• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1371126
審判番号 不服2019-12994  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-30 
確定日 2021-02-08 
事件の表示 特願2017-219036「偏光板、光学フィルムおよび画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月22日出願公開、特開2018- 28696〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-219036号(以下「本件出願」という。)は、平成24年12月27日に出願された特願2012-285424号の一部を、平成29年11月14日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 3月27日 :手続補正書
平成30年10月16日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月15日 :意見書・手続補正書
令和 元年 7月29日付け:拒絶査定
令和 元年 9月30日 :審判請求書
令和 2年 7月31日付け:拒絶理由通知
令和 2年 9月29日 :意見書・手続補正書
(この手続補正書による手続補正を、以下「本件補正」という。)

2 本願発明
本件出願の請求項1?8に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のものである。
「 偏光子の両面に、活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層を介して、第1および第2透明保護フィルムが貼り合わされている偏光板であって、
少なくとも第1透明保護フィルムは、可塑剤およびセルロースエステルを含有してなり、かつ、前記可塑剤が一方の面に偏在している、可塑剤偏在セルロースエステルフィルムであり、
前記可塑剤がリン系可塑剤であり、
前記可塑剤偏在セルロースエステルフィルムにおいて、可塑剤が偏在していない面側から5nmまでの範囲における前記リン系可塑剤中のリン原子に基づく可塑剤の割合(b)が0atomic%であり、
前記可塑剤偏在セルロースエステルフィルムにおいて可塑剤が偏在している面側が、前記接着剤層を介して貼り合わされていることを特徴とする偏光板。」

3 当合議体の拒絶の理由の概要
令和2年7月31日付け拒絶理由通知書において通知した、当合議体の拒絶の理由の概要は、次のものである。
●理由1:(進歩性)本件出願の請求項1?請求項10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献2:国際公開第2006/132105号
引用文献3:特開2009-151289号公報
引用文献4:特開2011-76058号公報
引用文献5:特開2011-236389号公報
引用文献6:特開平1-214802号公報
(当合議体注:引用文献2、4?6は主引用文献であるとともに、周知技術を示すために引用された文献である。また、引用文献3は、周知技術を示すために引用された文献である。)

●理由2:(明確性)本件出願の請求項1?請求項10に係る発明は、明確であるということができないから、本件出願は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献6の記載
引用文献6(特開平1-214802号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「2 特許請求の範囲
偏光素子フィルムと支持フィルムより成る偏光板において、支持フィルムに可塑剤を混入しないTACフィルムを使用したことを特徴とする耐湿熱性に秀れた偏光板。」

イ 「 〔産業上の利用分野〕
本発明は、電子時計、電子卓上計算機、自動車の計器表示板等色々なものの液晶表示板として用いられる耐湿熱性に秀れた偏光板に関するものである。
〔従来の技術〕
従来TACフィルム(三酢酸繊維素フィルム)は、もろさを押さえたり、柔軟性を付与する為に製造時にトリフェニルフォスフェート、ジエチルフタレートなどの可塑剤を混入している。
出願人は偏光板製造メーカーであるが、第1,2図に示す偏光板aにおいて、偏光素子フィルム1を支持する支持フィルム2には普通TACフィルムを使用している。
一般に車載用に使用されるPVA-染料系偏光板は過酷な耐湿熱性を満足しなければならないが、例えば80℃×90%RHの雰囲気下において1000時間程時間経時すると偏光素子フィルムが変色することが度々あった。
〔発明が解決しようとする課題〕
発明者らは、何故上記のように変色するのか色々な角度で追及した結果支持フィルム2に使用したTACフィルムに混合されたトリフェニルフォスフェート,ジエチルフタレートなどの可塑剤が原因しているのではないかと言う結論に達し、可塑剤を混入しないTACフィルムを製造し、この無可塑TACフィルムを支持フィルム2に採用した偏光板aを製造し、変色テストを行ったところ500時間経過しても、1000時間経過しても変色しない偏光板が得られ、本発明を完成した。
〔課題が解決しようとする問題点〕
添付図面を参照し説明すると、偏光素子フィルム1と支持フィルム2より成る偏光板において、支持フィルム2に可塑剤を混入しないTACフィルムを使用したことを特徴とするものである。
〔作 用〕
本発明のTACフィルムは製造の際トリフェニルフォスフェート、ジエチルフタレートなどの可塑剤を混入しない。
従って、柔軟性は従来のTACフィルムよりは稍劣るが、この点は偏光板の偏光素子フィルム1を支持する支持フィルム2として使用する場合には偏光板の実用上の欠点にはならないことが確認された。
そして実験の結果は上記したように温度80℃,湿度90%の雰囲気下で1000時間程度経過しても少しも変色しない秀れた耐湿熱性のあることが証明された。」

ウ 「〔実施例〕
第1図は、偏光素子フィルム1の両側に無可塑TACフィルムを採用した支持フィルム2を接着した偏光板aを図示している。」

エ 「〔発明の効果〕
本発明は上述のように構成したから高湿下において長時間加熱しても変色しない極めて耐湿熱性に秀れた偏光板となり、且つ従来品に比して偏光板としての実用性では何等遜色のない偏光板となる。」

オ 「第2図



(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献6には、実施例として、偏光板aが記載されており、この偏光板の構成がもたらす効果が、同文献の2頁右上の[発明の効果]の箇所に記載されている。そうすると、引用文献6には、次の「偏光板」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「高湿下において長時間加熱しても変色しない極めて耐湿熱性に秀れ、且つ偏光板としての実用性では遜色のない偏光板であって、
偏光素子フィルム1の両側に無可塑TACフィルムを採用した支持フィルム2を接着した偏光板。」
(当合議体注:上記認定では、「偏光板」及び「偏光板a」を、前者に用語を統一した。)

2 対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 偏光子、偏光板
引用発明の「偏光素子フィルム1」は、技術的にみて、本願発明の「偏光子」に相当する。
また、引用発明の「偏光板」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「偏光板」に相当する。

イ 第1透明保護フィルム、第2透明保護フィルム
引用発明の「支持フィルム2」は、「無可塑TACフィルムを採用し」、「偏光素子フィルム1の両側に」「接着した」ものである。
ここで、引用発明の「偏光素子フィルム1の両側」の「支持フィルム2」は、その配置及び光学的機能からみて、「偏光素子フィルム1」を保護する機能を有するフィルムであるとともに、可視光に対して透明であることは明らかである。
そうしてみると、引用発明の「偏光素子フィルム1の両側」の「支持フィルム2」は、それぞれ本願発明における、「第1透明保護フィルム」及び「第2透明保護フィルム」に相当するといえる。

ウ 偏光板(の全体構成)
引用発明の「偏光板」は、「偏光素子フィルム1の両側に」「TACフィルムを採用した支持フィルム2を接着した」ものである。
ここで、引用発明の「偏光素子フィルム1」及び「TACフィルム」は、いずれも、「フィルム」であるから、両者は、貼り合わされているものといえる。また、「TAC」は、「トリアセチルセルロース」の略語と理解されるところ、これが、セルロースエステルに該当することは技術常識である。

以上の点及び上記ア?イの対比結果を総合すると、引用発明の「偏光板」と、本願発明の「偏光板」とは、「偏光子の両面に、」「第1および第2透明保護フィルムが貼り合わされている」及び「少なくとも第1透明保護フィルムは、」「セルロースエステルを含有してな」る「セルロースエステルフィルムであ」る点において共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)によれば、本願発明と引用発明は、次の点で一致する。
「偏光子の両面に、第1および第2透明保護フィルムが貼り合わされている偏光板であって、
少なくとも第1透明保護フィルムは、セルロースエステルフィルムを含有してなる、セルロースエステルフィルムである、
偏光板。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「第1および第2透明保護フィルム」の「貼り合わ」せが、本願発明では、「活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層を介して」行われているのに対して、引用発明では、「接着した」と特定されているにとどまる点。

(相違点2)
「少なくとも第1の透明保護フィルム」が、本願発明では、「可塑剤およびセルロースエステルを含有してなり、かつ、前記可塑剤が一方の面に偏在している、可塑剤偏在セルロースエステルフィルムであり、
前記可塑剤がリン系可塑剤であり、
前記可塑剤偏在セルロースエステルフィルムにおいて、可塑剤が偏在していない面側から5nmまでの範囲における前記リン系可塑剤中のリン原子に基づく可塑剤の割合(b)が0atomic%であり、
前記可塑剤偏在セルロースエステルフィルムにおいて可塑剤が偏在している面側が、前記接着剤層を介して貼り合わされている」のに対して、
引用発明では、「無可塑TACフィルムを採用した」ものであって、可塑剤を用いたものではない点。

(3)判断
技術の関連性に鑑み、相違点1および2をまとめて検討する。
「偏光子とセルロースフィルムを含有する偏光板保護フィルムとを、活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層を介して貼り合わせること、及び、当該接着剤に可塑剤を含有させること」は、例えば、引用文献4(特に、【0035】及び実施例9、11?12等)及び引用文献5(特に、【0042】及び実施例1?28等)に記載されているように、いずれも本件出願前における周知技術といえる。また、引用文献4の【0004】?【0006】、【0012】等の記載によれば、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いて作成された偏光板は、水系接着剤(活性エネルギー線硬化型接着剤と同様周知である。)を用いて作成されたものより、耐熱性に優れていることが理解される。さらに、リン系可塑剤が接着剤用として用いられていることは、本件出願前における当業者の技術常識である。
一方、引用発明の「偏光板」は、「耐湿熱性に優れ」たものであるところ、「偏光素子フィルム1の両側に無可塑TACフィルムを採用した支持フィルム2を接着」する方法については何ら特定されていない。
そうすると、上記周知技術及び技術常識を心得た当業者は、引用発明の「偏光板」の耐熱性をさらに向上させるために、引用発明の上記「接着」する方法として、上記周知技術を採用し、その際、技術常識ともいえる「リン系可塑剤」の使用を試みることは当業者が容易に想到し得ることである。そして、このようにして得られた偏光板は、支持フィルム2の貼り合わせ後、時間の経過とともに、上記リン系可塑剤のうちの一部が、貼り合わされた面を介して、「無可塑TACフィルムを採用した支持フィルム2」側へ移行することになるから、結果として、相違点1及び2に係る本願発明の構成を具備することになる。
(当合議体注:引用発明の改良にあたり、支持フィルム2の前記貼り合わせ面の反対側の面近傍(本願発明の「可塑剤が偏在していない面側から5nmまでの範囲)にまでリン系可塑剤が移行してしまうほど、多量の可塑剤を使用することは、後述する可塑剤に起因する変色を問題視する当業者であれば差し控えると考えられる。)

さらにすすんで検討する。
引用文献6の1頁右下欄7行?2頁左上欄6行の記載からみて、引用発明の「偏光板」において、可塑剤の使用は本来望ましいものとはいえない。しかしながら、接着剤における可塑剤の役割は、例えば、接着剤硬化前の作業性や硬化後の接着層の弾力性(硬度)を調整すること等にあると考えられるから、引用文献6の上記記載は、可塑剤に起因する湿熱環境下での変色を問題視する当業者は、支持フィルム2のような比較的厚い部材において、可塑剤の使用を控え、接着層のような比較的薄い層については、変色の問題が実用上問題にならない範囲内で、その使用を試みるといえる。すなわち、引用文献6の上記記載は、引用発明に周知技術を採用することを妨げる事情とまではいえない。

(4)発明の効果について
本願発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0018】及び【0020】には、以下の記載がある。
「【0018】・・・中略・・・このように本発明の偏光板は、透明保護フィルムであるセルロースエステルフィルムと活性エネルギー線硬化型接着剤を組み合わせているが、セルロースエステルフィルムが可塑剤偏在セルロースエステルフィルムであることから、フィルムに偏在する可塑剤の作用によって活性エネルギー線硬化型接着剤(特に紫外線硬化型接着剤)の浸透力に影響を与え接着力を満足することができる。」
「【0020】
また本発明の偏光板では、接着剤層の形成には、活性エネルギー線硬化型接着剤を使用している。活性エネルギー線硬化型接着剤は、接着剤自体に水分がなく、偏光子におけるPVA‐ヨウ素錯体の破壊を発生させることなく、光学特性(偏光特性)、耐久性に優れた偏光板を提供することができる。」

しかしながら、本願発明の上記効果は、いずれも引用発明に周知技術を採用することによって想到し得る発明が奏する効果であって、当業者が引用発明及び周知技術から予測可能な範囲のものである。

(5)令和2年9月29日の意見書における請求人の主張について
請求人は、上記意見書3頁において、概略、以下の点を主張する。

ア 「可塑剤を本質的に含まない透明保護フィルムを貼り合わせるための活性エネルギー線硬化型接着剤に、可塑剤として、リン系可塑剤を使用することの根拠は何ら示されておらず、当該事項は周知ではないものと思料します。」
イ 「・・・中略・・・セルロースエステルフィルムに予め可塑剤を偏在させておくことにより、偏在面に対する活性エネルギー線硬化型接着剤の浸透(浸み込み)を抑制して、接着力を確保できる効果(実施例1-4)を意味します。他方、審判官殿の指摘のように、仮に、可塑剤を本質的に含まないセルロースエステルフィルムに対して、可塑剤を含む活性エネルギー線硬化型接着剤を使用した場合、活性エネルギー線硬化型接着剤が過剰に浸透してしまい、比較例1-3と同様に、上記の接着力を確保する効果は期待できないものと思料します。」

上記主張について検討する。
(主張アについて)
上記「第2 2(3)」で述べたとおりである。
(主張イについて)
本願発明は製造方法の発明ではないし、製造方法によって特定された物の発明でもない。したがって、上記効果は、引用発明に周知技術を採用することによって想到し得る発明が奏する効果である。
以上によれば、上記主張ア及びイは採用の限りでない。

第3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献6に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論とおり審決する。


 
審理終結日 2020-12-10 
結審通知日 2020-12-11 
審決日 2020-12-25 
出願番号 特願2017-219036(P2017-219036)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 里村 利光
河原 正
発明の名称 偏光板、光学フィルムおよび画像表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ