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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1372083
審判番号 不服2020-8213  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-12 
確定日 2021-03-11 
事件の表示 特願2016-572018「リチウムの吸蔵状態を評価する方法、電極の製造方法、リチウムの吸蔵状態を評価するための装置および電極の製造システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日国際公開、WO2016/121687〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)1月25日(優先権主張 平成27年1月30日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年 8月29日付け:拒絶理由通知書
令和 元年10月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 3月11日付け:拒絶査定
令和 2年 6月12日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1-14に係る発明は、令和2年6月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(下線は補正箇所を示す)。
「 【請求項1】
リチウムイオンを含む有機溶媒中で電極活物質層とリチウム供給源を電気化学的に接触させる方法によりリチウムを吸蔵した電極活物質を含む層に白色光を照射し、前記白色光が照射された電極活物質を含む層の複数の箇所の反射光を分光し、次いで相互に異なる2種の波長のそれぞれにおける分光反射率及び前記2種の波長のそれぞれの前記分光反射率の差又は比を測定することによりリチウムの吸蔵状態を評価する方法。
【請求項2】
前記相互に異なる2種の波長における分光反射率及び前記分光反射率の差又は比が、相互に50nm以上異なる2種の波長における分光反射率及び前記分光反射率の差又は比である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相互に50nm以上異なる2種の波長における分光反射率及び前記分光反射率の差又は比が、380-500nmの範囲にある特定の波長における前記分光反射率と600-780nmの範囲にある特定の波長における前記分光反射率及び前記分光反射率との差又は比である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記相互に50nm以上異なる2種の波長における前記分光反射率の差又は比が、380-500nmの範囲にある特定の波長における前記分光反射率と650-780nmの範囲にある特定の波長における前記分光反射率との差又は比である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
分光反射率と吸蔵率との関係を表した検量線に前記測定された分光反射率を当てはめることにより吸蔵率を判定する、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
リチウムを吸蔵した電極活物質を含む層に波長が相互に異なる2種の可視領域にある単色光を含む光を照射し、それらそれぞれの反射率及び反射率の差を測定することによりリチウムの吸蔵状態を評価する方法。
【請求項7】
前記波長が相互に異なる2種の可視領域にある単色光が、波長が相互に50nm以上異なる2種の単色光である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記波長が相互に50nm以上異なる2種の可視領域にある単色光が、380-500nmの範囲にある単色光と600-780nmの範囲にある単色光である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反射率と吸蔵率との関係を表した検量線に前記測定された反射率を当てはめることにより吸蔵率を判定する、請求項6?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記リチウムを吸蔵した電極活物質が負極活物質である、請求項1?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電極活物質が炭素材料を含むものである、請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1?11のいずれか1項に記載の方法により電極活物質中のリチウムの吸蔵状態を評価する工程を含む電極の製造方法。
【請求項13】
(1)リチウムイオンを含む有機溶媒中で電極活物質層とリチウム供給源を電気化学的に接触させる方法によりリチウムを吸蔵した電極活物質を含む層に白色光を照射する照射部と、
(2)前記リチウムを吸蔵し、前記白色光が照射された電極活物質を含む層の複数の箇所の反射光を分光し、次いで相互に異なる2種の波長のそれぞれにおける分光反射率及び前記2種の波長のそれぞれの前記分光反射率の差又は比を測定する測定部と、
を備える、電極活物質中のリチウムの吸蔵状態を評価するための装置。
【請求項14】
電極活物質にリチウムを吸蔵させるための装置、及び請求項13に記載の装置を備える電極の製造システム。」



第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の下記の請求項1ないし14に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2014-116251号公報
引用文献2:特開平7-198597号公報(周知技術を示す文献)

以下、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとされた請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)について検討する。

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、図面とともに次の記載がある(下線は当審にて付した。)。

(引1a)
「【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵および放出する正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出する負極と、リチウムイオン伝導性を有する電解質とを備えたリチウムイオン二次電池において、
光源から照射された可視光線を前記電池の内部に導く照明導光部と、
該光線を電池内部に照射し電池内部で反射された光線を受光する検出部と、
該受光した光線を電池外部の検出器に導く検出導光部と、
設けたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

(引1b)
「【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯用電子機器やハイブリッド自動車などに用いるための電池として、急速に開発が進められている。このようなリチウムイオン二次電池では、通常、正極活物質を含有する正極合剤層を集電体の片面または両面に有する正極と、負極活物質を含有する負極合剤層を集電体の片面または両面に有する負極とが使用されている。また、リチウムイオン二次電池の正極活物質には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有複合酸化物が、負極活物質には炭素材料などが、一般に用いられている。」

(引1c)
「【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、正極あるいは負極に含まれる活物質の色(=可視光波長域の光を照射した際に得られる反射光)を検出することにより、活物質の充電状態(SOC)を把握し、充電および放電のトリガーとすることで、電池を制御する。
・・・
【0014】
例えば、負極活物質に用いられる黒鉛は、リチウムの挿入に伴い層間距離が変化し、色相変化することが知られている。黒鉛の相間にリチウムが挿入される際には、数枚のグラファイト層を隔て、規則正しい積層構造を取るが、この際に、n層ごとにリチウムが挿入されている状態を第nステージと呼ぶ。なお、最充填状態であるステージ1は、LiC6構造を取ることが知られており、全ての層間にリチウムが挿入される状態、ステージ2はLiC12構造を持つものであり、2層毎にリチウムが挿入される状態、ステージ3は3層ごと、ステージ4では4層ごとにリチウムが挿入される。これらのステージ変化に伴い、黒鉛の層間距離が変化することから色相が変化し、各々以下の色を呈すると考えられる。
【0015】
ステージ1;黄?金色
ステージ2;赤?赤褐色
ステージ3;青?濃紺色
ステージ4;黒?灰色
これらのうち、ステージ1の状態までリチウムが挿入された黒鉛は、充電状態で電池を分解した際などに、負極表面が金色になっていることからも、当業者であれば、ステージ1のLiC6が黄?金色を呈することは良く知られている。
【0016】
上記で示したように、黒鉛にリチウムが挿入されていくに従い黒鉛の色が変化していくが、ステージ1=黄?金色の状態である黒鉛に、さらにリチウムを挿入しようとすれば、黒鉛の層間に入ることのできないリチウムが黒鉛表面にデンドライトとなって析出する。従って、実際の電池においても、黒鉛が黄?金色を呈した後、さらにその同一の黒鉛に対してリチウムを挿入しようとすることを避けねばならない。そこで本発明者らは、電極に用いられている活物質の色を観察し、最も危険な状態を示す「色」を検出した際に、これをトリガーとして充放電を制御することを検討した。
【0017】
具体的には、電池内部に光ファイバを組み込み、これにより外部から波長400?650nmの光を照射し、活物質で反射された光の波長および強度を計測する。波長400?650nmは、大まかには青色、緑色、黄色、橙色を呈する可視光を含む波長であり、黒鉛のステージにより変化する色のうち、デンドライト発生の危険性が最も高い、黄色光を含む波長域である。反射光は、照射光と同一波長域の光が、強度を変えて検出されるものであるため、照射光としてどの波長域の光を用いるかを選定すればよい。ここで、黒鉛の色変化のうち、デンドライトが発生する前の最も危険な状態は、黄?金色を呈する場合であるが、一方で、わずかなデンドライトであれば、生成しても放電時に消失し、問題無い場合もある。このような場合には、放電時に完全に消失し得ることを確認できるのであれば、敢えて、わずかなデンドライトの発生を許容することもあり得る。このような場合、黒鉛の色変化のみではなく、デンドライトの発生も検出することが必要となり、青?橙色までの、広い範囲の可視光を照射する必要がある。デンドライトは、リチウムの金属であるため、可視光域の広い範囲で反射が起こる。従って、黒鉛の危険度のみを検出するために黄色光を照射した場合には、黒鉛に寄る反射であるのか、デンドライトに寄るものかを判別することは難しく、広い波長域の可視光を照射することで、黄色のみの反射光強度が計測された際には黒鉛の色が、さらに充電を進めた際に、黄色以外の波長域における反射光強度が増大すれば、デンドライトの発生を検出することが可能である。また、このような波長域の光を照射することで、黒鉛以外の、色変化を起こさない活物質を用いた場合にも、デンドライト発生を検出することが可能である。このような意味において、照射光の波長域は、400?650nmの広い範囲であることが好ましい。このような制御を行う場合、用いる光源としてはハロゲンランプなど、波長帯域が広範な白色光源を用いることができる。また、LEDや各種レーザー光など波長領域の限られている光源を用いる場合、異なる波長の光源を複数用いて照射し、それぞれの波長における反射光強度の変化を計測することにより、上述の各充電ステージ状態やデンドライトの発生を検出し、それに応じた充電および放電の制御を行うことも可能である。
【0018】
このように複数の波長の光を用いる場合、各波長の光ごとに独立した検出系、すなわち、(光源-照明用光ファイバ-検出点-検出用光ファイバ-検出器)を設置し、それぞれから得られた検出信号を総合的に判断処理して、充電や放電などの制御にフィードバックをかけることも可能である。また単一の経路、すなわち、(複数波長を含む光-照明用光ファイバ-検出点-検出用光ファイバ-光分離部-検出器)といった構成も可能である。この構成の場合、検出用光ファイバから出射した光をそれぞれの波長の成分に分離する機構が必要である。分離機構としてはカラーフィルターを用いることが簡便である。また分光器を用いて光を分離することも可能である。
【0019】
一方で、デンドライトが一度でも発生した場合、黒鉛表面に微細な種結晶が残存し、次の充電の際には、その同一箇所にデンドライトが成長し易くなるといった問題もある。このような観点では、黒鉛上でデンドライトが発生する直前の色は黄?金色であり、充電の過程において550?600nmの黄色光のみを選択的に照射し、照射光に対する反射光の強度がある一定以上となった際に充電を停止することも可能である。このような制御を行う際には、反射光強度が、負極合材層中に含まれる黒鉛の含有量にも依存するため、各種負極合材層の組成、種類に応じて、事前に危険性の高い反射光強度を計測しておく必要がある。ごくわずかな黄色光の検出のみで充電を停止すれば、実際にはまだ負極の利用率に余裕がある場合でも充電を停止することとなり、実効的に利用できる容量が必要以上に削減されてしまう危険性があるためである。このように、黄色光のみを選択的に照射する場合には、デンドライトが発生する前に充電を停止することが可能であり、より高い安全性が確保できる。このような意味において、照射光の波長域は、550?600nmの黄色光であることが、より好ましい。このような制御を行う場合には、波長領域の限られた光源を用いることが可能であり、当該波長の光を発光するランプ、発光ダイオード(LED)や各種レーザーを光源として用いることが好適である。黄色光の光源としてはたとえば発光層がAlGaInP系のLEDなどを用いることができる。」

(引1d)
「【0070】
次に充電状態の光学的計測操作に移行する。フローを図8に示す。まず、光源および検出器の電源をONにする。そして参照光の受光信号を受信する。これをデータAとする。次に信号光の受光信号を受信する。これをデータBとする。これらのデータをメモリーに記憶しておき、割り算を行う。その結果をデータXとしてメモリーに記憶する。
【0071】
X=B/A
この割り算の操作は、光源や検出器の固体差、電源変動や温度変化、あるいは経時変化による光源の輝度や検出器感度の変化の影響をキャンセルし、電池の内部状態の変化のみをより正確に検出するために行う。参照光用光ファイバと信号光用光ファイバに同量の光が入射している状態においては、このデータXは信号光用光ファイバにおける透過率に相当する。
【0072】
次に充電状態の判定操作を行う。その判定の基準とするレベルのデータをメモリーに記憶しておき、データXと比較して状態を判定する。図8には例として、定電流定電圧充電-定電流放電を行う充放電制御を行う場合を示し、放電状態を示すレベルとしてa、充電状態を現すレベルとしてc、充電の方法を切り換えるレベルとしてbの3段階を設定した。これらのレベルa、b、cをデータXと比較して、a<X<bである場合、いずれの活物質も満充電状態/放電状態に達しておらず、充電および放電のいずれを行っても良い。B≦X<cである場合、電極内に満充電状態の活物質と満充電に達しない活物質とが混在しており、充電時には比較的小さな電流を用いて充電することが好ましい。そして、c≦Xとなった場合を満充電状態(SOC=100)、X≦aとなった場合を放電状態(SOC=0)と判断する。」

(引1e)
「【0078】
(実施例1)
<テストセルの作製>
正極活物質として平均粒子径が6μmのLiMn_(1/3)Ni_(1/3)Co_(1/3)O_(2):93.5質量部を用い、この他、アセチレンブラック:4質量部、ポリフッ化ビニリデン:2質量部およびポリビニルピロリドン(PVP):0.5質量部を、NMPに分散させて正極合剤含有組成物を調製し、これを集電体となる厚みが15μmのアルミニウム箔の片面にアプリケーターを用いて塗布して乾燥し、プレス処理した後、100×100mmのサイズにカットして、正極を作製した。得られた正極の正極合剤層の厚みは76.5μmであった。
【0079】
鱗片状黒鉛(日立化成工業社製):97.8質量部、CMC:1.2質量部およびSBR:1質量部を、水:100質量部に分散させて負極合剤含有組成物を調製し、これを集電体となる厚みが8μmの銅箔の片面にアプリケーターを用いて塗布して乾燥し、プレス処理した後、105×105mmのサイズにカットして、負極を作製した。得られた負極の負極合剤層の厚みは92.8μmであった。
【0080】
参照光用光ファイバおよび信号光用光ファイバとして、ともにクラッドを含む直径が80μm、コア径50μm、屈折率の値としてコアが1.47、クラッドが1.46の光ファイバを用いた。本実施例においては信号光用光ファイバの設置形態として上述のうち、一本の光ファイバの片側の端部に照明用光源を配置し、他方の端部に検出器を配置する形態を採用した。その光ファイバの中間部分を電池の内部に電極活物質と接するように配置した。光ファイバと電極活物質の接する部分は電極面の対角線上に配置した。そしてその入射側、中央、出射側の3ヶ所に検出点を設置した。各検出部としては図5のように光ファイバのクラッドを除去しコアを露出させコア開放部を形成し、光ファイバの全反射条件を破る状態を構成した。この構成にすると伝搬してきた照射光はこのコア開放部から光ファイバ外に拡散し、電極活物質を照射する。そして活物質で反射・散乱された光の一部が再びこのコア開放部からコアに戻り、再び光ファイバ内を伝搬して検出器に到達する。さらにコア開放部の中央部でコア径を細くし、照射光が効果的に電極活物質を照射し、またそこで散乱された光が効率的に検出側の光ファイバに集光できるようにした。コア開放部は光源側が照射部、検出器側が集光部の役割を担う。本実施例においては、3ヶ所の検出部いずれもコア開放部の長さを200μm、コア開放部の中央部におけるコアの直径を40μmとした。
【0081】
前記の正極の上に、透気度が90sec./100cc.のセパレータ(厚みが18μmのPE製微多孔膜)を積層した後、前記光ファイバを対角線上に配置し、さらに前記負極を正極に対して対向するように積層してラミネートフィルム外装体内に挿入した。その後、非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比2:8の混合溶媒に、LiPF_(6)を1.2Mの濃度で溶解した溶液)を注入した後にラミネートフィルム外装体を封止して、テストセルを作製した。
【0082】
<波長591nm;黄色光を用いた測定および制御>
上記の光ファイバを内蔵したテストセルにおいて、電極面に信号光用光ファイバを設置した。その一方の端部に光源を、他方の端部に検出器を配置した。光源としてはピーク波長が591nmである AlGaInP系の砲弾型黄色発光ダイオードを用い、結像レンズを介して照明光用光ファイバに集光した。この発光ダイオードを駆動電圧2.1V、最大駆動電流20mAで発光させた。検出器にはシリコン系フォトダイオードを用い、検出光用光ファイバからの出射光を直接受光し、その強度を電圧に変換した。
【0083】
併せて参照光の測定系も構成した。上記の光源系に、信号光用光ファイバと併設して参照光用光ファイバを配置し、光源光の一部を受光するようにした。参照光用光ファイバには検出部を設けていない。その光源系の反対の端部に検出器を配置し、出力信号電圧を計測するようにした。この参照光の検出信号を100%としてテストセルでの信号光用光ファイバの出射光の計測値を規格化する。この数値が上述のデータXに相当する。この参照光用光ファイバは電池の外部に設置した。
【0084】
当該テストセルの放電状態から測定を開始した。放電状態では、データXとして約7%の光が検出された。この状態は電池が放電状態にあることを示している。これより1Cレートで充電を開始した。そして3.95Vの段階で検出光強度が上昇し始めた。これは負極表面でステージ1状態の活物質が発生し始めたことを表している。さらに定電流充電を継続し、電池電圧が4.28Vとなり検出信号強度が約55%に到達した段階でその信号強度上昇が鈍化した。この状態は、負極表面における全ての活物質がステージ1に到達したこと、すなわち満充電状態にあることを示している。これにより充電操作を終了した。
【0085】
この結果、定電流充電のみを使用した急速充電を行い、かつ、最大限の容量を充電することが可能であるとともに、負極表面の全ての活物質がステージ1に到達した後、さらに充電を継続することで、活物質に吸蔵し切れなかったリチウムイオンがデンドライトとなって析出することを防ぐことが可能である。」

(引1f)
【図1】


(2)引用発明
ア (引1e)に記載の「テストセル」は、「正極活物質」がリチウム(Li)を含み、「電池」であり、また、(引1b)にあるように引用文献1に記載の発明は「リチウムイオン二次電池」についての発明であるから、「テストセル」は「リチウムイオン二次電池」のセルであるといえる。

イ (引1a)に「リチウムイオンを吸蔵および放出する正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出する負極」、(引1e)に「活物質に吸蔵し切れなかったリチウムイオン」と記載されているように、リチウムイオン二次電池においては、電極活物質にリチウムイオンが「吸蔵」されることで充電が行われる。そうすると、(引1d)に記載の「充電状態の判定」とは「電極活物質」への「リチウムイオン」の吸蔵状態を判定することであるといえる。

ウ 上記ア,イを踏まえると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムイオン二次電池のセルの測定方法であって、
ピーク波長が591nmである黄色発光ダイオードを光源として用い、
電極面に信号光用光ファイバを配置し、
信号光用光ファイバと併設して参照光用光ファイバを配置し、
信号光用光ファイバの片側の端部に光源を配置し、他方の端部に検出器を配置し、その光ファイバの中間部分を電池の内部に電極活物質と接するように配置し、信号光用光ファイバの3ヶ所に検出部を設置し、検出部は信号光用光ファイバのコア開放部であり、
参照光用光ファイバには検出部を設けず、参照光用光ファイバの光源の反対の端部に検出器を配置し、
光源からの光はコア開放部にて信号光用光ファイバ外に拡散して電極活物質を照射し、電極活物質で反射・散乱された光がコアに戻り検出器に到達し、信号光用光ファイバの検出器の信号Bを参照光用光ファイバの検出器の信号Aで割って規格化してデータXを求め、
データXを用いて電極活物質へのリチウムイオンの吸蔵状態の判定を行う、
リチウムイオン二次電池のセルの測定方法。」

2 引用文献2
引用文献2には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0002】
【従来の技術】一般に、測定対象物に光を投射し、測定対象物における透過光あるいは反射光の強度を測定し、測定対象物が特性吸収波長の光を吸収する度合いを検出して、測定対象物の厚みや成分濃度あるいは含水率などの定性や定量を行ったり、測定対象物自体からの放射光の強度を測定して測定対象物の温度を測定することは周知である。
【0003】従来、製造ライン等におけるこの種の測定では、上記特性吸収波長の分光のために、干渉フィルタ等の不連続な分光素子が用いられている。また、測定対象物からの光を、測定する特性に相関のある波長(測定波長)と、それと少し異なった波長(参照波長)に、時分割で交互に分光して、センサ面に集光したり、あるいはあらかじめ各波長に分光した光を測定対象物に照射し、その戻り光をセンサ面に集光して入射し、測定波長強度と参照波長強度とを比較演算することにより、光源のふらつき誤差、センサ素子自体の感度変動、光学系の変化、測定対象物の表面反射による迷光による誤差を除去するようにした複数波長を用いた測定を行う光電測定装置が実用化されている。」

3 引用文献3
本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭63-103945号公報(昭和63年5月9日出願公開。以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
(第2頁左上欄第11行-右上欄第12行)
「一方、近年の自動化学分析装置では、サンプル(血清)及び試薬の微量化の傾向にあり、その対策として直接測光方式を採用するようになってきた。直接測光方式は、光源から発した光が恒温水、反応液(サンプル)、恒温水の順に透過し、グレーテングミラーにて分光され、フォトダイオードにより検知するようにした方式であり、反応液(サンプル)を吸引して分光部に導く方式と比較して反応液(サンプル)の量を少なくすることができる。
しかし乍、直接測光方式では、反応液(サンプル)が恒温水中にあるため、この恒温水の揺ぎや細かい気泡の動揺により外乱を受けてしまう。この外乱の除去手段として、グレーテングミラーを用いた二波長測光方式がとられている。この二波長測光方式は、測定波長(吸収スペクトルで山をなす波長)の近傍に参照波長を設け、測定波長の吸光度と参照波長の吸光度との差を用いて潤度計算を行なうものである。ここでの外乱の除去法は、外乱を受けると測定波長の吸光度と参照波長の吸光度とは同様な影響を受けることから、その差を取ることにより外乱を除去するものである。」

4 引用文献2,3の記載事項
(1)上記引用文献3には、測定対象のサンプルに光を入射させ、サンプルを透過した光を検知する分析装置において、測定波長の吸光度と参照波長の吸光度との差を用いる点が記載されている。ここで、物質に対して光を入射したとき、透過光の強度、反射光の強度、及び物質に吸収された光の強度を合わせたものが当該入射光の強度となることに鑑みれば、光反射がほぼないサンプルに対して光を入射して透過光強度から吸光度を求める手法についていえることは、光透過がほぼないサンプルに対して光を入射して反射光強度から吸光度を求める手法についてもいえる。

(2)上記(1)を踏まえると、上記引用文献2,3の記載から、「材料の光学的測定において、測定する特性に相関のある波長である測定波長の近傍に参照波長を設け、測定波長での反射率と参照波長での反射率を比較することで、誤差や外乱を除去すること」ことは、本願の優先権主張の日前に周知の事項であったと認められる。

第5 対比
1 引用発明の「電極活物質へのリチウムイオンの吸蔵状態の判定を行う」「リチウムイオン二次電池のセルの測定方法」は、本願発明の「リチウムの吸蔵状態を評価する方法」に相当する。

2 引用発明の「ピーク波長が591nmである黄色発光ダイオードを光源として用い」、「光源からの光」が「電極活物質を照射」することについて

(1)引用発明の「光源」である「ピーク波長が591nmである黄色発光ダイオード」からの光は、そのピーク波長からして可視領域にある光であり、「黄色」の光であるから単色光である。

(2)引用発明の「リチウムイオン」を「吸蔵」した「電極活物質」は、本願発明の「リチウムを吸蔵した電極活物質を含む層」に相当する。

(3)上記(1),(2)を踏まえると、引用発明の「ピーク波長が591nmである黄色発光ダイオードを光源として用い」、「光源からの光」が「リチウムイオン」を「吸蔵」した「電極活物質を照射」することと、本願発明の「リチウムを吸蔵した電極活物質を含む層に波長が相互に異なる2種の可視領域にある単色光を含む光を照射」することは、「リチウムを吸蔵した電極活物質を含む層に可視領域にある単色光を含む光を照射」する点で共通する。

3 引用発明では、「光源からの光」が「信号光用光ファイバ外に拡散して電極活物質を照射」し、「電極活物質で反射・散乱された光がコアに戻り検出器に到達」しているから、「信号光用光ファイバの検出器」は「電極活物質」での反射光を検出するものである。
また引用発明では、「信号光用光ファイバの検出器の信号Bを参照光用光ファイバの検出器の信号Aで割って規格化してデータXを求め」ているところ、「参照光用光ファイバ」には「光ファイバのコア開放部」である「検出部」を設けないのであるから、「信号A」は「光源からの光」がほぼそのまま到達しているといえる。そのため、引用発明の「データX」は本願発明の「反射率」に相当する。

4 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「リチウムを吸蔵した電極活物質を含む層に可視領域にある単色光を照射し、その反射率を測定することによりリチウムの吸蔵状態を評価する方法。」

【相違点】
リチウムの吸蔵状態の評価を、本願発明では「リチウムを吸蔵した電極活物質を含む層」に「波長が相互に異なる2種の可視領域にある単色光を含む光」を照射し、「それらそれぞれの反射率及び反射率の差を測定すること」により行っているのに対し、引用発明では「リチウムを吸蔵した電極活物質を含む層」に「可視領域にある単色光」を照射し、「その反射率を測定すること」により行っている点。

第6 判断
上記「第4」の「4」に記載したように、「材料の光学的測定において、測定する特性に相関のある波長である測定波長の近傍に参照波長を設け、測定波長での反射率と参照波長での反射率を比較することで、誤差や外乱を除去すること」は、本願の優先権主張の日前に周知の事項である。
また、上記「第5」の「3」に記載したように、引用発明の「データX」は本願発明の「反射率」に相当する。
そうすると、引用発明において、「ピーク波長が591nmである黄色」の光を「測定波長」の光とし、「光源」としてこれを発するものに加えて、591nm近傍の波長、すなわち「参照波長」の光を発するものを用い、両波長における「データX」を比較することは、引用発明において誤差や外乱を除去するために当業者が容易に想到しうることである。この時、両波長における「データX」の比較の手法として「データX」の差を取ることは、例えば引用文献3に記載されているように当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。
よって、本願発明は、引用発明及び本願の優先権主張の日前に周知の事項から、当業者が容易に想到しうるものである。

第7 請求人の主張について
請求人は、審判請求書及び令和2年10月7日提出の上申書において、「リチウムイオンを含む有機溶媒中で電極活物質層とリチウム供給源を電気化学的に接触させる方法により、リチウムを吸蔵する電極活物質」との記載、及び「白色光が照射された電極活物質を含む層の複数の箇所の反射光を分光」する記載は、引用文献及び周知技術を示す文献にはない旨を主張している。
しかし、「リチウムを吸蔵した電極活物質」が「リチウムイオンを含む有機溶媒中で電極活物質層とリチウム供給源を電気化学的に接触させる方法によりリチウムを吸蔵した」ものであること、及び、「白色光が照射された電極活物質を含む層の複数の箇所の反射光を分光」することは、ともに請求項1において特定されている事項であるが、請求項6においては特定されていない。
そうすると、請求人の上記主張は、請求項6の記載に基づくものではないため採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-12-23 
結審通知日 2021-01-05 
審決日 2021-01-20 
出願番号 特願2016-572018(P2016-572018)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 佳規  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
磯野 光司
発明の名称 リチウムの吸蔵状態を評価する方法、電極の製造方法、リチウムの吸蔵状態を評価するための装置および電極の製造システム  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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