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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B60C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
管理番号 1372743
異議申立番号 異議2021-700021  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-08 
確定日 2021-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6718334号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6718334号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6718334号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成28年8月17日の出願であって、令和2年6月16日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年7月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年1月8日に特許異議申立人 黒田 真梨子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし2)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
一対のビード部にトロイダル状に跨る、1枚以上のカーカスプライからなる、カーカスと、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるコードからなる1層以上の傾斜ベルト層からなる、傾斜ベルトと、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に延びるコードからなる1層以上の周方向ベルト層からなる、周方向ベルトと、
前記周方向ベルトのタイヤ径方向外側に配置された、トレッド部と、を備え、
前記周方向ベルトは、帯状ストリップが螺旋巻きされてなり、
前記トレッド部に、複数本のタイヤ周方向に延びる周方向主溝を有し、2本の前記周方向主溝により区画された、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより区画された、3つ以上の周方向陸部を有する空気入りタイヤであって、
前記傾斜ベルト層のコードは、スチールコードであり、前記スチールコードの延在方向に垂直な幅25mm当たりの前記スチールコードの断面積の総和が2.3?4.0mm^(2)の範囲にあり、
前記タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、
周回毎の前記帯状ストリップ間にタイヤ幅方向の隙間を有し、
前記3つ以上の周方向陸部のうち、タイヤ幅方向の幅が最小である前記周方向陸部のタイヤ幅方向の幅をWとし、前記帯状ストリップのタイヤ幅方向の幅をwとし、前記帯状ストリップの周回毎のタイヤ幅方向の隙間の幅をdとするとき、関係式、
W=2w+2d
を満たすことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記帯状ストリップは、4本以上7本以下の有機繊維コードで構成され、且つ、
螺旋巻きされた2つの独立した前記帯状ストリップを有し、一方の前記帯状ストリップは、タイヤ赤道面を境界とするタイヤ幅方向の一方の半部に位置し、他方の前記帯状ストリップは、タイヤ赤道面を境界とするタイヤ幅方向の他方の半部に位置する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年1月8日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、単に「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし8号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、その理由はおおむね、発明の詳細な説明には、Wと2w+2dとが同値であると判断するための基準が何ら記載されておらず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない、というものである。

3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、その理由はおおむね、本件特許発明では、例えば、1本のコードで構成された帯状ストリップや、20本のコードで構成された帯状ストリップを含む概念として、帯状ストリップが記載されているにもかかわらず、発明の詳細な説明には、具体例として、コードの本数が特定の範囲に設定された帯状ストリップを用いて製造されたタイヤが記載されているのみであり、本件特許発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載したものではない、というものである。

4 申立理由4(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、その理由はおおむね、発明の詳細な説明には、Wと2w+2dとが同値であると判断するための基準が何ら記載されていないから、本件特許発明は不明確である、というものである。

5 証拠方法
甲第1号証:特開2013-43548号公報
甲第2号証:国際公開第2013/176082号
甲第3号証:国際公開第2012/172778号
甲第4号証:国際公開第2012/086594号
甲第5号証:特開2007-8250号公報
甲第6号証:特開2016-68671号公報
甲第7号証:国際公開第2014/181705号
甲第8号証:特開2014-151479号公報
以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線については、当審において付与した。以下同様。)
「【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層を装架し、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に複数層のベルト層を配置した空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層の外周側にベルトカバー層を設け、該ベルトカバー層をゴム中にスチールコードを埋設した帯状部材から構成し、少なくともタイヤ赤道を中心にベルト幅の50%の領域において前記帯状部材の隣り合う周回部分同士が互いに接触しないようにタイヤ周方向に螺旋状に巻回すると共に、前記スチールコードの荷重-歪み曲線が1%?3.5%の歪み領域に変曲点を有し、前記スチールコードの50N?100N荷重時の平均弾性率が25GPa?100GPaであることを特徴とする乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、高速走行時の操縦安定性を向上すると共に、耐フラットスポット性能を改善することを可能にした乗用車用空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用空気入りラジアルタイヤは、一般に、一対のビード部間にタイヤ径方向に配向する複数本のカーカスコードを含むカーカス層を装架し、トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を配置し、更にその外周側にベルトカバー層を配置した構造を有している。
【0003】
従来、ベルトカバー層の補強コードとして、種々の有機繊維コードが使用されているが、特にナイロン繊維コードが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ナイロン繊維コードはクリープセット歪が大きいため、これをベルト補強層に用いた空気入りタイヤではフラットスポットが生じ易いという問題がある。
【0004】
そこで、ナイロン繊維コードに代えてスチールコードを用いることが考えられるが、単純にナイロン繊維コードをスチールコードに置き換えただけでは、ベルトカバー層の剛性が高くなり過ぎて、操縦安定性が低下すると云う問題がある。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、スチールコードからなるベルトカバー層を用いた乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、高速走行時の操縦安定性を向上すると共に、耐フラットスポット性能を改善することを可能にした乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」
「【発明の効果】
【0008】
本発明は、ベルト層の外周側にベルトカバー層を設け、このベルトカバー層をゴム中にスチールコードを埋設した帯状部材から構成し、少なくともタイヤ赤道を中心にベルト幅の50%以上の領域において帯状部材の隣り合う周回部分同士が互いに接触しないようにタイヤ周方向に螺旋状に巻回することで、ベルトカバー層がベルト層全面を覆わず隙間が形成されるので、ベルトカバー層の剛性が著しく高くなることを防いで適正化し、操縦安定性を向上することが出来る。また、ベルト層よりもトレッド面側に位置する部材が減少するため放熱性が改善し、タイヤの発熱を抑制することが出来る。その結果、耐フラットスポット性能を改善することが出来る。特に、荷重-歪み曲線が1%?3.5%の歪み領域に変曲点を有し、かつ50N?100N荷重時の平均弾性率が25GPa?100GPaであるスチールコードを用いているので、帯状部材間に隙間が形成されても、ベルトカバー層として充分な剛性を維持し、優れた高速耐久性を発揮することが出来る。」
「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態からなる乗用車用空気入りラジアルタイヤ(以下「タイヤ」と称する。)を示す。また、図2は、図1のタイヤのカーカス層4及びベルト層10を抽出してタイヤ赤道面CLから一方の側のみを展開して示す。
【0019】
図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。トレッド部1は、タイヤ周方向に延在して環状をなしている。サイドウォール部2は、このトレッド部1の両側に配置されている。更に、ビード部3は、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置されている。左右一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部分と折り返し部分により包み込まれている。
【0020】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはスチールコードからなる2層のベルト層10(11,12)がタイヤ全周に亘って配置されている。このベルト層10(11,12)を構成するベルトコード10a(11a,12a)は、図2に示すように、タイヤ周方向に対して傾斜しており、その傾斜角度θは15°?40°である。また、これらベルトコード11a,12aは層間で互いに交差するように配置されている。尚、ベルト層10は、複数層が設けられていれば、図示される2層に限定されない。
【0021】
更に、ベルト層10の外周側にベルトカバー層20が設けられている。このベルトカバー層20は、ゴム中にスチールコードを埋設した帯状部材21から構成されている。そして、少なくともタイヤ赤道CLを中心にベルト幅Wの50%の領域において帯状部材21の隣り合う周回部分同士が互いに接触しないようにタイヤ周方向に螺旋状に巻回されている。
【0022】
このようにベルトカバー層20がベルト層10の全面を覆わず隙間を形成するようにすることで、ベルトカバー層20の剛性が著しく高くなることを防いで、剛性を適正化し、操縦安定性を向上することが出来る。また、ベルトカバー層20がベルト層10の全面を覆わないため、図5に示すような従来のフルカバー層を設ける場合に比べて、ベルト層10よりトレッド面側の部材が減少して放熱性を改善することが出来、タイヤの発熱を抑制することが出来る。その結果、耐フラットスポット性能を改善することが出来る。」
「【図1】


イ 甲1に記載された発明
甲1の図1からは、トレッド部1に、4本のタイヤ周方向に延びる周方向主溝を有し、2本の前記周方向主溝により区画された、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより区画された、5つの周方向陸部を有すること、さらに、トレッド部1がベルトカバー層20のタイヤ径方向外側に配置されていることが看取できる。
甲1に記載されたタイヤを、適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした基準状態とした場合であっても、隣り合う帯状部材21の位置関係が変わらないことは、当業者にとって明らかである。
これらの点を踏まえつつ、甲1に記載された事項、特に発明を実施するための形態に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「左右一対のビード部3,3間に装架されている、カーカス層4と、
前記カーカス層4のタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ全周に亘って配置されタイヤ周方向に対して傾斜しているコード11a,12aからなる2層のベルト層11,12からなる、ベルト層10と、
前記ベルト層10のタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に螺旋状に巻回されているコードからなるベルトカバー層20と、
前記ベルトカバー層20のタイヤ径方向外側に配置された、トレッド部1と、を備え、
前記ベルトカバー層20は、帯状部材21が螺旋状に巻回されてなり、
前記トレッド部1に、4本のタイヤ周方向に延びる周方向主溝を有し、2本の前記周方向主溝により区画された、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより区画された、5つの周方向陸部を有する空気入りタイヤであって、
ベルト層10のコードは、スチールコードであり、
前記タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、
周回毎の帯状部材21間にタイヤ幅方向の隙間を有する、空気入りタイヤ。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「カーカス層4」は、甲1の図1を参酌すると、左右一対のビード部3,3にトロイダル状に跨がっていることは明らかであり、カーカス層4がカーカスプライから構成されていることは、技術常識に鑑みれば当業者にとって明らかである。そうすると、甲1発明における「カーカス層4」は、本件特許発明1の「一対のビード部にトロイダル状に跨る、1枚以上のカーカスプライからなる、カーカス」に相当する。
甲1発明における「2層のベルト層11,12からなる、ベルト層10」は、「タイヤ全周に亘って配置されタイヤ周方向に対して傾斜しているコード11a,12aからなる」ものであるから、本件特許発明1における「タイヤ周方向に対して傾斜して延びるコードからなる1層以上の傾斜ベルト層からなる、傾斜ベルト」に相当する。
甲1発明における「1層のベルトカバー層20」は、「タイヤ周方向に螺旋状に巻回されているコード」からなるものであるから、本件特許発明1における「タイヤ周方向に延びるコードからなる1層以上の周方向ベルト層からなる、周方向ベルト」に相当する。
甲1発明における「帯状部材21」は、本件特許発明1の「帯状ストリップ」に相当し、以下同様に、「4本のタイヤ周方向に延びる周方向主溝」は「複数本のタイヤ周方向に延びる周方向主溝」に、「5つの周方向陸部」は「3つ以上の周方向陸部」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「一対のビード部にトロイダル状に跨る、1枚以上のカーカスプライからなる、カーカスと、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるコードからなる1層以上の傾斜ベルト層からなる、傾斜ベルトと、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に延びるコードからなる1層以上の周方向ベルト層からなる、周方向ベルトと、
前記周方向ベルトのタイヤ径方向外側に配置された、トレッド部と、を備え、
前記周方向ベルトは、帯状ストリップが螺旋巻きされてなり、
前記トレッド部に、複数本のタイヤ周方向に延びる周方向主溝を有し、2本の前記周方向主溝により区画された、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより区画された、3つ以上の周方向陸部を有する空気入りタイヤであって、
前記傾斜ベルト層のコードは、スチールコードであり、
前記タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、
周回毎の前記帯状ストリップ間にタイヤ幅方向の隙間を有する、空気入りタイヤ。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
傾斜ベルト層におけるスチールコードの延在方向に垂直な幅25mm当たりのスチールコードの断面積の総和に関して、本件特許発明1においては、「2.3?4.0mm^(2)の範囲」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。
<相違点2>
周方向陸部のうち、タイヤ幅方向の幅が最小である前記周方向陸部のタイヤ幅方向の幅をWとし、帯状ストリップのタイヤ幅方向の幅をwとし、前記帯状ストリップの周回毎のタイヤ幅方向の隙間の幅をdとするとき、本件特許発明1においては、関係式「W=2w+2d」を満たすと特定されているのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点2について判断する。
関係式「W=2w+2d」に係る特定事項を構造上満たすものは、甲2ないし8に記載も示唆もされていないし、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0044】に記載されているような、接地圧振動を低減させるために、最もタイヤ幅方向の幅の狭い周方向陸部を複数の帯状ストリップで支えるという技術思想についても、甲2ないし8に示されていない。さらに、上記関係式に係る特定事項を設計的事項とする根拠もない。

そして、本件特許発明1は、上記相違点2に係る特定事項を備えることで、接地圧振動が低減するため、タイヤの1周内での接地圧振動を低減して、縦ばね定数を低減しつつも、操縦安定性及び制動性能を向上させることができる(本件特許の発明の詳細な説明の段落【0044】、【0048】等を参照。)という、予測できない顕著な効果を奏するものである。

そうすると、相違点1について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2ないし8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点2について、甲6の図1には、溝28によってトレッド4に5つの陸部が構成され、5つの陸部のうち、タイヤ幅方向の幅が最小である陸部の直下に、テープが2本配置され、この陸部の幅が2つの隙間と2本のテープの幅との合計とほぼ等しい構成が記載されている旨主張しているが、図面はあくまで参照図であって、その寸法は正確ではないから、図面の寸法のみに基づく特許異議申立人の前記主張は採用できない。
さらに、特許異議申立人は、甲7の「ゴムストリップの幅Gについては、4?7mmの範囲が好適である。ゴムストリップの巻付け間の隙間Sは、ゴムストリップの幅に対して30?70%の範囲とすることが効果的である。」(【0021】)、「リブ状陸部2aの幅Wが24mmである。」(【0026】)との記載に基づいて検討すると、ゴムストリップの幅Gが7mm(正確には、7.06mm)、ゴムストリップの巻付け間の隙間Sがゴムストリップの幅に対して70%であるとき、2G+2Sが24.004mmであり、リブ状陸部2aの幅W(24mm)と同値であることが確認できる旨主張している。
しかしながら、甲7の実施例は、前記幅Gが6mm、前記隙間Sが4mmのものであるし、あえて「ゴムストリップの幅Gを7mm」に変更し、「隙間Sをゴムストリップの幅に対して70%」と設定する根拠がないから、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

ウ まとめ
よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2ないし8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし2は、「空気入りタイヤ」という物の発明である。 そして、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤでは、層間でスチールコードが互いに交差する2層以上の傾斜ベルト層からなる傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、有機繊維コードを帯状に束ねたストリップを螺旋状に巻き付けることにより、高速回転時の遠心力による径成長を抑制して高速耐久性等を高める技術が採用されている。
【0003】
このような技術において、帯状ストリップのコードによる剛性の増大を適度に緩和させるために、周回毎の該帯状ストリップ間にタイヤ幅方向の隙間を設けるようにして、帯状ストリップを巻きつける技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この手法によれば、縦ばね定数を適度に低下させて乗り心地性等を向上させることができる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の手法では、特に、縦ばね定数をより低減するために傾斜ベルト層のスチールコードのスチール量を少なくした場合に、操縦安定性及び制動性能が低下する場合があり、これらの性能を向上させる余地があった。
【0006】
このような事情に鑑みて、本発明は、縦ばね定数を低減しつつも、操縦安定性及び制動性能を向上させ得る、空気入りタイヤを提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、縦ばね定数を低減しつつも、操縦安定性及び制動性能を向上させ得る、空気入りタイヤを提供することができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
…(中略)…
【0027】
本発明では、図1に示す実施形態では、傾斜ベルト層のコードは、スチールコードである。そして、スチールコードの延在方向に垂直な幅25mm当たりのスチールコードの断面積の総和は、2.3?4.0mm^(2)の範囲にある。上記断面積の総和が2.3mm^(2)未満の場合は、傾斜ベルト層による補強効果が十分でなく、一方で、上記断面積の総和が4.0mm^(2)超の場合は、スチールコードによる重量増を招いてしまう。
…(中略)…
【0041】
以下、本発明における関係式を導くに至った経緯について説明する。図4(a)(b)は、タイヤの回転角度と接地圧との関係を示す模式図である。本発明者は、周回毎の該帯状ストリップ間にタイヤ幅方向の隙間を設けるようにして、帯状ストリップを巻きつけたタイヤ構造を有するタイヤにおいては、図4(a)に模式的に示すように、接地圧がタイヤ周上で不安定になる場合と、図4(b)に模式的に示すように、接地圧がタイヤ周上で安定する場合とが生じることを見出した。
【0042】
本発明者は、特に、周方向ベルト5の帯状ストリップのタイヤ幅方向の隙間の幅d(mm)が大きい場合に、接地挙動が不安定になる場合があるとの知見を得た。以下に図5?図7に基づいてさらに詳細に説明する。
【0043】
ここで、3つ以上の周方向陸部のうち、タイヤ幅方向の幅が最小である周方向陸部のタイヤ幅方向の幅をWとする。図5は、W=w+dの場合の、周方向陸部と帯状ストリップとの配置関係を模式的に示す図である。図6は、W=w+2dの場合の、周方向陸部と帯状ストリップとの配置関係を模式的に示す図である。図7は、W=2w+2dの場合の、周方向陸部と帯状ストリップとの配置関係を模式的に示す図である。
【0044】
図5、図6に示す場合は、図4(a)に示すように、接地圧がタイヤ周上で不安定となり、一方で、図7に示す場合には、図4(b)に示すように、接地圧がタイヤ周上で安定することがわかった。本発明者が、この原因を究明したところ、図5、図6に示す場合と、図7に示す場合とで以下のような差異があることを見出した。すなわち、図5に示す場合においては、最もタイヤ幅方向の幅の狭い1つの周方向陸部に対して、タイヤ周方向にわたって、タイヤ幅方向に1本のみの帯状ストリップが配置されている。また、図6に示す場合においては、最もタイヤ幅方向の幅の狭い1つの周方向陸部に対して、タイヤ周方向で、タイヤ幅方向に1本のみの帯状ストリップが配置された部分と、タイヤ幅方向に2本の帯状ストリップが配置された部分とが存在する。これに対し、図7に示す場合においては、最もタイヤ幅方向の幅の狭い1つの周方向陸部に対して、タイヤ周方向にわたって、常に、タイヤ幅方向に2本の帯状ストリップが配置されている。すなわち、図5に示す場合では、最もタイヤ幅方向の幅の狭い周方向陸部が、周上で常に1本のみの帯状ストリップでさせられる。また、図6に示す場合では、最もタイヤ幅方向の幅の狭い周方向陸部が、周上のいずれかの位置で1本のみの帯状ストリップで支えられる場合が生じる。これらの場合には、構造体としての該周方向陸部の土台が不安定となり、周上での接地圧振動(周上での接地圧の不均一さ)を引き起こしていると考えられる。一方で、図7に示す、接地圧振動が発生しないケースでは、最もタイヤ幅方向の幅の狭い周方向陸部が複数の帯状ストリップで支えられることにより、構造体として該周方向陸部が周上で安定し、周上のどの位置においても均一に接地圧を発生させていると考えられる。
【0045】
図8は、式:W/{(w+2d)+0.3×w}=1.0の場合の、周方向陸部と帯状ストリップとの配置関係を模式的に示す図である。図9は、式:W/{(w+2d)+0.3×w}と、接地圧振動との関係を示す図である。本発明者は、上記の知見をもとに、接地圧振動が生じない条件を検討したところ、図9に示すように、関係式、
W/{(w+2d)+0.3×w}≧1.0
を満たす範囲では、接地圧振動が2%未満となり十分に小さいのに対し、上記範囲を逸脱すると急激に接地圧振動が増大するとの知見を得た。
【0046】
以上のように、本実施形態のタイヤは、周方向ベルトが、帯状ストリップが螺旋巻きされてなり、1つ以上の周方向陸部のうち、タイヤ幅方向の幅が最小である周方向陸部のタイヤ幅方向の幅をWとし、帯状ストリップのタイヤ幅方向の幅をwとし、帯状ストリップの周回毎のタイヤ幅方向の隙間の幅をdとするとき、関係式、
W/{(w+2d)+0.3×w}≧1.0
を満たすものである。
なお、本発明においては、W/{(w+2d)+0.3×w}≦2.0、を満たすことが好ましい。W/{(w+2d)+0.3×w}を2.0以下とすることにより、隙間の幅がある程度確保して、縦ばね定数の低減および軽量化の効果を得ることができるからである。
また、比w/dは、1.5≦w/d≦3.0、を満たすことが好ましい。
【0047】
なお、周方向ベルトでは内圧による張力が接地圧振動を発生させる主な要因となる。従って、上記の関係式は、タイヤサイズ、トレッド形状、ベルト剛性等によらずに適用可能なものである。
【0048】
本実施形態のタイヤによれば、まず、傾斜ベルト4のタイヤ径方向外側に周方向ベルト5を有するため、タガ効果を得て、高速回転時の遠心力による径成長を抑制して高速耐久性等を高めることができる。そして、傾斜ベルト層のコードは、スチールコードであり、スチールコードの延在方向に垂直な幅25mm当たりの前記スチールコードの断面積の総和が2.3?4.0mm^(2)の範囲にあるため、スチールコードによる過度の重量増を招くことなく、縦ばね定数を低減しつつも、傾斜ベルト層による補強効果を十分に確保することができる。また、帯状ストリップは、タイヤ幅方向に隙間を空けて配置されているため、帯状ストリップによる過度の重量増を招くことなく周方向ベルトによる補強効果を得ることができる。そして、周方向陸部、帯状ストリップについて、上記幅W、上記幅w、及び上記間隔dを、上記関係式を満たすように規制することにより、タイヤの1周内での接地圧振動を低減して、縦ばね定数を低減しつつも、操縦安定性及び制動性能を向上させることができる。また、接地圧振動が低減するため、コーナリンググリップ性能を向上させ、車両振動を低減させ、耐偏摩耗性を向上させることもできる。」
「【実施例】
【0052】
本発明の効果を確かめるため、タイヤサイズ165/55R15の発明例1及び、比較例1?6にかかるタイヤを試作して、以下の試験を行った。
【0053】
<接地圧振動>
上記各タイヤをリムサイズ4.5Jのリムに組み付け、内圧240kPaを充填し、荷重3790Nを負荷して、室内試験機で転動時の接地面の接地圧計測を実施した。ガラス路面上を微低速で1回転させ、得られたデータを画像処理して必要な接地面内のタイヤ幅方向位置にて抜き出し、接地圧波形を抽出した。このようにして、準静的な接地圧状態としてタイヤ周上の圧力を計測した。接地圧は、ガラス面に側面より光を入射し、これにタイヤが接触することで屈折率が変化し、接地圧に比例して発光することを主たる原理とした接地圧計測装置を適切に校正したものを使用した。接地圧振動は、一回転分6000点超のデータに対してFFTを実施した場合の一次波形の振幅を平均接地圧に対する比(%)で示したものである。
<操縦安定性>
テストコースを実車走行し、評価ドライバーによるフィーリングテストを行った。評価は、比較例1にかかるタイヤの評価結果を100としたときの指数評価で示しており、数値が大きいほど操縦安定性に優れていることを示す。
<制動性能>
水深0.6mmで管理されたウェット路面のテストコースを実車走行し、制動開始から停止までの距離を計測した。評価は、計測した距離の逆数を取り、比較例1にかかるタイヤの評価結果を100としたときの指数評価で示しており、数値が大きいほどウェット時の制動性能に優れていることを示す。
<縦ばね定数>
各タイヤを、リムサイズ4.5Jのリムに組み付け、内圧240kPaを充填し、最大負荷能力に対応する荷重の70%の荷重をタイヤ径方向に加え、タイヤのタイヤ径方向の撓みを測定した。評価は、比較例1にかかるタイヤの測定結果を100としたときの指数評価で示しており、数値が小さいほどに縦ばね定数が小さいことを示す。
<タイヤ重量>
タイヤの重量を計測した。評価は、比較例1にかかるタイヤの計測結果を100としたときの指数評価で示しており、数値が小さいほどにタイヤ重量が小さいことを示す。
以下、評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、発明例1にかかるタイヤは、比較例1?6にかかるタイヤに比べて、縦ばね定数を低減しつつも、操縦安定性及び制動性能を向上させることができていることがわかる。」
「【図7】


「【図9】


(3)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0044】及び図7には、3つ以上の周方向陸部のうち、タイヤ幅方向の幅が最小である前記周方向陸部のタイヤ幅方向の幅をWとし、帯状ストリップのタイヤ幅方向の幅をwとし、前記帯状ストリップの周回毎のタイヤ幅方向の隙間の幅をdとするとき、関係式W=2w+2dを満たすタイヤが記載されているから、その記載に従えば、当業者は、本件特許発明1ないし2のタイヤを生産し、かつ、使用することができるといえる。

したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし2について、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があるといえるから、実施可能要件を充足する。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、Wと2w+2dとが同値であるか否かを判断するに際し、Wと2w+2dの小数点以下の扱い(例えば、±0.1mmの測定精度で判断するのか、±0.01mmの測定精度で判断するのか。)によって、両者が同値であるかの否かの判断が異なるにも関わらず、その判断基準について本件特許の発明の詳細な説明には記載も示唆もないため、計測値の処理の仕方によって、Wと2w+2dとが同値であると判断される場合や同値でないと判断される場合があること、及び、W、w、dの測定精度や計測技術を検討しなければならないことから、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を強いるものである旨主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0054】に、実施例として、w及びdについて、小数点以下一桁まで測定していることが記載されていることに鑑みれば、当業者は、その精度(小数点以下一桁)でW、w、dを計測して、その精度(小数点以下一桁)でWと2w+2dとが同値であれば、関係式W=2w+2dを満たすと判断すると理解されるから、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

(4)申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は、上記「第2 本件特許発明」に記載のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載は、上記2(2)に記載のとおりである。

(4)発明の課題
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0006】、【0007】によると、本件特許発明1ないし2が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「傾斜ベルト層のスチールコードのスチール量を少なくして縦ばね定数を低減した場合であっても、操縦安定性及び制動性能を向上させ得る、空気入りタイヤを提供する」ことであると当業者は理解する。

(5)サポート要件についての判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0027】、【0041】、【0043】、【0044】、【0048】の記載に鑑みれば、「傾斜ベルト層のコードが、スチールコードであり、スチールコードの延在方向に垂直な幅25mm当たりの前記スチールコードの断面積の総和が2.3?4.0mm^(2)の範囲」であって、かつ「関係式W=2w+2d」を満たすものであれば、当業者は上記の発明の課題を解決できると認識できる。

そして、本件特許発明1ないし2は、「傾斜ベルト層のコードは、スチールコードであり、前記スチールコードの延在方向に垂直な幅25mm当たりの前記スチールコードの断面積の総和が2.3?4.0mm^(2)の範囲にあり」、関係式「W=2w+2dを満たす」との特定事項を含んでいる。

したがって、本件特許発明1ないし2は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許発明1ないし2に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足する。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明では帯状ストリップを構成するコードの本数が規定されていないから、例えばコードが1本の場合や20本の場合も含むものであるが、コードが「6本」のもののみが実施例として開示され、発明の詳細な説明の段落【0049】には、「4本以上7本以下」としか記載されていないから、本件特許発明の範囲にまで拡張ないし一般化できない旨主張している。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0044】の記載等を参酌すれば、「周方向ベルト」が「帯状ストリップ」であれば、発明の課題を解決できると認識できるから、「帯状ストリップを構成するコードの本数」については、発明の課題解決の可否を左右しないものである。
よって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

(6)申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由4(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)明確性要件についての判断
関係式「W=2w+2d」は、その数式のとおりのことを示しているから、明確である。なお、このことは、特許異議申立人も特許異議申立書において自認しているとおりである。
したがって、関係式「W=2w+2d」の記載の意味は明確である。
また、その他に、本件特許の請求項1ないし2に不明な記載はない。
以上のことから、本件特許発明1ないし2はいずれも明確である。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、Wと2w+2dとが同値であるか否かを判断するに際し、Wと2w+2dを整数で対比するのか、小数点以下一桁で対比するのか、小数点以下二桁で対比するのか、判断基準が不明である旨主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0054】に、実施例として、w及びdについて、小数点以下一桁まで測定していることが記載されていることに鑑みれば、当業者は、小数点以下一桁でWと2w+2dとを対比して判断するものと理解できる。
よって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

(3)申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4によっては、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-15 
出願番号 特願2016-160162(P2016-160162)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
P 1 651・ 537- Y (B60C)
P 1 651・ 536- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 岩田 健一
大畑 通隆
登録日 2020-06-16 
登録番号 特許第6718334号(P6718334)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 憲司  
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