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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1373061
審判番号 不服2019-4469  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-04 
確定日 2021-04-14 
事件の表示 特願2016-525827「AAVベクター、及び抗AAV(アデノ関連ウイルス)中和抗体についてのアッセイ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月15日国際公開、WO2015/006743、平成28年 8月25日国内公表、特表2016-525347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年(平成26年) 7月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年 7月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月11日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月22日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月29日付け:拒絶査定
平成31年 4月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 2月20日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 8月25日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1ないし66に係る発明は、 令和 2年 8月25日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし66に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1及び請求項14に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」、「本願発明14」といい、両者をまとめて「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
AAVに結合する抗体を、測定及び定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、前記組換えベクターが、ベクターゲノムを含み、前記ベクターゲノムが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている自己相補的リポータトランスジーンを含む、ステップ;
(b)前記感染性組換えAAV粒子に感染し得る細胞を用意するステップ;
(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(d)得られた混合物(M)と(b)の細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ;並びに
(f)(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップであって、これによって、前記生体サンプルにおいてAAVに結合する抗体を測定及び定量するステップ
を含む方法。」
「【請求項14】
前記リポータトランスジーンが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)又はアルカリホスファターゼをコードする、請求項1又は2に記載の方法。」

第3 原査定における拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-69に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1-9に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.Gene Therapy(2012.07.12, published online)Vol.20, p.417-424
引用文献2.Nature Medicine(2006)Vol.12, No.3, p.342-347
引用文献3.Nature Genetics(2000)Vol.24, p.257-261
引用文献4.特表2004-500858号公報
引用文献5.Molecular Therapy(2008)Vol.16, No.10, p.1648-1656
引用文献6.国際公開第2013/078400号
引用文献7.特表2002-529098号公報
引用文献8.特表2006-505249号公報(周知技術を示す文献)
引用文献9.特表2003-511037号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載

1 引用文献1の記載
引用文献1は、「Prevalence and pharmacological modulation of humoral immunity to AAV vectors in gene transfer to synovial tissue」と題する学術論文であって、以下の事項が記載されている(翻訳及び下線は当審による。以下同様。)。
(1)「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する抗体は、ヒトにおいて非常に多く存在する。前臨床研究および臨床研究の両方で、AAVに対する抗体は、低力価であっても、特にベクターが血中に導入された場合には、トランスダクションを阻害することが示されている。ここでは、関節リウマチ患者の血清中の及びマッチした滑液(SF)中のAAV血清型2、5、6、8に対する中和抗体(NAb)の力価を測定した。滑液中の力価は、一致した血漿サンプル中の力価よりも低く、体液コンパートメントによってAAVに対するNAbの分布に違いがあることが示唆された。この違いはAAV2でより顕著であり、より高い力価が測定された。すべての血清型の中で、抗AAV5抗体は血清および体液コンパートメントの両方で最も低い頻度であった。次に、疾患管理の一環として抗CD20抗体リツキシマブを1コースまたは2コース受けた関節リウマチ患者における抗AAV抗体に対するB細胞枯渇の影響を評価した。NAb価がp1:1000の被験者の一部でNAb価の低下が観察されたが、1:5以下に低下したのは少数の被験者のみであった。本研究は、AAVベクターに対する既存の体液性免疫の限界を克服するための戦略についての洞察を提供するものである。」(要約)
(2)「次に、血清のNAb価を測定し、SFサンプルをAAV2、AAV5、AAV6、AAV8にマッチングさせた。NAb力価は、b-ガラクトシダーゼリポーター遺伝子の残留活性を、NAbによるAAVベクター中和のサロゲートとして測定する、先に記載したin vitroアッセイ^(12)を用いて決定した。
血清およびSFにおけるNAb力価は、総抗AAV IgGを測定するために使用したキャプチャーアッセイの結果を確認した、すなわち、抗AAV NAb力価はSFよりも血清において高かった(表2)。」(第418頁左側欄第13行-第21行)
(3)「細胞培養アッセイにおけるin vitroでのNAbの検出感度を向上させるために、我々はAAV導入遺伝子発現カセットをb-ガラクトシダーゼを発現する一本鎖ゲノム(ssAAV-LacZ)からルシフェラーゼリポーター導入遺伝子(scAAV-Luc)を発現する自己相補的なゲノムに切り替えた。一本鎖AAVと比較してin vitroでの自己相補的AAVの導入効率が高いこと、およびb-ガラクトシダーゼよりもルシフェラーゼの検出感度が高いことから、NAbアッセイでは50?150倍低い感染の多重性を使用することが可能となった。改良されたアッセイの効率をテストするために、我々は2つのアッセイを使用して既知のNAb力価(すべて1:100)を持つ様々な血清サンプルを再スクリーニングした(図2)。予想通り、2つのアッセイから得られる抗AAV-2 NAb力価には有意差はなく、これはインビトロでのこのAAV血清型の細胞導入効率の高さを反映している(図2a-c)。AAV5、6および8については、in vitroでの細胞導入効率がはるかに低いため、ssAAV-LacZベクターを用いて測定した血清中のNAb力価は、scAAV-Lucベクターを用いて測定したものよりも低かった(図2d-l)。これらの血清型については、LacZベースのアッセイで測定された限られた感度と高いバックグラウンドノイズは、各希釈のための光学密度測定値の高い変動性をもたらした(図2)。リポーター遺伝子発現の50%の阻害が測定される血清希釈として決定されたNAb力価(実施されたより多くの実験の代表セット)は、b-ガラクトシダーゼとルシフェラーゼベースのアッセイの両方について、図2に報告されている。これらのデータは、AAV2以外のAAV血清型については、リポーター遺伝子系の選択がNAbアッセイの感度を決定する重要な要素であることを示している。」(第418頁右側欄第21行-第419頁右側欄最終行)
(4)「

」(表2)
(5)「血清検体とSF検体
ヒトサンプルは、現地の倫理委員会によって承認されたプロトコルの下、オランダのアムステルダムにある学術医療センターで採取された。すべての被験者は、ヘルシンキ宣言プロトコルに従って、サンプル収集前に同意を得た。サンプルはコード化され、非識別化された。IgMリウマチ因子(範囲37?200kU ml1)陽性の活動性疾患を有する11人のRA患者から、血清および一致するSFサンプルを採取した。…」(第422頁右側欄第6行-第13行)
(6)「抗AAV抗体の決定(determination)
抗AAV2、5、6、および8 NAb力価は、in vitro中和アッセイを使用して、以前に記載されたように^(12)決定された。2つのAAVベクター構築物がアッセイに使用された:サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβガラクトシダーゼを発現している一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)、またはニワトリβ-アクチンプロモーター制御下でウミシイタケルシフェラーゼリポーター遺伝子を発現する自己相補的なベクター^(20,21)(scAAV-Luc)。in vitroでのAAVベクターの形質導入の効率を高めるために、誘導性プロモーターの制御下、アデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞(ATCC、マナッサス、バージニア州、米国)を使用した。細胞を96ウェルプレートにウェルあたり1.25×10^( 4)細胞の密度で播種し、E4発現を誘導するためにポナステロンA(Invitrogen、Grand Island、NY、USA)の1:1000希釈液を培地に加えた。アッセイ当日、熱不活性化した試験血清の連続的な半ログ希釈物をウイルスを含む培地と混合した。…リポーター導入遺伝子の残存活性は、比色アッセイ(ssAAV-LacZ)またはルミノメーター(scAAV-Luc)のいずれかを使用して測定された。」(第422頁右側欄第3段落)
(7)「ウイルスの生産
AAV2のinverted terminal repeatsに挟まれたb-ガラクトシダーゼカセット(ssAAV-LacZ)、およびレニラ・ルシフェラーゼ発現のための自己相補的カセット(scAAV-Luc)を、AAV2、5、6または8血清型のいずれかからのカプシドにパッケージ化した。ベクターは、フィラデルフィア小児病院細胞分子治療センターの研究ベクターコアにより、HEK-293細胞内でトリプルトランスフェクション法を用いてアデノウイルスを含まないシステムで作製した。AAVベクターを密度勾配遠心により精製し、ベクターの力価をドットブロットにより決定した。」(第422頁右側欄最終段落)

2 引用文献2の記載
引用文献2は、引用文献1が参照する「文献12」であり、
「AAVに対する中和抗体アッセイ
AAV-2特異的NAB力価は、以前に記載されたように決定された^(6)。」(第346頁右側欄下から第19行-下から第18行)
と記載されている。

3 引用文献3の記載
引用文献3は、引用文献2が参照する「文献6」であり、
「抗体アッセイ
lacZを発現するAAVベクターを連続希釈した患者血清とインキュベートすることにより、AAV中和抗体価を決定し、この混合物をHEK293細胞に導入した。24時間後に細胞を溶解し、ONPGアッセイ^(16)を用いて酵素活性を測定した。サンプルは、β-ガラクトシダーゼ活性を測定するためにOD_(420)で読み取った。OD_(420)がrAAV-lacZが陰性対照マウス血清とプレインキュベートされたときに観察される値の50%以下であった場合、血清はAAV抗体を中和するための陽性としてスコア付けされた。陽性サンプルは力価を測定した、AAV中和抗体の力価はONGPアッセイに基づいて50%でrAAV-LacZの感染を阻害する希釈物として示される。」(第260頁右側欄下から第20行-下から第11行)
と記載されている。

4 引用文献1において参照する文献Aの記載
文献A(Gene Therapy(2003)Vol.10, p.2112-2118)は、前記摘記事項1(6)において、scAAV-Lucに関し、引用文献1が参照する「文献21」であり、以下の点が記載されている。
(1)「scAAVベクターの効率的な生産のための変異ベクター
scAAVベクター株の生産を合理化し、二量体ゲノムと単量体ゲノムの混合集団の複雑さを排除するために、我々は二量体ゲノムを生成するための変異ベクターコンストラクトを作成した。この構築物では、ローリングヘアピン複製が開始される末端分解部位(trs)が一方のTRから削除されている(図1a)。もう一方のTRは野生型(wt)である。この効果は、レプリケーションフォークがゲノムのwt末端から始まり、末端分解を行わずに変異末端を通過し、反対側の鎖を鋳型としてゲノムを横切って戻り、二量体を生成することにある。生成物は、中央に変異体のTRがあり、各末端にwtのTRがある自己相補的なゲノムである。自己相補的複製形態分子からの子孫の複製とパッケージングは、その後、2つのwt TRから通常通りに進行する。二量体反転リピート構造は、複製の各ラウンドを通じて維持され、中央のTRの変異は、AAV Repタンパク質によってモノマー形態に戻って処理されることから二量体ゲノムを防ぐことができる。重要なことに、ベクター生産の間、rAAVベクター配列の両端は、まだトランスフェクトされたプラスミドから救出され得る。trsとは独立してこの事象を媒介する回文領域、'B'、'C'、および'A'の大部分は、そのまま残される。」(第2113頁左側欄第4行-第30行)
(2)「

」(図1 a)
(3)「(a)図は本研究で使用した3つの新規コンストラクトを示している。 pHpa-trsSKとp-trsLSP-GFPはTRを欠失しており、二量体のみを作る。pTRdSM-LSP-GFPは2つのwt TRを有し、二量体としてパッケージ化するには大きすぎる。CMV、サイトメガロウイルス即時初期プロモーター;LSP、肝臓特異的プロモーター;SV40、SV40からのスプライスドナー/アクセプター;β-globin、ウサギβグロビン遺伝子からのイントロン;pA、ポリアデニル化シグナル;TR、AAV末端リピート;trs、AAV末端分解能サイト。」(図1 aの説明)

5 引用文献1において参照する文献Bの記載
文献B(Gene Therapy(2003)Vol.10, p.2105-2111)は、前記摘記事項1(6)において、scAAV-Lucに関し、引用文献1が参照する「文献20」であり、以下の点が記載されている。
(1)「最近の報告では、野生型ゲノムの半分のサイズのAAVベクターが、自己相補的である二本鎖・ヘアピンのようなゲノムをパッケージ化できることが示された。そのようなベクターは、一本鎖から二本鎖DNAへの変換を回避することができる。しかし、このベクターは、ssAAVベクター生産の副産物であるため、生産に効率が悪く、精製に手間がかかっていた。dsDNAゲノムを優勢にパッケージングするAAVベクターを生成するために、AAV inverted terminal repeats (ITR)の1つを変異させた。この変異は、ヘアピン状のdsAAV DNAゲノムをほぼ独占的にパッケージングすることにつながった。dsAAVベクターのインビトロおよびインビボでの検討、およびベクターDNAの分子的特徴付けは、dsAAVベクターが従来のssAAVベクターよりも優れた遺伝子導入を行うという結論を支持するものである。」(第2105頁右側欄下から第14行-最終行)
(2)「1つのITRの変異後のdsAAVの効率的なパッケージング
ssAAV DNAゲノムは、145塩基の2つのITRに挟まれている(図1aおよびb)。… AAVの複製中間体は、ヘッド・ツー・ヘッドおよびテール・ツー・テールの二量体DNA分子を含む。二量体は、ジャンクションITRでAAV Repタンパク質によって切断され、モノマーを得る。各モノマーは、その後、ssDNAとしてAAV粒子にパッケージングされる(図1b、左パネル)。しかしながら、ITRの1つ(例えば、左のITR)が、隣接する末端分解部位(trs)とともにD配列(パッケージングシグナル)を欠失している場合(図1aおよびb、右パネル)、二量体は単量体への分解に失敗する。それにもかかわらず、各二量体は、残りの野生型のITRを介して、大きなヘアピンDNAの形、つまり、二本鎖ゲノムの形でAAV粒子にパッケージ化することができる(図1b、右パネル)。
二本鎖ヘアピン様ダイマーDNAを主にパッケージ化するAAVベクターを生成するために、我々は、右のITRをそのまま維持しながら、AAVベクター上のD配列および左のITRのtrsを削除した(図1a;セクション「材料および方法」を参照のこと)。」(第2106頁左側欄第2行-下から第6行)
(3)「

」(図1 a)
(4)「

」(図1 b)

第5 判断
1 引用発明の認定

第4で示した摘記事項(当審注:以下の摘記事項もすべて同様。)1(1)から、引用文献1には、「関節リウマチ患者の血清中のAAV血清型2、5、6、8に対する中和抗体(NAb)の力価を測定」する方法の発明が記載されているといえる。
そして、摘記事項1(3)及び(6)から、引用文献1には、抗AAV2、5、6、および8 NAb力価を測定するにあたり、in vitro中和アッセイを使用したこと(摘記事項1(6)参照。)、及び、当該アッセイにおいて、in vitroでのNAbの検出感度を向上させるために(摘記事項1(3)参照。)、ニワトリβ-アクチンプロモーター制御下でウミシイタケルシフェラーゼリポーター遺伝子を発現する自己相補的なベクター(scAAV-Luc)であるAAV構築物ベクターが用いられたこと(摘記事項1(3)・(6)参照。)が記載されている。
また、摘記事項1(7)から、引用文献1には、抗AAV2、5、6、および8 NAb力価を測定するためのAAVの作成方法として、レニラ・ルシフェラーゼ発現のための自己相補的カセット(scAAV-Luc)を、AAV2、5、6または8血清型のいずれかからのカプシドにパッケージ化したことが記載されている。
以上からみて、引用文献1には、AAV血清型2、5、6、8に対する中和抗体(NAb)の力価をin vitroで測定するにあたり、ニワトリβ-アクチンプロモーター制御下でウミシイタケルシフェラーゼリポーター遺伝子を発現する自己相補的なベクター(scAAV-Luc)を、AAV2、5、6または8血清型のいずれかからのカプシドにパッケージ化したものを用意することが記載されている。

加えて、摘記事項1(5)及び(6)から、引用文献1には、AAV血清型2、5、6、8に対する中和抗体(NAb)の力価を測定するために11人のRA患者から血清サンプルを採取したこと(摘記事項1(5)参照。)、及び、それを熱不活性化した血清の連続的な半ログ希釈物をウイルスを含む培地と混合したこと(摘記事項1(6)参照。)が記載されている。そして、摘記事項1(6)から当該培地には、アデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞及びAAVが含まれているといえる。
さらに、摘記事項1(6)から、引用文献1には、リポーター導入遺伝子の残存活性がルミノメーター(scAAV-Luc)のいずれかを使用して測定されたことが記載されている。
そして、摘記事項1(2)-(4)及び(6)から、引用文献1には、AAV2、5、6及び8 NAb力価を、参照文献12に記載されたin vitroアッセイに準じた方法により決定したこと(摘記事項1(6)参照。)が記載されており、その結果が摘記事項1(3)及び(4)に記載されている。

したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「AAVに結合する中和抗体の力価を確認するための方法において、
(a)ニワトリβ-アクチンプロモーター制御下でウミシイタケルシフェラーゼリポーター遺伝子を発現する自己相補的なベクター(scAAV-Luc)を、AAV2、5、6または8血清型のいずれかからのカプシドにパッケージ化したものを用意するステップ、
(b)アデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞を用意するステップ、
(x)RA患者から採取した血清サンプルを熱不活性化した半ログ希釈物をAAV及び2V6.11細胞を含む培地と混合するステップ、
(e)リポーター遺伝子の活性をルミノメーターにより測定するステップ
(f)AAV2、5、6及び8 NAb力価を、参照文献12に記載されたin vitroアッセイに準じた方法により決定するステップ
を含む方法。」

2 本願発明14についての判断
(1)対比

本願発明14と引用発明とを対比すると、引用発明における「ニワトリβ-アクチンプロモーター」、「ウミシイタケルシフェラーゼリポーター遺伝子」、「AAV2、5、6または8血清型のいずれかからのカプシド」、「RA患者から採取した血清サンプル」及び「リポーター遺伝子の活性をルミノメーターにより測定する」ことは、それぞれ、本願発明14における「発現調節エレメント」(本願明細書段落【0077】参照。)、「リポータートランスジーン」(本願明細書段落【0064】参照。)、「感染性AAV粒子」、「被験者からの生体サンプル」及び「リポータトランスジーンの発現を測定する」ことに相当する。

また、「ベクター「ゲノム」は、ウイルス(例えば、AAV)によりパッケージング又は包膜され、異種(トランスジーン)ポリヌクレオチド配列を含むベクタープラスミドの部分を指す。」(本願明細書段落【0053】参照。)という本願発明14におけるベクターゲノムの定義からみて、引用発明における「ニワトリβ-アクチンプロモーター制御下でウミシイタケルシフェラーゼリポーター遺伝子を発現する自己相補的なベクター(scAAV-Luc)を、AAV2、5、6または8血清型のいずれかからのカプシドにパッケージ化したもの」である「ベクター」は、本願発明14における「ベクターゲノムを含」む「組換えベクター」に相当する。そして、引用発明における「ニワトリβ-アクチンプロモーター制御下でウミシイタケルシフェラーゼリポーター遺伝子を発現する自己相補的なベクター(scAAV-Luc)を、AAV2、5、6または8血清型のいずれかからのカプシドにパッケージ化したもの」は本願発明14における「組換えベクターが、ベクターゲノムを含み、前記ベクターゲノムが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結されているリポータトランスジーンを含む」、「組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子」に相当する。
引用発明における「アデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞」は、摘記事項1(6)からAAV粒子に感染していることは明らかであるから、本願発明14における「感染性組換えAAV粒子に感染し得る細胞」に相当する。
引用発明における「AAVに結合する中和抗体の力価を確認する」ことは、摘記事項1(4)のとおり、中和抗体の数値を決定しているから、本願発明14における「AAVに結合する抗体を、測定及び定量する」ことに相当する。
そうすると、本願発明14と引用発明とは、
「AAVに結合する抗体を、測定及び定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、前記組換えベクターが、ベクターゲノムを含み、前記ベクターゲノムが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結されているリポータトランスジーンを含む、ステップ;
(b)前記感染性組換えAAV粒子に感染し得る細胞を用意するステップ;
・感染性組換えAAV粒子、被験者からの生体サンプル及び(b)の細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ
を含む方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本願発明14が「組換えベクターが、ベクターゲノムを含み、前記ベクターゲノムが、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている自己相補的リポータトランスジーンを含む」のに対し、引用発明は、リポータトランスジーンにフランキングエレメントによってフランキングされているかどうかが不明であり、かつ、リポータトランスジーンが自己相補的か否か不明である点。
(相違点2)本願発明14が、「(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(d)得られた混合物(M)と(b)の細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ;」という順序で行われるのに対し、引用発明は、感染性組換えAAV粒子、被験者からの生体サンプル及び(b)の細胞の三者の混合順序が不明である点。
(相違点3)本願発明14が、「(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップであって、これによって、前記生体サンプルにおいてAAVに結合する抗体を測定及び定量するステップ」であるのに対し、引用発明は陰性対照と比較しているか否かが不明である点。
(相違点4)本願発明14が「リポータトランスジーンが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)又はアルカリホスファターゼをコードする」のに対し、引用発明のリポータートランスジーンはルシフェラーゼである点。

(2)判断
ア 相違点1について
引用文献1において、scAAVベクターの作り方を参照する文献A及び文献Bには、scAAVベクターの一方にはTRまたはITRが存在することが明らかにされている(第5の5の(1)-(3)、第5の6の(1)-(4)参照。)。したがって、引用発明においても1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされているから、1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている点は実質的な相違点ではない。
また、本願明細書の段落【0039】-【0041】の
「【0039】
従って、「相補性」及び「相補体」という用語は、トランスジーンなどのポリヌクレオチド又は核酸分子に関して用いられる場合、二本鎖若しくは二重螺旋ポリヌクレオチド又は核酸分子が形成する物理的状態を示すか、あるいは、単に、各一本鎖分子が、他方と二本鎖を形成することができるような、2つのポリヌクレオチド又は核酸分子同士の配列関係を表す。従って、「相補性」及び「相補体」は、各ポリヌクレオチド又は核酸分子鎖の塩基の関係を指すのであって、2本の鎖が、二本鎖(若しくは二重螺旋)立体配置、又は二重螺旋における相互の物理的状態として存在しなければならない関係ではない。
【0040】
典型的には、AAVなどの一本鎖核酸をパッケージングするウイルスベクターの場合、逆方向末端反復配列(ITR)配列は、複製に参加して、ヘアピンループを形成し、これが、第2のDNA鎖の開始及び合成を可能にするような自己プライミング(self-priming)に寄与する。第2DNA鎖の合成後、AAV ITRは、いわゆる末端分離部位(TRS)を有し、これによって、ヘアピンループが、各々ウイルスパッケージングのための5’及び3’末端反復配列を有する2つの一本鎖に切断される。
【0041】
少なくとも1つのITRにおける、欠失、突然変異、修飾、又は非機能性TRSの使用によって、TRSで切断されていない二本鎖二重螺旋が形成される。自己相補的リポータトランスジーン二本鎖二重螺旋構造の実施形態では、典型的に、2つの相補鎖の間に位置する欠失、突然変異、又は変異型TRSを有するITRが存在する。非切断性又は非分離性TRSは、二本鎖形態が切断されないことから、自己相補的リポータトランスジーン二本鎖二重螺旋構造の形成を可能にする。…」
との記載によれば、「自己相補的リポータトランスジーン」とは二本鎖二重螺旋構造が形成されるリポータートランスジーンを含むものと解されるところ、引用文献1においてscAAV-Lucについて参照する文献Aの「効果は、レプリケーションフォークがゲノムのwt末端から始まり、末端分解を行わずに変異末端を通過し、反対側の鎖を鋳型としてゲノムを横切って戻り、二量体を生成することにある。生成物は、中央に変異体のTRがあり、各末端にwtのTRがある自己相補的なゲノム」との記載、及び、同じく、引用文献1においてscAAV-Lucについて参照する文献Bの図1 bのdsAAVに関する図示を参照すれば、引用発明のscAAV-Lucのレポータートランスジーンであるルシフェラーゼ遺伝子部分は二本鎖二重螺旋を形成しており、自己相補的であるといえる。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
引用文献1が参照する引用文献2が更に参照する引用文献3には、「lacZを発現するAAVベクターを連続希釈した患者血清とインキュベートすることにより、AAV中和抗体価を決定し、この混合物をHEK293細胞に導入した。」と記載されており、これは本願発明の(c)及び(d)のプロセスに相当する。
よって、相違点2も実質的な相違点ではないか、相違点であるとしても引用文献3の記載に基づき、引用発明において(c)及び(d)のプロセスを採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
引用文献1が抗体アッセイに関して参照する引用文献2が更に参照する引用文献3には、抗体アッセイに関して「OD_(420)がrAAV-lacZが陰性対照マウス血清とプレインキュベートされたときに観察される値の50%以下であった場合、血清はAAV抗体を中和するための陽性としてスコア付けされた。」と記載されており、陰性対照との比較により抗体を測定することは記載されている。
よって、相違点3も実質的な相違点ではないか、相違点であるとしても引用文献3の記載に基づき陰性対照との比較により抗体を測定することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

エ 相違点4について
文献A及び文献Bに記載されるように、AAVで用いるレポーター遺伝子としてGFPは周知のレポーター遺伝子である。
引用発明において、ルシフェラーゼに替えてGFPを用いることは、好適なレポーター遺伝子を選択した結果にすぎない。
また、GFPを選択することによる効果も異質又は格別顕著なものでない。

オ 小括
したがって、本願発明14は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2-9、引用文献1が参照する文献A並びに文献Bに記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 本願発明1についての判断
本願発明1は、本願発明14を含む上位概念であるので、前記2と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび

上記のとおりであるから、本願発明1および14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-11-04 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-30 
出願番号 特願2016-525827(P2016-525827)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 匡子  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 小暮 道明
山本 晋也
発明の名称 AAVベクター、及び抗AAV(アデノ関連ウイルス)中和抗体についてのアッセイ  
代理人 村越 智史  

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