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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
管理番号 1372652
異議申立番号 異議2019-700772  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-27 
確定日 2021-01-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6492044号発明「ヒトケラチン物質の状態について使用者に知らせるための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6492044号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6492044号の請求項1、2、9ないし11に係る特許を維持する。 特許第6492044号の請求項3ないし8及び12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6492044号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成28年10月28日の出願であって、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、同月27日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和元年 9月27日 :
特許異議申立人金澤毅(以下「申立人」という。)による請求項1?12に係る特許に対する特許異議の申立て

令和2年 1月16日付け:取消理由通知書
同年 4月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(特許法第120条の5第7項の規定により、上記訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。)

同年 5月26日付け:通知書
(上記通知書は、申立人に、取消理由通知の写し、訂正請求書及びこれに添付された訂正した特許請求の範囲の副本、取消理由通知に対応する特許権者の意見書副本を送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたものである。しかし、申立人は、これに対し応答しなかった。)

同年 9月 7日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年12月 3日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(なお、上記通知書ですでに申立人には意見書提出の機会が与えられており、審判便覧の67-05.5の「取消理由通知(決定の予告)後において、特許異議申立人に対して意見書を提出する機会を与えない場合」の丸数字6に該当することから、再度、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととする。)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による請求の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに、訂正後の請求項1?12について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「皮膚の粗さ、皮膚のしわまたは毛穴の粗さの度合い、皮膚の艶、皮膚の色の不均一性、皮膚または頭皮の炎症、皮膚の構造変化、皮膚の含水量、皮膚の色、経表皮水分蒸散量、皮膚の水和度、皮膚の色素沈着、皮膚の弾性特性、および皮膚の構造からなる群から選択される皮膚の状態、または、毛髪表面の損傷、毛髪の艶、毛髪の色の不均一性、毛髪の構造変化、毛髪の多孔性、毛髪の構造、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」と記載されているのを「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」(下線は特許権者が付与した訂正箇所である。以下同様。)に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップと、」と記載されているのを、「a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップであって、前記測定デバイスは毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、前記測定デバイスは摩擦に対する感度が高い、ステップと、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップと、」と記載されているのを、「b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップであって、前記整形することは、毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む、ステップと、」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8及び請求項12を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9の記載が請求項1から5のいずれか一項の記載を引用しているのを、請求項1または2のいずれか一項の記載を引用するように訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10の記載が請求項1から9のいずれか一項の記載を引用しているのを、請求項1、2、または9のいずれか一項の記載を引用するように訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11の記載が請求項1から10のいずれか一項の記載を引用しているのを、請求項1、2、9、または10のいずれか一項の記載を引用するように訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に「人間の皮膚または毛髪に関する測定データを生成するための収集手段と」と記載されているのを、「人間の毛髪に関する測定データを生成するための収集手段と」に訂正する。

(9)一群の請求項について
訂正前の請求項2?12は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1?12は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1?8はいずれも、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。
なお、訂正事項として記載されていないが、訂正事項1?3で訂正される請求項1の記載を引用する請求項についても同様に訂正されることは明らかである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否
訂正事項1は、「皮膚の粗さ、皮膚のしわまたは毛穴の粗さの度合い、皮膚の艶、皮膚の色の不均一性、皮膚または頭皮の炎症、皮膚の構造変化、皮膚の含水量、皮膚の色、経表皮水分蒸散量、皮膚の水和度、皮膚の色素沈着、皮膚の弾性特性、および皮膚の構造からなる群から選択される皮膚の状態、または、毛髪表面の損傷、毛髪の艶、毛髪の色の不均一性、毛髪の構造変化、毛髪の多孔性、毛髪の構造、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」を、「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び3について
ア 目的の適否
訂正事項2は、「a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップ」を、「a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップであって、前記測定デバイスは毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、前記測定デバイスは摩擦に対する感度が高い、ステップ」に限定するものであり、
訂正事項3は、「b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップ」を、「b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップであって、前記整形することは、毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む、ステップ」に限定するものであるから、
特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)の訂正前の請求項5には「前記測定デバイスは毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、前記測定デバイスは摩擦に対する感度が高く」と記載され、測定デバイスは、毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、摩擦に対する感度が高いものであることが記載されており、同様に、本件特許明細書等の訂正前の請求項5には「前記整形することは、毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む」と記載され、整形することは、毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含むものであることが記載されていることから、訂正事項2及び3は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入したものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2及び3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項8について
ア 目的の適否
訂正事項8は、「皮膚または毛髪」の選択肢から皮膚を削除して「毛髪」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8は、選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項の削除は、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5?7について
訂正事項5?7は、訂正事項4による請求項3?8を削除することにともない、引用する請求項から請求項3?8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
上記のとおり、訂正事項1?8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
令和2年12月3日に提出された訂正請求書により訂正された請求項1、2及び9?11に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」等と記載する。なお、請求項3?8及び12については、削除された。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2及び9?11に記載されたとおりのものであり、そのうち、本件発明1を記載すると、以下のとおりである。
「【請求項1】
毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態について使用者に知らせるためのシステムの作動方法であって、
a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップであって、前記測定デバイスは毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、前記測定デバイスは摩擦に対する感度が高い、ステップと、
b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップであって、前記整形することは、毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む、ステップと、
c)前記システムの生成手段によって、前記整形データに基づき音声および/または触覚の使用者信号をリアルタイムで生成するステップであって、前記使用者信号の周波数は前記整形データに依存する、ステップと
を含む方法。」

第4 取消理由の概要
令和2年1月16日付け取消理由通知書の取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(明確性)
本件特許は、その特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1の「音声および/または触覚の使用者信号」の「音声」について、音声とは一般に「人間が発生器官を通じて発する言語音」(広辞苑による)のことである一方で、本件特許明細書には、「・・・(略)・・・」と記載されており、一般の「音声」との意味ではない。
してみれば、請求項1における「音声」とは、どのような技術的意味の上で用いた用語であるのか明確ではない。

(2)請求項5は「前記測定デバイスは毛髪の状態に関係する測定データを生成する、・・・毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データ・・・、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。」であり、「毛髪」について特定されているが、引用する請求項4は「測定データは皮膚の状態を測定する」と特定されており、不明確である。

(3)請求項6に「前記使用者信号は音符を含み、」と記載されているが、音符はあくまでも表現された記号であり、また譜表に関する信号(データ)がない状況においては、使用者信号が「音符を含」むとは、技術的に何を特定しようとしているのか明確でない。

(4)請求項12に「ヒトケラチン物質の状態の評価」と記載されているが、物質自体の何の状態を評価得するのか、不明確である。この点、本件特許明細書にも説明はなく、本件特許明細書を参照しても不明確である。
また、請求項12に「同一状態の評価」と記載されているが、これについても本件特許明細書に説明はなく、どのようなことを評価しようとしているのか不明確である。

取消理由2(新規性)
請求項1、2、4、9及び11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4、9及び11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開平5-146412号公報
なお、甲第5号証(広辞苑(第6版)岩波書店、2008年1月11日発行)は、用語の意味を参照するために用いたものである。

取消理由3(進歩性)
請求項1?4及び9?12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載されている事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4及び9?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第3号証:特表2007-526473号公報

第5 当審の判断
1 取消理由1について
(1)取消理由1の(1)で指摘した事項については、特許権者より乙第1号証(「明鏡国語辞典 第二版」大修館書店、北原保雄編 2010年12月1日発行、269頁)が提示され、それには音声の意味について「テレビなどの音」と記載されており、これを参照するに「音声」が「人間が発生器官を通じて発する言語音」に限定されていないことから、本件特許明細書に「人間が発生器官を通じて発する言語音」以外の音が記載されているとしても、請求項1における「音声」と何ら矛盾は生じず、請求項1の「音声」も「人間が発生器官を通じて発する言語音」に限定されない「音」を含む点において明確であるといえる。

(2)取消理由1の(2)?(4)で指摘した事項については、請求項4?6及び12が削除されたことにより解消された。

(3)小括
よって、令和2年1月16日付け取消理由通知書の取消理由1によっては、本件発明1、2及び9?11に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2及び3について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証について
(ア)甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与したものである(以下同様)。
(甲1ア)「【請求項3】皮膚表面または皮膚レプリカ(1)から皮膚表面の凹凸データを得る読取手段(2)と、この読取手段(2)により得られた凹凸データを多段階の階層を有する信号に変換する変換手段(4)と、この変換手段(4)により変換された信号を、所望とする音階の音階数とオクターブ数とから決定される音程信号に変換する音程変換手段(32)と、この音程変換手段(32)により変換された音程信号を周波数変調する変調手段(13)と、この変調手段(13)により変調された信号を音として出力する出力手段(16)とを備えたことを特徴とする皮膚表面形態の評価装置。」

(甲1イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、皮膚表面形態の評価方法及びそのための装置に関し、特に皮膚表面の凹凸データを人の可聴域の音として出力することのできる皮膚表面形態の評価方法及びそのための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】皮膚表面の微少な形態を評価し、その特徴を的確に識別することは、美容、化粧などにとって皮膚の性状や肌質を知る指標を得る上で、極めて重要なことである。」

(甲1ウ)「【0015】
【実施例1】本発明の具体的な実施例について説明する。図2は本発明に係る皮膚表面形態の評価方法を実施するための皮膚表面形態の評価装置の実施例1を示すブロック図である。
【0016】図1において、1は皮膚表面を写し取った皮膚レプリカであり、例えばシリコン樹脂またはシリコン樹脂あるいはその他のラバーベースに硬化剤を混合したもの、更にポリビニルアルコールを主要成分としたものなどを材料としている。このような材料を皮膚表面に塗布し乾燥後、皮膚から剥すことで皮膚レプリカ1を得ることができる。
【0017】表面粗さ計2は、皮膚表面形態の皮膚レプリカ1を走査し、皮膚レプリカ1の表面粗さを凹凸のアナログデータで得る。図3は人の肌状態の良い肌表面を写し取った皮膚レプリカ1の一例を示す図であり、図4はこの皮膚レプリカ1の一定軸に沿った皮膚表面の凹凸のアナログデータを示す図である。
【0018】信号増幅装置3は、表面粗さ計2から取り込まれる皮膚表面の凹凸のアナログデータを所定のレベル、すなわち後述するA/D変換装置4の仕様に適合したレベルまで増幅する。
【0019】A/D変換装置4は、信号増幅装置3からの増幅された皮膚表面の凹凸のアナログデータを、多段階の階層を有するデジタル信号に変換する。この場合に、階調は、例えば8,16,32,64,128階調などの仕様である。」

(甲1エ)「【0053】<実施例4> 図12は、本発明の実施例4の皮膚表面形態の評価方法を実施するための装置を示すブロック図である。本実施例は、FMボードとして、基準音階設定装置31、音程変換装置32、音の長さ生成装置34、テンポ生成装置35、音色生成装置33、周波数変調装置13を備える。
【0054】基準音階設定装置31は、A/D変換装置4から出力される多段階の階層を有する信号に基づき、ディジタル化された基準音階信号を発生するものである。例えば多段階の階層を有する信号の階層のレベルが”0”のときをハ音(ドの音)とする。基準音階設定装置31は、この基準音階信号と多段階の階層を有する信号とを音階変換装置32に出力する。
【0055】音程変換装置32は、基準音階設定装置31から出力される基準音階信号を基準音階として多段階の階層を有する信号を、所望とする音階の音階数とオクターブ数から決定されるFMボード音程信号に変換する。例えば256段階の階層を有する信号を、12音階(全音及び半音からなる。)8オクターブに変換してFMボード音程信号を得る。この場合には、256段階の階層を有する信号を、32づつ8つの区間に分け、それぞれの32段階の階層を有する信号を各オクターブに振り分ける。
【0056】さらに32段階の階層を有する信号を12で割り、四捨五入して12段階の信号に変換する。そして12段階の信号値の小さい順に、前述したハ音(ドの音)から順次図13に示すように割り当てる。図13において、シャープ#は、所定の全音に対して半音高い音を示す。
【0057】このようして、音程変換装置32により変換された12音階8オクターブのFMボード音程信号は、周波数変調装置13に入力する。一方、音の長さ生成装置34は、所望とする音の長さ(音符)を周波数変調装置13に出力する。テンポ生成装置35は、所望とするテンポ信号を、周波数変調装置13に出力する。
【0058】音色生成装置33は、所望とする音色と同じかあるいはこれに近い倍音を生成するものであり、生成された音色信号を周波数変調装置13に出力する。さらに、FMボード音程信号、音の長さ信号、音色信号は、周波数変調装置13により周波数変調され、信号増幅装置15により信号増幅され、スピーカ16に音として出力される。
【0059】すなわち、スピーカ16には、任意の音階を用いた音程を出力でき、また任意の音の長さとテンポとで音を出力でき、さらには音色を指定して、その音色を出力できる。
【0060】その結果、ピアノ的な音、フルート的な音など好みの音色で聞くことができる。また、既存の音楽、様々なリズムパターンや異なる人の皮表レプリカなどから得られる信号に基づいて合奏できるなど、より楽しいく幅広く演出性のある皮膚表面形態の評価ができるようになった。さらには好みの音の長さやテンポで聞いて評価できるようになり、より幅のある音表現が可能となる。
【0061】
【発明の効果】本発明によれば、皮膚表面の凹凸のデータを多段階の階層を有する信号に変換し、この変換された信号に対して波形処理し、さらに波形処理された信号に対して周波数変調を施して音として出力するので、この音の周波数の高低を聞くことによって、皮膚表面形態に関する専門的な知識を有しない一般ユーザであっても、皮膚表面形態の特徴を直感的に容易に評価することが可能となる。
【0062】また、皮膚表面の凹凸のデータを多段階の階層を有する信号に変換し、この変換された信号を、所望とする音階の音階数とオクターブ数とから決定される音程信号に変換し、さらに該音程信号に対して周波数変調を施して音として任意の音階を用いた音程を出力できるから、好みの音程で聞いて皮膚表面形態を評価できる。」

(イ)甲1発明について
a 記載事項の整理
(a)(甲1ア)で記載されている請求項3の発明は、(甲1エ)で摘記した実施例4に対応するところ、(甲1エ)の実施例4で「A/D変換装置4から出力される多段階の階層を有する信号」は、(甲1ウ)で摘記した実施例1と同じく「表面粗さ計2は、皮膚表面形態の皮膚レプリカ1を走査し、皮膚レプリカ1の表面粗さを凹凸のアナログデータで得」たものを「A/D変換装置4」で多段階の階層を有するデジタル信号に変換したものである。

(b)(甲1ウ)で摘記した実施例1には「表面粗さ計2は、皮膚表面形態の皮膚レプリカ1を走査し、皮膚レプリカ1の表面粗さを凹凸のアナログデータで得る」と記載され、対象が「皮膚表面形態の皮膚レプリカ」となっているが、(甲1ア)の請求項3の「皮膚表面または皮膚レプリカ」における「皮膚表面」についても、表面粗さ計2を皮膚表面に走査し、皮膚表面の表面粗さの凹凸のアナログデータで得ているものである。

(c)皮膚表面形態の評価をする際には、(甲1ア)の評価装置を作動させることから、評価装置の作動方法が記載されているといえる。

b 甲1発明
上記aを踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。なお、図面番号は略した。
「皮膚表面の凹凸データを人の可聴域の音として出力することのできる皮膚表面形態の評価のための評価装置の作動方法であって、
評価装置は、皮膚表面から皮膚表面の凹凸データを得る読取手段と、この読取手段により得られた凹凸データを多段階の階層を有する信号に変換する変換手段と、この変換手段により変換された信号を、所望とする音階の音階数とオクターブ数とから決定される音程信号に変換する音程変換手段と、この音程変換手段により変換された音程信号を周波数変調する変調手段と、この変調手段により変調された信号を音として出力する出力手段とを備えたものであり、
上記凹凸データは、表面粗さ計が、皮膚表面を走査し、皮膚の表面粗さを凹凸のアナログデータで得たものである、
評価装置の作動方法。」(以下「甲1発明」という。)

イ 甲第3号証について
(ア)甲第3号証(以下「甲3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、面粗さを測定する装置の分野に関する。より詳細には、本発明は、音響特性および摩擦学的特性(以降、摩擦音響特性と呼ぶ)を測定するプローブに関し、ひいては表面の手触りの定量化するものに関する。本発明は、皮膚およびその付属物、織物、革、樹脂、または触感の評価が重要とされる任意の他の材料の摩擦音響特性を測定するのに適用することができる。
【背景技術】
【0002】
「手触り」という用語は、その柔らかさ、その堅さ、その弾力性、その微細性、その復元性、および触感によって認識できる他の品質などの材料の触感品質を意味すると解釈できる。この概念は、産業上の要求に向けて、基本的には評価員による主観的な触感評価によって判断される。したがって、これらの人達はすでに訓練を受けた、触感の質的評価を行う専門家である。これは、皮膚に塗るクリームの皮膚病学的効果が評価されるべきものであるとしたときの特別の場合である。
【0003】
これらの評価は、実際上、前記対象の面の摩擦学的(接触、摩擦)特性と音響特性の生体評価に合致する。」

(甲3イ)「【0031】
本発明によるプローブは、測定面に加えた処理が摩擦音響特性に及ぼす影響の測定に特に適用可能である。例えば美容術では、プローブは、何も塗布しないで皮膚の試験領域で記録した摩擦音響特性を、保湿物質を塗布した後に、ある時間間隔で継続的に、この同じ領域で記録した摩擦音響特性と比較することで、皮膚上の保湿物質の効果を定量化できるようにする。例えば、髪に及ぼすシャンプーの効果を定量化することに対して同様の適用を想定することができる。」

(甲3ウ)「【0037】
音響信号から計算したこれら様々なパラメータにより、例えば、皮膚や髪などの表面に活性成分を付加したことの生体への効果(保持力、生物学的利用能など)を定量化し、認定することができるようになる。音響レベルの低下は、例えば、図4のグラフ40で示すように検出することができ、そのレベルは、修復クリームを肌に塗った後で読み込まれる。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のことがいえる。
(ア)システムの作動について
甲1発明の「皮膚表面の凹凸」である「皮膚表面形態」と、本件発明1の「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」とは、上位概念として「組織の表面状態」という点で共通する。
そうすると、甲1発明の「人の可聴域の音として出力する」ことは、本件発明1の「使用者に知らせる」ことに相当することから、甲1発明の「皮膚表面の凹凸データを人の可聴域の音として出力することのできる皮膚表面形態の評価のための評価装置の作動方法」と、本件発明1の「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態について使用者に知らせるためのシステムの作動方法」とは、上位概念として「組織の表面状態について使用者に知らせるためのシステムの作動方法」という点で共通する。

(イ)測定データの取得について
甲1発明の「表面粗さ計」は、本件発明1の「測定デバイス」に相当し、甲1発明の「表面を走査」する領域は、評価中の領域であるから、甲1発明の「表面粗さ計は」「表面を走査し、」「表面粗さを凹凸のアナログデータで得」るステップは、本件発明1の「前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップ」に相当する。

(ウ)整形データの取得について
甲1発明の「変換手段」は、本件発明1の「処理手段」に相当し、本件発明1の「整形」について本件特許明細書に「整形は使用者信号生成に役立つあらゆる所望の変換」と記載されていることから、甲1発明の「表面の凹凸データを」「多段階の階層を有する信号に変換する」ステップは、本件発明1の「前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップ」に相当する。

(エ)使用者信号の生成について
上記1「取消理由1について」の(1)で述べたように、本件発明1の「音声」は「人間が発生器官を通じて発する言語音」に限定されない「音」を含むことから、甲1発明の「音程信号」そして「音程信号を」「変調」した「信号」は、本願発明の「音声の使用者信号」に相当するといえる。
そうすると、甲1発明の「音程変換手段」「変調手段」は、本件発明1の「生成手段」に相当し、「変換された信号を、所望とする音階の音階数とオクターブ数とから決定される音程信号に変換」し、「変換された音程信号を周波数変調」し、「変調された信号を音として出力する」ステップは、「前記システムの生成手段によって、前記整形データに基づき音声および/または触覚の使用者信号を生成するステップ」に相当する。
また、甲1の「音程信号」そして「音程信号を」「変調」した「信号」は、「凹凸データを多段階の階層を有する信号に変換」した「信号」を「変換」、「変調」するものであるから、「音程信号」そして「音程信号を」「変調」した「信号」の周波数は、「凹凸データを多段階の階層を有する信号に変換」した「信号」に依存するものといえる。
してみれば、甲1発明の「変換された信号を、所望とする音階の音階数とオクターブ数とから決定される音程信号に変換」し、「変換された音程信号を周波数変調」し、「変調された信号を音として出力する」ステップと、本件発明1の「前記システムの生成手段によって、前記整形データに基づき音声および/または触覚の使用者信号をリアルタイムで生成するステップであって、前記使用者信号の周波数は前記整形データに依存する、ステップ」とは、「前記システムの生成手段によって、前記整形データに基づき音声および/または触覚の使用者信号を生成するステップであって、前記使用者信号の周波数は前記整形データに依存する、ステップ」の点で共通する。

(オ)上記(ア)?(エ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「組織の表面状態について使用者に知らせるためのシステムの作動方法であって、
a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップと、
b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップと、
c)前記システムの生成手段によって、前記整形データに基づき音声および/または触覚の使用者信号を生成するステップであって、前記使用者信号の周波数は前記整形データに依存する、ステップと
を含む方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
使用者信号を生成する際に、本件発明1で「リアルタイムで」生成するのに対し、甲1発明では、「リアルタイムで」とは特定されていない点。

(相違点2)
本件発明1では、組織の表面状態が「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」であり、測定デバイスが「毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、前記測定デバイスは摩擦に対する感度が高い」ものであり、整形することが「毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む」ことであるのに対し、
引用発明では、組織の表面状態が「皮膚表面の凹凸」である「皮膚表面形態」であり、測定デバイスが「皮膚表面の凹凸データ」を得る「表面粗さ計」であり、整形することが「皮膚表面の凹凸データを」「多段階の階層を有する信号に変換する」ことである点。

イ 判断
(ア)相違点1について
本件発明1の「使用者信号をリアルタイムで生成する」ことについて、本件特許明細書には、以下の記載があるのみである。
「これは使用者の音声信号が整形データに基づきリアルタイムで直接生成される場合に特に役立つことがわかるであろう。」(【0015】)、「使用者信号は、測定デバイスが作動されるのと同時に、リアルタイムで生成されてよい。」(【0025】)、「整形データに基づき、好ましくはリアルタイムで、音声および/または触覚の使用者信号を生成する」(【0032】)、「ステップa)およびc)において、使用者は、好ましくはリアルタイムで、評価中の領域の状態を表す音声または触覚信号を受け取ってよい。」(【0048】)
上記記載を参照するに、「リアルタイム」には独自の技術的意味はなく、甲5に記載されている「コンピュータ処理方式の一つ。データを蓄積せずに即時に処理すること。実時間処理。⇔バッチ処理」と解するのが相当である。
甲1発明において、「皮膚表面の凹凸データを得る読取手段と、この読取手段により得られた凹凸データを多段階の階層を有する信号に変換する変換手段と、この変換手段により変換された信号を、所望とする音階の音階数とオクターブ数とから決定される音程信号に変換する音程変換手段と、この音程変換手段により変換された音程信号を周波数変調する変調手段と、この変調手段により変調された信号を音として出力する」工程において、その実施例である(甲1エ)で摘記した実施例4の記載を参照しても「データを蓄積」するとは記載されていないことから、当該工程は「リアルタイムで」行われていると解するのが相当である。
してみれば、上記相違点は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
上記甲3には、音響特性および摩擦学的特性(以降、摩擦音響特性と呼ぶ)を測定するプローブにより、皮膚や髪などの表面に活性成分を付加した表面の摩擦音響特性を測定し、活性成分を付加したことの生体への効果(保持力、生物学的利用能など)を定量化することが記載されているが、組織の表面状態について使用者に知らせるために、測定データを整形し、その整形データに基づき音声および/または触覚の使用者信号を生成するものではない。そうすると、甲3に記載されている技術は、音声および/または触覚の使用者信号を生成するための整形は行っておらず、整形が「毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む」ことについても記載されていない。
してみれば、甲1発明において、本件発明1の整形に相当する「表面の凹凸データを」「多段階の階層を有する信号に変換する」ことが、甲3に記載の技術を参照しても、「毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む」ものにはならない。
よって、相違点2は、甲3に記載されている事項から、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、上記相違点2の点で、甲1発明と実質的に同じではないことから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、そして、甲1発明及び甲3に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえないことから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(3)本件発明2及び9?11について
本件発明2及び9?11は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものといえることから、少なくとも上記相違点2の点で相違するものである。
してみれば、本件発明2及び9?11は、本件発明1と同様に、甲1発明と実質的に同じではなく、そして、甲1発明及び甲3に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえないことから、本件発明2及び9?11に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

第6 取消理由(決定の予告)について
1 令和2年9月7日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由は、同年4月22日に提出された訂正請求書による訂正(以下「みなし取下訂正」という。)によって生じたものであって、みなし取下訂正された特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていないものであり、その概要は以下のとおりである。
(1)みなし取下訂正された請求項1には、「皮膚の粗さ、皮膚のしわまたは毛穴の粗さの度合い、皮膚の艶、皮膚の色の不均一性、皮膚または頭皮の炎症、皮膚の構造変化、皮膚の含水量、皮膚の色、経表皮水分蒸散量、皮膚の水和度、皮膚の色素沈着、皮膚の弾性特性、および皮膚の構造からなる群から選択される皮膚の状態、または、毛髪表面の損傷、毛髪の艶、毛髪の色の不均一性、毛髪の構造変化、毛髪の多孔性、毛髪の構造、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態について使用者に知らせるためのシステムの作動方法」と記載されているが、「a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップであって、前記測定デバイスは毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、前記測定デバイスは摩擦に対する感度が高い、ステップと、b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップであって、前記整形することは、毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む、ステップ」に対応する状態は、「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」といえ、それ以外の「皮膚の粗さ、皮膚のしわまたは毛穴の粗さの度合い、皮膚の艶、皮膚の色の不均一性、皮膚または頭皮の炎症、皮膚の構造変化、皮膚の含水量、皮膚の色、経表皮水分蒸散量、皮膚の水和度、皮膚の色素沈着、皮膚の弾性特性、および皮膚の構造からなる群から選択される皮膚の状態」並びに「毛髪の艶、毛髪の色の不均一性、毛髪の構造変化、毛髪の多孔性、毛髪の構造からなる群から選択される毛髪の状態」については、上記ステップでそれらの状態について使用者に知らせることはできないものであるから、これらの状態を発明特定事項として記載している、みなし取下訂正された請求項1は明確とはいえない。

(2)みなし取下訂正された請求項6では「前記測定デバイスは、毛髪に沿って前記測定デバイスをこすりつける間の圧力変化を捉えるセンサを備え、これらの圧力変化の変動はいくつかの数学的変換を介して音楽に変換される」と記載されているが、引用する請求項1の「毛髪の状態に関係する測定データを生成する」「摩擦に対する感度が高い」「測定デバイス」と、請求項6の「毛髪に沿ってこすりつける間の圧力変化を捉えるセンサを備え」る「測定デバイス」との関係が明確とはいえない。

(3)みなし取下訂正された請求項3は「前記整形することは測定データの参照データとの比較に基づきデータを生成することを含む」ことが特定されているが、引用する請求項1にも「前記整形することは・・・測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む」と特定されており、請求項3はさらに何を限定しているのか不明確である。

2 判断
(1)について
本件訂正請求による訂正により、本件発明1における「状態」は「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態」に限定されたことで、上記(1)の理由は存在しない。

(2)及び(3)について
本件訂正請求による訂正により、請求項3及び6は削除されたことで、上記(2)及び(3)の理由は存在しない。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人は、特許異議申立書において、下記の甲第2号証(以下「甲2」という。)に記載の発明を主引用発明として、請求項1?5及び9?12に係る発明は、甲2に記載の発明、並びに甲3に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5及び9?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであることも異議申立理由としているので、これについて判断する。
甲第2号証:仲谷正史、他4名「触感表現の一般的普及に向けた方法論とテクタイルワークショップを通したその実践」日本バーチャルリアリティ学会論文誌 vol.19 No.4 2014年

2 甲2について
(1)甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「そこで本稿では,触感表現の一般普及に向けた方法論として,触感表現を可能にする道具立ての要件について論じる.その上で,考案した要件を満たす道具:テクタイルツールキットの具体的な開発について論じ,その性能評価を示す.さらにテクタイルツールキットを使う場であるワークショップ理論とその実践を通した評価について述べる.考察では,ワークショップ後の情報提供の取り組みを論じ,参加者が触れることに関して自ら学びを深め,触感表現の一般普及が促進するための道筋を論じる.
2 触覚と触感
本論文の以下では,触覚と触感を分けて議論する.本稿で使用する「触覚」の意味は,皮膚感覚と同義であり,皮膚上で何らかの物理的な変化が実際に起こることで生じる感覚である.具体的には圧覚,振動覚,すべり覚,温度覚,痛覚が挙げられる.一方,触感とは,触覚を与えるモノ,身体,(心的)イメージの3つを要素とし,これらが喚起する触にまつわる複合感覚として定義する(図1).同じモノが同じ皮膚変形を与えたとしても,モノが接触する部位が異なればその触感は変わる.また,同じ部位に同じモノが接触していても,その際の身体動作(触り方)が異なれば触感は異なって当然である.加えて,視聴覚情報や言語,記憶により,触のイメージを喚起することができれば,モノ・身体の要素がなくても触感は生起する.以上のことから,触覚提示の有無に関わらず,触に関する複合感覚がしさえすれば,触感が生起したと本稿では定義する.なお,詳細な定義については,別でも述べた[3].
触感の要素にモノ,身体,イメージの3つがあること自体は,明示的に議論はされてこなかったものの,古くからの触覚に関連する研究潮流の中では語られてきた.ハプティックスという概念には,皮膚感覚と深部感覚(筋感覚)とを統合した体性感覚が含まれている.モノは体性感覚を引き起こすもっとも単純な単位であるが,多くの場合,身体動作を伴わなければ,触感を得ることはない.J.J.ギブソンが提案してきたアクティブタッチの概念も,触動作が触感の生起に必要であることを自明のこととして盛り込んでいる[19].
視覚や聴覚が触感に影響を与えることは多くの研究が指摘している.視覚が与える触感の変調については,Rubber hand illusion が知られる[20].手の甲に触覚刺激を受けている最中に,ゴムの手に同じ触刺激を与えている視覚刺激を同時に与えると,自分の手がゴムの手になってしまったかのような体験が生じる現象である.聴覚が与える触感の変調について,Parchment-skin illusion という現象が知られる[21].自分がすり合わせている手の音を記録し,それを変調して聞かせることで,皮膚の粗さが変わったように感じられる.このように,錯覚現象を代表例として,視聴覚情報が触覚そのものではなく,知覚上の触覚,すなわち触感に影響を与えていることが指摘されている.
映像,音声,もしくは言葉が呼び起こす触に関わる体験の記憶想起は,日常生活の中だけでなく,多くの芸術表現で使われてきた手法である.医学研究でも,慢性的な痛みは,末梢神経からやってくるだけでなく中枢神経系で保持された痛みの記憶も含まれうることが指摘されている[22].ただ,触感における記憶の役割に関して科学的なアプローチによる研究知見は筆者らの知る限り報告されておらず,今後の研究が待たれている.」

(甲2イ)「3.1 テクタイルツールキットの開発
筆者らが開発したデバイス:テクタイルツールキットを図2 に示す.触感を記録するセンサとしてマイクロフォン(audio-technica, AT9904)を,触感を再生するアクチュエータとして振動子(ALPS, Force Reactor AF, L-type)を利用した.これらの素子は,触感を生成する素材に貼付しやすいこと,触感を提示する任意の身体部位に取り付けやすく,かつ身体動作を制限しないことを要件に選定した.さらに,刺激の強度を変更できるよう,橋本らの先行研究を参考に[27],増幅器としてオーディオアンプ(Rasteme Systems, RSDA202)を利用した.以上のセットアップは振動子をスピーカと見立てれば音響機器と同じ構成であり,多くの利用者にとって使用法の教示を必要としない.このことは,ツールキットの要件(i)を満たす.
また,マイクロフォンで取得した信号をコンピュータで即座にデジタル化できるよう,USB を介したオーディオ変換アダプタ(PLANEX, PL-US35AP)を利用した.商用の音響信号処理ソフトウェアと併用することにより振動音を音響ファイルとして記録することが可能である.音響処理ソフトウェアは,各種のエフェクト(強度の変更,残響やディレイなどのフィルタ効果)を加えることが容易であり,触感性の音響信号の編集を行うことができる.
上記の実施例では,ユーザはモノもしくは身体にマイクロフォンを取り付け,任意の物体に触れ,その際に生じる摩擦音・振動音を入力信号として生成した(以下,触感データと呼ぶ).入力した振動音はオーディオアンプを介して振動子へ出力した.
3.2 テクタイルツールキットの性能評価
3.1 節で述べたように構成したツールキットの性能評価を,先行研究[28]を参考に行った.振動子をABS 樹脂板へ両面テープによって保定した後,ABS 樹脂板を万力の上に固定した.レーザー変位計(ILD1402-10,Micro-Epsilon)を振動子上方に置き,再生された振動変位を計測した.レーザー変位計の出力は,AxonDigidata 1440A Digitizer (Molecular Devices)によってAD 変換し,40kHz で計測ソフトウェアAxon pCLAMP 9(Molecular Devices)を利用してサンプリングした.入力信号として, 1Hz-1kHz の正弦波信号をMATLAB(MathWorks)によって生成し,音声信号としてオーディオアンプへ入力し,振動子に出力した.結果を図3 に示す.200-300Hz 前後に振動のピーク周波数があることが確認された.ヒトの振動感覚閾値が低いのは,指先に対する変位刺激[29],把持物体の振動刺激[30]のいずれも200-300Hz の振動周波数帯であることが知られている.以上より,今回利用したオーディオアンプ・振動子によって構成したテクタイルツールキットは,ヒトへの振動触感提示に適した性能を有することが確認された.」

(2)甲2記載の発明について
申立人は、甲2に記載されている発明を具体的に認定していないが、特許異議申立書で上記(甲2イ)を摘記していることから、「テクタイルツールキット」(当審注:テクタイルはtactileのことであり、触感と訳される)の構成を甲2に記載されている発明としたものといえるところ、摘記(甲2ア)に記載されているとおり、「テクタイルツールキット」とは、触感の表現を可能にする道具のことであり、「同じモノが同じ皮膚変形を与えたとしても,モノが接触する部位が異なればその触感は変わる.また,同じ部位に同じモノが接触していても,その際の身体動作(触り方)が異なれば触感は異なって当然である.」「視覚や聴覚が触感に影響を与える」という状況で、触感を音響信号で表し、それを振動として触感を提示するツールキットのことである。

3 判断
本件発明1の「毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態について使用者に知らせるためのシステム」であるが、甲2の「テクタイルツールキット」は触感を表現するものであり、「触感」とは上記(甲2ア)に「触感とは,触覚を与えるモノ,身体,(心的)イメージの3つを要素とし,これらが喚起する触にまつわる複合感覚として定義する.同じモノが同じ皮膚変形を与えたとしても,モノが接触する部位が異なればその触感は変わる.また,同じ部位に同じモノが接触していても,その際の身体動作(触り方)が異なれば触感は異なって当然である.」と記載されているとおり、「モノの状態」を示しているとはいえないことから、毛髪の状態について使用者に知らせるためのシステムとは根本的に異なるものであり、甲2は主引用例としての適格性を欠いたものである。
甲2が主引用例としての適格性を欠いていることから、本件発明1、2及び9?11は、甲2に記載の発明、並びに甲3に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、請求項3?8及び12は、本件訂正により削除された。

4 小括
よって、甲2を主引用例として、本件発明1、2及び9?11に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとする特許異議申立理由によっては、本件発明1、2及び9?11に係る特許を取り消すことはできない。

5 甲第4号証について
申立人は、甲第4号証として、前田智祐、他4名「触感覚を拡張する補触器HapticAidの基礎検討」第21回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集(2016年9月)も提示しているが、これは、低下あるいは失われてしまった触感覚を取り戻す器具である補触器について開示した文献であり、これにより上記第4の取消理由2及び3並びに上記特許異議申立理由についての判断が変わることはない。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明1、2及び9?11に係る特許は、令和2年1月16日付け取消理由通知に記載した取消理由、同年9月7日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
さらに、他に本件発明1、2及び9?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3?8及び12に係る特許は、上記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3?8及び12に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪表面の損傷、および毛髪の摩擦係数からなる群から選択される毛髪の状態について使用者に知らせるためのシステムの作動方法であって、
a)前記システムの測定デバイスによって、評価中の領域についての測定データを取得するステップであって、前記測定デバイスは毛髪の状態に関係する測定データを生成するように構成され、前記測定デバイスは摩擦に対する感度が高い、ステップと、
b)前記システムの処理手段によって、前記測定データを整形して整形データを取得するステップであって、前記整形することは、毛髪表面の損傷の様々な程度に関係する測定データと参照データの比較に基づきデータを生成することを含む、ステップと、
c)前記システムの生成手段によって、前記整形データに基づき音声および/または触覚の使用者信号をリアルタイムで生成するステップであって、前記使用者信号の周波数は前記整形データに依存する、ステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記整形することは前記測定データをフィルタリングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記方法は前記整形データに基づきスペクトログラムを生成するステップと、前記生成手段によって、前記スペクトログラムに基づき音声および/または触覚の使用者信号を生成するステップとを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記音声または触覚の使用者信号はカスタマイズされた使用者プロファイルに基づき生成される、請求項1、2、または9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1、2、9、または10のいずれか一項に記載の方法を実施するためのデバイスであって、
‐ 人間の毛髪に関する測定データを生成するための収集手段と、
‐ 前記測定データを処理し、整形データを生成するための処理手段と、
‐ 前記整形データに基づき、リアルタイムで、音声および/または触覚の使用者信号を生成するための生成手段であって、前記使用者信号の周波数は前記整形データに依存する、生成手段と
を備えるデバイス。
【請求項12】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-06 
出願番号 特願2016-211669(P2016-211669)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61B)
P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 千尋門田 宏  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
登録日 2019-03-08 
登録番号 特許第6492044号(P6492044)
権利者 有限会社エル・プロデュース ロレアル
発明の名称 ヒトケラチン物質の状態について使用者に知らせるための方法  
代理人 村山 靖彦  
復代理人 松尾 直樹  
代理人 実広 信哉  
復代理人 野村 進  
代理人 実広 信哉  
復代理人 野村 進  
代理人 村山 靖彦  
復代理人 松尾 直樹  
復代理人 野村 進  
復代理人 松尾 直樹  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
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