• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61F
審判 全部無効 2項進歩性  A61F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61F
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61F
管理番号 1372976
審判番号 無効2017-800084  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-06-30 
確定日 2021-02-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5433762号発明「創傷被覆材用表面シートおよび創傷被覆材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5433762号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-19]について訂正することを認める。 特許第5433762号の請求項1?5、8、14?19に係る発明についての特許を無効とする。 特許第5433762号の請求項6、7、9?13に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その19分の7を請求人の負担とし、19分の12を被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る主な手続の経緯を以下に示す。
平成23年 5月31日 原特許国際出願(特願2012-518387号(優先権主張、平成22年6月1日、日本国、優先権主張番号:特願2010-126338号)
平成24年10月24日 本件特許出願(特願2012-234412号)
平成25年11月 8日 意見書(甲第10号証)及び手続補正書
平成25年12月13日 設定登録(特許第5433762号)
平成29年 6月30日 本件審判請求
平成29年11月 6日 答弁書、訂正の請求
平成30年 1月11日付け 審理事項通知
平成30年 2月 1日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成30年 2月22日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成30年 3月22日 第1回口頭審理
平成30年 6月29日 審決予告
平成30年 8月 3日 上申書(請求人)
平成30年 9月 4日 訂正の請求、上申書(被請求人)
平成30年10月31日 審尋(被請求人)
平成30年12月 4日 弁駁書
平成30年12月 5日 回答書(被請求人)

なお、平成29年11月6日になされた訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。

以下、「審判請求書」を「請求書」と略記し、「口頭審理陳述要領書」を「要領書」と略記する。また、「甲第1号証」、「乙第1号証」等をそれぞれ「甲1」、「乙1」等と略記する。


第2.訂正請求について
1.訂正の内容
平成30年 9月 4日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されていない」とあるのを、
「上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されておらず、上記の貫通孔(13)の深さが100?2000μmであり、上記の貫通孔(13)が50?400個/cm^(2)の密度で存在する」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?19も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に、
「上記のシート材は、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成してある」とあるのを、
「上記のシート材は、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成し、前記の貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当する」と訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7?19も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に、
「上記の吸収保持層(3)の、創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさらに備え、この保護層(4)は、樹脂フィルム、織布、編布もしくは不織布からなる」とあるのを、
「上記の吸収保持層(3)の、創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさらに備え、この保護層(4)は、樹脂フィルム、織布、編布もしくは不織布からなり、
上記の貫通孔は、上記の第1表面から上記の第2表面に向かって減少する孔径を有し、上記の開孔率が15?60%であり、上記の貫通孔の深さが100?2000μmであり、上記の貫通孔が50?400個/cm^(2)の密度で存在し、上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し、上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10?19も同様に訂正する)。

2.一群の請求項
訂正事項1に関し、本件訂正前の請求項2?19は、請求項1を直接又は間接的に引用し、訂正事項2に関し、前記請求項7?19は、前記請求項6を直接又は間接的に引用し、訂正事項3に関し、前記請求項10?19は、前記請求項9を直接又は間接的に引用しているところ、本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?19は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1?3による訂正は当該一群の請求項1?19に対し請求されたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載の「貫通孔(13)」について、「貫通孔(13)の深さが100?2000μmであり、上記の貫通孔(13)が50?400個/cm^(2)の密度で存在する」ことを限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記「上記の貫通孔(13)の深さが100?2000μmであり」及び「上記の貫通孔(13)が50?400個/cm^(2)の密度で存在し」という事項は、各々、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0031】の「上記の貫通孔(13)の深さ、即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法としては、概ね100?2000μmが好ましく」との記載及び段落【0030】の「また上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項6が直接または間接的に引用する請求項1に記載の「貫通孔(13)」について、「貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当する」ことを限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記「貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当する」という事項は、本件特許明細書の段落【0028】の「上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280?1400μmの円形に相当することが好ましい。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項9が直接または間接的に引用する請求項1に記載の「貫通孔」が、「上記の第1表面から上記の第2表面に向かって減少する孔径を有し、上記の開孔率が15?60%であり、上記の貫通孔の深さが100?2000μmであり、上記の貫通孔が50?400個/cm^(2)の密度で存在し、上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し、上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」ことを限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記「上記の第1表面から上記の第2表面に向かって減少する孔径を有し」、「上記の開孔率が15?60%であり」、「上記の貫通孔の深さが100?2000μmであり」、「上記の貫通孔が50?400個/cm^(2)の密度で存在し」及び「上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し、上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」という事項は、各々、本件特許明細書の段落【0027】の「上記の貫通孔(13)は、円筒状、樽状、鼓状等、任意の形状を採用することができるが、例えば図1と図2に示すように、第1表面(11)側から第2表面(12)に向かって徐々に孔径が小さくなる「傾斜孔」であると好ましい。」との記載、段落【0030】の「さらに、第1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては、15?60%であることが好ましい。」との記載、段落【0031】の「上記の貫通孔(13)の深さ、即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法としては、概ね100?2000μmが好ましく」との記載、段落【0030】の「また上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく」との記載及び段落【0032】の「上記の貫通孔(13)の密度、開孔率および深さを、それぞれ上記の好ましい範囲とすることによって、創傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成でき、創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに、滲出液が創傷部位の表面内方向に広がることを防止できる。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項並びに第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正を認める。


第3.本件発明について
本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項1?19に係る発明(以下、「本件発明1?19」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材であって、
創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを直接積層してなり、
上記の透液層(1)は、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有し、
上記の貫通孔(13)は開孔率が3.07%以上であって、上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、
上記の第1表面(11)が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり、
上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有する創傷被覆材において、
上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されておらず、
上記の貫通孔(13)の深さが100?2000μmであり、
上記の貫通孔(13)が50?400個/cm^(2)の密度で存在することを特徴とする創傷被覆材。
【請求項2】
上記の第1表面(11)における生理食塩水との接触角が85度以上である、請求項1に記載の創傷被覆材。
【請求項3】
上記の第1表面(11)における表面張力が40dyne/cm以下である、請求項1または2に記載の創傷被覆材。
【請求項4】
上記の第1表面(11)は、シリコーン、ポリウレタン、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる1以上の撥水性物質により被覆してある、請求項1?3のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項5】
上記のシート材は、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂材料を用いて形成してある、請求項1?4のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項6】
上記のシート材は、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成し、
前記の貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当する、請求項1?4のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項7】
上記の第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法は100?2000μmであり、
前記の貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当し、上記の第2表面(12)での開口面積が上記の第1表面(11)での開口面積より小であり、50?400個/cm^(2)の密度で存在する、請求項1?6のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項8】
上記の吸収保持層(3)の、上記の透液層(1)とは反対側に、第1の透液層(1)と同一構成の第2の透液層(1a)がさらに積層してある、請求項1?7のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項9】
上記の吸収保持層(3)の、創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさらに備え、この保護層(4)は、樹脂フィルム、織布、編布もしくは不織布からなり、
上記の貫通孔は、上記の第1表面から上記の第2表面に向かって減少する孔径を有し、上記の開孔率が15?60%であり、上記の貫通孔の深さが100?2000μmであり、上記の貫通孔が50?400個/cm^(2)の密度で存在し、上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し、上記の創傷部位の上に滲出液を保持する、請求項1?7のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項10】
上記の保護層(4)は他の全ての層を覆うとともに、この他の層より広い面積に形成されて、他の層の外側にはみ出した外縁部(6)を備えており、
上記の外縁部(6)は上記の他の層が積層された側の表面の少なくとも一部に粘着部(7)を有する、請求項9に記載の創傷被覆材。
【請求項11】
上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に粘着部(7)を有しない非粘着部(8)を備えている、請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項12】
上記の保護層(4)は、上記の他の層の外側に、上記の外縁部(6)が形成されていない部分を備えている、請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項13】
上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に、スリット(9)もしくは小孔を上記の他の層の外周に沿って備えている、請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項14】
前記の吸収保持層(3)はエアレイド不織布を用いて形成してある、請求項1?13のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項15】
前記の吸収保持層(3)はフラッフパルプを有する、請求項1?14のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項16】
前記の吸収保持層(3)はさらに高吸収性ポリマーを有し、この高吸収性ポリマーと上記のフラッフパルプとの重量比が10:90?25:75である、請求項15に記載の創傷被覆材。
【請求項17】
上記の高吸収性ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム系である、請求項16に記載の創傷被覆材。
【請求項18】
前記の吸収保持層(3)が、少なくとも創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備える、請求項1?17のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項19】
前記の創傷部位(15)と対面する側とは反対側の表面に粘着層(21)を有する、請求項1?18のいずれかに記載の創傷被覆材。


第4.当事者の主張の要旨及び証拠方法
1.請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)請求人の主張の要旨
請求人は、特許第5433762号の請求項1?19に係る特許は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。

(2)請求人が主張する無効理由
請求人が主張する無効理由は以下のとおりである。

1.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び同条第2項違反)
(1)無効理由1-1
本件発明1は、その特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由1-2
ア.本件発明1、4及び7?19は、その特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1?甲4、甲6及び甲7)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

イ.本件発明2は、その特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1?甲7)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

ウ.本件発明3は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲1?甲4、甲6、甲7及び甲8)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

エ.本件発明5は、その特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1?甲8)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

オ.本件発明6は、その特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1?甲4、甲6、甲7及び甲9)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2.無効理由2(特許法第29条の2違反)
本件発明1及び3は、実用新案掲載公報(甲6)に係る実用新案登録出願の願書に添付された明細書、実用新案登録請求の範囲、又は図面に記載された考案と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3.無効理由3(特許法第36条第6項第1号違反)
本件発明1における「開孔率が3.07%以上であって」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないため、本件発明1?19は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

4.無効理由4(特許法第36条第6項第2号違反)
本件発明1における「開孔率が3.07%以上であって」は、その上限が規定されておらず、「3.07%」の臨界的意義も不明であるため、本件特許の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確でなく、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?19に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

5.無効理由5(特許法第17条の2第3項違反)
本件発明1において、「開孔率が3.07%以上であって」とする補正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではなく、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?19に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3)証拠方法
請求人は、請求書に添付して甲1?13を、請求人要領書に添付して甲14?17を、弁駁書に添付して甲18?21を提出した。

甲1:特開2007-130134号公報
甲2:実願平1-117534号(実開平3-56429号)のマイクロフィルム
甲3:特開2008-113781号公報
甲4:国際公開第2008/004380号
甲5:特表2009-540988号公報
甲6:登録実用新案第3159787号公報
甲7:特開2010-131163号公報
甲8:安田武夫,プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果,プラスチックス,日本プラスチック工業連盟,2000年6月,51巻6号第119?127頁
甲9:特表2003-506151号公報
甲10:特願2012-234412号に係る意見書、株式会社瑞光、平成25年11月8日付け
甲11:特願2012-234412号に係る面接記録、特許庁、平成25年11月6日面接
甲12:特願2010-126338号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面、株式会社瑞光、平成22年6月1日付け
甲13:国際公開第2011/152368号
甲14:特表2001-515762号公報
甲15:特開平7-444号公報
甲16:特表2001-509690号公報
甲17:マグローヒル科学技術用語大辞典第2版,株式会社日刊工業新聞社,昭和60年3月25日,927頁及び1282頁
甲18:国際公開第2005/000372号
甲19:特表2005-510296号公報
甲20:特開2001-105504号公報
甲21:実願昭59-165357号(実開昭61-80018号)のマイクロフィルム

2.被請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)被請求人の主張の要旨
被請求人は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
(2)証拠方法
被請求人は、答弁書に添付して乙1?3を提出した。

乙1:特開平7-80020号公報
乙2:特開2008-113934号公報
乙3:特開2010-57787号公報


第5.無効理由についての当審の判断
1.主たる証拠等の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。
ア.「【請求項1】
上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって、
吸収層と、吸収層の被覆層とを有し、
下面側の被覆層は前記吸収層へ液体が移動可能なものとし、前記下面側被覆層の少なくとも傷接触表面は疎水性とし、上面側の被覆層は把持可能な摘みを有することを特徴とする傷手当用品。
【請求項2】
上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって、
吸収層と、吸収層の被覆層とを有し、
下面側の被覆層は積層構造とし、少なくとも傷接触表面側の層は疎水性樹脂層とし、かつ下面側の被覆層は前記吸収層へ液体が移動可能なものとし、上面側の被覆層は把持可能な摘みを有することを特徴とする傷手当用品。
・・・
【請求項15】
前記吸収層は、水吸収時にゲルを形成する物質を含むことを特徴とする請求項1?14のいずれか1項に記載の傷手当用品」
イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、傷の保護、治療に使用する傷手当用品に関する。特に、傷からの血液、滲出液等(以下、体液という。)を吸収するのに適する傷手当用品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱傷、褥瘡、及びその他の損傷の治療において、傷を保護し、傷からの体液を吸収するために、従来、ガーゼ、脱脂綿、吸収性繊維からなる層を含む多層構造のパッド等の傷手当用品が用いられている。
しかし、これらの傷手当用品は、体液を吸収し傷面が乾燥すると、傷面から除去する際に、傷面を傷つけ、痛みや出血を伴うことがあった。このような、剥離時の痛みや出血を低減するために種々の傷手当用品が提案されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、傷手当用品は、使用後に患部に痛みや出血を生じないように容易に除去できるようにすることは勿論のこと、使用の際に、適切な状態で患部に適用できるようにすることが衛生上重要である。
この発明は、上記のような点に鑑みてなされたもので、本発明の課題は、傷手当用品を患部に適用する際に、傷手当用品の傷接触表面を汚染することなく、簡単に傷手当用品を患部に適用し得る傷手当用品を提供することにある。」
ウ.「【0017】
また、前記請求項1?14のいずれか1項に記載の傷手当用品において、前記吸収層は、水吸収時にゲルを形成する物質を含むことが好ましい(請求項15)。これにより、創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進することができる。」
エ.「【0021】
図1に示すように、本実施形態の傷手当用品10は、傷手当用品の下面側に位置するシート状の被覆層20と、傷手当用品の上面側に位置するシート状の被覆層21と、これらの被覆層の間に介在させた吸収層40とを備えている。被覆層20下面側の表面は、傷接触表面となるシリコーンを含む疎水性樹脂層50と、これらの層を貫通する孔60が設けられ、傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになっている。
・・・
上記実施態様においては、下面側の被覆層20は疎水性樹脂層50を備え、下面側の被覆層を2層とするものについて述べたが、疎水性樹脂層50を設けずに被覆層を1層とする場合には、前述のように、被覆層20の少なくとも傷接触表面を疎水性とすることにより、傷手当用品を取り外す際に、傷手当用品を傷から容易に分離できる。・・・
【0022】
・・・
図3に示すように、第3の実施形態では、傷手当用品の上面側において、吸収層40の外側でシール部71により被覆層20と被覆層21とを互いに接合している。・・・
【0024】
図5は、本発明の第5の実施形態に係る傷手当用品の上面からみた斜視図である。
図5に示すように、第5の実施形態の傷手当用品10は、傷手当用品の下面側に位置するシート状の被覆層23と、傷手当用品の上面側に位置するシート状の被覆層24と、これらの被覆層の間に介在させた吸収層40とを備え、一方向に連続する長尺物としてロール状に構成したものである。
被覆層23下面側の表面は、傷接触表面となるシリコーンを含む疎水性樹脂層50と、これらの層を貫通する孔60とが設けられ、傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになっている。
・・・」
オ.「【0028】
次に、被覆層20?26について述べる。被覆層は、吸収層の外形を被覆し得るものであればよく、1枚又はそれ以上のシートから形成することができ、適当な位置で互いに接合し吸収層を被覆することができる。被覆層は、吸収した体液が漏れないように、吸収層の外形全体を被覆することが好ましいが、部分的に吸収層を被覆していない部分があっても良い。
以下に、被覆層の所要特性、機能等について述べる。まず、疎水性について述べる。被覆層下面側の少なくとも傷接触表面は疎水性を有する。疎水性とするためには、被覆層自体を疎水性の材料で形成しても良いし、被覆層とは別の疎水性樹脂層を塗工する等して被覆層を積層構造とし、その表面を疎水性にしても良い。傷手当用品を傷から容易に分離するためには、被覆層のこの疎水性の表面は、水との接触角が65°以上であることが好ましく、90°以上であることが更に好ましい。接触角の測定は、接触角計CA-A(協和界面科学社製)を使用して該接触角計の取扱説明書「液滴法測定操作」に準拠して測定することができる。
【0029】
次に、液体の移動について述べる。被覆層のこの疎水性の表面は、吸収層へ体液などの液体が移動し得るように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには、メッシュ、穿孔フィルム等のプラスチックシートや、編布、織布、不織布等の液体透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形成する場合は、被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層を塗工するか、疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち抜けば良い。」
カ.「【0032】
次に、被覆層の材料について述べる。被覆層を形成するプラスチックシートや繊維状シートは、これらの基材を単独で使用してもよいし、同一又は異なる種類のシートをラミネートした積層構造のシートを使用してもよい。これらのうち、液体不透過性のシートが好ましく、こうすることで、吸収層が吸収した液体が漏れ出すことを防止することができる。また、被覆層は、伸縮性のシートで形成することが好ましく、こうすることで、傷手当用品の貼付中に皮膚の伸展によく追従し、皮膚への貼付中に違和感や物理的刺激を与えることがなく、また、摘みを把持したときに、傷手当用品の下面が水平面を保持し易くなる。
被覆層の材料としては、例えば、ポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリアミド;ポリウレタン;シリコーン;等をあげることができ、これらの材料は、単一で使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。
・・・
【0033】
次に、疎水性樹脂層の材料について述べる。被覆層に設ける疎水性樹脂層の材料としては、その樹脂で形成した層の表面と水との接触角が65°以上になるものを選択すればよく、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
・・・
【0034】
次に、吸収層について述べる。吸収層は、セルロース系繊維、パルプ、高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独又は併用して使用することができ、必要とされる吸収量にあわせてこれらの量を調整すればよい。特に、水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましく、このようにすることで、創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進することができる。ゲル形成物質としては、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、アクリル酸(塩)重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合体、多価アルコール等が好ましい。
・・・」

(2)甲6の記載事項
甲6には以下の記載がある。
ア.「【請求項1】
創傷部に当接する側から、透水性の表面シート、保水性シート、吸水性の中間シート、不透水性の裏面シートの順に積層された創傷被覆材において、該表面シートがJISK6768に規定する表面濡れ張力が38?54mN/mであって、かつ孔径0.1?3mm、開孔率10?50%の有孔フィルムであることを特徴とする創傷被覆材。」
イ.「【技術分野】
【0001】
本考案は、皮膚表面の創傷部を被覆して治療する際に使用する創傷被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、創傷部の治療は、専ら創傷部を乾燥させるのが皮膚の早期再生に有効とされてきたが、最近の創傷治療では、創傷部からの滲出液に含まれる成分が創傷の治癒の促進に役立つことから、創傷部を適度な湿潤状態に保ちながら治療するのが最善とされている。
【0003】
ところが、創傷部は皮膚が薄く傷付きやすいため、過度な湿潤状態では滲出液の圧力によって創傷部の皮膚の再生・回復が悪くなったり、被覆材が創傷部に貼り付いて被覆材を剥がす際に創傷部を傷めてかえって治癒が大幅に遅れるといった問題がある。
【0004】
かかる湿潤状態の調整可能な創傷被覆材として、創傷部側に位置する表面シートの孔の開口率を特定したり、2枚の表面シートのそれぞれの開口率を特定することで滲出液の透過量を調整した創傷被覆材(特許文献1及び2参照)や、特定の初期耐水圧の機能を有する層で創傷部位を覆うようにした創傷被覆材(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-113781号公報
【特許文献2】特開2008-113952号公報
【特許文献3】WO2005-000372号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の創傷被覆材は、いずれも表面シートの開口率が小さいために、滲出液の多い創傷では滲出液が創傷部に溜まりすぎ、かえって治癒を遅らせることとなる。また、特許文献3の創傷被覆材では、初期耐水圧機能の1つに高い撥水性を有することを必須要件としているが、撥水性が高すぎると創傷部を覆う被覆材全体に滲出液が均一に馴染めず、滲出液が点在する形となって創傷部の湿潤状態が安定しないことから、この場合も治癒の遅れを余儀なくされる。
【考案の概要】
【考案が解決しようとする課題】
【0007】
本考案は、滲出液の多少にかかわらず、創傷部を常に安定して適度な湿潤状態に保つことができ、かつ創傷部に引っ付きにくい、治癒の促進に有効な創傷被覆材の提供を目的とする。」
ウ.「【0010】
本考案において、創傷部に当接する透水性の表面シートは、JISK6768(プラスチック・フィルム及びシート・ぬれ張力試験方法)に規定する表面濡れ張力が38?54mN/m、好ましくは40?50mN/mであって、かつ孔径0.1?3mm、開孔率10?50%の有孔フィルムである。
【0011】
有孔フィルムの表面濡れ張力が38mN/m未満では、撥水性が高くなって滲出液が有孔フィルム全体に均一に馴染めず、滲出液が創傷部に部分的に点在する形となって早期の治癒が望めない。一方、表面濡れ張力が54mN/mを超えると、被覆材が創傷部に引っ付き易くなって、引き剥がす際に創傷部を傷めるという問題が生起する。
【0012】
また、有孔フィルムの表面濡れ張力は、その孔径や開孔率とも関連し、孔径と開孔率が本考案の範囲外では表面濡れ張力が38?54mN/mであっても滲出液が溜まりすぎるかあるいは乾燥して均一な湿潤状態が保てない。かかる有孔フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等を主材とする厚さ1?50μm程の上記表面濡れ張力を有するフィルムであればいかなるものでも差し支えないが、フィルムの強度や衛生性等を考慮すると厚さ3?12μmのポリエステル系フィルムが好ましく、また突孔加工によって断面すり鉢状に穿孔されたメッシュフィルムでも使用可能である。ここで、ポリエステル系フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレイソフタレート、シクロヘキシレンジメチルテレフタレート等の結晶性又は非晶性ポリエステルフィルムが例示できる。
【0013】
本考案の創傷被覆材は、上記表面シートの裏側に保水性シートを介して吸水性の中間シートを積層したものである。ここで保水性シートは、透水性の表面シートを通って出てくる滲出液を速やかに吸収保持し、余剰の滲出液を中間シートに吸収させる、所謂滲出液の溜まりを調整する働きを奏し、もって創傷部を常に適度な湿潤状態に保つ効果をもたらすものである。」
エ.「【0017】
本考案の創傷被覆材は、上記の如く創傷部に当接する側から表面シート、保水性シート、中間シート、裏面シートの順に積層したもので、ここで言う「積層」とは単に双方が重ね合わさっている状態を主として意味するが、双方が縫製、貼着、接着等の方法で部分的に接合されていてもよい。また、本考案の創傷被覆材は、滲出液の漏れを防ぐために、表面シートと裏面シートの寸法を保水性シートや中間シートより少し大きくして、双方の周縁部のみを熱融着等の方法で接着したものが好ましい。」

(3)甲10の記載事項
甲10には以下の記載がある。
「2.補正の説明
請求項1には、補正前請求項21の前段に記載の事項を加え、「上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを直接積層してなり、」と補正するとともに、「上記の貫通孔(13)は開孔率が3.07%以上であって、」と補正しました。
・・・
《補正の根拠》
(1)請求項1の補正
請求項1の補正の根拠は、請求項21、図17および以下に説明します記載です。
請求項1の開孔率の数値の根拠は、段落[0028]の「上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280?1400μmの円形に相当することが好ましい。・・・」と、段落[0030]の「上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく、・・・」とに基づいています。
孔径の最小値は280μmであり、密度の最小値は50個/cm^(2)ですから、
最小孔径の開口面積は、
50×π×(2.8/2)2×10^(-4)cm^(2)=3.07×10^(-2)cm^(2)
となります。従いまして、開孔率の最小値は3.07%となります。」

(4)甲11の記載事項
甲11には、本件特許の手続に関し、平成25年11月6日に審査官との面接が行われ、審査官は「透液層と吸収保持層とが隣接していることを明らかにすること、明細書記載の開口の大きさ、密度から導き出される開孔率の下限値を加入することにより、各引用文献との差異を明確にし得る旨を述べた」ことが記載されている。

(5)甲17の記載事項
甲17には、「撥水性」は「水をはじく能力、または疎水性であること」を意味し、「疎水性の」は「水と親和性のない、撥水性の」を意味することが記載されている。

2.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は熱傷、褥瘡、挫傷、切傷、擦過傷、潰瘍等の創傷の治療に好適な創傷被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、創傷の治療において、創傷面を乾燥させずに湿潤環境に保つことが創傷の治癒に有効であることがわかってきた。特に、創傷部位からの滲出液に含まれる成分が創傷の治癒の促進に役立つため、消毒を行わずに、その滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法(以下、「湿潤治療法」ともいう。)が有効であることがわかってきた。そのため、このような治療方法に適用される種々の創傷被覆材が開発されている。
【0003】
湿潤治療法を効果的に行うためには、滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり、創傷被覆材は滲出液を速やかに吸い上げてしまうのではなく、創傷面上において滲出液が適度に保持されるようにする機能を備えていることが求められる。しかし、一方で、湿潤治療法は、湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため、創傷面上に閉鎖領域が形成されることになり、滲出液が新たに滲み出してきて過剰に貯留されると、創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力によって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため、創傷被覆材は創傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求められる。
【0004】
また、創傷部位に接する材料に通気性がなく創傷面に強く貼り付いてしまうと、創傷被覆材を剥がすときに治癒したもしくは治癒しかけた箇所を再び傷つけてしまったりするおそれがある。そのため、創傷面に強く貼り付いてしまうことがなく、使用後は剥離が容易であり、かつ、使用時は創傷の治療のための湿潤環境が維持されるように創傷部へ装着できる性質が求められる。
・・・
【0008】
しかしながら、さらに改良された創傷被覆材、即ち(i)滲出液の漏れがなく、創傷面上に滲出液を適度に保持する機能を十分に有し、(ii)創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりがなく、(iii)創傷面に強く貼り付いてしまうことがなく、使用後は剥離が容易であり、かつ、使用時は創傷の治療のための湿潤環境を維持して創傷部に固着することができ、(iv)発赤や汗疹の発生もなく、(v)異臭の発生もなく、(vi)薄型で柔軟な素材で構成されて、様々な形状の創傷面にフィットでき、創傷面を圧迫することがない創傷被覆材の開発が望まれていた。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に好適な、さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題とする。」
(2)「【0024】
(透液層)
創傷の治癒においては、本来は創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されていれば足り、該領域を超えて滲出液が創傷部位の周囲に広がることは好ましくない。そのように滲出液が広がった部分において、創傷のない正常な皮膚がかぶれて、新たに創傷部位が拡大したりして治癒を遅らせることがあるためである。
上記の透液層(1)は、滲出液が創傷から滲み出した箇所において、滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で、滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設けてあり、これによって創傷の治癒を速やかならしめる効果を奏する。
【0025】
上記の透液層(1)は、樹脂製のシート材からなる表面シート(10)で構成されており、第1表面(11)と第2表面(12)との間に亘って厚さ方向に貫通する貫通孔(13)を多数有する。この貫通孔(13)は、それぞれが互いに独立していることが好ましく、透液層(1)の内部には、面内方向に通水する経路が存在しないことが好ましい。透液層(1)の第1表面(11)には、上記の多数の貫通孔(13)が開口しているため、この透液層(1)が創傷部位に強く貼り付いてしまうことを防止できる。
【0026】
なお、図1と図2に示すように、上記の透液層(1)を構成するシート材は凹凸状に形成してあり、上記の第1表面(11)とは、創傷部位側において平面と接する透液層(1)の表面をいい、上記の第2表面(12)とは、創傷部位と反対側において平面と接する透液層(1)の表面をいう。
【0027】
上記の貫通孔(13)は、円筒状、樽状、鼓状等、任意の形状を採用することができるが、例えば図1と図2に示すように、第1表面(11)側から第2表面(12)に向かって徐々に孔径が小さくなる「傾斜孔」であると好ましい。
【0028】
上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280?1400μmの円形に相当することが好ましい。直径280μm未満の円形に相当したのでは、滲出液が第2表面(12)側へ通過するのを阻害する傾向にあるので好ましくない。一方、直径1400μmを超える円形に相当したのでは、第2表面(12)側に積層した他の層が、この貫通孔(13)を介して創傷部位の皮膚と接触する虞があり、そのために創傷被覆材(5)を創傷部位から剥がしにくくなったり、適度な容積の滲出液貯留空間を確保できなくなったりする虞があるので好ましくない。
【0029】
上記の貫通孔(13)は傾斜孔であるので、上記の第2表面(12)での開口面積は上記の第1表面(11)での開口面積より小さい。開口面積に相当する円形の直径(以下「開孔径」という。)で比較すると、この第1表面(11)での開孔径は、第2表面(12)での開孔径の1.1?1.8倍であることが好ましく、1.2?1.5倍であることがより好ましい。
【0030】
また上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく、60?325個/cm^(2)の密度で存在することがより好ましい。さらに、第1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては、15?60%であることが好ましい。
【0031】
上記の貫通孔(13)の深さ、即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法としては、概ね100?2000μmが好ましく、概ね250?500μmがより好ましい。」
(3)「【0032】
上記の貫通孔(13)の密度、開孔率および深さを、それぞれ上記の好ましい範囲とすることによって、創傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成でき、創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに、滲出液が創傷部位の表面内方向に広がることを防止できる。
【0033】
なお、上記の貫通孔(13)内に形成される貯留空間(14)の容量としては、貫通孔1個当り0.015?0.55μLであることが好ましく、0.030?0.45μLであることがより好ましく、0.040?0.35μLであることが特に好ましい。この貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.015μL未満では、創傷部位の表面上に滲出液を保持するのが困難になる傾向にあるうえ、その表面内方向への拡散を防止することも困難になる傾向にあるため好ましくない。一方、貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.55μLを超えると、透液制限層(2)や吸収保持層(3)による滲出液の吸収速度が大きくなり、創傷部位を滲出液で適度な湿潤環境に保つことが困難になる傾向にあるので、好ましくない。
【0034】
上記の透液層(1)は少なくとも第1表面(11)が疎水性であることから、この透液層(1)が創傷部位に過剰に強く貼り付くことを防止できるうえ、使用後の創傷部位からの剥離を容易にできる。また、上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容するが、少なくとも第1表面(11)が疎水性であることから、この貫通孔(13)を通しての、吸水性(吸液性)を有する吸収保持層(3)への滲出液の移動を制限でき、透液層(1)と創傷部位との間に滲出液を良好に保持して、創傷の治療を促進することができる。
【0035】
上記の透液層(1)は、少なくとも創傷部位と対面する上記の第1表面(11)が疎水性であればよく、特定の材質等のものに限定されない。
しかし、治療に必要な滲出液を創傷部位と透液層(1)との間に保ち、且つ使用後に創傷被覆材(5)を容易に剥がせるという観点から、少なくとも上記の第1表面(11)は、生理食塩水との動的接触角(以下、単に「接触角」ともいう。)が85度以上であると好ましく、さらに使用後に創傷被覆材(5)が一層簡単に剥がれ易いという点から、生理食塩水との接触角が95度以上であるとさらに好ましく、100度以上であると特に好ましい。なお、本発明で用いる「接触角」は、θ/2法によって測定した値を意味する。
【0036】
上記の「接触角」は、例えばJIS K 2396に従って測定される。具体的には、例えば以下のように測定する。試料のシート材を1.5?2cm四方に切り取り、接触角測定装置(商品名:FTA-100、First Ten Angstrom社製)の測定部位に配置する。前記装置に設置されたシリンジから標準液滴基準サンプル1.5μLを試料片に接触させ、液滴法により、1,3,5,10分経過後の各動的接触角を測定し(液滴供給スピード:0.5μL/秒、滴下量:1.5μL)、前記接触角測定装置により解析する。
【0037】
上記の透液層(1)は、創傷の治療に必要な滲出液の保持が行える程度に創傷被覆材(5)を創傷部位に保持でき、かつ、使用後に創傷部位から創傷被覆材(5)を剥がし易いという点から、動的表面張力(以下、単に「表面張力」ともいう。)が40dyne/cm以下の材料で形成されていると好ましく、35dyne/cm以下のものがより好ましく、使用後の剥がし易さが特に良好であるため、32dyne/cm以下のものが特に好ましい。上記の表面張力が40dyne/cmを超える場合は、透液層(1)と創傷部位との固着が低減されず、使用後に創傷被覆材(5)を剥がしにくいことから、円滑な交換処置ができない虞があり、好ましくない。また、上記の表面張力は、公知の添加物の添加や、コロナ処理若しくはプラズマ等の表面処理によって40dyne/cm以下となるように調整してもよい。
【0038】
上記の「表面張力」は、具体的には、例えば次の手順に従って測定する。試料のシート材を1.5?2cm四方に切り取り、接触角測定装置(商品名:FTA-100、First Ten Angstrom社製)の測定部位に配置する。前記装置に設置されたシリンジから試験用混合液を1.5μL押し出し、懸滴法により、表面張力を測定し、前記接触角測定装置により解析する。」
(4)「【0094】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、透液層(1)と吸収保持層(3)との間に、透液制限層(2)を備える場合について説明した。しかし本発明では、例えば図13に示す第2実施形態のように、上記の透液制限層を省略したものであってもよい。
即ち、この第2実施形態では、上記の第1実施形態と異なって、透液制限層が省略してあり、透液層(1)の第2表面(12)に吸収保持層(3)が直接積層してある。この第2実施形態では透液制限層を省略してあるので、簡便に製造でき安価に実施できて好ましい。またこの第2実施形態では透液制限層を省略してあるが、上記の透液層(1)に疎水性の高い材料を使用することにより、例えば、好適には生理食塩水との接触角が85度以上の材料を使用することにより、透液制限層を有する場合と同様の効果を奏することができる。」
(5)「【0102】
(第5実施形態)
図17は本発明の創傷被覆材(5)の第5実施形態を示す。
この第5実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、吸収保持層(3)が他の層と一体化されていない。即ちこの第5実施形態の創傷被覆材(5)は、表面シート(10)からなる透液層(1)の第2表面(12)に、保護層(4)が周縁部(22)で溶着等により一体化されており、袋状に形成されている。そして、この透液層(1)と保護層(4)との間に、吸収保持層(3)が両層(1・4)とは固定しない状態で挿入してある。
【0103】
この第5実施形態では、上記の吸収保持層(3)が、透液層(1)や保護層(4)に接着剤等で固定されていないため、吸収保持層(3)による積極的な吸収が生じにくく、滲出液が透液層(1)から吸収保持層(3)へ移動することを制限でき、創傷部位と透液層(1)との間に滲出液を良好に保持できるので好ましい。しかも吸収保持層(3)は、透液層(1)と保護層(4)との間で、透液層(1)の第2表面(12)に沿って移動することができるので、吸収保持層(3)など創傷被覆材(5)の一部にずれ応力が作用しても、上記の移動により創傷部位との間でそのずれ応力を吸収でき、創傷部位に加わる応力を緩和できる。この結果、表面シート(10)からなる透液層(1)は創傷部位に対して相対的な位置ずれを生じにくく、例えば褥瘡の治癒や予防にきわめて好適である。また吸収保持層(3)が透液層(1)や保護層(4)に対し相対移動できるので、創傷被覆材(5)全体が柔軟となって、肌触りを良好にできる利点もある。
【0104】
なおこの第5実施形態では、上記の透液層(1)と保護層(4)との間に吸収保持層(3)を配置した。しかし本発明では、透液層(1)の第2表面(12)と、これに対面する吸収保持層(3)の表面の、少なくともいずれかに透液制限層(2)を一体に積層したものであってもよい。また上記の第5実施形態において、上記の吸収保持層(3)は、上記の透液層(1)に固定されていなければよく、上記の保護層(4)には固定されていてもよい。この場合は、透液層(1)から吸収保持層(3)への滲出液の移動を制限できるうえ、創傷部位に対し吸収保持層(3)を所定位置に維持できるので、好ましい。」

3.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び同条第2項違反)について
(1)本件発明1?19の新規性進歩性の判断基準日について
無効理由1に関し、請求人は、「本件特許は、特許法第41条第1項の規定による優先権主張(以下、「本件優先権主張」という。)を伴う特許出願についてされたものであるが、本件発明1の発明特定事項である「上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されていない」点は、当該優先権主張の基礎とされた先の出願(特願2010-126338号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「基礎出願明細書等」という。)である甲12には記載されておらず、本件特許に係る出願の原出願である国際出願の際に付加された事項であるから、本件発明1?19についての新規性進歩性の判断基準日は、優先日である平成22年6月1日ではなく、国際出願日である平成23年5月31日とされるべきである」旨を主張している(請求書第16頁第17行?第20頁第4行)。
これに対し、被請求人は、「甲12の段落【0019】の「本発明の被覆材は、少なくとも2つの層から構成される創傷被覆材であって、創傷部位に接するように使用される側からA層、C層の順に積層され一体化してなる態様であってもよい。」との記載は、一体化されていない態様の存在を前提としていたことを反映する記載であるから、上記新規性進歩性の判断基準日は、優先日である平成22年6月1日とされるべきである」旨を主張している(答弁書第9頁第10行?第10頁第4行)。
これらの主張について検討する。
本件発明1の発明特定事項である「上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されていない」点に関する本件特許明細書の段落【0102】?【0104】及び【図17】の記載事項は、基礎出願明細書等である甲12には記載されていないが、本件特許に係る出願の原出願である国際特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「原出願明細書等」という。)(甲13を参照)には記載されているから、本件発明1は、基礎出願明細書等には記載されておらず、原出願明細書等に記載されていた発明であるといえる。
ゆえに、本件優先権主張は、特許法第41条第1項本文の要件を満たしておらず、同法29条の規定の適用について、同法第41条第2項の規定は適用されないから、本件発明1?19についての新規性進歩性の判断基準日は、優先日である平成22年6月1日ではなく、国際出願日である平成23年5月31日である。
なお、被請求人は上記の「一体化されていない態様の存在を前提としていた」との主張をしているが、甲12(基礎出願明細書等)には、一体化されていない態様に関する記載が全くなく、上記段落【0019】の記載は、一体化してなる態様の一態様として、「創傷部位に接するように使用される側からA層、C層の順に積層され一体化してなる態様であってもよい。」ことが説明されているに過ぎないと解するのが自然である。
そして、仮に、上記段落【0019】の記載が、一体化されていない態様の存在を前提としていたことを反映する記載であるとしても、本件特許明細書の段落【0102】?【0104】に記載されている「・・・表面シート(10)からなる透液層(1)の第2表面(12)に、保護層(4)が周縁部(22)で溶着等により一体化されており、袋状に形成されている。そして、この透液層(1)と保護層(4)との間に、吸収保持層(3)が両層(1・4)とは固定しない状態で挿入してある。・・・上記の吸収保持層(3)が、透液層(1)や保護層(4)に接着剤等で固定されていないため、吸収保持層(3)による積極的な吸収が生じにくく、滲出液が透液層(1)から吸収保持層(3)へ移動することを制限でき、創傷部位と透液層(1)との間に滲出液を良好に保持できるので好ましい。しかも吸収保持層(3)は、透液層(1)と保護層(4)との間で、透液層(1)の第2表面(12)に沿って移動することができるので、吸収保持層(3)など創傷被覆材(5)の一部にずれ応力が作用しても、上記の移動により創傷部位との間でそのずれ応力を吸収でき、創傷部位に加わる応力を緩和できる。この結果、表面シート(10)からなる透液層(1)は創傷部位に対して相対的な位置ずれを生じにくく、例えば褥瘡の治癒や予防にきわめて好適である。また吸収保持層(3)が透液層(1)や保護層(4)に対し相対移動できるので、創傷被覆材(5)全体が柔軟となって、肌触りを良好にできる利点もある。・・・また上記の第5実施形態において、上記の吸収保持層(3)は、上記の透液層(1)に固定されていなければよく、上記の保護層(4)には固定されていてもよい。この場合は、透液層(1)から吸収保持層(3)への滲出液の移動を制限できるうえ、創傷部位に対し吸収保持層(3)を所定位置に維持できるので、好ましい。」といった事項や、本件特許の【図17】に記載された事項が、甲12(基礎出願明細書等)に記載されていたに等しいとまでは到底いえない。
ゆえに、被請求人の上記主張は採用できない。

(2)無効理由1-1について
ア.甲1発明
上記1.(1)で摘記した事項からみて、甲1には以下の甲1発明が記載されている。
《甲1発明》
上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって、
下面側に位置する下面側被覆層と、上面側に位置する上面側被覆層と、これらの被覆層の間に介在させた吸収層とを有し、
下面側被覆層は、積層構造とし、少なくとも傷接触表面側の層は疎水性樹脂層とし、かつ、これらの層を貫通する多数の孔が設けられ、傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになっており、
吸収層は吸水性の高い材料を使用してなる層であり、
下面側被覆層と上面側被覆層は、吸収層の外側でシール部により互いに接合され、吸収層を被覆している、
傷手当用品。

イ.対比
甲1発明の「下面側被覆層」、「吸収層」、「傷接触表面」、「孔」、「傷手当用品」は、各々、本件発明1の「透液層」、「吸収保持層」、「第1表面」、「貫通孔」、「創傷被覆材」に相当する。
ゆえに、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
少なくとも透液層と吸収保持層との2つの層を備えた創傷被覆材であって、
創傷部位と対面するように使用される側から順に、上記の透液層と吸収保持層とを積層してなり、
上記の透液層は、上記の創傷部位と対面する第1表面と、これとは反対側の第2表面と、両表面間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔とを有し、
上記の貫通孔は、上記の第1表面側から第2表面側への液体の透過を許容し、
上記の第1表面が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり、
上記の吸収保持層は、水を吸収保持可能なシート材を含有する、
創傷被覆材。

《相違点1A》
「貫通孔」について、本件発明1は、「開孔率が3.07%以上」であって、「深さが100?2000μm」であり、「50?400個/cm^(2)の密度で存在」するのに対し、甲1発明は、開孔率、深さ、存在密度が不明である点。
《相違点1B》
「吸水保持層」について、本件発明1では、「上記の透液層」と「直接積層」され、「上記の透液層と一体化されていない」のに対し、甲1発明では、「上記の透液層」と「直接積層」され、「上記の透液層と一体化されていない」か、が不明である点。

ウ.相違点の判断
上記《相違点1A》は、「貫通孔」の開孔率、深さ、存在密度の規定の有無に関するものであり、上記《相違点1B》は、「吸水保持層」と「透液層」との関係性の規定の有無に関するものであるから、これらの相違点は、単に表現が異なるだけの一応の相違点ではなく、実質的な相違点である。
ゆえに、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当することを理由に、無効とすることはできない。

(3)無効理由1-2について
ア.本件発明1について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明1と甲1発明との対比、一致点、相違点は、上記3.(2)イ.に示したとおりである。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》について
本件発明1の「開孔率が3.07%以上であって」は、本件特許明細書の段落【0028】の「上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280?1400μmの円形に相当することが好ましい。・・・」との記載及び段落【0030】の「上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく、・・・」との記載(上記2.(2)を参照)における、孔径の最小値である280μmと、密度の最小値である50個/cm^(2)から、算出した、最小孔径の開口面積の値、50×π×(2.8/2)^(2)×10^(-4)cm^(2)=3.07×10^(-2)cm^(2)に基づくものであり、このことは、甲10及び11の記載事項(上記1.(3)及び(4)を参照)からも明らかである。
そして、本件特許明細書の段落【0030】には上記「上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく、・・・」との記載に加え、「第1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては、15?60%であることが好ましい。」と記載され、段落【0031】には「上記の貫通孔(13)の深さ、即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法としては、概ね100?2000μmが好ましく、概ね250?500μmがより好ましい。」と記載され、段落【0032】には「上記の貫通孔(13)の密度、開孔率および深さを、それぞれ上記の好ましい範囲とすることによって、創傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成でき、創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに、滲出液が創傷部位の表面内方向に広がることを防止できる。」(下線は、当審にて付与。)と記載されていることを踏まえると、本件発明1の「開孔率が3.07%以上」とは、上記「好ましい」開孔率を規定しているものではなく、単に「貫通孔」による開口の程度を示しているにすぎず、「3.07%」という数値には、格別な技術的意義がないものと解するのが相当である。
ここで、上記「貯留空間」は、「貫通孔」の「開口面積」と「深さ」により定まるところ、上記「創傷部位上に適量の滲出液を保持する」ための「適度な貯留空間」として、「貫通孔」が形成されるためには、適切な「開口面積」と「深さ」が規定されることがその要件となるといえる。
しかし、上記「開孔率が3.07%以上であって」という事項は、「開孔率」の下限値のみを規定するものであるから、たとえ、「貫通孔」の「開口面積」を、「開孔率」と「存在密度」とから算出したとしても、滲出液を保持し得る貯留空間を形成しないような小さすぎる開口面積や大きすぎる開口面積の「貫通孔」を含み得るものとなるから、前記事項は適切な「開口面積」を規定するものであるとは到底いえない。
ゆえに、「貫通孔」が、単に「開孔率が3.07%以上であって」、「深さが100?2000μm」であり、「50?400個/cm^(2)の密度で存在」するとした程度のことでは、「創傷部位上に適量の滲出液を保持する」ための「適度な貯留空間」が形成されていることを規定しているとはいえず、格別な技術的意義がないものと解するのが相当である。
一方、甲1発明における「孔」は、甲1の各記載(上記1.(1)のア.(【請求項1】及び【請求項2】を参照)、エ.(段落【0021】及び【0024】を参照)、オ.(【0029】を参照)からみて、傷からの体液が吸収層へ移動し得るようにするために設けられるものであるから、甲1に「孔」の開孔率、深さ、存在密度といった事項について言及がないとしても、上記「傷からの体液が吸収層へ移動し得るようにする」ために、単に傷からの体液を吸収層へ移動させる孔を含み得る、上記《相違点1A》に係る本件発明1の数値範囲に設定し得ることは、当業者にとって、上記甲1発明の具体化にあたり適宜に採用し得た設計的な事項である。
ゆえに、甲1発明において、「孔」の開孔率、深さ、存在密度を、上記《相違点1A》にかかる本件発明1の構成程度のものとすることは、当業者が適宜になし得たことというべきである。

《相違点1B》について
本件発明1における「吸水保持層」が「上記の透液層」と「直接積層」されていることについて、本件特許明細書の段落【0094】には「この第2実施形態では、上記の第1実施形態と異なって、透液制限層が省略してあり、透液層(1)の第2表面(12)に吸収保持層(3)が直接積層してある。この第2実施形態では透液制限層を省略してあるので、簡便に製造でき安価に実施できて好ましい。」と記載されている(上記2.(4)を参照)。
また、本件発明1における「吸水保持層」が「上記の透液層と一体化されていない」ことについて、本件特許明細書の段落【0102】には「この第5実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、吸収保持層(3)が他の層と一体化されていない。即ちこの第5実施形態の創傷被覆材(5)は、表面シート(10)からなる透液層(1)の第2表面(12)に、保護層(4)が周縁部(22)で溶着等により一体化されており、袋状に形成されている。そして、この透液層(1)と保護層(4)との間に、吸収保持層(3)が両層(1・4)とは固定しない状態で挿入してある。」と記載されている(上記2.(5)を参照)。
一方、甲1には、甲1発明における「下面側に位置する被覆層と、上面側に位置する被覆層と、これらの被覆層の間に介在させた吸収層」について、「下面側に位置する被覆層」と「吸収層」との間に、何らかの層を介在させるべきことや、「下面側に位置する被覆層」と「吸収層」とを固定すべきことは記載されていない。
しかし、傷接触表面側に位置する透液機能を有した層と、上面側に位置する層と、これらの層の間に介在させた液体吸収機能を有する層とからなる傷手当用品において、「液体吸収機能を有する層」を、「傷接触表面側に位置する透液機能を有した層」と直接積層し、当該「傷接触表面側に位置する透液機能を有した層」と一体化されていないようにすることは、例えば、甲3の段落【0034】の「表面シート2と吸収性シート5とが接着されずに接して配設されているので、この表面シート2の面方向に向けた可動範囲を広くできる。このため、治療パッド1が面方向に向けてずれ動いたとしても、この治療パッド1のうちの創傷部に接している表面シート2が、この創傷部上でずれ動きにくくなる。したがって、この治療パッド1がずれ動くことによる表面シート2と創傷部との擦れを防止できるから、この創傷部にかかる負担を少なくできる。」との記載、甲6の段落【0017】の「本考案の創傷被覆材は、上記の如く創傷部に当接する側から表面シート、保水性シート、中間シート、裏面シートの順に積層したもので、ここで言う「積層」とは単に双方が重ね合わさっている状態を主として意味する・・・また、本考案の創傷被覆材は、滲出液の漏れを防ぐために、表面シートと裏面シートの寸法を保水性シートや中間シートより少し大きくして、双方の周縁部のみを熱融着等の方法で接着したものが好ましい。」との記載、甲7の段落【0060】?【0062】の「本発明の創傷被覆材は、前記第1層(1)および第2層(2)を必須の構成要件とし、第1層(1)と第2層(2)の間に、第2層(2)への滲出液の通過を制限するシート材(透過性シート材)を有しないが、所望により、透過性シート材を第1層(1)と第2層(2)との間に有していてもよい。・・・図3の創傷被覆材は、第2シート材と液透過性シート(8)とをこれら両シートよりも広い第1シート材と第3シート材とにより挟み、第1シート材と第3シート材のはみ出した周縁をヒートシール(9)により接合したものである。なお、各シート間は特に接着剤等は介在していない。・・・本発明の創傷被覆材において、各層は、接着剤により一体化されていることを要せず、第3層(3)を有する場合、図3のように第1層(1)と第3層(3)との周縁部をシール等により接合されていればよい。」との記載からみて、本件特許の出願前に周知の技術であるといえ、その採否は、製造コスト等を勘案し当業者が適宜決定し得たことである。
ゆえに、甲1発明における、「吸収層」を、「下面側に位置する被覆層」と「直接積層」し、当該下面側に位置する被覆層と「一体化されていない」ようにすることは、当業者が適宜なし得たことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲3、甲6、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本件発明2について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明2と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点2》
本件発明2では、「第1表面における生理食塩水との接触角が85度以上である」のに対し、甲1発明では、「下面側被覆層」の「傷接触表面」における生理的食塩水との接触角が不明である点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点2》について検討する。
甲1発明の「下面側被覆層」について、甲1の段落【0028】には、「被覆層の所要特性、機能等について述べる。まず、疎水性について述べる。被覆層下面側の少なくとも傷接触表面は疎水性を有する。疎水性とするためには、被覆層自体を疎水性の材料で形成しても良いし、被覆層とは別の疎水性樹脂層を塗工する等して被覆層を積層構造とし、その表面を疎水性にしても良い。傷手当用品を傷から容易に分離するためには、被覆層のこの疎水性の表面は、水との接触角が65°以上であることが好ましく、90°以上であることが更に好ましい。接触角の測定は、接触角計CA-A(協和界面科学社製)を使用して該接触角計の取扱説明書「液滴法測定操作」に準拠して測定することができる。」(上記1.(1)オ.を参照)と記載されている。
また、生理食塩水は、水よりも体液に近い浸透圧を有することが技術常識である。
してみると、「傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになって」いるものである、甲1発明の「下面側被覆層」の「傷接触表面」が具備すべき「疎水性」を、水との接触角で規定することに変えて、より体液に近い生理食塩水との接触角で規定することは、当業者が適宜なし得た設計的な事項と解するのが相当である。
したがって、甲1発明の「下面側被覆層」の「傷接触表面」が具備すべき「疎水性」を、生理食塩水との接触角が85度以上であると規定することは、当業者が容易になし得たことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲1発明、甲3、甲6、甲7に例示される上記周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件発明3について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明3と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(3)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点3》
本件発明3では、「第1表面における表面張力が40dyne/cm以下である」のに対し、甲1発明では、「下面側被覆層」の「傷接触表面」における表面張力が不明である点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点3》について検討する。
甲1発明の「下面側被覆層」の「傷接触表面」は、上記5.(3)イ.(ウ)で述べたように、「疎水性」を有するものであり、甲1には、「疎水性とするためには、被覆層自体を疎水性の材料で形成しても良いし、被覆層とは別の疎水性樹脂層を塗工する等して被覆層を積層構造とし、その表面を疎水性にしても良い。」(段落【0028】)との説明の他、「被覆層の材料としては、例えば、ポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリアミド;ポリウレタン;シリコーン;等をあげることができ、これらの材料は、単一で使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。」(段落【0032】)と説明されている。
また、甲1には、上記「下面側被覆層」の「傷接触表面」が有すべき「疎水性」に関して、「被覆層に設ける疎水性樹脂層の材料としては、その樹脂で形成した層の表面と水との接触角が65°以上になるものを選択すればよく、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。」(段落【0033】)と説明されており、この説明から、甲1発明の上記「下面側被覆層」の「傷接触表面」が有すべき「疎水性」は、「水との接触角が65°以上」であることが把握される。
ここで、各種プラスチックの接触角及び表面張力について記載された甲8の表5及び表6をみると、甲1の段落【0032】及び【0033】に例示された樹脂のうち、接触角が91°である「ポリプロピレン」の表面張力は31dyne/cmであり、接触角が81°である「ポリエチレン(密度0.92)」の表面張力は32dyne/cmであり、接触角が73°である「ポリエチレン(密度0.955)」の表面張力は31dyne/cmであり、接触角が68°である「ポリ塩化ビニル」の表面張力は39dyne/cmであることが把握される。
そして、甲17(上記1.(5)を参照)によれば、「疎水性」と「撥水性」とは同義であるところ、「ポリテトラフロロエチレン(ポリ四ふっ化エチレン)」について、甲8の表5に接触角が他のポリマーの接触角よりも大きいこと、及び、甲8の表6に表面張力が他のポリマーの表面張力よりも小さいことが例示されるように、接触角が大きくほど撥水性、すなわち、疎水性が高く、また、表面張力が小さいほど撥水性、すなわち、疎水性が高いことは技術常識である。
してみると、甲1発明の「下面側被覆層」の「傷接触表面」が具備すべき「疎水性」の程度を表面張力で規定し、その値を40dyne/cm以下とすることは、当業者が容易になし得たことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明3は、甲1発明、甲3、甲6、甲7に例示される上記周知技術及び甲8に例示される技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ.本件発明4について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明4と甲1発明との対比、一致点に関し、甲1発明の「下面側被覆層」の「傷接触表面」について、甲1には「被覆層に設ける疎水性樹脂層の材料としては・・・、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。」(段落【0033】)との説明があることを踏まえると、甲1発明の「下面側被覆層」の「傷接触表面」は、本件発明4の「シリコーン、ポリウレタン、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる1以上の撥水性物質により被覆してある」「第1表面」に相当するから、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》でのみ相違する。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明4は、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲3、甲6、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ.本件発明5について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明5と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点5》
本件発明5では、本件発明1の「第1表面が疎水性を備えている樹脂製のシート材」について、「上記のシート材は、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂材料を用いて形成してある」のに対し、甲1発明では、「下面側被覆層」がそのような材料を用いて形成してあるのかが不明である点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点5》について検討する。
上記3.(3)イ.(ウ)で述べたとおり、甲1発明の「下面側被覆層」の具備すべき「疎水性」を、生理食塩水との接触角が85度以上であると規定することは、当業者が容易になし得たことというべきである。
そして、甲1発明の「下面側被覆層」の材質として、甲1には「被覆層の材料としては、例えば、ポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリアミド;ポリウレタン;シリコーン;等をあげることができ、これらの材料は、単一で使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。」(段落【0032】)との説明があり、ポリエチレンや、ポリプロピレンと等のポリオレフィン樹脂材料も例示されていることを踏まえると、甲1発明の「下面側被覆層」を、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂材料を用いて形成したシート材とすることは、当業者にとって容易である。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明5は、甲1発明、甲3、甲6、甲7に例示される上記周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ.本件発明6について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明6と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点6A》
本件発明6では、本件発明1の「第1表面が疎水性を備えている樹脂製のシート材」について、「上記のシート材は、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成してある」のに対し、甲1発明では、「下面側被覆層」を、そのような材料を用いて形成してあるのかが不明である点。
《相違点6B》
「貫通孔」について、本件発明6は、「開孔率が3.07%以上」であって、「深さが100?2000μm」であり、「50?400個/cm^(2)の密度で存在」し、「上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当する」のに対し、甲1発明は、開孔率、深さ、存在密度、傷接触表面となる下面での開口面積が、いずれも不明である点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点6A》について
甲1発明の「下面側被覆層」の材質として、甲1には、ポリエチレンが例示されており(上記1.(1)カを参照)、ポリエチレンには、比較的硬質である高密度ポリエチレンと比較的軟質である低密度ポリエチレンとがあること、低密度ポリエチレンはシートやフィルム等の柔軟性を求められるものの材料とされることが例示を待つまでもない技術常識である。
さらに、傷手当用品の「傷接触表面側に位置する透液機能を有した層」を構成するシートの材質に低密度ポリエチレンを用いることは、例えば、甲9の段落【0016】に「孔あきフィルム38は、いくつかの適切な材料で作製することができる。孔あきフィルム38を形成するのに適切なポリマーには・・・フィルムに形成することが可能な任意の材料が含まれ・・・低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)・・・が含まれるが、これらに限定されない。」との記載もあるように、本件特許の出願前に周知の技術でもあり、その採否は、シートに求められる機能や製造コスト等を踏まえ当業者が適宜決定し得た程度のことである。
したがって、甲1発明の「下面側被覆層」を、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成したシート材とすることは、当業者が容易になし得たことである。

《相違点6B》について
上記第5.3.(3)ア.(ウ)で示したように、「創傷部位上に適量の滲出液を保持する」ための「適度な貯留空間」として、「貫通孔」が形成されるためには、適切な「開口面積」と「深さ」が規定されることがその要件となるといえるところ、本件発明6は、上記《相違点6B》に示した「開孔率が3.07%以上」であって、「深さが100?2000μm」であり、「50?400個/cm^(2)の密度で存在」し、「上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当する」ことを発明特定事項として備えている。
一方、甲1発明は、甲1の段落【0034】に「・・・吸収層は、セルロース系繊維、パルプ、高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独又は併用して使用することができ、必要とされる吸収量にあわせてこれらの量を調整すればよい。特に、水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましく、このようにすることで、創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進することができる。・・・」と記載されている(上記1.(1)カを参照)ことからも明らかなように、「吸収層」に、「創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進する」という機能を具備させる一方、「孔」は、単に、「傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになって」いるとした発明であり、上記機能を「吸収層」に代えて、または、付加して「孔」に持たせるべき動機付けとなる記載はないし、これを示唆する記載もない。
ゆえに、上記《相違点6B》に示した本件発明6の発明特定事項に関し、たとえ、甲4の特許請求の範囲に「[4] 前記第1層のシート材の厚さが100?2000μmであり、前記小孔は、創傷部位に接するように使用される側の面での開孔径が直径相当280?1400μmであり、他方の面での開孔径が前記創傷部位に接するように使用される側の面での開孔径より小であり、50?400個/cm^(2)の密度で存在する・・・創傷被覆材。」と記載され、段落[0024]?[0029]に「貫通孔の孔径としては、第1シート材において創傷部位に接するように使用される側の面(以下、「創傷側の面」ということがある。)での開孔径が直径相当で280?1400μmであることが好ましい。・・・また、貫通孔は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく、60?325個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく。さらに、創傷側の面における貫通孔の開孔率としては、第1シート材全体に対して15?60%であることが好ましい。・・・貫通孔について、密度、開孔率および深さを上記の好ましい範囲とすることは、創傷面と第2層との間において適度な貯留空間を形成して創傷面上に適度な滲出液を保持するとともに、滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点で有利である。」との技術的事項が記載され、さらに、甲7の【請求項4】及び段落【0021】?【0024】にも同様の技術的事項が記載されているとしても、このことは、「孔」の開孔率、深さ、存在密度、開口面積の特定がない、すなわち、「孔」について何らの規定がない甲1発明において、その「吸収層」が有する「創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進する」という機能を、さらに「孔」にも持たせることの動機付けにはならないから、甲1発明に、甲4及び甲7に記載された技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

なお、請求人は、上申書(請求人)の3頁15行?8頁12行及び弁駁書の13頁13行?17頁23行において、甲1発明に甲4記載の技術的事項を適用する動機付けがある旨を主張している。
この主張は、甲1発明の「吸水性の高い材料を使用してなる層」である「吸収層」が、「水吸収時にゲルを形成する物質を含む」ことを、甲1発明が、その構成としていることを前提に、甲18(上記上申書(請求人)での周知例1)及び甲19(上記上申書(請求人)での周知例2)記載された事項から把握される技術常識(湿潤治療法が有効であること及び創傷部位側のシートに初期耐水圧性が高いものを用いることが有効であること)を踏まえると、上記動機付けがあるというものである。
しかし、たとえ、甲1発明が、その「吸収層」に「水吸収時にゲルを形成する物質を含む」ことをその構成としており、また、甲18及び甲19から上記技術常識が把握されるとしても、甲1には、上記技術常識を踏まえ、その具現化に繋がる記載、すなわち、甲1において「吸収層」が有する「創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進する」という機能を、さらに「孔」にも持たせるという着想に繋がる記載が一切ない。
したがって、請求人の上記主張は、論理の飛躍があり、採用できない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明6は、甲1発明及び甲2?4、甲6、甲7、甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

キ.本件発明7について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明7と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点7》
本件発明7では、「上記の第1表面と第2表面との間の寸法は100?2000μmであり、前記の貫通孔は、上記の第1表面での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当し、上記の第2表面での開口面積が上記の第1表面での開口面積より小であり、50?400個/cm^(2)の密度で存在する」のに対し、甲1発明では、「下側被覆層」の「傷接触表面」とその反対側の面との間の寸法や、「孔」の大きさ、形状、存在密度が不明である点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点7》について検討する。
上記3.(3)カ.(ウ)でも示したように、本件発明7は、貫通孔について、適切な「開口面積」と「深さ」が特定されて、「創傷部位上に適量の滲出液を保持する」ための「適度な貯留空間」が形成されたものとなっているところ、これに対し、甲1発明は、「吸収層」に、「創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進する」という機能を具備させる一方、「孔」は、単に、「傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになって」いるとした発明であり、上記機能を「吸収層」に代えて「孔」に持たせるべき動機付けとなる記載はないし、これを示唆する記載もないから、甲1発明の「吸収層」が有する「創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進する」という機能を「孔」に持たせるべく甲4及び甲7に記載された技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明7は、甲1発明及び甲2?4、甲6、甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ク.本件発明8について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明8と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点8》
本件発明8では、「上記の吸収保持層の、上記の透液層とは反対側に、第1の透液層と同一構成の第2の透液層がさらに積層してある」のに対し、甲1発明では、「吸収層」の「下面側被覆層」とは反対側の面に、「下面側被覆層」と同一構成の層を積層していない点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点8》について検討する。
甲2には「表面材4も通気性を有していることが必要であり、上記した傷面被覆材3と同様の部材にて形成されている。」(明細書第5頁19行?第6頁第1行)、「この表面材4はシリコン、フッ素等の撥水剤で撥水処理が施されていてもよい。」(同第6頁第14?16行)との記載事項があり、その第1図からは、吸収材2の、傷面被覆材3とは反対側の面に、上記傷面被覆材3と同一構成の表面材4がさらに積層されていることが把握される。
そして、甲1には、甲1発明の「傷手当用品」が、特に嫌気性の傷の手当用である旨の記載はないところ、甲1発明において、甲2の記載事項を踏まえ、「吸収層」の「下面側被覆層」とは反対側の面に、「下面側被覆層」と同一構成の層を積層するか否かは、当業者が適宜決定し得た程度のことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明8は、甲1発明及び甲2記載事項、甲3、甲6、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ケ.本件発明9について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明9と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点9》
本件発明9では、「上記の吸収保持層の、創傷側とは反対側の表面に保護層をさらに備え、この保護層は、樹脂フィルム、織布、編布もしくは不織布からなり」、「貫通孔」について、「上記の第1表面から上記の第2表面に向かって減少する孔径を有し、上記の開孔率が15?60%であり、上記の貫通孔の深さが100?2000μmであり、上記の貫通孔が50?400個/cm^(2)の密度で存在し、上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し、上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」のに対し、甲1発明は、開孔率、深さ、存在密度が、いずれも不明であり、滲出液を保持し得るとも特定されていない点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点9》について検討する。
本件発明9は、「貫通孔」について、「上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し、上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」との構成を備えているのに対し、甲1発明は、「吸収層」に、「創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進する」という機能を具備させる一方、「孔」は、単に、「傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになって」いるとした発明であり、上記機能を「吸収層」に代えて「孔」に持たせるべき動機付けとなる記載はないし、これを示唆する記載もないから、甲1発明の「吸収層」が有する「創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進する」という機能を「孔」に持たせるべく甲4及び甲7に記載された技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明9は、甲1発明及び甲2?4、甲6、甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

コ.本件発明10?13について
本件発明9の発明特定事項を全て含み、さらに技術的な事項を発明特定事項としている本件発明10?13は、上記3.(2)ケ.(ウ)で示した判断を踏まえると、甲1発明及び甲2?4、甲6、甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

サ.本件発明14について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明14と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点14》
本件発明14では、「前記の吸収保持層はエアレイド不織布を用いて形成してある」のに対し、甲1発明では、「吸収層」をエアレイド不織布を用いて形成したとはされていない点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点14》について検討する。
傷手当用品の吸収層を、エアレイド不織布を用いて形成することは、甲4の「第3シート材としては、エアレイド不織布が特に好ましい。」(段落[0065]を参照)、甲7の「第2シート材としては、エアレイド不織布が特に好ましい。」(段落【0038】を参照)との記載に例示されるように、本件特許の出願前に周知の技術であり、その採否は、当業者が適宜決定し得た程度のことである。
そして、甲1には「吸収層は、セルロース系繊維、パルプ、高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独又は併用して使用することができ」と記載されているところ、甲1発明の「吸収層」に、繊維製品の一種といえるエアレイド不織布を用いて形成することは、甲4及び甲7に例示される上記周知技術に接した当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明14は、甲1発明及び甲3、甲4、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

シ.本件発明15について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明15と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点15》
本件発明15では、「前記の吸収保持層はフラッフパルプを有する」のに対し、甲1発明では、「吸収層」がフラッフパルプを有していない点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点15》について検討する。
傷手当用品の吸収層が、フラッフパルプを有するようにすることは、甲4に「エアレイド不織布においては、不織布を構成する繊維等の要素同士が加圧状態において接着剤で接着されているので、創傷被覆材をカットして用いた場合などに、高い吸水性を有する樹脂粉末やフラッフパルプなどが脱落し難い。」(段落[0068]を参照)と記載され、甲7の段落【0041】にも同様の記載があるように、本件特許の出願前に周知の技術であり、その採否は、当業者が適宜決定し得た程度のことである。
そして、甲1には「吸収層は、セルロース系繊維、パルプ、高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独又は併用して使用することができ」と記載されているところ、甲1発明の「吸収層」が、フラッフパルプを有するようにすることは、甲4及び甲7に例示される上記周知技術に接した当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明15は、甲1発明及び甲3、甲4、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ス.本件発明16について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明16と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》、《相違点1B》及び上記3.(2)シ.(イ)に示した《相違点15》に加え、以下の点で相違する。
《相違点16》
本件発明16では、「前記の吸収保持層はさらに高吸収性ポリマーを有し、この高吸収性ポリマーと上記のフラッフパルプとの重量比が10:90?25:75である」のに対し、甲1発明では、「吸収層」がフラッフパルプとさらに高吸収ポリマーを有していない点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりであり、《相違点15》についての判断は、上記3.(3)シ.(ウ)に示したとおりである。
《相違点16》について検討する。
甲1の段落【0034】には、「吸収層は、セルロース系繊維、パルプ、高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独又は併用して使用することができ、必要とされる吸収量にあわせてこれらの量を調整すればよい。」(上記1.(1)オ.を参照)と記載されている。
また、傷手当用品の吸収層が、フラッフパルプとともに高吸収性ポリマーを有するようにすることは、甲4に「エアレイド不織布においては、不織布を構成する繊維等の要素同士が加圧状態において接着剤で接着されているので、創傷被覆材をカットして用いた場合などに、高い吸水性を有する樹脂粉末やフラッフパルプなどが脱落し難い。」(段落[0068]を参照)と記載され、甲7の段落【0041】にも同様の記載があるように、本件特許の出願前に周知の技術であり、その採否や採用する際の他の材料との配合割合は、当業者が適宜決定し得た程度のことである。
してみると、甲1発明の「吸収層」が、フラッフパルプに加え、さらに、高吸収性ポリマー有するようにし、フラッフパルプとの重量比が10:90?25:75程度となるようにすることは、甲4及び甲7に例示される上記周知技術に接した当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明16は、甲1発明及び甲3、甲4、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

セ.本件発明17について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明17と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》、《相違点1B》、上記3.(2)シ.(イ)に示した《相違点15》及び上記3.(2)ス.(イ)に示した《相違点16》に加え、以下の点で相違する。
《相違点17》
本件発明17では、「上記の高吸収性ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム系である」のに対し、甲1発明では、「吸収層」がフラッフパルプとさらにポリアクリル酸ナトリウム系の高吸収ポリマーを有していない点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりであり、《相違点15》についての判断は、上記3.(3)シ.(ウ)に示したとおりであり、《相違点16》についての判断は、上記3.(3)ス.(ウ)に示したとおりである。
《相違点17》について検討する。
甲1の段落【0034】には、さらに、「特に、水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましく、このようにすることで、創傷を湿潤状態に保ち、傷の治癒を促進することができる。ゲル形成物質としては、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、アクリル酸(塩)重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合体、多価アルコール等が好ましい。」(上記1.(1)オ.を参照)と記載されている。
また、傷手当用品の吸収層が、フラッフパルプとともにポリアクリル酸ナトリウム系の高吸収性ポリマーを有するようにすることは、甲4の段落[0068]にはさらに「吸収材とは、液体と接触すると短時間に吸収、膨潤し、ゲル化する材料をいう。かかる吸収材としては、ポリアクリル酸系・・・、いわゆる高吸水性樹脂(SAP)やアルギン酸、デキストラン等の高い吸水性能を有する天然多糖類等を用いるのが好ましい。」(段落[0068]を参照)と記載され、甲7の段落【0041】にも同様の記載があるように、本件特許の出願前に周知の技術であり、その採否や採用する際の他の材料との配合割合は、当業者が適宜決定し得た程度のことである。
してみると、甲1発明の「吸収層」が、フラッフパルプに加え、さらに、ポリアクリル酸ナトリウム系の高吸収性ポリマー有するようにし、フラッフパルプとの重量比が10:90?25:75程度となるようにすることは、甲4及び甲7に例示される上記周知技術に接した当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明17は、甲1発明及び甲3、甲4、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ソ.本件発明18について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明18と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点18》
本件発明18では、「前記の吸収保持層が、少なくとも創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備える」のに対し、甲1発明では、「吸収層」が少なくとも創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備えるかが不明である点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点18》について検討する。
傷手当用品の吸収層が、創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備えるようにすることは、甲4に「また、第3シート材(審決注:甲1発明の「吸収層」に相当)に、間歇的に切り込みを入れること、例えばパーフォレートによる孔を形成すること等により、第3シート材に伸縮性を付与してもよい。」(段落[0074]を参照)と記載され、甲7の段落【0043】にも同趣旨の記載があるように、本件特許の出願前に周知の技術であり、その採否は、当業者が適宜決定し得た程度のことである。
してみると、甲1発明の「吸収層」が、創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備えるようにすることは、甲4及び甲7に例示される上記周知技術に接した当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明18は、甲1発明及び甲3、甲4、甲7に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

タ.本件発明19について
(ア)甲1発明
甲1発明は、上記3.(2)ア.に示したとおりである。

(イ)対比
本件発明19と甲1発明との対比、一致点は、上記3.(2)イ.に示したとおりであり、両発明は、上記3.(2)イ.に示した《相違点1A》及び《相違点1B》に加え、以下の点で相違する。
《相違点19》
本件発明19では、「前記の創傷部位と対面する側とは反対側の表面に粘着層を有する」のに対し、甲1発明では、「下面側被覆層」の創傷部位と対面する側とは反対側の表面に粘着層を有していない点。

(ウ)相違点の判断
《相違点1A》及び《相違点1B》についての判断は、上記3.(3)ア.(ウ)に示したとおりである。
《相違点19》について検討する。
傷手当用品において、創傷部位と対面する層の創傷部位と対面する側とは反対側の面を他の部材と密着させるようにすることは、一例としての甲4に「第1層(審決注:甲1発明の「下面側被覆層」に相当)と下記の第2層とは、なるべく密着していること、具体的には、第1層と第2層との界面において、図3に示すように、上記の貯留空間が滲出液で満たされても滲出液が面内方向に広がることがない程度に密着していることが好ましい。」(段落[0040]を参照)と記載されているように、本件特許の出願前に周知の技術であり、その採否は、当業者が適宜決定し得た程度のことである。
また、部材間を密着させるために当該部材の一方の表面に「粘着層」を設けることは本件特許出願前の慣用技術である。
してみると、甲1発明において、「下面側被覆層」の創傷部位と対面する側とは反対側の表面に粘着層を有するようにすることは、甲4に例示される上記周知技術に接した当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明19は、甲1発明及び甲3、甲4に例示される上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

チ.小括
以上のとおり、本件発明1?5、8及び14?19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、それらの特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
一方、本件発明6、7及び9?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、それらの特許は、同法第123条第1項第2号に該当することを理由に、無効とすることはできない。

4.無効理由2(特許法第29条の2違反)について
(1)本件発明1について
ア.甲6考案
上記1.(2)で摘記した事項からみて、甲1には以下の甲6考案が記載されている。
《甲6考案》
創傷部に当接する側から、透水性の表面シート、保水性シートの順に積層された創傷被覆材において、
創傷部に当接する透水性の表面シートは、開孔率10?50%の有孔フィルムであり、
有孔フィルムは、38?54mN/mの表面濡れ張力を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等を主材とするフィルムであり、
保水シートは、透水性の表面シートを通って出てくる滲出液を速やかに吸収保持し、
上記有孔フィルムの厚さは10?50μm程である、
創傷被覆材。

イ.対比
甲6考案の「表面シート」、「保水性シート」、「創傷被覆材」は、各々、本件発明1の「透液層」、「吸収保持層」、「創傷被覆材」に相当する。
ゆえに、本件発明1と甲6考案との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
少なくとも透液層と吸収保持層との2つの層を備えた創傷被覆材であって、
創傷部位と対面するように使用される側から順に、上記の透液層と吸収保持層とを積層してなり、
上記の透液層は、上記の創傷部位と対面する第1表面と、これとは反対側の第2表面と、両表面間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔とを有し、
上記の貫通孔は開孔率が3.07%以上であって、上記の第1表面側から第2表面側への液体の透過を許容し、
上記の第1表面が樹脂製のシート材からなり、
上記の吸収保持層は、水を吸収保持可能なシート材を含有する、
創傷被覆材。

《相違点1C》
「吸水保持層」について、本件発明1では、「吸水保持層」が「上記の透液層」と「直接積層」され、「上記の透液層と一体化されていない」のに対し、甲6考案では、「保水性シート」が「表面シート」と「直接積層」され、「上記表面シートと一体化されていない」か、が不明である点。
《相違点1D》
「樹脂製のシート材」が、本件発明1では、「疎水性を備えている」ものであるのに対し、甲6考案では、「38?54mN/mの表面濡れ張力を有する」ものである点。
《相違点1E》
「貫通孔」について、本件発明1の「貫通孔」は、「深さが100?2000μm」であり、「50?400個/cm^(2)の密度で存在する」ものであるのに対し、甲6考案の「有孔フィルムの厚さは10?50μm程」であり、すなわち、「有孔フィルム」の孔の深さは「10?50μm程」である点。

ウ.相違点の判断
《相違点1C》について
本件発明1における「吸水保持層」が「上記の透液層」と「直接積層」されていることについて、本件特許明細書の段落【0094】には「この第2実施形態では、上記の第1実施形態と異なって、透液制限層が省略してあり、透液層(1)の第2表面(12)に吸収保持層(3)が直接積層してある。この第2実施形態では透液制限層を省略してあるので、簡便に製造でき安価に実施できて好ましい。」と記載されている(上記2.(4)を参照)。
また、本件発明1における「吸水保持層」が「上記の透液層と一体化されていない」ことについて、本件特許明細書の段落【0102】には「この第5実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、吸収保持層(3)が他の層と一体化されていない。即ちこの第5実施形態の創傷被覆材(5)は、表面シート(10)からなる透液層(1)の第2表面(12)に、保護層(4)が周縁部(22)で溶着等により一体化されており、袋状に形成されている。そして、この透液層(1)と保護層(4)との間に、吸収保持層(3)が両層(1・4)とは固定しない状態で挿入してある。」と記載されている(上記2.(5)を参照)。
一方、甲6考案の「表面シート」と「保水性シート」とは、甲6の段落【0017】の「本考案の創傷被覆材は、上記の如く創傷部に当接する側から表面シート、保水性シート、中間シート、裏面シートの順に積層したもので・・・」(上記1.(2)エ.を参照)との記載からみて、何らかの別の層が介在しない状態、すなわち、直接積層されていると解される。
さらに、同段落【0017】の「ここで言う「積層」とは単に双方が重ね合わさっている状態を主として意味するが、双方が縫製、貼着、接着等の方法で部分的に接合されていてもよい。また、本考案の創傷被覆材は、滲出液の漏れを防ぐために、表面シートと裏面シートの寸法を保水性シートや中間シートより少し大きくして、双方の周縁部のみを熱融着等の方法で接着したものが好ましい。」との記載からみて、甲6には、甲6考案の「保水性シート」が「表面シート」と一体化されていない態様をも含むことが記載されているといえる。
したがって、《相違点1C》は、単なる表現上の差異であって、実質的な相違点ではない。

《相違点1D》について
甲6考案の「表面シート」が「38?54mN/mの表面濡れ張力を有する」ことに関し、甲6の段落【0010】及び【0011】には「本考案において、創傷部に当接する透水性の表面シートは、JISK6768(プラスチック・フィルム及びシート・ぬれ張力試験方法)に規定する表面濡れ張力が38?54mN/m、好ましくは40?50mN/mであって・・・有孔フィルムの表面濡れ張力が38mN/m未満では、撥水性が高くなって滲出液が有孔フィルム全体に均一に馴染めず、滲出液が創傷部に部分的に点在する形となって早期の治癒が望めない。一方、表面濡れ張力が54mN/mを超えると、被覆材が創傷部に引っ付き易くなって、引き剥がす際に創傷部を傷めるという問題が生起する。」(上記1.(2)ウ.を参照))と記載されている。
ここで、甲17(上記1.(5)を参照)によれば、「疎水性」と「撥水性」とは同義であると解されることを踏まえると、上記甲6の記載は、甲6考案の「表面シート」が「38?54mN/mの表面濡れ張力を有する」ことは、甲6考案は「表面シート」が「疎水性を備えている」ことと同義であるといえる。
したがって、《相違点1D》は、単なる表現上の差異であって、実質的な相違点ではない。

《相違点1E》について
本件発明1の本件発明1の「貫通孔」の深さ、すなわち、上記「貫通孔」が貫通する「透液層」の厚さは「100?2000μm」である。
一方、甲6考案の「有孔フィルム」の厚さについて、甲6の段落【0012】には「・・・かかる有孔フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等を主材とする厚さ1?50μm程の上記表面濡れ張力を有するフィルムであればいかなるものでも差し支えないが、フィルムの強度や衛生性等を考慮すると厚さ3?12μmのポリエステル系フィルムが好ましく・・・」と記載されているのみであり、甲6には、その厚さについて、50μmを大きく超える厚さとすることは記載されておらず、これを示唆する記載もない。
また、上記「有孔フィルム」の厚さについて、50μmを大きく超える厚さとすることが、例えば、甲6考案を具体化する際の設計上の微差にすぎないことを示唆する証拠はない。
したがって、《相違点1E》は、実質的な相違点である。

エ.まとめ
以上を踏まえると、本件発明1は、甲6考案と同一であるとはいえない。

(2)本件発明3について
本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに技術的な事項を発明特定事項としている本件発明3は、上記4.(1)ウ.で示した判断を踏まえると、甲6考案と同一であるとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものではなく、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効理由2により本件発明1及び3に係る特許を無効とすることはできない。

5.無効理由3(特許法第36条第6項第1号違反)について
「開孔率が3.07%以上」という語句は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。
しかし、上記3.(3)ア.(ウ)で示したように、本件発明1の「開孔率が3.07%以上であって」は、本件特許明細書の段落【0028】の「上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280?1400μmの円形に相当することが好ましい。・・・」との記載及び段落【0030】の「上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく、・・・」との記載(上記2.(2)を参照)における、孔径の最小値である280μmと、密度の最小値である50個/cm^(2)から、算出した、最小孔径の開口面積の値、50×π×(2.8/2)^(2)×10^(-4)cm^(2)=3.07×10^(-2)cm^(2)に基づくものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていたに等しい事項である。
したがって、上記「開孔率が3.07%以上」という語句が、本件特許明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことのみを理由として、本件発明1?19は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。
以上のとおり、本件発明1の「開孔率が3.07%以上」が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているか否かという点では、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由3により本件発明1?19に係る特許を無効とすることはできない。

6.無効理由4(特許法第36条第6項第2号違反)について
本件発明1において、「開孔率が3.07%以上であって」なる記載自体は明確である。
また、本件発明1において、上記「開孔率が3.07%以上であって」とされる「貫通孔」は、「透液層」が「多数」有する孔であると規定されている以上、本件発明1は、例えば、開孔率が100%近傍等の実質的に孔として存在し得ないような開孔率を有するものをも含むものではないことは、当業者にとって明らかである。
さらに、上記3.(3)ア.(ウ)で示したように、本件発明1の「開孔率が3.07%以上」とは、本件特許明細書の段落【0032】に記載された「好ましい」開孔率を規定しているものではなく、単に「貫通孔」による開口の程度を示しているにすぎず、「3.07%」という数値自体には、臨界的意義等の格別な技術的意義がないことが明らかである。
したがって、本件発明1の「開孔率が3.07%以上であって」に関し、開孔率の上限が規定されていないことのみを理由として、本件発明1?19は、明確でないとはいえない。
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由4により本件発明1?19に係る特許を無効とすることはできない。

7.無効理由5(特許法第17条の2第3項違反)について
本件発明1の「開孔率が3.07%以上であって」なる事項は、平成25年11月8日になされた手続補正により、特許請求の範囲の請求項1に追加された事項である。
上記事項に関し、本件特許の願書に最初に添付された明細書には、段落【0028】には、「上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280?1400μmの円形に相当することが好ましい。・・・」と記載され、段落【0030】には「上記の貫通孔(13)は、50?400個/cm^(2)の密度で存在することが好ましく、・・・」と記載されており、上記事項は、段落【0028】及び【0030】の上記記載における、孔径の最小値である280μmと、密度の最小値である50個/cm^(2)から、算出した、最小孔径の開口面積の値、50×π×(2.8/2)^(2)×10^(-4)cm^(2)=3.07×10^(-2)cm^(2)に基づくものであるから、本件特許の願書に最初に添付された明細書に記載されていたに等しい事項である。
したがって、上記事項を追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第1号に該当しないから、無効理由5により本件発明1?19に係る特許を無効とすることはできない。


第6.むすび
以上のとおり、本件発明1?5、8及び14?19に係る特許は、請求人が主張する無効理由1-2により、無効とすべきである。

一方、本件発明6、7及び9?13に係る特許については、請求人の主張する無効理由1-1?無効理由5によっては、無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、その19分の7を請求人の負担とし、19分の12を被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材であって、
創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを直接積層してなり、
上記の透液層(1)は、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有し、
上記の貫通孔(13)は開孔率が3.07%以上であって、上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、
上記の第1表面(11)が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり、
上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有する創傷被覆材において、
上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されておらず、
上記の貫通孔(13)の深さが100?2000μmであり、
上記の貫通孔(13)が50?400個/cm^(2)の密度で存在することを特徴とする創傷被覆材。
【請求項2】
上記の第1表面(11)における生理食塩水との接触角が85度以上である、請求項1に記載の創傷被覆材。
【請求項3】
上記の第1表面(11)における表面張力が40dyne/cm以下である、請求項1または2に記載の創傷被覆材。
【請求項4】
上記の第1表面(11)は、シリコーン、ポリウレタン、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる1以上の撥水性物質により被覆してある、請求項1?3のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項5】
上記のシート材は、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂材料を用いて形成してある、請求項1?4のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項6】
上記のシート材は、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成し、
前記の貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当する、請求項1?4のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項7】
上記の第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法は100?2000μmであり、
前記の貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280?1400μmの円形に相当し、上記の第2表面(12)での開口面積が上記の第1表面(11)での開口面積より小であり、50?400個/cm^(2)の密度で存在する、請求項1?6のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項8】
上記の吸収保持層(3)の、上記の透液層(1)とは反対側に、第1の透液層(1)と同一構成の第2の透液層(1a)がさらに積層してある、請求項1?7のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項9】
上記の吸収保持層(3)の、創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさらに備え、この保護層(4)は、樹脂フィルム、織布、編布もしくは不織布からなり、
上記の貫通孔は、上記の第1表面から上記の第2表面に向かって減少する孔径を有し、上記の開孔率が15?60%であり、上記の貫通孔の深さが100?2000μmであり、上記の貫通孔が50?400個/cm^(2)の密度で存在し、上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し、上記の創傷部位の上に滲出液を保持する、請求項1?7のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項10】
上記の保護層(4)は他の全ての層を覆うとともに、この他の層より広い面積に形成されて、他の層の外側にはみ出した外縁部(6)を備えており、
上記の外縁部(6)は上記の他の層が積層された側の表面の少なくとも一部に粘着部(7)を有する、請求項9に記載の創傷被覆材。
【請求項11】
上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に粘着部(7)を有しない非粘着部(8)を備えている、請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項12】
上記の保護層(4)は、上記の他の層の外側に、上記の外縁部(6)が形成されていない部分を備えている、請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項13】
上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に、スリット(9)もしくは小孔を上記の他の層の外周に沿って備えている、請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項14】
前記の吸収保持層(3)はエアレイド不織布を用いて形成してある、請求項1?13のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項15】
前記の吸収保持層(3)はフラッフパルプを有する、請求項1?14のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項16】
前記の吸収保持層(3)はさらに高吸収性ポリマーを有し、この高吸収性ポリマーと上記のフラッフパルプとの重量比が10:90?25:75である、請求項15に記載の創傷被覆材。
【請求項17】
上記の高吸収性ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム系である、請求項16に記載の創傷被覆材。
【請求項18】
前記の吸収保持層(3)が、少なくとも創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備える、請求項1?17のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項19】
前記の創傷部位(15)と対面する側とは反対側の表面に粘着層(21)を有する、請求項1?18のいずれかに記載の創傷被覆材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-01-30 
結審通知日 2019-02-04 
審決日 2019-02-18 
出願番号 特願2012-234412(P2012-234412)
審決分類 P 1 113・ 113- ZDA (A61F)
P 1 113・ 537- ZDA (A61F)
P 1 113・ 121- ZDA (A61F)
P 1 113・ 536- ZDA (A61F)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 渡邊 豊英
千壽 哲郎
登録日 2013-12-13 
登録番号 特許第5433762号(P5433762)
発明の名称 創傷被覆材用表面シートおよび創傷被覆材  
代理人 青木 孝博  
代理人 日比谷 洋平  
代理人 市川 英彦  
代理人 市川 英彦  
代理人 花田 健史  
代理人 青木 孝博  
代理人 白波瀬 悠美子  
代理人 日比谷 征彦  
代理人 後藤 未来  
代理人 白波瀬 悠美子  
代理人 後藤 未来  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ