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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B43K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B43K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B43K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B43K
管理番号 1372715
異議申立番号 異議2020-700415  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-17 
確定日 2021-03-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6621172号発明「出没式筆記具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6621172号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり〔1-3、5-10〕について訂正することを認める。 特許第6621172号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6621172号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成27年9月8日(優先権主張平成26年12月22日、日本国)に出願され、令和1年11月29日に特許権の設定登録がされ、同年12月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年6月17日に特許異議申立人村山玉恵(以下「申立人」という。)により請求項1ないし10に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、当審は、同年9月1日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年10月28日付けで意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年12月23日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3、5ないし10について訂正することを求める、というものであり、本件訂正による訂正事項は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(訂正事項)
特許請求の範囲の請求項1に「前記連結用規制部は、収納状態において、連結部の後方側への移動を規制する」と記載されているのを、「前記連結用規制部は、収納状態において、連結部の後方側への移動を規制するものであり、前記回転部は、前記回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3、5ないし10も同様に訂正する)。

なお、本件訂正請求における1ないし3、5ないし10に係る訂正は、一群の請求項〔1-3、5-10〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)上記訂正事項は、請求項1ないし3、5ないし10に係る発明について、本件訂正前の発明特定事項である「回転部」について、「前記回転部は、前記回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であ」ることを特定して限定するとともに、本件訂正前の発明特定事項である「連結部」について、「前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」ことを特定して限定するものであるから、上記訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)上記(1)で記載したとおり、上記訂正事項は、本件訂正前の発明特定事項を限定するものであり、請求項1ないし3、5ないし10のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)上記訂正事項のうち
ア 「前記回転部は、前記回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であ」ることは、願書に添付した明細書の段落【0016】の「好ましい様相は、前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、前記回転部は、回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、回転部の内周面に前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えていることである。」(下線は当審で付した。以下同様。)、及び同明細書の段落【0071】の「連結部7の前端部側は、図12に示されるように、回転子8の回転用ガイド片83,83,83の内側に挿入されている。すなわち、連結部7の一部は、回転子8の回転用ガイド片83,83,83によって周方向に囲繞された空間内に配されており、連結側係合部71は軸筒2の軸筒側係合部31の第3係合部42よりも前方側に配されている。つまり、連結部7の前端部側は、回転子8の回転用ガイド片83によって覆われている。」なる記載に基づいて導き出せ、
イ 「前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」ことは、同明細書の段落【0039】の「軸筒側係合部31は、図6(b)に示されるように、断面視したときに、階段状となっており、第1係合部40(操作用規制部)と、第2係合部41(回転用規制部)と、第3係合部42(連結用規制部)から構成されている。」なる記載、段落【0058】の「連結部7は、図2に示されるように、本体部70と、連結側係合部71と、固定用係合部72を備えている。」なる記載、及び段落【0059】の「連結側係合部71は、図4に示されるように、出没式筆記具1を組み立てて収納状態にしたときに、回転子8の内部で軸筒2の第3係合部42と係合可能となっている。」なる記載に基づいて導き出せるものである。
したがって、上記訂正事項は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(4)本件においては、訂正前の請求項1ないし10について特許異議申立てがなされているので、訂正前の請求項1ないし3、5ないし10に係る訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし3、5ないし10について訂正することを認める。

第3 訂正後の請求項1ないし10に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし10に係る発明(以下「本件発明1ないし10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
軸筒の内部に、回転部と、操作部の一部と、前記操作部と前記回転部を連結する連結部を備え、前記操作部の他の一部が前記軸筒から露出し、当該露出部分に押圧部を有する出没式筆記具であって、
前記操作部の押圧部を押圧することで前記回転部が回転し、筆記部が前記軸筒の先端から外部に出没可能な出没式筆記具において、
前記軸筒は、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分全体を後端部側から挿入可能であり、
前記軸筒は、その内周面に前記連結部及び/又は前記回転部と係合可能な軸筒側係合部を有し、
前記軸筒側係合部は、前記連結部及び/又は前記回転部と係合することによって、前記操作部の軸筒からの脱離を係止可能であり、
筆記部を先端に備えた芯部材を有し、
前記操作部を押圧操作することで、前記回転部が前方側に移動して芯部材を押圧して筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となるものであり、
前記軸筒側係合部は、連結用規制部を有し、
筆記可能状態の操作部を押圧操作することで、前記回転部が後方側に移動して筆記部の全体が前記軸筒の内部に収納された収納状態となるものであり、
前記連結用規制部は、収納状態において、連結部の後方側への移動を規制するものであり、
前記回転部は、前記回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、
前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有することを特徴とする出没式筆記具。
【請求項2】
前記軸筒側係合部は、操作用規制部と、回転用規制部を有し、
前記操作用規制部は、前記操作部の周方向の移動を規制するものであり、
前記回転用規制部は、筆記可能状態において、前記回転部の後方側への移動を規制するものであることを特徴とする請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記軸筒側係合部は、前記軸筒の後端部から軸筒の全長の1/4の範囲に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
軸筒の内部に、回転部と、操作部の一部と、前記操作部と前記回転部を連結する連結部を備え、前記操作部の他の一部が前記軸筒から露出し、当該露出部分に押圧部を有する出没式筆記具であって、
前記操作部の押圧部を押圧することで前記回転部が回転し、筆記部が前記軸筒の先端から外部に出没可能な出没式筆記具において、
前記軸筒は、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分全体を後端部側から挿入可能であり、
前記軸筒は、その内周面に前記連結部及び/又は前記回転部と係合可能な軸筒側係合部を有し、
前記軸筒側係合部は、前記連結部及び/又は前記回転部と係合することによって、前記操作部の軸筒からの脱離を係止可能であり、
前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、
前記回転部は、回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、回転部の内周面に前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えていることを特徴とする出没式筆記具。
【請求項5】
前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分は、筒状であって、その内側に前記連結部の一部が挿入されており、
さらに、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分は、その内周面に前記連結部の外周面と係合可能な操作側係合部を備えていることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項6】
前記操作側係合部は、複数の突起部から構成されており、
前記複数の突起部は、周方向に連続的又は間欠的に並んでいることを特徴とする請求項5に記載の出没式筆記具。
【請求項7】
前記操作側係合部は、第1突起部と、第2突起部を有し、
前記第1突起部と第2突起部は、周方向に交互に並んでおり、
前記第1突起部は、第2突起部よりも突出高さが高いことを特徴とする請求項6に記載の出没式筆記具。
【請求項8】
前記第1突起部は、隣接する第2突起部と連なって周方向に延びた突条を形成しており、
前記突条は、無端状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の出没式筆記具。
【請求項9】
前記連結部と操作部は、固着されていることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項10】
前記操作部の軸筒からの露出部分に、軸筒内部の部位の外径よりも大きな外径を備えた部位を有することを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の出没式筆記具。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3、5ないし10に係る特許に関して、令和2年9月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(新規性)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)理由2(進歩性)請求項1ないし3、5及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、請求項6ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、請求項10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3、5ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・甲第1号証:特開2011-42035号公報
・甲第4号証:特開2002-347390号公報(周知技術を示す文献)
・甲第5号証:実願平2-46136号(実開平4-5992号)のマイクロフィルム

2 甲各号証の記載
(1)甲第1号証(特開2011-42035号公報)の記載
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
この発明は、ノック棒のノック操作により筆記先端を軸筒の先端開口より出没可能にするノック式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のノック式筆記具、例えばノック式ボールペンにおいては、ノック棒のノック操作により軸筒内に配置された回転繰出機構によりリフィール先端のボールペンチップ部が軸筒の先端開口より繰り出され、再度のノック操作により前記ボールペンチップ部が後退して軸筒内に収容されるように構成されている。
【0003】
この種のノック式ボールペンにおいては、軸筒の後端部に突出するようにノック棒が配置されており、その組み立てにあたっては、ペン先側の比較的内径の大きな軸筒の開口より前記ノック棒を挿入し、軸筒後端部の比較的内径の小さな開口からノック棒の先端部が突出するようにセットされる。
【0004】
すなわち前記ノック棒は、その基端部が軸筒後端部の比較的内径が小さな前記開口周囲の段部に引っ掛かるような寸法関係になされ、これにより前記ノック棒が軸筒の後端部から抜け落ちないように構成されている。
【0005】
前記した構成のノック式ボールペンにおいては、軸筒の後端部付近にカーンノック機構と称呼されている回転繰出機構を配置するために、軸筒もしくは軸筒内に挿入された内筒部材内に沿って、鋸歯状に形成された回転子駆動機構(カム部材とも言う。)を施す必要がある。このために前記ノック棒の先端部外径は、前記カム部材の内径よりもさらに小径にしなければならない。
【0006】
したがって、軸筒が細いスリムなデザインになされた筆記具製品に、前記回転繰出機構を搭載する場合には、なおさらノック棒の先端部外径を細径にする必要がある。しかしながら、ノック棒の先端部外径が極端に細径になされた場合には、軸筒の外径とノック棒の外径にアンバランスな感覚が生じてテザイン上において好ましくはない。
【0007】
このような問題を回避するために、ノック棒の先端部に別部品により構成した大径のノックカバーをあと付けしたノック式ボールペンが、次に示す特許文献1に開示されている。また同様にノック部を太く見せかけるために、ノック棒に別部品を嵌合させたノック式ボールペンが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-998号公報
【特許文献2】特開平10-119481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した先行技術文献に開示のノック式ボールペンを含む従来のノック式筆記具は、いずれにおいてもノック棒を軸筒のペン先側から挿入して組み立てるために、あと付けとして前記した特許文献1および2に示すような別部品を用意して、ノック棒の先端部にこれを嵌合させるなどの組み立て工程が必要であった。
【0010】
これによると、部品点数の増加により組立手順の増加、樹脂部品の製造に要する金型投資等によるコスト増が問題となる。
【0011】
この発明は、前記した従来のノック式筆記具の問題点を解消するためになされたものであり、前記ノック棒を軸筒の後端部側から挿入して組み立てることを可能にすると共に、前記ノック棒等が軸筒から脱落するのを防止することができる取り付け機構を提案するものであり、さらにノック棒を軸筒の後端部側に挿入して組み立てる場合の組み立て作業を簡素化させることができるノック式筆記具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかるノック式筆記具は、軸筒の後端部に配置されたノック棒をノック操作することで、筆記体を前方に繰り出すことができるように回転繰出機構が備えられたノック式筆記具であって、前記ノック棒のノック操作により前記軸筒内を摺動すると共に、その外周面に少なくとも1つの凸状部材が突出形成されてなるノック棒と、前記ノック棒が摺動する軸筒の内周面において、もしくは前記軸筒内に配置された内筒部材の内周面において、軸方向に沿って平行状態に突出形成され、その前端部に鋸歯状の傾斜面をそれぞれ形成した第1と第2のカム部材、および前記一対のカム部材の後端側において両者を連結するようにして突出形成された連結部材とによりU字状に形成された係止カムが具備され、前記ノック棒を後方に押し出す戻しバネの作用により、前記ノック棒における凸状部材が、前記係止カムのU字状空間内を往復移動すると共に、前記ノック棒が前記軸筒内に保持されている点に特徴を有する。
【0013】
この場合、前記第1と第2のカム部材の前後方向の長さが同一に形成されていることが望ましい。加えて、前記ノック棒には、前端部側の外周面に前記凸状部材が形成されると共に、後端部側の外周面に凸状のリブ部材が形成され、前端部側の凸状部材と後端部側のリブ部材との間の距離をaとし、前記第1と第2のカム部材の長さ方向の寸法をbとした場合、a>bの関係に設定されていることが望ましい。
【0014】
そして、好ましい形態においては、前記ノック棒の前端部側の外周面には複数の前記凸状部材が周方向に沿って等間隔をもって形成されると共に、前記軸筒の内周面もしくは前記軸筒内に配置された内筒部材の内周面には、前記凸状部材と同数のU字状に形成された係止カムが内周方向に沿って等間隔をもって形成され、前記ノック筒に形成された凸状部材の幅をeとし、U字状に形成された係止カムの間に形成された縦溝の幅をdとした場合、d>eの関係に設定される。
【0015】
加えて、前記ノック棒には、前端部側の外周面に複数の前記凸状部材が周方向に沿って等間隔をもって形成されると共に、後端部側の外周面に前記凸状部材と同数の凸状のリブ部材が周方向に沿って等間隔をもって形成され、前記ノック棒に形成された凸状部材とリブ部材とは、ノック棒の軸方向で視た場合、等間隔をもって交互に配置されていることが望ましい。
【0016】
また、前記軸筒内に前記内筒部材を配置した構成を採用した場合においては、前記内筒部材の外周面の一部に係止部が突出形成され、前記軸筒の側壁に形成された窓孔内に、前記係止部が係止されることで、前記内筒部材が前記軸筒内に固定された構成を好適に採用することができる。
【0017】
この場合、前記内筒部材には、前記ノック棒を軸筒の後端部側から挿入したときに、前記ノック棒の側面に接して、前記ノック棒の脱落を阻止する接触部材が形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
前記した構成のノック式筆記具によると、軸筒の内周面において、もしくは前記軸筒内に配置された内筒部材の内周面において、第1と第2のカム部材および連結部材とによりU字状に突出形成した係止カムが備えられ、ノック棒の外周面に形成された凸状部材が前記係止カムのU字状空間内に収容されるように構成されているので、これにより前記ノック棒を軸筒の後端部に確実に装着させることができる。
【0019】
加えて、前記ノック棒における前端部側の外周面に形成された複数の凸状部材と、後端部側の外周面に形成された複数のリブ部材とを、ノック棒の軸方向で視た場合、等間隔をもって交互に配置した構成にされているので、前記リブ部材をU字状に突出形成された各係止カムの間の縦溝部に挿入し、そのままノック棒を引き出す操作を実行することで、ノック棒に形成された前記凸状部材を前記係止カムのU字状空間内に容易に収容させることができる。
【0020】
前記した構成によると、ノック式筆記具における特にノック棒部分の組み立て作業を容易にかつ簡素化させることができると共に、前記したノック棒が軸筒から抜け落ちるのを防止する機構を軸筒内に形成することができる。よって、前記した先行技術文献に開示されているようにノック棒の先端部に他部品を装着させてデザイン上のバランスを図る必要性を排除することができ、ノック棒を軸筒の後端部側から容易に装着させることが可能となる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明にかかるノック式筆記具について、ノック式ボールペンを対象にした実施の形態に基づいて説明する。図1(A)はボールペンの全体を示した外観図であり、(B)は(A)に示す中央の軸芯より矢印方向に視た状態の断面図で示している。」

ウ 「【0024】
そして軸筒1の前端部には、内周にねじ山が敷設された螺合部材2が嵌め込まれ、この螺合部材2に対して口先部3がねじ込まれて着脱可能に取り付けられている。」

エ 「【0028】
図1に戻り、前記軸筒1の後端部には、合成樹脂製の中筒部材4が嵌合されて取り付けられており、この中筒部材4の端部側面に形成された取付部4aに金属製のクリップ5の基端部が挿入されて取り付けられている。また、前記中筒部材4内にノック棒6が軸方向に摺動可能に取り付けられており、この実施の形態においては、前記ノック棒6には、金属製の飾りカバー7が装着されている。
【0029】
前記軸筒1内には、筆記体としてのボールペンリフィール8が収容されており、このリフィール8は、当該リフィールの一部に形成された径の異なる段部と前記口先部3との間に配置された戻しバネ9により、後方に付勢力を受けている。そして、リフィール8の後端部は、前記中筒部材4内に収容された回転子11に当接されている。
【0030】
前記回転子11は、前記ノック棒6のノック操作を受けてリフィール8と共に前進し、ノック棒6の再度のノック操作を受けて、前記戻しバネ9の作用により図1に示す後退位置に移動するように構成されている。すなわち、前記中筒部材4内には、後述するようにカム部材が形成され、このカム部材に当接する前記回転子11と共に、カーンノック機構と称される回転繰出機構が構成されている。」

オ 「【0035】
図5(C)に示すように、前記中筒部材4の内周面には、その前端部に鋸歯状の傾斜面Aをそれぞれ形成した第1カム部材13aと第2のカム部材13bが互いに平行状態に突出形成されており、前記一対のカム部材の後端側において両者を連結するようにして突出形成された連結部材13cとによりU字状に形成されて係止カム13を構成している。
【0036】
この実施の形態においては、前記第1カム部材13aと第2のカム部材13bの軸方向の長さは、互いに同一となるように成形されている。そして、それぞれがU字状に形成された3つの前記係止カム13が、中筒部材4内の周方向に等間隔に配置されており、各係止カム13の間は、内周面に突出形成された各係止カム13に対して相対的に凹んだ縦溝部14になされている。
【0037】
この縦溝部14による隙間は、前記ノック棒6を軸筒1の後端部側から挿入して装着する際に、ノック棒6の先端部に形成された後述する凸状部材が通過して、前記係止カム13のU字状空間内に入り込むことができるように機能する。」

カ 「【0040】
図7(A),(B)は前記したノック棒6の構成を示したものであり、このノック棒6は合成樹脂により円筒状に構成されおり、その先端部周面には前記した凸状部材16が軸方向に沿って形成されている。この凸状部材16は、周方向に等間隔をもって3つ形成されており、これが後で説明するとおり前記係止カム13のU字状空間内に入り込んだ状態で軸方向に摺動可能に装着され、これによりノック棒6は軸筒1の後端部から脱落するのが防止できるように作用する。
【0041】
また、前記ノック棒6の前端部の端面には、円環状に山谷が連続する山谷部17が形成されており、これは図4に示すように回転子11の端面に形成された同様の山谷部11aに当接して、回転子11を若干一方向に回動させるように作用する。一方、回転子11の周側面には、前記したカム部材13aと同様に、鋸歯状の傾斜面を備えた3つのカム部材11bが周方向に等間隔に形成されている。
【0042】
前記した回転子11は、前記カム部材に具備された鋸歯状の傾斜面が、前記第1と第2のカム部材13a,13bにおける傾斜面S(当審注:「S」は「A」の誤記と認められる。同様に図8(A)の「S」は「A」の誤記と認められる。)に当接して、前記ノック棒6のノック操作ごとに回転子11に回転運動を与える。これにより、前記回転子11側の前記カム面(当審注:「カム面」は「カム部材11b」の誤記と認められる。)は、前記カム部材13a,13bの間に当接して軸方向の前方位置に設定される状態と、前記した縦溝部14内に落ち込んで軸方向の後方位置に移動する状態とが繰り返される。
【0043】
これに伴い、前記したバネ部材9により後方に付勢されている前記リフィール8のボールペンチップ部は、口先部3の先端開口より繰り出される筆記可能な状態と、ボールペンチップ部が後退して軸筒内に収容される状態とが交互に選択される。なお前記した構成は従来からカーンノック機構と呼ばれている。」

キ 「【0051】
この状態で、図9(D)に示すようにノック棒6を後方に引き戻すことで、各凸状部材16は、第1と第2のカム部材13a,13bの間におけるU字状の空間部に入り込む。これにより、各凸状部材16が、第1と第2のカム部材を連結する連結部材13cに当接するので、連結部材13cがストッパーとなって、ノック棒6が抜け落ちるのが阻止される。
【0052】
この状態で、ノック棒6をノック操作することで、図9(E)に示すように各凸状部材16が第1と第2のカム部材13a,13bの間におけるU字状の空間部内を移動することになる。すなわち、ノック棒6に形成された凸状部材16は、前記U字状の空間内を移動してノック棒6をガイドし、ノック棒6は前後方向にノック操作がなされるように機能する。
【0053】
そして、ノック棒6の先端側に位置する前記した回転子11と、中筒部材4に形成された前記係止カム13等を含む回転繰出機構(カーンノック機構)により、軸筒1内に収容されたリフィール8を前後動させることができ、前記ノック棒6のノック操作のたびにボールペンチップ部を口先部の先端開口より出没させることができる。
【0054】
なお、前記した実施の形態によると、中筒部材4とノック棒6との間に、図4に示すように中空部gを形成することができる。したがって、この中空部gにコイルバネを収容することで、前記ボールペンチップ部の出没状態に関係なく、ノック棒6を常に後方位置に突出させた姿勢を保持させることができる。
【0055】
以上説明した実施の形態においては、軸筒1の後端部に係止カム13等を形成した中筒部材4を嵌め込んだ構成にされているが、これは中筒部材4を用いずに、軸筒1の内周面に前記係止カム13等を形成させることで、同様の構成の筆記具を実現させることができる。」

【図1】


【図4】



(認定事項1)
図1(A)(B)から、一部が軸筒1内に備えられ、他の一部が軸筒1から露出する飾りカバー7が看取できる。

(認定事項2)
図1(B)及び図4(A)(B)から、回転子11が、ノック棒6の内部に回転子11の後端側(ノック棒6側)の一部を挿入可能であることが看取できる。

以上の記載事項及び認定事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「軸筒1の後端部内に、回転子11と、金属製の飾りカバー7の一部と、前記飾りカバー7が装着されたノック棒6を備え、前記飾りカバー7の他の一部が前記軸筒1から露出するノック式ボールペンであって、
前記軸筒1内には、筆記体としてのボールペンリフィール8が収容されており、該ボールペンリフィール8は、戻しバネ9により、後方に付勢力を受けており、該ボールペンリフィール8の後端部は、前記回転子11に当接されており、
前記軸筒1の後端部の内周面には、前端部に鋸歯状の傾斜面Aをそれぞれ形成した第1カム部材13aと第2のカム部材13bが互いに平行状態に突出形成され、前記一対のカム部材の後端側において両者を連結するようにして突出形成された連結部材13cとによりU字状に形成されて係止カム13を構成し、
それぞれがU字状に形成された3つの前記係止カム13は、前記軸筒1内の周方向に等間隔に配置され、前記各係止カム13の間は、前記内周面に突出形成された前記各係止カム13に対して相対的に凹んだ縦溝部14になされ、
前記縦溝部14による隙間は、前記ノック棒6を前記軸筒1の後端部側から挿入して装着する際に、前記ノック棒6の先端部に形成された凸状部材16が通過して、前記係止カム13のU字状空間内に入り込むことができるように機能し、
前記ノック棒6は合成樹脂により円筒状に構成され、その先端部周面には前記凸状部材16が軸方向に沿って形成され、前記凸状部材16は、周方向に等間隔をもって3つ形成されており、
前記ノック棒6の前端部の端面には、円環状に山谷が連続する山谷部17が形成されており、これは前記回転子11の端面に形成された同様の山谷部11aに当接して、前記回転子11を若干一方向に回動させるように作用し、
前記回転子11の周側面には、前記カム部材13aと同様に、鋸歯状の傾斜面を備えた3つのカム部材11bが周方向に等間隔に形成され、
前記回転子11は、前記カム部材11bに具備された前記鋸歯状の傾斜面が、前記第1と第2のカム部材13a,13bにおける前記傾斜面Aに当接して、前記ノック棒6のノック操作ごとに前記回転子11に回転運動を与え、これにより、前記回転子11側の前記カム部材11bが、前記カム部材13a,13bの間に当接して軸方向の前方位置に設定される状態と、前記縦溝部14内に落ち込んで軸方向の後方位置に移動する状態とが繰り返され、これに伴い、前記ボールペンリフィール8のボールペンチップ部が、前記軸筒1の前端部に取り付けられた口先部3の先端開口より繰り出される筆記可能な状態と、ボールペンチップ部が後退して前記軸筒1内に収容される状態とが交互に選択され、
前記ノック棒6をノック操作することで、前記凸状部材16が前記第1と第2のカム部材13a,13bの間におけるU字状の空間部内を移動して前記ノック棒6をガイドし、前記ノック棒6は前後方向にノック操作がなされるように機能して、前記ノック棒6の先端側に位置する前記回転子11と、前記係止カム13等を含む回転繰出機構により、前記軸筒1内に収容された前記ボールペンリフィール8を前後動させることができ、前記ノック棒6のノック操作のたびに前記ボールペンチップ部を口先部の先端開口より出没させることができ、
前記凸状部材16が、前記連結部材13cに当接するので、前記連結部材13cがストッパーとなって、前記ノック棒6が抜け落ちるのが阻止され、
前記回転子11は、前記ノック棒6の内部に前記回転子11の後端側の一部を挿入可能であるノック式ボールペン。」

(2)甲第4号証(特開2002-347390号公報)の記載
甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「【0008】
【発明の実施の形態】図1は、回転カム機構を用いたノック式筆記具の一部を示し、軸筒(1)内にはボ-ルペンリフィ-ル等のリフィ-ル(2)が収納され、図示を省略したばねにより後退位置に向けて付勢されている。図1は、公知の回転カム機構の一例を示し、上記軸筒(1)内には、上記リフィ-ル(2)の後端に当接する回転可能な回転カム(3)と、該回転カム(3)のカム面(4)に係合して該回転カムを回転させる先端カム面(5)と外方に突出する摺動突起(6)を有し軸方向に移動可能なノックカム(7)と、該回転カム(3)の上記カム面(4)を有する作用突起(8)に係合して該回転カム(3)を回転させると共に前進位置に保持するカム面と上記作用突起(8)を受け入れて後退位置に保持する溝部を交互に有するカム溝(9)…を具備し、上記ノックカム(7)の摺動突起(6)が該カム溝(9)の溝部に摺動可能に係合し、よく知られているように、上記ノックカム(7)をノックすることにより、上記リフィ-ル(2)は上記回転カム(3)等を介して前進位置と後退位置に交互に移動する。
【0009】上記ノックカム(7)の軸部(10)は、軸筒(1)に形成した段部(11)を通って後方に延び、後方に傾斜する案内面(12)を有し、前端に軸径方向に延びる起立面(13)を有する突縁(14)が外周の全周に形成されており(図2(B))、該軸部には図示するようにノックボタン(15)が連結されている。なお、該突縁の形状は、後記する係止孔に確実に係合する構造であれば、図示以外の適宜の形状に構成してもよい。
【0010】該ノックボタン(15)は、挿入孔(16)を有し、内面に軸方向に延びる複数本のリブ(17)…を有する。該リブ(17)は前端に傾斜面(18)を有し、後端に段部(19)を有する。該リブ(17)の一部には、内面から外面に貫通する係止孔(20)を形成してある(図2(A))。該係止孔(20)は、成形の際、該係止孔に対応する形状の型を金型のキャビティ内に設けることにより形成されるから、該型を抜き取った後の該係止孔(20)の孔縁(21)は、明確な角部に形成することができる。したがって、図2(C)に示すように、ノックボタン(15)の挿入孔(16)の前端をノックカム(7)の軸部(10)に挿入すると、上記案内面(12)、傾斜面(18)に案内されて上記ノックカム(7)の突縁(14)はリブの表面を滑って上記係止孔(20)内に入り込み、孔縁(21)に確実に係合する。なお、上記各部材は、合成樹脂材料で形成されているので、挿入時に弾性変形して突縁を係止孔部分まで通過させることができるが、ノックカムの軸部にスリット(図示略)を設けて縮径可能に形成すれば、大きな突縁でも容易に係合させることができる。」

【図1】


(認定事項1)
図1から、軸筒1内に、ノックボタン15の一部が存し、ノックボタンの他の一部が軸筒1から露出していることが看取できる。また、この露出部分の端部が押圧部となることは明らかである。

(認定事項2)
図1には、ノックカム7の摺動突起6が軸筒1の段部11に当接していてノックカム7の後方への移動が段部11によって規制されている状態が示されており、この状態において回転カム3の作用突起8のカム面4はノックカム7の先端カム面5に当接しているため、回転カム3及び回転カム3に当接するリフィール2は、図1に示す位置よりも後方へ移動することはできない。したがって、図1に示す状態は、リフィール2の先端側の筆記部の全体が軸筒1の内部に収納された収納状態であることが理解できる。よって、図1から、筆記部の全体が軸筒1の内部に収納された収納状態において、軸筒1の内周面に設けられた段部11がノックカム7の後方側への移動を規制しているものと認められる。

以上の記載事項及び認定事項から、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「軸筒1内に、
軸筒1内に収納され、ばねにより後端位置に向けて付勢されているリフィール2の後端に当接する回転可能な回転カム3と、
前記回転カム3のカム面4に係合して前記回転カムを回転させる先端カム面5と外方に突出する摺動突起6を有し軸方向に移動可能なノックカム7と、
前記ノックカム7の軸部10に連結されるノックボタン15の一部と、
前記回転カム3の前記カム面4を有する作用突起8に係合して前記回転カム3を回転させると共に前進位置に保持するカム面と前記作用突起8を受け入れて後退位置に保持する溝部を交互に有するカム溝9を具備し、前記ノックボタン15の他の一部が前記軸筒1から露出し、露出部分に押圧部を有するノック式筆記具であって、
前記ノックカム7の前記摺動突起6が前記カム溝9の溝部に摺動可能に係合し、前記ノックカム7をノックすることにより、軸筒1内に収納されたリフィ-ル2が前記回転カム3等を介して前進位置と後退位置に交互に移動するものであって、
前記リフィール2の先端側の筆記部の全体が前記軸筒1の内部に収納された収納状態において、前記軸筒1の内周面に設けられた段部11が前記摺動突起6と当接して前記ノックカム7の後方側への移動を規制するノック式筆記具。」

(3)甲第5号証(実願平2-46136号(実開平4-5992号)のマイクロフィルム)の記載
甲第5号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「従ってカムバー4は外筒1の後端側より挿入して組み付けることになるので、カムバー4の頭部に一体にクリップ21(第1図参照)や外筒1の外径より大きい意匠部材22あるいはノックキャップを形成することができる。」(明細書第8頁下から3行ないし第9頁第2行)

【第1図】


【第7図】


3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 理由1(新規性)について
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(a)甲1発明の「ノック式ボールペン」は、「前記ノック棒6のノック操作のたびに前記ボールペンチップ部を口先部の先端開口より出没させることができ」るから、本件発明1の「出没式筆記具」に相当する。
また、甲1発明の「軸筒1」及び「回転子11」は、それぞれ、本件発明1の「軸筒」及び「回転部」に相当する。
そして、甲1発明において、「ノック棒6のノック操作」の際に、「ノック棒6」に「装着された」「飾りカバー7」が操作部となり、その「軸筒1から露出する」「他の一部」の端部が押圧部となることは明らかであるから、甲1発明の「飾りカバー7」及び「その『軸筒1から露出する』『他の一部』の端部」は、本件発明1の「操作部」及び「押圧部」に相当する。
さらに、甲1発明において、「飾りカバー7が装着された」「ノック棒6の前端部の端面には、円環状に山谷が連続する山谷部17が形成されており、これは前記回転子11の端面に形成された同様の山谷部11aに当接して、前記回転子11を若干一方向に回動させるように作用」することから、「ノック棒6」は、飾りカバー7と回転子11を連結するものといえ、本件発明1の「前記操作部と前記回転部を連結する連結部」に相当する。
したがって、甲1発明の「軸筒1の後端部内に、回転子11と、金属製の飾りカバー7の一部と、前記飾りカバー7が装着されたノック棒6を備え、前記飾りカバー7の他の一部が前記軸筒1から露出するノック式ボールペン」は、本件発明1の「軸筒の内部に、回転部と、操作部の一部と、前記操作部と前記回転部を連結する連結部を備え、前記操作部の他の一部が前記軸筒から露出し、当該露出部分に押圧部を有する出没式筆記具」に相当する。

(b)甲1発明の「飾りカバー7が装着された」「ノック棒6のノック操作ごとに前記回転子11に回転運動を与え、」「前記リフィール8のボールペンチップ部が、前記軸筒1の前端部に取り付けられた口先部3の先端開口より繰り出される筆記可能な状態と、ボールペンチップ部が後退して前記軸筒1内に収容される状態とが交互に選択される」ことは、本件発明1の「前記操作部の押圧部を押圧することで前記回転部が回転し、筆記部が前記軸筒の先端から外部に出没可能な」ことに相当する。

(c)甲1発明は、「ノック棒6を前記軸筒1の後端部側から挿入して装着する」ことから、飾りカバー7のノック棒6への装着が、ノック棒6の軸筒1への挿入の前であったとしても後であったとしても、軸筒1は、飾りカバー7の露出部分よりも前方側の部分全体を、後端部側から挿入可能であることは明らかである。
したがって、甲1発明は、本件発明1の「前記軸筒は、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分全体を後端部側から挿入可能であ」ることに相当する構成を備えるといえる。

(d)甲1発明の「軸筒1内に」「第1カム部材13a」、「第2カム部材13b」及び「連結部材13c」により「形成され」た「係止カム13」は、本件発明1の「軸筒側係合部」に相当する。
そして、甲1発明において、「前記凸状部材16が、前記連結部材13cに当接するので、前記連結部材13cがストッパーとなって、前記ノック棒6が抜け落ちるのが阻止される」ことは、軸筒1が、その内周面にノック棒6と係合可能なカム部材13a,13bを有するものといえるから、甲1発明は、本件発明1の「前記軸筒は、その内周面に前記連結部」「と係合可能な軸筒側係合部を有」することに相当する構成を備えるといえる。
また、甲1発明において、「前記回転子11側の前記カム部材11bが、前記カム部材13a,13bの間に当接して軸方向の前方位置に設定される状態と、前記縦溝部14内に落ち込んで軸方向の後方位置に移動する状態とが繰り返され」ることは、軸筒1が、その内周面に回転子11と係合可能なカム部材13a,13bを有するものといえるから、甲1発明は、本件発明1の「前記軸筒は、その内周面に」「前記回転部と係合可能な軸筒側係合部を有」することに相当する構成を備えるといえる。

(e)甲1発明の「前記凸状部材16が、前記連結部材13cに当接するので、前記連結部材13cがストッパーとなって」「飾りカバー7が装着された」「ノック棒6が抜け落ちるのが阻止される」ことは、係止カム13の連結部材13cが、ノック棒6と係合することによって、ノック棒6に装着された飾りカバー7の軸筒1からの脱離を係止可能であるといえるから、甲1発明は、本件発明1の「前記軸筒側係合部は、前記連結部」「と係合することによって、前記操作部の軸筒からの脱離を係止可能であ」ることに相当する構成を備えるといえる。

(f)ボールペンチップ部が筆記部であり、ボールペンリフィールの先端に備えられること、及びボールペンリフィールがボールペンの芯部材であることは技術常識であるから、甲1発明の「ボールペンチップ部」を備えた「ボールペンリフィール8」は、本件発明1の「筆記部を先端に備えた芯部材」に相当するといえる。

(g)甲1発明において、「該ボールペンリフィール8は、戻しバネ9により、後方に付勢力を受けており、該ボールペンリフィール8の後端部は、前記回転子11に当接されて」いることから、「前記回転子11側の前記カム部材11bが、前記カム部材13a,13bの間に当接して軸方向の前方位置に設定される状態」となり、「これに伴い、前記ボールペンリフィール8のボールペンチップ部が、前記軸筒1の前端部に取り付けられた口先部3の先端開口より繰り出される筆記可能な状態」では、回転子11が戻しバネ9の付勢力に抗してボールペンリフィール8を押圧していることは明らかである。
したがって、甲1発明の「飾りカバー7が装着された」「ノック棒6のノック操作ごとに回転子11に回転運動を与え、これにより、前記回転子11側の前記カム部材11bが、前記カム部材13a,13bの間に当接して軸方向の前方位置に設定される状態と」なり、「これに伴い、前記ボールペンリフィール8のボールペンチップ部が、前記軸筒1の前端部に取り付けられた口先部3の先端開口より繰り出される筆記可能な状態」となることは、飾りカバー7を押圧操作たるノック操作することで、回転子11が前方側に移動してボールペンリフィール8を押圧してボールペンチップ部の一部が軸筒1から突出した筆記可能状態となることといえるから、甲1発明は、本件発明1の「前記操作部を押圧操作することで、前記回転部が前方側に移動して芯部材を押圧して筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となる」ことに相当する構成を備えるといえる。

(h)甲1発明において、「前記凸状部材16が、前記連結部材13cに当接するので、前記連結部材13cがストッパーとなって、前記ノック棒6が抜け落ちるのが阻止される」のであるから、甲1発明の「係止カム13」の「連結部材13c」は、ノック棒6の抜け落ちるのを規制する部材といえ、本件発明1の「前記軸筒側係合部」が「有」する「連結用規制部」に相当する。

(i)甲1発明の「飾りカバー7が装着された」「ノック棒6のノック操作ごとに前記回転子11に回転運動を与え、これにより、前記回転子11側の前記カム部材11bが」「前記縦溝部14内に落ち込んで軸方向の後方位置に移動する状態」となり、「これに伴い前記ボールペンリフィール8の」「ボールペンチップ部が後退して軸筒内に収容される状態と」なることは、本件発明1の「筆記可能状態の操作部を押圧操作することで、前記回転部が後方側に移動して筆記部の全体が前記軸筒の内部に収納された収納状態となる」ことに相当する。

(j)甲1発明の「前記凸状部材16が、連結部材13cに当接するので、前記連結部材13cがストッパーとなって、前記ノック棒6が抜け落ちるのが阻止される」のは、ボールペンチップ部が後退して前記軸筒1内に収容される状態のときであることは明らかであり、本件発明1の「前記連結用規制部は、収納状態において、連結部の後方側への移動を規制する」ことに相当する。

(k)甲1発明は、「前記ノック棒6のノック操作ごとに」「ボールペンチップ部が」「繰り出される筆記可能な状態と、ボールペンチップ部が後退して前記軸筒1内に収容される状態とが交互に選択され」るものであり、「前記ノック棒6をノック操作することで、前記凸状部材16が前記第1と第2のカム部材13a,13bの間におけるU字状の空間部内を移動」するものであることから、「前記凸状部材16が、前記連結部材13cに当接する」のは、「ボールペンチップ部が後退して前記軸筒1内に収容される状態」のときであることは明らかである。
したがって、本件発明1の「前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」ことと、甲1発明から自明な構成である、「前記ノック棒6」は、「ボールペンチップ部が後退して前記軸筒1内に収容される状態」において、「前記連結部材13cに当接する」「前記凸状部材16」を備えることとは、「前記連結部は、前記収納状態において、」「前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「軸筒の内部に、回転部と、操作部の一部と、前記操作部と前記回転部を連結する連結部を備え、前記操作部の他の一部が前記軸筒から露出し、当該露出部分に押圧部を有する出没式筆記具であって、
前記操作部の押圧部を押圧することで前記回転部が回転し、筆記部が前記軸筒の先端から外部に出没可能な出没式筆記具において、
前記軸筒は、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分全体を後端部側から挿入可能であり、
前記軸筒は、その内周面に前記連結部及び/又は前記回転部と係合可能な軸筒側係合部を有し、
前記軸筒側係合部は、前記連結部と係合することによって、前記操作部の軸筒からの脱離を係止可能であり、
筆記部を先端に備えた芯部材を有し、
前記操作部を押圧操作することで、前記回転部が前方側に移動して芯部材を押圧して筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となるものであり、
前記軸筒側係合部は、連結用規制部を有し、
筆記可能状態の操作部を押圧操作することで、前記回転部が後方側に移動して筆記部の全体が前記軸筒の内部に収納された収納状態となるものであり、
前記連結用規制部は、収納状態において、連結部の後方側への移動を規制するものであり、
前記連結部は、前記収納状態において、前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する出没式筆記具。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「回転部の内部に」「連結部の一部を挿入可能であ」るのに対し、甲1発明は、「ノック棒6」の内部に「回転子11」の後端部の一部を挿入可能であって、「回転子11」の内部に「ノック棒6」の一部を挿入可能なものではない点。

(相違点2)
「連結部」が「有する」、「収納状態において」「連結用規制部と係合可能な連結側係合部」が、本件発明1では「回転部の内部で」係合可能なものであるのに対し、甲1発明では「回転子11」の外部で係合可能なものであって、「回転子11」の内部で係合可能なものではない点。

以上のとおり、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2において相違するから、本件発明1は甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項1に係る特許は、甲1発明によっては、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできない。

イ 取消理由2(進歩性)について
上記アで検討したとおり、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2について相違するが、相違点1と相違点2は技術的に関連するので、まとめて検討する。

(相違点1及び2について)
甲1発明において、回転子11の内部にノック棒6の一部を挿入可能なものにしようとすると、ノック棒6の先端部周面に形成された凸状部材16と、軸筒1の内周面に突出形成された連結部材13cとの間に、回転子11が介在することとなって、両者の当接が妨げられるから、これを回避するためにさらなる推考を必要とするし、回転子11の内部で軸筒1の内周面の連結部材13cとノック棒6の凸状部材16を当接させることは不可能であって、これを克服するためのさらなる推考も必要とする。
これらの推考を必要とする変更は、もはや、当業者が設計時に適宜選択できる範囲を超えているという他はなく、また、そのような変更をする動機も見当たらない。
したがって、ノック棒6の内部に回転子11の一部を挿入可能であり、ノック棒6が、収納状態において、回転子11の外部で軸筒1の内周面の連結部材13cと当接可能な凸状部材16を有するものに代えて、回転子11の内部にノック棒6の一部を挿入可能であり、ノック棒6が、収納状態において、回転子11の内部で軸筒1の内周面の部材と当接可能な部材を有するものとして、相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことということはできない。

また、甲第4号証及び甲第5号証には、ノック棒の内部に回転子の一部を挿入可能であり、ノック棒が、収納状態において、回転子の外部で軸筒の内周面の連結部材と当接可能な凸状部材を有するものに代えて、ノック棒の内部に回転子の後端部の一部を挿入可能であり、ノック棒が、収納状態において、回転子の内部で軸筒の内周面の部材と当接可能な部材を有するものとすることに関して記載も示唆もされておらず、甲第4号証及び甲第5号証の記載を考慮しても、甲1発明において、相違点1及び2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことということはできない。

なお、特許異議申立人が提出した他の甲各号証にも、ノック棒の内部に回転子の一部を挿入可能であり、ノック棒が、収納状態において、回転子の外部で軸筒の内周面の連結部材と当接可能な凸状部材を有するものに代えて、ノック棒の内部に回転子の後端部の一部を挿入可能であり、ノック棒が、収納状態において、回転子の内部で軸筒の内周面の部材と当接可能な部材を有するものとすることに関して記載も示唆もされておらず、他の甲各号証の記載を考慮しても、甲1発明において、相違点1及び2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことということはできない。

(申立人の主張)
申立人は、意見書において、
a 一般に、筒状の2つの部材の一方を他方に挿入して組み立てる場合、2つの部材の何れを内側とするかは2通りしかなく、甲1発明においても、「連結部」に相当する「ノック棒6」の先端部を「回転部」に相当する「回転子11」の内部に挿入するように構成することは、2通りの中から設計時に適宜選択できることであり、出願時の技術水準においても何ら困難なものではない、
b 一般に、内周側の筒状部材の外周面と外周側の筒状部材の内周面の何れか一方に凸状部材を設けて何れか他方に凸状部材に係合するガイド溝を設けることで両者を係合させる場合も、2つの部材の何れに凸状部材を設けて何れにガイド溝を設けるかは2通りしかなく、甲1発明においても、ノック棒6の先端部と軸筒1とを係合させる構成を設計するに際し、相互に係合する凸状部材とガイド溝とをノック棒6の先端部の外周面と軸筒1の内周面の何れに設けるかは2通りの中から適宜選択できることであるため、ノック棒6の先端部の外周面に「凸状部材16」に代えてガイド溝を設けて、軸筒1の内周面に溝を有する「カム部材13」に代えてノック棒6の外周面のガイド溝と係合する凸状部材を設けることは、出願時の技術水準においても何ら困難なものではない、
c 甲1発明において、上記のようにノック棒6の先端部の外周面に「凸状部材16」に代えてガイド溝を設けて、軸筒1の内周面にガイド溝を有する「カム部材13」に代えてノック棒6の先端部の外周面のガイド溝と係合する凸状部材を設けた場合において、上述のように「ノック棒6」の先端部を「回転子11」の内部に挿入するように構成しようとする場合、ノック棒6の先端部が回転子11の内部にあるのであるから、ノック棒6の先端部に設けられたガイド溝と軸筒1の内周面から突出する凸状部材との係合は、回転子11の内部で行われることになるのは必然であり、そして、このような構成変更を甲1発明に対して行った場合、本件発明1における「前記回転部は、前記回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、」という事項及び「前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」という事項の両方が得られることになるのは、これ以上説明するまでもなく明らかであり、このような構成変更は、当業者が適宜設計できる事項であって、出願時の技術水準においても何ら困難なものではない、
d 特許権者が主張している本件発明1の作用効果に関しても、甲1発明において「収納状態において、軸筒1の連結用規制部(連結部材 13C)によって連結部(ノック棒6)の後方側への移動を規制し、回転部(回転子11)の後方への移軌の反動によって連結部が後方へ移動して軸筒から抜け落ちることを防止できる」という作用効果を既に奏していることは明らかであるため、甲1発明に対して実質的に有利な作用効果がない、
旨、主張する。

しかしながら、上記aないしcの申立人の主張に対して、回転子11の内部にノック棒6の一部を挿入可能なものにしようとすると、上記(相違点について)で述べたように、ノック棒6の先端部周面に形成された凸状部材16と、軸筒1の内周面に突出形成された連結部材13cとの間に、回転子11が介在することとなって、両者の当接が妨げられるから、これを回避するための推考が必要となる。このような推考を必要とする変更は、もはや、当業者が設計時に適宜選択できる範囲を超えているという他はなく、そのような変更をする動機も見当たらない。したがって、回転子11の内部にノック棒6の一部を挿入可能なものにすることは、当業者が容易になし得たことということはできない。

また、上記dの申立人の主張に対して、進歩性の判断において、有利な効果は、請求項に係る発明の有利な効果として進歩性が肯定される方向に働く要素として考慮されるべきものであって、引用発明において、相違点に係る請求項に係る発明の構成とすることの論理付けができないときに、請求項に係る発明が有利な効果がないなどとして進歩性が否定される方向に働く要素として考慮されるべきものではない。そして、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点において相違し、相違点に係る甲1発明の構成を、相違点に係る本件発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得たという論理付けができない以上、本件発明1における有利な効果の有無を検討する余地は生じない。

したがって、本件発明1は、甲1発明並びに甲第4号証及び甲第5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1に係る特許は、甲1発明並びに甲第4号証及び甲第5号証の記載事項によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできない。

(2)本件発明2ないし3、5ないし10について
本件発明2ないし3及び訂正後の請求項1を直接または間接的に引用する本件発明5ないし10は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものである。
そうすると、上記(1)で検討したとおり、本件発明1が、甲1発明並びに甲第4号証及び甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし3及び訂正後の請求項1を直接または間接的に引用する本件発明5ないし10も、甲1発明並びに甲第4号証及び甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件請求項2ないし3に係る特許及び本件請求項5ないし10のうち訂正後の請求項1を直接または間接的に引用するものに係る特許は、甲1発明並びに甲第4号証及び甲第5号証の記載事項によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について
1 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、取消理由通知で採用しなかった他の理由を申し立てており、その理由は、概略、以下のとおりである。

(1)請求項1について
ア 甲第2号証を主引例とする理由
(ア)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(イ)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1号証及び甲第4号証ないし甲第6号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 甲第4号証を主引例とする理由
(ア)請求項1に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

ウ サポート要件違反について(特許異議申立書ではなく、意見書による主張)
請求項1には、「回転子8に形成された溝91」に相当する構成が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しており、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。

(2)請求項2について
ア 甲第1号証を主引例とする理由
(ア)請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第7号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)請求項4について
ア 甲第2号証を主引例とする理由
(ア)請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(イ)請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 甲第3号証を主引例とする理由
(ア)請求項4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
ウ 甲第6号証を主引例とする理由
(ア)請求項4に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(イ)請求項4に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び甲第1号証ないし甲第5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)請求項5について
ア 甲第2号証を主引例とする理由
(ア)請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(イ)請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 甲第4号証を主引例とする理由
(ア)請求項5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
ウ 甲第6号証を主引例とする理由
(ア)請求項5に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(イ)請求項5に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び甲第4号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)請求項6ないし8について
ア 甲第2号証を主引例とする理由
(ア)請求項6ないし8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 甲第4号証を主引例とする理由
(ア)請求項6ないし8に係る発明は、甲第4号証記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 甲第6号証を主引例とする理由
(ア)請求項6ないし8に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び甲第4号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(6)請求項9について
ア 甲第4号証を主引例とする理由
(ア)請求項9に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 甲第2号証を主引例とする理由
(ア)請求項9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(イ)請求項9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(7)請求項10について
ア 甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証または甲第6号証を主引例とする理由
(ア)請求項10に係る発明は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証または甲第6号証に記載された発明及び甲第5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 甲各号証の記載
(1)甲第1号証、甲第4号証及び甲第5号証の記載
甲第1号証、甲第4号証及び甲第5号証の記載事項は、上記第4の2で記載したとおりである。

(2)甲第2号証(実願昭56-895号(実開昭57-113984号)のマイクロフィルム)の記載
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア 「本考案は以上の如き問題点に鑑みて、生産性が良く、かつ長期間の使用によってもボールペン体操出を円滑に行えるボールペンを提供することを目的とし、この目的は、軸筒内に内装され、かつ軸筒に対してその後端方向に押圧付勢されたボールペン体と、基端部はノックボタンに固着され、先端がボールペン体の後端部と当接しているピン部材と、ピン部材に回転自在に嵌装され、外周面に略ハート型のカム溝を有するカム筒と、軸筒内面の所定位置に突設され、前記カム溝に係合するカムフォロアとからなるボールペン体構造によって達成される。」(明細書第3頁第12行ないし第4頁第4行)

イ 「以下、本考案の実施例を図面にもとずいて説明する。第1図において1は軸筒でありその先端には内環2を介して口金3が圧入固着されており、後端部にはクリップ4が取付けられている。5はポールペン体であり、先端に筆記用ボール6を抱時したチップ筒7にインク収納筒8が連結されており、これが軸筒1内に内装されている。インク収納筒8の外面にはバネ受け用の突起9が2ヶ所突設されており、この突起9と口金3の端面との間にバネ10が間装されており、このバネ力によりボールペン体5はそのチップ筒7が口金3内に常時は収納される状態に押圧付勢されている。11は内孔12を有するノックボタンであり、この内孔12にピン部材13の基端部14が圧入固着されており、ピン部材13の先端部15は鍔状をなし、その先端面はボールペン体5の後端面と当接している。16はピン部材13の外周に回転自在に嵌装されたカム筒であり、その軸心方向の移動はノックボタン11の先端面およびピン部材13の鍔状部によって規制されている。そしてその外周面17には第2図に示すごとくの略ハート型のカム溝18が刻設されている。ここで第2図はカム溝の展開形状を示しており、位置Aの部分がピン部材13の鍔状部側にある。そしてこのカム筒16は、その外周面17が軸筒1の内周面とわずかな隙間を有する様な大きな外形寸法となっている。19は軸筒1の内周面に一体的に突設された円柱状のカムフォロアであり、このカムフォロア19がカム溝18に係合している。」(明細書第4頁第5行ないし第5頁第16行)

ウ 「本実施例は以上の如く構成されており、次にその作動を説明すれば、まず第1図に示すチップ筒7が口金3内に収納された状態のときはカムフォロア19は第2図において示すカム溝18のA点の位置にある。次にチップ筒7先端を口金3より繰出するときは指先でノックボタン11を押圧する。するとカムフォロア19は軸筒1に固着されているためにカム筒16が回転しながら前進し、C点の位置で停止する。ノックボタンを離すとカム溝18の凹状の安定位置であるB点の位置にカムフォロア19が係合して停止する。従ってA点とB点のストローク差だけボールペン体5が前進して、チップ筒7の先端が口金3より突出し、筆記可能状態となる。次に筆記終了後にボールペン体5を収納するときは再び指先でノックボタン11を押圧する。するとカム筒16は再び回転しながら前進し、D点に達しノックボタンを離すとカムフォロア19は、バネ10により押圧されたボールペン体5に伴って後退し、A点の位置に戻りチップ筒7の先端は口金3内に収納される。」(明細書第5頁第17行ないし第6頁第18行)

【第1図】


(認定事項1)
第1図から、ノックボタン11を軸筒1の前端部側から挿入しようとすると内環2が妨げとなることが看取できるから、ノックボタン11の露出部分よりも前方側の部分全体は、軸筒1の後端部側から挿入可能であると認められる。また、第1図から、ノックボタン11の一部は軸筒1から露出していることが看取でき、当該露出部分に押圧部を有することは技術的にみて明らかである。

(認定事項2)
第1図から、カムフォロア19は、ピン部材13の鍔状の先端部15と係合することによってピン部材13に固着されたノックボタン11の軸筒からの脱離を係止可能であり、収納状態では、カムフォロア19がカム筒16と係合することによってピン部材13の後方への移動を規制しているものと認められる。また、第1図、第2図及び上記ウの記載から、筆記可能状態では、軸筒1の内周面に設けられたカムフォロア19は、カム筒16と係合することによってピン部材13に固着されたノックボタン11の軸筒からの脱離を係止可能であるものと認められる。

(認定事項3)
上記イに「16はピン部材13の外周に回転自在に嵌装されたカム筒であり、」と記載されているように、カム筒16はピン部材13の外周に嵌装されているため、カム筒16の内周面はピン部材の外周面に係わり合っている。すなわち、カム筒16の内周面はピン部材の外周面に「係合」している。したがって、ピン部材13は、外周面に連結側係合部(ピン部材13の外周面のうちカム筒16に嵌合する部分)を有しており、カム筒16の内周面に連結側係合部(ピン部材13の外周面のうちカム筒16に嵌合する部分)と係合可能な回転側係合部(カム筒16の内周面のうちピン部材13の外周面に嵌合する部分、すなわちカム筒16の内周面)を備えているものと認められる。

以上の記載事項及び認定事項から、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「先端に内環2を介して口金3が固着されている軸筒1と、
先端に筆記用ボール6を抱時したチップ筒7にインク収納筒8が連結されており、前記軸筒1内に内装され、かつ前記軸筒1に対してその後端方向に押圧付勢されたボールペン体5と、
前記軸筒1の後端部側から挿入可能であり、一部が前記軸筒1から露出し、当該露出部分に押圧部を有するノックボタン11と、
基端部14は前記ノックボタン11に圧入固着され、鍔状の先端部15が前記ボールペン体5の後端部と当接しているピン部材13と、
前記ピン部材13に回転自在に嵌装され、軸心方向の移動は前記ノックボタン11の先端面および前記ピン部材13の前記鍔状の先端部15によって規制され、外周面17に略ハート型のカム溝18を有し、カム筒16と、
前記軸筒1内面の所定位置に突設され、前記カム溝に係合するものであって、前記ピン部材13の鍔状の先端部15と係合することによって前記ピン部材13に固着された前記ノックボタン11の軸筒からの脱離を係止可能であり、収納状態では、前記カム筒16と係合することによって前記ピン部材13の後方への移動を規制するカムフォロア19とからなるボールペンであって、
チップ筒7が口金3内に収納された状態のときはカムフォロア19はカム溝18のA点の位置にあり、次にチップ筒7先端を口金3より繰出するときは指先でノックボタン11を押圧するとカムフォロア19は軸筒1に固着されているためにカム筒16が回転しながら前進し、C点の位置で停止し、ノックボタンを離すとカム溝18の凹状の安定位置であるB点の位置にカムフォロア19が係合して停止し、従ってA点とB点のストローク差だけボールペン体5が前進して、チップ筒7の先端が口金3より突出して筆記可能状態となり、次に筆記終了後にボールペン体5を収納するときは再び指先でノックボタン11を押圧するとカム筒16は再び回転しながら前進し、D点に達しノックボタンを離すとカムフォロア19は、バネ10により押圧されたボールペン体5に伴って後退し、A点の位置に戻りチップ筒7の先端は口金3内に収納されるボールペン。」

(3)甲第3号証(実公昭41-21372号公報)の記載
甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「一方上記軸胴1の末端内部には、押圧子2が一瑞2aを軸胴1外に突出させて進退可能に設けてある。この押圧子2は軸胴1内に位置する外周部に所要の長さで小径の嵌合部2bが形成され且つ内端2cは後述する芯管5末端に当接していて上記嵌合部2bには回転体3が回転可能に嵌合されている。この回転体3は合成樹脂で一体成形されたもので、外径が押圧子2の外径と略同径で、内径が嵌合部2bと略同径に形成された縦方向に切り割3aのある円筒状をなし、上記押圧子2を軸胴1外に取出した状態で、上記切り割3aを開くことにより、嵌合部2bに嵌合されその復元力で抜脱しないように回転可能に取付けられている。
又上記回転体3外周には、ハート状のカム溝3bが凹設されていて、該カム溝3b回転体3取付状態に於いてその2頂点側が軸胴1の末端側に1頂点側が先端側に位置し、該カム溝2c(当審注:「2c」は「3b」の誤記と認められる。)には軸胴1内に突設された上述の突起4が係合されている又上記軸胴1内には芯管5が内装されており、該芯管の末端は上記押圧子2の内端2cに当接され先端の芯口は軸筒1の先端開口部1aに位置している。又上記芯管5はコイル状のばね6によって常時軸胴1内へ偏倚され、押圧子2の進退操作により、軸胴1の先端開口部1aより外方に出入できるようになっている。なお上記ばね6は芯管5に遊嵌されていてその一端は芯管5に嵌着した支持環5aに支持され、他端は軸胴1先端内部に支持されて上記芯管5を常時内方向に押圧している。
而して、上記の如く構成された本案ボールペンの作用を説明する。先ず、第1図の芯管5が軸胴1内に退入した状態で、押圧子2を内方向へ押圧すると、該押圧子2は内方向へ移行して、芯管5をばね6の弾力に抗しながら進出させ、該芯管5の先端部を軸胴1の先端開口部1aより外方に突出させる。これと同時に押圧子2外周に設けられた回転体3は軸胴1内に突設した突起4に案内されて回動し、芯管5退入状態でカム溝3bの1頂点aに位置していた突起4を、軸胴1末端側に位置する2頂点b,dの一方の頂点bに係合する。而して、押圧子2の押圧を解除すれば、芯管5に遊嵌したばね6の復元力により押圧子2は後退し、これと共に回転体3も後退するから、突起4に係合したカム溝3bの頂点bの係合は外れ該カム溝3bのc位置に上記突起4は停止し、第2図に示す芯管先端の突出状態を保持する。
又この状態で、押圧子2を内方向に押圧すると回転体3は回動し、カム溝3bのd位置(当審注:「d位置」は「c位置」の誤記と認められる。)に停止していた突起4はカム溝3bの頂点dに係合され、
ここで押圧子2の押圧を解除すればばね6の復元カで芯管5は退入し、これと同時に頂点dに係合された突起4はカム溝3bに案内されて頂点aに係合し、芯管5先端が軸胴1内に退入して保持する」(第1頁左欄下から4行ないし第2頁左上欄第6行)

【第1図】


(認定事項)
第1図に示される軸胴1の内径から、ボールペンの組立時において、押圧子2の一端側2aの露出部分よりも前方側の部分全体は、軸胴1の後端部側(第1図における軸胴1の左側端)から挿入されるものと認められる。

以上の記載事項及び認定事項から、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「軸胴1の末端内部に、押圧子2が一瑞2aを軸胴1外に突出させて進退可能に設けられ、
押圧子2の一端側2aの露出部分よりも前方側の部分全体は、軸胴1の後端部側から挿入可能であり、
押圧子2は軸胴1内に位置する外周部に所要の長さで小径の嵌合部2bが形成され且つ内端2cは芯管5末端に当接していて嵌合部2bには回転体3が回転可能に嵌合され、
回転体3は合成樹脂で一体成形されたもので、外径が押圧子2の外径と略同径で、内径が嵌合部2bと略同径に形成された縦方向に切り割3aのある円筒状をなし、押圧子2を軸胴1外に取出した状態で、切り割3aを開くことにより、嵌合部2bに嵌合されその復元力で抜脱しないように回転可能に取付けられ、
回転体3外周には、ハート状のカム溝3bが凹設されていて、該カム溝3b回転体3取付状態に於いてその2頂点側が軸胴1の末端側に1頂点側が先端側に位置し、該カム溝3bには軸胴1内に突設された突起4が係合され、
軸胴1内には芯管5が内装されており、該芯管の末端は押圧子2の内端2cに当接され先端の芯口は軸筒1の先端開口部1aに位置し、
芯管5はコイル状のばね6によって常時軸胴1内へ偏倚され、押圧子2の進退操作により、軸胴1の先端開口部1aより外方に出入できるようになっているボールペンであって、
芯管5が軸胴1内に退入した状態で、押圧子2を内方向へ押圧すると、該押圧子2は内方向へ移行して、芯管5をばね6の弾力に抗しながら進出させ、該芯管5の先端部を軸胴1の先端開口部1aより外方に突出させ、これと同時に押圧子2外周に設けられた回転体3は軸胴1内に突設した突起4に案内されて回動し、芯管5退入状態でカム溝3bの1頂点aに位置していた突起4を、軸胴1末端側に位置する2頂点b,dの一方の頂点bに係合し、
押圧子2の押圧を解除すれば、芯管5に遊嵌したばね6の復元力により押圧子2は後退し、これと共に回転体3も後退するから、突起4に係合したカム溝3bの頂点bの係合は外れ該カム溝3bのc位置に上記突起4は停止し、芯管先端の突出状態を保持し、
この状態で、押圧子2を内方向に押圧すると回転体3は回動し、カム溝3bのc位置に停止していた突起4はカム溝3bの頂点dに係合され、
ここで押圧子2の押圧を解除すればばね6の復元カで芯管5は退入し、これと同時に頂点dに係合された突起4はカム溝3bに案内されて頂点aに係合し、芯管5先端が軸胴1内に退入して保持するボールペン。」

(4)甲第6号証(特開2009-208424号公報)の記載
甲第6号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「【0012】
後軸15の内面には、長手方向に伸びたカム溝15Aが円周方向等間隔に3個形成され、このカム溝15Aの縁前端は中間部に垂直面15Bを設けるとともに垂直面15Bの両側に同じ方向の傾斜面15Cを形成する。
【0013】
更に、回転カム16は、筒部16Aより外方向および後方に突出した突部16Bが円周方向等間隔に3個形成されるとともに、その後端面に前記後軸15の傾斜面15Cと同方向に傾斜された傾斜部16Cを構成する。この回転カム16は、中子17に回動可能および長手方向に摺動可能に外嵌される。中子17の後部外面の相対位置に係止突起17Aが形成される。また、押部材18には、突部18Aが円周方向等間隔に3個形成されるとともに、前部筒部18Bに対向する係止窓18Cが2個形成される。更に、押部材18の前端は、2つの傾斜部で構成され前方に突出した前突部18Dが円周方向等間隔に6個形成される。また、押部材18の後部には消しゴム19が設けられるとともに、消しゴム19を覆うノブ20が嵌合される。
【0014】
前記押部材18の係止窓18Cに中子17の係止突起17Aが係合され、中子17と押部材18が連結される。また、中子17の後端と押部材18の内段18Eとの間には後スプリング21が300g程度の荷重で張架されて取り付けられる。
【0015】
前記のように組み立てられた中子17、回転カム16、後スプリング21および押部材18が後軸15内に前方より挿入され、押部材18の突部18Aが後軸15のカム溝15A内に挿入される。この後軸15を前記前軸12に螺合し、前軸12と後軸15によって軸筒を構成する。そして、内軸9の後端と中子17の外鍔17B前端が当接すると、中子17が後方に押され、回転カム16の突部16Bが後軸15の傾斜面15Cと垂直面15Bからなる係止部に係止され図2に示した状態となる。また、前記重量体8はコネクター2の外鍔2Aと中子17の前端の間に遊嵌される。」

「【0020】
次に、筆記を終了し先部材10を前軸12内に没入させる為には、ノブ20を押圧してチャック1を拡開するとともに回転カム16の突部16B後端に形成された傾斜部16Cに押部材18の前突部18Dを当接する。更にノブ20を押圧すると、リターンスプリング14を圧縮して振出式シャープペンシル体が前進し、回転カム16の突部16Bが後軸15の垂直面15Bより外れ回転カム16が回転する。
【0021】
この状態でノブ20の押圧を解除すると、リターンスプリング14により付勢されて、振出式シャープペンシル体が後退するとともに回転カム16の突部16Bが後軸15のカム溝15Aを摺動する。そして、押部材18の突部18A後端が後軸15のカム溝15A後端縁15Dに当接し図4に示した状態となる。また、先部材10が前軸12内に没入し図3の携帯状態となる。この状態ではチャック1が拡開しているので、出没式シャープペンシルが振動して重量体8に慣性力が発生しても芯6が繰り出されてしまう恐れはない。
【0022】
再度筆記状態に戻す場合には、ノブ20を押圧することにより振出式シャープペンシル体、回転カム16、中子17および押部材18を前進させる。そして、回転カム16の突部16Bが後軸15のカム溝15Aより外れると、互いに当接されている回転カム16の傾斜部16Cと押部材18の前突部18Dが傾斜面となっているために回転カム16が回転し、回転カム16の突部16Bが後軸15の傾斜面15Cと垂直面15Bからなる係止部に係止され図2に示した状態に復帰する。この状態でノブ20の押圧を解除すると、押部材18は後スプリング21により付勢されて後退し、中子17の係止突起17Aが押部材18の係止窓18Cの前端縁に当接され図1の筆記状態となる。」

以上の記載事項から、甲第6号証には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

「後軸15の内面には、長手方向に伸びたカム溝15Aが円周方向等間隔に3個形成され、
カム溝15Aの縁前端は中間部に垂直面15Bを設けるとともに垂直面15Bの両側に同じ方向の傾斜面15Cを形成し、
回転カム16は、筒部16Aより外方向および後方に突出した突部16Bが円周方向等間隔に3個形成されるとともに、その後端面に前記後軸15の傾斜面15Cと同方向に傾斜された傾斜部16Cを形成し、
回転カム16は、中子17に回動可能および長手方向に摺動可能に外嵌され、
中子17の後部外面の相対位置に係止突起17Aが形成され、
押部材18には、突部18Aが円周方向等間隔に3個形成されるとともに、前部筒部18Bに対向する係止窓18Cが2個形成され、
押部材18の前端は、2つの傾斜部で構成され前方に突出した前突部18Dが円周方向等間隔に6個形成され、
押部材18の後部には消しゴム19が設けられるとともに、消しゴム19を覆うノブ20が嵌合され、
前記押部材18の係止窓18Cに中子17の係止突起17Aが係合され、中子17と押部材18が連結され、
中子17の後端と押部材18の内段18Eとの間には後スプリング21が張架されて取り付けられ、
中子17、回転カム16、後スプリング21および押部材18が後軸15内に前方より挿入され、押部材18の突部18Aが後軸15のカム溝15A内に挿入され、
後軸15を前軸12に螺合し、前軸12と後軸15によって軸筒を構成し、
内軸9の後端と中子17の外鍔17B前端が当接すると、中子17が後方に押され、回転カム16の突部16Bが後軸15の傾斜面15Cと垂直面15Bからなる係止部に係止された状態となり、先部材10は前軸12の先端より適宜突出して筆記状態となっており、
筆記を終了し先部材10を前軸12内に没入させる為には、ノブ20を押圧して回転カム16の突部16B後端に形成された傾斜部16Cに押部材18の前突部18Dを当接させ、更にノブ20を押圧すると、リターンスプリング14を圧縮して振出式シャープペンシル体が前進し、回転カム16の突部16Bが後軸15の垂直面15Bより外れ回転カム16が回転し、この状態でノブ20の押圧を解除すると、リターンスプリング14により付勢されて、振出式シャープペンシル体が後退するとともに回転カム16の突部16Bが後軸15のカム溝15Aを摺動し、押部材18の突部18A後端が後軸15のカム溝15A後端縁15Dに当接した状態となり、先部材10が前軸12内に没入し、
再度筆記状態に戻す場合には、ノブ20を押圧することにより振出式シャープペンシル体、回転カム16、中子17および押部材18を前進させて、回転カム16の突部16Bが後軸15のカム溝15Aより外れると、互いに当接されている回転カム16の傾斜部16Cと押部材18の前突部18Dが傾斜面となっているために回転カム16が回転し、回転カム16の突部16Bが後軸15の傾斜面15Cと垂直面15Bからなる係止部に係止された状態に復帰し、この状態でノブ20の押圧を解除すると、押部材18は後スプリング21により付勢されて後退し、中子17の係止突起17Aが押部材18の係止窓18Cの前端縁に当接されて筆記状態となる、出没式シャープペンシル。」

(5)甲第7号証(実願平4-17285号(実開平5-68687号)のCD-ROM
甲第7号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「【0007】
【実施例】
以下に図面に示す実施例に基いて本考案を具体的に説明する。図1において、合成樹脂製の軸筒1は、その先端に先口11が螺着され、内部にスプリング22で尾端側に弾発されたボールペンレフィール2が配置されている。そして、図1および図2に示すように、軸筒1の内周面には、交互に60゜の等間隔で形成された軸線方向の3本の深溝32と3本の浅溝33からなるカムが形成されている。また、カムの先端は鋸歯状に傾斜しており、浅溝33の先端縁が係止段部34である。そして、深溝32に連続して、つまり、浅溝33の間に、浅溝33と同じ深さの導入溝31が軸筒1の尾端開口縁まで形成されている。従って、深溝32は導入溝31を兼ねている。
【0008】
この深溝32、浅溝33、係止段部34からなるカムとノック棒5および回転子4で出没機構を構成している。ノック棒5は、軸筒1の後端開口から突出している。つまり、従来のノックカバーが一体に成形された形状であり、クリップ6も一体に成形されている。ノック棒5の先端部外周には、図3に示すように、3個のガイド突起51が形成され、先端が鋸歯状に傾斜した押圧部52である。そして、ガイド突起51が浅溝33にそれぞれ嵌め込まれており、ノック棒5は浅溝33にガイドされて前後動する。
【0009】
回転子4の先端部外周に、図4に示すように、後端面が傾斜した3本の突起41が形成されており、この突起41が深カム溝32に嵌め込まれている。そして、ボールペンレフィール2の後端部が回転子4に衝合している。従って、スプリング22の弾発力で回転子4の突起41とノック棒5の押圧部52が衝合し、ノック操作によりノック棒5を前進させると、回転子4も前進するが、押圧部52および突起41の後端面が傾斜しているので、回転子4は回転力が付与された状態で前進する。
【0010】
次に、かかるダブルノック式筆記具の組立方法を説明すると、先ず、ガイド突起51を導入溝31 に沿わせてノック棒5を軸筒1の尾端開口から挿入する。そして、ガイド突起51が導入溝31に連なる深溝32を抜け出すと、ノック棒5を60゜回転してガイド突起51を浅溝33に係合させる。続いて、回転子4、ボールペンレフィール2、スプリング22を軸筒1の先端開口から挿入し、先口11を軸筒1の先端開口に嵌着すると組み立てが完成する。このように、軸筒1の後端開口からノック棒5を挿入して組み立てることができるので、従来のノックカバーとノック棒5を一体化でき、部品点数が少なくて構造が簡単になり、かつ容易に組み立てることができる。
【0011】
しかして、ノック棒5を押圧して第1ノック操作を行うと、回転子4の突起41は回転力が付与された状態で深溝32に沿って前進するが、深カム溝32を抜け出すと60゜回転し、係止段部34に係合する。このとき、図1に示すように、レフィール2先端のペン体21が先口11から突出し、回転子4の突起41が係止段部34に係合して筆圧を受け止めるので筆記可能になる。
【0012】
次に、ペン体21を先口11内に没入させるには、第1ノック操作と同じ操作である第2ノック操作を行う。これによって、浅溝33にガイドされて前進したノック棒5の押圧部52が係止段部34 に係合している回転子4の突起41を回転力を付与した状態で少し突き上げる。従って、回転子4は60゜回転し、突起41が隣接する他の深溝32に沿って後退するので、ペン体21が先口11内に没入する。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 甲第2号証を主引例とする理由について
(ア)特許法第29条第1項第3号について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「軸筒1」、「カム筒16」、「ノックボタン11」、「ピン部材13」及び「ボールペン体5」は、それぞれ本件発明1における「軸筒」、「回転部」、「操作部」、「連結部」及び「芯部材」に相当する。
甲2発明における軸筒1の内面に設けられた「カムフォロア19」は、ピン部材13及び/又はカム筒16と係合することによってノックボタン11の軸筒からの脱離を係止可能であるため、本件発明1における「軸筒側係合部」に相当する。
甲2発明において、ボールペンチップ部の全体が軸筒1の内部に収納された収納状態(第1図参照)では、カムフォロア19がピン部材13の後方への移動を規制しているといえるから、甲2発明における「カムフォロア19」は、本件発明1における「連結用規制部」に相当する。
本件発明1は「前記回転部が前方側に移動して芯部材を押圧して筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となる」ものであるが、この構成は、文言上、回転部が前方側に移動して何等かの部材を介して芯部材を押圧するような構成を包含している。したがって、甲2発明の「カム筒16が回転子ながら前進し、」「ボールペン体5が前進して、チップ筒7の先端が口金3より突出して筆記可能状態とな」ることは、本件発明1の「前記回転部が前方側に移動して芯部材を押圧して筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となる」ことに相当する。
本件発明1の「前記回転部が前方側に移動して芯部材を押圧して筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となる」ことと、甲2発明の「カム筒16が回転子ながら前進し、」「ボールペン体5が前進して、チップ筒7の先端が口金3より突出して筆記可能状態とな」ることとは、「前記回転部が前方側に移動して」「筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となる」の点で共通する。
本件発明1の「前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」ことと、甲2発明の「ピン部材13」が、「収納状態」において、「カムフォロア19」と「係合」可能な「鍔状の先端部15」を有することとは、「前記連結部は、前記収納状態において、」「前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」点で共通する。
そして、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも、以下の相違点(以下「甲2の相違点」という。)において相違する。

(甲2の相違点)
「連結部」が「有する」、「収納状態において」「連結用規制部と係合可能な連結側係合部」が、本件発明1では「回転部の内部で」係合可能なものであるのに対し、甲2発明では「カム筒16」の外部であって、「カム筒16」の内部で係合可能なものではない点。

したがって、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも、甲2の相違点において相違するから、本件発明1は甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項1に係る特許は、甲2発明によっては、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用できない。

(イ)特許法第29条第2項について
上記(ア)で検討したとおり、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも、甲2の相違点において相違する。

(甲2の相違点について)
甲2発明において、カムフォロア19とピン部材13との係合を、鍔状の先端部15で行うものに代えて、カムフォロア19の内部で行うようにするには、カム構造の大幅な変更が必要であり、もはや当業者が設計時に適宜選択できる事項の範囲を大きく超えており、当業者が容易になし得たことということはできない。

また、甲第1号証及び甲第4号証ないし甲第6号証には、収納状態において、カムフォロアとピン部材との係合を、鍔状の先端部で行うものに代えて、カムフォロアの内部で行うようにする点については記載も示唆もされておらず、甲第1号証及び甲第4号証ないし甲第6号証の記載を考慮しても、甲2発明において、甲2の相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことということはできない。

したがって、本件発明1は、甲2発明及び甲第1号証及び甲第4号証ないし甲第6号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件請求項1に係る特許は、甲2発明及び甲第1号証及び甲第4号証ないし甲第6号証の記載事項によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用できない。

イ 甲第4号証を主引例とする理由について
(ア)特許法第29条第1項第3号について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明における「軸筒1」、「回転カム3」、「ノックボタン15」及び「ノックカム7」は、それぞれ本件発明1における「軸筒」、「回転部」、「操作部」及び「連結部」に相当する。
甲4発明における「軸筒1の内周面に設けられた段部11」は、「ノックカム7」と「当接」することによって「ノックカム7の軸部10に連結されるノックボタン1」の脱離を係止可能といえるから、本件発明1における「軸筒側係合部」に相当する。
甲4発明では、「リフィール2の先端側の筆記部の全体が」「軸筒1の内部に収納された」状態において、「段部11」は、「ノックカム7の摺動突起6」に「当接して」「ノックカム7の後方側への移動を規制する」のであるから、甲4発明における「段部11」は、本件発明1における「連結用規制部」に相当する。
本件発明の「前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」ことと、甲4発明の「ノックカム7が、収納状態において、連結用規制部に相当する段部11と当接可能な連結側係合部に相当する摺動突起6を有する」こととは、「前記連結部は、前記収納状態において、「前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有する」の点で共通する。
そして、本件発明1と甲4発明とは、少なくとも、以下の相違点(以下「甲4の相違点1及び2」という。)において相違する。

(甲4の相違点1)
本件発明1は「回転部の内部に」「連結部の一部を挿入可能であ」るのに対し、甲4発明は回転カム3の内部にノックカム7の一部を挿入可能ではない点。

(甲4の相違点2)
「連結部」が「有する」、「収納状態において」「連結用規制部と係合可能な連結側係合部」が、本件発明1では「回転部の内部で」係合可能なものであるのに対し、甲4発明では「回転カム3」の外部であって、「回転カム3」の内部ではない点。

したがって、本件発明1と甲4発明とは、少なくとも、甲4の相違点1及び2において相違するから、本件発明1は甲4発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項1に係る特許は、甲4発明によっては、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用できない。

ウ サポート要件違反について
申立人は、意見書において、本件発明1のサポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反を主張しているので、ここで、検討する。
申立人は、特許権者が意見書で本件発明1について主張している作用効果に鑑みれば、本件発明1の発明の課題は、「収納状態において、軸筒の内周面に設けられた軸筒側係合部の連結用規制部が、回転部の内部に挿入された連結部の連結側係合部と係合することで、軸筒の連結用規制部によって連結部の後方側への移動を規制し、回転部の後方への移動の反動によって連結部が後方へ移動して軸筒から抜け落ちることを防止すること」であり、発明の詳細な説明の記載によれば、この課題を解決するための構成として、軸筒1の内周面に設けられた軸筒側係合部31の連結用規制部42は、回転子8に形成された溝91を回転子8の径方向に貫通して、回転子8の内部に挿入された連結部7の連結側係合部71と係合していると認められ、このように、回転子8の外側にある軸筒1の連結用規制部42が、回転子8の内側にある連結部7の連結側係合部71と係合するためには、連結用規制部42が回転子8を回転子8の径方向に貫通する必要があり、回転子8には連結用規制部42が通る溝91に相当する構成が必要になるはずであるが、本件発明1には、「回転子8に形成された溝91」に相当する構成が反映されておらず、このため、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しており、特許法第36条第6項第1号の規定に違反している旨主張する。

しかしながら、本件発明1の発明の課題は、本件明細書の段落【0004】ないし【0007】の記載によれば、従来のノック式のボールペンは、レフィールの交換時等において、ノック棒200の軸筒201からの抜け落ちを防止するために、軸筒201の前方側から入れたノック棒200を係止して後方への移動を規制する抜け落ち防止壁202を後端部の周方向に延びるように設ける必要があり、ノック棒200の太さは、その抜け落ち防止壁202の分だけ細くなってしまい、軸筒の太さを細くしたいという需用者層の要望に沿って軸筒201の径を小さくして軸筒201を細くすると、ノック棒200の径も小さくなり、使用者が押圧操作する際の押圧面積が小さくなってしまい、使用者が押圧操作を行いにくくなるという問題があったところ、軸筒の太さを細くしても、十分な操作部(ノック棒)の太さを確保できる出没式筆記具を提供することであるといえる。
そして、請求項1の記載において、軸筒の内部に、回転部と、操作部の一部と、操作部と回転部を連結する連結部を備え、操作部の他の一部が軸筒から露出し、当該露出部分に押圧部を有する出没式筆記具であって、操作部の押圧部を押圧することで回転部が回転し、筆記部が軸筒の先端から外部に出没可能な出没式筆記具において、軸筒が、操作部の露出部分よりも前方側の部分全体を後端部側から挿入可能であり、軸筒が、その内周面に連結部及び/又は回転部と係合可能な軸筒側係合部を有し、軸筒側係合部が、連結部及び/又は回転部と係合することによって、操作部の軸筒からの脱離を係止可能であることが特定されれば、上記課題を解決することができることは当業者に明らかである。
また、その他の発明特定事項として、回転部が、回転部の内部に連結部の一部を挿入可能であり、連結部が、収納状態において、回転部の内部で連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有することを特定することによって、上記課題を解決することができることを当業者が認識できなくなるものではないし、発明の詳細な説明に記載された実施形態の一例である「回転子8に形成された溝91」に相当する構成をさらに発明特定事項として特定しなければならない理由は見当たらない。
したがって、本件発明1は特許法第36条第6項第1号に違反するものではなく、かかる申立人の主張を採用することはできない。

(2)本件発明4について
ア 甲第2号証を主引例とする理由について
(ア)特許法第29条第1項第3号について
本件発明4と甲2発明と対比する。
甲2発明における「軸筒1」、「カム筒16」、「ノックボタン11」及び「ピン部材13」は、それぞれ本件発明4における「軸筒」、「回転部」、「操作部」及び「連結部」に相当する。
甲2発明における「軸筒1の内面」に設けられた「カムフォロア19」は、ピン部材13及び/又はカム筒16と係合することによってノックボタン11の軸筒からの脱離を係止可能であるため、本件発明4における「軸筒側係合部」に相当する。
甲2発明において、「カム筒16」は、「軸心方向の移動は前記ノックボタン11の先端面および」「ピン部材13」の「鍔状の先端部15によって規制され」るのであり、「ピン部材13」の「鍔状の先端部15」に、「カム筒16」の先端面が係合することは明らかであるから、甲2発明の「カム筒16」の先端面は、本件発明1の「回転側係合部」に相当することとなり、本件発明の「前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、前記回転部は、回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、回転部の内周面に前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えている」ことと、甲2発明の「ピン部材13」が、「鍔状の先端部15」を有し、「カム筒16」が、「軸心方向の移動」を「鍔状の先端部15によって規制され」ることとは、「前記連結部は」「外周面に連結側係合部を有しており、前記回転部は」「回転部の内周面に前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えている」点で共通する。

この点、申立人は、特許異議申立書において、甲第2号証の第5頁第2行ないし第4行に「16はピン部材13の外周に回転自在に嵌装されたカム筒であり、」と記載されているように、カム筒16はピン部材13の外周に嵌装されているため、カム筒16の内周面はピン部材の外周面に係わり合っており、すなわち、カム筒16の内周面はピン部材の外周面に「係合」しているから、甲2発明における「ピン部材13の外周面のうちカム筒16に嵌合する部分」は、本件発明4における「連結側係合部」に相当し、甲2発明における「カム筒16の内周面のうちピン部材13の外周面に嵌合する部分、すなわちカム筒16の内周面」は、本件発明4における「回転側係合部」に相当する旨主張する。

しかしながら、本件発明4の発明の課題は、本件明細書の段落【0004】ないし【0007】の記載によれば、従来のノック式のボールペンは、レフィールの交換時等において、ノック棒200の軸筒201からの抜け落ちを防止するために、軸筒201の前方側から入れたノック棒200を係止して後方への移動を規制する抜け落ち防止壁202を後端部の周方向に延びるように設ける必要があり、ノック棒200の太さは、その抜け落ち防止壁202の分だけ細くなってしまい、軸筒の太さを細くしたいという需用者層の要望に沿って軸筒201の径を小さくして軸筒201を細くすると、ノック棒200の径も小さくなり、使用者が押圧操作する際の押圧面積が小さくなってしまい、使用者が押圧操作を行いにくくなるという問題があったところ、軸筒の太さを細くしても、十分な操作部(ノック棒)の太さを確保できる出没式筆記具を提供することであるといえるところ、この課題からすれば、本件発明4の「連結部」の「連結側係合部」と「回転部の回転側係合部」との「係合」は、「連結部」に「連結」された「操作部」の抜け落ちを防止するために資するものであることは明らかである。
また、本件発明4の「連結部」の「連結側係合部」と「回転部の回転側係合部」との「係合」は、「連結部」に「連結」された「操作部」の抜け落ちを防止するために資するものであることは、本件特許明細書の
「【0059】
連結側係合部71は、図2に示されるように、本体部70の長手方向の端部にあって、かつ、本体部70の外周面から径方向の外側に向けて張り出したフランジ状の部位である。」
「【0064】
また、回転用ガイド片83の内周面には、図11に示されるように、周方向に延びた突条部90(回転側係合部)を備えている。 突条部90は、連結部7の抜け落ちを防止する部位であり、連結部7の連結側係合部71と係合して連結部7の後方への移動を規制する部位である。」
との記載からも明らかである。
そうすると、甲2発明における「ピン部材13の外周面のうちカム筒16に嵌合する部分」及び「カム筒16の内周面のうちピン部材13の外周面に嵌合する部分、すなわちカム筒16の内周面」は、両者が「回転自在に嵌装」されることに資するものであって、ピン部材13が圧入固着されたノックボタン11の抜け落ちを防止することに資するものではないので、本件発明4における「連結側係合部」及び「回転側係合部」に相当するものではない。

さらに、申立人は、特許異議申立書において、甲2発明において、筆記可能状態(カムフォロア19が第2図のB点にある状態)では、カム筒16のうち前側の端部は、ピン部材13の鍔状の先端部15に係わり合っており、すなわち、カム筒16のうちの前側端部は、ピン部材13の先端部15に「係合可能」に構成され、ここで、ピン部材13の先端部15のうちカム筒16に当接する部分は、ピン部材13の外周面に位置するため、本件発明4における「連結側係合部」に相当し、また、カム筒16のうちのピン部材13の先端部15に当接する部分は、カム筒16の内周面に亘って設けられているため、本件発明4における「回転側係合部」に相当する旨主張する。

しかしながら、甲2発明において、「カム筒16」は、「軸心方向の移動は前記ノックボタン11の先端面および前記ピン部材13の前記鍔状の先端部15によって規制され」るのであり、ピン部材13の鍔状の先端部15に係合するのは、カム筒16の先端面であって、カム筒16の内周面に亘って当接するものではないことは明らかであるから、甲2発明の「カム筒16」の内周面は、本件発明4における「回転側係合部」に相当しないというべきである。

そして、本件発明4と甲2発明とは、少なくとも、以下の相違点(以下「甲2の相違点’」という。)において相違する。

(甲2の相違点’)
「回転部」が備える「連結側係合部と係合可能な回転側係合部」が、本件発明4では「回転部の内周面に」設けられたものであるのに対し、甲2発明では「カム筒16」の先端面であって、「カム筒16」の内周面に設けられたものではない点。

以上のとおり、本件発明4と甲2発明とは、少なくとも、甲2の相違点’において相違するから、本件発明4は甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項4に係る特許は、甲2発明によっては、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用することができない。

(イ)特許法第29条第2項について
上記(ア)で検討したとおり、本件発明4と甲2発明とは、少なくとも、甲2の相違点’において相違する。

(甲2の相違点’について)
甲2発明において、「カム筒16」の内周面に、「ピン部材13」の外周面と係合して「ノックボタン11」の抜け落ちを防止する係合部を設けることは、既に「カム筒16」の先端面と「ピン部材13」の「先端部15」の後端面とが抜け落ちを防止している以上、その必要性が見出せず、仮に、そのような係合部を設けたとしても、「カム筒16」の先端面と「ピン部材13」の「先端部15」の後端面との係合に比して、十分な大きさの係合面を形成することができず係合が不十分となることは当業者に明らかであるから、当業者にとって容易になし得たことということはできない。

この点、申立人は、特許異議申立書において、甲2発明において、カム筒16のうちピン部材13の先端部15に当接する部分(回転側係合部)がカム筒16の内周面に設けられていると認められない場合であっても、カム筒16の内周側に位置するピン部材13をカム筒16に軸方向に当接可能に構成するためには、カム筒16の内周面側及びピン部材13の外周面側に設けられることは自明であり、当業者にとって容易である旨主張する。
しかしながら、上述したように、カム筒16の内周側に位置するピン部材13をカム筒16に軸方向に当接可能に構成する必要性が見出せず、仮に、そのような構成としたとしても、「カム筒16」の先端面と「ピン部材13」の「先端部15」の後端面との係合に比して、十分な大きさの係合面を形成することができず係合が不十分となることは当業者に明らかであるから、当業者にとって容易になし得たことということはできない。

したがって、本件発明4は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件請求項4に係る特許は、甲2発明によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用できない。

イ 甲第3号証を主引例とする理由について
(ア)特許法第29条第1項第3号について
本件発明4と甲3発明と対比する。
甲3発明における「軸胴1」、「回転体3」、「押圧子2の一端側2aの露出部分」及び「押圧子2の一端側2aの露出部分よりも前方側の部分全体」は、それぞれ本件発明4における「軸筒」、「回転部」、「操作部」及び「連結部」に相当する。
甲3発明における軸胴1の内周面に設けられた「突起4」は、回転体3と係合することによって押圧子2の軸胴1からの脱離を係止可能であるため、本件発明4における「軸筒側係合部」に相当する。
甲3発明において、「押圧子2は軸胴1内に位置する外周部に所要の長さで小径の嵌合部2bが形成され且つ内端2cは芯管5末端に当接していて嵌合部2bには回転体3が回転可能に嵌合され」ており、第1図及び第2図も参照すれば、「押圧子2の一端側2aの露出部分よりも前方側の部分全体」が棒状であって、外周面に「内端2c」の後端面を有しており、「回転体3」に「押圧子2」の「内端2c」の後端面と係合可能な前端面を備えていることは明らかであるから、甲3発明の「内端2c」の後端面及び「回転体3」の前端面は、本件発明4の「連結側係合部」及び「回転側係合部」に相当し、本件発明4の「前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、前記回転部は、回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、回転部の内周面に前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えている」ことと、甲3発明の「押圧子2の一端側2aの露出部分よりも前方側の部分全体」が棒状であって、外周面に「内端2c」の後端面を有しており、「回転体3」に「押圧子2」の「内端2c」の後端面と係合可能な前端面を備えていることとは、「前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、前記回転部は、回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えている」点で共通する。

この点、申立人は、特許異議申立書において、甲3発明において、「回転体3は合成樹脂で一体成形されたもので、外径が押圧子2の外径と略同径で、内径が嵌合部2bと略同径に形成された縦方向に切り割3aのある円筒状をなし、上記押圧子2を軸胴1外に取出した状態で、上記切り割3aを開くことにより、嵌合部2bに嵌合されその復元力で脱抜しないように回転可能に取付けられて」いることから、回転体3は押圧子2のうち嵌合部2bを含む部分の外周面に嵌合されているため、回転体3の内周面は押圧子2のうち嵌合部2bを含む部分の外周面に係わり合っており、すなわち、回転体3の内周面は押圧子2のうち嵌合部2bを含む部分の外周面に「係合」しており、したがって、甲3発明における「押圧子2の外周面のうち回転体3に嵌合する部分」は、本件発明4における「連結側係合部」に相当し、甲3発明における「回転体3の内周面のうち押圧子2の外周面に嵌合する部分、すなわち回転体3の内周面」は、本件発明4における「回転側係合部」に相当する旨主張する。

しかしながら、上記(2)ア(ア)で検討したように、本件発明4の発明の課題及び本件明細書の記載に鑑みれば、本件発明4の「連結部」の「連結側係合部」と「回転部の回転側係合部」との「係合」は、「連結部」に「連結」された「操作部」の抜け落ちの防止に資するものであることは明らかである。
そうすると、甲3発明において、「押圧子2」の「一端側2a」の抜け落ちの防止に資するのは、「押圧子2」の「内端2c」の後端面と係合する回転体3の前端面であり、「押圧子2の外周面のうち回転体3に嵌合する部分、すなわち回転体3の内周面」は、回転可能に嵌合されることに資するものであって、「押圧子2」の「一端側2a」の抜け落ちの防止に資するものではないので、本件発明4における「回転側係合部」に相当するものではない。

そして、本件発明4と甲3発明とは、少なくとも、以下の相違点(以下「甲3の相違点」という。)において相違する。

(甲3の相違点)
「回転部」が「備え」る「連結側係合部と係合可能な回転側係合部」が、本件発明4では「回転部の内周面に」設けられたものであるのに対し、甲3発明では「回転体3」の先端面であって、「回転体3」の内周面に設けられたものではない点。

したがって、本件発明4と甲3発明とは、少なくとも、甲3の相違点において相違するから、本件発明4は甲3発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項4に係る特許は、甲3発明によっては、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用することができない。

ウ 甲第6号証を主引例とする理由について
(ア)特許法第29条第1項第3号について
本件発明4と甲6発明と対比する。
甲6発明における「前軸12と後軸15によって」「構成」される「軸筒」、「回転カム16」、「ノブ20」及び「中子17、後スプリング21及び押部材18からなる構造」は、それぞれ本件特許発明4における「軸筒」、「回転部」、「操作部」及び「連結部」に相当する。
甲6発明における「後軸15の内面に」「形成され」た「カム溝15Aの後端縁15D」は、「押部材18の突部18A後端」と「当接」することによって「ノブ20」の「後軸15」からの脱離を係止可能といえるため、本件特許発明4における「軸筒側係合部」に相当する。
甲6発明において、「内軸9の後端と中子17の外鍔17B前端が当接すると、中子17が後方に押され、回転カム16の突部16Bが後軸15の傾斜面15Cと垂直面15Bからなる係止部に係止された状態とな」ることから、「外鍔17B」の後端面と、「回転カム16」の先端面とが係合可能であることは明らかであり、図1及び図3も参照すれば、「中子17、後スプリング21及び押部材18からなる構造」が棒状であることも明らかであるから、甲6発明の「外鍔17B」の後端面と「回転カム16」の先端面は、それぞれ本件発明4の「連結側係合部」及び「回転側係合部」に相当し、本件発明4の「前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、前記回転部は回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、回転部の内周面に前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えている」ことと、甲6発明の「中子17、後スプリング21及び押部材18からなる構造」は、棒状であって、「中子16」の外周面に、「外鍔17B」を有し、「回転カム16は、中子17に回動可能および長手方向に摺動可能に外嵌され」、「外鍔17B」と係合可能な先端面を備えることとは、「前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、前記回転部は、回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えている」の点で共通する。

この点、申立人は、特許異議申立書において、甲6第号証の段落【0013】に「この回転カム16は、中子17に回動可能および長手方向に摺動可能に外嵌される。」と記載されているように、回転カム16は中子17の外周に外嵌されているため、回転カム16の内周面は中子17の外周面に係わり合っており、すなわち、回転カム6の内周面は中子17の外周面に「係合」しており、したがって、甲6発明における「中子17の外周面のうち回転カム16に嵌合する部分」は、本件発明4における「連結側係合部」に相当し、甲6発明における「回転カム16の内周面のうち中子17の外周面に嵌合する部分、すなわち回転カム16の内周面」は、本件発明4における「回転側係合部」に相当する旨主張する。

しかしながら、上記(2)ア(ア)で検討したように、本件発明4の発明の課題及び本件明細書の記載に鑑みれば、本件発明4の「連結部」の「連結側係合部」と「回転部の回転側係合部」との「係合」は、「連結部」に「連結」された「操作部」の抜け落ちの防止に資するものであることは明らかである。
そうすると、甲6発明において、「ノブ20」の抜け落ちの防止に資するのは、「回転カム16の突部16Bが後軸15の傾斜面15Cと垂直面15Bからなる係止部に係止された状態」における、「中子17」の「外鍔17B」の後端面と係合する「回転カム16」の前端面であり、「中子17の外周面のうち回転カム16に嵌合する部分」は、「回転可能および長手方向に摺動可能に外嵌される」ことに資するものであって、「ノブ20」の抜け落ち防止に資するものではないので、本件発明4における「回転側係合部」に相当するものではない。

そして、本件発明4と甲6発明とは、少なくとも、以下の相違点(以下「甲6の相違点」という。)において相違する。

(甲6の相違点)
「回転部」が備える「連結側係合部と係合可能な回転側係合部」が、本件発明4では「回転部の内周面」に設けられたものであるのに対し、甲6発明では「回転カム16」の先端面であって、「回転カム16」の内周面に設けられたものではない点。

したがって、本件発明4と甲6発明とは、少なくとも、甲6の相違点において相違するから、本件発明4は甲6発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項4に係る特許は、甲6発明によっては、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用することができない。

(イ)特許法第29条第2項について
上記(ア)で検討したとおり、本件発明4と甲6発明とは、少なくとも、甲6の相違点において相違する。

(甲6の相違点について)
甲6発明において、「回転体カム16」の内周面に、「中子17」の外周面と係合して「ノブ20」の抜け落ちを防止する係合部を設けることは、既に「回転カム16」の先端面と「外鍔17B」の後端面とが抜け落ちを防止している以上、その必要性が見出せず、仮に、必要性が見出せたとしても、「回転子カム16」の先端面と「中子17」の「外鍔17B」の後端面との係合に比して、十分な大きさの係合面を形成することができず係合が不十分となることは当業者に明らかであるから、当業者にとって容易になし得たことということはできない。

したがって、本件発明4は、甲6発明及び甲第1号証ないし甲第5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件請求項4に係る特許は、甲6発明及び甲第1号証ないし甲第5号証の記載事項によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用できない。

(3)本件発明5ないし10について
本件発明5ないし10は、訂正後の請求項1または4を直接または間接的に引用して記載された発明であり、本件発明1または4の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものである。
そうすると、上記(1)及び(2)で検討したとおり、本件発明1または4は、甲第2号証、甲第4号証または甲第6号証に記載された発明ではないから、本件発明5ないし10も、甲第2号証、甲第4号証または甲第6号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。したがって、本件請求項5ないし10に係る特許は、甲第2号証、甲第4号証または甲第6号証によっては、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず、申立人の主張は採用できない。
同様に、上記(1)及び(2)で検討したとおり、本件発明1または4は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証または甲第6号証を主引例としては、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明5ないし10も、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証または甲第6号証を主引例としては、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件請求項5ないし10に係る特許は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証または甲第6号証を主引例としては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず、申立人のかかる主張は採用できない。

ウ 小括
よって、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由によっては、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の内部に、回転部と、操作部の一部と、前記操作部と前記回転部を連結する連結部を備え、前記操作部の他の一部が前記軸筒から露出し、当該露出部分に押圧部を有する出没式筆記具であって、
前記操作部の押圧部を押圧することで前記回転部が回転し、筆記部が前記軸筒の先端から外部に出没可能な出没式筆記具において、
前記軸筒は、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分全体を後端部側から挿入可能であり、
前記軸筒は、その内周面に前記連結部及び/又は前記回転部と係合可能な軸筒側係合部を有し、
前記軸筒側係合部は、前記連結部及び/又は前記回転部と係合することによって、前記操作部の軸筒からの脱離を係止可能であり、
筆記部を先端に備えた芯部材を有し、
前記操作部を押圧操作することで、前記回転部が前方側に移動して芯部材を押圧して筆記部の一部が前記軸筒から突出した筆記可能状態となるものであり、
前記軸筒側係合部は、連結用規制部を有し、
筆記可能状態の操作部を押圧操作することで、前記回転部が後方側に移動して筆記部の全体が前記軸筒の内部に収納された収納状態となるものであり、
前記連結用規制部は、収納状態において、連結部の後方側への移動を規制するものであり、
前記回転部は、前記回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、
前記連結部は、前記収納状態において、前記回転部の内部で前記連結用規制部と係合可能な連結側係合部を有することを特徴とする出没式筆記具。
【請求項2】
前記軸筒側係合部は、操作用規制部と、回転用規制部を有し、
前記操作用規制部は、前記操作部の周方向の移動を規制するものであり、
前記回転用規制部は、筆記可能状態において、前記回転部の後方側への移動を規制するものであることを特徴とする請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記軸筒側係合部は、前記軸筒の後端部から軸筒の全長の1/4の範囲に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
軸筒の内部に、回転部と、操作部の一部と、前記操作部と前記回転部を連結する連結部を備え、前記操作部の他の一部が前記軸筒から露出し、当該露出部分に押圧部を有する出没式筆記具であって、
前記操作部の押圧部を押圧することで前記回転部が回転し、筆記部が前記軸筒の先端から外部に出没可能な出没式筆記具において、
前記軸筒は、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分全体を後端部側から挿入可能であり、
前記軸筒は、その内周面に前記連結部及び/又は前記回転部と係合可能な軸筒側係合部を有し、
前記軸筒側係合部は、前記連結部及び/又は前記回転部と係合することによって、前記操作部の軸筒からの脱離を係止可能であり、
前記連結部は、棒状であって、外周面に連結側係合部を有しており、
前記回転部は、回転部の内部に前記連結部の一部を挿入可能であり、回転部の内周面に前記連結側係合部と係合可能な回転側係合部を備えていることを特徴とする出没式筆記具。
【請求項5】
前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分は、筒状であって、その内側に前記連結部の一部が挿入されており、
さらに、前記操作部の前記露出部分よりも前方側の部分は、その内周面に前記連結部の外周面と係合可能な操作側係合部を備えていることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項6】
前記操作側係合部は、複数の突起部から構成されており、
前記複数の突起部は、周方向に連続的又は間欠的に並んでいることを特徴とする請求項5に記載の出没式筆記具。
【請求項7】
前記操作側係合部は、第1突起部と、第2突起部を有し、
前記第1突起部と第2突起部は、周方向に交互に並んでおり、
前記第1突起部は、第2突起部よりも突出高さが高いことを特徴とする請求項6に記載の出没式筆記具。
【請求項8】
前記第1突起部は、隣接する第2突起部と連なって周方向に延びた突条を形成しており、
前記突条は、無端状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の出没式筆記具。
【請求項9】
前記連結部と操作部は、固着されていることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項10】
前記操作部の軸筒からの露出部分に、軸筒内部の部位の外径よりも大きな外径を備えた部位を有することを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の出没式筆記具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-16 
出願番号 特願2015-176737(P2015-176737)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B43K)
P 1 651・ 851- YAA (B43K)
P 1 651・ 121- YAA (B43K)
P 1 651・ 113- YAA (B43K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 金田 理香  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤田 年彦
清水 康司
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6621172号(P6621172)
権利者 株式会社サクラクレパス
発明の名称 出没式筆記具  
代理人 藤田 隆  
代理人 藤田 隆  

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