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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1372734
異議申立番号 異議2020-700954  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-03 
確定日 2021-03-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6705484号発明「鋼材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6705484号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6705484号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成30年10月23日(優先権主張 平成29年11月24日)に出願され、令和2年5月18日にその特許権の設定登録がされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、同年12月3日に特許異議申立人谷口充弘(以下、「申立人」という。)は、本件特許の請求項1?6(全請求項)に係る特許について特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
N:0.0005?0.0100%および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下であり、
鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が次式(1)の関係を満足し、
鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下であり、かつ、該最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上であることを特徴とする鋼材。
(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。
また、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である。
【請求項2】
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼材。
【請求項3】
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ca:0.0001?0.0100%、
Mg:0.0001?0.0200%および
REM:0.001?0.200%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材。
【請求項4】
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.005?0.100%、
Zr:0.005?0.100%、
Nb:0.005?0.100%および
V:0.005?0.100%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の鋼材。
【請求項5】
前記成分組成が、さらに質量%で、
Co:0.01?0.50%
を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の鋼材。
【請求項6】
前記成分組成が、さらに質量%で、
B:0.0001?0.0300%
を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の鋼材。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証?甲第11号証を提出し、以下の申立理由1?3により、本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、特許異議申立書の第1頁に記載された「3 申立ての理由」における「・特許法第36条第2項第1号(請求項1?請求項6)」は、同第8頁第1行の「特許法第36条第4項第1号」、同第9頁第11行の「条文 特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)」及び同第56頁第18行の「A1.特許法第36条第4項第1号違反について(請求項1?6)」等の記載からも明らかなように、「・特許法第36条第4項第1号(請求項1?請求項6)」の誤記であると認める。

1 申立理由1(新規性)
(1)申立理由1-1
本件発明4は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(2)申立理由1-2
本件発明3、4は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(3)申立理由1-3
本件発明4は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性)
(1)申立理由2-1
本件発明1?4、6は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2?5号証に記載された周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(2)申立理由2-2
本件発明4は、甲第2号証に記載された発明と、甲第7?9号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(3)申立理由2-3
本件発明3、4は、甲第3号証に記載された発明と、甲第7?9号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(4)申立理由2-4
本件発明4は、甲第4号証に記載された発明と、甲第7?9号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(5)申立理由2-5
本件発明1、2、4、6は、甲第6号証に記載された発明と、甲第2?5号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(6)申立理由2-6
本件発明4、5は、甲第10号証に記載された発明と、甲第2?5号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

(7)申立理由2-7
本件発明4、6は、甲第11号証に記載された発明と、甲第2?5号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件)
本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

4 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2006-2211号公報(以下「甲1」という。)
(2)甲第2号証:特開2012-241274号公報(以下「甲2」という。)
(3)甲第3号証:特開2013-139627号公報(以下「甲3」という。)
(4)甲第4号証:特開2013-139628号公報(以下「甲4」という。)
(5)甲第5号証:一般社団法人 日本機械工業連合会 平成17年度 表彰機器 優秀省エネルギー機器表彰制度 平成17年度優秀省エネルギー機器表彰一覧 〔資源エネルギー庁長官賞〕 3.高性能デスケーリングノズル JFEスチール(株)、(株)共立合金製作所<URL:http://www.jmf.or.jp/japanese/commendations/energy/pdf/h17/17_03.pdf>(以下「甲5」という。)
(6)甲第6号証:特開平7-258789号公報(以下「甲6」という。)
(7)甲第7号証:国際公開第2016/103623号(以下「甲7」という。)
(8)甲第8号証:特開平10-118701号公報(以下「甲8」という。)
(9)甲第9号証:特開2002-113512号公報(以下「甲9」という。)
(10)甲第10号証:特開2004-204344号公報(以下「甲10」という。)
(11)甲第11号証:特開2010-235986号公報(以下「甲11」という。)

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
(1)申立理由2-1について
ア 甲1に記載された発明
(ア)【0001】から、甲1には、造船、海洋構造物、建築、橋梁、土木等に用いられる鋼板の溶接作業時に発生する溶接歪の少ない鋼板について記載されていると認められる。

(イ)そして、甲1には、上記鋼板について、請求項1、2の記載を踏まえ、実施例の番号3に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

a 【0052】の【表1】から、番号3の化学成分(mass%)は、C:0.06%、Si:0.24%、Mn:0.72%、P:0.002%、S:0.002%、Al:0.018%、N:0.0030%、Mo:0.41%、Cu:1.28%、Ni:1.00%、Cr:0.59%、REM:0.0008%である。

b 請求項1の「Nb、Mo、V、W、Taの固溶量(質量%)をそれぞれ[Nb]、[Mo]、[V]、[W]、[Ta]と表したときに」満足する「14[Nb]+3.4[Mo]+5.6[V]+2.0[W]+3.6[Ta]≧0.25 (1)」について、上記(a)で示した化学成分より、番号3の鋼板はNb、V、W、Taを含んでいないから、上記式(1)の左辺は、「3.4[Mo]」となる。

c 【0009】、【0014】?【0023】、【0027】?【0032】の記載、特に、【0009】の「・・・残部Feおよび不可避的不純物からなり」との記載から、番号3の鋼板は、上記aで示した化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。

d 【0054】の表3から、番号3の鋼板の「固溶量(mass%)」は「1.08」であるから、番号3の鋼板は、3.4[Mo]=1.08であり、ここで、[Mo]はMoの固溶量(質量%)である。

e 【0054】の表3から、番号3の鋼板のミクロ組織は、平均粒径18μmのベイナイト及びマルテンサイトの一方又は両方を面積%で84%、平均粒径11μm及び6μmのフェライト及びパーライト組織からなる。

(ウ)そうすると、甲1には、特に、実施例の鋼板の番号3に着目すると、以下の甲1発明が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「mass%で、
C:0.06%、
Si:0.24%、
Mn:0.72%、
P:0.002%、
S:0.002%、
Al:0.018%、
N:0.0030%、
Mo:0.41%、
Cu:1.28%、
Ni:1.00%、
Cr:0.59%および
REM:0.0008%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
ミクロ組織が、平均粒径18μmのベイナイト及びマルテンサイトの一方又は両方を面積%で84%、平均粒径11μm及び6μmのフェライト及びパーライト組織の両方からなり、
鋼板中のMoの固溶量が次式(1)の関係を満足する溶接歪みの少ない鋼板。
3.4[Mo]=1.08 ---(1)
ここで、[Mo]はMoの固溶量(質量%)である。」

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「mass%」、「鋼板」は、それぞれ本件発明1の「質量%」、「鋼材」に相当する。

b 甲1発明において、成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比は、0.018(Al)/0.0030(N)=6であるから、本件発明1の「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」を満たす。

c 甲1発明において、鋼板中の固溶Mo量は、「3.4[Mo]=1.08」、「[Mo]はMoの固溶量(質量%)」より、1.08/3.4=約0.32であるから、(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕)は、約0.32/0.41=約0.78であり、本件発明1の「次式(1)の関係」「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」を満たす。

d そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
N:0.0005?0.0100%および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、さらにFeおよび不可避的不純物を含む成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下であり、
鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が次式(1)の関係を満足する鋼材。
(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」

<相違点1-1>
本件発明1では、鋼材が、さらに、「Cu」、「Ni」、「Cr」及び「REM」を含有するものではなく、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものであるのに対し、甲1発明では、鋼板が、さらに、「Cu」を「1.28%」、「Ni」を「1.00%」、「Cr」を「0.59%」、及び「REM」を「0.0008%」含有するものであり、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものである点。

<相違点1-2>
本件発明1では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲1発明では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点1-3>
本件発明1では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲1発明では、このような構成を有しているのか不明である点。

(イ)相違点1-3についての検討
事案に鑑み、相違点1-3から検討する。

a 容易想到性について
(a)本件特許明細書の【0041】には以下の記載がある。なお、下線は当審が追加し、「・・・」は省略を表す(以下同様。)

「・・・鋼材の表層部の硬度差(硬度のバラつき)が大きいと、応力集中が生じ易く、応力集中が生じると、アンモニアSCCの感受性が増加する。このように、耐アンモニアSCC性の向上の観点からは、鋼材の表層部の硬度差を小さくすることが有効であり、よって、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比は、0.60以上とすることが好ましい。」

(b)上記(a)より、本件発明1において、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を0.60以上とすることは、耐アンモニアSCC性を向上するものであると認められる。

(c)一方、甲1及び他の証拠には、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることについては記載されておらず、耐アンモニア性SCCに優れた鋼材を提供するという課題や、耐アンモニアSCC性の向上という効果に関する記載もない。

(d)そして、鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることで、耐アンモニアSCC性が向上するという効果は、甲1の記載や他の証拠から当業者が予測し得ない顕著なものである。

(e)そうすると、甲1発明において、鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書において、まず、本件特許明細書の【0042】、【0049】において、熱間圧延の粗圧延時や、仕上圧延時に、鋼材との衝突圧力が0.10MPa以上となるように、高圧水によるデスケーリング処理を行うことにより、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1Vの最大値に対する最小値の比を0.60以上とする点が開示されていると主張している。

(b)また、申立人は、甲2?甲5に開示のとおり、熱間圧延の粗圧延時や、仕上圧延時に、鋼材との衝突圧力が0.10?2.0MPa程度の範囲で高圧水によるデスケーリング処理を実施することは周知技術であり、甲1に甲2?5に記載された周知技術(デスケーリング処理)を組み合わせれば、当業者が相違点1-3の構成に容易に到達し得ると主張している。

(c)しかし、本件特許明細書の【0042】、【0049】を参照しても、「熱間圧延の粗圧延時や、仕上圧延時に、鋼材との衝突圧力が0.10?2.0MPa程度の範囲で高圧水によるデスケーリング処理を実施する」ことで、他の製造条件に関係なく必ず鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1Vの最大値に対する最小値の比を0.60以上となると解することはできない。

(d)そして、甲1には、デスケーリング処理を実施することは記載されておらず、上記(c)で示したように、甲1発明において、甲2?甲5に記載されているデスケーリング処理を採用しても、鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1Vの最大値に対する、上記鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が0.60以上となるかは不明であるし、甲2?甲5にも、デスケーリング処理と耐アンモニアSCC性の向上の効果との関係は記載されていないから、甲1発明において、耐アンモニアSCC性の向上という効果を期待して、甲2?甲5に記載されている周知技術を適用する動機付けはなく、鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上となるように、熱間圧延の粗圧延時や、仕上圧延時に、鋼板との衝突圧力が0.10?2.0MPa程度の範囲となる高圧水によるデスケーリング処理を実施することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(e)よって、上記申立人の主張は採用できない。

(ウ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点1-3は、甲第2?5号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と甲第2?5号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

ウ 本件発明2?4、6について
(ア)本件発明2?4、6と甲1発明との対比・検討
a 本件発明2?4、6と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1-3と同様の点で相違し、相違点1-3についての判断は上記イ(イ)で示したとおりである。

b そうすると、甲1発明と本件発明2?4、6との相違点1-3と同様の相違点に係る構成も、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点1-3と同様の相違点は、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2?4、6は、甲1発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明2?4、6は、甲1に記載された発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許の請求項2?4、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

(2)申立理由1-1、申立理由2-2について
ア 甲2に記載された発明
(ア)甲2の【0001】、【0016】から、甲2には、石油や天然ガスの輸送に使用されるラインパイプ用溶接鋼管に関し、耐厚潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプについて記載されていると認められる。

(イ)ここで、甲2の【0079】の【表2】では、「鋼管No.」の「8」が2つあり、「鋼管No.」の最大値は「22」である。一方、【0089】の【表3】では、「鋼管No.」の「8」は1つであり、「鋼管No.」の最大値は「23」であるから、【表2】の「鋼管No.」の2つ目の「8」以降の「8」?「22」は、それぞれ「9」?「23」の誤記であると認められる。
以下では、甲2の【0079】の【表2】の「鋼管No.」の2つ目の「8」以降の「8」?「22」は、それぞれ「9」?「23」と記載されているとみなして扱う。

(ウ)そして、甲2には、上記ラインパイプについて、請求項1、2の記載を踏まえ、実施例の鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

a 【0079】の【表2】から、鋼管No.1?3、5の成分は【0078】の【表1】に記載された成分No.Aであると認められる。同様に、鋼管No.7?12の成分はNo.Bであり、鋼管No.16の成分はNo.Dであり、鋼管No.19の成分はNo.Fであり、鋼管No.20、21の成分はNo.Gであり、鋼管No.22の成分はNo.Hであり、鋼管No.23の成分はNo.Iである。

b 【0078】の【表1】から、成分No.Aの化学成分は、C:0.071%、Si:0.10%、Mn:1.20%、P:0.003%、S:0.0004%、Al:0.025%、Cu:0.14%、Ni:0.14%、Mo.0.20%、Nb:0.012%、V:0.025%、Ti:0.010%、Ca:0.0025%、N:0.0035%、O:0.0020%であり、Ceqは0.335であり、PHICは0.977であり、ACRは2.98である。

c 【0078】の【表1】から、成分No.Bの化学成分は、C:0.042%、Si:0.28%、Mn:1.42%、P:0.003%、S:0.0004%、Al:0.028%、Ni:0.15%、Cr:0.15%、Mo.0.10%、Nb:0.031%、V:0.025%、Ti:0.010%、Ca:0.0032%、N:0.0036%、O:0.0019%であり、Ceqは0.344であり、PHICは0.915であり、ACRは4.14である。

d 【0078】の【表1】から、成分No.Dの化学成分は、C:0.049%、Si:0.15%、Mn:1.06%、P:0.004%、S:0.0004%、Al:0.040%、Ni:0.35%、Cr:0.10%、Mo.0.16%、Nb:0.051%、Ti:0.007%、Ca:0.0024%、N:0.0035%、O:0.0020%であり、Ceqは0.301であり、PHICは0.852であり、ACRは2.83である。

e 【0078】の【表1】から、成分No.Fの化学成分は、C:0.090%、Si:0.35%、Mn:1.04%、P:0.003%、S:0.0003%、Al:0.018%、Mo.0.25%、Nb:0.035%、Ti:0.015%、Ca:0.0028%、N:0.0045%、O:0.0020%であり、Ceqは0.313であり、PHICは0.977であり、ACRは4.57である。

f 【0078】の【表1】から、成分No.Gの化学成分は、C:0.045%、Si:0.30%、Mn:1.25%、P:0.003%、S:0.0005%、Al:0.025%、Ni:0.28%、Cr:0.15%、Mo.0.10%、Nb:0.030%、V:0.025%、Ti:0.010%、N:0.0030%、O:0.0020%であり、Ceqは0.327であり、PHICは0.876であり、ACRは-0.58である。

g 【0078】の【表1】から、成分No.Hの化学成分は、C:0.038%、Si:0.30%、Mn:1.15%、P:0.008%、S:0.0015%、Al:0.028%、Cu:0.25%、Ni:0.15%、Cr:0.05%、Mo.0.15%、Nb:0.035%、V:0.030%、Ti:0.010%、Ca:0.0015%、N:0.0031%、O:0.0021%であり、Ceqは0.302であり、PHICは0.929であり、ACRは0.38である。

h 【0078】の【表1】から、成分No.Iの化学成分は、C:0.042%、Si:0.24%、Mn:1.25%、P:0.011%、S:0.0006%、Al:0.025%、Cu:0.21%、Ni:0.20%、Mo.0.18%、Nb:0.015%、V:0.015%、Ti:0.018%、Ca:0.0020%、Mg:0.0010%、N:0.0045%、O:0.0018%であり、Ceqは0.317であり、PHICは1.049であり、ACRは1.61である。

i 【0027】?【0040】、【0043】?【0046】の記載、特に、【0027】の「・・・なお、成分組成を示す単位は、全て質量%とする。」、及び【0046】の「上記の元素以外はFeおよび不避的不純物とする。より好ましくは、不可避的不純物の含有量を、N:0.0060%以下、B:0.0005%以下とする。」との記載から、成分No.A、B、D、F?Iは、上記b?hで示した化学成分は「質量%」であり、上記b?hで示したNを除く化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。

j 【0046】の記載から、鋼管の成分のN(窒素)は「不可避的不純物」に含まれる。

k 【0081】、【0089】の表3から、鋼管No.1?3、5、10、16、19、20、22の母材表層部の金属組織は、フェライト及び上部ベイナイトであり、鋼管No.7?9、11、12、21、23の母材表層部の金属組織は、上部ベイナイトである。

l 【0081】、【0089】の表3から、鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23の母材管厚中心部の金属組織は、上部ベイナイト単相である。

m 【0081】、【0089】の表3から、鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23の管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が、それぞれ3.5%、3.6%、3.5%、3.4%、2.5%、2.2%、2.1%、5.2%、2.2%、2.1%、2.5%、5.6%、5.5%、2.8%、2.2%、2.6%である。

n 【0082】、【0089】の【表3】から、鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23の管厚幅方向同位置における管周方向の硬度差の最大値は、それぞれ、25、26、35、28、28,25、27、55、26、28、19、22、20、28、24、28である。

o 【0082】、【0089】の【表3】から、鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23の管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値は、それぞれ、26、40、28、28、19、20、18、65、18、18、18、28、30、28、16、19である。

p 【0082】、【0089】の【表3】から、鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23の表層硬さの最大は、それぞれ、225、245、240、222,226、222、210、245、228、230、206、218、220、219、210、211である。

q また、【0082】から、【0089】の【表3】に記載された「管幅方向硬さ差」、「管厚方向硬さ差」、及び「最大硬さ」の硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したものである。

r 【0077】の記載から、鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23は、製造した鋼板をUOE成形によって造管し、突合せ部の溶接は、内面及び外面について各1層のサブマージアーク溶接により実施しているから、厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であると認められる。

(エ)そうすると、甲2には、特に、実施例の鋼管No.1?3、5、7?12、16、19?23に着目すると、以下の甲2発明1?甲2発明16が記載されていると認められる。

<甲2発明1>(鋼管No.1)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.071%、
Si:0.10%、
Mn:1.20%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.025%、
Cu:0.14%、
Ni:0.14%、
Mo.0.20%、
Nb:0.012%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0025%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.335、
式(2)で規定されるPHICが0.977、
式(3)で規定されるACRが2.98であり
残部がFeおよびN:0.0035%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が3.5%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が25、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が26、
表層硬さの最大値が225である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明2>(鋼管No.2)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.071%、
Si:0.10%、
Mn:1.20%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.025%、
Cu:0.14%、
Ni:0.14%、
Mo.0.20%、
Nb:0.012%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0025%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.335、
式(2)で規定されるPHICが0.977、
式(3)で規定されるACRが2.98であり
残部がFeおよびN:0.0035%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が3.6%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が26、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が40、
表層硬さの最大値が245である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明3>(鋼管No.3)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.071%、
Si:0.10%、
Mn:1.20%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.025%、
Cu:0.14%、
Ni:0.14%、
Mo.0.20%、
Nb:0.012%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0025%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.335、
式(2)で規定されるPHICが0.977、
式(3)で規定されるACRが2.98であり
残部がFeおよび、N:0.0035%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が3.5%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が35、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が28、
表層硬さの最大値が240である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明4>(鋼管No.5)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.071%、
Si:0.10%、
Mn:1.20%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.025%、
Cu:0.14%、
Ni:0.14%、
Mo.0.20%、
Nb:0.012%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0025%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.335、
式(2)で規定されるPHICが0.977、
式(3)で規定されるACRが2.98であり
残部がFeおよび、N:0.0035%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が3.4%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が28、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が28、
表層硬さの最大値が222である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明5>(鋼管No.7)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.042%、
Si:0.28%、
Mn:1.42%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.028%、
Ni:0.15%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.031%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0032%および
O:0.0019%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.344、
式(2)で規定されるPHICが0.915、
式(3)で規定されるACRが4.14であり
残部がFeおよびN:0.0036%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.6%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が28、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が19、
表層硬さの最大値が226である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明6>(鋼管No.8)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.042%、
Si:0.28%、
Mn:1.42%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.028%、
Ni:0.15%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.031%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0032%および
O:0.0019%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.344、
式(2)で規定されるPHICが0.915、
式(3)で規定されるACRが4.14であり
残部がFeおよび、N:0.0036%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.2%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が25、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が20、
表層硬さの最大値が222である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明7>(鋼管No.9)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.042%、
Si:0.28%、
Mn:1.42%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.028%、
Ni:0.15%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.031%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0032%および
O:0.0019%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.344、
式(2)で規定されるPHICが0.915、
式(3)で規定されるACRが4.14であり
残部がFeおよびN:0.0036%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.1%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が27、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が18、
表層硬さの最大値が210である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明8>(鋼管No.10)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.042%、
Si:0.28%、
Mn:1.42%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.028%、
Ni:0.15%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.031%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0032%および
O:0.0019%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.344、
式(2)で規定されるPHICが0.915、
式(3)で規定されるACRが4.14であり
残部がFeおよびN:0.0036%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が5.2%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が55、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が65、
表層硬さの最大値が245である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明9>(鋼管No.11)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.042%、
Si:0.28%、
Mn:1.42%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.028%、
Ni:0.15%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.031%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0032%および
O:0.0019%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.344、
式(2)で規定されるPHICが0.915、
式(3)で規定されるACRが4.14であり
残部がFeおよびN:0.0036%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.2%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が26、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が18、
表層硬さの最大値が228である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明10>(鋼管No.12)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.042%、
Si:0.28%、
Mn:1.42%、
P:0.003%、
S:0.0004%、
Al:0.028%、
Ni:0.15%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.031%、
V:0.025%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0032%および
O:0.0019%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.344、
式(2)で規定されるPHICが0.915、
式(3)で規定されるACRが4.14であり
残部がFeおよびN:0.0036%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.1%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が28、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が18、
表層硬さの最大値が230である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明11>(鋼管No.16)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.049%、
Si:0.15%、
Mn:1.06%、
P:0.004%、
S:0.0004%、
Al:0.040%、
Ni:0.35%、
Cr:0.10%、
Mo.0.16%、
Nb:0.051%、
Ti:0.007%、
Ca:0.0024%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.301、
式(2)で規定されるPHICが0.852、
式(3)で規定されるACRが2.83であり
残部がFeおよびN:0.0035%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.5%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が19、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が18、
表層硬さの最大値が206である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明12>(鋼管No.19)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.090%、
Si:0.35%、
Mn:1.04%、
P:0.003%、
S:0.0003%、
Al:0.018%、
Mo.0.25%、
Nb:0.035%、
Ti:0.015%、
Ca:0.0028%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.313、
式(2)で規定されるPHICが0.977、
式(3)で規定されるACRが4.57であり
残部がFeおよびN:0.0045%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が5.6%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が22、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が28、
表層硬さの最大値が218である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明13>(鋼管No.20)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.045%、
Si:0.30%、
Mn:1.25%、
P:0.003%、
S:0.0005%、
Al:0.025%、
Ni:0.28%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.030%、
V:0.025%、
Ti:0.010%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.327、
式(2)で規定されるPHICが0.876、
式(3)で規定されるACRが-0.58であり
残部がFeおよびN:0.0030%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が5.5%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が20、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が30、
表層硬さの最大値が220である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明14>(鋼管No.21)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.045%、
Si:0.30%、
Mn:1.25%、
P:0.003%、
S:0.0005%、
Al:0.025%、
Ni:0.28%、
Cr:0.15%、
Mo.0.10%、
Nb:0.030%、
V:0.025%、
Ti:0.010%および
O:0.0020%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.327、
式(2)で規定されるPHICが0.876、
式(3)で規定されるACRが-0.58であり
残部がFeおよびN:0.0030%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.8%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が28、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が28、
表層硬さの最大値が219である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明15>(鋼管No.22)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.038%、
Si:0.30%、
Mn:1.15%、
P:0.008%、
S:0.0015%、
Al:0.028%、
Cu:0.25%、
Ni:0.15%、
Cr:0.05%、
Mo.0.15%、
Nb:0.035%、
V:0.030%、
Ti:0.010%、
Ca:0.0015%および
O:0.0021%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.302、
式(2)で規定されるPHICが0.929、
式(3)で規定されるACRが0.38であり
残部がFeおよびN:0.0031%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.2%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が24、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が16、
表層硬さの最大値が210である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

<甲2発明16>(鋼管No.23)
「厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合した溶接鋼管であって、
質量%で、
C:0.042%、
Si:0.24%、
Mn:1.25%、
P:0.011%、
S:0.0006%、
Al:0.025%、
Cu:0.21%、
Ni:0.20%、
Mo.0.18%、
Nb:0.015%、
V:0.015%、
Ti:0.018%、
Ca:0.0020%、
Mg:0.0010%および
O:0.0018%
を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.317、
式(2)で規定されるPHICが-1.049、
式(3)で規定されるACRが1.61であり
残部がFeおよびN:0.0045%を含む不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
母材表層部の金属組織が上部ベイナイトであり、
母材管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相であり、
管厚全域で島状マルテンサイト(M-A)の体積分率が2.6%、
かつ、管厚方向同位置における管周方向の硬度差の最大値が28、
管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が19、
表層硬さの最大値が211である
耐圧潰性および耐サワー性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PHIC=4.46C+2.37Mn/6+(1.18Cr+1.95Mo+1.74V)/5+(1.74Cu+1.7Ni)/15+22.36P 式(2)
ACR=(Ca-(0.18+130Ca)O)/1.25S 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とし、前記硬度差及び表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである。」

イ 本件発明4と甲2発明1との対比
(ア)本件発明4と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1の「ラインパイプ」は、本件発明4の「鋼材」に相当する。

(イ)甲2発明1において、成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比は、0.025(Al)/0.0035(N)=約7.1であるから、本件発明1の「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」を満たす。

(ウ)そうすると、本件発明4と甲2発明1とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ca:0.0001?0.0100%、
Mg:0.0001?0.0200%および
REM:0.001?0.200%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.005?0.100%、
Zr:0.005?0.100%、
Nb:0.005?0.100%および
V:0.005?0.100%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物を含む成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下である鋼材。」

<相違点2-1>
本件発明4では、鋼材がさらに「O」(酸素)を含有する旨の特定はなく、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものであるのに対し、甲2発明1では、高強度ラインパイプが、さらに、「O」(酸素)を「0.0020%」含有するものであり、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものである点。

<相違点2-2>
本件発明4では、「鋼材中の固溶Mo量および固溶W量」が、「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」の関係を満足する、ここで、「〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)」であり、また、「〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である」のに対し、甲2発明1では、当該式(1)の関係を満足するのか不明である点。

<相違点2-3>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲2発明1では、「表層硬さの最大値が225であ」り、「表層硬さの硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである」点。

<相違点2-4>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲2発明1では、「管周方向同位置における管厚方向の硬度差の最大値が26」であり、「硬度差」「の硬さは、ビッカース硬さ試験機で加重10kgf(98N)で測定したビッカース硬さである」点。

<相違点2-5>
本件発明4では、「不可避的不純物」とは別に「N:0.0005?0.0100%」「を含有」する旨特定しているのに対し、甲2発明1では、「N:0.0035%」を「不可避的不純物」として含んでいる点。

ウ 相違点2-2についての検討
事案に鑑み、相違点2-2から検討する。

(ア)実質的な相違点であるか否かについて
a 甲2の【0040】には、「Mo」について、「Mo:0.50%以下 Moは焼き入れ性を向上し強度上昇に大きく寄与する元素である。しかし、0.50%を超える添加はM-A体積分率の増加による圧縮強度の低下や溶接影響部人生の劣化を招くため、Moを添加する場合は、その含有量は0.50%以下とする。より好ましくは、0.05?0.30%である。」と記載されているが、固溶Mo量については記載されていない。また、実施例の鋼管No.1の化学成分について、W(タングステン)を含有する旨の記載もない。

b そして、実施例の鋼管No.1において、「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」の関係を満足すると認定できるだけの証拠もない。

c したがって、相違点2-2は実質的な相違点である。

(イ)容易想到性について
a 本件特許明細書の【0038】には、以下の記載がある。

「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
上述したように、MoおよびWは、液体アンモニア環境中において鋼材表面から少しずつ溶出し、MoO_(4)^(2-)イオンおよびWO_(4)^(2-)イオンとなることで、液体アンモニア中に存在するNH_(4)^(+)と速やかに結びつきアンモニウム化合物を形成する。これにより、カソード反応のリアクタントである鋼材表面上のNH_(4)^(+)イオンが消費されるため、鋼材表面上でのカソード反応量が低下する。その結果、対反応となる応力腐食割れの亀裂先端でのアノード反応が抑制され、亀裂進展速度が低下する。
ここで、MoO_(4)^(2-)イオンおよびWO_(4)^(2-)イオンは、固溶Wおよび固溶Moから生じる。一方、鋼材中に固溶状態で存在しない非固溶状態のMoおよびW、具体的には、MoおよびWの析出物は、応力腐食割れの発生起点となるため、かような非固溶状態のMoおよびWは、鋼材の耐アンモニアSCC性を劣化させる。
この点、発明者らが検討を重ねた結果、所望とする耐アンモニアSCC性を得るには、成分組成にMoおよびWを一定量含有させ、その上で、成分組成におけるMoおよびWの合計含有量に対する固溶Moおよび固溶Wの合計量の比(以下、(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕)ともいう)を0.20以上、すなわち、上掲式(1)を満足させることが重要であることを見出した。好ましくは0.40以上である。 なお、上掲式(1)における〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」

b 上記aより、本件発明3において、固溶Wおよび固溶Moは亀裂進展速度を低下させる効果を奏し、非固溶状態のMoおよびWは、応力腐食割れの発生起点となることから、耐アンモニアSCC性を得るには、成分組成にMoおよびWを一定量含有させ、その上で、成分組成におけるMoおよびWの合計含有量に対する固溶Moおよび固溶Wの合計量の比を0.20以上とすることが重要であることが理解できる。

c 一方、甲1、6、10、11には、成分組成におけるMoおよびWの合計含有量に対する固溶Moおよび固溶Wの合計量の比が0.20以上である構成は記載されているものの、甲2及び甲1、6、10、11には、上記構成を甲2発明1に適用する動機付けとなるような記載はなく、また、甲2及び他の証拠には、耐アンモニア性SCCに優れた鋼材を提供するという課題や、成分組成にMoおよびWを一定量含有させ、その上で、成分組成におけるMoおよびWの合計含有量に対する固溶Moおよび固溶Wの合計量の比を0.20以上とすることと耐アンモニアSCC性の向上という効果との関係についての記載もない。

d そして、成分組成におけるMoおよびWの合計含有量に対する固溶Moおよび固溶Wの合計量の比を0.20以上とすることで、耐アンモニアSCC性を得る効果を奏することは、甲2の記載や他の証拠から当業者が予測し得ない顕著なものである。

e そうすると、甲2発明1において、成分組成におけるMoおよびWの合計含有量に対する固溶Moおよび固溶Wの合計量の比を0.20以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、特許異議申立書において、まず、本件特許明細書の【0038】、【0047】、【0051】において、熱間圧延前のスラブ(鋼素材)を1000℃以上に過熱して20分以上保持すること、及び、熱間圧延後の加速冷却では、冷却速度を4?100℃/sとすることで、固溶Mo量固溶W量が式(1)の関係を満たすことが開示されていると主張している。

b また、申立人は、甲2の鋼管No.1は、熱間圧延前のスラブの加熱温度、及び熱間圧延後の加速冷却は上記の範囲内であり、甲7?甲9に記載のとおり、スラブを1000℃以上に過熱して20分以上保持することは技術常識であるとし、甲2においてスラブの過熱時間に対して特段の記載がないため、甲2においてスラブの過熱時間は技術常識の範囲内であると考えられ、甲2の鋼管No.1について、熱間圧延前のスラブは1000℃以上に過熱して20分以上保持されている蓋然性が極めて高いと主張している。

c しかし、本件特許明細書の【0038】からは、「熱間圧延前のスラブの加熱時間および保持温度、ならびに、熱間圧延後の冷却速度を適切に制御することが重要である」ことは理解できるものの、本件特許明細書の【0047】、【0051】を参照しても、「熱間圧延前のスラブ(鋼素材)を1000℃以上に過熱して20分以上保持すること、及び、熱間圧延後の加速冷却では、冷却速度を4?100℃/s」とすることで、他の製造条件に関係なく必ず固溶Mo量固溶W量が式(1)の関係を満たすと解することはできない。

d また、甲2にはスラブの過熱時間に関して記載されておらず、甲7?甲9に記載されているスラブの過熱時間と同じ程度の過熱時間が甲2に実質的に記載されていると判断する理由もない。

e そして、上記cで示したように、甲2発明1において、甲7?甲9に記載されているスラブの過熱時間を採用しても、固溶Mo量固溶W量が式(1)の関係を満たすかは不明であるし、甲7?甲9にも、スラブの過熱時間と耐アンモニアSCC性を得る効果との関係は記載されていないから、甲2発明1において、耐アンモニアSCC性を得るという効果を期待して、甲7?甲9に記載されているスラブの過熱時間を採用する動機付けはなく、成分組成におけるMoおよびWの合計含有量に対する固溶Moおよび固溶Wの合計量の比を0.20以上とするように、スラブの過熱時間を調整することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

f よって、上記申立人の主張は採用できない。

エ 本件発明4と甲2発明2?甲2発明16との対比・検討について
(ア)本件発明4と甲2発明2?甲2発明16のそれぞれとを対比した場合においても、甲2発明1と同様に本件発明4と少なくとも上記相違点2-2と同様の相違点で相違し、相違点2-2についての判断は上記ウで示したとおりである。

(イ)そうすると、甲2発明2?甲2発明16についても、少なくとも本件発明4と実質的な相違点である相違点2-2と同様の相違点があり、また、当該相違点2-2と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

オ 小括
上記ウで示したように、上記相違点2-2は実質的な相違点であり、また、当該相違点2-2に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲2発明1ではなく、また、本件発明4は、甲2発明1と甲7?9に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、上記エで示したように、上記相違点2-2と同様の相違点は実質的な相違点であり、また、当該相違点2-2と同様の相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲2発明2?甲2発明16ではなく、また、本件発明4は、甲2発明2?甲2発明16と甲7?9に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明4は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明と甲7?甲9に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

(3)申立理由1-2、申立理由2-3について
ア 甲3に記載された発明
(ア)【0001】から、甲3には、建築、海洋構造物、造船、土木、建設産業用機械、ラインパイプ等の分野で使用される、鋼板内の材質均一性に優れた耐サワーラインパイプ用高強度鋼板について記載されていると認められる。

(イ)そして、甲3には、上記耐サワーラインパイプ用高強度鋼板について、請求項1?3の記載を踏まえ、実施例1の鋼板No.2、4に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

a 【0086】の【表3】から、鋼板No.2、4の鋼種は、それぞれ【0074】の【表1】に記載された鋼種B、Dである。

b 【0074】の【表1】から、鋼種Bの化学成分(mass%)は、C:0.046%、Si:0.21%、Mn:1.28%、P:0.005%、S:0.0005%、Al:0.020%、Ca:0.002%、Cu:0.23%、Ni:0.11%、Mo:0.19%であり、CPは0.94%であり、Ceqは0.32%である。

c 【0074】の【表1】から、鋼種Dの化学成分(mass%)は、C:0.049%、Si:0.24%、Mn:1.23%、P:0.006%、S:0.0006%、Al:0.022%、Ca:0.002%、Cr:0.20%、Mo:0.14%、Nb:0.021%、Ti:0.015%であり、CPは0.94%であり、Ceqは0.32%である。

d 【0028】?【0035】、【0041】?【0045】の記載、特に、【0035】の「・・・上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物とする。」との記載から、鋼種B、Dは、上記b、cで示した化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。

e 【0086】の【表3】、【0087】から、鋼種B、Dの鋼板のミクロ組織は、表層1mm位置は平均粒径20μm以下で、それぞれベイナイト組織、体積率2%(100%-98%)以下のフェライト組織と98%のベイナイト組織であり、両者とも17mm位置(t/2位置(tは板厚34mm))はベイナイト組織である。

f 【0079】、【0086】の【表3】から、鋼板No.2、4の「板厚方向の硬さばらつき」は、それぞれ、18、19である。

g 【0079】、【0086】の【表3】から、鋼板No.2、4の「板幅方向の硬さばらつき」は、それぞれ、16、18である。

h 【0079】、【0086】の【表3】から、鋼板No.2、4の「表層部の最高硬さ」は、それぞれ、195、190である。

i また、【0079】から、【0086】の【表3】に記載された「板厚方向の硬さばらつき」、「板幅方向の硬さばらつき」、及び「表層部の最高硬さ」の硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである。

(ウ)そうすると、甲3には、特に、実施例1の鋼板No.2、4に着目すると、以下の甲3発明1、甲3発明2が記載されていると認められる。

<甲3発明1>(鋼板No.2)
「mass%で、
C:0.046%、
Si:0.21%、
Mn:1.28%、
P:0.005%、
S:0.0005%、
Al:0.020%、
Ca:0.002%
Cu:0.23%、
Ni:0.11%および
Mo:0.19%
を含有し、
下記(1)式で示されるCP値(質量%)が0.94であり、下記(2)式で示されるCeq値(質量%)が0.32、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織が表層下1mmの領域でベイナイト組織であり、17mm位置でベイナイト組織であり、板厚方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)18であり、板幅方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)16であり、鋼板表層部の最高硬さがH_(V10)195である、鋼板内の材質均一性に優れた耐サワーラインパイプ用高強度鋼板。
CP=4.46C(%)+2.37Mn(%)+{1.74Cu(%)+1.7Ni(%)}/15+{1.18Cr(%)+1.95Mo(%)+1.74V(%)}/5+22.36P(%) ・・・(1)
Ceq=C(%)+Mn(%)/6+(Cu(%)+Ni(%))/15+(Cr(%)+Mo(%)+V(%))/5 ・・・(2)
但し、各式において各元素記号は含有量(質量%)であり、前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである。」

<甲3発明2>(鋼板No.4)
「mass%で、
C:0.049%、
Si:0.24%、
Mn:1.23%、
P:0.006%、
S:0.0006%、
Al:0.022%、
Ca:0.002%、
Cr:0.20%、
Mo:0.14%、
Nb:0.021%および
Ti:0.015%
を含有し、
下記(1)式で示されるCP値(質量%)が0.94であり、下記(2)式で示されるCeq値(質量%)が0.32、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織が表層1mmの領域でベイナイト組織と平均粒径20μm以下で体積率2%以下のフェライト組織であり、17mm位置でベイナイト組織であり、板厚方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)19であり、板幅方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)18であり、鋼板表層部の最高硬さがH_(V10)190である、鋼板内の材質均一性に優れた耐サワーラインパイプ用高強度鋼板。
CP=4.46C(%)+2.37Mn(%)+{1.74Cu(%)+1.7Ni(%)}/15+{1.18Cr(%)+1.95Mo(%)+1.74V(%)}/5+22.36P(%) ・・・(1)
Ceq=C(%)+Mn(%)/6+(Cu(%)+Ni(%))/15+(Cr(%)+Mo(%)+V(%))/5 ・・・(2)
但し、各式において各元素記号は含有量(質量%)であり、前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである。」

イ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲3発明1との対比
a 本件発明3と甲3発明1とを対比すると、甲3発明1の「mass%」、「耐サワーラインパイプ用高強度鋼板」は、それぞれ本件発明3の「質量%」、「鋼材」に相当する。

b そうすると、本件発明3と甲3発明1とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ca:0.0001?0.0100%、
Mg:0.0001?0.0200%および
REM:0.001?0.200%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物を含む成分組成を有する鋼材。」

<相違点3-1>
本件発明3では、鋼材が、さらに、「N:0.0005?0.0100%」を含有するものであり、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものであるのに対し、甲3発明1では、耐サワーラインパイプ用高強度鋼板がN(窒素)を含有する旨の特定はなく、N(窒素)の含有量について不明である点。

<相違点3-2>
本件発明3では、「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」であるのに対し、甲3発明1では、N(窒素)の含有量について不明であるため、N含有量に対するAl含有量の比についても不明である点。

<相違点3-3>
本件発明3では、「鋼材中の固溶Mo量および固溶W量」が、「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」の関係を満足する、ここで、「〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)」であり、また、「〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である」のに対し、甲3発明1では、当該式(1)の関係を満足するのか不明である点。

<相違点3-4>
本件発明3では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲3発明1では、「鋼板表層部の最高硬さがH_(V10)195」であり、「前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである」点。

<相違点3-5>
本件発明3では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲3発明1では、「板幅方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)16であり」、「前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである」点。

(イ)相違点3-1についての検討
a 実質的な相違点であるか否かについて
(a)甲3には、N(窒素)の含有量は記載されておらず、また、甲3発明1において、N(窒素)の含有量が0.0005?0.0100%の範囲に含まれると認定できるだけの証拠もない。

(b)したがって、相違点3-1は実質的な相違点である。

b 容易想到性について
(a)本件の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0027】には、以下の記載がある。

「N:0.0005?0.0100%
Nは、耐アンモニアSCC性の向上、特に、後述のAlによる耐アンモニアSCC性の向上効果を安定的に得るために、重要な働きをする。すなわち、鋼中Nは、亀裂先端でのアノード溶解に伴ってH^(+)を消費し、NH_(4)^(+)を形成する。NH_(4)^(+)はカソード反応のリアクタントであり、本来、アノード反応のみが選択的に起こり続ける亀裂先端部にあって、カソード反応を与える。亀裂先端部においてカソード反応が生じることで、亀裂部での水酸化物イオン濃度が上昇して、Alによる耐アンモニアSCC性の向上効果が安定的に得られるようになる。このような効果を得るには、N含有量を0.0005%以上とする必要がある。
一方、N含有量が0.0100%を超えると、アンモニアSCCの起点となる粗大なAlNなどの窒化物が形成されてアンモニアSCC感受性が増加し、かえって、耐アンモニアSCC性が低下する。
このため、N含有量は0.0005?0.0100%の範囲とする。好ましくは0.0010%以上である。また、好ましくは0.0080%以下である。」

(b)上記(a)より、本件発明3において、「N」(窒素)は、耐アンモニアSCC性の向上に重要な働きをするものであり、耐アンモニアSCC性の向上効果を安定的に得るため、及び耐アンモニアSCC性を低下させないために、含有量を0.0005?0.0100%としていると認められる。

(c)一方、甲1、6、10、11には、N(窒素)を含有させる構成は記載されているものの、甲3及び甲1、6、10、11には、上記構成を甲3発明1に適用する動機付けとなるような記載はなく、また、甲3及び他の証拠には、耐アンモニア性SCCに優れた鋼材を提供するという課題や、N(窒素)の含有量と耐アンモニアSCC性の向上という効果との関係についての記載もない。

(d)そして、N(窒素)を質量%で0.0005?0.0100%含有させることで、耐アンモニアSCC性の向上効果を安定的に得る効果、及び耐アンモニアSCC性を低下させない効果を奏することは、甲3の記載や他の証拠から当業者が予測し得ない顕著なものである。

(e)そうすると、甲3発明1において、N(窒素)を質量%で0.0005?0.0100%含有させることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

c 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書において、甲7を証拠として「窒素(N)が不可避に含有される元素であることは、極めて広く知られた技術常識である」と主張するとともに、「下限は0.0005%(5ppm)であり、上限は0.0100%(100ppm)」の範囲の「N含有量が不純物として鋼材に含有され得るのは、技術常識である」と主張し、甲3のNo.2が、Nを0.0005?0.0100%含有している蓋然性が極めて高く、相違点1は実質的な相違点ではないと主張する。

(b)しかし、甲7の[0069]の[表1]の「鋼No.B」の「化学成分(質量%)」が「0.0003」となっていることからも明らかなように、窒素(N)が不可避的に含有される元素であるとしても、その含有量が0.0005?0.0100%の範囲に含まれることは本件出願時の技術常識ではなく、甲3のNo.2が、Nを0.0005?0.0100%含有している蓋然性が極めて高いという主張は採用できない。

(ウ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点3-1は実質的な相違点であり、また、当該相違点3-1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は甲3発明1ではなく、また、本件発明3は、甲3発明1と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明3は、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

ウ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲3発明2との対比
a 本件発明4と甲3発明2とを対比すると、甲3発明2の「mass%」、「耐サワーラインパイプ用高強度鋼板」は、それぞれ本件発明4の「質量%」、「鋼材」に相当する。

b そうすると、本件発明3と甲3発明2とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ca:0.0001?0.0100%、
Mg:0.0001?0.0200%および
REM:0.001?0.200%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.005?0.100%、
Zr:0.005?0.100%、
Nb:0.005?0.100%および
V:0.005?0.100%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物を含む成分組成を有する鋼材。」

<相違点3-6>
本件発明4では、鋼材が、さらに、「N:0.0005?0.0100%」を含有するものであり、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものであるのに対し、甲3発明2では、耐サワーラインパイプ用高強度鋼板がN(窒素)を含有する旨の特定はなく、N(窒素)の含有量について不明である点。

<相違点3-7>
本件発明4では、「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」であるのに対し、甲3発明2では、N(窒素)の含有量について不明であるため、N含有量に対するAl含有量の比についても不明である点。

<相違点3-8>
本件発明4では、「鋼材中の固溶Mo量および固溶W量」が、「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」の関係を満足する、ここで、「〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)」であり、また、「〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である」のに対し、甲3発明2では、当該式(1)の関係を満足するのか不明である点。

<相違点3-9>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲3発明2では、「鋼板表層部の最高硬さがH_(V10)190」あり、「前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである」点。

<相違点3-10>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲3発明2では、「板幅方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)18であり」、「前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである」点。

(イ)相違点3-6についての検討
a 相違点3-6は上記イ(ア)bで示した相違点3-1と同様の相違点であり、相違点3-1についての判断は、上記イ(イ)で示したとおりである。

b したがって、相違点3-6は実質的な相違点であり、また、甲3発明2において、N(窒素)を質量%で0.0005?0.0100%含有させることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)甲3の他の実施例について
a 甲3の鋼板No.3、6?8、10?12、15、21、23?25の実施例の発明は、N(窒素)の含有量について不明である点で、甲3発明2と同様に本件発明4と少なくとも上記相違点3-6と同様の点で相違し、相違点3-6についての判断は上記(イ)で示したとおりである。

b そうすると、甲3の鋼板No.3、6?8、10?12、15、21、23?25の実施例の発明についても、本件発明4と実質的な相違点である相違点3-6と同様の相違点があり、また、当該相違点3-6と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

(エ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点3-6は実質的な相違点であり、また、当該相違点3-6に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲3発明2ではなく、また、本件発明4は、甲3発明2と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点3-6と同様の相違点は実質的な相違点であり、また、当該相違点3-6と同様の相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲3に記載された鋼板No.3、6?8、10?12、15、21、23?25の実施例の発明ではなく、また、本件発明4は、甲3に記載された鋼板No.3、6?8、10?12、15、21、23?25の実施例の発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明4は、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

(4)申立理由1-3、2-4について、
ア 甲4に記載された発明
(ア)【0001】から、甲4には、建築、海洋構造物、造船、土木、建設産業用機械、ラインパイプ等の分野で使用される、鋼板内の材質均一性及び伸び特性に優れたラインパイプ用高強度鋼板について記載されていると認められる。

(イ)そして、甲4には、上記ラインパイプ用高強度鋼板について、請求項1?3の記載を踏まえ、実施例1の鋼板No.2に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

a 【0087】の【表3】から、鋼板No.2の鋼種は、【0074】の【表1】に記載された鋼種Bである。

b 【0075】の【表1】から、鋼種Bの化学成分(質量%)は、C:0.056%、Si:0.21%、Mn:1.48%、P:0.005%、S:0.0005%、Al:0.020%、Ca:0.002%、Cu:0.23%、Ni:0.15%、Mo:0.19%、Nb:0.021%、Ti:0.011%であり、Ceqは1.06%であり、Ceqは0.37%である。

c 【0028】?【0035】、【0041】?【0046】の記載、特に、【0035】の「・・・上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物とする。」との記載から、鋼種Bは、上記bで示した化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。

d 【0087】の【表3】、【0088】から、鋼種Bの鋼板のミクロ組織は、表層1mm位置は平均粒径20μm以下でベイナイト組織であり、17mm位置(t/2位置(tは板厚34mm))はベイナイト組織である。

e 【0080】、【0087】の【表3】から、鋼板No.2の「板厚方向硬さばらつき」は、18である。

f 【0080】、【0087】の【表3】から、鋼板No.2の「板幅方向硬さばらつき」は、16である。

g 【0080】、【0087】の【表3】から、鋼板No.2の「表層部硬さ」は、215である。

h また、【0080】から、【0087】の【表3】に記載された「板厚方向硬さばらつき」、「板幅方向硬さばらつき」、及び「表層部硬さ」の硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである。

(ウ)そうすると、甲4には、特に、鋼板No.2に着目すると、以下の甲4発明が記載されていると認められる。

<甲4発明>
「質量%で、
C:0.056%、
Si:0.21%、
Mn:1.48%、
P:0.005%、
S:0.0005%、
Al:0.020%、
Ca:0.002%、
Cu:0.23%、
Ni:0.15%、
Mo:0.19%、
Nb:0.021%および
Ti:0.011%
を含有し、
下記(1)式で示されるCP値(質量%)が1.06であり、下記(2)式で示されるCeq値(質量%)が0.37、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
金属組織が表層1mmの領域でベイナイト組織であり、17mm位置でベイナイト組織であり、その他の内部領域でベイナイト組織であり、板厚方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)18であり、板幅方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)16であり、鋼板表層部の最高硬さがH_(V10)215である、鋼板内の材質均一性に優れたラインパイプ用高強度鋼板。
CP=4.46C(%)+2.37Mn(%)+{1.74Cu(%)+1.7Ni(%)}/15+{1.18Cr(%)+1.95Mo(%)+1.74V(%)}/5+22.36P(%) ・・・(1)
Ceq=C(%)+Mn(%)/6+(Cu(%)+Ni(%))/15+(Cr(%)+Mo(%)+V(%))/5 ・・・(2)
但し、各式において各元素記号は含有量(質量%)、前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである。」

イ 本件発明4と甲4発明との対比
(ア)本件発明4と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「ラインパイプ用高強度鋼板」は、本件発明4の「鋼材」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲4発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ca:0.0001?0.0100%、
Mg:0.0001?0.0200%および
REM:0.001?0.200%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.005?0.100%、
Zr:0.005?0.100%、
Nb:0.005?0.100%および
V:0.005?0.100%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物を含む成分組成を有する鋼材。」

<相違点4-1>
本件発明4では、鋼材が、さらに、「N:0.0005?0.0100%」を含有するものであり、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものであるのに対し、甲4発明では、ラインパイプ用高強度鋼板がN(窒素)を含有する旨の特定はなく、N(窒素)の含有量について不明である点。

<相違点4-2>
本件発明4では、「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」であるのに対し、甲4発明では、N(窒素)の含有量について不明であるため、N含有量に対するAl含有量の比についても不明である点。

<相違点4-3>
本件発明4では、「鋼材中の固溶Mo量および固溶W量」が、「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」の関係を満足する、ここで、「〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)」であり、また、「〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である」のに対し、甲4発明では、当該式(1)の関係を満足するのか不明である点。

<相違点4-4>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲4発明では、「鋼板表層部の最高硬さがH_(V10)215であ」り、「前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである」点。

<相違点4-5>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲4発明では、「板幅方向の硬さのばらつきがΔH_(V10)16であり」、「前記硬さは、ビッカース硬度計で加重10kgで測定したものである」点。

ウ 相違点4-1についての検討
(ア)実質的な相違点であるか否かについて
a 甲4には、N(窒素)の含有量は記載されておらず、また、甲4発明において、N(窒素)の含有量が0.0005?0.0100%の範囲に含まれると認定できるだけの証拠もない。

b したがって、相違点4-1は実質的な相違点である。

(イ)容易想到性について
a 上記(3)イ(イ)b(a)、(b)で示したように、本件発明4において、「N」(窒素)は、耐アンモニアSCC性の向上に重要な働きをするものであり、耐アンモニアSCC性の向上効果を安定的に得るため、及び耐アンモニアSCC性を低下させないために、含有量を0.0005?0.0100%としていると認められる。

b 一方、甲1、6、10、11には、N(窒素)を含有させる構成は記載されているものの、甲4及び甲1、6、10、11には、上記構成を甲4発明に適用する動機付けとなるような記載はなく、また、甲4及び他の証拠には、耐アンモニア性SCCに優れた鋼材を提供するという課題や、N(窒素)の含有量と耐アンモニアSCC性の向上という効果との関係についての記載もない。

c そしてN(窒素)を質量%で0.0005?0.0100%含有させることで、耐アンモニアSCC性の向上効果を安定的に得る効果、及び耐アンモニアSCC性を低下させない効果を奏することは、甲4の記載や他の証拠から当業者が予測し得ない顕著なものである。

d そうすると、甲4発明において、N(窒素)を質量%で0.0005?0.0100%含有させることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
相違点4-1に対する申立人の主張は、相違点3-1と同様の主張であり、当該主張については、上記(3)イ(イ)cで示した判断と同様の理由で採用できない。

エ 甲4の他の実施例について
(ア)甲4の鋼板No.3、4、6?12、15、21、23?25の実施例の発明は、N(窒素)の含有量について不明である点で、甲4発明と同様に本件発明4と少なくとも上記相違点4-1と同様の点で相違し、相違点4-1についての判断は上記ウで示したとおりである。

(イ)そうすると、甲4の鋼板No.3、4、6?12、15、21、23?25の実施例の発明についても、本件発明4と実質的な相違点である相違点4-1と同様の相違点があり、また、当該相違点4-1と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

オ 小括
上記ウで示したように、上記相違点4-1は実質的な相違点であり、また、当該相違点4-1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲4発明ではなく、また、本件発明4は、甲4発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
また、上記エで示したように、上記相違点4-1と同様の相違点は実質的な相違点であり、また、当該相違点4-1と同様の相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲4に記載された鋼板No.3、4、6?12、15、21、23?25の実施例の発明ではなく、また、本件発明4は、甲4に記載された鋼板No.3、4、6?12、15、21、23?25の実施例の発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
したがって、本件発明4は、甲4に記載された発明ではなく、甲4に記載された発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもないから、本件特許の請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

(5)申立理由2-5について
ア 甲6に記載された発明
(ア)【0001】から、甲6には、建築、土木、海洋構造物等の分野において各種構造物の耐火性に優れた鋼材について記載されていると認められる。

(イ)そして、甲6には、上記鋼材について、請求項1、2の記載を踏まえ、実施例の発明例C、Eに着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

a 【0008】、【0022】の【表1】から、発明例Cの化学成分(重量比)は、C:0.09%、Si:0.25%、Mn:1.03%、P:0.006%、S:0.002%、Cu:0.33%、Ni:0.32%、Cr:0.53%、Mo:0.42%、Nb:0.021%、Ti,0.012%、Al:0.033%、N:0.0042%である。

b 【0008】、【0022】の【表1】から、発明例Eの化学成分(重量比)は、C:0.22%、Si:0.22%、Mn:1.38%、P:0.009%、S:0.006%、Ni:0.65%、Cr:0.64%、Mo:0.52%、Al:0.029%、N:0.0066%である。

c 【0023】の【表2】から、発明例C、EのMoの固溶(%)は、それぞれ0.17%、0.25%である。

(ウ)そうすると、甲6には、特に、実施例の発明例C、Eに着目すると、以下の甲6発明1、甲6発明2が記載されていると認められる。

<甲6発明1>(発明例C)
「重量比で、
C:0.09%、
Si:0.25%、
Mn:1.03%、
P:0.006%、
S:0.002%、
Cu:0.33%、
Ni:0.32%、
Cr:0.53%、
Mo:0.42%、
Nb:0.021%、
Ti,0.012%、
Al:0.033%および
N:0.0042%
を含有する鋼において
固溶Nb:0.01%、
固溶Mo:0.17%を鋼中に固溶状態で存在する高温強度の優れた鋼材。」

<甲6発明2>(発明例E)
「重量比で、
C:0.22%、
Si:0.22%、
Mn:1.38%、
P:0.009%、
S:0.006%、
Ni:0.65%、
Cr:0.64%、
Mo:0.52%、
Al:0.029%および
N:0.0066%
を含有する鋼において
固溶Mo:0.25%を鋼中に固溶状態で存在する高温強度の優れた鋼材。」

イ 本件発明1について
(ア)甲6発明1について
a 本件発明1と甲6発明1との対比
(a)本件発明1と甲6発明1とを対比すると、甲6発明1の「重量比」は、本件発明1の「質量%」に相当する。

(b)甲6発明1は「鋼材」の発明であるから、技術常識に基づけば、特定されている化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物であるといえる。

(c)甲6発明1において、成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比は、0.033(Al)/0.0042(N)=約7.9であるから、本件発明1の「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」を満たす。

(d)甲6発明1において、Wは含有されていないから、(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕)は、0.17/0.42=約0.40であり、本件発明1の「次式(1)の関係」「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」を満たす。

(e)そうすると、本件発明1と甲6発明1とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
N:0.0005?0.0100%および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物を含む成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下であり、
鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が次式(1)の関係を満足する鋼材。
(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」

<相違点6-1>
本件発明1では、鋼材が、さらに、「Cu」、「Ni」、「Cr」及び「Nb」を含有するものではなく、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものであるのに対し、甲6発明1では、鋼材が、さらに、「Cu」を「0.33%」、「Ni」を「0.32%」、「Cr」を「0.53%」、「Nb」を「0.021%」及び「Ti」を「0.012%」含有するものである点。

<相違点6-2>
本件発明1では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲6発明1では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点6-3>
本件発明1では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲6発明1では、このような構成を有しているのか不明である点。

b 相違点6-3についての検討
事案に鑑み、相違点6-3から検討する。

(a)容易想到性について
(i)上記(1)イ(イ)a(a)、(b)で示したように、本件発明1において、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を0.60以上とすることは、耐アンモニアSCC性を向上するものであると認められる。

(ii)一方、甲6及び他の証拠には、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることについては記載されておらず、耐アンモニア性SCCに優れた鋼材を提供するという課題や、耐アンモニアSCC性の向上という効果に関する記載もない。

(iii)そして、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることで、耐アンモニアSCC性が向上するという効果は、甲6の記載や他の証拠から当業者が予測し得ない顕著なものである。

(iv)そうすると、甲6発明1において、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(b)申立人の主張について
相違点6-3に対する申立人の主張は、相違点1-3と同様の主張であり、当該主張については、上記(1)イ(イ)bで示した判断と同様の理由で採用できない。

(イ)甲6発明2について
a 本件発明1と甲6発明2との対比
(a)本件発明1と甲6発明2とを対比すると、甲6発明2の「重量比」は、本件発明1の「質量%」に相当する。

(b)甲6発明2は「鋼材」の発明であるから、技術常識に基づけば、特定されている化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物であるといえる。

(c)甲6発明2において、成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比は、0.029(Al)/0.0066(N)=約4.4であるから、本件発明1の「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」を満たす。


(d)甲6発明2において、Wは含有されていないから、(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕)は、0.25/0.52=約0.48であり、本件発明1の「次式(1)の関係」「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」を満たす。

(e)そうすると、本件発明1と甲6発明2とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
N:0.0005?0.0100%および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物を含む成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下であり、
鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が次式(1)の関係を満足する鋼材。
(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」

<相違点6-4>
本件発明1では、鋼材が、さらに「Ni」及び「Cr」を含有するものではなく、「残部」がFeおよび不可避的不純物からなるものであるのに対し、甲6発明2では、鋼材が、さらに、「Ni」を「0.65%」及び「Cr」を「0.64%」含有するものである点。

<相違点6-5>
本件発明1では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲6発明2では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点6-6>
本件発明1では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲6発明2では、このような構成を有しているのか不明である点。

b 相違点6-6についての検討
事案に鑑み、相違点6-6から検討する。

(a)容易想到性について
(i)相違点6-6は上記(ア)a(e)で示した相違点6-3と同様の相違点であり、相違点6-3についての判断は、上記(ア)bで示したとおりである。

(ii)したがって、甲6発明2において、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(b)申立人の主張について
相違点6-6に対する申立人の主張は、相違点1-3と同様の主張であり、当該主張については、上記(1)イ(イ)bで示した判断と同様の理由で採用できない。

(ウ)甲6の他の実施例について
a 甲6の発明例B、Dの実施例の発明は、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上であるか不明である点で、甲6発明1と同様に本件発明1と少なくとも上記相違点6-3と同様の点で相違し、相違点6-3についての判断は上記(ア)bで示したとおりである。

b そうすると、甲6の発明例B、Dの実施例の発明についても、本件発明1と相違点6-3と同様の相違点があり、また、当該相違点6-3に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

(エ)小括
上記(ア)b、(イ)bで示したように、上記相違点6-3、相違点6-6は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明1または甲6発明2と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点6-3と同様の相違点は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6の発明例B、Dの実施例の発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
そして、本件発明1は、甲6に記載された発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

ウ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲6発明2との対比・検討
a 本件発明2と甲6発明2とを対比すると、少なくとも上記相違点6-6と同様の点で相違し、相違点6-6についての判断は上記イ(イ)bで示したとおりである。

b そうすると、甲6発明2と本件発明2との相違点6-6と同様の相違点に係る構成も、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点6-6と同様の相違点は、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲6発明2と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
そして、本件発明1は、甲6に記載された発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲6発明1との対比・検討
a 本件発明4と甲6発明1とを対比すると、少なくとも上記相違点6-3と同様の点で相違し、相違点6-3についての判断は上記イ(ア)bで示したとおりである。

b そうすると、甲6発明1と本件発明4との相違点6-3と同様の相違点に係る構成も、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)甲6の他の実施例について
a 甲6の発明例Dの実施例の発明は、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上であるか不明である点で、甲6発明1と同様に本件発明4と少なくとも上記相違点6-3と同様の点で相違し、相違点6-3についての判断は上記イ(ア)bで示したとおりである。

b そうすると、甲6の発明例Dの実施例の発明についても、本件発明4と相違点6-3と同様の相違点があり、また、当該相違点6-3と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点6-3と同様の相違点は、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲6発明1と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、上記(イ)で示したように、上記相違点6-3と同様の相違点は、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲6の発明例Dの実施例の発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
そして、本件発明4は、甲6に記載された発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

オ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲6発明1との対比・検討
a 本件発明6と甲6発明1とを対比すると、少なくとも上記相違点6-3と同様の点で相違し、相違点6-3についての判断は上記イ(ア)bで示したとおりである。

b そうすると、甲6発明1と本件発明6との相違点6-3同様の相違点に係る構成も、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)本件発明6と甲6発明2との対比・検討
a 本件発明6と甲6発明2とを対比すると、少なくとも上記相違点6-6と同様の点で相違し、相違点6-6についての判断は上記イ(イ)bで示したとおりである。

b そうすると、甲6発明2と本件発明6との相違点6-6と同様の相違点に係る構成も、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)甲6の他の実施例について
a 甲6の発明例B、Dの実施例の発明は、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上であるか不明である点で、甲6発明1と同様に本件発明6と少なくとも上記相違点6-3と同様の点で相違し、相違点6-3についての判断は上記イ(ア)bで示したとおりである。

b そうすると、甲6の発明例B、Dの実施例の発明についても、本件発明6と相違点6-3と同様の相違点があり、また、当該相違点6-3と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

(エ)小括
上記(ア)、(イ)で示したように、上記相違点6-3と同様の相違点、相違点6-6と同様の相違点は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲6発明1または甲6発明2と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点6-3と同様の相違点は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲6の発明例B、Dの実施例の発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
そして、本件発明6は、甲6に記載された発明と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

(6)申立理由2-6について
ア 甲10に記載された発明
(ア)【0001】から、甲10には、原油タンカーの油槽や、地上または地下原油タンクなどの、原油を輸送または貯蔵する鋼製油槽で生じる原油腐食に対して、優れた耐食性を示し、さらに固体Sを含む腐食生成物(スラッジ)の生成を抑制できる溶接構造用の原油油槽用鋼について記載されていると認められる。

(イ)そして、甲10には、上記原油油槽用鋼について、請求項1、2、7の記載を踏まえ、実施例の鋼板番号A2に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

a 【0140】の【表3】から、鋼板番号A2の鋼片番号は2であるから、その化学成分は、【0138】の【表1】、【0139】の【表2】の、鋼片番号2の化学成分である。

b 【0138】の【表1】、【0139】の【表2】から、鋼片番号2の化学成分(mass%)は、C:0.14%、Si:0.21%、Mn:1.46%、P:0.008%、S:0.003%、Al:0.046%、N:0.0032%、Cu:0.35%、Cr:0.012%、Mo:0.078%、Nb:0.009%、Ti:0.012%である。

c 【0063】、【0064】の記載、特に、【0063】の「・・・残部がFeおよび不可避的不純物からなる」との記載から、鋼板番号A2は、上記bで示した化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。

d 【0142】の【表5】から、鋼板番号A2の固溶Mo+W(%)は、0.026%である。

(ウ)そうすると、甲10には、特に、実施例の鋼板番号A2に着目すると、以下の甲10発明が記載されていると認められる。

<甲10発明>
「mass%で、
C:0.14%、
Si:0.21%、
Mn:1.46%、
P:0.008%、
S:0.003%、
Al:0.046%、
N:0.0032%、
Cu:0.35%、
Cr:0.012%、
Mo:0.078%、
Nb:0.009%および
Ti:0.012%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるとともに、
質量%で、固溶Mo+W(%)=0.026%である原油油槽用鋼。」

イ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲10発明との対比
a 本件発明4と甲10発明とを対比すると、甲10発明の「mass%」、「原油油槽用鋼」は、それぞれ本件発明4の「質量%」、「鋼材」に相当する。

b 甲10発明において、成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比は、0.046(Al)/0.0032(N)=約14.4であるから、本件発明1の「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」を満たす。

c 甲10発明において、Wは含有されていないから、(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕)は、0.026/0.078=約0.33であり、本件発明1の「次式(1)の関係」「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」を満たす。

d そうすると、本件発明4と甲10発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
N:0.0005?0.0100%および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ca:0.0001?0.0100%、
Mg:0.0001?0.0200%および
REM:0.001?0.200%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.005?0.100%、
Zr:0.005?0.100%、
Nb:0.005?0.100%および
V:0.005?0.100%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下であり、
鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が次式(1)の関係を満足する鋼材。
(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」

<相違点10-1>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲10発明では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点10-2>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲10発明では、このような構成を有しているのか不明である点。

(イ)相違点10-2についての検討
事案に鑑み、相違点10-2から検討する。

a 容易想到性について
(a)上記(1)イ(イ)a(a)、(b)で示したように、本件発明4においても、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を0.60以上とすることは、耐アンモニアSCC性を向上するものであると認められる。

(b)一方、甲10及び他の証拠には、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることについては記載されておらず、耐アンモニア性SCCに優れた鋼材を提供するという課題や、耐アンモニアSCC性の向上という効果に関する記載もない。

(c)そして、原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることで、耐アンモニアSCC性が向上するという効果は、甲10の記載や他の証拠から当業者が予測し得ない顕著なものである。

(d)そうすると、甲10発明において、原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 申立人の主張について
相違点10-2に対する申立人の主張は、相違点1-3と同様の主張であり、当該主張については、上記(1)イ(イ)bで示した判断と同様の理由で採用できない。

(ウ)甲10の他の実施例について
a 甲10の鋼板番号A3、A5、A12、A14?A17の実施例の発明は、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上であるか不明である点で、甲10発明と同様に本件発明4と少なくとも上記相違点10-2と同様の点で相違し、相違点10-2についての判断は上記(イ)で示したとおりである。

b そうすると、甲10の鋼板番号A3、A5、A12、A14?A17の実施例の発明についても、本件発明4と相違点10-2と同様の相違点があり、また、当該相違点10-2と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

(エ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点10-2は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲10発明と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点10-2と同様の相違点は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲10の鋼板番号A3、A5、A12、A14?A17の実施例の発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
そして、本件発明4は、甲10に記載された発明と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

ウ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲10発明との対比・検討
a 本件発明5と甲10発明とを対比すると、少なくとも上記相違点10-2と同様の点で相違し、相違点10-2についての判断は上記イ(イ)で示したとおりである。

b そうすると、甲10発明と本件発明5との相違点10-2と同様の相違点に係る構成も、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)甲10の他の実施例について
a 甲10の鋼板番号A3、A5、A12、A14?A17の実施例の発明は、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上であるか不明である点で、甲10発明と同様に本件発明5と少なくとも上記相違点10-2と同様の相違点で相違し、相違点10-2についての判断は上記イ(イ)で示したとおりである。

b そうすると、甲10の鋼板番号A3、A5、A12、A14?A17の実施例の発明についても、本件発明5と実質的な相違点10-2と同様の相違点があり、また、当該相違点10-2と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点10-2と同様の相違点は、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲10発明と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、上記(イ)で示したように、上記相違点10-2と同様の相違点は、甲2?5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲10の鋼板番号A3、A5、A12、A14?A17の実施例の発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
そして、本件発明1は、甲10に記載された発明と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

(7)申立理由2-7について
ア 甲11に記載された発明
(ア)【0001】から、甲11には、鋼管や圧力容器等に好適なAPI X100グレード以上の強度を有し、且つ一様伸び特性にも優れた高強度鋼板、特に溶接後熱処理(PWHT)を行った後においても優れた強度と靭性を有する耐PWHT特性に優れた高強度鋼板について記載されていると認められる。

(イ)そして、甲11には、上記高強度鋼板について、請求項1、2の記載を踏まえ、実施例のNo.1、4に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

a 【0035】の【表2】から、No.1、4の鋼種は、それぞれ【0034】の【表1】の鋼種A、Dある。

b 【0034】の【表1】から、鋼種Aの化学成分(質量%)は、C:0.067%、Si:0.24%、Mn:1.88%、Mo:0.28%、Ti:0.011%、Nb:0.024%、V:0.023%、Al:0.032%、Ni:0.32%、N:0.004%であり、P_(CM)値は0.19、Ceqは0.46、P値は0.22であり、X(=9×[Ceq値]+4×[P値])は5.0であり、Y(=[C]/([Mo]+[Ti]+[Nb]+[V])は1.4である。

c 【0034】の【表1】から、鋼種Dの化学成分(質量%)は、C:0.066%、Si:0.19%、Mn:1.95%、Mo:0.29%、Ti:0.008%、Nb:0.023%、V:0.036%、Al:0.034%、Cr:0.12%、B:0.0005%、N:0.004%であり、P_(CM)値は0.20、Ceqは0.48、P値は0.23であり、X(=9×[Ceq値]+4×[P値])は5.2であり、Y(=[C]/([Mo]+[Ti]+[Nb]+[V])は1.3である。

d 【0012】?【0016】、【0020】?【0022】の記載、特に、【0022】の「・・・上記以外の残部はFe及び不可避的不純物である。」との記載から、鋼種A、Dは、上記b、cで示したNを除く化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。

e [0022]の記載から、高強度鋼板のP(リン)及びS(硫黄)は不可避的不純物である。

f 【0036】の【表3】から、No.1、4の固溶Mo量(mass%)は、それぞれ0.20%、0.22%である。

g 【0036】の【表3】から、No.1、4のPWHT処理前の引っ張り強度は、それぞれ775MPa、865Paであり、降伏強度は、それぞれ710MPa、796MPaであり、一様伸びは、それぞれ8%、9%である。

(イ)そうすると、甲11には、特に、実施例のNo.1、4に着目すると、以下の甲11発明1、甲11発明2が記載されていると認められる。

<甲11発明1>(No.1)
「 C:0.067質量%、
Si:0.24質量%、
Mn:1.88質量%、
Mo:0.28質量%、
Ti:0.011質量%、
Nb:0.024質量%、
V:0.023質量%、
Al:0.032質量%および
Ni:0.32質量%
を含有し、残部がFeおよびN:0.004質量%とP、Sを含む不可避的不純物からなり、且つ下記(イ)?(ハ)の条件を満足する成分組成を有し、
(イ)下記(1)式で表わされるP_(CM)値(質量%):0.19
P_(CM)値=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B …(1)
但し、(1)式中の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
(ロ)下記(3)式で表されるCeq値0.46と下記(4)式で表されるP値0.22が、下記(2)式を満足する(左辺が5.0)。
9×[Ceq値]+4×[P値]≧4.8 …(2)
Ceq値=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 …(3)
但し、(3)式中の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
P値=[Mo]+[Ti]+[Nb]+[V] …(4)
但し、(4)式中の元素記号は各含有元素の原子%を示す。
(ハ)下記(5)式の値:1.4
[C]/([Mo]+[Ti]+[Nb]+[V]) …(5)
但し、(5)式中の元素記号は各含有元素の原子%を示す。
鋼中の固溶Mo量が0.20質量%であり、引張強度が775MPa、降伏強度が710MPaの引張り特性と、8%の一様伸びを有する耐PWHT特性および一様伸び特性に優れた高強度鋼板。」

<甲11発明2>(No.4)
「 C:0.066質量%、
Si:0.19質量%、
Mn:1.95質量%、
Mo:0.29質量%、
Ti:0.008質量%、
Nb:0.023質量%、
V:0.036質量%、
Al:0.034質量%、
Cr:0.12質量%および
B:0.0005質量%
を含有し、残部がFeおよびN:0.004質量%とP、Sを含む不可避的不純物からなり、且つ下記(イ)?(ハ)の条件を満足する成分組成を有し、
(イ)下記(1)式で表わされるP_(CM)値(質量%):0.20
P_(CM)値=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B …(1)
但し、(1)式中の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
(ロ)下記(3)式で表されるCeq値0.48と下記(4)式で表されるP値0.23が、下記(2)式を満足する(左辺が5.2)。
9×[Ceq値]+4×[P値]≧4.8 …(2)
Ceq値=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 …(3)
但し、(3)式中の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
P値=[Mo]+[Ti]+[Nb]+[V] …(4)
但し、(4)式中の元素記号は各含有元素の原子%を示す。
(ハ)下記(5)式の値:1.3
[C]/([Mo]+[Ti]+[Nb]+[V]) …(5)
但し、(5)式中の元素記号は各含有元素の原子%を示す。
鋼中の固溶Mo量が0.22質量%であり、引張強度が865MPa、降伏強度が796MPaの引張り特性と、9%の一様伸びを有する耐PWHT特性および一様伸び特性に優れた高強度鋼板。」

イ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲11発明1との対比
a 本件発明4と甲11発明1とを対比すると、甲11発明1の「高強度鋼板」は、本件発明4の「鋼材」に相当する。

b 甲11発明1において、成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比は、0.032(Al)/0.004(N)=8であるから、本件発明1の「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」を満たす。

c 甲11発明1において、Wは含有されていないから、(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕)は、0.20/0.28=約0.71であり、本件発明1の「次式(1)の関係」「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」を満たす。

d そうすると、本件発明4と甲11発明1とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.005?0.100%、
Zr:0.005?0.100%、
Nb:0.005?0.100%および
V:0.005?0.100%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下であり、
鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が次式(1)の関係を満足する鋼材。
(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」

<相違点11-1>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲11発明1では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点11-2>
本件発明4では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲11発明1では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点11-3>
本件発明4では、「不可避的不純物」とは別に「P:0.030%以下」、「S:0.0100%以下」、「N:0.0005?0.0100%」「を含有」する旨特定しているのに対し、甲11発明1では、「P」、「S」、「N:0.004%」を「不可避的不純物」として含んでいる点。

(イ)相違点11-2についての検討
事案に鑑み、相違点11-2から検討する。

a 容易想到性について
(a)上記(1)イ(イ)a(a)、(b)で示したように、本件発明4においても、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を0.60以上とすることは、耐アンモニアSCC性を向上するものであると認められる。

(b)そして、甲11及び他の証拠には、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることについては記載されておらず、耐アンモニア性SCCに優れた鋼材を提供するという課題や、耐アンモニアSCC性の向上という効果に関する記載もない。

(c)そして、原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることで、耐アンモニアSCC性が向上するという効果は、甲11の記載や他の証拠から当業者が予測し得ない顕著なものである。

(d)そうすると、甲11発明1において、原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記原油油槽用鋼の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 申立人の主張について
相違点11-2に対する申立人の主張は、相違点1-3と同様の主張であり、当該主張については、上記(1)イ(イ)bで示した判断と同様の理由で採用できない。

(ウ)甲11の他の実施例について
a 甲11のNo.2、3、5?15の実施例の発明は、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上であるか不明である点で、甲11発明1と同様に本件発明4と少なくとも上記相違点11-2と同様の点で相違し、相違点11-2についての判断は上記(イ)で示したとおりである。

b そうすると、甲11のNo.2、3、5?15の実施例の発明についても、本件発明4と相違点11-2と同様の相違点があり、また、当該相違点11-2と同様の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。

(エ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点11-2は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲11発明1と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点11-2と同様の相違点は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲11のNo.2、3、5?15の実施例の発明と甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
そして、本件発明4は、甲11に記載された発明と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲11発明2との対比
a 本件発明6と甲11発明2とを対比すると、甲11発明2の「高強度鋼板」は、本件発明6の「鋼材」に相当する。

b 甲11発明2において、成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比は、0.034(Al)/0.004(N)=8.5であるから、本件発明1の「上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下」を満たす。

c 甲11発明2において、Wは含有されていないから、(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕)は、0.22/0.29=約0.76であり、本件発明1の「次式(1)の関係」「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)」を満たす。

d そうすると、本件発明6と甲11発明2とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点>
「質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.010?1.00%、
Mn:0.10?3.00%および
Al:0.010?0.300%
を含有し、さらに
Mo:0.010?1.00%および
W:0.010?1.00%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Cu:0.01?3.00%、
Ni:0.01?3.00%、
Cr:0.01?3.00%、
Sb:0.01?0.50%および
Sn:0.01?0.50%、
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.005?0.100%、
Zr:0.005?0.100%、
Nb:0.005?0.100%および
V:0.005?0.100%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、
前記成分組成が、さらに質量%で、
B:0.0001?0.0300%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
上記成分組成におけるN含有量に対するAl含有量の比が1.8以上75.0以下であり、
鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が次式(1)の関係を満足する鋼材。
(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」

<相違点11-4>
本件発明6では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下」であり、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」は、「鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値」であるのに対し、甲11発明2では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点11-5>
本件発明6では、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値」「に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上」である、ここで、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」のに対し、甲11発明2では、このような構成を有しているのか不明である点。

<相違点11-6>
本件発明6では、「不可避的不純物」とは別に「P:0.030%以下」、「S:0.0100%以下」、「N:0.0005?0.0100%」「を含有」する旨特定しているのに対し、甲11発明2では、「P」、「S」、「N:0.004%」を「不可避的不純物」として含んでいる点。

(イ)相違点11-5についての検討
事案に鑑み、相違点11-5から検討する。

a 容易想到性について
(b)相違点11-5は上記イ(ア)dで示した相違点11-2と同様の相違点であり、相違点11-2についての判断は、上記イ(イ)で示したとおりである。

(b)したがって、甲11発明2において、高強度鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、上記高強度鋼板の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比を、0.60以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 申立人の主張について
相違点11-5に対する申立人の主張は、相違点1-3と同様の主張であり、当該主張については、上記(1)イ(イ)bで示した判断と同様の理由で採用できない。

(ウ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点11-5は、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲11発明2と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
そして、本件発明6は、甲11に記載された発明と、甲2?甲5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許の請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

2 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件を検討する観点について
本件発明1?6は、「鋼材」の発明であって、物の発明に該当するが、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、特許法第36条第4項第1号が定める実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造し、使用することができる程度にその発明が記載されたものでなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本件発明1?6の実施可能要件について検討する。

(2)本件発明1?6について
ア 本件発明1?6は、所定の成分組成を有する鋼材であって、「鋼材中の固溶Mo量および固溶W量が」「(〔%固溶Mo〕+〔%固溶W〕) / (〔%Mo〕+〔%W〕) ≧ 0.20 ---(1)
」、「の関係を満足し」、「鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下であり、かつ、該最大値に対する、上記鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上である」、「ここで、〔%固溶Mo〕および〔%固溶W〕はそれぞれ、鋼材中の固溶Mo量および固溶W量(質量%)である。また、〔%Mo〕および〔%W〕はそれぞれ、上記成分組成におけるMo含有量およびW含有量(質量%)である。」「また、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値および最小値はそれぞれ、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.3mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値および最小値である」「鋼材」に関するものである。

イ 本件特許明細書には、「鋼材」の成分組成(【0022】?【0036】)、成分組成におけるMo及びWの合計含有量に対する固溶Mo及び固溶Wの合計量の比(式(1))(【0038】)、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値(【0040】、【0043】)、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比(【0041】、【0043】)の各事項について、具体的な説明がなされている。

ウ また、本件特許明細書には、「鋼材」の製造方法(【0046】?【0052】)、「鋼材」の用途(【0020】)について、具体的な説明がなされている。

エ そして、本件特許明細書(【0053】?【0059】)には、実施例1における発明例(表1-1、表1-2、表2)として、本件発明1?6の条件を満たす特定の成分組成を有し、当該成分組成におけるMo及びWの合計含有量に対する固溶Mo及び固溶Wの合計量の比が式(1)を満足し、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下であり、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0,60以上である「鋼材」を製造したことが記載されている。

オ また、発明例以外の本件発明1?6に含まれる「鋼材」についても、当業者であれば、本件特許明細書の記載に基づき、所定の成分組成で上記の製造方法により製造することができ、得られた「鋼材」を上記の用途に使用することができると認められる。

カ 以上によれば、当業者が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1?6に係る「鋼材」を、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく製造し、使用することができるといえる。

キ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?6について、実施可能要件を満たすものである。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において、本件発明1?6の「鋼材」は、種々の形状の鋼材(たとえば、鋼板、棒鋼、線材、中実材、鋼管等)を含み得るものと解され、鋼板以外の形状の「鋼材」では適切な製造条件が変わる蓋然性が極めて高いとし、一方、本件特許明細書には、特定の形状の鋼材である鋼板の発明しか記載されておらず、鋼板以外の形状の「鋼材」について、式(1)、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下、及び該最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0.60以上を満たすための製造条件が記載されていないから、本件特許明細書を参酌しても、鋼板以外の形状の「鋼材」について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されていない旨主張する。

イ しかし、申立人は、鋼板以外の形状の「鋼材」では適切な製造条件が変わる蓋然性が極めて高いと主張するのみであって、具体的な理由(理論的根拠や具体例)については示していない。

ウ そして、上記(2)で述べたことを踏まえると、当業者であれば、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、鋼板での製造条件を参考に、鋼板以外の形状であっても、式(1)、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が260以下、及び該最大値に対する、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最小値の比が、0,60以上を満たす「鋼材」を、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく製造することができ、得られた「鋼材」を使用することができるといえる。

エ よって、申立人の主張は採用できない。

(4)小括
よって、本件特許の請求項1?6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号の規定に該当するものではなく、取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-03-15 
出願番号 特願2018-199526(P2018-199526)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 一平  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 増山 慎也
井上 猛
登録日 2020-05-18 
登録番号 特許第6705484号(P6705484)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 鋼材  
代理人 杉村 憲司  
代理人 川原 敬祐  
代理人 酒匂 健吾  

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