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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1371715
異議申立番号 異議2020-700933  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-01 
確定日 2021-03-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6705928号発明「カカオ原料及び水中油型食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6705928号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6705928号の請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という)についての出願は、平成31年3月27日に出願され、令和2年5月18日にその特許権の設定登録がされ、同年6月3日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対して、当該発行日から6月以内にあたる、令和2年12月1日に渡辺 陽子(以下、「異議申立人」という)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6705928号の請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1」などともいい、まとめて、「本件発明」ともいう)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
油脂を10質量%以上含む加熱済みカカオ原料であって、
酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として2:1?1:2であり、
テオブロミン1質量部に対して、酢酸の含有量が0.11?0.44質量部であり、
2質量%で40℃の水に懸濁した場合の懸濁液の酸度が1.0?3.5質量%であることを特徴とする、水中油型食品用の加熱済みカカオ原料。
【請求項2】
酢酸とイソ吉草酸の質量比が、香気成分比として、2:1?1:3であることを特徴とする、請求項1に記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項3】
酢酸とフェネチルアルコールの質量比が、香気成分比として、4:1?1:2であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項4】
カカオ原料100g当たりの遊離アミノ酸の含有量が200?500mgであることを特徴とする、請求項1?3の何れかに記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項5】
10℃以下で喫食される食品用であることを特徴とする、請求項1?4の何れかに記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項6】
請求項1?5の何れかに記載の加熱済みカカオ原料を1?20質量%含有し、pHが5.2?6.5であることを特徴とする、水中油型食品。
【請求項7】
水分活性が0.75?0.99であることを特徴とする請求項6に記載の水中油型食品。
【請求項8】
10℃以下で喫食される食品であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の水中油型食品。」

第3 異議申立理由の概要
異議申立人は、令和2年12月1日付け異議申立書において、全請求項に係る特許を取り消すべきものである旨主張し、その理由として、以下の理由を主張し、証拠方法として甲第1?15号証を提出している。

1 甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1、3?9、13?15号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2?9、13?15号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 実施可能要件について
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1?8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

4 サポート要件について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

5 証拠方法
甲第1号証:特開昭58-851号公報
甲第2号証:S.T. Beckett編、Industrial Chocolate Manufacture and Use Fourth Edition、Wiley-Blackwell、 2009年、第121?141頁、第176?179頁
甲第3号証:Stephen T. Beckett著、古谷野哲夫訳、チョコレートの科学 その機能性と製造技術の全て、株式会社光琳、平成19年6月30日、第35?44頁
甲第4号証:特開2010-227026号公報
甲第5号証:特開2007-135405号公報
甲第6号証:特開2003-52310号公報
甲第7号証:アイスクリーム類及び氷菓の表示 アイスクリーム類及び氷菓の表示に関する公正競争規約とその解説、アイスクリーム類及び氷菓公正取引協議会、平成22年3月改訂、目次、第14、15、28、29、59、60、63、64、151、166?169頁
甲第8号証:津郷友吉監修、乳製品工業 上巻、地球出版株式会社、1971年8月10日、第149、150頁
甲第9号証:乳業技術講座編集委員会編、乳製品製造II 乳業技術講座第3巻、株式会社朝倉書店、昭和42年6月10日、5版、第249?251頁
甲第10号証:J. Agr. Food Chem., 20(2) (1972) 202-206
甲第11号証:Food Research International, 77 (2015) 657-669
甲第12号証:Food Chemistry, 205 (2016) 66-72
甲第13号証:特願2019-61967の平成元年8月23日提出の意見書
甲第14号証:特願2019-61967の平成元年8月23日提出の手続補正書
甲第15号証:西日本畜産学会報、32(1989)1-7

以下、異議申立人が提出した甲第1?15号証を、その番号に対応してそれぞれ、「甲1」?「甲15」ともいう。
なお、甲13及び甲14は、本件特許の審査において出願人から提出された意見書及び手続補正書であって、本件発明の理解のために提示された証拠である。

第4 当審の判断
1 証拠の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には以下の事項が記載されている。

(甲1a)「特許請求の範囲
(1)剥皮処理前のカカオ豆に水もしくは蒸気またはこれらと共に糖類もしくは乳固形分を施与し、カカオ豆のニブ水分を8?30重量%に加水調整した後、水分を除去してニブ水分を1?5重量%に調整し、引続いて加熱焙炒することを特徴とするカカオマスの調整方法。
・・・
(6)カカオ豆のニブ部水分を温度60?100℃で熱風乾燥して除去する特許請求の範囲第1項記載のカカマスの調整方法。」

(甲1b)「従来、カカオ豆からカカオマスを得るには、カカオ豆を110?150℃で焙炒した後、破砕し胚芽、皮を除去して挽漬する方法があった。しかしこの方法ではニブの水分が少ないため、カカオ豆のニブ中に存在している酢酸等を主体とする含有有機酸や遊離脂肪酸および不揮発性成分等を焙炒しても充分に除去することが出来ない。そしてこの様にして得たカカオマスを原料として製造したチョコレートやココアは、残留酸類や不揮発性成分に起因して喫食時に酸性臭や不快臭等の臭気、酸味、えぐ味等が残る欠点があった。」(第1頁右欄第11行?第2頁左上欄第1行)

(甲1c)「本発明の目的は、焙炒前のカカオ豆のニブ中から酸性臭、不快臭および酸味、えぐみ等の原因となる有害成分を充分に除去する方法を提供するにある。他の目的は芳香、風味、色調等に優れたチョコレート、ココア等の原料となるカカオマスを簡単な操作で得る為のカカオマスの調整方法を提供するにある。」(第2頁左上欄第17行?右上欄第3行)

(甲1d)「水分を付与されたカカオ豆は、ニブ部分の水分含有率が8重量%より少ないと、加水水分不足によりニブ中の有機酸および不揮発性成分等の有害成分を水分中へ均一に且つ充分に滲出させることが出来ず、次の乾燥処理で水分蒸発と共にこれら有害成分を完全に飛散させることが出来ず、ニブ中に上記有害成分が残留し、酸性臭や不快臭を呈する。また30重量%より多くすると、カカオ豆に水分過多による酸の発生や芳香成分の逸散が生じる。」(第2頁左下欄第7?16行)

(甲1e)「加水調整は、温度40?100℃で5?60分間行うのが好適である。これら加水の条件が上記範囲内であると、カカオ豆中への水分の吸収が短時間で充分に行われ、ニブ中の有機酸および不揮発性成分が充分に滲出し乾燥によって殆んど除去し得、酸性臭および不快臭が無く、高品質のカカオ豆のニブが得られるからである。カカオ豆に対する加水方法としては、噴霧、浸漬、蒸煮等が用いられる。
本発明の他の特長は、前記所定のニブ水分含有率に加水した後水分を除去し、ニブの水分含有率を1?5重量%に調整することである。加水後、水分を除去するとニブの水分中に滲出している有害成分が水分に同伴して飛散すると共に、カカオ豆から胚芽、皮の剥離が容易になる。・・・
ニブ中の水分を除去調整する条件としては、温度60?100℃で30分から6時間程度乾燥することが好ましい。加熱条件が上記範囲内であると、カカオ豆の乾燥が適度に行われ酸性臭や不快臭等の有害成分を水分の蒸発と同伴して除去することが出来、次いで芳香成分の前駆体の発現を促進し芳香を付与せしめることが出来るうえ、カカオ豆を過度に加熱する必要がなく焦げ付かすことなく高品質のカカオ豆を得ることができる。
カカオ豆から水分を除去調整する方法としては、例えば熱風乾燥、電磁波乾燥、赤外線乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。
上記方法により得られたカカオ豆は、その後、破砕機で均一な粒度に破砕し、続いてハスキングマシンで皮を剥離してニブと皮、胚芽とを分離した後、ニブを焙炒して芳香を付与し、更に磨砕する等通常の方法によりカカオマスを得ることができる。」(第2頁右下欄第17行?第3頁左下欄第1行)

(甲1f)「・・・実施例中における「官能試験」及び「酸度の測定法」は、下記方法によって実施した。
・・・
3.酸度の測定法
カカオマスの試料5gを60℃の蒸留水100ccで15分間振盪しながら抽出し、No.2Aの濾紙で濾過して濾液20ccに蒸留水50ccを加え、フェノールフタレインを指示薬として1/10N KOH溶液で滴定し、その滴定cc数をもって酸度とする。」(第3頁左下欄第17行?第4頁右上欄第9行)(当審注:「濾」は、原文ではさんずいに戸。以下同様。)

(甲1g)「実施例1
1(当審注:○の中に1) カカオマスの作製
ブラジル産カカオ豆を庶糖0.05%、乳糖0.05%、全脂粉乳0.1%を含む98℃の水溶液に60分間浸漬し、カカオ豆のニブ部分を水分含有率13.1%に調整した後、熱風乾燥機を用い100℃で2時間予備加熱乾燥を行いカカオ豆のニブ部分を水分含有率3.9%に調整した。このカカオ豆を熱風式縦型カカオ豆ローセターに投入して130℃で40分間加熱焙炒した後、通常の方法で破砕して皮と胚芽を除去し、ローラーミルで磨砕してカカオマスを得た。
2(当審注:○の中に2) チョコレートの作製
上記、調整方法によって得られたカカオマス35%と、あらかじめ加温し液状にしておいたカカオバター15%と全脂粉乳5%と、粉糖45%とを混合機に入れ38?43℃で30?45分間充分に混合した後、リファイナーに移して35?36℃においてその粒子が40μ以下になるように均一に微細化した。次いでコンチングマシンに移し約60℃に加温しながら40時間撹拌混和し、コンチング終了直前に乳化剤としてレシチン0.5%と若干の香料とを添加して均質化したのち27?32℃でテンパリングを行った。この液状チョコレートを所定のモールドに充填し、モールドを震動せしめ脱気し冷却トンネルを通過させチョコレートを冷却固化した。この結果を本発明例(試料1)として第1表に示す。
次に第1表に記載のカカオ豆を用い、これに所定の操作を施しカカオマスを得、該カカオマスを用いて実施例1と同様に配合してチョコレートを得た結果を本発明例(試料2、3)及び比較例として併せて第1表に示した。これら本発明例(試料1?3)及び比較例のチョコレートについて前記試験し、その結果を第2表に示した。


」(第4頁右上欄第11行?第5頁左上欄)

(2)甲2の記載事項
甲2には以下の事項が記載されている(訳文にて示す)。

(甲2a)「6.6 豆及びニブの焙煎
焙煎は、豆の中で、発酵及び乾燥の過程で形成された前駆体から、香気成分を発生させる。例えば、非常に反応性が高いアマドリ化合物は、多くの香気成分を生成する。これについては第8章でより詳細に扱う。
ZieglederとOberparleiter(1996年)は、焙煎前の加湿処理を提案した。これにより、水蒸気がニブの上で凝縮し、約15%水分が添加される。この水分は、40?60℃(104?140°F)における10?15分の処理時間で、より香気成分前駆体の生成を促す。98?110℃(208?230°F)で水分3%まで乾燥した後に焙煎することにより、通常の焙煎豆に比較してより強い香気を有する焙煎豆が得られる。
Mohrら(1978年)は、水分含有量を約3%までゆっくりと低減することに続き、最終焙煎温度まで迅速に加熱することが焙煎の最適な方法であることを示した。焙煎最高温度は必要とされる焙煎強度及び用いる装置による。幅広い焙煎条件に応じて全種類のロースターが使用できる。
豆焙煎は元来の方法であり、焙煎中、揮発性のカカオの香気成分を殻の中に閉じ込めるので、繊細な香気のカカオマスを生産するためにしばしば使用されていた。焙煎中に殻がゆるんでいるので、このタイプの焙煎の後の殻の除去は比較的簡単である。」(第127第15行?第128頁第12行)

(甲2b)「有効な殺菌は、ドラムに水を加えて水蒸気を充満させることにより行うことができる。焙煎温度、保持時間、及び添加する水の量は、使用する装置や、製品にどのような香りを希望するかによって変化する。一般的に、最終的な焙煎温度は110℃?140℃(230°F?284°F)である。」(第129頁第7?11行)

(甲2c)「連続式ドラムロースターを製造する供給元もいる。ニブ又は豆の連続的な流れをドラムに供給し、熱風で加熱する。熱風温度及び滞留時間で焙煎の程度を調節する。」(第130頁第1?3行)

(甲2d)「

」(第132頁)

(甲2e)「

」(第137頁)

(甲2f)「8.4 焙煎
8.4.1 焙煎工程及びさらなる香気成分前駆体の発生
カカオを焙煎すると、カカオの香気が発現し、水分と酸味が低減し、豆が殻からはずれる。カカオの焙煎は、通常、120℃?140℃(248°F?284°F)の温度において行われるが、これはナッツ類やコーヒーの焙煎と比較すると、むしろ低温である。近代的な装置を使えば、カカオは、ホールビーン(多くの種々のサイズ)、ニブ(割れた豆)、または、リキッドカカオマスとして焙煎することができる。リキッドカカオマスはカカオを微粉砕し、それ自身の溶融した脂肪中へ液化することにより、製造されたものである(第6章を参照)。特殊な薄膜技術が、カカオリカーの焙煎のために開発された(Schmidt,1978年;Rapp,1981年)。小さな粒子を焙煎する方が、より良好に制御され、かつ均一な焙煎レベル、焙煎時間の短縮、及び余分な酢酸の部分的除去という利点がある。酢酸は、豆の焙煎中は変化しないが、カカオリカーの焙煎中にはかなり減少する(Nuyken-Hamelmann及びMaier,1987年)。焙煎時間は、豆での焙煎は約30分、ニブでの焙煎は約12分、リカーでの焙煎は約2分である。
焙煎の前に、カカオは、渋味、苦味、酸味、大味、かび臭い又は不潔な味がすることがある。焙煎後、カカオは、カカオの典型的な強烈な芳香を有し、酸味が低減される。約150℃(300°F)より高い温度での焙煎、又は過度に長い焙煎時間での焙煎は、顕著な苦味及び焦げたコーヒー様の味を有する「過焙煎」カカオをもたらす。焙煎前に、含水量を4%未満に低減するために予備乾燥が必要であり、焙煎中に水分レベルは約2%に低下する。工業用ロースターでは、この予備乾燥は別個の処理段階として行われる。予備乾燥せずに焙煎した場合、カカオは、調理された平坦な芳香を生成する。ほとんどの香気成分化合物の形成は、縮合又は分解反応に基づくので、過剰の水分は、これらの反応を妨げ、さらに、水蒸気蒸留によって揮発性反応生成物をより蒸発させる。
香気成分前駆体は、焙煎工程において相互作用して、所望のカカオフレーバーを生成する。変換の正確なパーセンテージは焙煎パラメータに依存するが、前駆体の利用には特徴的な平均がある:遊離アミノ酸の約25%(発酵、未焙煎:1-2%、乾燥重量)、グルコース及びフルクトースの約70%(発酵、未焙煎:0.6%、乾燥重量)(Pinto及びChichester,1966年;Rohan及びStewart,1966年;Reinecciusら,1972年a;Mermet,1989年;Ziegleder,1991年b) のみが消費される。香気成分前駆体の混合物中の少量成分としての還元糖は、より大きな程度で変換され、一方、遊離アミノ酸は、それらの過剰濃度のために、より小さな程度で消費され、化学反応の一部として部分的にリサイクルされる。アマドリ化合物(発酵、未焙煎:0.08-0.27%)は、反応性の高い中間体であり、完全に利用され、多数の揮発性香気成分に急速に分解する。(Heinzle及びEichner,1991年;Ziegleder及びOberparleiter,1997年)。
(カカオパウダーの製造のために)アルカリ化を焙煎工程の一部として行う場合、約80%の遊離アミノ酸が転化される可能性がある (Bonvehi及びColl, 2002年)。未焙煎のカカオニブやカカオリカーを水や前駆体水溶液で前処理すると、香気発現が増強できると考えられてきた。還元糖が、完全に消費される香気成分前駆体として特定されているので、糖の溶液を添加すれば所望の香気成分の生成が進むだろう。そこで、末焙煎のカカオリカーの調製及び薄膜加工前のカカオリカーヘの糖溶液の添加が研究されていた(Rapp,1981年)。しかし、カカオリカーを処理するときは、水溶性成分を油相中に分散しなければならない。そのため、カカオニブの処理が推奨される(Kleinert-Zollinger,1986年)。焙煎前のカカオニブにグルコースの1%水溶液を浸み込ませると、焙煎香気の中に、揮発性の糖分解物の生成が増加していることが分かった(Ziegleder, 1993年)。生のカカオニブを15%の水で、15分間、40℃(104°F)で前処理し、続いて98℃(208°F)において3.5%の水分まで乾燥し、焙煎すると、水の前処理なしで焙煎したカカオと比較して、カカオ感が濃厚になり、焙煎による香気成分の量も増加した。水による前処理の結果、アミノ酸と還元糖の消費が増加し、アマドリ化合物の量が一時的に増加した(Ziegleder及びOberparleiter,1996年)。おそらく、水の添加が一時的にアミノ酸と糖を溶かし、それらの反応を促すのだろう。カカオ粉末を製造する場合、ニブをアルカリ性溶液で処理すると、このタイプの反応がすでに起きているのであろう。
子葉を焙煎する温度/時間は、最終チョコレートの風味バランスに影響を及ぼす。焙煎を増加させると、焙煎香気の程度が増加するが、他の要因も影響を受けることは驚くことではない。図8.7に示されるように、カカオの香気成分の強度は増加するが、酸味は減少する(Lemmen,2004年;Beckett,2006年)。フェニル酸またはフリル化合物のような特定のカカオ揮発成分は低い焙煎温度で既に生成されているが、ピラジンのような他の揮発物はより高い焙煎強度を必要とする。」(第176頁第21行?第179頁第2行)

(3)甲3の記載事項
甲3には以下の事項が記載されている。

(甲3a)「大きな豆における問題を図3-3に示した。これはロースター内部の温度とカカオ豆の各部位の温度を測定したものである。比較的長時間(15分)たってもカカオ豆中心温度は外部温度とは隔たっていることが示されている。大きさの異なる豆における呈味物質の生成の違いはHPLCなどによる分析によっても示される。」(第36頁下から4行目?第38頁第1行)

(甲3b)「

」(第38頁上)

(4)甲4の記載事項
甲4には以下の事項が記載されている。

(甲4a)「【0003】
中でも、チョコレートを含有する冷菓は、チョコレートの風味付けのためにカカオマスやチョコレートとココアパウダーとの併用が多くなっている。チョコレートアイスクリームの場合も「チョコレートを加えたものであって、その含有率がカカオ分として1.5%以上である(公正競争規約による)」基準を満たすために、カカオマスやチョコレートとココアパウダーとの併用が多くなっている。これら原料に含まれるカカオ油脂分が他の冷菓原料となる乳脂肪や植物性油脂等の油脂分と一体化し、該油脂分と水との乳化を阻害してしまい、チョコレートを使用した冷菓ミックスの流動性が失われてしまうことが問題となっている。従って、チョコレート冷菓を製造する場合には、配合上、チョコレートの添加量を少なめに調製したり、ココアパウダー主体で風味付けを行うなど、各製造工程において、ミックスが増粘するのを避ける方法が採られてきた。
【0004】
しかし、ココアパウダー主体で風味付けを行った場合、「ココア感」は付与されるものの、濃厚なチョコレートの風味を付与することは難しく、チョコレートの風味を付与するためには、カカオバターなどのカカオ油脂分の含量を増やす必要があるため、カカオ油脂分を高含量含む冷菓ミックスの増粘を抑制する方法がいくつか検討されている。」

(甲4b)「【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、カカオ油脂分を含有する冷菓を調製する際に問題となる、製造工程中における当該冷菓ミックスの経時的増粘が抑制されることにより、冷菓製造に支障を来すことなく、製造することが可能な、チョコレート含有冷菓及び当該冷菓に使用する冷菓ミックスを提供することを目的とする。」

(5)甲5の記載事項
甲5には以下の事項が記載されている。

(甲5a)「【0002】
現在、チョコレートアイスを規格する場合、公正競争規約にあるように「チョコレートを加えたものであってその含有率がカカオ分として1.5%以上であるもの」を満たすために、ココアパウダー主体で風味付けしている。チョコレート生地は使用してもせいぜい6%程度であり、チョコレート生地とココアパウダーとを併用することが多い。
【0003】
その理由は、チョコレート生地を使用した冷菓ミックスは製造工程(特にエージング(熟成)工程)で経時的に増粘して冷菓製造に著しく支障をきたすことが従来より知られているからである。特に、カカオバターの量が多いとエージング工程で経時的に増粘してエージングミックスがマヨネーズ状にぼてぼてになり、流動性がなくなり、冷菓製造に著しく支障をきたす。
【0004】
そのため、従来より、チョコレート冷菓を製造する際は、配合上、
(1)チョコレート添加量を少なめに調製する(従来技術では、チョコレート生地として5?6%程度);
(2)ココアパウダー主体で風味付けを行う(ココアパウダーとして3?7%程度が多い)、
などの方法をとり、熟成工程でのミックス液増粘を避けてきた。
【0005】
確かに上記(1)、(2)の方法で、ある程度風味の強さを表現することができる。しかし、ココアパウダーを用いた場合に表現される風味は、ココア感であって、チョコレート感ではない。上記(1)、(2)のような方法では、チョコレートの濃厚な風味を満喫することができる冷菓を作製することはできない。チョコレート感を付与するためには、カカオバターが重要な役割を果たす。チョコレートの豊かな風味を表現するためには、やはり、チョコレート自体、特にカカオバターを多く配合する必要がある。しかし、従来の技術では、上述したように、カカオバターの量を増やすとエージングミックスが増粘して工業的な製造を実現できない。冷菓中のカカオバターの量を増やすためには、エージング工程でのエージングミックスの増粘を抑制するかもしくは著しく軽減する必要性がある。」

(甲5b)「【0008】
このように、多量のカカオバターを含む、濃厚なチョコレート感を楽しめる冷菓を提供することが依然として望まれている。そのためにはエージング工程でのミックス増粘を抑制するかもしくは著しく軽減する必要性がある。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、カカオバターを多量に含む冷菓を提供すること、およびこのような冷菓の製造方法を提供することを目的とする。」

(6)甲6の記載事項
甲6には以下の事項が記載されている。

(甲6a)「【0002】
【従来の技術】従来、生地ベース自体にチョコレートの風味付けをしたアイスクリーム類は、乳製品を主成分とし、糖類、乳化剤、安定剤等を配合した冷菓原料と、チョコレート原料(カカオマス、ココアパウダー、カカオバター等)とを用いて、適宜水性媒体を添加し、一般的な冷菓の製造方法と同様に、溶解、均質化、殺菌、エージングして冷菓ミックスを調製した後、フリージング、充填工程等を経て製造される。
【0003】上記アイスクリーム類のうち、一般に、カカオ油脂分を0.6重量%以上含有する冷菓のことをチョコレート冷菓と称する。
【0004】近年、消費者の嗜好の多様化に伴い、チョコレート風味のアイスクリーム類は、より濃厚なチョコレート風味が好まれる傾向にある。
【0005】そこで、従来のチョコレート冷菓に、より濃厚なチョコレート感を付与するために、チョコレート原料中のカカオ油脂分を増加させることが考えられるが、カカオ油脂分がチョコレート冷菓ミックス全体重量中1.5重量%以上になると、流動性が失われ、次工程に移行できないという問題があった。これは、冷菓ミックス調製時に、カカオ油脂分が他の冷菓原料となる乳脂肪や植物性油脂等の油脂分と一体化し、該油脂分と水との乳化を阻害してしまい、チョコレート冷菓ミックスが、流動性のある液状とはならないためである。従って、従来、チョコレート冷菓のカカオ油脂分含有量は、高々約1重量%が限界であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、冷菓喫食時に、より濃厚なチョコレート感を満喫することができ、また、やわらかく、とろけるような食感を有するチョコレート冷菓及びこれに用いるチョコレート冷菓ミックスを提供することにある。」

(7)甲7の記載事項
甲7には以下の事項が記載されている。

(甲7a)「(アイスクリームの特定名称の表示基準)
第12条 アイスクリームの特定名称の表示事項は、次に掲げる基準とし、これ に適合しない場合は、この名称を商品名に使用してはならない。
(1)チョコレート又はチョコの名称
重量百分率でカカオ分を1.5%以上含むこと。」(第60頁)

(8)甲8の記載事項
甲8には以下の事項が記載されている。

(甲8a)「チョコレートおよびココアはコーティング,トッピング,マーブル,あるいはミックスに混合したものなどいろいろな形でアイスクリームに使用される。そして,その用途によって製法も選択の留意点も相異する。
チョコレートもココアもカカオ豆より得られ,カカオ豆は西アフリカ,中南米,東南アジア,南太平洋において栽培される学名Theobroma cacao(ギリシャ語で神の食物の意)というカカオ木から採取され,パルプを取除くと同時にカカオ豆の香りを生起させるために発酵して原料カカオ豆とする。
日本に輸入された原料カカオ豆は塵埃や石などを除去され,焙煎されて実(nuts)と皮(shell)に分離される。実はアルカリ処理をするか,あるいはそのまますりつぶされてチョコレートリカー(chocolate liquor, ビターチョコレート(bitter chocolate)ともよばれる)になり,さらに搾油されるとココアとカカオバター(cacao butter)になる。すなわち,チョコレートとしての最終品はカカオ豆より,ビターチョコレート,ココアおよびココアバターとなる。
ココアはビターチョコレートを搾油して粉砕したものであるが,原料カカオ豆の種類,焙煎法,皮と実の分離,粉砕,アルカリ処理,搾油などによって品質が影響される。とくに皮と実を分離する場合に,皮の部分が多いとアイスクリームの殺菌温度では死滅しない細菌数が増加するから注意を要する。
また,ココアは広い意味での香料であるから,その品質も風味が第一となる。ココアの風味は一たん煮沸してはじめて本来の風味が出るといわれる。それはカカオバターが沸騰したときに,圧搾されたココアの中から溶出するためであるといわれている。アイスクリームヘの添加量は3%前後で,同時に甘味も同程度増す必要がある。」(第149頁下から第8行目?第150頁第12行)

(9)甲9の記載事項
甲9には以下の事項が記載されている。

(甲9a)「チョコレートおよびココアは種々な形でアイスクリームに利用されている.それらの原料の関係を明確にするために概念図を書いてみると図3.5のようになる.
チョコレートおよびココアは,テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao)という植物のマメであるカカオ(cacao)からつくられる.採取したマメは産地で発酵して熟成させた後水洗し乾燥される.このマメを焙煎し粉砕してニブ(nib)と殻(shell)およびはい芽とに分ける.殻もはい芽も粗繊維の量が多く風味はほとんどないので極力取り除かれる.ニブは金属ローラーの間を数回通って細かく摩砕される.摩砕されたニブは脂肪を大量にふくんでいるので,加温した状態では液状を呈しており,リカーチョコレートとよばれる.リカーチョコレートは水圧機で圧搾されて,プレスケーキとココアバターに分けられる.プレスケーキの脂肪含量は圧搾の度合により8?30%の範囲にひろがっている.ケーキを粉砕してココアとする.」(第249頁第11行?最終行)

(甲9b)「ビターチョコレートは,リカーチョコレートの別名で,スイートチョコレートに対比して名づけられている.脂肪含量は45~55%の範囲である.
ビターチョコレートもココアと同じような目的でアイスクリームに使用されている.」(第251頁第8?12行)

(10)甲10の記載事項
甲10には以下の事項が記載されている(訳文にて示す)。

(甲10a)「カカオ豆の供給源。 主要生産国からのカカオ豆はチョコレート製造業者によって供給されたものである。ブラジル(バヒア)、ガーナ、エクアドル(アリバ)、メキシコ(タバスコ)、ドミニカ共和国(サンチェス)及びサモアからの豆を含む。」(第202頁右欄下から7行目?3行目)

(甲10b)「

」(第204頁Table II及びTable III)

(甲10c)「

」(第205頁Table IV)

(11)甲11の記載事項
甲11には以下の事項が記載されている(訳文にて示す)。

(甲11a)「

」(第659頁Table 1)

(甲11b)「分析に先立ち、すべての試料は熱風オーブン中にて、150℃で30分間、同じように焙煎した。(Termaks社,Lien 79,N-5057 Bergen,Norway)」(第659頁右欄第13?15行)

(甲11c)「

」(第666?667頁)

(12)甲12の記載事項
甲12には以下の事項が記載されている(訳文にて示す)。

(甲12a)「各バッチについて、一部を熱風オーブン中にて、150℃で30分間、別に焙煎した(Termaks社,Lien 79,N-5057 Bergen, Norway)(Tranら、2015年).」(第67頁右欄第49?51行)

(甲12b)「

」(第69頁Table 1)

(13)甲13の記載事項
甲13には以下の事項が記載されている。

(甲13a)「補正前の請求項1?10において、加熱済みカカオ原料の製造方法を特定する請求項11?14を設けた。

本願明細書の段落0032の第4行には、カカオ豆の表面温度が130?150℃となるような焙煎条件が記載されている。
また、同段落の第6?7行には、カカオ豆の表面温度が前述した温度にある間、カカオ豆の中心温度をカカオ豆の表面温度より10?20℃低く維持することが記載されている。」(第2頁第15?21行)

(14)甲14の記載事項
甲14には以下の事項が記載されている。

(甲14a)「【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
油脂を10質量%以上含む加熱済みカカオ原料であって、
酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として2:1?1:2であることを特徴とする、水中油型食品用の加熱済みカカオ原料。
【請求項2】
テオブロミン1質量部に対して、酢酸の含有量が0.11?0.44質量部であることを特徴とする、請求項1に記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項3】
2質量%で40℃の水に懸濁した場合の懸濁液の酸度が1.0?3.5質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項4】
酢酸とイソ吉草酸の質量比が、香気成分比として、2:1?1:3であることを特徴とする、請求項1?3の何れかに記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項5】
酢酸とフェネチルアルコールの質量比が、香気成分比として、4:1?1:2であることを特徴とする、請求項1?4の何れかに記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項6】
カカオ原料100g当たりの遊離アミノ酸の含有量が200?500mgであることを特徴とする、請求項1?5の何れかに記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項7】
10℃以下で喫食される食品用であることを特徴とする、請求項1?6の何れかに記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項8】
請求項1?7の何れかに記載の加熱済みカカオ原料を1?20質量%含有し、pHが5.2?6.5であることを特徴とする、水中油型食品。
【請求項9】
水分活性が0.75?0.99であることを特徴とする請求項8に記載の水中油型食品。
【請求項10】
10℃以下で喫食される食品であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の水中油型食品。
【請求項11】
カカオ豆を、その表面品温が130?150℃となるように昇温し、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する焙煎により製造される、請求項1?7の何れかに記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項12】
前記焙煎条件は、カカオ豆表面の品温を2?3℃/分の速度で昇温しながらカカオ豆の表面品温が130?150℃に達するまで昇温し、表面品温が130?150℃に達した後速やかに加熱を停止することを特徴とする、請求項11に記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項13】
前記焙煎の前に、カカオ豆を、加熱水蒸気を用いて加熱することを特徴とする、請求項11又は12に記載の加熱済みカカオ原料。
【請求項14】
前記水蒸気による加熱は、カカオ豆の表面品温が70?90℃となるまで昇温し、表面品温が70?90℃に達した後速やかに加熱を停止することを特徴とする、請求項13に記載の加熱済みカカオ原料。」

(15)甲15の記載事項
甲15には以下の事項が記載されている。

(甲15a)「

」(第1頁表1)

2 甲1を主引例とする新規性及び進歩性について
(1)甲1に記載された発明
上記1の摘記(甲1f)及び摘記(甲1g)、特に本発明例3の記載からみて、甲1には「ガーナ産カカオ豆を100℃の飽和蒸気で6分間処理し、カカオ豆のニブ部分を含水率8.9%に調整した後、熱風乾燥機を用い90℃で3時間予備加熱乾燥を行いカカオ豆のニブ部分を水分含有率4.1%に調整したカカオ豆を熱風式縦型カカオ豆ローセターに投入して140℃で40分間加熱焙炒した後、通常の方法で破砕して皮と胚芽を除去し、ローラーミルで磨砕して得たカカオマスであって、当該カカオマスの試料5gを60℃の蒸留水100ccで15分間振盪しながら抽出し、No.2Aの濾紙で濾過して濾液20ccに蒸留水50ccを加え、フェノールフタレインを指示薬として1/10N KOH溶液で滴定し、その滴定cc数をもって定義した酸度が1.3cc/gであるカカオマス」の発明(以下、「甲1-1発明」という。)及び「ガーナ産カカオ豆を100℃の飽和蒸気で6分間処理し、カカオ豆のニブ部分を含水率8.9%に調整した後、熱風乾燥機を用い90℃で3時間予備加熱乾燥を行いカカオ豆のニブ部分を水分含有率4.1%に調整したカカオ豆を熱風式縦型カカオ豆ローセターに投入して140℃で40分間加熱焙炒した後、通常の方法で破砕して皮と胚芽を除去し、ローラーミルで磨砕して得たカカオマスであって、当該カカオマスの試料5gを60℃の蒸留水100ccで15分間振盪しながら抽出し、No.2Aの濾紙で濾過して濾液20ccに蒸留水50ccを加え、フェノールフタレインを指示薬として1/10N KOH溶液で滴定し、その滴定cc数をもって定義した酸度が1.3cc/gであるカカオマスを配合して作製されたチョコレート」の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
本件発明1の「カカオ原料」について、本件明細書【0018】には「本発明において、カカオ原料とは、カカオ豆から得られる食品原料であって、実質的にカカオ由来の成分からなる食品原料をいう。 具体的には、カカオ原料は、カカオ豆に対し、焙煎、粉砕及び脱脂のうち少なくとも一つの加工を行って得られる食品原料を含み、焙煎済みカカオ豆、カカオニブ、カカオマス、カカオペースト、ココアパウダーを含む。」と記載されているから、甲1-1発明の「カカオマス」は本件発明の「カカオ原料」に相当する。
また、甲1-1発明の「カカオマス」は「100℃の飽和蒸気で6分間処理」し、「熱風乾燥機を用い90℃で3時間予備加熱乾燥」し、「熱風式縦型カカオ豆ローセターに投入して140℃で40分間加熱焙炒」するという各工程を経て得られたものであるから、本件発明1の「加熱済み」のものに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1-1発明は「加熱済みカカオ原料」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件発明1は「油脂を10質量%以上含む」のに対し、甲1-1発明は油脂の含有割合が明らかでない点
相違点1-2:本件発明1は「酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として2:1?1:2」であるのに対し、甲1-1発明は酢酸とピラジン類の含有の有無及びその質量比が明らかでない点
相違点1-3:本件発明1は「テオブロミン1質量部に対して、酢酸の含有量が0.11?0.44質量部」であるのに対し、甲1-1発明はテオブロミンと酢酸の含有の有無及びテオブロミンに対する酢酸の含有量が明らかでない点
相違点1-4:本件発明1は「2質量%で40℃の水に懸濁した場合の懸濁液の酸度が1.0?3.5質量%」であるのに対し、甲1-1発明は「カカオマスの試料5gを60℃の蒸留水100ccで15分間振盪しながら抽出し、No.2Aの濾紙で濾過して濾液20ccに蒸留水50ccを加え、フェノールフタレインを指示薬として1/10N KOH溶液で滴定し、その滴定cc数をもって定義した酸度が1.3cc/g」である点
相違点1-5:本件発明1は「水中油型食品用」であるのに対し、甲1-1発明はそのような特定がない点

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点1-2及び相違点1-3について併せて検討する。

まず、甲1にはカカオマスの酢酸とピラジン類の質量比及びテオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が記載されていないから、甲1-1発明のカカオマスの酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2であり、テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部であることは明らかとはいえない。
また、甲1には酢酸とピラジン類の質量比及びテオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量の範囲をそれぞれ上記のものとすることは記載も示唆もされていない。

次に、相違点1-2及び相違点1-3に係る技術的事項が、製造方法の観点から実質的に甲1に記載ないし示唆されているといえるかを検討する。
本件明細書【0032】には「本発明のカカオ原料は、焙煎条件を以下の通りに調整することで、製造することができる。本発明のカカオ原料の製造において、焙煎工程は、カカオ豆の皮を剥離せずにホールビーンズの形態で行うことが好ましい。
焙煎工程は、カカオ豆の表面温度が好ましくは130?150℃、さらに好ましくは135?145℃となるような温度で行う。
また、焙煎は、カカオ豆の表面温度が前述した温度にある間、カカオ豆の中心温度をカカオ豆の表面温度より10?20℃低く維持することが好ましく、12℃以上、さらには15℃以上低く維持することが好ましい。すなわち、カカオ豆の中心温度は、140℃以下に抑制する。このような温度制御のためには、初めに、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度としておき、ここから、例えば20?30分、好ましくは25?40分、さらに好ましくは30?35分かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃、好ましくは135?145℃に昇温する。また、焙煎前のカカオ豆の中心温度も、表面温度より10?20℃低いことが好ましく、12℃以上、さらには15℃以上低いことが好ましく、例えば、40?60℃程度としておくことが好ましい。
カカオ豆の表面温度は1?3.5℃/分、好ましくは2?3℃/分の速度で昇温させることが好ましい。
そして、前記目的とする表面温度まで昇温したら、加熱操作を停止し、冷却することで表面温度を下げる。
前述した、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度、中心温度をこれより10?20℃低くしておく方法として、焙煎前に、カカオ豆に加熱水蒸気を3?10分、好ましくは4?6分供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法が好ましい。
このように、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面を十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心はあまり加熱しない(つまりカカオ豆の表面温度に対して10?20℃低い温度に維持する)ことができ、本発明のカカオ原料を製造することができる。」と記載されている。

そして、本件特許明細書【0039】?【0040】には、実施例として、「初めに、釜内のカカオ豆に対し、水蒸気を5分供給し、表面温度を約80℃に到達させた。この時点で速やかに水蒸気の供給を停止し、釜内よりカカオ豆を取り出して、熱風式の焙煎装置内(熱風温度:170℃)へ投入し、各実施例、比較例について、以下の表に示す条件で焙煎をした。
そして、約30分の焙煎後、表に示す表面温度に到達した時点で焙煎装置内から取り出し、自然冷却した。」ことが記載され、表1によれば、実施例1?3では最終的に到達した表面温度が130?150℃の範囲内であり、中心温度が表面温度よりも10?20℃低い条件で焙煎したこと、比較例1?2では最終的に到達した表面温度が120?129℃又は151?160℃であり、中心温度が表面温度よりも10?20℃低い条件で焙煎したことが記載されている。
また、本件特許明細書【0042】?【0053】には、「焙煎した各カカオ豆を磨砕し、ペレット状にして、カカオマスを製造した。得られたカカオマスについて、風味成分の分析を行った。・・・テオブロミン1に対する酢酸の質量比(液体クロマトグラフィー質量分析による測定値の比率)、酢酸1に対するピラジン類の香気成分比としての質量比(ガスクロマトグラフィー質量分析による測定値の比率)を算出した。・・・結果を表2に示した。」と記載され、表2によれば、実施例1?3ではカカオマスの酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2の範囲内であり、テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部の範囲内である本件発明1のカカオ原料が得られたのに対し、比較例1?2ではカカオマスの酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2の範囲外であり、テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部の範囲外である本件発明1には該当しないカカオ原料が得られたことが記載されている。

これらの記載からみて、本件発明1の「酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2」であり、「テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部」である加熱済みカカオ原料は、「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」ことによって得られるものであると理解できる。

一方、甲1-1発明は、「ガーナ産カカオ豆を100℃の飽和蒸気で6分間処理し、カカオ豆のニブ部分を含水率8.9%に調整した後、熱風乾燥機を用い90℃で3時間予備加熱乾燥を行いカカオ豆のニブ部分を水分含有率4.1%に調整したカカオ豆を熱風式縦型カカオ豆ローセターに投入して140℃で40分間加熱焙炒した後、通常の方法で破砕して皮と胚芽を除去し、ローラーミルで磨砕して得た」ものであって、「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」という条件により製造したものであるとはいえない。
そして、甲1-1発明のカカオマスが、本件発明の製造条件と同じ製造条件で得られたものであるとはいえない以上、甲1-1発明のカカオマスについて、「酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2」であり、「テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部」であるとはいえない。
また、甲1にはカカオマスの製造条件について、「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」ことが記載も示唆もされていない。

また、甲3にはロースター内部の温度とカカオ豆の外部温度と内部温度を測定した結果が記載され、甲4?6には冷菓にチョコレートを配合する際に濃厚なチョコレートの風味を付与することが課題であることが記載され、甲7にはアイスクリームの商品名にチョコレート等の名称を使用する場合、表示に関する公正競争規約上、重量百分率で「カカオ分」を1.5%以上含むことが必要であることが記載され、甲8にはアイスクリームへのチョコレート及びココアの添加量は3%前後であることが記載され、甲9にはアイスクリームにチョコレート及びココアを配合することが公知であったことが記載され、甲15にはアイスクリームの水分活性が0.970であることがそれぞれ記載されているが、甲3?9、甲15のいずれにも、カカオマスについて、酢酸とピラジン類の質量比を香気成分比として2:1?1:2とすること及びテオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量を0.11?0.44質量部とすること、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する条件で製造することは記載も示唆もされていない。

そうすると、相違点1-1、相違点1-4、相違点1-5について検討するまでもなく、相違点1-2及び相違点1-3は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1-1発明ではなく、甲1に記載された発明とはいえない。
また、相違点1-1、相違点1-4、相違点1-5について検討するまでもなく、相違点1-2及び相違点1-3は、甲1、甲3?9、甲15の記載をみても当業者が容易に想到し得るものということはできないから、本件発明1は甲1-1発明及び甲1、3?9、甲15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は、本件発明1のカカオ原料は、本件明細書【0032】の記載、摘記(甲13a)及び(甲14a)から「焙煎前のカカオ豆の表面温度が50?70℃程度である状態から20?40分間かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃まで昇温する」という要件を満たす製造方法によって得られるといえること、甲1-1発明はカカオ豆を加熱水蒸気で処理し、60?100℃で乾燥した後、カカオ豆を140℃で40分間焙煎することで得られるものであり、摘記(甲3b)から焙煎工程におけるロースター内の空気温度と、カカオ豆の外部温度とはほぼ一致することは技術常識であるから、カカオ豆を60?100℃で乾燥した場合のカカオ豆の外部温度、すなわち表面温度も60?100℃程度となる蓋然性が高く、また、カカオ豆を140℃で乾燥した場合のカカオ豆の外部温度、すなわち表面温度も140℃程度となる蓋然性が高いこと、そうすると、甲1-1発明のカカオマスは、焙煎前のカカオ豆の表面温度が60?100℃程度である状態から40分間かけてカカオ豆の表面温度を140℃まで昇温して得られたものであり、「焙煎前のカカオ豆の表面温度が50?70℃程度である状態から20?40分間かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃まで昇温する」という要件を満たしているから、甲1-1発明のカカオマスの製造方法は、本件発明1のカカオ原料の製造方法に相当し、甲1-1発明のカカオマスは、本件発明1の組成を満たす蓋然性が高く、相違点1-2及び相違点1-3は実質的な相違点でない旨主張している。

しかしながら、甲1-1発明は、「ガーナ産カカオ豆を100℃の飽和蒸気で6分間処理し、カカオ豆のニブ部分を含水率8.9%に調整した後、熱風乾燥機を用い90℃で3時間予備加熱乾燥を行いカカオ豆のニブ部分を水分含有率4.1%に調整したカカオ豆を熱風式縦型カカオ豆ローセターに投入して140℃で40分間加熱焙炒した後、通常の方法で破砕して皮と胚芽を除去し、ローラーミルで磨砕して得た」所定のカカオマスである。
摘記(甲3b)はロースター内部の温度計指示温、空気温度、豆外部温度、豆内部温度の経時変化を示したものであるが、甲1-1発明は、原料のカカオ豆を100℃の飽和蒸気で6分間処理し、熱風乾燥機を用い90℃で3時間予備加熱乾燥を行った後、表面温度及び中心温度をどのような温度として焙煎を開始するかは不明であり、100℃の飽和蒸気で6分間処理し、熱風乾燥機を用い90℃で3時間予備加熱乾燥を行ったカカオ豆は、ロースターで焙煎したものでもないから、摘記(甲3b)をみても、焙煎開始時の表面温度が50?70℃程度であり、中心温度がそれより10?20℃低いことが明らかとはいえない。
さらに、甲1-1発明において、カカオ豆の表面温度が130?150℃である間、カカオ豆の中心温度をカカオ豆の表面温度より10?20℃低く維持されていることが明らかともいえない。
そうすると、甲1-1発明のカカオマスは、「焙煎前のカカオ豆の表面温度が50?70℃程度である状態から20?40分間かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃まで昇温する」という要件を満たす製造方法で製造されたものであるとも、「カカオ豆を、その表面品温が130?150℃となるように昇温し、カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持するように焙煎する」という要件を満たす製造方法で製造されたものであるとも、上記イで検討した「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」という製造方法で製造されたものであるともいえず、甲1-1発明のカカオマスの製造方法は、本件発明1のカカオ原料の製造方法と同じであるとはいえないし、甲1-1発明のカカオマスは、本件発明1の組成を満たす蓋然性が高いともいえない。
よって、上記異議申立人の主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、また、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲1、3?9、甲13?15に記載された技術的事項、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。

(3)本件発明2?8について
本件発明2?5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明2?5のそれぞれと甲1-1発明とを対比すると、上記(2)アにおいて検討したのと同様に、両者は「加熱済みカカオ原料」である点で一致し、少なくとも上記(2)アにおいて検討した相違点1-1?1-5において相違する。
また、本件発明6?8は、本件発明1?5の加熱済みカカオ原料を含有する水中油型食品に関するものであるから、本件発明6?8のそれぞれと甲1-2発明とを対比すると、本件発明6?8の「水中油型食品」と甲1-2発明の「チョコレート」は、「食品」の限度において一致し、両者は「加熱済みカカオ原料を含有する食品」である点で一致し、少なくとも上記(2)アにおいて検討した相違点1-1?1-5において相違する。
そして、相違点1-2及び相違点1-3については、上記(2)イにおいて検討したとおり、実質的な相違点であって、甲1-1発明もしくは甲1-2発明及び甲1、3?9、甲13?15に記載された技術的事項、技術常識に基づいて当業者が容易に想到しえた事項であるともいえない。
したがって、本件発明2?8も、甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、また、甲1に記載された発明及び甲1、3?9、甲13?15に記載された技術的事項、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。

3 甲2を主引例とする新規性及び進歩性について
(1)甲2に記載された発明
摘示(甲2a)には、焙煎前のカカオ豆を水蒸気で40?60℃、10?15分加湿処理し、水分を約15%添加した後、98?110℃で水分3%となるまで乾燥した後に焙煎することで香気成分前駆体の生成を促すことができること及び豆焙煎は元来の方法であり、繊細な香気のカカオマスを生産するためにしばしば使用されていたことが記載され、摘示(甲2b)には一般的に、最終的な焙煎温度は110℃?140℃であることが記載され、摘示(甲2f)には豆での焙煎の焙煎時間は約30分であることが記載されている。
これらのことから、甲2には「焙煎前のカカオ豆を水蒸気で40?60℃、10?15分加湿処理し、水分を約15%添加した後、98?110℃で水分3%となるまで乾燥した後に、最終的な焙煎温度が110℃?140℃となるように約30分焙煎したカカオ豆」の発明(以下、「甲2-1発明」という。)及び「焙煎前のカカオ豆を水蒸気で40?60℃、10?15分加湿処理し、水分を約15%添加した後、98?110℃で水分3%となるまで乾燥した後に、最終的な焙煎温度が110℃?140℃となるように約30分焙煎したカカオ豆から得られたカカオマス」の発明(以下、「甲2-2発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2-1発明とを対比する。
本件発明1の「カカオ原料」について、本件明細書【0018】には「本発明において、カカオ原料とは、カカオ豆から得られる食品原料であって、実質的にカカオ由来の成分からなる食品原料をいう。具体的には、カカオ原料は、カカオ豆に対し、焙煎、粉砕及び脱脂のうち少なくとも一つの加工を行って得られる食品原料を含み、焙煎済みカカオ豆、カカオニブ、カカオマス、カカオペースト、ココアパウダーを含む。」と記載されているから、甲2-1発明の「焙煎したカカオ豆」は本件発明の「カカオ原料」に相当する。
また、甲2-1発明の「焙煎したカカオ豆」は「水蒸気で40?60℃、10?15分加湿処理」し、「98?110℃で水分3%となるまで乾燥」した後に、「最終的な焙煎温度が110℃?140℃となるように約30分焙煎した」という各工程を経て得られたものであるから、本件発明1の「加熱済み」のものに相当する。
そうすると、本件発明1と甲2-1発明は「加熱済みカカオ原料」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:本件発明1は「油脂を10質量%以上含む」のに対し、甲2-1発明は油脂の含有割合が明らかでない点
相違点2-2:本件発明1は「酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として2:1?1:2」であるのに対し、甲2-1発明は酢酸とピラジン類の含有の有無及びその質量比が明らかでない点
相違点2-3:本件発明1は「テオブロミン1質量部に対して、酢酸の含有量が0.11?0.44質量部」であるのに対し、甲2-1発明はテオブロミンと酢酸の含有の有無及びテオブロミンに対する酢酸の含有量が明らかでない点
相違点2-4:本件発明1は「2質量%で40℃の水に懸濁した場合の懸濁液の酸度が1.0?3.5質量%」であるのに対し、甲2-1発明は酸度が明らかでない点
相違点2-5:本件発明1は「水中油型食品用」であるのに対し、甲2-1発明はそのような特定がない点

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点2-2及び相違点2-3について併せて検討する。

まず、甲2にはカカオマスの酢酸とピラジン類の質量比及びテオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が記載されていないから、甲2-1発明のカカオマスの酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2であり、テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部であることは明らかとはいえない。
また、甲2には酢酸とピラジン類の質量比及びテオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量の範囲をそれぞれ上記のものとすることは記載も示唆もされていない。

次に、相違点2-2及び相違点2-3に係る技術的事項が、製造方法の観点から実質的に甲2に記載ないし示唆されているといえるかを検討する。
本件明細書【0032】【0039】?【0040】【0042】?【0053】には、前記2(2)イに記載した事項が記載されている。

これらの記載からみて、本件発明1の「酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2」であり、「テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部」である加熱済みカカオ原料は、「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」ことによって得られるものであると理解できる。

一方、甲2-1発明は、「焙煎前のカカオ豆を水蒸気で40?60℃、10?15分加湿処理し、水分を約15%添加した後、98?110℃で水分3%となるまで乾燥した後に、最終的な焙煎温度が110℃?140℃となるように約30分焙煎した」ものであって、「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」という条件により製造したものであることが明らかとはいえない。
そして、甲2-1発明の焙煎したカカオ豆が、本件発明の製造条件と同じ製造条件で得られたものであることが明らかとはいえない以上、甲2-1発明の焙煎したカカオ豆について、「酢酸とピラジン類の質量比が香気成分比として2:1?1:2」であり、「テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部」であることが明らかとはいえない。
また、甲2には焙煎したカカオ豆の製造条件について、「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」ことが記載も示唆もされていない。

また、甲3にはロースター内部の温度とカカオ豆の外部温度と内部温度を測定した結果が記載され、甲4?6には冷菓にチョコレートを配合する際に濃厚なチョコレートの風味を付与することが課題であることが記載され、甲7にはアイスクリームの商品名にチョコレート等の名称を使用する場合、表示に関する公正競争規約上、重量百分率で「カカオ分」を1.5%以上含むことが必要であることが記載され、甲8にはアイスクリームへのチョコレート及びココアの添加量は3%前後であることが記載され、甲9にはアイスクリームにチョコレート及びココアを配合することが公知であったことが記載され、甲15にはアイスクリームの水分活性が0.970であることがそれぞれ記載されているが、甲3?9、甲15のいずれにも、カカオマスについて、酢酸とピラジン類の質量比を香気成分比として2:1?1:2とすること及びテオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量を0.11?0.44質量部とすること、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する条件で製造することは記載も示唆もされていない。

そうすると、相違点2-1、相違点2-4、相違点2-5について検討するまでもなく、相違点2-2及び相違点2-3は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲2-1発明ではなく、甲2に記載された発明とはいえない。
また、相違点2-1、相違点2-4、相違点2-5について検討するまでもなく、相違点2-2及び相違点2-3は、甲2、甲3?9、甲15の記載をみても当業者が容易に想到し得るものということはできないから、本件発明1は甲2-1発明及び甲3?9、甲15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は、本件発明1のカカオ原料は、本件明細書【0032】の記載、摘記(甲13a)及び(甲14a)から「焙煎前のカカオ豆の中心温度が40?60℃程度である状態から20?40分間かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃まで昇温する」という要件を満たす製造方法によって得られるといえること、甲2-1発明は焙煎工程の前にカカオ豆等を40?60℃において10?15分水蒸気することでニブ中の水分を15%程度にすることは、ニブがカカオ豆の中心に存在するから、焙煎前のカカオ豆の中心温度が40?60℃程度であることに相当し、摘記(甲3b)から焙煎工程におけるロースター内の空気温度と、カカオ豆の外部温度とはほぼ一致することは技術常識であるから、カカオ豆を最終的な焙煎温度が110℃?140℃となるように約30分焙煎した場合、カカオ豆の外部温度、すなわち表面温度も110?140℃程度となる蓋然性が高いこと、そうすると、甲2-1発明のカカオ豆は、焙煎前のカカオ豆の中心温度が40?60℃程度である状態から30分間かけてカカオ豆の表面温度を110?140℃程度まで昇温して得られたものであり、「焙煎前のカカオ豆の中心温度が40?60℃程度である状態から20?40分間かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃まで昇温する」という要件を満たしているから、甲2-1発明のカカオ豆の製造方法は、本件発明1のカカオ原料の製造方法に相当し、甲2-1発明のカカオ豆は、本件発明1の組成を満たす蓋然性が高く、相違点2-2及び相違点2-3は実質的な相違点でない旨主張している。

しかしながら、甲2-1発明は、「焙煎前のカカオ豆を水蒸気で40?60℃、10?15分加湿処理し、水分を約15%添加した後、98?110℃で水分3%となるまで乾燥した後に、最終的な焙煎温度が110℃?140℃となるように約30分焙煎した」カカオ豆である。
甲2-1発明において、焙煎工程の前に水蒸気で40?60℃、10?15分加湿処理し、98?110℃で水分3%となるまで乾燥した後、焙煎を開始する際のカカオ豆の表面温度が50?70℃であり、中心温度がそれより10?20℃低いことが明らかとはいえない。
さらに、甲2-1発明において、カカオ豆の表面温度が130?150℃である間、カカオ豆の中心温度をカカオ豆の表面温度より10?20℃低く維持されていることが明らかともいえない。
そうすると、甲2-1発明のカカオ豆は、「カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面温度を130?150℃程度となるように十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心温度は表面の温度に対して10?20℃低い温度となるようにあまり加熱せずに維持する」という製造方法で製造されたものであるとはいえず、甲2-1発明のカカオ豆の製造方法は、本件発明1のカカオ原料の製造方法と同じであるとはいえないし、甲2-1発明のカカオ豆は、本件発明1の組成を満たす蓋然性が高いともいえない。
よって、上記異議申立人の主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は甲2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、また、本件発明1は甲2に記載された発明及び甲2?9、甲13?15に記載された技術的事項、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。

(3)本件発明2?8について
本件発明2?5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明2?5のそれぞれと甲2-1発明とを対比すると、上記(2)アにおいて検討したのと同様に、両者は「加熱済みカカオ原料」である点で一致し、少なくとも上記(2)アにおいて検討した相違点2-1?2-5において相違する。
また、本件発明6?8は、本件発明1?5の加熱済みカカオ原料を含有する水中油型食品に関するものであるから、本件発明6?8のそれぞれと甲2-2発明とを対比すると、本件発明6?8の「水中油型食品」と甲2-2発明の「カカオマス」は、「食品」の限度において一致し、両者は「加熱済みカカオ原料を含有する食品」である点で一致し、少なくとも上記(2)アにおいて検討した相違点2-1?2-5において相違する。
そして、相違点2-2及び相違点2-3については、上記(2)イにおいて検討したとおり、実質的な相違点であって、甲2-1発明もしくは甲2-2発明及び甲2?9、甲13?15に記載された技術的事項、技術常識に基づいて当業者が容易に想到しえた事項であるともいえない。
したがって、本件発明2?8も、甲2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、また、甲2に記載された発明及び甲2?9、甲13?15に記載された技術的事項、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。

4 実施可能要件及びサポート要件について
(1)本件明細書の記載事項
本件明細書には以下の事項が記載されている。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、カカオ豆から得られるカカオ原料、及びその製造方法に関する。特に、本発明は、水中油型食品に適したカカオ原料、及びその製造方法に関する。また、本発明は、カカオ原料を含む水中油型食品に関する。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、近年の菓子におけるユーザの高級志向の観点から、カカオ感、チョコレート感を濃厚に感じることができる冷菓、チルドデザート等の開発を行うなか、以下のような問題に直面した。
アイスクリームやチョコレートソース等に代表される水中油型食品である食品の製造において、カカオ原料を水系の原料と混合し加熱殺菌を行うと、加熱に伴い、カカオ原料に含まれる水溶性の成分である酢酸が水相に溶出し、好ましくない風味を奏することが明らかとなった。一方で、カカオ風味を形成する香気・味成分には脂溶性のものが多いことも今回の研究で明らかとなった。また、その量も決して多くないことから、水相への溶出はほとんどないため、製造される水中油型食品は、酢酸に起因する好ましくない風味が感じられる一方で、カカオ感はあまり感じられない。
ここで、発明者らはカカオ原料の使用量を増加することも試みたが、粘度が高くなるなど物性面の課題と、酢酸に起因する風味が増大し、かえってカカオ感が低下するなどの問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、10℃以下で喫食される食品、例えば、アイスクリームやチルドデザートに使用するやチョコレートソースやホイップクリーム等の水中油型食品に用いた場合に、カカオ感を十分に付与しつつ、酢酸に起因する好ましくない風味の発現を抑制できる、カカオ原料を提供することを課題とする。本発明は、特に、食する時に冷凍下でさらにカカオ感を感じるのが難しいアイスクリーム等の冷菓原料として適したカカオ原料を提供することを課題とする。」

ウ「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究開発を行った結果、酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として特定の範囲内であるカカオ原料が、アイスクリーム等の水中油型食品に用いた場合に、濃厚なカカオ感を付与するのに好適であることを見出し、本発明を完成した。」

エ「【0010】
本発明の好ましい形態では、カカオ原料2質量%を40℃の水に懸濁した場合の懸濁液の酸度が1.0?3.5質量%であるカカオ原料である。
カカオ原料の水に分散した際の酸度が前記範囲内であることで、水中油型食品に配合したときに、カカオ原料に含まれる他の風味成分とのバランスでカカオ感が増す。
【0011】
本発明の好ましい形態では、酢酸とイソ吉草酸の質量比が、香気成分比として、2:1?1:3である。
このような範囲のカカオ原料を水中油型食品に用いることで、濃厚なカカオ風味が感じられる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、酢酸とフェネチルアルコールの質量比が、香気成分比として、4:1?1:2である。
このような範囲のカカオ原料を水中油型食品に用いることで、濃厚なカカオ風味が感じられる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、カカオ原料100g当たりの遊離アミノ酸の含有量が200?500mgである。
遊離アミノ酸の含有量を前記範囲内とすることで、水中油型食品に配合したときに、カカオのコクを向上させることができる。」

オ「【0015】
本発明の好ましい形態は、また、前記カカオ原料を1?20質量%含有し、その際の食品のpHが5.2?6.5である、水中油型食品である。
前記カカオ原料の配合量及び、食品のpHを前記範囲とすることで、カカオ原料に含まれる風味成分とのバランスが良好となり、カカオ感を十分に感じることができる水中油型食品が提供される。」

カ「【0021】
本発明のカカオ原料は、酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として、2:1?1:2、好ましくは1:1?1:2である。
本発明において、酢酸とピラジン類の香気成分比は、ガスクロマトグラフィー質量分析による測定値の比で表される。測定方法については、実施例に後述する。
カカオ原料には酢酸が、フリー体のみならず、塩やその他誘導体の形態で含まれるが、当該測定による測定値は、これらの酢酸のうちガスクロマトグラフィー質量分析による測定条件下において、揮発性のものを対象としていると定義することができる。
酢酸に対するピラジン類の質量比が香気成分比として前記範囲にあるカカオ原料は、水中油型食品に配合し加工した際に、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立つ。そして、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができる。
なお、酢酸の比率が小さすぎる場合には、酢酸の好ましくない風味は低減されるもののピラジン類の渋みや苦みが目立つようになり、全体としてはカカオ感を濃厚に感じることができない。一方、酢酸の比率が大きすぎる場合には、ピラジン類のロースト風味が感じられず、酸味が目立つようになり、全体としてカカオ感を感じることができない。
本明細書において、「トップのカカオ風味」とは、水中油型食品を口に含んだ直後に感じるカカオ風味を意味し、「カカオ風味の後残り」とは、カカオ風味が、水中油型食品を食した後にも持続することを意味する。
また、カカオ風味とは、カカオ由来の香りの他、カカオ由来の渋みや苦み、コクも含む概念である。
【0022】
本発明のカカオ原料における酢酸の含有量は、カカオ豆に通常採用される発酵条件によって生成される範囲であればよいが、テオブロミン1質量部に対して、好ましくは0.11?0.44質量部、さらに好ましくは0.12?0.43質量部、より好ましくは0.15?0.4質量部である。
ここで、テオブロミンは、カカオ豆に含まれている苦味を有する成分であり、カカオ豆の発酵、加熱、粉砕などの処理を経てもほとんど消失しない成分であることから、カカオ原料中の風味成分の含有量を特定するための基準値とすることができる。
ここで、カカオ原料に含まれるテオブロミン及び酢酸の質量は、高速液体クロマトグラフィー質量分析にて測定することができる。測定方法については、実施例に後述する。すなわち、ここでの酢酸の含有量は、不揮発性の形態で存在する酢酸の含有量を含むものであると定義することができる。
【0023】
テオブロミンに対する酢酸の含有量が上記範囲のカカオ原料は、アイスクリーム等の冷凍食品や、チルドデザートに用いられるホイップクリームやチョコレートシロップ、プリン等の水中油型食品に配合したときに、カカオ風味を際立たせ、濃厚なカカオ感、チョコレート感を付与することができる。」

キ「【0032】
本発明のカカオ原料は、焙煎条件を以下の通りに調整することで、製造することができる。本発明のカカオ原料の製造において、焙煎工程は、カカオ豆の皮を剥離せずにホールビーンズの形態で行うことが好ましい。
焙煎工程は、カカオ豆の表面温度が好ましくは130?150℃、さらに好ましくは135?145℃となるような温度で行う。
また、焙煎は、カカオ豆の表面温度が前述した温度にある間、カカオ豆の中心温度をカカオ豆の表面温度より10?20℃低く維持することが好ましく、12℃以上、さらには15℃以上低く維持することが好ましい。すなわち、カカオ豆の中心温度は、140℃以下に抑制する。このような温度制御のためには、初めに、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度としておき、ここから、例えば20?30分、好ましくは25?40分、さらに好ましくは30?35分かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃、好ましくは135?145℃に昇温する。また、焙煎前のカカオ豆の中心温度も、表面温度より10?20℃低いことが好ましく、12℃以上、さらには15℃以上低いことが好ましく、例えば、40?60℃程度としておくことが好ましい。
カカオ豆の表面温度は1?3.5℃/分、好ましくは2?3℃/分の速度で昇温させることが好ましい。
そして、前記目的とする表面温度まで昇温したら、加熱操作を停止し、冷却することで表面温度を下げる。
前述した、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度、中心温度をこれより10?20℃低くしておく方法として、焙煎前に、カカオ豆に加熱水蒸気を3?10分、好ましくは4?6分供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法が好ましい。
このように、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面を十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心はあまり加熱しない(つまりカカオ豆の表面温度に対して10?20℃低い温度に維持する)ことができ、本発明のカカオ原料を製造することができる。
なお、水蒸気加熱の後に、特段の乾燥工程を含む必要はない。
焙煎のための装置としては、カカオ豆の焙煎に通常用いられる熱風式、間接加熱式の焙煎装置を用いることができる。
本発明のカカオ原料におけるピラジン類、酢酸の含有量と焙煎条件について着目すると、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、ピラジン類は増加し、香気成分としての酢酸は低下する。
従って、前述したピラジン類と香気成分としての酢酸の含有比率となるように、焙煎条件を調整することで、本発明のカカオ原料を製造することができる。
【0033】
また、イソ吉草酸、フェネチルアルコールの比率と焙煎条件について着目すると、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、増加する。
従って、前述したイソ吉草酸、フェネチルアルコールの酢酸に対する比率となるように、焙煎条件を調整することで、本発明のカカオ原料を製造することができる。
【0034】
また、遊離アミノ酸の含有量と焙煎条件について着目すると、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、増加する。ただし、一定範囲を超えて高温、長時間で焙煎すると、糖等との反応により、遊離アミノ酸としての量は減少する。
従って、前述した遊離アミノ酸の含有量となるように、焙煎条件焙煎条件を調整することで、本発明のカカオ原料を製造することができる。
焙煎においては、糖類やアミノ酸を添加することができる。
焙煎したカカオ豆には、常法により、破砕、摩砕等の微細化処理を行うことができる。」

ク「【0035】
(2)水中油型食品
本発明のカカオ原料は、水中油型食品に好適である。これは、水中油型食品にあっては、加工における加熱等に伴い水相中に酸が溶解し、酸臭や酸味を感じやすい一方、カカオ風味を形成する脂溶性の香気成分は溶解しにくく、よってカカオ風味を感じにくいという背景があるためである。
また、水中油型食品としては、10℃以下で喫食される食品、例えばチルド食品や冷凍食品に好適である。これは、低温で喫食される食品にあってはカカオ風味を感じにくいためである。
【0036】
また、水中油型食品としては、乳製品が挙げられる。これは、特に、乳風味に対し過度の酢酸の風味が組み合わさることで、好ましくない風味となるためである。
水中油型食品としては、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等の冷菓、ココアドリンク、チョコレートソース(シロップ)、ホイップクリーム、プリン等が好ましく挙げられる。
【0037】
水中油型食品におけるカカオ原料の含有量は、好ましくは1?20質量%である。
また、水中油型食品のpHは、好ましくは5.2?6.5である。
また、前記水中油型食品の水分活性は、好ましくは0.75?0.99である。これは、水分が多い食品にあっては、水の極性により多くの酸を溶かすが、カカオの脂溶性の香気成分は溶解しないため、酸臭や酸味を感じやすいためである。
【0038】
本発明の水中油型食品は、常法により製造することができる。
例えば、冷菓の製造においては、通常用いられる冷菓原料と本発明のカカオ原料を混合し、加熱により殺菌処理をして冷菓ミックスを製造し、冷菓ミックスを攪拌凍結する方法が挙げられる。」

ケ「【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例を示しながらより詳細に説明する。
【0040】
発酵、及び乾燥を経たカカオ豆(脂肪:55質量%)を以下の方法で焙煎した。
初めに、釜内のカカオ豆に対し、水蒸気を5分供給し、表面温度を約80℃に到達させた。この時点で速やかに水蒸気の供給を停止し、釜内よりカカオ豆を取り出して、熱風式の焙煎装置内(熱風温度:170℃)へ投入し、各実施例、比較例について、以下の表に示す条件で焙煎をした。
そして、約30分の焙煎後、表に示す表面温度に到達した時点で焙煎装置内から取り出し、自然冷却した。
なお、表面温度及び中心温度は、焙煎工程における最終的な到達温度である。また、表面温度及び中心温度は、表面温度計ならびに熱電対温度計を用いて測定した(以下の試験でも同じ)。
【0041】
【表1】



コ「【0042】
焙煎した各カカオ豆を磨砕し、ペレット状にして、カカオマスを製造した。得られたカカオマスについて、風味成分の分析を行った。・・・
【0053】
テオブロミン1に対する酢酸の質量比(液体クロマトグラフィー質量分析による測定値の比率)、酢酸1に対するピラジン類の香気成分比としての質量比(ガスクロマトグラフィー質量分析による測定値の比率)を算出した。また、イソ吉草酸及びフェネチルアルコールのガスクロマトグラフィー質量分析の測定値を、酢酸のガスクロマトグラフィー質量分析による測定値に対する比率として算出した。また、カカオ原料に対する遊離アミノ酸の含有量を算出した。結果を表2に示した。・・・
【0054】
続いて、各実施例及び比較例のカカオ原料(カカオマス)を6質量%含むアイスミルクを常法により製造した。製造したアイスミルクは、無脂乳固形7質量%、乳脂肪分3質量%、カカオ原料由来の脂肪を含む植物脂肪分5質量%、オーバーラン80、水分活性0.96であった。
製造したアイスクリームについて、カカオ製品の専門家5名によるカカオ風味(トップのカカオ風味、カカオ風味のあと残り、カカオのコク)と酸味の評価を行った。
また、アイスクリームのpHを常法により測定した。
評価は、以下の基準を用いた相対評価で行った。結果を、表2に示す。
〔評価基準〕
◎・・・とても良い、とても好ましい
〇・・・良い、好ましい
△・・・普通
×・・・悪い、好ましくない
【0055】
【表2】



サ「【0056】
表2の結果から、酢酸とピラジン類の香気成分比が2:1?1:2の範囲である場合には、水中油型食品に配合したときに、トップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、カカオのコクが良好であるとの評価であった。また、当該範囲の場合には、酸味についても普通以上の評価であった。一方、香気成分としての酢酸がピラジン類に対して相対的に多い(つまり揮発性成分として酢酸がピラジン類に対して相対的に多い)比較例1のカカオ原料を用いて製造した水中油型食品は、カカオ風味が弱く、酸味のみを強く感じた。また、香気成分としての酢酸がピラジン類に対して相対的に小さい(つまり揮発性成分として酢酸に対しピラジン類が相対的に多い)比較例2のカカオ原料を用いて製造した水中油型食品は、酸味は普通であるものの渋みや苦みが残りやすくカカオ風味が良好とはいえなかった。
また、前記試験結果より、焙煎条件を高温にするほど、酢酸の含有量が小さくなり、同時にピラジン類の含有量が大きくなること、そして、香気成分としての酢酸に対するピラジン類の比が大きくなることがわかった。ここで、酢酸の含有量自体の変化率はそれほど大きくないものの(例えば実施例3と比較例2)、香気成分としてのピラジン類と酢酸の比の変化率は比較的大きかった。
また、各風味成分の既知の性質と当該変化率を踏まえて、評価を考察すると、原料に含まれる酢酸の絶対量の違いよりも、むしろピラジン類と酢酸の香気成分比が、カカオ風味やカカオのコク等を含むカカオ感、酸味の感じ方に顕著に影響することがわかった。
以上より、濃厚で良好なカカオ感を得るためには、カカオ原料中のピラジン類の含有量を増加させ、又は酢酸の含有量を単に低減させるのではなく、揮発性成分としての両者の含有比率を適切な範囲とすることが重要であることが分かった。
【0057】
また、本試験の結果についてさらに考察を加えると、焙煎条件により、カカオ原料中の酢酸(塩や誘導体を含む)の存在状態が変化し、全体の酢酸(塩や誘導体を含む)に対する揮発性酸の割合が変化するものと推察された。これにより、カカオ原料中の酢酸(塩や誘導体を含む)の含有量を一定範囲としつつ、揮発性酸の割合を適量な範囲にコントロールすることが可能となり、水中油型食品に加工した際に、酢酸に起因する好ましくない風味は低減するが、酢酸による渋みや苦みの低減、酢酸に起因するコク等の好ましい風味は維持することが可能になるものと考えられる。」

(2)本件発明の課題
本件発明の課題は、上記(1)摘記ア及び摘記イから、「10℃以下で喫食される食品、例えば、アイスクリームやチルドデザートに使用するやチョコレートソースやホイップクリーム等の水中油型食品に用いた場合に、カカオ感を十分に付与しつつ、酢酸に起因する好ましくない風味の発現を抑制できる、カカオ原料を提供すること」及び当該カカオ原料を含有する水中油型食品を提供することであるといえる。

(3)香気成分について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明1は香気成分について、酢酸とピラジン類の質量比、テオブロミンに対する酢酸の含有量のみが規定されている。
しかしながら、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書の【0055】表2にはピラジン類だけでなく、酢酸に対するイソ吉草酸の質量比、酢酸に対するフェネチルアルコールの質量比、遊離アミノ酸の含有量も本件発明2?4に規定された範囲内の実施例しか開示されてない。
そうすると、酢酸とピラジン類の質量比、テオブロミンに対する酢酸の含有量のみが本件発明1の範囲内でありさえすれば、本件発明の所望のカカオ原料が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、酢酸とピラジン類の質量比、テオブロミンに対する酢酸の含有量のみが本件発明1の範囲内でありさえすれば、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記ウには、酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として特定の範囲内であるカカオ原料が、アイスクリーム等の水中油型食品に用いた場合に、濃厚なカカオ感を付与するのに好適であることが記載され、摘記カに、より詳細に、酢酸に対するピラジン類の質量比を所定の範囲内とすると酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができること、さらに、テオブロミンに対する酢酸の含有量が所定の範囲内のカカオ原料は、水中油型食品に配合したときに、カカオ風味を際立たせ、濃厚なカカオ感、チョコレート感を付与することができること、テオブロミンはカカオ豆の発酵、加熱、粉砕などの処理を経てもほとんど消失しない成分であることが記載され、摘記キには焙煎条件が高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、ピラジン類は増加し、香気成分としての酢酸は低下すること、したがってピラジン類と香気成分の含有比率は焙煎条件を調整することで調整できること、摘記ケ及び摘記コには、実施例1?3として、酢酸とピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量が本件発明所定の範囲内である加熱済みカカオ原料が水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、酸味についても普通以上であり、全体として濃厚なカカオ感を感じることができたことが具体的に示されているから、酢酸とピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量が所定の範囲内であれば、本件発明の加熱済みカカオ原料を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(4)油脂の含有量について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明1では加熱済みカカオ原料の油脂の含有量について「油脂を10質量%以上含む」としか規定されていない。
しかしながら、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0040】?【0042】には脂肪分55質量%のカカオ豆から得られたカカオマスの実施例しか開示されていない。
カカオ風味を形成する香気・味成分は本件明細書【0005】の記載から、その多くが油脂中に存在していると考えられるから、油脂の含有量が55質量%よりも低いカカオ原料についてはカカオ風味を形成しがたく、実際、油脂の少ないココアパウダーがアイスクリームに十分なカカオ感を付与できないことは技術常識である(前記1(4)の摘記(甲4a)、(5)の摘記(甲5a))から、上記課題を解決できない蓋然性が高い。
したがって、「油脂を10質量%以上含む」点さえみたせば所望のカカオ原料が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、「油脂を10質量%以上含む」点さえみたせば、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記ウには、酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として特定の範囲内であるカカオ原料が、アイスクリーム等の水中油型食品に用いた場合に、濃厚なカカオ感を付与するのに好適であることが記載され、摘記カに、より詳細に、酢酸に対するピラジン類の質量比を所定の範囲内とすると酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができることが記載されており、このことは、カカオ原料の油脂含有量が少なくても同様であるといえる。
また、前記1(4)の摘記(甲4a)、(5)の摘記(甲5a)には、アイスクリーム等にココアパウダーで風味付けを行った場合に、チョコレートの風味を付与することは難しいがココア感は付与できることが記載されているから、これらの摘記事項をみても、カカオ原料の油脂含有量が少ない場合に「カカオ感を十分に付与しつつ、酢酸に起因する好ましくない風味の発現を抑制できる、カカオ原料を提供する」という本件発明の課題を解決できないとはいえない。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(5)水中油型食品について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明1では「水中油型食品」に用いられることしか規定されていない。
しかしながら、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0054】で具体的に開示されているのは特定の組成を有するアイスミルクのみである。
本件明細書【0035】の記載から、水中油型食品は、乳化状態や乳化状態の安定性が異なれば、水溶性の酸や脂溶性の香気成分の放出状態が異なるから、アイスミルク以外の水中油型食品についても十分なカカオ感を発揮するかどうか不明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、アイスミルク以外の水中油型食品についても、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記クには、水中油型食品では、加工における加熱等に伴い水相中に酸が溶解し、酸臭や酸味を感じやすい一方、カカオ風味を形成する脂溶性の香気成分は溶解しにくく、カカオ風味を感じにくいという背景があること、そのような水中油型食品としてアイスミルク以外にも種々のものがあることが記載されており、摘記カには、本件発明の加熱済みカカオ原料は、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができることが記載されているから、アイスミルク以外の水中油型食品の乳化状態や乳化状態の安定性がアイスミルクの乳化状態や乳化状態の安定性と異なるとしても、本件発明の加熱済みカカオ原料を用いることにより、相対的にカカオ感が十分に付与され、酢酸に起因する好ましくない風味の発現が抑制された水中油型食品を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(6)テオブロミン1質量部に対する酢酸の含有量について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明1は「テオブロミン1質量部に対して、酢酸の含有量が0.11?0.44質量部」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0055】の表2で確認しているのは0.15、0.3、0.4質量部の場合のみであって、0.11?0.15質量部、0.4?0.44質量部の範囲について、本件発明の所望のカカオ原料が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、0.11?0.15質量部、0.4?0.44質量部の範囲について、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記カにはテオブロミンは、カカオ豆に含まれている苦味を有する成分であり、カカオ豆の発酵、加熱、粉砕などの処理を経てもほとんど消失しない成分であることから、カカオ原料中の風味成分の含有量を特定するための基準値とすることができることが記載され、テオブロミンに対する酢酸の含有量が0.11?0.44質量部であれば、水中油型食品に配合したときに、カカオ風味を際立たせ、濃厚なカカオ感、チョコレート感を付与することができることが記載され、摘記キには焙煎条件が高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、香気成分としての酢酸は低下することが記載されている。
そして、摘記ケ及び摘記コには、実施例1?3として、テオブロミンに対する酢酸の含有量が本件発明所定の範囲内である加熱済みカカオ原料が水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、酸味についても普通以上であり、全体として濃厚なカカオ感を感じることができたことが具体的に示されているから、テオブロミンに対する酢酸の含有量が所定の範囲内であれば、本件発明の加熱済みカカオ原料を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(7)酸度について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明1は「2質量%で40℃の水に懸濁した場合の懸濁液の酸度が1.0?3.5質量%」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0055】の表2で確認しているのは1.6、1.9、2.1質量%の場合のみであって、1.0?1.6質量%、2.1?3.5質量%の範囲について、本件発明の所望のカカオ原料が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、1.0?1.6質量%、2.1?3.5質量%の範囲について、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記ウ及び摘記カから、本件発明は、酢酸に対するピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量を所定の範囲内とすると、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときに、全体として濃厚なカカオ感を感じることができるというものであるといえる。
そして、摘記エには酸度が所定の範囲内であれば水中油型食品に配合したときに、カカオ原料に含まれる他の風味成分とのバランスでカカオ感が増すことが記載され、摘記キには焙煎条件が高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、香気成分としての酢酸は低下することが記載されているから、摘記ク及び摘記ケに特定の酸度の実施例しか開示されていなくても、酢酸に対するピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量を所定の範囲内とした条件の下で、酸度も所定の範囲内であれば、本件発明の加熱済みカカオ原料を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(8)酢酸とピラジン類の質量比について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明1は「酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として2:1?1:2」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0055】の表2で確認しているのは1:0.5、1:1、1:1.8の場合のみであって、1:1.8?1:2の範囲について、本件発明の所望のカカオ原料が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、1:1.8?1:2の範囲について、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記ウには、酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として特定の範囲内であるカカオ原料が、アイスクリーム等の水中油型食品に用いた場合に、濃厚なカカオ感を付与するのに好適であることが記載され、摘記カに、より詳細に、酢酸に対するピラジン類の質量比を所定の範囲内とすると酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができることが記載され、摘記キには焙煎条件が高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、ピラジン類は増加し、香気成分としての酢酸は低下すること、したがってピラジン類と香気成分の含有比率は焙煎条件を調整することで調整できることが記載され、摘記コでは本件発明1で規定している酢酸とピラジン類の質量比範囲である2:1?1:2の相当程度である、酢酸とピラジン類の質量比が1:0.5、1:1、1:1.8である加熱済みカカオ原料について、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、酸味についても普通以上であり、全体として濃厚なカカオ感を感じることができたことが具体的に裏付けられているから、酢酸とピラジン類の質量比が所定の範囲内であれば、本件発明の加熱済みカカオ原料を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(9)酢酸とイソ吉草酸の質量比について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明2は「酢酸とイソ吉草酸の質量比が、香気成分比として、2:1?1:3」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0055】の表2で確認しているのは2:1.4、1:1.2、1:2.8の場合のみであって、2:1?2:1.4、1:2.8?1:3の範囲について、比較例1及び比較例2の質量比は下限及び上限に近く、本件発明の所望のカカオ原料が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2及びこれを引用する本件発明3?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、2:1?2:1.4、1:2.8?1:3の範囲について、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明2及びこれを引用する本件発明3?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記ウ及び摘記カから、本件発明は、酢酸に対するピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量を所定の範囲内とすると、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときに、全体として濃厚なカカオ感を感じることができるというものであるといえる。
そして、摘記エには、さらに酢酸とイソ吉草酸の質量比が所定の範囲であれば濃厚なカカオ風味が感じられることが記載され、摘記キには、焙煎条件が、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、香気成分としての酢酸は低下すること、イソ吉草酸の比率は増加することが記載されているから、摘記ク及び摘記ケに酢酸とイソ吉草酸の質量比が特定の値である実施例しか開示されておらず、比較例の質量比が本件発明の質量比の範囲の下限や上限に近いとしても、酢酸に対するピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量を所定の範囲内とした条件の下で、さらに酢酸とイソ吉草酸の質量比が所定の範囲内であれば、本件発明の加熱済みカカオ原料を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明2?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(10)酢酸とフェネチルアルコールの質量比について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明3は「酢酸とフェネチルアルコールの質量比が、香気成分比として、4:1?1:2」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0055】の表2で確認しているのは4:1.6、1:0.7、1:1の場合のみであって、4:1?4:1.6、1:1?1:2の範囲について、比較例1の質量比は下限に近く、比較例2は本件発明3に規定された範囲内であり、本件発明の所望のカカオ原料が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3及びこれを引用する本件発明4?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、4:1?4:1.6、1:1?1:2の範囲について、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明3及びこれを引用する本件発明4?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記ウ及び摘記カから、本件発明は、酢酸に対するピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量を所定の範囲内とすると、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときに、全体として濃厚なカカオ感を感じることができるというものであるといえる。
そして、摘記エには、さらに酢酸とフェネチルアルコールの質量比が所定の範囲であれば濃厚なカカオ風味が感じられることが記載され、摘記キには、焙煎条件が、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、香気成分としての酢酸は低下すること、フェネチルアルコールの比率は増加することが記載され、摘記コでは本件発明3で規定している酢酸とフェネチルアルコールの質量比範囲である4:1?1:2の相当程度である、酢酸とフェネチルアルコールの質量比が4:1.6、1:0.7、1:1である加熱済みカカオ原料について、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、酸味についても普通以上であり、全体として濃厚なカカオ感を感じることができたことが具体的に裏付けられているから、摘記ク及び摘記ケに酢酸とフェネチルアルコールの質量比が特定の値である実施例しか開示されておらず、比較例の質量比が本件発明の質量比の範囲の下限に近いか、本件発明の質量比の範囲内であるとしても、酢酸に対するピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量を所定の範囲内とした条件の下で、さらに酢酸とフェネチルアルコールの質量比が所定の範囲内であれば、本件発明の加熱済みカカオ原料を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明3?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明3?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(11)加熱済みカカオ原料の含有量について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明6は「加熱済みカカオ原料を1?20質量%含有し」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0054】で具体的に開示されているのはカカオマスを6質量%含有するアイスミルクのみである。
本件明細書【0005】【0015】の記載から、水中油型食品へのカカオ原料の配合量が異なれば、得られる水中油型食品のカカオ感や風味は異なるといえ、6質量%とは異なる、1質量%や20質量%の付近では本件発明の所望の水中油型食品が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明6及びこれを引用する本件発明7?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、1質量%や20質量%の付近では本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明6及びこれを引用する本件発明7?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記クには、水中油型食品では、加工における加熱等に伴い水相中に酸が溶解し、酸臭や酸味を感じやすい一方、カカオ風味を形成する脂溶性の香気成分は溶解しにくく、カカオ風味を感じにくいという背景があること、そのような水中油型食品として種々のものがあること、水中油型食品におけるカカオ原料の含有量は、好ましくは1?20質量%であることが記載されており、摘記カには、本件発明の加熱済みカカオ原料は、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができることが記載されているから、水中油型食品へのカカオ原料の配合量が異なることにより、得られる水中油型食品のカカオ感や風味が異なるとしても、本件所定の加熱済みカカオ原料を用いれば、その含有量が1質量%や20質量%の付近の場合にも相対的に本件発明の加熱済みカカオ原料を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明6?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明6?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(12)pHについて
ア 具体的な異議申立理由
本件発明6は「pHが5.2?6.5」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0055】の表2で具体的に開示されているのはpH5.7又は5.9のアイスミルクのみであって、pH5.2?5.7、5.9?6.5の範囲について、本件発明の所望の水中油型食品が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明6及びこれを引用する本件発明7?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、pH5.2?5.7、5.9?6.5の範囲について、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明6及びこれを引用する本件発明7?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記クには、水中油型食品では、加工における加熱等に伴い水相中に酸が溶解し、酸臭や酸味を感じやすい一方、カカオ風味を形成する脂溶性の香気成分は溶解しにくく、カカオ風味を感じにくいという背景があること、そのような水中油型食品として種々のものがあること、水中油型食品のpHは、好ましくは5.2?6.5であるであることが記載され、摘記カには、本件発明の加熱済みカカオ原料は、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができることが記載されており、食品のpHを添加剤によって調整することは当業者にとって周知慣用の技術的事項であるから、本件所定の加熱済みカカオ原料を用いれば、水中油型食品のpHが5.2?6.5の範囲で本件発明の加熱済みカカオ原料を含有する水中油型食品を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明6?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明6?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(13)水分活性について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明7は「水分活性が0.75?0.99」と規定しているが、本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0054】で具体的に開示されているのは0.96のアイスミルクのみであって、本件明細書【0037】の記載から、食品の水分活性が異なれば、カカオ感や風味が異なるといえ、0.96よりも顕著に低い0.75付近で本件発明の所望の水中油型食品が得られるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明7及びこれを引用する本件発明8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、0.96よりも顕著に低い0.75付近で、本件発明の課題を解決できるとはいえないから、本件発明7及びこれを引用する本件発明8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
上記(1)摘記クには、水中油型食品では、加工における加熱等に伴い水相中に酸が溶解し、酸臭や酸味を感じやすい一方、カカオ風味を形成する脂溶性の香気成分は溶解しにくく、カカオ風味を感じにくいという背景があること、そのような水中油型食品として種々のものがあること、水中油型食品の水分活性は、好ましくは0.75?0.99であることが記載され、摘記カには、本件発明の加熱済みカカオ原料は、酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができることが記載され、水分活性は食品の水分量を調節することで当業者が適宜調整できるものであるから、食品の水分活性が異なれば、カカオ感や風味が異なるとしても、本件所定の加熱済みカカオ原料を用いれば、水中油型食品の水分活性が0.75?0.99の範囲で、相対的に本件発明の加熱済みカカオ原料を含有する水中油型食品を当業者が作ることができ、使用することができるといえ、また、当業者は、本件発明が上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明7?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件発明7?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(14)加熱済みカカオ原料について
ア 具体的な異議申立理由
本件発明1は加熱済みカカオ原料を製造するために用いるカカオ豆の条件を何ら規定していない。
本件発明の課題を解決できたことが確認できた例として、本件明細書【0040】に具体的に示されているのは「発酵、及び乾燥を経たカカオ豆(脂肪:55質量%)」を用いたことのみである。
また、本件明細書にはカカオ豆に関する諸条件(産地、発酵程度等)は何ら記載されておらず、焙煎条件が記載されるのみである(【0032】?【0034】)。
前記1の(10)?(12)の摘記事項から、加熱済みカカオ原料の香気成分の含有量や遊離アミノ酸の含有量は焙煎条件(焙煎温度、焙煎時間等)が同じであっても、産地、発酵程度、製造ロットによって大きく異なることが技術常識である。
そうすると、産地、発酵程度、製造ロット等が特定されていない本件発明1について、所望の品質のカカオ原料をどのようにして作製するのかを見出すことは当業者といえども過度の実験を要するから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、産地、発酵程度、製造ロット等が特定されていない本件発明1について、課題解決手段が反映されていないから、本件発明の課題を解決できるとはいえず、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8は本件明細書に記載したものでない。

イ 検討
(ア)実施可能要件について
上記(1)摘記キの記載からみて、本件発明の加熱済みカカオ原料は、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面を十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心はあまり加熱しない(つまりカカオ豆の表面温度に対して10?20℃低い温度に維持する)という製造方法によって得られるものであると理解できる。
また、摘記キから、焙煎は高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、ピラジン類、イソ吉草酸、フェネチルアルコールは増加し、香気成分としての酢酸は低下するという傾向があること、焙煎は一定範囲内で高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、遊離アミノ酸の含有量は増加するという傾向があることも理解できる。
そうすると、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等が異なり、カカオ豆の香気成分や遊離アミノ酸の含有量が一定でなくても、発酵によりカカオ豆中に酢酸が生成すること、焙煎によって、ピラジン類等の香気成分、遊離アミノ酸が生成することはカカオ豆に共通しており、酢酸の含有量を低減し、香気成分を増加させる焙煎条件については上記のとおり記載されているから、当業者であれば、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等に応じて焙煎条件を調節して、本件発明のカカオ原料を製造できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(イ)サポート要件について
上記(1)摘記ウには、酢酸とピラジン類の質量比が、香気成分比として特定の範囲内であるカカオ原料が、アイスクリーム等の水中油型食品に用いた場合に、濃厚なカカオ感を付与するのに好適であることが記載され、摘記カに、より詳細に、酢酸に対するピラジン類の質量比を所定の範囲内とすると酢酸に起因する好ましくない風味が低減され、ピラジン類のロースト風味が際立ち、水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができること、さらに、テオブロミンに対する酢酸の含有量が所定の範囲内のカカオ原料は、水中油型食品に配合したときに、カカオ風味を際立たせ、濃厚なカカオ感、チョコレート感を付与することができることが記載され、摘記ケ及び摘記コには、実施例1?3として、本件発明の加熱済みカカオ原料が水中油型食品を食したときのトップのカカオ風味、カカオ風味の後残り、及びカカオのコクに優れ、全体として濃厚なカカオ感を感じることができたことが具体的に示されているから、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等にかかわらず、特に酢酸とピラジン類の質量比及びテオブロミンに対する酢酸の含有量が所定の範囲内である、本件発明の加熱済みカカオ原料であれば、本件発明の課題を解決できるものといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(15)「加熱済みカカオ原料」の製造方法について(申立理由は実施可能要件のみ)
ア 具体的な異議申立理由
本件明細書【0032】の記載から、本件発明の加熱済みカカオ原料を製造するためには昇温条件等を調節してカカオ豆の表面温度の調整を必ず要することが理解できる。
しかしながら、本件明細書【0040】には170℃の熱風で約30分焙煎したことしか記載されておらず、【0041】の表1の実施例及び比較例のように、どのようにして昇温条件等を調節したのか、どのようにカカオ豆の表面温度等を実現したのか不明であって、本件発明の加熱済みカカオ原料を製造するためには当業者といえども過度の試行錯誤を要するから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 検討
上記(1)摘記キには、本件発明の加熱済みカカオ原料を得る製造方法として、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面を十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心はあまり加熱しない(つまりカカオ豆の表面温度に対して10?20℃低い温度に維持する)ことが記載され、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度、中心温度をこれより10?20℃低くしておく方法として、焙煎前に、カカオ豆に加熱水蒸気を3?10分供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法が記載され、また、焙煎について、例えば20?30分、好ましくは25?40分、さらに好ましくは30?35分かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃に昇温すること、カカオ豆の表面温度は1?3.5℃/分の速度で昇温させることが好ましいこと、目的とする表面温度まで昇温したら、加熱操作を停止し、冷却することで表面温度を下げることが記載されている。
また、摘記ケには「表面温度及び中心温度は、焙煎工程における最終的な到達温度である。また、表面温度及び中心温度は、表面温度計ならびに熱電対温度計を用いて測定した(以下の試験でも同じ)。」と記載され、各実施例、比較例について、表面温度、中心温度、焙煎時間及び昇温時間が具体的に記載されている。
これらの記載事項をふまえて、焙煎工程において、カカオ豆の表面温度及び中心温度を確認しながら、ロースターの昇温速度や開始温度、最終到達温度を調節し、本件発明の加熱済みカカオ原料が得られるように条件を調節することは、当業者であれば実施しえることである。
したがって、異議申立人の主張は採用できず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(16)まとめ
上記(3)?(15)において検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合していないとはいえず、当該発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、また、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。

第5 むすび
上記のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-02-19 
出願番号 特願2019-61967(P2019-61967)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 冨永 保
安孫子 由美
登録日 2020-05-18 
登録番号 特許第6705928号(P6705928)
権利者 森永製菓株式会社
発明の名称 カカオ原料及び水中油型食品  
代理人 辻田 朋子  
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