• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 発明同一  H01M
管理番号 1372735
異議申立番号 異議2020-701019  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-25 
確定日 2021-03-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6717190号発明「蓄電装置用外装材、蓄電装置、及びエンボスタイプ外装材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6717190号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6717190号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)4月8日(優先権主張 平成26年4月9日)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月15日にその特許権の設定登録がされ、同年7月1日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対し、同年12月25日に特許異議申立人である磯崎紀雄(以下、「申立人」という。)は、本件特許の請求項1?6(全請求項)に係る特許について特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、それぞれ、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材であって、
前記基材層は、延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含み、
前記金属箔層は、鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔であり、
前記第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含み、
前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である、蓄電装置用外装材。
【請求項2】
前記金属箔層上に配置された第2接着層をさらに備え、前記シーラント層が前記第2接着層を介して前記金属箔層上に配置され、
前記基材層の厚さが20μm以上50μm以下であり、
前記金属箔層の厚さが30μm以上60μm以下であり、
前記第2接着層及び前記シーラント層の厚さの合計が25μm以上90μm以下である、請求項1に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項3】
前記基材層側の表面及び前記シーラント層側の表面の少なくとも一方の静摩擦係数が0.1以上であり、
前記基材層側の表面及び前記シーラント層側の表面の静摩擦係数が0.4以下であり、
前記基材層側の表面及び前記シーラント層側の表面の静摩擦係数μ_(S)と動摩擦係数μ_(D)との差(μ_(S)-μ_(D))が0.1以下である、請求項1又は2に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材を用いて得られる、蓄電装置。
【請求項5】
パンチ金型と、前記パンチ金型に対応する開口部を有するダイ金型とを備える成型装置を準備する工程と、
請求項1?3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材が前記開口部を覆うように前記蓄電装置用外装材を前記パンチ金型と前記ダイ金型との間に配置する工程と、
前記パンチ金型を前記開口部内に押し込み、前記蓄電装置用外装材に凹部を形成する工程と、を備え、
前記パンチ金型のパンチラジアスRp及び前記ダイ金型のダイラジアスRdがそれぞれ1mm以上5mm以下であり、
前記パンチ金型のコーナーラジアスRcpが1mm以上5mm以下であり、
前記パンチ金型が前記ダイ金型の前記開口部内に押し込まれた際の前記パンチ金型と前記ダイ金型との最短の離間距離であるクリアランスが前記外装材の厚さの1倍?1.5倍である、エンボスタイプ外装材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法により得られたエンボスタイプ外装材の前記凹部に蓄電装置要素を配置し、前記凹部を覆うように前記エンボスタイプ外装材を折り返し重ねる工程と、
前記エンボスタイプ外装材の折り返し重ねられた部分を熱融着する工程と、
を備える、蓄電装置の製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証?甲第10号証を提出し、以下の申立理由1?3により、本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべき旨主張している。

1 申立理由1(新規性)
本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明を主引例とした申立理由2
ア 申立理由2-1-1
本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

イ 申立理由2-1-2
本件発明3、4は、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2-1-3
本件発明5は、甲第1号証に記載された発明と甲第3、4号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

エ 申立理由2-1-4
本件発明6は、甲第1号証に記載された発明と甲第3?5号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)甲第6号証に記載された発明を主引例とした申立理由2
ア 申立理由2-6-1
本件発明1、2は、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

イ 申立理由2-6-2
本件発明3、4は、甲第6号証に記載された発明と甲第8、3号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2-6-3
本件発明5は、甲第6号証に記載された発明と甲第8、3、4号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

エ 申立理由2-6-4
本件発明6は、甲第6号証に記載された発明と甲第8、3?5号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(3)甲第8号証に記載された発明を主引例とした申立理由2
ア 申立理由2-8-1
本件発明1、2は、甲第8号証に記載された発明と甲第6号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

イ 申立理由2-8-2
本件発明3、4は、甲第8号証に記載された発明と甲第6、3号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2-8-3
本件発明5は、甲第8号証に記載された発明と甲第6、3、4号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

エ 申立理由2-8-4
本件発明6は、甲第8号証に記載された発明と甲第6、3?5号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(4)甲第9号証に記載された発明を主引例とした申立理由2
ア 申立理由2-9-1
本件発明1、2は、甲第9号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

イ 申立理由2-9-2
本件発明3、4は、甲第9号証に記載された発明と甲第8、3号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2-9-3
本件発明5は、甲第9号証に記載された発明と甲第8、3、4号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

エ 申立理由2-9-4
本件発明6は、甲第9号証に記載された発明と甲第8、3?5号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

3 申立理由3(拡大先願)
本件発明1は、甲第10号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

4 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2013-101763号公報(以下「甲1」という。)
(2)甲第2号証:アルミニウムハンドブック(第7版)、社団法人日本アルミニウム協会、2007年1月31日発行、p.14-23、250-269、324-325(以下「甲2」という。)
(3)甲第3号証:特開2006-66113号公報(以下「甲3」という。)
(4)甲第4号証:特開2002-208384号公報(以下「甲4」という。)
(5)甲第5号証:特開2013-222555号公報(以下「甲5」という。)
(6)甲第6号証:特開2006-228653号公報(以下「甲6」という。)
(7)甲第7号証:岩田育穂、“樹脂材料の機能的特性と強度試験”、こべるにくす、株式会社コベルコ科研、2003年10月、Vol.12、p.4-6(以下「甲7」という。)
(8)甲第8号証:再公表特許第2014/050542号(以下「甲8」という。)
(当審注:甲8の発行日(平成28年8月22日)は、本件特許の優先日(平成26年4月9日)後であるが、甲8に係る国際出願の国際公開第2014/050542号の国際公開日(平成26年4月3日)は、本件特許の優先日前である。以下では、国際公開第2014/050542号を「甲8の国際公開」という。)
(9)甲第9号証:特開2005-56729号公報(以下「甲9」という。)
(10)甲第10号証:特願2014-22612号(特開2015-147382号公報)(以下「甲10」という。)

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
(1)甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
ア 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載
甲1には、「リチウムイオン電池用外装材」(発明の名称)について、以下の記載がある。なお、下線は当審が付し、「・・・」は省略を表す(以下同様)。

「【請求項1】
基材層の一方の面側に、少なくとも第1接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2接着層及びシーラント層が順次積層されたリチウムイオン電池用外装材であって、
前記基材層の厚みが15?40mmであり、
下記延伸方法により伸び量が5mmとなるように延伸したときの下記密着力試験による前記基材層と前記金属箔層の密着力が5N以下であり、下記延伸方法により伸び量が10mmとなるように延伸したときの下記密着力試験による前記基材層と前記金属箔層の密着力が2N以上であるリチウムイオン電池用外装材。
(延伸方法)
試料幅6mmの試験片を切り出し、該試験片をチャック間距離が10mmとなるように延伸機のチャックに装着し、延伸速度300mm/分で延伸する。
(密着力試験)
試験片の基材層11と金属箔層13の間に切れ目を入れ、基材層11と、金属箔層13からシーラント層16までの積層部分をそれぞれ把持し、T型剥離、剥離速度30mm/分の条件で密着力を測定する。
【請求項2】
前記延伸方法において前記試験片が破断するまで延伸したときの伸び量が10mm以上20mm以下である請求項1に記載のリチウムイオン電池用外装材。」
「【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池用外装材は、成型性に優れ、さらに成型加工後の耐久性にも優れ、冷間成型後に基材層と金属箔層の間で剥離が生じ難い。」
「【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[使用材料]
本実施例で使用した材料を以下に示す。
(基材層11)
基材A-1:二軸延伸ナイロン6フィルム(10μm)。
基材A-2:二軸延伸ナイロン6フィルム(25μm)。
基材A-3:二軸延伸ナイロン6フィルム(25μm)と二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(20μm)の積層フィルム(45μm)。
【0046】
(第1接着層12)
接着剤B-1:ポリエステルポリオール(主剤)とトリレンジイソシアネート(硬化剤)の2液硬化型のウレタン系接着剤(モル比(NCO/OH)=15)。
接着剤B-2:ポリエステルポリオール(主剤)とトリレンジイソシアネート(硬化剤)の2液硬化型のウレタン系接着剤(モル比(NCO/OH)=30)。
接着剤B-3:ポリエステルポリオール(主剤)とトリレンジイソシアネート(硬化剤)の2液硬化型のウレタン系接着剤(モル比(NCO/OH)=45)。
【0047】
(金属箔層13)
金属箔C-1:軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム社製、厚さ40μm)。
【0048】
(腐食防止処理層14)
処理剤D-1:酸化セリウム、リン酸、アクリル系樹脂を主体とした塗布型セリアゾール処理用の処理剤。
【0049】
(第2接着層15)
接着成分E-1:無水マレイン酸でグラフト変性したポリプロピレン系樹脂(商品名「アドマー」、三井化学社製)。
【0050】
(シーラント層16)
フィルムF-1:無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ40μm)の内面となる側の面をコロナ処理したフィルム。
【0051】
[外装材の作成]
金属箔層13となる金属箔C-1の一方の面に処理剤D-1を塗布、乾燥して腐食防止処理層14を形成した。次に、金属箔層13における腐食防止処理層14の反対面に、表1に示す接着剤を使用して、ドライラミネート法により、第1接着層12(厚み4μm)を介して表1に示す構成の基材層11を積層した。その後、60℃、6日間のエージングを行った。次に、得られた積層体の腐食防止処理層14側に押出し装置にて接着成分E-1を押出し、フィルムF-1を貼り合わせてサンドイッチラミネーションすることで、第2接着層15(厚み20μm)を介してシーラント層16を形成した。その後、得られた積層体に対し、160℃、4kg/cm^(2)、2m/分の条件で加熱圧着することで外装材を作成した。
【0052】
[密着力の測定]
各例で得られた外装材から試料幅6mmの試験片を切り出し、該試験片をチャック間距離が10mmとなるように延伸機のチャックに装着し、延伸速度300mm/分で、伸び量が5mm又は10mmとなるように延伸し、5mm延伸後及び10mm延伸後のそれぞれについて、基材層11と金属箔層13の密着力を測定した。
密着力(単位:N)は、試験片の基材層11と金属箔層13の間に切れ目を入れ、基材層11と、金属箔層13からシーラント層16までの積層部分をそれぞれ把持し、T型剥離、剥離速度30mm/分の条件で測定した。密着力の測定結果は以下の通りに分類した。
(延伸後密着力)
G-1:5mm延伸後の密着力が5N以下かつ10mm延伸後の密着力が2Nより小さい。
G-2:5mm延伸後の密着力が5N以下かつ10mm延伸後の密着力が2N以上。
G-3:5mm延伸後の密着力が5Nより大きくかつ10mm延伸後の密着力が2Nより小さい。
【0053】
[最大延伸量の測定]
得られた外装材を前記密着力の測定における延伸条件と同じ条件で、破断するまで延伸し、最大延伸量を測定した。最大延伸量の測定結果は以下の通りに分類した。
(最大延伸量)
H-1:最大延伸量が10mmより小さい。
H-2:最大延伸量が10mm以上、20mm以下。
H-3:最大延伸量が20mmより大きい。
【0054】
[成型性の評価]
各例で得られた外装材を、150mm×190mmのブランク形状に切り取り、成型深さを変化させながら冷間成型し、成型性を評価した。パンチとしては、形状が100mm×150mm、パンチコーナーR(RCP)が1.5mm、パンチ肩R(RP)が0.75mm、ダイ肩R(RD)が0.75mmのものを使用した。評価は、以下の基準に従って行った。
「◎」:破断、クラックが生じさせずに、成型深さ7mm以上の深絞り成型が可能であった。
「○」:破断、クラックが生じさせずに、成型深さ5mm以上7mm未満の深絞り成型が可能であった。
「×」:成型深さ5mm未満の深絞り成型で破断、クラックが生じた。
【0055】
[成型加工後の耐久性の評価]
各例で得られた外装材を、前記成型性の評価で使用したものと同じ成型金型により成型深さ5mmで成型加工し、60℃、95%RHの環境下に30日間放置し、基材層の剥離を目視にて確認した。評価は、以下の基準に従って行った。
「◎」:基材層の変色、及び基材層と金属箔層の間の剥離が観察されない。
「○」:成型加工部の基材層が白く変色しているが、基材層と金属箔層の間の剥離は観察されない。
「×」:成形加工部の基材層と金属箔層の間で剥離が生じている。
【0056】
[実施例1、2及び比較例1?3]
前記作成方法により、表1に示す構成の外装材を作成した。成型性及び成型加工後の耐久性の評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、基材層11の厚みが15?40μmで、5mm延伸後の密着力5N以下かつ10mm延伸後の密着力が2N以上である実施例1、2の外装材は、優れた成型性と成型加工後の優れた耐久性が得られた。特に、基材層11として厚さ25μmのポリアミドフィルムを使用した実施例2の外装材は、成型深さ7mm以上での成形加工が可能であり、成型性がより優れていた。
一方、5mm延伸後の密着力5N以下かつ10mm延伸後の密着力が2N以上であるが、基材層11の厚さが45μmの比較例1の外装材は、優れた成型性が得られたが、成型後の環境試験において基材層と金属箔層の間で剥離が見られ、成型加工後の耐久性が劣っていた。また、5mm延伸後の密着力が5Nより大きくかつ10mm延伸後の密着力が2Nより小さい比較例2の外装材は、成型性は優れていたものの、成型加工後の耐久性が劣っていた。さらに、5mm延伸後の密着力が5N以下かつ10mm延伸後の密着力が2Nより小さい比較例3では、充分な成型性が得られなかった。」

(イ)甲1に記載された発明
a 上記(ア)で摘示した事項から、実施例2に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

(a)【0045】?【0047】、【0049】?【0051】、【0057】の【表1】から、実施例2の基材層は二軸延伸ナイロン6フィルム(25μm)であり、第1接着層はポリエステルポリオール(主剤)とトリレンジイソシアネート(硬化剤)の2液硬化型のウレタン系接着剤(モル比(NCO/OH)=30)であり、金属箔層は軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム社製、厚さ40μm)であり、第2接着層は厚み20μmであり、シーラント層は厚さ40μmである。

(b)【0057】の【表1】から、実施例2の5mm延伸の延伸後密着力は、4.0Nであり、10mm延伸の延伸後密着力は、2.5Nであり、最大延伸量は15mmである。

b また、【0058】の記載及び技術常識(基材層の厚みが40mmでは厚過ぎること)を考慮すると、請求項1の「前記基材層の厚みが15?40mmであり」は、「前記基材層の厚みが15?40μmであり」の誤記と認められる。

c そうすると、甲1には、実施例2を踏まえ、請求項1を引用する請求項2に係る発明に着目すると、以下の甲1発明が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「二軸延伸ナイロン6フィルムである基材層の一方の面側に、少なくともポリエステルポリオール(主剤)とトリレンジイソシアネート(硬化剤)の2液硬化型のウレタン系接着剤(モル比(NCO/OH)=30)である第1接着層、厚さ40μmの軟質アルミニウム箔8079材である金属箔層、腐食防止処理層、厚み20μmの第2接着層及び厚み40μmのシーラント層が順次積層されたリチウムイオン電池用外装材であって、
前記基材層の厚みが25μmであり、
下記延伸方法により伸び量が5mmとなるように延伸したときの下記密着力試験による前記基材層と前記金属箔層の密着力が4.0Nであり、下記延伸方法により伸び量が10mmとなるように延伸したときの下記密着力試験による前記基材層と前記金属箔層の密着力が2.5Nであり、
下記延伸方法において前記試験片が破断するまで延伸したときの伸び量が15mmであるリチウムイオン電池用外装材。
(延伸方法)
試料幅6mmの試験片を切り出し、該試験片をチャック間距離が10mmとなるように延伸機のチャックに装着し、延伸速度300mm/分で延伸する。
(密着力試験)
試験片の基材層11と金属箔層13の間に切れ目を入れ、基材層11と、金属箔層13からシーラント層16までの積層部分をそれぞれ把持し、T型剥離、剥離速度30mm/分の条件で密着力を測定する。」

イ 甲2の記載
甲2には、アルミニウムについて以下の記載がある。




(第19頁 表2.8)

ウ 甲3の記載
甲3には、「積層材料およびその積層材料を用いた電池用外装材」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は、静摩擦係数および動摩擦係数を制御した密着性に優れる積層材料に関し、さらに詳細には、厚さが薄く、かつ、重さが軽く、高度の水蒸気その他のバリヤー性を有し、電解液や酸などに対する耐性、ヒートシール時の熱などに対する耐熱性にも優れると共に、良好な熱接着性、および袋状への製袋適性はもとより、トレー状容器などへの成形性も備え、各種の性能に対する要求の厳しいリチウムポリマー電池などの外装材に好適に使用することのできる積層材料およびその積層材料を用いた電池用外装材に関する。」
「【0019】
<作用>
本発明の積層材料は、少なくとも、プラスチックフィルムの片面にアルミニウム箔を積層した基材のそのアルミニウム箔上に、有機溶剤に変性ポリプロピレンを固体状態で分散してなる懸濁塗布液を塗布して、加熱乾燥してなる、熱ラミネーション可能な接着剤として機能する変性ポリプロピレン被覆層を設け、その変性ポリプロピレン被覆層介して熱ラミネーション法により加熱圧着してシーラントフィルム層を積層した後、積層材料の最内層となるそのシーラントフィルム層表面には粗面が形成されており、その粗面の表面の、JIS K7125「プラスチック及びシートの摩擦試験方法」に準拠した静摩擦係数が0.20以下であって、かつ動摩擦係数が0.15以下に制御し、さらに静摩擦係数が0.25以下であって、かつ動摩擦係数が0.20以下の積層材料の最外層となる上記プラスチックフィルムからなる構成とすることで、従来、アルミニウム箔上にシーラントフィルム層を積層する際の、変性ポリプロピレン樹脂を主体とする樹脂を用いた押し出しラミネーション法においては密着性(電解液耐性)を向上する目的で高温の熱処理などによりシーラントフィルム表面が溶け出すことで、積層材料を雄型と雌型などの金型でトレー状に絞り成形する場合は、最外層および最内層を構成する外面基材フィルムの表面の摩擦係数が高く、積層材料の外面と雄型と雌型との滑り性が悪く、成形が均一かつスムーズに行うことができず成形性に劣るという問題や、金属箔層のアルミニウム箔が、そのままではリチウムポリマー電池などの電池内容物を長期間収納包装した場合、アルミニウム箔とシーラント層間の接着強度が低下し、デラミネーションが発生するなどの問題を解消することができる。」
「【実施例1】
【0054】
下記に示す材料を使用して、図1に示す構成の本発明の積層材料を作成した。その積層材料の構成は、ONyフィルム層(1)/接着剤層(3)/AL箔(2)│(ベーマイト処理面)(2a)/変性PP被覆層(6)/CPP(5)│(エンボス粗面)(5a)である。なお、シーラント加工は、変性PP被覆層(6)として「モルプライムMP?8APCJ」塗布後、熱ラミネーション法でCPP(5)を積層加工した。
【0055】
<使用した材料>
・プラスチックフィルム層1:厚さ25μmの2軸延伸ナイロンフィルム(ONy)(出光社製「ユニロンG?100」)
・アルミニウム箔層2:厚さ40μmのアルミニウム箔(AL箔)(東洋アルミニウム(株)製「CE8079」)
・接着剤層3:ドライラミネーション用接着剤(東洋モートン社製「AD502」、塗布量3g/m^(2))
・シーラント層(5):厚さ30μmの未延伸ポリプロピレン(CPP)(昭和電工(株)製「アロマーET20」)・変性ポリプロピレン被覆層(変性PP被覆層)(6):東洋モートン(株)製「モルプライムMP?8APCJ」、塗布量4g/m^(2))」
「【0059】
<滑り性>
JIS K7125「プラスチック及びシートの摩擦試験方法」に準拠した鉄製の滑り片を用いて静摩擦係数および動摩擦係数を測定した。
【0060】
<成形性>
成形試作型[7mm深さ(H)、1.3mm(R)×4C]を使用してトレー状成形品を作成し、特にアルミニウム箔におけるピンホール、クラックの発生の有無を確認した。表中、○は、ピンホール、クラックの発生が認められない。×は、ピンホール、クラックの発生が認められた。ことを示す。
【0061】
<電解液耐性>
電解液組成として炭酸エチレン(EC)/炭酸エチルメチル(EMC)=1/1の混合溶媒にフッ素含有リチウム塩(LiPF6)を1.5Nとなるように処方した溶液に試験片(15mm巾×50mm)を浸漬し、85℃1週間保存後の積層材料を構成するアルミニウム箔とシーラントフィルム層との間のラミネート強度を測定し、その時の剥離状態を確認した。なお、ラミネート強度を測定条件は、下記の通りである。(T型剥離試験)
引張速度:300mm/min
試験片:15mm巾
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、実施例1で得られた本発明の積層材料は、少なくとも、プラスチックフィルムの片面にアルミニウム箔を積層した基材のそのアルミニウム箔上に、有機溶剤に変性ポリプロピレンを固体状態で分散してなる懸濁塗布液を塗布して、加熱乾燥してなる、熱ラミネーション可能な接着剤として機能する変性ポリプロピレン被覆層を設け、その変性ポリプロピレン被覆層介して熱ラミネーション法により加熱圧着してシーラントフィルム層を積層した後、積層材料の最内層となるそのシーラントフィルム層表面には粗面が形成されており、その粗面の表面の、JIS K7125「プラスチック及びシートの摩擦試験方法」に準拠した静摩擦係数が0.20以下であって、かつ動摩擦係数が0.15以下に制御し、さらに静摩擦係数が0.25以下であって、かつ動摩擦係数が0.20以下の積層材料の最外層となる上記プラスチックフィルムからなる構成であることから、成形性、ラミネート強度など全ての点で優れている。これに対して、本発明の積層材料と性能を比較するための比較例としての実施例2で得られた積層材料は、アルミニウム箔にピンホール/クラックなどが発生し成形性に問題があった。また、比較例としての実施例3で得られた積層材料は、アルミニウム箔層とシーラントフィルム層との界面で一部剥離が生じラミネート強度の問題があった。さらに、比較例としての実施例4で得られた積層材料は、実施例2で得られた積層材料と同様にアルミニウム箔にピンホール/クラックなどが発生し成形性に問題があった。」
「【図1】



エ 甲4の記載
甲4には、「非水電解質電池およびその製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項1】 ラミネートフィルムからなる外装材に電池素子が収容されてなる非水電解質電池において、
上記外装材は、深絞り量Tが5mm<T≦10mmとなるように矩形状の深絞り成形が施され、上記電池素子を収容する深絞り部が形成されるとともに、
上記深絞り部の内側の端面において互いに平行な2組の辺のうち、一方の組の2辺に対応する稜部の曲率半径がT/2±0.5mmとされ、他方の組の2辺に対応する稜部の曲率半径が2.5±0.5mmとされ、
上記深絞り成形された外装材の外側において、深絞り部の側面と深絞り部の周縁面とがなす稜部の曲率半径が2.5±0.5mmとされ、
且つ、深絞り部の各側面の立ち上がり角度θが85°?90°とされていることを特徴とする非水電解質電池。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ラミネートフィルムからなる外装材に素電池を収容してなる非水電解質電池に関するものであり、さらにはその製造方法に関するものである。」
「【0013】本発明は、上記のような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、ヒートシールによる熱融着代を十分に接近させても、皺無く完全な熱融着が行え、外形寸法を必要最小限まで小さくすることが可能な非水電解質電池を提供することを目的とし、さらにはその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0045】<実施例1>軟質材料を用いたラミネート外装材として、ナイロン25μm、軟質アルミニウム40μm、CPP(キャストポリプロピレン)30μmのアルミラミネートフィルムを使用し、CPPが電池素子側になるよう成形した。
【0046】深絞りの寸法は、縦50mm、横30mm、深さ(T)6mmとし、R_(3)を3mm、R_(4)を2mm、R_(5)を2mm、R_(1)およびR_(2)を2mmとした。この寸法と、請求項で規定した深絞りの条件下で実施例1を作製した。
【0047】<実施例2>深絞りの寸法を、実施例1と同じ材料と縦横寸法、深さ10mmとし、R_(3)を5mm、R_(4)を2mm、R_(5)を2mm、R_(1)およびR_(2)を2mmとした実施例2を作製した。
【0048】<実施例3>深絞りの寸法を、実施例1と同じ材料と縦横寸法、深さ10mmとし、R_(3)を5mm、R_(4)を3mm、R_(5)を3mm、R_(1)およびR_(2)を3mmとした実施例3を作製した。
【0049】<比較例1>深絞りの寸法を、実施例1と同じ材料と縦横寸法、深さ12mmとし、R_(3)を6mm、R_(4)を3mm、R_(5)を3mm、R_(1)およびR_(2)を3mmとした比較例1を作製した。
【0050】<比較例2>深絞りの寸法を、実施例1と同じ材料と縦横寸法、深さ10mmとし、R_(3)を5mm、R_(4)を1mm、R_(5)を1mm、R_(1)およびR_(2)を3mmとした比較例2を作製した。
【0051】<比較例3>深絞りの寸法を、実施例1と同じ材料と縦横寸法、深さ10mmとし、R_(3)を5mm、R_(4)を3mm、R_(5)を3mm、R_(1)およびR_(2)を1mmとした比較例3を作製した。
【0052】<比較例4>深絞り成形無しの、実施例1と同じアルミ・ラミネートフィルムを用意し、厚みが6mmであるモックアップを用いてパッケージングした比較例4を作製した。
【0053】<比較例5>深絞り成形無しの、実施例1と同じアルミ・ラミネートフィルムを用意し、厚みが10mmであるモックアップを用いてパッケージングした比較例5を作製した。
【0054】<比較例6>深絞り成形無しの、実施例1と同じアルミ・ラミネートフィルムを用意し、厚みが12mmであるモックアップを用いてパッケージングした比較例6を作製した。
【0055】テストサンプル数は各々20個を作製し、深絞り工程で起きた問題と、パッケージングで起きた問題、および仕上がり外形寸法のバラツキを以下の表1にまとめた。
【0056】測定は、パッケージングに至るまでの状態と、仕上がり寸法について行った。比較例4?6は、各々の実施例に入れた3種類のモックアップを、深絞り成形していないアルミ・ラミネートフィルムに入れた。
【0057】
【表1】

【0058】実施例1?実施例3では、10mmの深絞りまで破断が発生せず、パッケージも良好で外形寸法も満足できた。
【0059】比較例1の結果より、深絞りの深さ(T)が10mmを越える場合、外装材が破断することがわかる。比較例2の結果より、R4およびR5を1mmとする場合、外装材が破断することがわかる。比較例3の結果より、R1およびR2を1mmとする場合、外装材が破断することがわかる。
【0060】比較例4?比較例6では、パッケージ後全て角部で皺が発生し、外形寸法も商品としての公差を満足できないレベルまで大きくばらついていた。
【0061】以上のテスト結果より、本発明による形状を有する深絞り成形品は、深さ5mmを越え、10mm以下の範囲で、深絞り成形をしない外装材に比較して、皺の発生が無い状態で、良好な外形寸法を実現することが可能であることが証明された。またその外形寸法は、特に容積の制約がある電池の外装材として、最も効率の高いレベルであることも証明された。」
「【図1】


「【図3】


【図4】



オ 甲5の記載
甲5には、「リチウムイオン電池用外装材及びその製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【0012】
<リチウムイオン電池用外装材>
以下、本発明のリチウムイオン電池用外装材の一例を図1に基づいて説明する。
本実施形態のリチウムイオン電池用外装材1(以下、「外装材1」という。)は、図1に示すように、基材層11の一方の面側に、接着剤層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、接着樹脂層15及びシーラント層16が順次積層された積層体である。外装材1は、基材層11が最外層、シーラント層16が最内層となるように使用される。」
「【0067】
電池部材112は、図9に示すように、正極、セパレータ及び負極を有する電池部材本体部124と、電池部材本体部124が有する正極と負極にそれぞれ接続されるタブ114,114とを有する。タブ114,114は、正極と負極にそれぞれ接合されたリード126,126と、リード126,126に巻き付けられ、先端縁部分118のシーラント層16と溶着されるタブシーラント128,128を有する。タブ114,114は、リード126の基端側が正極及び負極にそれぞれ接合され、先端側が容器体110の外部に出るように設置される。
【0068】
リチウムイオン電池100は、下記の工程(Y1)?(Y4)を有する製造方法により得ることができる。
(Y1)図11に示すように、矩形状の外装材1における第1容器部110aとなる部分に電池部材収容部116を形成する工程。
(Y2)第1容器部110aの電池部材収容部116内に電池部材112を配置し、外装材1の第2容器部110bとなる部分を折り返し、折り返し部110cと反対側の先端縁部分118をタブ114の一部が外部に出るようにしてヒートシールする工程。
(Y3)電池部材収容部116の一方の側の側縁部分120をヒートシールし、残る側縁部分122側の開口から電池部材収容部116内に電解液を注入した後、真空状態で残る側縁部分122をヒートシールして封止する工程。
(Y4)側縁部分120,122の側端側の一部を切除して折り返す工程。」
「【図1】


「【図9】


「【図11】



カ 甲6の記載及び甲6に記載された発明
(ア)甲6の記載
甲6には、「電池用包装材」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項1】
ナイロン6を主成分とする厚さが12?40μmの2軸延伸ナイロンフィルムと、少なくとも一方の面に化成処理層を有する厚さが20?100μmのアルミニウム箔の他方の面とを接着剤層を介して積層した積層体からなると共に前記アルミニウム箔の前記一方の面の最外層に熱接着性樹脂層を設けたプレス成形タイプの電池用包装材において、前記積層体は、引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕における2軸延伸ナイロンフィルムとアルミニウム箔間の接着強度が5N/15mm巾以上であって、かつ、MD方向またはTD方向のいずれか一方の破断点強度が140N/mm^(2)以上であって、かつ、MD方向およびTD方向のいずれか一方の破断点伸度が60%以上80%以下であることを特徴とするプレス成形タイプの電池用包装材。
・・・
【請求項5】
請求項1?3のいずれかに記載の電池用包装材を用いて、プレス成形により前記熱接着性樹脂層が内面に位置するように4周縁にフランジ部を備えた矩形状の凹部を形成すると共に該フランジ部の一つに連接して前記矩形状の凹部と該凹部の4周縁に設けたフランジ部とを略被覆する大きさの蓋体を備えたことを特徴とする電池用容器。」
「【0001】
本発明は、二次電池、特に電解質(液体や固体電解質)を有するリチウム電池の外装に供せられる電池用包装材に関し、さらに詳しくは、プレス成形タイプのリチウム電池の外装に供せられる電池用包装材に関するものである。」
「【0009】
そこで本発明は、リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して熱接着して密封する成形タイプに適用することができるリチウム電池用の電池用包材であって、密封性、耐突刺し性、絶縁性、耐電解液性等の電池用包材に求められる諸物性を有し、特に成形時にアルミニウム箔のピンホールやクラックの発生し難い成形性に優れた電池用包装材を提供することである。」
「【発明の効果】
【0016】
本発明の電池用包装材は、厚さが12?40μmの2軸延伸ナイロンフィルムと、少なくとも一方の面に化成処理層を有する厚さが20?100μmのアルミニウム箔の他方の面とを接着剤層を介して積層した積層体からなると共に前記アルミニウム箔の前記一方の面の最外層に熱接着性樹脂層を設けたプレス成形タイプの電池用包装材において、前記積層体を引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕における2軸延伸ナイロンフィルムとアルミニウム箔間の接着強度が5N/15mm巾以上、かつ、MD方向またはTD方向のいずれか一方の破断点強度が140N/mm^(2)以上、かつ、MD方向およびTD方向のいずれか一方の破断点伸度が60%以上80%以下となる構成、さらには、引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕におけるMD方向とTD方向の破断点強度の差が絶対値で10N/mm^(2)以上となる構成とすることにより、アルミニウム箔を積層した電池用包装材において、成形時に生じる不均質変形による応力集中を抑制することができ、均質に変形させることができるのでピンホールやクラックの発生を防止することができ、成形性に優れるという効果を奏するものである。
【0017】
上記の本発明について、図面等を用いて以下に詳しく説明する。
図1は本発明にかかるリチウム電池に用いる電池用包装材の基本的な層構成を図解的に示す図であって、電池用包装材1は2軸延伸ナイロンフィルム21、接着剤層22、化成処理層23、アルミニウム箔24、化成処理層23が順に積層された積層体2からなると共に、該積層体2の表出する前記化成処理層23面に接着層25、熱接着性樹脂層26を順に積層したものである。」
「【0020】
また、前記アルミニウム箔24は鉄分を0.3?9.0重量%、好ましくは0.7?2.0重量%含有したものが鉄分を含有しないものと比較して延展性に優れると共に折り曲げに対するピンホールの発生が少なく、成形時に偏肉のない均一な成形品を得ることができる。鉄分の含有量が0.3重量%未満ではピンホール発生の防止や延展性において効果が認められず、9.0重量%超ではアルミニウム箔としての柔軟性が阻害されるために成形適性が低下する。」
「【0034】
次に、前記2軸延伸ナイロンフィルム21と前記アルミニウム箔24とを前記接着剤層22を介して積層した前記積層体2について説明する。前記積層体2としては、引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕における前記2軸延伸ナイロンフィルム21と前記アルミニウム箔24との接着強度(ラミネート強度)が5N/15mm巾となるように構成し、TD方向またはMD方向のいずれか一方の破断点強度が140N/mm^(2)以上、かつ、MD方向およびTD方向のいずれか一方の破断点伸度が60%以上80%以下となるように構成、さらに好ましくは引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕におけるMD方向とTD方向の破断点強度の差が絶対値で10N/mm^(2)以上となるように構成することにより、成形時にピンホールやクラックが発生し難い成形性に優れた電池用包装材とすることができる。また、理由はよく判らないが、前記積層体2の破断点強度はTD方向の方がMD方向より強くなるように構成することが、シャープな形状で深く安定して成形するという成形安定性の点において好ましいものである。なお、本書で記載するMD方向およびTD方向は当業者であれば周知のことであるが、敢えて説明するならば、MD方向は積層体2および電池用包装材1の長尺方向であり、TD方向は幅方向を意味する。」
「【0044】
次に、本発明について、以下に実施例を挙げてさらに詳しく説明する。
本発明の電池用包装材1を構成する積層体2は、予め、フェノール樹脂、フッ化クロム(三価)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液で両面を化成処理(リン酸クロメート処理)して両面に化成処理層を有するアルミニウム箔(50μm厚さ)の一方の面と、25μm厚さの2軸延伸ナイロンフィルム(以下、ONと呼称する)とを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して積層したものである。前記積層体2のサンプル毎(サンプル番号1?7)の破断点強度(N/mm^(2))と破断点伸度(%)、および、ONとアルミニウム箔との接着強度(N/15mm巾)を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
上記で作製した積層体2のサンプル番号1?7についてはアルミニウム箔の他方の面に、酸変性ポリプロピレン樹脂〔不飽和カルボン酸でグラフト変性した不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン(以下、PPaと呼称する)〕とポリプロピレン〔ランダムコポリマー(以下、PPと呼称する)〕とを共押出しした2層共押出しフィルム〔PPa15μm/PP30μm〕をPPa面がアルミニウム箔側に位置するようにすると共に化成処理層面が120℃となるように加熱してサーマルラミネーション法で積層すると共にこの積層体を180℃となるように後加熱してサンプル番号1?7に対応する電池用包装材1?7を作製した。電池用包装材1?7の構成はいずれも、ON25μm/接着剤層/化成処理層/アルミニウム箔40μm/化成処理層/PPa15μm/PP30μmである。」
「【図1】



(イ)甲6に記載された発明
a 上記(ア)で摘示した事項から、サンプル番号2、4、5に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

(a)【0044】、【0045】の【表1】から、実施例のサンプル番号2、4、5は、25μm厚さの2軸延伸ナイロンフィルムと、両面に化成処理層を有するアルミニウム箔(50μm厚さ)とを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して積層した積層体について、MD方向とTD方向の破断点伸度(%)は両方向とも60%以上80%以下の範囲内にある。

(b)【0045】の【表1】から、上記(a)の積層体について、TD方向の破断点強度は140N/mm^(2)以上であり、接着強度は5.0N/15mm巾以上である。

(c)【0046】には「電池用包装材1?7の構成」として、「アルミニウム箔40μm」と記載されているから、電池用包装材におけるアルミニウム箔の厚さは40μmである。

(d)【0045】から、アルミニウム箔の他方の面に、15μmの酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)と30μmのポリプロピレン(PP)を積層している。

b また、【0034】から、甲6におけるMD方向は積層体および電池用包装材の長尺方向であり、TD方向は幅方向を意味すると認められる。

c さらに、【0001】から、甲6に記載された電池用包装材は二次電池用包装材であると認められる。

d そうすると、甲6には、サンプル番号2、4、5を踏まえ、請求項1に係る発明に着目すると、以下の甲6発明が記載されていると認められる。

<甲6発明>
「ナイロン6を主成分とする厚さが25μmの2軸延伸ナイロンフィルムと、両方の面に化成処理層を有する厚さが40μmアルミニウム箔の他方の面とを2液硬化型ポリウレタン系接着剤である接着剤層を介して積層した積層体からなると共に前記アルミニウム箔の前記一方の面の最外層に厚さが15μmの酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)を介して厚さが30μmのポリプロピレン(PP)である熱接着性樹脂層を設けたプレス成形タイプの二次電池用包装材において、前記酸変成ポリプロピレン樹脂及び熱接着樹脂層を設ける前の前記積層体は、引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕における2軸延伸ナイロンフィルムとアルミニウム箔間の接着強度が5N/15mm巾以上であって、かつ、TD方向の破断点強度が140N/mm^(2)以上であって、かつ、MD方向およびTD方向の破断点伸度が両方向とも60%以上80%以下であるプレス成形タイプの二次電池用包装材。
ただし、前記MD方向は積層体および二次電池用包装材の長尺方向であり、前記TD方向は幅方向を意味する。」

キ 甲7の記載
甲7には、樹脂材料の機械的特性について以下の記載がある。

「B-3 樹脂材料の静的機械強度特性
・・・
一般に、樹脂材料では、ひずみ速度が大きくなると降服応力と引張強度が増大し、反対に伸びは減少することが知られている。この現象は、樹脂材料の粘弾性的な特性に由来している(樹脂材料では重要である)。」
(第4頁下から4行?第5頁左上欄第1?5行)

ク 甲8の国際公開の記載及び甲8の国際公開に記載された発明
(ア)甲8の国際公開の記載
甲8の国際公開には、「電池用包装材料」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「[請求項1] 少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層をこの順に有する積層体からなり、前記接着層が、下記(1)?(3)の物性の少なくとも2つ満たすことを特徴とする、電池用包装材料:
(1)ナノインデンターを用いて、積層体断面から接着層に対して圧子を5μm押し込んだ際の硬度が20?115MPaである。
(2)接着層に対して1Hzの振動数での動的粘弾性測定を行った時に得られる損失弾性率のピーク温度が10?60℃である。
(3)赤外吸収スペクトル法により測定される2800?3000cm-1に存在するピーク面積の積分値をI_(M)、3100?3500cm^(-1)に存在するピーク面積の積分値をI_(H)とした場合に、I_(H)/I_(M)が0.15?1.5である。
・・・
[請求項5] 前記金属層が、アルミニウム箔により形成されてなる、請求項1?4のいずれかに記載の電池用包装材料。」
「[0001] 本発明は、成形時にクラックやピンホール等が生じ難く、優れた成形性を備える電池用包装材料に関する。」
「[0008] そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、成形時にクラックやピンホール等が生じ難く、優れた成形性を備える電池用包装材料を提供することを目的とする。」
「[0011] 本発明の電池用包装材料は、少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層をこの順に有する積層体において、当該接着層が、後述する物性1?3の中で少なくとも2つの物性を一体として充足させることにより、優れた成形性を備えることができ、更には成形時にクラックやピンホール等が生じるのを効果的に抑制でき、生産性を向上させることができる。また、本発明の電池用包装材料では、積層体中の金属層を接着させる接着層の物性値を特定範囲に設定することにより優れた成形性を実現しているため、将来開発される新たな組成の接着剤であっても、所定の物性値を備える限り、本発明の電池用包装材料に適用できるので、汎用性が高く、今後の電池用包装材料の改良技術に大きく貢献し得る。」
「[0014] 1.電池用包装材料の積層構造
電池用包装材料は、図1及び2に示すように、少なくとも、基材層1、接着層2、金属層3、及びシーラント層4が順次積層された積層体からなる。本発明の電池用包装材料において、基材層1が最外層になり、シーラント層4は最内層になる。即ち、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置するシーラント層4同士が熱溶着して電池素子を密封することにより、電池素子が封止される。
[0015] また、本発明の電池用包装材料には、金属層3とシーラント層4との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着層5が設けられていてもよい。」
「[0034][金属層3]
本発明の電池用包装材料において、金属層3は、包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光等が侵入するのを防止するためのバリア層として機能する層である。金属層3を形成する金属としては、具体的には、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属箔が挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好適に使用される。包装材料の製造時にしわやピンホールを防止するために、本発明において金属層3として、軟質アルミニウム、例えば、焼きなまし処理済みのアルミニウム(JIS A8021P-O)又は(JIS A8079P-O)等を用いることが好ましい。」
「[0066]
本発明の電池用包装材料は、一次電池、二次電池のいずれに使用してもよいが、好ましくは二次電池である。・・・」
「[0068]
[実施例1-32及び比較例1-32]
下記組成の層構造を有する積層体からなる電池用包装材料を製造した。
基材層1:2軸延伸ポリアミド(ナイロン6、厚さ15μm)
接着層2:表1及び2に示すポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物の組み合わせからなる2液型ウレタン接着剤(厚さ4μm)
金属層3:両面に化成処理を施したアルミニウム箔(厚さ35μm)
接着層5:酸変性ポリプロピレン(厚さ20μm)
シーラント層4:未延伸ポリプロピレン(厚さ15μm)
なお、表1及び2に示す2液型ウレタン接着剤に使用したポリオール化合物と芳香族イソシアネートはいずれも市販品であり、ポリオール化合物は東洋紡績株式会社製バイロンシリーズ(UR4410、800等)、三井化学株式会社製タケラックシリーズ(A1151等)、住化バイエルウレタン株式会社製デスモフェン(400等)を使用し、芳香族イソシアネートは三井化学株式会社製タケネートシリーズ(A3等)、日本ポリウレタン株式会社製コロネート(L等)、住化バイエルウレタン株式会社製デスモジュール(44V20等)を使用した。なお、表1及び2に示す各ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、又はポリエーテルポリウレタンポリオールである。
[0069]
[表1]


「[0080]
[表3]


「[図1]



(イ)甲8の国際公開に記載された発明
a 上記(ア)で摘示した事項から、実施例1-32に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

(a)[0068]から、2軸延伸ポリアミド(ナイロン6、厚さ15μm)である基材層、ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物の組み合わせからなる2液型ウレタン接着剤である接着層、両面に化成処理を施したアルミニウム箔(厚さ35μm)、接着層(厚さ20μm)、及びシーラント層(厚さ15μm)をこの順に積層している。

(b)[0080]の[表3]から、下記(i)?(iii)の物性の少なくとも2つ満たしている。
(i)ナノインデンターを用いて、積層体断面から接着層に対して圧子を5μm押し込んだ際の硬度が20?115MPaである。
(ii)接着層に対して1Hzの振動数での動的粘弾性測定を行った時に得られる損失弾性率のピーク温度が10?60℃である。
(iii)赤外吸収スペクトル法により測定される2800?3000cm^(-1)に存在するピーク面積の積分値をI_(M)、3100?3500cm^(-1)に存在するピーク面積の積分値をI_(H)とした場合に、I_(H)/I_(M)が0.15?1.5である。

b また、[0066]から、電池用包装材料は、二次電池に使用することが好ましいから、甲8の国際公開には、二次電池用包装材料の発明が記載されていると認められる。

c そうすると、甲8の国際公開には、実施例1-32を踏まえて請求項1に係る発明に着目すると、以下の甲8発明が記載されていると認められる。

<甲8発明>
「少なくとも、2軸延伸ポリアミド(ナイロン6、厚さ15μm)である基材層、ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物の組み合わせからなる2液型ウレタン接着剤である接着層、両面に化成処理を施したアルミニウム箔(厚さ35μm)、接着層(厚さ20μm)、及びシーラント層(厚さ15μm)をこの順に有する積層体からなり、前記接着層が、下記(1)?(3)の物性の少なくとも2つ満たすことを特徴とする、二次電池用包装材料:
(1)ナノインデンターを用いて、積層体断面から接着層に対して圧子を5μm押し込んだ際の硬度が20?115MPaである。
(2)接着層に対して1Hzの振動数での動的粘弾性測定を行った時に得られる損失弾性率のピーク温度が10?60℃である。
(3)赤外吸収スペクトル法により測定される2800?3000cm^(-1)に存在するピーク面積の積分値をI_(M)、3100?3500cm^(-1)に存在するピーク面積の積分値をI_(H)とした場合に、I_(H)/I_(M)が0.15?1.5である。」

ケ 甲9の記載及び甲9に記載された発明
(ア)甲9の記載
甲9には、「電池包装用アルミラミネート材料」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項1】
電池の包装に用いられる電池包装用アルミラミネート材料であって、
内側表面から、厚さ10μm超え60μm以下の無延伸ポリプロピレン層、厚さ1?5μmの酸変性ポリプロピレン層、皮膜付着量が5?30mg/m^(2)の第1化成皮膜層、および厚さ10?100μmのアルミニウム箔層を順次積層してなる内側積層部と、
上記アルミニウム箔層の外側に配設された、合成樹脂よりなる最外層を含む複数の層を積層してなる外側積層部とよりなることを特徴とする電池包装用アルミラミネート材料。
【請求項2】
請求項1において、上記アルミニウム箔層の外側に配置された上記外側積層部は、皮膜付着量が5?30mg/m^(2)の第2化成皮膜層、厚さ1?5μmの接着剤層、および厚さ10?40μmの合成樹脂よりなる上記最外層を順次積層してなることを特徴とする電池包装用アルミラミネート材料。
・・・
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項において、引張強度が120?180N/15mm、伸びが40?150%であることを特徴とする電池包装用アルミラミネート材料。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項において、上記アルミニウム箔層は、Feが1.2?1.7重量%、Siが0.2重量%以下、Mnが0.1重量%以下、および残部が不可避的不純物およびAlからなるアルミニウム合金よりなることを特徴とする電池包装用アルミラミネート材料。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項において、上記無延伸ポリプロピレン層は、静摩擦係数が0.35以下であり、かつ、上記最外層は、静摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする電池包装用アルミラミネート材料。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項において、上記最外層は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン(R)のいずれかよりなることを特徴とする電池包装用アルミラミネート材料。」
「【0001】
本発明は、電子機器、電子部品、特に携帯電話、ノートパソコンなどに用いられるポリマー二次電池用の包装材としての、成形性、バリヤー性、耐内容物性および白化性に優れたアルミラミネート材料に関する。」
「【0007】
本発明の電池包装用アルミラミネート材料(以下、適宜、単にラミネート材料という)は、上記のごとく、上記アルミニウム箔層の内側に配される上記内側積層部を、上記無延伸ポリプロピレン層、上記酸変性ポリプロピレン層、及び上記第1化成皮膜層より構成してある。そのため、上記ラミネート材料は、上記内側積層部の存在によって、電池包装用として非常に優れた特性を発揮する。
すなわち、上記アルミニウム箔層、上記第1化成皮膜層、酸変性ポリプロピレン、及び無延伸ポリプロピレンの積層の組み合わせによって、非常に優れた成形性、耐内容物性、及び白化性を発揮しうるのである。」
「【0020】
また、上記無延伸ポリプロピレン層は、静摩擦係数が0.35以下であり、かつ、上記最外層は、静摩擦係数が0.4以下であることが好ましい(請求項6)。上記無延伸ポリプロピレン層の静摩擦係数が0.35を超える場合、あるいは上記最外層の静摩擦係数が0.4を超える場合には、電池包装用アルミラミネート材料を成形する際にその加工工具との間の抵抗が大きくなるため亀裂が発生するおそれがある。そして、上記摩擦係数の下限値を上記最外層よりも最内層である無延伸ポリプロピレン層を小さくすることによって、成形性、バリヤー性、耐内容物性および白化性にきわめて重要な内側積層部への成形時のダメージを、外側積層部よりもより小さくすることができ、上記の優れた性質を確実に発現させることができる。」
「【実施例】
【0024】
(実施例1)
本発明の実施例に係る電池包装用アルミラミネート材料につき、図1?図3を用いて説明する。
本例では、本発明の実施例として29種類のラミネート材料(実施例1?29)を作製し、また、比較例として16種類のラミネート材料(比較例1?16)を作製し、その特性を評価する試験を複数行った。
【0025】
実施例1の電池包装用アルミラミネート材料1は、図1に示すごとく、内側表面から、無延伸ポリプロピレン層2、酸変性ポリプロピレン層3、第1化成皮膜層41、およびアルミニウム箔層10を順次積層してなる内側積層部11を有している。また、その外側には、第2化成皮膜層42、接着剤層5、および最外層6を順次積層した外側積層部12を有している。そして、この実施例1においては、上記無延伸ポリプロピレン層2として押出ラミネート処理により配設された押出層21と、該押出層21の表面に熱融着により配設された熱融着フィルム層22の二層により構成されている。
【0026】
実施例2?12,16?29、および比較例1?10,13、14,16は、基本的に実施例1と同様の積層構造を有するラミネート材料である。
・・・
【0028】
各実施例1?29,比較例1?16を構成する各層の材質および厚さについては、表1、表2に示す。
簡単に補足説明すると、最外層6としては、Ny:ナイロン(R)フィルム,PE:ポリエチレンフィルム、PVC:ポリ塩化ビニルフィルム、PET:ポリエステルフィルムのいずれかを採用した。
接着剤層5(ドライ接着剤)としては、A系:ポリウレタン系接着剤、あるいはB系:エポキシ系接着剤を用いた。
第1化成皮膜層41および第2化成皮膜層42としては、PCr:リン酸クロメート処理、Zr:ジルコニウム処理、Ti:チタン処理、PZn:リン酸亜鉛処理により作製した化成被膜を用いた。
アルミニウム箔層10としては、Fe:1.0重量%、Si:0.1重量%、Mn:0.05重量%を含有するA材、あるいはFe:1.5重量%、Si:0.1重量%、Mn:0.05重量%を含有するB材のいずれかを用いた。
酸変性ポリプロピレン層3としては、いずれもマレイン酸を用いた。
押出層および熱融着層は、いずれも無延伸ポリプロピレンでありPPと表した。
【0029】
次に、上記実施例1の電池包装用アルミラミネート材料1を製造する方法について簡単に説明する。まず、アルミニウム箔層10の内側面および外側面に第1化成皮膜層41および第2化成皮膜層42を形成する化成処理工程を行い、その後、ドライラミネート処理によって最外層6を含む外側積層部12を設ける。
ドライラミネート処理は、上記第2化成皮膜層42の上に接着剤を塗布する接着剤塗工工程と、上記接着剤を乾燥させて接着剤層5を形成する乾燥工程と、接着剤層5上に最外層6を圧着するドライラミネート工程とを施すことにより行われる。
【0030】
また、上記アルミニウム箔層10の内側面においては、上記第2化成皮膜42上に、酸変性ポリプロピレンを塗布して酸変性ポリプロピレン層3を形成する工程と、酸変性ポリプロピレン層3上に、無延伸ポリプロピレンを順次押し出して上記押出層21を形成する押出ラミネート工程とを行い、さらに、押出層21の上に無延伸ポリプロピレンよりなるフィルムを配置して熱融着させて熱融着フィルム22を配置する融着工程を行って、内側積層部11を得る。
【0031】
その他の実施例および比較例については、実施例1とほぼ同様の製造方法によって作製するが、実施例13,15,および比較例11は、押出ラミネート工程を削除し、実施例14,および比較例12は、押出ラミネート工程を削除し、比較例15は、酸変性ポリプロピレン層を形成する工程を削除して、その代わりにドライ接着剤層形成する工程を追加した点が実施例1の場合と異なっている。」
「【0032】
【表1】


「【0034】
本例では、上記各実施例および比較例のラミネート材料に対し、その機械的性質および両面の摩擦係数を測定する試験を行うと共に、成形性、バリヤー性、耐内容物性、白化性を評価する試験を行った。
<機械的性質>
上記各実施例および比較例のラミネート材料から引張試験用サンプルを切り出し、引張試験を行って引張強さおよび伸びを測定した。引張試験用サンプルは幅15mm、長さ150mmというサイズにした。測定結果は表3、表4に示す。」
【0035】
<摩擦係数>
摩擦係数を測定するに当たっては、3点ボール式スリップテスター摩擦試験にて、荷重200gを負荷した状態で直径φ12mm鋼球を摺動させる方法によりにより行った。測定結果は表3、表4に示す。」
「【0041】
【表3】


「【図1】



(イ)甲9に記載された発明
a 上記(ア)で摘示した事項から、実施例のNo.2、24に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

(a)【0025】、【0028】、【0032】の【表1】から、実施例のNo.2は、最外層として厚み40μmのNy:ナイロン(R)フィルム、厚み3μmの接着剤層としてA系:ポリウレタン系接着剤、アルミニウム箔層として厚み40μmのFe:1.0重量%、Si:0.1重量%、Mn:0.05重量%を含有するを含有するA材、厚み1μmの酸変性ポリプロピレン層、厚み20μmの押出し層及び厚み20μmの熱融着層からなる無延伸ポリプロピレン層を積層した電池包装用アルミラミネート材料である。

(b)【0025】、【0028】、【0032】の【表1】から、実施例のNo.24は、最外層として厚み25μmのPET:ポリエステルフィルム、厚み3μmの接着剤層としてA系:ポリウレタン系接着剤、アルミニウム箔層として厚み40μmのFe:1.0重量%、Si:0.1重量%、Mn:0.05重量%を含有するA材、厚み1μmの酸変性ポリプロピレン層、厚み20μmの押出し層及び厚み20μmの熱融着層からなる無延伸ポリプロピレン層(40μm)を積層した電池包装用アルミラミネート材料である。

(c)【0028】、【0029】、【0032】の【表1】から、実施例のNo.2及びNo.24は、アルミニウム箔層の内側面と外側面にそれぞれ厚み20mg/m^(2)の第1化成皮膜層及び第2化成皮膜層を有している。

(d)【0041】の表3から、実施例のNo.2及びNo.24の引張強度は両者とも150N/15mmであり、伸びは両者とも100%であり、最内層の摩擦係数は両者とも0.4であり、最外層の摩擦係数は両者とも0.35である。

(e)上記(d)の摩擦係数は、【0035】から、3点ボール式スリップテスター摩擦試験にて、荷重200gを負荷した状態で直径φ12mm鋼球を摺動させる方法によりにより行った測定結果であり、静摩擦係数であると認められる。

b また、【0001】から、甲9に記載された電池包装用アルミラミネート材料はポリマー二次電池の包装に用いられるものであると認められる。

c そうすると、甲9には、実施例のNo.2、No.24を踏まえて請求項1、2、4?6を引用する請求項7に係る発明に着目すると、以下の甲9発明が記載されていると認められる。

<甲9発明>
「ポリマー二次電池の包装に用いられる電池包装用アルミラミネート材料であって、
内側表面から、厚さ40μmの無延伸ポリプロピレン層、厚さ1μmの酸変性ポリプロピレン層、皮膜付着量が20mg/m^(2)の第1化成皮膜層、および厚さ40μmのアルミニウム箔層を順次積層してなる内側積層部と、
上記アルミニウム箔層の外側に配設された、合成樹脂よりなる最外層を含む複数の層を積層してなる外側積層部とよりなり、
上記アルミニウム箔層の外側に配置された上記外側積層部は、皮膜付着量が20mg/m^(2)の第2化成皮膜層、厚さ3μmのA系:ポリウレタン系接着剤である接着剤層、および厚さ25μmまたは40μmの合成樹脂よりなる上記最外層を順次積層してなり、
引張強度が150N/15mm、伸びが100%であり、
上記アルミニウム箔層は、Feが1.0重量%、Siが0.1重量%、Mnが0.05重量%、および残部が不可避的不純物およびAlからなるアルミニウム合金よりなり、
上記無延伸ポリプロピレン層は、静摩擦係数が0.4であり、かつ、上記最外層は、静摩擦係数が0.35であり、
上記最外層は、厚さ40μmのNy:ナイロン(R)フィルムまたは厚さ25μmのPET:ポリエステルフィルムであるポリマー二次電池の包装に用いられる電池包装用アルミラミネート材料。」

(2)本件の願書に添付された明細書の記載
本件の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)には以下の記載がある。

「【0008】
・・・さらに、基材層のMD方向及びTD方向における、上記外装材の引張伸びが共に50%以上であることにより、成型加工時の引張応力に対して、粘り強くなり、破断を抑制することができる。」
「【0021】
本実施形態における外装材10のMD方向及びTD方向における引張伸びは共に50%以上であり、60%以上であることが好ましい。外装材10の引張伸びが共に50%以上であることにより、基材層11の金属箔層13に対する保護効果が増大し、成型加工時の破断を抑制することができる。外装材10のMD方向及びTD方向における引張伸びは共に200%以下であってもよく、150%以下であってもよい。
【0022】
ここで、MD方向とは「Machine Direction」の略であり、基材層11の製造における流動方向を指す。また、TD方向とは「Transverse Direction」の略であり、基材層11の平面におけるMD方向と垂直な方向である。外装材10の引張伸びは、JIS Z 2241に記載される引張試験方法に準じ、引張速度25mm/分、温度23℃、及び湿度50%RHの条件で測定された原標点距離の増分の、原標点距離に対する百分率として算出される。」

(3)甲1に記載された発明を主引例とした場合
ア 申立理由1、申立理由2-1-1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「二軸延伸ナイロン6フィルムである基材層」は、本件発明1の「延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含」む「基材層」に相当する。以下、同様に、「少なくともポリエステルポリオール(主剤)とトリレンジイソシアネート(硬化剤)の2液硬化型のウレタン系接着剤(モル比(NCO/OH)=30)である第1接着層」は、「芳香族ポリウレタン系接着剤層」を含む「第1接着層」に、「シーラント層」は、「シーラント層」に、「リチウムイオン電池用外装材」は、「蓄電装置用外装材」に相当する。

b また、上記(1)イ(ア)に示した甲2の記載から、アルミニウム展伸材の化学成分として、種類8079はFeを0.7?1.3%含有しているといえるから、甲1発明の「軟質アルミニウム箔8079材」は、Feを0.7?1.3%含有していると認められ、本発明の「鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔」である「金属箔層」に相当する。

c 上記a、bを踏まえると、甲1発明の「基材層の一方の面側に、」「第1接着層、」「軟質アルミニウム箔8079材である金属箔層、」「及びシーラント層が順次積層されたリチウムイオン電池用外装材」は、本件発明1の「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材」に相当する。

d そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点1>
「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材であって、
前記基材層は、延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含み、
前記金属箔層は、鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔であり、
前記第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含む、蓄電装置用外装材。」

<相違点1>
本件発明1では、「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」のに対し、甲1発明では、「試料幅6mmの試験片を切り出し、該試験片をチャック間距離が10mmとなるように延伸機のチャックに装着し、延伸速度300mm/分で延伸する」「延伸方法」において、「前記試験片が破断するまで延伸したときの伸び量が15mmである」点。

(イ)相違点1についての検討
a 実質的な相違点であるか否かについて
(a)上記(2)に示した本件明細書の【0022】の記載を参照すると、本件発明1における「MD方向」とは、基材層の製造における流動方向(以下「本件MD方向」という。)を指し、本件発明1における「TD方向」とは、基材層の平面におけるMD方向と垂直な方向(以下「本件TD方向」という。)であると認められる。

(b)また、上記(2)に示した本件明細書の【0022】の記載を参照すると、本件発明1における「外装材」の「引張伸び」は、JIS Z 2241に記載される引張試験方法に準じ、引張速度25mm/分、温度23℃、及び湿度50%RHの条件(以下「本件測定方法」という。)で測定された原標点距離の増分の、原標点距離に対する百分率として算出したものであると認められる。

(c)しかし、甲1には、本件MD方向及び本件TD方向の特定の2方向における引張伸びの値については記載されておらず、引張伸びを、本件測定方法で測定することについても記載されていない。

(d)また、甲1発明の「試料幅6mmの試験片を切り出し、該試験片をチャック間距離が10mmとなるように延伸機のチャックに装着し、延伸速度300mm/分で延伸する」「延伸方法」において、「前記試験片が破断するまで延伸したときの伸び量が15mmである」ことと、本件MD及び本件TD方向における、本件測定方法により測定された「引張伸び」との関係は不明である。

(e)そして、本件優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1発明の「リチウムイオン電池用外装材」の本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した引張伸びが共に60%以上であるとはいえない。

(f)したがって、相違点1は実質的な相違点である。

b 容易想到性について
(a)上記(2)に示した本件明細書の【0008】、【0021】の記載を参照すると、本件発明1において、「外装材」のMD方向及びTD方向における引張伸びを共に60%以上とすることによって、「基材層」の「金属箔層」に対する保護効果を増大し、成型加工時の引張応力に対して、粘り強くなり、破断を抑制することができるという効果を奏すると認められる。

(b)一方、甲1及び甲2?甲7、甲8の国際公開、甲9には、本件MD方向と本件TD方向における、本件測定方法で測定した外装材の引張伸びを調整することも、当該引張伸びを共に60%以上とすることも記載されていない。なお、甲6には、「MD方向」及び「TD方向」の「破断点伸度」について記載されているが、甲6の【0034】から、甲6に記載された「MD方向」及び「TD方向」は、それぞれ積層体および二次電池用包装材の長尺方向及び幅方向を意味するから、基材層の製造における流動方向を指す本件MD方向及び基材層の平面におけるMD方向と垂直な方向である本件TD方向とは方向の定義が異なっており、また、本件発明1の「引張伸び」は「シーラント層」も含む「外装材」の値であるが、甲6の【0044】?【0046】から、甲6に記載された「破断点伸度」は「PP30μm」の層(本件発明1の「シーラント層」に相当する。)を積層する前の「積層体」の値であって、前記「積層体」にさらに「PPa15μm」及び「PP30μm」の層を積層した「電池用包装材」の値とは異なるものである。

(c)また、甲1の【0010】から、甲1発明は、成型性に優れ、さらに成型加工後の耐久性にも優れ、冷間成型後に基材層と金属箔層の間で剥離が生じ難いという効果を奏するものであると認められるが、上記(a)で示した本件MD方向及び本件TD方向という特定の2方向における本件測定方法で測定した引張伸びを共に60%以上となるようにすることで奏される、基材層の金属箔層に対する保護効果を増大するという本件発明1の効果は、本件MD方向及び本件TD方向という基材層の製造における流動方向に応じた特定の2方向における引張伸びについて記載されていない甲1や甲2?甲7、甲8の国際公開、甲9から当業者が予測し得ない顕著なものである。

(d)そうすると、甲1発明において、「基材層」の本件MD方向及び本件TD方向における、前記「リチウムイオン電池用外装材」の本件測定方法で測定した引張伸びが共に60%以上である構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

c 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書(第77頁第14?22行)において、「甲第1号証には、さらに、当該積層体は、試料幅6mmの試験片をチャック間距離が10mmとなるように延伸機のチャックに装着し、延伸速度300mm/分で延伸する延伸方法において、・・・破断するまで延伸し、最大延伸量を測定したところ、最大延伸量がH-2(10mm以上、20mm以下)であったことが記載されている。・・・ここで、チャック間距離10mmで最大延伸量が10mm以上であった場合、その引張伸びは100%以上であったと計算される。」と主張している。

(b)また、申立人は、特許異議申立書(第78頁第22?26行)において、「成形性を向上させるうえで、一方向だけでなく二方向の伸びがH-2(10mm以上、20mm以下)となることが好ましいことは自明であるから、甲1発明において二方向の最大延伸量が共にH-2(10mm以上、20mm以下)となることを確認する程度のことは、当業者が容易になし得ることである」旨主張している。

(c)しかし、甲1には、「延伸」する方向について具体的な記載はなく、二方向の伸びを確認することも記載されていない。

(d)また、甲6の【0034】、【0044】、【0045】の【表1】には、MD方向とTD方向の二方向において引張試験を行い破断点伸度を求めていることが記載されているから、仮に、当該記載に基づいて、甲1発明において二方向の伸びを確認することは当業者が容易になし得ることであるとしても、本件MD方向及び本件TD方向という特定の2方向において引張伸びを確認することまで容易とはいえない。なお、上記b(b)でも示したように、甲6の【0034】から、甲6の「MD方向」及び「TD方向」は、本件MD方向及び本件TD方向とは方向の定義が異なる。

(e)また、本件測定方法と、甲1発明の引張伸びの測定方法は異なり、甲1発明に記載された最大延伸量を確認しても、本件発明1における「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」に相当する構成が確認できるのかは不明である。

(f)よって、上記申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件発明2と甲1発明との対比・検討
a 本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点1で相違し、相違点1についての判断は上記(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明2と甲1発明とは実質的に相違するものであり、本件発明2は、当該相違点1に係る構成を備える点で、甲1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(エ)小括
上記(イ)で示したように、本件発明1は甲1発明であるとはいえず、また、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。さらに、上記(ウ)で示したように、本件発明2は甲1発明であるとはいえず、また、本件発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、本件発明1、2は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、申立理由1、申立理由2-1-1によっては取り消すことはできない。

イ 申立理由2-1-2、申立理由2-1-3、申立理由2-1-4について
(ア)本件発明3?6と甲1発明との対比・検討
a 本件発明3?6と甲1発明とを対比すると、本件発明3?6は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点1で相違し、相違点1についての判断は上記ア(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明3?6は、相違点1に係る構成を備える点で、甲1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものものとはいえないから、本件発明3?6は、甲1発明と甲3?5に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明3?6は、甲1に記載された発明と甲3?5に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項3?6に係る特許は、申立理由2-1-2、申立理由2-1-3、申立理由2-1-4によっては取り消すことはできない。

(4)甲6に記載された発明を主引例とした場合
ア 申立理由2-6-1について
(ア)本件発明1と甲6発明との対比
a 本件発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明の「ナイロン6を主成分とする」「2軸延伸ナイロンフィルム」は、本件発明1の「延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含」む「基材層」に相当する。以下、同様に、「2液硬化型ポリウレタン系接着剤である接着剤層」は、「ポリウレタン系接着剤層」を含む「第1接着層」に、「アルミニウム箔」は、「金属箔層」に、「ポリプロピレン(PP)である熱接着性樹脂層」は、「シーラント層」に、「二次電池用包装材」は、「蓄電装置用外装材」に相当する。

b 上記aを踏まえると、甲6発明の「2軸延伸ナイロンフィルムと、」「アルミニウム箔」「とを2液硬化型ポリウレタン系接着剤である接着剤層を介して積層した積層体からなると共に前記アルミニウム箔」に「ポリプロピレン(PP)である熱接着性樹脂層を設けたプレス成形タイプの二次電池用包装材」は、本件発明1の「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材」に相当する。

c そうすると、本件発明1と甲6発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点2>
「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材であって、
前記基材層は、延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含み、
前記第1接着層がポリウレタン系接着剤層を含む、蓄電装置用外装材。」

<相違点2>
本件発明1では、「前記金属箔層は、鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔」であるのに対し、甲6発明では、「アルミニウム箔」の鉄の含有量は不明である点。

<相違点3>
本件発明1では、「第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含」むのに対し、甲6発明では、「接着剤層」は「ポリウレタン系接着剤」を含んでいるものの「芳香族ポリウレタン系接着剤」であるかは不明である点。

<相違点4>
本件発明1では、「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」のに対し、甲6発明は、「前記酸変成ポリプロピレン樹脂及び熱接着樹脂層を設ける前の前記積層体」の「引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕における」「MD方向およびTD方向の破断点伸度が両方向とも60%以上80%以下」であり、「前記MD方向は積層体および電池用包装材の長尺方向であり、前記TD方向は幅方向を意味する」点。

(イ)相違点4についての検討
事案に鑑み、相違点4から検討する。

a 容易想到性について
(a)甲6発明における「MD方向」及び「TD方向」は、それぞれ「積層体および電池用包装材」の「長尺方向」と「幅方向」を意味するから、本件MD方向及び本件TD方向と必ずしも方向が一致するとは限らない。

(b)また、本件発明1では、「基材層」、「第1接着層」、「金属箔層」、及び「シーラント層」を備える「外装材」の「引張伸び」について特定しているが、甲6発明の「破断点伸度」は、「2軸延伸ナイロンフィルム」、「接着剤層」、及び「アルミニウム箔」を積層した「積層体」(本件発明1の「基材層」、「第1接着層」、及び「金属箔層」の積層体に相当する。)の「破断点伸度」であり、「熱接着性樹脂層」(本件発明の「シーラント層」に相当する。)を含まないものに対する「破断点伸度」であるから、本件発明1における「外装材の引張伸び」には相当しない。

(c)そして、甲6及び甲1?甲5、甲7、甲8の国際公開、甲9には、本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した外装材の引張伸びを調整することも、当該引張伸びを共に60%以上とすることも記載されていない。

(d)また、甲6の【0016】から、甲6発明は、アルミニウム箔を積層した電池用包装材において、成形時に生じる不均質変形による応力集中を抑制することができ、均質に変形させることができるのでピンホールやクラックの発生を防止することができ、成形性に優れるという効果を奏するものであると認められるが、上記(3)ア(イ)b(a)で示した本件MD方向及び本件TD方向という特定の2方向における本件測定方法で測定した引張伸びを共に60%以上となるようにすることで奏される、基材層の金属箔層に対する保護効果を増大するという本件発明1の効果は、本件MD方向及び本件TD方向という基材層の製造における流動方向に応じた特定の2方向における引張り伸びについて記載されていない甲6や甲1?甲5、甲7、甲8の国際公開から当業者が予測し得ない顕著なものである。

(e)そうすると、甲6発明において、「2軸延伸ナイロンフィルム」の製造における流動方向である、本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した前記「電池用包装材」の引張伸びが共に60%以上である構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書(第84頁第22行?第85頁第9行)において、「甲第6号証にはさらに、引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕におけるMD方向およびTD方向のいずれか一方の破断点伸度が60%以上80%以下であること(段落0010、0034)、実施例ではMD方向およびTD方向の両方の破断点伸度が60%以上であるもの(サンプル番号2、4、5)を得たことが記載されている(表1)」から、甲第6号証には、「前記2軸延伸ナイロンフィルム21のMD方向及びTD方向における、前記外装材の破断点伸度が60%以上である」「電池用包装材」が記載されていると主張している。

(b)また、申立人は、特許異議申立書(第85頁第20?27行)において、「甲6発明における2軸延伸ナイロンフィルム21の破断点伸度は、引張速度50mm/分で測定されたものであり(段落0034)、これは本件特許明細書に記載されている条件(引張速度25mm/分;段落0022)よりも速い引張速度である。一般に、樹脂材料では、ひずみ速度が大きくなると降服応力と引張強度が増大し、反対に伸びは減少することが知られている(甲第7号証、第5頁左欄第1-5行)から、甲第6号証の条件下で測定される破断点伸度が60%以上である場合、本件特許明細書の条件下で測定される引張伸びも60%以上となると考えられる。」と主張している。

(c)しかし、甲6発明における「破断点伸度」は、「2軸延伸ナイロンフィルム」、「接着剤層」、及び「アルミニウム箔」を積層した「積層体」の「破断点伸度」であって、さらに「熱接着性樹脂層」も積層した「電池用包装材」の「破断点伸度」ではないから、本件発明1における「外装材の引張伸び」には相当しない。

(d)また、本件測定方法と、甲6発明の「破断点伸度」の測定方法は異なるし、上記(1)キで示した甲7の記載から、樹脂材料では、ひずみ速度が大きくなると降服応力と引張強度が増大し、反対に伸びは減少する特性を示すことが知られているとしても、甲6発明のアルミニウム箔を含む積層体においても、樹脂材料と同様の伸び特性を示すことまでが知られているとはいえない。

(e)そうすると、甲6発明の「引張試験〔試験片の幅:15mm、標点間距離:30mm、引張速度:50mm/分〕における」「MD方向およびTD方向の破断点伸度が両方向とも60%以上80%以下」であり、「前記MD方向は積層体および電池用包装材の長尺方向であり、前記TD方向は幅方向を意味する」構成が、本件発明1における「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」に相当する構成であるとはいえない。

(f)よって、上記申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件発明2と甲6発明との対比・検討
a 本件発明2と甲6発明とを対比すると、本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点2?4で相違し、相違点4についての判断は上記(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明2は、相違点4に係る構成を備えている点で、甲6発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(エ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点4に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明と甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点4に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲6発明と甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明1、2は、甲6に記載された発明と甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、申立理由2-6-1によっては取り消すことはできない。

イ 申立理由2-6-2、申立理由2-6-3、申立理由2-6-4について
(ア)本件発明3?6と甲6発明との対比・検討
a 本件発明3?6と甲6発明とを対比すると、本件発明3?6は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点2?4で相違し、相違点4についての判断は上記ア(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明3?6は、相違点4に係る構成を備えている点で、甲6発明と甲8の国際公開、甲3?5に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(イ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点4に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3?6は、甲6発明と甲8の国際公開、甲3?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明3?6は、甲6に記載された発明と甲8の国際公開、甲3?5に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項3?6に係る特許は、申立理由2-6-2、申立理由2-6-3、申立理由2-6-4によっては取り消すことはできない。

(5)甲8の国際公開に記載された発明を主引例とした場合
ア 申立理由2-8-1について
(ア)本件発明1と甲8発明との対比
a 本件発明1と甲8発明とを対比すると、甲8発明の「2軸延伸ポリアミド(ナイロン6」「)である基材層」は、本件発明1の「延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含」む「基材層」に相当する。以下、同様に、「ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物の組み合わせからなる2液型ウレタン接着剤である接着層」は、「芳香族ポリウレタン系接着剤層」を含む「第1接着層」に、「アルミニウム箔」は、「金属箔層」に、「シーラント層」は、「シーラント層」に、「二次電池用包装材料」は「蓄電装置用外装材」に相当する。

b 上記aを踏まえると、甲8発明の「基材層、」「接着層、」「アルミニウム箔」「、及びシーラント層」「をこの順に有する積層体からな」る「二次電池用包装材料」は、本件発明1の「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材」に相当する。

c そうすると、本件発明1と甲8発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点3>
「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材であって、
前記基材層は、延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含み、
前記第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含む、蓄電装置用外装材。」

<相違点5>
本件発明1では、「前記金属箔層は、鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔」であるのに対し、甲8発明では、「アルミニウム箔」の鉄の含有量は不明である点。

<相違点6>
本件発明1では、「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」のに対し、甲8発明では、「二次電池用包装材料」の引張伸びが不明である点。

(イ)相違点6についての検討
事案に鑑み、相違点6から検討する。

a 容易想到性について
(a)甲8の国際公開及び甲1?甲7、甲9には、本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した外装材の引張伸びを調整することも、当該引張伸びを共に60%以上とすることも記載されていない。

(b)また、甲8の国際公開の[0011]から、甲8発明は、優れた成形性を備えることができ、更には成形時にクラックやピンホール等が生じるのを効果的に抑制でき、生産性を向上させることができるという効果を奏するものであると認められるが、上記(3)ア(イ)b(a)で示した、本件MD方向及び本件TD方向という特定の2方向における本件測定方法で測定した引張伸びを共に60%以上となるようにすることで奏される、基材層の金属箔層に対する保護効果を増大するという本件発明1の効果は、甲8の国際公開や甲1?甲7、甲9には本件MD方向及び本件TD方向という基材層の製造における流動方向に応じた特定の2方向における引張り伸びについて記載されていないから、当業者が予測し得ない顕著なものである。

(c)そうすると、甲8発明において、「基材層」の製造における流動方向である本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した前記「電池用包装材料」の引張伸びが共に60%以上である構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書(第97頁第4?5行)において、「甲8発明において、甲第6号証に記載の技術を採用し、本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。」と主張している。

(b)しかし、甲6に記載された「MD方向」及び「TD方向」は、甲6の【0034】から、それぞれ「積層体および電池用包装材」の「長尺方向」と「幅方向」を意味すると認められ、本件MD方向及び本件TD方向と必ずしも方向が一致するとは限らない。

(c)また、甲6に記載された「破断点伸度」は、甲6の【0044】?【0046】から、「2軸延伸ナイロンフィルム」、「接着剤層」、及び「アルミニウム箔」を積層した「積層体」、すなわち「PP30μm」の層(本件発明1の「シーラント層」に相当する。)を積層する前の「積層体」の「破断点伸度」であって、さらに「PPa15μm」及び「PP30μm」の層を積層した「電池用包装材」の「破断点伸度」とは異なるものである。

(d)さらに、甲6の【0044】、【0045】の【表1】から、本件測定方法と、甲6に記載された「破断点伸度」の測定方法は異なる。

(e)そうすると、甲8発明において、甲6に記載の技術を採用しても、本件発明1における「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」に相当する構成となるとはいえないから、相違点6に係る構成は、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(f)よって、上記申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件発明2と甲8発明との対比・検討
a 本件発明2と甲8発明とを対比すると、本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点5、6で相違し、相違点6についての判断は上記(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明2は、相違点6に係る構成を備えている点で、甲8発明と甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(エ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点6に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明と甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点6に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲8発明と甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明1、2は、甲8の国際公開に記載された発明と甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、申立理由2-8-1によっては取り消すことはできない。

イ 申立理由2-8-2、申立理由2-8-3、申立理由2-8-4について
(ア)本件発明3?6と甲8発明との対比・検討
a 本件発明3?6と甲8発明とを対比すると、本件発明3?6は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点5、6で相違し、相違点6についての判断は上記ア(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明3?6は、相違点6に係る構成を備えている点で、甲8発明と甲6、3?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(イ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点6に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3?6は、甲8発明と甲6、3?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明3?6は、甲8の国際公開に記載された発明と甲6、3?5に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項3?6に係る特許は、申立理由2-8-2、申立理由2-8-3、申立理由2-8-4によっては取り消すことはできない。

(6)甲9に記載された発明を主引例とした場合
ア 申立理由2-9-1について
(ア)本件発明1と甲9発明との対比
a 本件発明1と甲9発明とを対比すると、甲9発明の「Ny:ナイロン(R)フィルムまたは」「PET:ポリエステルフィルム」である「最外層」は、本件発明1の「ポリエステル樹脂層及び」「ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含」む「基材層」に相当する。以下、同様に、「A系:ポリウレタン系接着剤である接着剤層」は、「ポリウレタン系接着剤層」を含む「第1接着層」に、「Feが1.0重量%、Siが0.1重量%、Mnが0.05重量%、および残部が不可避的不純物およびAlからなるアルミニウム合金」よりなる「アルミニウム箔層」は、「鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔」である「金属箔層」に、「無延伸ポリプロピレン層」は、「シーラント層」に、「ポリマー二次電池の包装に用いられる電池包装用アルミラミネート材料」は「蓄電装置用外装材」に相当する。

b 上記aを踏まえると、甲9発明の「内側表面から、」「無延伸ポリプロピレン層、」「および」「アルミニウム箔層を順次積層してなる内側積層部と、上記アルミニウム箔層の外側に配設された、合成樹脂よりなる最外層を含む複数の層を積層してなる外側積層部とよりな」る「ポリマー二次電池の包装に用いられる電池包装用アルミラミネート材料」は、本件発明1の「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材」に相当する。

c そうすると、本件発明1と甲9発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点4>
「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材であって、
前記基材層は、ポリエステル樹脂層及びポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含み、
前記金属箔層は、鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔であり、
前記第1接着層がポリウレタン系接着剤層を含む、蓄電装置用外装材。」

<相違点7>
本件発明1では、「基材層は、延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含」むのに対し、甲9発明では、「Ny:ナイロン(R)フィルム」または「PET:ポリエステルフィルム」が延伸タイプであるのか不明である点。

<相違点8>
本件発明1では、「第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含」むのに対し、甲9発明では、「接着剤層」は「ポリウレタン系接着剤」を含んでいるものの「芳香族ポリウレタン系接着剤」であるかは不明である点。

<相違点9>
本件発明1では、「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」のに対し、甲9発明では、「電池包装用アルミラミネート材料」の「伸びが100%」である点。

(イ)相違点9についての検討
事案に鑑み、相違点9から検討する。

a 容易想到性について
(a)甲9及び甲1?甲7、甲8の国際公開には、本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した外装材の引張伸びを調整することも、当該引張伸びを共に60%以上とすることも記載されていない。

(b)また、甲9の【0007】から、甲9発明は、非常に優れた成形性、耐内容物性、及び白化性を発揮しうるという効果を奏するものであると認められるが、上記(3)ア(イ)b(a)で示した、本件MD方向及び本件TD方向という特定の2方向における本件測定方法で測定した引張伸びを共に60%以上となるようにすることで奏される、基材層の金属箔層に対する保護効果を増大するという本件発明1の効果は、甲9や甲1?甲7、甲8の国際公開には本件MD方向及び本件TD方向という基材層の製造における流動方向に応じた特定の2方向における引張り伸びについて記載されていないから、当業者が予測し得ない顕著なものである。

(c)そうすると、甲9発明において、「最外層」の製造における流動方向である本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した前記「電池包装用アルミラミネート材料」の引張伸びが共に60%以上である構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書(第103頁第10?19行、第104頁第5?15行)において、「甲第9号証には、」「前記材料の引張伸びが100%である」「電池包装用アルミラミネート材料」が記載されており、「本件特許発明1と甲9発明を比較すると、両者は」「前記外装材の引張伸びが60%以上である」点で一致すると主張する。

(b)また、申立人は、特許異議申立書(第104頁第17?26行)において、本件発明1と甲9発明との相違点を記載しているが、上記相違点9については本件発明1と甲9発明との相違点として記載していない。

(b)しかし、甲9には、【0034】に引張試験を行って伸びを測定したことは記載されているものの、甲9発明の「伸び100%」の方向や測定方法について具体的な記載はない。

(c)また、甲9発明の「伸び100%」と、本件MD、本件TD方向における本件測定方法により測定された「引張伸び」との関係についても不明である。

(d)そして、本件優先日当時の技術常識を考慮しても、甲9発明の「電池包装用アルミラミネート材料」の本件MD方向及び本件TD方向における、本件測定方法で測定した引張伸びが共に60%以上であるとはいえない。

(e)そうすると、甲9発明における「伸びが100%」の構成が、本件発明1における「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」に相当する構成であるとはいえないから、上記相違点9は実質的な相違点である。

(f)そして、上記相違点9に係る構成は当業者が容易に想到し得たものでないことは、上記aで示したとおりである。

(g)よって、上記申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件発明2と甲9発明との対比・検討
a 本件発明2と甲9発明とを対比すると、本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点7?9で相違し、相違点9についての判断は上記(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明2は、相違点9に係る構成を備えている点で、甲9発明と甲8の国際公開に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(エ)小括
上記(イ)で示したように、上記相違点9に係る構成は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明と甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、上記(ウ)で示したように、上記相違点9に係る構成は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲9発明と甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明1、2は、甲9に記載された発明と甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、申立理由2-9-1によっては取り消すことはできない。

イ 申立理由2-9-2、申立理由2-9-3、申立理由2-9-4について
(ア)本件発明3?6と甲9発明との対比・検討
a 本件発明3?6と甲9発明とを対比すると、本件発明3?6は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点7?9で相違し、相違点9についての判断は上記ア(イ)で示したとおりである。

b そうすると、本件発明3?6は、相違点9に係る構成を備えている点で、甲9発明と甲8の国際公開、甲3?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(イ)小括
上記(ア)で示したように、上記相違点9に係る構成は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3?6は、甲9発明と甲8の国際公開、甲3?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明3?6は、甲9に記載された発明と甲8の国際公開、甲3?5に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項3?6に係る特許は、申立理由2-9-2、申立理由2-9-3、申立理由2-9-4によっては取り消すことはできない。

2 申立理由3(拡大先願)について
(1)甲10に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載
甲10に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面には、「深絞り成形用積層体および深絞り成形容器」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項1】
基材層と、バリア層と、ヒートシール層と、をこの順に含んでなる深絞り成形用積層体であって、
前記基材層が、ポリエステル樹脂層とポリアミド樹脂層とを含み、
前記積層体の22℃における引張破断伸度が、MD方向で30%以上であり、TD方向で30%以上である、深絞り成形用積層体。」
「【0001】
本発明は、深絞り成形用積層体に関し、さらに詳細には、基材層、バリア層、およびヒートシール層をこの順に含んでなる深絞り成形用積層体に関する。また、該深絞り成形用積層体からなる深絞り成形容器に関する。」
「【0007】
本発明は上記の技術的課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、深絞り成形容器を製造する際の成形性に優れた深絞り成形用積層体を提供することにある。また、該深絞り成形用積層体からなる深絞り成形用積層体を提供することにある。」
「【0021】
本発明における引張破断伸度は、JIS?Z1702に準拠した試験片を用いて、チャック間距離を80mmおよび試験速度を300m/minとして、テンシロン万能試験機を用いて22℃で測定した値である。」
「【0034】
(用途)
本発明による深絞り成形容器は、バリア性を要する様々な内容物を収容することができるが、その内容物は特に限定されない。例えば、深絞り成形容器は、食品、医薬品、医療器具等の包装容器として用いることができる。
【0035】
[実施例1]
<深絞り成形用積層体の作製>
基材層としてPETとナイロンのハイブリッドフィルム(厚さ:25μm、グンゼ(株)製、商品名:ヘプタックスHLB)と、バリア層としてAl-Fe系アルミ合金箔(厚さ:40μm、Fe含有量:0.7?1.3%、東洋アルミ(株)製、商品名:8079)とを、ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)を用いて貼り合わせた。次に、バリア層と、ヒートシール層として直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚さ:50μm、東洋紡(株)製、商品名:リックスL6100)とを、ウレタン系接着剤を用いて貼り合わせて、深絞り成形用積層体を得た。
・・・
【0037】
[実施例3]
<深絞り成形用積層体の作製>
バリア層の厚さを20μmに変更した以外は実施例1と同様にして、深絞り成形用積層体を得た。」
「【0047】
<深絞り成形用積層体の性能評価>
上記の実施例1?7および比較例1?5で作製した深絞り成形用積層体を用いて、以下の評価を行った。
【0048】
(引張破断伸長)
上記の実施例1?7および比較例1?5で作製した深絞り成形用積層体を用いて、JIS?Z1702に準拠した試験片を作成した。作成した試験片を用いて、チャック間距離を80mmおよび試験速度を300m/minとして、テンシロン万能試験機を用いて引張破断伸長を測定した。測定結果を表1に示す。
【0049】



(2)甲10に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明
ア 上記(1)で摘示した事項から、請求項1の記載を踏まえ、実施例3に着目すると、以下のことが記載されていると認められる。

(ア)【0035】、【0037】から、実施例3は、PETとナイロンのハイブリッドフィルム(厚さ:25μm、グンゼ(株)製、商品名:ヘプタックスHLB)である基材層と、ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)と、Al-Fe系アルミ合金箔(厚さ:20μm、Fe含有量:0.7?1.3%、東洋アルミ(株)製、商品名:8079)であるバリア層と、ウレタン系接着剤と、ヒートシール層として直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚さ:50μm、東洋紡(株)製、商品名:リックスL6100)と、をこの順に含んでなる深絞り成形用積層体である。

(イ)【0048】、【0049】の【表1】から、JIS?Z1702に準拠して作成した試験片を用いて、チャック間距離を80mmおよび試験速度を300m/minとして、テンシロン万能試験機を用いて測定した実施例3の引張破断伸長は、MD方向が66.1%であり、TD方向が65.9%である。

イ そうすると、甲10に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明として、以下の甲10発明が記載されていると認められる。

<甲10発明>
「基材層と、ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)と、Al-Fe系アルミ合金箔(厚さ:20μm、Fe含有量:0.7?1.3%、東洋アルミ(株)製、商品名:8079)であるバリア層と、ウレタン系接着剤と、ヒートシール層として直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚さ:50μm、東洋紡(株)製、商品名:リックスL6100)と、をこの順に含んでなる深絞り成形用積層体であって、
前記基材層が、PETとナイロンのハイブリッドフィルム(厚さ:25μm、グンゼ(株)製、商品名:ヘプタックスHLB)であり、
前記積層体のJIS?Z1702に準拠して作成した試験片を用いて、チャック間距離を80mmおよび試験速度を300m/minとして、テンシロン万能試験機を用いて測定した引張破断伸長が、MD方向で66.1%、TD方向で65.9%である、深絞り成形用積層体。」

(3)本件明細書の記載
本件明細書には以下の記載がある。

「【0009】
上記外装材は、上記基材層上に配置された第1接着層をさらに備え、上記金属箔層が上記第1接着層を介して上記基材層上に配置され、上記第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含むことが好ましい。この場合、上記第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含むことにより、外装材のより優れた成型性が得られる。」
「【0105】
また、接着層12に脂肪族ウレタン系接着剤を用いた比較例2-5では、接着層12の強度が不足し、金属箔層13への保護効果が低下したことで、外装材10の引張伸びが50%を下回り、成型性が低下し、成型深さ5mm未満で破断又はクラックが生じた。」

(4)本件発明1と甲10発明との対比
ア 本件発明1と甲10発明とを対比すると、甲10発明の「PETとナイロンのハイブリッドフィルム(」「グンゼ(株)製、商品名:ヘプタックスHLB)」である「基材層」は、本件発明1の「ポリエステル樹脂層及び」「ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含」む「基材層」に相当する。以下、同様に、「ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)」は、「ポリウレタン系接着剤層」を含む「第1接着層」に、「Al-Fe系アルミ合金箔(」「Fe含有量:0.7?1.3%、東洋アルミ(株)製、商品名:8079)であるバリア層」は、「鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔」である「金属箔層」に、「ヒートシール層」は、「シーラント層」に、「深絞り成形用積層体」は「外装材」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、甲10発明の「基材層と、ウレタン系接着剤」「と、」「バリア層と、」「ヒートシール層」「と、をこの順に含んでなる深絞り成形用積層体」は、本件発明1の「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える」「外装材」に相当する。

ウ そうすると、本件発明1と甲10発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点5>
「基材層と、前記基材層上に配置された第1接着層と、前記第1接着層を介して前記基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材であって、
前記基材層は、ポリエステル樹脂層及びポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含み、
前記金属箔層は、鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔であり、
前記第1接着層がポリウレタン系接着剤層を含む、外装材。」

<相違点10>
本件発明1では、「前記基材層は、延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含」むのに対し、甲10発明では、「PETとナイロンのハイブリッドフィルム」である「グンゼ(株)製、商品名:ヘプタックスHLB」が延伸タイプであるのか不明である点。

<相違点11>
本件発明1では、「第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤層を含」むのに対し、甲10発明では、「ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)」が「芳香族ポリウレタン系接着剤」であるか不明である点。

<相違点12>
本件発明1では、「前記基材層のMD方向及びTD方向における、前記外装材の引張伸びが共に60%以上である」のに対し、甲10発明では、「積層体のJIS?Z1702に準拠して作成した試験片を用いて、チャック間距離を80mmおよび試験速度を300m/minとして、テンシロン万能試験機を用いて測定した引張破断伸長が、MD方向で66.1%、TD方向で65.9%である」点。

<相違点13>
本件発明1は、「蓄電装置用」のものであるのに対し、甲10発明では、蓄電装置用であることは特定されていない点。

(5)相違点11についての検討
事案に鑑み、相違点11から検討する。

ア 実質的な相違点であるか否かについて
(ア)参考文献1(三井化学株式会社 タケラックRA タケネートRA 接着剤用ポリウレタン PDFカタログ 銘柄と用途 ファイル更新日:2012年1月10日 URL:https://jp.mitsuichemicals.com/sites/default/files/media/document/2018/pict_brand001.pdf )には、以下の記載がある。なお、表の下側と右側の一部を省略している。





(イ)上記(ア)から、甲10に係る出願の出願日である平成26年2月7日以前において、「三井化学(株)製」のウレタン系接着剤である「商品名:タケラック、タケネート」は、少なくとも芳香族エーテル系、脂肪族エステル系、芳香族エステル系があったと認められる。

(ウ)また、上記(ア)から、深絞り適性を有する「タケラック/タケネート」としては、芳香族エステル系以外に脂肪族エステル系の商品もあると認められる。

(エ)そして、甲10の記載からは、「ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)」が芳香族ポリウレタン系接着剤であるかは不明であるし、上記(イ)から、甲10発明の深絞り成形用積層体に用いる接着剤が芳香族ポリウレタン系接着剤であることが自明な事項であるともいえない。

(オ)また、甲10の【0007】から、甲10発明は、深絞り成形容器を製造する際の成形性に優れた深絞り成形用積層体を提供することを課題としていると認められるが、上記(ウ)から、深絞り成形用積層体に用いる接着剤として「タケラック/タケネート」を採用する際に、「芳香族ポリウレタン系接着剤」を用いることが通常行われたといえる事情も見当たらない。

(カ)ここで、上記(3)に示した本件明細書の【0009】、【0105】の記載を参照すると、第1接着層が芳香族ポリウレタン系接着剤を含むことで、脂肪族ウレタン系接着剤を用いる場合と比較し、金属箔層への保護効果が低下せず、外装材のより優れた成型性が得られるという効果を奏することが理解できる。

(キ)そうすると、上記相違点11は、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。

(ク)したがって、上記相違点11は実質的な相違点である。

イ 申立人の主張について
(ア)申立人は、特許異議申立書(第119頁第20行?第120頁第1行)において、
「さらに、甲10発明において接着剤として用いられたウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)が芳香族ポリウレタン系接着材であることも周知である。必要であれば、特開2011-255624号公報の段落0128を参照されたい。
(特開2011-255624号公報の段落0128)
【0128】
・接着層:三井化学ポリウレタン(株)製芳香族エステル系接着剤
主剤 :タケラック(登録商標)A-310 12部(液体)
硬化剤:タケネート(登録商標)A-3 1部(液体)」
と主張している。

(イ)しかし、上記ア(ア)に記載されているように、特開2011-255624号公報に記載された「タケラック」/「タケネート」の「A310」/「A-3」が芳香族エステル系接着剤であるとしても、「ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、商品名:タケラック、タケネート)」としては、芳香族エーテル系、脂肪族エステル系、芳香族エステル系のものもあるから、甲10発明の「商品名:タケラック/タケネート」が芳香族ポリウレタン系接着剤であることが周知であるとはいえない。

(ウ)よって、上記申立人の主張は採用できない。

(6)小括
上記(5)で示したように、上記相違点11に係る構成は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲10発明と同一の発明とはいえない。
したがって、本件発明1は、甲10に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえないから、その余の点について検討するまでもなく、本件特許の請求項1に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-03-15 
出願番号 特願2016-512761(P2016-512761)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 161- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 則充  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 増山 慎也
中澤 登
登録日 2020-06-15 
登録番号 特許第6717190号(P6717190)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 蓄電装置用外装材、蓄電装置、及びエンボスタイプ外装材の製造方法  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 黒木 義樹  
代理人 ▲高▼木 邦夫  
代理人 長谷川 芳樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ