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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1371511
審判番号 不服2020-2576  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-26 
確定日 2021-02-25 
事件の表示 特願2018-152252「石炭用酸化防止剤及び石炭の酸化防止方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月20日出願公開、特開2020- 26489〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年8月13日の出願であって、令和元年6月14日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年11月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月22日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同月26日)、これに対して、令和2年2月26日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年4月8日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 令和2年2月26付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年2月26日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
特許法第17条の2第1項第4号に該当する手続補正である、令和2年2月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、その内容は下記の補正前の請求項1?4の記載を、下記の補正後の請求項1?6の記載に改める補正からなるものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲(すなわち、令和元年11月12日付け手続補正書の請求項1?4)
「 【請求項1】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションと、ノニオン系、カチオン系、又は両性系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤。
【請求項2】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下である水中油滴型樹脂エマルション(但し、平均粒子径が0.6μmである水中油滴型樹脂エマルションを除く)と、アニオン系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤。
【請求項3】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションと、ノニオン系、カチオン系、又は両性系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤を石炭堆積物に散布する、石炭の酸化防止方法。
【請求項4】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下である水中油滴型樹脂エマルション(但し、平均粒子径が0.6μmである水中油滴型樹脂エマルションを除く)と、アニオン系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤を石炭堆積物に散布する、石炭の酸化防止方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲(すなわち、令和2年2月26日付け手続補正書の請求項1?6)
「 【請求項1】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションと、カチオン系、又は両性系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤。
【請求項2】
エマルション粒子の平均粒子径が0.5μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションと、ノニオン系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤。
【請求項3】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μmである水中油滴型樹脂エマルションと、アニオン系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤。
【請求項4】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションと、カチオン系、又は両性系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤を石炭堆積物に散布する、石炭の酸化防止方法。
【請求項5】
エマルション粒子の平均粒子径が0.5μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションと、ノニオン系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤を石炭堆積物に散布する、石炭の酸化防止方法。
【請求項6】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μmである水中油滴型樹脂エマルションと、アニオン系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤を石炭堆積物に散布する、石炭の酸化防止方法。」(以下、「本件補正発明1」?「本件補正発明6」、まとめて、「本件補正発明」ともいう。)

2.補正要件についての判断
本件補正は、新たに請求項5、6を追加し、いわゆる増項補正を行っているから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる「第36条第5項に規定する請求項の削除」、同3号に掲げる「誤記の訂正」及び、同4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的としているものとはいえない。
しかし、増項補正は、(ア)n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更する補正、又は(イ)発明特定事項が択一的なものとして記載された一つの請求項について、その択一的な発明特定事項をそれぞれ限定して複数の請求項に変更する補正、という格別な事情のある場合を除き、特許請求の範囲を減縮する補正に該当しないというべきであるところ、本件補正は、補正前の請求項1のノニオン系、カチオン系、又は両性系の界面活性剤という択一的な発明特定事項を限定するとともに、その含有量を限定せずに又は限定して、補正後の請求項1及び2とするものであるから、前記(イ)に示すような格別な事情があると一応は認められる。
そして、本件補正の前後の両請求項1を対比すると、本件補正は、補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「ノニオン系、カチオン系、又は両性系の界面活性剤」という択一的な発明特定事項について、「カチオン系、又は両性系の界面活性剤」に限定するものであって、補正前後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものといえる。
また、本件補正前の請求項1と補正後の請求項2を対比すると、本件補正は、補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「ノニオン系、カチオン系、又は両性系の界面活性剤」という択一的な発明特定事項について、「ノニオン系の界面活性剤」に限定し、含有量を「0.3μm以上1.0μm以下」から「0.5μm以上1.0μm以下」に限定するものであって、補正前後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものといえる。
そこで、上記本件補正発明1及び2が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(すなわち、いわゆる独立特許要件を満たすか)について以下検討する。

4.独立特許要件の検討
(1)引用刊行物及びその記載事項
刊行物A:特開2013-203525号公報(原査定の引用文献1)
刊行物B:特開平2-88695号(周原査定の引用文献2)
刊行物C:特開2000-96040号公報(原査定の引用文献3)
刊行物D:特開平10-259390号公報(原査定の引用文献4)
刊行物E:特開昭49?31589号公報(原査定の引用文献5)

A.刊行物A
原査定で引用された本願出願日前に頒布された刊行物Aには、次の記載がある。
(1a)「【請求項1】
野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇を防止する方法において、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3?3μmで、標準偏差が0.2μm以上の粒度を有するエマルジョン樹脂溶液を野積み堆積物に散布することを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【請求項2】
請求項1において、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3?0.6μmであることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【請求項3】
請求項1又は2において前記エマルジョン樹脂がアクリル系共重合樹脂であることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記野積み堆積物が、石炭の野積み堆積物であることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。」
(1b)「【0024】
本発明で用いるエマルジョン樹脂溶液は、通常、上述のようなエマルジョン樹脂の水性エマルジョンであるが、その固形分濃度としては、20?60重量%程度であることがエマルジョン樹脂溶液の粘度及び経済性の面から好ましく、このような濃度の水性エマルジョンを水で5?30重量%程度の固形分濃度に希釈して野積み堆積物に散布することが好ましい。」
(1c)「【0034】
【表1】




B.刊行物B
原査定で引用された本願出願日前に頒布された刊行物Bには、次の記載がある。
(2a)「2.特許請求の範囲
(1)多数個の石炭に被覆処理剤を付着せしめて石炭の取扱管理を行う方法において、被覆処理剤として油中水型水膨潤性重合体のエマルジョン又はその水分散物を用いることを特徴とする石炭の取扱管理方法。
・・・
(4)石炭の取扱管理が、石炭の自然発火の防止であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の石炭の取扱管理方法。
(5)石炭の取扱管理が、石炭粉の飛散の防止であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の石炭の取扱管理方法。
・・・」
(2b)「このように本発明の被覆処理剤は、石炭の表面ないしその塊粒子間に存在し、外気の接触、外気の浸透・通り抜けを妨げる。該被覆処理剤はこの「空気遮断作用」によって、石炭の酸化と酸化に起因する風化・分解そして発熱及び自然発火等を阻止する。同時に、該被覆処理剤は被覆層状となって存在するため、石炭粉の飛散を防止する。」第5ページ左下欄第14?20行)

C.刊行物C
原査定で引用された本願出願日前に頒布された刊行物Cには、次の記載がある。
(3a)「【請求項1】 下記A成分とB成分からなることを特徴とする石炭の貯蔵安定化剤。
〈A成分〉
ポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤 100重量部
スルホン酸塩型又はカルボン酸塩型アニオン界面活性剤 3?30重量部
分子量500以下の2?5価のポリオール 10?100重量部
〈B成分〉
ガラス転移温度が-30?30℃の高分子エマルジョン」
(3b)「【0017】本発明の石炭の貯蔵安定化剤は、石炭ヤードに貯蔵された石炭に散布される。本発明において、A成分とB成分とを、所定の濃度に調整混合して石炭に散布することにより、高い表面硬度と厚い石炭膜を形成することができ、自然酸化防止、発塵防止に高い効果が得られる。A成分とB成分を混合する場合は、A成分とB成分の重量比は9/1?4/6が好ましく、特に好ましくは8/2?5/5という広い範囲で混合して用いることができる。」

D.刊行物D
原査定で引用された本願出願日前に頒布された刊行物Dには、次の記載がある。
(4a)「【請求項1】 撥水性塗布剤中の界面活性剤含有量を、野積み石炭中の細粒炭混合率に応じて、調整含有せしめた組成物を石炭山に被覆することを特徴とする野積み石炭の表面被覆方法。」
(4b)「【0002】
【従来の技術】従来、野積み石炭の発塵防止、あるいは劣化および自然発火防止、更には豪雨による石炭の流出防止、水分の変化防止等を目的として野積み石炭の被覆剤として各種薬剤を散布する技術が提案されている。例えば、特公昭60-48412号に開示されているごとく、野積み石炭山にセメントミルクを散布コーティングしてセメント被膜を形成した後、耐水性樹脂水溶液を散布コーティングする方法や、特公昭60-54349号のごとくセメントミルクと高分子樹脂とを水に分散させた樹脂エマルジョンを石炭山に散布して硬化させる方法が提案されている。」

E.刊行物E
原査定で引用された本願出願日前に頒布された刊行物Eには、次の記載がある。
(5a)「2 特許請求の範囲
酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー、ビニリデン系ポリマー、ポリブデンあるいはSBR系、NBR系、MBR系ラテックスからなる群から選ばれる水不溶性ポリマーのエマルジョンと界面活性剤の固形分比90:10?20:80の混合物を野外集積粉体の表面に0.01?0.1kg/m^(2)(散布固形分量/積上粉体表面積)の割合で散布することを特徴とする野積粉体の安定化方法。」
(5b)「実施例 1
米国産強粘結炭(カサ比重0.78g/ml)で次の粒度分布を有するものを用いて飛散防止効果を測定した。
3?1.2mm 6.0%
1.2?0.8 8.0
0.8?0.29 50.0
0.29?0.149 28.0
0.149?0.074mm 14.0
0.074mm以下 14.0
この粉体を16×22cm深さ2cmの容器に550gとり、37°に傾斜させ、その表面積350cm^(2)に対し飛散防止剤の0.1?5.0%水溶液を35ml散布して天日で充分乾燥した後、圧搾空気を10m/secの風速で10分間粉体上に吹きつけ、残存する粉体の量を測定して飛散量及び飛散率を算出した。結果を表1に示す。
・・・
実施例 2
実施例1と同様に粉体表面に飛散防止剤を散布して天日で充分乾燥した後、平均50mm/Hrの強い雨に12時間さらして再び天日で充分乾燥してから実施例1と同様に風速10m/secの風による飛散率を測定した。結果を表2に示す。
表2

」(第2ページ左下欄第13行?第5ページ下欄)

(2)刊行物Aに記載された発明
上記刊行物Aの実施例2には、「ポリマー粒子の平均粒子径が0.56μmであるアクリルエステル共重合樹脂からなるエマルジョン樹脂溶液からなる石炭の野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止剤」(以下、「引用発明」という。)が、記載されている(摘記1a、1c参照)。

(3)対比・判断
ア.本件補正発明1
(ア)本件補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリマー粒子の平均粒子径が0.56μmであるアクリルエステル共重合樹脂からなるエマルジョン樹脂溶液」は、エマルジョン樹脂溶液は、エマルジョン樹脂の水性エマルジョンであるから(摘記1b参照)、本件補正発明1の「エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルション」に相当する。
そうすると、本件補正発明1と引用発明は、「エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションを含有する剤。」である点で一致し、下記の点で相違する。

<相違点1>
本件補正発明1は石炭用酸化防止剤であるのに対し、引用発明は石炭の野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止剤である点。

<相違点2>
本件補正発明1はカチオン系又は両性系の界面活性剤を含むのに対し、引用発明1はそのような特定がない点。

(イ)相違点の検討
<相違点1>について
野積み石炭に対して樹脂エマルションを含む薬剤を散布して皮膜を形成することで、発塵の防止及び/または水分の変化防止と自然酸化防止を行うことは周知であるから(摘記2b、3b、4b参照)、引用発明において、エマルジョン樹脂溶液からなる発塵及び/又は水分上昇の防止剤を酸化防止剤とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2>について
刊行物Eには、野積み強粘結炭(石炭に相当)に散布して皮膜を形成する樹脂エマルションを含む薬剤に、カチオン系、両性系界面活性剤を配合することにより樹脂の浸透性や皮膜の形成性が向上し、石炭の飛散防止効果を向上させることが記載されている(摘記5b参照)。
そうすると、引用発明において、エマルジョン樹脂溶液に、カチオン系、両性系の界面活性剤を配合し、発塵の防止及び/または水分の変化防止と自然酸化防止を行うものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)本件補正発明1の効果について
刊行物Eには、野積み石炭に散布して皮膜を形成する樹脂エマルションを含む薬剤に、カチオン系、両性系界面活性剤を配合することにより樹脂の浸透性や皮膜の形成性が向上することが、記載されていることから、本願明細書の記載からみて、本件補正発明が、上記相違点に基づいて、当業者でも予測し得ない効果や格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

(エ)審判請求人の主張に対して
請求人は、令和2年4月8日付け手続補正書により補正された審判請求書において、「そこで、出願人は、請求項1、4に係る発明について、界面活性剤を、カチオン系、又は両性系に限定しました。
ここで、引用文献5において、湿潤性、浸透性が改善されて造膜性、接着性を発揮しているのが確認されているのは、ノニオン系の界面活性剤であるPOEノニルフェニルエーテルを用いた場合のみです。
本願の請求項1、4に係る発明においては、カチオン系、又は両性系の界面活性剤を用いる場合に、界面活性剤を用いない場合に比べて堆積物の内部への酸素透過量を抑制することができるという引用文献1及び引用文献2?5から予測されない格別の効果を奏します。」と主張している。
しかし、刊行物Eにおいて、湿潤性、浸透性が改善されて造膜性、接着性を発揮しているのが確認されているのは、カチオン系又は両性系の界面活性剤を用いる場合もある(前記摘記5bにおける表2を参照。)。
よって、請求人の主張は採用できない。

(オ)小括
したがって、本件補正発明1は、刊行物A?Eに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

イ.本件補正発明2
(ア)本件補正発明2と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリマー粒子の平均粒子径が0.56μmであるアクリルエステル共重合樹脂からなるエマルジョン樹脂溶液」は、エマルジョン樹脂溶液は、エマルジョン樹脂の水性エマルジョンであるから(摘記1b参照)、本件補正発明2の「エマルション粒子の平均粒子径が0.5μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルション」に相当する。
そうすると、本件補正発明2と引用発明は、「エマルション粒子の平均粒子径が0.5μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションを含有する剤。」である点で一致し、下記の点で相違する。

<相違点3>
本件補正発明2は石炭用酸化防止剤であるのに対し、引用発明は石炭の野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止剤である点。

<相違点4>
本件補正発明2はノニオン系の界面活性剤を含むのに対し、引用発明1はそのような特定がない点。

(イ)相違点の検討
<相違点3>について
野積み石炭に対して樹脂エマルションを含む薬剤を散布して皮膜を形成することで、発塵の防止及び/または水分の変化防止と自然酸化防止を行うことは周知であるから(摘記2b、3b、4b参照)、引用発明において、エマルジョン樹脂溶液からなる発塵及び/又は水分上昇の防止剤を酸化防止剤とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点4>について
刊行物Eには、野積み強粘結炭(石炭に相当)に散布して皮膜を形成する樹脂エマルションを含む薬剤に、POEノニルフェニルエーテルのようなノニオン系界面活性剤を配合することにより樹脂の浸透性や皮膜の形成性が向上し、石炭の飛散防止効果を向上させることが記載されている(摘記5b参照)。
そうすると、引用発明において、エマルジョン樹脂溶液に、ノニオン系の界面活性剤を配合し、発塵の防止及び/または水分の変化防止と自然酸化防止を行うものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)本件補正発明2の効果について
刊行物Eには、野積み石炭に散布して皮膜を形成する樹脂エマルションを含む薬剤に、ノニオン系界面活性剤を配合することにより樹脂の浸透性や皮膜の形成性が向上することが、記載されていることから、本願明細書の記載からみて、本件補正発明が、上記相違点に基づいて、当業者でも予測し得ない効果や格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

(エ)審判請求人の主張に対して
請求人は、令和2年4月8日付け手続補正書により補正された審判請求書において、「ここで、エマルションの平均粒子径が0.3μmの場合、ノニオン系の界面活性剤を添加しても(実施例2?3)、界面活性剤を添加しない場合(実施例1)と比べて酸化防止能に特に大きな向上効果は見られません。
一方でエマルションの平均粒子径が0.6μmの場合、ノニオン系界面活性剤を添加しても(実施例7?8)、界面活性剤を添加しない場合(実施例6)と比べて酸化防止能に非常に大きな向上効果が見られ、酸素削減率を90%以上にすることができます。
さて、本願の請求項2、5に係る発明では、引用文献1のように「野積み」のものに限られず、炭鉱、製鉄所、発電所等の石炭置き場(ヤード、サイロ等)、すなわち、「室内」に置くことも想定しています(本願明細書の段落[0001])。
「野積み」であれば、外気の入れ替わりが激しく、それによって発熱した熱が外気に奪われるので多少の発熱があっても火災が起こりえないのですが、例えば室内では外気の入れ替わりは少なく、したがって外気によって奪われる熱も少なく、熱が蓄積されやすい環境にあります。そして、このようにして「室内」で熱が蓄積されると、火災に発展します。
したがって、特に、「室内」で使用する場合には、酸素削減率を大幅に高める必要がありました。
そして、本願の請求項2、5に係る発明では、このような観点から、エマルションの平均粒子径と、界面活性剤の種類に着目し、所定の組み合わせに想到し得たものであり、その結果として、酸素との反応を何も処理しない場合に比べて1/10以下にまで抑制し、したがって、火災のリスクを1/10以下にできます。
これに対し、引用文献1では、「野積み」の石炭しか対象にしておらず(引用文献1の段落[0018])、また、石炭の酸化防止については着目しておりません。さらに、引用文献1には、界面活性剤を添加することについて記載されていません。
一方で、引用文献2?5には、界面活性剤を添加することについては記載されておりますが、エマルションの平均粒径については記載されていません。
したがって、エマルション粒子の平均粒子径を0.5μm以上1μm以下とし、これにノニオン系界面活性剤を組み合わせることにより、酸素削減率を大幅に高め、酸素削減率を90%以上になるという効果は、引用文献1及び引用文献2?5からは予測されない格別の効果と思料致します。」と主張する。
上記主張について検討する。
請求人が主張するとおり、平均粒子径が0.6μmであり界面活性剤を用いない実施例6、平均粒子径が0.3μmでありノニオン系の界面活性剤を用いた実施例2の酸素削減率がそれぞれ41.7%、49.4%であるのに対し、平均粒子径が0.6μmでありノニオン系の界面活性剤を用いた実施例7の酸素削減率は98.1%と非常に高くなっている。
しかしながら、本件補正発明2は発明特定事項として酸素削減率を特定しているわけではないから、請求人の主張は請求項の記載に基づくものといえない。
また、「野積み」と「室内」の石炭置き場について、本件補正発明2は「石炭用酸化防止剤」というものの発明であって、その石炭堆積物の場所が限定されるものでないから、室内での酸素削減率を大幅に高める必要があることの主張は請求項の記載に基づくものではないから、参酌されない。
よって、請求人の主張は採用できない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、その余の事情(同法第17条の2第4項の要件など)を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願発明は、令和元年11月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1は次のとおりである。
「 【請求項1】
エマルション粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.0μm以下である水中油滴型樹脂エマルションと、ノニオン系、カチオン系、又は両性系の界面活性剤とを含有する石炭用酸化防止剤。」(以下、「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、「令和元年6月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由」であって、要するに、この出願の請求項1?4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

そして、該拒絶の理由において引用された刊行物は次のとおりである。

<引用文献等一覧>

1.特開2013-203525号公報
2.特開平2-88695号
3.特開2000-96040号公報
4.特開平10-259390号公報
5.特開昭49?31589号公報

3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1?5は、上記刊行物A?Eにほかならず、刊行物A?Eの記載事項は、前記「第2 4(1)A?E」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2 1(1)」で検討した本件補正発明1の「カチオン系、又は両性系の界面活性剤」との事項及び本件補正発明2の「ノニオン系の界面活性剤」が「ノニオン系、カチオン系、又は両性系の界面活性剤」に拡張されたものであり、本件補正発明2の界面活性剤の含有量が「0.5μm以上1.0μm以下」から「0.3μm以上1.0μm以下」に拡張されたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記事項によって限定したものに相当する本件補正発明1及び本件補正発明2が、前記「第2 4(7)」に記載したとおり、当該刊行物A?Eに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当該刊行物A?Eに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-12-09 
結審通知日 2020-12-15 
審決日 2021-01-05 
出願番号 特願2018-152252(P2018-152252)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C10L)
P 1 8・ 57- Z (C10L)
P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上坊寺 宏枝  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 瀬下 浩一
木村 敏康
発明の名称 石炭用酸化防止剤及び石炭の酸化防止方法  
代理人 新山 雄一  
代理人 林 一好  
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