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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1372977
審判番号 無効2017-800014  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-01-30 
確定日 2021-02-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5329420号「安定な炭酸水素イオン含有薬液」の特許無効審判事件についてされた平成30年 3月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成30年(行ケ)第10061号、平成31年 4月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5329420号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11-17〕について訂正することを認める。 特許第5329420号の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5329420号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2009-536137号)は、平成20年10月6日(優先権主張 平成19年10月5日 日本)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月2日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人から、平成29年1月30日に特許無効審判が請求された。以降の主な手続は次のとおりである。

平成29年 1月30日 審判請求書の提出
同年 4月24日 審判事件答弁書の提出
同年 5月30日付け 審理事項通知書
同年 7月25日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
同年 7月26日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の差出
同年 8月 8日 上申書(被請求人)の提出
同年 8月 8日 口頭審理
同年 8月31日 上申書(請求人)の提出
同年10月20日付け 無効理由通知書(被請求人に対して)
同年10月20日付け 職権審理結果通知書(請求人に対して)
同年11月24日 訂正請求書及び意見書(被請求人)の提出
同年11月24日 意見書(請求人)の提出
同年12月27日 弁駁書の提出
平成30年 3月 8日付け 補正許否の決定(請求人が口頭審理陳述要領
書で主張した明確性に関する無効理由は要旨
変更であるから認めない。)
同年 3月29日付け 一次審決
(訂正を認める。本件審判の請求は成り立たな
い。)
同年 5月 2日 知財高裁出訴
平成31年 4月25日 平成30年(行ケ)第10061号判決
(一次審決取消。以下「取消判決」という。)
令和 2年 2月21日 平成30年(行ケ)第10061号の上告受
理申立案件である令和元年(行ヒ)第246
号の却下決定
同年 2月28日 訂正請求申立書の提出
同年 3月 5日付け 訂正請求のための期間指定の通知書
同年 3月19日 訂正請求書の提出
同年 4月 3日 上申書(被請求人)の提出
同年 5月19日 弁駁書(2)の提出
同年 8月13日付け 審決の予告

なお、審決の予告に対し、被請求人から指定期間内に応答はなかった。
平成29年11月24日にされた訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和2年3月19日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正しようとするものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は、訂正による記載の変更箇所を示す。
また、訂正事項1?7は、一群の請求項である請求項1?10に対して請求するものであり、訂正事項8?11は、一群の請求項である請求項11?17に対して請求するものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が3.5?5.0mEq/Lであり、無機リン濃度が2.3?4.5mg/dLであり、そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、」と記載されているのを、「A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.mEq/Lであり、そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?5及び8?10も同様に訂正する。)。
なお、訂正請求書には、「炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり、」と記載されているが、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1には、「炭酸水素イオン濃度が32.mEq/Lであり、」と記載されている。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における「用時混合型急性血液浄化用薬液」が「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であることに訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?5及び8?10も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、リン酸イオン、ブドウ糖および水を含む、請求項1に記載の薬液。」と記載されているのを、「A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、リン酸イオン、ブドウ糖および水を含み、前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項1に記載の薬液。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3及び8?10も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含む、請求項1に記載の薬液。」と記載されているのを、「A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含み、前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項1に記載の薬液。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5及び8?10も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6における「用時混合型急性血液浄化用薬液」が「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であることに訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?10も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7における「用時混合型急性血液浄化用薬液」が「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であることに訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?10も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に「酢酸不耐症患者に適用可能な、請求項1?9のいずれかに記載の薬液。」と記載されているのを、「酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である、請求項1?9のいずれかに記載の薬液。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に「A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が3.5?5.0mEq/Lであり、無機リン濃度が2.3?4.5mg/dLであり、そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、」と記載されているのを、「A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり、そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12?17も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に「隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、」と記載されているのを、「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液が容器に充填された薬液充填容器であり、前記容器は、隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、」に訂正する(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12?17も同様に訂正する。)。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項16に「薬液が低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する、請求項11?15のいずれかに記載の薬液充填容器。」と記載されているのを、「薬液が低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制し、前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項11?15のいずれかに記載の薬液充填容器。」に訂正する(請求項16の記載を引用する請求項17も同様に訂正する。)。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項17に「薬液が酢酸不耐症患者に適用可能な、請求項11?16のいずれかに記載の薬液充填容器。」と記載されているのを、「薬液が酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である、請求項11?16のいずれかに記載の薬液充填容器。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1、8について
ア 訂正の目的、及び、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1、8は、A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度及び無機リン濃度を訂正前の数値範囲内の特定の数値に限定し、訂正前に濃度が特定されていなかったカルシウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度、塩素イオン濃度、及び炭酸水素イオン濃度を特定し、さらに、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される条件として「pHが8.32まで上昇した場合であっても」を追加することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1、8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

新規事項の追加について
(ア)「カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、」「炭酸水素イオン濃度が32.mEq/Lであり、」という各濃度は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、図面を含めて「本件明細書」といい、図面と特許請求の範囲を含めて「本件明細書等」という。)に記載された実施例1の混合液と実施例2の混合液(A液とB液を合した混合液)における濃度(【0073】)である。
本件明細書には、従来の透析液・補充液の成分組成として、「塩素イオン(Cl^(-)):104?114.5mEq/L」(【0008】)が記載され、「本発明」は、「従来の透析液・補充液とし比較して、カリウムイオン濃度が高く、リン酸イオンを含有することを特徴とする」と記載されており(【0022】)、実施例1の混合液と実施例2の混合液における塩素イオン濃度(112.2mEq/L、111.0mEq/L)は、従来の透析液・補充液の「塩素イオン濃度が104?114.5mEq/L」の範囲内である。したがって、カリウムイオン濃度とリン酸イオン濃度以外の他のイオン濃度である塩素イオン濃度については、従来の透析液・補充液における範囲の「104?114.5mEq/L」の範囲内でよいことが実質的に記載されているといえる。
また、本件明細書には、「上記の範囲では、無機リン濃度が高いほど、長時間にわたって薬液の安定性が維持される傾向が認められる。」(【0022】)、及び、「本明細書で言う『不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される』とは、投与対象に適用すべき最終薬液の調製後、たとえば上記A液とB液の混合後、少なくとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること、またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されることを意味する。」(【0055】)と記載され、薬液における不溶性微粒子形成の抑制と時間及びpHとが関連付けて示されている。さらに、【0083】の表9及び【0084】の表10は、リン酸イオン濃度が0.25mEq/L?0.65mEq/Lの場合に、pH8.32を含むpH7.23?8.89の範囲において浮遊物が「-」であることが記載されていることから、不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されるpHである「pHが7.5以上」として、「pH8.32まで上昇した場合」が記載されているものといえる。

(イ)そして、後記第9の2(1)イに説示するとおり、本件明細書の記載によれば、当業者は、「ナトリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含むB液を含み、そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し、A液およびB液の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し、かつA液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有せず、
A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり」という「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であれば、「A液とB液を合した混合液において、…少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という「沈殿抑制要件」を満たすことが理解できる。

(ウ)したがって、訂正事項1、8は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等の記載の範囲内での訂正である。

(2)訂正事項2、5、6、9について
訂正事項2、5、6、9は、本件明細書の【0057】【0075】の記載に基づいて、「薬液」を、「透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」に限定するものであるから、訂正事項2、5、6、9は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書等の記載の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3、4、10について
訂正事項3、4、10は、実施例1の混合液及び実施例2の混合液(A液とB液を合した混合液)の組成(ナトリウムイオン濃度138.0mEq/L)に基づいて、A液とB液を合した混合液のナトリウムイオン濃度を「138.0mEq/L」に限定するものであるから、訂正事項3、4、10は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書等の記載の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項7、11について
訂正事項7、11は、本件明細書の【0075】の記載に基づいて、「薬液」を、「透析液及び補充液の兼用液である」「薬液」に限定するものであるから、訂正事項7、11は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書等の記載の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)独立特許要件について
全請求項に対して特許無効審判が請求されているので訂正事項1?11に関して、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は課されない。

(6)請求人の主張について
請求人は、(i)【0008】【0022】【0073】の記載からは、訂正事項1で規定された濃度の範囲に入る混合液は認識できても、当該薬液が「そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、」を満たすかどうかが確認できず、一方、(ii)【0055】【0061】及び実施例の記載からは、そもそも、訂正事項1で規定された濃度の範囲に入る混合液が認識できないのであり、これらの記載を組合せることはできないから、結局、訂正事項1に係る混合液は認識しようがないし、(iii)具体的な実験データによる開示がない限り、本件明細書の記載からは、【0083】の表9のリン酸イオン濃度が2mg/dLの混合液のイオン濃度を、リン酸イオン濃度のみ4.0mg/dLに変えた場合に、「そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、」を満たすのか否か、確認できないから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない旨を主張する(弁駁書(2)4?9頁の「(1-1)」)。
しかしながら、上記(1)イ(イ)のとおり、後記第9の2(1)イに説示するように、本件明細書の記載から、訂正事項1で規定された濃度の範囲に入る混合液が「そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、」を満たすことを当業者は理解できる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(7)訂正の適否についてのまとめ
以上によれば、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11-17〕について訂正することを認める。

第3 訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?17に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下、請求項の番号に従い「訂正発明1」等といい、まとめて「訂正発明」ということがある。なお、下線は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液であり、
ナトリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含むB液を含み、そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し、A液およびB液の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し、かつA液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有せず、
A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.mEq/Lであり、
そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、用時混合型急性血液浄化用薬液。
【請求項2】
A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、リン酸イオン、ブドウ糖および水を含み、
前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項1に記載の薬液。
【請求項3】
A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水を含み、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、ブドウ糖および水を含む、請求項2に記載の薬液。
【請求項4】
A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンリン酸イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含み、
前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項1に記載の薬液。
【請求項5】
A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび水を含み、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ブドウ糖および水を含む、請求項4に記載の薬液。
【請求項6】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液であり、
A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.640g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))5.377gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.598g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl_(2)・2H_(2)O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl_(2)・6H_(2)O)0.203g、リン酸二水素ナトリウム(NaH_(2)PO_(4)・2H_(2)O)0.403g、ブドウ糖(C_(6)H_(12)O_(6))2.00gおよび水が含まれ、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないことを特徴とする、用時混合型急性血液浄化用薬液。
【請求項7】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液であり、
A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.382g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))5.377g、リン酸水素二ナトリウム(Na_(2)HPO_(4)・12H_(2)O)0.925gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.706g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl_(2)・2H_(2)O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl_(2)・6H_(2)O)0.203g、ブドウ糖(C_(6)H_(12)O_(6))2.00gおよび水が含まれ、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないことを特徴とする、用時混合型急性血液浄化用薬液。
【請求項8】
A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液または補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、急性血液浄化療法開始から24時間にわたって、該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり、かつ、血漿中リン酸イオン濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない、請求項1?7のいずれかに記載の薬液。
【請求項9】
低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する、請求項1?8のいずれかに記載の薬液。
【請求項10】
酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である、請求項1?9のいずれかに記載の薬液。
【請求項11】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液が容器に充填された薬液充填容器であり、
前記容器は、隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、当該下室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含有するA液を充填し、当該上室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含有するB液を充填してなり、そしてA液およびB液の少なくとも一方にはさらにリン酸イオンが含有されており、かつA液およびB液のいずれにも酢酸イオンが含有されておらず、用時、上記隔壁を破壊もしくは剥離してA液とB液を混合するようにしており、
A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり、
そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、
用時混合型急性血液浄化用薬液充填容器。
【請求項12】
上室の頂部に容器の係止手段を設けた、請求項11に記載の薬液充填容器。
【請求項13】
上室と下室の容積が同等となるように隔壁を設けた、請求項11または12に記載の薬液充填容器。
【請求項14】
容器が軟質の透明プラスチック製である、請求項11?13のいずれかに記載の薬液充填容器。
【請求項15】
A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを含む水溶液からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含む水溶液からなり、A液およびB液の少なくとも一方にリン酸イオンが含有されている、請求項11?14のいずれかに記載の薬液充填容器。
【請求項16】
薬液が低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制し、前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項11?15のいずれかに記載の薬液充填容器。
【請求項17】
薬液が酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である、請求項11?16のいずれかに記載の薬液充填容器。 」

なお、訂正発明1における炭酸イオン濃度の「32.mEq/L」は、「32.0mEq/L」の誤記であることは明らかであるから、以下の判断においては、「32.0mEq/L」として取り扱う。

第4 請求人の主張の概要
請求人は、請求の趣旨を「特許第5329420号の特許請求の範囲に記載された請求項1?17に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、証拠方法として甲第1号証?甲第11号証(以下「甲1」等という。)及び参考資料Aを提出するとともに、以下の無効理由1?3(以下「請求人無効理由1」?「請求人無効理由3」ということがある。)を主張する。

なお、請求人が提出した口頭審理陳述要領書5頁下から2行?7頁12行には、「本件特許発明は、いわゆる明確性要件(特許法第36条第6項第2号)に違反する。」との主張が記載されているが、平成30年3月8日付け補正許否の決定に示したように、これは、審判請求書に記載した無効理由の根拠法条とは異なる根拠法条に基づく新たな無効理由追加を求める主張であって、請求の理由の要旨を変更するものであるところ、その無効理由について請求の理由の補正は許可しない。

[請求人無効理由1](実施可能要件違反及びサポート要件違反)
請求項1?17に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1?17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1?17に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

[請求人無効理由2](甲2に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)
請求項1、11?17に係る発明は、甲2に記載された発明であるから、請求項1、11?17に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1?17に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?17に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1?17に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

[請求人無効理由3](甲3に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)
請求項1及び4に係る発明は、甲3に記載された発明であるから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1?10に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項11?17に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、又は甲3に記載された発明及び甲2、甲5?甲8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11?17に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1?17に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲1:本件特許の出願手続において提出された平成25年5月31日付け意見書
・甲2:国際公開第2004/108059号
・甲3:国際公開第2006/041409号
・甲3の1:国際公開第2006/041409号の抄訳
・甲4:最新 臨床検査のABC 生涯教育シリーズ-70,日本医師会雑誌,日本医師会,平成18年10月15日発行,第135巻・特別号(2),S199?S207頁,表紙,奥付
・甲5:特開2005-28108号公報
・甲6:特開2006-341113号公報
・甲7:「ろ過型人工腎臓用補液 サブパック(R)-Bi」のパンフレット,販売ニプロ株式会社 製造販売ニプロファーマ株式会社,2005年7月作成
・甲8:「ろ過型人工腎臓用補液 サブパック(R)-Bi」のパンフレット,販売ニプロ株式会社 製造販売ニプロファーマ株式会社,2005年10月作成
(当審注:甲7、甲8における「(R)」は、〇内にRの上付き文字である、以下同様。)
<以上、審判請求書に添付>

・甲9:試験報告書 混合液の安定性試験,ニプロ株式会社 医薬品研究所城内豊,2017年7月21日
・甲10:急性血液浄化法 徹底ガイド 新装版,株式会社総合医学社,2007年8月17日発行,36?41頁,表紙,奥付
・参考資料A:本件明細書の実施例1及び2の混合液と甲3の実施例4の混合液の組成を対比した表
<以上、平成29年7月25日提出の口頭審理陳述要領書に添付>

・甲11:CHDFの理論と実際 -原理・施行法編-,株式会社総合医学社,1998年3月20日発行,31?37頁,奥付
<以上、令和2年5月19日提出の弁駁書(2)に添付>

第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁の趣旨を「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、証拠方法として乙第1、2号証(以下「乙1」等という。)及び参考資料1?4を提出するとともに、本件特許には請求人が主張する無効理由1?3は存在しない旨を主張する。

[証拠方法]
・乙1:試験報告書 A液・B液混合後の安定性試験,徳岡庄吾,2017年4月21日
<以上、平成29年4月24日提出の審判事件答弁書に添付>

・乙2:日本透析医学会雑誌 第45回(社)日本透析医学会学術集会・総会特別号,2000年6月,Vol.33 supplement・1,822頁の「P-549」,表紙
<以上、令和2年4月3日提出の上申書に添付>

・参考資料1:阿岸鉄三編,「クリニカルエンジニアリング別冊 透析入門」,株式会社秀潤社,1994年7月1日発行,37?42頁,表紙,奧付
・参考資料2:「透析フロンティア」,1992年,Vol.2,No.4,2?8頁,表紙,奧付
<以上、平成29年7月26日差出の口頭審理陳述要領書に添付>

・参考資料3:試験報告書 不溶性微粒子形成の対比試験,徳岡庄吾,平成29年8月8日
<以上、平成29年8月8日提出の上申書に添付>

・参考資料4:試験報告書 段落0086に記載の安定性試験の詳細,徳岡庄吾,平成29年11月21日
<以上、平成29年11月24日提出の意見書に添付>

第6 当審で通知した無効理由の概要
当審で通知した平成29年10月20日付け無効理由通知に示した理由(以下「職権無効理由」ということがある。)は、概要、次のとおりである。
なお、本件特許の設定登録時の請求項1?17に係る発明を、請求項の番号に従い「本件特許発明1」等という。

[職権無効理由1](明確性要件)
本件特許発明1?5、8?10、11?17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、 同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

[職権無効理由2](実施可能要件)
本件特許発明1?5、8?10、11?17に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

[職権無効理由3](サポート要件)
本件特許発明1?17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

(なお、平成29年10月20日付け無効理由通知における「3.無効理由3(サポート要件)」に「(vii)よって、本件特許発明1?5、本件特許発明8?10、本件特許発明11?17は、」とあった部分は、「(vii)よって、本件特許発明1?17は、」の明らかな誤記であった。)


第7 証拠の記載事項
両当事者が提出した主な証拠には、以下の事項が記載されている。なお、原文が外国語で記載されているものについては、当審による日本語訳で示す。

1 甲1の記載事項
・摘記(甲1)
「このような解決手段の採用にあたって危惧されたことは、リン酸イオンの配合が不可能ではないかということであった。すなわち、本願発明の対象とする血液浄化用薬液は、急性血液浄化が必要とされる患者の血液中に存在する不要ないし有害物質を除去すると共に、正常な血液組成の維持に必要な電解質を補給することを主たる目的とするものであって、必須成分としてカルシウムイオンやマグネシウムイオンを含むものであるところ、そこにリン酸イオンを配合したのでは不溶性微粒子や沈殿が形成され、血液浄化に使用するには不適な薬液となる危惧が存在した。しかしながら、現実にはそのような危惧に反して、リン酸イオンを配合しても不溶性微粒子や沈殿の形成が認められず、長時間にわたり安定性が維持されることが判明したのである。しかも、血液浄化用薬液にはアルカリ化剤として炭酸水素イオンが含まれているが、この炭酸水素イオンもカルシウムイオンやマグネシウムイオンと反応して炭酸塩の不溶性微粒子や沈殿を形成することが知られており、その抑制対策が必要とされるところ、リン酸イオンの配合によって、そのような不溶性微粒子や沈殿の形成も抑制されることが明らかとなった。」(2頁下から6行?3頁7行)
「上記手続補正書により、本願発明の薬液は、A液とB液を合して混合液を調製した後、少なくとも27時間にわたり実質的に不溶性微粒子や沈殿の形成が抑制されるものであることを明確化した(補正後の請求項1および11参照)。すなわち、本願発明の薬液は、少なくとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈殿が形成されないという効果を奏するものであり、そのような効果を奏しないもの、換言すれば「実施できない態様」は本願発明の範囲に包含されないことが明らかである(発明の効果により発明の特定が可能であることについて、例えば平成23年(ネ)第10002号知財高裁判決参照)。」(3頁14行?20行)

2 甲2の記載事項
・摘記(甲2ア)
「[1] 用時混合する無菌配合製剤であって、同一薬効原料が2室以上に分配され収容されていることを特徴とする無菌配合製剤。」(23頁請求の範囲第1項)

・摘記(甲2イ)
「背景技術
[0002]…また炭酸塩含有溶液とカルシウム塩含有溶液あるいはマグネシウム塩含有溶液が同じ室に収容され保存されると炭酸カルシウムあるいは炭酸マグネシウムの沈殿が生成する等、望ましくない変化を起こす。このような問題も薬効原料を複数室に分離して保存し、投与直前に薬効原料を混合して患者に投与することによって解決することができる。このような問題に対し、予め混合されると望ましくない薬効原料を、異なる室に収容し保存する複数室からなる製剤が開発されている。このような製剤として例えば、1リットル容プラスチック容器に炭酸水素ナトリウム、10ミリリットル容ガラスバイアルに塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムを配合したサブラッド
-B(扶桑薬品工業 (株式会社))、あるいは、例えば隔壁で区画された複数の室を有するプラスチック容器の異なる室にアミノ酸と糖液を分離し収容したアミノトリパ (株式会社大塚製薬工場)等が挙げられる。
[0003] このように従来、予め混合されると望ましくない薬効原料を互いに異なる室に分離して保存され、投与直前にこれらの薬効原料が混合されて患者に投与される。この種の投与に用いられる輸液容器には、例えば合成樹脂フィルムで形成した容器本体内に薬効原料を分配し、収容するための複数の室を形成したものがある(例えば、特許文献1)。上記の輸液容器は、複数の薬効原料を互いに隔離して保存でき、使用の際には隔壁を連通して無菌状態で容易に混合・溶解できる利点がある。しかしながら、この連通操作をし忘れて一方の薬効原料のみを患者に投与してしまうというミスが生じることがある。互いに異なる室に分離され保存されている薬効原料が適切に混合されて患者に投与される場合には、混合後の薬効原料含有溶液の例えばカリウムイオン濃度や浸透圧比等が投与に適した範囲に設定されているが、上記ミスにより一方の液のみが患者に投与されてしまうと、患者が生命の危機に曝される場合がある。例えば電解質としてのカリウムイオンを高濃度で含有する薬効原料が複数室の一室に収納されている輸液製剤の場合において、連通操作忘れのミスにより、一室の薬効原料(高濃度のカリウムイオン)のみが投与されることになる。カリウムイオン濃度が過度に高いと、患者が高カリウム血症をきたし、最悪の場合には心停止により死に至る恐れもある。また、複数室の一室に分配され収容されている薬効原料含有溶液の浸透圧比が過度に大きいかあるいは小さい場合、室の連通操作をし忘れて混合することなくその薬効原料含有溶液のみを患者に投与してしまうというミスが発生すると、患者に甚大な血管痛を起こさせたり、患者の血液中の赤血球の破壊等が起こり、患者が重篤な事態に陥る。したがって、医療現場では上記の問題点を解消し、医療過誤による生体への悪影響を排除する無菌配合製剤が求められている。」(1頁6行?2頁下から7行)

・摘記(甲2ウ)
「発明が解決しようとする課題
[0004] 本発明は上記の問題点を解消し、医療過誤による生体への悪影響を排除する無菌配合製剤を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、薬効原料を複数室に分離して保存し、用時混合する無菌配合製剤であって、同一薬効原料を2室以上に分配し収容することを特徴とする無菌配合製剤を創製することに成功すると共に、それこれまでに開発されたものが有する複数の室の連通操作忘れによる上記した問題点を一挙に解決することを知見した。さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。」(2頁下から4行?3頁6行)

・摘記(甲2エ)
「発明の効果
[0007] 本発明の無菌配合製剤は、複数室に収容される各液剤の浸透圧比やカリウムイオン濃度等が適切な範囲に調整されているため、過誤により一室の液のみが患者に投与されたとしても、低浸透圧による溶血や、高カリウム血症等をきたしたりする恐れがないので、過誤による生体への悪影響を抑制することができる。」(3頁末行?4頁4行)

・摘記(甲2オ)
「発明を実施するための最良の形態
[0010] 以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明にかかる無菌配合製剤においては、薬効原料が液剤として複数室に分離して保存され、用時混合される無菌配合製剤であって、同一薬効原料が2室以上に分配され収容されていることを特徴とする。…
また、複数室が1容器に設置されている場合、例えば容器の2以上の室が隔壁(連通可能部)により区画され、容器の一室を外部より押圧することにより当該室が隣接する他の室と連通する容器が、好適な例として挙げられる。さらに、容器を2以上の室に区画する隔壁に破断可能な流路閉塞体が設けられている構造のもの等が挙げられる。」(4頁15行?5頁6行)

・摘記(甲2カ)
「[0011] 本発明にかかる無菌配合製剤は、上述のような2容器以上に分かれて設置されている複数室かまたは隔壁手段で区画されている1容器に設置されている複数室に薬効原料を含有する液剤が分離して保存され、用時混合する無菌配合製剤において、同一薬効原料が2室以上に分配し収容されていることを特徴とする。さらに2室以上に分配し収容されている同一薬効原料がカリウム塩、ナトリウム塩または糖類であることを特徴とする。この場合、カリウム塩、ナトリウム塩または糖類から選ばれる1以上が同室に分配され収容されていてもよい。このようにすることにより、上記した医療過誤による生体への悪影響を排除することができる。本発明において、薬効原料とは、通常使用される輸液、各種透析液、眼内灌流・洗浄液、心臓灌流液、心筋保護液、腹腔洗浄液または臓器保存剤等の組成成分(ただし、安定化剤およびpH調整剤は除く。)、特に電解質および糖をいう。」(5頁10行?20行)

・摘記(甲2キ)
「[0029] なお、上記の本発明の無菌配合製剤は、例えば解毒剤、人工腎臓透析液、腹膜透析液、輸液剤、根管拡大剤(歯科用)、人工髄液、眼内灌流液、心臓灌流液、心筋保護液、腹腔洗浄液、臓器保存液等として有用である。また、本発明の製造方法は、上記各種薬液の製造方法に利用できる。」(10頁9行?12行)

・摘記(甲2ク)
「実施例1
[0031] 塩化カルシウム0.09g、塩化マグネシウム0.11g、塩化ナトリウム1.20gおよびブドウ糖0.31gを注射用蒸留水に溶解して全量が150mLになるようにして、ブドウ糖溶液を得た(これをX液と称する)。次いで、炭酸水素ナトリウム0.97g、リン酸二水素カリウム0.08g、塩化ナトリウム2.38gおよび塩化カリウム0.07gを注射用蒸留水に溶解して全量が350mLになるようにして、溶液を得た(これをY液と称する。)。これらのX液およびY液を常法によりそれぞれろ過し、用時隔壁を開通し、無菌的に混合できる気体透過性プラスチック容器(図1)の薬効原料含有溶液収容室A(図1中の符号4)および薬効原料含有溶液収容室B(図1中の符号にそれぞれX液150mLおよびY液350mLずつ充填し、閉塞した。このX液およびY液を充填した容器を常法により加熱滅菌し、その後ガスバリア性フィルムにて二次包装(図1中の符合2)を行い、無菌配合製剤を得た。」(10頁15行?26行)
「[0033] [表1]

」(11頁17行?12頁)

・摘記(甲2ケ)
「図面の簡単な説明
[0008] [図1]本発明にかかる無菌配合製剤の一実施態様で用いる気体透過性プラスチック容器の平面図である。
符号の説明
[0009] 1 プラスチック容器
2 外装袋
3 隔壁 (連通可能部)
4 薬効原料含有溶液収容室A
5 薬効原料含有溶液収容室B
6 投与薬効原料含有溶液流出口」(4頁5行?14行)
「[図1]

」(図面頁1/1)

3 甲3の記載事項
・摘記(甲3ア)
「技術分野
本発明は、医療溶液、溶液の製造方法、使用方法に関する。特に、本発明は透析用の医療溶液に関する。」(1頁3行?6行)

・摘記(甲3イ)
「発明の背景
透析は、腎機能が損なわれている患者に対して適応される治療法である。血液からの老廃物の除去は、外液への移行または外液による血漿液の置換によって実施される。様々な透析技術を、付随する透析液と共に識別することができ、これらは患者のタイプに応じて使用される。長期的な腎不全に罹患している患者の場合、使用される透析技術は、通常週に数回(2?3回)、数時間(3?5時間)の間欠的治療である。」(1頁8行?15行)
「急性腎不全に罹患している患者の場合、適応となる治療法は、数週間を通しての持続的治療である持続的腎機能代替療法(CRRT)である。これには、血液透析以外の技術、具体的には、血液濾過が用いられる。血液濾過の場合、老廃物が、高度な透過性を有する膜を介して濾過によって、血液から除去される。この方法では、老廃物はより多量に取り除かれ、また(より)大きな分子も除去される。加えて、血液濾過の場合は、1時間に1?5リットルにわたり得る、かなりの量の液体が、血流から取り除かれる。このことは、血液濾過の場合、血液透析とは対照的に、置換液を大量に患者に返還しなければならないことを要求する。場合によっては、透析と濾過の組み合わせを使用することができる。これは、血液濾過透析と呼ばれる。血液濾過透析の具体的なタイプとしては、持続的静静脈血液濾過透析があり、CVVHDFと略記される。
定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者では、特定の条件下、低リン血症が起こり得る。また、CRRTを受けている患者では、より高い頻度で、低リン血症が起こり得る。前者は、主として、リン酸塩結合剤の過剰摂取や、非経口栄養法におけるリン酸塩の不十分な投与や、透析によるリンの持続的な除去に起因するものである。後者は、主として、当初から正常な腎機能を有するが故に血清リンレベルが正常な患者から、リンを効率的に除去してしまう結果である。」(1頁23行?2頁8行)
「低リン血症は、主に経口および静脈内経路によって、例えばリンに富む食品の摂取によって、経口リン製剤によってまたはリン酸ナトリウム(もしくはカリウム)塩の静脈内投与によって予防され、治療される。しかし、全体的なリン欠乏の厳密な程度を測定することは不可能であり、患者に投与すべきリンの正確な量を決定することは難しいので、経口および静脈内経路によるリンの投与は極めて慎重に実施しなければならない。多すぎるリンが投与された場合は高リン血症を発症することがあり、患者に対して深刻な影響を及ぼす、例えば低カルシウム血症、転移性石灰化および低血圧をもたらすことがあり、また投与されるリンが少なすぎる場合は低リン血症が矯正されない。」(2頁9行?19行)
「カルシウムイオンとリン酸塩の両方を含む溶液は、完全非経口栄養法(TPN)のための溶液において使用される。TPN溶液はマルチコンパートメントバッグに充填され、1番目の区画には脂質、2番目の区画にはアミノ酸とリン酸塩およびカルシウムを除く電解質の大部分、そして3番目の区画にはカルシウムとグルコースが含まれる。本発明による医療溶液と比較した主たる相違は、最終的な即時使用溶液のpHが本発明で示される溶液よりもはるかに低いことである。TPN溶液は通常5.2?6のpHを有する。
米国特許第6,743,191号には、置換輸液が開示されており、該輸液は、中でも特に、0.2?1.0mM、好ましくは0.5?0.9mMのリン酸二水素イオンおよび1.6?2.6mM、好ましくは1.9?2.4mMのカルシウムイオンを含んでなるものである。ここに開示された置換輸液は、当業者の専門知識の範囲内で、各塩を所望の濃度が達成されるように水に溶解することによって、簡便に調製することができる。調製の間は、無菌環境を維持することが望ましい。」(2頁20行?34行)
「医療溶液にリンを導入する場合の問題は、沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成であり、このような沈殿の危険性は、該液剤が終末加熱滅菌に供される場合には、さらに増大する。リン酸カルシウムの溶解度は、カルシウムおよびリン酸塩の濃度にそれぞれ依存し、さらには他の電解質の存在、温度およびpHにも依存する。TPN溶液におけるように、pHが約5.2?6である場合には沈殿の危険性はないが、約7?7.6の生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では、沈殿の危険性が高くなる。したがって、滅菌および保存の間におけるpHだけを制御すればよいのではなく、混合された
即時使用溶液のpHも制御する必要がある。また、これらの液剤の多くは、2年に渡る長期保存の間安定でなければならないという問題もある。」(3頁1行?11行)

・摘記(甲3ウ)
「発明の概要
本発明の目的の1つは、滅菌されかつ沈殿物を含まず、保存および使用の間に渡り良好な安定性を保証する医療溶液を提供することである。
本発明は医療溶液に関する。本発明によれば、該即時使用溶液は、1.0?2.8mMの濃度のリン酸塩を含んでなるものであり、滅菌されかつ6.5?7.6のpHを有するものである。」(3頁26行?31行)
「本発明の1つの実施形態では、前記医療溶液は、その即時使用溶液の状態で、1.2?2.6mMの濃度のリン酸塩を含み、6.5?7.6のpHを有する。
別の実施形態では、前記医療溶液は、その即時使用溶液の状態で、約2.8mMまでの濃度のリン酸塩を含み、6.5?7.4のpHを有する。
別の実施形態では、前記医療溶液は、その即時使用溶液の状態で、約1.3mMまでの濃度のリン酸塩を含み、6.5?7.6のpHを有する。」(3頁32行?4頁3行)
「さらなる実施形態では、医療溶液は、使用前には少なくとも2つの単一溶液に分けられており、第一単一溶液は、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、ピルビン酸塩、炭酸塩および重炭酸塩を含む群から選択される少なくとも1つの緩衝剤を含んでなるものであり、第二単一溶液は酸を含んでなるものであって、前記第一および第二単一溶液は、終末滅菌後使用する際に混合されて、即時使用溶液を形成し、該即時使用溶液は6.5?7.6のpHを有する。」(4頁4行?10行)
「さらなる実施形態では、前記即時使用溶液は1以上の電解質をさらに含んでなるものであり、前記1以上の電解質は、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウムおよび/または塩化物のイオンの1以上を含む。前記1以上の電解質は、即時使用溶液に混合される前は、前記第二単一溶液中に配合される。1つの実施形態では、ナトリウムイオンおよび/または塩化物イオンは、即時使用溶液に混合される前は、第一単一溶液および第二単一溶液の両方に配合される。」(4頁25行?31行)

・摘記(甲3エ)
「定義
『医療溶液』という用語は、血液透析、血液透析濾過、血液濾過および腹膜透析用の透析液、腎疾患集中治療室内での透析用の溶液、通常は緩衝物質を含む置換液または輸液、ならびに栄養目的のための溶液を意味することが意図されている。
『単一溶液』という用語は,使用の直前まで他の溶液から分離して保持される1つの溶液を意味することが意図されている。
『重炭酸塩および炭酸塩』という用語は,アルカリ重炭酸塩およびアルカリ炭酸塩,特に重炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを意味することが意図されている。
『即時使用溶液』という用語は,必要とされる異なる単一溶液を含み,即時使用できる溶液を意味することが意図されている。」(5頁15行?26行)

・摘記(甲3オ)
「図面の簡単な説明
図1A?Cは、最終的な即時使用溶液におけるpH値と、混合により1.3mMリン酸塩を含む溶液としてから24時間後までに生成された粒子の量との関係を示すグラフである。」(6頁4行?7行)


」(図面頁1/3)

・摘記(甲3カ)
「発明の詳細な説明
本発明の発明者らは、特定の環境、濃度、pH範囲およびパッケージングにおいて、滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出し、これが本発明の基礎を構成する。
最も有利な環境、濃度、pH範囲およびパッケージングを探索するより重要な事柄の1つは、生産、保存および即時使用溶液の調製の間の粒子の形成である。粒子の量は、粒子の大きさならびに粒子の量の両方に関して特定の範囲内にとどまらねばならない。これはヨーロッパ薬局方の中で規定されており、10μmの大きさの粒子については、限界は25計数/mlである。粒子の形成を最小限に保つことは非常に重要であり、さもなければ免疫系の引き金が引かれ、炎症カスケードの開始を導き得る。粒子の存在に関するさらなる問題は、透析治療の間に使用されるフィルターを目詰まりさせる危険
性である。
粒子形成の問題を生じさせる主要な成分は、炭酸塩および/またはリン酸塩のいずれかと組み合わせたカルシウムイオンである。
問題を解決するためにまず最初に考えられるのは、言うまでもなく生産および保存の間カルシウムイオンを炭酸塩およびリン酸塩から切り離して保持することであるが、即時使用溶液を調製するときにまだ問題が残り、固体の炭酸カルシウムおよびリン酸カルシウムが混合の間にまだ形成され得る。
本発明者は、即時使用溶液中約2.8mMまでのリン酸塩濃度により、即時使用溶液中のpH値が最大でも7.4、好ましくは最大でも7.2に保持される場合は、形成される粒子の量が許容される限界内であることを見出した。
リン酸塩濃度が即時使用溶液中約1.3mMまでである場合は、即時使用溶液のpH値が最大でも7.6、好ましくは最大でも7.4に保持されれば、許容される量の粒子が形成される。」(6頁15行?7頁5行)
「本発明者らはまた、カルシウムとリン酸塩は、これらの2つの成分が2.5より下、好ましくは1.5より下、最も好ましくは1.3またはそれより下のpHでコンパートメント中に保持されれば、調製および保存の間一緒に保持できることを見出した。」(7頁6行?9行)
「本発明の1つの実施形態では、医療溶液は、使用前には少なくとも2つの単一溶液、第一単一溶液と第二単一溶液に分けられており、前記第一および第二単一溶液は、終末滅菌後および使用の直前に、混合されて6.5?7.6のpHを有する最終的な溶液を形成する。」(7頁10行?13行)
「本発明の別の実施形態では、前記第一単一溶液は、第一単一溶液中の二酸化炭素、CO_(2)の分圧が大気の二酸化炭素、CO_(2)の分圧と同じ桁数となる割合で重炭酸塩および炭酸塩を含む。重炭酸塩および炭酸塩は、好ましくは重炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムとして混合され、1つの実施形態では、前記第一単一溶液は10.1?10.5の範囲内、好ましくは10.3のpHを有する。」(7頁17行?23行)
「この実施形態における前記第一および第二単一溶液を混合して即時使用溶液にした後、前記即時使用溶液は7.0?7.6の範囲内のpHを有する。さらに、前記即時使用溶液は、好ましくは、少なくとも25mM、好ましくは少なくとも30mM、および最大でも45mM、好ましくは最大でも40mMの重炭酸塩濃度を有する。」(7頁30行?34行)

・摘記(甲3キ)
「1つの実施形態では、前記即時使用溶液は、1以上の電解質をさらに含んでなるものである。該電解質は、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウムおよび/または塩化物のイオンの1またはそれ以上である。それぞれのコンパートメント中への電解質の配合は、その電解質が該単一溶液中に存在する他の物質との間で示すそれぞれの挙動、すなわち、1またはそれ以上の電解質と特定の単一溶液中に存在する他の物質との間に何らかの反応が起こり得るかどうか、に依存する。通常、該電解質は、前記第二単一溶液中に含まれる。例えば、第一単一溶液が重炭酸塩と炭酸塩との組合せを含む場合や、重炭酸塩および/またはリン酸塩のみを含む場合には、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンは、該第一単一溶液を除くその他のいずれの単一溶液にも、好適に入れることができる。この理由は、カルシウムおよびマグネシウムと、重炭酸塩/炭酸塩や重炭酸塩および/またはリン酸塩とを一緒にすると、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウムおよびリン酸マグネシウムの沈殿を引き起こし得るからである。しかし、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンは、特定のpH範囲等の如き一定の条件下では、重炭酸塩と共に保持し得るものであり、このことは、参照により本明細書に組み込まれる欧州特許第EP0437274号に開示されている。さらに、カルシウムおよびマグネシウムは、一定の条件下では、リン酸塩とも一緒に保持することができ、これについても上記を参照されたい。
他方、ナトリウムイオンおよび/または塩化物イオンは、通常は、第一単一溶液および第二単一溶液の両方に配合される。」(8頁6行?25行)
「本発明による医療溶液は、良好な安定性および良好な生体適合性を保証するという利点を有する。」(9頁6行?7行)
「前記単一溶液は、マルチコンパートメントバッグ中の異なるコンパートメントにおいて提供することができ、混合は、種々のコンパートメントを折れやすいピンによって連結させることによって提供され得、ピンは、マルチコンパートメントバッグ内の異なるコンパートメント中の内容物を混合するために破壊することができる。混合はさらに、異なるコンパートメントの間にピールシールを備えることによって提供することができ、異なるコンパートメント中の内容物を混合するためにピールシールを剥がすことができる。」(9頁8行?14行)

・摘記(甲3ク)
「実施例
本発明による溶液の種々の例を以下に示す。
実施例1
下記の単一溶液の対を以下の表1?5に従って調製した。第一単一溶と第二単一溶液との体積関係は1:20である。



溶液を121℃のオートクレーブで40分間滅菌した。滅菌後、各々の対の第一溶液と第二溶液を混合し、それぞれ2、5および10μmの大きさの粒子の量を測定した。…
…本発明の即時使用溶液についての結果は、ヨーロッパ薬局方において与えられている限界よりも十分に下である。」(9頁16行?11頁16行)
「実施例2
粒子の形成を最小限に保つために即時使用溶液の最適pH範囲を見出すことを目指して、表7に従った以下の対の単一溶液を調製し、混合した。第一単一溶液と第二単一溶液との体積関係は1:20である。

混合した溶液を2つの部分に分け、一方の部分には1、3mM NaH_(2)PO_(4)を添加し、他方の部分には2、6mM NaH_(2)PO_(4)を添加した。2つの異なる溶液を50mlガラスビンにプールし、2つの異なる濃度のNaH_(2)PO_(4)を含む各群のビンにおいてpHを6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0および8.2に調整した。24時間後に粒子の量を測定した。
付属の図面1A?1Cにおいて、1.3mMリン酸塩を含む溶液に関するこの測定からの結果を示す。付属の図面2A?2Bでは、2.6mMリン酸塩を含む溶液に関するこの測定からの結果を示す。
図面から明らかなように、1.3mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液のpHは、7.6またはそれより下、好ましくは7.4またはそれより下であるべきである。2.6mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液では、pHは、7.4またはそれより下、好ましくは7.2またはそれより下であるべきである。粒子形成は、通常は最初に非常に小さなサイズで認められ、その後凝集してより大きな粒子を形成する。選択された7.4および7.6のpH上限はそれぞれ、絶対値ではなく粒子プロフィールの変化に基づく。測定したすべての粒子サイズを評価に含め、より大きな粒子の形成に先立つ小さな粒子にいくぶん重点を置いた。」(12頁1行?27行)
「実施例4
表9?11に従って、以下の対の単一溶液を調製した。これらは、本発明の種々の実施形態を構成するものである。これら溶液対における、第一単一溶液と第二単一溶液との体積比は、20:1である。したがって、今回、第二単一溶液の体積は小さく、第一単一溶液の体積はより大きい。

1)ナトリウムは、NaCl、NaHCO_(3)、およびNa_(2)HPO_(4)として添加する。
2)塩化物は、NaCl、KCl、CaCl_(2)、MgCl_(2)、およびHClとして添加する。
3)リン酸塩は、Na_(2)HPO_(4)として添加するが、2つの単一溶液を混合した後は、主としてHPO_(4)^(2-)として存在する。しかし、H_(2)PO_(4)^(-)およびPO_(3)^(3-)も、これらのイオンの間の平衡により存在する。各々のイオンの濃度はpHに依存する。
4)一部の重炭酸塩は、混合の間にCO_(2)に変換されるが故に溶液から出ていくので、重炭酸塩の量は過剰投与される。」(13頁21行?14頁最終行)
「実施例5
表12に従って、以下の対の単一溶液を調製した。これは、本発明の1つの実施形態を構成する。この対における第一単一溶液と第二単一溶液との体積比は、1:20である。

1)ナトリウムは、NaCl、NaHCO_(3)、Na_(2)CO_(3)、およびNa_(2)HPO_(4)として添加する。
2)塩化物は、NaCl、KCl、CaCl_(2)、MgCl_(2)、およびHClとして添加する。
3)リン酸塩は、Na_(2)HPO_(4)として添加するが、2つの単一溶液を混合した後は、主としてHPO_(4)^(2-)として存在する。しかし、H_(2)PO_(4)^(-)およびPO_(3)^(3-)も、これらのイオンの間の平衡により存在する。各々のイオンの濃度はpHに依存する。」(17頁2行?14行)

・摘記(甲3ケ)
「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきである。そのような変更および修正は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することができる。それゆえ、そのような変更および修正は付属の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。」(17頁16行?21行)

4 甲4の記載事項
・摘記(甲4)
「III.生化学検査(5)電解質・金属関係」の章の「2 検査項目 各論」の節の「K(カリウム)」の項の「基準値」の欄に、「3.6?5.0mEq/l」と記載されている。(S 202頁左欄「K(カリウム)」の項)

「III.生化学検査(5)電解質・金属関係」の章の「2 検査項目 各論」の節の「「P(リン)」の項の「基準値」の欄に、「2.5?4.5mg/dl」と記載されている。(S 205頁右欄「P(リン)」の項)

5 甲5の記載事項
・摘記(甲5)
「【0001】
本発明は、容器に個別に充填された用時混合型薬液に関する。さらに詳しくは、本発明は、容器に個別に充填された用時混合型薬液であって、誤投与の際の副作用が回避される薬液に関する。」(3頁11行?14行)
「【0032】
本発明の用時混合型薬液を収容する複室容器のフィルムシートに使用する素材としては、通常の医薬品用輸液容器に使用される合成樹脂が用いられる。例えば、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリアミド、エチレン-メタクリレート共重合体、エチレンプロピレン系エラストマー、およびこれらの混合物等の単層または積層フイルムが用いられる。これらのフイルムは、ブロー成形法、インフレーション法、Tダイ成形法、多層形成法、共押出法等、公知の方法により成形される。」(8頁27行?34行)
「【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、連通可能な隔壁を備えたダブルバッグ型の複室容器を表す。」(16頁34行?36行)
「【符号の説明】
【0071】
1.本発明の薬液を収容する複室容器、
2.破壊もしくは剥離可能な連通可能な隔壁、
3.下室(A室:投与前)、
3’.上室(B室)、
4.加熱溶着部、
5.ゴム製等の密栓を備えた投与用口部、
6.薬剤投入用の口部。
【図1】

」 (17頁8行?16行、図1)

6 甲6の記載事項
・摘記(甲6)
「【要約】 (修正有)
【課題】過誤により未混合の用時混合型薬液が哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合であっても、該哺乳動物に対する副作用がほとんどない、より安全な用時混合型製剤の提供。
【解決手段】隔壁2により2室3、3’に区分けされた開口部5を有する複室容器1の一方の室に、血液と同等の浸透圧を有し、ナトリウムイオン濃度が134?146mEq/Lの範囲で、他のイオンとともに液に配合されているA液と、他方の室に、血液と同等の浸透圧を有し、ナトリウムイオン濃度が134?146mEq/Lの範囲で、他のイオンとブドウ糖ともに液に配合されているB液からなる用時混合型製剤。
【選択図】図1

」(1頁下欄)
「【0026】
本発明の特に好ましい実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、該容器が軟質の透明プラスチック製である、薬液充填容器が提供される。
本発明の極めて好ましい実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを含む水溶液からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸およびブドウ糖を含む水溶液からなる、薬液充填容器が提供される。」(6頁47行?7頁3行)

7 甲7の記載事項
・摘記(甲7)
甲7は、「ろ過型人工腎臓用補液 サブパック(R)-Bi」のパンフレットであり、その冒頭頁には当該製品の写真が掲載されている。

8 甲8の記載事項
・摘記(甲8)




」(3頁)


」(「サブパック(R)-BiのDrug Information」の欄)

9 甲9の記載事項
・摘記(甲9)
甲9は、ニプロ株式会社 医薬品研究所 城内豊氏が作成した、「特許第5329420号」「に係る実施例2に記載のA液とB液の混合液と、甲3号証の実施例4(表9)に記載の混合液との安定性を確認する」ことを目的とした混合液の安定性試験の試験報告書であり、その試験結果が記載されている。

10 甲10の記載事項
・摘記(甲10ア)
「II 急性血液浄化法の種類と原理
Q 8 透析液および補充液の組成

透析液の組成は,患者の病態に応じて調整されるのが理想であり,市販製剤の組成での治療に適さない患者も少なくありません.特に導入期や急性血液浄化では,患者の病態に合わせたきめ細かな透析液の処方を要することが多く,透析液や補充液の組成と使用上の注意を理解しておくことは,極めて重要です.

Q 透析液の組成は?
A 血液-透析液間の物質移動は,拡散現象(diffusion)を原理としているため,透析液と血液の濃度差が大きい物質ほど移動速度(除去速度)は速くなります.体内分布スペースが広く,またより積極的に除去すべき物質は,その濃度差を大きくするために透析液中に含まないのが原則ですが,極めて狭い範囲で血中濃度を維持することが要求される電解質は,透析液の成分として一定の濃度が設定されています.表1に,現在市販されている主な透析液の組成を示します.
1.ナトリウム(Na)
…現在では,血清Na値の正常値に相当する140?143mEq/Lの正Na透析液が主流となっています.
2.カリウム(K)
7mEq/Lを超える高K血症は緊急的な処置を要する重篤な病態であり,血液透析が最も安全かつ迅速な治療法といえます.…市販透析液のK濃度は2.0?2.5mEq/Lとして血清K値との差を維持しながら,Kの過剰除去を防いでいます.…
3.カルシウム(Ca)
…現在は2.5?3.0mEq/Lの透析液が多く使用されています.…
4.マグネシウム(Mg)
…市販透析液のMg濃度は1.0?1.5mEq/Lの設定となっています.…
5.ブドウ糖
透析液の組成としてブドウ糖が添加されている主な理由は,糖尿病患者の低血糖防止にあります.…このため透析液には100?150mg/dLの濃度でブドウ糖が添加されており,透析中の低血糖出現の頻度は少なくなっています.
6.アルカリ化剤
代謝性アシドーシスの状態にある腎不全患者では,蓄積したH^(+)を緩衝するバッファーとしてHCO_(3)^(-)を補充する必要があります.このためNaHCO_(3)をアルカリ化剤とした重炭酸透析液が広く用いられています.現在市販されている透析液HCO_(3)^(-)濃度は30mEq/L前後に設定され,拡散により透析液から血中へHCO_(3)^(-)が補給されます.」(36頁1行?38頁上段13行)
「Q 補充液の組成は?
A 血液濾過(透析)用の補充液は細胞外液に類似した組成を有し,透析液とほぼ同じ組成,濃度といえます.現在市販されている補充液を表1に示します.透析液を無菌On-line化して,補充液として使用する方法(On-line血液濾過透析法)が普及しつつある現状では,補充液と透析液の組成,濃度は同じです.」(40頁の「Q 補充液の組成は?」の項目)
「Q 補充液の副作用は?
A 一般に市販されている補充液を使用する場合に限っては,1)正常補充液成分による副作用,2)濃度調整異常による副作用が挙げられます.基本的に,透析液の副作用と同様であり,低K血症や酢酸不耐症が問題となります.重炭酸Naをアルカリ化剤としている補充液でも,6?8mEq/L程度の酢酸含有は避けられません.血圧低下をはじめとする酢酸不耐症状は,循環動態の不安定な患者では治療の中断が必至です.低K血症の患者には,補充液のK濃度をKCl注射液で3.0mEq/L以上の濃度に調整する場合があります.調整後は,調整成分の実測が不可欠となります.」(40頁の「Q 補充液の副作用は?」の項目)

・摘記(甲10イ)


」(37頁)

11 甲11の記載事項
・摘記(甲11)
「5 補充液と透析液
はじめに
血液浄化法とは体液の量的,質的異常を調節することであり,用いる原理は大きく分類すると,透析,濾過,交換,吸着である.透析は血液が半透過性膜(半透膜)を介して,透析液と接触し,血液と透析液との間の濃度差によって拡散が生じ,物質が移動する.濾過は,半透過性膜を通して,限外濾過によりある程度の分子量以下の物質を含む水分を血中より除去し,代りに補充液を補充する.…これらのなかでCHDF(当審注:持続的血液透析濾過)における血液浄化の原理は、濾過と透析である.…

補充液と透析液に必要な条件
補充液と透析液の違いは,直接血中に注入するか,半透過性膜を介して,血液と接するかの違いである.したがって,本来要求される条件の厳格性に補充液と透析液の間に差はあるものの,CHDFはhemofilterを用いるために,back diffusion filtration が起こり,透析液が血中に流入してしまう可能性があり^(2,3)),CHDFの透析液は,一般の血液透析(HD)における透析液と違って,補充液に近い条件が要求される.」(31頁の表題、31頁左欄1行?末行)
「これらの条件を満たし,入手が容易な液として,血液濾過(HF)用に市販されている補充液が挙げられる.現在市販されているHF用補充液には,…サブラッドBの合計3種類が市販されている(表12).…現時点で市販されている製剤の中でサブラッドBが,これらの点から,CHDF施行時の補充液および透析液として最も適した製剤であると考えられる.」(31頁右欄11行?24行)
「このような市販の製剤が入手困難な場合は,注射用の製剤を混合して作成する.…表13に当施設で使用している処方の例を示す.処方1はKとCaをフリーにしてあり,緊急に必要なときのために,極力作成が簡便になるように処方してある.処方2は維持に用いる処方である^(5)).

」(31頁右欄25行?32頁左欄4行)
「補充液・透析液中の溶質濃度

K濃度:腎不全患者においては,…高K血症を呈することが多い.…高K血症はしばしば緊急血液浄化法の適応となる.…不整脈を頻発する患者では,低Kに注意し、K濃度を調整あるいはKCl等のK製剤を別途持続注入して急激な低下を予防する必要がある.」(32頁左欄5行?右欄下から5行)
「補充液
救急集中治療領域において,CHDFを施行する場合,…急性腎不全患者治療に必要な輸液のスペースを得ることが重要な目的であることが多い^(15)).」(33頁右欄下から14行?9行)
「on-line CHDF
HF施行時には,清潔なHF用補充液が大量に必要であるが,HF施行症例数が少なく,販売量が少ないためにHF用補充液の価格が高価になっている点,重い補充液の瓶やバッグを大量に懸架しすべてを連結するか,順次交換する必要がある点,準備の煩雑さ等の問題点がある.そこで透析液を直接フィルターを通して濾過し,HF補充液として連続的に作成するon-line法が開発されつつある^(18)).欧米ではガンブロ社製の専用装置も実用化されており,本邦においてもいくつかの施設で試みられている^(19、20))。原水を硬水軟化装置、活性炭吸着装置で前処理し,逆浸透圧(reverse osmosis; RO)装置により精製した水を用いて,透析液供給装置で透析液原液を希釈し,透析液を作成する.作製された透析液は,二重から三重の濾過膜を通過させることにより,細菌,エンドトキシン等の発熱物質,異物の除去を行い,補充液として用いる(図16).
この方法が本格的に実用化されれば,安価で手間のかからない補充液を大量に得ることができるので,HFの普及に大いに役立つと思われる.さらに,この方法をCHDFに応用し,作成した補充液は,エンドトキシン検出限界以下であり,安全に施行できたとの報告がある^(21)).この補充液の厳重な品質管理が保証され,血中に投与することが認可されれば,より多くの症例に,簡便にCHDF治療が可能となると考えられる.」(34頁右欄?36頁左欄「on-line CHDF」の項)


」(36頁の図16)

12 乙2の記載事項
「P-549 On-lineHDF施行中に痙攣をきたした2症例
-On-lineHDF施行中の血中Ca値について
総合病院 松江生協病院 透析室

【目的】長期透析合併症予防にHDFは有用と言われている。今回我々は、On-lineHDF(後希釈)施行中に痙攣をきたした2症例を経験し、On-lineHDF時にCaを持続注入する事で良好な結果を得たので報告する。

【対応及び結果】両症例ともボトル型HDFと比較するとon-lineHDF時の血中Ca値の低下を認めた。その為、血液回路内にCa注入を行ったところ症状の消失を認めた。
【考察及び結論】低Ca透析液(Ca2.5mEq/l)を使用したon-lineHDF治療は症例により、血中Ca値の低下に基づくしびれや痙攣が出現する恐れがあるので注意を要す。」(822頁左下欄)

第8 取消判決の拘束力
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理及び審決は、取消判決の判断、特に、以下の判示事項に拘束されるものである(下線は、当審が付したものがある。当審が引用する取消判決の頁行は、知的財産高等裁判所ウェブページに掲載された判決におけるものである。)。
なお、取消判決中の「本件訂正発明1」?「本件訂正発明17」は、平成29年11月24日にされた訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?17に係る発明であり、当該訂正請求は取り下げられたものとみなされている。

「第2 事案の概要

2 特許請求の範囲の記載

(2)本件訂正後
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし17の記載は,次のとおりである(下線部は,本件訂正による訂正箇所である。以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件訂正発明1」などという。…)。
【請求項1】
ナトリウムイオン,塩素イオン,炭酸水素イオンおよび水を含むA液と,ナトリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,塩素イオン,ブドウ糖および水を含むB液を含み,そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液およびB液の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し,かつA液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有せず,
A液とB液を合した混合液において,カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり,無機リン濃度が4.0mg/dLであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり,そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,用時混合型急性血液浄化用薬液。」(取消判決2頁9行、3頁3行、7頁1?19行)

「3 本件審決の理由の要旨

(2)「請求人無効理由3」に関し,本件審決が認定した甲3に記載された発明(以下「引用発明2」という。),本件訂正発明1と引用発明2との相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明2
(ア) 「実施例4
表9?11に従って,以下の対の単一溶液を調製した。これらは,本発明の種々の実施形態を構成するものである。これら溶液対における,第一単一溶液と第二単一溶液との体積比は,20:1である。したがって,今回,第二単一溶液の体積は小さく,第一単一溶液の体積はより大きい。


の発明
(イ) 引用発明2における第一単一溶液と第二単一溶液の混合液中の各イオンの濃度(mM)を「Eq/L」又は「mg/dL」の単位に換算すると,次のとおりである。
「カルシウムイオン濃度 2.50mEq/L」
(=1.25(Ca^(2+)のモル濃度)×2(Ca^(2+)の原子価))
「マグネシウムイオン濃度 1.2mEq/L」
(=0.6(Mg^(2+)のモル濃度)×2(Mg^(2+)の原子価))
「カリウムイオン濃度 4.0mEq/L」
(=4.0(K^(+)のモル濃度)×1(K^(+)の原子価))
「炭酸水素イオン濃度 30.0mEq/L」
(=30.0(HCO_(3)^(-)のモル濃度)×1(HCO_(3)^(-)の原子価))
「無機リン濃度 3.72mg/dL」
(={1.20mM(HPO_(4)^(2-)の濃度)×96.08(HPO_(4)^(2-)のモル質量)}mg/L×{30.97(Pのモル質量)/96.08(HPO_(4)^(2-)のモル質量)}×(1L/10dL))
イ 本件訂正発明1と引用発明2の相違点
(相違点(甲3-1-1’))
本件訂正発明1では,ナトリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し,引用発明2では,第一単一溶液にしか配合されていない点。
(相違点(甲3-1-2’))
本件訂正発明1では,A液およびB液のいずれもが水を含むものであることが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2では,発明特定事項とされていない点。
(相違点(甲3-1-3’))
本件訂正発明1では,「A液とB液を合した混合液において,……,少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ことが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2では,それに対応する発明特定事項がない点。
(相違点(甲3-1-4’))
本件訂正発明1は「急性血液浄化用薬液」であるのに対し,引用発明2は「医薬溶液」である点。
(相違点(甲3-1-6’))
混合液中の無機リン濃度が,本件訂正発明1では4.0mg/dLであるのに対し,引用発明2では3.72mg/dLであると算出される点。
(相違点(甲3-1-7’))
混合液中のマグネシウムイオン濃度が,本件訂正発明1では1.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2では1.2mEq/Lであると算出される点。
(相違点(甲3-1-8’))
混合液中の炭酸水素イオン濃度が,本件訂正発明1では32.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2では30.0mq/Lであると算出される点。」(取消判決11頁3行、同頁下から2行?14頁11行)

「第4 当裁判所の判断

2 取消事由2-1(甲3を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)(請求人無効理由3関係)について
(1)甲3の記載事項について

ウ 前記ア及びイの記載事項を総合すれば,甲3には,実施例4に基づいて特定される引用発明2が記載されていることが認められる。」(取消判決38頁下から6行、63頁5?7行、76頁6?7行)

「(2)本件優先日当時の技術常識及び周知技術について
ア 甲10の開示事項について
甲10(「急性血液浄化法徹底ガイド 新装版」2007年(平成19年)8月17日発行)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「表1」については別紙3を参照)。
(ア) 「透析液の組成は,患者の病態に応じて調整されるのが理想であり,市販製剤の組成での治療に適さない患者も少なくありません。特に導入期や急性血液浄化では,患者の病態に合わせたきめ細かな透析液の処方を要することが多く,透析液や補充液の組成と使用上の注意を理解しておくことは,極めて重要です。」(36頁上段左欄1行?右欄4行)
(イ) 「血液-透析液間の物質移動は,拡散現象(diffusion)を原理としているため,透析液と血液の濃度差が大きい物質ほど移動速度(除去速度)は速くなります。体内分布スペースが広く,またより積極的に除去すべき物質は,その濃度差を大きくするために透析液中に含まないのが原則ですが,極めて狭い範囲で血中濃度を維持することが要求される電解質は,透析液の成分として一定の濃度が設定されています。表1に,現在市販されている主な透析液の組成を示します。」(36頁下段左欄1行?11行)
(ウ) 「1.ナトリウム(Na)
…現在では,血清Na値の正常値に相当する140?143mEq/Lの正Na透析液が主流となっています。」(36頁下段左欄12行,右欄1行?3行)
(エ) 「2.カリウム(K)
7mEq/Lを超える高K血症は緊急的な処置を要する重篤な病態であり,血液透析が最も安全かつ迅速な治療法といえます。…市販透析液のK濃度は2.0?2.5mEq/Lとして血清K値との差を維持しながら,Kの過剰除去を防いでいます。」(36頁下段右欄4行?14行)
(オ) 「3.カルシウム(Ca)
…現在は2.5?3.0mEq/Lの透析液が多く使用されています。」(36頁下段右欄20行,37頁左欄3行?右欄1行)
(カ) 「4.マグネシウム(Mg)
…市販透析液のMg濃度は1.0?1.5mEq/Lの設定となっています。」(38頁上段左欄2行,5行?6行)
(キ) 「6.アルカリ化剤」
…代謝性アシドーシスの状態にある腎不全患者では,蓄積したH^(+)を緩衝するバッファーとしてHCO_(3)^(-)を補充する必要があります。このためNaHCO_(3)^(-)をアルカリ化剤とした重炭酸透析液が広く用いられています。現在市販されている透析液HCO_(3)^(-)濃度は30mEq/L前後に設定され,拡散により透析液から血中へHCO_(3)^(-)が補給されます。」(38頁上段右欄5行?13行)
(ク) 「血液濾過(透析)用の補充液は細胞外液に類似した組成を有し,透析液とほぼ同じ組成,濃度といえます。現在市販されている補充液を表1に示します。」(40頁上段左欄1行?4行)
(ケ) 表1には,市販の透析液及び補充液の組成として,例えば,「AK-ソリタFL」(味の素)は,カルシウムイオン濃度が「2.5mEq/L」,マグネシウムイオン濃度が「1.0mEq/L」,炭酸水素イオン濃度が「27.5mEq/L」であることが,「リンパック(ニプロ)」は,カルシウムイオン濃度が「2.5mEq/L」,マグネシウムイオン濃度が「1.0mEq/L」,炭酸水素イオン濃度が「28.0mEq/L」であることが,「サブラッドB(扶桑薬品工業)」は,カルシウムイオン濃度が「3.5mEq/L」,マグネシウムイオン濃度が「1.0mEq/L」,炭酸水素イオン濃度が「35.0mEq/L」であることが示されている。
イ 透析液及び補充液の組成に係る技術常識又は周知技術
前記アの記載事項を総合すれば,本件優先日当時,〔1〕市販されている透析液及び補充液は,「急性血液浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得ること,〔2〕市販されている透析液及び補充液の組成は,ナトリウムイオン,カリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,炭酸水素イオンを含むものであり,これらの電解質は,極めて狭い範囲で血中濃度を維持することが求められるため,一定の濃度が設定されていること,〔3〕市販されている透析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5?3.5mEq/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0?1.5mEq/L」,炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整することは,技術常識又は周知であったものと認められる。」(取消判決76頁下から2行?79頁10行。「〔1〕」?「〔3〕」は、それぞれ丸の中に数字である。以下、同様。)

「(3)相違点の容易想到性について
ア 相違点(甲3-1-1’)について
(ア) 甲3の実施例4(表9)では,第一単一溶液及び第二単一溶液のうち,ナトリウムイオンは,第一単一溶液のみに配合されている。
一方で,甲3には,ナトリウムイオンについて,「ナトリウムイオンおよび/または塩化物イオンは,通常は,第一単一溶液および第二単一溶液の両方に配合される。」(前記(1)ア(キ))との記載があり,実施例1ないし3及び5では,ナトリウムイオンが第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合されていること(表1ないし5,7,8,12)が示されている。
また,甲3には,「カルシウムおよびマグネシウムと,重炭酸塩/炭酸塩や重炭酸塩および/またはリン酸塩とを一緒にすると,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,リン酸カルシウムおよびリン酸マグネシウムの沈殿を引き起こし得る。」(前記(1)ア(キ))という沈殿の問題の記載があるが,ナトリウムイオンについては,このような沈殿の問題の記載はない。
以上の点に照らすと,甲3記載の実施例4(引用発明2)において,ナトリウムイオンを,通常のように,第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合させる構成とすることは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2において,第一単一溶液のみに配合されているナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合する構成(相違点(甲3-1-1’)に係る本件訂正発明1の構成)に変更することを容易に想到することができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。」(取消判決79頁11行?80頁9行)

「イ 相違点(甲3-1-4’)について
(ア) 甲3には,引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)が「急性血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。
一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり,「本発明」の目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」(血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供することにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むことは自明である。
また,甲3には,前記(1)イ(ア)及び(イ)認定のとおり,〔1〕急性腎不全に罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が起こり得るものであること,〔2〕低リン血症は,リンの投与によって予防,治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題があること,〔3〕「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及びリン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからすると,「本発明」の実施例である引用発明2の「医療溶液」は,急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。
以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実施例4(引用発明2)において,当該「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3-1-4’)に係る本件訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は,誤りである。」(取消判決81頁13行?82頁20行)

「ウ 相違点(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-8’)について
(ア) 相違点(甲3-1-7’)及び(甲3-1-8’)について
引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)における第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分のイオン濃度は,「K^(+)」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0mEq/L),「HPO_(4)^(2-)」(リン酸イオン濃度)が「1.20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL),「Ca^(2+)」(カルシウムイオン濃度)が「1.25mM」(2.50mEq/L),「Mg^(2+)」(マグネシウムイオン濃度)が「0.6mM」(1.2mEq/L),「HCO_(3)^(-)」(炭酸水素イオン濃度
)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である。
一方,前記(1)イ(イ)の認定事実によれば,甲3には,〔1〕「本発明」の目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することであること,〔2〕「本発明」の発明者らは,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特定のpH範囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るものであり,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができ,特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケージングにおいて,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと,〔3〕「本発明」は,上記課題を解決するため,「即時使用溶液」が,1.0?2.8mMの濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1?8.7mg/dL」)のリン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5?7.6のpHを有するという構成を採用したことの開示があることが認められる。
加えて,甲3には,〔4〕「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきである。そのような変更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することができる。」(前記(1)ア(ケ))との記載があることに照らすと,甲3に接した当業者は,引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)における上記即時使用溶液の各成分のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理解するものといえる。
しかるところ,前記(2)イ認定のとおり,本件優先日当時,「急性血液浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る,市販されている透析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5?3.5mEq/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0?1.5mEq/L」,炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整することは,技術常識又は周知であったものである。
そして,上記技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mEq/L」)及び炭酸水素イオン濃度(「30.0mEq/L」)を市販されている透析液及び補充液のそれぞれの数値範囲の中で調整することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3-1-7’)に係る本件訂正発明1の構成)に,炭酸水素イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲に含まれる「32.0mEq/L」(相違点(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は誤りである。」(取消判決83頁6行?85頁2行)

「(イ) 相違点(甲3-1-6’)について
甲3には,〔1〕「本発明」の目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することであること,〔2〕「本発明」の発明者らは,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特定のpH範囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るものであり,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができ,特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケージングにおいて,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと,〔3〕「本発明」は,上記課題を解決するため,「即時使用溶液」が,1.0?2.8mMの濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1?8.7mg/dL」)のリン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5?7.6のpHを有するという構成を採用したこと,〔4〕「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきである。そのような変更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することができる」ことの開示又は記載があることは,前記(ア)のとおりである。
そうすると,甲3に接した当業者においては,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を得るために,引用発明2における第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の「HPO_(4)^(2-)」(リン酸イオン濃度)「1.20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL)を上記〔3〕の「1.0?2.8mM」(無機リン濃度3.1?8.7mg/dL)の範囲内で調整することを試みる動機付けがあるものと認められるから,引用発明2における無機リン濃度を上記数値範囲内の「4.0mEq/L」(相違点(甲3-1-6’)に係る本件訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができ
たものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。」(取消判決85頁3行?86頁3行)

「エ 相違点(甲3-1-3’)について
(ア) 本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,本件訂正発明1の「そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,」との構成の意義を規定した記載はない。
次に,本件明細書(甲12)には,「時間の経過と共に補充液中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し,不溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる」こと(【0007】),「当該薬液中には,カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わらず,リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また,リン酸イオンの存在により,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっても,不溶性炭酸塩の生成が抑制される」こと(【0021】),「不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは,投与対象に適用すべき最終薬液の調製後,たとえば上記A液とB液の混合後,少なくとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること,またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること」を意味すること(【0055】)の記載がある。
また,本件明細書には,本件訂正発明1に規定する「無機リン濃度が4.0mg/dL」の薬液と「リン酸イオンを含有しない薬液」との対比実験を行ったところ,「7日間でpHが7.23?7.29から7.89?7.94までほぼ直線的に上昇し,その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も数も顕著に増加したが,リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかかわらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。」(【0086】)との記載があり,この記載は,本件訂正発明1に規定する「無機リン濃度が4.0mg/dL」の薬液では,「7日間」にわたって「リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかかわらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった」ことを示すものである。もっとも,本件明細書には,本件訂正発明1の「用時混合型急性血液浄化用薬液」が「27時間」にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制されたことを明示した記載はない。
以上の本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の記載を総合すると,本件訂正発明1の「そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,」との構成は,本件訂正発明1のA液及びB液の成分組成及びそれらのイオン濃度を請求項1に記載されたものに特定することによって実現されるものと理解できる。
(イ) そして,前記ウのとおり,甲3に接した当業者は,引用発明2において,ナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合すること(相違点(甲3-1-1’)に係る本件訂正発明1の構成),「用時混合型急性血液浄化用薬液」として使用すること(相違点(甲3-1-4’)に係る本件訂正発明1の構成) ,マグネシウムイオン濃度,炭酸水素イオン濃度及び無機リン濃度を本件訂正発明1の濃度とすること(相違点(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成)を容易
に想到することができたものである。
加えて,引用発明2のカリウムイオン濃度と本件訂正発明1のカリウムイオン濃度は,「4.0mM」(4.0mEq/L)で一致する。
以上によれば,本件訂正発明1の「少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用発明2において,相違点(甲3-1-1’),(甲3-1-4’),(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成とした場合に,自ずと備えるものといえる。
したがって,引用発明2において,相違点(甲3-1-3’)に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。」(取消判決87頁8行?89頁11行)

「(4)本件訂正発明1の顕著な効果について
被告らは,〔1〕本件訂正発明1は,「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液」を実現した発明であるのに対し,引用発明2は,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」に過ぎず,また,用時混合型急性血液浄化用薬液の技術分野では,本件優先日当時,所定の配合により,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる旨の技術常識はなかったことからすると,本件明細書の【0086】に係る「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる」という本件訂正発明1の効果は,引用発明2に比して,質的に差のある当業者が予測できない格別の効果である,〔2〕被告らが,本件明細書記載の実施例2の検体と甲3記載の実施例4(表9)の検体について行った不溶性微粒子の形成の対比試験の結果(甲18の参考資料3)によると,両検体のpHは,混合後,同様の上昇推移を経て,54時間経過後に約8.7まで上昇したところ,本明細書記載の実施例2の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時に8個,54時間経過時に12個形成されるにとどまり,25μmの微粒子が,混合後54時間経過時でも1個形成されるにとどまったのに対し,甲3の実施例4(表9)の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時に17個,54時間経過時に78個も形成され,25μmの微粒子が,混合後54時間経過時には5個も形成されていたことからすると,「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる」という本件訂正発明1の効果は,引用発明2の配合や各成分の濃度では実現することができない,当業者の予測を超えた顕著な効果である旨主張する。
しかしながら,上記〔1〕の点については,人体に投入される血液浄化用薬液においては,そのpH値が人の生理的pH値(甲3によると「約7?7.6」(3頁1行?11行,訳文2頁),甲30(特開平11-197240号公報)によると「7.2?7.4付近」(【0006】))と同程度の範囲内のものとする必要があることは自明であることに照らすと,本件明細書の【0086】に記載された,患者に対する混合液の使用を「7日間」継続し,その間に「pHが7.23?7.29から7.89?7.94までほぼ直線的に上昇した状況」に置くことは,用時混合型急性血液浄化用薬液の通常の使用方法としては想定されないものといえる。そうすると,かかる状況下で7日間にわたり不溶性微粒子や沈殿の形成が抑制されたという効果は,用時混合型急性血液浄化用薬液に通常求められる効果であるとはいえないから,用時混合型急性血液浄化用薬液の効果として,優れたものであるとは認められない。
次に,上記〔2〕の点については,本件明細書には,本件訂正発明1の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄化用薬液において,「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpHの推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験の結果(甲18の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本件訂正発明1の効果であるとは認められない。
さらに,本件審決は,本件訂正発明1は,「急性血液浄化用薬液」として有用であるという,甲3の記載からは予想し得ない効果を奏するものである旨判断したが,前記(3)イのとおり,当業者は,引用発明2を「用時混合型急性血液浄化用薬液」として使用することを容易に想到することができたものと認められるから,甲3の記載からは予想し得ない効果であるとは認められず,本件審決の上記判断は,誤りである。」(取消判決89頁下から4行?91頁19行)

第9 当審の判断
1 本件明細書の記載事項
・摘記(本ア)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、安定な炭酸水素イオン含有薬液、特にリン酸イオンの存在により安定性を向上させた炭酸水素塩含有透析用薬液に関する。また、本発明は、当該薬液からなる急性血液浄化用薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液および補充液に関する。なおまた、本発明は、混合後も長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制される、低カリウム血症および低リン血症を生じない用時混合型の急性血液浄化用透析液および補充液に関する。
【背景技術】
【0002】
急性心不全、急性腎不全、急性肝不全、術後肝不全、敗血症、熱傷、中毒、劇症肝炎、急性膵炎などにより体内に急激に毒物や病因物質が蓄積すると、体液の恒常性が著しく損なわれる。このような急性疾患あるいは慢性疾患の急性憎悪に対しては、緊急に血液・体液を浄化して生体の恒常性を保ち、病態を改善することが求められるため、急性血液浄化療法が試みられる。
【0003】
急性血液浄化療法は、主に救命救急・集中治療領域において経験的に発展してきた血液浄化法であり、透析、濾過、吸着または分離により血液から不要あるいは有毒な物質を除去する療法である(非特許文献1)。
【0004】
急性血液浄化療法の具体的な治療法としては、持続的血液透析(CHD)、持続的血液濾過(CHF)、持続的血液透析濾過(CHDF)、血液透析(HD)、血液吸着(HA)、血漿吸着(PA)、血漿交換(PE)、白血球除去療法(LC)などの血液体外循環による血液浄化法が挙げられる。近年は適用の拡大や病態解明の進展などにより、CHDFやPEが主流となっている(非特許文献2)。
【0005】
急性血液浄化療法では拡散や限外濾過、精密濾過、吸着の原理を利用して有害物質を除去することから、大量の透析液や補充液を使用する。
【0006】
急性血液浄化療法に使用する透析液・補充液の必要条件は、(1)不要物質や余剰物質を低下させることが可能なこと、(2)必要物質や不足物質が補充できること、(3)有害な物質が含まれていないか、問題とならないほど低濃度であること、(4)生体内にある必要な物質を正常値下限濃度より低下させないこと、(5)生体内に取り込まれて代謝される物質は、代謝系に負荷とならない量であること、(6)浸透圧が血液に近い値であること、
(7)安定していて、取扱いが簡便であることなどが挙げられる。慢性腎不全の治療用として市販されている人工腎臓用透析液(キンダリー(登録商標)液:扶桑薬品工業)や濾過型人工腎臓用補液(サブラッド(登録商標)-B、サブラッド(登録商標)-BS:扶桑薬品工業)は、これらの条件を満たし、かつ入手が容易であることから、急性血液浄化療法時の透析液・補充液にも用いられている。
【0007】
これらの透析液・補充液の多くは、炭酸水素ナトリウムが配合されている。従って、時間の経過と共に補充液中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し、不溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる。そこで、カルシウムイオン(Ca^(2+))およびマグネシウムイオン(Mg^(2+))を含む溶液(本明細書において「B液」と呼ぶ)と炭酸水素イオン(HCO_(3)^(-))を含む溶液(本明細書において「A液」と呼ぶ)とが別々に収納された、用時混合型の製剤として供給されている(…)。…
【0008】
市販されている透析液・補充液の成分組成の一例は、ナトリウムイオン(Na^(+)):132?143mEq/L、カリウムイオン(K^(+)):2.0?2.5mEq/L、カルシウムイオン(Ca^(2+)):2.5?3.5mEq/L、マグネシウムイオン(Mg^(2+)):1.0?1.5mEq/L、塩素イオン(Cl^(-)):104?114.5mEq/L、炭酸水素イオン(HCO_(3)^(-)):0?35.0mEq/L、酢酸イオン(CH_(3)COO^(-)):3.5?40mEq/L、ブドウ糖:0?200mg/dLを含むものである。
【0009】
例えば、上記のサブラッド(登録商標)-BSは、隔壁を介して連結する上下二室を有する複室容器にB液とA液が収容されており、B液(上室)は1010mL中に
塩化ナトリウム(NaCl) 7.88g
塩化カルシウム(CaCl_(2)・2H_(2)O) 519.8mg
塩化マグネシウム(MgCl_(2)・6H_(2)O)205.4mg
酢酸ナトリウム(CH_(3)COONa) 82.8mg
ブドウ糖(C_(6)H_(12)O_(6) )2.02g および
氷酢酸(CH_(3)COOH) 360.0mg
を含み(pH:3.8?3.9、浸透圧比:0.9?1.0)、そしてA液(下室)は1010mL中に
塩化ナトリウム(NaCl) 4.460g
塩化カリウム(KCl) 0.30g および
炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3) )5.940g
を含んでいる(pH:7.9?8.5、浸透圧比:0.9?1.0)。
【0010】
使用前に上下室間の隔壁を開通してA液とB液を混合し、下室側から投与する。このような複室容器を使用するのは、同時に配合すると変質が予想される薬剤、すなわちカルシウムイオンやマグネシウムイオンと炭酸水素イオンを個別に収納するためである。」

・摘記(本イ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これらの透析液・補充液は、慢性腎不全患者を対象とした電解質濃度で調整されており、急性血液浄化が必要とされる患者に適合させた処方ではないため、急性血液浄化療法においては不具合が生じる場合があった。
【0013】
例えば、市販の透析液・補充液のカリウムイオン濃度は、高カリウム血症の是正のため、2.0?2.5mEq/Lと低く設定されており、透析前血清カリウムイオン値が4.0mEq/L未満のような急性血液浄化症例の場合では、カリウムの除去にアシドーシスの改善が加わるため、急速な血清カリウムイオン値の低下をきたし、不整脈誘発やジギタリス中毒の危険性がある。
【0014】
また、市販の透析液・補充液は、慢性腎不全患者向けに処方されていることから、高リン血症を改善するために、リン成分を全く含まない。そのため、透析前血清無機リン値が3.0mg/dL以下を呈するような急性血液浄化症例では、低リン血症となり免疫能の低下や重篤な場合には意識消失に至る危険性があった。
【0015】
このため、市販の透析液・補充液を用いた急性血液浄化療法では、低カリウム血症や低リン血症を防ぐために、血液回路からカリウムイオンやリン酸イオンを補給して電解質組成を補正しなければならないという問題点があった。
【0016】
また、透析液のアルカリ化剤(血液緩衝剤)は古くは酢酸塩が使用されていた。酢酸は透析膜から血中に移行し、炭酸水素イオンに代謝されるが、ダイアライザーの大面積、高性能化により、生体の処理能力を超える量の酢酸が負荷されるようになり、血圧低下、気分不快、頭痛、嘔気などの酢酸不耐症状が発生するようになった(Earnest DL et al.:Trans.Am.Soc.Artif.Intern.Organs 14:434-437,1968)。現在はアルカリ化剤として酢酸塩に代わって炭酸水素塩が用いられるようになったが、pHの安定化のためになお少量の酢酸が含有されている。従って、酢酸不耐症状を避けるために、酢酸塩を全く含有しない透析液・補充液が求められていた。
【0017】
これらの課題は、従来の透析液・補充液のカリウムイオン濃度を高め、リン酸イオンを配合し、また、酢酸イオンを生成する化合物を使用しないことによって解決できるのではないかと考えられるが、透析液・補充液は、生体の生理状態に微妙かつ重大な影響を及ぼす可能性のあるものであるから、そのような変更により直ちに所期の効果が得られるか否か定かではない。しかも、よく知られているように、リン酸イオンは炭酸水素イオンと同様、カルシウムイオンやマグネシウムイオンと反応してリン酸塩の不溶性沈殿を形成するものであるから、透析液・補充液中にリン酸イオンを含有させた場合、安定な薬液が得られるとは考え難い。
【0018】
さらに前述のように、炭酸水素ナトリウムを含有する薬液では、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを長時間にわたって安定に共存させることが困難である。このため、炭酸水素イオンを含む薬液と、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含む薬液を別々に分けて調製し、患者に投与する直前に両薬液を混合する作業を行っている。しかしながら、混合後においても時間の経過とともに溶液中の炭酸水素イオンが炭酸ガスとなって放出されるため、pHが上昇し、7.5を越えたあたりから不溶性の微粒子や結晶が生成するようになる。とりわけ、急性血液浄化療法では、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを長時間共存させて血液浄化を行うため、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈澱の発生が大きな問題となる。
【0019】
最近、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを共存させた一剤型薬液に関する発明が開示されている(特許第3003504号)。これは、クエン酸および/またはクエン酸イオンを“pH調整剤”として使用することでpHを7.0?7.8に調整し、不溶性微粒子の発生を防止し、かつ安定な電解質輸液を提供するというものである。
【0020】
このように、クエン酸は輸液製剤のpH調整剤として使用されているが、特に注意すべきことは、クエン酸による副作用(クエン酸中毒、クエン酸のキレート作用によるカルシウムイオン濃度の低下など)が発生しないように、かつpH調整作用のみを発揮するように使用されなければならないことである。クエン酸中毒の症状としては、血圧低下、心機能抑制、心電図異常などが見られ、これらはクエン酸による血液中のカルシウムイオン濃度の低下が原因であることが報告されている(検査と技術,第19巻,第2号,1991)。特に、血管内に直接投与される輸液製剤にあっては、投与量が1?2Lを超える場合も珍しくなく、また、急性血液浄化療法においては数十Lの液置換を伴うこともあることから、使用量が多くなるにつれて体内にクエン酸が多量に投与されることになり、それによってクエン酸中毒の発生やクエン酸のキレート作用による血液中カルシウムイオン濃度の低下などを起こす可能性があり、安全性に問題がある。」

・摘記(本ウ)
「【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、カリウムイオンとリン酸イオンをそれぞれ一定範囲の濃度に保持することにより、低カリウム血症や低リン血症の発症を防ぐことができる安定性の良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出した。また、当該薬液において、酢酸イオンを生成するような酢酸化合物を使用しないことにより、酢酸不耐症状を生じない、安定性の良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出した。当該薬液中には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わらず、リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また、リン酸イオンの存在により、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンが共存し、pHが7.5を超えるような長時間後であっても、不溶性炭酸塩の生成が抑制される。これらの効果は、全く予想しなかった効果である。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0022】
従って、本発明は、炭酸水素イオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが共存する薬液に対してリン酸イオンを含有させたことを特徴とする、長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制された安定な薬液を提供する。
本発明はまた、従来の透析液・補充液と比較して、カリウムイオン濃度が高く、リン酸イオンを含有することを特徴とする、長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制された安定な急性血液浄化用薬液を提供する。
上記急性血液浄化用薬液中のカリウムイオン濃度は3.5?5.0mEq/Lに保持され、無機リン濃度は2.3?4.5mg/dLの範囲に保持されることが好ましい。カリウムイオン濃度を上記の範囲に保持するのは、低カリウム血症の発症を防ぐためである。無機リン濃度を上記の範囲に保持するのは、低リン血症の発症を防ぐと同時に、薬液の安定性を維持するためである。少なくとも上記の範囲では、無機リン濃度が高いほど、長時間にわたって薬液の安定性が維持される傾向が認められる。また、当該薬液において、酢酸イオンを含有しないものとすることが酢酸不耐症の防止のために好ましい。
【0023】
本発明の薬液には、炭酸水素イオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが必須成分として含まれるから、リン酸イオンが存在していても、なおその間の反応で不溶性の微粒子や沈澱が形成される可能性を残している。従って、好ましくは炭酸水素イオンを含む水溶液とカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含む水溶液を別々に収容し、用時、両者を合して混合液とすることが好ましい。通常は、複室容器の下室に収容されるA液中に炭酸水素イオンを含有させ、上室に収容されるB液中にカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含有させる。カリウムイオンとリン酸イオンは、両者同時にまたは別々に、A液とB液のいずれかまたは両方に含有させることができる。」

・摘記(本エ)
「【発明の効果】
【0024】
本発明により得られる急性血液浄化用透析液・補充液は、低カリウム血症や低リン血症を生じることがなく、従って急性血液浄化療法施行中に電解質を補正する必要がない。また、酢酸イオンを含有しない場合、酢酸不耐症症例においても安全に使用することができる。さらに本発明により得られる用時混合型の炭酸水素イオン配合薬液は、混合後も炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制されるので、長時間の血液浄化を伴う急性血液浄化療法に好適に用いられる。」

・摘記(本オ)
「【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の一つの実施態様において、B液中にリン成分、好ましくはリン酸イオンまたはリン酸塩が含まれていることを特徴とする用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。好ましい実施態様において、少なくともナトリウムイオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、少なくともナトリウムイオン、塩素イオン、リン酸イオンおよび水を含むB液からなる用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0033】
他の実施態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液およびB液の混合液のカリウムイオン濃度が3.5?5.0mEq/Lの範囲内である用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0034】
他の実施態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液およびB液の混合液の無機リン濃度が2.3?4.5mg/dLの範囲内である用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0037】
本発明の好ましい実施態様において、A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液および/補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、急性血液浄化療法開始から24時間の間にわたって、該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり、かつ、血漿中無機リン(iP)濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない、用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0044】
本発明の用時混合型薬液を収容する容器は、2つ以上の薬液収容室を有する。例えば、本発明の用時混合型薬液を収容する容器は、上室(B室)と下室(A室:投与側)の間が連通可能な隔壁で隔てられている容器である。上室は、投与の際に上側に配置される薬液収容室であり、例えば図1における3’である。連通可能な隔壁の形態は特に制限はなく、例えば易剥離性を有するような弱溶着によりシール形成された隔壁、クリップ等で挟むことにより形成された隔壁、破断等により開通可能となるような連通部材を備えた隔壁などが挙げられる。これらのうち、特に易剥離的に熱溶着された隔壁部(弱シール部)でシール分画された容器が簡便性の点で好適に用いられる。易剥離性の熱溶着された隔壁部を備える容器は、一方の薬液収納室を外部から押圧することによりシール部が剥離し、薬液が無菌的に混合される。」

・摘記(本カ)
「【0055】
本明細書で言う「不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは、投与対象に適用すべき最終薬液の調製後、たとえば上記A液とB液の混合後、少なくとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること、またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されることを意味する。
【0056】
本明細書において使用される「用時混合型薬液」なる用語は、A液およびB液からなり、A液およびB液を混合した後に使用される薬液を意味する。
【0057】
「急性血液浄化用薬液」なる用語は、急性血液浄化療法において使用される透析液または補充液を意味する。急性血液浄化療法は、当分野において通常使用される意義と同一である。なお、「補充液」は「補液」、「置換液」と呼ばれることもある。
また、「用時混合型急性血液浄化用薬液」なる用語は、用時混合型薬液のうち、急性血液浄化療法において使用される透析液または補充液を意味する。
【0058】
本明細書において使用される「A液」なる用語は、少なくともナトリウムイオン、炭酸水素イオンおよび水を含む薬液を意味する。好ましくは、A液は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含む。
【0059】
「B液」なる用語は、少なくともカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンならびに水を含む薬液を意味する。好ましくは、B液は、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含む。…
【0060】
上記したように、本発明の薬液は、カリウムイオンとリン酸イオンを含むことを特徴としているが、カリウム源としては、水溶液中でカリウムイオンを与える化合物、たとえば塩化カリウムのような無機カリウム塩、乳酸カリウム、グルコン酸カリウムのような有機酸カリウム塩などから選択して使用することができる。また、リン源としては、水溶液中でリン酸イオンを与える化合物、たとえばリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどから選択して使用することができる。カリウム源とリン源を兼ねるカリウムイオンとリン酸イオンを含む化合物、例えばリン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどの使用も考慮されてよい。
【0061】
本発明薬液中のカリウムイオン濃度は、通常、3.5?5.0mEq/Lであり、好ましくは3.5?4.5mEq/Lである。また、無機リン濃度は、通常、2.3?4.5mg/dL、好ましくは2.5?4.0mg/dL(特に3.0mg/dL以上)である。本発明は、上記したように、通常、A液とB液の二液に分けて調製されるが、カリウムイオンもリン酸イオンも両液を合したとき、混合液中で上記の濃度となるように適宜調整すればよい。」

・摘記(本キ)
「【実施例】
【0063】
<急性膵炎モデル動物の作製>
雄性ビーグル犬(体重10kg前後、日本農産)21頭を扶桑薬品工業株式会社内の大動物施設の飼育室(温度23±5℃、湿度50±20%RH、換気15?20回/hr、照明12時間(7:00?19:00))においてステンレス飼育ケージに1頭ずつ収容して飼育した。飼料は固形飼料(CREA Dog Diet CD-5M(商標)、日本クレア)を使用し、約300g/日を摂取させた。飲料水は上水道水を使用し、飼育期間中自由に飲水させた。
【0064】
イソフルラン吸入麻酔下でビーグル犬を背位に固定し、腹部を切開し、総胆管を露出させ、クレンメで閉塞した。十二指腸を切開し、小十二指腸乳頭よりポリエチレン製チューブ(PE50、ベクトン・ディッキンソン)を副膵管に挿入し、逆行性に3%タウロコール酸ナトリウム生理食塩液溶液を1.0mL/kg/5minで注入し、急性膵炎を惹起した。
【0065】
モデル作製術中および術後には適切な輸液を適切量投与した。
【0066】
術後、感染防止のためにベンジルペニシリンカリウム注射液(50万単位/動物)を1日1回2日間、筋肉内投与することにより急性膵炎モデル動物を作製した。」

・摘記(本ク)
「【0067】
実施例1
(i)上室液(B液)の調製・充填・密封
下記の表1に記載の成分分量を量り、日局注射用水にブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウムを順次加えて溶解し、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られた液を1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、充填口をシール溶着により密封した。本明細書において、表1の処方にて作製された薬液を「実施例1の上室液(B液)」と称する。
表1
【表1】

【0068】
(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封
下記の表2に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表2の処方にて作製された薬液を「実施例1の下室液(A液)」と称する。
表2
【表2】

【0069】
実施例2
(i)上室液(B液)の調製・充填・密封
下記の表3に記載の成分分量を量り、日局注射用水にブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを順次加えて溶解し、塩酸を添加した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られた液を1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、充填口をシール溶着により密封した。本明細書において、表3の処方にて作製された薬液を「実施例2の上室液(B液)」と称する。
表3
【表3】

【0070】
(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封
下記の表4に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表4の処方にて作製された薬液を「実施例2の下室液(A液)」と称する。
表4
【表4】

【0071】
比較例
(i)上室液(B液)の調製・充填・密封
下記の表5に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、ブドウ糖および氷酢酸を順次加えて溶解し、粗濾過後、濾液に注射用水を適量加えて、全量を1010mLとした。得られた液を1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、充填口をシール溶着により密封した。本明細書において、表5の処方にて作製された薬液を「比較例の上室液(B液)」と称する。「比較例の上室液」は、濾過型人工腎臓用補液である「サブラッド(登録商標)-BS」(扶桑薬品工業)のB液と同一の
組成である。
表5
【表5】

【0072】
(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封
下記の表6に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表6の処方にて作製された薬液を「比較例の下室液(A液)」と称する。「比較例の下室液」は、濾過型人工腎臓用補液である「サブラッド(登録商標)-BS」のA液と同一の組成である。
表6
【表6】



・摘記(本ケ)
「【0073】
<定性試験>
「実施例1の上室液(B液)」と「実施例1の下室液(A液)」の混合調整液(本明細書において「実施例1の混合液」と呼ぶ。)、「実施例2の上室液(B液)」と「実施例2の下室液(A液)」の混合調整液(本明細書において「実施例2の混合液」と呼ぶ。)、および「比較例の上室液(B液)」と「比較例の下室液(A液)」の混合調整液(本明細書において「比較例の混合液」と呼ぶ。)の糖・電解質濃度(理論値)を表7に示す。
表7
【表7】

【0074】
<CHDF試験>
(方法1)
ビーグル犬急性膵炎モデル(3頭)を膵炎惹起2日後に動物の体重を測定し、その後、イソフルランによる吸入麻酔を行った。右大腿動脈に血圧トランスジューサに接続したカニューレを、直腸に直腸温プローブを挿入し、各々血圧および体温をモニターした。心電図の測定は第II誘導で行った。左大腿動脈から右大腿静脈に採血用ポートをつけた動静脈シャント(中央部で取り外し可能)を作製した。血液凝固防止のため適正量のヘパリンナトリウム注射液(ヘパリン)を動静脈シャントの採血部より投与し、その後血液回路内に持続注入した。ヘパリン投与5分後にブラッドアクセスと血液回路(JCH-26S、ウベ循研)およびダイアライザー(APS-08MD、旭化成メディカル)とを接続した。
【0075】
(方法2)
方法1に続いて、血液流量20mL/min、透析液(実施例1の混合液)流量1200mL/hr、補充液(実施例1の混合液)流量300mL/hr、濾液(実施例1の混合液)流量1500mL/hr、除水量ゼロの条件でCHDFを24時間行った。CHDF開始の0、3、6、9、12、15、18、21および24時間後に、採血用ポートからヘパリン加血液1.5mLを採取した(脱血側静脈血)。採取したヘパリン加血液につき、各種機器分析を行った。
【0076】
また、透析液および補充液を「比較例の混合液」に換えて、同様にCHDFを施行し、各種機器分析を行った。
【0077】
検査項目:pH、…。結果を表8に示す。値は、ビーグル犬3頭の平均値を表している。
表8
【表8】

【表9】

【0078】
(結果)
CHDF開始後のカリウム濃度の低下は、実施例1の混合液の方が比較例よりも緩やかであり、低カリウム血症を生じにくいことが示唆された。
また、CHDF開始後の無機リン(iP)濃度の低下も同様に実施例1の混合液の方が比較例よりも緩やかであり、低リン血症を生じにくいことが示唆された。
その他の測定値は両者間で差はなかった。
以上のことから、本発明の急性血液浄化用補充液は低カリウム血症や低リン血症の発生を良好に抑制できることが示唆された。」

・摘記(本コ)
「【0079】
<安定性試験>
急性血液浄化用剤の開放系におけるpH及び性状(色調及び澄明性)をリン酸水素二ナトリウムの濃度を変化させて測定した。
【0080】
(1.試験検体)
1-1.塩化ナトリウム77.0625g、塩化カリウム2.9804g、塩化カルシウム・2水和物3.6827g、塩化マグネシウム・6水和物2.0315g、ブドウ糖20.0015g及び1mol/L塩酸2mLを取り、水を加えて2Lとする。(5倍濃度B原液)
1-2.塩化ナトリウム43.8236g、塩化カリウム2.9797g及び炭酸水素ナトリウム53.7711gを取り、水を加えて2Lとした。(5倍濃度A原液)
1-3.リン酸水素二ナトリウム・12水和物3.5804gを取り、水を加えて100mLとした。(リン酸水素二ナトリウム溶液)
1-4.リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.1153gを取り、5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし、炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液-1)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとした(B液-1)。A液-1及びB液-1各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL)炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。
1-5.リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.2312gを取り、5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし、炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液-2)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとした(B液-2)。A液-1及びB液-1各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL)。炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。
1-6.リン酸水素二ナトリウム液0、1、2.5、5mLを取り、5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし、炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液-2?5)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとしたものを4個用意した(B液-2)。A液-2及びB液-2各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL)炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。A液-3?5も同様に試験液を調製した。(リン酸イオン0、0.1、0.25、0.5mEq/L)
【0081】
(2.試験実施日)
2007年7月9日?12日(無機リン 1mg/dL、2mg/dL)
2007年7月9日?13日(リン酸イオン 0、0.1、0.25、0.5mEq/L)
【0082】
(3.試験方法)
3-1.それぞれの試験検体を1Lプラスチック製ボトルに静かに注ぎ、回転子(9mm)で緩やかに攪拌した。
3-2.pH及び性状(澄明性)を測定した。
【0083】
(4.試験結果)
4-1.リン酸イオン 1mg/dL(0.32mEq/L)、2mg/dL(0.65mEq/L)
表9
【表10】

【0084】
4-2.リン酸イオン0、0.1、0.25、0.5mEq/L
表10
【表11】

【0085】
(5. 考察)
上記表9および表10の結果から、薬液にリン酸イオンを含有させることにより、沈澱の生成が顕著に抑制され、0.1mEq/L(0.31mg/dL)の低濃度であっても、ある程度の沈澱生成の抑制が認められることが理解できる。
【0086】
なお、別途、リン酸イオンを含有しない薬液と、リン酸イオンを濃度4mg/dLで含有する薬液との対比実験を行ったところ、7日間でpHが7.23?7.29から7.89?7.94までほぼ直線的に上昇し、その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も数も顕著に増加したが、リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかかわらず、不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。」

・摘記(本サ)
「【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明により、リン酸イオンを配合した炭酸水素ナトリウムを含有する用時混合型の薬液が提供される。また、本発明により、急性血液浄化用透析液および補充液、特に低カリウム血症および低リン血症を生じない急性血液浄化用透析液および補充液が提供される。さらにまた、本発明により、混合後長時間にわたり、不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制される用時混合型の急性血液浄化用透析液および補充液が提供される。」

・摘記(本シ)
「【図1】



2 職権無効理由1?3について
(1)職権無効理由1(明確性要件)について
ア 職権無効理由1の要旨
発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌しても、「ナトリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含むB液を含み、そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し、A液およびB液の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し、かつA液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有せず」及び「A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が3.5?5.0mEq/Lであり、無機リン濃度が2.3?4.5mg/dLであり」という発明特定事
項を満たす「A液とB液を合した混合液」のうち、具体的に、どのような組成を有し、どのような調製法で得られたものであれば、「A液とB液を合した混合液において、……少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という発明特定事項を満たすものになるのかを、当業者は把握できないから、本件特許発明1?5、本件特許発明8?10の範囲は明確でない。

また、発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌しても、「当該下室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含有するA液を充填し、当該上室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含有するB液を充填してなり、そしてA液およびB液の少なくとも一方にはリン酸イオンが含有されており、かつA液およびB液のいずれにも酢酸イオンが含有されておらず」及び「A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が3.5?5.0mEq/Lであり、無機リン濃度が2.3?4.5mg/dLであり」という発明特定事項を満たす「A液とB液を合した混合液」のうち、具体的に、どのような組成を有し、どのような調製法で得られたものであれば、「A液とB液を合した混合液において、……少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という発明特定事項を満たすものになるのかを、当業者は把握できないから、本件特許発明11?17の範囲は明確でない。

イ 職権無効理由1についての当審の判断
(ア)訂正発明1?5、8?10は、「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」の発明であって、 次の「イオン濃度要件」と「沈殿抑制要件」を備えるものである。

<イオン濃度要件>
「ナトリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含むB液を含み、そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し、A液およびB液の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し、かつA液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有せず、
A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり」

<沈殿抑制要件>
「A液とB液を合した混合液において、…少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」

また、訂正発明11?17は「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液が容器に充填された薬液充填容器」の発明であり、それらの薬液は、上記訂正発明1?5、8?10における「イオン濃度要件」に、A液とB液の両方にカリウムイオンが含まれていること等が更に追加された要件を備えるものであるから、訂正発明11?17の薬液も、上記の「イオン濃度要件」と「沈殿抑制要件」を備えるものであることは、訂正発明1?5、8?10に係る薬液と同じである。

(イ)a 本件明細書の発明の詳細な説明には、急性血液浄化療法に使用する従来の透析液・補充液の多くは炭酸水素ナトリウムが配合されているため、「時間の経過と共に補充液中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し、不溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる」こと(【0007】)、炭酸水素イオンを含む薬液と、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含む薬液を、別々に分けて調製し、患者に投与する直前に両薬液を混合しても、「時間の経過とともに溶液中の炭酸水素イオンが炭酸ガスとなって放出されるため、pHが上昇し、7.5を越えたあたりから不溶性の微粒子や結晶が生成するようになる」こと(【0018】)、「本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、カリウムイオンとリン酸イオンをそれぞれ一定範囲の濃度に保持することにより、低カリウム血症や低リン血症の発症を防ぐことができる安定性の良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出した。また、当該薬液において、酢酸イオンを生成するような酢酸化合物を使用しないことにより、酢酸不耐症状を生じない、安定性の良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出した。当該薬液中には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わらず、リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また、リン酸イオンの存在により、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンが共存し、pHが7.5を超えるような長時間後であっても、不溶性炭酸塩の生成が抑制される」こと(【0021】)、「『不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される』とは、投与対象に適用すべき最終薬液の調製後、たとえば上記A液とB液の混合後、少なくとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること、またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されることを意味する」こと(【0055】)が記載されている。

b また、本件明細書の発明の詳細な説明には、「イオン濃度要件」を満たす「実施例1の混合液」及び「実施例2の混合液」の具体的組成及び調製方法が開示されるとともに(【0067】?【0073】)、「実施例1の混合液」が「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」として使用できることを示すCHDF試験結果が開示され、当該結果によれば、「実施例1の混合液」は、低カリウム血症及び低リン血症を生じにくいものであることが示唆されたことが記載されている(【0074】?【0078】)。

c さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、<安定性試験>として、無機リン濃度0?2mg/dL(リン酸イオン濃度0?0.65mEq/L)である薬液についての試験結果(【0079】?【0085】)と、リン酸イオン(無機リン)濃度4mg/dLである薬液についての試験結果(【0086】)が記載されている。
前者の無機リン濃度0?2mg/dLの薬液については、リン酸水素二ナトリウムの含有量を変えたA液と、B液とを混合する具体的な調整方法が示され(【0080】)、急性血液浄化用剤の開放系におけるpH及び性状を測定したところ、無機リン濃度0mg/dLの薬液は、22時間、pH8.23となると沈殿したが、無機リン濃度が上がるにつれて72時間、pH8.89となっても沈殿しなかったことが記載されている(【0083】の表9、【0084】の表10)。
後者の無機リン濃度4mg/dLである薬液については、7日間でpHが7.23?7.29から7.89?7.94まで上昇したにもかかわらず、不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかったことが記載されている(【0086】)。後者の薬液については、その具体的な調製方法は記載されていないものの、リン酸水素二ナトリウムの含有量を変えた以外は前者の薬液と同じ方法(【0080】)で調製され、pHが上昇するのに時間がかかっていることから、pH変化をもたらす炭酸水素イオンの放出が生じにくい閉鎖系で試験を行ったものと解される。

d 安定性試験が行われたリン酸イオン(無機リン)濃度4mg/dLの薬液は、その調製方法と解される記載(【0080】)からみて、実施例1?2の混合液と同様に、「イオン濃度要件」を満たすものであり、上記cで指摘した本件明細書の記載も勘案するに、無機リン濃度2mg/dLの薬液と同様にpHが8.89程度まで上昇しても沈殿が生じずに、「沈殿抑制要件」を満たすものといえる。
したがって、安定性試験が行われたリン酸イオン(無機リン)濃度4mg/dLの薬液は、「イオン濃度要件」を満たし、同時に、「沈殿抑制要件」を満たすものといえる。

e もっとも、「イオン濃度要件」は、カリウムイオン濃度、無機リン濃度、カルシウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度、塩素イオン濃度、炭酸水素イオン濃度を特定するものであるが、上記の安定性試験が行われたリン酸イオン(無機リン)濃度4mg/dLの薬液は、これに含まれるナトリウムイオン等の他のイオン濃度を特定するものではない。
しかしながら、用時混合型急性血液浄化用の薬液においては、浸透圧、pH等を一定に保つ必要のあることが技術常識であることを考慮すると、「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」は、ナトリウムイオン濃度等の他のイオン濃度も、自ずと、実施例1?2の混合液及び安定性試験が行われた無機リン濃度4mg/dLの薬液と同程度の狭い範囲内のものとなり、そのような薬液は、「沈殿抑制要件」を満たすものとなるといえる。

f そうすると、当業者は、「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であれば、「沈殿抑制要件」を満たすことが理解できる。
したがって、訂正発明1?5、8?10、11?17は、明確である。

(ウ)以上のとおりであるから、職権無効理由1により、訂正発明1?5、8?10、11?17についての特許を無効とすることはできない。

(2)職権無効理由2(実施可能要件)について
ア 職権無効理由2の要旨
発明の詳細な説明の記載及び技術常識を考慮しても、当業者は、【0079】?【0085】に記載された、リン酸イオン(無機リン)を0.31?2mg/dL含む特定のイオン組成を有する薬液以外については、「A液とB液を合した混合液において、…少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」を発明特定事項としている本件特許発明1?5、8?10、11?17の薬液をどのように製造するかを理解できず、発明の詳細な説明は、当該発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

イ 職権無効理由2についての当審の判断
上記(1)に説示したとおり、当業者は、「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であれば、「沈殿抑制要件」を満たすことが理解できるから、当業者は、訂正発明1?5、8?10、11?17の薬液を過度な試行錯誤なく製造し、使用することができる。
したがって、職権無効理由2により、訂正発明1?5、8?10、11?17についての特許を無効とすることはできない。

(3)職権無効理由3(サポート要件)について
ア 職権無効理由3の要旨
本件特許発明1?17の課題は、発明の詳細な説明(特に【0012】?【0022】)の記載から、「低カリウム血症や低リン血症の発症を防ぐことができ、酢酸不耐症状を生じない、長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制された安定な急性血液浄化用薬液を提供すること」であると認められる。
発明の詳細な説明の記載及び技術常識を考慮しても、当業者は、【0079】?【0085】に記載された、リン酸イオンを0.31?2mg/dL含む特定のイオン組成を有する薬液以外の、本件発明1?17において特定された組成の「薬液」のうち、具体的にどのような組成を有し、どのように調製されたものが「長時間にわたり不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制された安定な」ものとなるかを認識することはできないから、本件特許発明1?17は、上記課題を解決できると認識できるとはいえない。

イ 職権無効理由3についての当審の判断
上記(1)に説示したとおり、当業者は、「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であれば、「沈殿抑制要件」を満たすことが理解できる。
また、訂正発明6に係る薬液は、本件明細書に記載の実施例1の混合前の薬液(【0067】の表1、【0068】の表2、【0073】の表7)に相当するものであり、訂正発明7に係る薬液は、本件明細書の実施例2の混合前の薬液(【0069】の表3、【0070】の表4、【0073】の表7)に相当するものであり、訂正発明1?5、8?10、11?17と同様に、「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」である。
そうすると、「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」を用いる訂正発明1?17は、「沈殿抑制要件」を満たす、すなわち、「長時間にわたり不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制された安定な」ものとなり、上記発明の課題を解決できることを認識できる。
したがって、職権無効理由3により、訂正発明1?17についての特許を無効とすることはできない。

(4)職権無効理由1?3についての請求人の主張について
請求人は平成29年12月27日提出の弁駁書において、「『pHが7.5を超えるような長時間後』というのは、『閉鎖系』における条件であることが本件明細書に裏づけられている。」との被請求人の主張は根拠がなく、また発明の詳細な説明の【0086】の試験を「閉鎖系」によるものとすることはできず、【0086】に記載された薬液の無機リン濃度以外の各種イオン濃度が【0080】に記載されたものと同一であるとすることもできず、さらに、発明特定事項「少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」は、「閉鎖系」の条件によるものなのか、「開放系」の条件によるものなのか、不明であり、また、乙1及び被請求人が平成29年11月24日付け意見書とともに提出した参考資料4は参酌されるべきではない旨を主張する。

しかし、【0086】の無機リン濃度が4mg/dLの薬液は、無機リン濃度0?2mg/dLの薬液の調製方法である【0080】に記載されたものと、無機リン濃度以外の各種イオン濃度が同じであり、【0086】の無機リン濃度が4mg/dLの薬液を用いた安定性試験は、閉鎖系によるものと理解することができることは、上記(1)イ(イ)cに説示したとおりである。
また、「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」は「閉鎖系」で使用されることが技術常識であることから、「沈殿抑制要件」は、「閉鎖系」を前提にしたものであることは明らかである。
したがって、乙1及び 参考資料4を参酌するか否かにかかわらず、職権無効理由1?3についての請求人の上記主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおり、職権無効理由1及び2により、訂正発明1?5、8?10、11?17についての特許を無効とすることができず、また、職権無効理由3により、訂正発明1?17についての特許を無効とすることはできない。

3 請求人無効理由1(実施可能要件違反及びサポート要件違反)について
(1)請求人無効理由1の要旨
弁駁書(2)では、本件訂正後の「訂正発明」に対する請求人無効理由1について、何ら主張も言及もしていないので、以下の論旨(要点)は、審判請求書及び口頭審理陳述要領書における、本件訂正前の本件特許発明に対する主張をまとめたものである。

ア 本件特許発明は、本件明細書の発明の詳細な説明及び摘記(甲1)に示される被請求人の主張からみて、「カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオンおよびリン酸イオンを、不溶性微粒子や沈澱を形成しないよう存在せしめる点」を要点とするものであり、より詳しくは、「その結果、少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成を実質的に抑制する点」を要点とするものであるから、本来、本件明細書において、これら4種のイオン種の濃度、比率あるいはその他の条件を具体的にどのように調整すれば不溶性微粒子や沈澱の形成をそのように抑制できる製剤が製造できるのか、十分明確に説明されていなければならない(審判請求書31頁8行?33頁5行)。

イ しかし、本件明細書中には、これら4種のイオン種の濃度、比率その他条件についての説明はないし、実施例も、ほとんど同一の組成とみなせるほど近似した2例(実施例1、実施例2)を僅かに記載するのみである。これでは、一体どのような条件下でこれらイオン種を存在せしめれば、本件特許発明の効果、とりわけ、「少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」との効果を達成し得る薬液が製造できるのか、その方法が十分に開示されていない(審判請求書33頁5行?10行)。

ウ したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件特許発明1及びこれに従属する本件特許発明2?10並びに本件特許発明1の薬液を使用する本件特許発明11?17の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、特許法第36条第4項第1号が規定する要件(実施可能要件)を満たしていないのであって、特許法第123条第1項第4号により、無効とされるべきである(審判請求書33頁11行?16行)。

エ また、上記ア?イのことから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、「発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に記載された範囲」を超えるものとなっていると言えるので、特許法第36条第6項第1号が規定する要件を満たしていないのであって、特許法第123条第1項第4号により、無効とされるべきである(審判請求書33頁17?21行、口頭審理陳述要領書12頁6行?19行)。

(2)請求人無効理由1のうち実施可能要件違反についての当審の判断
ア 「物」の発明について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を満たすためには、出願時の技術常識に照らして、当業者が、その「物」を製造し、使用することができる程度のものでなければならない。

イ 訂正発明1について
上記2(1)イに説示したとおり、訂正発明1は、「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」の発明であって、「イオン濃度要件」と「沈殿抑制要件」を備えるものであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者は、「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であれば、「沈殿抑制要件」を満たすことが理解できる。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、「イオン濃度要件」を備える実施例1?2の混合液の製造方法が具体的に記載され、ビーグル犬急性膵炎モデルにおいて、実施例1の混合液を透析液及び補充液として用いてCHDF(持続的血液濾過透析)を24時間行ったところ、CHDF開始後のカリウム濃度及び無機リン濃度の低下が比較例よりも緩やかであり、低カリウム血症や低リン血症が生じにくいことが示唆されたことが記載されている(摘記(本ク)(本ケ))。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、出願時の技術常識に照らし、当業者が訂正発明1に係る「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」を製造し、使用することができるように記載されたものである。

ウ 訂正発明2?5について
訂正発明2?5は、訂正発明1の「A液」及び「B液」に含まれるものを更に特定したものであり、いずれも実施例1?2の薬液を包含するものである。
したがって、訂正発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、出願時の技術常識に照らし、当業者が訂正発明2?5に係る「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」を製造し、使用することができるように記載されている。

エ 訂正発明6、7について
訂正発明6、7に係る薬液は、それぞれ本件明細書に記載の実施例1及び2の混合前の薬液そのものである。
したがって、訂正発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、出願時の技術常識に照らし、当業者が訂正発明6、7に係る「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」を製造し、使用することができるように記載されている。

オ 訂正発明8?10について
訂正発明8は、訂正発明1?7に対して、「A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液または補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、急性血液浄化療法開始から24時間にわたって、該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり、かつ、血漿中リン酸イオン濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない」との発明特定事項を更に加えたものであり、訂正発明9は、訂正発明1?8に対して、「低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する」との発明特定事項を更に加えたものであり、また、訂正発明10は、訂正発明1?9に対して、「酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である」との発明特定事項を更に加えたものである。

本件明細書の発明の詳細な説明には、ビーグル犬急性膵炎モデルにおいて、実施例1の混合液を透析液及び補充液として用いてCHDF(持続的血液濾過透析)を24時間行ったところ、CHDF開始後のカリウム濃度及び無機リン濃度の低下が比較例よりも緩やかであり、低カリウム血症や低リン血症が生じにくいことが示唆されたことが記載されている(摘記(本ケ))。そして、実施例1の混合液は、酢酸イオンを含有しないことから、酢酸不耐症患者に適用可能なものであることは明らかである。
したがって、訂正発明1?7と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、出願時の技術常識に照らし、当業者が訂正発明8?10に係る「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」を製造し、使用することができるように記載されている。

カ 訂正発明11?17について
訂正発明11?17は、「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液が容器に充填された薬液充填容器」の発明であり、それらの薬液は、訂正発明1における「イオン濃度要件」及び「沈殿抑制要件」に加え、A液とB液の両方にカリウムイオンが含まれていること等を更に追加した要件を備えるものである。
上記イ、ウ、オに説示したものと同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、訂正発明11?17の薬液について、当業者が製造し、使用することができるように記載されている。
そして、発明の詳細な説明には、充填容器の構造等も記載されている(摘記(本オ)(本シ))。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、出願時の技術常識に照らし、当業者が訂正発明11?17に係る「薬液充填容器」を製造し、使用することができるように記載されている。

キ 以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が訂正発明1?17を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たす。

(3)請求人無効理由1のうちサポート要件違反についての当審の判断
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

イ 訂正発明の課題
本件明細書の【0001】、【0003】?【0007】、【0012】?【0021】の記載によれば、訂正発明1?10が解決しようとする課題は、「低カリウム血症や低リン血症の発症を防ぐことができ、酢酸不耐症状を生じない、安定性の良好な用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液を提供すること」であり、訂正発明11?17が解決しようとする課題は、「上記薬液が充填された薬液充填容器を提供すること」であるといえる。

ウ 訂正発明1について
本件明細書の発明の詳細な説明には、訂正発明1に対応する実施例として、実施例1?2の混合液が記載され、ビーグル犬急性膵炎モデルにおいて、実施例1の混合液を透析液及び補充液として用いてCHDF(持続的血液濾過透析)を24時間行ったところ、CHDF開始後のカリウム濃度及び無機リン濃度の低下が比較例よりも緩やかであり、低カリウム血症や低リン血症が生じにくいことが示唆されたことが記載されている(摘記(本ク)(本ケ))。そして、実施例1の混合液は、酢酸イオンを含有しないことから、酢酸不耐症患者に適用可能なものであることは明らかである。
実施例1の混合液とほぼ同じ組成を有する実施例2の混合液も、実施例1の混合液と同様な効果を奏するものと解される。
また、上記2(1)イで説示したとおり、上記2(1)イの「イオン濃度要件」を満たす「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であれば、上記2(1)イの「沈殿抑制要件」を満たすものであるから、訂正発明1に係る薬液は安定性の良好なものといえる。
したがって、訂正発明1は、出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

エ 訂正発明2?17について
訂正発明2?5は、訂正発明1を更に特定したものであり、訂正発明6、7は、それぞれ実施1?2の混合前の薬液に相当するものであり、訂正発明8?10は、訂正発明2?7を更に特定するものである。
訂正発明11?17は、訂正発明1に係る「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」を更に特定した薬液が容器に充填された薬液充填容器の発明である。
したがって、訂正発明1と同様の理由により、訂正発明2?17は、出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

オ 以上によれば、訂正発明1?17は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たす。

(4)請求人の主張について
請求人は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオンおよびリン酸イオンの濃度、比率あるいはその他の条件を具体的にどのように調整すれば不溶性微粒子や沈澱の形成を抑制できる製剤が製造できるか、本件明細書中に説明はなく、実施例も、ほとんど同一の組成とみなせるほど近似した2例(実施例1、実施例2)を僅かに記載するのみであるから、本件特許発明1?17は実施可能要件及びサポート要件を満たさない旨を主張する(審判請求書31頁8行?33頁21行)。
しかし、上記(2)及び(3)のとおり、本件特許発明1?17は実施可能要件及びサポート要件を満たすから、請求人の上記主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおり、訂正発明1?17についての特許を、請求人無効理由1(実施可能要件違反及びサポート要件違反)によって、無効にすることはできない。

4 請求人無効理由3(甲3に基づく新規性及び進歩性欠如)について
事案に鑑み、請求人無効理由2に先立ち、請求人無効理由3について検討する。

(1)甲3に記載された発明
ア 上記第7の3の記載事項によれば、甲3には,以下の開示があるものと認められる。
(ア) 急性腎不全に罹患している患者に適応となる治療法は、数週間を通しての持続的腎機能代替療法(CRRT)であり、血液濾過(場合によっては血液濾過透析)が用いられるが、かなりの量の液体を血流から取り除き、置換液を大量に患者に返還しなければならず、血清リンレベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果、定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で、低リン血症が起こり得る(摘記(甲3イ))。
低リン血症は、主に経口及び静脈内経路によるリンの投与によって予防、治療されるが、全体的なリン欠乏の厳密な程度を測定することは不可能であり、患者に投与すべきリンの正確な量を決定することは難しいため、経口及び静脈内経路によるリンの投与は極めて慎重に実施しなければならないが、一方で、医療溶液にリンを導入する場合、沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成の問題があり、リン酸カルシウムの溶解度は、カルシウム及びリン酸塩の濃度にそれぞれ依存し、さらには他の電解質の存在、温度及びpHにも依存し、生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では、リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題があり、また、これらの液剤の多くは、2年に渡る長期保存の間安定でなければならないという問題もある(摘記(甲3イ))。
(イ) 「本発明」の目的の1つは、滅菌されかつ沈殿物を含まず、保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」(血液透析、血液透析濾過、血液濾過及び腹膜透析用の透析液、腎疾患集中治療室内での透析用の溶液、通常は緩衝物質を含む置換液又は輸液、並びに栄養目的のための溶液)を提供することである(摘記(甲3ウ)(甲3エ))。
「本発明」の発明者らは、特定の環境、濃度、pH範囲及びパッケージングにおいて、滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出した(摘記(甲3カ))。粒子形成の問題を生じさせる主要な成分は、炭酸塩及び/又はリン酸塩のいずれかと組み合わせたカルシウムイオンであるが、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは、特定のpH範囲等の如き一定の条件下では、重炭酸塩と共に保持し得るものであり、さらに、一定の条件下では、リン酸塩とも一緒に保持することができる(摘記(甲3カ))。
そして、「本発明」は、上記課題を解決するため、「即時使用溶液」(必要とされる異なる「単一溶液」(使用の直前まで他の溶液から分離して保持される1つの溶液)を含み、即時使用できる溶液)が、1.0?2.8mMの濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1?8.7mg/dL」)のリン酸塩を含み、滅菌され、かつ6.5?7.6のpHを有するという構成を採用した(摘記(甲3ウ)(甲3エ))。
上記構成により、「本発明」は、良好な安定性及び良好な生体適合性を保証するという効果を奏する(摘記(甲3キ))。
(ウ) ナトリウムイオン、塩素イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオン及び炭酸イオンを含む「本発明」の実施例2の即時使用溶液において、混合した溶液を2つの部分に分け、一方の部分には1、3mM NaH_(2)PO_(4)を添加し、他方の部分には2、6mM NaH_(2)PO_(4)を添加し、pHを6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0及び8.2に調整して、24時間後に粒子の量を測定した結果、1.3mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液のpHは、7.6又はそれより下、好ましくは7.4又はそれより下であるべきであり、2.6mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液では、pHは、7.4又はそれより下、好ましくは7.2又はそれより下であるべきであると結論づけられた(摘記(甲3ク))。
また、ナトリウムイオン、塩素イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオン及び炭酸イオンを含む「本発明」の実施例3の即時使用溶液を、5つの異なる部分に分け、リン酸塩を2.6mM、2.8mM、3.0mM、3.5mM及び4.0mMで添加し、pHを7.6に調整して、混合の0時間後及び24時間後に粒子の量を測定した結果、溶液が2.8mM以下のリン酸濃度及び7.6のpHで24時間安定であった(摘記(甲3ク))。
(エ) 「本発明」の実施例4(表9)は、ナトリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン、カリウムイオン及びリン酸イオンを含む第一単一溶液と、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、グルコース(ブドウ糖)を含む第二単一溶液からなり、第一単一溶液及び第二単一溶液のいずれもが酢酸イオンを含有せず、第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液において、「K^(+)」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0mEq/L)、「HPO_(4)^(2-)」(リン酸イオン濃度)が「1.20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL)、「Ca^(2+)」(カルシウムイオン濃度)が「1.25mM」(2.50mEq/L)、「Mg^(2+)」(マグネシウムイオン濃度)が「0.6mM」(1.2mEq/L)、「HCO_(3)^(-)」(炭酸水素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である用時混合型の医療溶液である(摘記(甲3ク))。

イ(ア)上記ア及び上記第7の3の記載事項を総合すれば、甲3には、実施例4に基づいて特定される、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「実施例4
表9?11に従って、以下の対の単一溶液を調製した。これらは、本発明の種々の実施形態を構成するものである。これら溶液対における、第一単一溶液と第二単一溶液との体積比は、20:1である。したがって、今回、第二単一溶液の体積は小さく、第一単一溶液の体積はより大きい。

1)ナトリウムは、NaCl、NaHCO_(3)、およびNa_(2)HPO_(4)として添加する。
2)塩化物は、NaCl、KCl、CaCl_(2)、MgCl_(2)、およびHClとして添加する。
3)リン酸塩は、Na_(2)HPO_(4)として添加するが、2つの単一溶液を混合した後は、主としてHPO_(4)^(2-)として存在する。しかし、H_(2)PO_(4)^(-)およびPO_(3)^(3-)も、これらのイオンの間の平衡により存在する。各々のイオンの濃度はpHに依存する。
4)一部の重炭酸塩は、混合の間にCO_(2)に変換されるが故に溶液から出ていくので、重炭酸塩の量は過剰投与される。」 の発明

(イ) 引用発明2における第一単一溶液と第二単一溶液の混合液中の各イオンの濃度(mM)を「Eq/L」又は「mg/dL」の単位に換算すると、次のとおりである。
「カルシウムイオン濃度 2.50mEq/L」
(=1.25(Ca^(2+)のモル濃度)×2(Ca^(2+)のイオン価))
「マグネシウムイオン濃度 1.2mEq/L」
(=0.6(Mg^(2+)のモル濃度)×2(Mg^(2+)のイオン価))
「カリウムイオン濃度 4.0mEq/L」
(=4.0(K^(+)のモル濃度)×1(K^(+)のイオン価))
「炭酸水素イオン濃度 30.0mEq/L」
(=30.0(HCO_(3)^(-)のモル濃度)×1(HCO_(3)^(-)のイオン価))
「無機リン濃度 3.72mg/dL」
(={1.20mM(HPO_(4)^(2-)の濃度)×96.08(HPO_(4)^(2-)のモル質量)}mg/L×{30.97(Pのモル質量)/96.08(HPO_(4)^(2-)のモル質量)}×(1L/10dL))
「塩素イオン濃度 115.9mEq/L」
(=115.9(Cl^(-)のモル濃度)×1(Cl^(-)のイオン価))
「ナトリウムイオン濃度 140.0mEq/L」
(=140.0(Na^(+)のモル濃度)×1(Na^(+)のイオン価))

(2)本件優先日当時の技術常識又は周知技術について
ア 甲10の上記第7の10の記載事項を総合すれば、本件優先日当時、
(i)市販されている透析液及び補充液は、「急性血液浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得ること、
(ii)市販されている透析液及び補充液の組成は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオン、塩素イオンを含むものであり、これらの電解質は、極めて狭い範囲で血中濃度を維持することが求められるため、一定の濃度が設定されていること、
(iii)市販されている透析液及び補充液において、ナトリウムイオン濃度を「132?143mEq/L」、カリウムイオン濃度を「2.0?2.5mEq/L」、カルシウムイオン濃度を「2.5?3.5mEq/L」、マグネシウムイオン濃度を「1.0?1.5mEq/L」、塩素イオン濃度を「104?114.5mEq/L」、炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整すること、
は、技術常識又は周知技術であったものと認められる。

また、甲10の上記第7の10の記載事項及び甲11の上記第7の11の記載事項を総合すれば、本件優先日当時、
(iv)急性腎不全患者に対して、救急集中治療領域において、CHDF(持続的血液濾過透析)を施行すること、
(v)CHDF(持続的血液濾過透析)においては、透析液と補充液の組成及び濃度を同じとする場合があること(On-line CHDF等)、
も、技術常識又は周知技術であったものと認められる。

イ 被請求人の主張について
被請求人は、訂正発明は、従来技術では、透析液と補充液とで組成・濃度が区別して定められていたのに対し、急性血液浄化用薬液として使用することができ、かつ、透析液としても、補充液としても使用することができる絶妙な各種イオンの組成及び濃度を定めた点に、技術的意義が認められるから、各種イオン濃度についても、透析液と補充液とを包括して技術常識を捉えるのではなく、透析液・補充液それぞれについて、技術常識をより精緻にみる必要があるところ、甲10には、(a)透析液と補充液の組成に関する記述は明確に分けられており、表1にも、「透析液」、「補充液」、「AFBF専用透析液,補充液」、と明確に3つの表に区分けされ、市販されている透析液と補充液は、各種イオン濃度の適切な範囲はそれぞれで異なるものであることが示されていること、(b)表1に開示の透析液及び補充液が、透析液及び補充液の組成及び濃度が同じであるOn-line血液濾過透析法に使用できることは一切記載がないこと、(c) 無酢酸バイオフィルトレーションに使用可能なAFBF専用透析液、補充液が、透析液及び補充液から敢えて別枠で示されていること、に加え、乙2に基づけば、本件優先日当時において、透析液と補充液とで好ましいイオン濃度範囲が異なることが技術常識である旨を主張する(令和2年4月3日提出の上申書10?13頁の「(2-3)甲10に基づく技術常識の認定について」の項)。

しかしながら、取消判決は、甲10の上記(a)?(c)を踏まえたうえで、技術常識を認定したものであり、また、乙2は、低Ca透析液(Ca 2.5mEq/l)を使用したOn-line HDF施行中に痙攣をきたした2症例について報告するものであるが、透析液及び補充液を包括して捉えた取消判決の技術常識を否定するものでもない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

ウ そこで、取消判決において認定した技術常識又は周知技術に加えて、甲10及び甲11の記載事項を考慮して認定した、上記アの技術常識又は周知技術を考慮して、以下検討する。

(3)新規性について
ア 訂正発明1について
(ア)対比
訂正発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。

・一致点(1):ナトリウムイオン、塩素イオンおよび炭酸水素イオンを含む液(「訂正発明1のA液」と「引用発明2の第一単一溶液」が該当)を含むものであること。
・一致点(2):カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオンおよびブドウ糖を含む液(「訂正発明1のB液」と「引用発明2の第二単一溶液」が該当)を含むものであること。
・一致点(3):A液(第一単一溶液)およびB液(第二単一溶液)の少なくとも一方がカリウムイオンを含有し(引用発明2では第一単一溶液がカリウムイオンを含有)、A液(第一単一溶液)およびB液(第二単一溶液)の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し(引用発明2では第一単一溶液がリン酸イオンを含有)、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないこと(引用発明2でも第一単一溶液および第二単一溶液のいずれもが酢酸イオンを含有しない)。
・一致点(4):A液(第一単一溶液)とB液(第二単一溶液)を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであること。
・一致点(5):用時混合型の薬液であること。

・相違点(甲3-1-1’)
訂正発明1では、ナトリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液にしか配合されていない点。
・相違点(甲3-1-2’)
訂正発明1では、A液およびB液のいずれもが水を含むものであることが発明特定事項とされているのに対し、引用発明2では、発明特定事項とされていない点。
・相違点(甲3-1-3’)
訂正発明1では、「A液とB液を合した混合液において、……、少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ことが発明特定事項とされているのに対し、引用発明2では、それに対応する発明特定事項がない点。
・相違点(甲3-1-4’)
訂正発明1は「急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であるのに対し、引用発明2は「医薬溶液」である点。
・相違点(甲3-1-6’)
混合液中の無機リン濃度が、訂正発明1では4.0mg/dLであるのに対し、引用発明2では3.72mg/dLであると算出される点。
・相違点(甲3-1-7’)
混合液中のマグネシウムイオン濃度が、訂正発明1では1.0mEq/Lであるのに対し、引用発明2では1.2mEq/Lであると算出される点。
・相違点(甲3-1-8’)
混合液中の炭酸水素イオン濃度が、訂正発明1では32.0mEq/Lであるのに対し、引用発明2では30.0mq/Lであると算出される点。
・相違点(甲3-1-9’)
混合液中の塩素イオン濃度が、訂正発明1では104?114.5mEq/Lであるのに対し、引用発明2では115.9mEq/Lであると算出される点。

(イ)判断
まず、相違点(甲3-1-1’)について検討する。
甲3には、ナトリウム及び/又は塩化物イオンは、第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合される態様が記載されている(摘記(甲3ウ)(甲3キ))。
しかし、ナトリウムイオンが第一単一溶液のみに配合され、第二単一溶液には配合されていない引用発明2と、ナトリウムイオンが第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合されたものとは、第一単一溶液と第二単一溶液の混合前の各液の組成が異なるものであると当業者に認識されることは明らかであり、摘記(甲3ウ)(甲3キ)を参酌しても、ナトリウムイオンが第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合された発明が、ナトリウムイオンが第一単一溶液のみに配合され、第二単一溶液には配合されていない引用発明2の一態様として甲3に記載されているに等しい事項であるとする
ことはできない。
したがって、相違点(甲3-1-1’)は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲3に記載された発明ではない。

イ 訂正発明4について
(ア)対比
訂正発明4は、訂正発明1において、カリウムイオンがA液とB液の両方に配合されていること、リン酸イオンがA液に配合されていること、及び、A液とB液を合した混合液においてナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lであることを特定したものである。
リン酸イオンがA液(引用発明2の第一単一溶液)に配合されていることは、訂正発明4と引用発明2との一致点である。
したがって、訂正発明4と引用発明2とは、相違点(甲3-1-1’)?(甲3-1-4’)、(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)に加えて、次の点で相違する。

・相違点(甲3-1-5’)
訂正発明4では、カリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液にしか配合されていない点。
・相違点(甲3-1-10’)
混合液中のナトリウムイオン濃度が、訂正発明4では138.0mEq/Lであるのに対し、引用発明2では140.0mEq/Lであると算出される点。

(イ)判断
上記アで説示したように、相違点(甲3-1-1’)は、実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明4は、甲3に記載された発明ではない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、甲3には、ナトリウムイオンは、塩化物イオン(塩素イオン)とともに、第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合できることが記載されているから、引用発明2において、第一単一溶液のみに配合されていたナトリウムイオンを、第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合することは、甲3の全趣旨を参酌すれば、記載されているに等しい事項である旨を主張する(審判請求書51頁下から7行?末行)。

しかしながら、請求人が甲3に記載された発明として主張し、当審合議体が認定した引用発明2は、ナトリウムイオンが第一単一溶液のみに配合されたものであり、請求人が、甲3に記載されているに等しいと主張する「第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合」された発明ではない。
そして、甲3において、ナトリウムイオンを、第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合できることが記載されていることをもってしても、直ちに、引用発明2において、ナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合したものが記載されているとすることもできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおり、訂正発明1及び4は、甲3に記載された発明ではないから、請求人無効理由3のうち新規性欠如の理由により、訂正発明1及び4に係る特許を無効とすることはできない。

(4)進歩性について
ア 訂正発明1について
(ア)対比
訂正発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、上記(3)ア(ア)で説示したとおりのものである。

(イ)判断
a 相違点(甲3-1-2’)について
摘記(甲3ク)の表9にpH値が記載されていることなどから、引用発明2における第一単一溶液及び第二単一溶液のいずれも水溶液であると認められる。
したがって、相違点(甲3-1-2’)は実質的な相違点ではない。

b 相違点(甲3-1-1’)について
取消判決においては、「当業者は,引用発明2において,第一単一溶液のみに配合されているナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合する構成(相違点(甲3-1-1’)に係る訂正発明1の構成)に変更することを容易に想到することができたものと認められる。」(取消判決80頁5?8行)と判示されている。
したがって、当業者は、引用発明2において、第一単一溶液のみに配合されているナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合する構成(相違点(甲3-1-1’)に係る訂正発明1の構成)に変更することを容易に想到することができたものである。

c 相違点(甲3-1-4’)について
甲3には、引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)が「急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であることを明示した記載はない。
一方で、甲3には、上記(1)ア(イ)認定のとおり、「本発明」の目的の1つは、滅菌されかつ沈殿物を含まず、保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」(血液透析、血液透析濾過、血液濾過及び腹膜透析用の透析液、腎疾患集中治療室内での透析用の溶液、通常は緩衝物質を含む置換液又は輸液、並びに栄養目的のための溶液)を提供することにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療室内での透析用の溶液」とは、救急・集中治療領域において、急性腎不全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むことは自明である。
また、甲3には、上記(1)ア(ア)及び(イ)認定のとおり、
(i)急性腎不全に罹患している患者に適応となる治療法は、数週間を通しての持続的腎機能代替療法(CRRT)であり、血液濾過(場合によっては血液濾過透析)が用いられるが、血清リンレベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果、定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で、低リン血症が起こり得るものであること、
(ii)低リン血症は、リンの投与によって予防、治療されるが、医療溶液にリンを導入する場合、沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成の問題があり、生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では、リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題があること、
(iii)「本発明」の発明者らは、特定のpH範囲等の如き一定の条件下では、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及びリン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ、滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと、
の開示がある。
そして、上記(2)ア(iv)及び(v)によれば、「用時混合型急性血液浄化用薬液」としては、透析液、補充液又はこれらに兼用可能な薬液という、いずれかの薬液があったところ、持続的血液濾過透析(CHDF)は、急性腎不全患者に適用され、透析液と補充液の組成及び濃度を同じとする場合があることは、技術常識又は周知技術であった。
以上の点に照らすと、甲3に接した当業者においては、甲3記載の実施例4(引用発明2)において、当該「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、及び、これらに兼用可能な薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって、当業者は、引用発明2において、相違点(甲3-1-4’)に係る訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものである。

d 相違点(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)について
(a)相違点(甲3-1-7’)?(甲3-1-9’)について
引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)における第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分のイオン濃度は、「K^(+)」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0mEq/L)、「HPO_(4)^(2-)」(リン酸イオン濃度)が「1.20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL)、「Ca^(2+)」(カルシウムイオン濃度)が「1.25mM」(2.50mEq/L)、「Mg^(2+)」(マグネシウムイオン濃度)が「0.6mM」(1.2mEq/L)、「HCO_(3)^(-)」(炭酸水素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)、「Cl^(-)」(塩素イオン濃度)が「115.9mM」(115.9mEq/L)である。
一方、上記(1)アの認定事実によれば、甲3には、
(i)「本発明」の目的の1つは、滅菌されかつ沈殿物を含まず、保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することであること、
(ii)「本発明」の発明者らは、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは、特定のpH範囲等の如き一定の条件下では、重炭酸塩と共に保持し得るものであり、一定の条件下では、リン酸塩とも一緒に保持することができ、特定の環境、濃度、pH範囲及びパッケージングにおいて、滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと、
(iii)「本発明」は、上記課題を解決するため、「即時使用溶液」が、1.0?2.8mMの濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1?8.7mg/dL」)のリン酸塩を含み、滅菌され、かつ6.5?7.6のpHを有するという構成を採用したこと、
の開示があることが認められる。
加えて、甲3には、
(iv)「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきである。そのような変更および修正は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することができる。」(摘記(甲3ケ))との記載があること、
に照らすと、甲3に接した当業者は、引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)における上記即時使用溶液の各成分のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理解するものといえる。
しかるところ、上記(2)ア認定のとおり、本件優先日当時、「急性血液浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る、市販されている透析液及び補充液において、カルシウムイオン濃度を「2.5?3.5mEq/L」、マグネシウムイオン濃度を「1.0?1.5mEq/L」、炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲、塩素イオン濃度を「104?114.5mEq/L」の中で調整することは、技術常識又は周知技術であったものである。
そして、上記技術常識又は周知技術を踏まえると、引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mEq/L」)、炭酸水素イオン濃度(「30.0mEq/L」)、及び塩素イオン濃度(「115.9mEq/L」)を市販されている透析液及び補充液のそれぞれの数値範囲の中で調整することは、当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると、甲3に接した当業者は、引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3-1-7’)に係る訂正発明1の構成)に、炭酸水素イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲に含まれる「32.0mEq/L」(相違点(甲3-1-8’)に係る訂正発明1の構成)に、塩素イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲である「104?114.5mEq/L」(相違点(甲3-1-9’)に係る訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができたものである。

(b)相違点(甲3-1-6’)について
甲3には、
(i)「本発明」の目的の1つは、滅菌されかつ沈殿物を含まず、保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することであること、
(ii)「本発明」の発明者らは、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは、特定のpH範囲等の如き一定の条件下では、重炭酸塩と共に保持し得るものであり、一定の条件下では、リン酸塩とも一緒に保持することができ、特定の環境、濃度、pH範囲及びパッケージングにおいて、滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと、
(iii)「本発明」は、上記課題を解決するため、「即時使用溶液」が、1.0?2.8mMの濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1?8.7mg/dL」)のリン酸塩を含み、滅菌され、かつ6.5?7.6のpHを有するという構成を採用したこと、
(iv)「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきである。そのような変更および修正は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することができる」ことの開示又は記載があることは、上記(1)アのとおりである。
そうすると、甲3に接した当業者においては、滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を得るために、引用発明2における第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の「HPO_(4)^(2-)」(リン酸イオン濃度)「1.20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL)を上記(iii)の「1.0?2.8mM」(無機リン濃度3.1?8.7mg/dL)の範囲内で調整することを試みる動機付けがあるものと認められるから、引用発明2における無機リン濃度を上記数値範囲内の「4.0mEq/L」(相違点(甲3-1-6’)に係る訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができたものである。

e 相違点(甲3-1-3’)について
(a)上記2(1)イにおいて説示したとおり、訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の記載を総合すると、訂正発明1の「そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」との構成は、「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」である訂正発明1のA液及びB液の成分組成及びそれらのイオン濃度を請求項1に記載されたものに特定することによって実現されるものと理解できる。

(b)そして、上記b?dのとおり、甲3に接した当業者は、引用発明2において、ナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合すること(相違点(甲3-1-1’)に係る訂正発明1の構成)、「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」として使用すること(相違点(甲3-1-4’)に係る訂正発明1の構成)、マグネシウムイオン濃度、炭酸水素イオン濃度、塩素イオン濃度及び無機リン濃度を訂正発明1の濃度とすること(相違点(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)に係る訂正発明1の構成)を容易に想到することができたものである。
加えて、カリウムイオン濃度とカルシウムイオン濃度は、引用発明2と訂正発明1とで一致する。
以上によれば、訂正発明1の「少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-4’)、(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)に係る訂正発明1の構成とした場合に、自ずと備えるものといえる。
したがって、引用発明2において、相違点(甲3-1-3’)に係る訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

f 訂正発明1の効果について
本件明細書においては、「発明の効果」として、
(i)低カリウム血症や低リン血症を生じることがなく、酢酸不耐症症例においても安全に使用することができる、
(ii)用時混合型の炭酸水素イオン配合薬液は、混合後も炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈殿の生成が長時間にわたって抑制されるので、長時間の血液浄化を伴う急性血液浄化療法に好適に用いられる、
という効果が記載されている(摘記(本エ)【0024】)。

しかしながら、カリウムイオン濃度4.0mEq/L、無機リン濃度4.0mg/dLを含み、酢酸イオンを含有しない薬液であれば、低カリウム血症や低リン血症を生じることがなく、酢酸不耐症症例においても安全に使用することができるという効果を奏することは、当業者が予測可能な事項にすぎない。
また、甲3の図1A?1Cには、1.3mMリン酸塩濃度(合議体注:約4mg/dL)により、即時使用溶液中のpHが7.6又はそれより下に保持される場合には、形成される粒子の量が、混合してから24時間後でも許容される限界内であることが示されている(摘記(甲3オ)(甲3ク))。
そうすると、訂正発明1が、24時間より数時間長い27時間程度の長時間、不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制されることは、当業者が予測可能な程度のものといえる。
さらに、人体に投入される血液浄化用薬液においては、そのpH値が人の生理的pH値(甲3によると「約7?7.6」(摘記(甲3イ)と同程度の範囲内のものとする必要があることは自明であることに照らすと、混合した薬液のpHが8.32まで上昇することは、用時混合型急性血液浄化用の薬液の通常の使用方法としては想定されないものといえる。そうすると、訂正発明1の発明特定事項でもある「pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という効果は、用時混合型急性血液浄化用の薬液に通常求められる効果であるとはいえないから、用時混合型急性血液浄化用の薬液の効果として、優れたものであるとは認められない。
したがって、訂正発明1の効果は、当業者が予測し得ない格別顕著なものではない。

(ウ)以上によれば、訂正発明1は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 訂正発明2について
(ア)対比
訂正発明2は、訂正発明1において、A液とB液の両方がカリウムイオンを含むこと、B液がリン酸イオンを含むこと、及び、A液とB液を合した混合液においてナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lであることを特定するものである。
したがって、訂正発明2と引用発明2とは、相違点(甲3-1-1’)?(甲3-1-4’)、(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)に加えて、次の点で相違する。

・相違点(甲3-1-5’)
訂正発明2では、カリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液にしか配合されていない点。
・相違点(甲3-1-10’)
混合液中のナトリウムイオン濃度が、訂正発明2では138.0mEq/Lであるのに対し、引用発明2では140.0mEq/Lであると算出される点。
・相違点(甲3-1-11’)
訂正発明2では、リン酸イオンはB液に配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液(訂正発明2のA液)にしか配合されていない点。

(イ)判断
a 相違点(甲3-1-1’)?(甲3-1-3’)、(甲3-1-4’)、(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)について
上記ア(イ)に説示したとおり、相違点(甲3-1-2’)は実質的な相違点ではないし、また、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-3’)、(甲3-1-4’)、(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)に係る訂正発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

b 相違点(甲3-1-5’)について
引用発明2においては、第一単一溶液及び第二単一溶液のうち、カリウムイオンは、第一単一溶液のみに配合されている。
一方、甲3には、「前記即時使用溶液は、1以上の電解質をさらに含んでなるものである。該電解質は、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウムおよび/または塩化物のイオンの1またはそれ以上である。それぞれのコンパートメント中への電解質の配合は、その電解質が該単一溶液中に存在する他の物質との間で示すそれぞれの挙動、すなわち、1またはそれ以上の電解質と特定の単一溶液中に存在する他の物質との間に何らかの反応が起こり得るかどうか、に依存する。通常、該電解質は、前記第二単一溶液中に含まれる。」「他方、ナトリウムイオンおよび/または塩化物イオンは、通常は、第一単一溶液および第二単一溶液の両方に配合される。」(摘記(甲3キ))と記載されている。
カリウムイオンを含む「該電解質」の配合は、通常は第二溶液中に含まれるが、それぞれのコンパートメント中への電解質の配合は、単一溶液中に存在する他の物質との間に何らかの反応が起こり得るかどうかに依存することが理解できる。
そして、甲3には、カリウムイオンが、他の物質と何らかの反応が起こることは記載されていないし、実施例5(表12)には、カリウムイオンが、第二単一溶液に配合された即時混合使用溶液が記載されていることから、カリウムイオンは、第一単一溶液及び第二単一溶液のいずれに添加してもよいことが理解できる。
さらに、市販のろ過型人工腎臓用補液である「サブパック(R)-Bi」(摘記(甲8))は、A液とB液の両方に、ナトリウムイオンとともにカリウムイオンも配合されている。
そして、複数室の一室にカリウムイオンが分配され収容された輸液製剤においては、連通操作ミスでカリウムイオン濃度が過度に高くなるという問題点が医療現場で認識されていた(摘記(甲2イ))。
以上の点に照らすと、引用発明2において、第一単一溶液に配合されていたカリウムイオンを、ナトリウムイオンと同様に、第二単一溶液にも配合することは、当業者が適宜選択し得る。
したがって、当業者は、引用発明2において、第一単一溶液に配合されていたカリウムイオンを、第二単一溶液にも配合する構成(相違点(甲3-1-5’)に係る訂正発明2の構成)に変更することを容易に想到することができたものである。

c 相違点(甲3-1-10’)について
上記(2)アのとおり、市販されている透析液及び補充液において、ナトリウムイオン濃度を「132?143mEq/L」、カルシウムイオン濃度を「2.5?3.5mEq/L」、マグネシウムイオン濃度を「1.0?1.5mEq/L」、塩素イオン濃度を「104?114.5mEq/L」、炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整すること、は、技術常識又は周知技術であったものである。
上記技術常識又は周知技術を踏まえると、引用発明2における上記即時使用溶液のナトリウムイオン濃度(「140.0mEq/L」)を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整することは、当業者が適宜選択し得る設計事項である。
そうすると、甲3に接した当業者は、引用発明2における上記即時使用溶液のナトリウムイオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲内の「138.0mEq/L」(相違点(甲3-1-10’)に係る訂正発明2の構成)にすることを容易に想到することができたものである。

d 相違点(甲3-1-11’)について
引用発明2(実施例4(表9))においては、第一単一溶液及び第二単一溶液のうち、リン酸イオンは、第一単一溶液のみに配合されている。
一方で、甲3には、「カルシウムとリン酸塩は、これらの2つの成分が2.5より下、好ましくは1.5より下、最も好ましくは1.3またはそれより下のpHでコンパートメント中に保持されれば、調製および保存の間一緒に保持できることを見出した」ことが記載され(摘記(甲3カ))、実施例1では、第二単一溶液にカルシウムイオン、マグネシウムイオンとともにリン酸イオンが配合されていること(摘記(甲3ク)の表4及び表5)が示されている。
そうすると、甲3に接した当業者は、引用発明2において、第一単一溶液に配合されていたリン酸イオンを、pHが1.3-1.6である第二単一溶液に配合しても、リン酸カルシウムの沈殿を生じることはないことが理解できる。
以上の点に照らすと、引用発明2において、第一単一溶液に配合されていたリン酸イオンを、第二単一溶液にのみ配合することは、当業者が適宜選択し得る設計的事項であるといえる。
したがって、当業者は、引用発明2において、第一単一溶液に配合されていたリン酸イオンを、第二単一溶液にのみ配合する構成(相違点(甲3-1-11’)に係る訂正発明2の構成)に変更することを容易に想到することができたものである。

e 訂正発明2の効果について
訂正発明2が、訂正発明1において更に相違点(甲3-1-5’)、(甲3-1-10’)、(甲3-1-11’)の構成を採用することにより、格別優れた効果を奏するとはいえない。

(ウ)以上によれば、訂正発明2は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 訂正発明3について
(ア)対比
訂正発明3は、訂正発明2において「A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム」「を含み、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム」「を含む」ことを更に特定するものである。
そして、引用発明2における、炭酸水素イオン、塩素イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンは、訂正発明3と同じ、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムに由来するものであるから、訂正発明3と引用発明2とは、相違点(甲3-1-1’)?(甲3-1-10’)に加えて、次の点で相違する。

・相違点(甲3-1-11’P)
訂正発明3では、リン酸イオンは、リン酸二水素ナトリウムとしてB液に配合されているのに対し、引用発明2では、リン酸イオンは、リン酸水素二ナトリウムとして第一単一溶液に配合されている点。

(イ)判断
a 相違点(甲3-1-1’)?(甲3-1-10’)について
上記イ(イ)に説示した訂正発明2と同様の理由により、相違点(甲3-1-2’)は実質的な相違点ではないし、また、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-3’)?(甲3-1-10’)に係る訂正発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

b 相違点(甲3-1-11’P)について
相違点(甲3-1-11’)について検討したとおり、引用発明2において、第一単一溶液に配合されていたリン酸イオンを、第二単一溶液のみに配合することは、当業者が適宜選択し得る設計的事項である。
また、甲3の実施例2において、NaH_(2)PO_(4)をリン酸塩として用いていることから(摘記(甲3ク))、甲3においては、リン酸イオンを供給するリン酸塩として、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムはいずれも使用可能であることが理解できる。
そうすると、引用発明2において、第一単一溶液に配合されていたリン酸イオンを、第二単一溶液のみにリン酸二水素ナトリウムとして配合する構成(相違点(甲3-1-11’P)に係る訂正発明3の構成)に変更することを当業者が容易に想到することができたものである。

c 訂正発明3の効果について
訂正発明3の効果は、当業者が予測し得ない格別顕著なものとはいえない。

(ウ)したがって、訂正発明3は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 訂正発明4について
(ア)対比
訂正発明4は、訂正発明1において、A液とB液の両方がカリウムイオンを含むこと、A液がリン酸イオンを含むこと、及び、A液とB液を合した混合液においてナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lであることを特定するものである。
引用発明2において第一単一溶液がHPO_(4)^(2-)を含むことは、訂正発明4においてA液がリン酸イオンを含むことに相当する。
そうすると、訂正発明4と引用発明2とは、上記(3)イ(ア)のとおり、相違点(甲3-1-1’)?(甲3-1-10’)で相違する。

(イ)判断
上記イ(イ)に説示した訂正発明2と同様の理由により、相違点(甲3-1-2’)は実質的な相違点ではないし、また、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-3’)?(甲3-1-10’)に係る訂正発明4の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
そして、訂正発明4の効果は、当業者が予測し得ない格別顕著なものではない。

(ウ)したがって、訂正発明4は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ 訂正発明5について
訂正発明5は、訂正発明4において、「A液が炭酸水素ナトリウム、塩化
カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム」「を含み、B液が塩
化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム」「を含
む」ことを更に特定するものである。
そして、引用発明2における、炭酸水素イオン、塩素イオン、カリウムイ
オン、ナトリウムイオン、リン酸イオンは、訂正発明5と同じ、炭酸水素ナ
トリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムに由来
するものであるから、訂正発明5と引用発明2との間に、更なる相違点は見
出せない。
したがって、訂正発明4と同様の理由により、訂正発明5は、甲3に記載
された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである


カ 訂正発明6について
(ア)対比
訂正発明6と引用発明2とを対比する。
甲3の実施例4に記載された調整方法によれば、引用発明2の第一単一溶液には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))、リン酸水素二ナトリウム(Na_(2)HPO_(4))が含まれ、第二単一溶液には、塩化カルシウム(CaCl_(2))、塩化マグネシウム(MgCl_(2))、グルコース(「ブドウ糖」に相当)が含まれており、いずれの単一溶液も酢酸イオンは含まれていない。
そうすると、訂正発明6(本件明細書の実施例1のA液及びB液)と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。

・一致点(1’):塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)および炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))を含む液(「訂正発明6のA液」と「引用発明2の第一単一溶液」が該当)を含むものであること。
・一致点(2’):塩化カルシウム(CaCl_(2))、塩化マグネシウム(MgCl_(2))およびブドウ糖を含む液(「訂正発明6のB液」と「引用発明2の第二単一溶液」が該当)を含むものであること。
・一致点(3’):A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないこと(引用発明2でも第一単一溶液および第二単一溶液のいずれもが酢酸イオンを含有しない)。
・一致点(4’):用時混合型の薬液であること。

・相違点(甲3-1-1’’)
訂正発明6では、塩化ナトリウムがA液だけでなくB液にも配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液にしか配合されていない点。
・相違点(甲3-1-2’’)
訂正発明1では、A液およびB液のいずれもが水を含むものであることが発明特定事項とされているのに対し、引用発明2では発明特定事項とされていない点。
・相違点(甲3-1-4’’)
訂正発明6は「急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であるのに対し、引用発明2は「医薬溶液」である点。
・相違点(甲3-1-5’’)
訂正発明6では、塩化カリウムがA液だけでなくB液にも配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液にしか配合されていない点。
・相違点(甲3-1-11’’P)
訂正発明6では、リン酸イオンは、リン酸二水素ナトリウムとしてB液に配合されているのに対し、引用発明2では、リン酸イオンは、リン酸水素二ナトリウムとして第一単一溶液に配合されている点。
・相違点(甲3-1-12’’)
訂正発明6では、A液1000mL中及びB液1000mL中の各成分の含有量が「g」単位で請求項6のとおり特定されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液と第二単一溶液との体積比が20:1で、各成分の含有量が各イオン濃度及びグルコース濃度として「mM」単位で実施例4の表9のとおり特定されている点。

(イ)判断
a 相違点(甲3-1-2’’)
相違点(甲3-1-2’)と同様の理由により、相違点(甲3-1-2’’)は実質的な相違点ではない。

b 相違点(甲3-1-1’’)、(甲3-1-4’’)、(甲3-1-5’’)、(甲3-1-11’’P)について
相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-4’)、(甲3-1-5’)、(甲3-1-11’P)と同様の理由により、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’’)、(甲3-1-4’’)、(甲3-1-5’’)、(甲3-1-11’’P)に係る訂正発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

c 相違点(甲3-1-12’’)について
(a)血液浄化用の用時混合型薬液において、ほぼ同体積の2つの薬液を混合することは周知であるから(摘記(甲8))、引用発明2において、第一単一溶液と第二単一溶液との体積比を20:1ではなく、ほぼ等量とし、第一単一溶液を1000mL、第二単一溶液を1000mLとすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

(b)上記(a)の体積比の変更に伴い、混合後のカリウムイオン濃度及びカルシウムイオン濃度を変更しないように、各単一溶液に含まれる塩化カリウム及び塩化カルシウムの含有量とし、また、無機リンの供給源としてリン酸水素二ナトリウムに代えてリン酸二水素ナトリウムを用いるに当たり、その含有量を、甲3に記載された範囲内の無機リン濃度「4.0mEq/L」となるようにすることも適宜なし得る。

(c)引用発明2の医薬溶液におけるグルコース(ブドウ糖)の濃度である5.0mMは、換算すると90.1mg/dL(5.0mmol/L×180.2g/mol×1L/10dL(分子量)」となる。
他方、訂正発明6のA液とB液を合した混合液におけるブドウ糖の濃度は、ブドウ糖100.0mg/dLである(本件明細書の実施例1の混合液参照)。
本件優先日当時、「急性血液浄化」の血液濾過(透析)用に使用され得る、市販されている透析液及び補充液において、ブドウ糖濃度を「100?150mg/dL」の範囲の中で調整することは技術常識又は周知技術であったものと認められる(摘記(甲10ア))。
そして、上記技術常識又は周知技術を踏まえると、引用発明2の医薬溶液におけるグルコース濃度(「90.1mEq/L」)を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整して「100.0mEq/L」となるような、引用発明2における第二単一溶液中のグルコース(ブドウ糖)の含有量とすることを容易に想到することができたものである。

(d)訂正発明6は、本件明細書の実施例1のA液及びB液に対応するものであり、本件明細書の【0073】の表7によれば、訂正発明3において特定された各成分の濃度を達成するものである。
したがって、訂正発明3と同様な理由により、引用発明2の医薬溶液のナトリウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度、塩素イオン濃度、炭酸水素イオン濃度が、上記(2)アで認定した市販されている透析液及び補充液の数値の範囲に含まれる濃度となるような、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムの含有量とすることを、当業者であれば容易に想到することができたものである。

(e)上記(a)?(d)のとおり、引用発明2において、相違点(甲3-1-12’’)に係る訂正発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。

d 訂正発明6の効果について
訂正発明6におけるA液及びB液の成分及びその含有量としたことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

(ウ)以上によれば、訂正発明6は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ 訂正発明7について
(ア)対比
訂正発明6は本件明細書の実施例1に対応し、訂正発明7は本件明細書の実施例2に対応するものであるところ、上記カにおける訂正発明6と引用発明2との対比を参照すると、訂正発明7と引用発明2とは、一致点(1’)?(4’)に加え、下記の一致点(5’)で一致し、相違点(甲3-1-1’’)、(甲3-1-2’’)、(甲3-1-4’’)、(甲3-1-5’’)、(甲3-1-12’’)で相違点する。

・一致点(5’):リン酸水素二ナトリウム(Na_(2)HPO_(4))を含む液(「訂正発明7のA液」と「引用発明2の第一単一溶液」が該当)であること。

(イ)判断
訂正発明6と同様の理由により、相違点(甲3-1-2’’)は実質的な相違点ではないし、相違点(甲3-1-1’’)、(甲3-1-4’’)、(甲3-1-5’’)、(甲3-1-12’’)については、当業者が容易に想到することができたものといえる。
そして、訂正発明7が、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、訂正発明7は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ク 訂正発明8について
訂正発明8は、訂正発明1?7おいて「A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液または補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、急性血液浄化療法開始から24時間にわたって、該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり、かつ、血漿中リン酸イオン濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない」ことを特定するものである。
甲3には、従来技術について血液透析を受ける患者では低リン血症が起こり得るし、多すぎるリンが投与された場合は高リン血症を発症することがあること(摘記(甲3イ))、甲10には、高K血症は重篤な病態であること(摘記(甲10ア))、甲11には、不整脈を頻発する患者では低Kに注意する必要があること(摘記(甲11))が、それぞれ記載されていることを考慮すれば、血液浄化を行う間は、血漿中のカリウムイオン濃度が正常範囲内であり、リン酸イオン濃度が有意に変動しないようにすることは、当然望まれている事項にすぎない。
そして、訂正発明8は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、訂正発明1?7と同様の理由により、訂正発明8は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ケ 訂正発明9について
訂正発明9は、訂正発明1?8において、「低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する」ことを特定するものである。
そして、本件明細書の【0022】の記載によれば、訂正発明9において更に特定された点は、カリウムイオン濃度を3.5?5.0mEq/L、無機リン濃度を2.3?4.5mg/dLの範囲に保持することにより達成される事項であるから、同じ濃度を有する引用発明2も「低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する」ものといえる。
そして、訂正発明9は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、訂正発明1?8と同様の理由により、訂正発明9は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

コ 訂正発明10について
訂正発明10は、訂正発明1?9において、「酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である」ことを特定するものである。
引用発明2は、酢酸イオンを含んでいないことから、酢酸不耐症患者に適用可能であることは、当業者において自明である。
また、上記(2)ア(iv)及び(v)によれば、「用時混合型急性血液浄化用薬液」としては、透析液、補充液又はこれらに兼用可能な薬液という、いずれかの薬液があったところ、持続的血液濾過透析(CHDF)は、急性腎不全患者に適用され、透析液と補充液の組成及び濃度を同じとする場合があることは、技術常識又は周知技術であったことから、引用発明2を、「透析液及び補充液の兼用液」として用いる点に、特段の困難性は見出せない。
そして、訂正発明10は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、訂正発明1?9と同様の理由により、訂正発明10は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

サ 訂正発明11について
(ア)対比
訂正発明11と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。

・一致点(1’’):ナトリウムイオン、塩素イオンおよび炭酸水素イオンを含む液(「訂正発明1のA液」と「引用発明2の第一単一溶液」が該当)を含むものであること。
・一致点(2’’):カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオンおよびブドウ糖を含む液(「訂正発明1のB液」と「引用発明2の第二単一溶液」が該当)を含むものであること。
・一致点(3’’):A液(第一単一溶液)およびB液(第二単一溶液)の少なくとも一方がカリウムイオンを含有し(引用発明2では第一単一溶液がカリウムイオンを含有)、A液(第一単一溶液)およびB液(第二単一溶液)の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し(引用発明2では第一単一溶液がリン酸イオンを含有)、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないこと(引用発明2でも第一単一溶液および第二単一溶液のいずれもが酢酸イオンを含有しない)。
・一致点(4’’):A液(第一単一溶液)とB液(第二単一溶液)を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであること。
・ 一致点(5’’):用時混合型の薬液を含むものであること。

・相違点(甲3-2-1’)
訂正発明11では、ナトリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液にしか配合されていない点。
・相違点(甲3-2-2’)
訂正発明11では、A液およびB液のいずれもが水を含むものであることが発明特定事項とされているのに対し、引用発明2では発明特定事項とされていない点。
・相違点(甲3-2-3’)
訂正発明11では、「A液とB液を合した混合液において、……少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ことが発明特定事項とされているのに対し、引用発明2では、それに対応する発明特定事項がない点。
・相違点(甲3-2-4’)
訂正発明11は、容器に充填される薬液が、「急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であるのに対し、引用発明2は「医薬溶液」である点。
・相違点(甲3-2-5’)
訂正発明11では、カリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し、引用発明2では、第一単一溶液にしか配合されていない点。
・相違点(甲3-2-6’)
混合液中の無機リン濃度が、訂正発明11では4.0mg/dLであるのに対し、引用発明2では3.72mg/dLであると算出される点。
・相違点(甲3-2-7’)
混合液中のマグネシウムイオン濃度が、訂正発明11では1.0mEq/Lであるのに対し、引用発明2では1.2mEq/Lであると算出される点。
・相違点(甲3-2-8’)
混合液中の炭酸水素イオン濃度が、訂正発明11では32.0mEq/Lであるのに対し、引用発明2では30.0mEq/Lであると算出される点。
・相違点(甲3-2-9’)
混合液中の塩素イオン濃度が、訂正発明11では104?114.5mEq/Lであるのに対し、引用発明2では115.9mEq/Lと算出される点。
・相違点(甲3-2-13’)
訂正発明11は、隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、用時、上記隔壁を破壊もしくは剥離してA液とB液を混合するようにしてある容器の下室にA液を、上室にB液を充填したものであるのに対し、引用発明2では、容器について特定されていない点。

なお、訂正発明11の薬液は、訂正発明1の薬液において、更にカリウムイオンがA液とB液の両方に含まれていることを特定したものである。

(イ)判断
a 相違点(甲3-2-1’)?相違点(甲3-2-9’)について
相違点(甲3-2-1’)?相違点(甲3-2-9’)は、相違点(甲3-1-1’)?相違点(甲3-1-9’)に対応するものであるから、これらの相違点と同様の理由により、相違点(甲3-2-2’)は実質的な相違点ではないし、相違点(甲3-2-1’)、相違点(甲3-2-3’)?相違点(甲3-2-9’)は、当業者が容易に想到し得たものである。

b 相違点(甲3-2-13’)について
甲3には、それぞれの単一溶液を、マルチコンパートメント中の異なるコンパートメントにおいて提供でき、それらのコンパートメントの間の、折れやすいピン又はピールシールを破壊又は剥がすことにより、異なるコンパートメント中の内容物を混合することが記載されている(摘記(甲3キ))。
そして、異なるコンパートメント(室)を有する透析液等を充填する容器として、隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、用時、上記隔壁を破壊もしくは剥離して、上室の液と下室の液を混合するようにしてある容器は、周知であるから(摘記(甲2ケ)、摘記(甲5)、摘記(甲6)、摘記(甲7)、摘記(甲8))、引用発明2を、かかる周知の容器に充填することは、当業者が容易に想到し得た事項である。
また、その際に、下室に第一単一溶液(「A液」に相当)を、上室に第二単一溶液(「B液」に相当)を充填したものとすることも、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

c 訂正発明11の効果について
訂正発明11は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

(ウ)以上によれば、訂正発明11は、甲3に記載された発明、及び、甲2、甲5?8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

シ 訂正発明12?14について
(ア)対比
訂正発明12?14と引用発明2とは、相違点(甲3-2-1’)?(甲3-2-9’)、(甲3-2-13’)に加え、次の点で更に相違する。

・相違点(甲3-2-14’)
訂正発明12は「上室の頂部に容器の係止手段を設けた」こと、訂正発明13は「上室と下室の容積が同等となるように隔壁を設けた」こと、訂正発明14は「容器が軟質の透明プラスチック製である」ことが、それぞれ特定されているのに対し、引用発明2では、これらの特定がされていない点。

(イ)判断
上記サ(イ)に説示したとおり、相違点(甲3-2-2’)は実質的な相違点ではないし、また、相違点(甲3-2-1’)、(甲3-2-3’)?(甲3-2-9’)、(甲3-2-13’)については、当業者が容易に想到し得たものである。
また、相違点(甲3-2-14’)において特定された点は、上記サ(イ)において説示した周知の容器(摘記(甲2ケ)、摘記(甲5)、摘記(甲6)、摘記(甲7)、摘記(甲8))を参照して、適宜設定し得る事項にすぎない。
そして、訂正発明12?14は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、訂正発明12?14は、甲3に記載された発明、及び、甲2、甲5?8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ス 訂正発明15について
訂正発明15は、訂正発明11?14において、「A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを含む水溶液からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含む水溶液からなり、A液およびB液の少なくとも一方にリン酸イオンが含有されている」ことを更に特定するものである。
具体的には、上記の発明特定事項は、訂正発明11?14の薬液において、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭素水素イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオンの各イオン源として、「炭酸水素ナトリウム」、「塩化カリウム」、「塩化ナトリウム」、「塩化カルシウム」、「塩化マグネシウム」を用いることを更に特定するものである。
引用発明2における各イオン源も、「炭酸水素ナトリウム」、「塩化カリウム」、「塩化ナトリウム」、「塩化カルシウム」、「塩化マグネシウム」を用いるものであるから、訂正発明15と引用発明2との間に、更なる相違点は見出せない。
したがって、訂正発明11?14と同様の理由により、訂正発明15は、甲3に記載された発明、及び、甲2、甲5?8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

セ 訂正発明16、17について
(ア)対比
訂正発明16、17と引用発明2とは、相違点(甲3-2-1’)?(甲3-2-9’)、(甲3-2-13’)、(甲3-2-14’)に加え、次の点で更に相違する。

・相違点(甲3-2-15’)
訂正発明16は「薬液が低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制し、前記A液とB液とを合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである」ことが特定されているのに対し、引用発明2では、これらの特定がされていない点。
・相違点(甲3-2-16’)
訂正発明17は「薬液が酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である」ことが特定されているのに対し、引用発明2では、これらの特定がされていない点。

(イ)判断
上記シ(イ)に説示したとおり、相違点(甲3-2-2’)は実質的な相違点ではないし、また、相違点(甲3-2-1’)、(甲3-2-3’)?(甲3-2-9’)、(甲3-2-13’)、(甲3-2-14’)については、当業者が容易に想到し得たものである。
また、相違点(甲3-2-15’)におけるナトリウムイオン濃度についての特定は、相違点(甲3-1-10’)と同じ理由より、当業者が適宜なし得る事項であり、また、訂正発明9について説示したように、引用発明2も、薬液が低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制するものであることは明らかである。
さらに、訂正発明10について説示したように、引用発明2は、酢酸イオンを含んでいないことから、相違点(甲3-2-16’)の酢酸不耐症患者に適用可能であることは当業者において自明であり、上記(2)ア(iv)及び(v)によれば、引用発明2を、「透析液及び補充液の兼用液」として用いる点に、特段の困難性は見出せない。
そして、訂正発明16、17は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、訂正発明16、17は、甲3に記載された発明、及び、甲2、甲5?8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ソ 令和2年4月3日提出の上申書における被請求人の主張について
(ア)炭酸水素イオン濃度について
被請求人は、甲10に加え、乙2に基づけば、透析液と補充液とで好ましいイオン濃度範囲が異なることが技術常識であるから、引用発明2を透析液として調整する場合は炭酸水素イオン濃度を「25.0?30.0mEq/L」の範囲の中で調整し、補充液として調整する場合は「35.0mEq/L」を選択することが甲10及び乙2に基づく技術常識であるため、引用発明2において、「32.0mEq/L」とする動機付けは一切ない旨を主張する(上申書16頁の「ウ」)。
被請求人が提示する乙2を検討しても、取消判決が認定した技術常識が誤りであるとする根拠とはならないことは上記(2)イに説示したとおりであり、本審決は、取消判決が認定した技術常識に拘束される。
したがって、被請求人の上記主張は、その前提において誤りである。

(イ)カリウムイオン濃度と塩素イオン濃度について
被請求人は、甲10の表1に示される市販の透析液及び補充液を区別しないとしても、カリウムイオン濃度及び塩素イオン濃度のいずれもが、引用発明2の値に維持されるか、あるいは甲10の表1に挙げられている市販の透析液及び補充液の範囲内とされるべきものであり、これらのうちの一方のみを維持する理由、及び一方のみを甲10の表1に挙げられている市販の透析液及び補充液の範囲内で調整される理由は一切ない旨を主張する(上申書16?18頁の「エ」)。

しかしながら、甲3には、引用発明2について、カリウムイオンはKClに由来し、塩素イオンは、KaCl、CaCl_(2)、MgCl_(2)及びHClに由来するものであると記載されており、それぞれ個別に濃度調整ができ、特段、カリウムイオン濃度と塩素イオン濃度とが連動することは記載されていない。また、塩素イオン濃度は、pH調整を調整するHClによっても供給されるものであるから、濃度が変動しやすいイオンでもある。したがって、引用発明2において、カリウムイオン濃度を維持したまま、塩素イオン濃度(115.9mEq/L)を甲10の表1に挙げられている市販の透析液及び補充液の範囲内(104?114.5mEq/L)で調整することに特段の困難性は見出せない。

(ウ)酢酸イオン濃度について
被請求人は、甲3においては、酢酸塩の含有を許容しており(甲3の1:6頁3?5行、表11)、炭酸水素イオン濃度が低下するほど、微粒子や沈殿の原因となる炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムが形成されにくいと考えられるから、甲3の「沈殿物を含まず、保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する『医療溶液』を提供する」(取消判決謄本83頁15?17行)という目的に沿って適宜イオン濃度を調整するのであれば、甲3の開示及び甲10(表1には酢酸イオン又は乳酸イオンが必ず配合され炭酸水素イオンのみを配合したものは記載されていない)に基づく技術常識に従い、炭酸塩にかえて、又は補足的に、酢酸イオンを配合することが自然かつ適切である旨を主張する(上申書18?19頁の「オ」)。

しかしながら、甲3には、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを、一定の条件下で重炭酸塩(炭酸水素イオン)及びリン酸塩(リン酸イオン)と一緒に保持できることを見出した発明について記載されており(摘記(甲3キ))、緩衝剤として、炭酸水素イオンを含み酢酸イオンを配合しないことについて、不都合な点は記載されていないから、甲3に接した当業者は、引用発明2において、酢酸イオンを配合しないことに、特段に不自然な点は見出せない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(エ)相違点(甲3-1-4’)について
被請求人は、甲10に基づけば、「医療溶液」のうち、具体的に使用可能な「透析液」と「補充液」とで組成が異なることが技術常識であり、引用発明2の医療溶液が具体的に「透析液」、「補充液」、又は「これらに兼用可能な薬液」のいずれかに該当するものであるか否かについて、甲3からは判断することができないから、「医療溶液」として記載された引用発明2を具体的に「透析液」、「補充液」、又は「これらに兼用可能な薬液」のいずれかにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない旨を主張する(上申書20?21頁の「(2-5)」。なお、上申書における「相違点(甲3-1-4’’)」を、この審決における表記である「相違点(甲3-1-4’)」として記載した。以下同様。)。

しかしながら、引用発明2の「医療溶液」を急性腎不全に罹患している患者に用いるとすれば、「透析液」、「補充液」、又は「これらに兼用可能な薬液」のいずれかであり、訂正発明1は、これら全ての選択肢を含むものである。そして、甲3に接した当業者が、引用発明2(実施例4の医療溶液)が、「透析液」、「補充液」、又は「これらに兼用可能な薬液」のいずれかに使用可能であるとは理解しないという具体的な阻害要因は見出せない。そうすると、「医療溶液」として記載された引用発明2を具体的に「透析液」、「補充液」、又は「これらに兼用可能な薬液」のいずれかに用いることに、特段の困難性は見出せない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(オ)相違点(甲3-1-3’)について
被請求人は、取消判決では「以上によれば、本件訂正発明1の『少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される』という構成は、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-4’)、(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成とした場合に、自ずと備えるものといえる。」と認定されている(取消判決謄本89頁1?5行)が、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-4’)、(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-9’)に係る訂正発明1の構成とすることが当業者にとって容易ではないため、「A液とB液を合した混合液において、…、少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成(相違点(甲3-1-3’))は引用発明2に基づいて当業者が容易に想到できたものではあり得ない旨を主張する(上申書21?23頁の「(2-6)」)。

しかしながら、上述したとおり、引用発明2において、相違点(甲3-1-1’)、(甲3-1-4’),(甲3-1-6’)?(甲3-1-9’)に係る訂正発明1の構成とすることが当業者にとって容易であり、その場合には、相違点(甲3-1-3’)に係る訂正発明1の構成を自ずと備えるものといえる。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(カ)取消判決における指摘事項について
被請求人は、取消判決では、「pHが7.23?7.29から7.89?7.94までほぼ直線的に上昇した状況」に置くことは、用時混合型急性血液浄化用薬液の通常の使用方法として想定されないものである旨が認定されたが(取消判決謄本90頁20行?91頁5行)、実際に使用される用時混合型急性血液浄化用薬液のpHの範囲(例えば「約7?7.6」)が人の生理的pH値であるからといって、その範囲における不溶性微粒子や沈殿の形成が抑制されることのみを確認しただけでは不十分であり、実際の使用環境下では、例えば薬液が投入された袋にピンホールが開いて急激にpHが8.32程度まで上昇することがあり得るから、人の生理的pH値(約7?7.6)よりも上昇した場合にも不溶性微粒子や沈殿の形成が抑制されることを確認する必要があり、また、甲3においても、pHが6.8?8.2の範囲内において粒子の量を測定していることから、pHが8.32程度までの範囲で確認することに実用上意味があることが裏付けられている旨を主張する(上申書25?26頁の「イ」)。

しかしながら、被請求人が指摘する「薬液が投入された袋にピンホールが開いて急激にpHが8.32程度まで上昇する」場合には、ピンホールから微生物が侵入し、衛生面で血液浄化用の薬液として不適切となる可能性があることを考慮すると、通常の使用形態として想定されるものとはいえない。また、甲3においては、pHと粒子の量の関係を測定するためにpHが6.8?8.2としているのであって、通常の使用形態としてpH8.32程度が想定されていることを裏付けるものとはいえない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(キ)訂正発明1の効果について
a 被請求人は、引用発明2は、粒子の形成を抑制するためには、混合された即時使用溶液のpHを制御する必要があるとの前提のもとで、現に、混合時の即時使用溶液のpHの値が高くなると、粒子の形成量が多くなることを確認するとともに、所定のリン酸塩の濃度に対し、粒子の形成が24時間内抑制される、混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定したものであるのに対し、訂正発明1は、混合後長時間が経過してpHが上昇しても、不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができるという効果は、引用発明2に比して、質的に差のある当業者が予測できない格別の効果であり、本件審判において提出した参考資料3(平成29年8月8日提出の上申書に添付)によっても基礎付けられている旨を主張する(上申書23?25頁の「(2-7)」)。

しかしながら、訂正発明1と引用発明2とは、長時間、通常の使用状態におけるpHにおいて不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができるという効果を奏する点で共通している以上、両発明の効果が、質的に差があるとまではいえない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

b 被請求人は、実施例1の混合液に該当する訂正発明1の薬液は、透析液と補充液の両方(すなわち兼用可能な薬液)に使用可能であるという顕著な効果を奏する一方、甲3には、各イオン濃度が具体的に示された一つの薬液が、透析液及び補充液のどちらにも使えることの開示はないから、このような訂正発明1の効果は、引用発明2に比して当業者が予測できない格別の効果である旨を主張する(上申書23?25頁の「(2-7)」の最後の段落)。

しかしながら、甲10には、「透析液を無菌On-line化して、補充液として使用する方法(On-line血液濾過透析法)が普及しつつある現状では、補充液と透析液の組成、濃度は同じです.」(摘記(甲10ア))と記載されるように、本件優先日当時、透析液と補充液とは類似の組成を有しており、透析液を無菌化して補充液として使用することも行われていたことであって、引用発明2(実施例4の医療溶液)の組成からみて、透析液及び補充液の兼用はできないと理解するとする具体的な根拠は見出せない以上、引用発明2についても、透析液及び補充液の兼用は可能であると当業者は理解するといえる。
そうすると、訂正発明1が、透析液と補充液の両方に使用可能であるとの効果は、格別顕著なものとはいえない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

タ 小括
以上のとおり、訂正発明1?10は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正発明11?17は、甲3に記載された発明、及び、甲2、甲5?8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正発明1?17に係る特許は、請求人無効理由3のうち進歩性欠如の理由により、無効とすべきものである。

5 請求人無効理由2(甲2に基づく新規性及び進歩性欠如)について
(1)甲2に記載された発明
ア 上記第7の2の記載事項によれば、甲2には、以下の開示があるものと認められる。
(ア)炭酸塩含有溶液とカルシウム塩含有溶液あるいはマグネシウム塩含有量液が同じ室に収容され保存されると炭酸カルシウムあるいは炭酸マグネシウムの沈殿が生成する等、望ましくない変化を起こす等の問題があり、このような予め混合されると望ましくない薬効原料を、異なる室に収容し保存する複数室からなる製剤が開発されている(サブラッド-B(扶桑薬品工業株式会社)等)。この種の投与に用いられる輸液溶液は、使用の際には、隔壁を連通して、複数の薬効原料を無菌状態で混合するところ、この連通操作をし忘れて一方の薬効原料のみを患者に投与してしまうというミスが生じ、一室に収容された薬効原料含有溶液のカリウムイオン濃度が過度に高い、また、浸透圧比が過度に大きいかあるいは小さい場合には、患者が重篤な事態に陥る(摘記(甲2イ))。

(イ)「本発明」は、上記の問題点を解消し、医療過誤による生体への悪影響を排除する無菌配合製剤を提供することを目的とする(摘記(甲2ウ))。
「本発明」の発明者らは、薬効原料を複数室に分離して保存し、用時混合する無菌配合製剤であって、同一薬効原料を2室以上に分配し収容することを特徴とする無菌配合製剤を創製することに成功すると共に、上記の問題点を一挙に解決することを知見した(摘記(甲2ウ))。
「本発明」の無菌配合製剤は、複数室に収容される各液剤の浸透圧比やカリウムイオン濃度等が適切な範囲に調整されているため、過誤により一室の液のみが患者に投与されたとしても、低浸透圧による溶血や、高カリウム血症等をきたしたりする恐れがないので、過誤による生体への悪影響を抑制することができるという効果を奏する(摘記(甲2エ))。
なお、「本発明」の無菌配合製剤は、例えば、解毒剤、人工腎臓透析液、腹膜透析液、輸液剤、根管拡大剤(歯科用)等として有用である(摘記(甲2キ))。

(ウ)「本発明」の実施例1は、次のようなものである。
「塩化カルシウム0.09g、塩化マグネシウム0.11g、塩化ナトリウム1.20gおよびブドウ糖0.31gを注射用蒸留水に溶解して全量が150mLになるようにして、ブドウ糖溶液を得た(これをX液と称する)。次いで、炭酸水素ナトリウム0.97g、リン酸二水素カリウム0.08g、塩化ナトリウム2.38gおよび塩化カリウム0.07gを注射用蒸留水に溶解して全量が350mLになるようにして、溶液を得た(これをY液と称する。)。これらのX液およびY液を常法によりそれぞれろ過し、用時隔壁を開通し、無菌的に混合できる気体透過性プラスチック容器(図1)の薬効原料含有溶液収容室A(図1中の符号4)および薬効原料含有溶液収容室B(図1中の符号5)にそれぞれX液150mLおよびY液350mLずつ充填し、閉塞した。このX液およびY液を充填した容器を常法により加熱滅菌し、その後ガスバリア性フィルムにて二次包装(図1中の符合2)を行い、無菌配合製剤を得た。」(摘記(甲2ク))

イ(ア)上記ア及び上記第7の2の記載事項を総合すれば、甲2には、実施例1に基づいて特定される、次の発明(以下「引用発明1-1’」という。)が記載されていることが認められる。

「以下の工程によって得られた無菌配合製剤であって、そのX液とY液を混合した場合に得られるX液とY液の混合液500ml中の処方が、塩化カルシウム0.09g、塩化マグネシウム0.11g、ブドウ糖0.31g、炭酸水素ナトリウム0.97g、リン酸二水素カリウム0.08g、塩化ナトリウム3.58g、塩化カリウム0.07gであって、生理食塩液に対する浸透圧比1.0である、無菌配合製剤。
工程:塩化カルシウム0.09g、塩化マグネシウム0.11g、塩化ナトリウム1.20gおよびブドウ糖0.31gを注射用蒸留水に溶解して全量が150mLになるようにして、ブドウ糖溶液を得た(これをX液と称する)。次いで、炭酸水素ナトリウム0.97g、リン酸二水素カリウム0.08g、塩化ナトリウム2.38gおよび塩化カリウム0.07gを注射用蒸留水に溶解して全量が350mLになるようにして、溶液を得た(これをY液と称する。)。これらのX液およびY液を常法によりそれぞれろ過し、用時隔壁を開通し、無菌的に混合できる気体透過性プラスチック容器の薬効原料含有溶液収容室Aおよび薬効原料含有溶液収容室BにそれぞれX液150mLおよびY液350mLずつ充填し、閉塞した。このX液およびY液を充填した容器を常法により加熱滅菌し、その後ガスバリア性フィルムにて二次包装を行い、無菌配合製剤を得た。」の発明

(イ)引用発明1-1’におけるX液とY液の混合液中の各イオン濃度を、「mEq/L」又は「mg/dL」の単位に換算すると、次のとおりである。

「ナトリウムイオン濃度 145.6mEq/L」
(=(3.58(NaClの質量)×1000)mg/58.44(NaClのモル質量×(10dL/5dL)×1(Na^(+)のイオン価)+(0.97(NaHCO_(3)の質量)×1000)mg/83.98(NaHCO_(3)のモル質量)}×(10dL/5dL)×1(Na^(+)のイオン価) )

「カリウムイオン濃度 3.05mEq/L」
(={(0.08(KH_(2)PO_(4)の質量)×1000)mg/136.09(KH_(2)PO_(4)のモル質量)}×(10dL/5dL)×1(K^(+)のイオン価)+{(0.07g(KClの質量)×1000)mg/74.55(KClのモル質量)}×(10dL/5dL)×1(K^(+)のイオン価))

「無機リン濃度 3.64mg/dL」
(=(0.08(KH_(2)PO_(4)の質量)×1000)mg×(30.97(Pのモル質量)/136.09(KH_(2)PO_(4)のモル質量))/5dL) )

「カルシウムイオン濃度 3.2mEq/L」
(={(0.09(CaCl_(2)の質量)×1000)mg/111.0(CaCl_(2)のモル質量)}×(10dL/5dL)×2(Ca^(2+)のイオン価))
なお、X液に配合された塩化カルシウムが、塩化カルシウム水和物である旨の表示がないことから、文言どおり、塩化カルシウム無水物であるとして算出した。

「マグネシウムイオン濃度 4.6mEq/L」
(={(0.11(MgCl_(2)の質量)×1000)mg/95.21(MgCl_(2)のモル質量)}×(10dL/5dL)×2(Mg^(2+)のイオン価))
なお、X液に配合された塩化マグネシウムが、塩化マグネシウム水和物である旨の表示がないことから、文言どおり、塩化マグネシウム無水物であるとして算出した。

「炭酸水素イオン濃度 23.1mEq/L」
(={(0.97(NaHCO_(3)の質量)×1000)mg/83.98(NaHCO_(3)のモル質量)}×(10dL/5dL)×1(HCO_(3)^(-)のイオン価) )

「塩素イオン濃度 132.2 mEq/L」
(={(0.09(CaCl_(2)の質量)×1000)mg/111.0(CaCl_(2)のモル質量)}×(10dL/5dL)×2(Cl^(-)のイオン価))+(0.11(MgCl_(2)の質量)×1000)mg/95.21(MgCl_(2)のモル質量)}×(10dL/5dL)×2(Cl^(-)のイオン価))+3.58(NaClの質量)×1000)mg/58.44(NaClのモル質量×(10dL/5dL)×1(Cl^(-)のイオン価))+(0.07(KClの質量)×1000)mg/74.55(KClのモル質量)}×(10dL/5dL)×1(Cl^(-)のイオン価))

(2)新規性について
ア 訂正発明1について
(ア)対比
訂正発明1と引用発明1-1’との一致点及び相違点は、次のとおりである。

・一致点(1’’):ナトリウムイオン、塩素イオンおよび炭酸水素イオンを含む液(「訂正発明1のA液」と「引用発明1-1’のY液」が該当)を含むものであること 。
・一致点(2’’):ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオンおよびブドウ糖を含む液(「訂正発明1のB液」と「引用発明1-1’のX液」が該当)を含むものであること 。
・一致点(3’’):A液(Y液)およびB液(X液)の少なくとも一方がカリウムイオンを含有し(引用発明1-1’ではY液がカリウムイオンを含有)、A液(Y液)およびB液(X液)の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し(引用発明1-1’ではY液がリン酸イオンを含有)、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないこと(引用発明1-1’でもY液およびX液のいずれもが酢酸イオンを含有しない)。
・ 一致点(4’’):用時混合型の薬液であること。

・相違点(甲2-1-1’)
カリウムイオン濃度が、訂正発明1では4.0mEq/Lであるのに対し、引用発明1-1’では3.05mEq/Lである点。
・相違点(甲2-1-2’)
訂正発明1では、「A液とB液を合した混合液において、…、少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ことが発明特定事項とされているのに対し、引用発明1-1’では、それに対応する発明特定事項がない点。
・相違点(甲2-1-3’)
訂正発明1は「急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」であるのに対し、引用発明1-1’は「無菌配合製剤」である点。
・相違点(甲2-1-5’)
無機リン濃度が、訂正発明1では4.0mg/dLであるのに対し、引用発明1-1’では3.64mg/dLであると算出される点。
・相違点(甲2-1-6’)
カルシウムイオン濃度が、訂正発明1では2.5mEq/Lであるのに対し、引用発明1-1’では3.2mEq/Lであると算出される点。
・相違点(甲2-1-7’)
マグネシウムイオン濃度が、訂正発明1では1.0mEq/Lであるのに対し、引用発明1-1’では4.6mEq/Lであると算出される点。
・相違点(甲2-1-8’)
炭酸水素イオン濃度が、訂正発明1では32.0mEq/Lであるのに対し、引用発明1-1’では23.1mEq/Lであると算出される点。

(イ)判断
相違点(甲2-1-7’)について検討する。
引用発明1-1’に係る無菌配合製剤は、マグネシウムイオン濃度を4.6mEq/Lとするものである。
甲2には、引用発明1-1’に係る無菌配合製剤が、何に用いられる製剤であるかは具体的に記載されていないし、マグネシウムイオンを1.0mEq/Lまで低下し得ることについて、記載も示唆もないから、甲2には、マグネシウムイオン濃度について4.6mEq/Lと1.0mEq/Lとが、実質的に同等なものとして記載されているとすることはできない。
したがって、相違点(甲2-1-7’)は、実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲2に記載された発明ではない。

イ 訂正発明11?17について
訂正発明11?17は、薬液充填容器に係る発明であって、訂正発明11?17における薬液は、訂正発明1の薬液において更にカリウムイオンがA液とB液の両方に含まれていること等を特定したものであるから、訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
上記アのとおり、訂正発明1が甲2に記載された発明ではない以上、訂正発明11?17も甲2に記載された発明であるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、本件特許発明1、11?17と甲2の実施例1に記載された発明との相違点は、実質的な相違点ではないから、本件特許発明1、11?17は、甲2に記載された発明である旨を主張する(審判請求書33?43頁)。

しかしながら、訂正発明1、11?17と甲2の実施例1に記載された発明との相違点は、実質的な相違点であり、訂正発明1、11?17は、甲2に記載された発明であるとはいえないことは、上記ア及びイに説示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおり、訂正発明1、11?17は、甲2に記載された発明ではないから、請求人無効理由2のうち新規性欠如の理由により、訂正発明1、11?17に係る特許を無効とすることはできない。

(3)進歩性について
ア 訂正発明1について
(ア)対比
訂正発明1と引用発明1-1’との一致点及び相違点は、上記(2)ア(ア)のとおりである。

(イ)判断
a 相違点(甲2-1-7’)について
引用発明1-1’(実施例1の無菌配合製剤)は、摘記(甲2ク)の表1によれば、X液とY液の生理食塩水に対する浸透圧比が1.0に調整されており、X液にのみ含まれるマグネシウムイオンは、X液とY液の混合液における濃度は4.6mEq/Lと算出される。
甲2には、実施例1の無菌配合製剤が、何に用いられる製剤であるかは具体的に記載されていないし、マグネシウムイオン濃度を4.6mEq/Lから1.0mEq/Lまで低下し得ることについて記載も示唆もないから、甲2の記載に基づいて、実施例1におけるマグネシウムイオンを4.6分の1の1.0mEq/Lまで大幅に低下させる動機付けはない。

他方、甲2には、「本発明」の無菌配合製剤が有用である具体的な用途として、人工腎臓透析液、腹膜透析液等が挙げられており(摘記(甲2キ))、従来技術として記載されたサブラッドB(扶桑薬品工業株式会社)(摘記(甲2イ))は、甲10(表1)において、「II.急性血液浄化法の種類と原理」の項において、市販の重炭酸補充液として記載されたものであるところ、上記4(2)に説示した技術常識又は周知技術によれば、サブラッドBを含む市販されている透析液及び補充液におけるマグネシウムイオン濃度は「1.0?1.5mEq/L」であることは、技術常識又は周知技術であった。
しかしながら、上記技術常識又は周知技術を考慮しても、甲2には、薬液の用途として、「解毒剤、人工腎臓透析液、腹膜透析液、輸液剤、根管拡大剤(歯科用)、人工髄液、眼内灌流液、心臓灌流液、心筋保護液、腹腔洗浄液、臓器保存液等」(摘記(甲2ク))と記載されているのみで、引用発明1-1’ (実施例1の無菌配合製剤)が具体的に何に用いられるものかは記載されていないし、まして、「急性」の血液浄化用の薬液(透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液)に用いることは記載も示唆もないのであるから、引用発明1-1’(実施例1の無菌配合製剤)を、「急性」の血液浄化用の薬液として用いるために、上記技術常識又は周知技術である透析液及び補充液の組成を参照して、甲2の実施例1の無菌配合製剤におけるマグネシウムイオン濃度を、4.6分の1の濃度である1.0mEq/Lまで低下させる動機付けがあるとまではいえない。

したがって、当業者が、引用発明1-1’(実施例1の無菌配合製剤)において、マグネシウムイオン濃度を1.0mEq/Lとする構成(相違点(甲2-1-7’)に係る訂正発明1の構成)とすることを、容易に想到することができたとはいえない。

b 相違点(甲2-1-1’)?(甲2-1-3’)、(甲2-1-5’)、(甲2-1-6’)、(甲2-1-8’)について
上記aのとおり、当業者が、引用発明1-1’(実施例1の無菌配合製剤)のマグネシウムイオン濃度を1.0mEq/Lとすることを、容易に想到することができたとはいえない以上、それを前提として、カリウムイオン濃度を3.05mEq/Lから4.0mEq/Lへ、無機リン濃度を3.64mg/dLから4.0mg/dLへ、カルシウムイオン濃度を3.2mEq/Lから2.5mEq/Lへ、炭酸水素イオン濃度を、23.1mEq/Lから32.0mEq/Lへとして、「急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」とし、混合した後に、「少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ものとすることが容易であったともいえない。
甲4には、血清におけるカリウムイオン濃度が3.6?5.0mEq/lであり、P(リン)濃度が2.5?4.5mg/dlであると記載されていること(摘記(甲4))、及び、上記4(2)に説示した技術常識又は周知技術を考慮しても同様である。
したがって、当業者が、引用発明1-1’において、相違点(甲2-1-1’)?(甲2-1-3’)、(甲2-1-5’)、(甲2-1-6’)、(甲2-1-8’)に係る訂正発明1の構成とすることを、容易に想到することができたとはいえない。

c 訂正発明1の効果について
訂正発明1は、相違点(甲2-1-1’)?(甲2-1-3’)、(甲2-1-5’)?(甲2-1-8’)に係る構成を備えることにより、混合後も炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈殿の生成が長時間にわたって抑制されるので、長時間の血液浄化を伴う急性血液浄化療法に好適に用いられるという効果を奏する。

(ウ)したがって、訂正発明1は、甲2に記載された発明に基づいて、又は甲2に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 訂正発明2?17について
(ア)訂正発明2?5、8?10は、訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。また、訂正発明11?17の薬液は、訂正発明1の薬液において、更にカリウムイオンがA液とB液の両方に含まれていること等を特定したものであるから、訂正発明11?17は、訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、訂正発明1を当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、訂正発明2?5、8?10、11?17も、甲2に記載された発明に基づいて、又は甲2に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)訂正発明6、7は、それぞれ、A液1000mL中及びB液1000mL中に含まれる成分とその含有量を特定した「用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液」に係る発明であり、このA液とB液を合した混合液は、いずれも訂正発明1のカリウムイオン濃度、無機リン濃度、カルシウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度、塩素イオン濃度、炭酸水素イオン濃度となるものである。
したがって、訂正発明1において説示したものと同様の理由により、訂正発明6、7も、甲2に記載された発明に基づいて、又は甲2に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、仮に、本件特許発明1、11?17に新規性が生じるとしても、本件特許発明1?17と甲2の実施例1に記載された発明との相違点は、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内で行われる設計事項にすぎない旨を主張する(審判請求書43?45頁)。

しかしながら、甲2の実施例1に記載された発明において、訂正発明1?17との相違点に係る構成とすることを当業者が容易に想到することができたといえないことは、上記ア及びイに説示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおり、訂正発明1?17は、甲2に記載された発明に基づいて、又は甲2に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求人無効理由2のうち進歩性欠如の理由により、訂正発明1?17に係る特許を無効とすることはできない。

第10 むすび
以上のとおりであるから、請求人無効理由3(甲3に基づく進歩性欠如)には理由があり、本件訂正後の請求項1?17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液であり、
ナトリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含むB液を含み、そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し、A液およびB液の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し、かつA液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有せず、
A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.mEq/Lであり、
そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、用時混合型急性血液浄化用薬液。
【請求項2】
A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、リン酸イオン、ブドウ糖および水を含み、
前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項1に記載の薬液。
【請求項3】
A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水を含み、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、ブドウ糖および水を含む、請求項2に記載の薬液。
【請求項4】
A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含み、
前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項1に記載の薬液。
【請求項5】
A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび水を含み、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ブドウ糖および水を含む、請求項4に記載の薬液。
【請求項6】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液であり、
A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.640g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))5.377gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.598g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl_(2)・2H_(2)O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl_(2)・6H_(2)O)0.203g、リン酸二水素ナトリウム(NaH_(2)PO_(4)・2H_(2)O)0.403g、ブドウ糖(C_(6)H_(12)O_(6))2.00gおよび水が含まれ、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないことを特徴とする、用時混合型急性血液浄化用薬液。
【請求項7】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液であり、
A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.382g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))5.377g、リン酸水素二ナトリウム(Na_(2)HPO_(4)・12H_(2)O)0.925gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.706g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl_(2)・2H_(2)O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl_(2)・6H_(2)O)0.203g、ブドウ糖(C_(6)H_(12)O_(6))2.00gおよび水が含まれ、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないことを特徴とする、用時混合型急性血液浄化用薬液。
【請求項8】
A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液または補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、急性血液浄化療法開始から24時間にわたって、該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり、かつ、血漿中リン酸イオン濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない、請求項1?7のいずれかに記載の薬液。
【請求項9】
低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する、請求項1?8のいずれかに記載の薬液。
【請求項10】
酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である、請求項1?9のいずれかに記載の薬液。
【請求項11】
用時混合型急性血液浄化用の透析液、補充液、またはこれらに兼用可能な薬液が容器に充填された薬液充填容器であり、
前記容器は、隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、当該下室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含有するA液を充填し、当該上室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含有するB液を充填してなり、そしてA液およびB液の少なくとも一方にはさらにリン酸イオンが含有されており、かつA液およびB液のいずれにも酢酸イオンが含有されておらず、用時、上記隔壁を破壊もしくは剥離してA液とB液を混合するようにしており、
A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が4.0mEq/Lであり、無機リン濃度が4.0mg/dLであり、カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり、マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり、塩素イオン濃度が104?114.5mEq/Lであり、炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり、
そして少なくとも27時間にわたって、且つ、pHが8.32まで上昇した場合であっても、不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、
用時混合型急性血液浄化用薬液充填容器。
【請求項12】
上室の頂部に容器の係止手段を設けた、請求項11に記載の薬液充填容器。
【請求項13】
上室と下室の容積が同等となるように隔壁を設けた、請求項11または12に記載の薬液充填容器。
【請求項14】
容器が軟質の透明プラスチック製である、請求項11?13のいずれかに記載の薬液充填容器。
【請求項15】
A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを含む水溶液からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含む水溶液からなり、A液およびB液の少なくとも一方にリン酸イオンが含有されている、請求項11?14のいずれかに記載の薬液充填容器。
【請求項16】
薬液が低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制し、前記A液とB液を合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lである、請求項11?15のいずれかに記載の薬液充填容器。
【請求項17】
薬液が酢酸不耐症患者に適用可能であり、透析液及び補充液の兼用液である、請求項11?16のいずれかに記載の薬液充填容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-12-08 
結審通知日 2020-12-11 
審決日 2020-12-24 
出願番号 特願2009-536137(P2009-536137)
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (A61K)
P 1 113・ 536- ZAA (A61K)
P 1 113・ 113- ZAA (A61K)
P 1 113・ 121- ZAA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三上 晶子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 渕野 留香
藤原 浩子
登録日 2013-08-02 
登録番号 特許第5329420号(P5329420)
発明の名称 安定な炭酸水素イオン含有薬液  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
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