• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03H
管理番号 1372590
審判番号 不服2020-4632  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-06 
確定日 2021-04-01 
事件の表示 特願2015-198880「ホログラム構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月13日出願公開、特開2017- 72694〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-198880号(以下「本件出願」という。)は、平成27年10月6日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年 6月21日付け:拒絶理由通知書
令和元年 8月29日 :手続補正書
令和元年 8月29日 :意見書
令和元年12月24日付け:拒絶査定
令和2年 4月 6日 :審判請求書
令和2年 4月 6日 :手続補正書
令和2年 9月30日付け:拒絶理由通知書
令和2年12月 4日 :意見書
令和2年12月 4日 :手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?10に係る発明は、令和2年12月4日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のものである。
「 ホログラム形成領域を有するホログラム層を有し、
前記ホログラム形成領域には、点光源から入射した光を所望の光像へ変換する、位相型フーリエ変換ホログラムが記録され、
前記光像が、電子機器で解析可能な情報が暗号化された形状であり、
前記点光源により平面視上前記ホログラム形成領域内に前記光像が再生され、
前記ホログラム形成領域が、反射型ホログラム形成領域であり、
前記ホログラム層の前記ホログラム形成領域には、点光源から入射した光を前記光像へ変換可能なホログラムセルと、前記ホログラムセルと同一平面上に形成され、平面視上パターン状に配置されることにより回折格子図柄を描画する回折格子セルと、が配置されており、
前記回折格子図柄が、前記ホログラム形成領域内の前記光像が再生される領域を特定するものであることを特徴とするホログラム構造体。」

3 当合議体の拒絶の理由
令和2年9月30日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1:特開2002-90548号公報

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
当合議体が通知した拒絶の理由において引用された、特開2002-90548号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【請求項1】回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体において、
装飾画像の表示領域内に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムから成るセルを、少なくとも1つ有することを特徴とする回折格子から成る表示体。
【請求項2】計算機ホログラムが、特定情報をフーリエ変換して物体光成分としたフーリエ変換ホログラムであることを特徴とする請求項1記載の回折格子から成る表示体。
…中略…
【請求項8】計算機ホログラムから成るセルに記録される情報が、機械的に読み取ることが可能なデータであることを特徴とする請求項1?7の何れかに記載の回折格子から成る表示体。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基板の表面に微細な回折格子(グレーティング)をセル(ドット)毎に配置することにより形成される回折格子パターンを用いた表示体に関する。特に、回折格子パターンにより構成される装飾画像内に、それとは異なる特定情報が混在され、その情報の再生を必要とする製品に適用するのに好適な表示体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、ホログラムや回折格子を用いて画像などを表示する表示体は公知である。これらの表示体は、貼付した商品(例えば、クレジットカードや商品券)のセキュリティ性を向上する効果があり、偽造・模造の防止に役立ってきた。しかし、ホログラムや回折格子に対しても、さらなるセキュリティ性の向上が望まれている。
【0003】このため、表示体の作製方法を複雑にして、偽造や模造を一層困難にする方法が考えられている。
…中略…
【0006】従来の表示体におけるセルを構成単位とする回折格子パターンの一例を図1に示す。表示像(絵柄)は、正方形のセルの集まりによって構成されている。画素であるセルは、それぞれ絵柄を表示するのに適当な回折格子で埋められている。
【0007】尚、本願明細書では、作製される「表示体」「回折格子パターン」「ディスプレイ」は同義語として扱われる。また、その構成要素である「セル」および「ドット」も同義語として扱われるが、円形のニュアンスのある「ドット」ではなく、任意な形状を持つニュアンスのある「セル」に用いて、以後の説明を行なうこととする。
…中略…
【0010】2光束干渉法やEB描画法により作製される回折格子パターン(表示体)は、単純な回折格子から構成されるため、複雑な格子線により構成されるレインボーホログラムなどと比べて、輝度や彩度の高い画像表現が可能であり、アイキャッチ効果が高く、目視による真偽判定もより容易であるという特徴を持つ。
【0011】しかし、このような表示体は、肉眼での観察結果のみが真偽判定の基準であるため、見た目の印象が似ているものに対して、真偽判定を誤る危険性があった。また、目視のみが判定の基準となるため、目視で子細に観察することにより、似たような見え方をする贋造物を作ることも不可能ではない問題もある。
【0012】一方、回折格子パターンを装飾画像の表示用としてではなく、機械読み取り用情報の記録に利用する提案もされている。(例えば、本出願人による特開平3-211096号公報)
従来の機械読み取り用の情報が記録された回折格子パターンでは、読み取りを行なう情報記録部は、読み取り専用の(コードなどの)特定情報のみが記録トラックの形態で記録されており、前記トラックには装飾画像を表示するためのパターンは記録されない。
【0013】そのため、情報記録箇所が目視で明確に把握されてしまい、更に、単純な回折格子で記録情報を構成すると、記録できる情報量が少なく、記録情報そのものの偽造・模造への対策が不十分であるという問題がある。また、このような情報記録のされた領域を、回折格子パターン(装飾画像)と並べて配置した場合、情報記録領域からの回折光が、装飾画像となる表示情報を読み取りづらくする問題があり、総合的な表示品質を落とす原因になっていた。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体において、装飾画像と合わせて、それとは異なる機械読み取り用の特定情報を記録する際に、特定情報の記録箇所が目視で明確に把握されることがなく、特定情報による情報量を多くすることにより、特定情報の存在が把握されたとしても、その偽造・模造への対策が十分でありながら、装飾画像の表示品質を低下させることがなく、特定情報のみを読み取ることが容易であり、偽造・模造の困難な表示体を提供することを目的とする。」

ウ 「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成するためになされたものであり、回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体において、装飾画像の表示領域内に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムから成るセルを、少なくとも1つ有することを主な特徴とする。
【0016】計算機ホログラムとしては、情報をフーリエ変換して物体光成分としたフーリエ変換ホログラムが好適であり、例えば、情報を2次元パターンとし、物体光の断面上の光強度分布をこの2次元パターンに対応した物体光を採用すれば良い。
【0017】装飾画像を構成する回折格子セルは、計算機ホログラムに比べて単純な格子線から構成される回折格子により、セルを規定する領域内が覆われている。
【0018】<作用>回折格子から成るセルを画素として基板上に複数配置することにより構成される表示体は、回折格子の空間周波数,角度,回折効率により、観察時の色,観察可能な方向,明るさを画素毎に任意に変化させることができ、通常の観察条件下において、肉眼で観察可能な画像や文字などを表示することが可能である。このとき、主として回折格子からの1次回折光が観察に利用される。
【0019】このような表示体上に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムを配置することにより、予め決められた再生条件下において、記録された特定情報を、肉眼で認識もしくは専用機械で読み取ることが可能となる。(請求項1)
【0020】この場合にも、主として計算機ホログラムからの1次回折光が情報再生光となる。本発明の計算機ホログラムとしては、キノフォームなども含めた広い意味での計算機ホログラムが適用できる。計算機ホログラムからの再生光(主として1次回折光)は、予め設定した距離に配置したスクリーンなどに、像を投影もしくは結像することができ、肉眼での情報認識もしくは専用機械での情報読み取りを容易に確実に行うことができる。
【0021】さらに、計算機ホログラムからの再生光を前記スクリーン位置における2次元的な光強度などの分布とすることも容易であり、画像や文字情報,バーコードなどを含む多くの情報を一度に再生することができる。
【0022】特に、計算機ホログラムをフーリエ変換型ホログラムとすることにより、情報の記録が容易であり、かつ情報再生も容易かつ確実に行うことが可能となる(請求項2)。ただし、情報再生においては、波長の帯域幅の狭い光を用いて計算機ホログラムを照明し、スクリーンに再生像を投影するなど、若干の装置類が必要になる。
…中略…
【0031】特に、計算機ホログラムに記録された情報を機械読み取りデータとした場合、肉眼で観察しても記録情報を読み取られることがなく、また、機械により多くの情報読み取りが可能となり、情報の隠蔽及び真偽判定を容易にするなどの効果がある(請求項8)。
【0032】セル内の回折格子の空間周波数及び方向により、上述のような効果を有したまま、表示体による像の画素の観察色、観察可能な方向を設定することにより、様々な色で表現された、視点位置により観察される像が変化する表示体が実現できる。観察可能な方向を多く複雑に設定することにより、計算機ホログラムを隠蔽する(計算機ホログラムからの回折光を気づかせないようにする)ことも可能である。
…中略…
【0034】セルの大きさ及び計算機ホログラムの大きさをそれぞれ300μm以下とすることにより、通常の観察条件下において、セル構造を目立たなくさせて高品質な像の表示を可能とすると共に、計算機ホログラムを肉眼で気づかせにくくすることができる(請求項10)。また、表示体が比較的小さく、観察距離も小さくなる場合、100μm以下の大きさのセルおよび計算機ホログラムを用いるのが望ましい。セル及び計算機ホログラムを市松状に配置する場合などには、それぞれが50μm以下となるようにすると、肉眼での観察において計算機ホログラムを隠蔽する効果、セルによる表示像の解像度共に十分である。
…中略…
【0036】
【発明の実施の形態】図2は、本発明の表示体の一例を示す説明図である。本発明の表示体では、図の左(上)に示しているような回折格子から成るセルを画素として画像を表示している。このような表示体に適当な白色光を入射し、観察者が適当な位置から観察するとき、本発明の表示体上の回折格子からの1次回折光が観察者の眼に入射し、1次回折光により任意の像を観察できる。
【0037】このとき、セル毎に、主として回折格子の空間周波数によって観察される色が決められる。また、セル毎の回折格子の方向は、そのセルが光って見える方向(観察者の視点)を決定する。さらにセル毎の回折格子の回折効率やセルの大きさは、そのセルが光って見える際の明るさに関係する。従って、表示体上にある全てのセルの回折格子の空間周波数と方向と回折効率などを適切に設定することにより、表示される像がデザインできる。
【0038】このような表示像を観察するように設計された空間的範囲(1次回折光が分布する範囲)が、本発明の表示体に対する視域である。一方、本発明の表示体においては、計算機ホログラムも単純な回折格子セルと一緒に配置されている。この計算機ホログラムは情報を記録したものであるが、表示体上の表示像を観察している際には、計算機ホログラムからの1次回折光が観察者の邪魔にならないようにすることで、表示像の品質が保てる。
【0039】このためには、上述の表示像の視域と、計算機ホログラムからの1次回折光が重ならないようにすれば良い。例えば、回折格子セルを構成する回折格子の空間周波数や方向と、計算機ホログラムの搬送波成分のそれらとが十分に差があれば、この条件は満たされる。なお、本発明の計算機ホログラムとしては、キノフォームなども含めた広い意味での計算機ホログラムが適用できる。
【0040】また、回折格子セルや計算機ホログラムが十分に小さければ(望ましくは観察者の眼の解像度以下の大きさ)、周囲の回折格子セルのみが観察され、計算機ホログラムを気付かせないようにすることもでき、見た目の表示像の解像度も十分にできる。これを実現するためには、多くの場合、セルの大きさ及び計算機ホログラムの大きさを300μm以下とすれば良い。
【0041】また、表示体が比較的小さく、観察距離も小さくなる場合(例えば、300mm前後)、100μm以下の大きさのセルおよび計算機ホログラムを用いるのが望ましい。セルおよび計算機ホログラムを市松状に配置する場合などには、それぞれのサイズが50μm以下となるようにすると、肉眼での観察において計算機ホログラムを隠蔽する効果、セルによる表示像の解像度共に十分である。
【0042】図3は、通常の観察条件下における本発明の表示体の観察の一例を示す説明図である。図3では、本発明の表示体がxy平面に平行に配置され、yz面内にある光源からの照明光で照明されている様子を示している。
【0043】表示体上の個々の回折格子セルはそれぞれ1次回折光を射出し、観察者はz軸近辺に分布する1次回折光を瞳に入射させて、表示像を観察している。ここでの本発明の表示体は、個々のセルを構成する回折格子の格子ベクトルがx方向に近くないように設計したものである。
【0044】一方、計算機ホログラムの搬送波成分の格子ベクトルはx方向となるようにしている。このため、図3のような表示体の観察において、計算機ホログラムからの1次回折光は、0次回折光に対してx方向に存在しているので、通常の観察では認識されない。従って、計算機ホログラムの存在に依存しない望ましい像の表示が可能となる。
【0045】図4は、図3と同じ本発明の表示体上の計算機ホログラムからの情報再生の一例を示す説明図である。図では、xz面内に置いたレーザーダイオードなどのような波長帯域の狭い光源からの光を平行光状にして本発明の表示体に入射し、表示体上の計算機ホログラムからの1次回折光をスクリーンで受けることにより情報を再生している。
【0046】このスクリーン上のパターンを肉眼で観察、もしくはスクリーンを置かずにCCDなどで直接受光することにより記録情報を容易に読み取ることが可能である。例えば、予め再生時のスクリーン位置に2次元パターン(記録情報)の物体を配置して物体光として計算機ホログラムを生成しておけば、再生時のスクリーン上には2次元パターンが結像し、コントラストの高い、正確な情報再生が可能となる。
【0047】また、このときには、スクリーンの位置などを知らないと、情報の再生が行えないため、情報隠蔽や偽造防止に一層の効果がある。なお、図4のような再生方法に対応する計算機ホログラムは、再生情報の品質(明るさやコントラスト、解像度など)の面で、複数個の計算機ホログラムが全体として1つの再生情報を形成するようにし、これらを平行光状の光で一度に再生するのが望ましい。
【0048】このとき、図4において、像表示のための回折格子セルからの1次回折光は、0次回折光に対してy方向に存在しているので、再生情報の読み取り方向(スクリーン方向)には伝播しない。以上により、計算機ホログラムは表示像の観察時のノイズなどの原因にはならず、高品質な像表示が可能であり、さらに計算機ホログラムからの情報読み取り時には、他の回折格子セルは情報読み取り時のノイズなどの原因にはならず、高精度な情報読み取りなどが実現できる。
【0049】また、記録情報を2次元の光強度パターンとし、これをフーリエ変換したものを物体光として得られたフーリエ変換型の計算機ホログラムを本発明の表示体における計算機ホログラムとして用いることにより、容易な情報記録・再生が可能となる。
【0050】図5は、本発明の表示体上の計算機ホログラム(フーリエ変換ホログラム)からの情報再生の一例を示す説明図である。図では、xz面内にあるレーザーダイオードなどのような波長帯域の狭い光源からのビーム状の光を本発明の表示体に入射し、表示体上の計算機ホログラムからの1次回折光をレンズにより光学的にフーリエ変換してスクリーンに投影して情報を再生している。
【0051】図4と同様に、このスクリーン上のパターンを肉眼で観察、もしくはスクリーンを置かずにCCDなどで直接受光することにより、情報の読み取りが可能である。このとき、本発明の表示体とレンズ間の距離、及びレンズとスクリーン間の距離を、レンズの焦点距離と等しく配置することにより、再生時に光学的な「フーリエ変換」が実現できる。
…中略…
【0056】なお、図3において、照明光の入射角度をαとして示しているが、1次回折光の射出角度は表示体の法線方向であるため(β1 =0)、図示していない。また、以上の図では、主に反射型の回折格子および計算機ホログラムの場合について説明してきたが、透過型の場合も全く同様の取り扱いが可能である。
【0057】図8は、本発明の表示体において、計算機ホログラムを等間隔に配置した場合の一例を示している。表示体上の一部を図の左側に拡大して表示しているが、このように横方向に1セル置きに配置しても良く、また図とは異なるが縦横共に等間隔に並べても良い。さらには、市松状に配置しても良く、一方、ランダムに配置しても良い。
…中略…
【0063】なお、本発明の表示体を構成する回折格子セルおよび計算機ホログラムは、表面レリーフに代表される位相型、濃度表現による振幅型など、どのような種類の回折素子形態でも適用される。
【0064】
【発明の効果】本発明の如く、回折格子から成るセルを画素として基板上に複数配置することにより成る表示体において、表示体の表示領域内に情報を記録した計算機ホログラムを少なくとも1つ有することによって、回折格子セルによって表現された像は高品質に保ちつつ、容易に再生可能な情報を記録できるようにしている。」

エ「【図3】


【図4】


【図5】


…中略…
【図8】



(2)引用発明
引用文献1には、請求項1及び請求項2を引用する請求項8として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「 回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体において、
装飾画像の表示領域内に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムから成るセルを、少なくとも1つ有し、
計算機ホログラムが、特定情報をフーリエ変換して物体光成分としたフーリエ変換ホログラムであり、
計算機ホログラムから成るセルに記録される情報が、機械的に読み取ることが可能なデータである、回折格子から成る表示体。」

2 対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア ホログラム形成領域
(ア) 引用発明の「表示体」は、「装飾画像の表示領域内に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムから成るセルを、少なくとも1つ有し」ている。また、引用発明の「計算機ホログラム」は、「特定情報をフーリエ変換して物体光成分としたフーリエ変換ホログラムであ」る。
上記構成及び技術常識を勘案すると、引用発明の「装飾画像の表示領域」には、「計算機ホログラムから成るセル」として、光源から入射した光を所望の光像へ変換する、フーリエ変換ホログラムが記録されているといえる(当合議体注:この点は、引用文献1の【0016】,【0046】及び【0049】の記載からも確認できる事項である。)。

(イ) さらに、引用発明の「表示体」は、「回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体」である。
この構成及び前記(ア)で述べた構成からみて、引用発明の「装飾画像の表示領域」には、入射した光を光像へ変換可能な「計算機ホログラムから成るセル」に加えて、「計算機ホログラムから成るセル」と同一平面上に形成され、平面視上パターン状に配置されることにより「装飾画像」を描画する「回折格子から成るセル」も配置されているといえる(当合議体注:この点は、引用文献1の【0017】、【0018】、【0038】、【0057】及び図8の記載からも確認できる事項である。)。また、この「装飾画像の表示領域」は、その機能及び配置からみて、ホログラムが形成された層状のものといえる。

(ウ) 以上勘案すると、引用発明の「装飾画像の表示領域」、「計算機ホログラムから成るセル」、「装飾画像」、「回折格子から成るセル」及び「表示体」は、それぞれ本願発明の「ホログラム形成領域」、「ホログラムセル」、「回折格子図柄」、「回折格子セル」及び「ホログラム構造体」に相当する。
また、引用発明の「装飾画像の表示領域」と本願発明の「ホログラム形成領域」とは、「光源から入射した光を所望の光像へ変換する」、「フーリエ変換ホログラムが記録され」、「光源から入射した光を前記光像へ変換可能なホログラムセルと、前記ホログラムセルと同一平面上に形成され、平面視上パターン状に配置されることにより回折格子図柄を描画する回折格子セルと、が配置され」ている点で共通する。さらに、引用発明の「表示体」及び「装飾画像の表示領域」は、それぞれ本願発明の「ホログラム構造体」及び「ホログラム形成領域」における、「ホログラム形成領域を有するホログラム層を有し」及び「前記ホログラム層の前記ホログラム形成領域」という要件を満たす。

イ 暗号化された形状
引用発明の「表示体」は、「計算機ホログラムから成るセルに記録される情報が、機械的に読み取ることが可能なデータである」。
そうしてみると、引用発明の「表示体」は、本願発明の「前記光像が、電子機器で解析可能な情報が暗号化された形状であり」という要件を満たす。
(当合議体注:理論上は、「機械的に読み取ることが可能なデータ」であるからといって、「暗号化された」ものであるとは限らない(例えば、文字認識かもしれない。)。しかしながら、仮にこの点を相違点とするとしても、引用文献1の【0031】の「計算機ホログラムに記録された情報を機械読み取りデータとした場合、肉眼で観察しても記録情報を読み取られることがなく、また、機械により多くの情報読み取りが可能となり、情報の隠蔽及び真偽判定を容易にするなどの効果がある(請求項8)。」や【0021】の「バーコード」との記載が示唆する事項に過ぎないか、特開平11-151884号公報の【0001】、【0002】、【0010】、【0014】等の記載が示唆する周知技術の付加にすぎない。)

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「ホログラム形成領域を有するホログラム層を有し、
前記ホログラム形成領域には、光源から入射した光を所望の光像へ変換する、フーリエ変換ホログラムが記録され、
前記光像が、電子機器で解析可能な情報が暗号化された形状であり、
前記ホログラム層の前記ホログラム形成領域には、光源から入射した光を前記光像へ変換可能なホログラムセルと、前記ホログラムセルと同一平面上に形成され、平面視上パターン状に配置されることにより回折格子図柄を描画する回折格子セルと、が配置されている、
ホログラム構造体。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「ホログラム形成領域」が、本願発明は、「点光源から入射した光を所望の光像へ変換する、位相型フーリエ変換ホログラムが記録され」、「前記点光源により平面視上前記ホログラム形成領域内に前記光像が再生され」る「反射型ホログラム形成領域であ」るとともに、「ホログラムセル」が、本願発明は、「点光源から入射した光を前記光像へ変換可能な」ものであるのに対し、引用発明は、上記下線を付した要件を満たすか明らかでない点。

(相違点2)
「回折格子図柄」が、本願発明は、「前記ホログラム形成領域内の前記光像が再生される領域を特定するものである」のに対し、引用発明は、一応、これが明らかではない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用文献1の【0063】には、「計算機ホログラムは、表面レリーフに代表される位相型」とすることが記載されている。また、引用文献1の【0056】、図4等の記載からみて、引用発明は、主に「反射型」の「計算機ホログラム」を想定したものである。そして、「計算機ホログラム」を、点光源により平面視上装飾画像の表示領域内に物体光を結像されるものとすることは、「計算機ホログラムから成るセルに記録される情報」を、「機械的に読み取る」ための設計上の一選択肢にすぎない(引用文献1の【0045】、【0046】、【0050】、【0051】、図4及び図5の記載からも理解される事項である。)。
そうしてみると、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。

イ 相違点2について
引用発明は、「装飾画像の表示領域内に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムから成るセルを、少なくとも1つ有」する。
そうしてみると、引用発明の「装飾画像」は、「計算機ホログラムから成るセルに記録される情報」を「機械的に読み取る」に際しての、目印として機能し得るものである。換言すると、引用発明において、「装飾画像の表示領域内に」、「特定情報」が「記録」されていることを知る利用者は、「装飾画像」の位置を根拠にして、「特定情報を記録した計算機ホログラム」の再生箇所を特定することが可能なものである。
そうしてみると、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(4)本願発明の効果について
本願発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0016】には、「本発明は、情報の秘匿性に優れたホログラム構造体を提供できるという効果を奏する。」と記載されている。
しかしながら、引用文献1の【0031】には、「肉眼で観察しても記録情報を読み取られることがなく」、「情報の隠蔽」「を容易にするなどの効果がある」と記載されているから、本願発明の効果は、引用発明においても奏するものである。

(5)請求人の主張について
請求人は令和2年12月4日の意見書3.(1)ア)及びイ)において、本願発明の「前記回折格子図柄が、前記ホログラム形成領域内の前記光像が再生される領域を特定するものであることを特徴とする」との構成を、「発明特定事項G」とするとともに、「上記引用文献4および引用文献1には、上記発明特定事項Gに関する記載は一切ありません。」と主張する。
しかしながら、発明特定事項Gが実質的な相違点を構成しないことは、上記(3)イで述べたとおりである。

第3 まとめ
本願発明は、引用文献1に記載された発明(及び周知技術)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2021-01-15 
結審通知日 2021-01-19 
審決日 2021-02-10 
出願番号 特願2015-198880(P2015-198880)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平菅原 奈津子清水 督史  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 福村 拓
関根 洋之
発明の名称 ホログラム構造体  
代理人 山下 昭彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ