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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16F
管理番号 1372687
異議申立番号 異議2020-700366  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-27 
確定日 2021-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6613095号発明「懸架用コイルばね」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6613095号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6613095号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6613095号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6613095号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年10月1日に出願され、令和1年11月8日にその特許権の設定登録がされ、同年11月27日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年5月27日:特許異議申立人金澤毅(以下、「異議申立人」とい
う。)による請求項1?5に係る特許に対する特許
異議の申立て
同年8月21日付け:取消理由通知書
同年10月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年12月21日 :異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者によって令和2年10月29日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し」と記載されているのを、「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。
・訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記素線の下端側の部分には前記端末一点強当り部とは反対側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有した」と記載されているのを、「前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有し、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。
・訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1における「座巻部を有し」の直後に、「 前記座巻部は、
前記コイルの中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、
前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、
を有し、」と加入訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。
・訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1における「ことを特徴とする懸架用コイルばね」の直前に、「 当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾く」を加入訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。
・訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
・訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に「 前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するピッチ角を有したことを特徴とする請求項1または2に記載の懸架用コイルばね。」と記載されているのを、「 前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するピッチ角を有したことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
・訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に「 前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に受け部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の懸架用コイルばね。」と記載されているのを、「 前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に受け部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
・訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に「 前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の懸架用コイルばね。」と記載されているのを、「 前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形することを特徴とする請求項3または4に記載の懸架用コイルばね。」に訂正する。
・訂正事項9
明細書の段落【0014】に「 本発明の1つの実施形態は、螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向に片寄った位置において1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、前記素線の下端側の部分には、前記端末一点強当り部とは反対側の位置(例えば車両外側)において前記下側のばね座に接する座巻部を有している。」と記載されているのを、「 本発明の1つの実施形態は、螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置において1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、前記素線の下端側の部分には、前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有している。前記座巻部は、前記コイル中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大木債にかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、を有している。当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾く。」に訂正する。
訂正前の請求項1?5について、請求項2?5は請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているものであるから、特許請求の範囲の記載を訂正する訂正事項1?8は、一群の請求項〔1?5〕に対して請求されたものである。
また、明細書の記載を訂正する訂正事項9は、一群の請求項〔1?5〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1における、端末一点強当り部が上側のばね座に接する位置を、訂正後において「車両内側」に更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の段落【0025】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1における、座巻部が下側のばね座に接する位置を、訂正後において「コイル中心軸に対し」「車両外側」に更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、明細書の段落【0026】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項1における、座巻部の構成を更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、明細書の段落【0022】及び【0026】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項1における、懸架用コイルばねについて、発明特定事項を直列的に付加することによって更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、明細書の段落【0027】並びに願書に添付した図面の【図1】及び【図2】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項4は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項2の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加には当たらず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6?8
訂正事項6?8は、訂正事項5により請求項2を削除することにともない、訂正後の請求項3?5において、引用請求項を削除し、請求項間の引用関係の整合性を保つものである。
したがって、訂正事項6?8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6?8は、新規事項の追加には当たらず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項9
訂正事項9は、訂正事項1?4にともなって生じる、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の不整合を解消するための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加には当たらず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び3?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明3」?「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び3?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

[本件発明1]
「螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、
前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、
前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有し、
前記座巻部は、
前記コイルの中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、
前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、
を有し、
当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾くことを特徴とする懸架用コイルばね。」
[本件発明3]
「前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するピッチ角を有したことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」
[本件発明4]
「前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に受け部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」
[本件発明5]
「前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形することを特徴とする請求項3または4に記載の懸架用コイルばね。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が特許権者に対して令和2年8月21日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。

・請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知・慣用の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
・請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1、2に記載の事項及び周知・慣用の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
・請求項4及び5に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1?3に記載の事項及び周知・慣用の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

引用文献1:仏国特許出願公開第2540586号明細書
引用文献2:国際公開第2014/181872号
引用文献3:特開昭60-85003号公報
引用文献1?3は、それぞれ、異議申立人が提出した甲第1号証?甲第3号証である。

第5 当審の判断
1 引用文献1の記載事項等
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面と共に次の記載がある(訳は、異議申立人が提出した訳を参考に、当審で作成したものである。)。

ア(第1ページ第4行?第7行)
当審訳「本発明は、ばねとそのカップの少なくとも1つの新しい組合せに関し、この組合せは、マクファーソンサスペンション懸架装置を製造するために特に使用可能である。」
イ(第5ページ第25行?第28行)
当審訳「フランジ3、4が設けられた2つのカップ1と2の間に配置された本発明によるばねRは、螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5からなり、各端部で支持ターン6、7によって終端される。」
ウ(第5ページ第29行?第6ページ第3行)
当審訳「本発明によれば、螺旋状に巻かれた支持ターン6の1つは、ばねRのアクティブターン5の軸9の外側にその中心8を有し、カップ1と角度αを形成する。その直径はアクティブターン5の直径よりも小さいため、このターン6はあまり曲がらず、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1と単一の接点10を保持する。ただし、高負荷では、10の圧力が非常に強いままであれば、カップ1との接触が少し広がっていると想定できます。」
エ(第6ページ第4行?第21行)
当審訳「ばねRの自由端10がカップ1に斜めに接触した結果、ばねによってカップ1に及ぼされる力は水平成分Hを有し、カップ1に加えられる力の合力Fの方向は、ばねの軸9に対して傾斜する。その反作用として、他のカップ2に加えられた力の合力F‘は等しく反対になり、カップ2とカップ2に加えられた支持ターン7の形状に関係なく同じ傾きになる。しかしながら、このターンが従来の形状を有する場合、結果として生じるF及びF’は、ばねの軸を通過せず、それらの向きβ(図2を参照)は、負荷と共に変化する傾向があることが分かる。支持ターン7とそのカップ2の間に角度γを設けることで、支持ターン7とカップ2の接触点11を同じ垂直平面に配置してばね軸を通過させる結果、ばねの軸に通して、この一定の方向を維持する。言い換えると、2つの自由端10及び11並びにアクティブターン軸9は同じ平面内にある。」

(2)引用文献1に記載の発明
ア 引用文献1の記載及び当業者における技術的常識から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているといえる。

・マクファーソンサスペンションは車両の懸架装置に用いられるものである。
・螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され、2つのカップ1と2の間に配置されるマクファーソンサスペンションに使用されるばねR(上記摘記(1)ア及びイ)。
・ばねRの螺旋状に巻かれた支持ターン6は、カップ1と角度αを形成し、支持ターン6は、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10を保持するものである(上記摘記(1)ウ)。
・接触点10は、軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にある(Fig.2)。
・螺旋状に巻かれた支持ターン7は、カップ2との接触点11を保持するものであり、接触点11は、ばねRの軸9に対して、ばねRの接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある(上記摘記(1)エ及びFig.2)。

イ 上記引用文献1に記載の技術的事項より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され、2つのカップ1と2の間に配置される車両のマクファーソンサスペンションに使用されるばねRであって、
前記支持ターン6は、前記カップ1と角度αを形成し、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10を保持するものであり、
前記接触点10は、軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にあり、
前記支持ターン7は、前記カップ2との接触点11を保持するものであり、前記接触点11は前記ばねRの軸9に対して、前記接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある、
車両のマクファーソンサスペンションに使用されるばねR。」

2 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「車両」は、本件発明1の「車両」に相当し、また、引用発明の「金属ワイヤ」は、本件発明1の「素線」に相当する。
引用発明の「カップ1」は、上側のばね座といえるから、本件発明1の「上側のばね座」に相当し、同様に「カップ2」は、「下側のばね座」に相当する。
引用発明の「ばねR」は、マクファーソンサスペンションという車両の懸架装置に用いられる、「いくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され」るコイルばねであり、また、機構上カップ1と2の間で圧縮配置されるものであることは明らかである。
したがって、引用発明の「ばねR」及び「ばねRの軸9」は、本件発明1の「懸架用コイルばね」及び「コイル中心軸」に相当し、引用発明の「螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され、2つのカップ1と2の間に配置される車両のマクファーソンサスペンションに使用されるばねR」は、本件発明1の「螺旋状に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばね」に相当する。
引用発明の「支持ターン6」は、当該支持ターン6に保持された接触点10によって、カップ1に接触するものであるから、本件発明1の「素線の上端側の部分」の「巻端部」に相当する。
引用発明の「前記カップ1と角度αを形成」していることは、本件発明の「ポジティブピッチ」「を有し」ていることに相当する。
したがって、引用発明の「前記支持ターン6は、前記カップ1と角度αを形成し」ていることは、本件発明1の「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し」ていることに相当する。
引用発明の「接触点10」は、「ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10」となるものであるから、本件発明1の「端末一点強当り部」に相当する。
また、引用発明の「接触点10」は、「支持ターン6」の端部に保持されるものであり、「軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にあ」るから、ばねRの中心の軸9に対し、ばね径方向における車両内側に片寄った位置にあるといえる。
したがって、引用発明の、「前記支持ターン6は、前記カップ1と角度αを形成し、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10を保持するものであり、前記接触点10は、軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にあ」ることは、本件発明1の「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有」することに相当する。
引用発明の「支持ターン7」は、当該支持ターン7に保持された接触点11によって、カップ2に接触するものであるから、本件発明1の「素線の下端側の部分」に相当する。
引用発明の「接触点11」は、カップ2と接触する部分であるから、本件発明1の「ばね座に接する座巻部」との対比において、「ばね座に接する部分」との限度で共通する。
また、引用発明の「接触点11」は、「前記ばねRの軸9に対して、前記接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある」ものである。
したがって、引用発明の、「前記支持ターン7は、前記カップ2との接触点11を保持するものであり、前記接触点11は前記ばねRの軸9に対して、前記接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある」ことは、本件発明1の「前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有」することとの対比において、「前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する部分を有」するとの限度で共通する。
以上のとおりであるから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、
前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、
前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する部分を有した懸架用コイルばね。」
[相違点1]
本件発明1は、懸架用コイルばねを構成する素線の下端側の部分に「前記コイルの中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、を有」する「座巻部」を有しているのに対し、引用発明は、「接触点11」を有しているものである点。
[相違点2]
本件発明1は、「当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾く」ものであるのに対し、引用発明は、ばねRについてかかる特定がされていない点。

3 判断
(1)引用文献1の「このターンが従来の形状を有する場合、結果として生じるF及びF’は、ばねの軸を通過せず、それらの向きβ(図2を参照)は、負荷と共に変化する傾向があることが分かる。支持ターン7とそのカップ2の間に角度γを設けることで、支持ターン7とカップ2の接触点11を同じ垂直平面に配置してばね軸を通過させる結果、ばねの軸に通して、この一定の方向を維持する。言い換えると、2つの自由端10及び11並びにアクティブターン軸9は同じ平面内にある。」(上記摘記(1)エ)との記載からすれば、引用発明は、ばねにかかる負荷の状態によらず、支持ターン7とカップ2が常に接触点11で接触することによって、接触点10がカップ1に作用する力の合力Fと接触点11がカップ2に作用する力の合力F’とが作用する軸がばね軸9を通過するように構成しているものといえる。
そうしてみると、仮令、懸架用コイルばねの素線の下端部の部分に座巻部を設けることが周知・慣用の構成であり、かかる座巻部が、懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に下側のばね座に接する第1の部分と、圧縮の荷重が小さいときに下側のばね座から離れ、圧縮の荷重が大きくなると下側のばね座に接する第2の部分とからなるものであったとしても、かかる座巻部、すなわち、下側のばね座に対するコイルばねの端部の接触する接触点の位置が変化しうる座巻部を引用発明における接触点11に代えて用いる動機付けはないというべきである。
したがって、相違点1は実質的な相違点であるといえ、また、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、当業者であっても容易に想到しうるものとはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、引用文献2、3及び異議申立人の提出した甲第4号証には、引用発明において相違点1に係る本件発明1の構成と成すことが容易であることについては、記載も示唆もされていない。
(2)本件発明3?5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明3?5と引用発明との間には、少なくとも相違点1が存在することとなり、本件発明1と同様の理由により、引用発明、あるいは、引用発明及び引用文献2、3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)異議申立人による令和2年12月21日提出の意見書の中での主張は、概略次のとおりである。

ア 本件発明1の「座巻部」について、素線とばね座との接触長などの接触態様について何ら特定していない以上、引用発明の「接触点11」との間に実質的な相違はない。(第2ページ下から5行?第3ページ第15行)
イ 高負荷状態で懸架コイルの上端部のみならず下端部の接触状態も変化することは自明な事項にすぎない。(第3ページ第17行?第28行)
ウ 上記イより、引用発明の接触点11を座巻部とすることは実質的に引用文献1に開示されているから、引用発明における接触点11に代えて座巻部を設けることには動機付けが存在しないとの特許権者の主張は当を得ない。(第4ページ第5行?末行)

しかしながら、上記(1)に説示のとおり、引用発明は、ばねにかかる負荷の状態によらず、支持ターン7とカップ2が常に接触点11で接触することによって、接触点10がカップ1に作用する力の合力Fと接触点11がカップ2に作用する力の合力F’とが作用する軸がばね軸9を通過するように構成しているものといえるから、高負荷状態で懸架コイルの下端部の接触状態が変化することがあるとしても、それは、接触点10がカップ1に作用する力の合力Fと接触点11がカップ2に作用する力の合力F’とが作用する軸がばね軸9を通過するものであるという、引用発明の趣旨を逸脱しない程度の範囲で変化するように構成したもの(そのためにターン7とカップ2との間に角度γを設けている)といえるから、異議申立人の上記ア及びイの主張は採用できない。
また、下側のばね座に対するコイルばねの端部の接触する接触点の位置が変化しうる座巻部を引用発明における接触点11に代えて用いる動機付けがないことは、上記(1)に説示のとおりであるから、異議申立人の上記ウの主張も採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(特許異議申立書に記載した特許異議申立て理由)によっては、本件請求項1及び3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
懸架用コイルばね
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両の懸架機構に使用される懸架用コイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の懸架機構は、例えば懸架用コイルばね(これ以降、単にコイルばねと称す)と、該コイルばねの上側に配置された上側のばね座と、該コイルばねの下側に配置された下側のばね座とを有し、これら上下のばね座間でコイルばねが圧縮され、かつ、荷重の大きさに応じてコイルばねが伸縮するようになっている。
【0003】
懸架機構の一例としてマクファーソンストラットタイプの懸架機構が知られている。マクファーソンストラットタイプの懸架機構は、上側のばね座と下側のばね座との間に配置されたコイルばねと、コイルばねの内側に配置されたストラット(ショックアブソーバ)とを含んでいる。荷重の大きさに応じて前記コイルばねが伸縮するとともに、ストラットも伸縮する。
【0004】
マクファーソンストラットタイプの懸架機構では、タイヤの接地点とストラット上端とを結ぶ入力作用線とストラットの中心軸とが角度をなしてずれているため、ストラットに横力(ストラットを曲げる分力)が作用し、これがストラットの摺動抵抗を大きくすることが知られている。このためストラットの摺動抵抗を低減させる手段として、特許文献1?6に開示されているように、コイルばねの反力線位置(Force Line Position)を可能な限り入力作用線に沿わせるようにし、ストラットに生じる横力を軽減することが行われてきた。この明細書では反力線位置を荷重軸と称することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭58-32970号公報
【特許文献2】欧州特許公開第728602号明細書
【特許文献3】特許第3515957号公報
【特許文献4】特許第4336203号公報
【特許文献5】特開2013-173536号公報
【特許文献6】特開2014-237431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のコイルばねは、コイルばねの下側に形成された座巻部の径を有効部のコイル径よりも小さくし、かつ、有効部をストラットの中心軸に対し車両外側にオフセット配置している。しかしコイルばねの有効部がストラットの中心軸に対して車両外側にオフセットしているため、コイルばねを含む懸架機構を車体に配置するのに必要なスペースが大きくなってしまう。
【0007】
特許文献2のコイルばねでは、コイルばねの上端部付近と下端部付近において素線を曲げることにより、コイルばねの両端部に、それぞれ下側のばね座と上側のばね座に接する突部を形成し、これら突部から素線の両端に至る部分をそれぞれネガティブピッチ(マイナスピッチ)の曲げ部としている。しかしネガティブピッチの曲げ部から素線の端末までの部分は、ばねとして機能することができない部分であるため、曲げ部を設けている分だけコイルばねの質量が大きくなる。
【0008】
特許文献3のコイルばねは、コイルばねの有効部のピッチ角を素線の1巻きごとに巻数位置に応じて変化させている。このコイルばねは、懸架機構に組付けた使用状態において横方向(コイルの径方向)に荷重を加えることにより、初期横力およびモーメントを生じさせている。そしてこの状態のもとでコイルばねの両端をそれぞれ上下のばね座に強固に保持し、その状態を維持してコイルばねを圧縮している。このためこのコイルばねは、懸架機構に組付ける際に横方向(コイルの径方向)に予荷重を与える必要があり、懸架機構に対するコイルばねの組付けが容易でない。しかもコイルばねの両端に、それぞればねとして機能しない座巻部が存在するため、これら座巻部の分だけコイルばねの質量が大きくなる。
【0009】
特許文献4のコイルばねは、座巻部に複数の突部を形成し、コイルばねに負荷される荷重に応じて、異なる突部に素線が接するようにしている。例えば荷重が大きくなるにつれて、素線の末端から遠い側の突部がばね座に接する。このため、コイルばねに負荷される荷重が変化すると、座巻部とばね座との接触位置が変化するため、反力線位置(荷重軸)も変化してしまう。
【0010】
特許文献5のコイルばねは、ストラットの中心軸に対してコイルばねを車両外側にオフセット配置している。このため、コイルばねを含む懸架機構を車体に配置するのに必要なスペースが大きくなってしまう。
【0011】
特許文献6のコイルばねは、コイルばねの上端と下端に、それぞれ、ばねとして機能しないネガティブピッチ(逆ピッチ)の座巻部を設けている。このためネガティブピッチの座巻部の分だけコイルばねの質量が大きくなる。
【0012】
またマクファーソンストラットタイプの懸架機構に限らず、他のタイプの懸架機構においても、車両によっては、コイルばねの反力線位置(荷重軸)をコイル中心軸に対して所望の方向に傾けることが望まれることもある。
【0013】
従って本発明の目的は、コイル中心軸に対して反力線位置を所望の方向に傾けることができ、かつ、軽量化が可能な懸架用コイルばねを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1つの実施形態は、螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置において1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有している。前記座巻部は、前記コイル中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、を有している。当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾く。
【0015】
この実施形態において、前記端末一点強当り部が前記コイル中心軸に対し車両内側に片寄った位置にて上側のばね座に接してもよい。ばね座等の保護のために、前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端(端末一点強当り部)から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するようなピッチ角を有していてもよい。また前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に耐摩耗部等の受け部を備えてもよい。さらに前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形するように構成されてもよい。
【0016】
他の実施形態では、素線の下端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対し車両外側に片寄った位置において1箇所で下側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、前記素線の上端側の部分には、車両内側に寄った位置において上側のばね座に接する座巻部を有し、前記下側のばね座が、前記端末一点強当り部が嵌合する凹部を有している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、懸架用コイルばねの反力線位置を懸架機構にとって望ましい方向に傾けることができる。例えばマクファーソンストラットタイプの懸架機構の場合に、コイルばねの反力線位置を荷重の入力作用線に沿うようにすることができ、ストラットに生じる横力や曲げモーメントを軽減させることができる。また、コイルばねの上端側と下端側の少なくとも一方(端末一点強当り部が設けられている方)には、ばねとして機能しない座巻部を無くすことができ、その分、軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る懸架機構の縦断面図。
【図2】図1に示された懸架機構のコイルばねの斜視図。
【図3】第2の実施形態に係るコイルばねの端末一点強当り部を示す側面図。
【図4】第3の実施形態に係るコイルばねの端末一点強当り部を示す側面図。
【図5】第4の実施形態に係るコイルばねの下端側の部分を示す側面図。
【図6】図5に示されたコイルばねが上下のばね座間で圧縮された状態を模式的に示す側面図。
【図7】第5の実施形態に係る懸架機構の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に第1の実施形態に係る懸架用コイルばねについて、図1と図2を参照して説明する。
図1は、車両用懸架機構の一例として、車体10(一部を示す)に設けられたマクファーソンストラットタイプの懸架機構11を示している。この懸架機構11は、コイルばね(圧縮コイルばね)12と、コイルばね12の上側に配置された上側のばね座13と、コイルばね12の下側に配置された下側のばね座14と、ストラットとして機能するショックアブソーバ15と、ショックアブソーバ15の上端を車体10に取付けるためのマウント部材16と、車軸側のナックル部材17が固定されるブラケット18等を備えている。ショックアブソーバ15はシリンダ15aとロッド15bとを含み、上下方向に延びる鉛直線Hに対しショックアブソーバ15の軸線X_(S)が角度θ1だけ傾いた姿勢で車体10に取付けられている。
【0020】
図1に示されるように、コイルばね12は、上側のばね座13と下側のばね座14との間に圧縮された状態(予荷重を与えた状態)で車体10に組付けられ、車体10の上方から負荷される圧縮の荷重を弾性的に支持するようになっている。このためコイルばね12とショックアブソーバ15とは、荷重の大きさに応じてフルバンプ(最大圧縮状態)とフルリバウンド(最大伸張状態)との間で伸縮する。
【0021】
懸架機構11の上方から負荷される荷重は、ナックル部材17を介して車輪(タイヤ)によって支持される。この荷重の入力作用線L1は、タイヤの接地点との関係でショックアブソーバ15の軸線X_(S)に対して車両外側Voutに角度θ2をなして傾いているため、ショックアブソーバ15に横力が生じることが知られている。この横力はショックアブソーバ15の摩擦を大きくする原因となるため、横力を小さくすることが望まれる。
【0022】
図2は、コイルばね12が上側のばね座13と下側のばね座14との間に配置された状態を模式的に示している。このコイルばね12は、上側のばね座13と下側のばね座14との間で圧縮されたアセンブリ状態で、車体10に取付けられている。コイル中心軸X1に沿う方向に圧縮の荷重Pが負荷されると、コイルばね12は自由長(荷重が負荷されていない状態での長さ)よりも長さが短くなる方向に撓む。
【0023】
コイルばね12の一例は、断面が円形のばね鋼製の素線(ワイヤ)30からなり、螺旋形に成形されている。コイルばね12の一例は円筒コイルばねであるが、車両の仕様に応じて、たる形コイルばね、鼓形コイルばね、テーパコイルばね、不等ピッチコイルばね、その他の形状のばねなど、種々の形態の圧縮コイルばねを採用することができる。素線30の外面全体に防錆のための塗膜が形成されている。
【0024】
コイルばね12は、素線30の上端側の部分12aと、素線30の下端側の部分12bとを有している。上端側の部分12aと下端側の部分12bとの間に、ピッチ角αで螺旋形に巻かれたコイル本体部12cが形成されている。ピッチ角αはコイル中心軸X1に沿う方向に変化していてもよいし、コイル中心軸X1に沿う方向に実質的にピッチ角αが一定でもよい。コイル中心軸X1はコイル本体部12cのほぼ中心を通っている。
【0025】
上端側の部分12aに、ポジティブピッチ(図2に示すようにプラスのピッチ角α1)の巻端部31が形成されている。この巻端部31の先端(上端)に、上側のばね座13に対し1箇所で接する端末一点強当り部35が形成されている。端末一点強当り部35は、コイル中心軸X1に対しコイル径方向、具体的には車両内側V_(in)に、距離Y1だけ片寄った位置において、上側のばね座13に接している。好ましくは上側のばね座13と端末一点強当り部35との接触部に、耐摩耗性の力伝達部37(図1に示す)が設けられているとよい。
【0026】
コイルばね12の下端側の部分12bに座巻部40が形成されている。座巻部40の巻数は例えば0.5巻程度であり、コイル中心軸X1に対し車両外側V_(out)に寄った位置において下側のばね座14に接している。さらに詳しくは、この座巻部40は、荷重Pの大きさにかわわらず常にばね座14に接する第1の部分40aと、荷重Pが小さいときにばね座14から離れ、荷重Pが大きくなるとばね座14に接する第2の部分40bとを有している。第1の部分40aは、ばねとして機能しない部分(非有効部)である。
【0027】
本実施形態のコイルばね12は、上側のばね座13に対し車両内側V_(in)に片寄った位置で接する端末一点強当り部35と、下側のばね座14に対し車両外側V_(out)に片寄った位置で接する座巻部40との間でコイルばね12が圧縮される。これにより、コイルばね12の反発荷重の中心線すなわち反力線位置FLPがコイル中心軸X1に対し、角度θ3(図2に示す)をなして入力作用線L1(図1に示す)に沿う方向に傾く。このように反力線位置FLPが入力作用線L1に沿う方向に傾くことにより、コイルばね12の上端に車両外側Voutに向かう分力が生じる。この分力はショックアブソーバ15に生じる曲げモーメントをキャンセルする上で有効となる。
【0028】
しかも本実施形態のコイルばね12は、素線30の上端側の部分12aが端末一点強当り部35を介して上側のばね座13に接するため、コイルばね12の上端側に座巻部(ばねとして機能しない部分)が不要となる。すなわち本実施形態のコイルばね12は、下側の座巻部40を除くコイルばね12のほぼ全長をばねの有効部として活用できるため、上端と下端にそれぞれ座巻部を有する従来のばねと比較して質量を軽減することができる。なお、圧縮の荷重Pが大きくなったときに、端末一点強当り部35からある程度の長さ分が密着してもよい。この場合も実質的に端末一点強当り部35に荷重が集中する。
【0029】
例えば、ばね座13等の保護のために、ポジティブピッチの巻端部31は、コイルばね12に圧縮の荷重が負荷された状態において素線30の先端(端末一点強当り部35)から0.4巻きまでの領域がばね座13に接するように、自由状態でのピッチ角が定められていてもよい。
【0030】
図3は、第2の実施形態に係るコイルばね12の一部を示している。コイルばね12の先端に形成された端末一点強当り部35に、力伝達部37の一例として保護チップ50が設けられている。保護チップ50の一例は、素線30よりも硬度が大きくかつ摩耗しにくい材料(例えば超硬合金や高速度鋼、チタン合金等)からなる耐摩耗チップであり、素線30の先端に取付けられている。なお、保護チップ50の材料にウレタン等のエラストマや、ゴム、高分子材料(樹脂)が使用されてもよい。
【0031】
保護チップ50が接するばね座13の表面に、耐摩耗部等の受け部51が形成されている。受け部51に黒鉛等の固体潤滑剤が含まれていてもよい。それ以外の構成と作用は第1の実施形態(図1と図2)のコイルばね12と共通であるため、第1の実施形態と共通の部分に共通の符号を付して説明を省略する。
【0032】
図4は、第3の実施形態に係るコイルばね12の一部を示している。コイルばね12の先端に形成された端末一点強当り部35に保護チップ50が設けられている。また保護チップ50が接するばね座13の表面に、耐摩耗部等の受け部51が設けられている。この受け部51に、保護チップ50の球面部が回動可能に嵌合する凹部52が形成されていてもよい。それ以外の構成と作用は第2の実施形態のコイルばね12と共通であるため、第2の実施形態と共通の部分に共通の符号を付して説明を省略する。
【0033】
図5は、第4の実施形態に係るコイルばね12の一部を示す側面図である。図6は、図5に示されたコイルばね12が上下のばね座13,14間で圧縮された状態を模式的に示す側面図である。コイルばね12の上端に設けられた端末一点強当り部35部は、コイル中心軸X1に対し車両内側V_(in)に片寄った位置において、上側のばね座13に1箇所で接している。
【0034】
図5に示されるように、コイルばね12の下端側に形成された座巻部55は、荷重が負荷されていない自由状態において、コイル中心軸X1と直角な線分L2に対してマイナスの角度(-α)をなすネガティブピッチとなっている。この座巻部55は、図6に示されるように、プラスの傾斜角βをなす下側のばね座14の支持面14aによって、コイル中心軸X1に対し車両外側V_(out)に寄った位置において支持されている。荷重Pによってコイルばね12が上下のばね座13,14間で圧縮されると、座巻部55は支持面14aの傾斜角βに応じて、見掛け上、ポジティブピッチに弾性変形する。このようなコイルばね12によっても、反力線位置(荷重軸)FLPを入力作用線に沿う方向に傾けることができる。
【0035】
図7は、第5の実施形態に係る懸架機構11´を示している。コイルばね12の下端側の巻端部60の先端に、端末一点強当り部35´が形成されている。この端末一点強当り部35´は、コイル中心軸に対して車両外側V_(out)に寄った位置において、下側のばね座14に接している。コイルばね12の上端側に形成された座巻部61は、コイル中心軸に対し車両内側V_(in)に寄った位置において上側のばね座13に接している。この実施形態のように、下側の巻端部60の先端が車両外側を向く場合に、巻端部60の先端に端末一点強当り部35´を形成することにより、反力線位置(荷重軸)を所望の方向に傾けることができる。
【0036】
ばね座14等の保護のために、ポジティブピッチの巻端部60は、コイルばね12に圧縮の荷重が負荷された状態において素線30の下端の端末一点強当り部35´から0.4巻きまでの領域がばね座14に接するように、自由状態でのピッチ角が定められていてもよい。また端末一点強当り部35´に、図3または図4に示された保護チップ50と受け部51が設けられてもよい。
【0037】
図7に示された懸架機構11´によれば、コイルばね12の下端側が端末一点強当り部35´を介して下側のばね座14に支持されるため、コイルばね12の下端側に座巻部を設ける必要がない。このため下側のばね座と座巻部との間に砂等の硬い異物が入り込んでコイルばねが損傷するといった可能性を回避することができる。それ以外の構成と作用は第1の実施形態(図1と図2)の懸架機構11と共通であるため、第1の実施形態と共通の部分に共通の符号を付して説明を省略する。
【0038】
懸架装置の仕様によっては、車両の前後方向にコイルばねの反力線位置(荷重軸)が傾いていることにより横力が生じることがある。この横力が車両性能に影響がある場合、反力線位置が前後方向に中立となるような位置に端末一点強当り部を配置することにより、横力をキャンセルするとよい。
【0039】
なお本発明を実施するに当たって、コイルばねの具体的な形状や配置をはじめとして、端末一点強当り部の位置や形状、懸架装置を構成する上側のばね座や下側のばね座の形状、配置等を種々に変更して実施できることは言うまでもない。本発明は自動車以外の車両の懸架機構に適用することもできる。またマクファーソンストラットタイプ以外の懸架装置のコイルばねに適用することもできる。
【符号の説明】
【0040】
10…車体、11,11´…懸架機構、12…コイルばね(懸架用コイルばね)、12a…上端側の部分、12b…下端側の部分、12c…コイル本体部、13…上側のばね座、14…下側のばね座、15…ショックアブソーバ(ストラット)、30…素線、31…ポジティブピッチの巻端部(上端側)、35,35´…端末一点強当り部、40…下側の座巻部、50…保護チップ、51…受け部、55…ネガティブピッチの座巻部、60…ポジティブピッチの巻端部(下端側)、61…上側の座巻部、V_(in)…車両内側、V_(out)…車両外側、X1…コイル中心軸、P…圧縮の荷重、L1…入力作用線、FLP…反力線位置(荷重軸)。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、
前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、
前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有し、
前記座巻部は、
前記コイル中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、
前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、
を有し、
当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾くことを特徴とする懸架用コイルばね。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するピッチ角を有したことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。
【請求項4】
前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に受け部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。
【請求項5】
前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形することを特徴とする請求項3または4に記載の懸架用コイルばね。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-29 
出願番号 特願2015-196036(P2015-196036)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (F16F)
P 1 651・ 121- YAA (F16F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鵜飼 博人  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
杉山 健一
登録日 2019-11-08 
登録番号 特許第6613095号(P6613095)
権利者 日本発條株式会社
発明の名称 懸架用コイルばね  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  
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