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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) G02B
管理番号 1371746
判定請求番号 判定2020-600007  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 判定 
判定請求日 2020-03-02 
確定日 2021-03-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第4143691号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「光通信ケーブルの配線方法」は、特許第4143691号の請求項1、2に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す「光通信ケーブルの配線方法」(以下「イ号方法」という。)は、特許第4143691号(以下「本件特許」という。)の請求項1、2に係る発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。

第2 手続の経緯
本件特許に係る手続の経緯は、平成12年3月7日の出願であって、平成20年6月27日に特許権の設定登録がなされ、令和2年3月1日付け、同年3月2日提出の本件判定請求がなされ、その後、同年6月30日付け審尋が請求人に通知され、同年8月17日に請求人から判定請求書に係る手続補正書(補正された判定請求書を、以下「補正判定請求書」という。)、回答書が提出され、その後、同年10月2日に被請求人から判定請求答弁書が提出されたものである。
なお、本件特許に係る発明は、請求項1?3に係る発明が存在するが、補正判定請求書の5の「(3)本件特許発明の説明」において、請求項1、2に係る発明が記載されていることから、本件判定請求において、判定を求めている本件特許に係る発明は、請求項1、2に係る発明であると認める。
また、補正判定請求書によれば、本件判定請求の趣旨は、「イ号図面及び説明書に示す光通信ネットワークに使用する光通信ケーブルの配線方法および、その2局間の光通信ネットワーク雷対策と、アース回避回路接続工法は、特許第4143691号発明の技術的範囲に属する、との判定を求める。」というものであるが、前述のとおり、判定を求めている本件特許に係る発明は、請求項1、2に係る発明であり、特許第4143691号公報に記載された請求項1、2に係る発明は、「光通信ケーブルの配線方法」である。そして、後述するように、イ号について請求人は「配線方法」しか特定していない。したがって、本件判定請求の趣旨は、上記第1で記載したとおりのものと認める。

第3 本件特許の請求項1、2に係る発明及び本件特許明細書の記載
1 本件特許の請求項1、2に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(当判定において、構成要件ごとに分説し、記号A?Dを付し適宜改行した。以下「構成要件A」などという。)。

「A アース手段と電気的に接続された光通信ケーブルと、電力回線と電源回路と、
B 通常電圧の電流が流れている間は絶縁を保ち、一旦高電圧がかかると絶縁が破壊されて低抵抗となり、誘導側端子とアース側端子との間が電気的に導通する誘導素子を介して誘導側端子とアース側端子とを接続するサージ電流誘導回路とを布設し、前記電力回線から前記電源回路に電力を供給し、サージ電流が生じた場合、前記電源回路に流れることなくアース側にサージ電流を流す配線用成端箱における光通信ケーブルの配線方法であって、
C 光通信ケーブルの圧着端子を、挿通管とその端部に連結された座金部とから構成し、光通信ケーブルの牽引用テンションメンバーの端部を該挿通管内に挿入し、前記挿通管をかしめることにより前記圧着端子と前記牽引用テンションメンバーの端部とを接合し、これらの接合部分を絶縁性の素材により被覆し、前記座金部を前記サージ電流誘導回路のアース側端子にネジ止め固定すると共に、
D 前記電力回線が単相交流回線であり、該単相交流回線のうち外部でアースされていない二相と電源回路とを接続する途中の箇所を前記サージ電流誘導回路の前記誘導側端子と電気配線により接続し、外部でアースされた一相を前記アース手段として前記サージ電流誘導回路のアース側端子と接続したことを特徴とする光通信ケーブルの配線方法。」

なお、本件特許の請求項2に係る発明は、以下のとおりである。
「光通信ケーブルで接続された少なくとも2局の通信局舎間において、該光通信ケーブルの両端部の牽引用テンションメンバーが、それぞれアース手段に接続されていることを特徴とする請求項1記載の光通信ケーブルの配線方法。」

2 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、光通信ケーブルの端部の接続などに関して、以下のように記載されている(下線は当判定で付与。以下同様。)。
(1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する分野】
本発明は、光通信ケーブルによる通信設備の布設にあたり、主に光通信ケーブルの端部を、建物内部にある機器等に接続するための配線方法およびその配線用成端箱に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、光ケーブルによる通信は、国際電話などの大規模通信網のみならず、その大量で高速なデータ送信力の有用性および通信技術のデジタル化に伴い、イントラネットやインターネット、またはケーブルテレビや携帯電話網といった多くの通信網の中核となりつつある。特に、コンピューターネットワークの爆発的成長と携帯電話等の無線通信手段の急速な普及に伴い、その需要は年々高まっている。
【0003】
したがって、光通信ケーブルの布設もいたるところになされるようになってきている。光ケーブルは実質的にはガラス繊維の束であり、導通体ではないことから、従来は落雷等の被害とはほとんど無縁で有ると考えられていた。ところが、無線通信手段の普及に伴い、その中継局のアンテナがいたるところに建設されるようになると、この局舎において落雷の被害報告が頻繁に寄せられるようになってきた。当然、アンテナそのものは避雷対策がなされているはずなのに、このような落雷被害が出ている原因は、落雷がアンテナそのものへの直雷被害だけではないためである。
【0004】
すなわち、近傍への落雷などによって生じる誘導雷が、この光通信ケーブルの牽引用に使用されるテンションメンバーに誘導され、これが光通信ケーブルの端部が接続された局舎の配線箱( 以下「成端箱」と称する) を破壊するなどの被害であることが判明した。このような被害は携帯通信網のみならず、他の通信網も同様であることが最近になって大きな問題点として取り上げられつつある。
【0005】
光通信ケーブルのテンションメンバーは、牽引の際または端部固定の際に、光ケーブルそのものでは強度を保てないためにケーブルの中心に入れられた金属製のワイヤーであり、導体である。従来は、光通信ケーブルを牽引して布設した後は、その端部を切開し、テンションメンバーは剥き出してネジ止めすると共に、個々の幹線ケーブルは別に設けた保持手段により保持してコネクタ等に接続していた。
【0006】
この幹線ケーブルはコネクタ付光ケーブルとそれぞれ融着して、融着点をストッパーなどと称されるものにより保持していたが、各ケーブルの本数が増えると、このようなストッパーからコネクタに至るまでの間を鋭角で配線しなくてはならない状態が生じる。その結果、地震の発生などによりケーブルが断裂するなどの被害が出ていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題に鑑みなされたもので、光通信ケーブルの端部を確実に保持すると共に、誘導雷等のサージ電流対策がなされ、しかも個々の光ケーブルを適切に配線して断裂等を防止できる光通信ケーブルの配線方法およびその配線用成端箱を提供することを目的としている。」

(2)「【0012】
【発明の実施の形態】
本発明においては、光通信ケーブルのテンションメンバーを固定するにあたり、その先端部分が露出しないようにすると共に、これをサージ電流誘導回路に固定し、さらにアースに直結したものである。
従来のテンションメンバー固定手段では、そのほとんどが先端を剥き出しにした状態でネジ止め等をしていたのに過ぎなく、しかもアースされていたわけでもなく、そのため誘導雷などのサージ電流は行き所を失い、ここでスパーク等をして周囲を破壊したり焼損したりさせていたものと考えられる。
これに対して、その先端を露出させること無く圧着端子などによって固定し、これをアースに直結すると共に、圧着端子との接合部分は絶縁体で被覆してしまうことにより、サージ電流をアースに逃がすと共に、被覆によりスパーク等を防止するものである。」

(3)「【0018】
【実施例】
図1は本実施例の配線用成端箱の基本概念を示す模式的配線図、図2はサージ電流誘導回路とこれに対する配線例を示す回路図、図3はテンションメンバー先端の接続方法を示す側面断面図である。
本実施例の配線用成端箱の基本構成は、各構成部品を収納するケース1と、サージ電流誘導回路2、電源回路としてのコンセント3、光通信ケーブル5と電力回線6とを引き込む配管4と、個々の幹線ケーブル52を配線する成端部7とから構成される。
【0019】
サージ電流誘導回路2としては、例えば特公平7-118361号公告公報に示された「モリブデン避雷器」や、本出願人が先の出願「特願平11-350043号」で示した「サージ電流回避素子」などを応用的に使用したものを適用できる。すなわち、高電圧のサージ電流が保護すべき回路に流れようとした場合、機器側より遥かに速い反応速度で回路を大きく開く誘導素子を介して、機器側とアース側とを接続したものである。
すなわち、図2に示すようにアース線9に接続するアース側端子22と、コンセント3からの回路を接続する誘導側端子23とを有し、誘導素子21を介してこれらを接続している。通常電圧の電流が流れている間、誘導素子21は絶縁を保ち、一旦高電圧がかかると絶縁が破壊され一挙に低抵抗となるように設けられている。
【0020】
さらに、上記した「サージ電流回避素子」で示された導通方向が一方方向であるものを適用すると望ましい。導通方向としては誘導側端子23からアース側端子22へのみの導通とすることにより、アース側でサージ電流が発生してもコンセント3を介して機器に流れることは回避される。したがって、サージ電流が光通信ケーブル5に誘導した場合は直接アース線9に流れ、電力回線6に誘導した場合はサージ電流誘導回路2へ流れる。また、万が一にもアース線9にサージ電流が誘導した場合にあっては、この光通信ケーブル5で接続された隣接する局社等において、上記したものと同様の配線を布設しておくことにより、光通信ケーブル5を介してその隣接する局社のアース線に流れる。すなわち、どのような方向からサージ電流が誘導されたとしても、成端箱およびこれに接続された機器のすべてを保護することができる。
【0021】
図3に示すように、光通信ケーブル5のテンションメンバー51は、その先端を挿入できる挿通管81とこれに一体形成された座金部82とからなる圧着端子8に装着される。装着にあたっては、テンションメンバー51の先端部分を挿通管81内に挿入してその周囲をかしめてこれらを圧着し、さらにその周囲を絶縁体であるゴム管83で覆う。これによりテンションメンバーと圧着端子8は接合され、座金部82をサージ電流誘導回路2のアース側端子22にネジ止めして固定される。したがって、先端が露出しない上、絶縁体で被覆されているためテンションメンバー51に誘導した誘導雷はスパーク等を生じることなくアース側に流れる。
【0022】
アース手段の確保としては、図1および図2に示すように個別のアース線を設けても良いが、単相交流の一相をアースとし使用することも可能である。すなわち、外部でアースされている一相をサージ電流誘導回路のアース側端子に接続し、他の二相はコンセントに接続する。これにより更なるアース線の工事をしなくてもよくなる。
・・・
【0026】
【発明の効果】
本発明は上記のように構成したので次に上げる効果を得られる。
(1)テンションメンバーが堅固に固定されると共に、その先端が露出していないため、誘導雷によるスパークの危険がなく、光通信ケーブルの端部が確実に保持される。
(2)テンションメンバーおよび電力回線からの誘導雷等の到来があっても、サージ電流対策が十分になされているため、成端箱および接続した機器を損傷することがない。
(3)個々の幹線ケーブルが、適切な余長をもって保持されるため、適切に配線して断裂等の事故を防止できる。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、補正判定請求書において、概ね以下のように主張している。
(1)請求人によるイ号方法の特定
「[請求項1](a+b+c+d)
a アース手段と、電気的に接続された光通信ケーブルと、電力回線と電源回路と、
b 通常電圧の電流が流れている間は絶縁を保ち、一旦高電圧がかかると絶縁が破壊されて低抵抗となり、誘導側端子とアース側端子との間が電気的に導通する誘導素子を介して誘導側端子とアース側端子とを接続するサージ電流誘導回路とを布設し、前記電力回線から前記電源回路に電力を供給し、サージ電流が生じた場合、前記電源回路に流れることなくアース側にサージ電流を流す配線用成端箱における光通信ケーブルの配線方法であって、
c 光通信ケーブルの圧着端子を、挿通管とその端部に連結された座金部とから構成し、光通信ケーブルの牽引用テンションメンバーの端部を該挿通管内に挿入し、前記挿通管をかしめることにより前記圧着端子と前記牽引用テンションメンバーの端部とを接合し、これらの接合部分を絶縁性の素材により被覆し、前記座金部を前記サージ電流誘導回路のアース側端子にネジ止め固定すると共に、
d 前記電力回線が単相交流回線であり、該単相交流回線のうち外部でアースされていない二相と電源回路とを接続する途中の箇所を前記サージ電流誘導回路の前記誘導側端子と電気配線により接続し、外部でアースされた一相を前記アース手段として前記サージ電流誘導回路のアース側端子と接続したことを特徴とする光通信ケーブルの配線方法。
[請求項2](a+b+c+d)+e
e 光通信ケーブルで接続された少なくとも2局の通信局舎間において、該光通信ケーブルの両端部の牽引用テンションメンバーが、それぞれアース手段に接続されていることを特徴とする請求項1記載の光通信ケーブルの配線方法。」(補正判定請求書4頁12行?6頁2行)

なお、補正判定請求書において、イ号方法の特定について、甲号証や頁の記載が混在しているが、そのような記載は根拠箇所を指し示すものであり、具体的な特定とはいえないので省略して記載した。

(2)本件特許発明の各構成要件とイ号方法の各構成は一致する(5(5)本件特許発明とイ号の対比)。

(3)「○3(判定注;原文は○の中に3。以下同じ)とc点
甲第13号証のイメージ図の建築物には、サーバー・光通信ネットワーク19インチラックが掲示されていないが、工場・病院・公共施設・自治体の建築には、各階フロアーとサーバー間に光ケーブルを敷設し、さらに、通信会社の通信ケーブルをメタルケーブルから光ケーブルに配線しなければ、事務所のホームページにサービス、製品紹介する動画をインターネット上では開示は不可能である。
○3とc点の光ケーブルと雷対策とアース接続の配線工法のかかる点に実質的な差異はない。
仮にも、光通信ケーブル内の牽引用テンションメンバーがプラスチック製か、または、金属のテンションメンバーが収納していない光通信ケーブルだけだとしても、敷地内の電柱に配線する場合は、テンションメンバーが収納された光通信ケーブルでなくては、入線時に許容曲げ半径と入線時の張力が光ケーブル内の光ファイバーにテンションがかかり断線したり、被覆に傷がつくと通信が不可能になる事からも、かかる点には実質的差異はない。
仮にも、光ファイバー内の牽引用テンションメンバーが一般家庭、事務所に配線せずに別の光ファイバーとして、屋外の接続した盛り通信ケーブル収納箱内には、テンションメンバーとアース接続がされていることからも、均等の範囲に含まれる。」(13頁1?19行)

(4)予備的な主張として、本件特許発明の構成要件Cに関して、「光通信ケーブル内の牽引用テンションメンバーが、プラスチック製または、収納されていない光ファイバーケーブルについて、均等である」(14頁5?7行)。

(5)上記(1)?(4)から、イ号方法は、本件特許請求の範囲の構成と同一か、少なくとも、均等であることから、本件特許発明の技術的範囲に属する(16頁7行?8行)。

2 被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書(以下「答弁書」という。)において、以下のように主張している。

「判定請求書(令和2年 3月 1日付)及びその手続補正書(令和2年8月17日付)に記載されたイ号の各構成要件の内容及びその特定の根拠が著しく不明瞭であるため、請求人の主張するイ号を把握することは困難である。回答書(令和2年8月17日付)において請求人が主張しているようにサンダーカットハイブリッドがイ号であると仮定しても、その各構成要件が本件特許発明(特許第4143691号発明)の構成要件を充足しないことは明らかである。
よって、イ号は本件特許発明の技術的範囲に属しないと思料する。」(2頁5行?12行)

第5 イ号方法の特定
請求人によるイ号方法の特定では、どのような根拠に基づいて特定されたか不明確な部分があるので、請求人が提出した補正判定請求書や回答書等に基づいて、イ号方法の構成について検討する。

1 補正判定請求書や回答書等におけるイ号方法の記載について
(1)回答書には「3月に提出しています、「6.証拠方法」甲第1号証?甲第13号証の中の甲第13号証の「サンダーカットハイブリッド」を、イ号として特定し、回答書と補正書を提出いたします。」(1頁下から6行?下から4行)と記載されており、補正判定請求書4頁9行?8頁下から2行には、「(4)イ号の説明」として、イ号方法について、a?eの説明が記載されており、当該記載によれば、主に甲第13号証のP80、P98に基づいて、イ号方法が特定されている。したがって、当判定においては、上記「(4)イ号の説明」、甲第13号証に記載された図面及び説明を「イ号図面及びその説明書」と解して、P80の図面及び説明、P98のサンダーカットハイブリッドの図面及び説明に基づいて、イ号方法を特定する。

(2)甲第13号証のP98における左下図「ハイブリッドのしくみ」(以下「甲13左図」という。)から、アース手段、通信線、加入者保安器、主装置、サンダーカット(避雷器)、耐圧トランス、電源線、柱上トランスを有すること、及びアース手段が加入者保安器に接続され、加入者保安器から通信線が主装置に延びており、主装置から耐圧トランスに配線が延びており、耐圧トランスから電源線が柱上トランス方向に延びており、柱上トランスがアース手段に接続されていること、並びに加入者保安器から主装置に延びている通信線の途中から、別の配線がサンダーカット(避雷器)に延びており、サンダーカット(避雷器)から耐圧トランスと柱上トランス間の電源線に配線が延びていることが看て取れる。したがって、アース手段と通信線は電気的に接続されていることは明らかである。

(3)上記(2)に加えて、甲第13号証のP98の5行の「電源・アース・通信回線から侵入する雷サージに有効」の記載も併せて見れば、電力線、電源回路を有しており、技術常識から見て、電力線は交流線であると解される。さらに、甲13左図下の文も参酌すれば、雷サージを遮断しバイパスさせるサンダーカット(避雷器)を有しているといえる。

(4)上記(2)、(3)から、アース手段と電気的に接続された通信線と、電力線と電源回路と、サンダーカット(避雷器)を布設し、雷サージ電流及び電圧が生じた場合、雷サージ電流及び電圧を遮断しバイパスさせていることが読み取れる。

(5)甲第13号証のP98の表によれば、配線形態、適用回線としてADSL、アナログ、ISDNと記載されていることから、甲13左図の通信線は、ADSL、アナログ、ISDNを対象とした通信線であると解される。

(6)甲13左図によれば、通信線の配線方法が開示されていることは明らかである。

2 当審によるイ号方法の特定
上記1を総合して、イ号方法を上記本件特許発明の構成要件A?Dに対応させて整理すると、イ号方法は以下のとおり分説した構成を具備するものと認められる(構成ごとに記号a?dを付した。以下、分説した構成を「構成a」などという。)。

「a アース手段と電気的に接続された通信線と、電力線と電源回路と、
b サンダーカット(避雷器)を布設し、雷サージ電流及び電圧が生じた場合、雷サージ電流及び電圧を遮断しバイパスさせる通信線の配線方法であって、
d 電力線が交流線である、通信線の配線方法。」

第6 属否の判断
まず、イ号方法が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて検討し、次に、本件特許の請求項2に係る発明の構成要件を充足するか否かについて検討する。
事案に鑑みて、構成要件A、Cについて検討する。

1 構成要件Aについて
(1)イ号方法の構成aの「アース手段」、「電力線」、「電源回路」は、本件特許発明の「アース手段」、「電力回線」、「電源回路」に相当する。

(2)イ号方法の構成aの「通信線」は、上記第5の1(5)で説示したように、ADSL、アナログ、ISDNを対象とした通信線が前提となっており、光通信を前提としていないから、本件特許発明の構成要件Aの「光通信ケーブル」に相当するとはいえない。

(3)したがって、イ号方法の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足しない。

2 構成要件Cについて
(1)上記1で検討した、イ号方法の「通信線」が「光通信ケーブル」に仮に相当するとしても、イ号方法では、牽引用テンションメンバーやその端部の接合方法が不明であり、本件特許発明の構成要件Cに係る「光通信ケーブルの圧着端子を、挿通管とその端部に連結された座金部とから構成し、光通信ケーブルの牽引用テンションメンバーの端部を該挿通管内に挿入し、前記挿通管をかしめることにより前記圧着端子と前記牽引用テンションメンバーの端部とを接合し、これらの接合部分を絶縁性の素材により被覆し、前記座金部を前記サージ電流誘導回路のアース側端子にネジ止め固定する」との構成を有していないことは明らかである。

(2)したがって、イ号方法の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足しない。

3 均等論の適用について
上記1、2で説示したとおり、イ号方法の構成a、cは、それぞれ本件特許発明の構成要件A、Cを充足しない。
請求人は、上記第4の1(3)、(4)において示したように、均等論の適用について言及しており、イ号方法の通信線が光通信ケーブルであることを前提とした上で、牽引用テンションメンバーがプラスチック製か、または、金属のテンションメンバーを収納していないものであったとしても、本件特許発明と均等である旨主張していると認められる。
そこで、以下、検討する。

(1)均等の要件について
均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するための要件は、最高裁平成10年2月24日判決(平成6年(オ)第1083号)にて、以下のとおり判示されている。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)上記部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)上記のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、上記対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」(以下上記判示事項の要件である「(1)?(5)」を、「第1要件」などという。)。

(2)第1要件について
上記判例における「特許発明の本質的部分」は、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分を意味するといえる。
この点を本件特許発明について検討すると、本件特許発明は、上記第3の2(1)に示したように「光通信ケーブルによる通信設備の布設にあたり、主に光通信ケーブルの端部を、建物内部にある機器等に接続するための配線方法・・・に関するものであ」(【0001】【発明の属する分野】)り、「光通信ケーブルの端部を確実に保持すると共に、誘導雷等のサージ電流対策がなされ・・・る光通信ケーブルの配線方法・・・を提供することを目的として」(【0007】【発明が解決しようとする課題】)おり、「本発明は上記のように構成したので・・・(1)テンションメンバーが堅固に固定されると共に、その先端が露出していないため、誘導雷によるスパークの危険がなく、光通信ケーブルの端部が確実に保持される。」(【0026】【発明の効果】)ものである。
したがって、本件特許発明は牽引用テンションメンバーを備える光通信ケーブルを用いることが前提となっており、本件特許発明において「光通信ケーブルの牽引用テンションメンバー」は、本件特許発明の「光通信ケーブルの端部を確実に保持する」、「誘導雷等のサージ電流対策がなされる」という課題を解決するための本件特許発明の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核であることは明らかである。
このことから、本件特許発明において、「光通信ケーブルの牽引用テンションメンバー」は、本質的部分である。
よって、本件特許発明は特許請求の範囲に記載された構成中にイ号方法と異なる部分(「光通信ケーブルの牽引用テンションメンバー」を備えること)があり、かつ、その異なる部分が本件特許発明1の本質的部分であるから、上記第1要件を満たしていない。

(3)小活
以上のとおり、上記第1要件に該当しないから、上記第2?5要件を検討するまでもなく、イ号方法は、本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、本件特許発明の技術範囲に属するとすることはできない。

4 本件特許発明についてのまとめ
よって、イ号方法は、本件特許発明の構成要件A、Cを充足しないから、他の構成要件について検討するまでもなく、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

5 本件特許の請求項2に係る発明について
本件特許の請求項2は独立請求項である請求項1に従属しており、上記1?4で説示したように、イ号方法は、本件特許発明(請求項1に係る発明)の技術的範囲に属しないので、同様に、本件特許の請求項2に係る発明の技術的範囲にも属しない。

第7 請求人の主張について
1 請求人は、「甲第13号証のイメージ図の建築物には、サーバー・光通信ネットワーク19インチラックが掲示されていないが、工場・病院・公共施設・自治体の建築には、各階フロアーとサーバー間に光ケーブルを敷設し、さらに、通信会社の通信ケーブルをメタルケーブルから光ケーブルに配線しなければ、事務所のホームページにサービス、製品紹介する動画をインターネット上では開示は不可能である。」(第4の1(3)参照)と主張する。
当該主張について検討すると、甲第13号証には、動画を開示することなどの明示的な記載はなく、また、仮にそのような動画を開示することが前提であったとしても、甲第13号証のP98にはADSLを使用することが記載されているから、そのような手段を用いれば動画の開示は可能であり、光通信ケーブルがなければ、動画の開示が不可能であるとまではいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

2 なお、請求人は、令和2年8月17日付け手続補正書において、「甲第9号証から甲第12号証は、証拠書類から削除いたします。」(5 補正の内容(4))としているが、仮に当初の判定請求書で主張していた甲第9号証が削除されていないとして、請求人が主張するイ号方法を特定することができるか、以下に予備的な見解を示す。
甲第9号証の「株式会社白山パンフレト「サンダーカットA-2」配線図・施工完成写真」を参酌すると、図面の左方向に「光回線」と記載されていることから、甲第9号証と甲第13号証の製品が同じ製品であるのかなどの確認すべき点は多々あるものの、甲第9号証を基にイ号方法を特定すれば、光回線を対象とする点は特定できる可能性はある。しかしながら、甲第9号証を参酌しても、依然として、「牽引用テンションメンバー」及びその端部の接合方法については特定することはできないから、請求人の主張するイ号方法として特定することはできない。
したがって、請求人が当初の判定請求書で主張していた甲第9号証を基にイ号方法を特定したとしても、イ号方法が本件特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。

第8 むすび
以上のとおり、イ号方法は、少なくとも本件特許の請求項1、2に係る発明の構成要件A、Cを充足しないから、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
別掲

 
判定日 2021-02-26 
出願番号 特願2000-61789(P2000-61789)
審決分類 P 1 2・ - ZB (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 芳徳  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 井上 博之
野村 伸雄
登録日 2008-06-27 
登録番号 特許第4143691号(P4143691)
発明の名称 光通信ケーブルの配線方法およびその配線用成端箱  
代理人 吉田 芳春  

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