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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1372429
審判番号 不服2020-5813  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-28 
確定日 2021-04-13 
事件の表示 特願2019-550877「有機EL表示装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日国際公開、WO2019/186824、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019-550877号(以下「本件出願」という。)は、2018年(平成30年)3月28日を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 元年10月21日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月24日 :意見書
令和 元年12月24日 :手続補正書
令和 2年 1月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月28日 :審判請求書
令和 2年11月18日付け:拒絶理由通知書
(この拒絶理由通知書によって通知された拒絶の理由を、以下、「当審拒絶理由」という。)
令和 3年 1月20日 :意見書
令和 3年 1月20日 :手続補正書
(この手続補正書による補正を、以下「本件補正」という。)

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、[A]本件出願の請求項1,2,7?9及び14に係る発明(令和元年12月24日にした手続補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない、及び[B]本件出願の請求項3?6,10?13及び15に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1:特開2004-79291号公報
引用例2:特開2017-228480号公報
引用例3:特開2005-96108号公報
引用例4:国際公開第2018/003129号

3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由は、概略、[a]本件出願の特許請求の範囲の請求項1?9及び13に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、及び[b]本件出願の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということことができないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない、というものである。
引用文献1:特開2018-14176号公報
引用文献2:国際公開第2018/003129号
引用文献3:特開2017-228480号公報
(当合議体注:引用文献1が主引用例であり、引用文献2?3は、副引用例である。)

4 本願発明
本件出願の請求項1?請求項15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項15に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
複数の画素を有する有機EL表示装置であって、
基板および前記基板に支持された複数の有機EL素子を有する素子基板と、前記複数の有機EL素子を覆う薄膜封止構造とを有し、
前記薄膜封止構造は、第1無機バリア層と、前記第1無機バリア層上に形成された有機バリア層と、前記有機バリア層上に形成された第2無機バリア層とを有し、
前記第1無機バリア層は、SiO_(2)層と、前記SiO_(2)層上に形成されたSiN層またはSiON層を含み、
前記第1無機バリア層の前記有機バリア層に接する表面は、複数の微細な凸部を有し、
前記表面の粗さの最大高さRzは20nm以上100nm未満であって、
前記第1無機バリア層の厚さは、200nm以上1500nm以下であり、前記表面の粗さの最大高さRzの5倍以上である、有機EL表示装置。
【請求項2】
前記有機バリア層を構成する樹脂材料は前記複数の微細な凸部の隙間に充填されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記素子基板は、前記複数の画素のそれぞれを規定するバンク層をさらに有し、
前記有機バリア層は、前記バンク層を覆い、平坦な表面を有している、請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記素子基板は、前記複数の画素のそれぞれを規定するバンク層をさらに有し、
前記バンク層は、前記複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面を有し、
前記有機バリア層は、離散的に分布する複数の中実部を有し、
前記複数の中実部は、前記第1無機バリア層の、前記斜面上の部分から前記画素内の周辺に至る画素周辺中実部を有し、
前記画素周辺中実部に接する前記第1無機バリア層の表面の粗さの最大高さRzは20nm以上100nm未満である、請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記有機バリア層の厚さは50nm以上200nm未満であり、かつ、前記第1無機バリア層の前記表面の粗さの最大高さRzより大きい、請求項4に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記第1無機バリア層は、屈折率が1.70以上1.90以下のSiON層を含む、請求項1から5のいずれかに記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記有機バリア層はアクリル樹脂で形成されている、請求項1から6のいずれかに記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
有機EL表示装置を製造する方法であって、
前記有機EL表示装置は、複数の画素を有し、
基板および前記基板に支持された複数の有機EL素子を有する素子基板と、前記複数の有機EL素子を覆う薄膜封止構造とを有し、
前記薄膜封止構造は、第1無機バリア層と、前記第1無機バリア層上に形成された有機バリア層と、前記有機バリア層上に形成された第2無機バリア層とを有し、
前記第1無機バリア層の前記有機バリア層に接する表面は、複数の微細な凸部を有し、
前記表面の粗さの最大高さRzは20nm以上100nm未満であって、
前記第1無機バリア層の厚さは、200nm以上1500nm以下であり、前記表面の粗さの最大高さRzの5倍以上であり、
前記第1無機バリア層を形成する工程は、プラズマCVD法を用いてSiNまたはSiONを含む無機絶縁膜を堆積する工程を包含し、
前記堆積工程は、前記素子基板の温度を上昇させる、または、プラズマエネルギーを上昇させる工程を包含する、製造方法。
【請求項9】
有機EL表示装置を製造する方法であって、
前記有機EL表示装置は、複数の画素を有し、
基板および前記基板に支持された複数の有機EL素子を有する素子基板と、前記複数の有機EL素子を覆う薄膜封止構造とを有し、
前記薄膜封止構造は、第1無機バリア層と、前記第1無機バリア層上に形成された有機バリア層と、前記有機バリア層上に形成された第2無機バリア層とを有し、
前記第1無機バリア層の前記有機バリア層に接する表面は、複数の微細な凸部を有し、
前記表面の粗さの最大高さRzは20nm以上100nm未満であって、
前記第1無機バリア層の厚さは、200nm以上1500nm以下であり、前記表面の粗さの最大高さRzの5倍以上であり、
前記第1無機バリア層を形成する工程は、SiNまたはSiONを含む無機絶縁膜を堆積する工程と、前記堆積工程の後に、前記無機絶縁膜の表面を酸素またはオゾンを含むガスでアッシングする工程とを包含する、製造方法。
【請求項10】
前記有機バリア層を構成する樹脂材料は前記複数の微細な凸部の隙間に充填されている
、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記素子基板は、前記複数の画素のそれぞれを規定するバンク層をさらに有し、
前記有機バリア層は、前記バンク層を覆い、平坦な表面を有している、請求項8から10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記有機バリア層の厚さは3μm以上5μm以下である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記素子基板は、前記複数の画素のそれぞれを規定するバンク層をさらに有し、
前記バンク層は、前記複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面を有し、
前記有機バリア層は、離散的に分布する複数の中実部を有し、
前記複数の中実部は、前記第1無機バリア層の、前記斜面上の部分から前記画素内の周辺に至る画素周辺中実部を有し、
前記画素周辺中実部に接する前記第1無機バリア層の表面の粗さの最大高さRzは20nm以上100nm未満である、請求項8から10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機バリア層の厚さは50nm以上200nm未満であり、かつ、前記第1無機バリア層の前記表面の粗さの最大高さRzより大きい、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記第1無機バリア層は、SiO_(2)層と、前記SiO_(2)層上に形成されたSiN層またはSiON層を含む、請求項8から14のいずれかに記載の製造方法。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献1(特開2018-14176号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に関する。
…中略…
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2012-199098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、反射防止膜の表面に凹凸形状を形成した封止ガラスを用いた表示装置は、外光の反射率を低減することによって、視認性を向上することが出来る。
【0007】
しかしながら、表示装置の表面における反射率を低減できたとしても、表示装置の内部に屈折率の異なる層が重ねて形成されている場合、当該層の界面において光の反射が生じる。この場合、内部に形成された各層の界面において反射された光の強度だけ、表示装置の外に取り出される光の強度が減少してしまう。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、光を取り出す効率が高く、高輝度な表示装置を提供することにある。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、表示画像を生成するマトリクス層と、前記マトリクス層から発せられた光が取り出される側に形成された第1膜と、前記第1膜の前記光が取り出される側に、前記第1膜と接して形成された第2膜と、前記マトリクス層により構成される表示領域と、前記表示領域の周辺を取り囲む外部領域と、を有する表示装置であって、前記第1膜及び前記第2膜の一方は、前記第1膜及び前記第2膜の界面に、可視光の波長よりも短い高さの凸部を有し、他方は、前記界面に、前記凸部を収容する凹部を有する、ことを特徴としたものである。
【0010】
また、本発明の他の一態様は、表示画像を生成するマトリクス層を形成する工程と、前記マトリクス層から発せられた光が取り出される側に、第1膜を形成する工程と、前記第1膜の前記光が取り出される側に、前記第1膜と接する第2膜を形成する工程と、を有する表示装置の製造方法であって、前記第1膜及び前記第2膜の一方は、前記第1膜及び前記第2膜の界面に、可視光の波長よりも短い高さの凸部を有し、他方は、前記界面に、前記凸部を収容する凹部を有する、ことを特徴としたものである。
…中略…
【発明を実施するための形態】
…中略…
【0016】
図3は、第1の実施形態における表示領域210の断面について概略的に示す図の一例である。図3に示すように、表示パネル200は、基板300と、マトリクス層302と、第1無機膜304と、有機膜306と、第2無機膜308と、有機接着剤310と、保護フィルム204と、を含む。基板300は、例えば、ガラス基板であるが、樹脂で形成された可撓性を有する基板であってもよい。
【0017】
マトリクス層302は、アレイ層312と、アノード電極314と、発光層316と、カソード電極318と、を含んで構成され、表示画像を生成する。アレイ層312は、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極や半導体層等を含んで構成される画素トランジスタを有する。画素トランジスタは、各副画素208に形成され、副画素208が発する光の輝度を制御する。詳細な構造については、従来技術と同様である為説明を省略する。
…中略…
【0019】
発光層316は、アノード電極314の上層に形成され、光を発する。具体的には、発光層316は、アノード電極314の上層に、ホール注入層、ホール輸送層、発光層316、電子注入層、及び、電子輸送層が積層されることによって形成される。発光層316は、アノード電極314から注入されたホールと、カソード電極318から注入された電子とが再結合することにより発光する。
…中略…
【0022】
第1無機膜304は、マトリクス層302から発せられた光が取り出される側に形成される。具体的には、例えば、観察者が観測する方向を上側とした場合に、第1無機膜304は、マトリクス層302の上側に無機材料によって形成される。無機材料は、例えばSiN等の窒化物が用いられる。また、第1無機膜304の屈折率は、およそ1.8である。
【0023】
有機膜306は、マトリクス層302から発せられた光が取り出される側に形成される。具体的には、例えば、有機膜306は、第1無機膜304の上側に有機材料によって形成される。有機材料は、例えば、アクリルが用いられる。また、有機膜306の屈折率は、およそ1.5である。
【0024】
ここで、第1無機膜304は、第1無機膜304と有機膜306の界面に、可視光の波長よりも短い高さの凸部を有し、有機膜306は、第1無機膜304と有機膜306の界面に当該凸部を収容する凹部を有する。具体的には、例えば、第1無機膜304は、表示領域210全域に渡って、第1無機膜304から有機膜306に向かって、高さが300nm以下である凸部を有する。
【0025】
また、当該凸部は、第1無機膜304から有機膜306に向かうにつれて、滑らかに細くなる形状に形成される。一方、有機膜306は、第1無機膜304と有機膜306の界面に、第1無機膜304に設けられた300nm以下の高さである凸部を隙間なく収容する凹部を有する。
【0026】
なお、有機膜306は、第1無機膜304と有機膜306の界面に、可視光の波長よりも短い高さの凸部を有し、第1無機膜304は、第1無機膜304と有機膜306の界面に当該凸部を収容する凹部を有する構成としてもよい。すなわち、凸部の向きは、マトリクス層302から発せられた光が取り出される方向に向かって形成されてもよいし、観察者が観察する側からマトリクス層302が形成された方向に向かって形成されてもよい。
【0027】
第2無機膜308は、有機膜306の光が取り出される側に、有機膜306と接して形成される。具体的には、例えば、第2無機膜308は、有機膜306の観察者が観測する側に、有機膜306と接して形成される。また、第2無機膜308は、例えばSiN等の窒化物が用いて形成され、屈折率は、およそ1.8である。
【0028】
また、第1無機膜304と有機膜306の界面の構成と同様に、有機膜306及び第2無機膜308の界面にも凸部と凹部が形成される。具体的には、有機膜306及び第2無機膜308の一方は、有機膜306及び第2無機膜308の界面に、可視光の波長よりも短い高さの凸部を有し、他方は、界面に、凸部を収容する凹部を有する。
【0029】
第1無機膜304、有機膜306、及び、第2無機膜308は、発光層316を封止する封止膜320を構成する。具体的には、第1無機膜304、有機膜306、及び、第2無機膜308は、表示パネル200の外部から侵入し、発光層316を劣化させる水分子等が、発光層316に進入することを防止する封止膜320を構成する。
【0030】
有機接着剤310は、第2無機膜308の光が取り出される側に、第2無機膜308と接して形成され、保護フィルム204を接着する。具体的には、有機接着剤310は、第2無機膜308の観察者が観測する側に、第2無機膜308と接して形成され、第2無機膜308と保護フィルム204を接着する。有機接着剤310の屈折率は、およそ1.5である。
【0031】
また、第1無機膜304と有機膜306の界面の構成と同様に、第2無機膜308及び有機接着剤310の界面にも凸部と凹部が形成される。具体的には、第2無機膜308及び有機接着剤310の一方は、第2無機膜308及び有機接着剤310の界面に、可視光の波長よりも短い高さの凸部を有し、他方は、界面に、凸部を収容する凹部を有する。
【0032】
保護フィルム204は、有機接着剤310の光が取り出される側に、有機接着剤310と接して設けられる。具体的には、保護フィルム204は、表示パネル200を外傷から保護するアクリル製のフィルムであって、有機接着剤310によって、第2無機膜308に接着される。保護フィルム204の屈折率は、およそ1.8である。
【0033】
また、第1無機膜304と有機膜306の界面の構成と同様に、有機接着剤310及び保護フィルム204の界面にも凸部と凹部が形成される。具体的には、有機接着剤310及び保護フィルム204の一方は、有機接着剤310及び保護フィルム204の界面に、可視光の波長よりも短い高さの凸部を有し、他方は、界面に、凸部を収容する凹部を有する。
【0034】
上記のように、第1無機膜304乃至保護フィルム204の各界面において、凸部と凹部が形成されることにより、各界面における反射率を低減し、発光層316が発した光を効率良く取り出すことができる。
【0035】
具体的には、例えば、第1無機膜304と有機膜306の界面において、第1無機膜304が有機膜306に向かって凸部を有する場合について説明する。第1無機膜304に形成された凸部は、高さが可視光の波長より小さいことから、可視光と凸部の間で生じる屈折、反射等は無視できるほど小さい。また、平面視において、凸部の先端部においては、第1無機膜304が占める面積が小さく、有機膜306が占める割合が大きい。従って、凸部の先端部における屈折率は、有機膜306の屈折率と近い値となる。
【0036】
また、凸部の中央部においては、第1無機膜304が占める面積と、有機膜306が占める割合が同程度となる。従って、凸部の中央部における屈折率は、およそ有機膜306の屈折率と第1無機膜304の屈折率の中央の値となる。さらに、凸部の根本付近においては、第1無機膜304が占める面積が大きく、有機膜306が占める割合が小さい。従って、凸部の根本付近における屈折率は、およそ第1無機膜304の屈折率と近い値となる。
【0037】
以上のように、凸部が、第1無機膜304から有機膜306に向かうにつれて、滑らかに細くなる形状に形成されることにより、凸部の先端部から凸部の根本にかけて、第1無機膜304と有機膜306の面積が滑らかに変化する。そのため、凸部の先端部から凸部の根本にかけて、滑らかに屈折率が変化することにより、屈折率の急激な変化によって生じる反射を低減することができる。従って、第1無機膜304と有機膜306の界面における反射率を低減し、発光層316が発した光を効率良く取り出すことができる。
【0038】
上記のような、第1無機膜から有機膜に入射した光に対する屈折率を連続的に変化させることにより、屈折率の不連続界面を消失させることによって光の反射を抑制する構造は、蛾の目の構造を利用した、いわゆるモスアイ構造(登録商標)と呼ばれるものである。
…中略…
【0042】
続いて、上記表示装置100の製造方法について説明する。本表示装置100の製造方法は、表示画像を生成するマトリクス層302を形成する工程と、マトリクス層302から発せられた光が取り出される側に、第1膜を形成する工程と、第1膜の光が取り出される側に、第1膜と接する第2膜を形成する工程と、を含む。
【0043】
なお、第1膜は、第1無機膜304、有機膜306、第2無機膜308及び有機接着剤310のいずれかに相当し、第2膜は、第1膜の上層に接して形成された有機膜306、第2無機膜308、有機接着剤310、保護フィルム204のいずれかに相当する。ここでは、第1膜が第1無機膜304であって、第2膜が有機膜306である場合について、第1膜及び第2膜を形成する工程について説明する。
【0044】
図5は、第1無機膜304までを形成する工程を説明する為の図である。図5(a)に示すように、まず、基板300上に、マトリクス層302が形成される。マトリクス層302を形成する工程については、従来技術と同様であるため説明を省略する。そして、マトリクス層302の上層に、第1無機膜304として、SiNがスパッタや蒸着等の製膜方法によって、均一な高さで形成される。
【0045】
続いて、図5(b)に示すように、第1無機膜304の上層にフォトレジスト502が塗布される。そして、図5(c)に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、第1無機膜304に凸部を形成する領域に塗布されたフォトレジスト502を残し、他の領域に塗布されたフォトレジスト502を除去する。
【0046】
次に、図5(d)に示すように、フォトレジスト502が除去された領域に形成されたSiNをエッチングする。ここで、第1無機膜304が順テーパを有する形状となるようにエッチングを行うことにより、第1無機膜304から有機膜306に向かうにつれて、滑らかに細くなるように第1無機膜304の凸部が形成される。
【0047】
次に、図6(a)に示すように、凸部が形成された第1無機膜304の上層に、有機膜306としてアクリルが塗布される。ここで、塗布された直後の状態におけるアクリルは、硬化されていないことから、第1無機膜304に形成された凸部を収納するように、隙間なく塗布される。
【0048】
さらに、有機膜306の材料であるアクリルが硬化する前に、モールド602を有機膜306の表面に押し付ける。ここで、モールド602は、有機膜306に形成する凸部と対応する凹部を有し、モールド602が有機膜306に押し付けられることにより、有機膜306の表面に、上側に向かうにつれて滑らかに細くなる凸部が形成される。
【0049】
そして、図6(b)に示すように、モールド602を除去した後、アクリルを硬化させることによって、凸部を有する有機膜306が形成される。さらに、有機膜306を形成後、第2無機膜308として、SiNがスパッタや蒸着等の製膜方法によって、均一な高さで形成される。ここで、スパッタや蒸着等の方法によって第2無機膜308が堆積されることによって、有機膜306に形成された凸部を収納するように、隙間なく凹部が形成される。
【0050】
以降、第2無機膜308の凸部、有機接着剤310、有機接着剤310の凸部及び凹部、保護フィルム204が順に形成されるが、第2無機膜308の凸部を形成する工程は、第1無機膜304の凸部を形成する工程と同様であり、有機接着剤310の凸部を形成する工程は、有機膜306に凸部を形成する工程と同様である為、説明を省略する。
【0051】
以上の工程によって、第1無機膜304乃至保護フィルム204の各界面において、凸部及び当該凸部を収容する凹部が形成されることにより、各界面における反射率を低減し、発光層316が発した光を効率良く取り出すことができる表示装置100が完成する。」

「【図3】



(2)引用発明
ア 表示パネル200
引用文献1の【0016】及び図3には、「第1の実施形態」として、「基板300と、マトリクス層302と、第1無機膜304と、有機膜306と、第2無機膜308と、有機接着剤310と、保護フィルム204と、を含む」「表示パネル200」が記載されている。ここで、【0029】の記載から、「第1無機膜304、有機膜306、及び、第2無機膜308は、発光層316を封止する封止膜320を構成する」ものである。

イ マトリクス層302
引用文献1の【0017】の記載から、上記「マトリクス層302」は、「アレイ層312と、アノード電極314と、発光層316と、カソード電極318と、を含んで構成され、表示画像を生成する」ものである。ここで、【0019】の記載からみて、上記「発光層316」は、「有機EL発光層」であるといえる。さらに、【0044】及び図3の記載から、「基板300上に、マトリクス層302が形成される」ことが把握される。

ウ アレイ層312
引用文献1の【0017】の記載から、上記「アレイ層312」は、「ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極や半導体層等を含んで構成される画素トランジスタを有する」ことが把握される。

エ 第1無機膜304
引用文献1の【0022】には、「第1無機膜304は、マトリクス層302の上側に無機材料によって形成される」こと、及び「無機材料は、例えばSiN等の窒化物が用いられ」、「第1無機膜304の屈折率は、およそ1.8である」ことが記載されている。
さらに、【0024】には、「第1無機膜304は、第1無機膜304と有機膜306の界面に、」「高さが300nm以下である凸部」「を有」することが記載されている。

オ 第2無機膜308
引用文献1の【0027】には、「第2無機膜308は、有機膜306の光が取り出される側に、有機膜306と接して形成される」ことが記載されている。

カ 上記ア?オから、引用文献1には、「表示パネル」として、次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。

「 基板300と、マトリクス層302と、第1無機膜304と、有機膜306と、第2無機膜308と、有機接着剤310と、保護フィルム204と、を含む表示パネル200であって、
第1無機膜304、有機膜306、及び、第2無機膜308は、発光層316を封止する封止膜320を構成し、
マトリクス層302は、基板300上に形成され、アレイ層312と、アノード電極314と、発光層316と、カソード電極318と、を含んで構成され、表示画像を生成し、
アレイ層312は、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極や半導体層を含んで構成される画素トランジスタを有し、
発光層316は、有機EL発光層であり、
第1無機膜304は、マトリクス層302の上側に無機材料によって形成され、無機材料は、例えばSiN等の窒化物が用いられ、第1無機膜304の屈折率は、およそ1.8であり、
第1無機膜304は、第1無機膜304と有機膜306の界面に、高さが300nm以下である凸部を有し、
第2無機膜308は、有機膜306の光が取り出される側に、有機膜306と接して形成される、
表示パネル200。」

2 対比及び判断
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると以下のとおりとなる。
ア 有機EL表示装置
引用発明の「表示パネル200」は、「基板300と、マトリクス層302と、第1無機膜304と、有機膜306と、第2無機膜308と、有機接着剤310と、保護フィルム204と、を含む」。また、引用発明の「マトリクス層302は、基板300上に形成され、アレイ層312と、アノード電極314と、発光層316と、カソード電極318と、を含んで構成され、表示画像を生成し」、「アレイ層312は、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極や半導体層を含んで構成される画素トランジスタを有し」、「発光層316は、有機EL発光層であ」る。
画像表示に関する技術常識を考慮すると、引用発明の「表示パネル200」が、マトリクス状に配置された多数の「画像を構成する単位領域」により「表示画像を生成し」ていることは、明らかである。また、引用発明の「発光層316は、有機EL発光層であ」るから、引用発明の「表示パネル200」は、有機EL表示装置といえる。
そうしてみると、引用発明の上記「画像を構成する単位領域」は、本願発明1の「画素」に相当する。また、引用発明の「表示パネル200」は、本願発明1の「複数の画素を有する」とされる「有機EL表示装置」に相当する。

イ 基板及び素子基板
引用発明の「表示パネル200」は、前記アで述べた構成を具備する。
ここで、引用発明の「マトリクス層302」のうち、「アノード電極314と、発光層316と、カソード電極318」の部分は、機能的にみて「有機EL発光素子」であり、これが多数あることは明らかである。また、引用発明の「マトリクス層302」は、「基板300上に形成され」、上記「有機EL発光素子」を「含んで構成され」ているから、引用発明の上記「有機EL発光素子」は「基板300」に支持されたものである。
そうしてみると、引用発明の「基板300」、上記「有機EL発光素子」は、それぞれ本願発明1の「基板」、及び「前記基板に支持された複数の」とされる「有機EL素子」に相当する。また、引用発明の「基板300」と「マトリクス層302」を併せたものは、本願発明1の「基板および前記基板に支持された複数の有機EL素子を有する」とされる「素子基板」に相当する。

ウ 薄膜封止構造
引用発明の「表示パネル200」において、「第1無機膜304、有機膜306、及び、第2無機膜308は、発光層316を封止する封止膜320を構成し」ている。
上記の構成及び有機ELに関する技術常識を考慮すると、引用発明の「封止膜320」が、薄膜の封止構造であり、複数の前記「有機EL発光素子」を覆うことは明らかである。
そうしてみると、引用発明の「封止膜320」は、本願発明1の「前記複数の有機EL素子を覆う」とされる「薄膜封止構造」に相当する。また、前記ア及びイの対比結果も考慮すると、引用発明の「表示パネル200」は、本願発明1の「有機EL表示装置」における「素子基板と」、「薄膜封止構造とを有し」という要件を満たす。

エ 第1無機バリア層、有機バリア層及び第2無機バリア層
引用発明の「表示パネル200」は、前記ウで述べた構成を具備する。また、引用発明の「第1無機膜304」は、「第1無機膜304と有機膜306の界面に、高さが300nm以下である凸部を有し」ている。
ここで、「封止膜320」という用語から理解される機能及び各層の材料からみて、引用発明の「第1無機膜304」、「有機膜306」及び「第2無機膜308」は、それぞれ本願発明1の「第1無機バリア層」、「有機バリア層」及び「第2無機バリア層」に相当する。また、引用発明の「封止膜320」は、その積層関係からみて、本願発明1の「薄膜封止構造」における、「第1無機バリア層と、前記第1無機バリア層上に形成された有機バリア層と、前記有機バリア層上に形成された第2無機バリア層とを有し」という要件を満たす。さらに、引用発明の「第1無機膜304」は、その「凸部」の大きさ及び位置関係からみて、本願発明1の「第1無機バリア層」における「前記有機バリア層に接する表面は、複数の微細な凸部を有し」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「 複数の画素を有する有機EL表示装置であって、
基板および前記基板に支持された複数の有機EL素子を有する素子基板と、前記複数の有機EL素子を覆う薄膜封止構造とを有し、
前記薄膜封止構造は、第1無機バリア層と、前記第1無機バリア層上に形成された有機バリア層と、前記有機バリア層上に形成された第2無機バリア層とを有し、
前記第1無機バリア層の前記有機バリア層に接する表面は、複数の微細な凸部を有する、有機EL表示装置。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「第1無機バリア層」が、本願発明1は、「SiO_(2)層と、前記SiO_(2)層上に形成されたSiN層またはSiON層を含」むのに対し、引用発明は、「無機材料によって形成され、無機材料は、例えばSiN等の窒化物が用いられ、第1無機膜304の屈折率は、およそ1.8であ」る点。

(相違点2)
「前記第1無機バリア層の前記有機バリア層に接する表面」が、本願発明1は、「前記表面の粗さの最大高さRzは20nm以上100nm未満であって」との構成を有するとともに、「第1無機バリア層」が、本願発明1は、「厚さが200nm以上1500nm以下であり、前記表面の粗さの最大高さRzの5倍以上である」のに対し、引用発明は、「高さが300nm以下である凸部を有し」ているものの、その余は不明である点。

(3)判断
相違点1について検討する。
引用発明の「第1無機膜304」は、「無機材料によって形成され」るところ、「SiO_(2)」は、封止膜として機能し得る無機膜を形成可能な無機材料として、周知のものである。
しかしながら、本願発明1の「第1無機バリア層」は、引用発明において、単に「無機材料」として「SiO_(2)」を採用したものではなく、「SiO_(2)層と、前記SiO_(2)層上に形成されたSiN層またはSiON層」の2層で構成されたものである。そして、このような構成は、引用文献1に記載も示唆もされていない構成である。また、引用発明の「第1無機膜304の屈折率は、およそ1.8であり」、これは、「カソード電極318」の屈折率とのマッチングを考慮したものと考えられるから、ここに屈折率が1.5程度のSiO_(2)層を設ける動機付けがない。
さらにすすんで検討すると、引用文献1の【0007】には、発明が解決しようとする課題として、「表示装置の内部に屈折率の異なる層が重ねて形成されている場合、当該層の界面において光の反射が生じる。この場合、内部に形成された各層の界面において反射された光の強度だけ、表示装置の外に取り出される光の強度が減少してしまう。」ことが挙げられている。このような記載に接した当業者ならば、引用発明の「封止層320」の界面の数が増えることは、光の効率が不利になると考えるのが普通であるから、引用発明において、「SiN」からなる「第1無機層304」の下に、あえて「SiO_(2)層」を設けることは、阻害要因があるともいえる。
そして、相違点1に係る本願発明1の構成は、当審拒絶理由通知で引用した他の引用文献(引用文献2及び引用文献3)や、原査定の拒絶の理由において引用された引用文献(引用例1?引用例4)にも記載されておらず、また、本件出願前の当業者における周知技術や技術常識でもない。

(4)小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

(5)本願発明2?本願発明7について
本願発明2?本願発明7は、本願発明1の構成に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「有機EL表示装置」であるから、いずれも、少なくとも上記相違点1に係る本願発明1の構成を具備する。
そうしてみると、これら発明についても、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

(6)本願発明8について
本願発明8は、「前記第1無機バリア層を形成する工程は、プラズマCVD法を用いてSiNまたはSiONを含む無機絶縁膜を堆積する工程を包含し」、「前記堆積工程は、前記素子基板の温度を上昇させる、または、プラズマエネルギーを上昇させる工程を包含する」という構成(以下「相違点4に係る本願発明8の構成」という。)を有する。
しかしながら、引用文献1には、このような工程により「第1無機膜304」を製造することは記載も示唆もなく、この点は、他の文献等を考慮しても同様である。
そうしてみると、本願発明8についても、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

(7)本願発明9について
本願発明9は、「前記第1無機バリア層を形成する工程は、SiNまたはSiONを含む無機絶縁膜を堆積する工程と、前記堆積工程の後に、前記無機絶縁膜の表面を酸素またはオゾンを含むガスでアッシングする工程とを包含する」という構成(以下「相違点5に係る本願発明9の構成」という。)を有する。
しかしながら、引用文献1には、このような工程により「第1無機膜304」を製造することは記載も示唆もなく、この点は、他の文献等を考慮しても同様である。
そうしてみると、本願発明9についても、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

(8)請求項10?請求項15について
本願発明10?本願発明15は、本願発明8又は本願発明9の構成に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「製造方法」であるから、いずれも、少なくとも相違点4に係る本願発明8の構成又は相違点5に係る本願発明9の構成を具備する。
そうしてみると、これら発明についても、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 原査定の拒絶の理由について
前記「第2」で述べたとおりであるから、原査定の拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由(委任省令要件)について
本件補正により、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-03-24 
出願番号 特願2019-550877(P2019-550877)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (H05B)
P 1 8・ 113- WY (H05B)
P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 亮  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 福村 拓
関根 洋之
発明の名称 有機EL表示装置およびその製造方法  
代理人 奥田 誠司  
代理人 村瀬 成康  
代理人 北 倫子  
代理人 山下 亮司  
代理人 三宅 章子  
代理人 喜多 修市  
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