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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 6項4号請求の範囲の記載形式不備  B01D
管理番号 1372740
異議申立番号 異議2020-700604  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-17 
確定日 2021-04-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6649762号発明「架橋型高分子凝集剤及びその製造方法並びにそれを用いる廃水処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6649762号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6649762号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年12月 4日に出願され、令和 2年 1月21日にその特許権の設定登録がされ、同年 2月19日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年 8月17日に、特許異議申立人 椎名 一男(以下、「申立人椎名」という。)により甲第1?2号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年 8月19日に、特許異議申立人 小宮 邦彦(以下、「申立人小宮」という。)により甲第1?11号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年10月12日に、申立人小宮により、甲第11号証の抄訳を添付して特許異議申立書の手続補正がされ、同年12月 8日付けで、当審より特許権者に対して審尋がされ、その指定期間内である令和 3年 2月 9日に、特許権者より参考資料1を添付して回答書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩を50?95モル%と、
アクリルアミドを5?50モル%と、
メチレンビスアクリルアミドを0.0001?0.01モル%と、
からなる単量体混合物であり、且つ前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの合計量に対する前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩のモル分率が60モル%以上である単量体混合物を重合して得られる水溶性高分子であって、
線状型高分子を実質的に含まず、
0.2%水溶液の粘度が400?1100mPa・sであり、
レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での歪み率依存性測定における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とが等しくなる歪み率y(%)が下記式(1)
1≦y<500 ・・・式(1)
を満たすとともに、
レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での角周波数依存性測定における貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが等しくなる角周波数x(rad/s)が下記式(2)
0.05<x≦15 ・・・式(2)
を満たすことを特徴とする架橋型高分子凝集剤。
【請求項2】
前記架橋型高分子凝集剤の剤型がエマルションである請求項1に記載の架橋型高分子凝集剤。
【請求項3】
前記架橋型高分子凝集剤の剤型が粉末である請求項1に記載の架橋型高分子凝集剤。
【請求項4】
ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩を50?95モル%と、
アクリルアミドを5?50モル%と、
メチレンビスアクリルアミドを0.0001?0.01モル%と、
からなる単量体混合物であり、且つ前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの合計量に対する前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩のモル分率が60モル%以上である単量体混合物をエマルション重合することを特徴とする請求項1に記載の架橋型高分子凝集剤の製造方法。
【請求項5】
ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩を50?95モル%と、
アクリルアミドを5?50モル%と、
メチレンビスアクリルアミドを0.0001?0.01モル%と、
からなる単量体混合物であり、且つ前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの合計量に対する前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩のモル分率が60モル%以上である単量体混合物をエマルション重合して重合体エマルションを得、該重合体エマルションを乾燥することを特徴とする請求項1に記載の架橋型高分子凝集剤の製造方法。
【請求項6】
無機凝集剤を添加しない廃水処理方法であって、
全蒸発残留物が2,000?50,000(mg/L)の廃水に請求項1乃至3のいずれか1項に記載の架橋型高分子凝集剤を添加することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項7】
前記廃水が畜産廃水である請求項6に記載の廃水処理方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 申立人椎名による特許異議申立理由の概要
(1)各甲号証
以下、申立人椎名による各甲号証を「甲第1-1号証」、「甲第1-2号証」という。
甲第1-1号証:本件特許出願の審査において令和 1年12月19日に提出された意見書の写し
甲第1-2号証:本件特許出願の審査において令和 1年 6月19日に提出された意見書の写し

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 本件発明1は「ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの合計量に対する前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩のモル分率が60モル%以上である単量体混合物を重合して得られる水溶性高分子であって」、との発明特定事項を有するが、本件特許明細書中、前記「モル分率」を特定することについての説明記載はないから、前記「モル分率」が「60モル%以上」であることをもって、本件発明の効果が得られるか否かは不明である。

イ また、前記アの発明特定事項は、甲第1-1号証に記載されるように、本件特許明細書の【0082】【表1】に記載される製造例4を根拠とするものであるが、前記【表1】に記載される製造例2及び製造例5の「ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの合計量に対する前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩のモル分率」(以下、「モル分率」という。)は、それぞれ55モル%、33モル%であり、前記発明特定事項に合致しないので、前記アの発明特定事項に合致する製造例は製造例1、3、4のみである。
一方、本件発明1は、「0.2%水溶液の粘度が400?1100mPa・sであり」、との発明特定事項を有し、これは、甲第1-2号証に記載されるように、前記【表1】の製造例1?5を根拠とするものであるが、前記アの発明特定事項に合致する製造例1、3、4の「0.2%水溶液の粘度」は、それぞれ、900mPa・s、1100mPa・s、1000mPa・sであるから、本件発明1における「0.2%水溶液の粘度」は900?1100mPa・sと特定されるべきであり、「0.2%水溶液の粘度」の下限値を、本件発明1における下限値である「400mPa・s」まで拡張ないし一般化できないから、本件発明1はサポート要件を満たさない。

ウ 本件発明1は「レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での歪み率依存性測定における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とが等しくなる歪み率y(%)が下記式(1)
1≦y<500 ・・・式(1)
を満たす」、との発明特定事項を有するが、前記アの発明特定事項に合致する製造例1、3、4の「貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とが等しくなる歪み率y(%)」(以下、「歪み率y(%)」という。)は、それぞれ、147%、480%、215%であり、「歪み率y(%)」について、発明の詳細な説明に記載された事項を本件発明1の発明特定事項まで拡張ないし一般化できないから、本件発明1はサポート要件を満たさない。

エ 本件発明1は「レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での角周波数依存性測定における貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが等しくなる角周波数x(rad/s)が下記式(2)
0.05<x≦15 ・・・式(2)
を満たす」、との発明特定事項を有するが、前記アの発明特定事項に合致する製造例1、3、4の「貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが等しくなる角周波数x(rad/s)」(以下、「角周波数x(rad/s)」という。)は、それぞれ、0.16rad/s、0.10rad/s、0.16rad/sであり、「角周波数x(rad/s)」について、発明の詳細な説明に記載された事項を本件発明1の発明特定事項まで拡張ないし一般化できないから、本件発明1はサポート要件を満たさない。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件、委任省令要件)について
ア 本件特許明細書中には、「0.2%水溶液の粘度」の数値の意義及び具体的な測定方法が記載されておらず、「0.2%水溶液の粘度」の測定方法により測定値が異なることは技術常識であるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1に係る「架橋型高分子凝集剤」を製造できるように記載されているとはいえないし、「0.2%水溶液の粘度」の技術的意義が不明であるので、実施可能要件及び委任省令要件を満たさない。

イ 本件特許明細書の【0077】には、
「<周波数依存性測定>
歪み率0.1?10%線形昇降範囲で、角周波数100→0.1rad/sをかけた場合の溶液の貯蔵弾性率と損失弾性率を測定した。」
と記載されているが、前記【表1】には、比較製造例1、2、4の測定値として、それぞれ0.05rad/s、0.04rad/s、0.03rad/sといった、0.1rad/s未満の測定値が記載されており、前記【0077】の周波数依存性測定の測定条件と前記【表1】の測定値が整合していない。
そうすると、前記【0077】に記載された周波数依存性測定の方法で測定した各製造例の重合体の角周波数の測定値が正しいといえるか否かが定かでないので、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1で特定する「角周波数x(rad/s)」を特定するための測定方法を明確に理解できないから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1に係る「架橋型高分子凝集剤」を製造できるように記載されているとはいえないので、実施可能要件を満たさない。

ウ 本件発明1は「メチレンビスアクリルアミドを0.0001?0.01モル%と」、との発明特定事項を有する一方、前記【表1】においては、「MBA」は「添加濃度(ppm)」の数値が記載されているが、発明の詳細な説明には、「添加濃度(ppm)」が何を基準にした量であるのかが記載されていない。
また、本件特許明細書の【0080】から製造例1の「MBA」の添加量を算出すると、モル%で15ppmであり、質量%で12ppmであり、いずれも前記【表1】における9ppmと合致しないので、前記【表1】の「添加濃度(ppm)」が何を基準にした量であるのかが不明である。
更に、発明の詳細な説明には、製造例2?5、比較製造例1?5についての単量体混合物中の各単量体の具体的な配合質量も記載されていないから、単量体混合物中の各単量体及び他の配合原料をそれぞれどのくらいの質量で使用して、製造例1と同様の操作を行えば、所定の0.2%水溶液粘度、歪み率及び角周波数を満たす製造例2?5の重合体を製造できるのかを、発明の詳細な説明の記載から理解できないので、当業者が所定の0.2%水溶液粘度、歪み率及び角周波数を満たす製造例1以外の「架橋型高分子凝集剤」を製造するためには、過度な試行錯誤が必要であり、発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たさない。

2 申立人小宮による特許異議申立理由の概要
(1)各甲号証
以下、申立人小宮による各甲号証を、「甲第2-1号証」?「甲第2-11号証」という。
甲第2-1号証:特開2010-194446号公報
甲第2-2号証:特開2004-25094号公報
甲第2-3号証:特開2005-144346号公報
甲第2-4号証:特開2013-39539号公報
甲第2-5号証:特開2014-180648号公報
甲第2-6号証:特許第5103395号公報
甲第2-7号証:特開2009-280649号公報
甲第2-8号証:特開昭61-293510号公報
甲第2-9号証:特表2000-500387号公報
甲第2-10号証:特開平2-219887号公報
甲第2-11号証:Do Hoon Kim et al,「Development of a Viscoelastic Property Database for EOR Polymers」,SPE129971,2010年4月,p.1-16

(2)特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
本件発明1?7は、甲第2-1号証?甲第2-7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1?7に係る特許は取り消されるべきものである。
本件発明1?7は、甲第2-1号証?甲第2-7号証に記載された発明、甲第2-8号証?甲第2-11号証に記載された事項及び本件特許の出願時における技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?7に係る特許は取り消されるべきものである。

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 申立人椎名による特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ そこで、前記アの観点に基づいて、「モル分率」、「0.2%水溶液の粘度」、「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」に関するサポート要件について検討すると、本件特許明細書には以下(a)?(d)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(a)「【0002】
生活排水、産業廃水等に含まれる汚泥を凝集・沈降・分離させることを目的として、高分子凝集剤が使用されている。…即ち、従来の高分子凝集剤は、その添加率が低過ぎても高過ぎても良好な性能を発揮することができない。従来の高分子凝集剤の最適な添加率は、廃水の性状によって変動する。また、従来の高分子凝集剤は、廃水の処理に適する添加率の幅が狭い。
【0003】
近年、畜産施設から排出される汚泥の処理方法は、大規模経営化や環境配慮の風潮から化学的処理法が用いられるようになってきている。糞尿自体をセパレータで分別した汚泥や余剰汚泥の処理に高分子凝集剤が用いられている。しかし、畜産廃水は、畜産に対する飼料の変化や季節等により、廃水の性状が変動する。また、廃水の一部がエマルション状になっている場合もある。そのため、従来の高分子凝集剤では、畜産廃水の効率的な処理が困難である。
【0004】
上記の問題を解決するために、先ず、カチオン性凝集剤の総添加量の70?95質量%を添加して混合した後、残余の凝集剤を添加する方法がある(特許文献1)。しかし、この方法は高分子凝集剤の使用量の増加や工程の煩雑化を生じる。
【0005】
また、ポリアミジンを用いる廃水処理方法であって、塩粘度の異なる2種類以上の水溶性高分子を用いて脱水処理する方法がある(特許文献2)。しかし、アミジンの使用は薬剤コストの上昇を招く。また、分子量が低いため、造粒性が乏しい。そのため、凝集剤の添加量の増加を生じる。

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、畜産廃水に対する凝集性が優れ、ろ過速度が速く、効果的に脱水することができ、含水率の低い脱水ケーキを得ることができる高分子凝集剤及びその製造方法並びに廃水処理方法を提供することである。」

(b)「【0023】
(1)架橋型高分子凝集剤
本発明の架橋型高分子凝集剤は、以下に説明するパラメータを具備する架橋型水溶性高分子から成ることを特徴とする。本発明の架橋型高分子凝集剤は、線状型高分子を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、線状型高分子の含有率が1質量%未満であることをいう。
【0024】
(1-1)架橋型水溶性高分子
本発明の高分子凝集剤は、水溶液が所定の粘弾性を有する架橋型水溶性高分子から成ることを特徴とする。架橋型水溶性高分子が高分子凝集剤としての優れた性能を発揮するための物性は、レオメーターを用いて測定する粘弾性によって規定することができる。
【0025】
本発明の高分子凝集剤は、レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での歪み率依存性測定における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とが、歪み率<1%である時は常にG2<G1の関係にあり、1%≦歪み率<500%の範囲においてG1とG2との大小関係が逆転し、歪み率≧500%である時は常にG2>G1の関係になるとともに、
角周波数依存性測定における貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが、角周波数≦0.05rad/sの時は常にG3<G4の関係にあり、0.05rad/s<角周波数≦15rad/sの範囲においてG3とG4との大小関係が逆転し、角周波数>15rad/sの時は常にG3>G4の関係となることを特徴とする。
【0026】
即ち、以下の式(2)
tanδ1=G2/G1 ・・・式(2)
で表されるtanδ1が1となるのは、歪み率が1%以上500%未満の範囲内である。tanδ1=1となるのは、歪み率が5?400%の範囲内であることが好ましく、10?300%の範囲内であることがさらに好ましく、20?200%の範囲内であることが特に好ましい。tanδ1=1となる点が歪み率500%以上である場合、架橋型水溶性高分子の架橋が不十分であり、その性質は線状型水溶性高分子の性質に近くなる。その結果、フロック径が大きくならなかったり、ろ過速度が向上しなかったり、脱水ケーキの含水率が低下しないことがある。また、様々な性状を有する畜産廃水に対して、その効果を発揮し難くなる。tanδ1=1となる点が歪み率1%未満である場合、水溶性高分子の架橋反応が進み過ぎて、添加量が増加したり、脱水ケーキの含水率を十分に低下できないことがある。
【0027】
また、以下の式(3)
tanδ2=G4/G3 ・・・式(3)
で表されるtanδ2が1となるのは、角周波数xが0.05rad/s<x≦15rad/sの範囲内である。tanδ2=1となるのは、角周波数が0.08?12rad/sの範囲内であることが好ましく、0.1?10rad/sの範囲内であることがさらに好ましく、0.12?1.6rad/sの範囲内であることが特に好ましい。tanδ2=1となる点が角周波数0.05rad/s以下である場合、水溶性高分子の架橋が不十分であり、その性質は線状型水溶性高分子の性質に近くなる。その結果、フロック径が大きくならなかったり、ろ過速度が低下したり、脱水ケーキの含水率が低下しないことがある。また、様々な性状を有する畜産廃水に対して効果を発揮し難くなる。tanδ2=1となる点が角周波数15rad/sを超える場合、水溶性高分子の架橋反応が進み過ぎて、高い性能を発揮するのに必要な添加量が増えたり、脱水ケーキの含水率を十分に低下できないことがある。
【0028】
なお、上記で規定される粘弾性は、架橋型水溶性高分子の3次元構造を示した指標である。この値は、架橋性単量体の添加量及び連鎖移動剤の添加量、重合触媒の量等を適宜変えることによって調整することができる。例えば、架橋性単量体の添加量を増加することにより、tanδ1=1となる歪み率を低くすることができる。また、架橋性単量体の添加量を増加することにより、tanδ2=1となる角周波数を大きくすることができる。同様に連鎖移動剤の添加量を増加することにより、tanδ1=1となる歪み率を大きくすることができる。また、連鎖移動剤の添加量を増加することにより、tanδ2=1となる角周波数を低くすることができる。
【0029】
所定の粘弾性を有する架橋型水溶性高分子は、所定のカチオン性単量体、所定のノニオン性単量体及び所定の架橋性単量体を必須成分とし、共重合可能な他の単量体を任意成分とする単量体混合物を重合することにより製造される。」

(c)「【0067】
上記に説明した重合方法を用いることにより、本発明で規定する所定の粘弾性を有する架橋型水溶性高分子を製造することができる。重合反応終了後には、必要に応じて適宜熱処理や乾燥、粉砕等の後処理を行う。これらの後処理も公知の方法を適用できる。架橋型水溶性高分子の0.1%水溶液の粘度は、100?3000mPa・sであり、150?1500mPa・sであることが更に好ましく、180?1000mPa・sであることが特に好ましい。粘度の調整は、重合度や架橋度を調節することにより行うことができる。重合度の調節は、重合触媒濃度、連鎖移動剤の使用等、公知の方法により行うことができる。架橋度の調節は、架橋性単量体の配合量を調節することにより行うことができる。」

(d)「【0080】
<製造例1>
79%ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩水溶液313gと50%アクリルアミド水溶液45.4gを混合し、イソプロピルアルコール1.6g、キレート剤EDTAの5%水溶液を4.0g、開始剤としてt-ブチルハイドロパーオキサイド0.03gとメチレンビスアクリルアミド(MBA)0.0036gを含む水溶液を含む水溶液2.0gを添加後、イオン交換水を添加し、98%硫酸でpH3.0に調整し、704.2gの水相を調製した。油相を撹拌しながら、水相を添加し、ホモジナイザーにて高速撹拌して油中水型エマルションを調製した。フラスコに窒素ガス吹き込み管、還流冷却器、温度計をつけ、撹拌翼で撹拌しながら、窒素ガスで脱気を開始した。十分に脱気した後、窒素ガスを供給しながら、さらに二酸化硫黄を0.02vol%含む窒素ガスを34.9ml/分の供給量で乳化液中に吹き込み、重合を開始させた。50℃に到達後、2時間この温度を保持した後、二酸化硫黄を含む窒素ガスの供給量を186.4ml/分に増やし、さらに50℃で1時間保持した後、窒素ガスおよび二酸化硫黄を含む窒素ガスを停止し、重合を終了した。親水性界面活性剤として、HLB値13.5のポリエチレングリコールモノオレートをエマルションに含まれる総乳化剤の加重平均のHLB値が10.0となるように、14.1g加えて混合し、エバポレーターにて脱水後、減圧乾燥を行い、粉末の重合体1を得た。この重合体の粘弾性の測定結果を表1に示した。
【0081】
<製造例2?7、比較製造例1?6>
単量体組成を表1に記載のように変更した以外は、製造例1と同様に操作して重合体を得た。これらの重合体の粘弾性の測定結果を表1に示した。
【0082】
【表1】


(当審注:【表1】における「AMD」及び「AA」が、それぞれ、「アクリルアミド」及び「アクリル酸」を意味する略記として表記されることは、本件特許の出願日前に公開された特開2006-274144号公報(【0022】、【0042】)、特開平4-241197号公報(【0079】)の記載から、当業者にとって明らかである。)

ウ 前記イ(a)によれば、本件発明は、従来の高分子凝集剤は、その添加率が低過ぎても高過ぎても良好な性能を発揮することができず、その最適な添加率は、廃水の性状によって変動し、また、従来の高分子凝集剤は、廃水の処理に適する添加率の幅が狭いという課題、従来の高分子凝集剤では、畜産廃水の効率的な処理が困難であるという課題、従来の凝集剤の添加方法は、高分子凝集剤の使用量の増加や工程の煩雑化を生じるという課題、凝集剤としてのアミジンの使用は薬剤コストの上昇を招き、また、分子量が低く、造粒性が乏しいため、凝集剤の添加量の増加を生じるという課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであって、畜産廃水に対する凝集性が優れ、ろ過速度が速く、効果的に脱水することができ、含水率の低い脱水ケーキを得ることができる(以下、「本件効果」という。)、高分子凝集剤及びその製造方法並びに廃水処理方法を提供するものである。

エ そして、前記イ(d)の製造例1?5において、本件発明1の「ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの合計量に対する前記ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩のモル分率が60モル%以上である単量体混合物を重合して得られる水溶性高分子であって」、との発明特定事項を満たす製造例は製造例1、3、4であるところ、本件特許明細書の【0083】?【0093】の実施例(以下、「本件実施例」という。)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「モル分率」が「60モル%以上である単量体混合物を重合して得られる水溶性高分子」である前記製造例1、3、4に基づく実施例1、3?5及び7?10により、本件効果を奏し、本件課題を解決できることを理解する。

オ ここで、前記製造例1、3、4における「0.2%水溶液の粘度」の範囲は900?1100mPa・sであり、「歪み率y(%)」の範囲は147%?480%であり、「角周波数x(rad/s)」の範囲は0.10rad/s?0.16rad/sであるが、前記イ(b)(【0028】)、(c)によれば、架橋型水溶性高分子の「水溶液」の「粘度」の調整は、重合度や架橋度を調節することにより行うことができ、重合度の調節は、重合触媒濃度、連鎖移動剤の使用等、公知の方法により行うことができ、架橋度の調節は、架橋性単量体の配合量を調節することにより行うことができるものであり、「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」は、架橋性単量体の添加量及び連鎖移動剤の添加量、重合触媒の量等を適宜変えることによって調整することができるものである。

カ 前記オによれば、本件発明における「0.2%水溶液の粘度」、「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」は、ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩及びアクリルアミドの配合割合とは別に、架橋性単量体の添加量及び連鎖移動剤の添加量、重合触媒の量等により調整することができるものであるから、製造例1、3、4における「0.2%水溶液の粘度」、「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」を、ジメチルアミノエチル(メタ)クリレートの塩化メチル4級塩及びアクリルアミドの配合割合を変更することなく、「400?1100mPa・s」、「1≦y<500(%)」、「0.05<x≦15(rad/s)」の範囲に調整できることは明らかである。
そして、前記イ(b)(【0026】?【0027】)及び本件実施例によれば、当業者は、
「0.2%水溶液の粘度が400?1100mPa・sであり、
レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での歪み率依存性測定における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とが等しくなる歪み率y(%)が下記式(1)
1≦y<500 ・・・式(1)
を満たすとともに、
レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での角周波数依存性測定における貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが等しくなる角周波数x(rad/s)が下記式(2)
0.05<x≦15 ・・・式(2)
を満たす」
との本件発明1の発明特定事項を満たすことで、本件課題を解決できることを理解するので、前記製造例1、3、4における「0.2%水溶液の粘度」の範囲が900?1100mPa・sであり、「歪み率y(%)」の範囲が147%?480%であり、「角周波数x(rad/s)」の範囲が0.10rad/s?0.16rad/sであるとしても、これらについて、特許請求の範囲まで拡張ないし一般化することができるというべきである。

キ 前記エ、カによれば、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比したとき、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきである。
このことと、前記アによれば、本件発明1は、「モル分率」、「0.2%水溶液の粘度」、「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」に関して、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の規定に適合するというべきであるから、前記第3の1(2)ア?エの特許異議申立理由はいずれも理由がない。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件、委任省令要件)について
ア 「0.2%水溶液の粘度」の具体的な測定方法及び数値の意義について
(ア)本件特許の出願日前に公開された特開2014-87773号公報(【0118】)及び特開2014-64988号公報(【0125】)には、いずれにも、以下の記載がある。
「(1)0.2%水溶液粘度(mPa・s、25℃)[水溶性ポリマーの評価]
ジャーテスター[型式「JMD-6HS-A」、宮本理研工業(株)製、以下同じ。]に板状の塩ビ製撹拌羽根(直径5cm、高さ2cm、厚さ0.2cm)2枚を十字になるように上下に連続して撹拌棒に取り付けた撹拌装置を用い、500mLビーカーにイオン交換水499gを入れ、水温20?25℃にて300rpmで撹拌下、固形分1.0gの試料を徐々に加えて、3時間かけて完全に溶解させた。その後、得られた水溶液の一部を200mLトールビーカーに移し、25℃の恒温槽に20分間静置して温度調整した後、B型粘度計[型式「TV-10M」、東機産業(株)製、以下同じ。]でM2ローター、30rpmにて、測定開始300秒後の値を0.2%水溶液粘度とした。」
そして、前記記載からみれば、水溶性ポリマーの「0.2%水溶液の粘度」は、回転粘度計を用いて、25℃の温度、30rpmの回転数といった条件で当業者が通常測定しているものといえるから、本件発明1における「0.2%水溶液の粘度」も、回転粘度計を用いて、当業者が通常採用する前記条件において測定されたものと推認でき、本件発明1における「0.2%水溶液の粘度」の測定方法は明らかというべきである。

(イ)また、前記(1)イ(d)(【0082】【表1】)の「0.2%水溶液の粘度」及び本件実施例によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「水溶性高分子」には好ましい「0.2%水溶液の粘度」の範囲があり、本件発明1の「0.2%水溶液の粘度が400?1100mPa・sであり」、との発明特定事項は、「0.2%水溶液の粘度」を、課題を解決できる好ましい範囲に限定するという意義を有するものと理解するので、「0.2%水溶液の粘度」の技術的意義は明らかである。

(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、本件発明における「0.2%水溶液の粘度」の測定方法及びその技術的意義は明らかであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1に係る「架橋型高分子凝集剤」を製造できるように記載されているというべきであり、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件及び委任省令要件)の規定に適合するというべきであるから、前記第3の1(3)アの特許異議申立理由は理由がない。

イ 「角周波数x(rad/s)」の測定方法について
(ア)本件特許明細書には、更に以下(e)の記載がある。
(e)「【0077】
〔粘弾性の歪み率依存性と角周波数依存性の測定方法〕
アントンパール社製 MCRレオメーターを用いて、試料を固形分0.1質量%に溶解した水溶液粘弾性の振動歪み率依存性と角周波数依存性を測定した。
<粘弾性測定装置>
アントンパール社製MCR302型レオメーター、制御ソフトウエアレオプラス32(ver.3.62)
<測定条件>
治具:50mmφ_0.5°コーンプレート
測定温度:25℃

<周波数依存性測定>
歪み率0.1?10%線形昇降範囲で、角周波数100→0.1rad/sをかけた場合の溶液の貯蔵弾性率と損失弾性率を測定した。」

(イ)そして、前記(ア)(e)によれば、本件特許明細書には、実施例における周波数依存性測定において、歪み率0.1?10%線形昇降範囲で、「角周波数100→0.1rad/s」をかけた場合の溶液の貯蔵弾性率と損失弾性率を測定したことが記載されるのであるが、本件発明1の、
「レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での角周波数依存性測定における貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが等しくなる角周波数x(rad/s)が下記式(2)
0.05<x≦15 ・・・式(2)
を満たす」
との発明特定事項によれば、前記発明特定事項を満たすか否かを明確に判断できる測定結果を得るためには、「0.05<x≦15」の範囲外の、x≦0.05、15<xである「角周波数x(rad/s)」を含めた範囲で測定を行って、「貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが等しくなる角周波数x(rad/s)」を特定する必要があることが推認される。
そうすると、前記(ア)(e)における「〔粘弾性の歪み率依存性と角周波数依存性の測定方法〕」においても、「0.05<x≦15」の範囲外の、x≦0.05、15<xである「角周波数x(rad/s)」を含めた範囲で測定を行ったと考えるのが自然であり、実際には、角周波数x(rad/s)」が「0.1rad/s」未満となるx≦0.05の範囲まで測定したと解するのが妥当である。

(ウ)前記(イ)によれば、前記(1)イ(d)(【0082】【表1】)の比較製造例1、2、4に、測定された「角周波数x(rad/s)」として「0.1rad/s」未満の数値が記載されているとしても、当該測定された数値は正しい数値であることが推認され、したがって、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1で特定する「角周波数x(rad/s)」を特定するための測定方法を理解でき、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1に係る「架橋型高分子凝集剤」を製造できるように記載されているというべきであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に規定する要件に適合するというべきであるから、前記第3の1(3)イの特許異議申立理由は理由がない。

ウ 「MBA」の添加量について
(ア)前記(1)イ(d)(【0080】)の「79%ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩水溶液313gと50%アクリルアミド水溶液45.4gを混合し、イソプロピルアルコール1.6g、キレート剤EDTAの5%水溶液を4.0g、開始剤としてt-ブチルハイドロパーオキサイド0.03gとメチレンビスアクリルアミド(MBA)0.0036gを含む水溶液を含む水溶液2.0gを添加後」、との記載から、当業者は、「2.0g」が添加される水溶液が、「キレート剤EDTAの5%水溶液」を含まず、「開始剤としてt-ブチルハイドロパーオキサイド0.03gとメチレンビスアクリルアミド(MBA)0.0036gを含む水溶液を含む水溶液」であることを理解できる。

(イ)また、本件特許明細書の、
「【0058】
光重合開始剤の添加量は特に制限されない。…水溶性アゾ系開始剤の場合、通常、単量体混合物中の各単量体の合計質量に対して、質量基準で100?3000ppmが好ましい。」
「【0060】
連鎖移動剤の添加量は特に制限されない。…亜硫酸水素ナトリウムの場合、通常、単量体混合物中の各単量体の合計質量に対して、質量基準で5?500ppmが好ましく、10?300ppmがさらに好ましく、15?200ppmが最も好ましい。…」
との記載によれば、本件特許明細書における「ppm」は質量基準で記載されていると解され、前記(1)イ(d)(【0082】【表1】)の「MBA」の「添加濃度(ppm)」も質量基準で記載されていると解するのが妥当である。

(ウ)そして、前記(ア)、(イ)に基づいて「MBA」の「添加濃度(ppm)」を算出すると、製造例1においては、「開始剤としてt-ブチルハイドロパーオキサイド0.03gとメチレンビスアクリルアミド(MBA)0.0036gを含む水溶液を含む水溶液」を、「79%ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩水溶液313g」、「50%アクリルアミド水溶液45.4g」に対して、「メチレンビスアクリルアミド(MBA)」が質量基準で「9ppm」となるように添加したものと解され、このときの「メチレンビスアクリルアミド(MBA)」の添加量は、(313×0.79+45.4×0.5)×9×10^(-6)=(247.3+22.7)×9×10^(-6)=0.00243より、「0.00243g」であると解される。
更にその場合、「メチレンビスアクリルアミド(MBA)」のモル分率を、「ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩」、「アクリルアミド」及び「メチレンビスアクリルアミド(MBA)」の分子量に基づいて算出すると、100×((0.00243/154.17)/(247.3/193.67+22.7/71.08+0.00243/154.17))=100×(1.5762×10^(-5))/(1.277+0.319+1.5762×10^(-5))=0.00099より、「0.00099モル%」となり、「メチレンビスアクリルアミドを0.0001?0.01モル%と」、との本件発明1の発明特定事項を満たすことが理解できる。

(エ)前記(ウ)によれば、当業者は、製造例1の「メチレンビスアクリルアミド(MBA)」の「添加濃度(ppm)」が質量基準で「9ppm」であることを理解できる。

(オ)更に、前記(1)イ(d)(【0081】?【0082】)から、製造例2?5は、製造例1と同様に、単量体混合物に対して、「メチレンビスアクリルアミド(MBA)」が質量基準でそれぞれ「20ppm」、「4ppm」、「10ppm」、「10ppm」添加されていると解され、当業者は、このことから単量体混合物の合計質量を算出できる。
そして、製造例2?5における単量体組成(モル%)及び各単量体の分子量は明らかであり、これらから、単量体混合物における質量基準の単量体組成を算出でき、これと前記算出された単量体混合物の合計質量から、製造例2?5における単量体混合物中の各単量体の配合質量を算出できるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、製造例2?5を過度の試行錯誤なく製造できるというべきである。

(カ)前記(エ)、(オ)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)の規定に適合するというべきであるので、前記第3の1(3)ウの特許異議申立理由は理由がない。

(3)小括
したがって、申立人椎名による特許異議申立理由はいずれも理由がない。

2 申立人小宮による特許異議申立理由について
(1)甲第2-1号証を主引用例とした場合について
(1-1)甲第2-1号証の記載事項及び甲第2-1号証に記載された発明
ア 本件特許の出願日前に頒布された甲第2-1号証には、以下(1a)?(1c)の記載がある
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水消化汚泥あるいは余剰汚泥をスクリュープレスあるいはロータリープレスにより脱水処理する場合、下記定義で表示される電荷内包率50%以上90%以下の水溶性高分子であって、前記水溶性高分子が、下記一般式(1)で表わされる単量体および架橋性単量体を必須として含有する単量体(混合物)を重合した水溶性高分子を使用することを特徴とする汚泥の脱水方法。
定義)水溶性カチオン性高分子および両性でかつカチオン性単量体とアニオン性単量体共重合率の差が正である水溶性両性高分子の場合
電荷内包率[%]=(1-α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子あるいは両性水溶性高分子水溶液をポリビニルスルホン酸カリウム水溶液にて滴定した滴定量。βは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子あるいは両性水溶性高分子水溶液にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を前記水溶性カチオン性高分子あるいは両性水溶性高分子の電荷の中和を行うに十分な量後ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量をブランク値から差し引いた滴定量。ここでブランク値とは、水溶性カチオン性高分子あるいは両性水溶性高分子水溶液無添加時にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液をポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量である。
【化1】

一般式(1)R_(1)は水素又はメチル基、R_(2)、R_(3)は炭素数1?3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、R_(4)は水素、炭素数1?3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2?4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X_(1)は陰イオンをそれぞれ表わす。」

(1b)「【0043】
(合成例1)攪拌機および温度制御装置を備えた反応槽に沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン126.0gにソルビタンモノオレート6.0g及びポリリシノ-ル酸/ポリオキシエチレンブロック共重合物0.6gを仕込み溶解させた。別に脱イオン水55.0gとアクリル酸(AACと略記)60%水溶液19.7gを混合し、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQと略記)80%水溶液119.1g、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMCと略記)80%水溶液42.6g、アクリルアミド(AAMと略記)50%水溶液116.4g及びメチレンビスアクリルアミド0.1質量%水溶液3.0g(対単量体0.0015質量%)を各々採取し、各々を混合し完全に溶解させた。その後pHを3.95に調節し、油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて1000rpmで15分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMC/DMQ/AAC/AAM=10/30/10/50(モル%、試作-1)である。
【0044】
得られたエマルジョンにイソプロピルアルコール10質量%水溶液2.0g(対単量体0.1質量%)を加え、単量体溶液の温度を30?33℃に保ち、窒素置換を30分行った後、2、2’-アゾビス〔2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン〕二塩化水素化物の1質量%水溶液2.0g(対単量体0.01質量%)を加え、重合反応を開始させた。反応温度を32±2℃で12時間重合させ反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレントリデシルエ-テル7.5g(対エマルジョン1.5質量%)を添加混合して試験に供する試料(試料-1)とした。得られた試料をミューテック社製PCD滴定装置により電荷内包率を測定し、また光散乱法による重量平均分子量は約670万であった。同様な操作によりDMQ/AAM=80/20(モル%、試作-2)、DMQ/AAM=50/50(モル%、試作-3)からなる油中水型エマルジョンを合成した。結果を表1に示す。」

(1c)「【0050】
(表1)



イ 前記ア(1a)によれば、甲第2-1号証には「汚泥の脱水方法」が記載されており、前記ア(1b)、(1c)の「試料-2」に注目すると、甲第2-1号証には、前記「汚泥の脱水方法」に用いられる「油中水型エマルジョン」として、化学組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/アクリルアミド(AAM)=80/20(モル%)からなり、メチレンビスアクリルアミドを対単量体0.0015質量%含み、電荷内包率が57.5であり、分子量が500万である「油中水型エマルジョン」が記載されている。
そうすると、甲第2-1号証には、
「汚泥の脱水方法に用いられる油中水型エマルジョンであって、
化学組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/アクリルアミド(AAM)=80/20(モル%)からなり、メチレンビスアクリルアミドを対単量体0.0015質量%含み、電荷内包率が57.5であり、分子量が500万である、油中水型エマルジョン。」
の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されているといえる。

(1-2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、本件発明1と甲2-1発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。
相違点:本件発明1は、「架橋型高分子凝集剤」が、
「レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での歪み率依存性測定における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とが等しくなる歪み率y(%)が下記式(1)
1≦y<500 ・・・式(1)
を満たすとともに、
レオメーターを用いた0.1質量%水溶液の25℃での角周波数依存性測定における貯蔵弾性率G3と損失弾性率G4とが等しくなる角周波数x(rad/s)が下記式(2)
0.05<x≦15 ・・・式(2)
を満たす」
との発明特定事項を有するのに対して、甲2-1発明が前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

イ 判断
(ア)以下、前記アの相違点について検討すると、前記1(1)イ(b)(【0026】?【0028】)によれば、本件発明に係る「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」は、「架橋型水溶性高分子」の3次元構造を示した指標であって、架橋性単量体の添加量及び連鎖移動剤の添加量、重合触媒の量等を適宜変えることによって調整することができ、架橋反応が不十分であったり進みすぎたりすると、適切な範囲とはならなくなるものである。
そして、技術常識からみて、架橋反応の進み具合は、「架橋型水溶性高分子」の成分組成に加えて、「架橋型水溶性高分子」の製造方法にも左右されることが強く推認され、仮に、「架橋型水溶性高分子」の成分組成が合致するとしても、その製造方法が、少なくとも架橋反応の進み具合が合致すると認識できる程度に合致しない場合、「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」も合致しないことが強く推認されるものである。

(イ)ここで、前記1(1)イ(d)(【0080】)によれば、本件発明1に係る「架橋型水溶性高分子」は、79%ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩水溶液313gと50%アクリルアミド水溶液45.4gを混合し、イソプロピルアルコール1.6g、キレート剤EDTAの5%水溶液を4.0g、開始剤としてt-ブチルハイドロパーオキサイド0.03gとメチレンビスアクリルアミド(MBA)0.0036gを含む水溶液を含む水溶液2.0gを添加後、イオン交換水を添加し、98%硫酸でpH3.0に調整し、704.2gの水相を調製し、油相を撹拌しながら、水相を添加し、ホモジナイザーにて高速撹拌して油中水型エマルションを調製し、フラスコに窒素ガス吹き込み管、還流冷却器、温度計をつけ、撹拌翼で撹拌しながら、窒素ガスで脱気を開始し、十分に脱気した後、窒素ガスを供給しながら、さらに二酸化硫黄を0.02vol%含む窒素ガスを34.9ml/分の供給量で乳化液中に吹き込み、重合を開始させ、50℃に到達後、2時間この温度を保持した後、二酸化硫黄を含む窒素ガスの供給量を186.4ml/分に増やし、さらに50℃で1時間保持した後、窒素ガスおよび二酸化硫黄を含む窒素ガスを停止し、重合を終了し、親水性界面活性剤として、HLB値13.5のポリエチレングリコールモノオレートをエマルションに含まれる総乳化剤の加重平均のHLB値が10.0となるように、14.1g加えて混合し、エバポレーターにて脱水後、減圧乾燥を行い、粉末の重合体を得ることにより製造されるものである。

(ウ)これに対して、前記(1-1)ア(1b)によれば、甲2-1発明は、攪拌機および温度制御装置を備えた反応槽に沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン126.0gにソルビタンモノオレート6.0g及びポリリシノ-ル酸/ポリオキシエチレンブロック共重合物0.6gを仕込み溶解させ、別に脱イオン水55.0gとアクリル酸(AACと略記)60%水溶液19.7gを混合し、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQと略記)80%水溶液119.1g、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMCと略記)80%水溶液42.6g、アクリルアミド(AAMと略記)50%水溶液116.4g及びメチレンビスアクリルアミド0.1質量%水溶液3.0g(対単量体0.0015質量%)を各々採取し、各々を混合し完全に溶解させ、その後pHを3.95に調節し、油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて1000rpmで15分間攪拌乳化し、得られたエマルジョンにイソプロピルアルコール10質量%水溶液2.0g(対単量体0.1質量%)を加え、単量体溶液の温度を30?33℃に保ち、窒素置換を30分行った後、2、2’-アゾビス〔2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン〕二塩化水素化物の1質量%水溶液2.0g(対単量体0.01質量%)を加え、重合反応を開始させ、反応温度を32±2℃で12時間重合させ反応を完結させ、重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレントリデシルエ-テル7.5g(対エマルジョン1.5質量%)を添加混合して試験に供する試料-1とし、同様な操作によりDMQ/AAM=80/20(モル%)からなる油中水型エマルジョンを合成して製造したものである。

(エ)そして、前記(イ)及び(ウ)の製造方法を対比した場合、本件発明1に係る「架橋型水溶性高分子」の製造方法と甲2-1発明に係る「油中水型エマルジョン」の製造方法とは、少なくとも、重合反応の反応温度及び反応時間が大きく異なっており、架橋反応の進み具合が合致すると認識できる程度に合致しているとは認められないし、甲第2-1号証に、ほかに、本件発明1に係る「架橋型水溶性高分子」の製造方法と、架橋反応の進み具合が合致すると認識できる程度に合致する製造方法が記載されるものでもない。

(オ)前記(ア)、(エ)によれば、仮に、甲2-1発明の「架橋型水溶性高分子」の成分組成が本件発明1の成分組成と合致するとしても、本件発明1と甲2-1発明の「歪み率y(%)」及び「角周波数x(rad/s)」が合致するとはいえないし、ほかに、そのことを示す証拠もないから、甲2-1発明が前記相違点に係る発明特定事項を有するとはいえない。
してみれば、前記相違点は実質的な相違点であるので、本件発明1が甲2-1発明であるとはいえない。

(カ)そして、甲第2-8号証?甲第2-11号証には、「歪み率y(%)」を「1≦y<500 ・・・式(1)を満たすとともに」、「角周波数x(rad/s)」を「0.05<x≦15 ・・・式(2)を満たす」ものとすることで、「架橋型水溶性高分子」の架橋反応の進み具合を適切なものとすることが記載も示唆もされるものではなく、このことが本件特許の出願日当時の技術常識ないし周知技術であることを示す証拠もない。
そうすると、甲2-1発明において、「架橋型高分子凝集剤」を、前記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2-8号証?甲第2-11号証に記載された事項及び本件特許の出願時における技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではないので、本件発明1を、甲2-1発明、甲第2-8号証?甲第2-11号証に記載された事項及び本件特許の出願時における技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1-3)本件発明2?7について
本件発明2?7は、いずれも、直接的または間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2?7と甲2-1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、前記(1-2)アの相違点の点で相違する。
そうすると、前記(1-2)イ(オ)、(カ)に記載したのと同様の理由により、本件発明2?7が甲2-1発明であるとはいえないし、本件発明2?7を、甲2-1発明、甲第2-8号証?甲第2-11号証に記載された事項及び本件特許の出願時における技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1-4)まとめ
したがって、本件発明1?7は、甲第2-1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-8号証?甲第2-11号証に記載された事項及び本件特許の出願時における技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲第2-2号証?甲第2-7号証を主引用例とした場合について
ア 甲第2-2号証(【0041】?【0045】、【0051】「実施例4」)の記載からみて、甲第2-2号証には、
「単量体組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/アクリルアミド(AAM)=80/20(モル%)からなる組成であり、架橋剤がメチレンビスアクリルアミド(MBA)であり、架橋剤の添加量が、対単量体モル%で0.001%である、油中水型両性高分子エマルジョン。」の発明(以下、「甲2-2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第2-3号証(【0034】?【0035】、【0037】、「合成例1」、「合成例4」)の記載からみて、甲第2-3号証には、
「単量体組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/アクリルアミド(AAM)=80/20(モル%)であり、架橋剤がメチレンビスアクリルアミドであり、架橋剤の添加量が、対単量体重量%で0.0030%であり、エマルジョン粘度が331mPa・s、電荷内包率が65.3%である、架橋性水溶性高分子。」の発明(以下、「甲2-3発明」という。)、及び、
「単量体組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/アクリルアミド(AAM)=80/20(モル%)であり、架橋剤がメチレンビスアクリルアミドであり、架橋剤の添加量が、対単量体重量%で0.0005%であり、エマルジョン粘度が310mPa・s、電荷内包率が11.3%である、架橋性水溶性高分子。」の発明(以下、「甲2-3’発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 甲第2-4号証(【0083】?【0085】、【0091】、「合成例2」、「合成例3」)の記載からみて、甲第2-4号証には、
「単量体の組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(DAA)/アクリルアミド(AAm)=80/20(モル比)であり、架橋剤がメチレンビスアクリルアミド(MBA)であり、架橋剤の添加量が、単量体の総質量に対して20質量ppmであり、0.5%塩粘度が60mPa/s、重量平均分子量が700万である、凝集剤。」の発明(以下、「甲2-4発明」という。)、及び、
「単量体の組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(DAA)/アクリルアミド(AAm)=80/20(モル比)であり、架橋剤がメチレンビスアクリルアミド(MBA)であり、架橋剤の添加量が、単量体の総質量に対して50質量ppmであり、0.5%塩粘度が37mPa/s、重量平均分子量が500万である、凝集剤。」の発明(以下、「甲2-4’発明」という。)が記載されているといえる。

エ 甲第2-5号証(特許請求の範囲、【0062】、【0082】、【0093】、【0095】、「比較例5」)の記載からみて、甲第2-5号証には、
「モノマー組成が、N,N-ジメチルアミノエチルメタアクリレートのメチルクロライド4級アンモニウム塩(DAMQ)80mol%、アクリルアミド(AAm)20mol%であり、メチレンビスアクリルアミドを、前記モノマーの重量に基づく含有量で80ppm含み、0.2重量%水溶液の粘度(mPa・s、25℃、Vw)が511、0.5重量%塩水溶液の粘度(mPa・s、25℃、Vs)が15.3、Vw/Vs=33.4、塩水不溶解分(g)が55.0である、高分子凝集剤。」の発明(以下、「甲2-5発明」という。)が記載されているといえる。

オ 甲第2-6号証(【0058】?【0060】、【0065】、「合成例1」)の記載からみて、甲第2-6号証には、
「単量体組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/アクリルアミド(AAM)=70/30(モル%)からなり、架橋性単量体がメチレンビスアクリルアミドであり、架橋性単量体添加量が、対単量体質量%で0.0012%であり、製品粘度が331mPa・s、電荷内包率が52.5%である、油中水型エマルジョン。」の発明(以下、「甲2-6発明」という。)が記載されているといえる。

カ 甲第2-7号証(【0050】、【0057】、「製造例2」)の記載からみて、甲第2-7号証には、
「モノマー組成が、アクリルアミド(AM)/アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(DM)=40mol%/60mol%からなり、メチレンビスアクリルアミドを含み、固有粘度が11.0(dl/g)、カチオン等量値が3.77(meq/g)、電荷内包率が66.4(%)、10分間溶解時、0.2重量%水溶液の粘度が720mPa・s、60分間溶解時、0.2重量%水溶液の粘度が828mPa・sである、イオン性水溶性高分子粉末。」の発明(以下、「甲2-7発明」という。)が記載されているといえる。

キ そして、本件発明1と前記ア?カの甲2-2発明?甲2-7発明を対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(1)(1-2)アの相違点の点で相違する。
ところが、甲第2-2号証?甲第2-7号証には、甲2-2発明?甲2-7発明の製造方法として、本件発明1に係る「架橋型水溶性高分子」の製造方法と、架橋反応の進み具合が合致すると認識できる程度に合致する製造方法が記載されているとは認められない。
そうすると、仮に、甲2-2発明?甲2-7発明の成分組成が、本件発明1の成分組成と合致するとしても、前記(1)(1-2)イ(オ)、(カ)及び(1)(1-3)に記載されたのと同様の理由により、本件発明1?7が、甲2-2発明?甲2-7発明であるとはいえないし、甲2-2発明?甲2-7発明、甲第2-8号証?甲第2-11号証に記載された事項及び本件特許の出願時における技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
したがって、申立人小宮による特許異議申立理由はいずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-23 
出願番号 特願2015-237673(P2015-237673)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01D)
P 1 651・ 538- Y (B01D)
P 1 651・ 113- Y (B01D)
P 1 651・ 537- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 村岡 一磨
金 公彦
登録日 2020-01-21 
登録番号 特許第6649762号(P6649762)
権利者 MTアクアポリマー株式会社
発明の名称 架橋型高分子凝集剤及びその製造方法並びにそれを用いる廃水処理方法  
代理人 木村 嘉弘  

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