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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1372767
異議申立番号 異議2020-700939  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-02 
確定日 2021-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6702813号発明「複合基板、電子装置および電子モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6702813号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6702813号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年6月27日に出願され、令和2年5月11日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年12月2日に特許異議申立人茂木早苗は特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6702813号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
上面および下面を有する絶縁基板と、
該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、
前記絶縁基板の下面に接合されており、前記第1金属板よりも厚い第2金属板とからなる積層体を備えており、
該積層体が、平面視において矩形状であり、平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している複合基板。
【請求項2】
前記積層体の角部に近い部分における前記凸部の側面の勾配が、前記積層体の外周側において中央部側よりも大きい請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の複合基板と、
前記第1金属板上に搭載された電子部品とを備える電子装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電子装置と、
該電子装置が接合材を介して接合された外部部材とを備える電子モジュール。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人茂木早苗(以下、「異議申立人」という。)は、
甲第1号証:特開平9-246675号公報(以下「文献1」という。)、
甲第2号証:特開2006-19494号公報(以下「文献2」という。)、
甲第3号証:特開昭61-225047号公報(以下「文献3」という。)、
甲第4号証:特開2014-209539号公報(以下「文献4」という。)、
甲第5号証:特開2015-216349号公報(以下「文献5」という。)、
及び
甲第6号証:特許第6359455号公報(以下「文献6」という。)
を提出し、
(1)文献1を主たる証拠とし、文献4、文献5を従たる証拠として、請求項1、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、3に係る特許を取り消すべきものである。

(2)文献2を主たる証拠とし、文献4、文献5を従たる証拠として、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである。

(3)文献3を主たる証拠とし、文献1、文献2、文献4、文献5を従たる証拠として、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである。

(4)文献1、文献3、文献6を証拠として、請求項1ないし4の記載は明確でないから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
と主張している。

4 文献の記載
(1)文献1について
文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属回路を有するセラミックス回路基板及びその製造方法に関するものである。」

「【0002】
【従来の技術】近年、ロボットやモーター等の産業機器の高性能化に伴い、大電力・高能率インバーター等大電力モジュールの変遷が進んでおり、半導体素子から発生する熱も増加の一途をたどっている。この熱を効率よく放散させるため、大電力モジュール基板では従来より様々な方法が取られてきた。特に最近、良好な熱伝導を有するセラミックス基板が利用できるようになったため、基板上に銅板等の金属板を接合し、回路を形成後、そのままあるいはメッキ等の処理を施してから半導体素子を実装する構造も採用されつつある。」

「【0007】本発明の目的は、上記に鑑み、ヒートショックやヒートサイクルに対する耐久性を更に改善した金属回路を有するセラミックス回路基板及びその製造方法を提供することにある。」

「【0010】金属回路のパターン又は金属板とセラミックス基板とを接合する場合、全ての接合面が同じように接合するわけではなく、部分的に反応が早く始まるところと遅れるところがでてくる。その時、反応が早く始まったところと遅く始まったところとの間に引張や圧縮の応力がかかることとなり、それが接合時の残留応力となる。この引張又は圧縮の応力がかかった部分は、その応力の大小に応じて部分的に変形が生じうねりとなって残る。うねりが大きいということは、大きな残留応力の存在を意味し、うねりの状態を調べることによって残留応力の大小を知ることができる。」

「【0012】本発明においては、うねり量は0であることが最も望ましいが、単位長さ10mmあたりの変形量がいかなる個所においても30μm以下であれば、ヒートショックやヒートサイクルに対する耐久性に及ぼす残留応力の影響を無視することができる。また、うねりの最大値(頂点)を示す位置についても、ヒートショックやヒートサイクルに対する耐久性に関係しており、本発明においては、その位置は回路基板の中央付近であることが望ましい。具体的には、回路基板の長手(x軸)方向の長さをL、それとの交差方向(y軸)の長さをWとし、回路基板の中央を原点とした座標を設定した場合 に、うねりの最大値を示す位置が、-L/4≦x≦L/4、-W/4≦y≦W/4の範囲にあることが必要である。これ以外のところにうねりの最大値を示す位置があると、そのうねり量がたとえ上記の値を満たしていても、回路基板全体の形状が不安定となり、ヒートショックやヒートサイクルに対する耐久性の更なる改善は望めなくなる。」

「【0015】本発明において、うねり矯正は機械的な力を加えることよって行われ、その具体的な方法は、セラミックス基板と金属板及び/又は金属回路との接合体の上下面をローラーで挟みローラーを転がして矯正する方法、ショットブラスト等で表面に微粒を叩き付ける方法等がある。」

「【0022】実施例1
窒化アルミニウム粉末96重量部、イットリア4重量部、オレイン酸2重量部を振動ミルにて予備混合した後、エチルセルロース8重量部、グリセリントリオレート3重量部及び水12重量部を配合しミキサーで混合を行った。これを成型速度1.0/分、成型圧力55?70kg/cm^(2)にて押出成型し、遠赤外線にて120℃、5分間乾燥を行った後、480℃で10時間空気中にて脱脂を行い、1920℃で30分間焼成を行った。得られた窒化アルミニウム焼結体は、表面をホーニング処理して清浄化した後、60mm×36mm×0.65 mmの窒化アルミニウム基板に加工した。」

「【0024】次いで、表面には60mm×36mm×0.3mmの厚みをもつ銅板を、また裏面には60mm×36mm×0.15mmの厚みを持つ銅板を接触配置してから、真空度1×10^(-5)Torr以下の真空下、温度880℃で30分加熱した後、2℃/分の降温速度で冷却して接合体を製造した。
【0025】得られた窒化アルミニウム基板と銅板との接合体の銅板上にUV硬化タイプのエッチングレジストをスクリーン印刷で塗布後、塩化第2銅溶液を用いてエッチング処理を行って銅板不要部分を溶解除去し、さらにエッチングレジストを5%苛性ソーダ溶液で剥離し た。このエッチング処理後の接合体には、銅回路パターン間に残留不要ろう材や活性金属成分と窒化アルミニウム基板との反応物があるので、それを温度60℃、10%フッ化アンモニウム溶液に10分間浸漬して除去した。」

「【0026】これを更にショットブラストによる機械的矯正を行って本発明の金属回路を有するセラミックス回路基板を製造した。」

「【0031】これら一連の処理を経て製作された回路基板について、うねりを測定し、更に放熱側から押した場合の3点曲げ強度を、スパン30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で測定した。また、気中、-40℃×30分保持後、25℃×10分間放置、更に125℃×30分保持後、25℃×10分間放置を1サイクルとして耐ヒートサイクル試験を行い、表面の銅回路又は裏面の銅板が剥離開始した回数を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0032】
【表1】



(注:回路基板の寸法は長さ60mm×幅36mmであるので、うねりの最大値を示す本発明の位置(最大値座標)は、-15≦x≦15、-9≦y≦9の範囲である。)」

ア 段落【0001】には、文献1に記載された技術が「金属回路を有するセラミックス回路基板」に関するものであることが記載されている。

イ 文献1では、段落【0002】に記載された「基板上に銅板等の金属板を接合し、回路を形成後、そのままあるいはメッキ等の処理を施してから半導体素子を実装する構造」を「改善」(段落【0007】)の対象としているから、文献1の「金属回路を有するセラミックス基板」も「半導体素子を実装する」ものと認められる。

ウ 段落【0012】より、「うねり量は0であることが最も望ましく、うねりの最大値(頂点)を示す位置は回路基板の中央付近であることが望ましい。」との技術的事項を読み取ることができる。

エ 段落【0022】、【0024】より、「60mm×36mmの窒化アルミニウム基板の表面に0.3mmの厚みをもつ銅板を、また裏面に0.15mmの厚みを持つ銅板を接合」することが読み取れる。

オ 段落【0032】【表1】(「注」含む)の実施例1より、「うねりの最大値を示す最大値座標(x,y)(mm)が(5,4)」であることを読み取ることができる。
よって、段落【0012】(座標の定義)、【0026】、【0031】、段落【0032】【表1】(「注」含む)より、「ショットブラストによる機械的なうねり矯正を行」って「製作された回路基板について、うねりを測定し」たところ、「長さ60mm×幅36mmである」「回路基板の長手(x軸)、それとの交差方向(y軸)、回路基板の中央を原点とした座標で」、「うねりの最大値を示す最大値座標(x,y)(mm)が(5,4)」であった、との技術事項が読み取れる。

したがって、上記「ア」ないし「オ」より、文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「半導体素子を実装するセラミックス回路基板であって、
うねり量は0であることが最も望ましく、うねりの最大値(頂点)を示す位置は回路基板の中央付近であることが望ましく、
60mm×36mmの窒化アルミニウム基板の表面に0.3mmの厚みをもつ銅板を、また裏面に0.15mmの厚みを持つ銅板を接合し、ショットブラストによる機械的なうねり矯正を行って製作された回路基板について、うねりを測定したところ、長さ60mm×幅36mmである回路基板の長手(x軸)、それとの交差方向(y軸)、回路基板の中央を原点とした座標で、うねりの最大値を示す最大値座標(x,y)(mm)が(5,4)であった、
金属回路を有するセラミックス回路基板。」

(2)文献2について
文献2には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、窒化珪素配線基板、特にパワー半導体モジュールに使用され、窒化珪素基板の一方の面に導電性回路板となる金属回路板を接合し、他方の面に放熱用金属板を接合した窒化珪素配線基板およびこれを用いた半導体モジュールに関するものである。」

「【0009】
そこで、本発明の目的は、窒化珪素配線基板に設けた貫通孔を用いてねじ止め等で締結 する構造において、貫通孔周囲のクラックや割れ発生を防止すると共に金属回路板等の接合時の反り量を低減し、放熱金属板と冷却用部材の接合強度、放熱効果を向上し、半導体モジュール稼動中の熱衝撃に強く、信頼性の高い窒化珪素配線基板並びに半導体モジュールを提供することを目的とする。」

「【0016】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。ただし、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
[実施例1]
図1は本発明の一実施例を示す窒化珪素配線基板1であり、図1(a)は上面図、図1(b)は底面図、また、図1(c)は側面図である。
窒化珪素基板11は、熱伝導率が80W/mK以上のものを用いており、その一方の面(上面)の中央部には、半導体素子を搭載するための回路パターン12が接合されており、この回路パターンは点線で示すように所定の回路板形状に加工されるが、ここでは単純に長方形状で示している。この回路パターン12の外周部には非回路形成部分15を挟んで回路パターン12を囲む外枠パターン13が接合されており、外枠パターン13の外周部には銅板が接合されていない縁部16がある。ここで回路パターン12と外枠パターン13は銅板からなり、本発明では両者を合わせて金属回路板と呼ぶ。一方、窒化珪素基板11の他方の面(下面)には、これも銅板からなる放熱金属板18が接合されており、放熱金属板18の外周部には同じく縁部19が設けられている。尚、金属回路板と放熱金属板ともに銅板に限るものではない。そして、外枠パターン13上であって窒化珪素基板11の四隅付近に外枠パターン13と窒化珪素基板11及び放熱金属板18を貫通する貫通孔14が設けられている。・・・(以下、省略)・・・」
【図1】

「【0017】
さて、窒化珪素配線基板1の回路パターン12、外枠パターン13、放熱金属板18および貫通孔14の製造方法としては、・・・(省略)・・・。
ここで、窒化珪素基板11の大きさは、幅45mm、長さ65mm、厚さ0.3mmであり、銅回路パターン12の大きさは、幅33mm、長さ48mm、厚さ0.5mm、外枠パターン13の大きさは、幅43mm(W1=4.0mm)mm、長さ63mm(W2=7.0mm)、厚さ0.5mm、非回路形成部15の幅は1.5mm、縁部16および19の幅は1.0mm、放熱銅板の大きさは、幅43mm、長さ63mm、厚さ0.4mmである。また、貫通孔の直径は6.0mmとした。また、20℃におけるヤング率が310GPaの窒化珪素基板と、130GPaの銅板がここでの窒化珪素配線基板の作製に用いられた。窒化珪素配線基板1のそりは表面粗さ計を用いて窒化珪素基板11の対角線上17で測定し、そのそりの大きさの最大値を対角線の長さで割った値をそり量とした。また、窒化珪素配線基板1を10個作製し、実際にトルクレンチを用いて15N・mで冷却部材へのボルトによるねじ止めを行い貫通孔14周辺のクラック等の発生有無について調べた。」


「【0025】
[実施例5]
図4に実施例5である窒化珪素配線基板4の上面図を示す。窒化珪素基板41上には中央に半導体素子を搭載するための銅回路パターン42が接合されている。その外周部の4辺には外枠銅パターン43a?43dが接合されており、外枠銅パターン43aと43cの窒化珪素配線基板4の四隅付近に窒化珪素配線基板4を放熱フィン等の冷却部材に接合するための貫通孔44が設けられている。銅回路パターン42と外枠銅パターン43a及 び43cの間に直線状に設けられた非回路形成部45a及び45cが窒化珪素配線基板4の縁部46まで繋がっている。また、窒化珪素配線基板4の底面は図1(b)に示す実施例1と同様の放熱銅板18を設けた構造とした。さらに、窒化珪素基板、銅回路パターン、放熱銅板、貫通孔の大きさも実施例1と同様とした。外枠銅パターン43a?43dの 面積の合計の窒化珪素基板の上面の全面積に対する割合は28%とした。窒化珪素配線基板4の作製方法は実施例1と同様とし、同様にそり量とクラック等の有無を測定した。」

【図4】


「【0027】
実施例5および実施例6では面積率28%の外枠銅パターンを設けているため、そり量はそれぞれ68μm/inchおよび70μm/inchと共に低い値となった。また、貫通孔部に外枠銅パターンが形成されているため、クラック等の発生もなかった。一方、図6に実施例5のそりの形状61および実施例6のそりの形状62を示す。実施例5では63aおよび63bの辺りに局所的に上に凸となる部分があるそりの形状61となっている。この凸となる部分は銅回路パターン42の端部に符合する。一方、実施例6では局所的な凹凸が目立たない比較的平坦なそりの形状62となっている。そりの形状に局所的な凹凸がある場合、その場所に応力が集中するため、窒化珪素配線基板の信頼性が低下する。また、放熱フィン等の冷却用部材への接合する際に、局所的な凹凸がある部分で密着性が悪くなり、接合の信頼性もまた放熱性も低下する。面積率20%以上の外枠銅パターンが形成されている場合でも、銅回路パターン42と外枠銅パターン43a及び43cの間に直線状に設けられた非回路形成部45a及び45cが窒化珪素配線基板4の縁部46まで繋がっている実施例5のような構造より、実施例6のように銅回路パターン52と外枠銅パターン53a?53dの間に直線状に設けられたいずれの非回路形成部55a?55dも直線状に窒化珪素配線基板5の縁部56までは繋がっていない構造とすることで、より好ましいそりの形状とすることができる。」

【図6】


ア 段落【0001】より、文献2に記載された技術事項は、「半導体モジュールに使用される窒化珪素配線基板」に関するものであることがわかる。

イ 段落【0025】には、実施例5について「窒化珪素配線基板4の底面は図1(b)に示す実施例1と同様の放熱銅板18を設けた構造とした。」、「窒化珪素基板、銅回路パターン、放熱銅板、貫通孔の大きさも実施例1と同様とした。」と記載されているから、段落【0025】における「窒化珪素基板41」の寸法・形状、「銅回路パターン42」の厚さ、「外枠パターン43」の厚さは、それぞれ、【0017】(実施例1)に記載された「窒化珪素基板11」の寸法・形状、「銅回路パターン12」の厚さ、「外枠パターン13」の厚さと同じであると認められる。
よって、段落【0017】、【0025】より、実施例5について、「窒化珪素基板41上には中央に半導体素子を搭載するための銅回路パターン42が接合され、その外周部の4辺には外枠銅パターン43a?43dが接合され」、「窒化珪素配線基板4の底面は放熱銅板18を設け」、「窒化珪素基板41の大きさは、幅45mm、長さ65mmであり、銅回路パターン42の厚さ0.5mm、外枠パターン43の厚さ0.5mm、放熱銅板の厚さ0.4mmであり、窒化珪素配線基板4のそりは窒化珪素基板41の対角線上17で測定し」た(窒化珪素配線基板の符号は「4」で統一した。)、との技術事項を読み取ることができる。

ウ 図6に示された「そりの形状61」をみると、「63a」および「63b」は、窒化珪素基板41の中心から対角線上17に沿って両端の角部方向にやや離れた位置に対応することが見て取れるから、図6及び段落【0027】より「そりの形状61は、窒化珪素基板41の中心から対角線上17に沿って両端の角部方向にやや離れた位置の辺りに局所的に上に凸となる部分がある」との技術事項を読み取ることができる。

したがって、文献2には、実施例5に着目して、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「半導体モジュールに使用される窒化珪素配線基板4であって、
窒化珪素基板41上には中央に半導体素子を搭載するための銅回路パターン42が接合され、その外周部の4辺には外枠銅パターン43a?43dが接合され、窒化珪素配線基板4の底面は放熱銅板18を設け、窒化珪素基板41の大きさは、幅45mm、長さ65mmであり、銅回路パターン42の厚さ0.5mm、外枠パターン43の厚さ0.5mm、放熱銅板の厚さ0.4mmであり、窒化珪素配線基板4のそりは窒化珪素基板41の対角線上17で測定し、
そりの形状61は、窒化珪素基板41の中心から対角線上17に沿って両端の角部方向にやや離れた位置の辺りに局所的に上に凸となる部分がある、
窒化珪素配線基板。」

(3)文献3について
文献3には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア「[発明の技術分野]
本発明は歩留を向上させたセラミックス回路基板の製造方法に関する。」(第1頁左下欄第20行-同頁右上欄第2行)

イ「[発明の技術的背景とその問題点]
近年、セラミックス回路基板の製造方法として、セラミックス基板の所定位置に回路を構成する銅板を接触配置させ、酸素を含むガス雰囲気中で銅の融点1083℃以下、銅-酸素の共晶温度で1065℃以上に加熱、あるいは酸素を含有する銅板を使用して非酸化性雰囲気中で同様に加熱させることにより両者を直接接合させる方法が検討されている。
この方法は非常に簡便であるという利点があるが、セラミックス基板と銅板との接合面にセラミックス基板あるいは銅板から発生したガスが密閉されて銅板の一部に微小なふくれが生じ、接合が不充分な箇所が発生することがあった。このようなふくれはふくれの高さが30μm以下であれば半導体シリコンチップの搭載が可能で、基板の特性上も問題ないが、ふくれの高さが30μm以上に大きくなるとふくれの上部が凸状を呈しているため半導体シリコンチップの搭載が困難になり、製品の歩留りが低くなるという問題があった。また、搭載できても密着が良くないので熱伝導性が悪くなるということも問題となっていた。」(第1頁右上欄第3行-第2頁左上欄第4行)

ウ「[発明の目的]
本発明はこのような問題を解消するためなされたもので、セラミックス回路基板の銅板の一部にみられていたふくれの高さが30μm以上のふくれの上部を平坦化し、あるいはくぼみをもたせて半導体シリコンチップの搭載を可能ならしめ、製品の歩留りを向上させたセラミックス回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
[発明の概要]
すなわち本発明方法はセラミックス基板に銅板を接触配置し、1065?1083℃に加熱して両者を直接接合させたのち、銅板に加圧処理を施すことを特徴としている。」(第2頁左上欄第5-17行)

エ「本発明においてはセラミックス基板の所定位置に銅板を配置し、この状態で非酸化性雰囲気あるいは無酸素銅を使用した場合は酸化性雰囲気中で1065?1083℃、好ましくは1070?1075℃に加熱する。加熱時間は2?30分間が適切である。このようにして加熱したのち自然冷却して、あるいは熱いうちに100kg/cm^(2)以上に加圧する。加圧は、第2図の拡大断面図に示すように、セラミックス基板1に接合した銅板2にみられる凸状のふくれ3を低くし、第1図(a)に示すような上部が平坦なふくれ4、より好ましくは第1図(b)に示すような中央部にくぼみを有するやや凹状のふくれ5にして半導体シリコンチップの搭載を可能にするためである。なおふくれを凹状にすると、半導体シリコンチップを搭載したとき半導体シリコンチップのすわりが安定し、またふくれの中心部がセラミックス基板と密着しやすくなり熱伝導性が向上し、好ましい効果を奏する。」(第2頁右上欄第9行-第2頁左下欄第7行)

オ「実施例1
純度的96%のアルミナからなる、厚さ0.635mm面積25cm^(2)のセラミックス基板の両面に、タフピッチ電解銅からなる厚さ0.3mm、面積22cm^(2)の銅板を配置し、窒素雰囲気中で、1075℃×10分間の条件にて加熱し、自然冷却してセラミックス回路基板を得た。
このセラミックス回路基板の銅板には直径約5mm、高さ45μmのふくれ2個と直径約3mm、高さ35μmのふくれ1個が生じていた。このセラミックス回路基板はふくれ部分に半導体シリコンチップを搭載することができなかったが、等方加圧装置内に入れ、800℃、500kg/cm^(2)の条件で等方的に窒素ガスで加圧したところ、ふくれの高さはすべて10μm以下となり、ふくれ上部が凹状化したので、半田を使用してふくれ部分に半導体シリコンチップを搭載したところ、うまく固定された。また基板放熱特性も向上した。」(第2頁右下欄第6行-第3頁左上欄第3行)


上記「ア」ないし「オ」より、文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「セラミックス基板の両面に、厚さ0.3mm、面積22cm^(2)の銅板を配置し(「オ」より)、加熱させることにより両者を直接接合させると、セラミックス基板と銅板との接合面にセラミックス基板あるいは銅板から発生したガスが密閉されて銅板の一部に微小なふくれが生じ、接合が不充分な箇所が発生する(「イ」より)ので、ふくれの上部を平坦化し、あるいはくぼみをもたせて半導体シリコンチップの搭載を可能ならしめたセラミックス回路基板(「ウ」より)。」


(4)文献4について
文献4には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0024】
パワーモジュール用基板10は、絶縁基板11と、この絶縁基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、絶縁基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。」

「【0032】
ここで、図1に示すように、回路層12の厚さt_(1)と、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)との関係が、t_(1)<t_(2)とされている。
本実施形態では、回路層12の厚さt1が0.10mm≦t_(1)≦3.6mmの範囲内に設定され、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)が、0.15mm≦t_(2)≦5.4mmの範囲内に設定されており、回路層12の厚さt_(1)と、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)との関係がt_(2)/t_(1)≧1.5とされている。」
【図1】


よって、文献4には、次の技術(以下、「文献4に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「絶縁基板11と、この絶縁基板11の上面に配設された回路層12と、絶縁基板11の下面に配設された金属層13とを備え(【0024】)、回路層12の厚さt_(1)と、金属層13の厚さt_(2)との関係が、t_(1)<t_(2)とされている(【0032】)、パワーモジュール用基板10(【0024】)。」

(5)文献5について
文献5には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0054】
実施の形態8.
本発明の実施の形態8に係る半導体装置の製造方法を説明する。まず、絶縁基板を形成する。図19は、絶縁基板400の断面図である。基板402の上面に金属パターン404を形成し、基板402の下面に金属パターン404よりも厚い金属膜406を形成する。図19には、金属膜406の厚さT2が、金属パターン404の厚さT1より大きいことが示されている。金属パターン404と金属膜406は、高温で形成され、常温に戻ると縮む。金属膜406は、金属パターン404よりも厚いので、金属パターン404よりも大きな圧縮応力を基板402に及ぼす。その結果、絶縁基板400は、図20に示すように上に凸に反る。図20に示す絶縁基板400を形成する工程を準備工程と称する。」
【図19】

【図20】


したがって、文献5には、次の技術(以下、「文献5に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「基板402の上面に金属パターン404を形成し、基板402の下面に金属パターン404よりも厚い金属膜406を形成した絶縁基板400(【0054】)。」


5 進歩性についての当審の判断
(1)文献1を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1における「窒化アルミニウム基板」は「表面」と「裏面」を有しているから、本件発明1における「上面および下面を有する絶縁基板」に相当する。

b 引用発明1における「窒化アルミニウム基板の表面」に「接合」された「銅板」が、本件発明1における「該絶縁基板の上面に接合された第1金属板」に相当する。

c 引用発明1における「窒化アルミニウム基板」の「裏面」に「接合」された「銅板」が、本件発明1における「前記絶縁基板の下面に接合され」た「第2金属板」に相当する。

d 引用発明1における「窒化アルミニウム基板の表面に0.3mmの厚みをもつ銅板を、また裏面に0.15mmの厚みを持つ銅板を接合し」た「金属回路を有するセラミックス回路基板」と、本件発明1における「上面および下面を有する絶縁基板と、該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、前記絶縁基板の下面に接合されており、前記第1金属板よりも厚い第2金属板とからなる積層体」とは、「上面および下面を有する絶縁基板と、該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、前記絶縁基板の下面に接合された第2金属板とからなる積層体」の点で一致する。
しかしながら、本件発明1では、「前記第1金属板」よりも「第2金属板」が「厚い」のに対し、引用発明1では、「表面」に「接合」された「銅板」(第1金属板)よりも「裏面」に「接合」された「銅板」(第2金属板)が薄い点で相違する。

e 引用発明1における「金属回路を有するセラミックス回路基板」が「長さ60mm×幅36mm」であることが、本件発明1における「該積層体が、平面視において矩形状であ」ることに相当する。

f 本件発明1では、積層体が「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」のに対し、引用発明1では「うねりの最大値(頂点)を示す位置は回路基板の中央付近であることが望ましく」、「うねりを測定したところ、長さ60mm×幅36mmである回路基板の長手(x軸)、それとの交差方向(y軸)、回路基板の中央を原点とした座標で、うねりの最大値を示す最大値座標(x,y)(mm)が(5,4)であった、」ことが示されているにすぎず、金属回路を有するセラミックス回路基板(本件発明1における「積層体」に相当する。)の全体の湾曲形状が特定されていない点で相違する。

g 引用発明1における「金属回路を有するセラミックス回路基板」は、「窒化アルミニウム基板の表面に0.3mmの厚みをもつ銅板を、また裏面に0.15mmの厚みを持つ銅板を接合し」ている点で「複合」しているから、基板としては、本願発明1における「複合基板」に相当する。

上記「a」ないし「g」より、本件発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。
(一致点)
「上面および下面を有する絶縁基板と、
該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、
前記絶縁基板の下面に接合された第2金属板とからなる積層体を備えており、
該積層体が、平面視において矩形状である複合基板。」

(相違点1)
本件発明1では、「前記第1金属板」よりも「第2金属板」が「厚い」のに対し、引用発明1では、「表面」に「接合」された「銅板」(第1金属板)よりも「裏面」に「接合」された「銅板」(第2金属板)が薄い点。

(相違点2)
本件発明1では、積層体全体の湾曲形状が「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」のに対し、引用発明1では、回路基板(本件発明1における「積層体」に相当する。)の全体の湾曲形状が特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
引用発明1では「うねり量は0であることが最も望ましい」のであって、うねり量を低減するため「ショットブラストによる機械的なうねり矯正を行って」「回路基板」を「製作」しているのである。
したがって、引用発明1において、回路基板(積層体)を積極的に湾曲させ、回路基板(積層体)全体の湾曲形状が「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記回路基板(積層体)の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」ようにすることは、当業者に動機付けられないことである。
また、回路基板(積層体)全体の湾曲形状を上記相違点2に係る本件発明1のようにすることは、文献4、文献5に記載も示唆もされていない。

(ウ)まとめ
よって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、文献1に記載された発明及び文献4、文献5に記載された技術に基いて当業者が容易になし得たものではない。

イ 本件発明3について
本件発明3に係る「電子装置」は、本件発明1と同じく「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」「積層体」を備えた発明であるから、上記「ア」「(イ)」「(ウ)」に示した理由と同様の理由により、文献1に記載された発明及び文献4、5に記載された技術に基いて当業者が容易になし得たものではない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1、3は、文献1に記載された発明及び文献4、5に記載された技術に基いて当業者が容易になし得たものではない。

(2)文献2を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
a 引用発明2における「窒化珪素基板」は「窒化珪素基板41上」の面と「底面」とを有するから、本件発明1における「上面および下面を有する絶縁基板」に相当する。

b 引用発明2における「窒化珪素基板41上」に「接合され」た、「『銅回路パターン42』と『その外周部の4辺』の『外枠銅パターン43a?43d』」(以下、「金属回路板」という。)が、本件発明1における「該絶縁基板の上面に接合された第1金属板」に相当する。

c 引用発明2では、「銅回路パターン42の厚さ0.5mm、外枠パターン43の厚さ0.5mm、放熱銅板の厚さ0.4mmであ」る。よって、引用発明2における「窒化珪素配線基板4の底面」に設けられた「放熱銅板18」は、その厚みが「金属回路板」より薄いから、本件発明1における「前記絶縁基板の下面に接合されており、前記第1金属板よりも厚い第2金属板」とは、「前記絶縁基板の下面に接合されている第2金属板」の点で一致する。
しかしながら、本件発明1では、「第2金属板」が「第1金属板」よりも「厚い」のに対し、引用発明2では、「放熱銅板18」は「金属回路板」より薄い点で相違する。

d 引用発明2における「窒化珪素配線基板」は、「窒化珪素基板41上」に「接合された」「金属回路板」と、「窒化珪素配線基板4の底面」に設けられた「放熱銅板18」とを有しているから、積層体であることは明らかであって、本件発明1における「絶縁基板と、該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、前記絶縁基板の下面に接合され」た「第2金属板とからなる積層体」に相当する。

e 引用発明2における「窒化珪素基板41の大きさは、幅45mm、長さ65mmであ」る。よって、引用文献2の図4を見るまでもなく、引用発明2における「窒化珪素配線基板」は「幅45mm、長さ65mm」の矩形状の平面視形状を有していることは明らかであって、本件発明1における「該積層体が、平面視において矩形状であ」ることに相当する。

f 本件発明1では、積層体が「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」のに対し、引用発明2における「窒化珪素配線基板41」では、「窒化珪素配線基板4のそりは窒化珪素基板41の対角線上17で測定し、そりの形状61は、窒化珪素基板41の中心から対角線上17に沿って両端の角部方向にやや離れた位置の辺りに局所的に上に凸となる部分がある」ものの、「窒化珪素配線基板4」の全体のそりの形状がどのようなものであるか、不明である点で相違する。

g 引用発明2における「窒化珪素配線基板」が、本件発明1における「複合基板」に相当する。

上記「a」ないし「g」より、本件発明1と引用発明2とは、次の一致点、相違点を有するものと認められる。

(一致点)
「上面および下面を有する絶縁基板と、
該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、
前記絶縁基板の下面に接合されている第2金属板とからなる積層体を備えており、
該積層体が、平面視において矩形状である、
複合基板。」

(相違点3)
本件発明1では、「第2金属板」が「第1金属板」よりも「厚い」のに対し、引用発明2では、「放熱銅板18」は「金属回路板」より薄い点。

(相違点4)
本件発明1では、積層体全体の湾曲形状が「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」のに対し、引用発明2では、「窒化珪素配線基板4」の全体のそりの形状がどのようなものであるか、不明である点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず相違点4について検討する。
引用発明2は「金属回路板等の接合時の反り量を低減」することを目的とし(文献2の段落【0009】参照。)、「そりの形状に局所的な凹凸がある場合」は「冷却用部材への接合する際に」「密着性が悪くなり、接合の信頼性もまた放熱性も低下する」(文献2の段落【0027】参照。)との認識が示されている発明である。
よって、引用発明2において、窒化珪素配線基板(積層体)を積極的に湾曲させ、窒化珪素配線基板(積層体)全体の湾曲形状が「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記窒化珪素配線基板(積層体)の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」ようにすることは、当業者に動機付けられないことである。
また、配線基板(積層体)全体の湾曲形状を上記相違点4に係る本件発明1のようにすることは、文献4、文献5に記載も示唆もされていない。

(ウ)まとめ
よって、本件発明1は、相違点3について検討するまでもなく、文献2に記載された発明及び文献4、文献5に記載された技術に基いて当業者が容易になし得たものではない。

イ 本件発明2ないし4について
本件発明2に係る「複合基板」、本件発明3に係る「電子装置」、及び本件発明4に係る「電子モジュール」は、本件発明1と同じく「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」「積層体」を備えた発明であるから、上記「ア」「(イ)」「(ウ)」に示した理由と同様の理由により、文献2に記載された発明及び文献4、5に記載された技術に基いて当業者が容易になし得たものではない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4は、文献2に記載された発明及び文献4、5に記載された技術に基いて当業者が容易になし得たものではない。

(3)文献3を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明3とを対比する。
a 引用発明3における「セラミックス基板」は、「両面」を有するから、本件発明1における「上面および下面を有する絶縁基板」に相当する。

b 引用発明3における「セラミックス基板の両面」に「接合」された「銅板」と、本件発明1における「該絶縁基板の上面に接合された第1金属板」及び「前記絶縁基板の下面に接合されており、前記第1金属板よりも厚い第2金属板」とは、「該絶縁基板の上面に接合された第1金属板」及び「前記絶縁基板の下面に接合された第2金属板」の点で共通する。
しかしながら、本件発明1における「第2金属板」は「第1金属板」よりも「厚い」のに対し、引用発明3における「セラミックス基板の両面」に「接合」された「銅板」は等しい厚さである点で相違する。

c 引用発明3における「セラミックス回路基板」は、「セラミックス基板の両面に」「銅板」を「接合」しているから、積層体であって、本件発明1における「上面および下面を有する絶縁基板と、該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、前記絶縁基板の下面に接合され」た「第2金属板とからなる積層体」に相当する。

d 本件発明1では「該積層体が、平面視において矩形状であ」るのに対し、引用発明3における「セラミックス回路基板」は「積層体」(上記「c」参照。)であるものの、平面視における形状が不明である点で相違する。

e 本件発明1では、積層体が、「該積層体が、平面視において矩形状であり、平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」のに対し、引用発明3の「セラミックス回路基板」では、「銅板」に「ふくれが生じ」ているものの、「セラミックス回路基板」が湾曲することは示されていない点で相違する。

f 引用発明3における、「両面」に「銅板」が「接合」された「セラミックス回路基板」が、本件発明1における「複合基板」に相当する。

上記「a」ないし「f」より、本件発明1と引用発明3とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。
(一致点)
「上面および下面を有する絶縁基板と、
該絶縁基板の上面に接合された第1金属板と、
前記絶縁基板の下面に接合された第2金属板とからなる積層体を備えている、
複合基板。」

(相違点5)
本件発明1における「第2金属板」は「第1金属板」よりも「厚い」のに対し、引用発明3における「セラミックス基板の両面」に「接合」された「銅板」は等しい厚さである点。

(相違点6)
本件発明1では、積層体全体における湾曲形状が、「該積層体が、平面視において矩形状であり、平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」のに対し、引用発明3では「セラミックス回路基板」の平面視における形状が不明であるだけでなく、「セラミックス回路基板」が湾曲することも示されていない点。

(相違点7)
本件発明1では「該積層体が、平面視において矩形状であ」るのに対し、引用発明3における「積層体」は、平面視における形状が不明である点。

(イ)判断
事案に鑑みて、まず、相違点6について検討する。
引用発明3は、「セラミックス基板と銅板との接合面にセラミックス基板あるいは銅板から発生したガスが密閉されて銅板の一部に微小なふくれが生じ、接合が不充分な箇所が発生するので、ふくれの上部を平坦化し、あるいはくぼみをもたせて半導体シリコンチップの搭載を可能ならしめた」ものである。
したがって、「セラミックス回路基板」全体の変形に基づく問題点は何ら認識されていないのであるから、「セラミックス回路基板」の「うねり」や「そり」に基づく問題点を解決課題とする文献1、文献2に記載された発明を適用する余地はない。
また、引用発明1、引用発明2に、本件発明1の積層体全体における上記湾曲形状が記載されていないことは、上記「(1)」「ア」「(ア)」、「(2)」「ア」「(ア)」に記載したとおりであるから、仮に引用発明1、引用発明2を引用発明3に適用したとしても、相違点6に係る本件発明1の構成とはならない。
さらに、文献4、文献5にも、本件発明1の積層体全体における上記湾曲形状は記載も示唆もされていない。

(ウ)まとめ
よって、相違点5及び7について検討するまでもなく、本件発明1は、文献3に記載された発明及び文献1、文献2、文献4、文献5から当業者が容易になし得たものではない。

(4)進歩性についてのまとめ
以上のとおり、文献1を主たる証拠とし、文献4、文献5を従たる証拠としても、請求項1、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
また、文献2を主たる証拠とし、文献4、文献5を従たる証拠としても、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
さらに、文献3を主たる証拠とし、文献1、文献2、文献4、文献5を従たる証拠としても、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

6 進歩性(特許法第29条第2項)についての異議申立人の主張について
(1)異議申立人は、文献1には「1-D)該積層体が、・・・平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記接合部の角部に近い部分において他の部分よりも上方に位置している」事項が記載されていることを前提として、請求項1、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、3に係る特許を取り消すべきものであると主張している。
しかしながら、異議申立人の主張の根拠は、文献1の段落【0032】の「表1」に「回路基板の寸法」が「長さ60mm×幅36mm」である場合に、「うねり」が最大となる位置が(5mm,4mm)であって、回路基板の中心(0mm,0mm)から外れている点にあるが、「うねり」が最大となる1点の位置データのみから、引用発明1における基板全体の湾曲形状が、「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」ことを導き出すことはできない。
よって、異議申立人の主張は、前提が誤っており、採用できない。

(2)異議申立人は、文献2には「該積層体が、・・・平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上方に位置している」事項が記載されていることを前提として、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものであると主張している。
しかしながら、文献2において「窒化珪素配線基板4のそりは窒化珪素基板41の対角線上17で測定し」ているにすぎず、該対角線上のデータだけでは、窒化珪素配線基板4全体が、いったいどのように反っているのか特定することはできない。また、文献2の窒化珪素配線基板4において、「窒化珪素基板41の中心から対角線上17に沿って両端の角部方向にやや離れた位置の辺りに局所的に上に凸となる部分がある」ことが測定されたとしても、この測定結果のみから配線基板全体が「平面視における中央部と外周部との間の中間部において上方向に湾曲した凸部を有しており、前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」と結論付けることもできない。
よって、異議申立人の主張は、前提が誤っており、採用できない。

7 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
(1)異議申立人は、本件発明1には「平面視における中央部と外周部との間の中間部」と記載されているが、本件特許発明1の記載からは、「中央部」、「外周部」、「中間部」が、それぞれ積層体のどこであるのか、明確でない、と主張している。
しかしながら、本件発明1は、積層体全体における湾曲の形状に関して、「上方向に湾曲した凸部」が、「平面視における中央部と外周部との間の中間部」にあることを特定した発明であるから、「中央部」、「外周部」、「中間部」がそれぞれ具体的に積層体のどこであるかは、本件発明1の特定とは無関係な事項である。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

(2)異議申立人は、本件発明1には、「前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」と記載されているが、「前記積層体の角部に近い部分」は、どの程度をもって「近い」とされているのか明確でなく、また、「近い」とは、絶対的に近いことを意味するのか、相対的に近い(「角部」から「近い部分」までの距離と「角部」から「他の部分」までの距離を比較して近い)ことを意味するのか、複数の解釈が採り得るため、明確で無いと主張している。
しかしながら、請求項1では、「上方向に湾曲した凸部」が「中間部」にあることを前提として、「前記凸部の上端が、前記積層体の角部に近い部分において他の部分よりも上側に位置している」と記載されているのであるから、「近い」の「程度」や、「近い」の定義が絶対的なものか相対的なものかといったことは、本件発明1の特定に必要のない事項である。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。

(3)異議申立人は、「積層体が、・・・上方向に湾曲した凸部を有し・・・」との記載について、甲3発明のように、積層体の厚み方向の一部のみが湾曲して凸部を構成しても良いのか、積層体の厚み方向の全体が湾曲して凸部を構成するのか、明確で無いと主張している。
しかしながら、特許請求の範囲の記載が明確であるか否かと、特定の形態が本件特許の技術的範囲に含まれるか否かとは次元の異なる問題であるから、異議申立人が提示するような仮想事例についてまで、逐一、特許請求の範囲に含まれるか否かを記載しなければならないものではない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

(4)異議申立人は、「本件特許発明1に記載された『凸部』は、どの程度の凸部であるのか、明確でない。例えば、甲1発明に記載されたように、一般的に、接合体には、反応タイミングの差によりうねりが生じる。また、甲6号証に記載されたように、一般的に、半導体基板には、うねりが存在する。しかし、これらのうねりでは、例えば本件特許の段落【0028】に記載されたような、実装時に積層体全体を平坦にするような変形を生じさせる効果が得られないことは明らかである」と主張している。
ここで、甲6号証には、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「【0023】
本発明の半導体回路基板は、導体部の半導体素子搭載部の表面粗さが算術平均粗さRaで0.3μm以下であり、十点平均粗さRzjisで2.5μm以下であり、最大高さRzで2.0μm以下であり、かつ算術平均うねりWaが0.5μm以下、であることを特徴とするものである。」
「【0025】
導体部の半導体素子搭載部の表面粗さが算術平均粗さRaで0.3μm以下であり、十点平均粗さRzjisで2.5μm以下であり、最大高さRzで2.0μm以下であり、かつ算術平均うねりWaが0.5μm以下であるということは、導体部の半導体素子搭載部の平坦性が非常に優れていることを意味する。」
よって、甲第6号証には「半導体回路基板は、導体部の半導体素子搭載部の表面の粗さ、最大高さ、うねりが小さく、平坦性が非常に優れている」ことが記載されている。

そこで検討すると、本件発明1は「凸部」の有る領域と「凸部の上端」の位置とを特定したことに特徴を有する発明であるから、「凸部」の高さの程度は本件発明1の前記特徴とは無関係である。
また、甲第1号証、甲第6号証の記載は、回路基板の表面の粗さ、最大高さ、うねりが小さく、平坦性が非常に優れていることが望ましいこと示しているにすぎないから、上記本件発明1の前記特徴についての記載が不明確であるとする根拠にはならない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

(5)以上のとおり、本件における特許を受けようとする発明(本件発明1ないし本件発明4)は明確であって、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものである。
よって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

8 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-30 
出願番号 特願2016-126713(P2016-126713)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 和俊  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 清水 稔
畑中 博幸
登録日 2020-05-11 
登録番号 特許第6702813号(P6702813)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 複合基板、電子装置および電子モジュール  
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