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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1373052
審判番号 不服2020-4724  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-07 
確定日 2021-04-08 
事件の表示 特願2018-501462号「冷凍装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日国際公開、WO2017/145278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2016年2月24日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年6月21日付け :拒絶理由通知書
令和1年8月23日 :意見書の提出
令和2年1月10日付け :拒絶査定(原査定)
令和2年4月 7日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を冷媒配管で接続して冷媒を循環させる冷媒回路を備えた冷凍装置であって、
前記冷媒は、HFO系冷媒を少なくとも10重量%以上と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含み、
前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が0.1重量%から1.0重量%である酸捕捉剤が配合されている冷凍装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。
理由1.(新規性)この出願の請求項1、2、6、8?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.(進歩性)この出願の請求項1、2、6、8?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び引用文献3?7に記載された事項に基いて、それぞれ、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1. 特開2015-14395号公報
2. 特開2015-61926号公報
3. 特開2011-52032号公報
4. 国際公開第2010/029704号
5. 国際公開第2016/017277号
6. 特開2015-117923号公報
7. 特開2013-76533号公報

第4 引用文献
1 引用文献1の記載事項、引用発明
(1) 原査定の拒絶の理由で引用された刊行物である特開2015-14395号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は参考のため、当審で付与した。以下同様。)。
「【請求項1】
圧縮機、室外熱交換器、膨張機構及び室内熱交換器と、
R32冷媒又はR32が50重量%より多く含まれている混合冷媒と、
ポリオールエステル油及び酸捕捉剤を有する冷凍機油とを備え、
前記酸捕捉剤はアルキルグリシジルエステル化合物及びシクログリシジルエーテル化合物を有し、
前記酸捕捉剤におけるアルキルグリシジルエステル化合物の割合は10?97%である空気調和機。」
「【背景技術】
【0002】
ルームエアコン用の冷媒は、オゾン層保護のためR22から代替冷媒へと移行され、現在は主にR410Aが使用されている。しかし、R410Aは地球温暖化係数(以下「GWP」という。)が2088と高く、地球環境に及ぼす影響を低減するために、地球温暖化係数がR410Aの1/3程度であるジフルオロメタン(以下「R32」という。)へ移行することが検討されている。
【0003】
ところで、冷媒の種類によって、相溶する冷凍機油は異なる。冷凍機油は圧縮機中に貯留され、圧縮機が起動すると各摺動部分に給油され、一部は冷媒とともに圧縮機の外へ吐出される。このとき、冷凍機油が冷媒に溶けづらいと、冷凍サイクル中の低温部で冷凍機油が冷媒から分離し、圧縮機に冷凍機油が戻らず、圧縮機内の冷凍機油の量が減少する。
【0004】
このような問題を避けるため、HFC(Hydro Fluoro Carbons)系冷媒に対しては、一般に冷媒と相溶性の良いポリオールエステル油(以下「POE油」という。)やポリビニルエーテル油(以下「PVE油」という。)が冷凍機油として用いられている。
【0005】
ここで、POE油を用いる場合、冷凍サイクル中に水分が混入すると、POE油は加水分解を起こし、劣化する。そのため、POE油を用いる場合、POE油の加水分解を抑制するために、エポキシ化合物などの酸捕捉剤が添加される。」
「【0011】
本発明の空気調和機は、圧縮機、室外熱交換器、膨張機構及び室内熱交換器と、R32冷媒又はR32が50重量%より多く含まれている混合冷媒と、ポリオールエステル油と酸捕捉剤を有する冷凍機油とを備え、酸捕捉剤はアルキルグリシジルエステル化合物及びシクログリシジルエーテル化合物を有し、酸捕捉剤におけるアルキルグリシジルエステル化合物の割合は10?97%である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷凍機油の加水分解を抑制する空気調和機を提供することができる。」
「【0020】
本実施例では、冷媒としてR32を用い、冷凍機油としてR32と相溶性があり、潤滑性に優れるPOE油を用いている。
【0021】
POE油は、潤滑性能に優れるが、水分により分解し脂肪酸を生成する特性がある。脂肪酸を生成すると金属表面の腐食を引き起こし、又、生成した脂肪酸を触媒として冷凍機油の劣化が進行するおそれがある。
【0022】
さらに、R32は極性が高いため、冷媒としてR32を用いると、R410Aと比較して持ち込み水分量が多くなる。また、冷媒として用いられてきたR410Aに比べて、R32はR410Aよりも比熱比が高いため、圧縮機1の吐出温度が上昇しやすく、圧縮機1の吐出温度が100℃を超える可能性がある。高圧チャンバ方式の圧縮機の場合、圧縮されて高温となった冷媒が圧縮機の中に充満する。つまり、冷媒としてR32を用いると、持ち込み水分量が多くなり、又、圧縮機の高温化により冷凍機油の加水分解が促進されるため、R410A使用時よりも冷凍機油が劣化しやすくなる。
【0023】
酸捕捉剤としては、エポキシ化合物、カルボジイミド等があるが、本実施例ではエポキシ化合物を用いている。エポキシ化合物は、水分及び酸を捕捉し、安定な物質に変える特性がある。また、エポキシ化合物は冷凍機油が劣化して生成する酸のほかに、冷凍サイクル中に存在する水分を捕捉する効果があるため、モータに使用する絶縁フィルム等を保護する効果もある。
【0024】
本実施例は、酸捕捉剤としてアルキルグリシジルエステル化合物とシクログリジルエーテル化合物を用いている。アルキルグリシジルエステル化合物は、化学式(1)に示す構造のもの(式中のR^(1)は炭素数4?9のアルキル基である)を用い、本実施例のシクログリシジルエーテル化合物は、化学式(2)に示す構造のものを用いている。」
「【0038】
そして、実施例1?3、比較例1?7及び従来例1?2に、酸捕捉剤として化学式(1)に示すアルキルグリシジルエステル化合物、化学式(2)に示すシクログリシジルエーテル化合物を冷凍機油に添加した。表1は、冷凍機油に対するアルキルグリシジルエステル化合物とシクログリシジルエーテル化合物の添加割合である。
【0039】


「【0051】
次に、R410A用冷凍機油に添加していた添加剤を用い、添加量を増やして試験を行なった結果について説明する。比較例3は、比較例1に対して、アルキルグリシジルエステル化合物の添加量を増やし、冷凍機油全重量におけるアルキルグリシジルエステル化合物の割合を2wt%にしたものである。比較例3の酸捕捉剤は、酸捕捉剤残存率が50%を下回っているが、比較例1と異なり、酸価の上昇は抑制できている。しかし、表2に示すとおり、油中金属では銅イオンの検出が認められ、銅触媒が影響を受けていることが推測される。アルキルグリシジルエステル化合物は過剰に添加すると圧縮機や、冷凍サイクル中の金属材料に影響を及ぼし、特に銅イオンなどの成分を油中に溶解させやすくなるからである。
【0052】
比較例4は、比較例3に対して、アルキルグリシジルエステル化合物の添加量をさらに増やし、冷凍機油全重量におけるアルキルグリシジルエステル化合物の割合を5wt%にしたものである。比較例4の酸捕捉剤の酸捕捉残存率は比較例3よりも多いが、50%以下であり、油中金属では銅イオンの検出量も増加している。
【0053】
比較例5は、比較例2に対して、シクログリシジルエーテル化合物の添加量を増やし、冷凍機油全重量におけるシクログリシジルエーテル化合物の割合を2wt%にしたものである。酸捕捉剤残存率は100%であり、全く減少していないが、酸価が上昇する結果となった。つまり、酸捕捉剤が冷凍機油の加水分解を抑制できていない。」
「【0066】
本実施例の冷媒は、R32が50重量%より多く含まれている混合冷媒で構成してもよい。例えば、R32及びR125からなる冷媒や、R32及びR1234yfからなる冷媒や、R32、R1234yf及びR1234zeからなる冷媒を用いることができる。また、冷凍機油の加水分解を防ぐことが困難な他の冷媒にも用いることができる。」
(2) 上記(1)の表1の実施例1?3についての記載事項から、冷凍機油に対する酸捕捉剤としての、アルキルグリシジルエステル化合物とシクログリシジルエーテル化合物の添加量は、0.52wt%(0.05+0.47)、0.63wt%(0.3+0.33)、0.70wt%(0.45+0.25)であることがわかる。
(3) 上記(1)及び(2)の事項を総合すれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「圧縮機、室外熱交換器、膨張機構及び室内熱交換器と、
R32が50重量%より多く含まれている、R32及びR1234yfからなる混合冷媒、又はR32、R1234yf及びR1234zeからなる混合冷媒と、
ポリオールエステル油及び酸捕捉剤を有する冷凍機油とを備え、
前記酸捕捉剤はアルキルグリシジルエステル化合物及びシクログリシジルエーテル化合物を有し、
冷凍機油に対する酸捕捉剤としての、アルキルグリシジルエステル化合物とシクログリシジルエーテル化合物の添加量は、0.52wt%、0.63wt%、0.70wt%であり、
前記酸捕捉剤におけるアルキルグリシジルエステル化合物の割合は10?97%である空気調和機。」
2 引用文献2の記載事項
(1) 原査定の拒絶の理由で引用された特開2015-61926号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
圧縮機、凝縮器、膨張機構および蒸発器を備える冷凍装置であって、
R32を少なくとも60重量%含む冷媒、および、前記圧縮機の潤滑用の冷凍機油を用い、
前記冷凍機油は、添加量が1.0重量%から5.0重量%である酸捕捉剤が配合されており、
前記冷媒は、HFO系冷媒を含む、
冷凍装置。」
「【請求項9】
前記HFO系冷媒は、少なくともHFO-1234yfまたはHFO-1234ze(E)である、
請求項1から8のいずれか1項に記載の冷凍装置。
【請求項10】
前記冷媒の地球温暖化係数は、500以下である、
請求項1から9のいずれか1項に記載の冷凍装置。」
「【0002】
従来、空気調和装置等の冷凍装置に用いられる冷凍機油には、冷媒の分解により発生するフッ酸等の酸による冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制するための物質が含有されている。例えば、特許文献1(特開2001-226690号公報)に開示される冷凍機油には、酸捕捉剤が少なくとも0.05重量%添加されている。
【0003】
また、従来、空気調和装置等の冷凍装置には、テトラフルオロエタンであるR134aや、混合冷媒であるR410AおよびR407C等のフッ素系冷媒が使用されている。しかし、これらのフッ素系冷媒は、塩素を含まないのでオゾン層を破壊する効果は小さいが、温室効果による地球温暖化への影響が大きい。そこで、近年、地球温暖化係数が小さいフッ素系冷媒として、分子式CH_(2)F_(2)で表されるR32が注目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、R32は、R410AおよびR407C等の他のフッ素系冷媒と比べて、安定性が低く、高温環境下にさらされたり、空気および水が混入したりすることで、分解しやすく、分解によるフッ酸等の酸の発生量も多い。冷媒の分解により発生する酸は、冷凍装置に用いられる冷凍機油を劣化させ、膨張弁等の部品を腐食させるおそれがある。また、特許文献1(特開2001-226690号公報)に基づいて、R32に酸捕捉剤を0.05重量%添加しても、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制することができない。なお、膨張弁としては、真鍮製およびステンレス鋼製の膨張弁があるが、耐腐食性の高いステンレス鋼製の膨張弁を用いても、膨張弁の腐食を十分に抑制することができない。
【0005】
また、R32は、他のフッ素系冷媒と比べて、冷凍機油との相溶性が悪く、冷媒と油との分離が起こりやすい。冷媒と油との分離が起こりやすいと、空気調和装置を構成する圧縮機の摺動部に潤滑性の低い冷媒のみが供給されることにより、圧縮機の摺動部が異常発熱して、冷媒の分解による酸の発生が促進される。
【0006】
本発明の目的は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制し、信頼性の高い冷凍装置を提供することである。
【0007】
本発明の第1観点に係る冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、膨張機構および蒸発器を備える。冷凍装置に混入する空気量は、充填冷媒量に対して500ppm以下に制御されている。冷凍装置に混入する水分量は、充填冷媒量に対して300ppm以下に制御されている。冷凍装置の吐出ガス温度は、120℃以下に制御されている。充填冷媒量は、冷凍装置の冷媒回路に充填される冷媒の量である。吐出ガス温度は、圧縮機から吐出される高圧冷媒の温度である。冷凍装置は、R32を含む冷媒、および、圧縮機の潤滑用の冷凍機油を用いる。冷凍機油は、添加量が1.0重量%から5.0重量%である酸捕捉剤が配合されている。
【0008】
第1観点に係る冷凍装置は、分子式CH_(2)F_(2)で表されるR32を含む冷媒を用いる。R32を含む冷媒は、R32単体、または、R32を含む混合冷媒である。このようなR32系冷媒は、R410AおよびR407C等のフッ素系冷媒と比べて、地球温暖化係数が小さいが、分解によるフッ酸等の酸の発生量が多い。そのため、R32系冷媒は、冷凍装置の長時間の稼働による冷凍機油の劣化、および、冷凍装置が備える膨張弁等の部品の腐食の原因となりやすい。しかし、冷凍機油に含まれる酸捕捉剤は、冷媒の分解により発生する酸を捕捉する効果を有する。また、酸捕捉剤の添加量が5.0重量%以下に制限されているので、過剰な酸捕捉剤による冷凍機油の潤滑性能の低下が抑制される。従って、第1観点に係る冷凍装置は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制することができる。」
「【0031】
本実施形態では、空気調和装置1の冷媒回路を循環する冷媒として、フッ素系冷媒であるR32系冷媒が用いられる。R32系冷媒は、R32を含む冷媒である。具体的には、R32系冷媒は、R32単体、または、R32を含む混合冷媒である。R32は、分子式CH_(2)F_(2)で表される。R32を含む混合冷媒は、例えば、ポリオールエステル油等のエステル系冷凍機油を含む混合冷媒、および、R32を少なくとも60重量%含む混合冷媒である。また、R32を含む混合冷媒は、HFO-1234yfおよびHFO-1234ze(E)等のHFO系冷媒を含むことが好ましい。混合冷媒に含まれるR32の地球温暖化係数は、好ましくは1000以下であり、より好ましくは500以下であり、さらに好ましくは300以下であり、特に好ましくは100以下である。
【0032】
R32系冷媒は、他のR410AおよびR407C等のフッ素系冷媒に比べて、地球温暖化に与える影響が小さいが、安定性が低いため、分解によるフッ酸等の酸の発生量が多い。冷媒の分解により発生する酸は、圧縮機2で使用される冷凍機油を劣化させ、膨張機構5の膨張弁等の部品を腐食させる。」
「【0039】
次に、R32冷媒の分解が発生しやすい、空気調和装置1の運転モードの例を3つ挙げる。第1の例は、圧縮機2から吐出される高圧のガス冷媒の温度が、例えば120℃を超える運転である。この時、圧縮機2内部の摺動部の温度が、局部的に600℃以上になることがあり、この場合、R32冷媒が熱分解するおそれがある。第2の例は、空気調和装置1の設置および保守等の施工時に、冷媒回路に誤って空気が多量に混入してしまった後に行われる運転である。この場合、冷媒回路内の空気に含まれる酸素によって、R32が分解するおそれがある。第3の例は、空気調和装置1の起動時に液冷媒が圧縮機2に戻り、圧縮機2の内部で冷凍機油と液冷媒とが分離し、液冷媒が圧縮機2の摺動部に供給された状態で行われる運転である。この場合、液冷媒によって摺動部の正常な摺動が阻害され、その結果、摺動部の異常な発熱によってR32が熱分解するおそれがある。
【0040】
そこで、空気調和装置1で使用される冷凍機油は、酸捕捉剤を1.0重量%以上含んでいる。冷凍機油は、圧縮機2の摺動部における摩耗および焼き付きの防止のために用いられる潤滑油である。圧縮機2の摺動部は、例えば、圧縮機2がスクロール圧縮機の場合、2つのスクロール間のスラスト摺動面、および、クランク軸と軸受との間の摺動面等である。酸捕捉剤は、R32系冷媒の分解によって発生するフッ酸等の酸を捕捉するために用いられる添加剤である。」
「【0043】
酸捕捉剤は、R32系冷媒の分解によって発生したフッ酸等の酸と反応することにより、酸による冷凍機油の劣化を抑制するために用いられる添加剤である。酸捕捉剤は、冷凍機油に1.0重量%以上含まれている。酸捕捉剤は、例えば、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、テンペン系化合物である。酸捕捉剤の具体例としては、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エポキシ化シクロヘキシルカルビノール、ジ(アルキルフェニル)カルボジイミド、β-ピネン等が挙げられる。」
「【0054】
<実施例> 本実施形態における冷凍装置が用いる冷凍機油の試験結果について説明する。冷凍機油の試験では、製品実機試験を行って、冷凍機油が冷凍装置に与える影響を分析した。
【0055】
試験では、冷凍機油に配合される酸捕捉剤の添加量を変更して、冷凍装置を稼働させた。その後、冷凍装置の膨張機構の真鍮製の膨張弁の状態を確認した。実機試験の結果を次の表1に示す。試験条件は、圧縮機から吐出される冷媒ガスの温度が120℃であり、冷凍装置の運転時間が2000時間であり、冷凍装置の運転圧力が適宜に設定された値であった。冷凍機油の基油として、ポリビニルエーテル油を用いた。冷凍機油に、0.3重量%から5.0重量%の酸捕捉剤を添加した。試験後の膨張弁をエネルギー分散型X線装置で元素分析して、冷媒分解物であるフッ素の量を確認した。
【0056】
表1において、冷媒としてR410Aを用いた試験では、酸捕捉剤の添加量が0.3重量%の場合においても、フッ素の検出量が5.2重量%であり、膨張弁の腐食は確認されなかった。冷媒としてR32を用いた試験では、酸捕捉剤の添加量が0.3wt%である「R32-I」のケースにおいては、フッ素の検出量が16.7重量%であり、膨張弁の腐食が確認された。一方、酸捕捉剤の添加量が1.0重量%から5.0重量%である「R32-II」、「R32-III」、「R32-IV」および「R32-V」のケースにおいては、フッ素の検出量が6.0重量%以下であり、膨張弁の腐食は確認されなかった。
【0057】

【0058】
表1より、R32を冷媒として使用する冷凍装置では、冷凍機油の酸捕捉剤の添加量が1.0重量%以上の場合に、膨張弁の腐食が抑制された。」
(2) 上記(1)の事項を総合すれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「圧縮機、凝縮器、膨張機構および蒸発器を備える冷凍装置であって、
R32を少なくとも60重量%含む冷媒、および、前記圧縮機の潤滑用の冷凍機油を用い、
前記冷凍機油は、添加量が1.0重量%から5.0重量%である酸捕捉剤が配合されており、
前記冷媒は、少なくともHFO-1234yfまたはHFO-1234ze(E)であるHFO系冷媒を含む、
冷凍装置。」
3 引用文献3の記載事項
(1) 原査定の拒絶の理由で引用された特開2011-52032号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン冷媒単独もしくは該冷媒とジフルオロメタンとの混合冷媒を吸入圧縮する密閉型電動圧縮機と、前記圧縮機から吐出された冷媒を放熱する熱交換器と、前記熱交換器から流出する冷媒を減圧する減圧器と、前記減圧器にて減圧された冷媒を吸熱させる熱交換器を介し循環する冷凍サイクルにおいて、密閉型電動圧縮機の冷凍機油として、該冷媒との二層分離が-40から80℃の範囲で起こらない冷凍機油を用いたことを特徴とする冷凍空調装置。」
「【請求項3】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単独もしくは該冷媒とジフルオロメタンとの混合冷媒を吸入圧縮する密閉型電動圧縮機と、前記圧縮機から吐出された冷媒を放熱する熱交換器と、前記熱交換器から流出する冷媒を減圧する減圧器と、前記減圧器にて減圧された冷媒を吸熱させる熱交換器を介し循環する冷凍サイクルにおいて、密閉型電動圧縮機の冷凍機油として、次の一般式(式中、Rは炭素数5?12のアルキル基を表す。)のいずれかで示されるポリオールエステル油を用いたことを特徴とする冷凍空調装置。

【請求項4】
請求項3記載の冷凍空調装置において、該冷凍機油に酸捕捉剤としてエポキシ環を有する化合物もしくはビス(2,6-イソプロピルフェニル)カルボジイミドを1.0重量%以下配合したことを特徴とする冷凍空調装置。」
(2) 上記(1)の記載事項から、以下の事項と認めることができる。
「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンとの混合冷媒を用いた冷凍空調装置において、冷凍機油に酸捕捉剤としてエポキシ環を有する化合物を1.0重量%以下配合すること。」(以下「引3事項」という。)
4 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2010/029704号(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、地球温暖化係数の低い2,3,3,3‐テトラフルオロ‐1‐プロペン(HFO‐1234yf、CH_(2)=CF-CF_(3))を冷媒として使用する冷凍機油に関する。
[0002] 従来、冷凍機、空調機、冷蔵庫等には、フッ素と塩素を構成元素とするクロロフルオロカーボン(CFC)、例えばR‐11(トリクロロモノフルオロメタン)、R‐12(ジクロロジフルオロメタン)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)であるR‐22(モノクロロジフルオロメタン)等が、冷媒として使用されてきたが、最近のオゾン層破壊問題に関連し、国際的にその生産及び使用が規制され、現在では、塩素を含有しない、例えば、ジフルオロメタン(R‐32)、テトラフルオロエタン(R‐134またはR‐134a)などの新しいハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒に転換されてきている。しかし、これらのHFCは、オゾン層を破壊しないものの温室効果が大きく、近年問題となっている地球温暖化の観点からは必ずしも優れた冷媒ではない。
[0003] そこで、最近、2,3,3,3‐テトラフルオロ‐1‐プロペン(以下、「HFO‐1234yf」という)が、オゾン層を破壊することなく、地球温暖化への影響も前記の塩素系あるいは非塩素系フッ化炭化水素に比べて非常に低いことから、注目されている。上記フロン系冷媒で培われた圧縮機、凝縮器、絞り装置、蒸発器等からなるカーエアコン、ルームエアコン、産業用冷凍機等の冷却効率の高い冷凍システムに、このHFO‐1234yfを冷媒として採用することが検討されており、この冷媒と相溶性のある冷凍機油の選定が課題となっている。
特許文献1および2には、フッ素化アルケン(フッ素置換オレフィン)を冷媒として用いる場合においても、ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒用に通常用いられてるポリオールエステル類、ポリアルキレングリコール類およびエステル化ポリアルキレングリコール類等の潤滑剤を使用できることが開示されている。しかしながら、冷凍機油に必須の性能である相溶性、溶解性、冷媒混合状態での潤滑性等は、冷媒の種類により異なるので、フッ素化アルカンであるHFC冷媒で良好であったからといって、そのままフッ素化アルケンのHFO‐1234yf冷媒に良好に用いることができるとは一概にはいえない。特に、冷媒が二重結合を有するオレフィンであるために、冷媒と潤滑剤との混合流体の安定性が問題となる。すなわち、冷媒HFO‐1234yfに好適な潤滑剤は、上述したような性能を評価することにより分かるものであり、未だそれはなされておらず、適切な冷凍機油は未だ提案されていない。」
「[0019] 地球温暖化係数の低い冷媒であるHFO-1234yfは、一方では、二重結合を有するため分解しやすく、安定性はあまり高くない。そこで、冷媒と冷凍機油の混合物流体の安定性を高めるため、安定性向上添加剤を添加するとよい。この安定性向上添加剤として、ヒンダードフェノール化合物、芳香族アミン化合物、エポキシ化合物、またはカルボジイミドのうち1種以上を添加するとよく、さらにはエポキシ化合物とカルボジイミドを合わせて添加することがより好ましい。これらの安定性向上剤は、冷凍機油に対して、合計で0.05?3重量%添加すれば十分である。特に、エポキシ化合物とカルボジイミドの両者を配合することが好ましい。」
5 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2016/017277号(以下「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「[請求項1]冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒と室外空気とを熱交換させる室外熱交換器と、冷媒と室内空気とを熱交換させる室内熱交換器と、冷媒を減圧させる膨張弁と、が配管接続され冷凍サイクルを構成する空気調和機において、
ポリオールエステル油を基油とし、エポキシ基を有するアルキルグリシジルエーテル化合物を含有した冷凍機油が用いられることを特徴とする空気調和機。
[請求項2]請求項1に記載の空気調和機において、
前記冷凍サイクルには、R32を70質量%以上含む冷媒が封入されることを特徴とする空気調和機。
[請求項3]請求項2に記載の空気調和機において、
前記アルキルグリシジルエーテル化合物は、アルキル基が炭素数4?10であることを特徴とする空気調和機。
[請求項4]請求項3に記載の空気調和機において、
前記冷凍機油は、前記アルキルグリシジルエーテル化合物を0.1?1.0質量%含有することを特徴とする空気調和機。」
「[0038] また、冷凍機油に対して酸捕捉剤は、0.1?1.0質量%添加するのが望ましい。酸捕捉剤添加量がこの量より少量となると冷凍機油中の酸捕捉量の絶対値が不足してしまう。一方で、この添加量より多く酸捕捉剤を添加した場合には、前述の炭素数4?10のアルキルグリシジルエーテル化合物は冷凍機油に添加した場合に粘度を低下させる性質を持ち、冷凍機油の粘度低下の為に圧縮機摺動部にて油膜形成がされず摩耗し信頼性低下へとつながってしまう。例えば、冷凍機油に対し酸捕捉剤を1.0質量%添加した場合、油温度40℃にて6mm^(2)/s程度低下する。また、酸捕捉剤同士の重合によって酸捕捉性能が低下してしまう虞もある。」
6 引用文献6の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された特開2015-117923号公報(以下「引用文献6」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0002】
現在、業務用空調装置(いわゆるパッケージエアコン)や家庭用空調装置(いわゆるルームエアコン)では、オゾン層保護の観点から、冷媒としてオゾン層破壊係数がゼロ(ODP=0)であるR410A冷媒が主に利用されている。R410A冷媒(HFC410A冷媒とも言う)とは、沸点が比較的近い2種類のハイドロフルオロカーボン類冷媒を混合した疑似共沸混合冷媒(HFC32/HFC125が50/50質量%の混合冷媒、HFC32:ジフルオロメタン、HFC125:ペンタフルオロエタン)である。
【0003】
R410A冷媒は、従来使用されてきたR22冷媒(クロロジフルオロメタン)と比べて圧力が高くなることから空調装置の耐圧設計に見直しが必要であったが、圧力損失が少ないという利点もあった。しかしながら、R410A冷媒は、地球温暖化係数(GWP)が約2100と高いことから、地球温暖化防止の観点で使用量・排出量の削減が求められており、代替冷媒の更なる検討が行われている。
【0004】
ODPとGWPとが低い代替冷媒としては、例えば、ハイドロフルオロカーボン類におけるHFC32の単独冷媒、ハイドロフルオロオレフィン類におけるHFO1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)やHFO1234ze(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)の単独冷媒や混合冷媒、ハイドロカーボン類におけるプロパンやプロピレン、自然冷媒類の炭酸ガスやアンモニアが候補とされている。ただし、これら代替冷媒においても、それぞれ一長一短がある。
【0005】
HFC32は、ハイドロフルオロカーボン類の中ではGWPが比較的小さいが、「GWP=675」と絶対的にはまだ高く、かつ微燃性を有する。HFO1234yfやHFO1234zeは、「GWP≦10」と非常に低いが、化学的安定性に弱点があると共に微燃性を有する。また、従来の空調装置にそのまま適用すると、冷凍能力が低下してしまう弱点もある。プロパンやプロピレンは、「GWP<20」と非常に低くかつ優れた冷凍能力も有するが、強燃性であることから安全性確保の技術開発や安全対策コストが必要になる。炭酸ガスは、不燃性であり一般的に毒性が問題になることはなく、給湯器用冷媒として実用化されているが、空調用途の温度領域での効率が低い上に高圧力で利用するための装置コストや安全対策コストが必要になる。アンモニアは、「GWP<1」と極めて低くかつ優れた冷凍能力も有するが、可燃性・腐食性・毒性を有するため安全性確保の技術開発や安全対策コストが必要になる。
【0006】
上記のような利点弱点を踏まえ、ODPとGWPとが低くかつ安全性の高い代替冷媒の研究・開発が進められている。また、空調装置において地球温暖化対策を考える場合、冷媒による直接的な影響だけではなく、空調装置の運転におけるエネルギー効率(要求される冷凍能力を発揮するために要するエネルギー消費量)をも考慮する必要がある。そのため、空調装置全体としての研究・開発も併せて進められている。
【0007】
例えば、特許文献1(特開2013-120029)には、R32とHFO1234yfまたは、HFO1234zeを主成分とする混合冷媒で、R32の濃度が70%以下の混合冷媒を封入し、当該冷媒が圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を接続して構成した冷凍サイクル内を循環する構成とし、かつ、前記冷凍サイクルは、50℃を超える雰囲気温度で、冷媒が凝縮する構成とした空気調和機が、開示されている。特許文献1によると、雰囲気温度が50℃以上の場合でも、高効率で圧縮機の吐出温度が、現在使用しているR410Aと同等となり、冷凍サイクルの信頼性を向上させることができるし、冷媒の温暖化係数が低いため、冷媒が大気中に漏れた場合でも温暖化影響を少なくすることができるとされている。
【0008】
また、特許文献2(特表2010-531970)には、高い地球温暖化係数の冷媒および潤滑剤を含む種類の冷却装置システムに別の冷媒を充填する方法であって、前記システム中に前記潤滑剤の実質的な部分を残しながら、前記冷却システム中の前記高い地球温暖化係数の冷媒の全てまたは一部を、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび/または2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むハロゲン化オレフィン組成物で置き換える工程を含む方法が、開示されている。特許文献2によると、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(R-1233zd)冷媒は、現状の冷却装置冷媒に匹敵する運転状態を与え、現状の冷却装置潤滑剤と適合し、かつR-123(1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン)冷媒と同等の効率を示すことが見いだされ、より環境的に許容される代替冷媒として使用され得るとされている。」
7 引用文献7の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された特開2013-76533号公報(以下「引用文献7」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0008】
これらの代替冷媒としては、HFC134aと同等の熱物性を有し、低GWP、低毒性、低可燃性などの理由から、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf(Hydrofluoroolefine)(GWP=4)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)(GWP=10)、若しくはジフルオロメタン(HFC32)の単独冷媒、又はこれらの混合冷媒が候補とされている。2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと混合する冷媒としては、ジフルオロメタン(HFC32)が主である。」
「【0039】
本発明においては、前記した冷凍機油に潤滑性向上剤(トリクレジルホスフェートなどの極圧添加剤も含む)、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、金属不活性剤等を添加しても全く問題はない。特に、ポリオールエステル油は、水分共存下で加水分解に起因する劣化が生じるため、酸化防止剤及び酸捕捉剤の配合は必須である。
【0040】
酸化防止剤としては、フェノール系であるDBPC(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール)が好ましい。
【0041】
酸捕捉剤としては、一般に、エポキシ環を有する化合物である脂肪族のエポキシ系化合物やカルボジイミド系化合物が使用される。特に、カルボジイミド系化合物は、脂肪酸との反応性が極めて高く、脂肪酸から解離した水素イオンを捕捉することから、ポリオールエステル油の加水分解反応が抑制される効果が非常に大きい。カルボジイミド系化合物としては、ビス(2,6-イソプロピルフェニル)カルボジイミドが挙げられる。酸捕捉剤の配合量は、冷凍機油に対して0.05?1.0重量%とすることが好ましい。また、環状ケタール化合物もしくは環状アセタール化合物は、耐摩耗性が劣るため、潤滑性向上剤としてトリクレジルホスフェートに代表される第三級ホスフェートなどを配合することが望ましい。」

第5 対比・判断
[引用文献1を主引用例として]
1-1 対比
本件発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりである。
引用発明1の「圧縮機」、「室外熱交換器」、「膨張機構」、「室内熱交換器」及び「空気調和機」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本願発明の「圧縮機」、「凝縮器」、「膨張機構」、「蒸発器」及び「冷凍装置」に相当する。
引用発明1の「R32」、「R1234yf」、「R1234ze」、「冷凍機油」及び「酸捕捉剤」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本願発明の「HFC系冷媒」、「HFO系冷媒」、「HFO系冷媒」、「冷凍機油」及び「酸捕捉剤」に相当する。
また、引用発明1の「空気調和機」が、「圧縮機」、「室外熱交換器」、「膨張機構」及び「室内熱交換器」を冷媒配管で接続して、冷媒を循環させる冷媒回路をなすことは明らかであるから、引用発明1は、本願発明の「圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を冷媒配管で接続して冷媒を循環させる冷媒回路を備えた」ものといえる。
以上の対応関係を踏まえると、引用発明1の「R32が50重量%より多く含まれている、R32及びR1234yfからなる混合冷媒、又はR32、R1234yf及びR1234zeからなる混合冷媒」と、本願発明の「前記冷媒は、HFO系冷媒を少なくとも10重量%以上と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含」むものとは、「前記冷媒は、HFO系冷媒と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含」むとの限りで一致している。
引用発明1の「冷凍機油」が「圧縮機」の摺動部を潤滑するものであることは明らかなので、引用発明1の「冷凍機油に対する酸捕捉剤としての、アルキルグリシジルエステル化合物とシクログリシジルエーテル化合物の添加量は、0.52wt%、0.63wt%、0.70wt%であ」ることと、本願発明の「前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が0.1重量%から1.0重量%である酸捕捉剤が配合されている」こととは、「前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が0.52重量%、0.63重量%、0.70重量%である酸捕捉剤が配合されている」限りで一致している。
したがって、本願発明と引用発明1とは、以下の構成において一致する。
「圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を冷媒配管で接続して冷媒を循環させる冷媒回路を備えた冷凍装置であって、
前記冷媒は、HFO系冷媒と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含み、
前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が0.52重量%、0.63重量%、0.70重量%である酸捕捉剤が配合されている冷凍装置。」

そして、本願発明と引用発明1とは、以下の点で相違する。

<相違点1>
HFO系冷媒について、本願発明は、「少なくとも10重量%以上」含んでいるのに対して、引用発明1では、含む量について、特定されていない点。

<相違点2>
酸捕捉剤の配合について、本願発明は、「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」とされているのに対して、引用発明1は、「0.52wt%、0.63wt%、0.70wt%」とされている点。

1-2 判断
(1) 相違点1について
HFO系冷媒は、地球温暖化係数(GWP)が低いものであり、冷媒としての使用が注目されているものである(引用文献4[0001]、[0003]、[0019]、引用文献6【0004】参照。)。
また、引用文献1には、「ルームエアコン用の冷媒は、オゾン層保護のためR22から代替冷媒へと移行され、現在は主にR410Aが使用されている。しかし、R410Aは地球温暖化係数(以下「GWP」という。)が2088と高く、地球環境に及ぼす影響を低減するために、地球温暖化係数がR410Aの1/3程度であるジフルオロメタン(以下「R32」という。)へ移行することが検討されている。」(【0002】)と記載されており、ルームエアコン用の冷媒において、GWPがより低い冷媒へ置き換えられて用いられることが示唆されている。
そうすると、引用発明1においては、「R32が50重量%より多く含まれている、R32及びR1234yfからなる混合冷媒、又はR32、R1234yf及びR1234zeからなる混合冷媒」とされているから、HFC系冷媒を50重量%より多く含む混合冷媒において、HFC系冷媒以外の混合冷媒をなす、地球温暖化係数がより低いR1234yf及びR1234zeのHFO系冷媒について、その配合量を多くする動機付けは存在するといえる。
そして、引用発明1は、一方のHFC系冷媒が50重量%より多いものであるから、他方のHFO系冷媒は50重量%より少ない範囲となり、その範囲で最大に配合しようとすることは、当業者なら当然考慮したことである。
次に、本願発明が、「HFO系冷媒を少なくとも10重量%以上」と特定していることについて、以下に検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、HFO系冷媒の配合について、以下の事項が記載されている。
「【0008】
本発明に係る冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を冷媒配管で接続して冷媒を循環させる冷媒回路を備えた冷凍装置であって、前記冷媒は、HFO系冷媒を少なくとも10重量%以上と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含み、前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が0.1重量%から1.0重量%である酸捕捉剤が配合されているものである。」
「【0019】
本実施の形態では、冷凍装置1の冷媒回路を循環する冷媒として、プロピレン系フッ化炭素水素冷媒であるHFO系冷媒が用いられる。具体的には、HFO系冷媒は、HFO単体、または、R32を含む混合冷媒である。HFO冷媒を含む混合冷媒は、HFO冷媒を少なくとも10重量%以上含み、HFC系冷媒としてR32冷媒を少なくとも50重量%以上含む混合冷媒である。HFO冷媒は、HFO-1234yfおよびHFO-1234ze(E)等が好ましい。また、混合冷媒としての地球温暖化係数は、好ましくは1000以下であり、より好ましくは、500以下である。」
「【0028】
次に、本実施の形態の冷凍装置に用いる冷凍機油が、冷凍装置1に与える影響について、下記の表1に基づいて説明する。本出願人は、製品実機試験を行い、冷凍機油が冷凍装置1に与える影響を分析した。
【0029】
製品実機試験の試験条件は、圧縮機2から吐出される冷媒ガスの温度が140℃であり、冷凍装置1の運転時間が500時間であり、冷凍装置1の運転圧力が適宜設定された値であった。冷凍機油の基油として、ポリビニルエーテル油を用いた。冷凍機油に、酸捕捉剤の添加量を0.005重量%、0.05重量%、0.1重量%、1.0重量%、6.0重量%、10.0重量%と変更させて配合し、冷凍装置1を稼働させて、冷凍装置1の膨張機構5の膨張弁の状態を確認した。具体的には、試験後の膨張弁をX線装置で元素分析して、冷媒分解物であるフッ素の量と、膨張弁に付着したスラッジ量を確認した。下記の表1は、製品実機試験の試験結果を表している。
【0030】


上記、各記載を参酌しても、HFO冷媒を少なくとも10重量%以上含むことについて、その技術的意義が記載されているところは認められず、【0029】、【0030】の試験内容をみても、冷媒については「HFO系」と記載されているものの、HFO系冷媒の具体的な物質名や配合量は特定されていないし、また、「10重量%以上」の数値範囲に(10重量%未満の場合に比して)顕著な効果を見いだせる具体的な記載はなされていない。
以上のことを踏まえると、引用発明1において、HFO系の冷媒の配合を、「少なくとも10重量%以上」と特定することは、地球温暖化係数の低いHFO系冷媒をある程度混合冷媒に配合させるという意味で最低限の量を特定した数値限定にすぎないものといえ、当業者が適宜定め得る設計的事項である。
したがって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 相違点2について
酸捕捉剤の配合について、引用発明1の「0.52wt%、0.63wt%、0.70wt%」は、本願発明の「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」範囲に広く含まれるものである。
また、冷凍機油に添加する酸捕捉剤の配合として、従来より、1.0重量%以下の範囲(引3事項、引用文献3請求項4)や、0.1?1.0質量%(引用文献5[0038])の範囲で配合されるものでもある。
そうすると、引用発明1において、酸捕捉剤の配合の範囲として、「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」とすることに、困難性は認められない。
そして、本願発明が酸捕捉剤の「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」と特定することについて、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
「【0008】
本発明に係る冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を冷媒配管で接続して冷媒を循環させる冷媒回路を備えた冷凍装置であって、前記冷媒は、HFO系冷媒を少なくとも10重量%以上と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含み、前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が0.1重量%から1.0重量%である酸捕捉剤が配合されているものである。」
「【0022】
そこで、本実施の形態の冷凍装置1で使用される冷凍機油には、酸捕捉剤が0.1重量%から1.0重量%配合されている。冷凍機油は、圧縮機2の摺動部における摩耗および焼き付きの防止のために用いられる潤滑油である。圧縮機2の摺動部は、例えば、圧縮機2がロータリ圧縮機の場合、ベーンとローラとの間の摺動面、および、クランク軸と軸受との間の摺動面等である。酸捕捉剤は、HFO系冷媒の分解によって発生するフッ酸等の酸を捕捉するために用いられる添加剤である。」
「【0025】
酸捕捉剤は、HFO系冷媒の分解によって発生したフッ酸等の酸と反応することにより、酸による冷凍機油の劣化を抑制するために用いられる添加剤である。酸捕捉剤は、冷凍機油に0.1重量%から1.0重量%含まれている。酸捕捉剤は、例えば、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、テンペン系化合物である。」
「【0029】
製品実機試験の試験条件は、圧縮機2から吐出される冷媒ガスの温度が140℃であり、冷凍装置1の運転時間が500時間であり、冷凍装置1の運転圧力が適宜設定された値であった。冷凍機油の基油として、ポリビニルエーテル油を用いた。冷凍機油に、酸捕捉剤の添加量を0.005重量%、0.05重量%、0.1重量%、1.0重量%、6.0重量%、10.0重量%と変更させて配合し、冷凍装置1を稼働させて、冷凍装置1の膨張機構5の膨張弁の状態を確認した。具体的には、試験後の膨張弁をX線装置で元素分析して、冷媒分解物であるフッ素の量と、膨張弁に付着したスラッジ量を確認した。下記の表1は、製品実機試験の試験結果を表している。」
「【0031】
冷凍機油が、合格か不合格であるか否かの判定基準として、R410A冷媒での評価結果を参考とし、フッ素検出量5重量%以下、かつ、スラッジ発生量1重量%以下の場合を合格、それ以外を不合格とした。
【0032】
表1において、酸捕捉剤の添加量が0.005?0.05重量%である「I」、「II」のケースにおいては、フッ素検出量が5重量%よりも高く、膨張弁の腐食が確認されたため不合格と判定した。また、酸捕捉剤の添加量が6?10重量%である「V」、「VI」のケースにおいては、スラッジの発生量が1重量%以上であり、スラッジの大量発生を確認されたため不合格と判定した。一方、酸捕捉剤の添加量が0.1?1.0重量%である「III」、「IV」のケースにおいて、フッ素検出量、及びスラッジの発生量は、共に問題ないことが確認されたため合格と判定した。
【0033】
表1より、HFO系冷媒を使用する冷凍装置では、冷凍機油の酸捕捉剤の添加量が0.1から1.0重量%の場合に、膨張弁の腐食及びスラッジ異常発生が抑制された。
【0034】
さらに、酸捕捉剤の添加量を0.2から1.0重量%の場合に、フッ素検出量が著しく低下し、膨張弁の耐腐食効果が向上することが確認できた。
【0035】
したがって、本実施の形態に冷凍装置1では、HFO系冷媒の分解によって発生するフッ酸等の酸は、冷凍機油に0.1重量%から1.0重量%含まれる酸捕捉剤によって、より好ましくは0.2重量%から1.0重量%含まれる酸捕捉剤によって捕捉される。これにより、HFO系冷媒の分解によって発生する酸に起因する冷凍機油の劣化および膨張機構5の膨張弁の腐食及びスラッジの異常発生が抑制される。従って、冷凍装置1の信頼性を向上させることができる。」
以上の記載によると、冷凍機油へ酸捕捉剤の配合量を0.005、0.05、0.1、1、6、10と増加させて変化させて、フッ素検出量が5重量%以下、かつ、スラッジ発生量が1重量%以下の場合を合格、それ以外を不合格との基準を設けて、合格の範囲の酸捕捉剤の配合量を定めたものと認められる。
そして、合格、不合格の基準の定め方によって、合格範囲の酸捕捉剤の配合量は変化するものであり、また、冷凍機油へ酸捕捉剤の配合量を0.005、0.05、0.1、1、6、10と変化させた時に、フッ素検出量は、10、7、5、3、2、0.1と漸次減少し、スラッジ発生量は、0.1、0.2、0.3、0.8、2、5と漸次増加する傾向が見て取ることができる状況下、酸捕捉剤の配合量を、「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」と特定することによる効果が格別顕著なものであるということはできない。
したがって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(3) 効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明1に基づいて予測し得る程度のものであり、当業者の予測を超える格別のものとは認められない。
(4) 請求人の主張について
請求人は、令和2年4月7日の審判請求書において、以下のとおり主張している。
「引用文献1には、HFC系冷媒に対してHFO系冷媒がどの程度含まれているかについての記載が一切ありません。上記したように、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上含むことに対して、HFO系冷媒が10重量%未満であると、混合冷媒動作圧力が上昇し、摺動摩耗粉が増加します。そのため、HFO系冷媒の分解により発生する酸によって劣化された冷凍機油と、圧縮機の摺動摩耗粉と、が結合して1重量%以上のスラッジを発生させ、膨張弁等の冷媒回路部品を詰まらせるおそれがあります。」
「つまり、引用文献1は、HFO系冷媒が10重量%未満である場合も含むことが考えられるため、『混合冷媒動作圧力が上昇し、摺動摩耗粉が増加する。そのため、HFO系冷媒の分解により発生する酸によって劣化された冷凍機油と、圧縮機の摺動摩耗粉と、が結合して1重量%以上のスラッジを発生させ、膨張弁等の冷媒回路部品を詰まらせるおそれがある。』という本願の課題を解決することを想定した構成ではないことが明らかです。」
「引用文献1は、本願の請求項1に係る発明のように、HFO系冷媒及びHFC系冷媒の比率と、酸捕捉剤の添加量との組み合わせを最適なものとした構成ではなく、冷凍機油の劣化、膨張弁の腐食及びスラッジの異常発生を効果的に抑制できる発明を開示したものではありません。また、HFO系冷媒及びHFC系冷媒の比率と、酸捕捉剤の添加量との組み合わせは、引用文献1から当業者が容易に想到できるものでもありません。」
そこで、上記主張について検討するに、HFO系冷媒を10重量%以上とすることについては、上記相違点1について述べたとおり、本願明細書にはその数値の技術的意味について、記載するところはないし、地球温暖化係数の低いHFO系冷媒をある程度混合冷媒に配合させるという意味で最低限の量を特定した、数値限定にすぎないものといえ、当業者が適宜定め得る設計的事項である。
さらに、HFO系冷媒及びHFC系冷媒の比率と、酸捕捉剤の添加量との組み合わせを最適なものとしたことについては、上記相違点2について述べたとおりであって、格別顕著な効果を奏する範囲のものとは認めることができない。
したがって、上記請求人の主張は、採用することができない。

[引用文献2を主引用例として]
2-1 対比
本件発明と引用発明2とを対比すると、以下のとおりである。
引用発明2の「圧縮機」、「凝縮器」、「膨張機構」、「蒸発器」及び「冷凍装置」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本願発明の「圧縮機」、「凝縮器」、「膨張機構」、「蒸発器」及び「冷凍装置」に相当する。
引用発明2の「R32」、「HFO-R1234yf」、「HFO-R1234ze(E)」、「冷凍機油」及び「酸捕捉剤」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本願発明の「HFC系冷媒」、「HFO系冷媒」、「HFO系冷媒」、「冷凍機油」及び「酸捕捉剤」に相当する。
また、引用発明2の「冷凍装置」が、「圧縮機」、「凝縮器」、「膨張機構」及び「蒸発器」を冷媒配管で接続して、冷媒を循環させる冷媒回路をなすことは明らかであるから、引用発明2は、本願発明の「圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を冷媒配管で接続して冷媒を循環させる冷媒回路を備えた」ものといえる。
以上の対応関係を踏まえると、引用発明2の「R32を少なくとも60重量%含む冷媒」で、「前記冷媒は、少なくともHFO-1234yfまたはHFO-1234ze(E)であるHFO系冷媒を含む」ものと、本願発明の「前記冷媒は、HFO系冷媒を少なくとも10重量%以上と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含」むものとは、「前記冷媒は、HFO系冷媒と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含」むとの限りで一致している。
引用発明2の「冷凍機油」が「圧縮機」の摺動部を潤滑するものであることは明らかなので、引用発明2の「前記冷凍機油は、添加量が1.0重量%から5.0重量%である酸捕捉剤が配合されて」いることと、本願発明の「前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が0.1重量%から1.0重量%である酸捕捉剤が配合されている」こととは、「前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が1.0重量%である酸捕捉剤が配合されている」限りで一致している。
したがって、本願発明と引用発明2とは、以下の構成において一致する。
「圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を冷媒配管で接続して冷媒を循環させる冷媒回路を備えた冷凍装置であって、
前記冷媒は、HFO系冷媒と、HFC系冷媒を少なくとも50重量%以上とを含み、
前記圧縮機の摺動部を潤滑する冷凍機油には、添加量が1.0重量%である酸捕捉剤が配合されている冷凍装置。」

そして、本願発明と引用発明2とは、以下の点で相違する。

<相違点3>
HFO系冷媒について、本願発明は、「少なくとも10重量%以上」含んでいるのに対して、引用発明2では、含む量について、特定されていない点。

<相違点4>
酸捕捉剤の配合について、本願発明は、「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」とされているのに対して、引用発明2は、「添加量が1.0重量%から5.0重量%」とされている点。

2-2 判断
(1) 相違点3について
HFO系冷媒は、地球温暖化係数(GWP)が低いものであり、冷媒としての使用が注目されているものである(引用文献4[0001]、[0003]、[0019]、引用文献6【0004】参照。)。
また、引用文献2には、「従来、空気調和装置等の冷凍装置には、テトラフルオロエタンであるR134aや、混合冷媒であるR410AおよびR407C等のフッ素系冷媒が使用されている。しかし、これらのフッ素系冷媒は、塩素を含まないのでオゾン層を破壊する効果は小さいが、温室効果による地球温暖化への影響が大きい。そこで、近年、地球温暖化係数が小さいフッ素系冷媒として、分子式CH_(2)F_(2)で表されるR32が注目されている。」(【0003】)と記載されるように、空気調和装置等の冷凍装置の冷媒において、GWPがより低い冷媒に置き換えていくことがなされている。
そうすると、引用発明2においては、「R32を少なくとも60重量%含む冷媒」であって、「前記冷媒は、少なくともHFO-1234yfまたはHFO-1234ze(E)であるHFO系冷媒を含む」混合冷媒とされているから、HFC系冷媒であるR32を少なくとも60重量%含む混合冷媒において、HFC系冷媒以外の混合冷媒をなす、地球温暖化係数がより低いHFO-1234yfまたはHFO-1234ze(E)のHFO系冷媒について、その配合量を多くする動機付けは存在するといえる 。
そして、引用発明2は、一方のHFC系冷媒が少なくとも60重量%含むものであるから、他方のHFO系冷媒は40重量%以下の範囲となり、その範囲で最大に配合しようとすることは、当業者なら当然考慮したことである。
次に、本願発明が、「HFO系冷媒を少なくとも10重量%以上」と特定していることについては、上記「1-2 判断 (1) 相違点1について」において、検討したことと同様であって、引用発明2において、HFO系の冷媒の配合を、「少なくとも10重量%以上」と特定することは、地球温暖化係数の低いHFO系冷媒をある程度混合冷媒に配合させるという意味で最低限の量を特定した、数値限定にすぎないものといえ、当業者が適宜定め得る設計的事項である。
したがって、引用発明2において、上記相違点3に係る本願発明の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 相違点4について
酸補捉剤の配合について、引用発明2は、「1.0重量%」において、本願発明と一致するものであり、引用文献2には、従来、0.05重量%の配合が記載されている(【0004】)。
また、冷凍機油に添加する酸捕捉剤の配合として、従来より、1.0重量%以下の範囲(引用文献3請求項4)や、0.1?1.0質量%(引用文献5[0038])の範囲で配合されるものでもある。
そうすると、引用発明2において、酸捕捉剤の配合の範囲として、「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」とすることに、困難性は認められない。
そして、本願発明が酸捕捉剤の「添加量が0.1重量%から1.0重量%である」と特定することについて、上記「1-2 判断 (2) 相違点2について」において、検討したことと同様であって、引用発明2において、上記相違点4に係る本願発明の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(3) 効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明2に基づいて予測し得る程度のものであり、当業者の予測を超える格別のものとは認められない。
(4) 請求人の主張について
上記「1-2 判断 (4) 請求人の主張について」において、検討したことと同様であって、引用文献2を主引用文献とした場合であっても、請求人の主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、又は引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-01-29 
結審通知日 2021-02-02 
審決日 2021-02-19 
出願番号 特願2018-501462(P2018-501462)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 紀史  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 川上 佳
山崎 勝司
発明の名称 冷凍装置  
代理人 特許業務法人きさ特許商標事務所  
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