• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A23F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
管理番号 1371712
異議申立番号 異議2019-701047  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-20 
確定日 2021-01-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6552183号発明「ジャスミン茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6552183号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第6552183号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6552183号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6552183号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成26年11月18日の出願であって、令和1年7月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許の全請求項(請求項数2)について、同年12月20日に特許異議申立人 飯田 進(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は次のとおりである。

令和 1年12月20日 :異議申立書、甲第1?3号証の提出
令和 2年 5月 1日付け:取消理由通知
同年 7月13日 :訂正請求書
同日 :意見書、参考資料1?4の提出
(特許権者)
同年 同月31日付け:特許法第120条の5第5項に基づく
通知書
令和 2年 9月 1日 :意見書、参考資料1の提出(申立人)
同年10月 1日付け:審尋
同年 同月20日 :回答書の提出(特許権者)

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1及び2のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ジャスミン茶抽出液を含有し、かつ次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)フェニル酢酸エチル
(B)安息香酸メチル
(C)cis-ジャスモン
を含有し、
前記成分(A)の含有量と、前記成分(B)の含有量及び前記成分(C)の含有量の和との質量の比(A/(B+C))が1.0以上3.3以下である、ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料。」
と記載されているのを、
「ジャスミン茶抽出液及び甘味料を含有し、かつ次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)フェニル酢酸エチル
(B)安息香酸メチル
(C)cis-ジャスモン
を含有し、
前記成分(A)の含有量と、前記成分(B)の含有量及び前記成分(C)の含有量の和との質量の比(A/(B+C))が1.0以上3.3以下であり、
前記甘味料のショ糖換算甘味度が2.5%以上であり、
ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない、
ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

4 訂正の目的の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「茶飲料」について、さらに「甘味料を含有」すること、「前記甘味料のショ糖換算甘味度が2.5%以上」であること、及び「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

5 新規事項の追加の有無について
(1)訂正事項1について
訂正事項1のうち、「甘味料を含有」すること及び「前記甘味料のショ糖換算甘味度が2.5%以上」であることは、訂正前の請求項2の記載に基づくものである。
そして、訂正事項1のうち、「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」ことは、本件特許明細書【0013】の「本発明の茶飲料は、ジャスミン茶抽出液と香気成分及び甘味料を含む。なお、『茶飲料』とは、ジャスミン茶抽出液を含んでいれば、他の茶の抽出液(緑茶、ウーロン茶、玄米茶など)をさらに含んでも、含まなくてもよい。」との記載に基づくものである。
よって、訂正事項1は、新規事項の追加にあたらず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、新規事項の追加にあたらないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

6 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

7 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ジャスミン茶抽出液及び甘味料を含有し、かつ次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)フェニル酢酸エチル
(B)安息香酸メチル
(C)cis-ジャスモン
を含有し、
前記成分(A)の含有量と、前記成分(B)の含有量及び前記成分(C)の含有量の和との質量の比(A/(B+C))が1.0以上3.3以下であり、
前記甘味料のショ糖換算甘味度が2.5%以上であり、
ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない、
ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料。
【請求項2】
(削除)」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審は、本件特許発明1に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?2に係る特許に対して、当審が令和2年5月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。

(1)理由1(明確性要件)
本件の請求項1?2に係る特許は、本件特許出願前に公衆に利用可能となった電子的技術情報と認められる下記甲1の記載を参酌すると、「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」の記載が明確でないため、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



甲1:“?不思議な色の世界?花の香りの正体”,[on line],平
成18年5月28日,[令和1年11月5日検索],インターネット <URL:http://iromizu.com/hana_ka
ori.html>

(2)理由2(サポート要件)
ア 本件の請求項1に係る特許は、甘味料を含有しない茶飲料を含むものであるため、イ 本件の請求項1?2に係る特許は、(B)と(C)の配合比を特定していないため、及びウ 発明の詳細な説明の記載から(A/(B+C))が1.0以上3.3以下であることと甘みのバランスとの関係が理解できないため、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)理由3(実施可能要件)
本件の請求項1?2に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、ア ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料、及びイ (A/(B+C))が1.0以上3.3以下である茶飲料について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(4)審尋
本件特許の発明の詳細な説明に記載の実施例における官能評価について、当業者であれば、「分量評定法」と「絶対評価試験」を明確に理解できることについて説明を求める。

2 当審の判断
(1)理由1(明確性要件)について
ア 本件訂正前の請求項1に係る発明の茶飲料は、「ジャスミン茶抽出液」を含有すると特定されていた。
一方で、本件特許明細書【0013】には、「ジャスミン茶抽出液を含んでいれば、他の茶の抽出液(緑茶、ウーロン茶、玄米茶など)をさらに含んでも、含まなくてもよい」ことが記載されていたため、ジャスミン茶抽出液以外の他の茶の抽出液を含有するか否か、また含有する場合にはそれらの配合比に応じて、「ジャスミン茶特有の風味」の強度が異なると理解され、「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」といえるのはどの程度の風味を有する茶飲料であるのかが明確でなかった。
しかしながら、本件特許発明1は、「ジャスミン茶抽出液」を含有するとともに「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」ことが特定されたため、上記不明確な点はない。

イ 本件特許発明1の茶飲料は、「(A)フェニル酢酸エチル」、「(B)安息香酸メチル」及び「(C)cis-ジャスモン」を含有することと、(A)の含有量と、(B)及び(C)の含有量の和との質量の比(A/(B+C))が特定されているが、(A)?(C)それぞれの含有量は特定されていない。
ここで、本件特許明細書【0017】には、(A)は「茶飲料に爽快感を与える香気成分」であること、(B+C)は「ジャスミンの香りを特徴づける香気成分」であることが記載されているところ、甲1には、次の記載がある。
「(14)cis-ジャスモン
・・・ジャスミン属の香気成分。フルーティなジャスミン香の淡黄色液体。天然ジャスミン油に存在し、ジャスミンの香りを特徴づける重要な香気成分。・・・cis-ジャスモン、ジャスモン酸メチル、ジャスミンラクトンなどのジャスミン属の化合物は、花精油中に数%程度の微量しか含まれていないが、微量でもその芳香の特徴を良く表すことができ、これらの花を特徴づける重要な要素となっている。」(5頁)
「(21)安息香酸メチル
・・・快香性の無色液体。香気は強く、少量用いるようにする。少しウインターグリンのような香りがある。石けん香料、工業用香料などの香料や、溶媒として用いられる。」(6頁)
そうすると、本件特許明細書の記載によれば、(B+C)は「ジャスミンの香りを特徴づける香気成分」であるが、甲1によれば、そのうちの(C)はジャスミンの香りを特徴づける香気成分であることが知られているのに対し、(B)はそのような特性を有さないと理解され、(B+C)の含有量が同じであっても、それぞれの配合比が異なると「ジャスミン茶特有の風味」に影響を与えるものと考えられる。
しかしながら、本件特許発明1は、ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料であるため、この風味を奏するという観点から、(A)?(C)それぞれの含有量や(B+C)における(B)と(C)の配合比は、例えば、特許権者が提出した参考資料1(J.Agric.Food Chem.2002,50,p.4878-4884)の表2に記載される成分量を参考にして、当業者が適宜調整することができる値であるといえるので、これらが特定されていなくとも、本件特許発明1は不明確ではない。

ウ 本件特許発明1の「ジャスミン茶特有の風味」について、本件特許明細書には定義に関する記載はなく、実施例などで「ジャスミン茶特有の風味」を有するか否かの評価を行った記載もない。
しかしながら、本件特許発明1は、「ジャスミン茶抽出液」を含有し「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」である。
そして、本件特許明細書【0014】に「本明細書におけるジャスミン茶抽出液とは、緑茶(不発酵茶)又はほとんど発酵を行っていない弱発酵茶に、ジャスミン・サムバック(Jasminum sambac)やジャスミン・パニキュラツム(Jasminum paniculatum)等の天然ジャスミンの花の香りが印香された茶葉の抽出液をいう。」と記載されているとおり、ジャスミン茶抽出液は天然ジャスミンの花の香りを付与した茶葉の抽出液を意味し、天然ジャスミンの花特有の香りを有するものであって、当業者が官能評価などによって容易に特定可能なものといえる。
したがって、本件特許発明1のジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料の範囲は不明確ではない。

エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、令和2年9月1日付け意見書(以下、「申立人意見書」という。)において、概略次のように主張する。

a 本件特許発明1の茶飲料は、「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」ことが特定されているが、ジャスミン茶抽出液に含まれる香気成分は複雑であるうえ、本件特許明細書には、「ジャスミン茶特有の風味」の定義もなく、実施例で評価を行った記載もなく、「ジャスミン茶特有の風味」であることが、(A)?(C)それぞれの含有量や(B+C)における(B)と(C)との配合比が特定されることを理解できる記載もないため、本件特許発明1の「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」の範囲は明確でない。

b 本件特許発明1の茶飲料は、「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」ものであるところ、本件特許明細書【0013】に「他の茶の抽出液(緑茶・・・)を・・・含まなくてもよい。」と記載されているから、「緑茶抽出液」も含まない茶飲料と理解できる一方で、本件特許明細書【0002】に「ジャスミン茶は中国茶の一種で、緑茶又は緑茶に近い弱発酵茶に・・・天然ジャスミンの花を混ぜて、茶葉に香り付けされた(印花)ものである」と記載されているとおり、ジャスミン茶抽出液に緑茶抽出液が含まれることが容易に理解できるため、本件特許発明1の茶飲料は、緑茶抽出液を含有するか否かが明確でない。

(イ)申立人の主張について検討するに、上記(ア)aについては、上記イ及びウで検討したとおりであり、また、本件特許発明1の「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」における「ジャスミン茶特有の風味」とは、一般的なジャスミン茶特有の風味であることを理解できるため、その範囲が不明確であるとはいえない。
そして、上記(ア)bについては、緑茶に天然ジャスミンの花の香りが印香された茶葉の抽出液(ジャスミン茶抽出液)は、緑茶そのものの抽出液(緑茶抽出液)とは異なるものであり、本件特許発明1の茶飲料に、緑茶抽出液が含まれないことは明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではない。

(2)理由2(サポート要件)について
ア 本件特許発明1の課題
本件特許明細書【0007】の記載及び本件特許明細書全体の記載からみて、本件特許発明1の解決しようとする課題は、「ジャスミン茶抽出液を含み、かつ甘みのバランスがとれた茶飲料を提供すること」にあると認める。

イ 理由2のア 甘味料を含有しない茶飲料を含むことについて
本件訂正前の請求項1に係る発明は、茶飲料について、「甘味料を含有」することや、「前記甘味料のショ糖換算甘味度が2.5%以上」であることが特定されておらず、甘味料を含有しない茶飲料を含むものであったため、発明の詳細な説明において、上記アの課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとはいえなかった。
しかしながら、本件特許発明1は、茶飲料について、「甘味料を含有」し、「前記甘味料のショ糖換算甘味度が2.5%以上」であることが特定されているため、発明の詳細な説明において、上記アの課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。

ウ 理由2のイ (B)と(C)の配合比を特定していないことについて
本件特許発明1は、茶飲料に含まれる(B)と(C)の配合比について特定されていない。
本件特許明細書【0017】?【0018】には、(A)は、茶飲料に爽快感を与える香気成分であり、(B+C)はジャスミンの香りを特徴づける香気成分であり、茶飲料の爽快感とジャスミンの特徴的な香りの比を表す(A/(B+C))を調整することで、ジャスミン抽出液を含み、甘味とのバランスに優れた茶飲料となることが記載されている。
ここで、上記(1)イで述べたとおり、(C)はジャスミンの香りを特徴づける香気成分であることが知られているのに対し、(B)はそのような特性を有さないと理解され、(B+C)の含有量が同じであっても、それぞれの配合比が異なると「ジャスミンの香り」も異なることが予測されるが、本件特許発明1は、ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料であるため、この風味を実現するという観点から、(B+C)における(B)と(C)との配合比は、当業者が適宜調整することができる値であるといえる。
そして、本件特許明細書【0028】?【0033】の実施例において、ジャスミン茶抽出液及び甘味料を含む茶飲料を作成して、バランスのよさとおいしさを官能評価した結果、(A/(B+C))が1.0以上3.3以下の範囲であることで、上記アの課題を解決できると理解できる。
したがって、(B)と(C)の配合比が特定されていなくとも、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、上記アの課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。

エ 理由2のウ 発明の詳細な説明の記載から(A/(B+C))が1.0以上3.3以下であることと甘みのバランスとの関係が理解できないことについて
本件特許明細書【0006】に「緑茶に印花したジャスミン茶の場合、ジャスミン茶の香気成分は単に原料の緑茶と花の香り成分が合わさっているのではなく、その製造過程で何らかの香気変化が起きており、別の香気成分が形成される。つまり、その香気成分が複雑であることから、緑茶と同じように砂糖や蜂蜜のような甘味を加えても、所望のおいしさは得られにくく、消費者のニーズに合う甘味のバランスがとれたジャスミン茶はなかった。」と記載されるように、ジャスミン茶抽出液は香気成分が複雑であることが技術常識である。
しかしながら、本件特許発明1の「ジャスミン茶抽出液」は、「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」ものである。
そして、本件特許明細書【0018】に「ジャスミン抽出液には緑茶と異なる香気成分が多く含まれているところ、本発明者の検討の結果、意外にも茶飲料の爽快感とジャスミンの特徴的な香りの比を表す(A/(B+C))を調整することで、ジャスミン抽出液を含み、甘味とのバランスに優れた茶飲料となることを見出した。」と記載され、本件特許明細書【0028】?【0033】の実施例において、ジャスミン茶抽出液及び甘味料を含む茶飲料を作成して、バランスのよさとおいしさを官能評価した結果、(A/(B+C))が1.0以上3.3以下の範囲であることで、上記アの課題を解決できたことが具体的に示されている。
したがって、発明の詳細な説明の記載から、ジャスミン茶抽出液及び甘味料を含む茶飲料において、(A/(B+C))が1.0以上3.3以下であることで、甘みのバランスがとれた茶飲料となることを、当業者は理解することができるといえる。

オ 申立人の主張について
(ア)申立人は、申立人意見書において、概略次のように主張する。

a 本件特許明細書には「ジャスミン茶特有の風味」であることが、(B+C)における(B)と(C)の配合比が特定されることを理解できる記載はない。したがって、「ジャスミン茶特有の風味を実現する観点」を根拠として「(B+C)における(B)と(C)の配合比」は当業者が適宜調整できる値であるとの特許権者の主張は当を得ないものである。

b 本件訂正により「ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない」ことが特定されても、本件特許発明1の茶飲料が、香気成分が複雑なジャスミン茶抽出液を含み、且つ、当該ジャスミン茶抽出液が任意の天然ジャスミンの花の香りが印香された茶葉の任意の抽出条件による抽出液や市販品を含むものであることに変わりはなく、つまりは本件特許発明1の茶飲料が(A)?(C)以外の様々で且つ複雑な香気成分を含有する茶飲料を含むものであることに変わりはない。

(イ)申立人の主張について検討するに、上記ウ及びエで検討したとおりであり、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、上記アの課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。
そして、本件特許発明1の「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」における「ジャスミン茶特有の風味」とは、複雑な香気成分を含むものであるとしても、一般的なジャスミン茶特有の風味であることを理解できる。
よって、申立人の主張は採用できない。

カ 小括
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。

(3)理由3(実施可能要件)について
ア 理由3のア ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料について
訂正前の請求項1の「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」は不明確であったことに加え、発明の詳細な説明には、「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」といえる茶飲料を製造する方法について記載されておらず、実施例でも「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」であるか否かの評価試験は行っていないから、実施例を参照しても「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」といえる茶飲料を製造する方法を理解することはできなかった。
しかしながら、本件特許発明1の「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」は、上記(1)のとおり本件訂正により明確となったので、発明の詳細な説明の記載を参照して、当業者であれば「ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料」といえる茶飲料を製造する方法を理解することができるといえる。

イ 理由3のイ (A/(B+C))が1.0以上3.3以下である茶飲料について
本件特許明細書【0029】の実施例においては、「市販のジャスミン茶抽出液」を用いたことのみが記載され、具体的にどのような方法で(A/(B+C))の比率を調整したかは示されていない。
しかしながら、本件特許明細書【0019】に「(A/(B+C))の比率を調整する方法としては、ジャスミン茶の抽出条件により茶飲料の香気成分の含量を調整してもよく、香料などを茶飲料に添加することで香気成分の含量を調整してもよい。また(A/(B+C))の比率は、1種に由来する香気成分で調整してもよく、2種以上の異なる由来の香気成分を混合することで調整してもよい。」と記載されている。
そして、特許権者が令和2年7月13日に提出した意見書(以下、「特許権者意見書」という。)には、本件特許明細書【0029】の「市販のジャスミン茶抽出液に、アスコルビン酸ナトリウムを0.05%添加し、砂糖を25g/l加え、重曹でpHを6.4に合わせ、UHT殺菌を施した茶飲料を作成した。」とのように作成した飲料に対し、(A)?(C)の各成分の合成品を適宜加え、所望の比率に調整したことが説明されており、上記本件特許明細書記載の方法により、「(A/(B+C))が1.0以上3.3以下である」茶飲料を製造することができるといえる。

ウ 申立人の主張について
申立人は、申立人意見書において、本件特許発明1は茶飲料の範囲が明確でないため実施可能要件を満たさない旨、特許権者意見書の主張は、本件特許明細書に記載の「香料などを茶飲料に添加することで香気成分の含量を調整」する方法に関するものあり、「ジャスミン茶の抽出条件により茶飲料の香気成分の含量を調整」する方法については釈明していない旨主張する。
しかしながら、上記(1)のとおり、本件特許発明1は明確である。
そして、申立人も認めるとおり、発明の詳細な説明に記載された方法によって、当業者は、本件特許発明1の茶飲料を製造することができるのであるから、その他の方法により本件特許発明1の茶飲料を製造することが可能か否かは、上記判断に影響を与えるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではない。

(4)審尋について
取消理由通知に記載した審尋及び令和2年10月1日付け審尋において、本件特許明細書【0028】?【0033】の実施例1?2、比較例1?3、対照例1では、官能評価について「各茶飲料について、飲んだときに感じる「バランスのよさ」と「おいしさ」を、7人のパネリストに分量評定法(対照区を4.00点とする)を用いて評価させた。」と記載され、【0034】?【0038】の実施例1、3?5では、官能評価について「各茶飲料について、飲んだときに感じる「バランスのよさ」と「おいしさ」を、6人のパネリストに7段階の絶対評価試験で評価させた。」と記載されているところ、本件特許明細書には、実施例で採用された「分量評定法」と「絶対評価試験」について、これ以上の説明がされていないので、具体的にどのような方法を用いたのかを釈明するか、そのような記載や釈明がなくても、当業者であれば、実施例に記載の「分量評定法」と「絶対評価試験」を明確に理解できることの説明を求めた。
それに対し、特許権者は、特許権者意見書及び令和2年10月20日付け回答書において、「分量評定法」については、基準サンプル(対照例1の茶飲料)を提示した上で、評価サンプル(実施例1及び2、並びに比較例1?3の各茶飲料)との相対関係を表す7点(良い)?1点(悪い)の7段階の数値をパネルに答えさせる方法を採用したこと、基準サンプルに対する相対的な評価をさせていることを意味することを釈明した。また、「絶対評価試験」については、基準サンプル(対照例1の茶飲料)を提示しないで、パネルの個々の経験に基づき、評価サンプル(実施例1及び2、並びに比較例1?3の各茶飲料)の評価を表す7点(良い)?1点(悪い)の7段階の数値をパネルに答えさせる方法を採用したことを釈明した。
そして、特許権者の釈明から、発明の詳細な説明に記載された評価方法は、通常行われている評価方法であって、本件特許明細書の記載から想定できる方法と理解できるので、当業者であれば、実施例に記載の「分量評定法」と「絶対評価試験」を明確に理解できるといえる。

第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
当審は、本件特許発明1に係る特許は、申立人が申し立てた理由によっても、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立て理由の概要
訂正前の請求項1?2に係る特許に対して、取消理由通知で採用しなかった申立人が申し立てた理由の要旨及び証拠方法は次のとおりである。

(1)理由1-3(サポート要件違反)
発明の詳細な説明の記載並びに本件特許出願時の技術常識に基づいて、発明の詳細な説明に記載された風味バランスの評価試験の結果から、A/(B+C)の数値範囲と、得られる効果というべき甘味のバランスとの関係の技術的な意味を当業者が理解できないため、訂正前の請求項1?2は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。

(2)理由3-1(委任省令要件)
発明の詳細な説明の記載並びに本件特許出願時の技術常識に基づいて、A/(B+C)の数値範囲と、得られる効果というべき甘味のバランスとの関係の技術的な意味を当業者が理解することができないため、訂正前の請求項1?2の技術上の意義が不明であるから、発明の詳細な説明は、委任省令要件を満たさない。

(3)証拠方法
甲1:前記第4 1(1)に示したとおりである。
甲2:“ジャスミン(アロマ)の効果・効能とおすすめの使い方”,[on line],平成30年3月27日(更新日),[令和1年11月5
日検索],インターネット<URL:http://sizuche
ro.com/jasmine/>
甲3:“花の縁・目次”,[on line],[令和1年12月16日検
索],インターネット<URL:http://www.kakas
hi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/
000002tytolecontets.pdf>の“第3章 夏
空に咲く”,“【I】夏空に映える木の花”の“12)ジャスミンと
ソケイ=素馨 03-01-12-1”,[on line],[令
和1年12月16日検索],インターネット<URL:http:/
/www.kakashi.sakura.ne.jp/100ha
na2014pdf/030112jasumin-sokei.p
df>

2 甲号証について
甲2には、「投稿日:2016年10月29日 更新日:2018年3月27日」と記載されていることから、甲2に開示される事項は、本件特許の出願日である平成26(2014)年11月18日よりも後に公知になったものであり、甲3については、申立人が提出した証拠説明書等を考慮しても、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった日が不明である。
したがって、甲2及び甲3は、特許異議申立理由を裏付ける証拠となるものではない。

3 当審の判断
(1)理由1-3(サポート要件)について
申立人は、特許異議申立書30ページ26行?32ページ19行において、要するに、発明の詳細な説明に記載された風味バランスの評価試験を理解することができないため、訂正前の請求項1?2に係る発明の解決しようとする課題との関係が理解できないと主張する。
しかしながら、前記第4(4)で述べたとおり、発明の詳細な説明に記載された官能評価は、通常行われている評価方法であって、本件特許明細書の記載から想定できる方法と理解できる。
そして、本件特許発明1が、サポート要件を満たすことは、前記第4(2)で述べたとおりである。
よって、申立人の申し立てた理由1-3(サポート要件)は理由がない。

(2)理由3-1(委任省令要件)について
申立人は、特許異議申立書36ページ21行?39ページ2行において、要するに、発明の詳細な説明の記載から、A/(B+C)が1.0?3.3の数値範囲内であれば、BとCとの配合比の特定を要しないことを理解できず、A/(B+C)の数値範囲と、得られる効果というべき、風味のバランス(甘みのバランス)との関係の技術的な意味を当業者が理解できるように記載されていないため、訂正前の請求項1?2に係る発明の技術上の意義が不明であると主張する。
申立人の主張は、結局のところ、前記第4(2)ウ及びエで、サポート要件について検討した理由と同旨であり、本件特許発明1が、サポート要件を満たすことは、前記第4(2)で述べたとおりである。
よって、申立人の申し立てた理由3-1(委任省令要件)は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により請求項2に係る発明の特許は削除されたため、異議申立人の請求項2に係る発明の特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
したがって、請求項2に係る発明の特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャスミン茶抽出液及び甘味料を含有し、かつ次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)フェニル酢酸エチル
(B)安息香酸メチル
(C)cis-ジャスモン
を含有し、
前記成分(A)の含有量と、前記成分(B)の含有量及び前記成分(C)の含有量の和との質量の比(A/(B+C))が1.0以上3.3以下であり、
前記甘味料のショ糖換算甘味度が2.5%以上であり、
ジャスミン茶以外の茶の抽出液を含まない、
ジャスミン茶特有の風味を有する茶飲料。
【請求項2】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-25 
出願番号 特願2014-233491(P2014-233491)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (A23F)
P 1 651・ 537- YAA (A23F)
P 1 651・ 536- YAA (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 齊藤 真由美
関 美祝
登録日 2019-07-12 
登録番号 特許第6552183号(P6552183)
権利者 アサヒ飲料株式会社
発明の名称 ジャスミン茶飲料  
代理人 正林 真之  
代理人 正林 真之  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ