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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B41J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
管理番号 1372723
異議申立番号 異議2019-700333  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-24 
確定日 2021-03-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6409320号発明「画像処理装置、画像処理プログラム、及び画像処理方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6409320号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし7〕,8,9について訂正することを認める。 特許第6409320号の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を維持する。 特許第6409320号の請求項3及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6409320号(請求項の数9。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,平成26年4月25日の出願であって,平成30年10月5日に特許権の設定登録がされたものである。
同月24日に本件特許の特許掲載公報の発行がなされたところ,平成31年4月24日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より請求項1ないし9に係る特許について特許異議の申立てがされ,令和1年6月19日付けで特許権者に取消理由が通知され,同年8月26日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ,同年10月2日に特許権者より訂正請求書を補正対象とする手続補正書が提出され,同年11月18日に申立人より意見書が提出され,同年12月5日付けで特許権者に訂正拒絶理由が通知され,令和2年1月9日に特許権者より訂正請求書及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲を補正対象とする手続補正書並びに意見書が提出され,同年1月29日付けで特許権者に取消理由通知(決定の予告)がされ,同年4月3日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ,同年9月28日に特許権者に取消理由が通知され,同年12月3日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。なお,特許法120条の5第7項の規定により,令和1年8月26日及び令和2年4月3日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。)がされた。
なお,特許法120条の5第5項の規定に基づき,申立人に対して,本件訂正請求があった旨の通知がされ,意見書を提出する機会が与えられたが,申立人は,指定期間内に意見書を提出しなかった。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし9について訂正することを求める,というものであるところ,本件訂正は,次の訂正事項からなる(下線は訂正箇所を示す。)。
なお,訂正前の請求項2ないし7は,本件訂正により訂正される請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する形式で記載されたものであるから,請求項1ないし7は一群の請求項である。
(1)請求項1ないし7に係る訂正事項
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1に「第1方向に相対移動される記録部で形成する,積層画像の積層画像データ」とあるのを,「第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」と訂正する。
イ 訂正事項2
訂正前の請求項1に「前記積層画像データから第1印刷データを生成する第1生成部と,を備え,」とあるのを,「第1印刷データを生成する第1生成部と,前記積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成部と,を備え,前記第1生成部は,前記第2印刷データから,前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し,」と訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項3を削除する。
エ 訂正事項4
訂正前の請求項4に「請求項1?請求項3の何れか1項に記載の」とあるのを,「請求項1または請求項2に記載の」と訂正する。
オ 訂正事項5
請求項5を削除する。
カ 訂正事項6
訂正前の請求項6に「請求項5に記載の」とあるのを,「請求項1に記載の」と訂正する。
キ 訂正事項7
訂正前の請求項7に「前記第1生成部は,」とあるのを,「前記第2生成部は,」と訂正する。
(2)請求項8に係る訂正事項
ア 訂正事項8
訂正前の請求項8に「第1方向に相対移動される記録部で形成する,積層画像の積層画像データ」とあるのを,「第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」と訂正する。
イ 訂正事項9
訂正前の請求項8に「第1印刷データを生成する生成ステップと,を実行させるための画像処理プログラムであって,前記生成ステップは,」とあるのを,「第1印刷データを生成する第1生成ステップと,前記積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成ステップと,を実行させるための画像処理プログラムであって,前記第1生成ステップは,前記第2印刷データから,前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し,前記第1生成ステップは,」と訂正する。
(3)請求項9に係る訂正事項
ア 訂正事項10
訂正前の請求項9に「第1方向に相対移動される記録部で形成する,積層画像の積層画像データ」とあるのを,「第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」と訂正する。
イ 訂正事項11
訂正前の請求項9に「第1印刷データを生成する生成ステップと,を含み,前記生成ステップは,」とあるのを,「第1印刷データを生成する第1生成ステップと,前記積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成ステップと,を含み,前記第1生成ステップは,前記第2印刷データから,前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し,前記第1生成ステップは,」と訂正する。
2 訂正の目的について
訂正事項1は,請求項1に係る発明,及び請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2,4,6,7に係る発明において,「第1印刷データに基づいて」記録部での形成がなされること,積層画像データが,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む」こと,及び,積層画像が,「1層のドットによる画像を重ねて積層させた」ものであることを限定する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項2は,請求項1に係る発明,及び請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2,4,6,7に係る発明において,「積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成部」を備えることを特定するとともに,積層画像データから第1印刷データを生成する第1生成部について,積層画像データから生成した第2印刷データを用いて,第2の条件を満たすように生成するものに限定する訂正であるから,同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項3ないし5は,本件特許の特許請求の範囲から,請求項3及び5を削除する訂正であるから,同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項6は,訂正前の請求項5の記載を引用していた請求項6について,訂正前の請求項5のうち請求項1の記載を引用するものの発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当する訂正後の請求項1の記載を引用するよう訂正する訂正事項であるから,実質上,同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項7は,「第2生成部は,」の誤記であることが明らかであった訂正前の「第1生成部は,」という記載を,正しい記載に訂正する訂正事項であるから,同項ただし書2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
訂正事項8及び10は,それぞれ,請求項8及び9に係る発明において,「第1印刷データに基づいて」記録部での形成がなされること,積層画像データが,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む」こと,及び,積層画像が,「1層のドットによる画像を重ねて積層させた」ものであることを限定する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項9及び11は,それぞれ,請求項8及び9に係る発明において,「積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成ステップ」を備えることを特定し,当該第2生成ステップと区別するために,訂正前の「生成ステップ」を「第1生成ステップ」という名称に改めるとともに,積層画像データから第1印刷データを生成する第1生成ステップについて,積層画像データから生成した第2印刷データを用いて,第2の条件を満たすように生成するものに限定する訂正であるから,同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
3 新規事項の追加の有無について
訂正事項1,8及び10による限定事項は,本件訂正前の願書に添付された明細書(特許された時点での明細書である。以下,特許された時点の明細書を「本件明細書」といい,特許された時点での特許請求の範囲,明細書及び図面を総称して「本件明細書等」という。)の【0029】ないし【0031】,【0036】,【0080】等に記載された事項である。
訂正事項2,9及び11による限定事項は,本件明細書等の請求項5,【0100】ないし【0107】,図13(K)ないし(T)等に記載された事項から導き出される事項である。
訂正事項3ないし5は,本件特許の特許請求の範囲から,請求項3及び5を削除する訂正であるから,新規事項を追加するものでないことは明らかである。
訂正事項6による訂正後の請求項6は,実質上,訂正前の請求項1の記載を引用する請求項5の記載を引用する請求項6に,訂正事項1による訂正と,訂正事項2のうちの一部の訂正を行ったものに該当するところ,訂正事項1及び2による限定事項が,が本件明細書等に記載された事項及び本件明細書等に記載された事項から導き出される事項である以上,訂正事項6による限定事項も,本件明細書等に記載された事項及び本件明細書等に記載された事項から導き出される事項である。
訂正事項7による訂正後の「第1生成部は,前記積層画像データにおける前記階層ごとに,前記階層に対応する前記割当情報に基づいて,前記積層画像データにおける各画素に対応する前記割当位置を変更する」点は,願書に最初に添付した明細書(以下,「当初明細書」という。)の【0111】に記載された事項である。
以上のとおりであるから,訂正事項1ないし6,8ないし11は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,訂正事項7は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について
訂正事項1ないし5,8ないし11は,特許請求の範囲を減縮するものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
訂正事項6による訂正後の請求項6は,訂正前の請求項1を引用する請求項5を引用する請求項6の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。
訂正事項7による訂正前の請求項7において,積層画像データの階層ごとに,積層画像データの各階層の各画素の各々に対応するノズルの割当位置を変更するのが第2生成部であることは,当該請求項7が引用する請求項6の「前記第2生成部は,前記第2の条件を満たすように,前記積層画像データの階層ごとに,前記積層画像データの各階層の各画素の各々に対応する前記ノズルの割当位置を変更した,前記第2印刷データを生成する」という記載や本件明細書等の【0111】の記載から,当業者が直ちに理解できることであるから,訂正事項7による訂正前の請求項7の記載に接した当業者は,訂正前の請求項7の「前記第1生成部は,」との記載を,「前記第2生成部は,」の誤記であると認識するものと認められる。したがって,訂正事項7による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものとはいえない。
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
5 小括
前記2ないし4のとおり,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び2号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし7〕,8,9について訂正することを認める。
第3 本件特許の請求項1ないし9に係る発明
前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1,2,4,6ないし9に係る発明(請求項3及び5は削除された。以下,本件訂正後の請求項1,2,4,6ないし9に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」,「本件訂正発明4」,「本件訂正発明6」ないし「本件訂正発明9」といい,これらを総称して「本件訂正発明」という。)は,それぞれ,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2,4,6ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,当該請求項1,2,4,6ないし9の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】
液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され,前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データを取得する取得部と,
前記記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって前記積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように,第1印刷データを生成する第1生成部と,
前記積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各画素の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成部と,
を備え,
前記第1生成部は,前記第2印刷データから,前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し,
前記第1生成部は,印刷条件に応じて,前記記録媒体の同じ記録領域に対する,前記記録部の前記第2方向への走査回数を設定する設定部を有する,
画像処理装置。
【請求項2】
前記第1生成部は,前記第1の条件を満たすように,前記積層画像データにおける各階層の画素に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた前記第1印刷データを生成する,請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記第1生成部は,前記積層画像データにおける,前記第2方向への1回の走査時に記録するドットに対応する画素の階層差が閾値以下となるように,前記第1印刷データを生成する,請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第2生成部は,前記第2の条件を満たすように,前記積層画像データの階層ごとに,前記積層画像データの各階層の各画素の各々に対応する前記ノズルの割当位置を変更した,前記第2印刷データを生成する,請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記階層ごとに,各階層間で互いに異なる前記割当位置を定めた割当情報を記憶した記憶部を備え,
前記第2生成部は,前記積層画像データにおける前記階層ごとに,前記階層に対応する前記割当情報に基づいて,前記積層画像データにおける各画素に対応する前記割当位置を変更する,請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
コンピュータに,
液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され,前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データを取得する取得ステップと,
前記記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって前記積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように,前記第1印刷データを生成する第1生成ステップと,
前記積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各画素の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成ステップと,
を実行させるための画像処理プログラムであって,
前記第1生成ステップは,前記第2印刷データから,前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し,
前記第1生成ステップは,印刷条件に応じて,前記記録媒体の同じ記録領域に対する,前記記録部の前記第2方向への走査回数を設定する設定ステップを含む,
画像処理プログラム。
【請求項9】
液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され,前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データを取得する取得ステップと,
前記記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって前記積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように,前記第1印刷データを生成する第1生成ステップと,
前記積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,前記積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,前記積層画像データの各階層の各画素の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成ステップと,
を含み,
前記第1生成ステップは,前記第2印刷データから,前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し,
前記第1生成ステップは,印刷条件に応じて,前記記録媒体の同じ記録領域に対する,前記記録部の前記第2方向への走査回数を設定する設定ステップを含む,
画像処理方法。」
第4 通知された取消理由の概要
1 取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由
令和2年1月29日付けの取消理由通知(決定の予告)により,令和1年8月26日にされた訂正の請求による訂正後(請求項8及び9に係る訂正が認容された。)の請求項1ないし9に係る特許に対して通知された取消理由は,概略次のとおりである。
取消理由1(進歩性欠如):
請求項1ないし4に係る発明は,本件特許に係る出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本件特許に係る出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,請求項1ないし4に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。

甲1:特開2005-104086号公報
取消理由2(実施可能要件違反):
請求項1ないし7に係る特許は,本件明細書の記載が下記の点で不備のため,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113号第4号に該当し,取り消されるべきものである。

請求項1ないし7には,「積層画像」が「1層のドットによる画像を重ねて積層させた」ものであり,「積層画像データ」が「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む」ものであることが特定されていないところ,本件明細書には,「積層画像」が「1層のドットによる画像を重ねて積層させた」ものであり,「積層画像データ」が「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む」ものである場合以外のときに,「積層画像データ」から「第1印刷データ」をどのように生成するかについて,当業者が請求項1ないし7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
取消理由3(サポート要件違反):
請求項1ないし9に係る特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(取消理由3-1)本件明細書の記載から,請求項1ないし7に係る発明が解決しようとする課題は,色ムラやスジを抑制するために1層の印刷層をマルチパス方式で印刷すると,複数のドットを積層させた積層画像を形成する場合に,積層数が多くなるほど画像形成に要する時間が長くなってしまうということであったと理解され,当該課題を解決するために,記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録するという手段を採用することが記載されていると理解されるが,請求項1ないし7には,マルチパス方式で印刷するものであることが特定されることとなるような発明特定事項は記載されていないから,請求項1ないし7には,請求項において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる。したがって,請求項1ないし7に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。
(取消理由3-2):請求項8及び9には,「第2印刷データ」が,いかなる用途に用いられるものであるのか,何ら特定されていないから,請求項8及び9には,「第1印刷データ」ではなく,「第2印刷データ」が,ドットを形成するためのデータとして用いられる態様も包含され得るものと認められるが,本件訂正発明8及び9が解決しようとする課題とその解決手段は,取消理由3-1で述べたとおりのものである。そうすると,請求項8及び9に係る発明において,「第1印刷データ」ではなく,「第2印刷データ」が,ドットを形成するためのデータとして用いられる場合,上述の解決手段が採用されないことになるから,請求項8及び9は,請求項において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる。したがって,請求項8及び9に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。
取消理由4(明確性要件違反):
請求項1ないし7に係る特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。

(取消理由4-1):請求項1ないし7において,「積層画像」及び「積層画像データ」との発明特定事項の技術的意味が明確でないから,請求項1ないし7に係る発明は明確でない。
(取消理由4-2):請求項3ないし7において,「前記第1生成部は,前の走査によって記録済の画素の上層側に隣接する画素を,次の走査時に記録する画素として定めた前記第1印刷データを生成する」との発明特定事項は,「次の走査時に記録する画素」は,「前の走査によって記録済の画素の上層側に隣接する画素」のみであるという態様を包含するものと認められるが,このような態様は,請求項3ないし7が引用する請求項1の「1回の走査によって前記積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する」との発明特定事項と矛盾する。したがって,請求項3ないし7に係る発明は明確でない。
(取消理由4-3):請求項5ないし7には,「第1印刷データ」が,「第2の条件」を満たすか否かは,何ら特定されていないから,請求項5ないし7は,「第1印刷データ」が,「第2の条件」を満たさない場合も包含し得るものと認められる。しかしながら,積層画像データから,第2印刷データを生成し,第2印刷データから第1印刷データを生成するにも関わらず,第2印刷データの特徴が第1印刷データに何ら反映されないのであれば,第2印刷データを生成することの技術的意義が不明である。したがって,請求項5ないし7に係る発明は明確でない。
(取消理由4-4):請求項7には,「前記第1生成部は,前記積層画像データにおける前記階層ごとに,前記階層に対応する前記割当情報に基づいて,前記積層画像データにおける各画素に対応する前記割当位置を変更する」との発明特定事項が記載されているが,当該発明特定事項は,請求項7が引用する請求項6に記載された「前記第2生成部は,前記第2の条件を満たすように,前記積層画像データの階層ごとに,前記積層画像データの各階層の各画素の各々に対応する前記ノズルの割当位置を変更した,前記第2印刷データを生成する」との発明特定事項と矛盾する。したがって,請求項7に係る発明は明確でない。
2 令和2年9月28日付けで通知した取消理由の概要
令和2年9月28日付けで,令和2年4月3日にされた訂正の請求による訂正後の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許に対して通知した取消理由は,概略次のとおりである。
取消理由5(明確性要件違反):
請求項1,2,4,6ないし9に係る発明は,下記の点で明確でないから,その特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113号第4号に該当し,取り消されるべきものである。

請求項1,2,4,6ないし9において,「同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを第2方向で異なるノズルとする」とは,いかなることを指しているのか,たとえ本件特許明細書の記載や技術常識を参酌しても,理解することができないから,請求項1,2,4,6ないし9に係る発明は明確でない。
第5 判断
1 取消理由1(進歩性欠如)について
(1)引用例
ア 甲1の記載
甲1(特開2005-104086号公報)は,本件特許に係る出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲1発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,記録媒体に記録材を記録することによって所定の濃度情報を表現することが可能なインクジェット記録方法,インクジェット記録システム,インクジェット記録装置および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年来のパーソナルコンピュータ等情報処理機器の普及に伴い,画像形成端末としての記録装置も急速に発展および普及してきた。特に種々の記録装置の中でも,吐出口からインクを吐出させて紙,布,プラスチックシート,OHP用シートなどの記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置は,低騒音のノンインパクト型の記録方式であること,高密度かつ高速な記録動作が可能であること,カラー記録にも容易に対応できること,低廉であることなど,極めて優れた特長を有しており,今やパーソナルユースの記録装置の主流となっている。
・・・(中略)・・・
【0006】
ところで,パーソナルユースのインクジェット記録装置においては,上述したように写真画質に迫る高品位な画像の出力が求められる一方で,テキストや図表のような通常の文書を出力する場合も少なくない。そして,このような文書においては,銀塩写真並みの画像品位よりも,むしろ高速に出力することが肝要とされるのである。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,上記のような画質向上への技術開発は,必ずしも低廉化や高速出力を重視する記録モードと共存できるものばかりではなかった。たとえば,記録素子から吐出されるインクの量(以下吐出量と称す)を変調できない構成のインクジェット記録装置においては,粒状感を低減するために,記録ヘッドに配列する各記録素子から吐出される全てのインク滴が固定量の小ドロップとなっている。そして,この決められた吐出量で記録されるドットを,好ましい密度に配列させることによって,所望の濃度が得られるように設計されている(例えば,特許文献2参照。)。よって,吐出量が小さくなればなるほど,所望の濃度を得るための記録密度が高くなり,そのための構成手段やデータの処理も,複雑でありながら,ある程度固定的に確立されてしまっているのである。従って,より高速に出力したいモードにおいても,所定の濃度を得るためには,上記構成手段やデータの処理方法に依存して記録せざるを得ない状況にあり,十分な濃度を満足のいく記録速度で得ることが困難な状況であった。
【0009】
本発明は上述の問題点を解消するためになされたものであり,その目的とするところは,小ドロップを実現する所定の吐出量に固定されたインクジェット記録ヘッドを用いながら,上記吐出量から得られる好適な記録密度よりも低い記録密度でデータ処理および記録を行いつつ,所望の画像濃度を得ることが可能なインクジェット記録方法,インクジェット記録システム,インクジェット記録装置,および当該記録方法を実現するための制御プログラムを提供することである。」
(イ) 「【0019】
(第1の実施形態)
以下に,本発明の第1実施形態を詳細に説明する。
図1は,本実施形態における画像データ変換処理の流れを説明するためのブロック図である。本実施形態で適用するインクジェット記録装置は,シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックの基本色であるインクのほかに,レッド,ライトシアンおよびライトマゼンタによって記録を行うものであり,そのためにこれら6色のインクを吐出する記録ヘッドが用意されている。図1に示すように,ここに示す各処理は,記録装置とホスト装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)によって構成されるものとする。
【0020】
ホスト装置のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがあり,アプリケーションJ0001は記録装置で記録する画像データを作成する処理を実行する。実際の記録時にはアプリケーションで作成された画像データがプリンタドライバに渡される。
【0021】
本実施形態の記録システムにおいては,用途に応じてユーザが記録モードをプリンタドライバから選択できるようになっている。本実施形態では高画質写真モードおよび高速モードの少なくとも2つの記録モードが選択可能であるとし,プリンタドライバ以降の各処理は,記録モードに応じてある程度独立に設計可能なものとする。
【0022】
以下に,まず,高画質写真モードで記録する場合の処理を説明する。
【0023】
本実施形態におけるプリンタドライバはその処理として,前段処理J0002,後段処理J0003,γ補正J0004,ハーフトーニングJ0005,および印刷データ作成J0006を有するものとする。・・・(中略)・・・
【0026】
ハーフトーニングJ0005は,8ビットの色分解データY,M,C,K,R,Lc,Lmそれぞれについて4ビットのデータに変換する量子化を行う。本実施形態では,誤差拡散法を用いて256階調の8ビットデータを,9階調の4ビットデータに変換する。この4ビットデータは,記録装置におけるドット配置のパターン化処理における配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
【0027】
プリンタドライバで行う処理の最後には,印刷データ作成処理J0006によって,上記4ビットのインデックスデータを内容とする印刷イメージデータに印刷制御情報を加えた印刷データを作成する。
【0028】
記録装置は,入力されてきた上記印刷データに対し,ドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008を行う。
【0029】
以下に本実施形態の高画質モードにおけるドット配置パターン化処理J0007について説明する。上述したハーフトーン処理では,256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を9値の階調値情報(4ビットデータ)までにレベル数を下げている。しかし,実際に本実施形態のインクジェット記録装置が記録できる情報は,インクを記録するか否かの2値情報である。ドット配置パターン化処理では,0?8の多値レベルをドットの有無を決定する2値レベルまで低減する役割を果たす。具体的には,このドット配置パターン化処理J0007では,ハーフトーン処理部からの出力値であるレベル0?8の4ビットデータで表現される画素ごとに,その画素の階調値(レベル0?8)に対応したドット配置パターンを割当て,これにより1画素内の複数のエリア各々にドットのオン・オフを定義し,1画素内の各エリアに「1」または「0」の1ビットの吐出データを配置する。
・・・(中略)・・・
【0035】
以下に高画質写真モードにおけるマスクデータ変換処理J0008について説明する。
上述したドット配置パターン化処理により,記録媒体上の各エリアに対するドットの有無は決定されたので,この情報をそのまま記録ヘッドの駆動回路に入力すれば,所望の画像を記録することは可能である。しかし,インクジェット記録装置においては,通常マルチパス記録という記録方法が採用されている。
・・・(中略)・・・
【0038】
図4は,本実施形態の高画質写真モードで実際に適用するマスクパターンを示したものである。本実施形態で適用する記録ヘッドH1001は768個のノズルを有している。また,高画質写真モードでは,図3と同様に4パスのマルチパスを行うものとする。従って,4つのノズル群にはそれぞれ192個ずつのノズルが属することになる。マスクパターンの大きさは,縦方向がノズル数と同等の768エリア,横方向は256エリアとなっており,4つのノズル群で互いに補完の関係を保つような構成となっている。
・・・(中略)・・・
【0040】
本実施形態においては,図4で示したマスクデータや,他の記録モードで適用する複数のマスクデータが記録装置本体内のメモリに格納してあり,マスクデータ変換処理においては,当該マスクデータと上述したドット配置パターン化処理の出力信号との間でAND処理をかけることにより,各記録走査で実際に吐出させる記録画素が決定され,出力信号として記録ヘッドH1001の駆動回路J0009に入力される。
【0041】
駆動回路J0009に入力された各色の1bitデータは,記録(決定注:「記録ヘッド」の誤記と解される。)J0010の駆動パルスに変換され,それぞれ記録ヘッドより所定のタイミングでインクが吐出される。」
(ウ) 「【0063】
キャリッジ部は,記録ヘッドH1001を取り付けるためのキャリッジM4000を有しており,キャリッジM4000は,ガイドシャフトM4020およびガイドレールによって支持されている。ガイドシャフトM4020は,シャーシM1010に取り付けられており,記録媒体の搬送方向に対して直角方向にキャリッジM4000を往復走査させるように案内支持している。また,キャリッジM4000は,シャーシM1010に取り付けられたキャリッジモータE0001によりタイミングベルトM4041を介して駆動される。更に,キャリッジM4000には,電気基板E0014から記録ヘッドH1001へ,駆動信号を伝えるための不図示のフレキシブルケーブルが接続されている。このような構成において記録媒体に画像形成する場合,搬送方向(カラム方向)に対しては,搬送ローラM3060およびピンチローラM3070からなるローラ対が,記録媒体を搬送して位置決めする。また,走査方向(ラスタ方向)に対しては,キャリッジモータE0001によりキャリッジM4000を上記搬送方向と垂直な方向に移動させて,記録ヘッドH1001(図14)を目的の画像形成位置に配置させる。位置決めされた記録ヘッドH1001は,電気基板E0014からの信号に従って,記録媒体に対しインクを吐出する。記録ヘッドH1001についての詳細な構成は後述するが,本実施形態の記録装置においては,記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000が走査する記録主走査(決定注:「主走査」の誤記と解される。)と,搬送ローラM3060により記録媒体が搬送される副走査とを交互に繰り返すことにより,記録媒体上に画像を形成していく構成となっている。
・・・(中略)・・・
【0066】
(記録ヘッド構成)
以下に上記実施形態で適用できるヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。ヘッドカートリッジH1000は,記録ヘッドH1001と,インクタンクH1900を搭載する手段,およびインクタンクH1900から記録ヘッドにインクを供給するための手段を有しており,キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。」
・・・(中略)・・・
【0070】
図16は,第1の記録素子基板H4700および第2の記録素子基板H4701の構成を説明するための正面拡大図である。H4000?H4600は,それぞれ異なるインク色に対応するノズル列であり,第1の記録素子基板H4700には,ライトマゼンタの供給されるノズル列H4000,レッドインクの供給されるノズル列H4100,ブラックインクの供給されるノズル列H4200,およびライトシアンインクの供給されるノズル列H4300の4色分のノズル列が構成されている。また,第2の記録素子基板H4701には,シアンインクの供給されるノズル列H4400,マゼンタインクの供給されるノズル列H4500,およびイエローインクの供給されるノズル列H4600の3色分のノズル列が形成されている。
【0071】
各ノズル列は,記録媒体の搬送方向に1200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され,約2ピコリットルのインク滴を吐出させる。各ノズル吐出口における開口面積は,およそ100平方μm^(2)に設定されている。また,第1の記録素子基板H4700および第2の記録素子基板H4701は,再び図15を参照するに,第1のプレートH1200に接着固定されており,ここには,第1の記録素子基板H4700および第2の記録素子基板H4701にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。」
(エ) 「【0077】
(第2の実施形態)
次に,本発明の第2の実施形態を説明する。上述した第1の実施形態では,高画質写真モードの記録密度に対し,より低い記録密度のモードを高速モードとして設定していた。これに対し,本実施形態においては,より小さなインク滴を用いながらも,第1実施形態と同様の記録密度で高画質写真モードを実現しようとしたものである。
【0078】
本実施形態においても,図1を用いて説明した画像データ変換処理の流れが適用できるものとする。但し,本実施形態で適用するインクジェット記録装置は,シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックの4色のみで記録を行い,レッド,ライトシアンおよびライトマゼンタは適用しないものとする。よって,後段処理J0003では,R,G,Bの8bitデータをC,M,Y,Kの8bitのデータに変換し,続く処理ではC,M,YおよびKの4色のデータについての処理を行うことになる。
【0079】
また,ハーフトーニングJ0005においては,高画質写真モードと同様に,8ビットの色分解データを4ビットのデータに変換する量子化を多値誤差拡散法によって行い,256階調を9階調に変換するものとする。
【0080】
但し,本実施形態で適用する記録ヘッドJ0010は,1pl程度のインク滴を吐出するものとし,吐出量すなわち記録媒体上でのドットの大きさを小さく設定することにより,低デューティーにおける粒状感を第1の実施形態よりも更に目立たなくしている。
【0081】
このように,ドットを小さくした状態で,第1の実施形態の高画質写真モードと同様な記録を行なってしまうと,インクの打ち込み量が不足して濃度不足が懸念される。この様な場合,従来の方法に従えば,記録されるドットの大きさに応じて記録密度を高く設定することになる。しかしながら,記録装置において記録解像度をより高く設定することは,記録位置精度や記録媒体の搬送精度の向上,さらにはドット配置パターン化処理を始めとするデータ処理の大容量化が要され,より大掛かりな構成になってしまう。これに対し,市場で求められる写真画質においては,粒状感がある程度解消され,所定の階調性および濃度が確保されれば,記録解像度の大きさは,然程重視されていない。よって,本実施形態においては,粒状感を低減するためにインク滴を1plとより少量化しておきながらも,記録密度や記録精度を上げずに第1の実施形態と同様の記録装置を用いて,高品位写真モードを実現しようとしたものである。
【0082】
本実施形態の高画質写真モードにおいても,ドット配置パターン化処理J0007は図P1(決定注:「図1」の誤記と解される。)で示したものと同様のものを用いることができる。すなわち,ハーフトーン処理で9値として出力された,縦横ともに600ppiの1画素(ピクセル)の領域に対し,縦1200dpi×横2400dpiの記録密度で1plのインク滴を記録するのである。
【0083】
本実施形態の高画質写真モードにおいては,4パスのマルチパス記録を行なうものとする。ここでは,特にこの場合に適用するマスクパターンは図示していな割されたマスクパターンとなっている。ただし,本実施形態で適用するマスクでは,4つのノズル群により形成される領域はそれぞれ50%デューティーずつの記録を行い,これらを重ね合わせることによって最終的に200%の記録を行う構成としている。
【0084】
図9は,上述した4パスのマスクパターンにおいて,それぞれのノズル群が記録するパターンの左上に位置する2エリア×4エリアを,図7と同様に示したものである。これら4つの領域P0081?P0084は,記録媒体上で重ね合わせられて,結果としてP0085のようになっている。P0081?P0084において,白丸で示した部分は,その記録走査で1plのインク滴を記録するエリアを示している。また,P0085においては,白丸で示した部分は1plのドットが1つ記録されるエリア,2重丸で示した部分は1plのドットが2つ,すなわち2plのインクが記録されるエリアを示している。さらに黒丸で示した部分は,1plのドットが3つ,すなわち3plのインクが記録されるエリアを示している。黒丸,2重丸および白丸の配列は,P0085に見るように,1画素領域すなわち2エリア×4エリアに対する領域には,最高16ドットまでインク滴が記録されるようになっている。
【0085】
更に,図2と同様に図9においても(4n)?(4n+3)として示したように,画素の位置に応じて周期的に異なる複数のパターンの配列にも対応しており,結果的には2×4のエリアを,ハーフトーニングより出力された階調を表現するための1画素の領域として扱うことが可能となっている。
【0086】
図10は,図9で示した入力レベル0?8に対して,最終的に記録されるドットの様子および1画素領域に記録されるドット数を示したものである。図において,白丸は1plのインク滴が1つ記録されるエリアを,2重丸は1plのインク滴が2つ記録されるエリアを,黒丸は1plのインク滴が3つ記録されるエリアを,さらに空白はインク滴が記録されないエリアをそれぞれ示している。図に見るように,レベル0?レベル2までは,レベルが1つ上がると,新たに1ドット付加されるように構成されているが,レベル3?レベル6においては1レベルにつき,新たに2ドットずつが,さらにレベル7およびレベル8においては1レベルにつき,新たに3ドットずつ付加されている。
【0087】
第1の実施形態でも述べたように,インクジェット記録装置においては,階調が低い領域では粒状感が問題視されるのでドットの強調は極力回避したい。また,階調が高くなるにつれ1ドット程度を追加しても濃度は上がりにくく,その一方で最高濃度はなるべく高く設定することが望まれる。よって,本実施形態においても,高濃度に行くほど追加されるドット数が多く設定し,最終的には,1画素に16ドットが記録されるような構成とした。ただし,この構成は本実施形態を限定するものではない。ハーフトーニングより出力された階調数に応じて,線形的に1画素領域内に記録されるドット数が増加していれば,1画素領域内の記録ドットがどのような配列でいくつ記録されても本発明および本実施形態は有効となる。
【0088】
第1実施形態と同様,マスクデータ変換処理J0008での処理が施された1ビットのデータは,記録ヘッドの駆動回路J0009に送られる。そして,さらに記録ヘッドJ0010の駆動パルスに変換され,それぞれ記録ヘッドより所定のタイミングでインクが吐出される。
【0089】
以上説明したように,本実施形態によれば,第1実施形態で説明したような,2plのインク滴によって所望の濃度が達成されるような記録密度が設定されたインクジェット記録装置において,あえて吐出量を1plに低減し,ライトシアンやライトマゼンタのようなインクを用いずに低デューティーの粒状感を低減することができる。その一方で,吐出量を1plに低減した分を補足する形で,図9で示したようなドット配置パターンに対応したマスクパターンを用意することにより,1画素の階調レベルに対しても好適な線形性を保ちつつ,最終的には第1実施形態の高画質写真モードと同等の16plを1画素領域に記録することが可能となる。そして結果的には,第1実施形態よりも少ないデータ処理によって,写真画質に求められる高画質な画像を得ることが可能となるのである。
【0090】
この様な構成は,上述したような吐出量を変調することが困難な記録ヘッドにおいて,あたかも1plから16plまでの変調が可能な記録ヘッドを用いて記録した場合と同等の効果が得られると同時に,16plの記録については複数の記録走査によって異なるノズルで少しずつインクが記録されていくので,より良好な画像を得ることが可能となる。実際,吐出量を変調可能な記録ヘッドは,その構成から,本実施形態のように高密度に記録素子を配列させて構成することは難しい。よって本発明のように,高密度に配列された記録ヘッドによって,あたかも吐出量が変調可能であるような記録が実現できることは,記録速度においても画像品位においても,より好ましいものと言えるのである。」
(オ) 「【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に適用可能な実施形態における画像データ変換処理の流れを説明するためのブロック図である。
・・・(中略)・・・
【図9】本発明の第2の実施形態における4パスのマスクパターンにおいて,それぞれのノズル群が記録するパターンの左上に位置する2エリア×4エリアの領域を示した図である。
【図10】図9で示した入力レベル0?8に対して,最終的に記録されるドットの様子および1画素領域に記録されるドット数を示した図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図9】

【図10】


イ 甲1の記載から把握される発明
前記ア(オ)の図9から,第2の実施形態の高画質写真モードで4パスのマルチパス記録を行う際に,2パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,重ならないドットを記録すること,3パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,2パス目で記録したドットに重ねるドットと,これらのドットに重ならないドットを記録すること,4パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,2パス目で記録したドットに重ねるドットと,3パス目で記録したドットに重ねるドットと,これらのドットに重ならないドットを記録することが看取される。
前記ア(ア)ないし(オ)の記載,及び前記看取される事項から,第2の実施形態の高画質写真モードで記録するインクジェット記録装置に関する発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(なお,甲1では,「記録ヘッドH1001」という表現と「記録ヘッドJ0010」という表現が混在しているが,「記録ヘッドH1001」に統一して認定した。)
「所定の吐出量に固定されたインクジェット記録ヘッドを用いながら,上記吐出量から得られる好適な記録密度よりも低い記録密度でデータ処理および記録を行いつつ,所望の画像濃度を得ることが可能なインクジェット記録装置であって,
ブラックインクの供給されるノズル列H4200,シアンインクの供給されるノズル列H4400,マゼンタインクの供給されるノズル列H4500,及びイエローインクの供給されるノズル列H4600を有する記録ヘッドH1001であって,各ノズル列は,記録媒体の搬送方向に1200dpiの間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され,各ノズルから吐出される全てのインク滴が1pl程度に固定された記録ヘッドH1001と,前記記録ヘッドH1001が取り付けられ,前記搬送方向と垂直な方向に移動させられるキャリッジM4000とを備え,前記記録ヘッドH1001により記録を行いながら前記キャリッジM4000が走査する主走査と,記録媒体が搬送される副走査とを交互に繰り返すことにより,記録媒体上に画像を形成するよう構成され,
ホスト装置のプリンタドライバから印刷データが入力され,
前記印刷データに対して,ドット配置パターン化処理J0007及びマスクデータ変換処理J0008を行い,
前記マスクデータ変換処理J0008により得られた1bitデータを,前記記録ヘッドH1001の駆動回路J0009に入力し,
前記駆動回路J0009では入力された各色の1bitデータを前記記録ヘッドH1001の駆動パルスに変換して,前記記録ヘッドH1001より所定のタイミングでインクを吐出するよう構成されており,
高画質写真モードで記録する場合には,前記印刷データとして,256階調の8ビットの色分解データY,M,C,Kをそれぞれ多値誤差拡散法を用いて変換した9階調の4ビットデータである各色のインデックスデータを内容とする印刷イメージ情報に印刷制御情報を加えたものが入力され,各ノズル列の全768ノズルを192ノズルずつの4つのノズル群に分割し,4つのノズル群により形成される領域はそれぞれ50%デューティーずつの記録を行って最終的に200%の記録となる4パスのマルチパス記録を行い,2パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,重ならないドットを記録し,3パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,2パス目で記録したドットに重ねるドットと,これらのドットに重ならないドットを記録し,4パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,2パス目で記録したドットに重ねるドットと,3パス目で記録したドットに重ねるドットと,これらのドットに重ならないドットを記録することで,最終的に,1画素領域を構成する2×4のエリアのそれぞれが,インク滴が記録されないエリア,インク滴が1つ記録されるエリア,インク滴が2つ記録されるエリア,及びインク滴が3つ記録されるエリアのうちのいずれかとなるようにするインクジェット記録装置。」(以下,「甲1発明」という。)
(2)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と,甲1発明を対比する。
(ア) 技術的にみて,甲1発明の「インク滴」,「ドット」,「記録媒体の搬送方向」,「ノズル」,「搬送方向と垂直な方向」,「記録媒体」,「記録ヘッドH1001」,「マスクデータ変換処理J0008により得られた1bitデータ」及び「印刷データ」は,本件訂正発明1の「液滴」,「ドット」,「第1方向」,「ノズル」,「第1方向と交差する第2方向」,「記録媒体」,「記録部」,「第1印刷データ」及び「積層画像データ」にそれぞれ対応する。
(イ) 甲1発明の「記録ヘッドH1001」(本件訂正発明1の「記録部」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に付した()内の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件訂正発明1の発明特定事項を表す。)は,「記録媒体の搬送方向」(第1方向)に1200dpiの間隔で並ぶ768個の「ノズル」(ノズル)によって構成されるノズル列H4200,H4400,H4500,H4600を有し,各「ノズル」(ノズル)は,1pl程度に固定された「インク滴」(液滴)を吐出するものであるところ,甲1発明において,「ノズル」(ノズル)から吐出された「インク滴」(液滴)が「記録媒体」(記録媒体)に着弾したものを「ドット」(ドット)と称していることは,甲1の【0005】の「記録媒体に着弾されるドット」との記載等から明らかであるから,甲1発明の「記録ヘッドH1001」(記録部)は,「インク滴」(液滴)を吐出することで「ドット」(ドット)を記録する「記録媒体の搬送方向」(第1方向)に配列された複数の「ノズル」を有しているといえる。
また,甲1発明では,「記録ヘッドH1001」(記録部)が「搬送方向と垂直な方向」(第1方向に交差する第2方向)に移動させられるキャリッジM4000に取り付けられ,「記録ヘッドH1001」(記録部)により記録を行いながらキャリッジM4000が走査する主走査と,「記録媒体」(記録媒体)が搬送される副走査とを交互に繰り返すことにより,「記録媒体」(記録媒体)上に画像を形成していくのであるから,「記録ヘッドH1001」(記録部)は,「搬送方向と垂直な方向」(第1方向に交差する第2方向)に走査され,「搬送方向と垂直な方向」(第1方向に交差する第2方向)に走査される毎に「記録媒体」(記録媒体)に対して「記録媒体の搬送方向」(第1方向)に相対移動されるものといえる。
また,甲1発明の「マスクデータ変換処理J0008により得られた1bitデータ」(第1信号)は,記録ヘッドH1001の駆動回路J0009に入力され,記録ヘッドH1001の駆動パルスに変換されて,当該駆動パルスに基づいて「記録ヘッドH1001」(記録部)より所定のタイミングでインクが吐出されるのであるから,甲1発明の「マスクデータ変換処理J0008により得られた1bitデータ」と本件訂正発明1の「第1印刷データ」は,「記録部」がこれに基づいて画像を形成する点で一致する。
そして,甲1発明には,ホスト装置のプリンタドライバから「印刷データ」(積層画像データ)が入力されるから,「印刷データ」(積層画像データ)を取得する取得部を有しているといえるところ,当該「印刷データ」(積層画像データ)は,「記録ヘッドH1001」(記録部)が画像を形成するために取得した画像データ(以下,便宜上「取得画像データ」という。)である点で,本件訂正発明1の「積層画像データ」と共通する。
したがって,本件訂正発明1と甲1発明は,「液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され,前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,取得画像データを取得する取得部」を備える点で共通する。
(ウ) 甲1発明において,吐出されたインク滴は,それぞれエリアにおけるドットを形成するものであるから,甲1発明の「エリア」は本件訂正発明1の「画素」に相当する。
そして,甲1発明において,高画質写真モードで記録する場合には,4パスのマルチパス記録を行い,2パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,重ならないドットを記録し,3パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,2パス目で記録したドットに重ねるドットと,これらのドットに重ならないドットを記録し,4パス目の記録において,1パス目で記録したドットに重ねるドットと,2パス目で記録したドットに重ねるドットと,3パス目で記録したドットに重ねるドットと,これらのドットに重ならないドットを記録しているから,甲1発明では,「記録媒体」(記録媒体)の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって異なる階層の「エリア」(画素)に対応する「ドット」(ドット)を記録しており,甲1発明の「マスクデータ変換処理J0008により得られた1bitデータ」(第1印刷データ)は,「記録媒体」(記録媒体)の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって異なる階層の「エリア」(画素)に対応する「ドット」(ドット)を記録するとの条件を満たすものであるといえ,甲1発明は,そのような条件を満たすように,「マスクデータ変換処理J0008により得られた1bitデータ」(第1印刷データ)を生成する生成部を有しているといえる。
したがって,甲1発明は,「記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように,第1印刷データを生成する第1生成部」を備える点で,本件訂正発明1と共通する。
(エ) 甲1発明の「インクジェット記録装置」は,入力された印刷データに対して,ドット配置パターン化処理J0007及びマスクデータ変換処理J0008を行い,記録ヘッドH1001の駆動回路J0009に入力するための1bitデータを生成する機能を有しているから,「画像処理装置」であるということができる。
(オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,本件訂正発明1と甲1発明は,
「液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され,前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され,第1印刷データに基づいて記録部で形成するための,取得画像データを取得する取得部と,
前記記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように,第1印刷データを生成する第1生成部と,
を備える,
画像処理装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点1:
取得部が取得する取得画像データが,
本件訂正発明1では,各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データであるのに対して,
甲1発明では,256階調の8ビットの色分解データY,M,C,Kをそれぞれ多値誤差拡散法を用いて変換した9階調の4ビットデータである各色のインデックスデータを内容とする印刷イメージ情報に印刷制御情報を加えた印刷データである点。
相違点2:
第1の条件において,1回の走査によって記録する異なる階層の画素に対応するドットが,
本件訂正発明1では,積層画像における異なる階層の画素に対応するドットであるのに対して,
甲1発明では,ドットを重ねて記録する階調画像における異なる階層のエリアに対応するドットである点。
相違点3:
本件訂正発明1は,積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,積層画像データの各階層の各画素の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを積層画像データから生成する第2生成部を備え,第1生成部は,第2印刷データから,第2の条件を満たすように,第1印刷データを生成するのに対して,
甲1発明は,256階調の8ビットの色分解データY,M,C,Kをそれぞれ多値誤差拡散法を用いて変換した9階調の4ビットデータである各色のインデックスデータを内容とする印刷イメージ情報に印刷制御情報を加えた印刷データに,ドット配置パターン化処理J0007及びマスクデータ変換処理J0008を行うことによって,1bitデータを生成する点。
相違点4:
本件訂正発明1は,第1生成部は,印刷条件に応じて,記録媒体の同じ記録領域に対する,記録部の第2方向への走査回数を設定する設定部を有するのに対して,
甲1発明は,操作回数を設定する設定部を有していない点。
イ 相違点1について
甲1発明は,各ノズルから吐出される全てのインク滴が1pl程度に固定された記録ヘッドH1001を用いて高画質写真モードで階調画像を印刷するために,「9階調の4ビットデータである各色のインデックスデータを内容とする印刷イメージ情報に印刷制御情報を加えた印刷データ」が入力されるインクジェット記録装置であるところ,甲1には,甲1発明に,階調画像を表す印刷データとして,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」を入力できることは,記載も示唆もされていない。
また,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」によって階調画像を表現する技術が,本件特許に係る出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらない。
そうすると,甲1発明において,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を採用すると(印刷データに代えて,積層画像データを入力すると),階調画像を印刷することができなくなるといわざるを得ないから,当該構成の変更には,阻害要因が存在する。
したがって,甲1発明において,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 小括
甲1発明において,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を採用することが,当業者が容易に想到し得たことでない以上,他の相違点について検討するまでもなく,本件訂正発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,取消理由1によって,本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件訂正発明2及び4について
本件訂正後の請求項2及び4は,本件訂正後の請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明2及び4は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するところ,前記(2)ウで述べたとおり,本件訂正発明1が,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件訂正発明2及び4も,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
したがって,取消理由1によって,本件訂正後の請求項2及び4に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(実施可能要件違反)について
本件訂正後の請求項1に係る発明及び本件訂正後の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載された本件訂正後の請求項2ないし7に係る発明は,いずれも,本件訂正後の請求項1に記載された「積層画像」が「1層のドットによる画像を重ねて積層させた」ものであり,「積層画像データ」が「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む」ものであるとの発明特定事項を具備しているから,本件訂正によって,請求項1ないし7に係る発明は,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に本件明細書に記載された範囲のものとなっている。
したがって,取消理由2によって,本件訂正後の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由3(サポート要件違反)について
(1)取消理由3-1について
本件訂正後の請求項1に係る発明及び本件訂正後の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載された本件訂正後の請求項2ないし7に係る発明は,いずれも,本件訂正後の請求項1に記載された「記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように,第1印刷データを生成する第1生成部」及び「積層画像データにおける,同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし,かつ,積層画像データにおける,同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように,積層画像データの各階層の各画素の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを積層画像データから生成する第2生成部」を備え,「第1生成部は,第2印刷データから,第2の条件を満たすように第1印刷データを生成」し,「第1印刷データに基づいて記録部で形成する」との発明特定事項を具備しているから,1層の印刷層を印刷する際に,走査方向に隣接する画素に対して異なるノズルを用いるマルチパス方式で記録するものであることが明らかである。
したがって,本件訂正によって,請求項1ないし7に係る発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなっている。
よって,取消理由3-1によって,本件訂正後の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由3-2について
本件訂正発明8及び9は,いずれも,「第2印刷データから,」「第1印刷データを生成」するとの発明特定事項,及び「第1印刷データに基づいて記録部で形成する」との発明特定事項を具備しているから,本件訂正によって,請求項8及び9に係る発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなっている。
したがって,取消理由3-2によって,本件訂正後の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
4 取消理由4(明確性要件違反)について
(1)取消理由4-1について
本件訂正後の請求項1に係る発明及び本件訂正後の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載された本件訂正後の請求項2ないし7に係る発明は,いずれも,本件訂正後の請求項1に記載された「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」であるとの発明特定事項を具備しているから,本件訂正によって,積層画像と積層画像データの技術的意味は明確となっている。
したがって,取消理由4-1によって,本件訂正後の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由4-2について
本件訂正によって,請求項3及び5は削除され,本件訂正発明4,6及び7は,「前記第1生成部は,前の走査によって記録済の画素の上層側に隣接する画素を,次の走査時に記録する画素として定めた前記第1印刷データを生成する」との発明特定事項を具備ないものとなっている。
したがって,取消理由4-2によって,本件訂正後の請求項4,6及び7に係る特許を取り消すことはできない。
(3)取消理由4-3について
本件訂正によって,請求項5は削除され,本件訂正後の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載された本件訂正後の請求項6及び7に係る発明は,本件訂正後の請求項1に記載された「第1生成部は,第2印刷データから,第2の条件を満たすように第1印刷データを生成」するとの発明特定事項を具備しているから,本件訂正によって,第2印刷データを生成することの技術的意義が明確になっている。
したがって,取消理由4-3によって,本件訂正後の請求項6及び7に係る特許を取り消すことはできない。
(4)取消理由4-4について
本件訂正によって,請求項7の「前記第1生成部」との記載が,「前記第2生成部」と訂正されたことから,請求項7の記載と請求項7が引用する請求項6の記載との間に矛盾は存在しなくなった。
したがって,取消理由4-4によって,本件訂正後の請求項7に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由5(明確性要件違反)について
本件訂正発明1,2,4,6ないし9は,「同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを第2方向で異なるノズルとする」との発明特定事項を具備していないから,取消理由5によって,本件訂正後の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が,特許異議申立書において主張する特許異議申立理由(以下,「申立理由」)のうち,取消理由通知(決定の予告)で採用しなかったものは,次のとおりである。
申立理由1:本件特許の請求項1ないし4,8及び9に係る発明は,甲1に記載された発明に対して新規性がないから,その特許は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものに対してされたものであるから,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。また,本件特許の請求項5ないし9に係る発明は,甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性がないから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
申立理由2:本件特許の請求項1ないし5,8及び9に係る発明は,甲2(特開2009-166474号公報)に記載された発明に対して新規性がないから,その特許は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものに対してされたものであるから,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。また,本件特許の請求項1ないし9に係る発明は,甲2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性がないから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
申立理由3:本件特許の請求項1ないし4,8及び9に係る発明は,甲3(国際公開第2010-021377号)に記載された発明に対して新規性がないから,その特許は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものに対してされたものであるから,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。また,本件特許の請求項1ないし9に係る発明は,甲2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性がないから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
申立理由4:本件明細書には,どのようにして第1印刷データを生成するのかについて,具体例が記載されておらず,当業者が請求項1ないし9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,請求項1ないし9に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113号第4号に該当し,取り消されるべきものである。
2 申立理由1について
(1)新規性について
本件訂正により請求項3は削除された。
本件訂正発明1と甲1発明は,前記第4 1(2)ア(オ)で認定した相違点1ないし4で相違する。そして,本件訂正発明1と甲1発明の間に相違点が存在する以上,本件訂正発明1は,甲1発明と同一でない。
また,本件訂正後の請求項2及び4は,本件訂正後の請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであるところ,本件訂正発明2及び4は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するから,本件訂正発明1が,甲1発明と同一でない以上,本件訂正発明2及び4も,甲1発明と同一でない。
また,甲1の記載から,甲1発明のインクジェット記録装置において用いられる画像処理プログラムに関する発明(以下,「甲1プログラム発明」という。),及び甲1発明のインクジェット記録装置により実行される画像処理方法に関する発明(以下,「甲1方法発明」という。)をも把握することができるところ,本件訂正発明8及び9と,甲1プログラム発明及び甲1方法発明とは,前記第5 1(2)ア(オ)で認定した相違点1ないし4と同様の点で相違し,その余の点で一致する。そして,本件訂正発明8及び9と甲1発明の間に相違点が存在する以上,本件訂正発明8及び9は,甲1発明と同一でない。
(2)進歩性について
本件訂正により請求項5は削除された。
本件訂正後の請求項6及び7は,本件訂正後の請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明6及び7は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するところ,前記第5 1(2)ウで述べたとおり,本件訂正発明1が,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件訂正発明6及び7も,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
また,前記(1)で述べたように,本件訂正発明8及び9と,甲1プログラム発明及び甲1方法発明とは,前記第5 1(2)ア(オ)で認定した相違点1ないし4と同様の点で相違し,その余の点で一致するところ,前記第5 1(2)イで述べたのと同様の理由で,甲1プログラム発明及び甲1方法発明において,相違点1に係る本件訂正発明8及び9の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到し得たことではないから,本件訂正発明8及び9は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)小括
前記(1)及び(2)のとおりであるから,申立理由1によって,本件訂正後の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2について
甲2は,本件特許に係る出願の出願前に頒布された刊行物であって,当該甲2の記載(【0016】ないし【0020】,【0031】,【0032】,【0036】ないし【00047】等を参照。)から,マルチパスの回数によらず高品位な画像を得ることができる,マルチパス記録を行うシリアル型のインクジェット記録装置に関する発明,当該インクジェット記録装置において用いられる画像処理プログラムに関する発明,及び当該インクジェット記録装置により実行される画像処理方法に関する発明を把握することができるところ,これら発明のインクジェット記録装置に入力されるのは,「多値の輝度データ(R,G,B)」(【0036】を参照。)である。
したがって,本件訂正発明1,2,4,6ないし9に係る発明と,甲2に記載された各発明を対比すると,少なくとも,本件訂正発明1,2,4,6ないし9では,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」を取得するのに対して,甲2に記載された各発明では,「多値の輝度データ(R,G,B)」を取得する点で相違する。
そして,甲2には,「多値の輝度データ(R,G,B)」の代わりに,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」をインクジェット記録装置に入力できることは記載も示唆もされておらず,また,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」によって多値画像(すなわち階調画像)を表現する技術が,本件特許に係る出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらない。
そうすると,甲2に記載された各発明において,前記相違点に係る本件訂正発明1,2,4,6ないし9の発明特定事項を採用すると(多値の輝度データに代えて,積層画像データを入力すると),多値階調画像を印刷することができなくなるといわざるを得ないから,当該構成の変更には,阻害要因が存在する。
したがって,甲2に記載された各発明において,前記相違点に係る本件訂正発明1,2,4,6ないし9の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到し得たことではないから,本件訂正発明1,2,4,6ないし9は,甲2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって,申立理由2によって,本件訂正後の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3について
甲3は,本件特許に係る出願の出願前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって,当該甲3の記載([0006]。[0007],[0011]ないし[0055]等を参照。)から,吐出され硬化させたインクの上にさらにインクを吐出し硬化することで複数の硬化層からなる立体画像を形成するに際して,画質の良好な立体画像を迅速に形成することのできるインクジェットプリンタ100に関する発明,当該インクジェットプリンタ100において用いられる画像処理プログラムに関する発明,及び当該インクジェットプリンタ100により実行される画像処理方法に関する発明を把握することができるところ,甲3には,これら発明において,インクジェットプリンタ100に入力される「画像のデータ」([0026]を参照。)がどのようなデータであるのかは,説明されていない。
したがって,本件訂正発明1,2,4,6ないし9に係る発明と,甲3に記載された各発明を対比すると,少なくとも,本件訂正発明1,2,4,6ないし9では,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」を取得するのに対して,甲3に記載された各発明では,どのような「画像のデータ」を取得するのか,定かでない点で相違する。
そして,甲3には,インクジェットプリンタ100に入力する「画像のデータ」として,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」を用いることができることは記載も示唆もされておらず,また,「各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む,1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データ」を入力して立体画像を形成する技術が,本件特許に係る出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらない。
したがって,甲3に記載された各発明において,前記相違点に係る本件訂正発明1,2,4,6ないし9の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到し得たことではないから,本件訂正発明1,2,4,6ないし9は,甲3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって,申立理由3によって,本件訂正後の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4について
本件訂正後の明細書には,次の記載がある。
「【0132】
図13は,本実施の形態の画像処理装置12で生成した第1印刷データを用いた,記録部14による積層画像形成の説明図である。
【0133】
図13(A)?図13(J)は,従来の印刷データを用いた,マルチパス方式による2層の積層画像形成の説明図である。図13(K)?図13(T)は,本実施の形態の第1印刷データを用いた,マルチパス方式による積層画像形成の説明図である。
【0134】
なお,図13中,各ドットD内に示す数字は,何走査目で記録されたドットDであるかを示す。具体的には,図13中,ドットD内に示す数字「1」?「4」の各々は,そのドットDが,第2方向Xへの1走査目?4走査目の各々で記録されたことを示す。
【0135】
従来の印刷データを用いた積層画像形成では,例えば,第2方向Xへの1回の走査ごとに記録媒体Pに順次ドットDを記録し,4回の走査によって1層分の画像を形成する(図13(A)?図13(E)参照)。そして,更に,記録媒体P上の同じ記録領域に,第2方向Xへの走査を4回行うことで,2層目の画像を形成する(図13(F)?図13(J)参照)。このように,従来の印刷データを用いた積層画像形成では,記録媒体Pの同じ記録領域に対して,第2方向Xに合計8回の走査を繰り返すことで,2層の積層画像を形成していた。
【0136】
一方,本実施の形態の第1印刷データを用いた積層画像形成では,上述したように,記録媒体Pの同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において,1回の走査によって,積層画像における異なる階層の画素に対応するドットDを記録する。
【0137】
このため,本実施の形態では,従来の印刷データを用いた2層の積層画像形成のための走査と同じ走査回数で,4層の積層画像を形成することができる。
【0138】
具体的には,本実施の形態で生成した第1印刷データを用いてドットDを記録することで,記録部14の第2方向Xへの8回の走査により(図13(K)?図13(S)参照),4層の積層画像を形成することができる(図13(T)参照)。
【0139】
詳細には,従来の印刷データを用いた積層画像形成では,マルチパス方式において記録媒体PにドットDを記録する場合,第2方向Xへの1回の走査では,積層画像における1つの階層の,画素に対応するドットDを記録していた。すなわち,従来では,第2方向Xへの2回目以降の走査において,前の走査時にドットDの記録されていない領域に,積層画像における前の走査時と同じ階層の画素に対応するドットDを順次記録していた(図13(B)?図13(D)参照)。
【0140】
一方,本実施の形態で生成した第1印刷データを用いた積層画像形成では,記録部14の第2方向Xへの各走査時に,積層画像における異なる層の画素に対応するドットDを記録する。詳細には,本実施の形態では,記録媒体Pの同じ記録領域に対する2回目以降の走査において,前の走査時にドットDの記録されていない領域の少なくとも一部に前の走査時と同じ層の画像の画素に対応するドットDを順次記録する(図13(K)?図13(N)のドットDA参照)。このとき,本実施の形態では,更に,前の走査時にドットDの記録されている領域に対して,積層画像における,記録媒体Pに記録済のドットDに対応する画素の上層側に隣接する画素に対応するドットDを記録する(図13(L)?図13(N)のドットDB参照)。
【0141】
このため,本実施の形態の第1印刷データを用いた積層画像形成では,積層画像の画像形成時間の短縮を図ることができる。」
「【図13】


前記記載から,記録媒体の同じ記録領域を8パスで記録する場合に,第1条件を満たすためには,各画素における各階層のドットを,何番目のパスで形成すればよいのかを把握することができるところ,マルチパス記録において,何番目のパスで形成するのかが決まれば,何番目のノズルで形成すればよいのかが決まることは技術常識であるから,当業者は,第1印刷データとして,各画素における各階層のドットに対して,前記記載から把握されるパス番号又はノズル番号を割り当てたデータを生成することにより,本件訂正発明1,2,4,6ないし9を実施できるものと認められる。
したがって,申立理由3によって,本件訂正後の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知により通知された取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては,本件特許の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項3及び5は,訂正により削除された。これにより,申立人による請求項3及び5に係る特許異議の申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され、前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され、第1印刷データに基づいて記録部で形成するための、各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む、1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データを取得する取得部と、
前記記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において、1回の走査によって前記積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように、第1印刷データを生成する第1生成部と、
前記積層画像データにおける、同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし、かつ、前記積層画像データにおける、同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように、前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成部と、
を備え、
前記第1生成部は、前記第2印刷データから、前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し、
前記第1生成部は、印刷条件に応じて、前記記録媒体の同じ記録領域に対する、前記記録部の前記第2方向への走査回数を設定する設定部を有する、
画像処理装置。
【請求項2】
前記第1生成部は、前記第1の条件を満たすように、前記積層画像データにおける各階層の画素に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた前記第1印刷データを生成する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記第1生成部は、前記積層画像データにおける、前記第2方向への1回の走査時に記録するドットに対応する画素の階層差が閾値以下となるように、前記第1印刷データを生成する、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記第2生成部は、前記第2の条件を満たすように、前記積層画像データの階層ごとに、前記積層画像データの各階層の各画素の各々に対応する前記ノズルの割当位置を変更した、前記第2印刷データを生成する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記階層ごとに、各階層間で互いに異なる前記割当位置を定めた割当情報を記憶した記憶部を備え、
前記第2生成部は、前記積層画像データにおける前記階層ごとに、前記階層に対応する前記割当情報に基づいて、前記積層画像データにおける各画素に対応する前記割当位置を変更する、請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
コンピュータに、
液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され、前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され、第1印刷データに基づいて記録部で形成するための、各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む、1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データを取得する取得ステップと、
前記記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において、1回の走査によって前記積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように、第1印刷データを生成する第1生成ステップと、
前記積層画像データにおける、同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし、かつ、前記積層画像データにおける、同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように、前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成ステップと、
を実行させるための画像処理プログラムであって、
前記第1生成ステップは、前記第2印刷データから、前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し、
前記第1生成ステップは、印刷条件に応じて、前記記録媒体の同じ記録領域に対する、前記記録部の前記第2方向への走査回数を設定する設定ステップを含む、
画像処理プログラム。
【請求項9】
液滴を吐出することでドットを記録する第1方向に配列された複数のノズルを有すると共に前記第1方向に交差する第2方向に走査され、前記第2方向に走査される毎に記録媒体に対して前記第1方向に相対移動され、第1印刷データに基づいて記録部で形成するための、各階層に対応する画像の画像データと最も記録媒体側を第1層としたときに何層目の画像データであるかを示す階層情報とを含む、1層のドットによる画像を重ねて積層させた積層画像である積層画像データを取得する取得ステップと、
前記記録媒体の同じ記録領域に対する2走査目以降の走査において、1回の走査によって前記積層画像における異なる階層の画素に対応するドットを記録する第1の条件を満たすように、第1印刷データを生成する第1生成ステップと、
前記積層画像データにおける、同じ画素位置の画素に対応するドットを記録するためのノズルを各階層間で異なるノズルとし、かつ、前記積層画像データにおける、同一階層の異なる画素位置の画素に対応する異なるドットを記録するためのノズルを少なくとも前記第2方向に隣接するドット間で異なるノズルとする第2の条件を満たすように、前記積層画像データの各階層の各々に対応するドットを記録するためのノズルを割当てた第2印刷データを前記積層画像データから生成する第2生成ステップと、
を含み、
前記第1生成ステップは、前記第2印刷データから、前記第2の条件を満たすように前記第1印刷データを生成し、
前記第1生成ステップは、印刷条件に応じて、前記記録媒体の同じ記録領域に対する、前記記録部の前記第2方向への走査回数を設定する設定ステップを含む、
画像処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-02 
出願番号 特願2014-92073(P2014-92073)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B41J)
P 1 651・ 113- YAA (B41J)
P 1 651・ 121- YAA (B41J)
P 1 651・ 537- YAA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤本 義仁
清水 康司
登録日 2018-10-05 
登録番号 特許第6409320号(P6409320)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 画像処理装置、画像処理プログラム、及び画像処理方法  
代理人 酒井 宏明  
代理人 酒井 宏明  
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