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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1371733
異議申立番号 異議2020-700970  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-10 
確定日 2021-03-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6706887号発明「高強度2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物およびウレタン防水工法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6706887号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6706887号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年8月28日に特願2015-169261号として出願され、令和2年5月21日にその請求項1?7に係る特許権の設定登録がなされ、同年6月10日に特許掲載公報が発行され、その請求項1?7に係る特許に対し、令和2年12月10日に特許異議申立人である笹井栄治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、本件特許の請求項1?7に係る発明を「本1発明」?「本7発明」と略記する場合がある。)。
「【請求項1】
ポリイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤と、反応成分としての芳香族ポリアミン、可塑剤および無機充填剤を含む硬化剤とからなる2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物であって、
a)主剤のポリイソシアナートがイソホロンジイソシアナートを含み、ポリイソシアナートの70当量%超がイソホロンジイソシアナートであり、主剤のポリオールがポリオキシアルキレンポリオールを含み、主剤のポリオールが分子量1500以上のジオールを10?97当量%および分子量1500未満のジオールまたは官能基数3以上のポリオールを3?90当量%(主剤のポリオールが分子量1500未満のジオールおよび官能基数3以上のポリオールを含む場合には、分子量1500未満のジオールと官能基数3以上のポリオールを合わせて3?90当量%)含み、イソシアナート基末端プレポリマーのNCO含有量が3.0質量%超、6.0質量%以下であり、
b)硬化剤は、全反応成分中の90当量%超が芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンがジエチルトルエンジアミンを含み、無機充填剤を20?80質量%含み、
c)可塑剤が、主剤中のプレポリマー100質量部に対し16?60質量部となるよう、硬化剤に、または主剤と硬化剤の両方に分けて、配合され、
主剤のイソシアナート基と硬化剤中の反応成分である芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比(イソシアナート基/芳香族アミノ基)が0.92?1.24である、2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物。
【請求項2】
主剤、硬化剤または主剤と硬化剤との混合物中に、反応促進剤として、有機第2錫化合物、カルボン酸金属塩、カルボン酸、酸無水物および3級アミンからなる群から選択された少なくとも1種が配合された、請求項1に記載の2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物。
【請求項3】
主剤、硬化剤または主剤と硬化剤との混合物中に、有機第2錫化合物あるいはイミダゾール化合物が配合された、請求項1または2に記載の2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物。
【請求項4】
主剤のポリオールの50当量%超がポリオキシアルキレンポリオールである、請求項1?3のいずれか1項に記載の2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物。
【請求項5】
芳香族ポリアミンの70当量%超がジエチルトルエンジアミンである、請求項1?4のいずれか1項に記載の2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物。
【請求項6】
被着体に対し、プライマー層を施した後、またはプライマー層とウレタン防水材層を施した後に、請求項1?5のいずれか1項に記載の2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物を塗布する工程を含む、ウレタン防水工法。
【請求項7】
被着体に対し、通気緩衝シート、高分子シート、防根シートまたは高分子塗膜材を施したのちに、請求項1?5のいずれか1項に記載の2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物を塗布する工程を含む、ウレタン防水工法。」

第3 特許異議申立理由の概要
本件特許発明1?7に対して、申立人が申し立てた申立理由の概要は、次のとおりである。
「本件特許発明1?7は、その特許出願日前に出願公開された、甲第1号証(特開平10-17819号公報)に記載された発明及び甲第2号証(特開平9-183942号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明である。
よって、請求項1?7に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号により取消されるべきものである。」

第4 当審の判断
1.甲第1?2号証の記載事項
(1)甲第1号証には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】ポリイソシアネートを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンおよび可塑剤を含有する硬化剤とを、常温で混合、塗工して硬化せしめるポリウレタン塗膜材の製造方法において、
a.ポリイソシアネートとして1-イソシアネート-3,3,5-トリメチル-5-イソシアネートメチルシクロヘキサンとポリエステルポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを使用し、
b.芳香族ポリアミンの主成分としてジエチルトルエンジアミンを使用し、
c.可塑剤をイソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し5?100重量部使用し、
d.主剤と硬化剤とを、主剤のイソシアネート基と硬化剤中の芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合、塗工して硬化せしめることを特徴とする常温硬化型ポリウレタン塗膜材の製造方法。」

摘記1b:段落0001及び0005
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、常温で塗工し、硬化せしめるポリウレタン塗膜材(塗り床材、防水材)の製造方法に関し、更に詳しくは、トップコートを塗布する必要のない程度にまで耐候性の改善されたポリウレタン塗り床材、防水材の製造方法に関する。…
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらこれらの方法はいずれも主剤中のイソシアネート成分としてTDIという芳香族イソシアネートを使用し、かつプレポリマーのポリオール成分としてポリプロピレンエーテルポリオールを使用しているので硬化塗膜が屋外暴露されると日光により変褪色し、長期の耐候性に劣るために、この塗膜の上にアクリルウレタン塗料などのトップコートを塗布しこれを保護することが必要不可欠とされている。トップコートは4?5年毎に塗り替えが行われるが、この手間もさることながら、アクリルウレタン塗料は多量の溶剤を含んでいるので環境への悪影響が懸念されている。無溶剤トップコートの試みが種々行われてはいるが性能的に未だ充分といえるものが開発されていない
そこで本発明は、トップコートの必要がない程度にまで耐候性を改善し、生理的に安全でかつ環境を汚染するおそれのない常温硬化型ポリウレタン塗膜材の製造方法を提供しようとするものである。」

摘記1c:段落0008?0009
「【0008】本発明の方法において主剤の主成分となるイソシアネート末端プレポリマーは、1-イソシアネート-3,3,5-トリメチル-5-イソシアネートメチルシクロヘキサンとポリエステルポリオールとの反応によって生成される。1-イソシアネート-3,3,5-トリメチル-5-イソシアネートメチルシクロヘキサンは、通常イソホロンジイソシアネートとも呼ばれ、IPDIと略称される。脂環族の骨格をもち、しかも2つのNCO基のうち片方が2級であるのでTDIの如き芳香族骨格をもつイソシアネートより反応が遅いので必要とされる可使時間がとり易くなり、かつプレポリマーのもう一方の原料としてポリエステルポリオールを使用することとあいまって耐候性にすぐれた硬化塗膜が得られるのである。
【0009】プレポリマーのもう一方の原料であるポリエステルポリオールとしては、グリコール類とジカルボン酸との縮合により得られるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールまたはβ-メチル-δ-バレロラクトンの重合体ポリオールなどが使用できる。これらの中で、常温液状のポリカプロラクトンポリオール、β-メチル-δ-バレロラクトンの重合体ポリオールまたはネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオールなどの炭素数が5以上の脂肪族グリコールとアジピン酸などのジカルボン酸との縮合によって得られる平均分子量500?4000のポリエステルポリオールが、粘度、低温での非結晶性、耐加水分解性などの点で特に好ましい。IPDIのプレポリマー用原料ポリオールとしては、ポリプロピレンエーテルポリオールなどのいわゆるPPGを使用することも行われてはいるが、硬化剤と組合せたとき硬化塗膜は、屋外暴露でチョーキングし易く、耐候性に劣るものとなるのでトップコートを必要としない程度までに優れた耐候性を与えるためには、本発明のポリエステルポリオールが必須となるのである。」

摘記1d:段落0018?0019
「【0018】実施例1
2リットルのガラスコルベンに、244.1gのIPDI、49.1gのクラポールP-510、608.5gのクラポールP-2010および98.3gのクラポールF-1010を仕込み(NCO/OH当量比2)、撹拌しながら徐々に加温して80?100℃で4.5時間保ち反応を完結させ、NCO含有率4.6重量%のイソシアネート末端プレポリマー(主剤)1000gを調製した。これとは別に、2リットルの円筒型開放容器に89gのDETDA、311gのDOPおよび600gの炭酸カルシウムを仕込み、室温でデイゾルバーを用いて15分間撹拌し、1000gの硬化剤を調製した。上記で調製した主剤と硬化剤とを20℃の雰囲気に2時間以上静置した後、この温度でなるべく気泡を巻き込まないように両成分を撹拌混合(主剤/硬化剤重量比1/1、NCO基/NH_(2)基当量比1.1)し、混合液の一部で可使時間をチェックしながら、プライマー処理したスレート板にコテまたはヘラを用いて厚さ1?2mmになるように手塗り塗布した(タックフリータイム測定)。この混合液の別の一部をガラス板上に厚さ1?2mmになるように流延し、このまま20℃の雰囲気で7日硬化させた塗膜を物性(基礎物性と耐候性)測定用の試験片とした。
【0019】その結果は、表1に示したように20℃における可使時間は40分と充分に長く、余裕をもっての塗工が可能で、20時間以内にタックフリーとなり硬化性も良好で、発泡もなく平滑で美麗な表面仕上り性を示した。7日硬化後の塗膜物性は防水材のJIS規格を満足する良好な性能を示した。促進耐候性試験の結果も良好で、変色やチョーキングが認められず、トップコート塗布の必要がない程度に耐候性が優れていることが示された。」

摘記1e:段落0026及び0028
【0026】
【表1】


【0028】表1および表2中の主剤および硬化剤中の記号ならびに試験項目はそれぞれ下記の通りである。
(主剤)
IPDI:イソホロンジイソシアネート(ヒュルス社製)
P-510:3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルジオール分子量500(商品名クラポール、クラレ(株)社製)
P-2010:3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルジオール分子量2000(商品名クラポール、クラレ(株)社製)
P-3010:3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルジオール分子量3000(商品名クラポール、クラレ(株)社製)
F-1010:3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルトリオール分子量1000(商品名クラポール、クラレ(株)社製)
305:ε-カプロラクトン系トリオール分子量550(商品名プラクセル、ダイセル(株)社製)
212AL:ε-カプロラクトン系ジオール分子量1250(商品名プラクセル、ダイセル(株)社製)
220AL:ε-カプロラクトン系ジオール分子量2000(商品名プラクセル、ダイセル(株)社製)
(硬化剤)
DETDA:ジエチルトルエンジアミン(商品名エタキュア100、エチルコーポレーション社製)
DOP:フタル酸ジオクチル(可塑剤、大八化学工業所製)
炭酸カルシウム:無機充填剤(丸尾カルシウム社製)
(混合)
NCO/NH_(2)当量比:主剤のイソシアネート末端プレポリマー中のNCO基と硬化剤中のDETDAのNH_(2)基との当量比
(硬化)
可使時間:主剤と硬化剤とを混合した後、支障なく塗工できる限度の時間(分)(混合液の粘度が10万センチポイズに達するまでの時間)
タックフリータイム:塗膜表面にベトつきがなくなるまでの時間
(塗膜物性)
基礎物性:塗工後、20℃で7日経過後にJISA-1062に準じて行った硬化塗膜の物性試験結果
耐候性:20℃7日経過後の硬化塗膜を、サンシャインウエザーメーターに500時間暴露し、表面の変色の有無を観察」

(2)甲第2号証には、次の記載がある。
摘記2a:請求項
「【請求項1】 イソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、ジエチルトルエンジアミンを主成分とする芳香族ポリアミン架橋剤および可塑剤を含有する硬化剤とを、混合して、塗工、硬化せしめる常温硬化型ポリウレタン塗膜材において、
a)、イソシアネート末端プレポリマーとして、トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるプレポリマーと、イソホロンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるプレポリマーとの混合物を使用し、
b)、混合割合は該プレポリマーの、それぞれの末端イソシアネート基に基づくモル比が70/30?30/70の割合とし、
c)、主剤と硬化剤とを、主剤中のイソシアネート基と硬化剤中のアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合、塗工し硬化せしめることを特徴とする、可使時間を保持した速硬化性常温硬化型ポリウレタン塗膜材。」

摘記2b:段落0001?0002、0004及び0006
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、常温で硬化するポリウレタン塗膜材(防水材、塗り床材)に関し、更に詳しくは、特に手塗り塗工に適した可使時間(塗工可能時間)を保持した速硬化性常温硬化型ポリウレタン塗膜材に関するものである。
【0002】【従来の技術】ポリウレタン塗り床材、防水材は従来からビルディングの屋上、ベランダ、廊下などの防水、スポーツ施設の弾性舗装などの用途に大量に使用されている。かような塗り床材、防水材の製造方法は、ポリオキシプロピレンポリオールなどのポリオールとトリレンジイソシアネート[以下TDIと略記する]との反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主剤とし、4,4′-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)[以下“MOCA”と略記する]およびポリオキシプロピレンポリオールをイソシアネート反応成分としてこれに有機金属鉛などの触媒や必要に応じて可塑剤を配合して硬化剤とし、上記の主剤と硬化剤の2液を施工現場で混合した後、コテ、ヘラ、またはレーキ等を用いて手塗り塗工して硬化せしめるものである。…
【0004】一方高反応性のジエチルトルエンジアミン(以下DETDAと略記する)を芳香族ポリアミン架橋剤の主成分として含有する硬化剤と、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート系のイソシアネート成分を含有する主剤とからなる高反応性2液型ウレタン材料を、高圧衝突混合機により瞬間的に混合しスプレー塗工し、速硬化させるウレタン塗り床材、防水材が普及して来ている。…
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、指定化学物質であるMOCAに代る安全性の高い芳香族ポリアミンが使用でき、夏場の特に複雑な作業を伴う施工においても可使時間が充分に確保でき、冬期においても硬化性が良好で、年間を通して安定な施工ができる速硬化性常温硬化型ポリウレタン塗膜材(防水材、塗り床材)の開発を目的としてなされたものである。」

摘記2c:段落0008
「【0008】…本発明において使用するもう一方のプレポリマーは、イソホロンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーである。イソホロンジイソシアネートは、1-イソシアネート-3,3,5-トリメチル-5-イソシアネートメチルシクロヘキサンの構造をもち、IPDIと略称される。脂環族の骨格をもち、2つのNCO基のうち片方が2級であるのでTDIの如き通常の芳香族骨格をもつイソシアネートより反応性が遅い。本発明においては、DETDAという高反応性の芳香族ポリアミンを架橋剤の主成分として使用することと相俟って主剤としてTDIプレポリマーを使用する場合には困難であった夏場または複雑な作業を伴う施工が、このIPDIプレポリマーを混用することにより可能となるのである。すなわち本発明では、TDIプレポリマーとIPDIプレポリマーとは、それぞれの末端イソシアネート基に基づくモル比が70/30?30/70の割合で混合して使用される。TDIプレポリマーを70モル%以上使用すると夏場においてまたは複雑な作業を伴う施工において所望の可使時間が得られず、30モル%以下では硬化性が遅くなり冬場の速硬化性が達成できず、また硬化塗膜材が所望の物性を確保し難くなる。」

摘記2d:段落0013?0014及び0017
「【0013】本発明で使用される可塑剤は、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル、アジピン酸ジオクチル、塩素化パラフィン、トリス-β-クロロプロピルホスフェート等の、主剤中のイソシアネート末端プレポリマーのNCO基と反応性のない通常の可塑剤が使用できる。
【0014】硬化剤中の可塑剤の使用量は、イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対して20?130重量部の範囲にあることが望ましい。20重量部以下では所望の可使時間が保持し難く、130重量部を越えると塗膜の表面に可塑剤がブリードする傾向が激しくなり、また硬化塗膜が所望の強度を保てなくなる。…
【0017】本発明で使用する硬化剤には、必要に応じて炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、ケイソウ土などの無機充填材、酸化クロム、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタンなどの顔料、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系などの安定剤を添加することができる。」

摘記2e:段落0021?0024
「【0021】実施例1
2リットルのガラスコルベンに、148.2gの2,4-TDIを仕込み、681.4gのアクトコールP2020(分子量2000のポリオキシプロピレンジオール、武田薬品工業社製)と、170.4gのアクトコールP-3030(分子量3000のポリオキシプロピレントリオール、武田薬品工業社製)を徐々に加え、80℃に加熱し撹拌しながら90?100℃に昇温し、この温度で5時間保ち反応を完結させ、NCO含有率3.5重量%のNCO末端TDIプレポリマー(主剤1)1000gを調製した。
【0022】別の4リットルのガラスコンベンに549.6gのIPDI(ダイセルヒユルス社製)、1960.2gのアクトコールP2020、および490.2gのアクトコールP-3030を仕込み、撹拌しながら0.02gのジブチル錫ジラウレートを加え、徐々に加温して80?100℃に昇温し、この温度で4時間保ち反応を完結させ、NCO含有率3.5重量%のNCO末端IPDIプレポリマー(主剤2)3000gを調製した。
【0023】これとは別に20リットルの円筒型開放容器に310gのエタキユア100(DETDA)、3690gのフタル酸ジオクチル(大八化学工業所社製)および6000gの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を仕込み、室温でディゾルバーにて15分間攪拌して10kgの硬化剤を調製した。
【0024】前記の調製したNCO末端プレポリマーのうち720gのTDIプレポリマー(主剤1)と480gのIPDIプレポリマー(主剤2)とを混合(TDIプレポリマーとIPDIプレポリマーとのモル比60/40)し、混合主剤1200gを作製した。これを3つに分け、それぞれを10℃、20℃および35℃の雰囲気に2時間以上放置した。一方上記の調製した硬化剤のうち2400gを取り分け、これを主剤と同様に3分してそれぞれを10℃(冬場を想定)、20℃および35℃(夏場を想定)の雰囲気に2時間以上放置した。その後これら混合主剤400gと硬化剤800gとをそれぞれの雰囲気で混合(主剤中のNCO基と硬化剤中のNH_(2)基との当量比1.2)し、20℃、35℃では粘度測定により可使時間(10万センチポイズに達するまでの時間を分で示す)をチェックし、20℃で混合したものの1部を直ちにガラス板上に厚さ1?2mmになるように流延し、この温度で7日間放置して硬化させ、物性測定(JIS A-6021に準ずる)用に供した。10℃で混合したものをプライマー処理したスレート板上に厚さ1?2mmとなるように流延し、この温度で静置し、経時を追って指触によりタックフリー時間(指先にベトつきが感ぜられなくなるまでの時間)を測定した。」

摘記2f:段落0030?0031
「【0030】比較例2
NCO末端プレポリマーとしてTDIプレポリマー(主剤1)を使用せず、IPDIプレポリマー(主剤2)のみを主剤として使用した例である。実施例1で調製した主剤2をそのまま使用した。硬化剤も実施例1のものをそのまま使用した。実施例1と同様に主剤2と硬化剤とを重量比1/2(NCO基/NH_(2)基当量比1.2)で混合し、同様にテストした。
【0031】その結果、20℃、35℃での可使時間はそれぞれ90分、45分であり、実施例1および比較例1よりかなり延長した。しかしながら、10℃におけるタックフリー時間は24時間で、冬場の硬化性にやや不安があり、かつ7日硬化後の塗膜物性は引張り強度22kgf/cm^(2)、引裂き強さ13kgf/cmであり、防水材としては不満足な性能であることが示された。」

2.甲第1?2号証に記載された発明
(1)甲1に記載された発明(甲1発明)
請求項1のポリウレタン塗膜材(塗り床材、防水材)の具体例である実施例1(摘記1d【0018】)の「混合液」に着目すると、甲1には、
「2リットルのガラスコルベンに、244.1gのIPDI(イソホロンジイソシアネート)、49.1gのクラポールP-510(3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルジオール分子量500)、608.5gのクラポールP-2010(3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルジオール分子量2000)および98.3gのクラポールF-1010(3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルトリオール分子量1000)を仕込み(NCO/OH当量比2)、撹拌しながら徐々に加温して80?100℃で4.5時間保ち反応を完結させ、NCO含有率4.6重量%のイソシアネート末端プレポリマー(主剤)1000gを調製し、
これとは別に、2リットルの円筒型開放容器に89gのDETDA(ジエチルトルエンジアミン)、311gのDOP(フタル酸ジオクチル、可塑剤)および600gの炭酸カルシウム(無機充填剤)を仕込み、室温でデイゾルバーを用いて15分間撹拌し、1000gの硬化剤を調製し、
上記で調製した主剤と硬化剤とを20℃の雰囲気に2時間以上静置した後、この温度でなるべく気泡を巻き込まないように両成分を撹拌混合(主剤/硬化剤重量比1/1、NCO基/NH_(2)基当量比1.1)して得られた混合液である、手塗り塗布するポリウレタン塗膜材(塗り床材、防水材)」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲2に記載された発明(比2発明)
甲第2号証の比較例2(摘記2f)の主剤2 400gと硬化剤800gとをそれぞれの雰囲気で混合したものに着目すると、甲2には、
「4リットルのガラスコンベンに549.6gのIPDI(イソホロンジイソシアネート、ダイセルヒユルス社製)、1960.2gのアクトコールP2020(分子量2000のポリオキシプロピレンジオール、武田薬品工業社製)、および490.2gのアクトコールP-3030(分子量3000のポリオキシプロピレントリオール、武田薬品工業社製)を仕込み、撹拌しながら0.02gのジブチル錫ジラウレートを加え、徐々に加温して80?100℃に昇温し、この温度で4時間保ち反応を完結させ、NCO含有率3.5重量%のNCO末端IPDIプレポリマー(主剤2)3000gを調製し、
これとは別に20リットルの円筒型開放容器に310gのエタキユア100(ジエチルトルエンジアミン、DETDA)、3690gのフタル酸ジオクチル(大八化学工業所社製)および6000gの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を仕込み、室温でディゾルバーにて15分間攪拌して10kgの硬化剤を調製し、
主剤2 400gと硬化剤800gとをそれぞれの雰囲気で混合(主剤中のNCO基と硬化剤中のNH_(2)基との当量比1.2)した、手塗り塗布するポリウレタン塗膜材(塗り床材、防水材)」(以下、「比2発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比・判断
(1)甲1発明を主引用発明とした場合
ア.対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「IPDI(イソホロンジイソシアネート)」は、本1発明の「ポリイソシアネート」に相当し、甲1発明の「クラポールP-510(3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルジオール分子量500)」、「クラポールP-2010(3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルジオール分子量2000)」及び「クラポールF-1010(3-メチル-1,5-ペンタンジオール系ポリエステルトリオール分子量1000)」は、本1発明の「ポリオール」に相当する。
そして、甲1発明の「イソシアネート末端プレポリマー(主剤)」は、本1発明の「ポリイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤」に相当する。
(イ)甲1発明の「DETDA(ジエチルトルエンジアミン)」、「DOP(フタル酸ジオクチル、可塑剤)」及び「炭酸カルシウム(無機充填剤)」は、本1発明の「反応成分としての芳香族ポリアミン」、「可塑剤」及び「無機充填剤」にそれぞれ相当する。
そして、甲1発明の「硬化剤」は、本1発明の「反応成分としての芳香族ポリアミン、可塑剤および無機充填剤を含む硬化剤」に相当する。
(ウ)甲1発明の「イソシアネート末端プレポリマー(主剤)」と「硬化剤」は混合されて用いられることから、甲1発明の「手塗り塗布するポリウレタン塗膜材(塗り床材、防水材)」は、本1発明の「2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物」に相当する。
(エ)甲1発明の「イソシアネート末端プレポリマー(主剤)」において、甲1発明の「IPDI(イソホロンジイソシアネート)」は、ポリイソシアネートとしてIPDIのみを使用されていることから、本1発明の「a)主剤のポリイソシアナートがイソホロンジイソシアナートを含み、ポリイソシアナートの70当量%超がイソホロンジイソシアナートであり」に相当する。
(オ)甲1発明の「NCO含有率4.6重量%のイソシアネート末端プレポリマー(主剤)」のNCO含有率の範囲は、本1発明のイソシアナート基末端プレポリマーのNCO含有量の範囲に含まれる。
(カ)甲1発明の「硬化剤」に含まれる「DETDA(ジエチルトルエンジアミン)」は、反応成分として機能するものが「芳香族ポリアミン」である「DETDA(ジエチルトルエンジアミン)」のみであるから、本1発明の「b)硬化剤は、全反応成分中の90当量%超が芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンがジエチルトルエンジアミンを含み」に相当する。
(キ)甲1発明の「硬化剤」に含まれる「311gのDOP(フタル酸ジオクチル、可塑剤)および600gの炭酸カルシウム(無機充填剤)」は、本1発明の「b)硬化剤は」、「無機充填剤を20?80質量%含み」及び「c)可塑剤が、主剤中のプレポリマー100質量部に対し16?60質量部となるよう、硬化剤に、または主剤と硬化剤の両方に分けて、配合され」る構成に相当する。
(ク)してみると、本1発明と甲1発明は『ポリイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤と、反応成分としての芳香族ポリアミン、可塑剤および無機充填剤を含む硬化剤とからなる2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物であって、
a)主剤のポリイソシアナートがイソホロンジイソシアナートを含み、ポリイソシアナートの70当量%超がイソホロンジイソシアナートであり、イソシアナート基末端プレポリマーのNCO含有量が3.0質量%超、6.0質量%以下であり、
b)硬化剤は、全反応成分中の90当量%超が芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンがジエチルトルエンジアミンを含み、無機充填剤を20?80質量%含み、
c)可塑剤が、主剤中のプレポリマー100質量部に対し16?60質量部となるよう、硬化剤に、または主剤と硬化剤の両方に分けて、配合された、
2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物。』という点において一致し、次の(α1)?(γ1)の点で相違する。
(α1)主剤のポリオールが、本1発明は「ポリオキシアルキレンポリオールを含」むのに対して、甲1発明は「ポリエステルポリオール」のみからなり、ポリオキシアルキレンポリオールを含むものではない点。
(β1)主剤のポリオールが、本1発明は、「分子量1500以上のジオールを10?97当量%および分子量1500未満のジオールまたは官能基数3以上のポリオールを3?90当量%(主剤のポリオールが分子量1500未満のジオールおよび官能基数3以上のポリオールを含む場合には、分子量1500未満のジオールと官能基数3以上のポリオールを合わせて3?90当量%)含」むことが規定されているのに対し、甲1発明はこのようなことは、規定されていない点。
(γ1)本1発明は、主剤のイソシアナート基と硬化剤中の反応成分である芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比(イソシアナート基/芳香族アミノ基)が0.92?1.24であるのに対し、甲1発明はこのようなことは、規定されていない点。

イ.判断
事案に鑑み、上記(α1)について検討する。
甲1の段落0005(摘記1b)の「本発明は、トップコートの必要がない程度にまで耐候性を改善し、生理的に安全でかつ環境を汚染するおそれのない常温硬化型ポリウレタン塗膜材の製造方法を提供しようとするものである。」との記載にあるように、甲1発明は「トップコートの必要がない程度にまで耐候性を改善」することを課題とした発明と解することができる。
そして、同段落0005(摘記1b)の「プレポリマーのポリオール成分としてポリプロピレンエーテルポリオールを使用しているので硬化塗膜が屋外暴露されると日光により変褪色し、長期の耐候性に劣る」との記載、及び同段落0009(摘記1c)の「IPDIのプレポリマー用原料ポリオールとしては、ポリプロピレンエーテルポリオールなどのいわゆるPPGを使用することも行われてはいるが、硬化剤と組合せたとき硬化塗膜は、屋外暴露でチョーキングし易く、耐候性に劣るものとなるのでトップコートを必要としない程度までに優れた耐候性を与えるためには、本発明のポリエステルポリオールが必須となるのである。」との記載にあるように、甲1には、その「トップコートの必要がない程度にまで耐候性を改善」するという課題に照らして、プレポリマーのポリオール成分として「ポリプロピレンエーテルポリオール」のようなポリオキシアルキレンポリオールの使用が望ましくないものとして記載されている。
してみると、当業者は、甲1の記載に基づき、甲1発明の「ポリオール」成分として、ポリプロピレンエーテルポリオールなどの「ポリオキシアルキレンポリール」を使用しないことを動機付けられるのであって、あえて、甲1において望ましくないとされているポリプロピレンエーテルポリオールなどの「ポリオキシアルキレンポリール」を使用することを動機付けられるとはいえない。
そして、本1発明は、上記(α1)に係る発明特定事項を有することで、低粘度であり年間を通して施工性に優れ、高強度形に必要とされる耐加水分解性、耐候性、耐熱性といった耐久性にも優れ、コンクリート系下地に必要とされるクラック追従性をも有するという格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、実施例において確認されている。

この点に関して、申立人は、特許異議申立書の第23頁において『本件特許発明1は、甲第1号証の請求項1、2及び実施例1、2から把握される甲1発明に対して、上記「D3.」の構成を唯一の相違点とすることができるものの、上記「D3.」の構成は、甲第1号証の従来技術に説明されている構成である。
甲第1号証の段落【0002】、【0005】、【0009】の記載を考慮して、甲1発明で用いられるポリエステルポリオールを、従来用いられているポリオキシアルキレンポリオールに戻して、本件特許発明1とすることは、本願出願時の当業者が容易になし得ることである。』と主張する。
しかしながら、甲第1号証に記載の発明は、プレポリマーのポリオール成分として「ポリプロピレンエーテルポリオール」のようなポリオキシアルキレンポリオールの使用が望ましくないものとしているものであるから、甲第1号証の従来技術の欄や甲第2号証に、プレポリマーのポリオール成分として「ポリプロピレンエーテルポリオール」のようなポリオキシアルキレンポリオールの使用が記載されていたとしても、甲1発明のポリオール成分としてポリオキシアルキレンポリオールを採用することには阻害事由があるというべきであって、上記主張は採用できない。また、甲1の実施例2を主たる引用発明としても、ポリオキシアルキレンポリオールが含まれていない以上、結論は左右されない。

以上総括するに、上記(α1)に係る本1発明の発明特定事項を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められないから、甲1発明及び本件特許の出願当時の技術常識をどのように組み合わせたとしても、本1発明を当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、申立人の証拠方法によっては、本1発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

(2)比2発明を主引用発明とした場合
ア.対比
本1発明と比2発明とを対比する。
(ア)比2発明の「IPDI(イソホロンジイソシアネート、ダイセルヒユルス社製)」は、本1発明の「ポリイソシアネート」に相当し、比2発明の「アクトコールP2020(分子量2000のポリオキシプロピレンジオール、武田薬品工業社製)」及び「アクトコールP-3030(分子量3000のポリオキシプロピレントリオール、武田薬品工業社製)」は、本1発明の「ポリオール」及び「ポリオキシアルキレンポリオール」に相当する。そして、比2発明の「NCO末端IPDIプレポリマー(主剤2)」は、本1発明の「ポリイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤」に相当する。
(イ)比2発明の「エタキユア100(ジエチルトルエンジアミン、DETDA)」、「フタル酸ジオクチル(大八化学工業所社製)」及び「炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)」は、本1発明の「反応成分としての芳香族ポリアミン」、「可塑剤」及び「無機充填剤」にそれぞれ相当する。
そして、比2発明の「硬化剤」は、本1発明の「反応成分としての芳香族ポリアミン、可塑剤および無機充填剤を含む硬化剤」に相当する。
(ウ)比2発明の「NCO末端IPDIプレポリマー(主剤2)」と「硬化剤」は混合されて用いられることから、比2発明の「手塗り塗布するポリウレタン塗膜材(塗り床材、防水材)」は、本1発明の「2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物」に相当する。
(エ)比2発明の「NCO末端IPDIプレポリマー(主剤2)」は、その「IPDI(イソホロンジイソシアネート、ダイセルヒユルス社製)」が、IPDIプレポリマーを構成するポリイソシアナート成分の全て(100当量%)がIPDIからなるので、本1発明の「a)主剤のポリイソシアナートがイソホロンジイソシアナートを含み、ポリイソシアナートの70当量%超がイソホロンジイソシアナートであり」に相当する。
(オ)比2発明の「NCO含有率3.5重量%のNCO末端IPDIプレポリマー(主剤2)」は、本1発明の「ポリイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤」及び「イソシアナート基末端プレポリマーのNCO含有量が3.0質量%超、6.0質量%以下であり」に相当する。
(カ)比2発明の「硬化剤」に含まれる「エタキユア100(ジエチルトルエンジアミン、DETDA)」は、反応成分として機能するものが「芳香族ポリアミン」である「エタキユア100(ジエチルトルエンジアミン、DETDA)」のみであるから、本1発明の「b)硬化剤は、全反応成分中の90当量%超が芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンがジエチルトルエンジアミンを含み」に相当する。
(キ)比2発明の「硬化剤」に含まれる「3690gのフタル酸ジオクチル(大八化学工業所社製)および6000gの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)」は、本1発明の「b)硬化剤は」、「無機充填剤を20?80質量%含み」及び「c)可塑剤が、硬化剤に、または主剤と硬化剤の両方に分けて、配合され」る構成に相当する。
(ク)してみると、本1発明と比2発明は『ポリイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤と、反応成分としての芳香族ポリアミン、可塑剤および無機充填剤を含む硬化剤とからなる2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物であって、
a)主剤のポリイソシアナートがイソホロンジイソシアナートを含み、ポリイソシアナートの70当量%超がイソホロンジイソシアナートであり、主剤のポリオールがポリオキシアルキレンポリオールを含み、イソシアナート基末端プレポリマーのNCO含有量が3.0質量%超、6.0質量%以下であり、
b)硬化剤は、全反応成分中の90当量%超が芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンがジエチルトルエンジアミンを含み、無機充填剤を20?80質量%含み、
c)可塑剤が、硬化剤に、または主剤と硬化剤の両方に分けて、配合された、
2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物。』という点において一致し、次の(β2)?(δ2)の点で相違する。
(β2)主剤のポリオールが、本1発明は、「分子量1500以上のジオールを10?97当量%および分子量1500未満のジオールまたは官能基数3以上のポリオールを3?90当量%(主剤のポリオールが分子量1500未満のジオールおよび官能基数3以上のポリオールを含む場合には、分子量1500未満のジオールと官能基数3以上のポリオールを合わせて3?90当量%)含」むことが規定されているのに対し、比2発明はこのようなことは規定されていない点。
(γ2)本1発明は、「主剤のイソシアナート基と硬化剤中の反応成分である芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比(イソシアナート基/芳香族アミノ基)が0.92?1.24である」ことが規定されているのに対し、比2発明はこのようなことは規定されていない点。
(δ2)可塑剤の主剤中のプレポリマー100質量部に対する配合量が、本1発明においては「16?60質量部」であるのに対して、比2発明においては「フタル酸ジオクチル(大八化学工業所社製)」の「主剤2」100質量部に対する配合量は「73.8質量部」と求められる点。

イ.判断
事案に鑑み、上記(δ2)について検討する。
比2発明は、甲2において「比較例」として記載されたものであって、甲2の段落0031(摘記2f)の「10℃におけるタックフリー時間は24時間で、冬場の硬化性にやや不安があり、かつ7日硬化後の塗膜物性は引張り強度22kgf/cm^(2)、引裂き強さ13kgf/cmであり、防水材としては不満足な性能であることが示された。」との記載にあるように、防水材としては「不満足な性能」であることが示されたものであることから、比2発明を改良しようとする動機付けに乏しく、比2発明を基礎として、本1発明の構成及び効果に到達する動機付けがあるとはいえない。
また、甲2の段落0014(摘記2d)には「硬化剤中の可塑剤の使用量は、イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対して20?130重量部の範囲にあることが望ましい。20重量部以下では所望の可使時間が保持し難く、130重量部を越えると塗膜の表面に可塑剤がブリードする傾向が激しくなり、また硬化塗膜が所望の強度を保てなくなる。」との記載があるものの、この記載からは、比2発明における上記「冬場の硬化性」や「引張り強度」や「引裂き強さ」に関する欠点を解消し、防水材として満足な性能を発揮できるようにするための手段として、可塑剤の使用量の好適化が有効であることまでをも看取できるとはいえず、事後分析的な思考を排除した上で、当業者が比2発明における可塑剤の使用量を上記「20?130重量部の範囲」で好適化して、上記(δ2)に係る本1発明の発明特定事項を導き出し得るとはいえない。
そして、甲2の全ての記載、及び本件特許の出願当時の技術常識を精査しても、本件特許明細書の段落0020等の記載から把握される『JISA 6021のウレタンゴム系高強度形に該当することができ、低粘度であり年間を通して施工性に優れ、高強度形に必要とされる耐加水分解性、耐候性、耐熱性といった耐久性にも優れ、コンクリート系下地に必要とされるクラック追従性をも有しており、環境面にも配慮されている2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材の提供』という本1発明の課題を解決するために、本1発明の上記(δ2)に係る本1発明の発明特定事項に到達できる試みをしたはずであるという示唆等の存在は見当たらないので、上記(δ2)に係る本1発明の発明特定事項を当業者が容易に導き出し得るとは認められない。

そして、本1発明は、上記(δ2)に係る発明特定事項を有することで、低粘度であり年間を通して施工性に優れ、高強度形に必要とされる耐加水分解性、耐候性、耐熱性といった耐久性にも優れ、コンクリート系下地に必要とされるクラック追従性をも有するという格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、実施例において確認されている。

この点に関して、申立人は、特許異議申立書の第28頁において『一般に、「可塑剤」とは、硬い高分子物質に可塑性を与え、加工性をよくするために加える物質である。甲2比較例発明(当審注:比2発明)の硬化剤中の可塑剤の使用量73.8質量部に対して、本件特許発明1が「F.c)可塑剤が、主剤中のプレポリマー100質量部に対し16?60質量部となるよう、硬化剤に、または主剤と硬化剤の両方に分けて、配合される」ことにより、本件特許発明1のウレタン防水材組成物の硬化物が、甲2比較例発明の硬化塗膜よりも、硬くできることは自明である。』と主張する。
しかしながら、甲2の比較例2の「不満足な性能」の防水材に関する記載に接した当業者であれば、甲2の請求項1(摘記2a)及び段落0008(摘記2c)の「TDIプレポリマーとIPDIプレポリマー」を「モル比が70/30?30/70の割合で混合して使用」することで当該「不満足な性能」の問題を解決できることを着想し得ても、このモル比を好適化することなく、可塑剤の使用量を最適化することを、事後分析的な思考をすることなく着想し得たとまではいえないので、上記主張は採用できない。

以上総括するに、上記(δ2)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められないから、甲2に記載された発明及び本件特許の出願当時の技術常識をどのように組み合わせたとしても、本1発明を当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、申立人の証拠方法によっては、本1発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

(3)本2?本7発明の進歩性について
本2?本7発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本1発明と同様に、本2?本7発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

第5 まとめ
以上のとおり、特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1?本7発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本1?本7発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-02-24 
出願番号 特願2015-169261(P2015-169261)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 木村 敏康
古妻 泰一
登録日 2020-05-21 
登録番号 特許第6706887号(P6706887)
権利者 アイシーケイ株式会社
発明の名称 高強度2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材組成物およびウレタン防水工法  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 出野 知  
代理人 石田 敬  

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