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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1372141
審判番号 不服2020-8012  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-10 
確定日 2021-03-15 
事件の表示 特願2018-117047「偏光フィルム、粘着剤層付き偏光フィルム、及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月26日出願公開、特開2019-219525〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2018-117047号(以下「本件出願」という。)は、平成30年6月20日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 8月21日付け:拒絶理由通知書
令和 元年10月21日 :手続補正書、意見書
令和 2年 2月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 6月10日 :審判請求書
令和 2年 6月10日 :手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年6月10日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?5の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
偏光子の片面又は両面に接着剤層を介して保護フィルムが設けられている偏光フィルムであって、
偏光子に設けられる前記保護フィルムの少なくとも1つは、シクロオレフィン系ポリマーを含み、かつ下記式(1)を満たすものであることを特徴とする偏光フィルム。
Y≦1.26×lnX+3.5 (1)
Y:保護フィルムの線膨張係数(×10^(-5)/K)
X:保護フィルムの破断伸度(%)
【請求項2】
前記Y(×10^(-5)/K)は、4以下である請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
前記偏光子の厚さは、10μm以下である請求項1又は2に記載の偏光フィルム。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の偏光フィルムおよび粘着剤層を有する粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項5】
請求項1?3のいずれかに記載の偏光フィルムまたは請求項4に記載の粘着剤層付き偏光フィルムが、画像表示セルに配置されている画像表示装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「【請求項1】
偏光子の片面にのみ接着剤層を介して保護フィルムが設けられている片保護偏光フィルムおよび前記偏光子の他面に直接粘着剤層を有する粘着剤層付き片保護偏光フィルムであって、
偏光子に設けられる前記保護フィルムは、シクロオレフィン系ポリマーを含み、かつ下記式(1)を満たすものであることを特徴とする粘着剤層付き片保護偏光フィルム。
Y≦1.26×lnX+3.5 (1)
Y:保護フィルムの線膨張係数(×10^(-5)/K)
X:保護フィルムの破断伸度(%)」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項4に係る発明の、発明を特定するために必要な事項である「保護フィルム」の位置についての限定を、本件出願の明細書の【0049】の記載に基づいて、「偏光子の片面または両面に接着剤層を介して保護フィルムが設けられている」から、「偏光子の片面にのみ接着剤層を介して保護フィルムが設けられている」へと変更し、それにあわせて「偏光フィルム」を「片保護偏光フィルム」とし、さらに、本件出願の明細書の【0049】の記載に基づいて、「粘着剤層」の位置を、「偏光子の他面に直接」「有する」と限定して、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とする補正事項を含むものである。
ここで、本件補正前の請求項1を引用する請求項4に係る発明と、本件補正後発明の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】、【0008】及び【0009】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の限定的減縮)を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後発明が特許法17条の2条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

3 独立特許要件違反についての判断
(1)引用文献6の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開第2017/110342号(以下「引用文献6」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「 請求の範囲
[請求項1] ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムであって、前記ノルボルネン系樹脂が水添ノルボルネン系樹脂であり、かつ、
下記一般式(1)で表される化学構造を有する重合性化合物が、含有されていることを特徴とする偏光板保護フィルム。
[化1]

(式中、R_(1)及びR_(2)は、各々独立に、水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表す。
環A_(1)、環A_(2)及び環A_(3)は、各々独立に、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ナフタレン環、テトラヒドロナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環を表す。これらの環中、-CH=は-N=で、-CH_(2)-は-S-又は-O-で置換されていてもよい。
X、Y及びZは、各々独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1?8のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1?8のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2?6のアルケニル基、ハロゲン原子、シアノ基又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する基を表す。
L_(1)、L_(2)及びL_(3)は、結合手を表し、各々独立に、単結合、-COO-、-OCO-、-(CH_(2))_(d)-、-CH=CH-、-(CH_(2))_(e)O-、-O(CH_(2))_(f)-、-O(CH_(2))_(g)O-、-OCOO(CH_(2))_(h)-、-(CH_(2))_(i)OCOO-、-(CH_(2))_(j)O(CH_(2))_(k)-、-O(CH_(2))_(l)-[Si(CH_(3))_(2)O]_(m)-Si(CH_(3))_(2)(CH_(2))_(o)-、-(OCH_(2)CH_(2))_(p)-、-(CH_(2)CH_(2)O)_(q)-、-(OCH_(2)CH(CH_(3)))_(r)-、-(CH(CH_(3))CH_(2))_(s)-、-CH=CHCH_(2)O-、-OCH_(2)CH=CH-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-C≡C-、-(CH_(2))_(2)COO 、-OCO(CH_(2))_(2)-、-CF=CF-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-C≡C-COO-、-OCO-C≡C-又は-O-を表す。ただし、一部の炭素原子がケイ素原子であってもよい。
d?m及びoは、各々独立に1?8の整数を表す。p?sは、各々独立に、1?3の整数を表す。nは、0又は1を表す。
a、b及びcは、それぞれ環A_(1)、環A_(2)及び環A_(3)における置換基の数であって、それぞれの置換される単環又は縮合環に含まれる6員環の数をtとすると、a、b及びcは、各々独立に、2t+2以下の整数を表し、nが0のときは、少なくともa及びbのいずれかは1以上である。nが1のときは、少なくともa、b及びcのいずれかは1以上である。)
[化2]

(式中、R_(3)は、水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表す。)
・・・省略・・・
[請求項8] 請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の記偏光板保護フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光子に貼合されていることを特徴とする偏光板。」

イ 「技術分野
[0001] 本発明は、偏光板保護フィルム、その製造方法及び偏光板に関する。より詳しくは、本発明は、偏光子に貼合して偏光板を作製した場合、ヒート・サイクル試験のような高温・低温環境下に繰り返しさらす使用条件下においてもクラックが生じ難い偏光板保護フィルム等に関する。
背景技術
・・・省略・・・
[0004] 液晶表示装置では、通常、液晶セルの表裏に一対の偏光板が配置されて液晶パネルが構成される。
[0005] 有機EL表示装置では、有機EL素子の視認側に、偏光板、特に楕円ないし円偏光板を配置して、反射防止機能を持たせた有機ELパネルが用いられることが多い。なお、楕円ないし円偏光板は、直線偏光板に1/4波長位相差板(すなわちλ/4板)を両者の遅相軸が所定の角度で交差するように積層したものである。
[0006] これらの画像表示装置に使用される偏光板についても、その展開に伴い、需要が増大しているばかりでなく、各用途に適する性能が求められている。
[0007] 上記のような画像表示装置に広く用いられている偏光板(直線偏光板)は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向している偏光子の両面に、液状の接着剤を介して透明保護フィルム、典型的にはトリアセチルセルロースフィルムを接着した構成で製造されている。これをそのまま、あるいは必要により、光学特性を有する位相差フィルムなどの光学層を貼り合わせた形態で、感圧接着剤(粘着剤とも呼ばれる。)を用いて液晶セルや有機EL素子などの画像表示素子に貼合され、表示パネル、さらに画像表示装置とされる。
[0008] 位相差フィルムとしては、耐熱性、光学特性、透明性、電気特性などにおいて優れた性能を有する水素添加(以下水添という。)ノルボルネン系樹脂からなるフィルムを、延伸配向させることによって得られるものが、広く用いられている。
[0009] しかしながら、水添ノルボルネン系樹脂を用いて製造したフィルムを、さらに、液晶パネルにおける使用を想定して、当該フィルム面を偏光子に貼合して偏光板を作製し、高温環境下への放置と低温環境下への放置とを繰り返すヒート・サイクル試験を実施すると、フィルムにクラックが生じることがあった。
[0010] 次いで、偏光板における偏光板保護フィルム面をガラス基板に貼合すると、高温環境下において、ガラス基板から偏光板が剥離することがあった。
・・・省略・・・
[0012] さらに、本発明者は、水添ノルボルネン系樹脂フィルムを偏光板保護フィルムとして用いた偏光板を、液晶セルのガラス基板に粘着剤で貼り合せた状態で、耐久試験(高温条件下にさらした後、常温で放置する)を行うと、耐久試験後に液晶セルと反対側の空気に接する面の偏光板保護フィルムにクラックが発生するという問題があることを発見した。このようなクラックは、フィルムの残留応力が小さくても生じている。
[0013] 従来、水添ノルボルネン系樹脂を含む環状オレフィン系樹脂からなる射出成形品がクラックを発生することは知られていたが(例えば特許文献2参照。)、これは射出成形において生じる大きい残留応力が原因として挙げられており、キャスト製膜のように製膜における残留応力が小さい製法で得られる偏光板保護フィルムにクラックが発生することは知られていない。
・・・省略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0016] 本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、水添ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムを偏光子に貼合して偏光板を作製した場合に、ヒート・サイクル試験を実施してもクラックが生じ難い偏光板とすることが可能な偏光板保護フィルムとその製造方法を提供することである。また、当該偏光板保護フィルムが具備された偏光板を提供することである。
課題を解決するための手段
[0017] 本発明者らは、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、水添ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムを偏光板に用いた場合の前記クラック、剥離等の問題が、環境温度の変化に伴う偏光子の収縮応力の変化に起因すること及び当該偏光板保護フィルムに特定の化合物を含有させて偏光子フィルムに合わせることにより上記課題を解決することができることを見出し本発明に至った。
[0018] すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
[0019] 1. ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムであって、前記ノルボルネン系樹脂が水添ノルボルネン系樹脂であり、かつ、下記一般式(1)で表される化学構造を有する重合性化合物が、含有されていることを特徴とする偏光板保護フィルム。
[0020][化1]

[0021](式中、R_(1)及びR_(2)は、各々独立に、水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表す。
環A_(1)、環A_(2)及び環A_(3)は、各々独立に、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ナフタレン環、テトラヒドロナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環を表す。これらの環中、-CH=は-N=で、-CH_(2)-は-S-又は-O-で置換されていてもよい。
[0022] X、Y及びZは、各々独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1?8のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1?8のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2?6のアルケニル基、ハロゲン原子、シアノ基又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する基を表す。
[0023] L_(1)、L_(2)及びL_(3)は、結合手を表し、各々独立に、単結合、-COO-、-OCO-、-(CH_(2))_(d)-、-CH=CH-、-(CH_(2))_(e)O-、-O(CH_(2))_(f)-、-O(CH_(2))_(g)O-、-OCOO(CH_(2))_(h)-、-(CH_(2))_(i)OCOO-、-(CH_(2))_(j)O(CH_(2))_(k)-、-O(CH_(2))_(l)-[Si(CH_(3))_(2)O]_(m)-Si(CH_(3))_(2)(CH_(2))_(o)-、-(OCH_(2)CH_(2))_(p)-、-(CH_(2)CH_(2)O)_(q)-、-(OCH_(2)CH(CH_(3)))_(r)-、-(CH(CH_(3))CH_(2))_(s)-、-CH=CHCH_(2)O-、-OCH_(2)CH=CH-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-C≡C-、-(CH_(2))_(2)COO、-OCO(CH_(2))_(2)-、-CF=CF-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-C≡C-COO-、-OCO-C≡C-又は-O-を表す。ただし、一部の炭素原子がケイ素原子であってもよい。
[0024] d?m及びoは、各々独立に1?8の整数を表す。p?sは、各々独立に、1?3の整数を表す。nは、0又は1を表す。
[0025] a、b及びcは、それぞれ環A_(1)、環A_(2)及び環A_(3)における置換基の数であって、それぞれの置換される単環又は縮合環に含まれる6員環の数をtとすると、a、b及びcは、各々独立に、2t+2以下の整数を表し、nが0のときは、少なくともa及びbのいずれかは1以上である。nが1のときは、少なくともa、b及びcのいずれかは1以上である。)
[0026][化2]

(式中、R_(3)は、水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表す。)
・・・省略・・・
発明の効果
[0038] 本発明の上記手段により、水添ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムを偏光子に貼合して偏光板を作製した場合に、ヒート・サイクル試験を実施してもクラックが生じ難い偏光板とすることが可能な偏光板保護フィルムとその製造方法を提供することができる。また、当該偏光板保護フィルムが具備された偏光板を提供することができる。
[0039] 本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確になっていないが、以下の理由によるものと推測している。
[0040] 本発明者らは、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、水添ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムを偏光板に用いた場合の前記クラック、剥離等の問題が、環境温度の変化に伴う偏光子の収縮応力の変化に起因すること及び当該偏光板保護フィルムに特定の化合物を含有させて、温度変化による偏光板保護フィルムの膨張・収縮を偏光子フィルムに合わせることにより上記課題を解決することができることを見出した。
[0041] すなわち、偏光子の収縮応力は非常に大きく、偏光子を例えば90℃で長期間放置すると、その収縮応力は、10mm幅あたり20Nとなる。偏光子の収縮応力が大きいことは、偏光板の収縮応力が大きくなることにつながるので、クラックの発生を防ぐには収縮応力は小さい方がよい。
[0042] 実際に、上記応力に相当する引張り応力を模擬的にフィルムにかけたところ、フィルムの強度が低下する現象が観測された。
[0043] 偏光板を構成するにあたって、偏光板保護フィルムは偏光子と接着された状態で存在しており、上記のように90℃放置条件では、常に大きな収縮力がかかることになる。定荷重引張試験で上記を再現した場合、偏光板保護フィルムの強度が低下することが知られている。
[0044] このフィルム強度低下が、クラック発生に影響していると推察される。そもそも、偏光板の偏光板保護フィルムのクラックは、カッティング時の刃の衝撃により発生すると推定されており、(1)フィルム中に目に見えないくらいの極微細なクラックが発生し、(2)クラックが目に見えるレベルにまで成長する、という二つの段階に分離して考えることができる。段階(1)は主にカッティング時の刃の衝撃が要因とされており、段階(2)はカッティング後の熱耐久での偏光板を構成する各フィルムの強度、寸法変動の差が要因とされている。
水添ノルボルネン系樹脂含有フィルムの場合、段階(1)では常温時の強度が問題となるが、偏光子の強度に比較して低く、衝撃に耐えられずクラックが発生しやすい。段階(2)では、隣接する偏光子が熱収縮し、同時にフィルム強度が低下しクラックが拡大する。また、偏光子の吸収軸方向では偏光子は、水添ノルボルネン系樹脂フィルムと同じように熱膨張することとなり、この部分の差が多いほうがクラックが拡大することとなると考えられる。
[0045] このことから偏光板のクラックの発生を抑制するには、偏光板保護フィルムの熱膨張を偏光子と近くし、偏光子による応力下でのフィルムの強度低下を防ぐことが、何より重要であると考えられる。
[0046] そこで、本発明者らは、水添ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムに一般式(1)で表される化学構造を有する化合物を含有させたことにより、強度低下を防止できたのは、以下の機構によるものと推察している。
[0047] すなわち、一般式(1)で表される化学構造における環A_(1)、A_(2)、及びA_(3)がL_(1)、L_(2)及びL_(3)により回転規制を受け、環が並ぶことにより剛直な平面構造を形成する。この剛直な平面構造は、水添ノルボルネン系樹脂の流延方向と平行して混入・配列し、ノルボルネン系樹脂の合間に緻密に配向する。また、剛直な平面構造の両端に結合しているビニル基は一般式(1)で表される重合性化合物間で結合して、上記の緻密な配向の維持を補強する役割を果たす。このようにすれば、カッティング時に発生する極微細なクラック発生や、偏光子の収縮応力によるクラック拡大を防止できるものと推測している。」

ウ 「発明を実施するための形態
[0049] 本発明の偏光板保護フィルムは、ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムであって、前記ノルボルネン系樹脂が水添ノルボルネン系樹脂であり、かつ、前記一般式(1)で表される化学構造を有する重合性化合物が含有されていることを特徴とする。この特徴は、各請求項に係る発明に共通する又は対応する技術的特徴である。
・・・省略・・・
[0056] 以下、構成要素について詳細な説明をする。
<水添ノルボルネン系樹脂>
本発明において用いる「水添ノルボルネン系樹脂」とは、ノルボルネン誘導体(単量体)を単独で、又は当該ノルボルネン誘導体及びこれと共重合可能な不飽和環状化合物とを、メタセシス重合触媒を用いて開環重合させること等によって得られる重合体をさらに水素添加して得られる水添ノルボルネン系樹脂をいう。
・・・省略・・・
[0064] 上記ノルボルネン系樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、日本ゼオン社製「ゼオノア」シリーズ、「ゼオネックス」シリーズ、日立化成工業社製「オプトレッツ」シリーズ、JS R 社製「アートン」シリーズなどが挙げられる。この中でも特に極性基を分子骨格中に有するために、水性接着剤を使用して偏光板を作製する際に必要な、適度な透湿性を有する「アートン」シリーズが好ましい。
・・・省略・・・
[0146]<偏光板保護フィルムの特性>
本発明の偏光板保護フィルムとしては、水添ノルボルネン系樹脂からなるフィルムを用いることを特徴とするが、未延伸のフィルムであってもよく、一軸延伸したフィルムであってもよい。以下に記載の重合性化合物を樹脂に添加することにより、樹脂の配向度が増加する。これにより引張弾性率が上昇することとなり、クラック発生の要因の一つであるカッティング時の刃の衝撃に対する弱さが改良される。
[0147] また、配向することにより、該フィルムの線膨張係数も低下する。配向はキャスト製膜することで、その溶剤拡散過程により、製膜ベルト上でフィルム(ウェブ)に働く収縮力、合わせてフィルム搬送における搬送張力により発生する。
・・・省略・・・
[0158] ・・・省略・・・
<線膨張係数>
偏光板保護フィルムの線膨張係数αは、好ましくは4.5×10^(-5)/℃以下(PVAの値)であり、より好ましくは-5.0×10^(-5)?4.5×10^(-5)/℃ であり、さらに好ましくは-4.5×10^(-5)?4.0×10^(-5)/℃である。線膨張係数αが上記の範囲内であれば、クラック耐久性に優れた偏光板が得られる。
・・・省略・・・
[0160] <偏光子>
本発明に用いられる偏光子としては、任意の適切な偏光子を用いることができる。
・・・省略・・・
[0163] 本発明で用いる偏光子は、好ましくは、0.030≦Rpva≦0.040を満足する。ここで、Rpvaは、波長1000nmにおいて、偏光子の面内で屈折率が最大になる方向の屈折率をnx、当該屈折率が最大になる方向に直交する方向の屈折率をnyとしたとき、Rpva=nx-nyで表される。Rpvaは、さらに好ましくは0.030≦Rpva≦0.039であり、特に好ましくは0.030≦Rpva≦0.035である。偏光子中の配向に寄与しない(代表的には、配向性の低い)結晶量が増大することにより、このような特性が満足されると推定される。Rpvaがこのような範囲の偏光子であれば、高温高湿環境下において優れた寸法安定性及び光学的耐久性を有し得る。その結果、当該偏光子は、偏光子の片側のみに偏光板保護フィルムを設けた偏光板に用いられる場合でも、寸法変化及び光学特性の劣化が起こりにくく、実用上許容可能な寸法安定性及び光学的耐久性を実現することができる。
・・・省略・・・
[0172]・・・省略・・・
<偏光板>
図1は、本発明の好ましい実施形態による偏光板の概略断面図である。図1の実施形態においては、偏光板101は、偏光子10と該偏光子10の両方の面に配置された偏光板保護フィルム20,30とを備える。該偏光子10と該偏光板保護フィルム20,30は、任意の接着層(図示せず)を介して、貼り合わせられている。」
・・・省略・・・
[0179]<その他の層>
本発明の偏光板は、その他の層をさらに有してもよい。その他の層としては、例えば、反射防止層、帯電防止層、位相差層、輝度向上フィルム層、粘着剤層等が挙げられる。一つの実施形態においては、本発明の偏光板は、該粘着剤層を介して液晶セルと貼り合わせられる。」

エ 「実施例
[0184]以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
・・・省略・・・
[0211] 実施例1[偏光板保護フィルム(以下、単に「保護フィルム」という。)]
[0212]<保護フィルム101の作製>
〈微粒子分散液1〉
微粒子(アエロジル R812V 日本アエロジル(株)製)11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
[0213] 〈微粒子添加液1〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分撹拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
[0214] メチレンクロライド 95質量部
微粒子分散液 15質量部
下記組成の主ドープを調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに水添ノルボルネン系樹脂Iを撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープを調製した。
[0215] 〈主ドープの組成〉
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 19質量部
水添ノルボルネン系樹脂I 100質量部
前記重合性化合物A-1 5質量部
微粒子添加液1 1質量部
以上を密閉容器に投入し、撹拌しながら溶解してドープを調製した。次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
[0216] ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
[0217] 剥離した保護フィルムを、180℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に5%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は30%であった。
[0218] 次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は90N/mとした。
[0219] 以上のようにして、乾燥膜厚20μmの保護フィルム101を得た。以下、水添ノルボルネン系樹脂の種類、重合性化合物の種類、重合性化合物の添加量、可塑剤及び可塑剤の添加量を、表1に示すように変更した以外は保護フィルム101と同様にして偏光板保護フィルム102?123を作製した。
(樹脂)
水添ノルボルネン系樹脂I:JSR(株)製 アートン(登録商標)(G7810)
水添ノルボルネン系樹脂II:JSR(株)製 アートン(登録商標)(RX4500 )
・・・省略・・・
[0221] [評価]
・・・省略・・・
[0226] ・・・省略・・・
<線膨張係数 (保護フィルム)>
直方体形状の成形品の片端部と中央部から、それぞれタテ×ヨコ×厚さ=10mm×4mm×0.04mmで切り出した試験片を各3個ずつ、25℃、55%RHで12時間状態調節した後、線膨張係数測定機[型名「TMA/SS7100」、セイコーインスツルメント(株)製]を用いて、JIS K7197に準じて測定した。25?80℃における寸法変化を測定し、そのうち30?60℃における1℃あたりの平均寸法変化率を算出した。この測定を各試験片の端部3個、中央部3個について行い、平均値を求めた。さらに3個の各試験片の平均値を求め、これを成形品の線膨張係数とした。
・・・省略・・・
[0227] 偏光板保護フィルム101?123について、これらの評価項目及び前記配向度を測定した。
[0228] 偏光板保護フィルムの組成と上記評価結果を合わせ表1に示した。
[0229]
[表1]

[0230] 表1の結果から本発明ではクラック発生率が少なく、配向度が大きいことがわかる。
[0231]実施例2
[偏光板1]
<偏光板301の作製>
偏光子1の一方の面(以下A面側という。)に、PVA系接着剤を介して、偏光子の透過軸と平行な方向となるよう保護フィルム101を貼り合わせ、偏光子1の他方の面(以下B面側という。)に下記保護フィルム205を貼り合わせて偏光板301を得た。表2に記載のように、保護フィルム及び偏光子を組み合わせた以外は偏光板301と同様にして、偏光板302?偏光板336を作製した。
保護フィルム201
(ポリエチレンナフタレートフィルム、テオネックスQ83(商品名)(帝人デュポン社製)、厚さ:40μm)
保護フィルム202
(ポリイミドフィルムの延伸フィルム、カプトン(商品名)(東レ製)厚さ:50μ m)保護フィルム203
(ポリエチレンテレフタレートフィルム、MRF50(商品名)(三菱樹脂社製)、厚さ:50μm)
保護フィルム204
(ポリエチレンテレフタレートフィルム、MRF25(商品名)(三菱樹脂社製)、厚さ:25μm)
保護フィルム205
(トリアセチルセルロースフィルム、KC4UAW(商品名)(コニカミノルタ社製)、厚さ:40μm)
保護フィルム206
(トリアセチルセルロースフィルム、KC2UAW(商品名)(コニカミノルタ社製)、厚さ:25μm)
[0232] [偏光子1]
重合度2400、ケン化度99.7モル% 、厚さ75μmのPVA系樹脂フィルムを用意した。当該フィルムを、30℃のヨウ素水溶液中で染色しながらフィルム搬送方向に3倍に延伸し、次いで、60℃の4質量%ホウ酸、5質量%のヨウ化カリウム水溶液中で、総延伸倍率が元長の6倍となるように延伸した。さらに、延伸したフィルムを30℃の2質量%のヨウ化カリウム水溶液中に数秒浸漬することで洗浄した。得られた延伸フィルムを90℃で乾燥し偏光子1を得た。得られた偏光子1の透過軸方向の線膨張係数は4.5×10^(-5)/℃であった。
・・・省略・・・
[0237] 偏光板の構成と上記評価結果を合わせ表2に示した。
[0238]
[表2]

[0239] 表2の結果から本発明の偏光板では、ヒートショック加速試験後であっても、クラックが発生せず、良好なクラック耐久性を有していた。
表1及び表2の結果で示されるように本発明の試料ではクラック発生率の小さい偏光板保護フィルム及び偏光板が得られることがわかる。
産業上の利用可能性
[0240] 本発明は、偏光子に貼合して偏光板を作製した場合に、ヒート・サイクル試験を実施してもクラックが生じ難くい偏光板とすることが可能な、偏光板保護フィルムとして利用することができる。また、当該偏光板保護フィルムが具備された偏光板として利用することができる。」

オ 図1




(2)引用文献6に記載された発明
上記(1)によれば、引用文献6の[0231]?[0232]には、「偏光子1」、「保護フィルム101」及び「保護フィルム205」を有する、「偏光板301」の作製過程が記載されている。そして、「保護フィルム101」は、引用文献6の[0214]?[0219]に記載された工程で得られるものであって、その線膨張係数は、同文献の[0229]の表1から、3.5×10^(-5)/℃と理解される。
そうしてみると、引用文献6には、次の「偏光板301」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 偏光子1の一方の面(以下A面側という。)に、PVA系接着剤を介して、偏光子の透過軸と平行な方向となるよう保護フィルム101を貼り合わせ、偏光子1の他方の面(以下B面側という。)に保護フィルム205を貼り合わせた偏光板301であって、
偏光子1は、重合度2400、ケン化度99.7モル% 、厚さ75μmのPVA系樹脂フィルムを用意し、当該フィルムを、30℃のヨウ素水溶液中で染色しながらフィルム搬送方向に3倍に延伸し、次いで、60℃の4質量%ホウ酸、5質量%のヨウ化カリウム水溶液中で、総延伸倍率が元長の6倍となるように延伸し、さらに、延伸したフィルムを30℃の2質量%のヨウ化カリウム水溶液中に数秒浸漬することで洗浄し、得られた延伸フィルムを90℃で乾燥して得たものであり、
保護フィルム205は、トリアセチルセルロースフィルム、KC4UAW(商品名)(コニカミノルタ社製)、厚さ:40μmであり、
保護フィルム101は、
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 19質量部
水添ノルボルネン系樹脂I 100質量部
前記重合性化合物A-1 5質量部
微粒子添加液1 1質量部
の組成の主ドープを調製し、ドープを温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延し、ステンレスベルト支持体上で溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した保護フィルムを、180℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に5%延伸し、次いで、乾燥温度を130℃、搬送張力を90N/mとして乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた、乾燥膜厚20μmの保護フィルム101であり、水添ノルボルネン系樹脂Iは、JSR(株)製 アートン(登録商標)(G7810)であり、
保護フィルム101の線膨張係数は3.5×10^(-5)/℃であり、
ここで、線膨張係数は、直方体形状の成形品の片端部と中央部から、それぞれタテ×ヨコ×厚さ=10mm×4mm×0.04mmで切り出した試験片を各3個ずつ、25℃、55%RHで12時間状態調節した後、線膨張係数測定機[型名「TMA/SS7100」、セイコーインスツルメント(株)製]を用いて、JIS K7197に準じて測定し、25?80℃における寸法変化を測定し、そのうち30?60℃における1℃あたりの平均寸法変化率を算出し、この測定を各試験片の端部3個、中央部3個について行い、平均値を求め、さらに3個の各試験片の平均値を線膨張係数としたものである、偏光板301。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 偏光子、接着剤層
引用発明の「偏光子1」は、「重合度2400、ケン化度99.7モル%、厚さ75μmのPVA系樹脂フィルムを用意し、当該フィルムを、30℃のヨウ素水溶液中で染色しながらフィルム搬送方向に3倍に延伸し、次いで、60℃の4質量%ホウ酸、5質量%のヨウ化カリウム水溶液中で、総延伸倍率が元長の6倍となるように延伸し、さらに、延伸したフィルムを30℃の2質量%のヨウ化カリウム水溶液中に数秒浸漬することで洗浄し、得られた延伸フィルムを90℃で乾燥して得たものであ」る。
上記製造工程からみて、引用発明の「偏光子1」は、本件補正後発明の「偏光子」に相当する。
また、引用発明の「偏光板301」は、「偏光子1の一方の面(以下A面側という。)に、PVA系接着剤を介して、偏光子の透過軸と平行な方向となるよう保護フィルム101を貼り合わせ」たものである。
上記製造工程からみて、引用発明の「PVA系接着剤」は、「偏光子1の一方の面」で層を構成することは明らかである。
そうすると、引用発明の「PVA系接着剤」(の層)は、本件補正後発明の「接着剤層」に相当する。

イ 保護フィルム、シクロオレフィン系ポリマー
引用発明の「保護フィルム101」は、その機能からみて、本願補正後発明の「保護フィルム」に相当する。
また、引用発明の「保護フィルム101」は、「JSR(株)製 アートン(登録商標)(G7810)であ」る「水添ノルボルネン系樹脂I」を主ドープとして含んでいる。
ここで、一般的に「JSR(株)製 アートン(登録商標)(水添ノルボルネン系樹脂I)」は、例えば、国際公開第2017/155024号の[0032]や特開2012-32715号公報の【0153】に記載されているとおり、シクロオレフィン系ポリマーと称されるものである。
また、引用発明の「偏光板301」は、「偏光子1の一方の面」「に、」「保護フィルム101を貼り合わせ」たものである。
そうしてみると、引用発明の「保護フィルム101」は、本件補正後発明の「保護フィルム」における、「偏光子に設けられる」及び「「シクロオレフィン系ポリマーを含み」という要件を満たす。

ウ 偏光フィルム
引用発明の「偏光板301」は、「偏光子1の一方の面(以下A面側という。)に、PVA系接着剤を介して、偏光子の透過軸と平行な方向となるよう保護フィルム101を貼り合わせ、偏光子1の他方の面(以下B面側という。)に下記保護フィルム205を貼り合わせた」ものである。
ここで、「偏光子1」、「保護フィルム101」及び「保護フィルム205」の厚みや材料からみて、引用発明の「偏光板301」は、偏光機能を備えたフィルム状のものといえる。
以上の点及び上記ア?イの対比結果から、引用発明の「偏光板301」は、本件補正後発明において、「偏光子の面に接着剤層を介して保護フィルムが設けられている」とされる、「偏光フィルム」に相当する。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 偏光子の面に接着剤層を介して保護フィルムが設けられている偏光フィルムであって、
偏光子に設けられる前記保護フィルムは、シクロオレフィン系ポリマーを含む、偏光フィルム。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する,又は一応相違する。
(相違点1)
「偏光フィルム」が、本件補正後発明では、「偏光子の片面にのみ接着剤層を介して保護フィルムが設けられている片保護偏光フィルムおよび偏光子の他面に直接粘着剤層を有する粘着剤層付き片保護偏光フィルム」であるのに対して、引用発明は、「偏光子1の一方の面」「に、PVA系接着剤を介して、偏光子の透過軸と平行な方向となるよう保護フィルム101を貼り合わせ、偏光子1の他方の面」「に保護フィルム205を貼り合わせた」ものである点。

(相違点2)
「偏光子に設けられる保護フィルム」が、本件補正後発明は、「下記式(1)を満たすものである
Y≦1.26×lnX+3.5 (1)
Y:保護フィルムの線膨張係数(×10^(-5)/K)
X:保護フィルムの破断伸度(%)」のに対して、引用発明では、式(1)を満たすか特定されていない点。

(5)判断
ア 相違点1について
引用文献6の[0163]には、「本発明で用いる偏光子は、好ましくは、0.030≦Rpva≦0.040を満足する。・・・省略・・・。Rpvaがこのような範囲の偏光子であれば、高温高湿環境下において優れた寸法安定性及び光学的耐久性を有し得る。その結果、当該偏光子は、偏光子の片側のみに偏光板保護フィルムを設けた偏光板に用いられる場合でも、寸法変化及び光学特性の劣化が起こりにくく、実用上許容可能な寸法安定性及び光学的耐久性を実現することができる。」ことが示唆されている。
また、引用文献6の[0016]及び[0017]の記載を参照すると、引用発明の「保護フィルム101」及び「保護フィルム205」のうち引用発明の課題を解決するために必要不可欠な構成は、水添ノルボルネン系樹脂を含有する保護フィルム101であるといえる。
くわえて、引用文献6の[0179]には、「一つの実施形態においては、本発明の偏光板は、粘着剤層を介して液晶セルと貼り合わせられる」ことが示唆されており、また、偏光フィルムの技術分野において、偏光子の片面にのみ接着剤層を介して保護フィルムが設けられている片保護偏光フィルムの偏光子の他面に直接粘着剤層を設けて粘着剤層付き片保護偏光フィルムとすることは、例えば、特開2017-57382号公報の【0093】、図1、国際公開第2017/122732号の[0026]?[0027]、図1に記載されているとおり、本件出願前の周知技術である。
そうすると、引用発明の「偏光フィルム」において、上記示唆及び上記周知技術に基づいて、偏光子1の片面にのみ接着剤を介して保護フィルム101を設け、偏光子1の他面に直接粘着剤層を設けて、相違点1に係る本件補正後発明の構成に到ることは当業者にとって格別困難なことではない。

イ 相違点2について
引用発明の「保護フィルム101の線膨張係数は3.5×10^(-5)/℃であ」るから、本件補正後発明1の式(1)のYとして3.5を代入して式(1)を充足するX:保護フィルムの破断伸度(%)の範囲を導き出すと、X≧1となる。
また、引用発明の「保護フィルム101」の主成分は、主ドープの組成から、JSR(株)製 アートン(登録商標)(G7810)である。そして、特開2004-299254号公報の【0041】に記載されているように、アートン Gのノルボルネン系樹脂を主成分とする未延伸のノルボルネンフィルムの破断伸度は一般的に1%を下回らない。
以上勘案すると、引用発明1の「保護フィルム101のX:保護フィルムの破断伸度(%)」は1%以上である蓋然性が高く、相違点2は実質的な相違点ではない。
(当合議体注:引用発明の「保護フィルム101の線膨張係数」は、25?80℃における寸法変化を測定し、そのうち30?60℃における1℃あたりの平均寸法変化率を算出したものであるのに対し、本件補正後発明の「線膨張係数」は、本件出願の明細書の【0093】に記載されているように、-40?85℃の測定範囲で求めたものである。この点について、一般的に、高分子フィルムの寸法変化はガラス転移点付近を境に大きく値が変化するが、それ以外の範囲では大きく値は変わらないことが知られており、さらにアートン樹脂のガラス転移温度は120℃以上であるから、引用発明の「保護フィルム101」の線膨張係数は、本願発明の測定方法に従って求めた場合においても3.5×10^(-5)/℃から大きくは乖離しないと考えられる。したがって、その場合においても式(1)を満たす蓋然性は高い。)
仮に相違するとしても、フィルムの取り回し等の観点から、破断伸度を1%以上とすることは当業者が適宜なしえる設計的事項にすぎない。

(6)発明の効果について
本件出願の明細書の【0016】には、発明の効果として、「偏光子の片面又は両面に設けられる保護フィルムとして前記式(1)を満たす保護フィルムを少なくとも1つ用いることにより、保護フィルムの膨張・収縮に基づく応力によって、偏光子の膨張・収縮によって生じる応力を緩和することができるため、偏光子にクラックが生じ難くなる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明の保護フィルム101が式(1)を満たす蓋然性が高いことから、引用発明が奏する効果でもある。

(7)請求人の主張について
請求人は、令和2年6月10日提出の審判請求書において、概略、以下の点を主張している。
ア 引用文献6には、偏光子の収縮応力によるクラック拡大を防止するためには、特定の化学構造を有する水添ノルボルネン系樹脂を含有する偏光板保護フィルムを偏光子の両面に設ける必要があり、偏光板保護フィルムを偏光子の片面にのみ貼合した片保護偏光板とすることは、阻害要因があるか動機付けがない点。
イ 引用文献6には、偏光子の偏光板保護フィルムが設けられていない面に直接粘着剤層を設けることの示唆ないし動機付けがない点

上記主張について検討する。
上記ア、イについて、前記(5)アで述べたとおりである。
以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用できない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、引用文献6の「偏光板304」を引用発明とした場合であっても同様である。

4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願前に日本国内及び外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開第2017/110342号(引用文献6)に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献6の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]3で検討した本件補正後発明から「保護フィルムが偏光子の片面にのみ設けられている」、「偏光子の他面に直接粘着剤層を有する」との限定を省いたものに相当する。そして、上記限定は、前記「第2」[理由]3(4)で述べた相違点1に対応しており、本願発明については、上記限定を有さないから、相違点1の検討で引用した周知技術については考慮する必要がない。
そうしてみると、本願発明は、引用文献6に記載された発明であるか、又は引用文献6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明ができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当するか、又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-12-25 
結審通知日 2021-01-05 
審決日 2021-01-28 
出願番号 特願2018-117047(P2018-117047)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沖村 美由吉川 陽吾  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
井亀 諭
発明の名称 偏光フィルム、粘着剤層付き偏光フィルム、及び画像表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
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