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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1372754
異議申立番号 異議2020-700693  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-14 
確定日 2021-04-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6664835号発明「野菜果実混合飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6664835号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6664835号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年1月19日(優先権主張 平成27年10月22日 日本国(JP))に出願され、令和2年2月21日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許に対し、令和2年9月14日に遠藤楓実(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。
令和2年12月18日付け 取消理由通知
令和3年 2月12日 意見書の提出(特許権者)


第2 本件発明

本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
野菜果実混合飲料(但し、含有する果皮加工物が果皮の水抽出物のみであるものを除く。)であって、
その糖酸比は、14.0乃至17.0であり、かつ、
その糖度は、9.0度以上であり、当該野菜果実含有飲料が含有するのは、柑橘果実の果皮加工物である。
【請求項2】
請求項1の野菜果実混合飲料であって、
前記糖酸比は、15.5乃至17.0である。
【請求項3】
請求項1又は2の野菜果実混合飲料であって、
前記糖度は、9.0乃至12.0度である。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの野菜果実混合飲料であって、
前記柑橘果実は、レモンである。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの野菜果実混合飲料であって、
前記柑橘果実の果皮加工物の配合量は、0.02乃至3.0w/v%である。
【請求項6】
野菜果実混合飲料(但し、含有する果皮加工物が果皮の水抽出物のみであるものを除く。)の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程である:
調合:ここで調合されるのは、野菜汁及び果汁に加えて、柑橘果実の果皮加工物であり、
これによって得られる野菜果実混合飲料の糖酸比は、14.0乃至17.0であり、かつ、その糖度は、9.0度以上である。」


第3 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠として下記甲第1号証?甲第9号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲9」ともいう。)を提出し、次の特許異議申立理由1?2を申し立てている。

特許異議申立理由1(サポート要件違反)
本件発明1?6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

特許異議申立理由2(新規性及び進歩性の欠如)
本件発明1?6は、甲1に記載された発明であり、また甲1並びに甲2、3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:米国特許出願公開第2012/0135124号明細書
甲第2号証:特開2015-8711号公報
甲第3号証:欧州特許出願公開第0198591号明細書
甲第4号証:特開2008-212105号公報
甲第5号証:浜島教子、「味の相互関係について(第5報)甘味と苦味の関係」、家政学雑誌、1981年、第32巻、第2号、第156-161頁
甲第6号証:福谷敬三ら、「柑橘果実の苦味物質の含量と時期別変化」、日本食品工業学会誌、1983年、第30巻、第11号、第642-649頁
甲第7号証:森下敏子ら、「マーマレード加工における果皮の脱苦味の検討」、調理科学、1986年、第19巻、第4号、第96-100頁
甲第8号証:「なるほど園芸用語 糖酸比」[online]、2019年12月10日(更新日)、農耕と園芸 Online カルチベ、<URL:http://karuchibe.jp/read/1920/>
甲第9号証:末松伸一ら、「果汁入り清涼飲料の糖酸化と嗜好性」、東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書、1994年、第20巻、第83-88頁


第4 取消理由通知書に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
当審が令和2年12月18日付けの取消理由通知書により通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(サポート要件違反)
本件特許は、野菜、果実、果皮としての柑橘果実の種類等によっては、課題を解決できると認識できないものを含んでおり、その特許請求の範囲の請求項1?6の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

これに対し、特許権者は、令和3年2月12日付意見書において、取消理由通知における合議体の認定及び判断は誤りである旨主張している。

2 取消理由についての判断
(1)サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決,平成17年(行ケ)第10042号,判例時報1911号48頁参照)。
以下、上記の観点に立って、本件について検討することとする。

(2)本件発明の特許請求の範囲の記載
本件発明の特許請求の範囲の記載は、上記「第2 本件発明」のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

ア 技術分野、背景技術、先行技術文献、並びに発明が解決しようとする課題について
「【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、野菜果実混合飲料及びその製造方法である。
【背景技術】
【0002】
従来から健康の維持のために人々が飲んでいるのは、野菜飲料であり、この野菜飲料を例示すると、トマトジュースや多種の野菜を組み合わせた飲料等である。しかし、これらの野菜飲料は、野菜が苦手な人々に忌避されている。その原因の一つは、野菜の香りや味が際立っているからである。
【0003】
そのような人々にとっても飲み易くした野菜飲料は、野菜果実混合飲料である。野菜果実混合飲料は、野菜汁に果実の果汁を混合した飲料である。野菜果実混合飲料は、広く普及し、求められる味が細分化した。その結果、野菜果実混合飲料に新たに生まれた課題は、果汁を含むことによる過度な甘味である。
【0004】
まず考えられる当該課題の解決方法は、糖酸比の調整である。なぜなら、野菜果実混合飲料の甘味に寄与するのは、主に糖酸比だからである。ここで、糖酸比とは、糖度に対する酸度の割合である。具体的には、糖酸比を下げる方法は、糖度を下げる、又は酸度を上げることである。
【0005】
次に考えられる解決方法は、他の成分の配合である(特許文献1乃至特許文献3)。しかし、これらの方法は、いずれも、甘味を増強する方法にすぎない。つまり、甘味を抑制する方法は、知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特表2011-254783号公報
【特許文献2】 特開2012-100562号公報
【特許文献3】 特表2013-525278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、野菜果実混合飲料における過度な甘味を改善することである。糖酸比の調整では、糖度を下げすぎると、濃厚感が失われ、味が薄い飲料となってしまう。他方で、酸度を上げすぎると、酸味を強く感じるようになり、飲みづらい飲料となってしまう。つまり、糖酸比を調整するだけでは、野菜果実混合飲料の過度な甘みを抑制することは非常に手間がかかり、困難である。また、前述のとおり、甘味を抑制する資材は、知られていない。

イ 本件発明の課題を解決するための手段、並びに発明の効果について
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者らが鋭意検討して見出したのは、野菜果実混合飲料において、果実の果皮加工物を配合することで、過度な甘みを抑制できることである。このような飲料は、適度な甘味と酸味を感じるため、甘さが気にならず、さらにはすっきりとした味を呈する。この知見の下で本願発明者が完成させた発明は、次のとおりである。
【0009】
本発明に係る野菜果実混合飲料の糖酸比は、14.0乃至17.0である。当該飲料が含有するのは、果実の果皮加工物である。当該果実の果皮加工物は、柑橘果実の果皮化合物である。当該果実の果皮加工物の配合量は、0.02乃至3.0w/v%である。
【0010】
本発明に係る野菜果実混合飲料の製造方法を構成するのは、調合工程である。当該工程において、野菜汁及び果汁に加えられるのは、果実の果皮加工物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提供するのは、野菜果実混合飲料であって、その過度な甘味が改善され、甘すぎず、すっきりとしたものである。」(下線は、当審にて追加。以下同様。)

ウ 野菜果実混合飲料について
「【0012】
<本実施の形態に係る野菜果実混合飲料の概要>
本実施の形態に係る野菜果実混合飲料(以下、「本飲料」という。)とは、野菜果実混合飲料であって、そこに果実の果皮加工物が配合されたものである。野菜果実混合飲料とは、飲料であって、その主原料が野菜汁と果汁であるものをいう。野菜汁とは、野菜の搾汁(ストレート搾汁)、その濃縮汁(ピューレ、ペースト)及び濃縮汁の還元汁、並びにそれらの加工汁である。果汁とは、果実の搾汁(ストレート搾汁)、その濃縮汁(ピューレ、ペースト)及び濃縮汁の還元汁、並びにそれらの加工汁である。野菜汁の原料となる野菜を例示すると、トマト、ナス、パプリカ、ピーマン、ジャガイモ等のナス科の野菜、ニンジン、セロリ、アシタバ、パセリ等のセリ科の野菜、キャベツ、紫キャベツ、メキャベツ(プチヴェール)、ハクサイ、チンゲンサイ、ダイコン、ケール、クレソン、小松菜、ブロッコリー、カリフラワー、カブ、ワサビ、マスタード等のアブラナ科の野菜、ホウレンソウ、ビート等のアカザ科の野菜、レタス、シュンギク、サラダナ、ゴボウ、ヨモギ等のキク科の野菜、タマネギ、ニンニク、ネギ等のユリ科の野菜、カボチャ、キュウリ、ニガウリ等のウリ科の野菜、インゲンマメ、エンドウマメ、ソラマメ、エダマメ等の豆科の野菜、モロヘイヤ、アスパラガス、ショウガ、サツマイモ、ムラサキイモ、シソ、アカジソ、トウモロコシ等である。果汁の原料となる果実を例示すると、レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ミカン、ライム、スダチ、柚子、シイクワシャー、タンカン等の柑橘類、リンゴ、ウメ、モモ、サクランボ、アンズ、プラム、プルーン、カムカム、ナシ、洋ナシ、ビワ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、カシス、クランベリー、ブルーベリー、メロン、スイカ、キウイフルーツ、ザクロ、ブドウ、バナナ、グァバ、アセロラ、パインアップル、マンゴー、パッションフルーツ、レイシ等である。また、搾汁及び濃縮の詳細な説明のため、本明細書に取り込まれるのは、最新果汁・果実飲料辞典(社団法人日本果汁協会監修)の内容である。」

エ 野菜果実混合飲料における過度な甘味について
「【0023】
<野菜果実混合飲料における過度な甘味>
野菜果実混合飲料が呈するのは、過度な甘味である。過度な甘味とは、甘味を強く感じ、且つ甘味の後残りを強く感じることを指す。当該甘味は、糖酸比の上昇によって付与される。糖酸比の上昇は、果汁や甘味料を含有することでなされる。当該甘味が感じられるのは、糖酸比が14.0より高いものである。」

オ 果実の果皮加工物について
「【0024】
<本飲料の果実の果皮加工物>
本飲料が含有する果実の果皮加工物は、飲料への利用に適した形に果実の果皮が加工されたものである。当該加工法は、果実を剥皮し、得られた果皮を磨り潰す、又は抽出することである。磨り潰すとは、コミトロール、ピンミル、コロイドミル、マスコロイダー等を用いた破砕処理、摩砕処理、微細化処理等の工程を指す。その磨り潰す程度は、特に限定されない。抽出とは、水、水蒸気、二酸化炭素、エタノール、その他の有機溶剤等の公知の抽出溶媒を用いて果実の果皮からエキスを抽出する工程を指す。抽出に供される果実の果皮は、磨り潰されたものであってもよい。磨り潰される、又は抽出されるのは、果実の果皮のうち、少なくともフラベド(外果皮)を含んだものであり、アルベド(中果皮)は含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。市場にて一般的に入手可能な果実の果皮加工物を例示すると、ピールペースト、コミュニーテッド果汁、ピールエキス等である。コミュニーテッド果汁とは、果実の果肉だけではなく、果皮までまるごと磨り潰した果汁原料である。本飲料において配合される果実の果皮加工物は、果皮そのものを含有するものであることが好ましい。例示すると、ピールペースト及びコミュニーテッド果汁等である。果実の果皮加工物を配合する目的は、野菜果実混合飲料の過度な甘味の抑制である。過度な甘味が抑制された結果、適度な甘味と酸味を感じるため、甘さが気にならず、さらにはすっきりとした味を呈する。
【0025】
当該果実の果皮加工物の原料となる果皮は、果実のものであれば特に限定されないが、柑橘果実の果皮であることが好ましい。柑橘果実を例示すると、レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ライム、柚子、温州みかん、夏みかん、はっさく、伊予かん、ぽんかん、タンカン、カボス、スダチ、シイクワシャー等であり、本発明では特にレモンを用いることが好ましいが、柑橘果実の果皮は一様に苦味を呈するため、特に限定されるものではない。
【0026】
当該果実の果皮加工物の配合量は、特に限定されないが、具体的には、本飲料100L当たり0.02kg以上であり且つ3.0kg以下(0.02乃至3.0kg/100L又は0.02乃至3.0w/v%)であり、好ましくは、本飲料100L当たり0.1kg以上であり且つ1.0kg以下(0.1乃至1.0kg/100L又は0.1乃至1.0w/v%)である。
【0027】
当該甘味抑制効果を特に奏したのは、レモンである。柑橘果実の果皮加工物が呈するのは、苦味である。野菜果実混合飲料に柑橘果実の果皮加工物を配合すれば、当該飲料の味に苦味が付与される。野菜果実混合飲料であって、糖酸比14.0乃至17.0のものにおいて、当該果皮を配合すると、過度な甘味が抑制され、適度な甘味と酸味を感じるため、甘さが気にならず、さらにはすっきりとした味となった。その予想される作用は、当該果皮を配合することによって付与された苦味が、野菜果実混合飲料の過度な甘味をマスキングしたためと考えられる。
【0028】
当該果実の果皮加工物の配合量が0.02w/v%より少ないと、本飲料の過度な甘味の抑制効果が得られず、甘味を強く感じたり、甘味の後残りを感じてしまう。一方、3.0w/v%より多いと、当該果実の果皮加工物の苦味が際立ってしまうため好ましくない。」

カ 実施例及び比較例
「【0033】
<実施例1乃至5>
実施例1乃至5において配合する原料は、市販の人参濃縮汁(Brix=39.6、糖酸比=22.4)、市販の透明人参濃縮汁(Brix=58.1、糖酸比=19.2)、市販のりんご透明濃縮果汁(Brix=70.0、糖酸比=51.4)、市販のりんごピューレ(Brix=31.3、糖酸比=30.6)、市販のレモン濃縮果汁(Brix=51.5、糖酸比=1.29)、前述のレモンピールペースト(Brix=3.4、糖酸比=25.4)、クエン酸(和光純薬工業株式会社製)、異性化液糖(王子コーンスターチ株式会社製)である。異性化液糖を除くこれらの原料を表1の通りそれぞれ配合し、加水して混合し、実施例1乃至5のベースとなる調合液を得た。得られた調合液の糖酸比と糖度を測定し(測定結果:Brix=8.0、糖酸比=12.0)、同等の酸度となるようにクエン酸を加えて調整した異性化液糖を、表2に示す各実施例の糖度及び糖酸比となるように添加した。得られた調合液を加熱して95℃到達直後にPETボトルに充填した。充填後のPETボトルを5分程度放置してから水冷した。得られたサンプルは、それぞれ糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供した。糖度及び酸度の測定値は、表2に示す。
【0034】
<比較例1乃至5>
比較例1乃至5において配合する原料は、レモンピールペーストを配合しないこと以外は、実施例1乃至5と同様である。異性化液糖を除くこれらの原料を表1の通りそれぞれ配合し、加水して混合し、比較例1乃至5のベースとなる調合液を得た。得られた調合液の糖酸比と糖度を測定し(測定結果:Brix=8.0、糖酸比=12.0)、同等の酸度となるようにクエン酸を加えて調整した異性化液糖を、表2に示す各比較例の糖度及び糖酸比となるように添加した。得られた調合液を加熱して95℃到達直後にPETボトルに充填した。充填後のPETボトルを5分程度放置してから水冷した。得られたサンプルは、それぞれ糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供した。糖度及び酸度の測定値は、表2に示す。
【0035】
<実施例6>
実施例6において配合する原料は、クエン酸及び異性化液糖を配合しないこと以外は、実施例1乃至5と同様である。これらの原料を表1の通りそれぞれ配合し、加水して混合した。得られた調合液を加熱して95℃到達直後にPETボトルに充填した。充填後のPETボトルを5分程度放置してから水冷した。実施例6は、野菜及び果実の原料のみで実現したものある。得られたサンプルは、糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供した。糖度及び酸度の測定値は、表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
<Brixの測定方法>
本測定で採用したRIの測定器は、屈折計(NAR-3T ATAGO社製)である。測定時の品温は、20℃であった。
【0038】
<酸度の測定方法>
本測定で採用した酸度の算出方法は、0.1N水酸化ナトリウム標準液を用いた滴定法であり、滴定値よりクエン酸当量に換算して算出した。
【0039】
<官能評価>
実施例1乃至6及び比較例1乃至5の官能評価において評価した項目は、「適度な甘味」、「甘さのキレ」、「濃厚感」である。評価において採用したのは、評点法である。本発明に係る野菜果実混合飲料において、「適度な甘味」と「甘さのキレ」は、過度な甘味が抑制されたかどうかの主たる指標である。「適度な甘味」は、甘味と酸味のバランスに関する指標であって、バランスが崩れるとどちらかが強く感じてしまう。「甘さのキレ」は、甘味の後残りに関する指標であって、キレが悪いと甘味の後残りが発生し、すっきりとした味わいを妨げる。「濃厚感」は、飲料の飲み応えに関する指標であって、薄く感じるものは飲料として不適である。
【0040】
「適度な甘味」は、適度な甘味と酸味を感じることで、甘さが気にならないものが高い評点となる。一方、酸味又は甘味のどちらかが強く感じるようになるにつれて低い評点となる。評価基準は以下の通りである
1点:甘味しか感じない
2点:甘味を非常に強く感じる
3点:甘味を強く感じる
4点:甘味を少し強く感じる
5点:適度な甘味と酸味を感じる
4点:酸味を少し強く感じる
3点:酸味を強く感じる
2点:酸味を非常に強く感じる
1点:酸味しか感じない
なお、本発明に係る野菜果実混合飲料においては、4点乃至5点を甘すぎない好ましいものとする。
【0041】
「甘さのキレ」は、飲用後の後味への甘味の後残りを指す。甘味の後残りが少ないほど高い評点となる。一方、後味に尾を引く感じで後残りがあるほど低い評点である。なお、「どちらでもない」は、キレが良いとも悪いとも判断がつかない状態を指すものである。評価基準は、以下のとおりである。
1点:キレがとても悪い
2点:キレが悪い
3点:どちらでもない
4点:キレが良い
5点:キレがとても良い
なお、本発明に係る野菜果実混合飲料においては、4点乃至5点をすっきりとした好ましいものとする。
【0042】
「濃厚感」は、味に厚みがあり、濃厚に感じるものほど高い評点である。一方、味に厚みがなく、薄く感じるものほど、低い評点である。なお、「どちらでもない」は、濃厚とも薄いとも判断がつかない状態を指すものである。評価基準は、以下のとおりである。
1点:とても薄く感じる
2点:薄く感じる
3点:どちらでもない
4点:濃厚に感じる
5点:とても濃厚に感じる
なお、本発明に係る野菜果実混合飲料においては、1点乃至2点は、味が薄く、飲料として不適であるものとする。
【0043】
評価は、訓練された専門パネル10名で行った。評価結果は、表2のとおりである。なお、表2に示す評点は、平均点を求め、四捨五入した値である。
【0044】
【表2】

【0045】
表2によれば、実施例2乃至4及び実施例6は、主たる指標である「適度な甘味」と「甘さのキレ」の2つの評点が共に良好であり、過度な甘味が抑えられた野菜果実混合飲料であった。果実の果皮加工物を配合していない比較例2乃至5は、「適度な甘味」と「甘さのキレ」のどちらかの評点が低かった。つまり、糖酸比が12.0以上の野菜果実混合飲料は、過度な甘味を抑制することができないことがわかる。比較例2乃至5のように糖酸比が12.0乃至19.0、且つ糖度が9.4度乃至12.7度を有する野菜果実混合飲料は、従来から市場に存在するものである。一方、実施例2乃至4は、果実の果皮加工物を配合することで、過度な甘味が抑えられ、適度な甘味と酸味を感じるため、甘さが気にならず、さらにはすっきりとした味であった。つまり、糖酸比の範囲が14.0乃至17.0の野菜果実混合飲料は、果実の果皮加工物を配合することで、過度な甘味が抑制できた。また、同等の糖酸比及び糖度を有し、その違いが果実の果皮加工物の配合の有無である実施例と比較例(実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4)を比較しても、果実の果皮加工物を配合した実施例2乃至4は、「適度な甘味」と「甘さのキレ」の両方の評点が優れており、過度な甘味の抑制効果が得られていることがわかる。「濃厚感」は、果実の果皮加工物の配合に関わらず、実施例1及び比較例1で評点が低かった。本飲料において、糖度が9.4度以上であることが好ましい。したがって、実施例2乃至4のような糖酸比が14.0乃至17.0の野菜果実混合飲料であって、糖度が9.4度以上のものは、過度な甘味が抑えられ、且つ薄くない味を呈する。実施例6は、実施例3と同等の糖酸比、糖度を野菜及び果実の原料のみで実現したものであるが、実施例3と同様に果実の果皮加工物による効果が得られた。
【0046】
<実施例7乃至12>
実施例7乃至12において配合する原料は、市販の人参濃縮汁(Brix=43.0、糖酸比=19.7)、市販の透明人参濃縮汁(Brix=62.2、糖酸比=15.0)、市販のりんご透明濃縮果汁(Brix=70.2、糖酸比=42.2)、市販のりんごピューレ(Brix=32.2、糖酸比=33.5)、市販のレモン濃縮果汁(Brix=58.4、糖酸比=1.40)、前述のレモンピールペースト(Brix=3.4、糖酸比=25.4)、クエン酸(和光純薬工業株式会社製)、異性化液糖(王子コーンスターチ株式会社製)である。異性化液糖を除くこれらの原料を表3の通りそれぞれ配合し、加水して混合し、実施例7乃至12のベースとなる調合液を得た。得られた調合液の糖酸比と糖度を測定し(測定結果:Brix=8.0、糖酸比=15.4)、クエン酸及び異性化液糖を、表4に示す各実施例の糖度及び酸度となるように添加した。得られた調合液を加熱して95℃到達直後にPETボトルに充填した。充填後のPETボトルを5分程度放置してから水冷した。得られたサンプルは、それぞれ糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供した。糖度及び酸度の測定値は、表4に示す。糖度及び酸度の測定は、前述の通り行った。また、官能評価も、専門パネルの人数以外は、前述の通り行った。なお、官能評価は、訓練された専門パネル12名で行った。官能評価結果は、表4の通りであり、表4に示す評点は、平均点を求め、四捨五入した値である。
【0047】
<比較例6乃至10>
比較例6乃至10において配合する原料は、レモンピールペーストを配合しないこと以外は、実施例7乃至12と同様である。異性化液糖を除くこれらの原料を表3の通りそれぞれ配合し、加水して混合し、比較例6乃至10のベースとなる調合液を得た。得られた調合液の糖酸比と糖度を測定し(測定結果:Brix=8.0、糖酸比=15.4)、クエン酸及び異性化液糖を、表4に示す各比較例の糖度及び酸度となるように添加した。得られた調合液を加熱して95℃到達直後にPETボトルに充填した。充填後のPETボトルを5分程度放置してから水冷した。得られたサンプルは、それぞれ糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供した。糖度及び酸度の測定値は、表4に示す。糖度及び酸度の測定は、前述の通り行った。また、官能評価も、専門パネルの人数以外は、前述の通り行った。なお、官能評価は、訓練された専門パネル12名で行った。官能評価結果は、表4の通りであり、表4に示す評点は、平均点を求め、四捨五入した値である。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
<実施例13>
実施例13において配合する原料は、市販の人参濃縮汁(Brix=43.0、糖酸比=19.7)、市販の透明人参濃縮汁(Brix=62.2、糖酸比=15.0)、市販のりんご透明濃縮果汁(Brix=70.2、糖酸比=42.2)、市販のりんごピューレ(Brix=32.2、糖酸比=33.5)、市販の濃縮レモンコミュニーテッド果汁(Brix=24.0、糖酸比=3.0)、クエン酸(和光純薬工業株式会社製)である。前述の濃縮レモンコミュニーテッド果汁は、約20%のレモン果皮を含むものである。これらの原料を表5の通りそれぞれ配合し、加水して混合した。得られた調合液を加熱して95℃到達直後にPETボトルに充填した。充填後のPETボトルを5分程度放置してから水冷した。得られたサンプルは、糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供した。糖度及び酸度の測定値は、表6に示す。糖度及び酸度の測定は、前述の通り行った。また、官能評価も、専門パネルの人数以外は、前述の通り行った。なお、官能評価は、訓練された専門パネル12名で行った。官能評価結果は、表6の通りであり、表6に示す評点は、平均点を求め、四捨五入した値である。
【0051】
<比較例11>
比較例11において配合する原料は、濃縮レモンコミュニーテッド果汁の代わりに市販のレモン濃縮果汁(Brix=58.4、糖酸比=1.40)を配合すること以外は、実施例13と同様である。これらの原料を表5の通りそれぞれ配合し、加水した。得られた調合液を加熱して95℃到達直後にPETボトルに充填した。充填後のPETボトルを5分程度放置してから水冷した。得られたサンプルは、糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供した。糖度及び酸度の測定値は、表6に示す。糖度及び酸度の測定は、前述の通り行った。また、官能評価も、専門パネルの人数以外は、前述の通り行った。なお、官能評価は、訓練された専門パネル12名で行った。官能評価結果は、表6の通りであり、表6に示す評点は、平均点を求め、四捨五入した値である。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】



(4)対比・判断
ア 本件発明1?6が解決しようとする課題、並びに課題を解決するための手段について
前記(3)アの記載(特に、下線部参照。)及び本件特許明細書全体を参酌して、本件発明1?5の課題は、野菜果実混合飲料において果実を含むことによる過度な甘味を改善した飲料の提供であり、本件発明6が解決しようとする課題は、該飲料の製造方法を提供することにあるものと認める。
ここで、野菜果実混合飲料における「過度な甘味」とは、前記(3)エに記載されるとおり、「甘味を強く感じ、且つ甘味の後残りを強く感じることを指す。当該甘味は、糖酸比の上昇によって付与される。糖酸比の上昇は、果汁や甘味料を含有することでなされる。当該甘味が感じられるのは、糖酸比が14.0より高いものである。」を意味すると認められる。
そして、当該課題を解決するための手段として、前記(3)イの記載(特に、下線部参照。)のとおり、発明の詳細な説明には、本件発明は「野菜果実混合飲料において、果実の果皮加工物を配合することで過度な甘みを抑制できること」、並びに「このような飲料は、適度な甘味と酸味を感じるため、甘さが気にならず、さらにはすっきりとした味を呈する」との知見を見出して完成された発明であることが記載されている。そして、同段落には、果汁を含むことによる過度な甘味が改善された野菜果実混合飲料及びその製造方法を提供するための手段として、野菜果実混合飲料の糖酸比を14.0乃至17.0とすること、並びに柑橘果実の果皮化合物を含有又は調合することを採用したことが記載されている。
そして、柑橘果実の果皮加工物について、前記(3)オ(特に、段落0027)には、「柑橘果皮の果皮加工物が呈するのは、苦味である」こと、糖酸比14.0乃至17.0の野菜果実混合飲料に「当該果皮を配合すると、過度な甘味が抑制され」ること、並びに「その予想される作用は、当該果皮を配合することによって付与された苦味が、野菜果実混合飲料の過度な甘味をマスキングしたためと考えられる」ことが記載されている。

イ 発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
(ア)請求項1?6に記載された発明は、「野菜果実混合飲料」における野菜の種類と果実の種類を特定しない形で発明が記載されている。また、請求項1?3、5、6に記載された発明は「柑橘果実の果皮加工物」における柑橘果実の種類を特定しない形で発明が記載されている。

(イ)一方、発明の詳細な説明には、「野菜果実混合飲料」における野菜の種類と果実の種類、並びに「柑橘果実の果皮加工物」における柑橘果実の種類について、以下のとおり記載されている。
a 「野菜果実混合飲料」における野菜の種類と果実の種類について、前記(3)ウには、野菜果実混合飲料において、野菜汁の原料となる野菜として、「トマト、ナス、パプリカ、ピーマン、ジャガイモ等のナス科の野菜、ニンジン、セロリ、アシタバ、パセリ等のセリ科の野菜、キャベツ、紫キャベツ、メキャベツ(プチヴェール)、ハクサイ、チンゲンサイ、ダイコン、ケール、クレソン、小松菜、ブロッコリー、カリフラワー、カブ、ワサビ、マスタード等のアブラナ科の野菜、ホウレンソウ、ビート等のアカザ科の野菜、レタス、シュンギク、サラダナ、ゴボウ、ヨモギ等のキク科の野菜、タマネギ、ニンニク、ネギ等のユリ科の野菜、カボチャ、キュウリ、ニガウリ等のウリ科の野菜、インゲンマメ、エンドウマメ、ソラマメ、エダマメ等の豆科の野菜、モロヘイヤ、アスパラガス、ショウガ、サツマイモ、ムラサキイモ、シソ、アカジソ、トウモロコシ等」、並びに果汁の原料となる果実として、「レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ミカン、ライム、スダチ、柚子、シイクワシャー、タンカン等の柑橘類、リンゴ、ウメ、モモ、サクランボ、アンズ、プラム、プルーン、カムカム、ナシ、洋ナシ、ビワ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、カシス、クランベリー、ブルーベリー、メロン、スイカ、キウイフルーツ、ザクロ、ブドウ、バナナ、グァバ、アセロラ、パインアップル、マンゴー、パッションフルーツ、レイシ等」の多様な野菜及び果実が例示されている。
b また、「柑橘果実の果皮加工物」における柑橘果実の種類について、前記(3)オには、柑橘果実の果皮加工物として、「レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ライム、柚子、温州みかん、夏みかん、はっさく、伊予かん、ぽんかん、タンカン、カボス、スダチ、シイクワシャー等」が一般的記載として例示されており、「本発明では特にレモンを用いることが好ましいが、柑橘果実の果皮は一様に苦味を呈するため、特に限定されるものではない」ことが記載されている。

(ウ)一方、前記(3)カの記載(特に、下線部参照。)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された具体例というべき実施例1?13、比較例1?10には、人参濃縮汁、透明人参濃縮汁、りんご透明濃縮果汁、リンゴピューレ、レモン濃縮果汁、並びにレモンピールペースト又は濃縮レモンコミュニーテッド果汁の原料を配合、加水、混合して調合液を得た後、クエン酸及び/又は異性化液糖を添加して糖度及び糖酸比を調整し、加熱して野菜果実混合飲料を得て、それぞれ糖度及び酸度の測定並びに官能評価に供したことが記載されている。

(エ)上記(ア)、(イ)のとおり、発明の詳細な説明には、「野菜果実混合飲料」における野菜の種類と果実の種類について、並びに「柑橘果実の果皮加工物」における柑橘果実の種類について、一般的、例示的に用いることができる野菜、果実、及び柑橘果実果皮について羅列して記載されている上に、実施例において、人参、りんご及びレモンの野菜果実混合飲料において、レモンの果皮加工物を含有する場合が記載されている。

ウ 「野菜果実混合飲料」における野菜の種類と果実の種類について
(ア)ここで、一般に、野菜及び果実は、その種類毎においしいとされる糖度及び糖酸比が異なる。よって、適度な甘味と酸味を感じる野菜果実混合飲料の糖酸比及び糖度は、そこで用いられる野菜及び果実の種類によって異なるものであるといえる。
この点、例えば、甲8には、ミカン、ブドウ、リンゴ、ナシ、及びモモのおいしい果実の目安を糖酸比の数値はそれぞれ異なることが記載されている。また、例えば、甲9の87頁にも、ピーチは、糖酸比がBrix5°では27、Brix8°では31?39、Brix11°では30以上のサンプルが良好な評価を得ており、グレープフルーツは、Brixの値に係わらず糖酸比25?30のサンプルに嗜好性に優位な傾向のあることが記載されている。同様に、野菜においても、その野菜における適度な糖度及び糖酸比は、その種類によって一応異なるといえる。

(イ)しかしながら、甲8、及び甲9に記載されているのは、ミカン、ブドウ、リンゴ、ナシ、モモ、グレープフルーツ等を単一のものとして口にする場合に、評価者がおいしい果実として認識する場合の糖酸比の数値を示したものであり、本件発明は、野菜と果実を複数種類含有する野菜果実混合飲料の発明であって、複数の野菜と果実が入った飲料の評価における適度な糖酸比は、その野菜果実混合飲料に含まれる野菜と果実それぞれの適度な糖酸比と一致するものではないし、果物や野菜の種類の変化によって、適度な糖酸比が一定程度変化するにしても、本件発明の柑橘果実の果皮加工物を含有させるという構成を採用することで、一定以上の糖度を確保しながら、一定の適度な甘味と酸味を確保できる糖酸比の範囲とすることが実現できることは、当業者が理解できるものといえる。

(ウ)そして、本件発明は、前記(3)オのとおり「野菜果実混合飲料であって、糖酸比14.0乃至17.0のものにおいて、当該果皮を配合すると、過度な甘味が抑制され、適度な甘味と酸味を感じるため、甘さが気にならず、さらにはすっきりとした味となった」ことを技術思想とする発明であるから、本件発明は、野菜果実混合飲料において、果皮加工物を用いることで、甘味の強さがどうなったかを分析的に評価したものであるといえる。そして、前記(3)カの実施例、比較例の記載から、野菜果実混合飲料において糖酸比や糖度は、複数種類の果物や野菜の種類を配合し、必要により酸味料や甘味料等で所望の糖酸比や糖度することが可能であることは当業者が理解できるものであるし、そのような所定の糖酸比や糖度を有する野菜果実混合飲料において、柑橘系果実の苦味成分が「甘味の強さ」の評価に及ぼす効果は、野菜及び果実の種類が異なっても得られる効果であると当業者が理解できたといえる。
そうすると、実施例に開示されたニンジン、リンゴ、及びレモンを含有する野菜果実混合飲料とは異なる種類の野菜及び果実を含有する野菜果実混合飲料であっても、当業者は、その他の一般的記載と技術常識を参考にすれば、糖酸比が14.0乃至17.0、かつ糖度が9.0以上の野菜果実混合飲料に柑橘果実の果皮加工物を含有させることで、一定程度過度な甘味を抑制できることを認識できると認められる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に、本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるように記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

エ 柑橘果実の種類について
(ア)また、柑橘果実の果皮に含まれる苦味物質の種類及び含量も、その種類によって大きく異なることが知られている。この点に関し、例えば甲6の第642頁の記載によれば、柑橘果皮に存在する苦味成分としてナリンギンなどのフラボノイド類と、リモニン、ノミリンなどのリモノイド類が知られており、これらが加工品に強い苦味を与えることが知られているが、同646頁のTable 4に記載されているように、柑橘果実(早生ウンシュウミカン、ウンシュウミカン、宮内イヨカン、イヨカン、川野ナツダイダイ、ナツダイダイ、ハッサク)の果皮中に含まれる苦味物質の種類及びそれらの濃度は、柑橘果実の種類毎に異なっている。

(イ)ここで、前記(4)アのとおり、本件発明は、苦味を呈する柑橘果皮加工物を糖酸比が14.0乃至17.0の野菜果実混合飲料に配合することにより、野菜果実混合飲料の過度な甘味が抑制したものである。そのため、本件発明の課題を解決し得るか否かは、果皮加工物中に含まれる苦味成分が当該野菜果実含有飲料中にどのような割合で存在するかに依存するといえる。

(ウ)しかしながら、柑橘果実の果皮中に含まれる苦味成分の含量は柑橘果実の種類毎に異なってはいるが、甲6の第646頁のTable 4には、柑橘果実(早生ウンシュウミカン、ウンシュウミカン、宮内イヨカン、イヨカン、川野ナツダイダイ、ナツダイダイ、ハッサク)のいずれも苦味成分であるリモニンを含有し、並びに柑橘果実の種類や収穫時期によってはノミリンも含有することが記載されているから、いずれの柑橘果実もその果皮に苦味物質を含むことが技術常識であったと認められる。
そうすると、レモンの果皮加工物を用いた場合と同様に、他の柑橘果実の果皮加工物を用いた場合にも、その果皮加工物に含まれる苦味物質により「野菜果実混合飲料において果実を含むことによる過度な甘味を改善する」との課題を解決できると当業者が認識できたと認められる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に、本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるように記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

3 取消理由についての判断のまとめ
以上のとおり、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、上記取消理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできず、取消理由は解消している。


第5 取消理由を通知しなかった特許異議申立理由について

1 取消理由を通知しなかった特許異議申立理由
取消理由を通知しなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである。

(1)特許異議申立理由A(サポート要件;官能評価試験)
特許異議申立書第15頁第14行?第18頁第13行の概略は、以下のとおりである。
「本件明細書では評価は1?5の5段階で、専門パネル10名(実施例7、比較例6以降では12名)で実験が行われていることは読み取れるが、具体的にどのようなレベルの人がパネラーとなっているのか、その訓練の度合いがどの程度か、全く記載されておらず、その信憑性の程は全く定かではない。その上、これら段階の加点及び減点の基準を共通にするなどの手順が踏まれているような形跡は存在しないし、パネラー間で評価が異なった場合に何を基準として評価結果を決定するのかも全く定かではない。
…(略)…
以上のとおり、伊藤園トマトジュース事件判決の規範に照らし、上記官能評価試験において適切な手続が踏まれていたとは到底認められないものであり、本件発明は「発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載」されているとも、「特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示」されているとも認められない。」(特許異議申立書第17頁第10行?第18頁第10行)

(2)特許異議申立理由B(サポート要件;柑橘果実の産地、収穫時期、並びに柑橘果実の果皮加工物の濃度、加工方法)
特許異議申立書第18頁第14行?第25頁第9行の概略は、以下のとおりである。
B-1;柑橘果実の産地、収穫時期
「このように、柑橘果実の果皮中に含まれる苦味物質の種類及びそれらの濃度については、柑橘果実の種類、産地、並びに収穫期毎に大きく異なっているのであり、それによって、当該野菜果実混合飲料の甘味のマスキングの度合いが異なることは自明である。それゆえ、本件明細書の実施例で示されたレモン果皮を用いた加工物の結果が、他の柑橘果実(ないし種類、産地、収穫期が異なるレモン)を用いた場合についてまで当て嵌まるとは、到底考えられない。なお、本件発明4においては、「前記柑橘果実は、レモンである」と規定されており、柑橘果実は一応特定されているものの、上述のとおり、種類、産地、収穫期が異なるレモンにおいてまでその結果が当てはまるとは言えないので、ここでの実施例・比較例によってサポートされていると言えないことに変わりはない。」(特許異議申立書第21頁第1行?同頁最終行)

B-2;柑橘果実の果皮加工物の濃度
「その上、言うまでもなく、それら苦味物質の量は、配合する果皮加工物の濃度によって大きく異なるのであり、その濃度を規定することなく本件発明の課題を解決し得る態様を規定し得る筈もない(換言すれば、「その糖酸比は、14.0乃至17.0であり」「その糖度は、9.0度以上であり」といったパラメータは、ここでの加工方法に係るレモン果皮加工物を、当量換算で0.10?0.11w/v%を用いた時のみ意味を有し得る値であって、そのような限定のない本件発明の野菜果実混合飲料一般に当て嵌まるものではない)。
…(略)…
このように、本件発明の「果皮加工物」は果皮のみならず、水など他の成分を含んだものを指しており、そこに占める果皮の割合は、その加工方法や加工物の種類によって区々の値になるのであるから、果皮の配合割合を規定することなく「果皮加工物」の数値範囲を規定したところで、本件発明の技術的課題を解決し得る範囲を規定し得る筈もない。」(特許異議申立書第22頁第1行?第23頁第9行)

B-3;柑橘果実の果皮加工物の加工方法
「また、本件明細書の段落【0024】において「本飲料が含有する果実の果皮加工物は、飲料への利用に適した形に果実の果皮が加工されたものである」と記載されているように、本件発明の果皮加工物には、飲料への利用に適した形のあらゆる加工品が含まれると解されるところ、果皮乃至果皮加工物の配合量が同じであっても、その加工方法(ないしそこで用いる機器や加工の程度)が異なれば苦味物質の含有量は当然に異なってくる。現に例えば、例えば甲第6号証(柑橘果実の苦味物質の含量と時期別変化)の647頁の表によれば、リーマー型試験搾汁機、インライン搾汁機、合成ゴムベルト式圧搾機、スクリュープレス搾汁機を用いた場合において、苦味物質(ナリンギン、リモニン、ノミリン)の配合量が大きく異なっていることが示されている。
…(略)…
また、例えば甲第7号証(マーマレード加工における果皮の脱苦味の検討)に記載されているように、加工方法によっては苦味物質(ナリンギン、リモニン)が果皮から除去ないし分解されることもあり得るのであって、その程度に関しても加工方法ごとに異なるのである。従って、その意味においても、加工方法に関しての具体的な特定をすることなく、本件発明の技術的課題を解決できる範囲を特定することは不可能である。」
(特許異議申立書第23頁第12行?第24頁第6行)

(3)特許異議申立理由C(サポート要件;野菜果実混合飲料の糖酸比・糖度)
特許異議申立書第25頁第10行?第27頁第19行の概略は、以下のとおりである。
C-1;野菜果実混合飲料の糖酸比・糖度
「また、上述のとおり、本件明細書の【表2】、【表4】、【表6】において好ましいとされている糖酸比及び糖度は、あくまでも人参とリンゴの組み合わせに係る野菜果実混合飲料においてのみ技術的意義を有するものであり、そのような限定のない「野菜果実混合飲料」においては、何ら本件発明の技術的課題を解決し得る範囲を画するパラメータとしての技術的意義を持ちえないことは明らかである。」(特許異議申立書第26頁第24行?第27頁第3行)

(4)特許異議申立理由D(甲1を主引例とする新規性進歩性違反)
特許異議申立書第27頁第23行?第41頁第8行の概略は、以下のとおりである。
「以上を踏まえて検討するに、まず請求項6では、請求項1記載の固形物として果皮が含まれることを規定しており、請求項9では、前記固形物が柑橘類の固形物を含むことが規定されているから、これらを総合すれば、柑橘果実の果皮について開示されていると言える。この点、例えば、甲第1号証のExample 3 (実施例3) のTable 4 (表4) では、トマトとルビーレッドグレープを含んだ野菜と果実の混合飲料(スパイシーなグレープフルーツジュース飲料)が記載されているが、ここでのルビーレッドグレープ固形物はルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるから、当然に果皮を含んでいるものと解釈される。そして、これらの固形物は、高剪断均質化または粉砕法により均質化されているが、このような手法が作られたものが「加工物」に該当することは自明である。また、ここでのオレンジ果皮が柑橘果実の果皮に該当することは自明であり、また、これについても何らかの加工が施されていることは技術常識から明らかである。従って、甲第1号証には、柑橘果実の果皮加工物を含む果物及び野菜を混合した飲料が開示されていると認められる。以上を踏まえると、甲第1号証には以下の発明が記載されているものと認定することが出来る。
<甲1発明>
果物及び野菜を混合した飲料であって、並びに柑橘果物に由来する固形物を含有し、前記固形物は、柑橘果実の果皮加工物を含んでおり、その糖度(Brix)のクエン酸のグラム質量に対する割合は10対1以上であり、該飲料の糖度(Brix)が約3?16゜である、ジュース飲料。」(特許異議申立書第33頁第12行?第34頁第13行)、並びに
「最後に、構成要件Dに関し、上述のとおり、甲1発明は柑橘果実の果皮加工物を含んでいるのであるから、この点に関して両者に相違が存在しないことは自明である。」(特許異議申立書第36頁第15行?同頁第17行)

2 判断

(1)特許異議申立理由A(サポート要件;官能評価試験)について
ア 本件発明の特許請求の範囲の記載
本件発明の特許請求の範囲の記載は、上記「第2 本件発明」のとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明(特に、段落0039?0043、0046、0051参照)には、官能評価の評価項目として「適度な甘味」、「甘さのキレ」、及び「濃厚感」を設定し、以下の評点基準による評点法により、訓練された専門パネル10名(実施例7?13及び比較例6?11では12名)で行ったこと、並びに評価結果における評点は、平均点を求め、四捨五入した値であることが記載されている。
「適度な甘味」の評価基準
1点:甘味しか感じない
2点:甘味を非常に強く感じる
3点:甘味を強く感じる
4点:甘味を少し強く感じる
5点:適度な甘味と酸味を感じる
4点:酸味を少し強く感じる
3点:酸味を強く感じる
2点:酸味を非常に強く感じる
1点:酸味しか感じない
「甘さのキレ」の評価基準
1点:キレがとても悪い
2点:キレが悪い
3点:どちらでもない
4点:キレが良い
5点:キレがとても良い
「濃厚感」の評価基準
1点:とても薄く感じる
2点:薄く感じる
3点:どちらでもない
4点:濃厚に感じる
5点:とても濃厚に感じる

ウ 対比・判断
(ア)前記(4)アに記載したとおり、本件発明1?5の課題は、野菜果実混合飲料において果実を含むことによる過度な甘味を改善した飲料の提供であり、本件発明6が解決しようとする課題は、該飲料の製造方法を提供することにあるものと認める。

この点、評価は「訓練された専門パネル」10名または12名で行われており、訓練の内容や程度は記載されていないものの、少なくとも訓練を経て官能評価の経験を有する者により専門パネルを構成することによって、官能評価の妥当性を確保しているといえる。
そして、異議申立人が主張するようにパネラー間で加点及び減点の基準を共通にする手順については発明の詳細な説明に記載されていないが、「適度な甘味」、「甘さのキレ」、及び「濃厚感」の評価基準はそれぞれ、甘味と酸味が適度であるか、キレが良いか又は悪いか、並びに薄く又は濃厚に感じるか、という基準であって、本件の実施例では、10名または12名という妥当な規模のパネラーによる評点の平均点を求め、四捨五入した値を用いて分析を行っているから、それにより得られた評価結果は、一定程度の客観性もって、野菜果実混合飲料における過度な甘味を改善するという課題を解決したことを発明の詳細な説明において開示していると認められる。
そうすると、発明の詳細な説明に記載された実施例、比較例における官能評価試験による評価結果に接した当業者であれば、「野菜果実混合飲料において果実を含むことによる過度な甘味を改善する」との課題を解決できると認識できたと認められる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に、本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるように記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

(2)特許異議申立理由B(サポート要件;柑橘果実の産地、収穫時期、並びに柑橘果実の果皮加工物の濃度、加工方法)について
B-1;柑橘果実の産地、収穫時期
B-2;柑橘果実の果皮加工物の濃度
B-3;柑橘果実の果皮加工物の加工方法

ア 本件発明の特許請求の範囲の記載
本件発明の特許請求の範囲の記載は、前記「第2 本件発明」のとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載は、前記「第4 2(3)」のとおりである。

ウ 対比・判断
前記「第4 2(4)エ」で述べたとおり、いずれの柑橘果実もその果皮に苦味物質を含むことが技術常識であると認められるから、レモン以外の種類の柑橘果実の果皮加工物を用いた場合にも、その果皮加工物に含まれる苦味物質により「野菜果実混合飲料において果実を含むことによる過度な甘味を改善する」との課題を解決できると当業者が認識できたと認められる。同様に、柑橘果実の産地、収穫時期、果皮加工物の濃度及び加工方法が異なっても、柑橘果実の果皮加工物に含まれる苦味物質の量を考慮して野菜果実混合飲料中の濃度を調整することにより、「野菜果実混合飲料において果実を含むことによる過度な甘味を改善する」との課題を解決できると当業者が認識できたと認められる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に、本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるように記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

(3)特許異議申立理由C(サポート要件;野菜果実混合飲料の糖酸比・糖度)について
C-1;野菜果実混合飲料の糖酸比・糖度

ア 本件発明の特許請求の範囲の記載
本件発明の特許請求の範囲の記載は、前記「第2 本件発明」のとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載は、前記「第4 2(3)」のとおりである。

ウ 対比・判断
前記「第4 2(4)ウ」で述べたとおり、本件発明は、野菜果実混合飲料において、果皮加工物を用いることで、甘味の強さがどうなったかを分析的に評価したものであるといえ、実施例に開示されたニンジン、リンゴ、及びレモンを含有する野菜果実混合飲料とは異なる種類の野菜及び果実を含有する野菜果実混合飲料であっても、糖酸比が14.0乃至17.0であり、かつ糖度が9.0以上の野菜果実混合飲料に柑橘果実の果皮加工物を含有させることで、過度な甘味を抑制できると認められる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に、本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるように記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

(4)特許異議申立理由D(甲1を主引例とする新規性進歩性違反)
ア 甲1の記載事項(訳文で示す)
摘記1-1;特許請求の範囲
「1. 1種以上の果物、1種以上の野菜、およびそれらの組み合わせに由来する少なくとも1種の液体、並びに1種以上の果物、1種以上の野菜、およびそれらの組み合わせに由来する固形物を含有し、前記固形物は、前記液体の由来である1種以上の果物、及び1種以上の野菜とは異なる由来の1種以上の果物、又は1種以上の野菜であって、該飲料の味は、官能パネルによって決定され、固体が由来する1種以上の果物または1種以上の野菜とは識別可能である、ジュース飲料。
…(略)…
3. 前記飲料の糖度(Brix)が約3度と約16度の間である請求項1に記載のジュース飲料。
…(略)…
6. 前記固形物が、顕感固形物、沈降固形物、小胞、仕上げ剤由来固形物、果肉、袋、果皮(pericarp)、膜、セルロース系材料、均質化果肉、搾りかす、果皮(peel)、およびそれらの組み合わせを含む、請求項1記載のジュース飲料。
…(略)…
9. 前記固形物が柑橘類固形物、トマト固形物、およびそれらの組み合わせを含む、請求項1記載のジュース飲料。
…(略)…
14. 液体対固体の体積比が2:1?30:1である、請求項1に記載のジュース飲料。」

摘記1-2;段落0001
「[0001] 本発明は、果物または野菜に由来する液体と、液体とは異なる果物または野菜に由来する固形物などの成分の組み合わせにより、予想外の味を有する新規なジュース飲料に関する。」

摘記1-3;段落0032
「[0032] 特定の実施形態では、液体およびフィニッシャー由来の固体を含むジュース飲料が提供される。本明細書で使用される「フィニッシャー由来の固形物」という用語は、果物および/または野菜から抽出されたジュースから除去された固形物を集合的に指す。そのような固形物には、限定されないが、果皮からの材料、種子、膜、セルロース系材料、および典型的には仕上げ工程でジュースから除去される、噛み応えのある果肉(bitable fruit pulp)、果物の小胞(fruit vesicles)、および/または果物の嚢(fruit sac)などの知覚可能な果肉が含まれる。多くの場合、抽出プロセス中の固体の分離は、一般に「タイトエンド」と呼ばれるフィニッシャーから得られる、リンゴソースと同様の粘度の懸濁液になります。適切なフィニッシャーは、ブラウンインターナショナルコーポレーション(フロリダ州ウィンターヘブン)またはJBTコーポレーション(イリノイ州シカゴ)から入手できます。フィニッシャー由来の固形物は、上咆の高剪断均質化または粉砕法により均質化されて、約1500μm未満、例えば約40μm?約1400μmの粒子サイズを提供し得る。」

摘記1-4;実施例3(段落0058?0059)
「実施例3
[0058] 以下の表4に記載されている成分を使用して、低カロリーの100%ジュースのスパイシーなグレープフルーツジュース飲料を調製しました。各成分の具体的な量も表に記載されており、飲料はグレープフルーツジュースのように見えましたが、トマトジュースのように味わい、8オンス入りあたり60カロリーしか含まれていませんでした。グレープフルーツの固形物はトマトほど風味がよくないため、この実施例は、味が固形物として識別できるのではなく、1つまたは複数の果物および/または野菜に由来する液体として識別できるジュース飲料の概念を示しています。
[0059]
トマト水は、完熟トマト全体をピューレにした後、液体から固形物を取り除くことによって調製されました。グレープフルーツ固形物は、市販のルビーレッドグレープフルーツジュース(トロピカーナ、フロリダ州ブレーデントン)を遠心分離することによって調製しました。ジュース飲料は、トマト水にルビーレッドグレープフルーツの固形物とスパイスを加えて調製しました。ジュース飲料は、トマト水に由来する野菜を最大限に提供(full serving)し、加えて、グレープフルーツの固形物によって提供される色と曇り、ビタミンとフラボノイドを含んでいました。

表4
カロリーを抑えたスパイシーなグレープフルーツジュース飲料の成分
成分(総成分飲料の体積%)
トマト水(糖度(Brix):5.0°) 94
ルビーレッドグレープフルーツの固形物-ルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物 5
スパイス(ブラックペッパー、スイートチリペッパー、カイエンペッパー、セロリシード、オレガノ、クミン、バジル、ベイ、マジョラム、セイボリー、タイム、コリアンダー、マスタード、ローズマリー、タマネギ、ニンニク、オレンジ果皮、レモン油) 1」

甲1には、摘記甲1-4の表4に記載のとおり、「カロリーを抑えたスパイシーなグレープフルーツジュース飲料」であって、「トマト水(糖度(Brix):5.0°)」94体積%、「ルビーレッドグレープフルーツの固形物-ルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物」5体積%、「スパイス(ブラックペッパー、スイートチリペッパー、カイエンペッパー、セロリシード、オレガノ、クミン、バジル、ベイ、マジョラム、セイボリー、タイム、コリアンダー、マスタード、ローズマリー、タマネギ、ニンニク、オレンジ果皮、レモン油)」1体積%を含むグレープフルーツジュース飲料が記載されている。また、摘記甲1-4の段落0059より、グレープフルーツ固形物は、市販のルビーレッドグレープフルーツジュース(トロピカーナ、フロリダ州ブレーデントン)を遠心分離することによって調製したものであることが記載されている。
したがって、甲1からは、次の発明(以下、順に「甲1-1発明」、「甲1-2発明」という。)が記載されている。

甲1-1発明:
「トマト水(糖度(Brix):5.0°)94体積%、市販のルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるルビーレッドグレープフルーツの固形物5体積%、並びにオレンジ果皮を含むスパイス1体積%からなる飲料。」

甲1-2発明:
「飲料の製造方法であって、トマト水(糖度(Brix):5.0°)94体積%、市販のルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるルビーレッドグレープフルーツの固形物5体積%、並びにオレンジ果皮を含むスパイス1体積%調合する工程を含む方法。」

イ 対比・判断
(ア)本件発明1?5について
本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、「トマト水(糖度(Brix):5.0°)」と「市販のルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるルビーレッドグレープフルーツの固形物」はそれぞれ「野菜」と「果物」由来の成分であるから、甲1-1発明の「飲料」は、本件発明1の「野菜果実混合飲料(但し、含有する果皮加工物が果皮の水抽出物のみであるものを除く。)」に相当する。したがって、両者は「野菜果実混合飲料(但し、含有する果皮加工物が果皮の水抽出物のみであるものを除く。)。」という点で一致し、下記の点で相違する。


相違点1-1;本件発明1は「その糖酸比は、14.0乃至17.0」であるのに対し、甲1-1発明はその糖酸比が明らかでない点。
相違点1-2;本件発明1は「その糖度が9.0以上」であるのに対し、甲1-1発明はその糖度が明らかでない点。
相違点1-3;本件発明1は、野菜果実混合飲料が含有するのは「柑橘果実の果皮加工物」であるのに対して、引用発明1-1は「市販のルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるルビーレッドグレープフルーツの固形物」であって、該固形物に果皮が含まれるか明らかでない点。

事案に鑑み、相違点1-3について検討すると、甲1の摘記1-1(特に、請求項6)には、ジュース飲料が、果物又は野菜に由来する固形物として、「顕感固形物、沈降固形物、小胞、仕上げ剤由来固形物、果肉、袋、果皮(pericarp)、膜、セルロース系材料、均質化果肉、搾りかす、果皮(peel)、およびそれらの組み合わせ」から選ばれる固形物を含有することが記載されているが、甲1に記載されたジュース飲料は固形分として柑橘果実の果皮(peel)を必須成分として含有するとは記載されていない。摘記1-2及び1-3を考慮しても、甲1において「果物または野菜に由来する固形分」では、非限定的に「果皮からの材料、種子、膜、セルロース系材料、および典型的には仕上げ工程でジュースから除去される、噛み応えのある果肉(bitable fruit pulp)、果物の小胞(fruit vesicles)、および/または果物の嚢(fruit sac)などの知覚可能な果肉」が列挙されているにとどまる。
また、甲1の実施例3(摘記1-4)には、「ルビーレッドグレープフルーツの固形物」として「ルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物」を含有するジュース飲料が記載されており、該遠心分離固形物を得るために用いたルビーレッドグレープフルーツジュースは、「市販のルビーレッドグレープフルーツジュース(トロピカーナ、フロリダ州ブレーデントン)を遠心分離することによって調製」されたものであることが記載されている。ここで、市販のグレープフルーツジュースに含まれる典型的な固形分は、果肉(pulp)、小胞(vesicle)、又は嚢(sac)などであることが技術常識といえ、わざわざ、果皮(peel)に由来する固形分を必ず含ませるとは認められない。
なお、甲1-1発明は、「オレンジ果皮を含むスパイス1体積%」を含有するものであるが、当該飲料においてスパイスは1体積%と微量しか含まれておらず、さらに、オレンジ果皮以外の他の成分も含むスパイスであるから、オレンジ果皮が含まれる量は極めて微量であると認められる。そうすると、当該スパイス又はスパイス中のオレンジ果皮は、実質的に、本願発明の「柑橘果実の果皮加工物」であるとは認められない。
したがって、相違点1-3は実質的な相違点であるから、相違点1-1、1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明であるとはいえない。本件発明1を直接、間接に引用する本件発明2?5に関しても同様に、甲1-1発明ではない。
また、甲2には、果汁含有飲料の糖酸比は「特に15.0?25.0であるのが好ましい」(段落0010)こと、甲3には、「柑橘類ジュース濃縮物又は柑橘類飲料の糖(°Brix)対酸の比は、感覚的に重要である。糖対酸の比は約10:1?約30:1が好ましい。約12:1から約20:1の糖対酸の比が最も好ましい。」(第12頁第19?23行。訳文で示す。)ことが記載されているが、これらの記載を考慮しても、本件発明1?5は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)本件発明6について
本件発明6と甲1-2発明とを対比すると、「トマト水(糖度(Brix):5.0°)」と「市販のルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるルビーレッドグレープフルーツの固形物」はそれぞれ「野菜」と「果物」由来の成分であるから、甲1-2発明の「飲料の製造方法」は、本件発明6の「野菜果実混合飲料(但し、含有する果皮加工物が果皮の水抽出物のみであるものを除く。)の製造方法」に相当する。同様に、「トマト水(糖度(Brix):5.0°)」と「市販のルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるルビーレッドグレープフルーツの固形物」を調合する工程は、本件発明6の「調合:ここで調合されるのは、野菜汁及び果汁」との工程に相当する。
したがって、両者は「野菜果実混合飲料(但し、含有する果皮加工物が果皮の水抽出物のみであるものを除く。)の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程である:
調合:ここで調合されるのは、野菜汁及び果汁である。」という点で一致し、下記の点で相違する。


相違点6-1;本件発明6は「これによって得られる野菜果実混合飲料の糖酸比は、14.0乃至17.0」であるのに対し、甲1-2発明はその糖酸比が明らかでない点。
相違点6-2;本件発明6は「その糖度が9.0以上」であるのに対し、甲1-2発明はその糖度が明らかでない点。
相違点6-3;本件発明6は、調合工程において、野菜汁及び果汁に加えて、「柑橘果実の果皮加工物」を調合するのに対して、引用発明1-2において調合されるのは「市販のルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるルビーレッドグレープフルーツの固形物」であって、該固形物に果皮が含まれるか明らかでない点。で相違する。

事案に鑑み、相違点6-3について検討すると、上記アで検討したとおり、「市販のルビーレッドグレープフルーツジュース(トロピカーナ、フロリダ州ブレーデントン)を遠心分離することによって調製」されたルビーレッドグレープフルーツ固形物に、当然に果皮が含まれているとは認められない。
したがって、相違点6-3は実質的な相違点であるから、相違点6-1、6-2について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1-2発明であるとはいえない。
また、上記(ア)で述べたのと同様に、甲2及び甲3の記載を考慮しても、本件発明6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、摘記1-1に関連し、甲1の請求項6の固形物として果皮が含まれるとの記載、並びに請求項9の固形物が柑橘類の固形物を含むとの記載を総合すれば、柑橘果実の果皮について開示されており、摘記1-4の実施例3のトマトとルビーレッドグレープを含んだ野菜と果実の混合飲料に含まれるルビーレッドグレープ固形物は、ルビーレッドグレープフルーツジュースからの遠心分離固形物であるから、当然に果皮を含んでいるとしている。
しかしながら、上記イで検討したとおり、「市販のルビーレッドグレープフルーツジュース(トロピカーナ、フロリダ州ブレーデントン)を遠心分離することによって調製」されたルビーレッドグレープフルーツ固形物に、当然に果皮が含まれているとは認められない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

3 小括
以上のとおり、取消理由で採用しなかった特許異議申立人が主張する特許異議申立理由によっても、本件特許を取り消すことはできない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-29 
出願番号 特願2016-7503(P2016-7503)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 みどり
黒川 美陶
登録日 2020-02-21 
登録番号 特許第6664835号(P6664835)
権利者 カゴメ株式会社
発明の名称 野菜果実混合飲料及びその製造方法  
代理人 塚副 成  

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