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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
管理番号 1371726
異議申立番号 異議2020-700742  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-30 
確定日 2021-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6674577号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6674577号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6674577号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、令和1年5月31日に出願され、令和2年3月10日にその特許権の設定登録がされ、同年4月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許に対し、令和2年9月30日に萩原真紀(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

令和2年11月16日付け 取消理由通知
同年12月11日 面接(特許権者)
同3年 1月18日 意見書の提出(特許権者)
同年 1月25日 上申書の提出(特許異議申立人)

なお、特許異議申立人は、上記上申書を提出し意見を述べる機会を申し出ているが、本件において訂正請求はなされておらず、合議体として、特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠についての説明は要しないと判断した。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、
外観発酵度が100%以上であり、
ピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記ビールテイスト飲料が、ビールである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、外観発酵度が100%以上であり、ピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上であるビールテイスト飲料を製造する方法であって、
下記工程(1)?(2)を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):水及び麦芽を含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する工程。
・工程(2):前記発酵原料液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程。
【請求項4】
ピログルタミン酸の含有量を調整する工程を有する、請求項3に記載のビールテイスト飲料の製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1号証?甲第10号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲10」ともいう。)を提出し、次の特許異議申立理由A?Dを申し立てている。

1.特許異議申立理由A(進歩性の欠如)
本件発明1?4は、甲1?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

2.特許異議申立理由B(新規性及び進歩性の欠如)
本件発明1?4は、甲8?10の記載を考慮すれば、甲1又は甲2に記載された発明であり、また、甲1、2、8?10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

3.特許異議申立理由C(サポート要件違反)
本件発明1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4.特許異議申立理由D(実施可能要件違反)
本件発明3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



甲第1号証:特開2019-84号公報
甲第2号証:特開2017-209071号公報
甲第3号証:特表2019-509749号公報
甲第4号証:Y.H. Hui et al., "FOOD BIOCHEMISTRY & FOOD PROCESSING",
Blackwell Publishing, 2006, Pages 670-672
甲第5号証:特開2001-299266号公報
甲第6号証:米国特許出願公開第2017/0280757号明細書
甲第7号証:Food Chemistry, 2018, 240, pp.1219-1226
甲第8号証:上田隆蔵ら、「ビール中の有機酸に関する研究(第1報)」、
日本醗酵工学会、1963年、第41巻、第1号、第10-1 4頁
甲第9号証:N,Coote et al., “THE CONTENT OF SOME ORGANIC ACIDS IN
BEER AND OTHER FERMENTED MEDIA”,J. Inst. Brew., 1974,
Vol.80, pp.474-483
甲第10号証:尾関正彦、「麦汁中の糖組成、及び醸造工程中の有機酸量変
化とビール品質との関連」、平成3年度日本醗酵工学会大会講 演要旨集、日本醗酵工学会、1991年、第26頁

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
当審が令和2年11月16日付けの取消理由通知書により通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(進歩性)
本件発明1?4は、甲1?4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

これに対し、特許権者は、令和3年1月18日付意見書に添付した証拠方法として、下記乙第1号証?乙第6-2号証を提出している。(以下、それぞれ「乙1」?「乙6-2」ともいう。)



乙第1号証:長谷川高政、「実験成績証明書」、令和3年1月12日作成
乙第2号証:ビール酒造組合編集、「ビールの基本技術」、財団法人日本醸
造協会、平成22年4月20日、第125頁
乙第3-1号証:村上洋ら、「甘い糖と甘くない糖」、生物工学会誌、20
11年、第89巻、第8号、第486?490頁
乙第3-2号証:有村治彦、「ビール酵母」、日本醸造協会誌、2000年
、第95巻、第11号、第791?802頁
乙第4号証:金田弘挙、「コク・キレセンサーの開発」、日本バーチャルリ
アリティ学会誌、2013年、第18巻、第2号、第98?1 02頁
乙第5号証:キリンホールディングス株式会社ウェブサイト、「コクとキレ
は何で決まる?」、[online]、2021年1月7日検索、イ ンターネット、<URL:https://www.kirin.co.jp/entertainme nt/daigaku/ZMG/dst/no20/>
乙第6-1号証:十川浩、「ビールの機能性」、日本醸造協会誌、1990
年、第85巻、第9号、第588?594頁
乙第6-2号証:吉田重厚、「第1章 ビールの一般成分」、日本醸造協会
誌、1976年、第71巻、第7号、第505?510頁

2.証拠の記載事項
(1)甲1
甲1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料及びその製造方法に関する。」(【0001】)

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、コクとキレのバランスに優れたビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することにある。」(【0004】)

(1c)「【0007】
(ビールテイスト飲料)
本発明の実施態様に係るビールテイスト飲料は、コクとキレのバランスを楽しむための飲料である。コクとは、飲料を口に含んだときに感じる味の芳醇さ、ボディ感、飲み応えを言う。一方、キレとは、飲料を飲みこんだ後に後味が速やかに消える爽快感(すっきりさ)を言う。」(【0007】)

(1d)「尚、麦芽使用比率とは、水とホップを除く全原料に対する麦芽の割合(重量%)である。」(【0009】)

(1e)「尚、本発明において、外観最終発酵度とは、発酵前の液に含まれる全糖濃度のうち、酵母がアルコール発酵の栄養源として消費できる糖濃度の占める割合を意味する。」(【0011】)

(1f)「【実施例】
【0018】
<実験例>
麦芽25Kgを糖化し、76℃で酵素失活を行った。得られた液(麦汁)を濾過した。濾過後、麦汁を煮沸釜に入れ、200Lになるように水を加えた。その後、ホップを100g添加した。ホップの添加後、70分間煮沸し、180Lの麦汁を得た。その後、湯を加え200Lになるように液量を再調整した後、ワールプール(旋回分離槽)で固液分離した。固液分離後、熱交換器によって麦汁を冷却した。冷却後、麦汁に酵母を添加し発酵させた。発酵後の液は濾過にて清澄化し、1.2倍希釈後に容器に充填した。
【0019】
上記の方法により、例1,4,7及び10に係るビールテイスト飲料を得た。尚、例1,4,7における飲料においては、アミノ酸の含有量がアミノ態窒素A-Nとして10mg/100mLとなり、かつ、外観最終発酵度が83%、90%、100%となるように、糖化及び発酵工程を調整した。また、例10に係る飲料においては、アミノ酸の含有量がアミノ態窒素A-Nとして5mg/100mLとなり、かつ、外観最終発酵度が100%となるように、糖化及び発酵工程を調整した。
更に、例1,4,7に係る飲料に、アミノ酸としてグルタミンを添加し、アミノ酸の濃度(アミノ態窒素A-N濃度)が異なる例2,3,5,6,8,9の飲料を得た。
【0020】
例1?10に係る飲料の麦芽使用比率、糖質含量、及びアルコール度数は、表1に記載される通りであった。
【0021】
得られた例1?10係るビールテイスト飲料について、5名のパネリストにより、「キレ」、「コク」及び「コクキレのバランス」ついて官能検査を行った。
・・・
すなわち、「コクキレのバランス」については、点数が低いほどコクとキレのバランスが悪く嗜好性が劣り、点数が高いほどコクとキレのバランスが優り嗜好性に優れることを示す。
【0024】
結果を下記表1に示す。

」(【0018】?【0024】)

(2)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料及びその製造方法に関する。」(【0001】)

(2b)「尚、本発明において、外観最終発酵度とは、発酵前の液に含まれる全糖濃度のうち、酵母がアルコール発酵の栄養源として消費できる糖濃度の占める割合を意味する。」(【0011】)

(2c)「【実施例】
【0018】
(外観最終発酵度の検討)
麦芽17kg、副原料としてコーンスターチ5kgを糖化し、76℃で酵素失活を行った。得られた液(麦汁)を濾過した。ろ過後、麦汁を煮沸釜に入れ、200Lになるように水を加えた後、ホップを適量添加した。ホップの添加後、70分間煮沸し、180Lの麦汁を得た。その後、湯を加え200Lになるように液量を再調整した後、ワールプール(旋回分離槽)で固液分離した。固液分離後、熱交換器によって麦汁を冷却した。冷却後、麦汁に酵母を添加し発酵させた。発酵後の液は濾過にて清澄化し、1.2倍希釈後に、容器に充填した。
上記の方法により、例1?例3に係るビールテイスト飲料を得た。尚、例1?3におけるアミノ酸の含有量は、アミノ態窒素A-Nとして3mg/100mLであった。また、例1?例3では、外観最終発酵度をそれぞれ89%、102%、108%になるように調整した。また、例1?例3の飲料における糖質の含有量は、例1は3g/100mLであり、例2は1.5g/100mLであり、例3は0.5g/100mLである。アルコール度数は4?6容量%であった。
得られた例1?3に係るビールテイスト飲料について、10名のパネリストにより、キレ及び水っぽさについて官能検査を行った。尚、官能評価にあたっては、例1の飲料を対照(4点)として、7段階で評価した。「キレ」については、点数が低いものほどキレがなく、点数が高いものほどキレがあることを示す。「水っぽさ」については、点数が低いものほど水っぽくなく、点数が高いものほど水っぽいことを示す。
結果を下記表1に示す。

【0019】
表1に示されるように、外観最終発酵度を増加させるに従い、キレが増し、水っぽさが増していく傾向にあった。」(【0018】?【0019】)

(3)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】
一定量添加されたピログルタミン酸又はその塩を含有する、飲料製品。」(【請求項1】)

(3b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、風味が増強された飲料に関する。特に本発明は飲料製品にピログルタミン酸組成物を添加することに関し、上記の飲料製品としては、そのまま飲める液体及びそのまま飲める液体を生成するためのシロップ又は濃縮物が含まれ得る。」(【0001】)

(3c)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本明細書においては、風味が増強された飲料製品、例えば、より口当たりに優れ、及び/又はよりクリーミーな味わいを持つ飲料製品を得ることを目的として飲料製品を改良するための方法を提供する。より具体的には、飲料製品は、添加された、すなわち外来の、ある量のピログルタミン酸又はその塩形態を含む。」(【0003】)

(3d)「本明細書において使用されるピログルタミン酸(PGA)とは、ピログルタミン酸の任意の鏡像異性体(すなわち、L-ピログルタミン酸(L-PGA)及びD-ピログルタミン酸(D-PGA))、・・・の任意の組合せを指す。」(【0019】)

(3e)「【0021】
飲料製品としては、例えば、汁(juice)飲料(例えば、1種又は2種以上の果汁及び/又は1種又は2種以上の野菜汁を含む飲料)、補水飲料(電解質を添加したもの等)、スポーツ飲料、フレーバードウォーター、フローズン又はチルド飲料、カフェイン入り飲料、炭酸飲料、非炭酸飲料及びダイエット飲料やカロリーを抑えた他の飲料等のゼロカロリー?低カロリー飲料(例えば、12オンス当たり0?150kcal及び砂糖10グラムまで)が挙げられる。特定の実施形態において、飲料製品は、炭酸入り又は非炭酸ソフトドリンク、ドリンクバーの飲料、そのまま飲める冷蔵飲料、コーヒー、茶及び他の抽出飲料、乳飲料、機能強化水、果汁(オレンジ果汁等(濃縮果汁を希釈してそのまま飲めるようにしたものを含む))、果汁風味飲料、スムージー、機能性飲料(カフェイン入りエナジードリンク等)及びアルコール製品が挙げられる。特定の実施形態において、飲料はコーラ飲料とすることができる。」(【0021】)

(3f)「【0033】
幾つかの実施形態において、そのまま飲める炭酸飲料は、約5?約200ppmの添加されたL-ピログルタミン酸を含むことができる。そのまま飲める炭酸飲料の幾つかの実施形態は、約25ppm?約125ppmのL-ピログルタミン酸を含むことができる。」(【0033】)

(3g)「【0037】
幾つかの実施形態は、ピログルタミン酸を含む低カロリー飲料を対象とする。好適な低カロリー飲料としては、レモンライム等の炭酸飲料、コーラ飲料(例えば、ステビア入りコーラ飲料)及び茶や果汁等の非炭酸飲料(例えば、ステビア入りオレンジ果汁)が挙げられる。」(【0037】)

(3h)「【0040】
低カロリー飲料の幾つかの例を次の表に示す。そうでないことが明白でない限り、表1の数値には「約」という語が前に付くと理解されたい。
【0041】
【表1】

」(【0040】?【0041】)

(3i)「【0045】
乳製品含有飲料の幾つかの例を次の表2に示す。そうでないことが明白でない限り、表2の数値には「約」と言う語が前に付くと理解されたい。
【0046】
【表2】

」(【0045】?【0046】)

(3j)「【0050】
ゼロカロリー飲料の幾つかの例を次の表3に示す。そうでないことが明白でない限り、表3の数値には「約」という語が前に付くと理解されたい。
【0051】
【表3】

」(【0050】?【0051】)

(3k)「【0052】
表1?3に列挙した飲料について試験を行った。これらの実施例において、試験の際に列挙した範囲で添加を行うと、ピログルタミン酸を含むそのまま飲める飲料の口当たりが良くなり、幾つかの低カロリー炭酸飲料においては苦味及び/又は後味が軽減された。ピログルタミン酸を含む組成物をオレンジ果汁等のそのまま飲める飲料に添加した場合は、柑橘の味が強調されると共に、豊潤さ(fullness)及び滑らかさ(smoothness)が増した。ピログルタミン酸を含む組成物をコーヒー等のそのまま飲める飲料に添加した場合は、コーヒーの味が強調され、コクが強くなり、クリーミーさが増し、脂肪感及び脂肪味が増強され、豊潤さが増した。約300ppmを超えると、ピログルタミン酸を含むそのまま飲める飲料には若干の渋味が生じた。」(【0052】)

(3l)「実施例1.低カロリー飲料中のL-PGAの効果
様々な炭酸又は非炭酸飲料を指定の濃度で試験した。結果を表4に示す。
【0104】
【表4】

【0105】
上の結果に基づけば、炭酸飲料の場合、L-PGAを約25?125ppmの量で添加することにより、濃厚な口当たり/コク、強い風味のある香り、滑らかさ及び後半に感じる砂糖様のコクが付与されることにより、口当たりの複雑さが増す。甘味料無添加茶の場合、L-PGAを約15?50ppmの量で添加することにより苦味が減る。ステビアで甘味付与されたオレンジ果汁の場合、L-PGAを約25?150ppmの量で添加すると、酸味を抑えるのを助け、製品にわずかな甘味が付与される。
実施例2.乳製品含有飲料中のL-PGAの効果
2%低脂肪乳を含み、砂糖、スクラロース及びASK(11 fl oz(325.3ml)当たり砂糖3グラム)で甘味付与されたコーヒーにL-ピログルタミン酸を25?50ppmの範囲で添加した。得られた乳製品含有飲料は、口当たりにはっきりと影響し、脂肪感が付与され、豊潤さ及びコクと共にクリーミーな味わいがわずかに増したと評価された。この添加によりコーヒーの特徴が強調され、後味が軽減されたと考えられる。
【0106】
2%低脂肪乳にL-ピログルタミン酸100ppm?約200ppmを添加した。この範囲の低量側では、特に、口当たりが向上すると共に乳の特徴が際立つようになった。
上の評価に基づけば、乳製品含有飲料類にL-ピログルタミン酸を約10?200ppmの量で添加すると、脂肪感を増強し、よりクリーミーな口当たりを付与し、風味を際立たせることにより口当たりを大幅に向上させる成分となる。
実施例3.ゼロカロリー飲料中のL-PGAの効果
様々なゼロカロリー飲料、具体的には、2種類のカフェイン入り炭酸入りソフトドリンク(1-スクラロース&アセスルファム-K入りコーラ及び2-アスパルテーム&アセスルファム-K入りコーラ)及び甘味料無添加茶にL-PGAを25ppmの量で添加することにより試験を行った。スクラロース&アセスルファム-K入りコーラの場合、口当たりの向上、粘性の増大、豊かな又は濃厚な香り、後引きの軽減等の特性が確認された。アスパルテーム&アセスルファム-K入りコーラの場合、後味が軽減されることが確認された。甘味料無添加茶の場合、結果として、苦味が抑えられ、口に合いやすくなり、コクが増すことが確認された。
【0107】
上の結果に基づけば、ゼロカロリーの分類においては、L-ピログルタミン酸によって苦味及び後味が軽減されたことが分かる。
実施例4.L-PGA及びD-PGAの比による効果
上の一般的な実験手順に従い、次に示すように、異なる比率のL-PGA及びD-PGAを、コーヒー、コーラ(アスパルテーム及びアセスルファム-Kで甘味付与したものならびにスクラロース及びアセスルファム-Kで甘味付与したものの両方)及びステビア入りコーラに添加した。確認された対応する効果と共に表5に記載した。
【0108】
【表5】

【0109】
上の結果に基づけば、様々なPGA配合物は、乳製品(乳入りコーヒー)中において、コーヒーの苦い香りを軽減し、口中の豊かな広がりを促すことにより良好に作用する。約50ppmの量のL-PGAはまた、全体として、上の表5のそれぞれの場合において、改良された飲料を提供する。
【0110】
約50ppmの量のD-PGAも同様に、ゼロカロリー飲料の味覚判定から明らかなように、苦味を軽減し、後味を遮断することにより飲料製品の特性を向上するのに十分に機能する。ステビア入りコーラ等の低カロリー飲料の場合、D-PGAは苦味及び後半の後引き/後味を軽減するのに役立ち、一方、L-PGAは、甘ったるい香りを増強する。さらなる構成成分により、上に示したD-PGAを含む飲料の一部に認められる若干の酸っぱい異臭を打ち消すことができる。」(【0103】?【0110】)

(4)甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
訳文にて示す。
(4a)「有機酸の生合成
ビール中に検出される重要な有機酸には、酢酸、乳酸、コハク酸、ピログルタミン酸、リンゴ酸、クエン酸、α-ケトグルタル酸及びα-ヒドロキシグルタル酸がある(Coote and Kirsop 1974)。それらは、それらの味閾値を超えて存在する場合、およびビールpHにおけるそれらの影響によって、風味に対し直接的に影響する。」(第670頁、左欄第5?11行、甲4部分訳)

(5)乙1
乙1には、以下の事項が記載されている。

(乙1a)「4.実験の目的
特許第6674577号公報の発明の詳細な説明(以下、「本件特許明細書」という)の【0049】に記載の製造方法に準拠し、【0051】の表1中の実施例3とピログルタミン酸の含有量を変更した以外は同様の製造方法で製造したビールテイスト飲料、並びに、実施例5及び6とピログルタミン酸の含有量を変更した以外は同様の製造方法で製造したビールテイスト飲料について、「味わいの複雑さ」、「爽快感」、「ビールテイスト飲料らしい苦味の有無」および「砂糖様のコクの有無」の官能評価を行い、ピログルタミン酸の含有量の違いに対するこれらの官能評価への影響を確認する。」(第1頁第7?15行)

(乙1b)「

」(第4頁)

(6)乙2
乙2には、以下の事項が記載されている。

(乙2a)「特殊なビールを除いて,ビールの甘みは欠点となることが多く、発酵性の糖はしっかりと発酵させることが大切である。」(第125頁右欄第1表の下から2行?4行)

(乙2b)「苦味はビールにおいてはとりわけ重要な味の要素である。」(第125頁右欄下から4行?3行)

3.取消理由1(進歩性)について
(1)甲1を主引用例とする理由
ア 本件発明1
(ア)甲1に記載された発明
甲1には、「ビールテイスト飲料」について記載され(摘記(1a))、具体的には、例7として、麦芽使用比率が100%であり、外観最終発酵度が100%である飲料が記載され(摘記(1f)の【表1】)、この飲料は「ビールテイスト飲料」であると記載されているから(摘記(1f)の【0019】)、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されているといえる。

甲1発明:「麦芽使用比率が100%であり、外観最終発酵度が100%であるビールテイスト飲料」

(イ)本件発明1と甲1発明の一致点、相違点
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「麦芽使用比率」は、甲1に「水とホップを除く全原料に対する麦芽の割合(重量%)」と記載されているから(摘記(1d))、本件発明1の「麦芽比率」に相当する。
また、甲1発明の「外観最終発酵度」について甲1に記載された定義(摘記(1e))は、本件明細書【0013】に記載された本件発明1の「外観発酵度」の定義と同じであるから、甲1発明の「外観最終発酵度」は、本件発明1の「外観発酵度」に相当し、甲1発明の「外観最終発酵度100%」は、本件発明1の「外観発酵度100%以上」に該当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、外観発酵度が100%以上である、ビールテイスト飲料。」である点で一致し、次の点(以下、「相違点1」という。)で相違する。

相違点1:本件発明1は、「ピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上」であるのに対し、甲1発明は、ピログルタミン酸の含有量が不明な点

(ウ)相違点1の判断
a 甲3、4の記載について
甲3には、風味が増強された飲料、例えば、より口当たりに優れ、及び/又はよりクリーミーな味わいを持つ飲料製品であって、ピログルタミン酸又はその塩を含有する飲料製品が記載されている(摘記(3a)?(3c))。
そして、飲料製品として例示された中に、炭酸飲料やアルコール製品が記載され(摘記(3e)?(3g))、表1には、低カロリー飲料の例が記載され、そのうち炭酸飲料としてレモンライムソーダ、コーラ飲料、ステビア入りコーラ飲料が記載され(摘記(3h))、表2には、乳製品含有飲料が記載され(摘記(3i))、表3には、ゼロカロリー飲料が記載され、そのうち、炭酸飲料であるコーラが記載されている(摘記(3j))。
さらに、上記表1?3に列挙した飲料について試験を行ったところ、ピログルタミン酸を添加すると、口当たりが良くなり、幾つかの炭酸飲料においては苦味及び/又は後味が軽減され、オレンジ果汁等のそのまま飲める飲料に添加した場合は、柑橘の味が強調されると共に、豊潤さ及び滑らかさが増し、コーヒー等に添加した場合は、コーヒーの味が強調され、コクが強くなり、クリーミーさが増し、脂肪感及び脂肪味が増強され、豊潤さが増し、約300ppmを超えると若干の渋味が生じたことが記載されている(摘記(3k))。
また、実施例1には、L-PGA、すなわち、ピログルタミン酸(摘記(3d))を添加すると、炭酸飲料の場合、濃厚な口当たり/コク、強い風味のある香り、滑らかさ及び後半に感じる砂糖様のコクが付与されることにより、口当たりの複雑さが増し、甘味料無添加茶の場合、苦味が減り、甘味付与されたオレンジ果汁の場合、酸味を抑えるのを助け、製品にわずかな甘味が付与されると記載され、実施例2には、乳製品含有飲料類の場合、脂肪感を増強し、よりクリーミーな口当たりを付与し、風味を際立たせることにより口当たりを大幅に向上させると記載され、実施例3には、ゼロカロリー飲料の場合、苦味及び後味が軽減されると記載され、実施例4には、乳製品(乳入りコーヒー)では、コーヒーの苦い香りを軽減し、口中の豊かな広がりを促し、ステビア入りコーラ等の場合、苦味及び後半の後引き/後味を軽減し、甘ったるい香りを増強し、飲料の一部に認められる若干の酸っぱい異臭を打ち消すことができることが記載されている(摘記(3l))。
そして、甲4には、ビール中に検出される重要な有機酸の一つとして、ピログルタミン酸が記載され、味閾値を超えて存在する場合、風味に対し直接的に影響することが記載されている(摘記(4a))。

b 動機付けについて
上記aによると、甲3には、風味が増強された飲料が記載され、対象となる飲料として例示された中に、炭酸飲料やアルコール製品が含まれているが、アルコール製品としてはそれ以上の記載はなく、まして甲1発明であるビールテイスト飲料については記載されていない。また、炭酸飲料としては、具体的にレモンライムソーダ、コーラ飲料は記載されていても、ビールテイスト飲料については記載されていない。
そして、甲3には、ピログルタミン酸を添加すると風味が増強されると記載されているが、その風味の増強とは、炭酸飲料では、苦みや後味が軽減し、砂糖様のコクなどが付与されることで口当たりの複雑さが増し、甘ったるい香りを増強することであると記載されている。
一方、例えば乙2にも記載されているように(摘記(乙2a)、(乙2b))、甲1発明のようなビールテイスト飲料において、一般に、苦みや後味の軽減、砂糖様のコクや甘ったるい香りが求められることはないと認められるから、甲3に記載された、炭酸飲料では苦みや後味が軽減し、砂糖様のコクなどが付与され、甘ったるい香りが増強するピログルタミン酸を、甲1発明のビールテイスト飲料に添加する動機付けがあるとはいえない。また、甲3の炭酸飲料以外の全体の記載を検討しても、飲料としてビールテイスト飲料が例示されていないのは上記のとおりであり、その他に、ビールテイスト飲料にピログルタミン酸を添加して含有量を35質量ppm以上とする動機付けとなるような記載は見当たらない。
そして、甲4には、ピログルタミン酸が、本来的にビールに含まれる風味に直接影響する成分であることは記載されていても、本来的に含まれている成分であるというだけで、どのように風味に影響するかの記載はなく、その含有量を調整することは記載されていない。
以上によれば、甲3及び甲4の記載からは、甲1発明のビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるということはできない。
したがって、相違点1は、当業者が容易に想到することができたものではない。

(エ)本件発明1の効果について
本件明細書【0006】には、発明の効果として、良質な味わいの複雑さを有すると共に、爽快感のある飲料となり得ると記載され、実施例1?6で調製した本件発明1のビールテイスト飲料は、味わいの複雑さ、及び爽快感のバランスに優れるものであったこと、一方、比較例1?4では、味わいの複雑さ、もしくは爽快感が劣る結果となり、特に、比較例3のビールテイスト飲料は、ピログルタミン酸の含有量が30質量ppmであり、35質量ppm以上ではない点のみが本件発明1と異なるビールテイスト飲料であるところ、味わいの複雑さに劣る結果であったことが具体的に確認されている(【0049】?【0053】)。
そうすると、本件発明1のビールテイスト飲料は、味わいの複雑さ、及び爽快感のバランスに優れ、特に、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とすることで味わいの複雑さが向上するという優れた効果を奏するものであり、この効果は、甲1、甲3及び甲4の記載から予測し得るものではない。
したがって、本件発明1は、甲1、甲3及び甲4の記載から予測し得ないような優れた効果を奏するものである。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1、甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4
上記アのとおり、本件発明1は、甲1、甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないところ、本件発明2は、本件発明1のビールテイスト飲料を「ビール」に特定した発明であり、本件発明3は、「麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、外観発酵度が100%以上であり、ピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上であるビールテイスト飲料を製造する方法」、すなわち、本件発明1のビールテイスト飲料を製造する方法の発明であり、本件発明4は、本件発明3を引用して限定する発明であるから、本件発明2?4は、本件発明1と同様に、甲1、甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲2を主引用例とする理由
ア 本件発明1
(ア)甲2に記載された発明
甲2には、「ビールテイスト飲料」について記載され(摘記(2a))、具体的には、例2として、外観最終発酵度が102%である飲料が記載され(摘記(2c)、【表1】、【表2】)、この例2の飲料はビールテイスト飲料であると記載されているから(摘記(2c)【0018】)、甲2には、以下の甲2発明が記載されていると認められる。

甲2発明:「外観最終発酵度が102%であるビールテイスト飲料」

(イ)本件発明1と甲2発明の一致点、相違点
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「外観最終発酵度」について甲2に記載された定義(摘記(2b)) は、本件明細書【0013】に記載された本件発明1の外観発酵度の定義と同じであるから、甲2発明の「外観最終発酵度」は、本件発明1の「外観発酵度」に相当し、甲2発明の「外観最終発酵度102%」は、本件発明1の「外観発酵度100%以上」に該当する。
そして、甲2発明のビールテイスト飲料は、麦芽17kg、副原料としてコーンスターチ5kgを糖化して製造したものであるから(摘記(2c)【0018】)、甲2発明の麦芽比率は、17/(17+5)=77%であり、本件発明1の「麦芽比率50?100質量%」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、「麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、外観発酵度が100%以上である、ビールテイスト飲料。」である点で一致し、相違点は、上記「相違点1」と同じであると認められる。

(ウ)判断
上記(1)ア(ウ)で述べたとおり、甲3及び甲4の記載からは、ビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるとはいえないから、甲2発明の「ビールテイスト飲料」においても、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるとはいえない。
また、上記(1)ア(エ)で述べたとおり、本件発明1のビールテイスト飲料は、味わいの複雑さ、及び爽快感のバランスに優れ、特に、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とすることで味わいの複雑さが向上するという優れた効果を奏するものであり、この効果は、甲2?4の記載から予測し得るものではない。
したがって、本件発明1は、甲2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4
上記アのとおり、本件発明1は、甲2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないところ、本件発明2は、本件発明1のビールテイスト飲料を「ビール」に特定した発明であり、本件発明3は、「麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、外観発酵度が100%以上であり、ピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上であるビールテイスト飲料を製造する方法」、すなわち、本件発明1のビールテイスト飲料を製造する方法の発明であり、本件発明4は、本件発明3を引用して限定する発明であるから、本件発明2?4は、本件発明1と同様に、甲2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲3には、炭酸飲料にピログルタミン酸を添加することにより、炭酸飲料の滑らかさ、コク、口当たりの複雑さが増すことが記載されていること、つまり、ピログルタミン酸は、アルコール飲料や炭酸飲料に添加する用途において、滑らかさ、コク、口当たりの複雑さを増大させることが知られている化合物であること、また、甲4に記載されているとおり、ピログルタミン酸は、ビール中に検出される重要な有機酸の一つであり、ビールのフレーバーに直接影響する成分として知られている化合物であることを挙げて、甲1発明又は甲2発明において、ピログルタミン酸を添加することは当業者が容易に想到し得ることであると主張している(特許異議申立書第13頁下から3行?第14頁第11行)。
しかし、甲3には、アルコール飲料や炭酸飲料が例示されていても、ビールテイスト飲料については記載されておらず、また、滑らかさ、コク、口当たりの複雑さを増大させるとはいっても、炭酸飲料では、苦みや後味が軽減し、砂糖様のコクなどが付与されることで口当たりの複雑さが増し、甘ったるい香りを増強することであると記載され、一方、一般にビールテイスト飲料において苦みや後味が軽減し、砂糖様のコクや甘ったるい香りを増強することが求められるとは認められないから、甲3の記載からは、ビールテイスト飲料にピログルタミン酸を添加する動機付けがあるとはいえないことは、上記(1)ア(ウ)で述べたとおりである。
そして、甲4には、ピログルタミン酸は、ビール中に検出される重要な有機酸の一つであり、ビールのフレーバーに直接影響する成分として知られている化合物であると記載されていても、その含有量を調整することは記載されていないことも上記(1)ア(ウ)で述べたとおりである。
したがって、甲3及び甲4の記載からは、甲1発明又は甲2発明のビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。

(4)取消理由1(進歩性)の小括
以上のとおり、本件発明は、甲1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由1により、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

4.取消理由2(サポート要件)について
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以上を踏まえ、検討する。

(2)本件発明の特許請求の範囲の記載
本件発明の特許請求の範囲の記載は、上記「第2 本件発明」のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

(A1)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況において、新規なビールテイスト飲料(例えば、良質な味わいの複雑さ、及び、爽快感のバランスが改善されたビールテイスト飲料)が求められている。」(【0004】)

(A2)「【0010】
麦芽比率が50質量%以上と高いビールテイスト飲料は、良好な味わいを有する一方で、麦芽比率が高くなるほど爽快感が劣る傾向にある。
そこで、本発明のビールテイスト飲料では、爽快感を向上させるために、外観発酵度を100%以上となるように、糖化条件及び発酵条件を調整している。これにより、爽快感は改善されたが、一方で、外観発酵度が高いビールテイスト飲料ほど、味わいが単調となることが分かった。そのため、本発明のビールテイスト飲料では、さらに味わいの複雑さを付与するために、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上となるように調製している。
つまり、本発明のビールテイスト飲料では、麦芽比率、外観発酵度、及びピログルタミン酸の含有量を調製することで、良質な味わいの複雑さを付与し、爽快感のある飲料とすることができる。」(【0010】)

(A3)「【0015】
また、本発明のビールテイスト飲料のピログルタミン酸の含有量は、当該ビールテイスト飲料の全量(100質量%)基準で、35質量ppm以上であるが、爽快感を維持しつつ、さらに味わいの複雑さを付与したビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは40質量ppm以上、より好ましくは45質量ppm以上、更に好ましくは50質量ppm以上、より更に好ましくは65質量ppm以上で、特に好ましくは80質量ppm以上ある。
また、香味の調和がとれたビールテイスト飲料とする観点から、ピログルタミン酸の含有量は、当該ビールテイスト飲料の全量(100質量%)基準で、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下、より更に好ましくは200質量ppm以下である。」(【0015】)

(A4)「【0049】
実施例1?6、比較例1?4
<飲料の調製>
粉砕した大麦麦芽及び多糖分解酵素を、52℃で保持された温水40Lが入った仕込槽に投入した後、52℃で30分間保持し、続いて65℃で40分間、さらに76℃で5分間と段階的に温度を上げて保持して糖化液を調製した後、濾過して麦芽粕を除去し、麦汁を得た。得られた麦汁に、表1及び2に示す麦芽比率となるようにショ糖を添加し、さらにホップを添加して煮沸を行った。煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して、発酵温度及び発酵時間、トランスグルコシダーゼ等の多糖分解酵素の添加量や添加のタイミングを調整して、得られる飲料が表1及び2に示す外観発酵度となるように調整し、発酵液を得た。そして、当該発酵液を濾過して、表1及び2に示す含有量となるようにピログルタミン酸を添加し、試験用飲料を得た。
【0050】
<官能評価>
得られた飲料について、日頃から訓練を受けた5人のパネラーが、各飲料の「味わいの複雑さ」及び「爽快感」について、下記のスコア基準に基づき、5(最大値)?1(最小値)の範囲で、0.1刻みのスコアにて評価し、5人のパネラーのスコアの平均値を算出した。結果を表1及び2に示す。
なお、評価に際しては、下記基準「5」、「4」、「3」、「2」及び「1」に適合するサンプルを予め用意し、各パネラー間での基準の統一を図った。また、表1及び2のいずれの官能評価においても、同じ飲料に対して、各パネラー間での2.0以上のスコアの値の差異は確認されなかった。
[味わいの複雑さのスコア基準]
・「5」:非常に良質な味わいの複雑さを感じる。
・「4」:良質な味わいの複雑さを感じる。
・「3」:味わいの複雑さを感じる。
・「2」:味わいの複雑さが少し感じられるが、単調に感じる。
・「1」:味わいが単調である。
[爽快感のスコア基準]
・「5」:非常に良好な爽快感がある。
・「4」:良好な爽快感がある。
・「3」:爽快感がある。
・「2」:刺激が弱く、爽快感があまり感じられない。
・「1」:刺激がほとんど感じられず、爽快感がない。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1より、実施例1?6で調製したビールは、味わいの複雑さ、及び爽快感のバランスに優れ、双方とも良好であった。一方で、表2より、比較例1?4で調製した飲料は、味わいの複雑さ、もしくは爽快感が劣る結果となった。」(【0049】?【0053】)

(4)課題
本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書全体の記載を考慮して、発明の詳細な説明に記載されているとおり、「新規なビールテイスト飲料(例えば、良質な味わいの複雑さ、及び、爽快感のバランスが改善されたビールテイスト飲料)の提供」であると認める(摘記(A1))。

(5)判断
発明の詳細な説明には、麦芽比率が高いビールテイスト飲料は良好な味わいを有する一方で爽快感が劣り、爽快感を向上させるために外観発酵度を高くすると、爽快感は改善されても味わいが単調となるため、本件発明のビールテイスト飲料では、さらに味わいの複雑さを付与するために、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上となるように調製したと記載されている(摘記(A2))。
そして、上記ピログルタミン酸の含有量は、35質量ppm以上であるが、爽快感を維持しつつ、さらに味わいの複雑さを付与したビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは40質量ppm以上、より好ましくは45質量ppm以上、更に好ましくは50質量ppm以上、より更に好ましくは65質量ppm以上で、特に好ましくは80質量ppm以上と記載され、また、香味の調和がとれたビールテイスト飲料とする観点からは、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下、より更に好ましくは200質量ppm以下であると記載されている(摘記(A3))。
また、ピログルタミン酸の含有量が30質量ppmである比較例1?4のビールは、味わいの複雑さ、もしくは爽快感が劣るのに対して、ピログルタミン酸を50?100ppm含有する本件発明のビール(実施例1?6)は、上記味わいの複雑さ、及び爽快感のバランスに優れたものであることが記載されているから(摘記(A4)。特に、表1、2、【0053】)、発明の詳細な説明には、本件発明が、本件発明の解決しようとする課題を解決できるものであることが具体的に裏付けを伴って記載されているといえる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に、本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるように記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

(6)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、概略、以下の(i)、(ii)の点を挙げて、本件発明のうちピログルタミン酸の含有量が100ppm以外である場合は、本件発明の解決しようとする課題を解決することができると認識することができないから、本件発明は、発明の詳細な説明に、本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるように記載された範囲のものではないと主張している(特許異議申立書第19頁第10行?第20頁下から4行)。

(i)本件発明は、ピログルタミン酸の含有量の上限が特定されておらず、一方、ピログルタミン酸塩からなる旨味調味料に関する甲5には、加工食品中のピログルタミン酸塩の濃度が5重量%を超えた場合には、味のあつみ、コク味とは異質な呈味が付与されると記載され(【0009】、当審注、【0019】の誤記と認める。後出摘記(5d)、(5e))、甲3には、炭酸飲料にはピログルタミン酸の濃度が約5?200ppmであると記載されており(摘記(3f))、これらの背景技術は、飲料のピログルタミン酸含有量が多すぎる場合に、味わいが悪くなることを示唆し、旨味調味料を使いすぎた場合に、味わいが悪くなることは常識的に納得できる、つまり、ビールテイスト飲料のピログルタミン酸含有量がいかに多くなっても、良質な味わいの複雑さ、爽快感が得られることは常識に反するから、ピログルタミン酸含有量の上限が規定されていない本件発明は、発明の範囲にわたって課題が解決されることを認識できないものである。

(ii)発明の詳細な説明記載の実施例では、味わいの複雑さのスコア基準として、「4:良質な味わいの複雑さを感じる」が定められており、この基準は本件発明の課題に整合するから、「味わいの複雑さ」が4以上であると本件発明の課題を解決できたといえるところ、4以上を達成しているのは、ピログルタミン酸の含有量が100ppmである実施例のみであり、ピログルタミン酸の含有量が50ppmである実施例は評価が4に達していない。
そうすると、ピログルタミン酸の含有量が100ppmである場合は、本件発明の課題を解決できると認識できるが、ピログルタミン酸の含有量が100ppm以外の場合は、本件発明の課題を解決できると認識することができない。
したがって、本件発明は、課題を解決できると認識することができる範囲を超えるものである。

イ そこで、上記主張(i)、(ii)について検討する。
(ア)主張(i)についての検討
発明の詳細な説明には、ピログルタミン酸の含有量の上限について、上記(5)で述べたとおり、香味の調和がとれたビールテイスト飲料とする観点からは、好ましくは500質量ppm以下と記載されてはいるものの、香味の調和という観点からの好ましい範囲が記載されているだけで、本件発明の解決しようとする課題である、「良質な味わいの複雑さ、及び、爽快感のバランス」について、500質量ppm以下でないと解決することができないとの意味で記載されているものではない。
そして、発明の詳細な説明の全体の記載を検討しても、本件発明の解決しようとする課題を解決するためには、ピログルタミン酸の含有量に上限があることは記載されていない。
また、特許異議申立人が指摘する甲5の記載について検討しても、甲5の【0018】には、「旨み調味料としての目的を達成し得るものであれば特に限定されるものではないが、加工食品中のピログルタミン酸の濃度が0.0001重量%?5重量%・・・となるように添加することが好ましい。」と記載され、続く【0019】に「なお、加工食品中のピログルタミン酸塩の濃度が5重量%付近を超えるように本調味料を添加すると、加工食品中に味のあつみ、こく味とは異質な呈味が付与されるので好ましくない。」と記載されているから(後出摘記(5e))、より好ましい範囲は5重量%以下であるというだけで、目的を達成するためにピログルタミン酸の含有量に上限があることは記載されておらず、特許異議申立人が指摘する甲3の記載(摘記(3f))も、単に好ましい範囲を記載したに過ぎないと認められる。
さらに、旨味調味料を使いすぎた場合に、味わいが悪くなることは常識的に納得できるとの主張について検討しても、一般の旨味調味料について好ましい配合量があるとしても、本件発明において、ピログルタミン酸の含有量が多くなると、本件発明の解決しようとする課題を解決できると認識することができなくなるために含有量に上限があるということにはならないと認められる。
また、乙1には、発明の詳細な説明記載の実施例3又は5と、ピログルタミン酸の配合量のみを200?1000ppmに変えた実施例A?Fは、味わいの複雑さ及び爽快感に優れ、本件発明の解決しようとする課題を解決できることが示されている(摘記(乙1a)、(乙1b))。
以上によれば、発明の詳細な説明には、本件発明の解決しようとする課題を解決するためには、ピログルタミン酸の含有量に上限があることは記載されておらず、また、技術常識を考慮しても、好ましい含有量があるというだけで、本件発明の解決しようとする課題を解決するためには、ピログルタミン酸の含有量に上限があるといえる理由はなく、そして、乙1には、発明の詳細な説明記載の実施例よりもピログルタミン酸の含有量が多い場合であっても、本件発明の解決しようとする課題を解決できることが確認できる、発明の詳細な説明の記載(本件発明の課題の面からは上限を設けていない。)に沿う具体的実験結果も示されている。
したがって、本件発明の解決しようとする課題を解決するためには、ピログルタミン酸の含有量に上限があるということはできず、上記主張(i)は、採用することができない。

(イ)主張(ii)についての検討
特許異議申立人は、味わいの複雑さのスコア基準が4以上のときに、本件発明の解決しようとする課題を解決できると認識できると主張しているが、「4以上」というスコアと課題解決を結びつける根拠は示されておらず、「3:味わいの複雑さを感じる」であっても、上記課題を解決できると認識することができ、ピログルタミン酸の含有量が50ppmである実施例1、5も、味わいの複雑さのスコアは、それぞれ3.5と3.8であって上記課題を解決できるものであると認識できる。
したがって、ピログルタミン酸の含有量が100ppm以外の場合は、本件発明の解決しようとする課題を解決できると認識できないということはなく、上記主張(ii)は、採用することができない。

よって、特許異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。

(7)取消理由2(サポート要件)の小括
以上のとおり、本件発明の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、取消理由2によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立人の特許異議申立理由について
1.取消理由で採用しなかった特許異議申立人の特許異議申立理由
取消理由で採用しなかった特許異議申立人の特許異議申立理由の概略は、以下のとおりである。

(1)特許異議申立理由A(進歩性の欠如)
前記第4の2.の甲1?4の記載事項に加え、甲5には、ピログルタミン酸塩は旨味調味料として使用できることが記載され、甲6には、ピログルタミン酸は食品生産物の旨味感覚を増強することが記載され、甲7には、口腔内pHであるpH6.5では、ピログルタミン酸がピログルタミン酸塩を形成することで旨味を発現することが記載され、甲8には、ピログルタミン酸は市販のビールに普通に含まれるアミノ酸成分であると記載されていることを考慮すれば、甲1発明又は甲2発明において、ピログルタミン酸を添加することは、当業者が容易に行うことであり、本件発明は、甲1?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書第13頁第6行?第15頁第9行)。

(2)特許異議申立理由B(新規性及び進歩性の欠如)
甲8?10の記載によれば、ビールの原料に含まれるグルタミン又はグルタミン酸が、麦汁煮沸工程において加熱されて脱水縮合し、ピログルタミン酸が生成すること、そして、甲8には、代表的な日本産ビールのピログルタミン酸の含有量が128.4?309.9ppmであることが記載されているから、日本のビール製造業者による甲1発明又は甲2発明のビールのピログルタミン酸の含有量は128.4?309.9ppm、すなわち、35質量ppm以上であることが明らかであり、さらに甲9の図2(a)には、最終外観発酵度が90%になるまで発酵させたビールには、ピログルタミン酸が53?80ppm含まれることが記載されていることからみても、甲1発明又は甲2発明のピログルタミン酸の含有量は、53?80ppm、すなわち、35質量ppm以上であることが明らかであるから、本件発明は、甲1又は甲2に記載された発明であり、甲1、2、8?10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書第15頁第10行?第18頁第18行)。

(3)特許異議申立理由D(実施可能要件違反)
本件発明3は、ピログルタミン酸の含有量を調整する工程が特定されていないが、発明の詳細な説明には、ピログルタミン酸を配合すること以外に、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする手段が記載されていないから、ピログルタミン酸を配合することなく、本件発明3の製造方法を実施するためには、当業者に過度の試行錯誤が必要であり、発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載したものではない(特許異議申立書第20頁下から3行?第22頁第8行)。

2.甲5?甲10の記載事項
(1)甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。

(5a)「【請求項1】 ピログルタミン酸塩からなる旨み調味料。」(【請求項1】)

(5b)「【発明の属する技術分野】本発明は、食品にコク、味のあつみを与える調味料およびこの調味料を含む加工食品に関する。」(【0001】)

(5c)「【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の課題は、味のあつみ、こく味、塩なれ効果等が付随し、全体的に調和のとれたより一層優れた天然調味料、該調味料を用いた加工食品の調味方法および該調味料を含む加工食品を提供することを目的とする。」(【0008】)

(5d)「【課題を解決するための手段】発明者は前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、従来は酸味付与剤として知られていたピログルタミン酸を、水酸化ナトリウム等のアルカリ物質を作用させてピログルタミン酸ナトリウムにすることにより、味のあつみ、こく味、塩なれ効果を有する旨み調味料となることを見出し、本発明に到達した。更に、ピログルタミン酸に対して各種アルカリ物質、各種アミノ酸、各種酸塩基を作用させることにより容易に生成するピログルタミン酸塩が、味のあつみ、こく味、塩なれ効果を有することを見出し、これに基づいてピログルタミン酸塩からなる旨み調味料に関する本発明に到達した。」(【0009】)

(5e)「【0018】本発明の調味料は、加工食品を製造または調理する際に添加するか、製造または調理された加工食品に添加すればよい。なお、本発明の調味料の好適な添加量は、対象の加工食品が定まれば、事前の性能最適化試験により決定できるものである。従って、旨み調味料としての目的を達成し得るものであれば特に限定されるものではないが、加工食品中のピログルタミン酸の濃度が0.0001重量%?5重量%、好ましくは0.0005重量%?4%、特に好ましくは0.001重量%?3重量%となるように添加することが好ましい。・・・
【0019】なお、加工食品中のピログルタミン酸塩の濃度が5重量%付近を超えるように本調味料を添加すると、加工食品中に味のあつみ、こく味とは異質な呈味が付与されるため好ましくない。」(【0018】?【0019】)

(5f)「【0021】本発明の調味料を添加してなる加工食品は、本発明の加工食品の調味方法を用い、対象となる加工食品に本発明の調味料を添加することにより製造することができる。対象となる加工食品は特に限定されないが、例えばピザ、ペストリー、クッキー等のベーカリー、カレー、シチュー、コンソメスープ、麺つゆ、味噌、醤油、漁醤油、野菜スープ、肉スープ、漬物、ハンバーグ、コロッケ、餃子、春巻き、チャーハンの素、五目飯の素、ふりかけ、野菜、野菜の冷凍品等が挙げられる。」(【0021】)

(2)甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。
訳文にて示す。
(6a)「ピログルタミン酸を含むピログルタミン酸組成物は、局所的に適用された場合に、食品の旨味感覚を強化する。ピログルタミン酸は、塊茎物またはジャガイモなどの食品から誘導され得る。ピログルタミン酸は、L-ピログルタミン酸、D-ピログルタミン酸、またはそれらの混合物の形態であり得る。食品に対し、ピログルタミン酸を約300?約12,000ppmの量で局所的に添加することで、塩味および旨味の両方の知覚が同時に強化される。他の調味料も、ピログルタミン酸組成物の一部として食品に同時に適用することができる。別法として、別の工程でピログルタミン酸の添加とは別に追加の調味料を適用してもよい。」(表紙、要約、甲6部分訳)

(6b)「本発明は、強化された旨味感覚を有する食品生産物に関する。特に、本発明は、食品生産物にピログルタミン酸組成物を局所的に適用することに関する。」([0001]、甲6部分訳)

(6c)「1.局所的な量で添加されたピログルタミン酸組成物を含む、そのまま食べられる食品生産物であって、該ピログルタミン酸組成物はピログルタミン酸を含み、強化された旨味の風味を提供するものである、食品生産物。
・・・
5.食品は、スナック食品、スナック食品、ポテト、トルティーヤ、オート麦、トウモロコシ、コーンミール、小麦粉、米、および穀物のうちの1つまたは複数に実質的に基づいていることを特徴とする、請求項1に記載のそのまま食べられる食品生産物。」(特許請求の範囲、甲6部分訳)

(3)甲7
甲7には、以下の事項が記載されている。
訳文にて示す。
(7a)「3.3. 旨味化合物の官能分析
RFT-PC試料(チップ1部:水3部)のpH値は6.5であり、口腔のpHと同様であった(Aframian, Davidowitz, & Renoliel, 2005)。したがって、かかるpH条件下で塩ポテトチップスを咀嚼している間に、グルタミン酸(GA)及びピログルタミン酸(PGA)が、旨味を活性化する形態である、グルタミン酸塩(MSG)及びピログルタミン酸塩(MSpG)として存在する。」(第1225頁右欄下から22行?17行、甲7部分訳)

(4)甲8
甲8には、以下の事項が記載されている。

(8a)「以上のような見地より,著者らは,市販ビール17種類について有機酸組成を調べたので報告する.」(第10頁下から4行)

(8b)「

」(第12頁)

(5)甲9
甲9には、以下の事項が記載されている。
訳文にて示す。
(9a)「結果及び考察
16種類の市販のビールの分析(表I)によって、酢酸、・・・、ピログルタミン酸(ピロリドンカルボン酸)、・・・は常に存在し、α-ケトグルタル酸は2種類を除く全ビールに検出された。」(第474頁左欄下から3行?右欄第4行、甲9部分訳)

(9b)「

」(第476頁図2、甲9部分訳)

(6)甲10
甲10には、以下の事項が記載されている。

(10a)「2)ピログルタミン酸は麦汁煮沸工程中にグルタミンが脱水縮合することにより生成し、その生成量は煮沸温度に依存していた。この結果よりピログルタミン酸の生成過程を追跡することによって麦汁煮沸状況の評価が行えると考えられた。」(第26頁下から10行?8行)

3.判断
(1)特許異議申立理由A(進歩性の欠如)について
特許異議申立人が指摘する甲5には、ピログルタミン酸塩が食品にコクや味のあつみを与える旨味調味料として使用できることが記載されているが(摘記(5a)?(5d))、対象となる食品として例示されているのは、「ピザ、ペストリー、クッキー等のベーカリー、カレー、シチュー、コンソメスープ、麺つゆ、味噌、醤油、漁醤油、野菜スープ、肉スープ、漬物、ハンバーグ、コロッケ、餃子、春巻き、チャーハンの素、五目飯の素、ふりかけ、野菜、野菜の冷凍品等」であって(摘記(5f))、これらの食品に求められるコクや味のあつみとビールテイスト飲料に求められるコクや味のあつみは対象が大きく異なる以上同じとはいえないから、甲5の記載に基づいて、甲1発明又は甲2発明のビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲6には、ピログルタミン酸は食品生産物の旨味感覚を増強することが記載され(摘記(6a)?(6c))、甲7には、口腔内pHであるpH6.5では、ピログルタミン酸がピログルタミン酸塩を形成することで旨味を発現することが記載されていても(摘記(7a))、甲6において、対象となる食品として例示されているのは、「スナック食品、スナック食品、ポテト、トルティーヤ、オート麦、トウモロコシ、コーンミール、小麦粉、米、および穀物」であり(摘記(6c))、これらの食品に求められる旨味とビールテイスト飲料に求められる旨味は対象が大きく異なる以上同じとはいえないから、甲6、7の記載に基づいて、甲1発明又は甲2発明のビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲8に、ピログルタミン酸は市販のビールに普通に含まれるアミノ酸成分であると記載されていても(摘記(8a)?(8b))、普通に含まれる成分であるというだけで、その含有量を調整する具体的な必要性は記載されていないから、甲8の記載に基づいて、甲1発明又は甲2発明のビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるとはいえない。
そして、甲3及び甲4の記載からは、甲1発明又は甲2発明のビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする動機付けがあるとはいえないことは、前記第4の3.で述べたとおりである。
したがって、甲3?8の記載を検討しても、甲1発明又は甲2発明において、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とすることは、当業者が容易に行うこととはいえないから、本件発明は、甲1?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、この理由により、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

(2)特許異議申立理由B(新規性及び進歩性の欠如)について
特許異議申立人が指摘する甲8には、市販ビール17種類について有機酸組成を調べたこと(摘記(8a))、その結果、日本産のビールである10種類は、ピログルタミン酸の含有量が128.4?309.9ppmであったことが記載され(摘記(8b))、甲9には、市販の16種類のビールを分析した結果、ピログルタミン酸が常に存在し(摘記(9a))、図2(a)には、●で示されるピログルタミンの含有量が35質量ppm以上であることが記載されているが(摘記(9b))、これらの記載からは、甲8又は甲9で測定したビールについて、そのピログルタミン酸含有量が35質量ppm以上であったことは理解できても、日本産のビールであれば常にピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上であるとまでは理解できないから、甲1発明又は甲2発明のビールのピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上であるとは必ずしもいえないと認められる。また、甲10には、ビール中のピログルタミン酸はグルタミン酸が脱水縮合することで生成することが記載されているだけであるから(摘記(10a))、これら甲8?10の記載から、甲1発明又は甲2発明のビールのピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上であるということはできない。
したがって、甲8?10の記載を検討しても、本件発明は、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1、2、8?10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、この理由により、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

(3)特許異議申立理由D(実施可能要件違反)について
本件発明3は、ピログルタミン酸の含有量が35質量ppm以上であるビールテイスト飲料の製造方法であるところ、発明の詳細な説明には、ピログルタミン酸の含有量を調整する方法としては、ピログルタミン酸を直接配合する方法でもよいが、ピログルタミン酸を抽出し得る原材料を用いることで行ってもよく、ピログルタミン酸の含有量が多すぎる場合には、水を添加して調整してもよいと記載され(【0037】)、実施例では、目的の含有量となるようにピログルタミン酸を添加することで試験用飲料を製造したことが記載されている(【0049】)。
特許異議申立人は、発明の詳細な説明には、ピログルタミン酸を配合すること以外に、ピログルタミン酸の含有量を35質量ppm以上とする手段が記載されていないから、ピログルタミン酸を配合することなく、本件発明3の製造方法を実施するためには、当業者に過度の試行錯誤が必要であると主張しているが、上記のとおり、発明の詳細な説明には、ピログルタミン酸を直接配合する以外の方法も記載されており、当業者であれば、上記記載を参考に、過度の試行錯誤を必要とすることなく、本件発明3を実施することができるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明3を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載したものであり、この理由により、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

4.小括
以上のとおり、取消理由で採用しなかった特許異議申立人の特許異議申立理由によっても、本件特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-02-26 
出願番号 特願2019-102784(P2019-102784)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
P 1 651・ 536- Y (C12G)
P 1 651・ 537- Y (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斉藤 貴子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 井上 千弥子
冨永 みどり
登録日 2020-03-10 
登録番号 特許第6674577号(P6674577)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 ビールテイスト飲料  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 小林 浩  
代理人 古橋 伸茂  
代理人 石原 俊秀  
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