• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1372056
審判番号 不服2020-9828  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-14 
確定日 2021-04-05 
事件の表示 特願2017-509704「結晶性有機半導体材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月25日国際公開、WO2016/027218、平成29年 9月28日国内公表、特表2017-528447、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27年)8月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年8月18日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年10月18日付け :拒絶理由通知書
令和2年2月3日 :意見書,補正書の提出
令和2年4月21日付け :拒絶査定
令和2年7月14日 :審判請求書,手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和2年4月21日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1?22に係る発明は,本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び5に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特開2009-78963号公報(以下「引用例1」という。)
引用文献2.特表2011-514884号公報(以下「引用例2」という。)
引用文献5.特表2011-522097号公報(以下「引用例3」という。)


第3 本願発明
本願の請求項1?19に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明19」という。)は,令和2年7月14日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
結晶性有機半導体材料を製造する方法であって,
(a)少なくとも1種の溶媒(L1)と,(L1)とは異なる少なくとも1種の溶媒(L2)とを含有する溶媒混合物に少なくとも1種の有機半導体A)を入れた溶液を用意する工程,ここで溶媒(L1)は,
・1013.25mbarで少なくとも140℃という沸点,
・23℃で少なくとも1.2mPasという粘度,及び
・20℃で少なくとも31.5mN/mという表面張力
を示し,
(b)工程(a)で用意した溶液を基板表面に適用して,溶媒混合物を蒸発させ,有機半導体A)を結晶化させる工程
を有し,前記少なくとも1種の有機半導体A)が,
一般式(II.a)のリレン化合物:
【化1】


上記式中,
nは,1,2,3,又は4であり,
R^(a),及びR^(b)は相互に独立して,水素,非置換又は置換されたアルキル,非置換又は置換されたアルケニル,非置換又は置換されたアルカジエニル,非置換又は置換されたアルキニル,非置換又は置換されたシクロアルキル,非置換又は置換されたビシクロアルキル,非置換又は置換されたシクロアルケニル,及び非置換又は置換されたヘテロシクロアルキルから選択され,
基R^(n1),R^(n2),R^(n3),及びR^(n4)は,相互に独立して,水素,F,Cl,Br,I及びCNから選択され,
溶媒(L1)が,以下のもの:
L1.1)式(I.1)の化合物:
【化2】


から選択される,20℃,及び1013mbarで液状の化合物少なくとも1種,
上記式中,
X^(1)及びX^(2)は,*-(C=O)-O-であり,ここで*は,芳香族の炭素環に対する結合点であり,かつ,
R^(c),及びR^(d)は,独立して,非分枝状,及び分枝鎖状のC_(1)?C_(12)アルキル,及びC_(2)?C_(12)アルケニルから選択され,
L1.3)ヒドロキシ安息香酸エステル,
及びこれらの化合物の混合物
から選択され,
溶媒(L2)が,
・脂環式環を含む多環式炭化水素とは異なる脂肪族,脂環式,及び芳香族の炭化水素,
・芳香族エーテル,
・開鎖脂肪族エーテル,ポリエーテル,エーテルアルコール,及び環状エーテル,
・芳香族脂肪族ケトンとは異なるケトン,
・安息香酸アルキル,ヒドロキシ安息香酸エステル,およびアルキレンカーボナートとは異なるエステル,
・脂肪族,及び脂環式アルコール,
・ベンゼン系アルコール,
・ハロゲン化芳香族化合物,
・チオフェノール,及びアルキルチオ置換されたベンゼン,
・5員環,6員環,又は7員環のシクロヘテロアルキル基に縮合されたフェニル基を有する,芳香族化合物,
・5員環のヘテロアリール化合物,及びベンゾ縮合した5員環のヘテロアリール化合物,
・芳香族カルボン酸,
・芳香族アルデヒド,
・トリフルオロメチル置換されたベンゼン化合物,
・シアノ置換,又はイソシアノ置換されたベンゼン化合物,
・ニトロ置換されたベンゼン化合物,
・フェニルスルホン,
・6員環のヘテロアリール化合物,及びベンゾ縮合された6員環のヘテロアリール化合物,
・ジメチルスルホキシド(DMSO)およびN-メチルピロリドンとは異なる非プロトン性極性溶媒,及び
・これらの化合物の混合物
から選択される,前記方法。」

本願発明2?15は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明16は本願発明1?15のいずれかの発明により得られる有機半導体結晶の使用の発明である。また,本願発明17は,本願発明1の「有機半導体材料を製造する方法」を「電子デバイス,光学デバイス,又はセンサの製造方法」に限定した発明であり,本願発明18?19は,本願発明17を減縮した発明である。


第4 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2009-78963号公報)には,次の記載がある。
「【0005】
さらに,基板上に,有機半導体化合物が可溶な有機溶媒を塗布して液膜を形成した後に有機半導体化合物を蒸着やスパッタリング等により付着させ,該化合物が前記有機溶媒に溶解した状態を経由して,その後に前記有機溶媒を蒸発させることで有機半導体化合物の薄膜を作製する方法が提案されている(例えば,非特許文献2ならびに3を参照。)。」
「【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果,基板上に,有機半導体化合物が可溶な有機溶媒を塗布して液膜を形成した後に有機半導体化合物を蒸着やスパッタリング等により付着させ,該有機溶媒液膜中で有機半導体化合物を成長させて有機半導体化合物の単結晶薄膜を作製する方法において,前記有機溶媒の誘電率が有機半導体化合物の単結晶薄膜の形成に非常に大きな影響を及ぼし,誘電率が4.5以上である有機溶媒を用いた場合に振動現象を抑制することができ,大面積かつ均一な単結晶薄膜が得られるという予期せぬ効果を見出した。本発明はこのような知見に基づきなされるに至ったものである。」
「【0012】
以下,本発明について詳細に説明する。
本発明の有機半導体化合物の単結晶薄膜の作製方法は,(1)誘電率が4.5以上でありかつ有機半導体化合物が可溶である有機溶媒を,基板上に塗布して液膜を形成する工程,(2)前記有機溶媒液膜に前記有機半導体化合物を供給し溶解させる工程,および(3)前記有機溶媒中で前記有機半導体化合物を結晶化させる工程を含むことを特徴とする。
【0013】
(1)有機溶媒液膜形成工程
本発明では,まず,特定の有機溶媒を基板上に塗布して,有機溶媒液膜(以下,オイル薄膜ともいう。)を形成する。」
「【0016】
有機溶媒は,誘電率が4.5以上であるものが用いられる。誘電率が4.5以上の有機溶媒は,有機半導体化合物の溶解度が適度な範囲であり,このような有機溶媒を用いることで,有機半導体化合物を基板上に付着させる際に基板上に形成された有機溶媒液膜の表面が波打つ,いわゆる振動現象を抑制して有機半導体化合物の結晶を均一に成長させることができ,大面積かつ均一な単結晶薄膜を効率的に作製することが可能となる。この理由については,未だ明確にはわかっていないが,誘電率が高い有機溶媒は,基板ならびに有機半導体化合物の両方に対して適度な相互作用をもつために,基板界面上での単結晶薄膜作製プロセスが容易となり,また,単結晶化の速度と有機半導体化合物の溶解速度とのバランスをとることができると考えられている。」
「【0018】
本発明に用いられる有機溶媒としては,ハロゲン系炭化水素,エステル系化合物,エーテル系化合物,シアノ系化合物,ケトン系化合物,アミノ系化合物,アルコール系化合物,カルボン酸系化合物,アミド系化合物,複素環系化合物,リン酸エステル系化合物が好適に用いられる。好ましくは,炭素数1?100のエステル系化合物もしくは炭素数1?100のリン酸エステル系化合物である。より好ましくは,炭素数1?50のアルキル基を有する,炭素数1?100のエステル系化合物もしくは炭素数1?50のアルキル基を有する,炭素数1?100のリン酸エステル系化合物である。好ましくは,アジピン酸エステル系化合物,フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物であり,さらに好ましくは,フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物である。
【0019】
本発明に用いられる有機溶媒の具体例としては,例えば,クロロヘプタン(誘電率:5.5),クロロオクタン(誘電率:5.1),クロロトルエン(誘電率:4.7),ブロモヘプタン(誘電率:5.3),ジメトキシベンゼン(誘電率:4.5),アセトニトリル(誘電率:37.5),アセトフェノン(誘電率:17.3),アミルアルコール(誘電率:15.8),ジメチルアミン(誘電率:6.3),フタル酸メチルエステル(誘電率:8.5),フタル酸エチルエステル,フタル酸プロピルエステル,フタル酸ブチルエステル(誘電率:6.4),フタル酸ペンチルエステル,フタル酸ヘキシルエステル(誘電率:6.6),フタル酸ヘプチルエステル,フタル酸オクチルエステル(誘電率:5.1),フタル酸ノニルエステル,フタル酸(2-エチルヘキシル)エステル(誘電率:6.6),リン酸トリメチルエステル(誘電率:21),リン酸トリエチルエステル(誘電率:11),リン酸トリプロピルエステル,リン酸トリブチルエステル(誘電率:8.3),リン酸トリペンチルエステル,リン酸トリヘキシルエステル,リン酸トリヘプチルエステル,リン酸トリオクチルエステル,リン酸トリデシルエステル,リン酸トリ(2-エチルヘキシル)エステル(誘電率:7.0)などが挙げられる。」
「【0024】
(2)有機半導体化合物供給工程
次に,基板上に形成された有機溶媒液膜に有機半導体化合物を供給し,有機溶媒中に有機半導体化合物を溶解させる。
【0025】
本発明で用いられる有機半導体化合物としては,半導体特性を示す有機化合物であればいかなるものであってもよいが,好ましくは,芳香族炭化水素化合物,複素環化合物,もしくは半導体特性を持つ有機金属錯体である。芳香族炭化水素,チオフェン誘導体,もしくは半導体特性を持つ有機金属錯体がより好ましい。
本発明で用いられる有機半導体化合物としては,p型であってもn型であってもよい。p型有機半導体化合物の具体例としては,例えば,置換又は無置換の,ペンタセン類,ルブレン類,オリゴチオフェン類,フタロシアニン類などが挙げられる。また,ケミカル レビュー誌,第107巻,第953?1010頁,2007年に記載されている有機半導体材料も好適に用いられる。高い移動度を得る目的としては,ペンタセン,ルブレン,オリゴチオフェンが特に好ましい。
n型有機半導体化合物の具体例としては,例えば,フラーレン誘導体類,フッ素原子などの電子吸引性基で置換されたフタロシアニン類,ペリレン類などが挙げられる。
また,p型有機半導体化合物結晶とn型有機半導体化合物結晶とを積層させてpn接合型素子として利用してもよい。」
「【0027】
(3)結晶化工程
次に,有機溶媒中で有機半導体化合物を結晶化させて,有機半導体化合物の単結晶薄膜を作製する。
【0028】
有機溶媒中で有機半導体化合物の結晶成長させる,本発明の単結晶薄膜作製プロセスを行う温度は,25℃以下の低温が好ましく(より好ましくは-100℃以上25℃以下であり),より好ましくは0℃以下(さらに好ましくは-78℃以上0℃以下)である。低温で行うことにより,良好な単結晶薄膜をより効率的に形成することができる。この理由については,未だ明確なことはわかっていないが,次のように考えられている。すなわち,高温では,有機半導体材料の拡散する力が相対的に大きくなるため,多くの場所で単結晶の種が形成され,ランダムな方向に結晶が成長し,結晶軸の異なる界面が多く形成され,界面に対してアスペクト比の小さな,また,欠陥の多い結晶薄膜が形成されると考えられる。これに対し,低温になるほど,有機半導体単結晶の結晶生成過程と拡散過程のバランスがとれ,その結果,一定の方向(基板に対して水平な方向)に結晶が成長することが有利となり,欠陥のない大面積かつ均一な単結晶薄膜がより効率的に得られるようになると考えられる。
【0029】
なお,本発明の単結晶薄膜作製プロセスにおいて,単結晶の配列を制御するために,外部から電場,磁場,光,もしくは偏光を作用させてもよい。
【0030】
有機半導体化合物の単結晶薄膜が形成された後,有機溶媒液膜を除去することが好ましい。除去の方法としては,真空下で蒸留してもよいし,物理的な方法により除去してもよい。
場合によっては,有機溶媒液膜をそのまま残してもよい。また,極微量のオイル薄膜(9)成分が残った状態であってもよい。通常の方法では,完全にオイル薄膜(9)成分を除去することは難しいため,本発明の方法で有機半導体化合物の単結晶薄膜を作製したかどうかは,有機半導体化合物の単結晶薄膜中のオイル成分の微量分析を行うことで可能となる。」

(2)摘記の整理
以上の摘記によれば,引用例1には以下の事項が記載されているものと理解できる。
ア (1)誘電率が4.5以上でありかつ有機半導体化合物が可溶である有機溶媒を,基板上に塗布して液膜を形成する工程,(2)前記有機溶媒液膜に前記有機半導体化合物を供給し溶解させる工程,および(3)前記有機溶媒中で前記有機半導体化合物を結晶化させる工程を含む有機半導体化合物の単結晶薄膜の作製方法。(段落0012,0013,0024,0027)
イ 有機半導体化合物の単結晶薄膜が形成された後,有機溶媒液膜を除去すること。(段落0030)
ウ 有機溶媒として,フタル酸エステル系化合物が好ましいこと(段落0018)
エ 有機半導体化合物として,ペリレン類を用いること(段落0025)

(3)引用発明1
上記ア?エから,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「(1)誘電率が4.5以上でありかつ有機半導体化合物が可溶である有機溶媒を,基板上に塗布して液膜を形成する工程と,
(2)前記有機溶媒液膜に前記有機半導体化合物を供給し溶解させる工程と,
(3)前記有機溶媒中で前記有機半導体化合物を結晶化させる工程,
(4)前記結晶化の後,前記有機溶媒液膜を除去する工程と,
を含む有機半導体化合物の単結晶薄膜の作製方法であって,
前記有機溶媒がフタル酸エステル系化合物であり,
前記有機半導体化合物がペリレン類である,
有機半導体化合物の単結晶薄膜の作製方法。」

2.引用例2について
(1)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特表2011-514884号公報)には,次の記載がある。
「【0004】
従って,高スループットリールツーリール製造により製造され得る安価で且つ大面積の有機電子部品の可能な適用が与えられる場合,本技術分野においては,新規な有機n型半導体化合物,とりわけ所望の特性,例えば,空気安定性,高電荷輸送効率,共通溶媒における良好な溶解性を有するものが望まれる。
【0005】
上記に鑑みて,本教示は,有機半導体として利用され得る化合物,並びに上記で概説されるものを含む最高水準の技術の各種の欠陥及び欠点に対処することができる関連の材料,組成物,複合物及び/又は素子を提供する。
【0006】
更に具体的には,本教示は,半電導性活性を有する1-アルキル置換アルキル窒素官能化されたペリレンジイミド化合物及び誘導体を提供するものである。これらの化合物から製造された材料は,予期されない特性及び結果を示した。例えば,関連の代表的化合物と比較した場合,本教示の化合物は,電界効果素子(例えば,薄膜トランジスタ)において,より高い担体移動度及び/又はより優れた電流変調特性を有することができることが分かった。更に,本教示の化合物は,関連の代表的化合物と比較して一定の処理効果,例えば,溶液処理性を可能にするより良好な溶解性及び/又は周囲条件での良好な安定性,例えば空気安定性を有することができることが分かった。更に,前記化合物は,種々の半導体系素子における利用のための他の成分と共に埋め込むことが可能である。」
「【0043】
一局面において,本教示は,式I:
【化6】

[式中:
R^(1)及びR^(2)は,それぞれ存在する場合に,H,C_(1-30)アルキル基,C_(2-30)アルケニル基,C_(2-30)アルキニル基,C_(1-30)ハロアルキル基,及び3?22員環状部分から独立して選択され,ここでC_(1-30)アルキル基,C_(2-30)アルケニル基,C_(2-30)アルキニル基,C_(1-30)ハロアルキル基,及び3?22員環状部分のそれぞれは,ハロゲン,-CN,-NO_(2),-C(O)H,-C(O)OH,-CONH_(2),-OH,-NH_(2),-CO(C_(1-10)アルキル),-C(O)OC_(1-10)アルキル,-CONH(C_(1-10)アルキル),-CON(C_(1-10)アルキル)_(2),-S-C_(1-10)アルキル,-O-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)(C_(1-10)アルキル),-NH(C_(1-10)アルキル),-N(C_(1-10)アルキル)_(2),C_(1-10)アルキル基,C_(2-10)アルケニル基,C_(2-10)アルキニル基,C_(1-10)ハロアルキル基,C_(1-10)アルコキシ基,C_(6-14)アリール基,C_(3-14)シクロアルキル基,3?14員環シクロヘテロアルキル基及び5?14員環ヘテロアリール基から独立して選択される1?4個の基で場合により置換され;
それらの両方が共通の炭素原子に結合する少なくともR1の1つ及びR2の1つは,C_(1-30)アルキル基,C_(2-30)アルケニル基,C_(2-30)アルキニル基,C_(1-30)ハロアルキル基,及び3?22員環状部分から独立して選択され,それぞれ,本明細書に記載されるように場合により置換され;
R^(3),R^(4),R^(5)及びR^(6)は,独立してH又は電子求引性基であり;及び
nは,1,2,3又は4である]を有する化合物を提供するものである。」
「【0048】
特定の実施態様において,R^(3),R^(4),R^(5)及びR^(6)の内の少なくとも1つは,Br又は-CNであってよい。例えば,R^(3)は,H,F,Cl,Br,I又は-CNであってよく;R^(4)は,H,F,Cl,Br,I又は-CNであってよく;R^(5)は,H,F,Cl,Br,I又は-CNであってよく;及びR^(6)は,H,F,Cl,Br,I又は-CNであってよい。特定の実施態様において,R^(3),R^(4),R^(5)及びR^(6)のそれぞれは,Br又は-CNであってよい。例えば,R^(3)及びR^(4)のそれぞれBr又は-CNであってよいが;一方でR^(5)及びR^(6)のそれぞれはHである。他の実施態様において,R^(3)及びR^(6)のそれぞれはBr又は-CNであってよいが;一方でR^(4)及びR^(5)のそれぞれはHである。」
「【0067】
本明細書に開示される化合物の特定の実施態様が共通溶媒に可溶であり得る場合,本教示は,電気素子,例えば,薄膜半導体,電界効果素子,有機発光ダイオード(OLED),有機光電装置,光検出器,コンデンサ,センサを製造する際の処理効果を提供することができる。本明細書で用いられる場合,少なくとも1mgの化合物が1mLの溶媒に溶解され得る場合,化合物は溶媒に可溶であると考えることができる。一般有機溶媒の例としては,石油エーテル;アセトニトリル;芳香族炭化水素,例えば,ベンゼン,トルエン,キシレン,メシチレン;ケトン,例えば,アセトンやメチルエチルケトン;エーテル,例えば,テトラヒドロフラン,ジオキサン,ビス(2-メトキシエチル)エーテル,ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,t-ブチルメチルエーテル;アルコール,例えば,メタノール,エタノール,ブタノール,イソプロピルアルコール;脂肪族炭化水素,例えば,ヘキサン;アセテート,例えば,酢酸メチル,酢酸エチル,ギ酸メチル,ギ酸エチル,酢酸イソプロピル,酢酸ブチル;アミド,例えば,ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド;スルホキシド,例えば,ジメチルスルホキシド;ハロゲン化脂肪族及び芳香族炭化水素,例えば,ジクロロメタン,クロロホルム,塩化エチレン,クロロベンゼン,ジクロロベンゼン,トリクロロベンゼン;環式溶媒,例えば,シクロペンタノン,シクロヘキサノン,2-メチルピロリドンが挙げられる。一般的な無機溶媒の例としては,水やイオン性液体が挙げられる。」
「【0103】
第1表に示されるように,本教示の化合物は,例えばクロロホルムやジクロロベンゼン等の冷たい有機溶媒において50mg/mLもの高い溶解度を示すことができる。温かい溶媒を用いて,より大きな溶解度(2?10倍)を達成することができる。特に,1-アルキル置換アルキル基で官能化されたイミド窒素を有するペリレン化合物(例えば,PDI1MH-CN_(2),PDI1MP-CN_(2),PDI1M3MB-CN_(2))は,わずかに異なるアルキル基又はアルケニル基で置換された同様の化合物(即ち,PDI8-CN_(2),PDI2EH-CN_(2),PDICitr-CN_(2),PDI2MH-CN_(2))と比較して溶解度の予期されない増加を示したことに留意するべきである。」
「【0107】
第2表は,真空蒸着,スピンコーティング,又はドロップキャスティングにより薄層半導体中に形成した本教示の特定の化合物及び比較の代表的化合物の電子移動度及び電流オン/オフ比をまとめたものである。特に,1-アルキル置換アルキル基で官能化したイミド窒素を有するペリレン化合物は,わずかに異なるアルキル基又はアルケニル基で置換した同様の化合物(即ち,PDI8-CN_(2)及びPDICitr-CN_(2))と比較して電流Ion:Ioff比の予期されない増加を示したことに留意するべきである。更に,本教示の特定の化合物は,PDI8-CN_(2)やPDICitr-CN_(2)等の同様の公知の化合物よりも予期されない高い電子移動度を示した。」

(2)引用例2の技術的事項
以上によれば,引用例2には次の技術的事項が記載されているものと理解できる。
・上記式Iに示されるペリレンジイミド化合物が有機半導体として利用され,クロロホルムやジクロロベンゼン等の一般有機溶媒に可溶であり,スピンコーティングやドロップキャスティングにより成膜されること。

3.引用例3について
(1)引用例3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例3(特表2011-522097号公報)には,次の記載がある。
「【0023】
更なる好ましい実施形態において,式(I)の化合物は,式(I.B)
【化10】


[式中,
R^(1)基,R^(2)基,R^(3)基及びR^(4)基の内の少なくとも2つはClであり,残りの基は水素であり;及び
R^(a)及びR^(b)は,それぞれ独立して水素,或いは非置換又は置換のアルキル,アルケニル,アルカジエニル,アルキニル,シクロアルキル,ビシクロアルキル,シクロアルケニル,ヘテロシクロアルキル,アリール又はヘテロアリールである]の化合物から選択される。」
「【0110】
式(I),より具体的には式(I.A)及び(I.B)の化合物は,特に有利には,有機半導体として適切である。それらは,一般にn型半導体として機能する。本発明により使用される式(I)の化合物が他の半導体と組み合わせられ,且つエネルギーレベルの位置が,他の半導体がn型半導体として機能するという結果を有する場合,化合物(I)は,例外的な場合においてp-半導体として機能することもできる。
「【0133】
有利には,一般式(I)の化合物を,溶液から加工することも可能である。その場合,一般式(I)の少なくとも1種の化合物(及び,適切な場合,更なる半導体材料)は,例えばスピンコーティングによって基板に塗布される。更に,式(I)の少なくとも1種の化合物は,溶液剪断によって基板に塗布される。この種の蒸着は,例えば,Adv.Mater.2008,20,2588-2594.に記載されている。これとしては,典型的なナイフコーティング法,例えば空気ナイフコーティング,ナイフコーティング,空気ブレードコーティング,スクイーズコーティング,ロールコーティング及びキスコーティングが挙げられる。この目的のために,例えば,式(I)の化合物の溶液を第1基板に塗布し,次いで第2基板を前記溶液に接触させる。次いで,剪断エネルギーを導入する。好ましい実施形態によれば,式(I)の少なくとも1種の化合物の少量の溶液,例えば液滴が基板上に加えられる。基板温度は,室温と,溶媒蒸発速度を制御するための使用溶媒の沸点の60?80%の温度との間に及ぶ。固定ウエハに対して上部ウエハを引き抜くことは,溶液上のウエハ間に剪断力を及ぼす。剪断速度は,通常0.01?0.5mm/秒の範囲内,好ましくは0.0866?0.1732mm/秒である。疎水性表面を有する基板を使用することが有利であり得る。基板表面を疎水化するために適切な化合物は,アルキルトリアルコキシシラン,例えばn-オクタデシルトリメトキシシラン,n-オクタデシルトリエトキシシラン,n-オクタデシルトリ(n-プロピル)オキシシラン若しくはn-オクタデシルトリ(イソプロピル)オキシシラン,又はフェニルトリクロロシランを含む。
【0134】
一般式(I)の化合物が溶液から加工される場合,使用溶媒は,低沸点又は高沸点を有することができる。適切な溶媒は,芳香族溶媒,例えば,トルエン,キシレン,メシチレン,ナフタレン,デカヒドロナフタレン,オクタヒドロナフタレン,クロロベンゼン若しくはジクロロベンゼン,とりわけオルト-ジクロロベンゼン,又は直鎖状若しくは環状エーテル,例えばテトラヒドロフラン,ジグリコールメチルエーテル若しくは芳香族エーテル,例えば,ジフェニルエーテルメトキシベンゼン,ペルフルオロポリエーテル,例えばHT-60若しくはHT90CT135(Solvayから,ペルフルオロエチレングリコールのコポリマー,鎖の開始端及び終端にCF_(3)基を有するペルフルオロプロピレングリコール),C_(1)?C_(6)-カルボン酸のC_(1)?C_(6)-アルキルエステル,例えば,メチルアセテート,エチルアセテート,プロピルアセテート,ブチルアセテート,メチルプロピオネート,エチルプロピオネート,プロピルプロピオネート,ブチルプロピオネート及びそれらの混合物である。好ましい実施形態によれば,溶媒の混合物,とりわけ少なくとも2種の溶媒が異なる沸点を有するものが使用される。好ましくは,沸点の差は,30℃よりも大きい。」

(2)引用例3の技術的事項
以上によれば,引用例3には次の技術的事項が記載されているものと理解できる。
・上記式(I.B)に示される化合物が有機半導体であり,トルエン等の芳香族溶媒を用いることができ,上記化合物の溶液をスピンコーティングや溶液剪断により基板に塗布して加工できること。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
本願発明1と引用発明1を比較する。
・引用発明1の「有機半導体化合物の単結晶薄膜の作製方法」は,本願発明1の「結晶性有機半導体材料を製造する方法」に対応する。
・引用発明1の「前記有機溶媒がフタル酸エステル系化合物」は本願発明1における「L1.1」式(I.1)の化合物」に相当するから,本願発明1と引用発明1は,
「溶媒(L1)が,以下のもの:
L1.1)式(I.1)の化合物:
【化2】

から選択される,20℃,及び1013mbarで液状の化合物少なくとも1種,
上記式中,
X^(1)及びX^(2)は,*-(C=O)-O-であり,ここで*は,芳香族の炭素環に対する結合点であり,かつ,
R^(c),及びR^(d)は,独立して,非分枝状,及び分枝鎖状のC_(1)?C_(12)アルキル,及びC_(2)?C_(12)アルケニルから選択され,
L1.3)ヒドロキシ安息香酸エステル,
及びこれらの化合物の混合物
から選択され」たものである点で一致する。

そうすると,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(一致点)
「結晶性有機半導体材料を製造する方法であって,
溶媒(L1)が,以下のもの:
L1.1)式(I.1)の化合物:
【化2】

から選択される,20℃,及び1013mbarで液状の化合物少なくとも1種,
上記式中,
X^(1)及びX^(2)は,*-(C=O)-O-であり,ここで*は,芳香族の炭素環に対する結合点であり,かつ,
R^(c),及びR^(d)は,独立して,非分枝状,及び分枝鎖状のC_(1)?C_(12)アルキル,及びC_(2)?C_(12)アルケニルから選択され,
L1.3)ヒドロキシ安息香酸エステル,
及びこれらの化合物の混合物
から選択される,前記方法。」である点。
(相違点1)
本願発明1では,「(a)少なくとも1種の溶媒(L1)と,(L1)とは異なる少なくとも1種の溶媒(L2)とを含有する溶媒混合物に少なくとも1種の有機半導体A)を入れた溶液を用意する工程」及び「(b)工程(a)で用意した溶液を基板表面に適用して,溶媒混合物を蒸発させ,有機半導体A)を結晶化させる工程」を有するのに対し,引用発明1では,「(1)誘電率が4.5以上でありかつ有機半導体化合物が可溶である有機溶媒を,基板上に塗布して液膜を形成する工程」「(2)前記有機溶媒液膜に前記有機半導体化合物を供給し溶解させる工程」「(3)前記有機溶媒中で前記有機半導体化合物を結晶化させる工程」及び「(4)前記結晶化の後,前記有機溶媒液膜を除去する工程」を含むものである点。
(相違点2)
本願発明1では,「有機半導体A」」が「一般式(II.a)のリレン化合物:
【化1】

上記式中,
nは,1,2,3,又は4であり,
R^(a),及びR^(b)は相互に独立して,水素,非置換又は置換されたアルキル,非置換又は置換されたアルケニル,非置換又は置換されたアルカジエニル,非置換又は置換されたアルキニル,非置換又は置換されたシクロアルキル,非置換又は置換されたビシクロアルキル,非置換又は置換されたシクロアルケニル,及び非置換又は置換されたヘテロシクロアルキルから選択され,
基R^(n1),R^(n2),R^(n3),及びR^(n4)は,相互に独立して,水素,F,Cl,Br,I及びCNから選択され」たものである対し,引用発明1では,「有機化合物半導体がペリレン類」と特定されているものの,具体的に本願発明1の上記「一般式(II.a)のリレン化合物」とまで特定されていない点。
(相違点3)
本願発明1では「少なくとも1種の溶媒(L1)と,(L1)とは異なる少なくとも1種の溶媒(L2)とを含有する溶媒混合物」を用いるのに対し,引用発明1では「誘電率が4.5以上でありかつ有機半導体化合物が可溶である有機溶媒」が「溶媒混合物」であることは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
はじめに相違点1について検討する。
引用例1の段落0005,0009の記載によれば,引用発明1は,従来技術として知られていた「基板上に,有機半導体化合物が可溶な有機溶媒を塗布して液膜を形成した後に有機半導体化合物を蒸着やスパッタリング等により付着させ,該有機溶媒液膜中で有機半導体化合物を成長させて有機半導体化合物の単結晶薄膜を作製する方法」において,「誘電率が4.5以上である有機溶媒」を用いることで大面積かつ均一な単結晶薄膜を得るものであると理解できる。すなわち,引用発明1は,基板上に有機溶媒を塗布して液膜を形成した後に当該液膜に有機化合物半導体を付着させることが前提の発明であるといえる。
そうすると,引用発明1において,「(a)少なくとも1種の溶媒(L1)と,(L1)とは異なる少なくとも1種の溶媒(L2)とを含有する溶媒混合物に少なくとも1種の有機半導体A)を入れた溶液を用意する工程」及び「(b)工程(a)で用意した溶液を基板表面に適用して,溶媒混合物を蒸発させ,有機半導体A)を結晶化させる工程」に変更することは,引用発明1の上記前提を破棄する変更であり,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
確かに,引用例2(上記第4の2.(2)参照)及び引用例3(上記第4の3.(2)参照)によれば,本願発明1と同じリレン化合物の溶液を基板に塗布して有機半導体を成膜すること自体は周知技術であるといえる。しかしながら,溶媒の液膜を形成した後に当該液膜に有機化合物半導体を付着させることを前提とする引用発明1において,当該前提を破棄して上記の周知技術を適用する動機が引用例2,3に示されているとはいえない。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明1及び引用例2及び引用例3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?19について
本願発明2?19は本願発明1と同じ技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用例1?3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により,当該補正前の請求項1?22に係る発明,すなわち原査定の対象とされた発明は,補正後の本願発明1?19のとおりに補正された。そして,上記第5に示すとおり,本願発明1?19は,上記引用例1?3,すなわち原査定において引用された引用文献1,2,5に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定を維持することはできない。


第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-03-18 
出願番号 特願2017-509704(P2017-509704)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高柳 匡克脇水 佳弘棚田 一也  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 小川 将之
小田 浩
発明の名称 結晶性有機半導体材料の製造方法  
代理人 森田 拓  
代理人 前川 純一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  
代理人 永島 秀郎  
代理人 二宮 浩康  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ