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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1371741
異議申立番号 異議2020-700846  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-28 
確定日 2021-03-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6689390号発明「粒状構築材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6689390号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6689390号(設定登録時の請求項の数は15。以下「本件特許」という。)は、2016(平成28)年4月11日を国際出願日とする特許出願に係るものであって、令和2年4月9日にその特許権が設定登録され、本件特許に係る特許掲載公報が同年同月28日に発行されたところ、特許異議申立人 株式会社エスケープランニング(以下、単に「異議申立人」という。)は、令和2年10月28日に本件特許の請求項1ないし15に係る特許に対して特許異議の申立てを行ったものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし15の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件特許発明1」などという。)。

「【請求項1】
複数の粒子を含有する粒状構築材料であって、個々の粒子が粒状コアの表面に適用された感光性コーティングを有する粒状コアを含み、粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み、そして感光性コーティングが内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤を有するポリマーを含む、粒状構築材料。
【請求項2】
粒状コアが金属であり、アンチモン、クロム、ニッケル、スチール、ステンレススチール、チタン、スズ、金、銀、ブロンズ、アルミニウム、銅、白金、亜鉛、鉛、これらの合金、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1の粒状構築材料。
【請求項3】
粒状コアがセラミックであり、酸化アルミニウム、緻密無孔質酸化アルミニウム、多孔質酸化アルミニウム、アルミニウム-カルシウム-リン酸化物、バイオガラス、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウケイ酸ガラス、カルシウムアルミネート、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、セラバイタル、サンゴ、鉄-カルシウム-リン酸化物、ガラス繊維およびガラス繊維複合物、ガラス、緻密無孔質ガラス、ヒドロキシアパタイト、緻密ヒドロキシアパタイト、熱分解炭素被覆デバイス、シリカ、ホウ化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ソーダ石灰ガラス、酸化チタン、窒化チタン、リン酸三カルシウム、炭化タングステン、二珪化タングステン、亜鉛-カルシウム-リン酸化物、硫酸亜鉛-カルシウム-リン酸化物、酸化亜鉛、ジルコニア、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1の粒状構築材料。
【請求項4】
粒状コアが金属およびセラミックの両者を含む、請求項1の粒状構築材料。
【請求項5】
粒状コアが10μmから約100μmの大きさである、請求項1?4のいずれか1項記載の粒状構築材料。
【請求項6】
ポリマーが、ポリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアセチル、ポリスチレン、ポリ(N-メチルメタクリルアミド)、ポリメチルメタクリレート、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルケトン、ポリエステル、ポリスチレン、スチレン-アクリル酸コポリマー、ポリ乳酸、ポリカーボネート、N-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1?5のいずれか1項記載の粒状構築材料。
【請求項7】
感光性コーティングが約0.1重量%から約20重量%の感光剤を含み、アルミニウムキノリン錯体、ポルフィリン、ポルフィン、インドシアニン染料、フェノキサジン誘導体、フタロシアニン染料、ナフタロシアニン、ポリメチルインドリウム染料、ポリメチン染料、グアイアズレニル染料、クロコニウム染料、ポリメチンインドリウム染料、金属錯体IR染料、シアニン染料、スクアリリウム染料、カルコゲノ-ピリロアリーリデン染料、インドリジン染料、ピリリウム染料、キノイド染料、キノン染料、アゾ染料、またはこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1?6のいずれか1項記載の粒状構築材料。
【請求項8】
第二の粒状コアに適用された第二の感光性コーティングを有する第二の粒状コアを含む第二の複数の粒子をさらに含み、第二の粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み、第二の感光性コーティングが内部に懸濁されまたは取着された第二の感光剤を有する第二のポリマーを含み、第二の粒状コア、第二のポリマー、または第二の感光剤の一つまたはより多くが、前記粒状コア、ポリマー、または感光剤のそれぞれと異なる、請求項1?7のいずれか1項記載の粒状構築材料。
【請求項9】
粒状構築材料を作成するための方法であって:
感光剤は光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする、0.1重量%から20重量%の感光剤をポリマーに懸濁しまたは取着することによって感光性コーティングを調製し;そして
感光性コーティングを5nmから500nmの被覆厚さで複数の粒子に適用し、ここで個々の粒子が金属、セラミック、または金属およびセラミックの組み合わせを含む粒状コアを含有する、方法。
【請求項10】
感光性コーティングでコーティングする前に複数の粒子を粉砕することをさらに含む、請求項9の方法。
【請求項11】
感光性コーティングの適用に際して金属およびセラミックが共通のコーティング内、別々のコーティング内、または両者となるように、複数の粒子がコーティングされた金属およびセラミックの両方の粒子を含む、請求項9または10の方法。
【請求項12】
複数の粒子に適用した後に感光性コーティングを乾燥することをさらに含む、請求項9?11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
3次元印刷のためのシステムであって:
複数の粒子を含有する3次元印刷用の粒状構築材料と、
粒状構築材料に対して光エネルギーを放射するための光エネルギー源を含み、
個々の粒子は粒状コアの表面に適用された感光性コーティングを有する粒状コアを含み、粒状コアは金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み、感光性コーティングはポリマーに懸濁または付着した感光剤を有するポリマーを含み、そして
感光剤は光エネルギーの周波数に対応するエネルギーを吸収し、それにより感光剤はポリマーを軟化させ、隣接する粒子に接合させる、システム。
【請求項14】
熱源または第二の光エネルギー源をさらに含み、ポリマーの軟化により隣接する粒子同士が接合した後に隣接する粒状コア同士を融合させる、請求項13のシステム。
【請求項15】
光エネルギーがUV光、可視光、IR、またはこれらの組み合わせである、請求項13または14のシステム。」

第3 特許異議申立理由の概要
令和2年10月28日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由を、特許異議申立書の「3)申立ての根拠」の記載、「(3)本件特許発明と引用発明との対比」において、具体的に記載されている内容の記載及び「5)むすび」に基づいて、異議申立人の提示した甲号証ごとに整理すると、次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、優先日前にこの発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1?11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1ないし6及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3及び6ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1ないし3及び6ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 申立理由5(甲第5号証に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、5ないし9、11及び13ないし15に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1ないし3、5ないし9、11及び13ないし15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

6 申立理由6(甲第6号証に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1、3、5ないし7、9、11及び12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1、3、5ないし7、9、11及び12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

7 証拠方法
甲第1号証:欧州特許出願公開第2543457号公報
甲第2号証:国際公開第2015/106113号
甲第3号証:韓国特許第10-0889256号公報
甲第4号証:独国特許出願公開第102008005826号公報
甲第5号証:米国特許出願公開第2016/0318250号公報
甲第6号証:中国特許出願第102407332号公報
なお、甲号証の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
当審は、以下述べるように、特許異議申立書に記載の申立理由1ないし6には、いずれも理由はないと判断する。

1 各甲号証の記載事項等
(1)甲1の記載事項
甲1の記載の摘記は省略し、異議申立人が提出した甲1の部分翻訳文を摘記する。下線は当審において付与した。以下同じ。

ア 「複合粒子は、直径の中央値d50は1μm以上であるコア粒子を含み、コア上のポリマーは少なくとも全体的または部分的に被覆され、ここで、複合粒子の直径の中央値d50に対するコア粒子の直径の中央値d50の比率は1.15以上である。」([0015])

イ 「1つの好ましい実施形態では、沈殿したポリマーでコーティングされるコア粒子は金属、金属酸化物、金属窒化物、または半金属窒化物から選択される。
金属または金属酸化物でできた粒子は、複合粒子のコアを示す。
本発明による粉末は、好ましくはコアシェル構造を有する。
金属コア粒子は、鋼、銀、銅、またはアルミニウムなどの金属、ならびに当業者に知られている他の金属または合金を含み得る。
金属粒子は、固体であり得るか、または中空ビーズまたは小板などの他の形態であり得る。」([0019]?[0020])

ウ 「被覆されるコア粒子は、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、ZnO、Bi_(2)O_(3)、CeO_(2)、ITO(酸化スズ(IV)ドープ酸化インジウム)、ATO(酸化アンチモンドープ酸化スズ)、IZO(酸化亜鉛ドープ酸化インジウム)、混合酸化物、スピネルなどの金属酸化物からなるか、またはそれを含むことができ、好ましくはTiO_(2)を含まない。・・・さらに、コーティングされるコア粒子は、金属窒化物または半金属窒化物から構成されるか、または同じものを含み得、例えば、窒化ホウ素または窒化アルミニウムである。」([0021]?[0022])

エ 「好ましくは、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリド、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ(N-メチルメタクリルイミド)(PMMI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むポリマーから選択され得る。)、イオノマー、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミド、コポリアミドおよびそれらの混合物、特にホモおよびコポリアミドの混合物である。」([0025])

オ 「コア粒子の中央直径は、1から100μm、好ましくは1から80μm、好ましくは1から70μm、より好ましくは1から60μm、さらにそれ以上であり得る。好ましくは1から50μm、特に好ましくは1から40μmである。」([0035])

カ 「本発明による粉末は、場合によっては、助剤および/または他の有機または無機顔料を含み得る。これらの助剤は、例えば、粉末流動助剤沈殿および/またはヒュームドシリカであり得る。沈降シリカは、Evonik IndustriesAG からさまざまな仕様の製品名AEROSIL^(○R)(審決注:丸囲みRを意味する。)で入手しうる。本発明による粉末は、ポリマー全体に基づいて、3重量%未満のこれらの助剤を含み、好ましくは0.001から2重量%、特に好ましくは0.025から1重量%であることが好ましい場合がある。顔料は、例えば、ルチル(好ましくは)またはアナターゼに基づく二酸化チタン粒子、またはカーボンブラック粒子であり得る。」([0050])

(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された発明として、上記(1)の摘記事項から認定できる発明は、以下のとおりである。
<甲1粉末発明>
「金属、金属酸化物、金属窒化物、または半金属窒化物から選択されるコア粒子を、沈殿したポリマーでコーティングした粉末。」
<甲1粉末製造方法発明>
「金属、金属酸化物、金属窒化物、または半金属窒化物から選択されるコア粒子を、沈殿したポリマーでコーティングする粉末の製造方法。」

(3)甲2の記載事項
甲2の記載の摘記は省略し、異議申立人が提出した甲2の部分翻訳文を摘記する。

ア 「1つまたは複数の部品を積層造形するための材料およびプロセス」([0001])

イ 「本発明の一態様によれば、製造システムを使用して部品を形成するための材料が提供される。この材料は、複数の個別の粒子を含む。各粒子には、非金属コーティングでカプセル化された金属粉末コアが含まれる。」([0005])

ウ 「粒子の少なくとも1つのコーティングは、ポリマーから構成され得るか、そうでなければポリマーを含み得る。
粒子の少なくとも1つのコーティングはまた、または代替的に、セラミックから構成され得るか、そうでなければセラミックを含み得る。
粒子の少なくとも1つのコーティングは、以下の材料のうちの少なくとも1つから構成され得るか、さもなければ、以下の材料のうちの少なくとも1つを含み得る:アルコキシシラン、アミノシラン、有機ジン酸、窒化物、フッ化物、エポキシ、チオール、ジスルフィド、トイレート、トリアゾール、アルキルホスホン酸、フルオロポジマー、シリコーン、ポリピロール、ポリアニリン、およびその他のポリマーで組み立てられた単層。
粒子の少なくとも1つのコアは、単一の金属粒子を含み得る。
それに加えて、又はあるいは、粒子の少なくとも1つのコアは、複数の金属粒子を含み得る。
粒子の少なくとも1つのコアは、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、および鋼の少なくとも1つの材料から構成され得るか、そうでなければ含まれ得る。」([0012]?[0015])

エ 「コア12は、約5マイクロメートル(5μm)から約500マイクロメートル(500μm)の間のサイズ(例えば、平均直径)を有し得る。」([0026])

オ 「アルコキシシラントリエトキシシラン、アミノシランアミノプロピルジメチルエトキシシラン、有機リン酸ペンタンホスホン酸、窒化アルミニウム、窒素、フッ化物フルオロカーボン、エポキシ、有機蒸気コーティングパラレン、シアノアクリレー、チオール、ジスルフィド、チオレート有機チオール、卜リアゾールベンゼントリアゾール(BTA)、銅、有機蒸気コーティングパラレン、シアノアクリレート、無機蒸気コーティングシラン、無機蒸気コーティング窒化チタン、チタン、化学吸着フッ素化ポリマー、ニッケル化学吸着アルキルホスホン酸、鋼電解重合ポリピロール/ポリアニリン」([表1の記載])

(4)甲2に記載された発明
甲2に記載された発明として、上記(3)の摘記事項から認定できる発明は、以下のとおりである。
<甲2金属粉末コア発明>
「1つまたは複数の部品を積層造形するための材料であって、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、および鋼の少なくとも1つの材料から構成される金属コアをアルコキシシラン、アミノシラン、有機リン酸、窒化物、フッ化物、エポキシ、チオール、ジスルフィド、トイレート、トリアゾール、アルキルホスホン酸、フルオロポリマー、シリコーン、ポリピロール、ポリアニリン、およびその他のポリマーでコーティングしたカプセル化された金属粉末コア。」

(5)甲3の記載事項
甲3の記載の摘記は省略し、異議申立人が提出した甲3の部分翻訳文を摘記する。

ア 「本発明は、球状の金属粉末を内部材料として半結晶性高分子樹脂で被覆したコアシェル構造を有する有機/無機複合型粉末に関し、より具体的には、鉄、銅、青銅、黄銅、アルミニウム、ステンレス(SUS)等から選ばれた少なくとも1種の金属粉末を粒径1?100μmで有する。金属表面の高分子樹脂を均一に溶融させるために極性基と非極性部分を有する共重合体樹脂を使用し、機械的特性に優れた物理的・化学的に安定なレーザー焼結用高分子粉末として各種物性に流量制御剤と増感剤を添加したレーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末の製造方法、およびレーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末の選択的レーザー焼結による成形品に関する。」(<1>)

イ 「酸化防止剤等の添加剤を含む金属/高分子複合粉末、より具体的には、金属粉末の表面に高分子樹脂が均一に被覆されたコアシェル構造を有する複合粉末である。」(<12>)

ウ 「ポリプロピレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、ポリプロピレン-アクリル酸共重合体樹脂、ポリエチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン-アクリル酸共重合体樹脂、ポリスチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、ポリスチレン-アクリル酸共重合体樹脂等を挙げることができる。」(<33>)

エ 「シリカ粉末、ヒュームドシリカ、析出シリカ疎水性シリカ、疎水性シリカ等から選択されるものを用いることができる。」(<39>)

(6)甲3に記載された発明
甲3に記載された発明として、上記(5)の摘記事項から認定できる発明は、以下のとおりである。
<甲3粉末発明>
「鉄、銅、青銅、黄銅、アルミニウム、ステンレス(SUS)等から選ばれた少なくとも1種の球状の金属粉末を内部材料として極性基と非極性部分を有する共重合体樹脂で被覆したコアシェル構造を有するレーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末。」
<甲3粉末製造方法発明>
「鉄、銅、青銅、黄銅、アルミニウム、ステンレス(SUS)等から選ばれた少なくとも1種の球状の金属粉末を内部材料として極性基と非極性部分を有する共重合体樹脂で被覆するコアシェル構造を有するレーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末の製造方法。」

(7)甲4の記載事項
甲4の記載の摘記は省略し、異議申立人が提出した甲4の部分翻訳文を摘記する。

ア 「少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマー及び/又はポリマーからなるコアおよびシェルからなる粒子であって…本発明による粒子は、好ましくは粉末の形態である。」([0004])

イ 「好適な粒子は、シリコン、チタン、亜鉛、スズ、アルミニウム、インジウム、銅、アンチモン、セリウム、コバルト、クロム、ニッケル、鉄、イットリウムおよび/またはジルコニウム、またはAg、Cu、Fe、Au、Pd、Ptまたは合金などの金属からなる酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩および/またはナノ粒子に基づく親水性および疎水性、特に親水性粒子からなる群から選択される。酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩および/または粒子に基づく粒子であって、チタン、亜鉛、スズ、アルミニウム、セリウム、コバルト、クロム、ニッケル、鉄、イットリウム、ジルコニウム、金属、合金および/またはこれらの混合物からなる粒子である。…二酸化ケイ素を主成分とするナノ粒子が用いられる。金属をベースにしたナノ粒子が非常に好ましく、特にコアは金、銀、銅または鉄を50重量%以上含有するものが好ましい。」([0007]?[0009])

ウ 「前記コアは、少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマーからなるシェルに包まれている。
特に、前記オリゴマーおよび/またはポリマーは、熱可塑性オリゴマーおよび/またはポリマーである。
特に好適なLCSTポリマーは、ポリアルキレンオキシド誘導体、好ましくはポリエチレンオキシド(PEO)誘導体、ポリプロピレンオキシド(PPO)誘導体、オレフィン変性PPO-PEOブロックコポリマー、アクリレート変性PEO-PPO-PEO3ブロックコポリマー、ポリメチルビニルエーテル、ポリ-N-ビニルカプロラクタム、エチル(ヒドロキシエチル)セルロース、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)およびポリシロキサンである。特に好ましいLCSTポリマーは、オレフィン性基で修飾されたシロキサンポリマーである。
好適なUCSTポリマーは、特にポリスチレン、ポリスチレンコポリマーおよびポリエチレンオキサイドコポジマーである。」([0010]?[0014])

エ 「LCST resp.UCST ポリマーは、効果顔料および塗布媒体、例えば塗料マトリックスとの強い相互作用および/または化学結合を有する官能基と一緒に用いられる。…含窒素官能基は、原則として、技術に熟練した者に知られている窒素原子を有するすべての官能基、例えば、アミノ基、アミド基または芳香族性を有するアミノ基であることができる。オリゴマーおよび/またはポリマーは、好ましくは少なくとも1つのアミノ機能を含む。アミノ官能性ポリマーは、多くの適用系、例えば塗料などで架橋することができる反応性化合物である。」([0015]?[0017])

オ 「アクリレート、メタクリレート、ポリエステル、ポリウレタン、ニトロセルロース、エチルセルロース、ポリアミド、ポリビニルブチレート、フェノール樹脂、マレイン樹脂、デンプンまたはポリビニルアルコール、アミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニルまたはそれらの混合物」([0037])

カ 「塗料は、粉末塗料、水性または溶剤ベースの塗料であってもよく、塗料成分の選択は、当業者の一般的な知識に従う。」([0038])

キ 「本発明に従う粒子はまた、上述の適用分野において、公知のすべての有機または無機の染料および/または顔料との混合物での使用に適している。
有機顔料および染料は、例えば、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、多環式顔料、カチオン性染料、アニオン性染料またはノニオン性染料である。
無機染料及び顔料としては、例えば、白色顔料、着色顔料、黒色顔料又は効果顔料が挙げられる。
好適な効果顔料の例としては、マイカ、ガラス、Al_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、SiO_(2)等をベースにした単層または複数の被覆板状体に通常塗布されるメタリック効果顔料、真珠光沢顔料または干渉顔料が挙げられる。」([0041])

ク 「充填剤としては、例えば、天然及び合成マイカ、ナイロン粉末、純又は充填メラミン樹脂、タルク、ガラス、カオリン、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、BiOCl、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素の酸化物又は水酸化物、並びにこれらの物質を物理的又は化学的に組み合わせて用いられる。」([0042])

(8)甲4に記載された発明
甲4に記載された発明として、上記(7)の摘記事項から認定できる発明は、以下のとおりである。
<甲4粒子発明>
「コアが少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマーからなるシェルに包まれている粒子であって、
好適な粒子は、シリコン、チタン、亜鉛、スズ、アルミニウム、インジウム、銅、アンチモン、セリウム、コバルト、クロム、ニッケル、鉄、イットリウムおよび/またはジルコニウム、またはAg、Cu、Fe、Au、Pd、Ptまたは合金などの金属からなる酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩および/またはナノ粒子に基づく親水性および疎水性、特に親水性粒子からなる群から選択されるものであり、
1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマーが、ポリアルキレンオキシド誘導体、好ましくはポリエチレンオキシド(PEO)誘導体、ポリプロピレンオキシド(PPO)誘導体、オレフィン変性PPO-PEOブロックコポリマー、アクリレート変性PEO-PPO-PE3ブロックコポリマー、ポリメチルビニルエーテル、ポリ-N-ビニルカプロラクタム、エチル(ヒドロキシエチル)セルロース、ポリ(N- イソプロピルアクリルアミド)およびポリシロキサン、特に好ましいLCSTポリマーは、オレフィン性基で修飾されたシロキサンポリマーである
粒子。」
<甲4粒子製造方法発明>
「コアが少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマーからなるシェルに包まれている粒子の製造方法であって、
好適な粒子は、シリコン、チタン、亜鉛、スズ、アルミニウム、インジウム、銅、アンチモン、セリウム、コバルト、クロム、ニッケル、鉄、イットリウムおよび/またはジルコニウム、またはAg、Cu、Fe、Au、Pd、Ptまたは合金などの金属からなる酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩および/またはナノ粒子に基づく親水性および疎水性、特に親水性粒子からなる群から選択されるものであり、
1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマーが、ポリアルキレンオキシド誘導体、好ましくはポリエチレンオキシド(PEO)誘導体、ポリプロピレンオキシド(PPO)誘導体、オレフィン変性PPO-PEOブロックコポリマー、アクリレート変性PEO-PPO-PE3ブロックコポリマー、ポリメチルビニルエーテル、ポリ-N-ビニルカプロラクタム、エチル(ヒドロキシエチル)セルロース、ポリ(N- イソプロピルアクリルアミド)およびポリシロキサン、特に好ましいLCSTポリマーは、オレフィン性基で修飾されたシロキサンポリマーである
粒子の製造方法。」

(9)甲6の記載事項
甲6の記載の摘記は省略し、異議申立人が提出した甲6の部分翻訳文を摘記する。

ア 「本発明は、ミクロンサイズのチタン粉末を原料として使用することができる、適切な感光性接着剤を選択し、光硬化手段を選択することにより、3D印刷技術により迅速に高精度な形状部品を得ることができる多孔質チタンの調製方法を提供する。」(〔0009〕)

イ 「暗環境下で、感光性樹脂、光硬化性モノマー、有機溶剤、その他の活性添加剤を所定の質量比で混合し、20?60℃の機械的攪拌を30?120分行った後、光重合開始剤を添加し、10?30分攪拌を継続して感光性接着剤を製造する。感光性樹脂の添加量は20?100質量部、光硬化性モノマーの添加量は10?30質量部、有機溶剤の添加量は5?30質量部、光重合開始剤の添加量は0.5?3質量部、その他の添加剤の添加量は0.1?1質量部である。」([0015]?[0016])

ウ 「感光性樹脂は、エポキシアクリレート、エポキシグリシジルアクリレート、メタクリル系エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂;光硬化性単量体がN-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアセトアミドである。触媒がトリエタノールアミン、第三級アミンである;希釈剤がフェニルアクリレートエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸テトラヒドロゲン、メタクリル酸ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、メタクリル酸セチルである。溶媒はトルエン、エチレングリコール;光重合開始剤はベンゾインエーテル、ベンゾフェノン;その他の添加剤は湿潤剤グリセリン、チキソトロピー剤ヒドロキシエチルセルロース、難燃剤ハイドロキノン、架橋剤ベンゾイルパーオキサイドである。」(〔0029〕)

エ 「実施例1
多孔質チタンを調製する方法は、以下の工程を含む。
工程1:小さな粒子径と狭い粒度分布を有するチタン粉末の調製
粗チタン粉末200gと絶対エタノール50gを取り、均一に混合し、ステアリン酸2gを加え、ステンレスボール1000gを取り、真空環境下で、24時間ボールミルで粉砕し、60℃で48時間乾燥して、最大粒径2-48μmのチタン粉末を得る。
工程2:感光性接着剤の調製
エポキシアクミリレート50?70部、N-ビニルピロリドン20?30部、ベンゾインジメチルエーテル1?2部、第三級アミン4部、第一級アミン2部を室温または50℃に加熱してよく混ぜる、すなわち感光性接着剤を調製することができる。
工程3:3Dプリント
コンピュータを使用して、必要な多孔質チタン部品のグラフィックを描画し、プログラムを編集し、ステップ1で得られたチタン粉末を作業台の上に敷き詰め、厚さ0.5?lmmのチタン粉末層を得、ステップ2で得られた感光性接着剤をスプレーチャンバーに添加し、スプレーガンを150?300°Cに加熱し、加熱時間は10?30分、接着剤が全て液状になった後、感光性接着剤の液滴を所望のパターンに従って6m/sの速度でスプレーする。液滴がチタン粉末を完全に濡らした後、紫外線を照射して100s硬化させた後、完全硬化後のチタン粉末の第1層の上に新たなチタン粉末の層を敷き詰め、上記のステップを繰り返して15?25mmの厚さに積層する。
工程4:真空脱バインダー
エ程3の接着剤を含む固体部分を乾燥オーブンに入れ、100℃で12?24時間乾燥させ、乾燥させた部分を600℃で2?4時間真空オーブンに入れる。
工程5:焼結
工程4で脱バインダー処理した固形部を真空焼結し、焼結温度は1200℃、時間は1時間である。」([0045]?[0056])

(10)甲6に記載された発明
甲6に記載された発明として、上記(9)の摘記事項から認定できる発明は、以下のとおりである。
<甲6多孔質チタン発明>
「3Dプリントの材料となる多孔質チタン。」
<甲6多孔質チタン製造方法発明>
「粗チタン粉末200gと絶対エタノール50gを取り、均一に混合し、ステアリン酸2gを加え、ステンレスボール1000gを取り、真空環境下で、24時間ボールミルで粉砕し、60℃で48時間乾燥して、最大粒径2-48μmのチタン粉末を得る3Dプリントの材料となる多孔質チタンの製造方法。」

2 申立理由1(本件特許発明1ないし11に対する甲1に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1粉末発明とを対比する。
甲1粉末発明の「粒子」は、本件特許発明1の「粒状構築材料」と「粒状材料」という限りにおいて相当し、甲1粉末発明の「粉末」が複数の粒子を有するものであることは明らかである。
甲1粉末発明の「コア粒子」は、本件特許発明1の「粒状コア」に相当し、甲1粉末発明は、「粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含」むものといえる。
甲1粉末発明の「沈殿したポリマー」は、本件特許発明1の「感光性コーティングが感光剤を有するポリマーを含む」と「コーティングがポリマーを含む」である限りにおいて相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1粉末発明とは、
「複数の粒子を含有する粒状材料であって、個々の粒子が粒状コアの表面に適用されたコーティングを有する粒状コアを含み、粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み、そしてコーティングがポリマーを含む、粒状材料。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>
粒状材料に関して、本件特許発明1は、「粒状構築材料」と特定するのに対し、甲1粉末発明は、この点を特定しない点。
<相違点1-2>
ポリマーを含むコーティングに関し、本件特許発明1は、「感光性」であって、また、「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤を有する」と特定するのに対し、甲1粉末発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、本件特許発明1と甲1粉末発明は、相違点1-1及び相違点1-2で相違し、これらの相違点は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲1粉体発明、すなわち、甲1に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
以下、相違点について検討する。
相違点1-1について
甲1には、粒状材料(沈殿したポリマーでコーティングした粉末)の具体的な用途について全く記載されておらず、また、当該粒子材料を、多種多様な用途から、3D成形用の、すなわち、粒状構築材料とする動機もないから、相違点1-1に係る発明特定事項を有するようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。

相違点1-2について
甲1には、コーティングに、相違点1-2に係る「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」を配合することについて記載及び示唆する記載もない。また、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」については、異議申立人の提示するいずれの証拠にも記載がない。
してみれば、甲1粉末発明において、相違点1-2に係る発明特定事項を有するようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
なお、甲1には、「本発明による粉末は、場合によっては、助剤および/または他の有機また無機顔料を含み得る。これらの助剤は、例えば、粉末流動助剤沈殿および/またはヒュームドシリカ であり得る。沈降シリカは、Evonik In dustriesAGからさまざまな仕様の製品名 AEROSIL○R(決定注:丸囲みRを意味する。以下同じ。)で入手しうる。本発明による粉末は、ポリマー全体に基づいて、3重量%未満のこれらの助剤を含み、好ましくは0.001から2重量%、特に好ましくは0.0025から1重量%であることが好ましい場合がある。顔料は、例えば、ルチル(好ましくは)またはアナターゼに基づく二酸化チタン粒子、またはカーボンブラック粒子であり得る。」([0050])との記載があるが、当該記載における「顔料」として例示されている「ルチル(好ましくは)またはアナターゼに基づく二酸化チタン粒子、またはカーボンブラック粒子」が、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」であることを示す証拠はないし、そのことが当業者の技術常識とも認められない。

よって、本件特許発明1は、甲1粉末発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明1が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし8についても同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲1粉末製造方法発明とを対比する。
甲1粉末製造方法発明の「粒子」は、本件特許発明9の「粒状粉末材料」と「粒状材料」という限りにおいて相当する。
甲1粉末製造方法発明の「コア粒子」は、本件特許発明9の「粒状コア」に相当し、甲9粉末製造方法発明は、「個々の粒子が金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含」む「粒状コア」を有するといえる。
甲1粉末製造方法発明の「沈殿したポリマーでコーティングする」は、本件特許発明9の「ポリマーを含むコーティングを調製し;そしてポリマーを含むコーティングを所定の被覆厚さで複数の粒子に適用し」に相当する。

そうすると、本件特許発明9と甲1粉末製造方法発明とは、
「粒状材料を作成するための方法であって:
ポリマーを含むコーティングを調製し;そして
ポリマーを含むコーティングを所定の被覆厚さで複数の粒子に適用し、ここで個々の粒子が金属、セラミック、または金属およびセラミックの組み合わせを含む粒状コアを含有する、方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-3>
粒状材料に関して、本件特許発明9は、「粒状構築材料」と特定するのに対し、甲1粉末製造方法発明は、この点を特定しない点。
<相違点1-4>
コーティングに関し、本件特許発明9は、「感光剤」を「ポリマーに懸濁しまたは取着」したものであって、その感光剤は、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする」ものであると特定するのに対し、甲1粉末製造方法発明は、この点を特定しない点。
<相違点1-5>
配合する感光剤の配合量について、本件特許発明9は、「0.1重量%から20重量%」と特定するのに対し、甲1粉末製造方法発明は、この点を特定しない点。
<相違点1-6>
コーティングの被覆厚みに関し、本件特許発明9は、「5nmから500nm」と特定するのに対し、甲1粉末製造方法発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、甲1粉末製造方法発明と本件特許発明9は、相違点1-3ないし相違点1-6で相違し、少なくとも相違点1-3及び1-4については、実質的な相違点といえるから、本件特許発明9は、甲1粉末製造方法発明、すなわち、甲1に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
事案に鑑み、相違点1-3及び1-4について検討する。
相違点1-3及び相違点1-4は、上記(1)における相違点1-1及び相違点1-2と実質的に同じであるから、その判断は上記(1)で検討したとおりである。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1粉末製造方法発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明10及び11について
本件特許発明9が、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(3)のとおりであるから、本件特許発明9の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明10及び11についても同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)申立理由1のまとめ
以上のことから、申立理由1は、理由がない。

3 申立理由2(本件特許発明1ないし6、8に対する甲2に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2金属粉末コア発明とを対比する。
甲2金属粉末コア発明の「1つまたは複数の部品を積層造形するための材料」である「カプセル化された金属粉末コア」、「金属コア」は、それぞれ、本件特許発明1の「粒状構築材料」、「粒状コア」に相当し、甲2金属粉末コア発明の「カプセル化された金属粉末コア」が複数の粒子を有するものであることは明らかである。
甲2金属粉末コア発明の「アルコキシシラン、アミノシラン、有機リン酸、窒化物、フッ化物、エポキシ、チオール、ジスルフィド、トイレート、トリアゾール、アルキルホスホン酸、フルオロポリマー、シリコーン、ポリピロール、ポリアニリン、およびその他のポリマー」は、本件特許発明1の「ポリマー」に相当し、甲2金属粉末発明における「カプセル化された金属粉末コア」は、「粒状コアの表面に適用されたコーティングを有する粒状コア」といえるし、甲2金属粉末コア発明の「コーティング」は、「ポリマーを含むコーティング」であるともいえる。
そして、甲2金属粉末コア発明は「金属コア」であるから、本件特許発明1の「粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み」を充足する。

そうすると、本件特許発明1と甲2金属粉末コア発明とは、
「複数の粒子を含有する粒状構築材料であって、個々の粒子が粒状コアの表面に適用されたコーティングを有する粒状コアを含み、粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み、そしてコーティングがポリマーを含む、粒状構築材料。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2-2>
ポリマーを含むコーティングに関し、本件特許発明1は「感光性」であって、また、「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤を有する」と特定するのに対し、甲2金属粉末コア発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、甲2金属粉末コア発明と本件特許発明1は、相違点2-2で相違し、これらの相違点は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲2金属粉末コア発明、すなわち、甲2に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
以下、相違点2-2について検討する。
甲2には、コーティングに、相違点2-2に係る「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」を配合することについて記載及び示唆する記載もない。また、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」については、異議申立人の提示するいずれの証拠にも記載がない。
してみれば、甲2金属粉末コア発明において、相違点2-2に係る発明特定事項を有するようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
なお、甲2の表1には、「アルコキシシラントリエトキシシラン、アミノシランアミノプロピルジメチルエトキシシラン、有機リン酸ペンタンホスホン酸、窒化アルミニウム、窒素、フッ化物フルオロカーボン、エポキシ、有機蒸気コーティングパラレン、シアノアクリレー、チオール、ジスルフィド、チオレート有機チオール、卜リアゾールベンゼントリアゾール(BTA)、銅、有機蒸気コーティングパラレン、シアノアクリレート、無機蒸気コーティングシラン、無機蒸気コーティング窒化チタン、チタン、化学吸着フッ素化ポリマー、ニッケル化学吸着アルキルホスホン酸、鋼電解重合ポリピロール/ポリアニリン」との記載があるとされているが、表1自体は和訳されていないから、どのような表であるか不明であるし、当該記載におけるいずれかの物質が、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」であることを示す証拠はないし、そのことが当業者の技術常識とも認められない。

よって、本件特許発明1は、甲2金属粉末コア発明、すなわち、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし6及び8について
本件特許発明1が、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし6及び8についても同様に、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)申立理由2のまとめ
以上のことから、申立理由2は、理由がない。

4 申立理由3(本件特許発明1ないし3、5、6及び8ないし11に対する甲3に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3粉末発明とを対比する。
甲3粉末発明の「金属粉末」、「レーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末」は、それぞれ、本件特許発明1の「粒状コア」、「粒状構築材料」に相当し、甲3粉末発明の「レーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末」が複数の粒子を有するものであることは明らかである。
甲3粉末発明の「被覆する」「極性基と非極性部分を有する共重合体樹脂」は、本件特許発明1の「感光性コーティングが感光剤を有するポリマーを含む」と「コーティングがポリマーを含む」である限りにおいて相当する。
そして、甲3粉末発明は「金属粉末」であるから、本件特許発明1の「粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み」を充足する。

そうすると、本件特許発明1と甲3粉末発明とは、
「複数の粒子を含有する粒状材料であって、個々の粒子が粒状コアの表面に適用されたコーティングを有する粒状コアを含み、粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み、そしてコーティングがポリマーを含む、粒状構築材料。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3-2>
ポリマーを含むコーティングに関し、本件特許発明1は、「感光性」であって、また、「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤を有する」と特定するのに対し、甲3粉末発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、甲3粉末発明と本件特許発明1は、相違点3-2で相違し、この相違点は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲3粉末発明、すなわち、甲3に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
以下、相違点について検討する。
相違点3-2について
甲3には、コーティングに、相違点3-2に係る「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」を配合することについて記載及び示唆する記載もない。また、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」については、異議申立人の提示するいずれの証拠にも記載がない。
してみれば、甲3粉末発明において、相違点3-2に係る発明特定事項を有するようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
なお、甲3には、「シリカ粉末、ヒュームドシリカ、析出シリカ疎水性シリカ、疎水性シリカ等から選択されるものを用いることができる。」(上記1(5)エ)との記載があるが、当該部分に記載された物質がどこに用いられるのか甲3の部分翻訳文の記載からは不明であるし、仮にコーティングに配合されるとしても、当該「シリカ粉末、ヒュームドシリカ、析出シリカ疎水性シリカ、疎水性シリカ等」が、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」であることを示す証拠はないし、そのことが当業者の技術常識とも認められない。

よって、本件特許発明1は、甲3粉末発明、すなわち、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2、3、5、6及び8について
本件特許発明1が、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2、3、5、6及び8についても同様に、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲3粉末製造方法発明とを対比する。
甲3粉末製造方法発明の「金属粉末」、「レーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末」は、それぞれ、本件特許発明1の「粒状コア」、「粒状構築材料」に相当し、甲3粉末製造方法発明の「レーザー焼結用金属・高分子複合材料粉末」が複数の粒子を有するものであることは明らかである。
甲3粉末製造方法発明の「極性基と非極性部分を有する共重合体樹脂で被覆する」は、本件特許発明9の「ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする、ポリマー、感光性コーティングを適用し」と「ポリマーを含むコーティングを適用し」である限りにおいて相当する。

そうすると、本件特許発明9と甲3粉末製造方法発明とは、
「粒状構築材料を作成するための方法であって:
ポリマーを含むコーティングを調製し;そして
ポリマーを含むコーティングを所定の被覆厚さで複数の粒子に適用し、ここで個々の粒子が金属、セラミック、または金属およびセラミックの組み合わせを含む粒状コアを含有する、方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3-3>
ポリマーを含むコーティングに関し、本件特許発明9は、「感光剤」を「ポリマーに懸濁しまたは取着」したものであって、その感光剤は、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする」ものであると特定するのに対し、甲3粉末製造方法発明は、この点を特定しない点。
<相違点3-4>
配合する感光剤の配合量について、本件特許発明9は、「0.1重量%から20重量%」と特定するのに対し、甲3粉末製造方法発明は、この点を特定しない点。
<相違点3-5>
コーティングの被覆厚みに関し、本件特許発明9は、「5nmから500nm」と特定するのに対し、甲3粉末製造方法発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、甲3粉末製造方法発明と本件特許発明9は、相違点3-3ないし相違点3-5で相違し、少なくとも相違点3-3については、実質的な相違点といえるから、本件特許発明9は、甲3粉末製造方法発明、すなわち、甲3に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
事案に鑑み、相違点3-3について検討する。
相違点3-3は、上記(1)における相違点3-2と実質的に同じであるから、その判断は上記(1)で検討したとおりである。

よって、本件特許発明9は、甲3粉末製造方法発明、すなわち、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明10及び11について
本件特許発明9が、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(3)のとおりであるから、本件特許発明9の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明10及び11についても同様に、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)申立理由3のまとめ
以上のことから、申立理由3は、理由がない。

5 申立理由4(本件特許発明1ないし3及び6ないし8に対する甲4に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4粉末発明とを対比する。
甲4粉末発明の「コア」は、本件特許発明1の「粒状コア」に相当する。
甲4粉末発明の「コアが少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマーからなるシェルに包まれている粒子」は、本件特許発明1の「粒状構築材料」と「粒状材料」の限りで相当し、複数の粒子を有するものであることは明らかである。
甲4粉末発明の「少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマー」は、本件特許発明1の「ポリマー」に相当し、甲4粉末発明における「オリゴマーおよび/またはポリマーからなるシェルに包まれている粒子」は、「粒状コアの表面に適用されたポリマーを含むコーティングを有する粒状コア」といえる。
そして、甲4粉末発明の「コア」は、金属を選択肢として含んでいるから、本件特許発明1の「粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み」を充足する。

そうすると、本件特許発明1と甲4粉末発明とは、
「複数の粒子を含有する粒状材料であって、個々の粒子が粒状コアの表面に適用されたコーティングを有する粒状コアを含み、粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含み、そしてコーティングがポリマーを含む、粒状材料。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4-1>
粒状材料に関して、本件特許発明1は、「粒状構築材料」と特定するのに対し、甲4粉末発明は、この点を特定しない点。

<相違点4-2>
コーティングに関し、本件特許発明1は、「感光性」であって、また、「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤を有する」と特定するのに対し、甲4粉末発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、甲4粉末発明と本件特許発明1は、相違点4-1及び相違点4-2で相違し、これらの相違点は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲4粉末発明、すなわち、甲4に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
相違点4-1について
甲4には、粒状材料(コアが少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマーからなるシェルに包まれている粒子)の具体的な用途については、「塗料は、粉末塗料、水性または溶剤ベースの塗料であってもよく、塗料成分の選択は、当業者の一般的な知識に従う。」(上記1(8)カ)との記載があるのみであって、塗料用途の粒子を3D成形用の、すなわち、粒状構築材料とする動機もないから、相違点4-1は、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。

相違点4-2について
甲4には、少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマー(コーティング剤)に、相違点4-2に係る「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」を配合することについて記載及び示唆する記載はない。また、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」については、異議申立人の提示するいずれの証拠にも記載がない。
してみれば、甲4粉末発明において、相違点4-2に係る発明特定事項を有するようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
なお、甲4粉末発明は、コーティング剤に相当するものは「少なくとも1つの窒素含有官能基を有するオリゴマーおよび/またはポリマー」であって、具体的に「ポリアルキレンオキシド誘導体、好ましくはポリエチレンオキシド(PEO)誘導体、ポリプロピレンオキシド(PPO)誘導体、オレフィン変性PPO-PEOブロックコポリマー、アクリレート変性PEO-PPO-PE3ブロックコポリマー、ポリメチルビニルエーテル、ポリ-N-ビニルカプロラクタム、エチル(ヒドロキシエチル)セルロース、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)およびポリシロキサン、特に好ましいLCSTポリマーは、オレフィン性基で修飾されたシロキサンポリマー」が例示されているが、これらの具体的な化合物が、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」であることを示す証拠はないし、そのことが当業者の技術常識とも認められない。

よって、本件特許発明1は、甲4粉末発明、すなわち、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2、3、6ないし8について
本件特許発明1が、甲4に記載された発明ではなく、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2、3、6ないし8についても同様に、甲4に記載された発明ではないし、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)申立理由4のまとめ
以上のことから、申立理由4は、理由がない。

6 申立理由5(本件特許発明1ないし3、5ないし9、11及び13ないし15に対する甲5に基づく新規性進歩性)について
甲5は、米国特許出願公開第2016/0318250号公報であり、その公知日は、2016年11月3日であるから、本件特許の国際出願日である2016(平成28)年4月11日より後に公開された文献であるので、新規性及び進歩性の根拠となり得ない文献である。
よって、当該文献に基づく新規性及び進歩性に関する申立理由5には、理由がない。

7 申立理由6(本件特許発明1、3、5ないし7、9、11及び12に対する甲6に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲6多孔質チタン発明とを対比する。
甲6多孔質チタン発明の「多孔質チタン」は、本件特許発明1の「粒状構築材料」に相当し、複数の粒子を有するものであることは明らかである。
甲6多孔質チタン発明の「多孔質チタン」は金属であるから、甲6多孔質チタン発明は、「粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含む」といえる。

そうすると、本件特許発明1と甲6多孔質チタン発明とは、
「複数の粒子を含有する粒状材料であって、粒状コアが金属、セラミック、または金属とセラミックの両者を含む、粒状構築材料。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6-1>
本件特許発明1は、「個々の粒子が粒状コアの表面に適用されたコーティングを有する粒状コアを含み」「そしてコーティングがポリマーを含む」と特定されるとともに、コーティングが「感光性」であって、また、「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤を有する」と特定するのに対し、甲6多孔質チタン発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、甲6多孔質チタン発明と本件特許発明1は、相違点6-1で相違し、この相違点は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲6多孔質チタン発明、すなわち、甲6に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
以下、相違点について検討する。
相違点6-1について
甲6には、多孔質チタンをコーティングする点については記載されていない。また、相違点6-1に係る「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」をコーティングに配合することについて記載及び示唆する記載もない。さらに、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」については、異議申立人の提示するいずれの証拠にも記載がない。
してみれば、甲6多孔質チタン発明において、相違点6-1に係る発明特定事項を有するようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
なお、甲6の3Dプリントは、甲6多孔質チタン発明の多孔質チタンを敷き詰め、造形する部分に感光性接着剤をスプレーガンで吐出することで積層していくものであって、甲6多孔質チタン発明の多孔質チタンが感光性接着剤でコーティングされているとは認められない。

よって、本件特許発明1は、甲6多孔質チタン発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明3、5ないし7について
本件特許発明1が、甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明3、5ないし7についても同様に、甲6に記載された発明ではないし、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲6多孔質チタン製造方法発明とを対比する。
甲6多孔質チタン発明の「多孔質チタン」は、本件特許発明1の「粒状構築材料」に相当し、複数の粒子を有するものであることは明らかである。
甲6多孔質チタン発明の「多孔質チタン」は金属であるから、甲6多孔質チタン発明は、「個々の粒子が金属、セラミック、または金属およびセラミックの組み合わせを含む粒状コアを含有する」といえる。

そうすると、本件特許発明9と甲6多孔質チタン製造方法発明とは、
「粒状構築材料を作成するための方法であって:
ここで個々の粒子が金属、セラミック、または金属およびセラミックの組み合わせを含む粒状コアを含有する、方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6-2>
本件特許発明9は、「感光剤は光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする、0.1重量%から20重量%の感光剤をポリマーに懸濁しまたは取着することによって感光性コーティングを調製し;そして感光性コーティングを5nmから500nmの被覆厚さで複数の粒子に適用し、」と特定するのに対し、甲6多孔質チタン製造方法発明は、この点を特定しない点。

新規性についての判断
上記対比したとおり、甲6多孔質チタン製造方法発明と本件特許発明9は、相違点6-2で相違し、当該相違点6-2は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明9は、甲6多孔質チタン製造方法発明、すなわち、甲6に記載された発明ではない。

進歩性についての判断
相違点6-2について検討する。
甲6には、多孔質チタンをコーティングする点については記載されていない。また、相違点6-2に係る「内部に懸濁されまたは取着された感光剤であって、光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」をコーティングに配合することについて記載及び示唆する記載もない。さらに、「光エネルギーの周波数で活性化された場合に、ポリマーが軟化して隣接する粒子に付着することを可能にする感光剤」については、異議申立人の提示するいずれの証拠にも記載がない。
してみれば、甲6多孔質チタン製造方法発明において、相違点6-2に係る発明特定事項を有するようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明9は、甲6多孔質チタン製造方法発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明11及び12について
本件特許発明9が、甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(3)のとおりであるから、本件特許発明9の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明11及び12についても同様に、甲6に記載された発明ではないし、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)申立理由6のまとめ
以上のことから、申立理由6は、理由がない。

第5 むすび
したがって、異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-02-26 
出願番号 特願2018-534599(P2018-534599)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 113- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 拓也  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 植前 充司
大島 祥吾
登録日 2020-04-09 
登録番号 特許第6689390号(P6689390)
権利者 ヒューレット-パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
発明の名称 粒状構築材料  
代理人 細井 玲  
代理人 大西 昭広  
代理人 古谷 聡  

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