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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C01G 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C01G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01G |
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管理番号 | 1371691 |
異議申立番号 | 異議2019-700709 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-09-06 |
確定日 | 2021-01-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6479634号発明「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6479634号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6479634号の請求項1?3、5に係る特許を維持する。 特許第6479634号の請求項4、6?12に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6479634号に係る出願は、平成27年11月30日を出願日とする出願であって、平成31年 2月15日にその請求項1?12に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年 3月 6日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 1年 9月 6日付けで特許異議申立人金澤 毅(以下、「異議申立人」という。)により甲第1?10号証を添付して特許異議の申立がされ、同年11月27日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である令和 2年 2月25日付けで特許権者より参考資料1?9を添付して意見書の提出並びに訂正の請求がされ、同年 4月 2日付けで異議申立人より意見書が提出され、同年 6月 2日付で当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年 9月 4日付けで特許権者より意見書の提出並びに訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年10月28日付けで異議申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。 第2 本件訂正請求による訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1?6からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 なお、令和 2年 2月25日付けの訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に 「以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。」 と記載されているのを、 「以下の式(1)で表されるリチウムイオン電池正極活物質用ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項1に 「(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮することにより、圧縮成形体を得る工程。」 と記載されているのを、 「(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮することにより、圧縮成形体を得る工程であり、上記混合物を10kN以上での押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する工程。」 に訂正する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項1に 「(工程3)工程2を経た混合物の圧縮成形体を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより焼成体を得る工程。」 と記載されているのを、 「(工程3)工程2を経た混合物の圧縮成形体を600℃?810℃の温度域で3?40時間焼成することにより焼成体を得る工程であって、ここで780℃以上に昇温して焼成する、工程。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項2に 「工程2で工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を10kN以上の荷重をかけて圧縮する、」 と記載されているのを、 「工程2で工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を25?400kNの荷重をかけて圧縮する、」 に訂正する。 (5)訂正事項5 請求項4、6、7、8、9、10、11、12を削除する。 (6)訂正事項6 本件訂正前の請求項5に 「請求項1?4のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。」 と記載されているのを 「請求項1?3のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。」 に訂正する。 本件訂正前の請求項2?5、7?12は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用するものであり、また、本件訂正前の請求項7?12は、いずれも直接的又は間接的に請求項6を引用するものであり、本件訂正前の請求項7?12は請求項1、6を引用することから、本件訂正前の請求項1?12は一群の請求項である。 そして、訂正事項1?6の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項1?12に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の用途を「リチウムイオン電池正極活物質用」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書には、 「【0061】 表1の結果が示すように、本発明の製造方法で得られたニッケルリチウム金属複合酸化物をリチウムイオン電池の正極活物質として用いた場合には、優れた放電容量と初期効率が達成される。…」(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。) と記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「工程2」における圧縮の圧力が明らかでなかったのを、「混合物を10kN以上での押圧力によって」「成形する」ものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項2による訂正は、上記「工程2」を、「混合物を10kN以上での押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する」ものとして更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書には、 「【0043】 (工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮する工程である。…上記混合物の後述の工程3(焼成工程)への搬送が容易である点で、このような圧縮操作としては、造粒機、ペレット成形機、または打錠機を用いて、上記混合物を10kN以上、好ましくは25?400kN、さらに好ましくは50?250の押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する、いわゆる造粒、ペレット成形、打錠が好ましい。…」 と記載されているから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「工程3」における焼成の温度域が「500℃?850℃」であったのを「600℃?810℃」に限定し、更に、「工程3」を「780℃以上に昇温して焼成する」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書には、 「【0045】 (工程3) 工程2で得られた圧縮成形体を焼成する工程である。本発明の焼成工程では、500℃?850℃の温度域、好ましくは600℃?810℃の温度域で、通常は3?40時間、好ましくは5?35時間焼成する。…」 と記載されているから、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の「荷重」が「10kN以上」であったのを「25?400kN」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記(2)の願書に添付した明細書の【0043】によれば、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は請求項4、6、7、8、9、10、11、12を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)訂正事項6について 訂正事項6による訂正は、訂正事項5による訂正に伴って、請求項5において選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではないこと、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかである。 (7)申立人意見書について (ア)異議申立人は、本件訂正について、申立人意見書において、訂正事項3による訂正の根拠とされた願書に添付した明細書の【0054】?【0056】には、それぞれ、「工程2で得られたペレットを毎分5リットルの純酸素を供給しながら810℃で10時間焼成した。」、「工程2で得られたペレットを…その後昇温して810℃で5時間焼成した。」、「工程2で得られたペレットを…その後昇温して780℃で5時間焼成した。」のように記載されているに過ぎず、焼成温度を780℃以上とすることは記載されていないから、願書に添付した明細書の記載は、780℃、または810℃以外の温度範囲を含むものではなく、「780℃以上に昇温して焼成」するものとする訂正事項3は新規事項の追加に当たる旨を主張している。 (イ)そこで、上記(ア)の主張について検討すると、例えば上記(3)の【0045】によれば、願書に添付した明細書には、「工程3」の焼成温度が780℃や810℃よりも高温の850℃までの温度域を含むことが記載されているから、「工程3」を「780℃以上に昇温して焼成」するものとする訂正事項3は新規事項の追加に当たるものではないので、異議申立人の上記(ア)の主張は採用できない。 なお、本件においては、訂正前の全ての請求項1?12について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 小括 以上のとおりであるので、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正を認める。 第3 本件特許発明 本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?3、5に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3、5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 リチウム原料として炭酸リチウムを使用し、 以下の工程1及び/又は工程1’と、工程2と、工程3とを含む、 以下の式(1)で表されるリチウムイオン電池正極活物質用ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 (工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮することにより、圧縮成形体を得る工程であり、上記混合物を10kN以上での押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する工程。 (工程3)工程2を経た混合物の圧縮成形体を600℃?810℃の温度域で3?40時間焼成することにより焼成体を得る工程であって、ここで780℃以上に昇温して焼成する、工程。 【化1】 (式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。) 【請求項2】 工程2で工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を25?400kNの荷重をかけて圧縮する、請求項1に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 【請求項3】 工程2で造粒機、ペレット成形機、または打錠機を用いて工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮する、請求項1又は2に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 工程3の後に、工程3で得られた焼成体を解砕する工程及び/又は工程3を経た焼成体を篩掛する工程をさらに含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】(削除) 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】(削除)」 第4 特許異議申立書に記載された特許異議申立理由の概要 1 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について 甲第1号証:特開2010-70431号公報 甲第2号証:特開2015-128004号公報 甲第3号証:特開2009-215143号公報 甲第4号証:特開2010-9967号公報 甲第5号証:特開平11-135118号公報 甲第6号証:特開2005-251756号公報 甲第7号証:国際公開第2013/084923号 甲第8号証:特開2015-122298号公報 甲第9号証:特開平11-260401号公報 甲第10号証:特開2009-245911号公報 (1)甲第1号証を主引用例とする場合について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、または甲第1号証に記載された発明と、甲第5?6号証に記載される、本件特許の出願日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2、3、6?12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第5?6号証に記載される、本件特許の出願日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)甲第2号証を主引用例とする場合について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6?12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明と本件特許の出願日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)第1の理由 本件特許明細書の実施例には、特定の1つの組成の例が開示されているのみであり、その組成ですら開示されておらず、本件訂正前の特許請求の範囲の発明特定事項を充足しているかが明らかでない。 そして、実施例で開示された明らかではない特定の組成の例以外において本件特許に係る発明の課題を解決できるか否かは明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。 (2)第2の理由 本件特許明細書の比較例において、放電容量や初期効率が実施例よりも劣るのは、ペレット成形を行っていないためなのか焼成温度が低いためであるのかが明らかでなく、リチウム金属複合酸化物の焼成温度が放電容量に影響を及ぼすことは本件特許の出願日における技術常識であり、上記実施例と比較例との比較や技術常識に照らして、本件特許に係る発明の課題を解決するためには、少なくとも「工程3」において混合物の圧縮成形体を焼成する際の最高温度が780℃以上810℃以下の範囲にあることは必須の要件であり、係る発明特定事項を含まない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項2?5、7?12に係る発明は、本件特許明細書に開示された範囲を超えており、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。 3 特許法第36条第6項第2号(明確性)について (1)第1の理由 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「工程2」においてどの程度の圧縮力で圧縮するのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項2?5、7?12に係る発明は明確でない。 (2)第2の理由 電解液の種類やセパレータを特定していない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4及び6に係る発明及びこれらを直接的または間接的に引用する同請求項5、7?12に係る発明は、放電容量や充放電効率がどのような条件下における放電容量や充放電効率を意味しているのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4?12に係る発明は明確でない。 第5 取消理由の概要 1 令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について 令和 2年 2月25日付けの訂正請求(以下、「一次訂正請求」という。)により訂正された特許請求の範囲の請求項4、6において、「0.1C放電容量」や「初回の充放電効率」を測定する際の電解液の組成やセパレータの材質・構造が特定されているとはいえないので、上記請求項4、6に係る発明、及び、これを直接的又は間接的に引用する同請求項5、8?12に係る発明は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を一義的に特定したことにはならないので、明確でない。 2 令和 1年11月27日付け取消理由通知書の取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について (ア)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明において、「混合物」をどの程度の圧力で圧縮するのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項2?5、7?12に係る発明は明確でない。 (イ)「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の「圧縮成形体」について、リチウムイオン電池とすることのみが特定され、電解液の組成やセパレータの材質・構造が特定されない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4及び6に係る発明及び上記請求項6を直接的または間接的に引用する同請求項7?12に係る発明により、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の「圧縮成形体」を一義的に特定したことにはならないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4、6?12に係る発明は明確でない。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (ア)本件特許明細書の【0004】?【0019】によれば、本件特許に係る発明は、リチウムイオン電池の正極活物質として用いられる「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を、炭酸リチウムを唯一のリチウム源として製造した場合、リチウムイオン電池の放電容量や初期効率の点で、満足できる性能が得られていなかった、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項2、3、5に係る発明においては、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」がリチウムイオン電池に用いられることが特定されていないから、本件課題とは無関係の「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」も包含するので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、3、5に係る発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 (イ)本件特許明細書には、本件特許明細書の【0054】?【0062】に記載される実施例1?3(以下、「本件実施例」という。)により製造された「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成が記載されていないから、本件実施例において、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5、7?12に係る発明で特定される組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物粉体」が製造されているとはいえないので、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5、7?12に係る発明により本件課題を解決できることを認識できない。 (ウ)本件実施例の工程からみれば、本件実施例により製造された「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成は一種類のみであって、かつ、本件特許明細書には、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5、7?12に係る発明により本件課題を解決する際の機序が記載されるものでもないから、仮に、本件実施例において、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5、7?12に係る発明で特定される組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が製造されているとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件実施例により製造された一種類の組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」から、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5、7?12に係る発明で特定される全ての組成範囲の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」に拡張ないし一般化して本件課題を解決できることを認識できない。 (エ)本件実施例においては、混合物をペレット成形してから780℃または810℃の温度で焼成しているが、リチウム金属複合酸化物を焼成する際の温度が放電容量に影響を及ぼすことは本件特許の出願日において周知の技術であり、当業者は、焼成温度を本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5、7?12で特定される500℃とした場合でも本件課題を解決できることを認識できない。 (オ)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項8?12に係る発明においては、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明において特定される工程により製造されたものであることが特定されておらず、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6、8?12に係る発明により本件課題を解決できることを認識できない。 (3)特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明といえるか、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 取消理由についての当審の判断 1 令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由について (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について 本件訂正により特許請求の範囲の請求項4、6、8?12は削除され、請求項5は請求項1?3のいずれか1項を引用するものとなったから、上記第5の1(1)の取消理由は対象となる請求項が存在しないので、理由がない。 なお、令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)には、以下の審尋が付記されている。 (ア)本件特許明細書においては、一次訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項を満たすように調製した「ニッケルリチウム金属複合酸化物」により、本件課題を解決するものとされている。 (イ)ここで、甲第1号証(【0040】?【0042】)、甲第2号証(【0047】?【0051】)によれば、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を650℃?680℃以下の温度で焼成した場合、未反応のリチウム化合物が残留する、あるいは得られるリチウム複合ニッケル酸化物の結晶性が低くなり、これを用いてリチウム二次電池を構成しても、得られるリチウム二次電池の電池性能が低下する、とか、その結晶が未発達で構造的に不安定であり充放電による相転移などにより容易に構造が破壊されてしまう、といったものとなるのであり、この場合、本件課題を解決できるものとは考え難いから、本件特許に係る発明において本件課題を解決できる「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の焼成温度は、少なくとも650℃?680℃程度以上であると推認される。 (ウ)また、本件実施例からは、「混合物の圧縮成形体」を650?680℃程度以下で焼成した場合に本件課題を解決できるものと直ちには理解できないのに対して、一次訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「(工程3)」における「混合物の圧縮成形体」を焼成する際の温度は「600℃?810℃」であり、上記請求項1に係る発明は、「混合物の圧縮成形体」を650℃?680℃程度以下で焼成するものを包含するものであって、このことと上記(イ)によれば、上記請求項1に係る発明は本件課題を解決できないものを包含する、との疑義がある。 (エ)また、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を焼成する温度が放電容量等に影響を及ぼすことは本件特許の出願日において周知の技術であって、本件実施例の焼成温度からみれば、上記請求項1に係る発明は、焼成の最高温度を少なくとも780℃とすることで、「0.1C放電容量」及び「初回の充放電効率」が優れたものとなるとも推認されるものである。 そうすると、上記請求項1に係る発明において本件課題を解決するためには、焼成の最高温度を少なくとも780℃とする必要があるとも推認されるので、「(工程3)」における「混合物の圧縮成形体」を焼成する際の温度が「600℃?810℃」である上記請求項1に係る発明は本件課題を解決できないものを包含する、との疑義がある。 (オ)そこで、上記審尋について検討すると、本件発明1の「工程3」は、「圧縮成形体」を少なくとも780℃以上に昇温して焼成するものであり、650℃?680℃程度以上の温度で焼成するものといえる。 そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「圧縮成形体」を少なくとも780℃以上に昇温して焼成する「工程3」を有する本件発明1?3、5により本件課題を解決できることを認識できるから、上記審尋における(ウ)?(エ)の疑義は解消した。 (2)小括 したがって、令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由は理由がない。 2 令和 1年11月27日付け取消理由通知書の取消理由について (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について (ア)本件発明1は、「(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮することにより、圧縮成形体を得る工程であり、上記混合物を10kN以上での押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する工程。」との発明特定事項を有するものである。 また、本件特許明細書の【0043】には、以下の記載がある。 「【0043】 (工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮する工程である。ここでいう「圧縮」は、工程1及び/又は工程1’で得られた混合物の二次粒子が破壊されない状態で二次粒子間の空隙が最も減少した状態になるまで上記混合物を押圧する操作を指す。上記混合物の後述の工程3(焼成工程)への搬送が容易である点で、このような圧縮操作としては、造粒機、ペレット成形機、または打錠機を用いて、上記混合物を10kN以上、好ましくは25?400kN、さらに好ましくは50?250の押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する、いわゆる造粒、ペレット成形、打錠が好ましい。上記混合物の圧縮後の形状や大きさは特に制限されないが、後の焼成工程で効率よく均一に加熱される点、取扱性が良い点で、最長径が0.3mm?15mmのペレットあるいは錠が好ましい。」 そして、上記本件特許明細書の記載に接した当業者は、「工程2」の「圧縮」が、造粒機、ペレット成形機、または打錠機を用いて、混合物をグラニュール乃至錠形に成形する、という通常行われる操作をいい、二次粒子が破壊されない状態で二次粒子間の空隙が最も減少した状態は、混合物がグラニュール乃至錠形に成形された状態をいうものに過ぎず、このときの好ましい押圧力が10kN以上であることを理解できるから、「工程2」は明確であるというべきである。 更に、このことは、「混合物の二次粒子が破壊されない状態で二次粒子の空隙が最も減少した状態になるまで上記混合物を押圧する」ための圧力の算出方法が本件特許の出願日における技術常識ではないことや、「N」が力の単位であることに左右されるものではないから、本件発明1及び本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2、3、5は明確であるというべきである。 したがって、上記第5の2(1)(ア)の取消理由は理由がない。 (イ)本件訂正により特許請求の範囲の請求項4、6?12は削除されるものとなったから、上記第5の2(1)(イ)の取消理由は対象となる請求項が存在しないので、理由がない。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (ア)本件発明1及び本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2、3、5は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の用途が「リチウムイオン電池正極活物質用」に特定されたので、上記第5の2(2)(ア)の取消理由は理由がない。 (イ)上記第5の1(2)(ア)によれば、本件発明は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を炭酸リチウムを唯一のリチウム源として製造する場合に生じる本件課題を解決するものである。 一方、本件特許明細書には、以下の記載がある。 「【0020】 その結果、焼成工程の前に焼成される原料を圧縮し、圧縮成形された状態の原料をそのまま焼成することによって、正極材として用いた場合により優れたリチウムイオン電池の性能をもたらすニッケルリチウム金属複合酸化物を高収率で製造することに成功した。」 「【0045】 (工程3) 工程2で得られた圧縮成形体を焼成する工程である。本発明の焼成工程では、500℃?850℃の温度域、好ましくは600℃?810℃の温度域で、通常は3?40時間、好ましくは5?35時間焼成する。工程3では、工程3の焼成は酸素存在下で行う事が好ましい。焼成雰囲気ガスとして、純酸素、空気、空気に酸素を加えた混合気体、もしくは窒素等の不活性ガスに酸素を加えたガスを用いることができる。」 「【0050】 工程3の終了時に炭酸リチウムはほぼ完全に消費されてニッケルリチウム金属複合酸化物を形成している。その結果、正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物が得られる。このような本発明の方法で得られたニッケルリチウム金属複合酸化物の性能は、以下の評価によって確認することができる。」 また、本件実施例における実施例1は、「工程3」において810℃で10時間焼成したものであり、実施例2は、「工程3」において690℃で10時間焼成した後昇温して810℃で5時間焼成したものであり、実施例3は、「工程3」において昇温して690℃で10時間した後昇温して780℃で5時間焼成したものである。 そして、本件特許明細書の上記記載、本件実施例の上記焼成温度及び上記(1)(ア)【0043】によれば、本件発明は、焼成工程の前に焼成される原料を圧縮し、圧縮成形された状態の原料をそのまま、780℃以上に昇温する過程を含む500℃?850℃の温度域で焼成することで、未反応の炭酸リチウムが多量に残存しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産されて、本件課題を解決するものである。 (ウ)すると、本件発明は、焼成工程の前に焼成される原料を圧縮し、圧縮成形された状態の原料をそのまま、780℃以上に昇温する過程を含む500℃?850℃の温度域で焼成することを技術的特徴とするものであって、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成に技術的特徴を有するものではないから、本件発明における「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成は、従来使用されるものと同等のものに過ぎないと解するのが妥当であり、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、従来使用されるものと同等の組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を炭酸リチウムを唯一のリチウム源として製造する場合に、焼成工程の前に焼成される原料を圧縮し、圧縮成形された状態の原料をそのまま、780℃以上に昇温する過程を含む500℃?850℃の温度域で焼成することで、未反応の炭酸リチウムが多量に残存しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産され、本件課題を解決するものと理解できる。 (エ)してみれば、本件実施例に、組成が明らかでなく、かつ特定の1つの組成の実施例が開示されているのみであり、また、本件特許明細書に、本件発明により本件課題を解決する際の機序が記載されていないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1及び本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2、3、5により本件課題を解決できることを認識できるから、上記第5の2(2)(イ)、(ウ)の取消理由はいずれも理由がない。 (オ)本件特許明細書の記載に接した当業者は、「圧縮成形体」を少なくとも780℃以上に昇温して焼成する「工程3」を有する本件発明1により本件課題を解決できることを認識できることは上記1のなお書きの(オ)に記載のとおりであり、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2、3、5についても同様であるから、上記第5の2(2)(エ)の取消理由は理由がない (カ)本件訂正により特許請求の範囲の請求項6、8?12は削除されるものとなったから、上記第5の2(2)(オ)の取消理由は対象となる請求項が存在しないので、理由がない。 (3)特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について (3-1)各甲号証の記載事項 (3-1-1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 (ア)甲第1号証には,以下(1a)?(1c)の記載がある。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記一般式(1)に示され、かつ単分散の一次粒子であることを特徴とするニッケル含有水酸化物。 一般式(1):NiM(OH)_(2) (式中MはNi以外の遷移金属、アルカリ土類金属元素、Al、Ga、In、Siのうち少なくとも1種以上の元素を示す) … 【請求項5】 請求項1または2記載のニッケル含有水酸化物、あるいは請求項3または4記載のニッケル含有酸化物の内の少なくとも1種とリチウム化合物とを加熱して得られるものであり、下記一般式(3)に示され、かつ単分散の一次粒子であることを特徴とするリチウム複合ニッケル酸化物。 一般式(3):LiNiMO_(2) (式中MはNi以外の遷移金属、アルカリ土類金属元素、Al、Ga、In、Siのうち少なくとも1種以上の元素を示す) … 【請求項12】 前記ニッケル含有水酸化物と前記ニッケル含有酸化物の内の少なくとも1種とリチウム化合物とを混合し、680?800℃で焙焼することを特徴とする請 求項5又は6記載のリチウム複合ニッケル酸化物の製造方法。」 (1b)「【0048】 (実施例1) 塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却してニッケル含有水酸化物の粉末を得た。得られた粉末は平均粒子径1.6μmで単分散状態であった。また、組成はニッケル含有水酸化物原料と同じであった。 次に、得られた粉末を水酸化リチウム一水和物とスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合し、760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行った。得られた焼成物を解砕後、網目50μmの超音波篩で分級して粗大ゴミを除去し、篩下を真空乾燥して製品であるリチウム複合ニッケル酸化物を製造した。 得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)で有り、平均粒子径は1.5μmで単分散状態であった。 このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であった。」 (1c)「【0064】 (実施例17) 水酸化リチウム一水和物の代わりに炭酸リチウムを用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム複合ニッケル酸化物を製造した。得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.821)Co_(0.149)Al_(0.030)O_(2)で有り、平均粒子径は1.5μmで単分散状態であった。 このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であった。」 (イ)上記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」に係る発明が記載されており、同(1b)、(1c)によれば、当該「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」は、塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却してニッケル含有水酸化物の粉末を得て、次に、得られた粉末を炭酸リチウムとスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合し、760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行い、得られた焼成物を解砕後、網目50μmの超音波篩で分級して粗大ゴミを除去し、篩下を真空乾燥して製品であるリチウム複合ニッケル酸化物を製造したものであり、得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)であるものであり、このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であったものである。 (ウ)上記(イ)によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。 「塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却してニッケル含有水酸化物の粉末を得て、 次に、得られた粉末を炭酸リチウムとスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合し、760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行い、 得られた焼成物を解砕後、網目50μmの超音波篩で分級して粗大ゴミを除去し、篩下を真空乾燥して製品であるリチウム複合ニッケル酸化物を製造するものであり、 得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)であり、 このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であったものである、リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。) (3-1-2)甲第5号証の記載事項 甲第5号証には、以下(5a)?(5c)の記載がある。 (5a)「【特許請求の範囲】 … 【請求項4】 リチウム化合物と遷移金属を主体とする化合物との混合粉末またはリチウム化合物と遷移金属を主体とする化合物との共沈物または前記混合粉末と前記共沈物との混合物またはリチウムと遷移金属とを主体とする共沈物を成形し成形体を焼成する方法であって、成形体からなる充填層間に酸化性ガスを通気させることを特徴とする正極活物質の製造方法。」 (5b)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】異種元素を含んだLiNiO_(2)である組成式Li_(a)Ni_(b)M_(c)O_(d)のリチウムニッケル複合酸化物の容量とサイクル特性とを改善するとともに、工業的規模の製造においても、バラツキのない製造方法を提供する。」 (5c)「【0016】本発明は原料となる粉体を酸化性ガスを通気しながら焼成する製造方法において、原料粉体を成形することによって密度を高め、その成形体の充填層内をある一定値以上の流速で通気するようにしたため、焼成量が多くなった場合でも、反応容器全体の反応が均質かつ十分に行なわれ、その結果電池特性に優れたリチウム複合酸化物活物質が得られる。原料としてはLiの酸化物、水酸化物、硝酸リチウムなどの無機酸塩、酢酸リチウムなどの有機酸塩が使用できる。… 【0017】成形には以下の方法が使用できるが、形状によっては他の方法でもよい。(A)プレス(一軸プレス、打錠機、静水圧プレス、振動プレス)、(B)ロールブリケッター、(C)押出機、(D)転動造粒機。成形体の形状は球、レンズ、棒状、板状、麺状が一般的な技術で製造可能であるが、その他の形状でもよい。…焼成中に強制通気で吹き飛んだりしない密度にすることも重要であり、相対密度として40%以上が望ましい。…」 (3-2)対比・判断 (3-2-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明において「リチウム複合ニッケル酸化物」を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であったことからみれば、甲1発明における「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」は、本件発明1における「リチウムイオン電池正極活物質用ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」に相当するものであって、甲1発明における「塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却」して得た「ニッケル含有水酸化物の粉末」は、本件発明1における「ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体」に相当し、甲1発明において、「ニッケル含有水酸化物の粉末」を「炭酸リチウムとスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合」することは、本件発明1において、「リチウム原料として炭酸リチウムを使用し」、「ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る」ことに相当し、甲1発明において、「760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行」うことは、本件発明1において「混合物を600℃?810℃の温度域で3?40時間焼成することにより焼成体を得る」ことに相当する。 また、甲1発明において「得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成」である「Li_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)」は、本件発明1における式(1)に合致する。 (イ)上記(ア)によれば、本件発明と甲1発明とは、 「リチウム原料として炭酸リチウムを使用し、 以下の工程1及び/又は工程1’と、工程3とを含む、 以下の式(1)で表されるリチウムイオン電池正極活物質用ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 (工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程3)混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより焼成体を得る工程。 【化1】 (式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)」点で一致し、以下の点で相違している。 相違点:本件発明1は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」が、「(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮することにより、圧縮成形体を得る工程であり、上記混合物を10kN以上での押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する工程」を含み、「工程3」が、「工程2を経た混合物の圧縮成形体」を焼成するものであり、「780℃以上に昇温して焼成する」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は上記発明特定事項を有しない点。 イ 判断 (ア)本件発明1と甲1発明とは上記ア(イ)の相違点を有するから、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。 (イ)更に、上記相違点について検討すると、本件発明1は、リチウムイオン電池の正極活物質として用いられる「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を炭酸リチウムを唯一のリチウム源として製造する場合に、焼成工程の前に焼成される原料を圧縮し、圧縮成形された状態の原料をそのまま、780℃以上に昇温する過程を含む500℃?850℃の温度域で焼成することで、未反応の炭酸リチウムが多量に存在しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産されて、本件課題を解決するものであることは、上記(2)(イ)に記載のとおりである。 そして、焼成工程の前に焼成される原料を圧縮し、圧縮成形された状態の原料をそのまま、780℃以上に昇温する過程を含む500℃?850℃の温度域で焼成することは、上記相違点に係る発明特定事項にほかならないから、本件発明1は、上記相違点に係る発明特定事項を有することで、炭酸リチウムを唯一のリチウム源とした場合であっても、未反応の炭酸リチウムが多量に存在しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産されて、本件課題を解決するものである。 (ウ)一方、上記(3-1)(3-1-2)(5a)?(5c)によれば、甲第5号証には、組成式Li_(a)Ni_(b)M_(c)O_(d)のリチウムニッケル複合酸化物である正極活物質の製造方法であって、原料となる粉体を酸化性ガスを通気しながら焼成する製造方法において、「原料粉体」を成形することによって密度を高め、その成形体の充填層内をある一定値以上の流速で通気するようにしたため、焼成量が多くなった場合でも、反応容器全体の反応が均質かつ十分に行なわれ、その結果電池特性に優れたリチウム複合酸化物活物質が得られること、成形には、(A)プレス(一軸プレス、打錠機、静水圧プレス、振動プレス)、(B)ロールブリケッター、(C)押出機、(D)転動造粒機が使用できることが記載されている。 そして、上記「原料粉体」は「混合物」といえ、「原料粉体」を打錠機で成形したものは「グラニュール乃至錠形」の「圧縮成形体」といえ、甲第5号証には、「混合物」を打錠機等で圧縮することにより、押圧力によって「グラニュール乃至錠形」に成形する工程を経た「圧縮成形体」を焼成することで、焼成量が多くなった場合でも、反応容器全体の反応が均質かつ十分に行われることが開示されているといえる。 (エ)ところが、甲第5号証には、焼成工程の前に焼成される原料を圧縮し、圧縮成形された状態の原料をそのまま、780℃以上に昇温する過程を含む500℃?850℃の温度域で焼成することで、炭酸リチウムを唯一のリチウム源とした場合であっても、未反応の炭酸リチウムが多量に残存しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産されることが記載も示唆もされるものではない。 (オ)上記(イ)、(エ)によれば、当業者は、上記相違点に係る発明特定事項を有することで、炭酸リチウムを唯一のリチウム源とした場合であっても、未反応の炭酸リチウムが多量に残存しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産されて、本件課題を解決できることを、甲第5号証の記載事項に基づいて予測することは困難である。 (カ)してみれば、甲1発明において、「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」を、「(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮することにより、圧縮成形体を得る工程であり、上記混合物を10kN以上での押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する工程」を含み、「工程3」が、「工程2を経た混合物の圧縮成形体」を焼成する、との上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3-2-2)本件発明2、3、5について (ア)本件発明2、3、5は、直接的または間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2、3、5のいずれかと甲1発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記(3-2-1)ア(イ)の相違点の点で相違する。 したがって、本件発明2、3、5が甲1発明であるとはいえない。 (イ)また、上記(3-2-1)イ(オ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2、3、5は、甲1発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 申立人意見書について (1)申立人意見書の主張の概要 申立人意見書における申立人の主張の概要は以下のとおりである。 (1-1)特許法第36条第6項第2号について ア 第1の理由 「工程3」の「600℃?810℃の温度域」で焼成する旨の発明特定事項は780℃よりも低温の温度域を含み、「780℃以上に昇温して焼成し」との発明特定事項と整合しないから、「工程3」においてどのような温度条件で焼成することを意味するのかが明らかでなく、本件発明1は明確でない。 イ 第2の理由 本件特許明細書の【0043】に記載される「混合物の二次粒子が破壊されない状態で二次粒子の空隙が最も減少した状態になるまで上記混合物を押圧する」ための圧力の算出方法は、本件特許の出願日における技術常識であるとは認められず、上記【0043】の記載からも明らかでなく、また、「N」は力の単位であり、「圧力」の単位ではなく、本件発明1において特定される「10kN以上」の力を加えた場合でも上記【0043】の状態になるか否かは明らかでないので、特許異議申立書の「(4-2-1)第1の理由」に記載されたのと同じ理由により、本件発明1は明確でない。 ウ 第3の理由 「工程2」における「グラニュール」がどのような形状を意味しているのかが明らかでないので、本件発明1は明確でない。 (1-2)特許法第36条第6項第1号について ア 第1の理由 「工程3」において、780℃以上の温度で焼成する際の焼成時間の条件について特定されていない本件発明1は、本件課題を解決できないものを包含し、サポート要件を充足しない。 イ 第2の理由 本件特許明細書の実施例には、組成が明らかでないものの特定の1つの組成の実施例が開示されているのみであり、Ni、Co、元素Mの比率や、元素Mの種類が異なる場合等においても課題を解決できるか否かは明らかでなく、そもそも上記実施例の組成が明らかでないから、本件発明1の組成に関する発明特定事項を充足するニッケルリチウム金属複合酸化物は本件特許明細書に具体的に記載されていないので、特許異議申立書の「(4-1-1)第1の理由」に記載されたのと同じ理由により、本件発明1はサポート要件を充足しない。 また、この点についての特許権者の令和 2年 2月25日付け意見書における主張はいずれも根拠がなく、妥当性を欠いており、いずれも認められない。 (1-3)特許法第29条第2項について 本件発明1?3、5は、甲1発明及び甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、この点についての特許権者の令和 2年 2月25日付け意見書における主張はいずれも根拠がなく、妥当性を欠いており、いずれも認められない。 (2)当審の判断 上記(1)(1-1)イ、(1-2)イ、(1-3)の事項については上記2(1)(ア)、(2)(イ)?(エ)、(3)(3-2)で検討したので、以下、上記(1)(1-1)ア、ウ、(1-2)アについて検討する。 (2-1)特許法第36条第6項第2号について ア 第1の理由について 上記2(2)(イ)に記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「工程3」が、圧縮成形された状態の原料をそのまま、780℃以上に昇温する過程を含む「600℃?810℃の温度域」で焼成するものであることを理解できるので、「工程3」においてどのような温度条件で焼成するかは明らかであり、本件発明1は明確であるというべきである。 イ 第3の理由について 当業者は、上記2(1)(ア)【0043】の「グラニュール乃至錠形」の記載から、「工程2」の「グラニュール」が、「錠形」と類似した、「granule」の一般的な意味である「顆粒」を意味していることを理解できるので、本件発明1は明確であるというべきである。 (2-2)特許法第36条第6項第1号について ア 第1の理由について 本件発明1は、「工程3」として、「工程2を経た混合物の圧縮成形体を600℃?810℃の温度域で3?40時間焼成することにより焼成体を得る工程であって、ここで780以上に昇温して焼成する、工程」、との発明特定事項を有するものであり、このことと上記2(2)(イ)に記載される本件実施例の焼成温度及び時間からみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明が、「780℃以上に昇温して焼成」する時間と、そのほかの温度で焼成する温度及び時間とを、「3?40時間」の焼成時間内で調整することで、本件課題を解決するものであることを理解できるから、本件発明1の「工程3」において、780℃以上の温度で焼成する際の焼成時間が特定されていないとしても、本件発明1はサポート要件を充足するというべきである。 (2-3)小括 したがって、申立人意見書における申立人の主張はいずれも採用できない。 第7 特許異議申立理由についての当審の判断 上記第4の2(1)?(2)、同3(1)?(2)の特許異議申立理由については、上記第6の2(1)、(2)で検討したので、以下、上記第4の1(1)?(2)の特許異議申立理由について検討する。 1 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について (ア)まず、上記第4の1(1)の特許異議申立理由についてみると、本件発明1及び5が甲1発明であるとはいえないことは、上記第6の2(3)(3-2)(3-2-1)イ(ア)、同(3-2-2)(ア)で検討したとおりである。 また、甲1発明において、上記第6の2(3)(3-2)(3-2-1)ア(イ)の相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るとはいえないことは、同(カ)に記載のとおりであり、このことは、甲第6号証の記載事項についても同様であるので、本件発明1は、甲1発明と、甲第5?6号証に記載される、本件特許の出願日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2、3、5についても同様であるから、上記第4の1(1)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。 (イ)本件訂正により請求項6?12は削除されるものとなったので、上記第4の1(2)の特許異議申立理由は対象となる請求項が存在しない。 2 小括 したがって、上記第4の1(1)の特許異議申立理由は理由がなく、同(2)の特許異議申立理由は対象となる請求項が存在しない。 第8 むすび 以上のとおり、請求項1?3、5に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1?3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項4、6?12は、本件訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許に対する特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項が準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 リチウム原料として炭酸リチウムを使用し、 以下の工程1及び/又は工程1’と、工程2と、工程3とを含む、 以下の式(1)で表されるリチウムイオン電池正極活物質用ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 (工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮することにより、圧縮成形体を得る工程であり、上記混合物を10kN以上での押圧力によってグラニュール乃至錠形に成形する工程。 (工程3)工程2を経た混合物の圧縮成形体を600℃?810℃の温度域で3?40時間焼成することにより焼成体を得る工程であって、ここで780℃以上に昇温して焼成する、工程。 【化1】 (式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。) 【請求項2】 工程2で工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を25?400kNの荷重をかけて圧縮する、請求項1に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 【請求項3】 工程2で造粒機、ペレット成形機、または打錠機を用いて工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を圧縮する、請求項1又は2に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 工程3の後に、工程3で得られた焼成体を解砕する工程及び/又は工程3を経た焼成体を篩掛する工程をさらに含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】(削除) 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-12-18 |
出願番号 | 特願2015-233366(P2015-233366) |
審決分類 |
P
1
651・
853-
YAA
(C01G)
P 1 651・ 113- YAA (C01G) P 1 651・ 851- YAA (C01G) P 1 651・ 121- YAA (C01G) P 1 651・ 537- YAA (C01G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 手島 理 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
金 公彦 村岡 一磨 |
登録日 | 2019-02-15 |
登録番号 | 特許第6479634号(P6479634) |
権利者 | ユミコア |
発明の名称 | ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法 |
代理人 | 井澤 幹 |
代理人 | 井澤 洵 |
代理人 | 井澤 洵 |
代理人 | 特許業務法人井澤国際特許事務所 |
代理人 | 三谷 祥子 |
代理人 | 茂木 康彦 |
代理人 | 井澤 幹 |
代理人 | 特許業務法人井澤国際特許事務所 |
代理人 | 三谷 祥子 |
代理人 | 茂木 康彦 |