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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1372594
審判番号 不服2020-7556  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-03 
確定日 2021-04-01 
事件の表示 特願2016-521034「光学積層体及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日国際公開、WO2015/178224〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-521034号(以下「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)5月8日(先の出願に基づく優先権主張 2014年(平成26年)5月23日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 1月22日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月19日提出:意見書、手続補正書
令和 元年 9月25日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月12日提出:意見書、手続補正書
令和 2年 4月24日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 6月 3日提出:審判請求書

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?請求項10に係る発明(令和1年11月12日にした手続補正後のもの)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2012-12594号公報
引用文献2:特開2009-122454号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2は請求項1?10に対しての副引用例として引用されたものである。)

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項10に係る発明は、令和元年11月12日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項10に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
偏光子と、その一方の面上に積層される光学フィルムとを含み、
前記光学フィルムは、直線偏光を楕円偏光に変換して出射するものであり、かつ、下記式:
(1)100nm≦R_(e)(590)≦180nm、
(2)0.5<R_(th)(590)/R_(e)(590)≦0.8、
(3)0.85≦R_(e)(450)/R_(e)(550)≦0.90、及び
(4)1.03≦R_(e)(630)/R_(e)(550)≦1.1
〔式中、R_(e)(590)、R_(e)(450)、R_(e)(550)、R_(e)(630)はそれぞれ、測定波長590nm、450nm、550nm、630nmにおける面内位相差値を表し、R_(th)(590)は測定波長590nmにおける厚み方向位相差値を表す。〕
を満たす、光学積層体。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明等
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2012-12594号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル重合体およびセルロースエステル重合体を含む樹脂組成物と、当該樹脂組成物からなる光学フィルムおよび位相差フィルムと、当該位相差フィルムを備える画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光子保護フィルムおよび位相差フィルムをはじめとする光学フィルムに、セルロース系重合体および(メタ)アクリル重合体が使用されている。特許文献1には、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を使用した位相差フィルムが記載されている。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(メタ)アクリル重合体とセルロースエステル重合体とを含む樹脂組成物を成形すると、表面のヘイズ率が高くなって、得られた成形体の透明性が往々にして低下する。特に、当該樹脂組成物をフィルムに成形する際に、この傾向が顕著である。透明性が低下したフィルムは光学フィルムとして使用できない。
【0006】
本発明は、(メタ)アクリル重合体とセルロースエステル重合体とを含む樹脂組成物であって、成形時、特にフィルムへの成形時、における、ヘイズ率の上昇に伴う透明性の低下が抑えられた樹脂組成物と、当該樹脂組成物からなる透明性に優れる光学フィルムおよび位相差フィルムとの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成形時、特にフィルムへの成形時、におけるヘイズ率の上昇に伴う透明性の低下が抑えられた、(メタ)アクリル重合体とセルロースエステル重合体とを含む樹脂組成物が実現する。当該樹脂組成物からは、例えば、透明性に優れる本発明の光学フィルム、透明性に優れる本発明の位相差フィルムが得られる。」

イ 「【0079】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、上記説明した本発明の樹脂組成物からなる。
・・・中略・・・
【0084】
本発明の光学フィルムの厚さは特に限定されず、例えば、10?500μmであり、20?300μmが好ましく、30?100μmが特に好ましい。
【0085】
本発明の光学フィルムの全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して測定した値にして、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
【0086】
本発明の光学フィルムの用途は特に限定されず、従来の光学フィルムと同様の用途に使用できる。本発明の光学フィルムは、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板の保護フィルム、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムとして使用できる。本発明の光学フィルムは、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムとして、あるいは拡散板、導光体、プリズムシートとして使用できる。
【0087】
本発明の光学フィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層;粘着剤層、接着剤層などの接着層;易接着層;防眩(ノングレア)層;光触媒層などの防汚層;反射防止層;ハードコート層;紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層;ガスバリヤー層である。
【0088】
本発明の光学フィルムは、必要に応じて、他の光学部材と組み合わせて、例えば互いに接合した状態で、使用できる。他の光学部材は、例えば、本発明の光学フィルムの用途として例示した光学フィルム類である。」

ウ 「【0098】
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、本発明の光学フィルムの一種であり、上述した、本発明の光学フィルムの特性を有する。本発明の位相差フィルムは、当該位相差フィルムが含む(メタ)アクリル重合体(A)およびセルロースエステル重合体(B)の種類および含有率によっては、さらに以下の特性を有しうる。
【0099】
本発明の位相差フィルムが示す面内位相差(Re)は、当該フィルムの延伸の状態によって異なるが、波長590nmの光に対する、フィルムの厚さ100μmあたりの値にして、例えば50nm以上である。本発明の位相差フィルムが含む(メタ)アクリル重合体(A)およびセルロースエステル重合体(B)の種類、ならびに本発明の位相差フィルムにおける(メタ)アクリル重合体(A)およびセルロースエステル重合体(B)の含有率によっては、140nm以上、さらには150nm以上500nm以下となる。
【0100】
本発明の位相差フィルムは、位相差の波長分散性の制御に関し、高い自由度を有しうる。例えば、位相差の逆波長分散性(少なくとも可視光域において、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる波長分散性)を示す、あるいは位相差の波長分散性がフラットである位相差フィルムとなる。具体的な例として、波長447、590および750nmのそれぞれの光に対する面内位相差Re(447)、Re(590)およびRe(750)が、式0.8≦Re(447)/Re(590)≦1.0、および1.0≦Re(750)/Re(590)≦1.2の関係を満たす位相差フィルムとなる。
【0101】
本発明の位相差フィルムが示すNz係数は、波長590nmの光に対する値にして、1.20未満が好ましく、1.15以下がより好ましく、1.10以下0.95以上がさらに好ましい。Nz係数は、位相差フィルムの面内位相差をRe、厚さ方向の位相差をRthとしたときに、式Nz=(Rth/Re)+0.5により示される値である。
【0102】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、本発明の位相差フィルムを備える。これにより、画像表示特性に優れる、例えば、高コントラストかつ広視野角の画像表示装置となる。
【0103】
本発明の画像表示装置は、例えば、液晶表示装置(LCD)である。」

エ 「【実施例】
【0104】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
・・・中略・・・
【0110】
[位相差フィルムの光学特性]
作製した位相差フィルムにおける波長590nmの光に対する面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthは、位相差フィルム・光学材料検査装置RETS-100(大塚電子製)を用いて、入射角40°の条件で評価した。面内位相差Reは、式Re=(nx-ny)×dにより、厚さ方向の位相差Rthは、式Rth=[(nx+ny)/2-nz]×dにより、それぞれ定義される。ここで、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内においてnxと垂直な方向の屈折率、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)である。遅相軸方向は、フィルム面内で屈折率が最大の方向である。作製した位相差フィルムのNz係数は、上記のように求めたReおよびRthの値から、式Nz係数=(Rth/Re)+0.5により算出した。
【0111】
これとは別に、作製した位相差フィルムにおける波長447nmおよび750nmの光に対する面内位相差Re(447)およびRe(750)を同様に評価し、上記求めた波長590nmの光に対する面内位相差Re(590)との比をとることで、Re(447)/Re(590)およびRe(750)/Re(590)の値を求めた。
【0112】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30L(リットル)の反応装置に、メタクリル酸メチル(MMA)52重量部、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)30重量部、メタクリル酸ノルマルブチル(BMA)18重量部、および重合溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)とメチルエチルケトン(MEK)との混合溶媒(重量比9:1)67重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.06重量部のt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、上記混合溶媒33重量部に上記t-アミルパーオキシイソノナノエート0.12重量部を溶解させた溶液を3時間かけて滴下しながら、約95?110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0113】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.2重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A-8)を加え、約85?100℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。そして、ゲージ圧にして最高約2MPaに加圧したオートクレーブ中で240℃、90分間、さらに加熱した。次に、得られた重合溶液を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、減圧度13.3?400hPa(10?300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=30mm、L/D=40)に樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、当該押出機内において、環化縮合反応のさらなる進行と脱揮とを実施した。その後、当該押出機から、溶融状態にある重合体を押し出して、主鎖にラクトン環構造を有するとともに、BMA単位を全構成単位の18重量%有する(メタ)アクリル重合体(A-1)のペレットを得た。重合体(A-1)の重量平均分子量は12.6万であり、Tgは123℃であった。なお、BMA単位は、式(1)に示す(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位であって、R^(1)がn-ブチル基であり、R^(2)がCH_(3)(メチル基)である構成単位である。
・・・中略・・・
【0116】
(製造例4)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30L(リットル)の反応装置に、MMA24.5重量部、MHMA26重量部、メタクリル酸エチル(EMA)45重量部、N-ビニルカルバゾール(NVCz)4.5重量部、および重合溶媒としてトルエン86.5重量部とメタノール3.5重量部との混合溶媒を仕込み、これに窒素を通じつつ、95℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.01重量部のt-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス575)を添加するとともに、トルエン10重量部に上記t-アミルパーオキシ-2-へチルヘキサノエート0.10重量部を溶解させた溶液を8時間かけて滴下しながら、約90?100℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに12時間の熟成を行った。
【0117】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.2重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A-8)を加え、約80?100℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。そして、ゲージ圧にして最高約2MPaに加圧したオートクレーブ中で240℃、90分間、さらに加熱した。次に、得られた重合溶液を、減圧下、240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有するとともに、EMA単位を全構成単位の45重量%有する(メタ)アクリル重合体(A-3)を得た。重合体(A-3)の重量平均分子量は17.0万であり、Tgは122℃であった。なお、EMA単位は、式(1)に示す(メタ)アクリル酸エステル単位であって、R^(1)がエチル基であり、R^(2)がCH_(3)(メチル基)である構成単位である。
・・・中略・・・
【0120】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(A-1)70重量部と、セルロースアセテートプロピオネート(B-1)[アセチル基置換度2.5重量%、ヒドロキシル基置換度1.8重量%、プロピオニル基置換度46重量%、数平均分子量Mn=6.3万、重量平均分子量Mw=17.5万]30重量部とを、塩化メチレンに溶解させ、得られた溶液を攪拌して重合体(A-1)およびセルロースアセテートプロピオネート(B-1)を均一に混合した。次に、得られた混合溶液を、減圧下、120℃で1時間乾燥して、固形の樹脂組成物100重量部を得た。
【0121】
次に、得られた樹脂組成物をプレス成形機により220℃でプレス成形して、厚さ50μmである未延伸状態のフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を以下の表1に示す。
・・・中略・・・
【0125】
(実施例4)
重合体(A-1)の代わりに、製造例4で作製した重合体(A-3)を用いた以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を以下の表1に示す。
【0126】
(実施例5)
重合体(A-3)50重量部と、セルロースアセテートプロピオネート50重量部とを均一に混合した以外は実施例4と同様にして、フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を以下の表1に示す。
【0127】
(実施例6)
重合体(A-1)の代わりに、製造例5で作製した重合体(A-4)を用いた以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を以下の表1に示す。
・・・中略・・・
【0129】
【表1】

【0130】
表1に示すように、実施例のフィルムは比較例のフィルムに比べてヘイズ率が小さく、透明性に優れていた。そして、(メタ)アクリル重合体におけるBMA単位またはEMA単位の含有率が大きいほど、作製したフィルムのヘイズ率が小さくなる傾向が確認された。これに加えて、実施例のフィルムにおける(メタ)アクリル重合体(A)の組成ならびに作製したフィルムにおける(メタ)アクリル重合体(A)の含有率によっては、当該フィルムの透湿度および光弾性係数が、比較例のフィルムの透湿度および光弾性係数に比べて低くなった。
【0131】
(実施例7)
実施例1で作製した未延伸の光学フィルム(ただし、当該フィルムの厚さは120μmとした)を、引張試験機(インストロン製)を用いて、延伸倍率2倍および延伸温度128℃でMD方向に一軸延伸して、厚さ87μmの延伸フィルム(位相差フィルム)を得た。得られた位相差フィルムの評価結果を以下の表2に示す。
【0132】
(実施例8)
実施例2で作製した未延伸の光学フィルム(ただし、当該フィルムの厚さは120μmとした)を用いた以外は、実施例7と同様にして、厚さ85μmの延伸フィルム(位相差フィルム)を得た。得られた位相差フィルムの評価結果を以下の表2に示す。
【0133】
(実施例9)
実施例3で作製した未延伸の光学フィルム(ただし、当該フィルムの厚さは120μmとした)を用いるとともに延伸温度を133℃とした以外は、実施例7と同様にして、厚さ82μmの延伸フィルム(位相差フィルム)を得た。得られた位相差フィルムの評価結果を以下の表2に示す。
【0134】
(実施例10)
実施例4で作製した未延伸の光学フィルム(ただし、当該フィルムの厚さは123μmとした)を用いるとともに延伸温度を127℃とした以外は、実施例7と同様にして、厚さ86μmの延伸フィルム(位相差フィルム)を得た。得られた位相差フィルムの評価結果を以下の表2に示す。
【0135】
(実施例11)
実施例5で作製した未延伸の光学フィルム(ただし、当該フィルムの厚さは121μmとした)を用いた以外は、実施例7と同様にして、厚さ84μmの延伸フィルム(位相差フィルム)を得た。得られた位相差フィルムの評価結果を以下の表2に示す。
【0136】
(実施例12)
実施例6で作製した未延伸の光学フィルム(ただし、当該フィルムの厚さは126μmとした)を用いた以外は、実施例7と同様にして、厚さ87μmの延伸フィルム(位相差フィルム)を得た。得られた位相差フィルムの評価結果を以下の表2に示す。
【0137】
【表2】

【0138】
表2に示すように、実施例7?12で作製した各位相差フィルムは、大きな面内位相差Reおよび厚さ方向の正の位相差Rthを示すとともに、面内位相差Reについて逆波長分散性を示した。
【0139】
なお、実施例7?12において作製した位相差フィルムが示すヘイズ率は、同じフィルム厚に換算して、延伸前の未延伸フィルム(実施例1?6)が示すヘイズ率と同じであった。また、実施例7?12において作製した位相差フィルムが示す光弾性係数および厚さ100μmあたりの透湿度は、いずれも、延伸前の未延伸フィルム(実施例1?6)が示す光弾性係数および透湿度と同じであった。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の【0100】及び【0111】に記載された光学特性の定義、【0135】に記載されたフィルムの厚さ並びに【0137】【表2】に記載された光学特性からみて、引用文献1には、実施例11として、次の「延伸フィルム(位相差フィルム)」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 厚さ84μmの延伸フィルム(位相差フィルム)であって、
Nz係数が1.15、波長590nmの光に対する面内位相差Re(厚さ100μmあたりの面内位相差Re)が82nm、波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rth(厚さ100μmあたりの厚さ方向の位相差Rth)が53nm、波長447nmおよび750nmの光に対する面内位相差Re(447)およびRe(750)と、波長590nmに対する面内位相差Re(590)との比であるRe(447)/Re(590)が0.83、Re(750)/Re(590)が1.09である延伸フィルム(位相差フィルム)。」

(3)引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2009-122454号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、偏光サングラス等を装着した状態でも、画面の向きによる視認性の変化が小さい液晶表示装置に関する。」

イ 「【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、偏光サングラス等を装着したまま画面を視認した場合でも、画面の向きに関わらず視認性の確保が可能な液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。すなわち、本発明は、液晶セルLCと、該液晶セルの視認側に位置する第1偏光子Pと、該偏光子の視認側に位置する光学素子Rと、を備え、該光学素子Rは、液晶セルLCから第1偏光子Pを介して入射した直線偏光を、円偏光に変換して出射するものである液晶表示装置に関する。本構成によれば、光学素子Rによって液晶表示装置から出射光の指向性が緩和されるため、偏光サングラス等の偏光手段を介して画面を視認した場合でも、画面の向きに関わらず、視認することが可能となる。」

ウ 「【0010】
本発明の液晶表示装置においては、前記第1偏光子Pと前記光学素子Rが、接着層を介して貼り合わせられていることが好ましい。両者が接着剤を介して直接貼りあわせられていることによって、液晶表示装置を軽量化したり、厚みを小さくすることができる。」

エ 「【0018】
このように直線偏光を円偏光に変換する光学素子Rとしては、例えば、上記のように、レターデーションが100?180nmの範囲の位相差フィルムを用い得る。」

オ 「【0070】
本発明の液晶表示装置においては、図4に示すように、第1偏光子Pの両面に透明保護フィルムS1、S2を有していてもよい。」

カ 「【0079】
また、第2保護フィルムS2として、光学等方性を有するものを用いる代わりに、図5に示すように、前記光学素子Rとして作用するものを用いる、すなわち、偏光子保護フィルムが、光学素子Rの機能を兼ね備えることが好ましい構成である。このような構成とすることで、部材の数を減らし、低コスト化に寄与させることができる。」

キ 「【図4】



ク 「【図5】



2 対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 光学フィルム
引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」は、「位相差フィルム」としての光学的機能を具備するフィルムと理解されるから、本願発明の「光学フィルム」に相当する。

イ 光学フィルムの光学特性
引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」は、「波長590nmの光に対する面内位相差Re(厚さ100μmあたりの面内位相差Re)が82nm、波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rth(厚さ100μmあたりの厚さ方向の位相差Rth)が53nm」である。
ここで、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」の波長590nmの光におけるRth/Reの値は、53÷82≒0.65と計算される。
そうしてみると、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」は、本願発明の「光学フィルム」における、「下記式:」「(2)0.5<Rth(590)/Re(590)≦0.8」、「〔式中、R_(e)(590)」「は」「測定波長590nm」「における面内位相差値を表し、R_(th)(590)は測定波長590nmにおける厚み方向位相差値を表す。〕」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
以上より、本願発明と引用発明とは、
「下記式:
(2)0.5<Rth(590)/Re(590)≦0.8
〔式中、Re(590)は、測定波長590nmにおける面内位相差値を表し、Rth(590)は測定波長590nmにおける厚み方向位相差値を表す。〕
を満たす光学フィルム」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、前記3に記載したとおりの発明特定事項を具備する「光学積層体」であるのに対して、引用発明は、「延伸フィルム(位相差フィルム)」である点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、【0007】に記載された事項を目的として、【0008】に記載の構成を採用した「液晶表示装置」が記載されているところ、その「光学素子R」は、【0010】や【0079】に記載の態様を取ることが好ましいこと、及び【0018】や【0045】に記載の光学特性を具備することが好ましいことが記載されている。
ここで、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」の用途に関して、引用文献1の【0086】には、「液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムとして使用できる」と記載されている。そして、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」は、「面内位相差Re(厚さ100μmあたりの面内位相差Re)が82nm」であるから、その厚さを「84μm」から「122μm」に設計変更すれば、引用文献2の【0018】に記載されたレタデーションの範囲に入る。
そうしてみると、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」を、引用文献2の【0079】及び【図5】に記載された用途において具体化することは、当業者における通常の創意工夫といえるところ、このようにしてなるものは、本願発明の構成を全て具備したものとなる。
すなわち、上記のとおり具体化してなるものは光学積層体ということができ、また、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」は、偏光子の一方の面上に積層され、偏光子からの直線偏光を楕円偏光に変換して出射する、面内位相差が100?180nmのものとなる。そして、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」は「Re(447)/Re(590)が0.83、Re(750)/Re(590)が1.09」であるから、「Re(450)/Re(550)」は0.85?0.90の範囲内に入り、「Re(630)/Re(550)」も1.03?1.1の範囲内に入る蓋然性が極めて高いといえる。
(当合議体注:引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」の波長特性を、波長をX,リタデーションをYとして二次曲線で近似すると、Y=-1.42377×10^(-4)×X^(2)+2.29531×10^(-1)×X-1.69815×10^(+1)となる。そうすると、Re(450)/Re(550)≒0.87、Re(630)/Re(550)≒1.07と計算される。)
Re(450)/Re(550)及びRe(630)/Re(550)の値について、仮にそうでないとしても、これら値は、逆波長分散特性の数値範囲として、通常のものに過ぎない。

(4)発明の効果
本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0017】には、「偏光サングラス越しに様々な方向(方位角及び極角)から画面を見たときの色味変化が小さい画像表示装置を実現することができる光学積層体、及びそれを用いた画像表示装置を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、引用発明の「延伸フィルム(位相差フィルム)」は、「Nz係数が1.15」であり、かつ、逆波長分散特性を具備するから、このような効果は、上記(3)で述べたとおり創意工夫する当業者が期待する効果にすぎない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年6月3日提出の審判請求書において、「引用文献1及び引用文献2のいずれにも、光学フィルムの厚み方向位相差R_(th)(590)と面内位相差R_(e)(590)との比を上記所定範囲とすることに加え、さらに逆波長分散性を高くすることにより、斜めの様々な極角及び方位角から見たときの色度差を小さくすることができることについては何らの開示も示唆すらもありません。
したがって、斜めの様々な極角及び方位角から見たときの色度差を小さくするべく、上記の通り何らの開示も示唆もない引用文献1及び引用文献2に基づいて、厚み方向と面内の位相差比を所定範囲とした上で逆波長分散性を高くして本願発明に想到することは容易ではありません。」などと主張する。
しかしながら、上記(3)及び(4)で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-01-15 
結審通知日 2021-01-19 
審決日 2021-02-10 
出願番号 特願2016-521034(P2016-521034)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
神尾 寧
発明の名称 光学積層体及び画像表示装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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