示する情報表示ステップと、
スクリプトを前記コンピュータが実行する情報評価ステップとを備え、
前記ノードデータは、ルートノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノード識別情報を含んでおり、
前記スクリプトは、当該ノードデータに含まれる変数データである自ノード変数データと、当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って、前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトを含んでおり、
前記情報表示ステップは、前記親ノード識別情報を利用して、前記ノードの木構造を表示する木構造表示ステップと、前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ、前記上位ノード変数データを表示するノードデータテーブル表示ステップを含み、
前記情報評価ステップは、前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新するステップを含む情報管理方法。

〈相違点1〉
「本件発明1では、情報が『文書ファイルとして』コンピュータに記憶されるのに対して、甲1発明1では、知識が文書ファイルとしてコンピュータに記憶されるものであるかが明示されていない点」

〈相違点2〉
「本件発明1では、『スクリプトがノードデータに含まれている』のに対して、甲1発明1では、スクリプトがノードデータに含まれているかが明示されていない点」

〈相違点3〉
「本件発明1では、ノードデータテーブル表示ステップが『スクリプト』を表示するものであるのに対して、甲1発明1では、属性値表示ステップがスクリプトを表示するものであるかが明示されていない点」

ウ 相違点の検討
(ア)相違点1について
「 したがって、上記甲2、甲3、甲8及び甲9に代表される当業者の技術常識を参酌して甲1を読めば、甲1には、知識を文書ファイルの形式でコンピュータに記憶することが記載されているに等しい。
よって、相違点1は本件発明1と甲1発明1との実質的相違点ではない。」(請求書63ページ3乃至6行)

(イ)相違点2について
「甲1には、スクリプトをノードデータに含むことは記載されていない。しかし、甲1は、ノード属性値として、「自己の高さ-外箱の肉厚×2」や「自己の幅-外箱の肉厚×2」といった数式をノードデータに含む態様を開示している(甲1の段落0022、図6)。これらの数式はノードデータに対応付けられており、各ノードにそれぞれ別個の数式が記述されるものであるから、これらの条件式を実際に計算するためのスクリプトも、知識ベースにおいて、ノードごとに対応付けられて記述されているものであると理解できる。
さらに、構成要素Dの「スクリプト」は、構成要素Fを参酌すると、自ノード変数データと上位ノード変数データを利用した演算を行うものであるところ、例えば甲1の図6においてこれに対応する演算である「子ノードである内箱本体のノードの『高さ』=親ノードである内箱のノードの『内箱本体の高さ』」といった演算についても、ノードごと(この場合は子ノードである内箱本体のノード)に、どのような演算式とするのかを個別に記述するものである。したがって、この演算式を実際に計算するためのスクリプトも、同様にノードごとに対応付けられて記述されているものと理解できる。
したがって、甲1には、スクリプトをノードデータに含ませるようにすることが実質的に記載されている。

また、仮に甲1の記載からスクリプトをノードデータに含ませるようにすることを読み取ることができないとしても、スクリプトをノードデータに含ませるようにすることは、当業者の技術常識である。
例えば、甲4には以下の記載がある。

…(中略)…

甲4では、冷却経路を親、冷却管を子とする階層構造を持つオブジェクトテーブルにおいて、オブジェクトテーブル内に「処理:function」と呼ばれるスクリプトが含まれている。ここで、甲4のオブジェクトテーブルは、親子の階層関係及び横断関係を持つ構造、つまりツリー構造の一要素であるから、甲1のノードデータに該当する。
また、甲5には以下の記載がある。

…(中略)…

甲5では、三次元CADのデータベースにおいて、各部品に対応する設計プロセス要素内に制約情報及び設計結果生成情報としてスクリプトが含まれている。ここで、甲5の設計プロセス要素は、図5に記載されているとおり、1つの基本となる要素(ルート)から複数の要素に枝分かれをした階層構造の一要素であり、設計プロセス記憶部103に体系化して保存される情報であるから、甲1の「ノードデータ」に該当する。

加えて、知識を記述するための構造化文書規格に係る先行技術として、ノードデータ中にスクリプトを記載することは当然に行われている。例えば、甲10には、以下の記載がある。

…(中略)…

ここで、XHTMLとは、XMLに準拠したウェブ記述言語であり、「構造化文書規格」に該当する。そして、XMLは、以下の甲11及び甲12の記載から明らかなように、タグで定義された「ノード」を要素とした「木構造」を記述する文書規格である。

…(中略)…

そうすると、甲10には、XMLに準拠した構造化文書規格であるXHTMLにおいて、タグで定義された「ノード」中にスクリプトを記載することが開示されているといえる。
以上のとおり、ノードデータにスクリプトを記載する態様は、本件発明1以前から、知識を記述する際にXHTML等の構造化文書規格の分野で当然に用いられていたものである。

したがって、上記甲4、甲5、及び甲10に代表される当業者の技術常識を参酌して甲1を読めば、甲1には、スクリプトをノードデータに含ませることが記載されているに等しい。
よって、相違点2は本件発明1と甲1発明1との実質的相違点ではない。」(請求書63ページ12行乃至68ページ最終行)

(ウ)相違点3について
「確かに甲1には詳細知識定義装置(6)によって選択したノードのスクリプトを表示することは明示されていない。しかし、前述したとおり、スクリプトがノードデータ内に記述されていることが甲1に開示されているものと理解できる以上、ノードデータに含まれる属性値等の知識を表示し、変更することのできる詳細知識定義装置(6)が、同じくノードデータに含まれるスクリプトについても表示することができることは明らかである。

また、選択されたノードのスクリプトを表示することは、当業者の技術常識である。
例えば、甲6には以下の記載がある。

…(中略)…

甲6では、CADの設計プロセスモジュールデータ(50)をコンピュータのディスプレイである表示部(30)に表示し編集できることが記載されており、図2に示されるとおり、当該モジュールデータ(50)にはスクリプトが含まれている。
ここで、甲6には、モジュールデータが設計プロセスモジュールデータベースに体系化して保存されるものであることは開示されているものの、ツリー構造に従って体系化されることは記載されていない。しかし、甲6のモジュールデータはCADの設計プロセスに用いるものであるところ、CADの設計プロセスをツリー構造で体系化することは、甲5の図5にも見られるとおり技術常識であるから、甲6のモジュールは、甲1の「ノード」に該当する。
また、甲7には以下の記載がある。

…(中略)…

甲7では、CADを用いて設計対象物の一部品の形状データ及び属性データを表示することが記載されており、図15から分かるとおり、当該表示されたデータにはスクリプトが含まれている。そして、これも図15から明らかなとおり、甲7の部品情報はツリー構造に従って体系的に記録されるものであり、甲1の「ノード」に該当する。

したがって、上記甲6及び甲7に代表される当業者の技術常識を参酌して甲1を読めば、甲1には、選択されたノードのスクリプトを表示することが記載されているに等しい。
よって、相違点3は本件発明1と甲1発明1との実質的相違点ではない。」(請求書69ページ6行乃至72ページ1行)

エ まとめ
「相違点1ないし3はいずれも本件発明1と甲1発明1との実質的相違点ではなく、本件発明1は、甲1に開示されているに等しい。
したがって、本件発明1は、甲1発明1に基づいて新規性が無いものであるから、特許法29条1項3号、及び同123条1項2号に基づき無効とされるべきものである。」(請求書72ページ3乃至8行)

(2)無効理由2(特許法29条2項違反(特許法123条1項2号):進歩性)
本件発明1及び14は,甲1発明1,及び当業者の技術常識(甲第2号証乃至甲第10号証)に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。

ア 甲1発明1と本件発明1との相違点
「a 相違点1について
無効理由1について述べたとおり、本件発明1と甲1発明1との相違点1「本件発明1では、情報が『文書ファイルとして』コンピュータに記憶されるのに対して、甲1発明1では、知識が文書ファイルとしてコンピュータに記憶されるものであるかが明示されていない点」は、実質的相違点ではない。
しかし、仮に相違点1にかかる構成が甲1に記載されていないとしても、上記のとおり甲2、甲3、甲8及び甲9には知識を文書ファイルの形式でコンピュータに記憶することが開示されているから、当業者が甲1発明1を実施するにあたり、相違点1にかかる構成を取ることは周知技術を採用して適宜なし得る設計事項にすぎない。

b 相違点2について
無効理由1について述べたとおり、本件発明1と甲1発明1との相違点2「本件発明1では、『スクリプトがノードデータに含まれている』のに対して、甲1発明1では、スクリプトがノードデータに含まれているかが明示されていない点」は、実質的相違点ではない。
しかし、仮に相違点2にかかる構成が甲1に記載されていないとしても、上記のとおり甲4、甲5及び甲10にはスクリプトをノードデータに含ませることが開示されているから、当業者が甲1発明1を実施するにあたり、相違点2にかかる構成を取ることは周知技術を採用して適宜なし得る設計事項にすぎない。

c 相違点3について
無効理由1について述べたとおり、本件発明1と甲1発明1との相違点3「本件発明1では、ノードデータテーブル表示ステップが『スクリプト』を表示するものであるのに対して、甲1発明1では、属性値表示ステップがスクリプトを表示するものであるかが明示されていない点」は、実質的相違点ではない。
しかし、仮に相違点3にかかる構成が甲1に記載されていないとしても、上記のとおり甲6及び甲7には選択されたノードのスクリプトを表示することが開示されているから、当業者が甲1発明1を実施するにあたり、相違点3にかかる構成を取ることは周知技術を採用して適宜なし得る設計事項にすぎない。」(請求書73ページ13行乃至74ページ下から4行)

イ まとめ
「以上のとおり、相違点1ないし3はいずれも甲1発明1を実施するにあたって当業者の適宜なし得る設計事項にすぎないから、本件発明1は甲1発明1に対して進歩性がなく、特許法29条2項、及び同123条1項2号に基づき無効とされるべきものである。」(請求書74ページ下から2行乃至75ページ上から2行)

(3)無効理由3(特許法36条4項1号違反(特許法123条1項4号):実施可能要件)
本件明細書は,当業者が本件発明1及び14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1及び14は,特許法36条4項1号及び同法123条1項4号に基づき無効とされるべきものである。

ア 本件発明1について
「I 本件発明の課題を解決するためには、「更新ステップ」が、文書ファイルに含まれる自ノード変数データの値を書き換えるものである必要があること

…(中略)…

II 更新ステップが、文書ファイルに含まれる自ノード変数データの値を書き換えるものであることは、明細書の実施態様から明らかであること

…(中略)…

III 被請求人の主張によれば、本件発明は、文書ファイルに含まれる自ノード変数データの値を書き換えない態様を含むものであるから、実施可能要件違反であること
被請求人は、本件発明1に係る特許権侵害訴訟(東京地裁平成29年(ワ)第31706号)において、以下のとおり主張する(下線は請求人が追加した。)。

「以下、反論に先立って、構成要素Hにおける『更新』『更新するステップ』の意義を明らかにする。
…ここで、重要なのは、実施例において、文書ファイルの変更(書換え)が起こらないことである。文書ファイルの変更(書換え)を伴わず、【図10】から【図13】のように、自ノード変数データの更新が行われているのである。
すなわち、『更新』とは文書ファイルを変更することなく自ノード変数データを更新することを意味し、『更新するステップ』はこのような意味での『更新』を行うステップを指す。」

かかる被請求人の主張に従えば、本件発明1の更新ステップは、「文書ファイルに含まれ、文書ファイルの情報として表示された自ノード変数データの値を書き換える」態様でないものも、その範囲に含むということになる。一方、本件明細書には、かかる態様は一切開示されておらず、当業者の技術常識を参酌しても、文書ファイルに含まれる自ノード変数データの値を書き換えることなく、どのようにして情報の更新を行うのか、どのように多数の利用者間で更新した情報を共有し、再利用することができるのか明らかでない。
したがって、本件明細書は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、本件発明1は、特許法第36条第4項第1号及び同第123条第1項第4号に基づき無効とされるべきものである。」(請求書75ページ11行乃至81ページ14行)

イ 本件発明14について
「本件発明1と同様の理由により、本件発明14は、特許法第36条第4項第1号及び同第123条第1項第4号に基づき無効とされるべきものである。」(請求書81ページ16乃至17行)

(4)無効理由4(特許法36条6項1号違反(特許法123条1項4号):サポート要件)
本件発明1及び14は,本件の発明の詳細な説明において当業者が発明の課題を解決できることを認識できるように記載された範囲を超えており,特許法36条6項1号及び同法123条1項4号に基づき無効とされるべきものである。

「無効理由3(実施可能要件違反の無効理由)において詳述したとおり、上記別件訴訟における被請求人の主張に従えば、本件発明1の更新ステップは、「文書ファイルに含まれ、文書ファイルの情報として表示された自ノード変数データの値を書き換える」態様でないものを、その範囲に含むものであるところ、本件明細書には、かかる態様は一切開示されておらず、当業者の技術常識を参酌しても、文書ファイルに含まれる自ノード変数データの値を書き換えることなく、どのようにして情報の更新を行うのか、どのように多数の利用者間で更新した情報を共有し、再利用することができるのか明らかでない。
したがって、本件発明1及び14は、本件発明の詳細な説明において当業者が発明の課題を解決できることを認識できるように記載された範囲を超えており、特許法第36条第6項第1号及び同第123条第1項第4号に基づき無効とされるべきものである。」(請求書81ページ下から6行乃至82ページ上から7行)

3 証拠方法

甲第1号証: 特開平6-175852号公報
甲第2号証: 特開2004-192091号公報
甲第3号証: 特開平9-69171号公報
甲第4号証: 特開平8-11181号公報
甲第5号証: 特開平10-214276号公報
甲第6号証: 特開2002-334121号公報
甲第7号証: 特開平6-103340号公報
甲第8号証: 石原孝一郎外3名,「知識工学基礎ソフトウェア」,日立評
論,株式会社日立製作所,昭和60年12月,第67巻,
第12号,p.933-937
甲第9号証: 特開2003-29974号公報
甲第10号証: Chuck Musciano,Bill Kenned
y,原隆文 訳,「HTML&XHTML」,第5版,
株式会社オーム社,2003年5月26日,p.417,
436-445
甲第11号証: XML/SGMLサロン,「標準XML完全解説」,初版
,第3刷,株式会社技術評論社,平成11年6月25日
,p.13,294
甲第12号証: 加藤博之,水野升裕,「情報の電子化技術-入門から応用
まで 第9回」「SGML/XML作成技法」,
情報管理,国立研究開発法人 科学技術振興機構,199
9年12月,第42巻,第9号,p.777-789
甲第13号証: コンピュータ用語辞典編集委員会 編,「和英コンピュー
タ用語大辞典」,第3版,日外アソシエーツ株式会社,2
001年6月26日,p.207
甲第14号証: 新村出,「広辞苑」,第7版,株式会社岩波書店,201
8年1月12日,p.1557
<以上は,請求書に添付して提出>

甲第15号証: 第2準備書面(東京地方裁判所平成29年(ワ)第317
06号損害賠償請求事件)抜粋(1頁,21乃至22頁)
甲第16号証: 第8準備書面(東京地方裁判所平成29年(ワ)第317
06号損害賠償請求事件)抜粋(1頁,30乃至32頁)
<以上は,平成31年2月15日付け口頭審理陳述要領書に添付して提出>

甲第17号証: 中山信弘,小泉直樹,「新・注解 特許法」,第2版,上
巻,株式会社青林書院,2017年10月5日,p.28
8-291
<以上は,平成31年3月8日付け口頭審理陳述要領書(2)に添付して提出>


第4 被請求人の主張の概要

1 答弁の趣旨
本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

2 答弁の内容
(1)甲第1号証及び甲1発明1の認定について
請求人の主張する,「甲1発明1」の構成要素甲1-a乃至甲1-hのうち,特に,甲1-d及び甲1-hの構成について,被請求人は下記のとおり主張している。

ア 甲1-dについて
「本件発明における「スクリプト」はノードデータテーブル表示ステップ(構成要素G)により利用者のために表示されることが予定されており、人にとって可読なものである。すなわち、インタプリタ方式を前提としたプログラムのソースコードを指すものである。
請求人が審判請求書29頁でまとめている「甲1-d」については、知識ベースに簡易プログラムが含まれ得るという限度で認める。甲1明細書【0031】【図6】の高さ、幅、長さといった記述はいずれも「知識」を表示しているものであり、知識ベースに変換された場合にどのような記載となるかはどこにも記載がない。すなわち、知識ベースに含まれる簡易プログラムが、インタプリタ方式を前提とする、人にとって可読なものであるか否かについては甲1明細書には記載も示唆もない。
…(中略)…知識記述言語は、プログラミング言語とされているのであり、簡易なプログラムを書けるのは当然である。
…(中略)…請求人は、甲9から「知識記述言語がスクリプトを記載できる言語である」旨を理解できるとする。しかし、甲9明細書【0005】は、注意深く読めば、「知識データをコンピュータに蓄積する」ために「知識記述言語によりプログラムを作成しなければならない」と述べており、これは甲9が提供するプログラム(甲9明細書【0001】)であって、甲9明細書【0013】等の「マクロプログラム」を指すものではない。ここで言うマクロとは単純なデータの入れ替えやデータの連結、単純な演算や分岐命令、等を行う プログラムの前処理で利用するコマンドや関数のことである。【0013】はこのような前処理に必要なマクロ文をデータベースに含ませることができると主張しており、【0083】と【0086】は、上記を詳細に確認しているに過ぎない。そしてそれは、知識ベースでスクリプトが使えるなどとは全く示唆していない。スクリプトは簡易であれ、通常のプログラム言語であり、前処理ではないからである。
また、甲8及び甲9で請求人が指摘するプログラムが、インタプリタ方式を前提としたものであるか否かについては、甲8・甲9いずれにも記載も示唆もない。」
(答弁書10ページ12行乃至11ページ15行)

イ 甲1-hについて
「知識ベースに、本件発明にいう「スクリプト」が記述されるか否かは、甲1には記載されていない。」
(答弁書12ページ下から3行乃至最終行)

(2)各無効理由について
ア 無効理由1(新規性)について
無効理由1の,特に相違点1に関して,被請求人は次のように主張している。

「相違点B-1につき、甲1発明1では、「知識」はデータベースに記憶される(甲1明細書【0008】【0011】【0012】)。知識の変更も、データベースを書き換えることにより行われる(甲1明細書【0026】)。これは、知識ベースが「人間の言語に近」くない形での表現(甲1明細書【0010】参照)となるために、人間の操作はデータベースに対して行わざるを得ないからである。
「人間の言語に近」くない「知識ベース」をテキストエディタで開いても、これを読むことはできないと思われる。この点に関し、請求人は、「コンピュータプログラム」であればテキストエディタで読める文書ファイルであることも当業者には明らかとするが(審判請求書59頁5行目)、誤りである。コンパイルされたプログラムファイルをテキストエディタで開けば、文字化けすることは、当業者にとって自明のことである。
甲2、甲3、甲8及び甲9に基づき、知識、知識ベース、プログラム等を文書ファイルの形式で保存できるとの点は争わない。請求人のいうとおり、当業者の技術常識である。
しかし、かかる技術常識をもってしても、甲1発明1において、「知識」が文書ファイルの形式でコンピュータに記憶することが記載されているに等しいとはいえない。
甲1発明1においては、「知識」がデータベースに登録される旨明示されている(甲1明細書【0008】【0011】【0012】)。データベースのデータは、テーブルデータ等を参照しながら迅速にデータの検索や演算を行なえるよう工夫したデータ形式であり、これをテキストエディタで開いて読むことはできず、文書ファイルでないことは当業者の技術常識というべきである。従って、請求人の主張は失当である。」
(答弁書19ページ3行乃至最終行)

イ 無効理由2(進歩性)について
無効理由2について,被請求人は次のように主張している。

(ア)相違点1について
「甲1発明1では、知識はデータベースに登録され、その変更もデータベースで行われることが明記されている。データベース化されて記憶される情報を、1つの文書データ(本件明細書【0009】)である文書ファイルの形式とすることは、システムの根幹からの設計し直しを余儀なくされるものであり、到底設計事項とはいえない。」(答弁書22ページ4乃至8行)

(イ)相違点2について
「甲1発明1には、「知識ベース」がノードデータを有しているか否か、「スクリプト」を有しているか否かについて明示されていないのであり、また、甲4、甲5及び甲10は、本件発明1の「木構造」概念、「ノード」概念と関係のないものである。そもそも、甲1発明1においては、「知識」が登録されたデータベースの段階でノードごとのノードデータという形で情報を管理しているのであり、さらに加えてデータ変換装置で変換された「知識ベース」にまでノードデータを保持する必要がない。従って、ノードデータの甲1発明1を実施するにあたり、「知識ベース」について、スクリプトをノードデータに含ませるとの構成を取ることは、設計事項とはいえない。」(答弁書22ページ10乃至18行)

(ウ)相違点3について
「甲1発明1において、木構造として表示されているのは、知識であって、「知識ベース」ではない。そして、「知識」の段階で表示されているのは、スクリプトではなく、データベースに格納されたデータ(値)に過ぎない。また、「知識ベース」については「ノード」が存在するか否かが明らかではない。このような状況で、当業者が甲1発明1を実施するにあたり、ノードデータ表示ステップがスクリプトを表示するとの構成を取ることが設計事項とは到底言えない。」(答弁書22ページ20行乃至23ページ2行)

ウ 無効理由3(実施可能要件)について
無効理由3について,被請求人は次のように主張している。

「請求人が指摘する箇所は、いずれも、文書ファイルの書換えを伴わない。

…(中略)…

本件明細書に、文書ファイルを変更することなく自ノード変数データを更新する態様が開示されているのであり、かかる態様が開示されていないことを前提とする請求人の主張は前提を欠き失当である。」
(答弁書25ページ10行乃至26ページ5行)

エ 無効理由4(サポート要件)について
無効理由4について,被請求人は次のように主張している。

「本件発明の発明の詳細な説明の記載(甲3)には、文書ファイルを変更することなく自ノード変数データを更新する態様が開示されているのであり、かかる態様が一切開示されていないことを前提とする請求人の主張は前提を欠き失当というほかない。
上記オi?viの記載からすれば、特許請求の範囲に記載された発明の課題が解決できることを当業者が認識できる程度の記載があるというべきであるから、サポート要件違反はないというべきである。」
(答弁書26ページ7乃至13行)

オ 口頭審理陳述要領書(2)による主張
被請求人は,平成31年3月8日付け口頭審理陳述要領書(2)において,次のように主張している。

「請求人要領書1【17頁7行目?】において、請求人は、甲1においては、データベースにスクリプトを用いない態様で、数式や条件分岐を記入し、それをデータ変換装置がスクリプトに翻訳するという関係にあるのではなく、直接データベース(4)に数式や条件分岐等のスクリプトを記憶させ、それを知識ベース(1)に転記するものだと主張する。
しかし、本書(2)イで上述したとおり、甲1発明は、知識所有者が知識記述言語を操れないことから生じる困難を解決するために、知識所有者が直接知識を入力でき、そこからコンピュータに実行可能な知識ベースのデータ構築を可能とするシステムである。請求人主張のように、データベースに記載した内容をそのまま知識ベースに転記するものだとすれば、それは、知識所有者が知識ベースに転記しうる記述、すなわち、知識記述言語(プログラミング言語)を操った記述を行うことになるが、甲1明細書をそのように解釈する余地はない。むしろ、甲1発明が「変換」という用語を用いている以上、これを「転記」と解釈すべきというのは牽強付会というほかない。請求人の主張は、失当というべきである。」
(口頭審理陳述要領書(2)9ページ19行乃至10ページ8行)


第5 当審の判断

1 無効理由1(新規性)について
(1)甲第1号証に記載された事項及び甲1発明
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には,次のA乃至Qに掲げる事項の記載が認められる。

A 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、知識所有者自身が知識ベース構築者となって操作することが可能な知識ベース構築システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】知識ベースは、所定の知識記述言語で記述された一種のコンピュータプログラムであって、知識ベースを構築する際には、知識記述言語についての知識や経験が必要である。そこで、従来は図7に示す如く、知識ベース(1)に接続した知識ベース構築装置(13)は、知識記述言語についての知識や経験を有するシステム開発者(14)が操作する運用形態を採っている。」

B 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来の知識ベース構築方法では、インタビューは口頭で行なわれるから、一度のインタビューでの完全な知識獲得は困難であり、特に大規模なシステムの構築においては、口頭のインタビューでは完全な知識獲得は不可能に近い。この結果、知識ベース(1)を一旦構築した後も、知識の追加や修正が必要となる。
【0005】又、知識を体系化するプロセスでは、資料作成のために多大な労力と時間を要する問題がある。
【0006】更に、知識所有者(15)の知識は、知識体系化の際に作成された資料と知識ベース(1)内に記述された知識とによって保存され、管理されているから、知識を追加し、或いは修正する必要が生じた場合には、システム開発者(14)が再度、知識所有者(15)とのインタビューを行なって、知識の獲得、体系化、及び知識ベース構築のプロセスを繰り返さねばならず、一連の処理が極めて煩雑となる問題がある。」

C 「【0007】本発明の目的は、知識ベースと知識ベース構築者の間に、知識所有者自身が操作可能なユーザインターフェースを設けることによって、知識ベース構築者自身が知識ベースを容易に構築することが出来る知識ベース構築システムを提供することである。
【0008】
【課題を解決する為の手段】本発明に係る知識ベース構築システムは、複数のノードを互いに関係づけてなる階層構造を有して各ノードには詳細な知識が定義されるデータ構造のデータベース(4)と、該データベース(4)内のデータを前記知識記述言語に変換して知識ベース(1)に記述するデータ変換装置(3)と、データベース(4)内に知識の階層構造を定義するための階層構造定義装置(5)と、データベース(4)内に定義された階層構造の各ノードに対して詳細な知識を定義するための詳細知識定義装置(6)とを具えている。」

D 「【0009】
【作用】階層構造定義装置(5)及び詳細知識定義装置(6)は、例えばキーボード、マウス等の入力操作によってデータ入力が可能であり、階層構造定義装置(5)のデータ入力操作によって、データベース(4)内に知識の階層構造のみが定義され、階層構造定義装置(5)のデータ入力操作によって、データベース(4)内に定義された階層構造の各ノードに対して詳細な知識が定義される。
【0010】この際、データベース(4)のデータ構造は、知識ベース(1)の知識記述言語に比べて、人間の言語に近い形で表現することが可能であるため、知識所有者自身が階層構造定義装置(5)及び詳細知識定義装置(6)を操作して、自己の知識をデータベース(4)に容易に登録することが出来る。
【0011】データベース(4)内に階層構造にて登録された知識は、データ変換装置(3)により知識ベース(1)の知識記述言語に変換され、知識ベース(1)に記述される。
【0012】
【発明の効果】本発明に係る知識ベース構築システムは、知識所有者自身が知識ベース構築者となって操作することが出来るから、従来の知識ベース構築者による知識獲得プロセスは不要となる。又、知識の体系化は自動的に行なわれ、その結果が全てデータベースに登録されるから、知識の統一的な保存、管理が可能である。従って、知識ベースの知識を変更する必要が生じた場合にも、データベースを修正する処理だけで済む。」

E 「【0013】
【実施例】以下、本発明の一実施例につき、図面に沿って詳述する。図1に示す如く知識ベース構築システム(2)は、知識ベース(1)と知識ベース構築者(8)の間に介在して、ユーザインターフェースの役割を果すものである。
【0014】知識ベース構築システム(2)は、複数のノードを互いに関係づけてなる階層構造を有して各ノードには詳細な知識が定義されるデータ構造のデータベース(4)と、該データベース(4)内のデータと前記知識記述言語の間の双方向の変換を行なうデータ変換装置(3)と、データベース(4)内に知識の階層構造を定義するための階層構造定義装置(5)と、データベース(4)内に定義された階層構造の各ノードに対して詳細な知識を定義するための詳細知識定義装置(6)と、詳細知識の定義の際に他のノード或いは他の知識ベースの知識を参照するための知識参照装置(7)とから構成され、階層構造定義装置(5)、詳細知識定義装置(6)及び知識参照装置(7)は夫々、知識ベース構築者(8)によるデータ入力操作が容易な構成となっている。
【0015】例えば、ある製品設計に関する知識ベースを作成する場合、先ず階層構造定義装置(5)の操作によって、その製品の部品構成ツリーが作成される。ここで、階層構造定義装置(5)による処理は、図2に示す如くノード名称の定義(S1)と階層構造の定義(S2)から構成される。
【0016】即ち、ノード名称の定義においては、図示の如く製品を構成する複数の部品の夫々にノード名称(A?G)が付与される(S1)。この段階では、各ノードは相互に関連なく独立しており、例えば図示するイメージにて画面表示される。」

F 「【0017】その後、階層構造の定義においては、例えば画面に表示された各ノードをマウスの操作等によってツリー状に連結することにより、図示の如く相互の親子関係が定義されることになる(S2)。
【0018】この結果、図1のデータベース(4)内には、各ノードの親子関係、即ち自己の名称、自己の親ノードの名称及び子ノードの名称が記述される。」

G 「【0019】次に、部品構成ツリー上の各ノード、即ち部品や部位についての知識が詳細知識定義装置(6)によって定義される。この作業は階層構造の下位から上位へ向かってノード毎に行なわれ、各ノード毎に図3に示す処理が実行される。
【0020】先ず、1つのノードが選択され(S3)、選択されたノードについて、必要な属性の定義(S4)、属性の分類(S5)、及び属性値の定義(S6)が行なわれる。必要な属性の定義(S4)の際には、部品の“高さ”、“幅”、“長さ”、“色”、“材質”等の属性名のみが定義され、これらの属性名が図示の如く各ノードに付加される。」

H 「【0021】属性の分類(S5)においては、定義された属性の性質に応じて、入力属性と決定属性に分類される。ここで、入力属性は、自己の親ノードからその属性値を入力すべき属性(例えば“高さ”、“幅”、“長さ”)であり、決定属性は、自己のノードにて属性値を決定すべき属性(例えば色、材質)である。これによって、データベースには図示のイメージのデータ構造が形成される。
【0022】属性値の定義(S6)では、決定属性に分類された属性に対して属性値(“黒”、“スチール”)の入力が行なわれる。ここで、属性値としては、数値に限らず、数式や条件分岐が入力可能である。
【0023】上記の処理(S3?S6)が最上位のノードに至るまで繰り返される。この結果、全てのノードについて、図3のステップS6に示す如きイメージのデータ構造が形成される。ここで、最上位のノードに入力属性として定義されている属性名が、知識ベース運用の際にデータを入力すべき項目であり、該データ入力によって知識ベースが動作を開始することになる。」

I 「【0024】上記の詳細知識定義装置(6)の操作の過程で、他の部品或いは他の製品の知識を参照する必要が生じたときは、知識参照装置(7)を用いて、他のノード或いは他の知識ベースを参照することが可能である。詳細知識定義装置(6)は、他のノードの知識を検索してその結果を報知する処理と、他のノードの知識を提示し或いはその知識の流用を許可する処理の2つの機能を有している。」

J 「【0025】上記の処理によってデータベース(4)の登録が終了した後、その旨を知識ベース構築システム(2)にデータ入力すれば、データ変換装置(3)がデータベース(4)内のデータを自動的に所定の知識記述言語に変換して、知識ベース(1)に記述する。
【0026】その後、知識の変更に際しては、例えば、知識の階層構造を変更する場合には、階層構造定義装置(5)を用いてデータベース(4)の該当箇所を書き換えるだけで、知識ベース(1)の階層構造が変更されることになる。又、あるノードの知識を変更する場合は、詳細知識定義装置(6)を用いてデータベース(4)の該当箇所を書き換えるだけで、これが知識ベース(1)の知識に反映される。
【0027】例えば、図4に示す如く取っ手(12)を具えた内箱(11)と外箱(10)からなる引き出し(9)を設計する場合、階層構造定義装置(5)の操作によって、図5に示す5つのノード名称(“引き出し”“内箱”“外箱”“取っ手”“内箱本体”)が定義され、これらのノードに図示の如き階層構造が定義される。」

K 「【0028】その後、詳細知識定義装置(6)の操作によって、図6に示す如く各ノードに詳細知識が定義される。この作業は、下位のノードから上位のノードへ向かって進められる。例えば、“取っ手”は、予め規定された形状のものを用いるので、全ての属性値を自己のノードにて決めることが出来る。従って、属性は決定属性のみから構成される。
【0029】一方、“内箱本体”は、その大きさが上位の部品の大きさから決定されるべきものであるから、“高さ”“幅”“長さ”は親ノードである“内箱”に委ねられる。“外箱”についても同様である。
【0030】“内箱”のノードでは、“内箱本体”に入力すべき3つの属性(“高さ”“幅”“長さ”)を自己の大きさから決定する。又、“内箱”自身の大きさは、親ノードである“引き出し”にその決定を委ねる。
【0031】この様にして全てのデータ入力作業が終了すれば、データベース内には、図6に示す如きイメージでデータ構造が登録され、最上位のノードである“引き出し”の“高さ”“幅”“長さ”が、知識ベースに対する入力データとなる。」

L 「【0032】上記知識ベース構築システムは、データベース(4)のデータ構造が知識ベースに比べて簡単であるため、知識記述言語についての知識や経験を有しない知識所有者であっても、階層構造定義装置(5)、詳細知識定義装置(6)及び知識参照装置(7)を操作することによって、容易に知識ベース(1)を構築することが出来る。又、従来の如き知識獲得の作業が不要であるから、知識ベース構築のための処理が簡略化される。更に、知識の体系化と知識の記述の両プロセスが共に共通のデータベースを用いて行なわれるため、知識の追加や修正が従来に比べて遥かに容易となる。」

M 「【図1】



N 「【図2】



O 「【図3】



P 「【図6】



Q 「【図7】



イ 甲1発明の各構成要素について
甲第1号証の上記記載事項A乃至Lに摘記した内容,及び上記M乃至Qに掲げた図面から,どのような発明が把握できるかを,以下に示す。
また,甲第1号証から把握される発明を,「甲1発明」といい,甲1発明の各構成要素を,それぞれ「甲1-a」乃至「甲1-h」に分説してそれぞれ検討する。
なお,以下では,当事者提出の各書類及び当審からの通知を次のように略称する。

〈請求人〉
平成31年2月15日付け口頭審理陳述要領書 … 請求人要領書(1)
平成31年3月8日付け口頭審理陳述要領書(2) … 請求人要領書(2)

〈被請求人〉
平成31年2月15日付け口頭審理陳述要領書 … 被請求人要領書(1)
平成31年3月8日付け口頭審理陳述要領書(2) … 被請求人要領書(2)

〈合議体〉
平成31年1月11日付け審理事項通知書 … 審理事項通知書(1)
平成31年2月20日付け審理事項通知書 … 審理事項通知書(2)

(ア)構成要素甲1-aについて
上記記載事項Aの「本発明は、知識所有者自身が知識ベース構築者となって操作することが可能な知識ベース構築システムに関するものである。」との記載,同Cの「本発明に係る知識ベース構築システムは、複数のノードを互いに関係づけてなる階層構造を有して各ノードには詳細な知識が定義されるデータ構造のデータベース(4)と、該データベース(4)内のデータを前記知識記述言語に変換して知識ベース(1)に記述するデータ変換装置(3)と、データベース(4)内に知識の階層構造を定義するための階層構造定義装置(5)と、データベース(4)内に定義された階層構造の各ノードに対して詳細な知識を定義するための詳細知識定義装置(6)とを具えている。」との記載から(下線は,説明のため或いは強調のため当審で付加。以下同様。),甲第1号証に記載された「知識ベース構築システム」は,コンピュータによって構成されるものであることは明らかであり,そして,当該システムによって「知識ベース」を構築する“方法”についても実質的に開示されているものといえることから,甲第1号証には,“コンピュータが知識ベースを構築する知識ベース構築方法”について記載されているものと認められる。

(イ)構成要素甲1-bについて
上記記載事項Dの「階層構造定義装置(5)及び詳細知識定義装置(6)は、例えばキーボード、マウス等の入力操作によってデータ入力が可能であり、階層構造定義装置(5)のデータ入力操作によって、データベース(4)内に知識の階層構造のみが定義され、階層構造定義装置(5)のデータ入力操作によって、データベース(4)内に定義された階層構造の各ノードに対して詳細な知識が定義される。」との記載から,甲第1号証に記載の「階層構造定義装置(5)及び詳細知識定義装置(6)」は,「キーボード、マウス等」によって,「データ入力」がされるものであることが読み取れる。そして,同じく記載事項Dの「この際、データベース(4)のデータ構造は、知識ベース(1)の知識記述言語に比べて、人間の言語に近い形で表現することが可能であるため、知識所有者自身が階層構造定義装置(5)及び詳細知識定義装置(6)を操作して、自己の知識をデータベース(4)に容易に登録することが出来る。」との記載から,当該「データ入力操作」を行うのが「知識所有者自身」であり,「階層構造定義装置(5)及び詳細知識定義装置(6)」によって,当該「知識所有者」の「知識」が「データベース(4)」に「登録」されるものであることも読み取ることができる。
また,上記記載事項Eの「知識ベース構築システム(2)は、複数のノードを互いに関係づけてなる階層構造を有して各ノードには詳細な知識が定義されるデータ構造のデータベース(4)と、該データベース(4)内のデータと前記知識記述言語の間の双方向の変換を行なうデータ変換装置(3)と、データベース(4)内に知識の階層構造を定義するための階層構造定義装置(5)と、データベース(4)内に定義された階層構造の各ノードに対して詳細な知識を定義するための詳細知識定義装置(6)と、詳細知識の定義の際に他のノード或いは他の知識ベースの知識を参照するための知識参照装置(7)とから構成され、階層構造定義装置(5)、詳細知識定義装置(6)及び知識参照装置(7)は夫々、知識ベース構築者(8)によるデータ入力操作が容易な構成となっている。」との記載から,上記「データベース(4)」は,「複数のノードを互いに関係づけてなる階層構造を有して各ノードには詳細な知識が定義されるデータ構造」のものであることを読み取ることができる。
同じく上記記載事項Eの「例えば、ある製品設計に関する知識ベースを作成する場合、先ず階層構造定義装置(5)の操作によって、その製品の部品構成ツリーが作成される。ここで、階層構造定義装置(5)による処理は、図2に示す如くノード名称の定義(S1)と階層構造の定義(S2)から構成される。」との記載から,上記「知識ベース」を作成する場合には,まず「部品構成ツリー」が作成され,当該「部品構成ツリー」の作成の際に,「ノード名称の定義」と「階層構造の定義」がなされることを読み取ることができる。
また,上記記載事項Nに掲げた甲第1号証の図2を参照すると,特に「S2」と付番される「階層構造の定義」をみると,「名称」,「親」及び「子」との項目を有する複数のボックスが図示され,これらは上記「部品構成ツリー」における,各ノードを表すものであることを読み取ることができる。
さらに,上記記載事項Jの「上記の処理によってデータベース(4)の登録が終了した後、その旨を知識ベース構築システム(2)にデータ入力すれば、データ変換装置(3)がデータベース(4)内のデータを自動的に所定の知識記述言語に変換して、知識ベース(1)に記述する。」との記載から,「データベース(4)」に登録されたデータ,すなわち「知識」は,「データ変換装置(3)」によって,「自動的に所定の知識記述言語に変換して、知識ベース(1)に記述」されることを読み取ることができる。
以上の記載を総合すると,甲第1号証には,“前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された知識を、前記ノードを定義するノード名称に対応付けられた複数のノードデータを含むデータベースに前記コンピュータが記憶し,更に前記知識を知識記述言語に変換して知識ベースとして記述する記憶ステップ”について記載されていると認められる。

(ウ)構成要素甲1-cについて
上記記載事項Fの「その後、階層構造の定義においては、例えば画面に表示された各ノードをマウスの操作等によってツリー状に連結することにより、図示の如く相互の親子関係が定義されることになる(S2)。」との記載,及び上記(イ)で検討した内容を併せ考慮すると,甲第1号証には,“前記記憶ステップで記憶された知識を前記コンピュータが表示する表示ステップ”について記載されているものと認められる。

(エ)構成要素甲1-dについて
上記(イ)で示したとおり,甲第1号証には,「データベース」に記憶される「ノードデータ」が存在することが記載されており(上記記載事項Gも参照のこと。),上記記載事項Hの「属性値の定義(S6)では、決定属性に分類された属性に対して属性値(“黒”、“スチール”)の入力が行なわれる。ここで、属性値としては、数値に限らず、数式や条件分岐が入力可能である。」との記載を参照すると,当該「ノードデータ」には,「数式や条件分岐」が入力されることがあり,上記記載事項Pに掲げた甲第1号証の図6を参照すると,左上の「名称」が「引き出し」の項(これは,「ノードデータ」の一部であることが当業者に自明である。)には,「決定属性」(上記記載事項Hの「決定属性は、自己のノードにて属性値を決定すべき属性(例えば色、材質)である。」との記載から,当該ノードにおける属性値であることが読み取れる。)のうちの「内箱の高さ」には,「自己の高さ-外箱の肉厚×2」との数式が,「内箱の幅」には,「自己の幅-外箱の肉厚×2」との数式がそれぞれ記述されている。そして上記記載事項Jの「又、あるノードの知識を変更する場合は、詳細知識定義装置(6)を用いてデータベース(4)の該当箇所を書き換えるだけで、これが知識ベース(1)の知識に反映される。」との記載も参照すれば,上記「引き出し」の決定属性「内箱の高さ」及び「内箱の幅」に記述された数式の計算は,甲第1号証のシステムにおいて,すなわちコンピュータによって実行されるものであることを読み取ることができる。
また,当該「数式」についてはさらに上記記載事項Hの「入力属性は、自己の親ノードからその属性値を入力すべき属性(例えば“高さ”、“幅”、“長さ”)であり、決定属性は、自己のノードにて属性値を決定すべき属性(例えば色、材質)である。」との記載及び上記記載事項Kの「一方、“内箱本体”は、その大きさが上位の部品の大きさから決定されるべきものであるから、“高さ”“幅”“長さ”は親ノードである“内箱”に委ねられる。」との記載,さらに上記記載事項Hの「ここで、最上位のノードに入力属性として定義されている属性名が、知識ベース運用の際にデータを入力すべき項目であり、該データ入力によって知識ベースが動作を開始することになる。」との記載及び上記記載事項Kの「この様にして全てのデータ入力作業が終了すれば、データベース内には、図6に示す如きイメージでデータ構造が登録され、最上位のノードである“引き出し”の“高さ”“幅”“長さ”が、知識ベースに対する入力データとなる。」との記載を参照すると,例えば「内箱」の「入力属性」である「高さ」には,当該「内箱」の「親ノード」である「引き出し」の「決定属性」である,「内箱の高さ」の値が代入される数式が記述されているものと理解され,上記(イ)も参照して,甲第1号証には,“前記ノードデータに含まれる属性値の数式の計算を前記コンピュータが実行する実行ステップ”が記載されていると認められる。

なお,請求書の25乃至30ページにおいて請求人は,「スクリプト」とは,一般的に「コンピュータで、一連の処理手順を記述した簡易プログラム」であることを意味し(甲第14号証),甲第8号証,甲第9号証の記載から,「知識記述言語がスクリプトを記載できる言語であること」が理解され,甲第1号証の段落2,22乃至23,25及び31を参照すれば,「スクリプトを前記コンピュータが実行する実行ステップとを備え」ることを読み取ることができる旨の主張をするが,その主張のとおり,甲第8号証や甲第9号証などにみられる,一般的な技術常識として,「知識記述言語がスクリプトを記載できる言語であること」が当業者に広く知られており,被請求人が「知識ベースに簡易プログラムが含まれ得るという限度で」認めているとしても,甲第1号証には,「スクリプト」を用いることの明示的な記載ないし示唆はなく,仮に,甲第1号証のシステムによって構築される「知識ベース」が,従来と同様(上記記載事項Aの「【従来の技術】知識ベースは、所定の知識記述言語で記述された一種のコンピュータプログラムであって、知識ベースを構築する際には、知識記述言語についての知識や経験が必要である。」との記載を参照。),「所定の知識記述言語で記述された一種のコンピュータプログラム」であったとしても,直ちに甲第1号証において「スクリプト」の存在を認めることはできない。
したがって,甲第1号証から,「スクリプトを前記コンピュータが実行する実行ステップ」を読み取ることはできない。

(オ)構成要素甲1-eについて
上記記載事項Eの「例えば、ある製品設計に関する知識ベースを作成する場合、先ず階層構造定義装置(5)の操作によって、その製品の部品構成ツリーが作成される。ここで、階層構造定義装置(5)による処理は、図2に示す如くノード名称の定義(S1)と階層構造の定義(S2)から構成される。」との記載,及び「即ち、ノード名称の定義においては、図示の如く製品を構成する複数の部品の夫々にノード名称(A?G)が付与される(S1)。この段階では、各ノードは相互に関連なく独立しており、例えば図示するイメージにて画面表示される。」との記載,さらに上記記載事項Nに示される甲第1号証の図2や上記記載事項Pの図6を参照すると,それぞれのノードには,名称が付され,そのうち,最上位ノードとなる「引き出し」には,「親」の項目には「X」が付されるほかは,「内箱」及び「外箱」の親には「引き出し」が,「取っ手」及び「内箱本体」の親には「内箱」がそれぞれ記述されている。上記記載事項Nの図2のS2の部分を参照しても,“最上位のノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノードの名称を含”む態様を読み取ることができる。
そして,上記記載事項Hの「ここで、属性値としては、数値に限らず、数式や条件分岐が入力可能である。」との記載から,上記(イ)も参照して“ノードデータには前記数式のほか条件分岐も含み得”ることも読み取れるから,甲第1号証には,“前記ノードデータは、最上位のノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノードの名称を含み、前記ノードデータには前記数式のほか条件分岐も含み得”ることが記載されていると認められる。

(カ)構成要素甲1-fについて
上記記載事項Hの「属性の分類(S5)においては、定義された属性の性質に応じて、入力属性と決定属性に分類される。ここで、入力属性は、自己の親ノードからその属性値を入力すべき属性(例えば“高さ”、“幅”、“長さ”)であり、決定属性は、自己のノードにて属性値を決定すべき属性(例えば色、材質)である。これによって、データベースには図示のイメージのデータ構造が形成される。」との記載,及び上記記載事項Pの甲第1号証の図6中,例えば「内箱」の「入力属性」には,「高さ」,「幅」,「長さ」との項目が記述されているが,これらは上記のとおり,「親ノードからその属性値を入力すべき属性」であることを示したものであることから,「内箱」の「親ノード」にあたる,「引き出し」の「決定属性」である,「内箱の高さ」,「内箱の幅」,「内箱の長さ」の値を,当該ノードの上記「高さ」,「幅」,「長さ」にそれぞれ代入する数式が記述されているものと理解することができる。(上記(エ)も参照のこと。)
以上総合して,甲第1号証には,“前記数式は、当該ノードの親ノードのノードデータに含まれる属性値である親ノード属性値(『内箱の本体の高さ』)を当該ノードデータに含まれる属性値である自ノード属性値(『高さ』)として代入する数式を含んで”いることが記載されていると認められる。

(キ)構成要素甲1-gについて
上記記載事項Eの「例えば、ある製品設計に関する知識ベースを作成する場合、先ず階層構造定義装置(5)の操作によって、その製品の部品構成ツリーが作成される。ここで、階層構造定義装置(5)による処理は、図2に示す如くノード名称の定義(S1)と階層構造の定義(S2)から構成される。」との記載,「即ち、ノード名称の定義においては、図示の如く製品を構成する複数の部品の夫々にノード名称(A?G)が付与される(S1)。この段階では、各ノードは相互に関連なく独立しており、例えば図示するイメージにて画面表示される。」との記載,上記記載事項Fの「その後、階層構造の定義においては、例えば画面に表示された各ノードをマウスの操作等によってツリー状に連結することにより、図示の如く相互の親子関係が定義されることになる(S2)。」との記載,及び,上記記載事項Nの甲第1号証の図2のうち,「階層構造の定義」S2の部分を参照すると,「名称B」ではその親ノードが「A」であるとともに,当該「A」とはツリー状の線で繋がれた「名称」が「A」であることを読み取ることができる。そして,当該「A」は,“親ノードの名称”といい得るものであり,「名称」に「A」乃至「G」が付された各ノードがツリー状に表示されることを読み取ることができるので,甲第1号証には,“親ノードの名称を利用して、前記ノードのツリーを表示するツリー表示ステップ”が記載されているといえる。
上記記載事項Gの「次に、部品構成ツリー上の各ノード、即ち部品や部位についての知識が詳細知識定義装置(6)によって定義される。この作業は階層構造の下位から上位へ向かってノード毎に行なわれ、各ノード毎に図3に示す処理が実行される。」との記載及び「先ず、1つのノードが選択され(S3)、選択されたノードについて、必要な属性の定義(S4)、属性の分類(S5)、及び属性値の定義(S6)が行なわれる。必要な属性の定義(S4)の際には、部品の“高さ”、“幅”、“長さ”、“色”、“材質”等の属性名のみが定義され、これらの属性名が図示の如く各ノードに付加される。」,上記記載事項Hの「属性の分類(S5)においては、定義された属性の性質に応じて、入力属性と決定属性に分類される。ここで、入力属性は、自己の親ノードからその属性値を入力すべき属性(例えば“高さ”、“幅”、“長さ”)であり、決定属性は、自己のノードにて属性値を決定すべき属性(例えば色、材質)である。これによって、データベースには図示のイメージのデータ構造が形成される。」との記載,及び,上記記載事項Oの甲第1号証の図3の内容からみて,“ノード”の選択,さらに当該“選択されたノード”の属性値,さらには,当該ノードの上位,即ち“親ノード”の“属性値”も表示することを読み取ることができるから,以上総合すると,上記(イ)も参照して,甲第1号証には,“前記表示ステップは、前記親ノードの名称を利用して、前記ノードのツリーを表示するツリー表示ステップと、前記表示されたツリーのノードのうちの選択されたノードの前記自ノード属性値、前記親ノード属性値を表示する属性値表示ステップを含”むことが記載されていると認められる。

(ク)構成要素甲1-hについて
上記記載事項Hの「入力属性は、自己の親ノードからその属性値を入力すべき属性(例えば“高さ”、“幅”、“長さ”)であり、決定属性は、自己のノードにて属性値を決定すべき属性(例えば色、材質)である。」との記載及び上記記載事項Kの「一方、“内箱本体”は、その大きさが上位の部品の大きさから決定されるべきものであるから、“高さ”“幅”“長さ”は親ノードである“内箱”に委ねられる。」との記載を参照すると,上記(エ)で示したとおり,例えば「内箱」の「入力属性」である「高さ」には,当該「内箱」の「親ノード」である「引き出し」の「決定属性」である,「内箱の高さ」の値が代入される数式が記述されているものと理解されるから,甲第1号証には,“前記実行ステップは、前記数式の計算により、親ノード属性値を自ノード属性値として代入して、自ノード属性値を求めるステップを含む知識ベース構築方法。”について記載されているものと認められる。

ウ 甲1発明
以上,上記イ(ア)乃至(ク)で検討した内容を踏まえると,甲第1号証には次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているといえる。(なお,以下の便宜のため,「甲1-a:」乃至「甲1-h:」の分説記号を付した。)

「甲1-a:コンピュータが知識ベースを構築する知識ベース構築方法であって、
甲1-b:前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された知識を、前記ノードを定義するノード名称に対応付けられた複数のノードデータを含むデータベースに前記コンピュータが記憶し、更に前記知識を知識記述言語に変換して知識ベースとして記述する記憶ステップと、
甲1-c:前記記憶ステップで記憶された知識を前記コンピュータが表示する表示ステップと、
甲1-d:前記ノードデータに含まれる属性値の数式の計算を前記コンピュータが実行する実行ステップとを備え、
甲1-e:前記ノードデータは、最上位のノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノードの名称を含み、前記ノードデータには前記数式のほか条件分岐も含み得、
甲1-f:前記数式は、当該ノードの親ノードのノードデータに含まれる属性値である親ノード属性値(『内箱の本体の高さ』)を当該ノードデータに含まれる属性値である自ノード属性値(『高さ』)として代入する数式を含んでおり、
甲1-g:前記表示ステップは、前記親ノードの名称を利用して、前記ノードのツリーを表示するツリー表示ステップと、前記表示されたツリーのノードのうちの選択されたノードの前記自ノード属性値、前記親ノード属性値を表示する属性値表示ステップを含み、
甲1-h:前記実行ステップは、前記数式の計算により、親ノード属性値を自ノード属性値として代入して、自ノード属性値を求めるステップを含む知識ベース構築方法。」

(2)本件発明1と甲1発明との対比
上記(1)ウで示した甲1発明と本件発明1とを対比する。

ア 各構成要素毎の対比
(ア) 構成要素Aについて
本件発明1の構成要素A(以下単に,「本件発明1のA」などという。)について,甲1発明の甲1-a(以下単に,「甲1-a」などという。)と対比すると,甲1発明の「知識ベース構築方法」によって構築される「知識ベース」は,「コンピュータ」によって「管理」される「情報」であるから,本件発明1のAと甲1-aとは“コンピュータが情報を管理する情報管理方法”である点で一致する。
この点につき,当事者双方に争いはない。

(イ) 構成要素Bについて
本件発明1のBは,「コンピュータに複数のノードそれぞれ対応付けて入力された管理すべき情報」を「文書ファイル」として「記憶する」ことを特定するものであるが,甲1-bは,「コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された知識」が「データベース」に「記憶」されると共に,当該「知識」が「知識記述言語に変換」されて「知識ベースとして記述」されるものである。したがって,その記憶される情報の種類が異なり,また記憶される手段についても,本件発明1のBは「文書ファイル」として「記憶する」のに対して甲1-bでは,「データベース」に「記憶」される点でも異なる。
しかしながら,甲1-bの「知識」,さらに当該「知識」を変換した「知識ベース」は,共にコンピュータによって管理されるべき「情報」である点では一致するといえる。
また,当該“情報”として共通する甲1-bの「知識」と本件発明1のBの「情報」とは,ともに“複数のノードそれぞれに対応付けて入力された管理すべき情報”といい得る点で一致する。
さらに,本件発明1のBの「文書ファイル」は,「前記ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む」ものであるが,甲1-bの「データベース」も,「前記ノードを定義するノード名称に対応付けられた複数のノードデータを含む」ものであり,以上を総合すると,本件発明1のBと甲1-bとは,後記の点で相違するものの,“前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された管理すべき情報を、前記ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む情報として前記コンピュータが記憶する情報記憶ステップ”を備える点で一致するといえる。
この点につき,審理事項通知書(2)において,当審が示した上記一致点に対し,請求人要領書(2)においては特に反論は無く,また被請求人要領書(2)(以下,この2つの陳述要領書(2)をまとめて,「両当事者の陳述要領書(2)」という。)においても,特に反論はなされていない。

(ウ) 構成要素Cについて
本件発明1のCについては,本件発明1のBで検討したように,記憶される情報の違いにより,「コンピュータが表示する」ものが,本件発明1のCでは「前記文書ファイルの情報」であるのに対し,甲1-cでは,「記憶ステップで記憶された知識」である点で異なるものの,両者ともに“情報”を表示する点では一致するといえるから,本件発明1のCと甲1-cとは,“前記情報記憶ステップで記憶された前記情報を前記コンピュータが表示する情報表示ステップ”を備える点で一致するといえる。
この点も,両当事者の陳述要領書(2)において特に反論はされていない。

(エ) 構成要素Dについて
本件発明1のDについては,甲1-dは,「前記ノードデータに含まれる属性値の数式の計算を前記コンピュータが実行する」ものであって,当該計算を「スクリプト」で行うものではなく,また当該「スクリプト」が,「前記ノードデータに含まれる」ことは特定されていない。
また,本件発明1のDは,「スクリプトを前記コンピュータが実行する情報評価ステップ」であるのに対し,甲1-dは,単に「数式の計算を前記コンピュータが実行する実行ステップ」であるところ,甲1-dの「数式の計算」も,本件発明1のDの「スクリプト」の「実行」も,いずれも“演算をコンピュータが実行する”点で共通するといえ,また本件発明1のDの「スクリプトを前記コンピュータが実行する情報評価ステップ」は,本件発明1のHで,「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新する」ものであると特定されるところ,当該「自ノード変数データ」と甲1-dの「前記ノードデータに含まれる属性値」とは,“前記ノードデータに含まれる値”で共通するといえる。
以上を総合すると,本件発明1のDと甲1-dとは,後記の点で相違するものの,“前記ノードデータに含まれる値に係る演算をコンピュータが実行する実行ステップ”を備える点で一致する。

なお,請求人は「スクリプト」が,「甲1発明1」の中に見いだされる旨の主張をしているが,上記(1)イ(エ)でも検討したように,「知識記述言語がスクリプトを記載できる言語であること」が当業者に広く知られており,甲1発明の甲1-eにおいて「前記ノードデータには前記数式のほか条件分岐も含み得」ることまではいえたとしても,当該「数式」や「条件分岐」は,スクリプトで表現する以外に,他の方法,例えば関数や甲1発明の「データベース」の機能として実装された計算の仕組み等によって行われるものと理解することも可能であるから,直ちに「スクリプト」によって行われると解されるものではない。よって請求人の主張は採用することができない。
また,被請求人要領書(1)及び被請求人要領書(2)による主張は,その意図するところが必ずしも明確ではないものの,これらの主張を総合的に判断し,甲第1号証の「データベース」に登録される「知識」においては演算が実行されることはなく,当該「知識」が「データ変換装置」によって変換された「知識ベース」においては演算が実行され得るものであることを主張するものと解したとして,上記実行ステップに係る一致点は,どの段階で行われるかを特定せず,単に“前記ノードデータに含まれる値に係る演算をコンピュータが実行する”点で一致することを示したのであるから,被請求人の主張を採用することはできない。
したがって,本件発明1のDと甲1-dとの一致点は上記のとおりと認める。

(オ) 構成要素Eについて
本件発明1のEについては,甲1-eの「最上位のノード」及び「親ノードの名称」は本件発明1のEの「ルートノード」及び「親ノード識別情報」にそれぞれ相当するから,本件発明1のEと甲1-eは,“前記ノードデータは、ルートノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノード識別情報を含んで”いる点で一致する。
この点も,両当事者の陳述要領書(2)において特段の反論はなされていない。

(カ) 構成要素Fについて
本件発明1のFは,「前記スクリプト」について,「当該ノードデータに含まれる変数データである自ノード変数データと、当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って、前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトを含んで」いることを特定しているが,甲1-fは,「前記数式」について,「当該ノードの親ノードのノードデータに含まれる属性値である親ノード属性値(『内箱の本体の高さ』)を当該ノードデータに含まれる属性値である自ノード属性値(『高さ』)として代入する数式を含んで」いることを特定しているから,両者は,とりわけ“スクリプト”に関する相違点(下記相違点3)を有するものと認められる。
この点,請求人は請求書において,甲1-fと本件発明1のFは一致すると主張するものの,その前提は,「スクリプト」が甲第1号証に存在することであるが,上記(オ)のほか,これまでの検討において既に示したとおり,甲第1号証において,「スクリプト」の存在を認めることはできないで,請求人の主張は採用できない。

(キ) 構成要素Gについて
本件発明1のGについては,まず本件発明1の「木構造表示ステップ」は,「前記親ノード識別情報を利用して、前記ノードの木構造を表示する」ものである一方で,甲1-gは,「ツリー表示ステップ」において,「前記親ノードの名称を利用して、前記ノードのツリーを表示する」ものであり,甲1発明の「親ノードの名称」は,本件発明1の「親ノード識別情報」に相当するといえるから,甲1-gの「ツリー表示ステップ」と本件発明1のGの「木構造表示ステップ」は一致するといえる。
また,本件発明1のGの「前記情報表示ステップ」に含まれる「ノードデータテーブル表示ステップ」は,「前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ」及び「前記上位ノード変数データ」のほかに,「前記スクリプト」も表示するものであるが,甲1-gは,「前記表示ステップ」に含まれる「属性値表示ステップ」において,「前記表示されたツリーのノードのうちの選択されたノードの前記自ノード属性値」及び「前記親ノード属性値」を表示するに過ぎず,この点において相違するものの(下記相違点2参照。),本件発明1のGと甲1-gとは,“前記情報表示ステップは、前記親ノード識別情報を利用して、前記ノードの木構造を表示する木構造表示ステップと、前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ、前記上位ノード変数データを表示するノードデータテーブル表示ステップを含”む点で一致する。
この点において,当事者双方に概ね争いはない。

(ク) 構成要素Hについて
本件発明1のHは,「情報評価ステップ」において,「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新するステップを含」むものであるが,甲1-hは,単に「前記実行ステップ」において,「前記数式の計算により、親ノード属性値を自ノード属性値として代入して、自ノード属性値を求めるステップを含」むものである。両者は“データの値を更新するための演算を実行する”点では共通するといえ,また,甲1-hの「自ノード属性値」は,本件発明1のHの「自ノード変数データの値」に相当するといえるから,本件発明1のHと甲1-hとは,“前記実行ステップは、前記自ノード変数データの値を更新するための演算を実行する”点で一致するといえる。

この点に関し,請求人は,請求書の57乃至58ページにおいて,「甲1発明1」の「甲1-h」を,「前記実行ステップは、前記スクリプトの実行により、親ノード属性値を自ノード属性値として代入して、自ノード属性値を求めるステップを含む」ものであると特定した上で,本件発明1のHと当該「甲1-h」は一致すると主張している。
また,請求人要領書(2)において,「本件発明1が,情報評価ステップで前記代入用スクリプトの実行により,自ノード変数データの値を更新するものであるのに対し,甲1発明は,実行ステップにおいてノードデータに含まれる属性値の数式の計算が行われ,計算されたノードデータに基づき知識ベースの更新が行われるものの,情報評価ステップで代入用スクリプトの実行によってこれを行うものではない点」(審理事項通知書(2)の相違点3)は,「実質的な相違点となるものではない。」と主張している。
一方,被請求人は,被請求人要領書(2)において,一致点に本件発明1のHに係る構成を含めないものとし,「本件発明1が、情報評価ステップで前記代入用スクリプトの実行により、自ノード変数データの値を更新するものであるのに対し、甲1発明には、前記情報記憶ステップで記憶された情報(すなわち、知識)について自ノード変数データの値を更新する演算を行うものではない点。」を相違点3とすべきと主張している。

上記当事者双方の主張について検討する。
まず,請求人が主張する,甲1発明において「スクリプト」が存在する点に関しては,これまで検討したとおり,甲第1号証には「スクリプト」の存在は認められず,当該「スクリプト」を含む請求人の主張は採用できない。また,相違点3に関する主張も概ね「スクリプト」の存否に係る主張であるので同様に採用できない。
一方で被請求人の上記主張については,甲1発明は「スクリプト」を有するものではなく,したがって「代入用スクリプト」も有さないものの,本件発明1のHと甲1-hは共に“演算を実行する”点では共通するといえるのであるから,本件発明1のHと甲1-hとが“前記実行ステップは、前記自ノード変数データの値を更新するための演算を実行する”点で一致するとの上記判断を左右するものではない。

イ 甲1発明と本件発明1との一致点及び相違点
以上,上記ア(ア)乃至(ク)における検討を総合すると,本件発明1と甲1発明とは,次の一致点及び相違点が存在するものと認める。

〈一致点〉
コンピュータが情報を管理する情報管理方法であって、
前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された管理すべき情報を、前記ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む情報として前記コンピュータが記憶する情報記憶ステップと、
前記情報記憶ステップで記憶された前記情報を前記コンピュータが表示する情報表示ステップと、
前記ノードデータに含まれる値に係る演算をコンピュータが実行する実行ステップとを備え、
前記ノードデータは、ルートノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノード識別情報を含んでおり、
前記情報表示ステップは、前記親ノード識別情報を利用して、前記ノードの木構造を表示する木構造表示ステップと、前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ、前記上位ノード変数データを表示するノードデータテーブル表示ステップを含み、
前記実行ステップは、前記自ノード変数データの値を更新するための演算を実行する
情報管理方法。

〈相違点1〉
本件発明1が,「管理すべき情報」を「文書ファイル」として記憶し,当該「文書ファイルの情報」をコンピュータが表示するものであるのに対し,甲1発明は,「知識」を「データベース」に記憶し,「更に前記知識を知識記述言語に変換して知識ベースとして記述」し,当該「知識」をコンピュータが表示するものである点。

〈相違点2〉
本件発明1が,「ノードデータ」に「スクリプト」を含み,当該スクリプトは「当該ノードデータに含まれる変数データである自ノード変数データと、当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って、前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプト」を含むものであり,情報表示ステップでは,前記「スクリプト」も表示されるのに対し,甲1発明では,ノードデータにスクリプトが含まれることは特定されておらず,更に当該スクリプトを表示することも特定されていない点。

〈相違点3〉
本件発明1が,「情報評価ステップ」で「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新する」ものであるのに対し,甲1発明は,「実行ステップ」において「ノードデータに含まれる属性値の数式の計算」が行われ,計算されたノードデータに基づき「知識ベース」の更新が行われるものの,「情報評価ステップ」で「代入用スクリプト」の実行によって「自ノード変数データの値を更新」を行うものではない点。

(3)本件発明1に対する当審の判断
以下,上記(2)イで認定した相違点1乃至3について,それぞれ検討する。

ア 相違点1について
まず,本件明細書の記載に照らして,本件発明1の「文書ファイル」がどのようなものであるかを検討する。(下線は当審で参考のために付加した。以下同様。)
本件明細書の段落2には,本件発明1の背景技術として次のように記載されている。

「【0002】
コンピュータを用いて各種情報の管理を行う場合、それぞれの情報を記憶したファイル(文書ファイル、画像ファイル等)を、所定のフォルダに保管することによって行うのが一般的である。しかし、作成したフォルダの構造及びそれぞれのフォルダに保管するファイルの種類等は、任意であってフォルダの作成者に依存するため、作成者以外の者が必要な情報に適確にアクセスすることは、必ずしも簡単ではない。すなわち、多数の者が情報を共有化し、再利用できるように、情報管理を行うことは容易ではない。」

また,本件明細書の段落25乃至28に,本件発明1を実施するための最良の形態(実施例)として,次のような態様が開示されている。

「【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0026】
本発明の情報管理方法及び情報管理装置は、所定の情報管理プログラムをインストールしたコンピュータを用いて実施する。ここで利用されるコンピュータは、スタンドアローン型のものでもよいし、クライアント-サーバ型のものでもよい。
【0027】
コンピュータにインストールする情報管理プログラムは、管理すべき情報をノードに対応付けて入力する情報入力ステップ、情報入力ステップで入力されたデータを、各ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む文書として記憶する情報記憶ステップ、情報記憶ステップで記憶された文書の情報を表示する情報表示ステップ、及びノードデータに含まれるスクリプトを実行する情報評価ステップを実行するためのプログラムを含んでいる。
【0028】
図1に、ノードデータとして記憶される情報の一例を示す。記憶される情報は、ノード番号、ページ番号、親ノード番号、ノードラベル、ノード表示属性情報、変数情報、代入用スクリプト、生成用スクリプト、リンク情報を含む。」

そして本件明細書の段落36乃至39及び図面の図2乃至4には次のように記載されている。

「【0036】
ノードデータは、例えばタグ付き文書情報として記憶される。図2に、ノードデータの一例を示す。図2のデータは、ルートノードのノードデータの例であり、ノード番号(nodeNo)が「3450」、自己ページ番号(ownPageNo)が「10」、ノードラベル(label)が「パッセル操作マニュアル」である。所属ページ番号を示す(belongPageNo)が「0」、親ノード番号を示す(parentNodeNo)が「0」であることで、ルートノードであることを示している。図2の「x=”100”」から「color=”0”」までは、ノードの表示位置等のノード表示属性情報である。
【0037】
この形式では、変数情報が、「」と「」の間に挿入され、代入用スクリプトが、「」と「」の間に挿入され、生成用スクリプトが、「」と「」の間に、リンク情報が、「」と「」の間に挿入される。ただし、図2の例では、変数情報、代入用スクリプト、生成用スクリプトは、記憶されていない。
【0038】
図3に、ノードデータの別の例を示す。図3のデータは、ルートノード以外のノードデータの例である。所属ページ番号が「3484」、親ノード番号が「3488」となっており、ルートノード以外のノードのノードデータであることが把握できる。また、自己ページ番号が「3526」となっていることから、別ページの木構造の先頭ノードであることも把握できる。
【0039】
図4に、管理すべきデータを複数のノードデータを含む文書情報として記憶させたものの一例を示す。図4の文書は、ヘッダ部40、ノードデータ部41a?41n、ライン部42、レポート部43を備える。」

「【図2】

【図3】

【図4】



これらの記載から,本件発明1の「文書ファイル」とは,例えば全体としては図4に示されるような,タグ付き文書という形で記憶され管理されるものであり,ファイル形式としては,図2乃至4で記述されているように,所定のタグ(例えば「など。)を含むテキストデータからなるファイルのことを意味するものと解される。

一方,甲1発明は,「コンピュータが知識ベースを構築する知識ベース構築方法」であり,「前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された知識を、前記ノードを定義するノード名称に対応付けられた複数のノードデータを含むデータベースに前記コンピュータが記憶し、更に前記知識を知識記述言語に変換して知識ベースとして記述する記憶ステップ」を備えるものであるが,甲第1号証の上記記載事項Jに「その後、知識の変更に際しては、例えば、知識の階層構造を変更する場合には、階層構造定義装置(5)を用いてデータベース(4)の該当箇所を書き換えるだけで、知識ベース(1)の階層構造が変更されることになる。又、あるノードの知識を変更する場合は、詳細知識定義装置(6)を用いてデータベース(4)の該当箇所を書き換えるだけで、これが知識ベース(1)の知識に反映される。」とあるように,「データベース」に入力される「知識」は,まず当該「データベース」に対して入力が行われて記憶され,これが「知識記述言語に変換」されて「知識ベース」となるものである。したがって,当該「知識ベース」は,「知識記述言語」で記述されるものであることは明らかであるが,これがどのような形式のものか,詳細については甲第1号証に記載がない。
そこで,請求人が提出した甲第2号証の図10や甲第3号証の図14などを参照すると,当該「知識記述言語」で記述されるとは,代表的にはXMLのようなタグ付きの汎用的なデータ記述言語を用いて記述されるのが技術常識と解されるから,甲1発明の「知識ベース」も,本件発明1と同様の「文書ファイル」といい得る形式で生成されるものと理解することができる。そうすると,甲1発明において,「知識」を「データベース」に記憶した上で,「更に前記知識を知識記述言語に変換して知識ベースとして記述」して記憶することは,本件発明1の「情報記憶ステップ」において,「管理すべき情報」を「文書ファイルとして前記コンピュータが記憶する」ことと,実質的に異なる事項ということはできない。
したがって,本件発明1は,「文書ファイルの情報」をコンピュータが表示するものでもあるが,甲1発明が,「知識」をコンピュータが表示するものである以上,当該「知識」を変換したに過ぎない「知識ベース」の「情報」も,当該「知識」の表示がなされることによって表示されるものともいえることから,相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。
この点について被請求人は,被請求人要領書(2)の5ページ「(3)4(3)について」の項において,上記構成要素Bについて,一致点とすべき旨の陳述がなされている。

イ 相違点2について
次に相違点2について検討する。
まず,甲第1号証には「スクリプト」が明記されておらず,またこの点は請求人も認めるところである。(「第3 請求人の主張の概要」2(1)ウ(イ)参照。)
そして,甲第1号証の段落22において,自己のノードにて属性値を決定すべき属性である決定属性の「属性値としては、数値に限らず、数式や条件分岐が入力可能である」ことが記載され,甲1発明において,「前記ノードデータには前記数式のほか条件分岐も含み得」との構成を有するものの,甲1発明において,「データベース」を介して「知識」を入力する際に,代入用の「数式」や「条件分岐」が入力可能であったからといって,これを必ず「代入用スクリプト」を用いて実現されるものであると直接的に理解できるものではなく,単に可能性の1つとして「スクリプト」が用いられることが当業者において観念されるという程度に留まるというべきである。そして,「スクリプト」を用いて実現されることが,唯一無二の構成であることを示す根拠は,請求人からは何も示されていない。
一方,本件発明1の「代入用スクリプト」は,各ノードに対応付けられ,「当該ノードデータに含まれる変数データである自ノード変数データと、当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って、前記自ノード変数データの値を求める」ようなスクリプトであり,単なるノードデータに含まれる属性値としての「数式」や「条件分岐」ではない記述子であると解される。
したがって,相違点2に係る,「ノードデータに含まれるスクリプト」については,甲1発明との対比において顕著に異なる相違点として認識せざるを得ず,「ノードデータに含まれるスクリプト」が甲1発明に認められない以上,当該「スクリプト」の態様の1つである「代入用スクリプト」が存在する点も相違点となる。
また,情報表示ステップで当該「スクリプト」を表示する点に関しても,上記のとおり「ノードデータに含まれるスクリプト」が甲1発明に認められない以上,「スクリプト」を表示する点においても顕著に異なるものといわざるを得ないから,相違点2は実質的な相違点と認められる。
なお請求人は,請求書の63ページにおいて,「甲1には、スクリプトをノードデータに含むことは記載されていない。」と認めつつも,続けて「しかし、甲1は、ノード属性値として、「自己の高さ-外箱の肉厚×2」や「自己の幅-外箱の肉厚×2」といった数式をノードデータに含む態様を開示している(甲1の段落0022、図6)。これらの数式はノードデータに対応付けられており、各ノードにそれぞれ別個の数式が記述されるものであるから、これらの条件式を実際に計算するためのスクリプトも、知識ベースにおいて、ノードごとに対応付けられて記述されているものであると理解できる。」旨の主張をしているが,上記のとおり,甲第1号証に記載の「数式」や「条件分岐」が本件発明1の「スクリプト」に相当すると判断すべき根拠は認められず,上記判断を左右するものではない。

ウ 相違点3について
次に相違点3について検討する。
相違点3については,上記イで説示したとおり,甲1発明に「スクリプト」及び「代入用スクリプト」の存在を認めることはできず,また甲第1号証においても,「スクリプト」については明記されておらず,ノードデータに含まれる情報として当業者にとって自明なものともいえないから,相違点3は相違点2と同様に,実質的な相違点である。
ここで,相違点3に係る,「情報評価ステップ」で「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新する」点についても,本件明細書の記載に基づいて更に検討する。
まず,本件明細書段落11,44,46,54,57乃至58,67及び72乃至73には,次のとおりの記載が認められる。

「【0011】
本発明の情報管理方法は、前記情報評価ステップが、前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記代入用スクリプトを実行するに際して、前記選択されたノードの直系下位ノードの前記代入用スクリプトを合わせて実行するものを含む。本発明によれば、関連するノードの評価を同時に行うことができる。また、上位ノードの変数値を変更した時の、下位ノードの変数値を簡単に出力することができるので、シミュレーション動作を簡単に行うことができる。

…(中略)…

【0044】
図6の表示画面は、ツリービューア10とデザインテーブル20を有する。ツリービューア10は、ノードの木構造を表示する領域であり、情報管理時の各種操作を行うためのプルダウンメニュー、及びポップアップメニューを表示する領域も兼ねる。ノードの木構造の表示は、ラベルとリードの表示によって行い、図6の例では、ルートノードのラベル表示11aとルートノード以外のノードのラベル表示11b、11c、11dと、それらの間を接続する階層リード12b、12c、12dが表示されている。

…(中略)…

【0046】
デザインテーブル20は、ツリービューア10に表示されたノードのうちの選択されたノードが有する情報を表示する領域であり、公開変数表示領域21、限定変数表示領域22、代入用スクリプト表示領域23、生成用スクリプト表示領域24、操作ボタン表示領域21a、22a、20aを有する。操作ボタン表示領域21aの各操作ボタンは、公開変数に対する各種操作を行うためのものであり、操作ボタン表示領域22aの各操作ボタンは、限定変数に対する各種操作を行うためのものである。また、操作ボタン表示領域20aの各操作ボタンは、デザインテーブル20に関する各種操作を行うためのものである。

…(中略)…

【0054】
図6に示した状態で、表示された木構造及びノードデータの編集が可能であり、編集操作に対応した表示を行う(ステップS109)。ツリービューア10上では、ノードの追加、削除、表示位置移動、表示属性変更、ノードラベル変更等を、プルダウンメニュー、ポップアップメニューの設定により行う。例えば、表示位置の変更は、ラベル表示をドラッグすることによって行い、ノードラベル及び表示属性の変更は、変更用のウィンドウを表示させて行う。また、ノードの削除は、削除したいノードを選択した状態で、メニューを表示させて削除する。ノードの追加は、メニューで追加モードに設定後、追加したいノードの親となるノードを選択し、そのままドラッグすることにより、新規ノードを生成する。また、ノードの繋ぎ換えは、繋ぎ換えたいノードを選択し、メニューを表示させて「ノード繋ぎ換え」を選択し、変更したい繋ぎ先のノード(親ノードとしたいノード)を選択することによって行う。生成されたノードのノードラベル、表示属性情報は、修正用のウィンドウを表示させて設定する。

…(中略)…

【0057】
代入用スクリプト及び生成用スクリプトは、公開変数領域21および限定変数領域22に表示された変数を利用して作成する。公開変数領域21には、自ノードの公開変数だけでなく、直系上位のすべてのノードの公開変数が表示される。直系上位のノード以外のノードの変数を参照したい場合は、参照リードを生成して、参照先のノードと関連付けておく。代入用スクリプト及び生成用スクリプトは代入用スクリプト領域23及び生成用スクリプト領域24に直接入力してもよいし、別のウィンドウを開いて入力するようにしてもよい。
【0058】
なお、デザインテーブル20の編集内容は、領域20aの更新ボタンを押すことによって、文書情報に反映される。

…(中略)…

【0067】
代入用スクリプト及び生成用スクリプトは、操作ボタン表示領域20aの「評価」ボタンを押すことにより実行される。図12に、スクリプト実行時の概略動作フローを示す。スクリプトを実行したいターゲットのノード選択し、「評価」ボタンが押されると、評価条件設定用のダイアログボックスを表示する(ステップS301)。このダイアログボックスでは、評価対象スクリプトの種類と、評価階層が少なくとも可能となっている。すなわち、代入用スクリプトのみの実行、生成用スクリプトの実行、両スクリプトの実行の設定と、自ノードのみを評価するか直系下位ノードの指定階層まで評価するかを設定する。

…(中略)…

【0072】
次に、代入用スクリプト及び生成用スクリプトの具体例を、図8の「*」を付したノードをターゲットノードとして説明する。図9に示すように、ターゲットノードは、要計算の公開変数として、「スライス数」と「色」を有しており、代入用スクリプトとして、「スライス数=同一面数;」と「色=同一面数」を有している。評価前は、図10に示すように、公開変数「スライス数」と「色」の値は空欄となっている。
【0073】
この状態で、このノードを選択し、「評価ボタン」を押し、評価条件として代入用スクリプトの実行を設定すると、記憶された代入用スクリプトを実行する。したがって、公開変数「スライス数」の値は、上位ノードの公開変数である「同一面数」の値「1」となり、公開変数「色」の値は、同様に上位ノードの公開変数である「巾木色」の値「F-205」となる。代入用スクリプト実行後のデザインテーブルの公開変数表示領域21の表示例を、図13に示す。」

以上の記載から,次の事項を読み取ることができる。
情報評価ステップにおいて,選択されたノードの代入用スクリプトを実行することにより,関連するノードの評価を同時に行うことができ,上位ノードの変数値を変更した時の,下位ノードの変数値を簡単に出力することができるので,シミュレーションの動作を簡単に行うことができるという効果を奏する。
まず図6には,「ツリービューア10」と「デザインテーブル20」が表示される態様が示され,「表示された木構造及びノードデータの編集が可能」になる。「デザインテーブル20」は,「ツリービューア10に表示されたノードのうちの選択されたノードが有する情報を表示する領域」であり,そのうち,「代入用スクリプト表示領域23」に「代入用スクリプト」が記述される。
また,「デザインテーブル20」には,「操作ボタン表示領域20a」が表示され,当該領域には,「デザインテーブル20に関する各種操作を行うための」各種「操作ボタン」が表示される。
そして,「代入用スクリプト」は,「操作ボタン表示領域20a」の「「評価」ボタン」を押すことにより実行されて,「「評価」ボタン」押下前に「空欄」であった公開変数「スライス数」及び「色」の値は,「「評価」ボタン」押下後にそれぞれ「上位ノードの公開変数である「同一面数」の値「1」」及び「上位ノードの公開変数である「巾木色」の値「F-205」」となる。
一方,同じく「操作ボタン表示領域20a」にある,「更新ボタン」が押されると,「デザインテーブル20の編集内容」が,「文書情報に反映」される。
この記載内容によれば,相違点3におけるシミュレーション動作のための「情報評価ステップ」で「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新する」とは,具体的には,図6の「操作ボタン表示領域20a」にある,「「評価」ボタン」を押下し,その結果として「自ノード変数データの値」の値が更新されることを意味するものと解される。
すると,そもそも「ノードデータに含まれる属性値の数式の計算」を「コンピュータが実行する」に過ぎない甲1発明においては,そのような「代入用スクリプト」を実行する機序は存在せず,さらに「前記数式の計算により、親ノード属性値を自ノード属性値として代入して、自ノード属性値を求めるステップを含む」からといって,シミュレーション動作のための「情報評価ステップ」を実行する当該「代入用スクリプト」が甲1発明に存するに等しいとして実質的な相違点ではないとすることはできない。

エ 本件発明1についてのまとめ
以上検討したとおり,本件発明1と甲1発明とは,少なくとも上記相違点2及び3の点で相違するから,本件発明1と甲1発明とは別異のものである。
したがって,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(4)本件発明14について
本件発明14は,本件発明1(方法)を引用し,プログラムの発明として特定したものであり,本件発明1と実質的に同じ構成を有するものであるから,本件発明1と同様,甲第1号証に記載された発明ではない。

(5)むすび
以上のとおり,本件発明1及び本件発明14は,甲第1号証に記載された発明ではないから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない旨の請求人主張の無効理由1によって,無効とすることはできない。


2 無効理由2(進歩性)について
(1)本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明とは,上記1(2)イで示したとおりの一致点及び相違点を有する。
再掲すると次のとおりである。

〈一致点〉
コンピュータが情報を管理する情報管理方法であって、
前記コンピュータに複数のノードそれぞれに対応付けて入力された管理すべき情報を、前記ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む情報として前記コンピュータが記憶する情報記憶ステップと、
前記情報記憶ステップで記憶された前記情報を前記コンピュータが表示する情報表示ステップと、
前記ノードデータに含まれる値に係る演算をコンピュータが実行する実行ステップとを備え、
前記ノードデータは、ルートノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノード識別情報を含んでおり、
前記情報表示ステップは、前記親ノード識別情報を利用して、前記ノードの木構造を表示する木構造表示ステップと、前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ、前記上位ノード変数データを表示するノードデータテーブル表示ステップを含み、
前記実行ステップは、前記自ノード変数データの値を更新するための演算を実行する
情報管理方法。

〈相違点1〉
本件発明1が,「管理すべき情報」を「文書ファイル」として記憶し,当該「文書ファイルの情報」をコンピュータが表示するものであるのに対し,甲1発明は,「知識」を「データベース」に記憶し,更に「更に前記知識を知識記述言語に変換して知識ベースとして記述」し,当該「知識」をコンピュータが表示するものである点。

〈相違点2〉
本件発明1が,「ノードデータ」に「スクリプト」を含み,当該スクリプトは「当該ノードデータに含まれる変数データである自ノード変数データと、当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って、前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプト」を含むものであり,情報表示ステップでは,前記「スクリプト」も表示されるのに対し,甲1発明では,ノードデータにスクリプトが含まれることは特定されておらず,更に当該スクリプトを表示することも特定されていない点。

〈相違点3〉
本件発明1が,「情報評価ステップ」で「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新する」ものであるのに対し,甲1発明は,「実行ステップ」において「ノードデータに含まれる属性値の数式の計算」が行われ,計算されたノードデータに基づき「知識ベース」の更新が行われるものの,「情報評価ステップ」で「代入用スクリプト」の実行によって「自ノード変数データの値を更新」を行うものではない点。

(2)本件発明1に対する当審の判断
ア 相違点1について
相違点1については,上記1(3)アで示したとおり,実質的なものとはいえないから,甲1発明も本件発明1と同様,「管理すべき情報」を「文書ファイル」として記憶し,当該「文書ファイルの情報」をコンピュータが表示するものといえるから,本相違は実質的な相違点とは認められず,格別なものとはいえない。
被請求人が被請求人要領書(1)で主張する,「1つの文書データであるから、コピー&ペーストにより、メール本文に記載して他人に送信し共有することも可能である」ことや「プロトタイプとなるフロー(木構造表示ステップにより表示される)を作成した者が、当該フローに関する文書ファイルを送信し、当該文書ファイルの受領者が、送信者が作成したプロトタイプを再利用しつつ、当該文書データに修正を加えることにより、自らの目的に合致したフローに関する文書ファイルを作成できる」ことなどの点,さらに被請求人要領書(2)において主張する,「メーラーソフトにおいてテキストが表示されているとしても当該テキストデータが文書ファイルになっているわけではない」ことなどは,本件特許の特許請求の範囲にその主張に対応する構成が記載されていないばかりか,本件発明1の「文書ファイル」がどのようなものをいうものかについて,本件明細書にはその定義はなく,むしろ本件明細書段落36乃至42及び図面の図2乃至4に示される,部品に関する情報を各ノードデータに有し,これらをまとめて管理すべきデータとして「プロジェクト」と呼称し管理する態様のみが開示されており,したがって,本件発明1の「文書ファイル」に,このような状態のもの以外の「メール」であるとか「プロトタイプ」であるとかいったようなものが含まれるよう拡張して解釈する余地はない。
したがって本件発明1の構成に基づかない上記主張を採用することはできない。

イ 相違点2について
まず甲1発明の背景及び課題について検討する。
甲第1号証の段落1乃至3には,甲1発明の産業上の利用分野及び従来の技術として次のとおり記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、知識所有者自身が知識ベース構築者となって操作することが可能な知識ベース構築システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】知識ベースは、所定の知識記述言語で記述された一種のコンピュータプログラムであって、知識ベースを構築する際には、知識記述言語についての知識や経験が必要である。そこで、従来は図7に示す如く、知識ベース(1)に接続した知識ベース構築装置(13)は、知識記述言語についての知識や経験を有するシステム開発者(14)が操作する運用形態を採っている。
【0003】システム開発者(14)は、知識ベース構築に際して知識所有者(15)との口頭でのインタビューを行なって、知識所有者(15)から知識を獲得する。更にシステム開発者(14)は、獲得した知識に基づいて資料を作成し、知識を体系化する。そして、該資料に基づいて、知識ベース構築装置(13)を操作し、知識ベース(1)を構築するのである。」

そして,甲1発明の解決しようとする課題及び目的については,段落4乃至7に次のとおり記載されている。

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来の知識ベース構築方法では、インタビューは口頭で行なわれるから、一度のインタビューでの完全な知識獲得は困難であり、特に大規模なシステムの構築においては、口頭のインタビューでは完全な知識獲得は不可能に近い。この結果、知識ベース(1)を一旦構築した後も、知識の追加や修正が必要となる。
【0005】又、知識を体系化するプロセスでは、資料作成のために多大な労力と時間を要する問題がある。
【0006】更に、知識所有者(15)の知識は、知識体系化の際に作成された資料と知識ベース(1)内に記述された知識とによって保存され、管理されているから、知識を追加し、或いは修正する必要が生じた場合には、システム開発者(14)が再度、知識所有者(15)とのインタビューを行なって、知識の獲得、体系化、及び知識ベース構築のプロセスを繰り返さねばならず、一連の処理が極めて煩雑となる問題がある。
【0007】本発明の目的は、知識ベースと知識ベース構築者の間に、知識所有者自身が操作可能なユーザインターフェースを設けることによって、知識ベース構築者自身が知識ベースを容易に構築することが出来る知識ベース構築システムを提供することである。」

以上の記載から,甲1発明は,知識所有者自身が知識ベース構築者となって操作することが可能な知識ベース構築システムに関するものであって,従来,知識ベースを構築する際には,知識記述言語についての知識や経験を有するシステム開発者が操作する運用形態を採っており,システム開発者は,獲得した知識に基づいて資料を作成し,知識を体系化した上で,該資料に基づいて,知識ベース構築装置を操作し,知識ベースを構築していたが,知識所有者の知識を追加し,或いは修正する必要が生じた場合には,システム開発者が再度,知識所有者とのインタビューを行なって,知識の獲得,体系化,及び知識ベース構築のプロセスを繰り返さねばならず,一連の処理が極めて煩雑となる問題があった課題を解決するために,知識ベースと知識ベース構築者の間に,知識所有者自身が操作可能なユーザインターフェースを設けることによって,知識ベース構築者自身が知識ベースを容易に構築することが出来る知識ベース構築システムを提供することを目的とするものであることを読み取ることができる。
そうすると,甲1発明はそもそも,知識記述言語についての知識や経験を持たない知識所有者自身によって操作されるユーザインターフェース,すなわちデータベースを介して操作することにより,知識ベース構築者自身が知識ベースを容易に構築することが出来るようにしたものであるから,甲1発明において,「数式や条件分岐」をノードデータ中に記載する場合に,「データベース」に入力される「知識」の段階で「スクリプト」を用いて当該「数式や条件分岐」を記述できるとするならば,当該入力時点で,「知識記述言語」で記述される「一種のコンピュータプログラム」についての「知識や経験」が必要となるのであって,甲1発明の上記課題や目的に反することとなる。したがって,甲1発明において,「ノードデータ」に「スクリプト」を含ませ,さらに当該スクリプトに「代入用スクリプト」を含むよう構成することは,甲1発明の課題からみて,その動機付けを欠き阻害要因を有するというべきであって,設計的事項であるとも,適宜なし得る事項であるともいうことはできない。
また,本件発明1の「情報表示ステップ」は,「スクリプト」も表示されるものであるが,この点についても,甲1発明が,従来,知識ベースを構築する際に,知識記述言語についての知識や経験を有するシステム開発者が操作する運用形態であったものを,知識記述言語についての知識や経験を持たない知識所有者自身によって操作する運用形態とするものであることに鑑みれば,知識記述言語についての知識や経験を持たない知識所有者に対して,データベースにノードの属性値として入力された,数式や条件分岐を「スクリプト」に変換して表示させる必要性はない。
そうすると,当業者といえども,甲1発明において,ノードデータにスクリプトを含ませるよう構成し,さらに,当該スクリプトを表示するステップを設けること,すなわち甲1発明において相違点2に係る構成を想起することは容易になし得たとまではいうことができない。
なお請求人が主張するように(「第3 請求人の主張の概要」2(1)ウ(イ)参照。),甲第4号証,甲第5号証,甲第10号証乃至甲第12号証に記載されているように,「ノードデータにスクリプトを記載する態様」自体は,本件出願前に広く知られた技術常識であるが,当該技術常識に照らしても,甲1発明の,特に「数式や条件分岐」についてみたとき,これを,「スクリプト」のような簡易な「プログラム」を書くための専門知識を有することを必ずしも必要としない「知識所有者」に行わせる動機付けを見いだすことはできないというべきである。したがって,請求人の主張は採用できない。

ウ 相違点3について
上記イでも指摘したとおり,甲1発明において,「スクリプト」を「ノードデータ」に含ませること,また当該「スクリプト」に「代入用スクリプト」を含ませることは,当業者にとって容易とはいえない。
また,本件発明1の「情報評価ステップ」において,「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新する」ことに関し,上記1(3)ウで検討したように,シミュレーション動作のために具体的には,図6の「操作ボタン表示領域20a」にある,「「評価」ボタン」を押下し,その結果として「自ノード変数データの値」の値が更新されることを意味するものと解される。
一方で,甲1発明は,「前記ノードデータには前記数式のほか条件分岐も含み得」(甲1-e)るものではあるが,例えば「実行ステップ」(甲1-d)において実行される,「前記ノードデータに含まれる属性値の数式の計算」は,具体的にどのような機序によってなされるかについては特定されておらず,また,当該「数式」や「条件分岐」が記述された「知識」が「変換」された「知識ベース」においても,どのようにして値の代入や更新がなされるかについては明らかでない。
したがって,甲1発明において,計算されたノードデータに基づき「知識ベース」の更新が行われるものであったとしても,「実行ステップ」を「情報評価ステップ」に変更した上で,「前記代入用スクリプトの実行により、前記自ノード変数データの値を更新する」よう構成することは当業者にとって容易とまではいえない。

エ 本件発明1についてのまとめ
以上検討したとおり,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明,及び甲第2号証乃至甲第10号証に記載された発明に基づいて当業者によって容易になし得たものとはいえない。

(3)本件発明14について
本件発明14は,本件発明1(方法)を引用し,プログラムの発明として特定したものであり,本件発明1と実質的に同じ構成を有するものであるから,本件発明1と同様,甲第1号証に記載された発明,及び甲第2号証乃至甲第10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(4)むすび
以上のとおり,本件発明1及び本件発明14は,甲第1号証に記載された発明において,その他技術常識を勘案したとしても,相違点2及び3に係る構成を想起することは,当業者が容易になし得たものでないから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の請求人主張の無効理由2によって,無効とすることはできない。


3 無効理由3(実施可能要件)について
特許法36条4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と記載され,その第1号において,「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載しなければならない。」と規定している。同号は,明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって,方法の発明では,その方法を実施するための具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか,そのような記載がない場合には,明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その方法を実施することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。

以下,この観点に立って,判断する。

(1)各構成要素について
以下,本件発明1の各構成要素毎に,本件明細書の発明の詳細な説明にどの程度記載されているかを検討する。

ア 構成要素Aについて
本件明細書段落1,9及び26乃至27には,次の記載が認められる。

「【0001】
本発明は、コンピュータを用いて情報を管理する情報管理方法、情報管理プログラム、及び情報管理装置に関する。

…(中略)…

【0009】
本発明によれば、利用者が入力したデータに含まれるスクリプトを利用して、ノードデータを更新することができるので、管理すべき情報の更新を、簡単かつ効率的に行うことができる。また、複数のノードデータを含む1つの文書データを用いて、個々の業務や案件に関する情報を管理しているので、多数の利用者による情報の共有化、再利用を、簡単かつ効率的に行うことができるとともに、文書データに基づいて、簡単にノードの木構造を表示させることができ、業務や案件全体の把握を簡単に行うことができる。さらに、表示された木構造の個々のノードに対応付けられた詳細情報を簡単に表示することができる。

…(中略)…

【0026】
本発明の情報管理方法及び情報管理装置は、所定の情報管理プログラムをインストールしたコンピュータを用いて実施する。ここで利用されるコンピュータは、スタンドアローン型のものでもよいし、クライアント-サーバ型のものでもよい。
【0027】
コンピュータにインストールする情報管理プログラムは、管理すべき情報をノードに対応付けて入力する情報入力ステップ、情報入力ステップで入力されたデータを、各ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む文書として記憶する情報記憶ステップ、情報記憶ステップで記憶された文書の情報を表示する情報表示ステップ、及びノードデータに含まれるスクリプトを実行する情報評価ステップを実行するためのプログラムを含んでいる。」

この記載によれば,「コンピュータが情報を管理する情報管理方法」として,利用者が入力したデータに含まれるスクリプトを利用して,ノードデータを更新することができ,管理すべき情報の更新を,簡単かつ効率的に行うことができ,複数のノードデータを含む1つの文書データを用いて,個々の業務や案件に関する情報を管理できることが当業者に実施可能に記載されている。また,当該方法を実施するのは,コンピュータにインストールされる情報管理プログラムによるものであることも当業者に実施可能に記載されている。
したがって,この点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

イ 構成要素Bについて
本件明細書段落28,36及び38乃至39には,次の記載が認められる。

「【0028】
図1に、ノードデータとして記憶される情報の一例を示す。記憶される情報は、ノード番号、ページ番号、親ノード番号、ノードラベル、ノード表示属性情報、変数情報、代入用スクリプト、生成用スクリプト、リンク情報を含む。

…(中略)…

【0036】
ノードデータは、例えばタグ付き文書情報として記憶される。図2に、ノードデータの一例を示す。図2のデータは、ルートノードのノードデータの例であり、ノード番号(nodeNo)が「3450」、自己ページ番号(ownPageNo)が「10」、ノードラベル(label)が「パッセル操作マニュアル」である。所属ページ番号を示す(belongPageNo)が「0」、親ノード番号を示す(parentNodeNo)が「0」であることで、ルートノードであることを示している。図2の「x=”100”」から「color=”0”」までは、ノードの表示位置等のノード表示属性情報である。

…(中略)…

【0038】
図3に、ノードデータの別の例を示す。図3のデータは、ルートノード以外のノードデータの例である。所属ページ番号が「3484」、親ノード番号が「3488」となっており、ルートノード以外のノードのノードデータであることが把握できる。また、自己ページ番号が「3526」となっていることから、別ページの木構造の先頭ノードであることも把握できる。
【0039】
図4に、管理すべきデータを複数のノードデータを含む文書情報として記憶させたものの一例を示す。図4の文書は、ヘッダ部40、ノードデータ部41a?41n、ライン部42、レポート部43を備える。」

この記載によれば,まず個々の「ノードデータ」が「ノードを識別するノード識別情報に対応付けられ」ているとは,図2や3で例示されるように,「」という2つのタグ「」及び「」で囲まれた部分を示し,これらが複数存在しているもの(図4の41a乃至41n)を,「ノードを識別するノード識別情報に対応付けられた複数のノードデータを含む文書ファイル」と称するものであることが当業者に実施可能に記載されている。
したがって,この点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

ウ 構成要素Cについて
本件明細書段落43には,次の記載が認められる。

「【0043】
次に、記憶された文書情報の表示について説明する。図5に、文書情報の表示を行う場合の概略動作フローを示し、図4に示す文書の表示を行った場合の表示画面の例を図6に示す。」

この記載によれば,「前記情報記憶ステップで記憶された前記文書ファイルの情報を前記コンピュータが表示する」とは,図4に示されるような文書ファイルを,表示画面に表示することであることが当業者に実施可能に記載されている。
したがって,この点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

エ 構成要素Dについて
本件明細書段落11,67及び72乃至73には,次の記載が認められる。

「【0011】
本発明の情報管理方法は、前記情報評価ステップが、前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記代入用スクリプトを実行するに際して、前記選択されたノードの直系下位ノードの前記代入用スクリプトを合わせて実行するものを含む。本発明によれば、関連するノードの評価を同時に行うことができる。また、上位ノードの変数値を変更した時の、下位ノードの変数値を簡単に出力することができるので、シミュレーション動作を簡単に行うことができる。

…(中略)…

【0067】
代入用スクリプト及び生成用スクリプトは、操作ボタン表示領域20aの「評価」ボタンを押すことにより実行される。

…(中略)…

【0072】
次に、代入用スクリプト及び生成用スクリプトの具体例を、図8の「*」を付したノードをターゲットノードとして説明する。図9に示すように、ターゲットノードは、要計算の公開変数として、「スライス数」と「色」を有しており、代入用スクリプトとして、「スライス数=同一面数;」と「色=同一面数」を有している。評価前は、図10に示すように、公開変数「スライス数」と「色」の値は空欄となっている。
【0073】
この状態で、このノードを選択し、「評価ボタン」を押し、評価条件として代入用スクリプトの実行を設定すると、記憶された代入用スクリプトを実行する。したがって、公開変数「スライス数」の値は、上位ノードの公開変数である「同一面数」の値「1」となり、公開変数「色」の値は、同様に上位ノードの公開変数である「巾木色」の値「F-205」となる。代入用スクリプト実行後のデザインテーブルの公開変数表示領域21の表示例を、図13に示す。」

この記載によれば,「ノードデータに含まれるスクリプトを前記コンピュータが実行する」とは,ノードの選択の後「評価」ボタンを押すことにより,関連するノードの評価を同時に行うシミュレーション動作のために,スクリプトが実行されることである旨が当業者に実施可能に記載されている。
したがって,この点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

オ 構成要素Eについて
上記イにおいて引用した,本件明細書段落36及び38の記載内容から,「ノードデータ」が「ルートノードを除いて、当該ノードの親ノードを特定する親ノード識別情報を含」むとは,「ルートノード」の「ノードデータ」にある,「parentNodeNo」が「0」であることで示されるとともに,「ルートノード」でない「ノードデータ」においては,当該「parentNodeNo」が「0」以外の,例えば「3488」のように表されることを意味するものであることが当業者に実施可能に記載されている。
したがって,この点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

カ 構成要素Fについて
本件明細書段落28,32及び36乃至37,並びに図面の図9には,次の記載が認められる。

「【0028】
図1に、ノードデータとして記憶される情報の一例を示す。記憶される情報は、ノード番号、ページ番号、親ノード番号、ノードラベル、ノード表示属性情報、変数情報、代入用スクリプト、生成用スクリプト、リンク情報を含む。

…(中略)…

【0032】
代入用スクリプトは、自ノードの変数の値を演算するためのものである。代入用スクリプトは、自ノードの変数の値である自ノード変数データと、そのノードの直系上位ノードの公開変数の値である上位ノード変数データを利用して記述することが可能である。

…(中略)…

【0036】
ノードデータは、例えばタグ付き文書情報として記憶される。図2に、ノードデータの一例を示す。図2のデータは、ルートノードのノードデータの例であり、ノード番号(nodeNo)が「3450」、自己ページ番号(ownPageNo)が「10」、ノードラベル(label)が「パッセル操作マニュアル」である。所属ページ番号を示す(belongPageNo)が「0」、親ノード番号を示す(parentNodeNo)が「0」であることで、ルートノードであることを示している。図2の「x=”100”」から「color=”0”」までは、ノードの表示位置等のノード表示属性情報である。
【0037】
この形式では、変数情報が、「」と「」の間に挿入され、代入用スクリプトが、「」と「」の間に挿入され、生成用スクリプトが、「」と「」の間に、リンク情報が、「」と「」の間に挿入される。ただし、図2の例では、変数情報、代入用スクリプト、生成用スクリプトは、記憶されていない。」

「【図9】



これらの記載によれば,「スクリプト」には,「代入用スクリプト」と「生成用スクリプト」が含まれることを読み取ることができる。さらに,そのうち「代入用スクリプト」が「当該ノードデータに含まれる変数データである自ノード変数データと、当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って、前記自ノード変数データの値を求める」ものであるとは,「自ノード変数データ」である「スライス数」及び「色」,「当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変数データ」である「同一面数」及び「巾木色」などを用いた演算,すなわち「スライス数=同一面数;」や「色=巾木色;」といった代入演算を行う「代入用スクリプト」であることも読み取ることができ,構成要素Fに係る事項について当業者に実施可能に記載されている。
したがって,この点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

キ 構成要素Gについて
本件明細書段落44及び46乃至49には,次の記載が認められる。

「【0044】
図6の表示画面は、ツリービューア10とデザインテーブル20を有する。ツリービューア10は、ノードの木構造を表示する領域であり、情報管理時の各種操作を行うためのプルダウンメニュー、及びポップアップメニューを表示する領域も兼ねる。ノードの木構造の表示は、ラベルとリードの表示によって行い、図6の例では、ルートノードのラベル表示11aとルートノード以外のノードのラベル表示11b、11c、11dと、それらの間を接続する階層リード12b、12c、12dが表示されている。

…(中略)…

【0046】
デザインテーブル20は、ツリービューア10に表示されたノードのうちの選択されたノードが有する情報を表示する領域であり、公開変数表示領域21、限定変数表示領域22、代入用スクリプト表示領域23、生成用スクリプト表示領域24、操作ボタン表示領域21a、22a、20aを有する。操作ボタン表示領域21aの各操作ボタンは、公開変数に対する各種操作を行うためのものであり、操作ボタン表示領域22aの各操作ボタンは、限定変数に対する各種操作を行うためのものである。また、操作ボタン表示領域20aの各操作ボタンは、デザインテーブル20に関する各種操作を行うためのものである。
【0047】
プロジェクト毎に作成された文書ファイルを選択し、開くと、図5に示す手順で表示処理が行われる。ステップS101では、文書データからルートノードを認識する。既述のように、ルートノードのノードデータは、所属ページ番号及び親ページ番号が「0」であるので、そのようなノードを探すことにより、ルートノードを認識することができる。なお、文書番号を一義的に割り当て、ルートノードの自己ページ番号を文書番号と一致させておくと、ルートノードの認識がさらに簡単になる。
【0048】
ステップS102では、認識したルートノードの自己ノード番号を認識し、ステップS103では、認識したページ番号のページに属するノードを認識する。すなわち、ルートノードの自己ページ番号を所属ページ番号として有するノードを認識する。
【0049】
次いで、ステップS103で認識したノードのラベル表示を行う(ステップS104)。ラベル表示は、そのノードのノードラベル及びノード表示属性情報に基づいて表示する。そして、表示したノードの親子関係に基づいて階層リードを表示し、さらに、文書のライン部42の情報を参考にして、参照リードを表示する(ステップS105)。」

この記載によれば,まず「前記親ノード識別情報を利用して、前記ノードの木構造を表示する木構造表示ステップ」とは,ツリービューア10にノードの親子関係を表示するにあたり,まずルートノードを認識し,認識したルートノードの自己ノード番号を認識し,認識したページ番号のページに属するノードを認識して,ルートノードの自己ページ番号を所属ページ番号として有するノードを認識し,表示したノードの親子関係に基づいて階層リードを表示し,さらに,文書のライン部42の情報を参考にして,参照リードを表示して,図6に例示されるようなノード間における木構造を表示することを意味することが当業者に実施可能に記載されている。そして,「前記表示された木構造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ、前記上位ノード変数データ及び前記スクリプトを表示する」とは,ツリービューア10に表示されたノードのうちの選択されたノードが有する情報を表示する領域であるデザインテーブル20に,公開変数表示領域21,限定変数表示領域22,代入用スクリプト表示領域23,生成用スクリプト表示領域24,操作ボタン表示領域21a,22a,20aを表示することを意味することが当業者に実施可能に記載されている。
したがって,この点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

ク 構成要素Hについて
当該構成に関しては,本件明細書の段落11,44,46,67,72,及び73及び図面の図6及び9の記載を参酌すれば,「代入用スクリプト」は,図9に例示されるような,「」及び「」の間に記述された,

「スライス数=同一面数;
色=巾木色;」

といった代入式によるものであって,「評価」ボタンの押下により実行されるものと解される。そして,当該「代入用スクリプト」の実行について,上記本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,これを実施しようとする当業者が読めば,具体的にどのように実施されるかを十分に把握する程度の記載といえる。
したがって,この点においても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

(2)本件発明14について
本件発明14は,本件発明1(方法)を引用し,プログラムの発明として特定したものであり,本件発明1と実質的に同じ構成を有するものであるから,本件発明1と同様,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

(3)請求人の主張について
請求人は,上記「第3 請求人の主張の概要」2(3)アで示した主張を行っているものの,そのうち「III」において主張されている事項は,専ら本件無効審判事件と関連する侵害訴訟においてなされる,被請求人の主張に基づくものであり,当該訴訟は,本件無効審判事件と関連するものであることは推察されるものの,本件無効審判事件の,とりわけ無効理由3について検討するにあたっては考慮されない。

(4)むすび
以上のとおり,本件明細書における発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号に規定する要件を満たさないから特許を受けることができない旨の請求人主張の無効理由3によって,無効とすることはできない。

4 無効理由4(サポート要件)について
無効理由4,すなわち特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

以下,この観点に立って,判断する。

(1)本件発明1について
ア 各構成要素が発明の詳細な説明に記載されたものかどうかの判断
上記3で検討したとおり,本件発明1の構成要素A乃至Hは,いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項により支持されており,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものと認められる。

イ 発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるか否かの判断
まず,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1の課題がどのようなものであるかについて検討する。
本件発明1の技術分野は,コンピュータを用いて情報を管理する情報管理方法,情報管理プログラム,及び情報管理装置に関し(本件明細書段落1),コンピュータを用いて各種情報の管理を行う場合,それぞれの情報を記憶したファイル(文書ファイル,画像ファイル等)を,所定のフォルダに保管することによって行うのが一般的であったが,作成したフォルダの構造及びそれぞれのフォルダに保管するファイルの種類等は,任意であってフォルダの作成者に依存するため,作成者以外の者が必要な情報に適確にアクセスすることは,必ずしも簡単ではなく,多数の者が情報を共有化し,再利用できるように,情報管理を行うことは容易ではなく(同段落2),従来,情報の共有化,再利用を効率よく実現することができる文書情報管理システムが提案されており,この文書情報管理システムは,案件(プロジェクト)毎にツリーを作成して表示し,作成した文書ファイルを,表示されたツリーの任意のノードに付随させて,サーバコンピュータに保管するもの(同段落3)や,異なる計算機やアプリケーションで共通に取扱うことができるデータ形式として,XML(Extensible Markup Language)等の構造化文書規格があるが,このような構造化文書を木構造として捉えて処理する構造化文書処理システムも提案されていた(同段落4)。
しかし,管理される各種情報の更新については,上記した管理システムにおいても,効率化が十分図られているとはいえず,木構造のノードに含まれる情報は,相互に関連するものが多いが,上記した管理システムにおいては,それぞれの文書の該当する部分を個別に更新する必要があり,十分効率的とはいえなかったことを背景とし(同段落5),上記事情に鑑み,管理すべき情報の更新を,簡単かつ効率的に行うことができるようにすることが,本件発明1の解決しようとする課題と認められる。(同段落7)
そして,本件明細書の発明の詳細な説明において(特に,本件明細書段落9,63,66乃至73を参照。),本件発明1に係る「ノードデータ」に含まれる「代入用スクリプト」によって,「要計算の公開変数の値」が更新され,「「評価」ボタン」の押下によって当該「代入用スクリプト」や「生成スクリプト」などの「スクリプト」が順次実行されることを読み取ることができ,このことにより,当業者が本件発明1の課題である,管理すべき情報の更新を簡単かつ効率的に行うことを解決できると認識できるものである。
したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。

ウ むすび
以上,ア及びイの検討から,特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

(2)本件発明14について
本件発明14は,本件発明1(方法)を引用し,プログラムの発明として特定したものであり,本件発明1と実質的に同じ構成を有するものであるから,本件発明1と同様,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,特許法36条6項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

(3)請求人の主張について
請求人による無効理由4に関する主張は,無効理由3と同じく,専ら本件無効審判事件と関連する侵害訴訟においてなされる,被請求人の主張に基づくものであり,無効理由3と同様に,無効理由4について検討するにあたっては考慮されない。
そして,とりわけ本件発明1の構成要素D及び構成要素Hに関しては,上記無効理由3でも示したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものであって,当該記載により当業者が発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるというべきであるから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。

(4)むすび
以上のとおり,本件発明1及び本件発明14は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるから,特許法36条6項1号の要件を満たさず特許を受けることができない旨の請求人主張の無効理由4によって,無効とすることはできない。


第6 むすび

以上のとおり,本件発明1及び本件発明14に係る特許は,請求人が主張する無効理由1ないし4によって,無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法162条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-07 
結審通知日 2019-06-12 
審決日 2019-06-25 
出願番号 特願2004-235768(P2004-235768)
審決分類 P 1 123・ 536- Y (G06F)
P 1 123・ 537- Y (G06F)
P 1 123・ 113- Y (G06F)
P 1 123・ 121- Y (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長 由紀子  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 山崎 慎一
須田 勝巳
登録日 2005-12-22 
登録番号 特許第3754438号(P3754438)
発明の名称 情報管理方法、情報管理プログラム、及び情報管理装置  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 我妻 崇明  
代理人 和田 祐造  
代理人 森下 梓  
代理人 加藤 伸樹  
代理人 中村 隆夫  
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