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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B62B
管理番号 1372390
審判番号 無効2019-800096  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-11-19 
確定日 2021-02-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第4184071号発明「ベビーカーの幌」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4184071号(以下、「本件特許」という。)は、平成14年12月26日を出願日とする出願についてのものであって、平成20年9月12日に請求項1?5に係る発明について設定登録され、その後、令和1年11月19日に請求人ジョイー インターナショナル カンパニー リミテッドから特許無効審判が請求されたものである。以下、無効審判が請求された以降の経緯を整理して示す。
令和1年11月19日付け 審判請求書(請求人)
同1年11月28日付け 手続補正書(方式)(請求人)
令和2年3月19日付け 審判事件答弁書(被請求人)
同年6月17日付け 審尋
同年7月3日付け 回答書(被請求人)
同年7月13日付け 回答書(請求人)
同年7月20日 第1回口頭審尋

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?5に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)。
[本件発明1]
「ベビーカー本体に装着して用いられ、逆U字状に屈曲された複数の幌骨の一対の開放側先端部をそれぞれ互いに枢着し、上記幌骨間の角度を変えることにより幌の開き具合を変えるようにしたベビーカーの幌において、
上記幌骨間に張設された幌布のうち一つの幌骨の取り付け部位に近接した部分と、前記幌布のうち他の幌骨の取り付け部位に近接した部分とに、互いに連結可能な一対の連結具を設けたことを特徴とする、ベビーカーの幌。」
[本件特許2]
「前記複数の幌骨は、前記ベビーカー本体に対して相対的に移動しない固定側の幌骨と、前記固定側の幌骨の前方に位置する揺動可能な前方側の幌骨と、前記前方側の幌骨と前記固定側の幌骨との間に位置する揺動可能な中間位置の幌骨とを有し、
上記一対の連結具は、前記幌布のうち固定側の幌骨の取り付け部位に近接した部分と、前記中間位置の幌骨の取り付け部位に近接した部分とに各々設けられていることを特徴とする、請求項1記載のベビーカーの幌。」
[本件特許3]
「上記一対の連結具は、各々着脱可能なバックルからなることを特徴とする、請求項1記載のベビーカーの幌。」
[本件特許4]
「上記一対の連結具は、各々面ファスナからなることを特徴とする、請求項1記載のベビーカーの幌。」
[本件特許5]
「上記一対の連結具は、各々紐からなることを特徴とする、請求項1記載のベビーカーの幌。」

第3 当事者の主張及び提出した証拠の概要
1 請求人
請求人は、「特許第4184071号発明の請求項1乃至5についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、審判請求書とともに甲第1号証?甲第3号証を提出し、さらに、回答書において、甲第4号証?甲第6号証の3を提出し、審判請求書及び回答書において、以下の無効理由を主張している。

[無効理由1]
本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
[無効理由2]
本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:独国実用新案公開第20210347号明細書
甲第2号証:特開昭61-139555号公報
甲第3号証:実公昭45-27792号公報
(以上、審判請求書に添付。)
甲第4号証:広辞苑[第5版]第732ページ
甲第5号証:実願昭61-113055号(実開昭63-18347号)の
マイクロフィルム
甲第6号証の1:特開2002-101916号公報
甲第6号証の2:特開2002-45212号公報
甲第6号証の3:特開2002-10804号公報
(以上、令和2年7月13日付け回答書に添付。)

2 被請求人
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、審判事件答弁書及び回答書において、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできないと主張している。

第4 各証拠に記載の事項等
1 甲第1号証の記載事項
(1)甲第1号証には次の記載がある(訳は請求人提出の訳文を基に当審で作成したものである。また、下線は当審で付した。)。
(甲1-1)

(明細書第1ページ第2行?第5行)
(訳)「本発明は、シャーシと、座席・寝台インサートと、自由端が回転ジョイントに差し込まれた少なくとも2つのフード支柱をフードカバーの保持のために装備する開閉可能なフードとを有するベビーカーに関する。」
(甲1-2)

(明細書第1ページ第7行(空行を含む、以下同じ)?末行)
(訳)「対象となるベビーカーは複数の実施形態で知られている。シャーシは通常、高さを低減するために折り畳み可能である。座席・寝台インサートは槽状に構成されており、背もたれ部分を子供の横臥位置のために平らにすることができ、および子供の着座位置のために起こすことができる。フード開口部はベビーカーの実施形態に応じて、ベビーカーを押す人間のほうを向くか、またはこれと反対を向くように位置している。フードは両方の最終位置の間で無段階に畳むことができる。回転ジョイントが実質的にセルフロック式になっているからである。すなわち、フード開口部のほうを向くフード支柱を、多少の負荷をかけるだけで、これと向かい合うフード支柱へと向かう方向に動かすことができる。フードカバーの下側縁部は、通常の場合、座席・寝台インサートの対応する上側縁部と取外し可能に結合される。」
(甲1-3)

(明細書第2ページ第1行?第7行)
(訳)「特にフードカバーも洗浄できることが不可欠である。これまで知られている実施形態は、実用において成果が良く実証されている。しかしながら、フード支柱からフードカバーを取り外すために回転ジョイントを外さなければならないことが欠点であると感じられる。フード支柱がフードカバーから個別に分離されるように、フードが設計されているからである。このような方式の分離は、取扱性の点からしてかなり面倒であり、時間コストもかかる。」
(甲1-4)

(明細書第2ページ第9行?第11行)
(訳)「本発明の課題は、フード支柱からのフードカバーの取外しが簡易化されるように、冒頭に詳しく述べた種類のベビーカーを構成することにある。」
(甲1-5)

(明細書第2ページ第13行?第16行)
(訳)「課せられた課題は、フードカバーが、フード支柱と回転ジョイントをユニットとしてフードカバーから分離可能であるように、1つの挿通ポケットまたは複数の挿通ポケットを備えていることによって解決される。」
(甲1-6)

(明細書第2ページ第18行?第26行)
(訳)「フード支柱からフードカバーを取り外すために回転ジョイントを外すことが必要なくなる。フレームと呼ぶここともできるユニット全体を、フードカバーから分離することができるからである。さらに、回転ジョイントの組付けが不要になるので、接合をするときにいっそう利点が得られる。1つの挿通ポケットまたは複数の挿通ポケットは、フードカバーの内側または外側に設けられるのが好都合である。それにより、外からのベビーカーフードの外観が損なわれることがない。1つの挿通ポケットが適用される場合、これはフードカバーの縁部全体にわたって延び、または近似的に縁部全体にわたって延びる。」
(甲1-7)

(明細書第2ページ第28行?第3ページ第26行)
(訳)「1つの実施形態では、フード開口部に隣接する挿通ポケットは、フード開口部のほうを向くフード支柱の両方の平行な脚部に対して横向きまたは斜めに延びる、互いに向き合う2つのスリット状の開口部を有することが意図される。これ以外の挿通ポケットの縁はフードと固定的に結合され、たとえば縫合される。この実施形態では、両方の挿通ポケットが三角形または台形に構成される。スリット状の開口部は、回転ジョイントが通り抜けることができる程度の大きさでなければならない。U字型のフード支柱の中央脚部も、挿通ポケットの内部に位置する。少なくともフード支柱が押し広げられた位置にあるときフードカバーが張力を受けるようにするために、これらの挿通ポケットは比較的小さい断面だけを有することができる。しかしながら、回転ジョイントが通り抜けることができるようにするために、これらの挿通ポケットを開くことができることが意図される。このことは、たとえば面ファスナー、押しボタン、または好ましくはベルクロによって行われる。座席・寝台インサートの背もたれ部分が座席位置にくるように旋回すると、フードカバーの領域の下側領域ならびにフード開口部に向かい合う領域が自由にコントロールされずに垂れ下がる。背もたれ部分の座席位置のときにこれを回避するために、フード開口部と反対を向くほうの側には外側に2部分からなる閉止部材が配置されて、座席・寝台インサートの背もたれ部分が座席位置にあるときに、下側領域を対応するフード支柱の中央部分に向かう方向へ引っ張ることができるようになっていることが意図される。閉止部材としては、たとえばスナップファスナー、面ファスナーなどが考慮の対象となる。たとえば手でばね棒を押し合わせることによって、工具なしに操作できる閉止部材であるのが常によい。フードが繰り出されているときの換気を改善するために、別の実施形態では、フードカバーが換気切欠きを備えていることが意図される。このような換気切欠きは、好ましい実施形態では面ファスナーによって区切られ、それにより閉じた位置にあるときにはベビーカーフードが密閉される。このような換気切欠きは、開放位置にあるときに引き開けることができる。ただし安全性のために、換気切欠きは内側に位置するネットが張設される。換気切欠きは、前側と後側のフード支柱の間のベビーカーフードの上側に位置するのが好ましい。」
(甲1-8)

(明細書第4ページ第4行?第28行)
(訳)「図面を簡略にする都合上、ベビーカーは全体としては図示されていない。ベビーカー10は、図1から3の図示した実施例では押し広げられた状態で示されている。ベビーカーフード10は2つのU字型のフード支柱11、12を含んでおり、その自由端が2つの回転ジョイント13、14に差し込まれている。フード支柱には、フード支柱11、12が見えなくなるように設計されたフードカバー15が張設されている。回転ジョイント13、14は、ベビーカーフード10を工具を利用することなく図示しない座席・寝台インサートへ固定するために、またはこれを取り外すために、ばね部材16、17を含んでいる。フードカバー15の側方部分は、ほぼ三角形または台形に構成された、フード開口部を起点とする挿通ポケット18、19を含んでいる。これらの挿通ポケットは回転ジョイント13,14を通り抜けさせるために、フード開口部のほうを向くフード支柱11の平行な脚部に対して横向きないし斜めに延びる、スリット状の開口部20,21を備えている。フード支柱11、12の中央部分も同じく挿通ポケット22、23の中に位置しているが、これらの挿通ポケットはフラップ状に構成されていて、それに応じて開くことができる。固定は図示した実施例では面ファスナー24、25によって行われる。フード支柱11、12および回転ジョイント13、14からのフードカバー15の分離を実現するために、挿通ポケット22、23が開かれる。そしてフード支柱11、12を共にフードカバー15から分離することができる。このとき回転ジョイント13、14を、対応する挿通ポケット18、19に通さなければならない。フード支柱11、12とフードカバー15との接合は、これと逆の仕方で行われる。フード支柱11、12が正しい位置にきた後に、挿通ポケット22,23が閉じられる。」
(甲1-9)

(明細書第4ページ第30行?第5ページ第13行)
(訳)「図2は、フードカバー15から分離されるべき、両方のフード支柱11、12、両方の回転ジョイント13、14、およびこれらと結合されたばね部材16、17からなるユニットを示している。詳しくは図示しない仕方により、これらのばね部材16、17は、差し込まれた状態のときに対応する係止突起に後方係合する係止ラグを備えるばね舌部を含んでいる。座席・寝台インサートからベビーカーフード10を取り外すには、ばね舌部を手でロック解除しなければならない。図3は、フード開口部と向かい合っているフードカバー15の後側部に2部分からなるスナップファスナー26が固定されることを示している。これら両方の部分は、閉止位置のときに後側のフード部分の下側領域が上方に向かって引っ張られるような相互間隔で配置されており、それによりフードカバー15の下側端部が近似的に1つの平面に位置するようになる。それにより、座席・寝台インサートの背もたれ部分が座席位置に移されたときに、より良い印象が喚起される。フードカバー15の上側領域には、図示した実施例では面ファスナー28によって区切られる、開くことができる換気切欠き27がさらに設けられている。換気切欠き27が開いた位置にあるとき、換気切欠きが引き開けられる。安全性の理由により、換気切欠き27は内側に位置するネットによって覆われる。」

(2)また、甲第1号証には次の図面がある。

2 甲第1号証に記載の発明
甲第1号証の甲1-7及び甲1-9並びに第1図及び第3図の記載から次の事項が認定できる。
甲第1号証に記載されたベビーカーの折り畳み式フードの、フードカバー15のフード支柱12の逆U字頂部で支持される部分には、円弧状面ファスナー28が備えられている。
甲第1号証に記載されたベビーカーの折り畳み式フードにおいて、スナップファスナー26の一方と当該スナップファスナー26の一方に連結される帯状の部材とを含む連結部材の一方は、前記円弧状面ファスナー28の頂部近傍に位置され、スナップファスナー26の他方と当該スナップファスナー26の他方に連結される帯状の部材を含む連結部材の他方は、その帯状の部材の端部がフードカバー15の下縁に近い位置から延出されている、

甲第1号証に記載の事項及び上記認定事項に基づいて、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「ベビーカー本体に装着して用いられ、逆U字状に屈曲された2つのフード支柱11、12の一対の開放側先端部をそれぞれ回転ジョイント13、14に差し込み、フードカバー15は前記フード支柱11、12に保持されており、前記フード支柱11、12間の角度を変えることにより、開閉可能なフードの開き具合を変えるようにしたベビーカーの折り畳み式フードにおいて、
前記フードカバー15のフード支柱12の逆U字頂部で支持される部分には、円弧状面ファスナー28が備えられ、
スナップファスナー26の一方と当該スナップファスナー26の一方に連結される帯状の部材とを含む連結部材の一方は、前記円弧状面ファスナー28の頂部近傍に位置され、
スナップファスナー26の他方と当該スナップファスナー26の他方に連結される帯状の部材を含む連結部材の他方は、その帯状の部材の端部がフードカバー15の下縁に近い位置から延出されている、
ベビーカーの折り畳み式フード。」

3 甲第2号証の記載事項
(1)甲第2号証には次の記載がある。
(甲2-1)「[産業上の利用分野]
この発明は、折りたたみ可能で使用形態の多様性に富む乳母車用幌に関するものである。」(第1ページ右下欄下から5行?下から3行)
(甲2-2)「第1図に示すように、本実施例の幌は3本の幌骨1,2,3を備えている。これら幌骨1,2,3は扇の骨のように開いたり閉じたりが可能であり、最も開いた状態では幌布4が弛みなく張られる。また、幌全体が支持部材5を中心として図中矢印Aの方向へ回動可能である。なお、幌骨1,2の間には、その間の幌布4を弛みなく張った状態に固定する拡げ縮め装置6が架設されている。
第2図に示すように、3本の幌骨1,2,3は、支持部材5に軸部材7を介して軸支されている。すなわち、軸部材7は、支持部材5とともに各幌骨1,2,3の端部を貫通してちょうど扇の要のように構成されている。支持部材5は、その下半分が乳母車本体側へ差し込むことのできる杭状部8に形成され、また上半分は軸部材7が貫通する要状部9に形成されている。要状部9の一方の端面には、第3図にも示すように、軸部材7の軸芯を中心とする円周上にいわゆる「ぎざぎざ形状」の凹凸部10が形成されている。また、軸部材7が貫通する部分にはボス部11が形成されている。要状部9の凹凸部10およびボス部11が形成される側の端面には、この形状に嵌合する端面を持ったブラケット12が組付けられている。このブラケット12には幌骨1が嵌め付けられて、幌骨1とブラケット12とは一体的に動作するよう互いに固定されている。軸部材7の一方端部と幌骨1の端部との間には軸部材7を挿通してコイルばね13が圧縮状態で嵌め付けられている。図中14はコイルばね13の一端を支えるための座金であり、コイルばね13の弾発付勢力は常に幌骨1を介してブラケット12を支持部材5に押し付けている。ブラケット12の端面には、支持部材5に形成された凹凸部10に噛合うべく、これと同様の凹凸部15が形成されている。これら凹凸部10,15についてさらに詳しく述べると、凹凸を形成する各斜面は、互いに傾斜方向の勾配が逆となる平坦面を交互に隣接させて配列し、山状の凸部と谷状の凹部とが交互に形成されている。それぞれの斜面が交わる角度は、好ましくは約120度に設定されている。したがってブラケット12または幌骨1を軸部材7のまわりに周方向へ回動させるとブラケット12側の凸部が支持部材5側の凸部を順次乗越えて次の凹部に嵌め合わされる。このときブラケットはコイルばね13の弾発力に抗して軸部材7の軸方向へ移動しながら前述したように相手側の山状凸部を順次乗越える。
幌骨2,3はそれぞれ支持部材5に対して幌骨1の反対側に設けられ、各幌骨2,3は、その端部において第6図および第7図に示すような幌骨カバー16,17によって覆われている。軸部材7の端部は幌骨カバー17の端面に当接して前述のコイルばね13の弾発力によって常に支持部材5側へ押圧されている。このことによって幌骨カバー16は支持部材5に、幌骨カバー17は幌骨カバー16にそれぞれ押し付けられるのでそれぞれの接触面において摩擦力を生じる。幌骨2,3はこの摩擦力によって任意の回動位置あるいは展開位置にて保持される。」(第2ページ左下欄第6行?第3ページ右上欄第3行)
(甲2-3)「以上のように構成された本実施例の乳母車用幌は、まず幌骨1が支持部材5に対してどのような回動位置にあっても凹凸部10と15との係合によってその位置を保持することができ、幌骨2,3も、幌布4が拡がることのできる範囲内において、幌骨1に対してどのような位置にでも保持することができる。したがって幌全体としては第1図に示したように矢印Aの方向に移動自在であり、乳母車の前方位置あるいは後方位置さらには中間位置のどの位置においてもこの幌をセットすることができる。そして幌の開く角度も一杯に開いた状態から完全に閉じられた状態まで所望のどのような展開角度にもセットすることができる。例えば第8図に示すように、幌を一杯に開いた状態にし、乳母車の前方位置にセットして背もたれ部を起こせば、風よけや雨よけとしても有効に利用することができる。」(第3ページ右上欄第4行?末行)
(2)また、甲第2号証には次の図面がある。

4 甲第2号証に記載された発明及び技術的事項
甲第2号証に記載の事項を、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲2発明]
「乳母車本体に装着して用いられ、複数の幌骨1、2、3の一対の開放側先端部は、それぞれ支持部材5に軸支され、前記複数の幌骨1、2、3間の角度を変えることにより幌の開く角度を変えるようにした乳母車用幌。」

また、甲第2号証には、次の技術的事項(以下、「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「幌骨1、2、3間に幌布4を張ったものであって、幌布4の下縁に幌骨3が設けられている技術的事項」

5 甲第3号証の記載事項
(1)甲第3号証には次の記載がある。
「本考案は幌本体Aの前骨1と前中骨2との間及び後骨3と後中骨4との間に夫々合成樹脂シート5,6を上面より左右両側上面に渉つて被着すると共に前中骨2と後中骨4との間には編織地7を上面より左右両側上面に渉つて被着せしめた乳母車の幌である。
幌本体Aは幌元板8に∩(当審注:□の下の棒がないもの)型に形成した前骨1、前中骨2、後骨3、後中骨4、の下端を枢着せしめると共に前骨1と後骨3とに渉つて開閉片9を枢着せしめ、開閉片9によりて幌骨1,2,3,4は夫々枢動し、幌本体Aを開閉自在ならしめる
幌本体Aは幌元板8が車体に掛止され、開閉片9を開動せしめれば車体に乗車せる子供の頭上に開かれ、子供の頭上を覆い、日除け雨除けとなる
前骨1、前中骨2、後骨3、後中骨4は夫々∩(当審注:□の下の棒がないもの)型に折曲形成され、両下端を幌元板8に枢着せしめて開閉自在ならしめる。前骨1と前中骨2との間には不透明の合成樹脂レザー5を上面より両側上面に渉つて被覆し、縫着する。
前中骨2と後中骨4との間には透視し得る編織地7を上面より両側上面に渉つて被覆し縫着する
更に後骨3と後中骨4との間にも同様に合成樹脂レザー6を被覆縫着する。
編織地7は糸を編状に織り、この織地を合成樹脂溶液に浸漬せしめて全面に渉つて合成樹脂を浸透塗着せしめ、乾燥して硬化させ、前中骨2と後中骨4との間に被せ、縫着する。
従来この種の乳母車の幌にありては不透明の合成樹脂レザーを前後両骨に渉つて上面より左右両側上面に至るまで被覆縫着し、更にその不透明の合成樹脂レザーの後上面に透視孔を開穿したので外観的体裁悪く、製作にも時間を要した。
本考案は以上のように幌本体の中央の中骨に渉つて透視出来得る程度の編織地を中央上面より左右両側上面に至るまで被せ、縫着せしめたから、車体に乗車せる子供の頭上は明るくなり、且日除けとしても十分な効果が得られ、風透し良好で、むれたりせず又雨の吹り込みを防止できる。従つて特に夏季使用するときは実益極めて大であり、安心して子供を乗車せしめ得る効果がある。」(考案の詳細な説明)
(2)また、甲第3号証には次の図面がある。


6 甲第3号証に記載された技術的事項
上記甲第3号証の記載事項より、甲第3号証には、次の技術的事項(以下、「甲3に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「幌骨1、2間及び幌骨3、4間に合成樹脂レザー5、6を被服逢着し、幌骨2、4間に編織地7を被服逢着することにより、幌布の後方の下縁に幌骨3(後骨3)が設けられている技術的事項」

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ベビーカー」は、本件発明1の「ベビーカー」に相当する。
甲1発明の「2つのフード支柱11、12」は、本件発明1の「複数の幌骨」に相当する。
甲1発明の「2つのフード支柱11、12の一対の開放側先端部をそれぞれ回転ジョイント13、14に差し込」むことは、これにより、2つのフード支柱11、12の一対の開放側先端部は互いに枢着されているといえるから、本件発明1の「複数の幌骨の一対の開放側先端部をそれぞれ互いに枢着」することに相当する。
甲1発明の「前記フード支柱11、12間の角度を変えることにより、開閉可能なフードの開き具合を変えるようにした」ことは、本件発明1の「上記幌骨間の角度を変えることにより幌の開き具合を変えるようにした」ことに相当する。
甲1発明の「フード」は、本件発明の「幌」に相当する。
甲1発明の「連結部材」の「一方」と「他方」は、各々フードカバー15に設けられた互いに連結可能な一対の連結具であるといえるので、甲1発明は、本件発明1の「上記幌骨間に張設された幌布」「に、互いに連結可能な一対の連結具を設けた」構成を備えている。
以上より、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりと認められる。
[一致点1]
「ベビーカー本体に装着して用いられ、逆U字状に屈曲された複数の幌骨の一対の開放側先端部をそれぞれ互いに枢着し、上記幌骨間の角度を変えることにより幌の開き具合を変えるようにしたベビーカーの幌において、
上記幌骨間に張設された幌布に、互いに連結可能な一対の連結具を設けた、 ベビーカーの幌。」
[相違点1]
本件発明1は、「一対の連結具」を、「上記幌骨間に張設された幌布のうち一つの幌骨の取り付け部位に近接した部分と、前記幌布のうち他の幌骨の取り付け部位に近接した部分とに」「設けた」ものであるのに対し、甲1発明は、「前記フードカバー15のフード支柱12の逆U字頂部で支持される部分には、円弧状面ファスナー28が備えられ、スナップファスナー26の一方と当該スナップファスナー26の一方に連結される帯状の部材とを含む連結部材の一方は、前記円弧状面ファスナー28の頂部近傍に位置され、スナップファスナー26の他方と当該スナップファスナー26の他方に連結される帯状の部材を含む連結部材の他方は、その帯状の部材のの端部がフードカバー15の下縁に近い位置から延出されている」ものである点。
b 判断
(a)相違点1について
相違点1について検討する。
ア 甲1発明の「フードカバー15」は、フード開口部がベビーカーの実施形態に応じて、ベビーカーを押す人間の方を向くか、またはこれと反対を向くように、座席・寝台インサートへ固定もしくは分離可能に構成されており、これにともない、フードカバーの下側縁部は、座席・寝台インサートの対応する上側縁部と取外し可能に結合されものである(摘記甲1-2、甲1-8及び甲1-9を参照。)。
してみると、フードカバー15のフード開口部には、フード支柱を設けることが必要であるとしても、下側縁部にフード支柱を設けることは予定されていないというべきである。
したがって、甲2に記載の技術的事項及び甲3に記載の技術的事項より、ベビーカーの幌布の下縁に幌骨を設けることが、当業者には周知・慣用であったとしても、甲1発明において、フードカバー15の下側縁部にフード支柱を設ける動機づけはないから、相違点1に係る本件発明1の構成に想到することが当業者に容易であったとはいえない。
イ 甲1発明は、「前記フードカバー15のフード支柱12の逆U字頂部で支持される部分には、円弧状面ファスナー28が備えられ」、「連結部材の一方」は、「前記円弧状面ファスナー28の頂部近傍に位置され」ており、「連結部材の他方は、その帯状の部材の端部がフードカバー15の下縁に近い位置から延出されている」いるという構成を採用するものであるところ、かかる構成のうち「円弧状面ファフナー28」は、フードカバー15の上側領域に設けられた換気切欠き27を開閉するために設けられたものであり(摘記甲1-9を参照。)、当該換気切欠き27は、換気という機能からみて、フードカバー15の上側領域において、フードカバー内部の換気ができる程度の大きさが必要とされると解される。そして、幌骨12は、フードカバー15の上側領域においてフードカバー15に取り付けられている。
してみると、甲1発明において、換気切欠き27を開閉するために設けられた円弧状面ファフナー28の頂部は、フードカバー15において、フードカバー15の上側部分である幌骨12の取り付け部位から、換気切欠き27の分だけ離れた場所に位置しているといえ、この位置は、フードカバー15のうち幌骨12の取り付け部位に近接した部分ということはできず、したがって、甲1発明の「連結部材の一方」は、幌骨12の取り付け部位に近接した部分に設けられているとはいえない。
また、甲1発明の構成は、一方及び他方の両連結部材を連結(閉止)することにより、フードカバー15の下側領域が上方に向かって引っ張られ、フードカバー15の下側縁部が近似的に1つの平面に位置するようして、ベビーカーの座席・寝台インサートの背もたれ部分が座席位置に移されたときに、背もたれ部分に垂れ下がることを防止するためのものであり(摘記甲1-7及び甲1-9を参照。)、フードカバー15の下側縁部と支柱12との間を閉じた状態に保持するものではなく、フードカバーを閉じた状態とすることを想定していない。
したがって、甲1発明において、甲2に記載の技術的事項もしくは甲3に記載の技術的事項である、ベビーカーの幌布の下縁に幌骨を設けるという構成を採用することが、仮に、当業者が容易に想到しえたとしても、甲1発明にベビーカーの幌布の下縁に幌骨を設けるという構成を採用しただけでは、相違点1に係る本件発明1の構成には至らない。
ウ よって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
(b)作用効果について
そして、本件発明1は、相違点1の構成を有することにより、幌を完全な展開状態でなく展開面積が狭い状態で使用する時にも、幌布が、緊張状態に保持されるようにできるという格別の作用効果を奏するものといえる(本件の特許明細書の段落【0007】及び【0015】を参照。)。
(c)小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証もしくは甲第3号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
a 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
上記(1)aを踏まえると、本件発明2と甲1発明とは、上記相違点1とともに、次の相違点2で相違し、上記一致点1で一致すると認められる。
[相違点2]
本件発明2は、「前記複数の幌骨は、前記ベビーカー本体に対して相対的に移動しない固定側の幌骨と、前記固定側の幌骨の前方に位置する揺動可能な前方側の幌骨と、前記前方側の幌骨と前記固定側の幌骨との間に位置する揺動可能な中間位置の幌骨とを有し、上記一対の連結具は、前記幌布のうち固定側の幌骨の取り付け部位に近接した部分と、前記中間位置の幌骨の取り付け部位に近接した部分とに各々設けられている」ものであるのに対し、甲1発明は、「2つのフード支柱11、12の一対の開放側先端部をそれぞれ回転ジョイント13、14に差し込」むものであり、「前記フードカバー15のフード支柱12の逆U字頂部で支持される部分には、円弧状面ファスナー28が備えられ、スナップファスナー26の一方と当該スナップファスナー26の一方に連結される帯状の部材とを含む連結部材の一方は、前記円弧状面ファスナー28の頂部近傍に位置され、スナップファスナー26の他方と当該スナップファスナー26の他方に連結される帯状の部材を含む連結部材の他方は、その帯状の部材の部材の端部がフードカバー15の下縁に近い位置から延出されている」ものである点
b 判断
本件発明2と甲1発明との間には、少なくとも相違点1が存在することとなるが、甲1発明において、相違点1に係る本件発明2の構成となすことは、上記(1)b(a)で説示と同様の理由により、甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証もしくは甲第3号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
a 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「スナップファスナー26」は着脱可能なバックルであるといえるので、本件発明3の「上記一対の連結具は、各々着脱可能なバックルからなる」構成を備えているといえる。
したがって、上記(1)aを踏まえると、本件発明3と甲1発明とは、一致点1に本件発明3で特定される事項を加えた点で一致し、上記相違点1で相違すると認められる。
b 判断
本件発明3と甲1発明との間には、相違点1が存在することとなるが、甲1発明において、相違点1に係る本件発明3の構成となすことは、上記(1)b(a)で説示と同様の理由により、甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、本件発明3は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証もしくは甲第3号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明4について
a 対比
本件発明4と甲1発明とを対比する。
上記(1)aを踏まえると、本件発明4と甲1発明とは、上記相違点1とともに、次の相違点3で相違し、上記一致点1で一致すると認められる。
[相違点3]
本件発明4の「一対の連結具」が「面ファスナー」であるのに対し、甲1発明は、「スナップファスナー26」と、当該「スナップファスナー26」に「連結される帯状の部材」である点。
b 判断
本件発明4と甲1発明との間には、少なくとも相違点1が存在することとなるが、甲1発明において、相違点1に係る本件発明4の構成となすことは、上記(1)b(a)で説示と同様の理由により、甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証もしくは甲第3号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明5について
a 対比
上記(1)aを踏まえると、本件発明5と甲1発明とは、上記相違点1とともに、次の相違点4で相違し、上記一致点1で一致すると認められる。
[相違点4]
本件発明5の「一対の連結具」が「紐」であるのに対し、甲1発明は、「スナップファスナー26」と、当該「スナップファスナー26」に「連結される帯状の部材」である点。
b 判断
本件発明5と甲1発明との間には、少なくとも相違点1が存在することとなるが、甲1発明において、相違点1に係る本件発明5の構成となすことは、上記(1)b(a)で説示と同様の理由により、甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明5は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証もしくは甲第3号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 無効理由2について
(1)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「乳母車」は、本件発明1の「ベビーカー」に、同様に、「複数の幌骨1、2、3」は、「複数の幌骨」に、「幌」は「幌」にそれぞれ相当する。
甲2発明の「幌骨1、2、3の一対の開放側先端部は、それぞれ支持部材5に軸支され」ることは、これにより、複数の幌骨1、2、3の一対の開放側先端部がそれぞれ互いに枢着されていることとなるから、本件発明1の「幌骨の一対の開放側先端部をそれぞれ互いに枢着」することに相当する。
甲2発明の、「前記複数の幌骨1、2、3間の角度を変えることにより幌の開く角度を変えるようにした」ことは、本件発明1の「上記幌骨間の角度を変えることにより幌の開き具合を変えるようにした」ことに相当する。
以上より、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は次のとおりであると認められる。
[一致点2]
「ベビーカー本体に装着して用いられ、複数の幌骨の一対の開放側先端部をそれぞれ互いに枢着し、上記幌骨間の角度を変えることにより幌の開き具合を変えるようにしたベビーカーの幌。」
[相違点A]
本件発明1の「幌骨」は、「逆U字状に屈曲された」形状であるのに対し、甲2発明の「幌骨1、2、3」の形状については特定されていない点。
[相違点B]
本件発明1は、「上記幌骨間に張設された幌布のうち一つの幌骨の取り付け部位に近接した部分と、前記幌布のうち他の幌骨の取り付け部位に近接した部分とに、互いに連結可能な一対の連結具を設けた」ものであるのに対し、甲2発明は、かかる構成を設けていない点。
b 判断
(a)相違点Aについて
ベビーカーにおいて、幌の幌骨の形状は、逆U字状に屈曲された形状あるいは、それに近似した形状であることが通常である。
してみると、相違点Aは、実質的な相違点ではない。
(b)相違点Bについて
ア 甲第2号証の「第2図に示すように、3本の幌骨1,2,3は、支持部材5に軸部材7を介して軸支されている。すなわち、軸部材7は、支持部材5とともに各幌骨1,2,3の端部を貫通してちょうど扇の要のように構成されている。支持部材5は、その下半分が乳母車本体側へ差し込むことのできる杭状部8に形成され、また上半分は軸部材7が貫通する要状部9に形成されている。要状部9の一方の端面には、第3図にも示すように、軸部材7の軸芯を中心とする円周上にいわゆる「ぎざぎざ形状」の凹凸部10が形成されている。また、軸部材7が貫通する部分にはボス部11が形成されている。要状部9の凹凸部10およびボス部11が形成される側の端面には、この形状に嵌合する端面を持ったブラケット12が組付けられている。このブラケット12には幌骨1が嵌め付けられて、幌骨1とブラケット12とは一体的に動作するよう互いに固定されている。軸部材7の一方端部と幌骨1の端部との間には軸部材7を挿通してコイルばね13が圧縮状態で嵌め付けられている。図中14はコイルばね13の一端を支えるための座金であり、コイルばね13の弾発付勢力は常に幌骨1を介してブラケット12を支持部材5に押し付けている。ブラケット12の端面には、支持部材5に形成された凹凸部10に噛合うべく、これと同様の凹凸部15が形成されている。」との記載、及び「したがってブラケット12または幌骨1を軸部材7のまわりに周方向へ回動させるとブラケット12側の凸部が支持部材5側の凸部を順次乗越えて次の凹部に嵌め合わされる。このときブラケットはコイルばね13の弾発力に抗して軸部材7の軸方向へ移動しながら前述したように相手側の山状凸部を順次乗越える。幌骨2,3はそれぞれ支持部材5に対して幌骨1の反対側に設けられ、各幌骨2,3は、その端部において第6図および第7図に示すような幌骨カバー16,17によって覆われている。軸部材7の端部は幌骨カバー17の端面に当接して前述のコイルばね13の弾発力によって常に支持部材5側へ押圧されている。このことによって幌骨カバー16は支持部材5に、幌骨カバー17は幌骨カバー16にそれぞれ押し付けられるのでそれぞれの接触面において摩擦力を生じる。幌骨2,3はこの摩擦力によって任意の回動位置あるいは展開位置にて保持される。」との記載から(摘記甲2-2を参照。)、甲第2号証に記載のものは、「幌骨1が支持部材5に対してどのような回動位置にあっても凹凸部10と15との係合によってその位置を保持することができ、幌骨2,3も、幌布4が拡がることのできる範囲内において、幌骨1に対してどのような位置にでも保持することができる。したがって幌全体としては第1図に示したように矢印Aの方向に移動自在であり、乳母車の前方位置あるいは後方位置さらには中間位置のどの位置においてもこの幌をセットすることができる。そして幌の開く角度も一杯に開いた状態から完全に閉じられた状態まで所望のどのような展開角度にもセットすることができる。」というものである(摘記甲2-3を参照。)。
しかも、甲第2号証に記載のものにおいて、幌全体Aを乳母車の前方位置あるいは後方位置さらには中間位置のどの位置においてもセットできるための機構と、幌の開く角度を所望の展開角度にセットできる機構は、支持部5に一体的に形成されていることから(摘記甲2-2を参照。)、当該支持部5から、幌の開く角度を所望の展開角度にセットできる機構のみを取除き、同様の作用、機能を有する他の機構に置き換えるということは想定されていないというべきである。
とするならば、甲2発明において、幌骨2と幌骨3間の角度を閉じた状態に保持(セット)するために、幌布4のうち一つの幌骨、例えば幌骨2の取り付け部位に近接した部分と、幌布4のうち他の幌骨、例えば幌骨3の取り付け部位に近接した部分とに、互いに連結可能な一対の連結具を設ける動機付けはないといえる。
したがって、甲2発明に甲1発明の「連結部材」を適用する動機付けが存在しない。
イ 仮に、甲2発明に甲1発明の「連結部材」を適用することが当業者にとって容易に想到し得たとして更に検討する。
上記1(1)b(a)イで説示のとおり、甲1発明の「連結部材の一方」は、幌骨12の取り付け部位に近接した部分に設けられているとはいえないし、甲1発明の「連結部材」は、フードカバー15の下側縁部と支柱12との間のフードカバーを閉じた状態とすることを想定していない。
したがって、仮に、甲2発明に、甲1発明の「連結部材」を適用しても、本件発明1の構成に至らない。
(c)作用効果について
そして、本件発明1は、相違点Bの構成を有することにより、幌を完全な展開状態でなく展開面積が狭い状態で使用する時にも、幌布が、緊張状態に保持されるようにできるという格別の作用効果を奏するものといえる(本件の特許明細書の段落【0007】及び【0015】を参照。)。
(d)小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
a 対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
上記(1)aを踏まえると、本件発明2と甲2発明とは、上記相違点A及びBとともに、次の相違点Cで相違し、上記一致点2で一致すると認められる。
[相違点C]
本件発明2は、「前記複数の幌骨は、前記ベビーカー本体に対して相対的に移動しない固定側の幌骨と、前記固定側の幌骨の前方に位置する揺動可能な前方側の幌骨と、前記前方側の幌骨と前記固定側の幌骨との間に位置する揺動可能な中間位置の幌骨とを有し、上記一対の連結具は、前記幌布のうち固定側の幌骨の取り付け部位に近接した部分と、前記中間位置の幌骨の取り付け部位に近接した部分とに各々設けられている」ものであるのに対し、甲2発明は、「幌骨1、2、3の一対の開放側先端部は、それぞれ支持部材5に軸支され」るものであり、乳母車本体に対して移動しない幌骨との特定はない点。
b 判断
本件発明2と甲2発明との間には、少なくとも相違点Bが存在することとなるが、甲2発明において、相違点Bに係る本件発明2の構成となすことは、上記(1)b(b)で説示と同様の理由により、甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、相違点Cについて検討するまでもなく、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
a 対比
本件発明3と甲2発明とを対比する。
上記(1)aを踏まえると、本件発明3と甲2発明とは、上記相違点A及びBで相違するとともに、次の相違点Dで相違し、上記一致点2で一致すると認められる。
[相違点D]
本件発明3は、「一対の連結具」が「各々脱着可能なバックルからなる」ものであるのに対し、甲2発明は、そもそも連結具に対応する構成を備えていない点。
b 判断
本件発明3と甲2発明との間には、少なくとも相違点Bが存在することとなるが、甲2発明において、相違点Bに係る本件発明3の構成となすことは、上記(1)b(b)で説示と同様の理由により、甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、相違点Dについて検討するまでもなく、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明4について
a 対比
本件発明4と甲2発明とを対比する。
上記(1)aを踏まえると、本件発明4と甲2発明とは、上記相違点A及びBで相違するとともに、次の相違点Eで相違し、上記一致点2で一致すると認められる。
[相違点E]
本件発明4は、「一対の連結具」が「各々面ファスナーからなる」ものであるのに対し、甲2発明は、そもそも連結具に対応する構成を備えていない点。
b 判断
本件発明4と甲2発明との間には、少なくとも相違点Bが存在することとなるが、甲2発明において、相違点Bに係る本件発明4の構成となすことは、上記(1)b(b)で説示と同様の理由により、甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、相違点Eについて検討するまでもなく、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明5について
a 対比
本件発明5と甲2発明とを対比する。
上記(1)aを踏まえると、本件発明5と甲2発明とは、上記相違点A及びBで相違するとともに、次の相違点Fで相違し、上記一致点2で一致すると認められる。
[相違点F]
本件発明5は、「一対の連結具」が「各々紐からなる」ものであるのに対し、甲2発明は、そもそも連結具に対応する構成を備えていない点。
b 判断
本件発明5と甲2発明との間には、少なくとも相違点Bが存在することとなるが、甲2発明において、相違点Bに係る本件発明5の構成となすことは、上記(1)b(b)で説示と同様の理由により、甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
したがって、相違点Fについて検討するまでもなく、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 請求人の主張について
請求人の審判請求書及び回答書での主張は概略次のとおりである。
甲1発明では、スナップファスナー26の一方の部品が接続する紐が、フード支柱12の取り付け部位に近い位置において、フードカバー15に固定されている。すなわち、甲1発明は、円弧状面ファスナー28があっても、スナップファスナー26の一方の部品が、フードカバー15のうちフード支柱12の取り付け部位に近い部分に設けられている点において本件発明1の「幌布のうちの一つの幌骨の取り付け部位に近接した部分に、・・・一対の連結具を設けた」という構成が具備されているといえる(審判請求書第15ページ第3行?第16ページ第1行及び回答書第4ページ下から4行?第5ページ第5行。)。
しかしながら、上記1(1)b(a)イで説示のとおり、甲1発明の「連結部材の一方」は、幌骨12の取り付け部位に近接した部分に設けられているとはいえないから、請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、本件の請求項1?5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当しない。
したがって、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-30 
結審通知日 2020-10-05 
審決日 2020-10-16 
出願番号 特願2002-378120(P2002-378120)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沼田 規好  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 田村 嘉章
尾崎 和寛
登録日 2008-09-12 
登録番号 特許第4184071号(P4184071)
発明の名称 ベビーカーの幌  
代理人 高田 泰彦  
代理人 宮嶋 学  
代理人 永井 浩之  
代理人 大野 浩之  
代理人 酒谷 誠一  
代理人 大野 聖二  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 中村 行孝  

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