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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
管理番号 1371698
異議申立番号 異議2019-700591  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-29 
確定日 2021-01-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6458397号発明「インクジェットインクおよびインクジェット記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6458397号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7、9、10〕、8について訂正することを認める。 特許第6458397号の請求項1?4、6?10に係る特許を維持する。 特許第6458397号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6458397号の請求項1?10に係る特許(以下、各請求項に係る特許を項番号に合わせて「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成26年8月20日の出願であって、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、同月30日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許(全請求項に係る特許)に対して、令和元年7月29日に特許異議申立人である柏木里実により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 元年11月 6日付け 取消理由通知
令和 2年 1月 6日受付 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和 2年 1月31日付け 訂正拒絶理由通知
同年 3月 3日受付 手続補正書の提出(特許権者)
同年 3月 6日 意見書の提出(特許権者)
同年 4月13日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年 6月30日付け 取消理由通知
同年 9月 4日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年10月16日 意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否

令和2年9月4日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?10を訂正の単位としてされたものであって、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。
なお、令和2年1月6日に受け付けた(令和元年12月27日付け)訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 本件訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「分散染料と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、水と、少なくとも1種の塩基とを含むインクジェットインクであって、
該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)を含み、
該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満であり、
該少なくとも1種の塩基の25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、該少なくとも1種の塩基の25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である、
インクジェットインク。」
と記載されているものを、
「分散染料と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、水と、少なくとも2種の塩基とを含むインクジェットインクであって、
該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)を含み、
該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満であり、
該少なくとも2種の塩基が、25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である塩基と、
25℃でのpKaが9.87以上である塩基と、を含み、
シリコーン系の界面活性剤を更に含み、
前処理剤を付与された布帛への記録に用いられる、
インクジェットインク。」
に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?4、6、7、9、10についても同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記分散剤は、アクリル系樹脂である、請求項1?5のいずれか1項に記載のインクジェットインク。」
と記載されているものを、
「前記分散剤は、アクリル系樹脂である、請求項1?4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。」
に訂正する(請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7、9、10についても同様に訂正する。)。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に、
「前記分散剤は、アクリル酸に由来する構成単位またはメタクリル酸に由来する構成単位を有する樹脂である、請求項1?6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。」
と記載されているものを、
「前記分散剤は、アクリル酸に由来する構成単位またはメタクリル酸に由来する構成単位を有する樹脂である、請求項1?4および6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。」
に訂正する(請求項7を直接又は間接的に引用する請求項9、10についても同様に訂正する。)。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に、
「前記塩基は、グリシルグリシンである、請求項1?7のいずれか1項に記載のインクジェットインク。」
と記載されているものを、
「分散染料と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、水と、少なくとも1種の塩基とを含むインクジェットインクであって、
該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)を含み、
該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満であり、
該少なくとも1種の塩基の25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、該少なくとも1種の塩基の25℃でのpKaが7.5以上8.6以下であり、
前記塩基は、グリシルグリシンである、
インクジェットインク。」
に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1?8のいずれか1項に記載のインクジェットインクの液滴を記録ヘッドから吐出させて記録媒体上に付着させる工程と、該記録媒体上に付着した該液滴を該記録媒体に定着させる工程とを含む、インクジェット記録方法。」
と記載されているものを、
「請求項1?4、6および7のいずれか1項に記載のインクジェットインクの液滴を記録ヘッドから吐出させて前処理剤を付与された布帛上に付着させる工程と、該記録媒体上に付着した該液滴を該記録媒体に定着させる工程とを含む、インクジェット記録方法。」
に訂正する(請求項9を引用する請求項10についても同様に訂正する。)。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、
「前記記録媒体は布帛であり、
前記方法は、
前記付着させる工程の前に、布帛に前処理剤を付与する工程を含み、
前記定着させる工程の後に、布帛へ染着できなかった前記分散染料または前記前処理剤を除去する工程を含む、請求項9に記載のインクジェット記録方法。」
と記載されているものを、
「前記方法は、
前記付着させる工程の前に、布帛に前処理剤を付与する工程を含み、
前記定着させる工程の後に、布帛へ染着できなかった前記分散染料または前記前処理剤を除去する工程を含む、請求項9に記載のインクジェット記録方法。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に対して、(i)インクジェットインクの構成成分について、シリコーン系の界面活性剤を更に含む点を追加し、(ii)塩基について、少なくとも2種含み、該少なくとも2種の塩基が、25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である塩基と、25℃でのpKaが9.87以上である塩基である点を限定し、(iii)インクジェットインクの用途について、前処理剤を付与された布帛への記録に用いられる点を追加するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の限縮を目的とするものと認められる。また、当該訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことも明らかである。
そして、上記(i)の点については、例えば、本件明細書の【0059】には、「特に布帛への発色のむらを少なくする観点からシリコーン系界面活性剤が好ましい。」との記載があり、(iii)の点については、例えば、同【0070】には、「記録媒体として布帛を用いる場合、本発明のインクジェット記録方法は、(1)布帛に前処理剤を付与する工程(前処理工程)と、(2)前処理剤が付与された布帛に本発明のインクジェットインクの液滴を吐出する工程(画像形成工程)と、・・・を含み」との記載がある。また、(ii)の点については、同【0057】に、「上記少なくとも1種の塩基の他に、・・・pKaが7.5以上8.6以下の範囲外である塩基・・・等の塩基が本発明のインクジェットインクに含まれてもよい。」と記載され、具体例として、同【0104】には、分散液1の調製に際し、「ジメチルアミノエタノール(DMAE(pKa9.87))」を使用する旨の記載があるから、上記(i)?(iii)の点を含む訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるということができる。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、単に請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) 訂正事項3、4について
訂正事項3、4に係る訂正は、訂正前の請求項6、7における引用請求項の中から、請求項5を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4) 訂正事項5ついて
訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項8が引用する請求項1?7のうち、請求項1を引用する部分を書き下して独立形式請求項とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5) 訂正事項6について
訂正事項6に係る訂正は、上記(1)において摘記した本件明細書の【0070】の記載などに基づき訂正前の請求項9に記載された「記録媒体」を「前処理剤を付与された布帛」に限定するとともに、その引用請求項1?8から請求項5、8を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6) 訂正事項7について
訂正事項7に係る訂正は、訂正前の請求項10(請求項9を引用)において、「前記記録媒体は布帛であり、」という記載を削除するものであるが、当該訂正は、上記訂正事項6に係る請求項9の訂正において記録媒体が布帛に限定されたことに伴い、請求項10(請求項9を引用)に重複する記載が生じることを回避するためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおり、上記訂正事項1?7からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、本件訂正により独立形式請求項とされた請求項8については、別の訂正単位とする求めがある。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7、9、10〕、8について訂正することを認める。

第3 特許請求の範囲の記載(本件発明)

上記第2のとおり、本件訂正は適法にされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりのものとなった(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
分散染料と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、水と、少なくとも2種の塩基とを含むインクジェットインクであって、
該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)を含み、
該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満であり、
該少なくとも2種の塩基が、25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である塩基と、
25℃でのpKaが9.87以上である塩基と、を含み、
シリコーン系の界面活性剤を更に含み、
前処理剤を付与された布帛への記録に用いられる、
インクジェットインク。
【請求項2】
前記インクジェットインクの25℃でのpHが7以上9以下である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記インクジェットインク中の前記少なくとも1種の塩基の量が、前記分散剤が有する前記カルボキシル基に対して、モル当量で1.5倍以上である、請求項1又は2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤が、グリコールエーテル類を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記分散剤は、アクリル系樹脂である、請求項1?4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記分散剤は、アクリル酸に由来する構成単位またはメタクリル酸に由来する構成単位を有する樹脂である、請求項1?4および6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項8】
分散染料と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、水と、少なくとも1種の塩基とを含むインクジェットインクであって、
該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)を含み、
該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満であり、
該少なくとも1種の塩基の25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、該少なくとも1種の塩基の25℃でのpKaが7.5以上8.6以下であり、
前記塩基は、グリシルグリシンである、
インクジェットインク。
【請求項9】
請求項1?4、6および7のいずれか1項に記載のインクジェットインクの液滴を記録ヘッドから吐出させて前処理剤を付与された布帛上に付着させる工程と、該記録媒体上に付着した該液滴を該記録媒体に定着させる工程とを含む、インクジェット記録方法。
【請求項10】
前記方法は、
前記付着させる工程の前に、布帛に前処理剤を付与する工程を含み、
前記定着させる工程の後に、布帛へ染着できなかった前記分散染料または前記前処理剤を除去する工程を含む、請求項9に記載のインクジェット記録方法。」

第4 先の取消理由(予告)の概要

先の取消理由(予告)は、本件訂正前の請求項1?4、6、7、9、10に係る特許(発明)を対象としたものであって、その内容は、概略、以下のとおりである。
・(進歩性)本件訂正前の請求項1?4、6、7、9、10に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあたる、後記甲1?3(主たる証拠)のいずれかに記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

第5 先の取消理由(予告)についての当審の判断

1 証拠
(1) 主たる証拠とした引用例
・特開平8-209048号公報(特許異議申立人が甲第1号証として提 出した証拠。以下、単に「甲1」という。)
・特開平8-143802号公報(特許異議申立人が甲第2号証として提 出した証拠。以下、単に「甲2」という。)
・特開平6-184956号公報(特許異議申立人が甲第3号証として提 出した証拠。以下、単に「甲3」という。)
(2) 従たる証拠とした引用例
・特開平9-111173号公報(特許異議申立人が甲第4号証として提 出した証拠。以下、単に「甲4」という。)
・特開2002-38061号公報(特許異議申立人が甲第5号証として 提出した証拠。以下、単に「甲5」という。)
・特開2008-291079号公報(特許異議申立人が甲第7号証とし て提出した証拠。以下、単に「甲7」という。)

2 甲1?5、7の記載事項
(1) 甲1の記載事項
甲1には、「バブルジェット用水系分散インク、これを用いるインクジェット記録方法および記録装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも水、水溶性有機溶剤、分散染料あるいは顔料、カルボキシル酸価を有するアルカル可溶性水溶性高分子及び/または界面活性剤を含有する水系分散インクにおいて、界面活性剤が燐酸、カルボン酸から選ばれたアニオン性解離基をエチレンオキシド末端に有し、かつHLBが10以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルあるいはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであることを特徴とするバブルジェット用水系分散インク。
・・・
【請求項6】 インクジェット方式により形成したインク滴を被記録材に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクとして前記請求項1乃至5のいずれかの項に記載のインクを適用することを特徴とするインクジェット記録方法。」
イ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記した従来技術に鑑みて到達したものであり、分散染料あるいは顔料を用いたバブルジェット用水系分散インクであり、特に平均粒径0.08?1μmの範囲の微粒子状態での分散安定性に優れ、とりわけバブルジェット方式のインクジェット記録装置における吐出性能に優れたバブルジェット用水系分散インクを提供することを目的とするものである。
・・・
【0008】さらに、本発明は、ポリエステル捺染用の分散染料インクであり、サブミクロン分散性が達成され、分散安定性に優れ、とりわけバブルジェット方式のインクジェット記録装置における吐出性能に優れたバブルジェット用水系分散インクを提供することを目的とするものである。」
ウ 「【0017】本発明では、前記界面活性剤のアニオン性解離基がアルコールアミン類で中和されていることによって、インクジェット装置における目詰り性、バブルジェット方式における吐出性がさらに優れたものになる。
【0018】さらに、水系分散インクがカルボキシル酸価を有するアルカリ可溶性付加重合体を分散剤として用いるか、あるいは界面活性剤で分散された分散体にそれを添加して用いるか、いずれの場合においても、そのような水容性高分子を用いることによって、保存安定性はさらに優れたものになる。このことは界面活性剤とアルカリ可溶性付加重合体のどちらを分散剤として用いてもよいが、両物質の併用が極めて効果的であることを意味している。」
エ 「【0061】(塩基)本発明の水系分散インクに用いられる燐酸またはカルボン酸基を有する界面活性剤、およびアルカリ可溶性高分子化合物を水系にて用いるには、塩基で中和された状態にすることが必要である。そのために用いられる塩基としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、2-エチル-2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(2-アミノエチル)エタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、アンモニア、ピペリジン、モルフォリン、ビス-β-ジヒドロキシエチル尿素などの有機塩基である。最適な塩基種は、不揮発性で安定、かつ保水性の高いものが好ましい。用いる塩基の量としては、それを中和するに必要な量として計算される。場合によっては、酸の当量を上回る量の塩基を用いる場合がある。それは、分散性向上、インクのpH調整、記録性能の調整、保湿性の向上などの目的で行う。」
オ 「【0062】(水溶性有機溶剤)本発明に用いられる水溶性有機溶剤としては、水と混和性がある有機溶剤類である。それらの溶剤を分類すると、下記の3群に分ける事が出来る。保湿性が高く、蒸発しにくく親水性に優れる第1群の溶剤、疎水性原子団を末端に有し疎水性の表面へのぬれ性も良く、蒸発乾燥性もある第2群の溶剤、適度のぬれ性を有し低粘度の第3群の溶剤(一価アルコール類)である。
【0063】 第1群に属する溶剤としては、・・・エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコーリモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル・・・等である。
【0064】 第2群に属する溶剤としては、・・・エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル・・・等である。」
カ 「【0068】以上のような材料から構成されるインクの基礎物性をまとめると、粘度:2?6cps、表面張力:35?55dyn/cm、pH:7.0?10.0、平均粒径80?200nm、好ましくは80?150nm、より好ましくは80?120nmの範囲である。」
キ 「【0088】
【実施例】次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下の説明で部は重量割合であることを表わし、重量平均分子量はスチレンポリマーを標準としたGPC法により測定した値、平均粒径は動的光散乱法によって測定した数値である。
・・・
【0102】実施例4
[分散染料マゼンタインク]アニオン系高分子P-2(スチレン-マレイン酸-n-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000、固形分20重量%の水溶液 中和剤:トリエタノールアミン)を分散剤として用いて以下のマゼンタ色分散体DMを作成した。
【0103】
分散体DM
P-2水溶液(固形分20重量%) 30部
C.I.ディスパースレッド348、ホスタパームピンクE(ヘキスト社製)
30部
エチレングリコール 15部
水 125部
以下実施例1と同様にして分散処理を行い、粘度10cps、pH9.8、平均粒径180mμの分散体DMを得た。この分散体DMを用いて以下のインクを作成した。
【0104】
インクM-1
分散体DM 45部
フォスファノールRS-610(東邦化学社の製品、HLB10.5)のモノエ
タノールアミン塩20重量%水溶液 5部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
水 30部
このインクは、粘度2.4cps、表面張力42dyn/cm、pH9.3であった。
・・・
【0117】比較例1
アニオン系高分子P-2(スチレン-マレイン酸ーn-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000、固形分20重量%の水溶液 中和剤:トリエタノールアミン)を分散剤として用いて以下のイエロー色分散体DY-2を作成した。
【0118】
分散体DY-2
P-2水溶液(固形分20重量%) 22部
C.I.ディスバースイエロー198ウェットケーキ 40部(固形分)
エチレングリコール 20部
水 110部
以下実施例2と同様にして分散処理を行い、粘度12.0cps、pH9.8、平均粒径200mμの分散体DY-2を得た。
【0119】
インクYC-1
分散体DY-2 30部
チオジグリコール 20部
イソプロピルアルコール 5部
水 45部
これらの成分を良く混合し、0.25μmのメンブランフィルターを用いて加圧ろ過し、粘度3.8cps、表面張力44dyn/cm、pH=9.5のインクを得た。
・・・
【0126】[捺染プリントテスト]実施例1、2、3および比較例1、2のインクを、360dpiで64ノズルを有するバブルジェット記録ヘッドを搭載したカラーインクジェト記録装置に充填して、ポリエステル布帛にカラー記録を行った。記録後、180℃で8分間スチーム中で加熱し、常法の洗浄処理を行って、捺染物を得た。得られた捺染物の均染性を目視判定して、評価した。この結果を表1に示した。」
ク 「【0129】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の水系分散インクは、平均粒径が0.2μmあるいはそれ以下に調節された分散染料分散体または有機顔料分散体を用いたバブルジェット用インクであり、分散安定性に優れ、バブルジェット記録装置における安定した吐出を行なうことができる。
【0130】また、本発明の水系分散インク及びこれを用いたインクジェット記録方法および記録装置によれば、普通紙や布帛類及び金属やプラスチック等に対してカラー記録を行った場合、にじみ、フェザリングの発生が無く、定着性に優れ、かつ発色性に優れ、堅牢性の良好な印字物が得られる。」
(2) 甲2の記載事項
甲2には、「バブルジェット用水系分散インク、これを用いるインクジェット記録方法および記録装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【請求項1】 少なくとも水、水溶性有機溶剤、顔料または分散染料を分散剤を用いて分散処理した顔料分散体あるいは分散染料分散体を含有する水系分散インクにおいて、前記分散剤がアニオン性解離基を有する高分子分散剤であり、かつ前記水溶性有機溶剤が下記一般式(I)(摘記省略)で示される化合物からなることを特徴とするバブルジェット用水系分散インク。
【請求項2】 インクジェット方式により形成したインク滴を被記録材に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクとして前記請求項1に記載のインクを適用することを特徴とするインクジェット記録方法。」
イ 「【0032】(塩基)本発明のインクに用いられる高分子分散剤を水系にて用いるには、塩基が必要である。そのために好適な塩基としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、2-エチル-2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(2-アミノエチル)エタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、アンモニア、ピペリジン、モルフォリン、β-ジヒドロキシエチル尿素などの有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機塩基が用いられる。
【0033】最適な塩基種は選択した顔料、分散剤の種類によって異なるが、不揮発性で安定、かつ保水性の高いものが好ましい。用いる塩基の量は基本的には高分子分散剤の酸価から計算される量から、それを中和するに必要な塩基量としてそれぞれ用いられる。場合によっては、酸の当量を上回る量の塩基を用いる場合がある。それは、分散性向上、インクのpH調整、記録性能の調整、保湿性の向上などの目的で行う。
ウ 「【0083】
【実施例】次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下の説明で部は重量割合であることを表わし、重量平均分子量はスチレンポリマーを標準としたGPC法により測定した値、平均粒径は動的光散乱法によって測定した数値である。
・・・
【0105】実施例8
[分散染料イエローインクY-8]アニオン系高分子P-5(スチレン-マレイン酸-n-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000、固形分20重量%の水溶液 中和剤:トリエタノールアミン)を分散剤として用いて、以下のイエロー分散体Y-8を作成した。
【0106】
分散体Y-8
P-5水溶液(固形分20重量%) 15部
C.I.デイスパースイエロー64ウエットケーキ
28部(固形分)
エチレングリコール 20部
水 137部
以下実験例1と同様にして分散処理を行い、平均粒径136mμ、固形分15%の分散体Y-8を得た。
【0107】
インクY-8
分散体Y-8 45部
フェノールのエチレンオキシド4モル付加化合物 10部
チオジグルコール 10部
グリセリン 5部
これらの成分を充分に撹拌して粘度2.7cps、表面張力51dyn/cm、pH9.2のイエロー色インクジェットインクY-8を得た。
・・・
【0128】[捺染プリントテスト]実施例6、7、8および比較例4、8のインクを、360dpiで64ノズルを有するバブルジェット記録ヘッドを搭載したカラーインクジェット記録装置に充填して、ポリエステル布帛にカラー記録を行った。記録後、180℃で8分間スチーム中で加熱し、常法の洗浄処理を行って、捺染物を得た。得られた捺染物の均染性を目視判定して、評価した。この結果を表1に示した。」
(3) 甲3の記載事項
甲3には、「インクジェット捺染用布帛、それを用いたインクジェット捺染方法及び捺染物」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 主としてポリエステル繊維から構成されているインクジェット捺染用布帛において、該布帛の水分含有量が1?101%であり、且つ上記繊維の平均太さが1?10dのポリエステル繊維から構成された平均太さ20?100dのポリエステル糸で構成されていることを特徴とするインクジェット捺染用布帛。
・・・
【請求項3】 布帛に対し捺染用インクをインクジェット方式により付与した後、染着処理を行い、次いで洗浄処理をするインクジェット捺染方法において、前記布帛が請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛であることを特徴とするインクジェット捺染方法。」
イ 「【0002】
【従来の技術】現在の捺染の主流は、スクリーン捺染、ローラー捺染である。これらの方式はは、いずれも版をおこす必要があり、多品種少量生産には不向きであり、流行への迅速な対応も困難であることから、最近では無製版の電子捺染システムが要望されている。この要望に対してインクジェット記録による捺染方法が数多く提案されており、各方面からの期待も大きくなっている。ここで用いるインクジェット捺染用布帛としては、(1)インクを十分な濃度に発色させ得ること、(2)インクの染着率が高いこと、(3)インクが布帛上で速やかに乾燥すること、(4)布帛上での不規則なインクの滲みの発生が少ないこと、(5)装置内での布帛の搬送性に優れていること、等の性能が要求される。
【0003】従来、これらの要求性能を満足させる為には、主として布帛に対し、予め前処理を施しておくことにより対応してきた。例えば、特開昭62-53492号公報においてはインク受容層を有する布帛類の提案がなされている。」
ウ 「【0014】又、上記の様な本発明のインクジェット捺染用布帛には、必要に応じて従来の前処理方法を併用することが出来る。特に、尿素、水溶性金属塩又は水溶性高分子から選ばれる少なくとも1種の物質を、0.01?20重量%含有させたものがより好ましい。」
エ 「【0019】染料の分散剤としては水溶性樹脂が好適であり、アミンを溶解させた水溶液に可溶で、且つ重量平均分子量が3,000から30,000の範囲のものが好ましい。更に、好ましくは、5,000から15,000の範囲であるものならどの様なものでも使用可能であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、あるいは、これらの塩等が挙げられる。尚、上記の水溶性樹脂は、記録液全量に対して0.1重量%?5重量%、好ましくは0.3重量%?2重量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0020】更に、本発明のインクは、好ましくはインク全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが、水溶性樹脂の溶解性を向上させ、一層の長期保存性に優れた記録液とすることができるので望ましい。但し、この場合には、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、好ましくは7?10のpH範囲とされるのが望ましい。またpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸物等の無機アルカリ剤、有機酸や、鉱酸があげられる。
【0021】本発明のインクジェット捺染方法に使用されるインクを構成する液媒体の必須成分である水は、インク全量に対して30?90重量%、好ましくは40?90重量%、より好ましくは、50?85重量%の範囲で用いられる。その他にインクの液媒体として、一般的な有機溶剤も併用することが出来る。例えば、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレン基が2?6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類;チオジグリコール;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;スルホラン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。」
オ 「【0031】
【実施例】次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
・・・
【0033】
分散染料液(III) の作成
・スチレン-アクリル酸-アクリル酸ブチル共重合体(酸価120、重量 平均分子量6,100) 5部
・トリエタノールアミン 2部
・イオン交換水 66部
・ジエチレングリコール 5部
上記の成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に新たに、分散染料(C.I.ディスパーズオレンジ 55)15部、エタノール7部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
・分散機 パールミル(五十嵐機械製)
・粉砕メディア ガラスビーズ1mm径
・粉砕メディアの充填率 50%(体積)
・吐出速度 100ml/min
更に、遠心分離処理(12,000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去して分散染料液(III)を得た。
【0034】分散染料液(IV)の作成
分散染料をC.I.ディスパーズブルー214に代え、分散染料液(III)と同様の処方で分散染料液(IV)を得た。
・・・
【0039】
インク(E)の製造
・上記分散染料液(III) 40部
・チオジグリコール 16部
・ジエチレングリコール 17部
・塩化ナトリウム 0.08部
・硫酸カリウム 0.01部
・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部
・硫酸鉄 0.001部
・塩化ニッケル 0.0003部
・塩化亜鉛 0.0003部
・イオン交換水 26.9部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整し、インクジェット捺染インク(E)を得た。
【0040】
インク(F)の製造
・上記分散染料液(III) 40部
・チオジグリコール 16部
・ジエチレングリコール 17部
・塩化ナトリウム 0.08部
・硫酸カリウム 0.01部
・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部
・硫酸鉄 0.001部
・塩化ニッケル 0.0003部
・塩化亜鉛 0.0003部
・塩化カルシウム 0.006部
・イオン交換水 26.9部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整し、インクジェット捺染インク(F)を得た。
【0041】
インク(G)の製造
・上記分散染料液(III) 40部
・チオジグリコール 16部
・ジエチレングリコール 17部
・塩化ナトリウム 0.08部
・硫酸カリウム 0.01部
・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部
・硫酸鉄 0.001部
・塩化ニッケル 0.0003部
・塩化亜鉛 0.0003部
・塩化マグネシウム 0.01部
・イオン交換水 26.9部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整し、インクジェット捺染インク(G)を得た。
【0042】
インク(H)の製造
・上記分散染料液(IV) 45部
・チオジグリコール 23部
・ジエチレングリコール 12部
・塩化カリウム 0.004部
・硫酸ナトリウム 0.002部
・メタケイ酸ナトリウム 0.001部
・塩化鉄 0.0005部
・イオン交換水 20部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整し、インクジェット捺染インク(H)を得た。
【0043】実施例1
平均太さ2dのポリエステル繊維からなる平均太さ50dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル100%の織布を、予め濃度15%の尿素の水溶液に浸し、絞り率35%で脱水後乾燥して、水分率が5%になる様にした。この織布に上記の様にして得られたインクジェット捺染インク(A?H)をカラーバブルジェットコピアPIXEL PRO(商品名 キヤノン製)に搭載し、2×10cmのベタサンプルをインク打込量16nl/mm^(2) の条件でプリントを行い、120?130℃で30分間の蒸熱処理による定着を行った。その後、これを中性洗剤で洗浄して、捺染物の鮮明性及び滲み性について評価した。その結果を表1に示す。」
(4) 甲4の記載事項
甲4には、「分散染料を含む水系微粒子分散インク」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも水、水溶性有機溶剤、分散染料及び水溶性ウレタンポリマーを含有する水系微粒子分散インクにおいて、上記分散染料が上記水溶性ウレタンポリマーによって分散処理された染料微粒子であり、上記水溶性ウレタンポリマーが、分子鎖末端にアクリロイル基を有し、且つカルボン酸基を解離基として有する水溶性ウレタン化合物と疎水性アクリルモノマーとを共重合してなる水溶性ウレタンポリマーであることを特徴とする分散染料を含む水系微粒子分散インク。
・・・
【請求項6】 pHが7?10の範囲に調整されている請求項1に記載の水系微粒子分散インク。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、布帛染色液、或いはインクジェット捺染インクとして有用な、分散染料を用いた水系微粒子分散インクに関する。」
ウ 「【0024】水溶性マクロモノマーと疎水性モノマーは重量比で1:1?4:1の範囲、好ましくは2.5:1?3.5:1の範囲で用いる。これによって、概ね酸価80?130のほとんど透明な水溶性樹脂溶液が得られる。重合過程で重合液が濁って来たならば、モノエタノールアミン等の不揮発性塩基を補充する。尚、用途によってはアンモニアのような揮発性の塩基を用いてもよい。上記のようにして、カルボン酸基を可溶化基として持つグラフト型水溶性ウレタンポリマーが得られる。得られた水溶液は、マイクロエマルジョンの状態にあり、組成によっては懸濁するが、水溶性マクロモノマーの使用比率が上記範囲で使用されれば、概ね透明溶液を呈する。」
エ 「【0044】5.pH調整剤
本発明における水系微粒子分散インクのpHは、中性から塩基性領域に調整する必要があり、具体的にはおよそ7?10の広い範囲、好ましくは9?10の範囲で調整することが可能である。pH範囲は、即ち、本発明の主要な要素である分散剤である水溶性ウレタンポリマーの溶解領域そのものであるが、染色適性からも個々の用途に従って決められる。」
オ 「【0045】前記水溶性ウレタンポリマーのカルボン酸基は、中和されて水溶液として用いられる。そのための中和剤としては、具体的には、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、2-エチル-2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(2-アミノエチル)エタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、アンモニア、グリシン、グリシルグリシン、ヒスチジン、L-リシン、L-アルギニン、ピペリジン、モルフォリン、β-ジヒドロキシエチル尿素等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の塩基が挙げられる。これらの塩基の中でもアルコールアミンを選択することが、インクの保存安定性及びインクジェット記録装置上での安定吐出性を得るために好ましい。」
カ 「【0046】6.界面活性剤
本発明における水系微粒子分散インクには、布帛への染色性付与、バブルジェット方式の微粒子分散インクジェット装置に用いる場合の吐出効率の向上の目的から、界面活性剤を添加することが実用的に有利になる場合がある。そのような界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ及びラウリル硫酸ソーダ等のアニオン界面活性剤;アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物及びポリオキシエチレン長鎖アルキルエーテル等のノニオン界面活性剤;ポリオキシエチレン隣酸、カルボン酸から選ばれたアニオン性解離基をエチレンオキシド末端に有し、且つHLBが10以上のポリオキシエチレンアルキルエーテル、或いはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン-アニオン界面活性剤が挙げられる。
【0047】本発明における水系微粒子分散インクへのこれらの界面活性剤の添加は、起泡性をも考慮して、それぞれ必要に応じて選択及び添加する。特に好ましい化合物は、ノニオン-アニオン界面活性剤である。ノニオン-アニオン界面活性剤は、本発明における水系微粒子分散インクに対して、吐出持続性及び起泡性ともに優れた界面活性剤である。」
キ 「【0049】
【実施例】以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。尚、以下の実施例及び比較例で、特に断りのない限り、部は重量割合であることを表わし、重量平均分子量はスチレンポリマーを標準としたGPC法による測定値であり、平均粒径は動的光散乱法によって測定した値である。
【0050】合成例1
グラフト型ウレタンポリマー
トリメチロールプロパンと無水フタル酸とのハーフエステル148g(0.50モル)を、メチルエチルケトン/テトラヒドロフラン(1/1)250gに溶解し、その溶液を45℃にて撹拌しつつ保持し、窒素雰囲気下にてイソフォロンジイソシアナート122.3g(0.55モル)のメチルエチルケトン50重量%溶液を3時間で滴下し、更に5時間反応させた。水酸基価が完全に消失したら、減圧下にて溶媒と未反応のイソフォロンジイソシアナートを除去しつつ、N-メチルピロリドンによって溶媒置換を行った。生成物のNCO当量は1600(対固形分)であった。次いで該生成物200gの50重量%N-メチルピロリドン溶液にジエチルアミン4.6g(約1/16モル)を加え、生成物中の半分のイソシアナート基をアミンで封鎖した。引き続いて2-ヒドロキシエチルアクリレート7.3g(約1/16モル)を加え、60℃で6時間反応した。反応終了後、モノエタノールアミン及び水を加えて中和し、固形分25重量%の水/N-メチルピロリドン溶液とした。このようにして、本発明に用いる水溶性ウレタンマクロモノマー1を得た。
【0051】上記水溶性ウレタンマクロモノマー1の120重量部に対して、スチレン20重量部、t-ブチルメタクリレート20重量部、及び過硫酸カリウム2部を加え、ウルトラホモジナイザーにて乳化した。この懸濁液を1000rpmで撹拌しながら70℃にて4時間かけてラジカル重合を行った。生成した溶液は、粘度150cpsの淡黄色透明なコロイド溶液であった。又、生成したポリマーの数平均分子量は11,000で、酸価は100であった。
【0052】合成例2
ブロック型ウレタンポリマー
トリメチロールプロパンと無水エンディック酸とのハーフエステル149g(0.50モル)をメチルエチルケトン/N-メチルピロリドン(1/1)150gに溶解し、その溶液を45℃にて撹拌しつつ保持し、窒素雰囲気下にてジフェニルメタンジイソシアナート132.5g(0.53モル)のメチルエチルケトン50重量%溶液を3時間で滴下し、更に5時間反応させた。水酸基価が完全に消失したら、減圧下にて溶媒と未反応のジフェニルメタンジイソシアナートを除去しつつ、N-メチルピロリドンを追加して溶媒置換を行った。生成物のNCO当量を測定したところ850(対固形分)であった。次いで該生成物200gの50重量%N-メチルピロリドン溶液に27.3gの2-ヒドロキシエチルアクリレート、0.3gのジブチル錫ジラウレートを触媒として加え、75℃で6時間反応した。反応終了後、モノエタノールアミン及び水を加えて中和し、固形分25重量%の水/N-メチルピロリドン溶液とした。このようにして、本発明に用いる両末端がアクリロイル基である水溶性ウレタンマクロモノマー2を得た。
【0053】上記水溶性ウレタンマクロモノマー2を120重量部に対して、メチルメタクリレート20重量部とt-ブチルメタクリレート20重量部を加え、ウルトラホモジナイザーにて乳化した。この懸濁液に重合開始剤として過硫酸カリウム2部を添加し、1000rpmで撹拌しながら85℃にて4時間かけてラジカル乳化重合を行った。生成した溶液は、粘度135cps、数平均分子量9300、酸価75の淡黄色透明なコロイド溶液であった。
【0054】合成例3?6
合成例1及び2と、ほぼ同様の方法で、下記表の材料を使用して合成例3?6の水溶性ウレタンポリマーを合成した。

【0055】上記表において、F-1?6は下記の化合物を示す。
F-1;トリメチロールプロパンと無水フタル酸とのハーフエステル
F-2:トリメチロールプロパンと無水エンディック酸とのハーフエステル
F-3:トリメチロールプロパンと無水トリメリット酸とのハーフエステル
F-4:グリセリンと無水トリメリット酸とのハーフエステル
F-5:1,2,4ブタントリオールと1,4シクロヘキサンジカルボン酸とのハーフエステル
F-6:1,2,6ヘキサントリオールと1,3シクロペンタジカルボン酸とのハーフエステル
又、HM/LM比率とは、疎水性モノマーとウレタンマクロモノマーの重量比率を表わす。尚、中和剤にはモノエタノールアミンを使用し、アクリロイル化には、2-ヒドロキシエチルアクリレートを使用した。IPDIはイソフォロンジイソシアナート、MDIはジフェニルメタンジイソシアナート、HMDIはヘキサメチレンジイソシアナート、アミンAはジエチルアミン、アミンBはトリエチルアミン、Stはスチレン、t-BMAはt-ブチルメタクリレート、n-BMAはn-ブチルメタクリレート、MMAはメチルメタクリレートを表わす。
・・・
【0065】実施例4
以下の方法で、実施例4の分散体DBk-1、水系微粒子分散インクBk-1及びBk-2を作製した。
(分散体DBk-1)
・合成例4の水溶性ウレタンポリマー(エタノールアミン中和、固形分4 5重量%水溶液、pH9.5) 20部
・C.I.ディスパースオレンジ13 14部
・C.I.ディスパースレッド152 1部
・C.I.ディスパースブルー186 6部
・C.I.ディスパースブルー264 8部
・ジエチレングリコール 10部
・トリエチレングリコールモノエチルエーテル 5部
・水 135部
これらの材料を使用し、実施例1とほぼ同様にして分散処理を行い、粘度3.8cpsの分散液を作製した。この分散液を、実施例1と同様にして遠心分離処理を行い、固形分12重量%、平均粒径160mμ、表面張力44dyne/cm、pH8.5の分散体DBk-1を作製した。
【0066】
(水系微粒子分散インクBk-1)
・分散体DBk-1 67部
・ビス2-ヒドロキシエチルスルホン 10部
・チオジグリコール 10部
・エタノール 3部
・ジエタノールアミン 1部
・水 9部
これらの成分をよく混合し、0.25μmのメンブランフィルターを用いて加圧濾過し、粘度2.2cps、表面張力43dyne/cm、pH9.5のブラック色水系微粒子分散インクBk-1を得た。
・・・
【0075】 捺染プリントテスト
バブルジェットプリンタBJC-600(キヤノン製)を用いて、布帛上にカラー記録を行った。用いた布帛はポリエステルデシンで、これにポリビニルピロリドンの1重量%水溶液をパッドし、(絞り率80%)乾燥してからマイラーフィルムに両面粘着テープで貼り付けてプリンタで記録した。カラー印字後、マイラーフィルムから布帛を剥がしてから、180℃で5分間、HTスチーミング処理を行った。この後、常法により還元洗浄、水洗、乾燥を経て、ポリエステルの捺染物を得た。得られた捺染物の判定は、発色濃度、色調、シャープネス、洗濯堅牢性によって行った。その結果を表1に示す。」
(5) 甲5の記載事項
甲5には、「インクジェット記録用インク組成物並びにこれを用いた画像記録方法及び記録物」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 着色剤と、水溶性有機溶媒と、水とを少なくとも具備するインク組成物において、
ローリングボール式の粘度測定を、20℃の温度条件で、傾斜角度θを所定角度変化させつつ行い、予め設定した所定の角度における粘度を測定し、横軸をsinθとし、且つ、縦軸を粘度としてプロットして得たsinθ-粘度曲線におけるsinθ=0(θ=0)の値であるゼロ剪断粘度が3?10mPa・sであり、該sinθ-粘度曲線の勾配が-0.1?0の範囲であることを特徴とする、インクジェット記録用インク組成物。
・・・
【請求項4】 前記着色剤が、分散剤により水性媒体中に分散されたものである、請求項1?3の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
・・・
【請求項7】 前記着色剤が、分散染料及び油溶性染料より選択される水不溶性染料である、請求項1記載のインクジェット記録用インク組成物。」
イ 「【0045】本発明のインク組成物に用いられる着色剤としては、特に制限されるものではなく、所望の色を発色し得る無機顔料や有機顔料、分散染料や油溶性染料等が使用できる。」
ウ 「【0056】分散剤の溶解安定性をより向上させるためには、分散剤中の塩をイオン解離させ易いようにpH緩衝液を添加し、インク組成物を最適なpH値に調節することが好ましい。pH緩衝液の具体例としては、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩等が用いられる。pH緩衝液の添加量は、ヘッドの部材の耐久性とインクの安定性の観点から、概ねインク組成物のpHが7?10になるような量が好ましい。」
エ 「【0061】本発明の好ましい態様においては、さらに水溶性有機溶媒として、以下のものを含んでなることが好ましい。本発明のインク組成物においては、インク組成物の保水性と湿潤性をもたらす目的で、高沸点水溶性有機溶媒からなる湿潤剤を含んでなることが好ましく、かかる溶媒の好ましい例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、などの多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類等が挙げられる。この中での沸点が180℃以上の水溶性有機溶媒が好ましい。これらの高沸点水溶性有機溶媒は単独または2種以上混合して使用することができる。これらの高沸点水溶性有機溶媒の含有量は、インク組成物に対して好ましくは0.01?20重量%範囲程度であり、より好ましくは0.1?10重量%の範囲である。」
オ 「【0096】
【実施例】以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0097】実施例1?15及び比較例1?7
下記表1、表2及び表3に示す各組成からなるインク組成物について、各成分を、25℃で、混合容器に投入し、通常の攪拌機を用いて、1時間攪拌・混合して、製造した。
【0098】得られた各インク組成物の粘度を前述の方法に準じて測定し、ゼロ剪断粘度及びsinθ・粘度曲線の勾配を求めた。また、インク組成物の表面張力を協和界面科学社製の自動表面張力計CBVP-Z型によって測定した。また、インク組成物の吐出安定性を次のようにして評価した。インク組成物を、それぞれブラックインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ「PM700C」(セイコーエプソン株式会社製)に装填し、間隔1mmの罫線パターンをスーパーファイン用紙(セイコーエプソン株式会社製)に、所定のパターンで罫線を印刷した。このとき、罫線の曲がり発生状況を調べた。また、インク組成物の印字品質については、インクジェットプリンタ「PM700C」にインク組成物を充填したカートリッジを装填して、アルファベット24文字を印刷し、ドット抜け、曲がり、にじみ等がないものを良とした。以上の評価結果を表1?3に示す。
【0099】
【表1】

【0100】ここで、表1中の*1?*3の詳細は、次の通りである。
*1;カーボンブラックを次亜塩素酸で酸化処理することによって、表面にカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を導入したもので、平均粒径が90nmの自己分散型顔料である。
*2;カーボンブラックをスルファミン酸でスルホン化処理することによって、スルホン酸基を導入したもので、平均粒径が85nmの自己分散型顔料である。
*3;分散剤で分散された顔料で、次のようにして製造したものである。スチレン-アクリル酸共重合体(重量平均分子量11000、酸価150)4部、トリエタノールアミン2.7部、イソプロピルアルコール0.4部、及びイオン交換水72.9部を、70℃の加温下で完全溶解させる。次に、カーボンブラックMA-100(三菱化成株式会社製)20部を加え、プレミキシングを行った後、アイガーミル(アイガージャパン社製)で顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行い(ビーズ充填率70%、メディア径0.7mm)、目的の顔料分散液を得た。得られた顔料分散液の平均粒径は、105nmであった。」
(6) 甲7の記載事項
甲7には、「インクジェットインク及びインクジェット画像形成方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット捺染に用いる分散染料を含有するインクジェットインクにおいて、酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基を有し、酸価が80mgKOH/g以上、300mgKOH/g以下のポリマー樹脂を固形分で2質量%以上、10質量%以下含有し、かつ水溶性有機溶剤を含有することを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤が、グリコールエーテル類または1,2-アルカンジオール類であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
シリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載のインクジェットインクを用いて、布帛を加熱しながらインクジェット記録方式で印字することを特徴とするインクジェット画像形成方法。」
イ 「【0037】
(水溶性有機溶剤) 本発明のインクは、水溶性有機溶剤を含有することを特徴の1つとし、更には、本発明に係る水溶性有機溶剤が、グリコールエーテル類、もしくは1,2-アルカンジオール類から選ばれる水溶性有機溶剤であることが好ましく、更には本発明に係る水溶性有機溶剤のインク中への添加量が、20質量%以上、45質量%未満であることが好ましく、更に好ましくは25質量%以上、40質量%未満である。本発明に係る水溶性有機溶剤は、単独で20質量%以上、45質量%未満含有してもよいし、複数種用いて、それらの総量が20質量%以上、45質量%未満含有するものであってもよい。
【0038】
本発明に係る水溶性有機溶剤としては、グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。・・・
【0040】
本発明において、グリコールエーテル類もしくは1,2-アルカンジオール類から選ばれる水溶性有機溶剤を、20質量%以上、45質量%未満含有することが好ましい理由として以下のように推察している。
【0041】
第1の理由としては、上述の様に、水溶性有機溶剤を20質量%以上、45質量%未満含有することにより、インクの乾燥時の粘度上昇を促進し、高画質を実現できる効果があるものと考えている。
【0042】
第2の理由は、得られる画像の耐久性が向上する点である。この要因としては、以下のように推察している。グリコールエーテル類もしくは1,2-アルカンジオール類は、水混和性有機溶剤の中では比較的疎水性の部類であり、このことが本発明に係る分散染料を用いるインクでは、インクの乾燥、定着過程でポリマー樹脂を軟化もしくは部分的に溶解することで、分散染料同士、または分散染料と布帛との密着性を高めていることで画像耐久性を高めているものと考えている。
【0043】
また、グリコールエーテル類もしくは1,2-アルカンジオール類は、ポリエステル等の布帛を軟化しやすく、このことも耐久性向上効果に寄与しているものと考えている。特に、本発明のように、布帛を加熱して印字するのに用いるインクとしては、その効果が顕著である。
【0044】
更に、グリコールエーテル類もしくは1,2-アルカンジオール類等の水溶性有機溶剤を20質量%以上添加することで、比較的高い保湿効果も同時に得られ、顔料、バインダー樹脂を含有するインクでも乾燥固化しにくく、インクジェット記録画像形成時、インクジェット記録ヘッドでのインク吐き捨て等の軽度のメンテナンス操作で速やかに定常状態に回復するメリットがある。
【0045】
しかしながら、45質量%以上の添加は、分散染料の分散安定性を著しく損ない、また初期粘度が高くなりすぎ、安定な射出性が得られない。」
ウ 「【0048】
(界面活性剤) 本発明のインクでは、シリコーン系界面活性剤もしくはフッ素系の界面活性剤を好ましく用いることができる。本発明のインクにおいては、上述の様なグリコールエーテル類もしくは1,2-アルカンジオール類を50質量%程度に添加することでも、布帛への濡れ性を確保することはできるが、更には、シリコーン系界面活性剤もしくはフッ素系界面活性剤を添加することで、より優れた濡れ性を得ることができ、布帛への浸透性、定着性を更に高めることになり好ましい。
【0049】
特に、前処理をしてない種々の布帛に対して、高品位の画質を得ることができる。前処理を施していない布帛に対して、インク混じりを低減させて高画質を得るには、布帛中の糸に沿ったインクの拡散を低減する必要がある。この目的には、本発明のインクの作用機構の一つと考えているインクを布帛に着弾した直後に高速でインク粘度を上昇させ、流動性を低下させることが重要であると思われる。
【0050】
また、布帛の場合、糸を構成する更に微細な空隙へのインクの浸透によってもインクが濃縮され、粘度増加を起こしていると考えている。このインクの浸透作用は、シリコーン系界面活性剤もしくはフッ素系界面活性剤を、上述のグリコールエーテル類もしくは1,2-アルカンジオール類から選ばれる水溶性有機溶剤を20質量%以上、45質量%未満含有することと併用することで、大幅に向上するものと考えている。
【0051】
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はないが、好ましくはポリエーテル変性ポリシロキサン化合物が挙げられ、例えば、信越化学工業製のKF-351A、KF-642やビッグケミー製のBYK347、BYK348などが挙げられる。」

3 甲1に記載された発明(「甲1インク」及び「甲1方法」)
甲1の請求項1には、バブルジェット用水系分散インクが、同請求項6には、インクジェット方式により形成したインク滴を被記録材に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクとして前記請求項1に記載のインクを適用するインクジェット記録方法が、それぞれ記載されているところ、当該インクの具体例として、【0102】?【0104】の実施例4及び【0117】?【0119】の比較例1には、「インクM-1」及び「インクYC-1」がそれぞれ記載され、当該インクジェット記録方法の具体例として、【0126】の捺染プリントテストの例が記載されている(なお、上記「インクM-1」(実施例4)自体は、当該【0126】の捺染プリントテストに供されていないが、同インクも同様に捺染プリントすることが予定されたものと解される。)。
そうすると、甲1には、次の発明が記載されているといえる。
(1) 甲1インク
「インクM-1」及び「インクYC-1」(以下、まとめて「甲1インク」という。)
なお、「インクM-1」及び「インクYC-1」は以下のものである。
ア 「インクM-1」
「分散体DM 45部
フォスファノールRS-610(東邦化学社の製品、HLB10.5)のモノエタノールアミン塩20重量%水溶液 5部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
水 30部
粘度2.4cps、表面張力42dyn/cm、pH9.3」であり、
ここでいう「分散体DM」は、
「P-2水溶液(固形分20重量%) 30部
C.I.ディスパースレッド348、ホスタパームピンクE(ヘキスト社製) 30部
エチレングリコール 15部
水 125部
粘度10cps、pH9.8、平均粒径180mμ」であり、
ここでいう「P-2水溶液」は、
「アニオン系高分子P-2(スチレン-マレイン酸-n-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000、固形分20重量%の水溶液 中和剤:トリエタノールアミン)」であるもの。
イ 「インクYC-1」
「分散体DY-2 30部
チオジグリコール 20部
イソプロピルアルコール 5部
水 45部
粘度3.8cps、表面張力44dyn/cm、pH=9.5」であり、
ここでいう「分散体DY-2」は、
「P-2水溶液(固形分20重量%) 22部
C.I.ディスバースイエロー198ウェットケーキ 40部(固形分)
エチレングリコール 20部
水 110部
粘度12.0cps、pH9.8、平均粒径200mμ」であり、
ここでいう「P-2水溶液」は、
「アニオン系高分子P-2(スチレン-マレイン酸ーn-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000、固形分20重量%の水溶液 中和剤:トリエタノールアミン)」であるもの。
(2) 甲1方法
「インクジェット方式により形成したインク滴を被記録材に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクとして「インクM-1」及び「インクYC-1」を適用するインクジェット記録方法であって、具体的には、前記インクを、360dpiで64ノズルを有するバブルジェット記録ヘッドを搭載したカラーインクジェット記録装置に充填して、ポリエステル布帛にカラー記録後、180℃で8分間スチーム中で加熱し、常法の洗浄処理を行って、捺染物を得る方法」(以下、「甲1方法」という。)

4 甲2に記載された発明(「甲2インク」及び「甲2方法」)
甲1の請求項1には、バブルジェット用水系分散インクが、同請求項2には、インクジェット方式により形成したインク滴を被記録材に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクとして前記請求項1に記載のインクを適用するインクジェット記録方法が、それぞれ記載されているところ、当該インクの具体例として、【0105】?【0107】の実施例8には、「インクY-8」が記載され、当該インクジェット記録方法の具体例として、【0128】の捺染プリントテストの例が記載されている。
そうすると、甲2には、次の発明が記載されているといえる。
(1) 甲2インク
「インクY-8」(以下、「甲2インク」という。)
なお、「インクY-8」は以下のものである。
「分散体Y-8 45部
フェノールのエチレンオキシド4モル付加化合物 10部
チオジグルコール 10部
グリセリン 5部
粘度2.7cps、表面張力51dyn/cm、pH9.2」であり、
ここでいう「分散体Y-8」は、
「P-5水溶液(固形分20重量%) 15部
C.I.デイスパースイエロー64ウエットケーキ 28部(固形分)
エチレングリコール 20部
水 137部
平均粒径136mμ、固形分15%」であり、
ここでいう「P-5水溶液」は、
「アニオン系高分子P-5(スチレン-マレイン酸-n-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000、固形分20重量%の水溶液 中和剤:トリエタノールアミン)」であるもの。
(2) 甲2方法
「インクジェット方式により形成したインク滴を被記録材に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクとして「インクY-8」を適用するインクジェット記録方法であって、具体的には、前記インクを、360dpiで64ノズルを有するバブルジェット記録ヘッドを搭載したカラーインクジェット記録装置に充填して、ポリエステル布帛にカラー記録後、180℃で8分間スチーム中で加熱し、常法の洗浄処理を行って、捺染物を得る方法」(以下、「甲2方法」という。)

5 甲3に記載された発明(「甲3インク」及び「甲3方法」)
甲3の請求項1には、特定のポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛が、同請求項3には、布帛に対し捺染用インクをインクジェット方式により付与した後、染着処理を行い、次いで洗浄処理をするインクジェット捺染方法において、前記布帛が請求項1に記載のインクジェット捺染用布帛であるインクジェット捺染方法が、それぞれ記載されているところ、当該捺染用インクの具体例として、「分散染料液(III)」及び「分散染料液(IV)」(【0033】、【0034】)を用いて製造した「インク(E)」?「インク(H)」(【0039】?【0042】)が記載され、さらに当該インクジェット捺染方法の具体例として、【0043】の実施例1が記載されている。
そうすると、甲3には、次の発明が記載されているといえる。
(1) 甲3インク
「インク(E)」?「インク(H)」(以下、まとめて「甲3インク」という。)
なお、「インク(E)」?「インク(H)」は下記ア?エのものであり、そこで使用されている「分散染料液(III)」及び「分散染料液(IV)」は下記オ、カのものである。
ア 「インク(E)」
「・上記分散染料液(III) 40部
・チオジグリコール 16部
・ジエチレングリコール 17部
・塩化ナトリウム 0.08部
・硫酸カリウム 0.01部
・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部
・硫酸鉄 0.001部
・塩化ニッケル 0.0003部
・塩化亜鉛 0.0003部
・イオン交換水 26.9部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整したインクジェット捺染インク」
イ 「インク(F)」
「・上記分散染料液(III) 40部
・チオジグリコール 16部
・ジエチレングリコール 17部
・塩化ナトリウム 0.08部
・硫酸カリウム 0.01部
・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部
・硫酸鉄 0.001部
・塩化ニッケル 0.0003部
・塩化亜鉛 0.0003部
・塩化カルシウム 0.006部
・イオン交換水 26.9部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整したインクジェット捺染インク」
ウ 「インク(G)」
「・上記分散染料液(III) 40部
・チオジグリコール 16部
・ジエチレングリコール 17部
・塩化ナトリウム 0.08部
・硫酸カリウム 0.01部
・メタケイ酸ナトリウム 0.0005部
・硫酸鉄 0.001部
・塩化ニッケル 0.0003部
・塩化亜鉛 0.0003部
・塩化マグネシウム 0.01部
・イオン交換水 26.9部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整したインクジェット捺染インク」
エ 「インク(H)」
「・上記分散染料液(IV) 45部
・チオジグリコール 23部
・ジエチレングリコール 12部
・塩化カリウム 0.004部
・硫酸ナトリウム 0.002部
・メタケイ酸ナトリウム 0.001部
・塩化鉄 0.0005部
・イオン交換水 20部
上記の全成分を混合し、混合液をモノエタノールアミンでpH8?10に調整したインクジェット捺染インク」
オ 「分散染料液(III)」
「・スチレン-アクリル酸-アクリル酸ブチル共重合体(酸価120、重量 平均分子量6,100) 5部
・トリエタノールアミン 2部
・イオン交換水 66部
・ジエチレングリコール 5部
上記の成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させた溶液に新たに、分散染料(C.I.ディスパーズオレンジ 55)15部、エタノール7部を加え、30分間プレミキシングを行った後、分散処理を行ったもの。」
カ 「分散染料液(IV)」
「分散染料をC.I.ディスパーズブルー214に代え、分散染料液(III)と同様に処方したもの。」
(2) 甲3方法
「布帛に対し捺染用インクをインクジェット方式により付与した後、染着処理を行い、次いで洗浄処理をするインクジェット捺染方法において、前記布帛が特定のポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛であり、前記捺染用インクが「インク(E)」?「インク(H)」のいずれかであるインクジェット捺染方法であって、具体的には、平均太さ2dのポリエステル繊維からなる平均太さ50dのポリエステルフィラメント糸からなるポリエステル100%の織布を、予め濃度15%の尿素の水溶液に浸し、絞り率35%で脱水後乾燥して、水分率が5%になる様にし、この織布に上記「インク(E)」?「インク(H)」をカラーバブルジェットコピアPIXEL PRO(商品名 キヤノン製)に搭載し、2×10cmのベタサンプルをインク打込量16nl/mm2 の条件でプリントを行い、120?130℃で30分間の蒸熱処理による定着を行った後、これを中性洗剤で洗浄する方法」(以下、「甲3方法」という。)

6 「甲1インク」及び「甲1方法」に基づく本件発明の進歩性について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と「甲1インク」とを対比する。
「甲1インク」である「インクM-1」及び「インクYC-1」は、それぞれ「C.I.ディスパースレッド348」及び「C.I.ディスバースイエロー198」という分散染料を含むものであり、いずれのインクも、水を含むものである。
また、いずれのインクも、分散体中に、アニオン系高分子P-2(スチレン-マレイン酸-n-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000、固形分20重量%の水溶液 中和剤:トリエタノールアミン)を含むものであるところ、当該「スチレン-マレイン酸-n-ブチルアクリレート:酸価210、重量平均分子量7000」は、本件発明1における「分散剤」に相当し、かつ、本件発明1が規定する「当該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)」という条件を満足するものであるし、当該「中和剤:トリエタノールアミン」は、本件特許明細書の【0094】に例示されている化合物からみて、本件発明1が規定する「25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である塩基」に相当するものと認められる。
さらに、いずれのインクも、グリセリンをはじめとする種々の水溶性有機溶剤を含むところ、当該水溶性有機溶剤の合計含有量は、それぞれ23.4質量%、28.1質量%と計算できる(計算式略)から、本件発明1が規定する「該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満」という条件を満足するものである。
そうすると、両者は、次の点で相違し、その余の点では一致するものと認められる。
相違点1:本件発明1は、シリコーン系の界面活性剤を更に含むのに対して、「甲1インク」は、これを含むものではない点。
相違点2:本件発明1は、前処理剤を付与された布帛への記録に用いられるとの特定があるのに対して、「甲1インク」にはそのような特定がない点。
相違点3:本件発明1は、少なくとも2種の塩基を含み、当該塩基が、25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である塩基と、25℃でのpKaが9.87以上である塩基の、少なくとも2種の塩基とを含むのに対して、「甲1インク」は当該塩基のうちの前者のものしか含んでいない点。
イ 相違点の検討
事案にかんがみ、はじめに上記相違点3について検討をする。
甲1には、その【0061】に、塩基として、「甲1インク」において使用されているトリエタノールアミン以外にも種々の塩基が記載されている。
しかしながら、「甲1インク」は既に、当該塩基としてふさわしいものとして、トリエタノールアミンを選択しているのであるから、当該【0061】の記載は、このような「甲1インク」において、当該トリエタノールアミンに加えてさらに、本件発明1が特定する「25℃でのpKaが9.87以上である塩基」をわざわざ使用することを動機付けるものとは言い難い。
また、ほかに上記の点を動機付けると認めるに足りる証拠は見当たらない。
なお、特許異議申立人は、令和2年10月16日付けの意見書において、甲第12号証(特開2013-100395号公報。以下、「甲12」という。)の【実施例】の記載に基づき、当該実施例においては、顔料分散液の調製において、水酸化カリウム(本件発明1における「25℃でのpKaが9.87以上である塩基」に相当)を使用し(【0134】)、それを用いたインク組成物の調製において、トリエタノールアミン(TEA。本件発明1における「25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である塩基」に相当)を使用していることから、本件発明1のような特定の2種の塩基を使用することは周知の技術であるから、「甲1インク」において、当該周知技術を採用して本件発明1とすることは容易想到の事項である旨主張する。しかしながら、当該甲12記載の実施例は、分散染料ではなく、顔料を用いたものであるから、本件発明1とは前提を異にするし、当該甲12記載の2種の塩基を「甲1インク」に適用する場合、「甲1インク」において分散体DMを調製する段階で、「甲1インク」における「中和剤:トリエタノールアミン」に代えて、甲12記載の水酸化カリウムを使用し、当該分散体DMを用いてインクを調製する段階で、新たに、甲12記載のトリエタノールアミンを使用することになるが、このような大幅な塩基の変更が容易想到の事項にあたるということはできないから、当該主張を採用することはできない。
したがって、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を容易想到の事項ということはできないのであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、「甲1インク」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) 本件発明2?4、6、7について
本件発明2?4、6、7は、いずれも本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(1)における検討と同様、「甲1インク」に対して進歩性を欠如するということはできない。
(3) 「甲1方法」に基づく本件発明9、10の進歩性について
本件発明9、10と「甲1方法」とを対比、検討する。
本件発明9、10は、インクジェット記録方法の発明であるが、当該方法において使用されるインクジェットインク(本件発明1など)が、「甲1方法」において使用される上記「甲1インク」から容易想到のものでないことは、上記6(1)において検討したとおりである。
そうすると、本件発明9、10と「甲1方法」との間には、少なくとも、使用するインクにおける相違点が存在し、当該相違点に係る事項は容易想到の範疇の事項でないのであるから、本件発明9、10は、「甲1方法」に対して進歩性を欠如するということはできない。

7 「甲2インク」及び「甲2方法」に基づく本件発明の進歩性について
本件発明1?4、6、7と「甲2インク」、及び、本件発明9、10と「甲2方法」をそれぞれ対比しても、上記6において検討した相違点3と同様の相違点が存することから、これを容易想到の事項というに足りる証拠が見当たらないことも、既に述べたとおりであるから、上記6における検討と同様の理由により、本件発明1?4、6、7は、「甲2インク」に対して進歩性を欠如するとはいえないし、本件発明9、10は、「甲2方法」に対して進歩性を欠如するとはいえない。

8 「甲3インク」及び「甲3方法」に基づく本件発明の進歩性について
「甲3インク」及び「甲3方法」についても事情は同じであるから、上記6、7と同様の理由により、本件発明1?4、6、7は、「甲3インク」に対して進歩性を欠如するとはいえないし、本件発明9、10は、「甲3方法」に対して進歩性を欠如するとはいえない。

第6 先の取消理由(予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要

先の取消理由(予告)において採用しなかった特許異議申立理由は、おおむね次のように整理することができる。
・本件発明1、2、6、7、9、10に対する、甲1?3の各々を主たる 証拠とする新規性欠如
・本件発明1?10に対する、甲4?6の各々を主たる証拠とする進歩性 欠如
・本件発明は分散染料の詳細を規定するものではないことに起因するサポ ート要件違反及び実施可能要件違反
なお、上記甲6とは、特許異議申立人が甲第6号証として提出した、特開2013-231107号公報のことである。

第7 先の取消理由(予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断

1 甲1?3の各々を主たる証拠とする新規性欠如について
上記第5において検討したとおり、本件発明1、2、6、7、9、10と甲1?3に記載された発明との間には実質的な相違点が存在するから、甲1?3の各々を主たる証拠とする新規性欠如に係る特許異議申立理由には理由がない。

2 甲4?6の各々を主たる証拠とする進歩性欠如について
(1) 甲4、5の記載事項
甲4、5の記載事項は、上記第5の2(4)、(5)のとおりである。
(2) 甲6の記載
甲6には、「インクジェット記録用インク、記録方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、
アルキルポリオール類と、
を含有し、
前記アルキルポリオール類には、logP値が-0.7以上0.01以下であり、かつ標準沸点が180℃以上250℃以下の第1アルキルポリオールが2種以上含まれ、
前記アルキルポリオール類の含有量は、5質量%以上30質量%以下である、インクジェット記録用インク。」
イ 「【0038】
1.2.色材
本実施形態に係るインクは、色材を含有する。色材としては、例えば顔料及び染料が挙げられる。」
ウ 「【0048】
(染料)
染料としては、特に限定されないが、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。」
エ 「【0054】
(分散樹脂)
顔料を分散させる分散樹脂としては、水溶性樹脂又は水不溶性樹脂が挙げられる。また、顔料は、分散樹脂を利用することなく分散性能を有する自己分散顔料などであってもよい。以下、一例として水不溶性樹脂を挙げる。水不溶性とは、例えば25℃の水100gに対する溶解度が1g未満である樹脂をいう。」
オ 「【0080】
1.3.2.その他
(界面活性剤)
本実施形態のインクは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤として、以下に限定されないが、例えばノニオン系界面活性剤が挙げられる。ノニオン系界面活性剤は、記録媒体上でインクを均一に拡げる作用がある。そのため、ノニオン系界面活性剤を含むインクを用いてインクジェット記録を行った場合、滲みのほとんど無い高精細な画像が得られる。
【0081】
ノニオン系界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系、シリコーン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、及びフッ素系の界面活性剤が挙げられる。これらの中でもアセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の少なくとも一方を用いることが好ましい。
・・・
【0085】
シリコーン系界面活性剤は、他のノニオン系界面活性剤と比較して、記録媒体上で滲みを生じないようにインクを均一に拡げる作用に優れる。
【0086】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、BYK社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。シリコーン系界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0087】
シリコーン系界面活性剤を含有する場合には、その含有量は、インクの全質量に対して、0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。」
カ 「【0088】
(グリコールエーテル類)
本実施形態に係るインクは、デービス法により算出されたHLB値が4.2?7.8の範囲内であるグリコールエーテル類を含むことが好ましい。本実施形態に係るインクは、上記のHLB値の範囲内にあるグリコールエーテル類を含むことで、記録媒体の種類による影響を殆ど受けずに、濡れ性や浸透速度を制御することできる。これにより、種々の記録媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の記録媒体に対して、濃淡ムラが少ない鮮明な画像を記録することができる。」
キ 「【0100】
(その他の成分)
本実施形態に係るインクは、上記の成分に加えて、水酸化カリウムやトリエタノールアミン等のpH調整剤、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)等のキレート化剤、防腐剤・防かび剤、及び防錆剤などをさらに含んでもよい。」
ク 「【0108】
2.記録方法
本発明の一実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェット記録用インクを用いて画像を記録する画像記録工程を含む。
【0109】
以下、本実施形態に係る記録方法の一例を説明する。なお、本実施形態に係る記録方法は、これに限定されるものではない。
【0110】
2.1.画像記録工程
本実施形態に係る記録方法は、画像記録工程を含む。画像記録工程は、インクジェット記録方式で、上述のインクの液滴を吐出して、当該記録媒体に付着させることにより画像を記録するものである。このようにして、記録媒体上に画像の記録された記録物が得られる。
・・・
【0116】
2.2.加熱工程
本実施形態に係る記録方法は、加熱工程を含んでいてもよい。加熱工程は、記録媒体を加熱することにより、記録媒体上に付着したインク(画像)を乾燥させるものである。」
ケ 「【0125】
3.実施例
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0126】
3.1.インクの調製
表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間混合撹拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより、実施例及び比較例の各インクを調製した。なお、表2中の数値は、質量%を示し、イオン交換水はインク全量が100質量%となるように添加した。また、樹脂の含有量は、固形分換算値である。
【0127】
表2に示す各材料は、以下の通りである。
(色材)
・カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)
(樹脂)
・スチレン-アクリル酸共重合体系樹脂(商品名「ジョンクリル538J」、BASF社製、エマルジョン、Tg:66℃)
・ポリエチレンワックス(商品名「AQUACER515」、ビックケミー・ジャパン社製、融点:135℃)
(アルキルポリオール類)
・1,2-ペンタンジオール(標準沸点:210℃、logP値:0.01)
・3-メチル-1,5-ペンタンジオール(標準沸点:249℃、logP値:-0.20)
・1,2-ブタンジオール(標準沸点:194℃、logP値:-0.32)
・1,3-ブタンジオール(標準沸点:208℃、logP値:-0.70)
・1,2-ヘキサンジオール(標準沸点:224℃、logP値:0.50)
・プロピレングリコール(標準沸点:188℃、logP値:-0.92)
・グリセリン(標準沸点:290℃、logP値:-2.70)
(ピロリドン誘導体)
・2-ピロリドン
(その他)
・エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(HLB値:5.4)
・BYK-348(商品名、ビックケミー・ジャパン社製、シリコーン系界面活性剤)
・サーフィノールDF110D(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製、アセチレングリコール界面活性剤)
・トリエタノールアミン(pH調整剤)
・エチレンジアミン四酢酸塩(キレート化剤)
・イオン交換水
・・・
【0144】
【表2】


(3) 本件発明1と甲4?6に記載された発明との対比・検討
特許異議申立人は、甲4?6の記載のなかでも、特に、甲4の実施例4、甲5の実施例4及び甲6の実施例4に係るインクに着目しているから、これらのインクをそれぞれ「甲4インク」、「甲5インク」及び「甲6インク」として、まず、本件発明1と対比してみる。
ア 本件発明1と「甲4インク」との対比・検討
「甲4インク」は、甲4の【0065】、【0066】に記載のとおり、塩基として、分散体DBk-1作製時にモノエタノールアミンを使用し、水系微粒子分散インクBk-1作製時にジエタノールアミンを使用するものであるから、本件発明1が規定する特定の2種の塩基を使用するものではない。そして、甲4の【0045】には、中和剤としてトリエタノールアミンを含む種々の塩基が記載されているものの、同段落には、当該塩基の中でもアルコールアミンを選択することが好ましいことが記載されていることから、同段落記載は、既に、当該好適なアルコールアミンを選択している「甲4インク」において、あえて本件発明1のような特定の2種の塩基の選択を動機付けるものとまでは言い難い。
したがって、「甲4インク」に基づいて、本件発明1を進歩性に欠如するものということはできない。
イ 本件発明1と「甲5インク」との対比・検討
「甲5インク」は、甲5の【0097】?【0100】に記載のとおり、塩基として、カーボンブラック(分散剤で分散された顔料)製造時にトリエタノールアミンを使用し(【0100】の「*3」)、インク製造時に水酸化カリウムを使用するものであるが、当該「甲5インク」は、分散染料ではなく、顔料を用いるものであるから、本件発明1とは前提を異にするものであり、また、「甲5インク」のカーボンブラック(顔料)を、分散染料に代えた場合に、上記塩基の構成をそのまま踏襲するものであるとただちにいうこともできない。事実、甲5には、分散染料を用いた実施例も記載されているが、そこで使用する塩基は、「甲5インク」とは異なるものである。
したがって、「甲5インク」に基づいて、本件発明1を進歩性に欠如するものということはできない。
ウ 本件発明1と「甲6インク」との対比・検討
「甲6インク」は、甲6の【0143】、【0144】に記載のとおり、pH調製剤として、トリエタノールアミンのみを使用するものであり、また、色材として、カーボンブラックを使用するものであるから、本件発明1が規定する特定の2種の塩基とは異なるし、分散染料を用いるものでもない。そして、甲6の【0100】には、pH調整剤として水酸化カリウムなどが挙げられ、【0048】には、色材(染料)として分散染料が挙げられているものの、これらの記載が、「甲6インク」において、あえて本件発明1のような特定の2種の塩基を特定の色材と組み合わせて選択することを動機付ける記載とまでは言い難い。
したがって、「甲6インク」に基づいて、本件発明1を進歩性に欠如するものということはできない。
(4) 本件発明2?4、6、7、9、10と甲4?6に記載された発明との対比・検討
本件発明2?4、6、7、9、10は、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて具備するものであるから、これらの発明についても、甲4?6に記載された発明に基づいて、進歩性を欠如するということはできない。
(5) 本件発明8と甲4?6に記載された発明との対比・検討
本件発明8は、塩基としてグリシルグリシンを用いるものであるところ、甲4の【0045】には、水溶性ウレタンポリマーのカルボン酸基の中和剤の一例として、グリシルグリシンが記載されている。しかし、同段落には、グリシルグリシン以外にも種々の塩基が同列に記載され、なおかつ、当該塩基の中でもアルコールアミンを選択することが、インクの保存安定性及びインクジェット記録装置上での安定吐出性を得るために好ましいとされていることから、「甲4インク」、「甲5インク」及び「甲6インク」はいずれも、好適とされているアルコールアミンを既に使用していることに照らすと、あえてこれらのインクにおける塩基として、グリシルグリシンを使用することが容易想到の事項であるとまでは言い難い。
したがって、本件発明8が、甲4?6に記載された発明に基づいて、進歩性を欠如するということはできない。
(6) 小活
以上のとおりであるから、甲4?6の各々を主たる証拠とする進歩性欠如に係る特許異議申立理由には、理由がない。

3 サポート要件違反及び実施可能要件違反について
特許異議申立人が主張するサポート要件違反及び実施可能要件違反の論拠は、単に、本件明細書に記載された実施例では、分散染料として、「C.I.Disperse Blue 60」のみしか実証されていないことにあるが、特許請求の範囲に記載された一部の態様しか実施例において検証されていないことをもって、ただちに、サポート要件違反及び実施可能要件違反ということはできない。また、分散染料の種類までが、本件発明の課題に影響すると認めるに足りる証拠はないし、上記実証に供された分散染料以外のものを使用すると、本件発明が実施できないというに足りる根拠も見当たらない。
したがって、標記サポート要件違反及び実施可能要件違反に係る特許異議申立理由は、理由がない。

第8 結び

以上の検討のとおり、本件特許1?4、6?10は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項第1号又は第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえないから、上記取消理由及び特許異議申立理由によって、それらの特許を取り消すことはできない。
また、ほかにそれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許5については、本件訂正により請求項5は削除され、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散染料と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、水と、少なくとも2種の塩基とを含むインクジェットインクであって、
該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)を含み、
該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満であり、
該少なくとも2種の塩基が、25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、25℃でのpKaが7.5以上8.6以下である塩基と、
25℃でのpKaが9.87以上である塩基と、を含み、
シリコーン系の界面活性剤を更に含み、
前処理剤を付与された布帛への記録に用いられる、
インクジェットインク。
【請求項2】
前記インクジェットインクの25℃でのpHが7以上9以下である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記インクジェットインク中の前記少なくとも1種の塩基の量が、前記分散剤が有する前記カルボキシル基に対して、モル当量で1.5倍以上である、請求項1又は2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤が、グリコールエーテル類を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記分散剤は、アクリル系樹脂である、請求項1?4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記分散剤は、アクリル酸に由来する構成単位またはメタクリル酸に由来する構成単位を有する樹脂である、請求項1?4および6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項8】
分散染料と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、水と、少なくとも1種の塩基とを含むインクジェットインクであって、
該分散剤がカルボキシル基を有する水溶性樹脂である高分子化合物(ただし、活性エネルギー線の照射によって架橋結合可能な側鎖を複数有する高分子化合物を除く。)を含み、
該水溶性有機溶剤の含有量が該インクジェットインクの全質量に対して20質量%以上45質量%未満であり、
該少なくとも1種の塩基の25℃での蒸気圧が1.4Pa以下であって、かつ、該少なくとも1種の塩基の25℃でのpKaが7.5以上8.6以下であり、
前記塩基は、グリシルグリシンである、
インクジェットインク。
【請求項9】
請求項1?4、6および7のいずれか1項に記載のインクジェットインクの液滴を記録ヘッドから吐出させて前処理剤を付与された布帛上に付着させる工程と、該記録媒体上に付着した該液滴を該記録媒体に定着させる工程とを含む、インクジェット記録方法。
【請求項10】
前記方法は、
前記付着させる工程の前に、布帛に前処理剤を付与する工程を含み、
前記定着させる工程の後に、布帛へ染着できなかった前記分散染料または前記前処理剤を除去する工程を含む、請求項9に記載のインクジェット記録方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-22 
出願番号 特願2014-167506(P2014-167506)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 536- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 日比野 隆治
門前 浩一
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6458397号(P6458397)
権利者 コニカミノルタ株式会社
発明の名称 インクジェットインクおよびインクジェット記録方法  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

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