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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D07B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D07B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D07B
管理番号 1371710
異議申立番号 異議2019-700681  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-28 
確定日 2021-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6480092号発明「有機繊維からなる合撚糸コード」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6480092号の特許請求の範囲を、令和2年10月12に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?13〕について訂正することを認める。 特許第6480092号の請求項1、2、5、6、10?13に係る特許を維持する。 特許第6480092号の請求項3、4、7?9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6480092号の請求項1?13に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)3月26日(優先権主張 平成29年3月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成31年2月15日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 元年 8月28日 :特許異議申立人峯村圭(以下「申立人1」と
いう。)による請求項1?9に係る特許に対
する特許異議の申立て
令和 元年 9月 2日 :特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務
所(以下「申立人2」という。)による請求
項1?13に係る特許に対する特許異議の申
立て
令和 元年 9月 6日 :特許異議申立人桑城伸語(以下「申立人3」
という。)による請求項1?13に係る特許
に対する特許異議の申立て
令和 2年 2月12日付け:取消理由通知書
令和 2年 4月13日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 5月26日 :申立人2による意見書の提出
令和 2年 6月11日 :申立人3による意見書の提出
令和 2年 8月 5日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年10月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年11月13日 :申立人3による意見書の提出
令和 2年11月17日 :申立人2による意見書の提出

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年10月12日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)は、「特許第6480092号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?13について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であることを特徴とする有機繊維合撚糸コード。」という記載を、
「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上であることを特徴とする有機繊維合撚糸コード。」と訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2、5、6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項5の「請求項1?4のいずれか1項に記載の」という記載を、「請求項1又は2に記載の」と訂正する(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項6の「請求項1?5のいずれか1項に記載の」という記載を、「請求項1、2又は5のいずれか1項に記載の」と訂正する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項7を削除する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項8を削除する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項9を削除する。
(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項10の「有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、リング撚糸機を用い、さらに下記式:
扁平度=1-(楕円の短半径/楕円の長半径)
で求められる、バルーンコントロールリングの断面の扁平度を0.50?0.95とすることを特徴とする有機繊維合撚糸コードの製造方法。」という記載を、
「有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、ロールタイプの給紙張力調整機構及びリング撚糸機を用い、さらに下記式:
扁平度=1-(楕円の短半径/楕円の長半径)
で求められる、バルーンコントロールリングの断面の扁平度を0.50?0.95とし、該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtexにし、かつ、撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtexにすることを特徴とする、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である有機繊維合撚糸コードの製造方法。」と訂正する(請求項10を直接的又は間接的に引用する請求項11?13も同様に訂正する。)。
(10)訂正事項10
本件訂正前の請求項11の「請求項7?10のいずれか1項に記載の」という記載を、「請求項10に記載の」と訂正する(請求項11を直接的又は間接的に引用する請求項12?13も同様に訂正する。)。
(11)訂正事項11
本件訂正前の請求項12の「請求項7?11のいずれか1項に記載の」という記載を、「請求項10又は11に記載の」と訂正する(請求項12を引用する請求項13も同様に訂正する。)。
(12)訂正事項12
本件訂正前の請求項13の「請求項7?12のいずれか1項に記載の」という記載を、「請求項10?12のいずれか1項に記載の」と訂正する。

2.一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が、それぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
本件訂正前の請求項7?13は、請求項11?13が、それぞれ請求項7?10の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項6?9によって訂正される請求項7?10に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7?13は特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項である。

3.訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1のうち、本件訂正前の請求項1の「有機繊維からなる合撚糸コード」を、「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コード」と訂正することを訂正事項1-1とする。
訂正事項1のうち、本件訂正前の請求項1の「破断強度が7.0cN/dtex以上である」という記載を、「破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である」と訂正することを訂正事項1-2とする。
イ 訂正事項1-1の訂正の目的、新規事項の有無について
訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1の「有機繊維」について、「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の「本実施形態の合撚糸コードを構成する繊維は、有機繊維であり、例えば、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、レーヨンなどである。中でも、ゴム接着性、耐熱性、耐久性の観点から、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維が特に好ましい。」(【0012】)の記載に基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内である。
ウ 訂正事項1-2の訂正の目的、新規事項の有無について
訂正事項1-2は、本件訂正前の請求項1に係る「有機繊維合撚糸コード」について、「下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1-2は、本件特許明細書の「下記式(3):
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、前記有機繊維合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度は、値が小さいほど、撚糸後のコードの損傷が大きいことを示す。…撚糸損傷度は3.2%以上が好ましく、より好ましくは3.7%以上である。」(【0014】)の記載、及び【表1】(【0045】)において実施例3の撚糸損傷度(%)として「4.12」が記載されていることに基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内である。
エ 訂正事項1の特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものではない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2、3が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでないことは明らかである。
(3)訂正事項4、5について
訂正事項4、5は、訂正事項2、3の訂正に伴って引用請求項を減少させるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4、5が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでないことは明らかである。
(4)訂正事項6?8について
訂正事項6?8は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2、3が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでないことは明らかである。
(5)訂正事項9について
ア 訂正事項9のうち、本件訂正前の請求項10の「有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、リング撚糸機を用い」るという記載を、「有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、ロールタイプの給紙張力調整機構及びリング撚糸機を用い」、「該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtexにし、かつ、撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtexにする」と訂正することを訂正事項9-1とする。
訂正事項9のうち、本件訂正前の請求項10の「有機繊維合撚糸コード」を、「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である有機繊維合撚糸コード」と訂正することを訂正事項9-2とする。
イ 訂正事項9-1の訂正の目的、新規事項の有無について
訂正事項9-1は、本件訂正前の請求項10に係る「有機繊維合撚糸コードの製造方法」における「有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際」の有機繊維の張力について、「ロールタイプの給紙張力調整機構」を用い、「該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtex」にすること、及び「撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtex」にすることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項9-1は、本件特許明細書の「撚糸工程における給糸時張力は0.01cN/dtex?0.3cN/dtex、好ましくは0.03cN/dtex?0.1cN/dtexとすることが好ましい。一方、撚糸工程における撚糸時張力は0.05cN/dtex?0.4cN/dtexとすることが好ましく、より好ましくは0.06cN/dtex?0.3cN/dtex、更に好ましくは0.07cN/dtex?0.2cN/dtexである。」(【0016】)の記載、「給糸張力の調整には、繊維への擦過による損傷を抑制するため、図5、6に示すようなロールタイプのものを使用することが好ましい。」(【0017】)の記載、及び図4において符号7で示される「リング撚糸機」に、符号11で示される「給糸張力調整機構」が備えられていることに基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内である。
ウ 訂正事項9-2の訂正の目的、新規事項の有無について
訂正事項9-2は、本件訂正前の請求項10における「有機繊維合撚糸コード」を、実質的に本件訂正後の請求項1に係る「有機繊維合撚糸コード」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項9-2が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでないことは明らかである。
エ 訂正事項9の特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項9は、訂正前の請求項10の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものではない。
(6)訂正事項10?12について
訂正事項10?12は、引用請求項を減少させるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項10?12が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでないことは明らかである。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?13〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、2、5、6、10?13に係る発明(以下「本件発明1、2、5、6、10?13」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、5、6、10?13に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上であることを特徴とする有機繊維合撚糸コード。
【請求項2】
下記式:
破断強度変動係数(%)=(破断強度の標準偏差)/(破断強度の平均値)×100
で求められる、前記有機繊維合撚糸コードの破断強度変動係数(CV%)が2.0%以下である、請求項1に記載の有機繊維合撚糸コード。」
「【請求項5】
下記式:
上撚りの撚り係数K=Y×D^(0.5)、
{式中、Yは、有機繊維合撚糸コード1mあたりの撚数(T/m)、そしてDは有機繊維合撚糸コードの総繊度(dtex)である。}
で求められる、上撚りの撚り係数Kが10000?30000である、請求項1又は2に記載の有機繊維合撚糸コード。
【請求項6】
請求項1、2又は5のいずれか1項に記載の有機繊維合撚糸コードからなる繊維強化複合材料。」
「【請求項10】
有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、ロールタイプの給紙張力調整機構及びリング撚糸機を用い、さらに下記式:
扁平度=1-(楕円の短半径/楕円の長半径)
で求められる、バルーンコントロールリングの断面の扁平度を0.50?0.95とし、該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtexにし、かつ、撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtexにすることを特徴とする、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である有機繊維合撚糸コードの製造方法。
【請求項11】
前記有機繊維が、伸長方向4.56cN/dtex荷重時の伸び率が8.0?14.0%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記有機繊維の交絡度が4.0以上14.0以下である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機繊維がポリヘキサメチレンアジパミド繊維である、請求項10?12のいずれか1項に記載の方法。」

第4 当審の判断
1.取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の本件特許に対して、当審が令和2年8月5日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。

(進歩性)本件特許の請求項1?9、11?13に係る発明は、引用文献3に記載された発明又は引用文献4に記載された発明、及び従来周知の事項に基いて、本件特許優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?9、11?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2017-14678号公報(申立人1提出の甲第1号証、申立人2提出の甲第1号証、申立人3提出の甲第11号証)
2.特開平4-2832号公報(申立人1提出の甲第3号証)
3.特開平4-185711号公報(申立人3提出の甲第1号証)
4.特開平1-257605号公報(申立人3提出の甲第8号証)
5.特開昭49-7537号公報(申立人1提出の甲第6号証)
6.特開2003-221740号公報(申立人1提出の甲第7号証、申立人2提出の甲第2号証)
7.特開2005-48311号公報(申立人3提出の甲第2号証)
8.特表2016-506453号公報(申立人1提出の甲第2号証、申立人2提出の甲第3号証)
9.特開2007-254945号公報(申立人1提出の甲第4号証)
10.再公表2012/014309号公報(申立人1提出の甲第5号証)
11.特開2011-121439号公報(申立人2提出の甲第4号証)
12.特開2006-2263号公報(申立人3提出の甲第3号証)
13.特開2005-344266号公報(申立人3提出の甲第4号証)
14.特開2009-235647号公報(申立人3提出の甲第5号証)
15.国際公開第02/068738号(申立人3提出の甲第6号証)
16.特開平6-207338号公報(申立人3提出の甲第7号証)
17.特開2007-291568号公報(申立人3提出の甲第9号証)
18.実公昭56-28224号公報(申立人3提出の甲第10号証)
19.日本繊維機械学会繊維工学刊行委員会,「繊維工学(III)糸の製造・性能及び物性」第2版,社団法人 日本繊維機械学会,平成13年8月1日,p.251-272,348-369(申立人3提出の甲第12号証)
20.化学繊維フィラメント糸試験方法(JIS L1013:2010)(申立人3提出の甲第13号証)
21.特開2003-55855号公報(申立人3提出の甲第14号証)

なお、引用文献8?21については、申立人1?3が提出した証拠であって、取消理由(決定の予告)では引用していないものである。

2.令和2年8月5日付け取消理由(決定の予告)についての判断
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献3に記載された発明
引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)第1ページ左下欄第12?14行
「本発明はタイヤコードなどのゴム補強用分野への利用に適した高タフネスポリアミド繊維に関する。」
(イ)第7ページ右上欄第1行?左下欄第2行
「実施例3および比較例4,5,6
固相重合法によって硫酸相対粘度ηrが3.0のポリヘキサメチレンアジパミド(実質的に100%がヘキサメチレンアジパミド)のペレットを得た。添加剤の種類含有率は実施例1と同じであるこのポリマーペレットを第1図に示す溶融紡糸機および延伸機を用いて、1260d/208fのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を製造した(実施例3)」
(ウ)第8ページ左上欄第8行?右上欄第7行
「実施例3および比較例4,5,6で得られたポリヘキサメチレンアジパミド繊維の原糸物性を第7表に示す。
(以下余白)
次にリング撚糸機で、これらの原糸を撚糸し生コードと成した。その時の撚糸条件は次の如くである。
上撚数(S撚) 39.0回/10cm
下撚数(Z撚) 39.0回/10cm
撚糸張力 0.08g/d
得られ生コードの物性は第8表の如くである。」
(エ)第8ページ右上欄第7表

(オ)第8ページ左下欄第8表


上記記載から、引用文献3には次の事項が記載されているものと認められる。
(カ)ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の原糸を撚糸し生コードと成す条件として、上撚数(S撚)、下撚数(Z撚)が示されていることから(上記(ウ))、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸し、下撚り糸が得られること、また、当該得られた下撚り糸を複数本合わせ、上撚りして生コードと成すこと。

上記(ア)?(カ)の記載を総合し、実施例3に着目すると引用文献3には次の発明が記載されていると認められる。

「1286d/208fのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸した生コードであって、破断強度12.86kgのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸して破断強力23.3kgとし、上撚数が39.0回/10cmである生コード。」(以下「引用発明3-1」という。)

「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸し、得られた下撚り糸を複数本合わせ、上撚りして生コードと成す際に、撚糸張力を0.08g/dにする、1286d/208fのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸した生コードであって、破断強度12.86kgのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸して破断強力23.3kgとした生コードの製造方法。」(以下「引用発明3-2」という。)

イ 引用文献4
引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)第2ページ右上欄第16行?左下欄第12行
「この発明は互いに平行配列をなす有機繊維コードの複数プライよりなるトロイド状ラジアル構造のカーカスをそなえ、
このカーカスのクラウンのまわりを取囲む、やはり有機繊維コードの互いに平行配列になるベルトでトレッドを強化した空気入りタイヤであって、
ベルトは、ポリヘキサメチレンアジパミドの繰返し構造単位が95モル%以上のいわゆる66ナイロンポリマーを用いて撚糸後に接着剤処理したディップコードの状態における強度が9.0g/d以上、好ましくは9.5g/d以上でしかも初期モジュラスは80g/d以下の特性を持つコードよりなる複数のゴム引き層を、タイヤの赤道面に対して10°?70°のコード角にてタイヤの赤道面を挟んで交差配置したこと
を特徴とする高内圧重荷重用空気入りラジアルタイヤである。」
(イ)第3ページ右下欄第2行?第4ページ左上欄第1行
「この発明によるベルト構造のコード層として使用する高強力66ナイロン原糸は特開昭60-162828号公報に述べられている製造方法によって作られる。
(実施例)
表-1に示す原糸(ヤーン)を式(1)で示す撚係数0.3?0.6の範囲で使用することができる。
撚係数を小さく過ぎるとコードの耐圧縮疲労性が悪くなり好ましくない。一方、撚係数を大きくし過ぎると、コードの強力が低下し好ましくない。

例として、撚係数0.46とした撚りコードを用いて通常のRFLにより接着剤処理を行ったディップコードの物性を表-2に示す。」
(ウ)第4ページ右上欄表-2


上記記載から、引用文献4には次の事項が記載されているものと認められる。
(エ)コードの原糸が66ナイロン、撚数の単位が「回/10cm」であり(上記(イ))、また、コードが上撚り、下撚りをされており、実施例-3の上撚りの物性として「21」が示されている(上記(ウ))ことから、上撚りの撚数が21回/10cmであること、また、66ナイロンポリマーを下撚りと上撚りをして撚糸したこと。

上記(ア)?(エ)の記載を総合し、実施例-3に着目すると引用文献4には次の発明が記載されていると認められる。

「66ナイロンポリマーを用いて撚糸した有機繊維コードであって、構成が1260×2/3デニールであり、強度が9.9g/dであり、上撚りの撚数が21回/10cmである有機繊維コード。」(以下「引用発明4-1」という。)

「66ナイロンポリマーを下撚りと上撚りをして撚糸した有機繊維コードであって、構成が1260×2/3デニールであり、強度が9.9g/dであり、上撚りの撚数が21回/10cmである有機繊維コードの製造方法。」(以下「引用発明4-2」という。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)引用発明3-1を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明1と引用発明3-1とを対比すると、引用発明3-1の「1286d/208fのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸した」は本件発明1の「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる」に相当し、同様に「生コード」は「合撚糸コード」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明3-1とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コード。」
[相違点1-1]
本件発明1では、合撚糸コードの総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であるのに対して、引用発明3-1では、生コードの総繊度が不明である点。
[相違点1-2]
本件発明1では、「撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100」により求められる、合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であるのに対して、引用発明3-1では、解撚糸間の撚り糸長差係数が不明である点。
[相違点1-3]
本件発明1では、破断強度が7.0cN/dtex以上であるのに対して、引用発明3-1では、破断強度が不明である点。
[相違点1-4]
本件発明1では、「撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)」で求められる、合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上であるのに対して、引用発明3-1では、撚糸損傷度が不明である点。

b 判断
相違点1-4について検討すると、相違点1-4に係る本件発明1の構成は、引用文献1?21には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明3-1において、相違点1-4の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、相違点1-1?1-3を検討するまでもなく、当業者が引用発明3-1及び従来周知の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)引用発明4-1を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明1と引用発明4-1とを対比すると、引用発明4-1の「66ナイロンポリマーを用いて撚糸した」は本件発明1の「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる」に相当し、同様に「有機繊維コード」は「合撚糸コード」及び「有機繊維合撚糸コード」に相当する。
また、引用発明4-1の「構成が1260×2/3デニールであ」ることは、総繊度が1260×2×3=7560デニール=8400dtex程度であるから、本件発明1の「総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であ」ることに相当する。
また、引用発明4-1の「強度が9.9g/dであ」ることは、9.9g/d≒8.7cN/dtexであるから、本件発明1の「破断強度が7.0cN/dtexであ」ることに相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明4-1とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上である有機繊維合撚糸コード。」
[相違点1-5]
本件発明1では、「撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100」により求められる、合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であるのに対して、引用発明4-1では、解撚糸間の撚り糸長差係数は不明である点。
[相違点1-6]
本件発明1では、「撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)」で求められる、合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上であるのに対して、引用発明4-1では、撚糸損傷度が不明である点。

b 判断
相違点1-6について検討すると、相違点1-6に係る本件発明1の構成は、引用文献1?21には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明4-1において、相違点1-6の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、相違点1-5を検討するまでもなく、当業者が引用発明4-1及び従来周知の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
なお、相違点1-4、相違点1-6に関して、申立人2は、令和2年11月17日提出の意見書において、次のように述べている。
「再び図1を参照すると、「破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率」と、破断伸度とは、ほぼ同じことを示していると判断できる。すなわち、本件訂正発明の撚糸損傷度が高い(すなわち損傷を受けていない)ということは、破断伸度が高いことを意味する。
しかしながら、有機繊維合撚糸コードにおいて、破断伸度の高いコードは、取消理由通知書(決定の予告)(起案日:令和2年8月5日)において挙げられた引用文献2(特開平4-2832号公報)および引用文献3(特開平4-185711号公報)にも記載されている。
すなわち、引用文献2には、…破断エネルギーは伸度と応力に関連する値であることが開示されている。
さらに、引用文献3に記載の発明の具体例である実施例では、…が記載されている。そして、疲労テスト後も破断エネルギーが良好に維持されることが開示されている。
そうすると、所望の伸度に鑑みて、その程度を撚糸損傷度のような形で設定する程度のことは当業者において容易である。」(6ページ5行?7ページ19行)

また、相違点1-4、相違点1-6に関して、申立人3は、令和2年11月13日提出の意見書において、次のように述べている。
「特許権者は令和2年10月12日付意見書において、「総繊度が高い撚糸を用いながら、繊維の引き揃えを良好とする(撚り糸長差係数が特定範囲)には、高張力必要になるところ、高張力を加えると高負荷使用時の耐久性が悪化するという問題が生じる。そこで、耐久性の低下を抑制するためには解撚糸の撚糸損傷度を特定範囲に調整することが重要となる。」等と述べている。

また、「繊維の引き揃えを良好とする」ことの周知の一手段として「高張力」を加えることはあり得るが、「高張力」を加えれば必ず「繊維の引き揃えを良好」にできるとは限らないし、「繊維の引き揃えを良好」にしたものが必ず「高張力」が加えられているとは限らない。また、そもそも、本件訂正発明1には「高張力」の記載は無く、「高張力」は本件訂正発明1の構成要件でさえない。」(6ページ15?27行)

申立人2主張について検討する。
本件発明の課題は、「タイヤの軽量化に寄与する有機繊維合撚糸コード及びその製法並びに該コードを補強材に用いた繊維強化複合材料を提供すること」(【0007】)であり、課題を解決しようとする手段として、「撚糸時の擦過損傷を抑えつつ、繊維の引き揃えを良好に行い、コードの撚糸構造の均一化を図り、高負荷用途での耐久性に優れ、タイヤの軽量化に寄与しうる有機繊維合撚糸コードを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。」(【0008】)と記載されている。
ここで、「撚糸損傷度」については、「繊維の伸張変形」に関して、「微分ヤング率曲線の最大点では、繊維の伸長変形が最高潮となり、それ以降は高分子構造の不可逆変形が増加してゆく。ミクロな構造欠陥も増加してコードの破断に至るが、表面近傍の損傷がこの破断を増長してしまい、微分ヤング率曲線の最大点以降の伸びが少ない。」(本件特許明細書【0014】)という特許権者の知見の下に、繊維の伸長変形が最高潮となるまでの高分子構造の不可逆変形が小さい「微分ヤング率曲線の最大点」までの「解撚糸の伸長率」と、高分子構造の不可逆変形が増加してゆき、ミクロな構造欠陥も増加してコードの破断に至る「破断前応力が最大となる点」までの「解撚糸の伸長率」との差をとることで、撚糸の損傷度を評価するものである。
すなわち、「破断伸度」と「撚糸損傷度」とは、異なる評価であるから、伸度の程度を撚糸損傷度のような形で設定することは当業者において容易であったとはいえない。

申立人3主張について検討する。
本件特許明細書に、「構成する糸間の糸長差が少ない均質な撚糸構造を達成し、良好な平坦性を保ったままトッピングシートの薄肉化を可能とし、ゴム使用量を減少させることによる軽量化を達成するためには撚糸張力制御のみならず、従来行われていない給糸時張力の制御が重要である。
撚糸工程における給糸時張力は0.01cN/dtex?0.3cN/dtex、好ましくは0.03cN/dtex?0.1cN/dtexとすることが好ましい。一方、撚糸工程における撚糸時張力は0.05cN/dtex?0.4cN/dtexとすることが好ましく、より好ましくは0.06cN/dtex?0.3cN/dtex、更に好ましくは0.07cN/dtex?0.2cN/dtexである。
給糸時張力が0.01cN/dtex以上であれば構成する糸間の糸長差が少ない均質な撚糸構造を達成し、良好な平坦性を保ったままトッピングシートの薄肉化を可能とし、ゴム使用量を減少させることによる軽量化を達成することが可能である。また、給糸時張力が0.3cN/dtex以下であれば、給糸の段階での繊維への損傷を抑え、コード強度が低下せず、毛羽の発生も生じない。」(【0016】)と記載されているように、「張力」は「撚糸工程」おいて加えられるものであるところ、本件発明1は「有機繊維合撚糸コード」に関する発明であって、その製造方法の発明ではないため、「高張力」を本件発明1の構成要件とする必要はない。本件発明1は、高張力を加えて繊維の引き揃えを良好としつつ(撚り糸長差係数が特定範囲)、解撚糸の撚糸損傷度を特定範囲に調整したものである。
したがって、「高張力」を構成要件とするか否かは、本件発明1に必ずしも必要ではなく、撚糸損傷度(%)を特定範囲に調整したことは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

イ 本件発明2、5、6について
本件発明2、5、6は、本件発明1の技術的事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明3-1又は引用発明4-1、及び従来周知の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明10について
(ア)引用発明3-2を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明10と引用発明3-2とを対比すると、引用発明3-2の「1286d/208fのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸した」は本件発明10の「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる」に相当し、同様に「生コード」は「合撚糸コード」に相当する。

そうすると、本件発明10と引用発明3-2とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードの製造方法。」
[相違点10-1]
本件発明10では、「有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、ロールタイプの給紙張力調整機構及びリング撚糸機を用い」、「該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtexにし、かつ、撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtexにする」のに対して、引用発明3-2では、1286d/208fのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を撚糸して生コードと成す際に、撚糸張力を0.08g/dにする点。
[相違点10-2]
本件発明10では、「扁平度=1-(楕円の短半径/楕円の長半径)」で求められる、バルーンコントロールリングの断面の扁平度を0.50?0.95とするのに対して、引用発明3-2では、そのようなものではない点。
[相違点10-3]
本件発明10では、「有機合撚糸コード」が「総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である」のに対して、引用発明3-2では、そのようなものではない点。

b 判断
相違点10-2について検討すると、相違点10-2に係る本件発明10の構成は、引用文献1?21には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明3-2において、相違点10-2の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明10は、相違点10-1、10-3を検討するまでもなく、当業者が引用発明3-2に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(イ)引用発明4-2を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明10と引用発明4-2とを対比すると、引用発明4-2の「66ナイロンポリマーを用いて撚糸した」は本件発明1の「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる」に相当し、同様に「有機繊維コード」は「合撚糸コード」及び「有機繊維合撚糸コード」に相当する。
また、引用発明4-2の「構成が1260×2/3デニールであ」ることは、総繊度が1260×2×3=7560デニール=8400dtex程度であるから、本件発明10の「総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であ」ることに相当する。
また、引用発明4-2の「強度が9.9g/dであ」ることは、9.9g/d≒8.7cN/dtexであるから、本件発明10の「破断強度が7.0cN/dtexであ」ることに相当する。

そうすると、本件発明10と引用発明4-2とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上である有機繊維合撚糸コードの製造方法。」
[相違点10-4]
本件発明10では、「有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、ロールタイプの給紙張力調整機構及びリング撚糸機を用い」、「該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtexにし、かつ、撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtexにする」のに対して、引用発明4-2では、そのようなものではない点。
[相違点10-5]
本件発明10では、「扁平度=1-(楕円の短半径/楕円の長半径)」で求められる、バルーンコントロールリングの断面の扁平度を0.50?0.95とするのに対して、引用発明4-2では、そのようなものではない点。
[相違点10-6]
本件発明10では、「有機合撚糸コード」が「下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり」、「かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である」のに対して、引用発明4-2では、そのようなものではない点。

b 判断
相違点10-5について検討すると、相違点10-5に係る本件発明10の構成は、引用文献1?21には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明4-2において、相違点10-5の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明10は、相違点10-4、10-6を検討するまでもなく、当業者が引用発明4-2に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

エ 本件発明11?13について
本件発明11?13は、本件発明10の技術的事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記ウで検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明3-2又は引用発明4-2、及び従来周知の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.令和2年8月5日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった異議申立理由
(1)異議申立の理由中、令和2年8月5日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。

ア 申立人1の取消理由
(ア)新規性
本件訂正前の請求項1、2、5、6に係る発明は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明であり、本件訂正前の請求項7?9に係る発明は、甲第6号証(引用文献5)に記載された発明であり、本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲第7号証(引用文献6)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
(イ)進歩性
本件訂正前の請求項1?9に係る発明は、甲第1号証(引用文献1)、甲第2号証(引用文献8)、甲第3号証(引用文献2)、甲第4号証(引用文献9)、甲第6号証(引用文献5)又は甲第7号証(引用文献6)に記載された発明、並びに甲第1号証(引用文献1)に記載の事項、甲第2号証(引用文献8)に記載の事項、甲第3号証(引用文献2)に記載の事項、甲第4号証(引用文献9)に記載の事項、甲第5号証(引用文献10)に記載の事項、甲第6号証(引用文献5)に記載の事項及び甲第7号証(引用文献6)に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

イ 申立人2の取消理由
(ア)新規性
本件訂正前の請求項1、2、5、6に係る発明は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明であり、本件訂正前の請求項7、8に係る発明は、甲第2号証(引用文献2)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
(イ)進歩性
本件訂正前の請求項1?13に係る発明は、甲第1号証(引用文献1)、甲第2号証(引用文献2)又は甲第3号証(引用文献8)に記載された発明、並びに甲第1号証(引用文献1)に記載の事項、甲第2号証(引用文献2)に記載の事項、甲第3号証(引用文献8)に記載の事項及び甲第4号証(引用文献11)に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

ウ 申立人3の取消理由
(ア)新規性
本件訂正前の請求項1?8、11?13に係る発明は、甲第1号証(引用文献3)に記載された発明であり、本件訂正前の請求項7、8、12に係る発明は、甲第7号証(引用文献16)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
(イ)進歩性
本件訂正前の請求項1?13に係る発明は、甲第1号証(引用文献3)、甲第2号証(引用文献7)、甲第7号証(引用文献16)又は甲第8号証(引用文献4)に記載された発明、並びに甲第1号証(引用文献3)に記載の事項、甲第2号証(引用文献7)に記載の事項、甲第3号証(引用文献12)に記載の事項甲第4号証(引用文献13)、甲第5号証(引用文献14)、甲第6号証(引用文献15)、甲第7号証(引用文献16)に記載の事項、甲第8号証(引用文献4)に記載の事項、甲第9号証(引用文献17)に記載の事項、甲第11号証(引用文献1)に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(ウ)実施可能要件
本件訂正前の請求項1?6に係る発明についての特許は、次のとおり特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件訂正前の請求項1?6には、達成すべき結果そのものが記載されているだけであり、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由があるため、実施可能要件違反である。
(エ)サポート要件
本件訂正前の請求項1?13に係る発明についての特許は、次のとおり特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件訂正前の請求項1?6は、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維のほかの種類の繊維で、どのような製造条件で作成された繊維である不明な繊維も含み、また、本件訂正前の請求項7?9に係る発明は、あらゆる種類やあらゆる伸度の有機繊維を含み、あらゆる撚糸時張力を含むため、本件訂正前の請求項1?13が発明の課題が解決できるか否か、理解することができない。

(2)当審の判断
新規性進歩性
本件発明1の「撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)」で求められる、合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である事項、及び本件発明10の「扁平度=1-(楕円の短半径/楕円の長半径)」で求められる、バルーンコントロールリングの断面の扁平度を0.50?0.95とする事項については、申立人1、申立人2及び申立人3が主引例とした引用文献1?9、16には記載されておらず、また、その他の引用文献10?15、17?21にも記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用文献1に記載された発明において、上記本件発明1及び本件発明10の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1及び本件発明10は、当業者が引用文献1?9、16に記載された発明、引用文献1?21に記載の事項及び従来周知の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件発明2、5、6、11?13についても同様に、当業者が引用文献1?9、16に記載された発明、引用文献1?21に記載の事項及び従来周知の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

実施可能要件
本件発明1では、「撚糸長差係数」、「破断強度」、「撚糸損傷度」、本件発明2では、「破断強度変動係数」、本件発明5では、「上撚りの撚り係数K」の数値範囲が特定されている。
一方、本件特許明細書には、これらについて、
「撚糸長差係数」を求めるための「糸長差」に関して、「給糸時張力が0.01cN/dtex以上であれば構成する糸間の糸長差が少ない均質な撚糸構造を達成し」(【0016】)、
「破断強度」に関して、「撚糸損傷度は3.2%以上が好ましく、より好ましくは3.7%以上である。該値が3.2%以上であると、撚糸時の損傷が小さく、コードの引張破断強度や耐疲労性が高い。」(【0014】)、「給糸時張力が0.3cN/dtex以下であれば、給糸の段階での繊維への損傷を抑え、コード強度が低下せず、毛羽の発生も生じない。」(【0016】)、
「撚糸損傷度」に関して、「給糸時張力が0.3cN/dtex以下であれば、給糸の段階での繊維への損傷を抑え、コード強度が低下せず、毛羽の発生も生じない。」(【0016】)、
「破断強度変動係数」も求めるための「破断強度」に関して、「撚糸損傷度は3.2%以上が好ましく、より好ましくは3.7%以上である。該値が3.2%以上であると、撚糸時の損傷が小さく、コードの引張破断強度や耐疲労性が高い。」(【0014】)、
「上撚りの撚り係数K」に関して、「ポリヘキサメチレンアジパミドマルチフィラメントからなる撚糸コードの場合、K=Y×D0.5で表される上撚り時の撚り係数Kが10000?30000、より好ましくは18000?25000の範囲で撚糸されたものが、強度発現、耐疲労性の観点から好ましい。」(【0021】)、
及び実施例1?8(【0033】?【0047】)の記載を参照することにより、本件発明1、2、5の「有機繊維合撚糸コード」、本件発明6の「繊維強化複合材料」を作ることが、当業者にとって格別困難であるとはいえない。
したがって、本件特許明細書の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1、2、5、6を実施できる程度に記載されていないとはいえない。

ウ サポート要件
(ア)本件発明の課題は、「タイヤの軽量化に寄与する有機繊維合撚糸コード及びその製法並びに該コードを補強材に用いた繊維強化複合材料を提供すること」(【0007】)である。
(イ)そして、「太繊度の撚糸工程における給糸時張力を擦過損傷の少ない方法で制御することで、撚糸時の擦過損傷を抑えつつ、繊維の引き揃えを良好に行い、コードの撚糸構造の均一化を図り、高負荷用途での耐久性に優れ、タイヤの軽量化に寄与しうる有機繊維合撚糸コードを得ること」(【0008】)と記載されているように、「撚糸時の擦過損傷を抑えつつ、繊維の引き揃えを良好に行い、コードの撚糸構造の均一化を図」ることで、課題を解決しようとするものである。
(ウ)ここで、本件発明1は、「撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100」により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数を1.5%以下とすることでコードの撚糸構造の均一化を図り、「撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)」で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上のものとすることで、撚糸時の擦過損傷を抑えたものとするものであるから、「撚り糸長差係数」を小さくすることで、コードの撚糸構造の均一化が図られ、合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度を大きくすることで、撚糸時の擦過損傷を抑えられることができる。これにより、本件発明1、2、5、6が本件発明の課題を解決することが理解できる。
(エ)本件発明10は、「ロールタイプの給紙張力調整機構及びリング撚糸機を用い」、「該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtexにし、かつ、撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtexにすること」により、「撚糸工程における給糸時張力を擦過損傷の少ない方法で制御」することで、「撚糸時の擦過損傷を抑えつつ、繊維の引き揃えを良好に行い、コードの撚糸構造の均一化を図」ることができる。これにより、本件発明10?13が本件発明の課題を解決することが理解できる。
(オ)したがって、本件発明1、2、5、6、10?13は、本件特許明細書に記載した範囲のものである。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人1?3の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1、2、5、6、10?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、請求項3、4、7?9に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項3、4、7?9に対して申立人1?3がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上であることを特徴とする有機繊維合撚糸コード。
【請求項2】
下記式:
破断強度変動係数(%)=(破断強度の標準偏差)/(破断強度の平均値)×100
で求められる、前記有機繊維合撚糸コードの破断強度変動係数(CV%)が2.0%以下である、請求項1に記載の有機繊維合撚糸コード。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
下記式:
上撚りの撚り係数K=Y×D^(0.5)、
{式中、Yは、有機繊維合撚糸コード1mあたりの撚数(T/m)、そしてDは有機繊維合撚糸コードの総繊度(dtex)である。}
で求められる、上撚りの撚り係数Kが10000?30000である、請求項1又は2に記載の有機繊維合撚糸コード。
【請求項6】
請求項1、2又は5のいずれか1項に記載の有機繊維合撚糸コードからなる繊維強化複合材料。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】
有機繊維を撚糸して繊維コードを製造する際に、ロールタイプの給糸張力調整機構及びリング撚糸機を用い、さらに下記式:
扁平度=1-(楕円の短半径/楕円の長半径)
で求められる、バルーンコントロールリングの断面の扁平度を0.50?0.95とし、該有機繊維の給糸時張力を0.01cN/dtex?0.3cN/dtexにし、かつ、撚糸時張力を0.05cN/dtex?0.4cN/dtexにすることを特徴とする、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、及びレーヨンからなる群から選ばれる1種の有機繊維からなる合撚糸コードであって、総繊度が5000dtex以上15000dtex以下であり、下記式:
撚り糸長差係数(%)=(解撚糸間の糸長差の最大値)/(解撚糸の糸長の平均値)×100
により求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸間の撚り糸長差係数が1.5%以下であり、かつ、破断強度が7.0cN/dtex以上であり、かつ、下記式:
撚糸損傷度(%)=(破断前応力が最大となる点における解撚糸の伸長率)-(微分ヤング率曲線の最大点における解撚糸の伸長率)
で求められる、該合撚糸コードを構成する解撚糸の撚糸損傷度が4.12%以上である有機繊維合撚糸コードの製造方法。
【請求項11】
前記有機繊維が、伸長方向4.56cN/dtex荷重時の伸び率が8.0?14.0%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記有機繊維の交絡度が4.0以上14.0以下である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機繊維がポリヘキサメチレンアジパミド繊維である、請求項10?12のいずれか1項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-24 
出願番号 特願2018-555295(P2018-555295)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D07B)
P 1 651・ 537- YAA (D07B)
P 1 651・ 536- YAA (D07B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩本 昌大  
特許庁審判長 森藤 淳志
特許庁審判官 藤井 眞吾
佐々木 正章
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6480092号(P6480092)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 有機繊維からなる合撚糸コード  
代理人 三橋 真二  
代理人 三橋 真二  
代理人 齋藤 都子  
代理人 中村 和広  
代理人 三間 俊介  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 青木 篤  
代理人 三間 俊介  

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