ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C12N |
---|---|
管理番号 | 1373001 |
審判番号 | 不服2017-13795 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-15 |
確定日 | 2021-04-22 |
事件の表示 | 特願2016-117740「配列操作のための系、方法および最適化ガイド組成物のエンジニアリング」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月15日出願公開、特開2016-165307〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年12月12日(パリ条約による優先権主張 2012年12月12日 米国、2013年1月2日 米国、2013年1月30日 米国、2013年2月25日 米国、2013年3月15日 米国、2013年3月28日 米国、2013年4月20日 米国、2013年5月6日 米国、2013年5月28日 米国、2013年6月17日 米国、なお、2013年3月15日と2013年6月17日については、それぞれ同日付の異なる2つの基礎出願に基づく優先権が主張された。)を国際出願日とする特許出願である特願2015-547573号の一部を、平成28年6月14日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年 8月 3日付け:拒絶理由通知書 平成29年 2月 8日 :意見書、誤訳訂正書の提出 平成29年 4月28日付け:拒絶査定 平成29年 9月15日 :審判請求書の提出 平成29年11月 1日 :審判請求書を対象とする手続補正書、手続 補足書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1-21に係る発明は、平成29年2月8日付け誤訳訂正書による誤訳訂正後の特許請求の範囲の請求項1-21に記載された事項により特定されるものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 エンジニアリングされた、天然に存在しないクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、 a)ガイド配列、tracrRNA及びtracrメイト配列を含むCRISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイド配列が、真核細胞中のポリヌクレオチド遺伝子座中の1つ以上の標的配列にハイブリダイズする、第1の調節エレメント、 b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント、 c)組換えテンプレート を含む1つ以上のベクターを含み、 成分(a)、(b)及び(c)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、前記系が、前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列とともに発現される1つ以上の核局在化シグナル(複数の場合も有り)(NLS(複数の場合も有り))をさらに含み、 それによって、前記ガイド配列が、真核細胞中の前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を標的とし、前記Cas9タンパク質が、前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を開裂し、それによって、前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座の配列が、改変される、 CRISPR-Casベクター系。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。 1 この出願の請求項1-21に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた下記の先願1の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。 2 この出願の請求項1-8、12-21に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である下記の引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 先願1 :PCT/US2013/073307号(国際公開第2014 /089290号、特表2016-502840号公報) 引用文献2:Science, Aug 2012, Vol.337, p.816-821, Supplementary Materials 第4 理由1(特許法第29条の2)について 1 先願1当初明細書等の記載 原査定で引用された、本願の第1優先日(2012年12月12日)より前の2012年12月6日をパリ条約による第1優先権主張日(以下、「先願1第1優先権主張日」という。)とする外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、本願の出願後に国際公開がされた先願1(PCT/US2013/073307号(国際公開第2014/089290号、特表2016-502840号公報))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願1当初明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。また、それとともに、これらの事項と同様の事項は先願1の第1優先権主張の基礎となる米国出願(61/734,256)にも記載されている。なお、英文であるから、訳文として先願1の国内公表公報である特表2016-502840号公報の記載事項及び摘記箇所を示す(下線は当審で付した)。 (1-1)「【請求項13】 真核細胞または胚において染色体配列を修飾するための方法であって、 a)真核細胞または胚に、(i)少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、または少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする核酸、(ii)少なくとも1つのガイドRNAまたは少なくとも1つのガイドRNAをコードするDNA、および任意に、(iii)少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを導入し、 b)真核細胞または胚を、各ガイドRNAが、RNA誘導型エンドヌクレアーゼを染色体配列中の標的部位へ誘導し、そこでRNA誘導型エンドヌクレアーゼが、該標的部位にて二本鎖の切断を誘導し、該二本鎖の切断が、染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程により修復されるように培養することを含む、 方法。 【請求項14】 RNA誘導型エンドヌクレアーゼがCas9タンパク質に由来する、請求項13に記載の方法。」 (1-2)「【0004】 ・・・ 他の態様において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする核酸配列は、プロモーター調節配列に操作可能に連結されていてよく、要すれば、ベクターの一部であってよい。他の態様において、プロモーター調節配列に操作可能に連結されていてよいRNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする配列を含むベクターはまた、プロモーター調節配列に操作可能に連結されていてよいガイドRNAをコードする配列も含み得る。」 (1-3)「【0014】 一態様において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、II型CRISPR/Casシステム由来である。特定の態様において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、Cas9タンパク質に由来する。」 (1-4)「【0022】 任意の態様において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、ガイドRNAを含むタンパク質-RNA複合体の一部であり得る。ガイドRNAは、RNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用して、エンドヌクレアーゼを、特定の標的部位(ガイドRNA塩基対の5’末端にある特定のプロトスペーサー配列)へ誘導する。」 (1-5)「【0060】 ・・・ 任意のドナーポリヌクレオチドが存在する態様において、ドナーポリヌクレオチドにおけるドナー配列は、二本鎖の切断の修復中に標的部位において染色体配列で置換されるか、または染色体配列中に挿入され得る。例えば、ドナー配列が、染色体配列中の標的部位の上流および下流配列のそれぞれと実質的に同一の配列を有する上流および下流配列に挟まれている態様において、該ドナー配列は、相同組み換え修復過程により仲介される修復中に標的部位において染色体配列で置換されるか、または染色体配列に挿入され得る。」 (1-6)「【0066】 (b)ガイドRNA 本方法はまた、細胞または胚に、少なくとも1つのガイドRNAまたは少なくとも1つのガイドRNAをコードするDNAを導入することも含む。ガイドRNAは、RNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用して、エンドヌクレアーゼを、染色体配列中の特定のプロトスペーサー配列を有するガイドRNA塩基対の5’末端である特定の標的部位へ導く。 【0067】 各ガイドRNAは、3つの領域:染色体配列中の標的部位に相補的である5’末端における第一の領域、ステムループ構造を形成する第二の内部領域、および本質的に一本鎖のままである第三の3’領域を含む。各ガイドRNAの第一の領域は、各ガイドRNAが融合タンパク質を特定の標的部位へ誘導するように異なっている。各ガイドRNAの第二および第三の領域は、全てのガイドRNAで同じであってよい。」 (1-7)「【0085】 標的染色体配列と配列類似性を有する上流および下流配列を含むドナーポリヌクレオチドは、直鎖または環状であり得る。ドナーポリヌクレオチドが環状である態様において、それは、ベクターの一部であり得る。例えば、ベクターは、プラスミドベクターであり得る。」 (1-8)「【0145】 実施例3:ゲノム修飾をモニターするためのドナーポリヌクレオチドの調製 PPP1R12CのN末端へのGFPタンパク質の特異的挿入を、Cas9仲介性ゲノム修飾をモニターするために用いた。相同組換えによる挿入を仲介するために、ドナーポリヌクレオチドを調製した。AAVS1-GFP DNA ドナーは、5’(1185bp)のAAVS1遺伝子座の相同アーム、RNAスプライシング受容体、ターボGFPコーディング配列、3’転写ターミネーター、および3’(1217bp)のAAVS1遺伝子座の相同アームを含んでいた。表5は、RNAスプライシング受容体の配列および3’転写ターミネーターが続くGFPコーディング配列を示す。プラスミドDNAを、GenEluteエンドトキシンフリープラスミドMaxiprep Kit(Sigma)を用いて調製した。 ・・・ 【0147】 特異的遺伝子導入は、PPP1R12Cの最初の107アミノ酸とターボGFPの融合タンパク質をもたらし得る。予期される融合タンパク質は、PPP1R12Cの第一エクソンと設計されたスプライス受容体の間のRNAスプライシングからPPP1R12Cの最初の107アミノ酸残基(網掛け灰色部分)を含む(表6参照)。」 (1-9)「【0149】 実施例4:Cas9仲介性特異的導入 トランスフェクションをヒトK562細胞で行った。K562細胞株をAmerican Type Culture Collection (ATCC)より入手し、10%FBSおよび2mMのL-グルタミンを添加したイスコフ改変ダルベッコ培地中で増殖させた。全ての培地および添加物は、Sigma-Aldrichより入手した。培養物をトランスフェクションの1日前に(1mL当たり約50万個の細胞で)分割した。細胞を、T-016プログラムを用いてNucleofector (Lonza)のNucleofector ソリューションV(Lonza)を用いてトランスフェクションした。各ヌクレオフェクション(nucleofection)溶液は、約60万個の細胞を含んだ。トランスフェクション処理を表7に詳述する。細胞を、ヌクレオフェクション直後に37℃および5% CO_(2)で増殖させた。 【0150】 【0151】 蛍光活性化細胞選別(FACS)をトランスフェクションの4日後に行った。FACSデータを図4に示す。4つの実験処理群(A-D)のそれぞれで検出されたGFPの割合は、対照処理群(E、F)よりも多く、ドナー配列の挿入および融合タンパク質の発現が確認された。」 (1-10)「【0152】 実施例5:標的組み換えのPCR確認 ゲノムDNAを、トランスフェクションの12日後にGenElute Mammalian Genomic DNA Miniprep Kit (Sigma)を用いてトランスフェクション細胞から抽出した。その後、ゲノムDNAを、AAVS1-GFPプラスミドドナーの5’相同アームの外側に位置するフォワードプライマーおよびGFPの5’領域に位置するリバースプライマーを用いて、PCR増幅させた。フォワードプライマーは、5’-CCACTCTGTGCTGACCACTCT-3’(配列番号18)であり、リバースプライマーは、5’-GCGGCACTCGATCTCCA-3’(配列番号19)であった。ジャンクションPCRから予期されるフラグメントサイズは、1388bpであった。増幅を、以下のサイクル条件を用いてJumpStart Taq ReadyMix (Sigma)を用いて行った:最初の変性のために98℃で2分間;98℃で15秒間、62℃で30秒間、および72℃で1分30秒を35サイクル;そして、最後の伸張を72℃で5分間。PCR産物を1%アガロースゲル上で分離した。 【0153】 アンチリバースキャップアナログ(ARCA)を用いて転写されたCas9 mRNA(10μg)、0.3nmolのプレアニーリングされたcrRNA-tracrRNAの二本鎖、および10μgのAAVS1-GFP プラスミドDNAをトランスフェクトされた細胞は、予期されたサイズのPCR産物を示した(図5のレーンAを参照のこと)。」 (1-11)「 」 (1-12)「 」 2 引用発明 上記(1-1)?(1-3)、(1-6)、(1-7)にその技術思想が記載されているのみならず、上記(1-9)、(1-11)において実験的な確認もなされているから、先願1の当初明細書等には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「(i)少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのII型Cas9タンパク質をコードする核酸に操作可能に連結されたプロモーター調節配列を含むベクター、 (ii)真核細胞中の染色体配列中の標的部位に相補的である5’末端における第一の領域、ステムループ構造を形成する第二の内部領域、および本質的に一本鎖のままである第三の3’領域を含む少なくとも1つのガイドRNAをコードするDNAに操作可能に連結されたプロモーター調節配列を含むベクター、および、 (iii)少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを含むベクター、 を含むベクター系であって、前記ガイドRNAが、II型Cas9タンパク質を真核細胞中の染色体配列中の標的部位へ誘導し、そこで該II型Cas9タンパク質が、該標的部位にて染色体DNA二本鎖の切断を誘導し、該二本鎖の切断が、染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程により修復される、ベクター系。」 3 対比・判断 (1)本願発明の成分(a)について ア 「ガイド配列」について 本願発明の「ガイド配列」に関して、本願明細書【0073】には、「一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するために標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である」と記載されているところ、上記(1-4)、(1-6)の記載からみて、引用発明1の「真核細胞中の染色体配列中の標的部位に相補的である5’末端における第一の領域」は、ステムループ構造を形成する第二の内部領域、および本質的に一本鎖のままである第三の3’領域とともにガイドRNAを形成し、該ガイドRNAが、Cas9タンパク質と複合体を形成することで、Cas9を特定の染色体配列中の標的部位へ誘導するものであるから、本願発明の「ガイド配列」に相当する。 イ 「tracrRNA及びtracrメイト配列」について 本願発明の「tracrRNA及びtracrメイト配列」に関して、本願明細書【0017】には、「CRISPR複合体は、前記ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している」、【0015】には、「一部の実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9酵素である」、【0076】には、「一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列(当審注:「tracrメイト配列」の誤記と認める。引用部分について以下同じ。)は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する」と記載されている。 これらの記載からみて、本願発明の「tracrRNA」と「tracrメイト配列」は、互いにハイブリダイズして、「ガイド配列」や「Cas9」とともに、「CRISPR複合体」を形成するものであり、「tracrRNA」と「tracrメイト配列」が単一転写物内に含有される場合は、互いにハイブリダイゼーションすることでヘアピン構造を形成するものといえる。 一方、上記(1-4)、(1-6)の記載からみて、引用発明1の「ステムループ構造を形成する第二の内部領域、および本質的に一本鎖のままである第三の3’領域」は、「真核細胞中の染色体配列中の標的部位に相補的である5’末端における第一の領域」(上記アで述べたとおり本願発明の「ガイド配列」に相当)とともに「Cas9タンパク質」と複合体を形成するものであり、「第二の内部領域」が含む「ステムループ構造」は、本願発明における「tracrRNA」と「tracrメイト配列」が単一転写物内に含有される場合にループ形成配列を介して形成するヘアピン構造に相当するといえる。 よって、引用発明1の「ステムループ構造を形成する第二の内部領域、および本質的に一本鎖のままである第三の3’領域」は、本願発明の「tracrRNA及びtracrメイト配列」を含む、すなわち、「tracrRNA」、「tracrメイト配列」及びループ形成配列とからなる配列に相当する。 ウ 「調節エレメント」について 本願発明の「調節エレメント」に関して、本願明細書【0010】には「用語「調節エレメント」は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、および他の発現制御エレメント(例えば、転写終結シグナル、例えば、ポリアデニル化シグナルおよびポリU配列)を含むものとする」と記載されていることから、引用発明1の「プロモーター調節配列」は、本願発明の「調節エレメント」に相当する。 エ 上記ア?ウのとおりであるから、引用発明1の(ii)は、本願発明の成分(a)を含むベクターであるといえる。 (2)本願発明の成分(b)について 本願明細書【0071】の「1つ以上の核局在化配列(NLS)」の記載、及びNLSとはNuclear Localization Signalの略であるという技術常識に照らすと、本願発明の「(NLS(複数の場合も有り))」は、「核局在化シグナル(複数の場合も有り)」の同義語を括弧書きとして添えたものであることが明らかであり、引用発明1の「少なくとも1つの核局在化シグナルを含む」に相当するから、引用発明1の(i)は、本願発明の成分(b)を含むベクターであって、本願発明の「前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列とともに発現される1つ以上の核局在化シグナル(複数の場合も有り)(NLS(複数の場合も有り))をさらに含み」を満たすものである。 (3)本願発明の成分(c)について 本願発明の「組換えテンプレート」に関して、本願明細書【0077】には「一部の実施形態において、組換えテンプレートは、例えば、CRISPR複合体の一部としてのCRISPR酵素によりニック形成または開裂される標的配列内またはその付近での相同組換えにおけるテンプレートとして機能するように設計される」と記載されている。 ここで、上記(1-5)の記載から、引用発明1の「ドナーポリペプチド」は、相同組換え修復過程により仲介される修復中に標的部位において染色体配列で置換されるか、または染色体配列に挿入され得るものといえる。 よって、引用発明1の(iii)は、本願発明の成分(c)を含むベクターに相当する。 (4)本願発明は、「前記ガイド配列が、真核細胞中の前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を標的とし、前記Cas9タンパク質が、前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を開裂し、それによって、前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座の配列が、改変される」ものであるが、引用発明1も「前記ガイドRNAが、II型Cas9タンパク質を真核細胞中の染色体配列中の標的部位へ誘導し、そこで該II型Cas9タンパク質が、該標的部位にて染色体DNA二本鎖の切断を誘導し、該二本鎖の切断が、染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程により修復される」のであるから、この点においても両者は相違しない。 (5)本願発明は、「エンジニアリングされた、天然に存在しないクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系」であるところ、引用発明1は、「少なくとも1つの核局在化シグナル」を含むなど、天然に存在するII型Cas9タンパク質を改変することで得られたベクターを構成成分とするベクター系であるから、本願発明の「エンジニアリングされた、天然に存在しない」ベクター系に相当する。 また、「CRISPR」は、「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(クラスター化等間隔短鎖回分リピート)」の略称であり、「Cas」は、「CRISPR-associated(CRISPR関連)」の略称であるから、本願発明の「(CRISPR-Cas)」は、「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)」の同義語を括弧書きとして添えたものであることが明らかであるところ、上記(1-3)のとおり、引用発明1の「II型Cas9タンパク質」は、「II型CRISPR/Casシステム」に由来するものであるから、引用発明1は、「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系」であるので、この点においても両者は相違しない。 (6)小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1と同一である。 4 審判請求人の主張について 審判請求人が平成29年11月1日付け手続補正書による補正後の審判請求書においてする主張と、それに対する合議体の判断は次のとおりである。 (1)審判請求人の主張 先願1当初明細書等の実施例のうち、実施例4の処理Dのみが、すべての成分がDNAであって、CRISPR/Casベクター系であるといえるが、真核細胞中の標的とされるポリヌクレオチド遺伝子座を開裂し、改変したことは開示されていないから、本願発明は、先願1に記載された発明と同一でも実質同一でもない。 すなわち、審査官は、実施例4の処理Dの結果である上記(1-11)の図4DにおけるGFPシグナルの増加をもって、標的ポリヌクレオチドの開裂及び改変を認定したが、当該増加はわずかなものにすぎず、当該開裂や改変が起こったことを結論づけることはできない。むしろ、標的ポリヌクレオチドへのドナー配列の組み込みを検証するための実験である実施例5においては、実施例4の処理A(ベクター系ではない)では、組み込みが確認されたものの(上記(1-12)の図5のレーンA)、処理Dに関してはネガティブな結果であった(同レーンD)。したがって、実施例4及び5を併せ参照した当業者は、先願1当初明細書等は標的ポリヌクレオチドを開裂及び改変できるCRISPR/Casベクター系を開示しないと結論づけるはずである。 (2)判断 ア 先願1の実施例4について (ア)実施例4のドナーポリヌクレオチドについて 上記(1-9)の表7には、実施例4において、「AAVS1-GFP プラスミドDNA」がドナーポリヌクレオチドとして用いられたことが記載されている。 そして、上記(1-8)の記載から、当該ドナーポリヌクレオチドは、5’(1185bp)のAAVS1遺伝子座の相同アーム、RNAスプライシング受容体、ターボGFPコーディング配列、3’転写ターミネーター、および3’(1217bp)のAAVS1遺伝子座の相同アームという構造のものであり、染色体配列中の標的部位であるAAVS1遺伝子座への特異的遺伝子導入(上記審判請求人の主張にいう「標的ポリヌクレオチドへのドナー配列の組み込み」に相当する。)により、PPP1R12Cの第一エクソンとスプライス受容体の間のRNAスプライシングが生じ、その結果、PPP1R12Cの最初の107アミノ酸とターボGFPの融合タンパク質がもたらされることでGFPが発現することが理解できる。すなわち、当該ドナーポリヌクレオチドは、単に細胞内や核内に存在するだけでGFPが発現するものでなく、真核細胞内の染色体配列中の標的ポリヌクレオチドへのドナー配列の組み込みが生じることで、はじめてGFPが発現するものといえる。 (イ)実施例4の結果について 上記(1-9)の表7に「処理D」として記載された「Cas9プラスミドDNA」、「U-6キメラRNAプラスミドDNA」、「AAVS1-GFPプラスミドDNA」は、それぞれ引用発明1の「(i)少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのII型Cas9タンパク質をコードする核酸に操作可能に連結されたプロモーター調節配列を含むベクター」、「(ii)真核細胞中の染色体配列中の標的部位に相補的である5’末端における第一の領域、ステムループ構造を形成する第二の内部領域、および本質的に一本鎖のままである第三の3’領域を含む少なくとも1つのガイドRNAをコードするDNAに操作可能に連結されたプロモーター調節配列を含むベクター」、「(iii)少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを含むベクター」に相当するものである。そして、これを用いた実験結果について、先願1当初明細書等には、「4つの実験処理群(A-D)のそれぞれで検出されたGFPの割合は、対照処理群(E、F)よりも多く、ドナー配列の挿入および融合タンパク質の発現が確認された。」(上記(1-9))と記載されている。 念のため、実験データを詳細に検討すると、上述のベクターをヒトK562細胞にトランスフェクションし、その4日後に行ったGFPの発現割合を示すFACSデータが図4Dとして示され、その値は「7.47%」であった。ここで、表7の「処理F」は、ベクターをトランスフェクションしないものであることから、図4Fに示される「0.159%」は、この実験系のバックグラウンド値といえる。したがって、「0.159%」を「7.47%」から引いた値である「7.311%」が、処理Dを行うことによりもたらされた結果といえる。 他方、表7の「処理E」は、「AAVS1-GFPプラスミドDNA」のみを用いたものであるから、その結果は、「Cas9プラスミドDNA」、「U-6キメラRNAプラスミドDNA」に依存しない標的ポリヌクレオチドへのドナー配列の組み込みを反映したものといえる。そして、図4Eに示された「1.92%」からバックグラウンド値である「0.159%」引いた「1.761%」が、処理Eを行うことによりもたらされた結果といえる。 ここで、「処理D」と「処理E」の結果を比較すると、「処理D」では「処理E」の4倍以上の値が得られており、その違いは「Cas9プラスミドDNA」、「U-6キメラRNAプラスミドDNA」を用いることによりもたらされたものであるといえるから、「処理D」においては、「Cas9プラスミドDNA」、「U-6キメラRNAプラスミドDNA」により、標的ポリヌクレオチドの切断とドナー配列の組み込みが促進されたと考えるのが妥当である。これは、上述の(1-9)の記載のとおりである。 このとおり、実施例4の実験方法および結果に照らすと、審判請求人の実施例4に関する主張は失当であることが明らかである。 イ 先願1の実施例5について 上記(1-10)の実施例5では、標的ポリヌクレオチドへのドナー配列の組み込みを確認するためにPCRを行っており、その結果が図5として示されている。そして、図5からは、上記「処理D」を行った場合に、該組み込みが行われたこと示すPCR産物が得られたことを確認することはできない。 しかし、実施例5ではトランスフェクションの12日後にゲノムDNAを細胞から抽出したのに対して、実施例4ではトランスフェクションをしてから4日後に分析を行うなど、実施例4と実施例5は異なるサンプルを用いた結果であるから、実施例5の結果をもって、実施例4の結果が直ちに否定されるものではない。 ウ 先願1当初明細書等全体の記載について 上記「2 引用発明」で述べたとおり、先願1当初明細書等には、引用発明1が開示されており、上記アで述べたとおり、実施例4は、その一態様において標的ポリヌクレオチドの切断とドナー配列の組み込みが生じることを示している。 したがって、実施例5の結果においてこれらと整合しない点があったとしても、そのことをもって、引用発明1が先願1当初明細書等に開示されていないとまではいえない。 エ 上記ア?ウのとおり、審判請求人の主張は採用することができない。 5 まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明1と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。 第5 理由2(特許法第29条第2項)について 1 引用文献の記載 (1)引用文献2 原査定で引用された、本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、引用文献2(Science, Aug 2012, Vol.337, p.816-821, Supplementary Materials)は、「細菌の獲得免疫におけるデュアルRNA誘導性のプログラム可能なDNAエンドヌクレアーゼ」と題する学術論文であって、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。 (1-1)「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系は、侵入する核酸の抑制を誘導するために、CRISPR RNA(crRNA)を利用するウイルスやプラスミドに対する獲得免疫を、細菌や古細菌に提供するものである。ここで私たちは、この系の一部分において、成熟crRNAが、トランス活性化crRNA(tracrRNA)と塩基対を組むことで、標的DNAに二本鎖切断を導入するようにCRISPR関連タンパク質Cas9を誘導する2つのRNAからなる構造を形成することを示す。・・・このデュアル-tracrRNA:crRNAは、一本鎖RNAキメラとして設計されたときも、配列特異的なCas9による二本鎖DNA切断を誘導する。私たちの研究は、部位特異的DNA切断のためにデュアル-RNAを使用するエンドヌクレアーゼのファミリーを明らかにし、RNAでプログラム可能なゲノム編集のためにこのシステムを利用する可能性を強調する。」(要約) (1-2)「ここで私たちは、II型の系において、Cas9タンパク質が、標的二本鎖DNAを切断するために、活性化tracrRNAと標的指向crRNAの間の塩基対構造を必要とする酵素ファミリーを構成するものであることを示す。位置特異的切断は、標的であるプロトスペーサーDNAとcrRNAの間の塩基対を形成する相補性と、標的DNAの領域に並置される短いモチーフ[プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる]により定められる場所で生じる。」(第816頁中欄第25行?第35行) (1-3)「私たちは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む2つのバージョンのキメラRNAを設計した。・・・プラスミドDNAを用いた切断アッセイにおいて、長い方のキメラRNAは、切断tracrRNA:crRNA複合体を用いた場合に観察された場合と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導できることを観察によって確認した。」(第820頁左欄第5行?第18行) (1-4)「図5 Cas9は、tracrRNAとcrRNAの特徴を組み合わせた単一のエンジニアリングされたRNA分子を使用して、プログラムすることができる。(A)(上)II型CRISPR/Casシステムにおいて、Cas9は、活性化しているtracrRNA及び標的化crRNAにより形成される2つのRNA構造により誘導されて、部位特異的に標的となった二本鎖DNAを切断する。(下)crRNAの3’末端をtracrRNAの5’末端に融合することにより生成されたキメラRNA。 」 (1-5)「ジンク-フィンガーヌクレアーゼや転写活性化様エフェクターヌクレアーゼは、ゲノムを操作するために設計された人工酵素として、大きな関心を集めた。私たちは、遺伝子ターゲティングとゲノム編集への応用に向けた大きな潜在能力をもたらし得るRNAによりプログラムされたCas9に基づく代替的な手法を提案する。」(第820頁右欄第2行?第9行) (1-6)「プラスミドDNA切断アッセイ ・・・ 未処理の、あるいは制限酵素処理により鎖状化されたプラスミドDNA(300ng(?8nM))は、精製されたCas9タンパク質(50-500nM)とtracrRNA:crRNA複合体(50-500nM, 1:1)とともに、Cas9プラスミド切断緩衝液(20mM HEPES pH7.5, 150mM KCL, 0.5mM DTT, 0.1mM EDTA)中で、10mM MgCl_(2)を加えて、あるいは加えずに、37℃で60分間インキュベートした。」(SUPPLEMENTARY MATERIALS AND METHODS) (2)周知例1 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、Gene Therapy, 2008, Vol.15, p.1463-1468は、ゲノム編集技術の1つであるジンク-フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)に関する総説であって、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。 (2-1)「ZFN誘導性切断は、2つの異なる様式の遺伝子編集に用いることができる。・・・通常、遺伝子ターゲティングとして考えられる配列置換様式を実施するために、標的に対して高い相同性を有し特定の所望の置換配列を有するドナーDNAが、ZFNと一緒に送達される。相同的組換えが、このドナーをテンプレートとして利用すれば、標的において置換が導入される。」(第1463頁右欄最終段落) (2-2)「公表された報告は、種々の生物の内因性染色体における、成功したZFN誘導性の14遺伝子のターゲティングについて述べている。哺乳類細胞で6遺伝子、ゼブラフィッシュで3遺伝子、ショウジョウバエで3遺伝子、線虫と植物細胞で1遺伝子ずつである。」(第1464頁右欄第1行?第5行) (2-3)「彼らはまた、1つのZFNと1コピーのドナーDNAを有するコンビネーションベクターを製造した。これにより、同じ細胞に感染させなければならない区別されたウイルスの数が減少する。」(第1465頁左欄第29行?第32行) (2-4)「このケースでは両方のZFNは、CMVプロモーターによりその発現が駆動される1つのバイシストロニックベクターにより送達された。」(第1465頁左欄第42行?第44行) (3)周知例2 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、Methods, 2011, Vol.53, p.339-346には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。 (3-1)「相同組換えのより高い効率が、ジンク-フィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)に基づく技術を用いることにより達成される。ZFNは、あらかじめ定められたゲノムの位置において、DNA二本鎖切断(DSBs)を引き起こす分子はさみである。・・この酵素的に誘導されるDSBは、短い挿入や欠失につながり、誤りが生じやすい非相同末端結合(NHEJ)か、外因性ドナーDNAと標的位置の間の相同組換えに基づく相同性指向修復(HDR)により修復され得る。・・・典型的には、ZFN誘導性のDSBは、相同組換えの効率を数千倍に高める。全体では、ZFNテクノロジーは、ショウジョウバエ、植物、ゼブラフィッシュ、ラット、そして、マウスあるいはヒトの多能性幹細胞を含め10以上の生物にうまく適用された。」(第339頁右欄最終段落?第340頁左欄下から3行) (4)周知例3 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、Nature Biotechnology, 2011, Vol.29, p.143-148には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。 (4-1)「これらの結果は、TALEヌクレアーゼキメラ(TALENs)の選択的ゲノム切断のため位置特異的エンドヌクレアーゼとしての潜在的な利用に関する関心に拍車をかけた。ここでは私たちは、内因性遺伝子の効率的な修復を仲介できるTALENの開発を報告する。まず、私たちは、標的とされたエピソーマルレポーターと内因性遺伝子の制御を通して、哺乳類の細胞の環境におけるTALE活性を示す」(第143頁右欄第8行?第13行) (4-2)「次に、これらのTALENsは、BglI制限サイトをコードする46bpの挿入配列を標的位置に挿入するように設計されたドナーDNAフラグメントと共にK562細胞に導入された。それに続くPCRとBglI消化は、16%ものアレイが挿入配列を有しているという効果的な編集を明らかにした(図5)。これの結果は、ここに記載されるTALEN構築物が相同性指向修復による正確なゲノム編集を誘導することを示す。」(第146頁右欄最終行?第147頁左欄第5行) (5)周知例4 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、Nucleic Acids Research, 2011, Vol.39, e82には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。 (5-1)「結果として、TALエフェクターは、DNAターゲティングツールとして大きな関心を集めた。特に、私たちと他のグループは、ゲノム編集のためにインビボにおけるDNA二本鎖切断(DSBs)を生成するため、TALエフェクターをFokIヌクレアーゼの触媒ドメインと融合できることを示した。・・・DSBsはほぼ全ての細胞において、しばしば短い挿入や欠失をもたらし遺伝子破壊に利用され得る非相同末端結合(NHEJ)と、遺伝子の挿入や置換のために用いられ得る相同組換え(HR)という、高度に保存された2つの過程のうちのいずれかにより修復される。」(第2頁左欄第5行?第19行) (5-2)「私たちは、このソフトウェアにより標的化されプラスミドを用いて組み立てたTALENが酵母DNA切断アッセイにおいて活性であり、ヒト細胞とシロイヌナズナのプロトプラストにおける遺伝子ターゲティングに効果的であることを示す。」(第2頁右欄第35行?第40行) (5-3)「ヒトHPRT1遺伝子を標的とする一組のTALENを、XhoIとAflIIを用いて、哺乳動物発現ベクターpCDNA3.1(-)(インビトロジェン)にサブクローニングした。これらの酵素はpTAL3あるいはpTAL4からTALEN全体を切り出して、コード配列をCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターの制御下に置いたものである。得られたプラスミドは、製造者が提供するプロトコルにしたがってリポフェクトアミン2000(インビトロジェン)を用いてトランスフェクトすることで、HEK293T細胞に導入した。」(第6頁左欄下から第14行?下から第6行) (6)周知例5 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第2012/012738号には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから、訳文として当該刊行物の国内公表公報である特表2013-537410号公報の記載事項及び摘記箇所を示す。 (6-1)「【請求項1】 細胞中の少なくとも1つの内因性染色体配列を編集する方法であって、 a)前記細胞内に、(i)少なくとも1つの標的化エンドヌクレアーゼであって、前記染色体配列中の標的切断部位に二本鎖切断を導入することができる、標的化エンドヌクレアーゼ、または前記標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸、および(ii)前記標的切断部位の少なくとも1つの側の染色体配列に対する実質的な配列同一性を有する第1の部分を含む少なくとも1つの一本鎖核酸を導入すること;ならびに b)前記標的化エンドヌクレアーゼによって導入される前記二本鎖切断が、前記染色体配列が前記一本鎖核酸の配列と交換され、それによって前記染色体配列を編集する相同性指向プロセスによって修復される条件下に、前記細胞を維持すること を含む、方法。 ・・・ 【請求項13】 前記標的化エンドヌクレアーゼが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼ、部位特異的ヌクレアーゼ、または人工標的DNA二本鎖切断誘導剤である、請求項1に記載の方法。」 (6-2)「【0051】 ・・・概して、標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸は、プロモーター調節領域に操作可能に結合されることになる。」 (6-3)「【0064】 (d)細胞 本方法は、上記に記載の標的化エンドヌクレアーゼ分子(複数可)および核酸(複数可)を細胞内に導入することを含む。様々な細胞が、本方法における使用に適している。概して、細胞は、真核細胞または単細胞真核生物であろう。」 (7)周知例6 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、特表2001-503971号には、以下の事項が記載されている。 (7-1)「注目する遺伝子は大腸菌β-ガラクトシダーゼ・リポーター遺伝子からなり、その発現は、X-Gal(4-クロロ-5-ブロモ-3-インドリル-β-D-グラクトピラノシド)での染色により容易に検出できる。これは、その3'部分に真核細胞核局在シグナルをコードする配列を与える。組換えβ-ガラクトシダーゼの核局在により、Xgalによってもまた検出可能な宿主細胞の内生β-ガラクトシダーゼとの交差反応により生ずるバックグラウンドノイズの問題の排除が可能となり、それゆえに固定されたプラスミドからの酵素活性の特異的検出が可能となる。(第23頁下から2行?第24頁第6行) (8)周知例7 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、特開平10-80274号には、以下の事項が記載されている。 (8-1)「【請求項1】 核移行シグナル(NLS)遺伝子およびテトラサイクリン・トランスアクチベーター(tTA)遺伝子を含んでなる組み換え遺伝子。」 (9)周知例8 同じく本願の第1優先日前に頒布された刊行物である、特表2002-538842号には、以下の事項が記載されている。 (9-1)「 【0147】 (核局在化シグナルの導入はtetR媒介抑制を促進する) tetR分布が主に細胞質で観察されたので、核局在シグナル(NLS)をtetR遺伝子の3’末端に導入し、核への導入を促進し、そして結果的にtetR媒介の転写抑制を強化した。」 2 引用発明 上記(1-1)?(1-4)、(1-6)(特に、図5A下図)(以下、第5において(1-1)などという場合は、全て第5の1において摘記した(1-1)などを意味する。)から、引用文献2では、CRISPR-Cas系を構成するtracrRNAとcrRNAに基づいて設計されたキメラRNAとII型Cas9タンパク質を用いたCRISPR-Cas系により、緩衝液中で標的配列が開裂されることが実験により確認されている。よって、引用文献2には、エンジニアリングされた、天然に存在しないCRISPR-Cas系が記載されているといえるから、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「エンジニアリングされた、天然に存在しないクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)系であって、 a)標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含むキメラRNAであって、前記標的認識配列が緩衝液中で標的配列にハイブリダイズするキメラRNAと、 b)II型Cas9タンパク質、 を含み、 それによって、前記Cas9タンパク質が、前記標的配列を開裂する、 CRISPR-Cas系。」 3 対比 本願発明の「ガイド配列」に関して、本願明細書【0073】には、「一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するために標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である」と記載されている。 また、前記第4の3(1)イに示したとおり、本願発明の「tracrRNA」と「tracrメイト配列」は、互いにハイブリダイズして、「ガイド配列」や「Cas9」とともに、「CRISPR複合体」を形成するものであり、「tracrRNA」と「tracrメイト配列」が単一転写物内に含有される場合は、互いにハイブリダイゼーションすることでヘアピン構造を形成するものといえる。 一方、引用発明2のキメラRNAも、「標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造」を含むものであって、Cas9タンパク質と複合体を形成し、「標的認識配列」が「標的配列にハイブリダイズする」ことで「前記標的配列の開裂する」ものである。 よって、引用発明2の「a)標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含むキメラRNA」であって、「前記標的認識配列」が「標的配列にハイブリダイズするキメラRNA」は、本願発明の「a)ガイド配列、tracrRNA及びtracrメイト配列を含むCRISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチド」であって、「前記ガイド配列」が、「標的配列にハイブリダイズする」RISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチドに相当する。 以上のことから、本願発明と引用発明2の一致点と相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「エンジニアリングされた、天然に存在しないクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)系であって、 a)ガイド配列、tracrRNA及びtracrメイト配列を含むCRISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチドであって、前記ガイド配列が、標的配列にハイブリダイズするCRISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチドと、 b)II型Cas9タンパク質、 を含み、 それによって、前記Cas9タンパク質が、前記標的配列を開裂する、 CRISPR-Cas系。」 【相違点1】 本願発明は、ガイド配列が、「真核細胞中のポリヌクレオチド遺伝子座中の1つ以上の標的配列にハイブリダイズ」し、「前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列とともに発現される1つ以上の核局在化シグナル(複数の場合も有り)(NLS(複数の場合も有り))をさらに含」むことによって、ガイド配列が、「真核細胞中の前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座」を標的とし、Cas9タンパク質がこれを開裂するのに対して、引用発明2では、標的配列が緩衝液中に存在し、Cas9タンパク質が核局在化シグナルを有していない点。 【相違点2】 本願発明は、「組換えテンプレート」を含み、「前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座の配列が、改変される」のに対して、引用発明2では、組換えテンプレートを含まず、標的配列を開裂するにとどまる点。 【相違点3】 本願発明は、CRISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチド配列を「コードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメント」と、II型Cas9タンパク質を「コードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント」を含む「1つ以上のベクターを含み、成分(a)、(b)及び(c)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置」する、CRISPR-Cas「ベクター」系であるのに対して、引用発明2では、「キメラRNA」と「Cas9タンパク質」を用いるCRISPR-Cas系である点。 4 判断 (1)相違点1について 上記(1-1)、(1-5)のとおり、引用文献2には、CRISPR/Cas系が遺伝子ターゲティングとゲノム編集への応用に向けた大きな潜在能力をもたらし得ることに加えて、CRISPR/Cas系に基づく手法が、ゲノムを操作するために設計された人工酵素であるジンク-フィンガーヌクレアーゼや転写活性化様エフェクターヌクレアーゼの代替方法となり得ることも記載されている。 ここで、上記(2-2)、(3-1)、(4-1)、(5-2)、(6-3)のとおり、本願第1優先日当時、ゲノム編集の主たる対象は真核細胞であって、ジンク-フィンガーヌクレアーゼや転写活性化様エフェクターヌクレアーゼが真核細胞中の標的DNA、すなわち、核内のゲノムを切断するものであることは周知であるから、引用発明2のCRISPR-Cas系も真核細胞中のゲノムに対して機能させようと試みることは当業者にとって、ごく自然な発想にすぎない。 そして、それを具現化するにあたって、真核細胞の核内のゲノムにCRISPR-Cas系を到達させるために、タンパク質を核内に移行させるための常套手段(上記(7-1)、(8-1)、(9-1)参照)である核局在化シグナルをCas9タンパク質に付加することは、当業者が格別の創意工夫なくなし得たことである。 (2)相違点2について ゲノム編集とは標的遺伝子を改変してゲノム情報を書き換えることであって、ヌクレアーゼによるDNA切断に引き続き、組換えテンプレートによる相同組換えを行うことは一般的な手法にすぎないから(上記(2-1)、(3-1)、(4-2)、(5-1)参照)、上記(1-1)、(1-5)のとおり、引用文献2に引用発明2のCRISPR-Cas系のゲノム編集への応用が示唆されている以上、組換えテンプレートと併用することが当業者にとって発明力を要するほどのことでないことは明らかである。 (3)相違点3について 細胞の内部で所望のタンパク質や核酸を機能させようとする場合に、それらを発現するベクターを用いることは常套手段である。上記(1)、(2)のとおり、引用発明2のCRISPR-Cas系を組換えテンプレートとともに真核細胞中のゲノムに対して機能させようとすることが十分に動機づけられる以上、それらを構成する成分、すなわちCas9タンパク質、キメラRNA及び組換えテンプレートをベクター系とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。実際、本願優先日前から、ゲノム編集のための成分をベクター系で細胞に導入することが一般的であった(上記(2-3)、(2-4)、(5-3)、(6-2))。 (4)小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献2に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 審判請求人の主張について 審判請求人が平成29年11月1日付け手続補正書による補正後の審判請求書においてする主張と、それに対する合議体の判断は次のとおりである。 (1)審判請求人の主張 ア 引用文献2の開示について 引用文献2は、インビトロでの単純なDNA開裂を開示するにすぎず、CRISPR-Casタンパク質-ガイドRNA複合体が真核細胞中で形成若しくは維持され得るか否かに関する情報を含まない。 引用文献2はまた、真核細胞中での使用に重要なエレメントを開示も示唆もしていない。例えば、引用文献2は、核局在化シグナル(NLS)を含むCRISPR-Cas系、真核細胞中のCRISPR-Cas系ポリヌクレオチド又はCas9タンパク質の発現に関する調節エレメント、該調節エレメント及びCRISPR-Cas系ヌクレオチド配列を含むベクター系を開示も示唆もしていない。 イ 成功の合理的な予測について 真核細胞と原核細胞は、遺伝子発現機構、タンパク質折りたたみ、RNAi経路の存在、RNAによる細胞毒性、細胞区画化、クロマチン構造、Mg^(2+)濃度、リボヌクレアーゼ等の点で相違していること、RNA成分及びタンパク質成分を含んだtargetron系が研究の16年後にすら真核細胞において日常的に機能するように適合させられなかったこと等から、CRISPR-Cas9が真核細胞中での使用に成功するという合理的な予測をもつことはできなかった。 ウ 同時代の証拠について 以下の同時代の証拠は、当業者が成功するという予測をもたなかったことを示す。なお、審判請求人は、平成29年11月1日付けで審判請求書を補正すると同時に手続補足書として参考資料1?15を提出したが、「同時代の証拠」のそれぞれがいずれの参考資料に基づくものであるか明示していない。 (ウ-1)Dr. Dana Carroll 「真核細胞中のこの系の活性とはどうなのか?ジンクフィンガー及びTALEモジュールは、両方が、クロマチンの状況においてそれらの標的を結合する天然の転写因子に由来する。これは、CRISPR成分には当てはまらない。Cas9がクロマチン標的に対して効率的に機能するのか又は必要とされるDNA-RNAハイブリッドが、その状況において安定化され得るのかは、何ら保証がない。この構造は、リボヌクレアーゼ H及び/又はFEN1(その両方ともが、DNA複製の間にRNAプライマーの除去において機能する)による、RNA加水分解の基質であり得る。真核生物においてこの系を適用しようと試みるだけで、これらの懸念事項に取り組むことになるであろう。」 (ウ-2)Dr. Doudna(引用文献2の著者の一人) 「我々の2012年の論文は、大きな成功を収めたが、問題があった。我々は、CRISPR/Cas9が真核生物(植物及び動物細胞)において機能するかどうか確信が持てなかった」 (ウ-3)Jinek(引用文献2の著者の一人) 「しかし、このような細菌の系が真核細胞において機能するか否かは既知ではなかった。」 (ウ-4)Melissa Pandika 「Doudnaは、CRISPRをヒト細胞において機能させるにあたって『多くの挫折』を経験した。しかし彼女は、成功したならば、CRISPRが『極めて影響の大きな発見』、そして場合によっては強力ですらある遺伝子治療技術になるであろうことを知っていた。」 (2)判断 ア 審判請求人の主張ア、イについて 審判請求人の主張は、CRISPR-Cas9の真核細胞への適用が成功するという合理的な予測がなかったという点にとどまるものである。上記4で述べたとおり、引用発明2のCRISPR-Cas系を真核細胞中のゲノムに対して機能させようと試みることに十分な動機付けがある以上、単にその成功に合理的な予測がなかったという点のみをもって、当業者がそのような試みを行うことを妨げるような阻害要因があったということはできない。 また、引用文献2に、核局在化シグナルや、調節エレメント、ベクター系が開示されていないとしても、上記4で述べたとおり、引用発明2のCRISPR-Cas系を真核細胞中のゲノムに対して機能させようと試みることには十分な動機付けがある以上、それを具現化するにあたって、周知技術を適用して、核局在化シグナルをCas9タンパク質に付与することや、キメラRNAをコードするDNAや組換えテンプレートを、Cas9タンパク質をコードするDNAと同じ又は異なるベクターに導入させることでベクター系とすることは、当業者が特段の創意工夫なくなし得ることである。そして、実際にそのような周知技術を適用するに際し格別の技術的困難性があったと認めるに足る根拠は見いだせない。 イ 審判請求人の主張ウについて 審判請求人が平成29年11月1日に手続補足書として提出した参考資料3は上記(ウ-1)の根拠資料と認められるところ、当該資料の最終段落には「CRISPR系が次の次の標的切断試薬を提供するかはまだ分からないが、試してみる価値が明らかにある」(訳文は当審が作成した。)と記載されている。当該記載は、むしろ、CRISPR-Cas9を真核細胞に適用しようとすることに動機付けがあることを示している。また、審判請求人が挙げた上記(ウ-1)の記載についても、CRISPR-Cas9が真核生物において機能するかについて保証がないという指摘にとどまるものである。 また、上記(ウ-2)、(ウ-3)についても、その根拠となる資料が不明ではあるものの、いずれもCRISPR-Cas9が真核生物において機能するか確信が持てなかった、あるいは、機能するか否かは既知ではなかったという指摘にとどまるものである。 次に、上記(ウ-4)については、同手続補足書として提出した参考資料12がその根拠資料と認められる。そして、審判請求人が挙げる「Doudnaは、CRISPRをヒト細胞において機能させるにあたって『多くの挫折』を経験した。しかし彼女は、成功したならば、CRISPRが『極めて影響の大きな発見』、そして場合によっては強力ですらある遺伝子治療技術になるであろうことを知っていた」という点についても、「彼女は、成功したならば、CRISPRが『極めて影響の大きな発見』、そして場合によっては強力ですらある遺伝子治療技術になるであろうことを知っていた」ということは、むしろ、CRISPR-Cas9を真核細胞への適用を試みることに動機付けがあったことを示しているといえる。 以上のように、審判請求人が同時代の証拠として挙げるものは、いずれも引用発明2のCRISPR-Cas系が真核細胞中のゲノムで機能することの合理的な予測がないという指摘にとどまるものであり、上記アでも述べたとおり、引用発明2のCRISPR-Cas系を真核細胞中のゲノムに対して機能させようと試みることに十分な動機付けがある以上、単にその成功に合理的な予測がなかったという点のみをもって、当業者がそのような試みを行うことを妨げるような阻害要因があったということはできない。 ウ 以下に示す参考文献1、2は、発行日は本願第1優先日よりも後ではあるものの、その投稿日が本願第1優先日よりも前、あるいはほぼ同時期であり、本願出願人ら以外の独立した複数の研究グループが投稿した論文である。そして、これらの論文や先願1出願当初明細書等には、核局在化シグナルを付加したCas9タンパク質を用いたCRISPR-Cas9ベクター系により、真核細胞の核内での標的配列の切断を行ったことが記載されている。このことは、引用発明2のCRISPR-Cas系を真核細胞中のゲノムに対して機能させようと試みることに十分な動機付けがあり、仮に、本願優先日前に、CRISPR-Cas9系が真核生物において機能することを合理的に予測することができなかったとしても、それが阻害要因となるものではなく、さらに、核局在化シグナルを付加したCas9タンパク質を用いたCRISPR-Cas9ベクター系を用いることが、CRISPR-Cas系を真核細胞に適用する際の手法として、当業者がごく普通に採用するものであったことを示すものといえる。そして、本願発明に、それを超える格別の創意工夫が見いだせない以上、進歩性を否定するよりほかない。 参考文献1:Science, Vol.339, p.823-826(投稿日:2012年10月26日、 発行日:2013年1月3日) 参考文献2:eLife, Vol.2, e00471, p.1-9(投稿日:2012年12月15日、 発行日:2013年1月29日) エ 上記ア?ウのとおりであるから、審判請求人の主張は採用することができない。 6 まとめ よって、出願人の主張はいずれも採用できず、本願発明は、引用文献2に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定、及び、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2018-08-30 |
結審通知日 | 2018-09-03 |
審決日 | 2018-09-14 |
出願番号 | 特願2016-117740(P2016-117740) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
Z
(C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 飯室 里美 |
特許庁審判長 |
長井 啓子 |
特許庁審判官 |
山中 隆幸 小暮 道明 |
発明の名称 | 配列操作のための系、方法および最適化ガイド組成物のエンジニアリング |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |