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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1373092
審判番号 不服2020-3236  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-09 
確定日 2021-04-15 
事件の表示 特願2015-508765「静電容量型センサシート及び静電容量型センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日国際公開、WO2014/157627〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)3月28日(優先日主張 2013年(平成25年)3月29日)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年10月12日付けで拒絶理由が通知され、平成30年2月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月31日付けで拒絶理由が通知され、同年12月19日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成31年4月25日付けで最後の拒絶理由が通知され、令和元年11月28日付けで拒絶査定されたところ、令和2年3月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。
そして、同年11月24日に上申書が提出されている。

第2 本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。なお、下線部分は補正箇所である。

「【請求項1】
伸縮変形歪み量及び伸縮変形歪み分布の少なくとも一方を測定するために用いられる静電容量型センサシートであって、
誘電層と、前記誘電層の表面に積層された表側電極層と、前記誘電層の裏面に積層された裏側電極層とを含み、
前記誘電層はウレタンゴムを含むエラストマー組成物(但し、酢酸ビニルの共重合体を含むものを除く)からなり、
前記表側電極層及び裏側電極層は、導電成分としてカーボンナノチューブのみを含む導電性組成物からなり、
一軸引張りに耐えられる伸長率が100%以上である、静電容量型センサシート。」

(2)本件補正前の、平成30年12月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
伸縮変形歪み量及び伸縮変形歪み分布の少なくとも一方を測定するために用いられる静電容量型センサシートであって、
誘電層と、前記誘電層の表面に積層された表側電極層と、前記誘電層の裏面に積層された裏側電極層とを含み、
前記誘電層はウレタンゴムを含むエラストマー組成物(但し、酢酸ビニルの共重合体を含むものを除く)からなり、
前記表側電極層及び裏側電極層はカーボンナノチューブを含む導電性組成物からなり、
一軸引張りに耐えられる伸長率が100%以上である、静電容量型センサシート。」

2 補正の適否
(1)本件出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)には、本件補正に係る「導電成分としてカーボンナノチューブのみを含む」という表記そのものの記載はないものの、その段落【0045】に「上記カーボンナノチューブは、純度が99重量%以上であることが好ましい。カーボンナノチューブは、その製造工程において、触媒金属やナノチューブ化されていない炭素物質(アモルファスカーボン、グラファイト等)、分散剤等が含まれることがある。このようなカーボンナノチューブ以外の成分(不純物)を多量に含有するカーボンナノチューブを用いて電極層を形成した場合、電極層の導電性や伸長率が低下することがあり、また、電極層の弾性率が上昇し、センサシートが硬くなり、その伸縮性が低下するおそれがあるからである。」と記載されていることからみて、上記補正事項が実質的に記載されているといえる。
したがって、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(2)本件補正は、請求項1において、その発明特定事項である「表側電極層及び裏側電極層」について、補正前の「カーボンナノチューブを含む導電性組成物からなり」を「導電成分としてカーボンナノチューブのみを含む導電性組成物からなり」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献及びその記載事項
(ア)本願優先日前に頒布され、原審の最後の拒絶理由において引用文献7として引用された特開2010-43880号公報には、「静電容量型センサ」について、図1ないし4とともに次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。以下同様。)

(引7-ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間の静電容量変化に基づいて変形を検出する静電容量型センサに関する。」

(引7-イ)
「【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、伸縮柔軟性を有し、曲げ等の変形が検出可能であると共に、センサ部品の集積化が容易で量産に好適な静電容量型センサを提供することを課題とする。」

(引7-ウ)「【0012】
また、一対の電極は、エラストマーを母材とする。このため、柔軟であり、誘電層と一体となって変形することができる。つまり、誘電層が伸長されたり曲げ変形した場合でも、誘電層の変形に追従して変形することができる。ここで、本明細書における「変形」には、圧縮、伸長、曲げ等による変形がすべて含まれる。このように、一対の電極が誘電層の変形に応じて伸縮可能であるため、曲面形状に対しても、本発明の静電容量型センサを容易に装着することができる。また、繰り返し使用しても、電極と誘電層とは剥離しにくい。このため、本発明の静電容量型センサは耐久性に優れる。
【0013】
また、一対の電極は、エラストマーを母材とするため、布製の電極とは異なり緻密である。加えて、後述する導電性フィラーによる導電パスの形成により、導電性は良好で、かつ伸縮しても導電性の変化は小さい。したがって、誘電層の変形量が大きい場合でも、電極としての機能が低下しにくい。」

(引7-エ)「【0033】
<静電容量型センサの構成>
本発明の静電容量型センサは、エラストマー製の誘電層と、該誘電層を介して配置されている一対の電極と、を備えてなる。誘電層を構成するエラストマーは、ゴムおよび熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。また、エラストマーは発泡体であってもよい。エラストマーの種類は、特に限定されるものではない。例えば、キャパシタンスを大きくするという観点では、比誘電率が高いものが望ましい。例えば、常温における比誘電率が3以上、さらには5以上のものが望ましい。例えば、エステル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アミド基、スルホン基、ウレタン基、ニトリル基等の極性官能基を有するエラストマー、あるいは、これらの極性官能基を有する極性低分子量化合物を添加したエラストマーを採用すると好適である。エラストマーは架橋されていても、されていなくてもよい。また、エラストマーのヤング率を調整することにより、用途に応じて検出感度や検出レンジを調整すればよい。例えば、ヤング率の小さな発泡体を採用すると、小さな変形を検出しやすい。
【0034】
好適なエラストマーとしては、例えばシリコーンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム等が挙げられる。」

(引7-オ)「【0039】
電極において、エラストマー中に配合されている導電性フィラーは、導電性を有する粒子であればよく、炭素材料や金属等の微粒子を用いればよい。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。例えば、比較的安価で、導電パスの形成が容易であるという理由から、炭素材料を用いることが望ましい。炭素材料としては、粒子径が小さく凝集しやすいという理由から、例えば、ケッチェンブラック等の導電性に優れるカーボンブラックが好適である。
【0040】
導電性フィラーの形状は、球状、針状、角柱状等、特に限定されるものではない。例えば、導電性フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上が望ましい。例えば、アスペクト比の比較的大きな針状の導電性フィラーを用いると、三次元的な導電ネットワークを形成しやすく、少量で高い導電性が実現できる。加えて、電極伸縮時の導電性変化を抑制することができる。」

(引7-カ)「【0043】
電極の厚さは、特に限定されるものではないが、誘電層に対する追従性を考慮し、センサの小型化を図るという観点から、1μm以上100μm以下であることが望ましい。また、誘電層の変形に対する追従性を高めるため、電極のヤング率を、0.1MPa以上10MPa以下とすることが望ましい。同様に、引張り試験(JIS K6251)における切断時伸びは、200%以上であることが望ましい。」

(引7-キ)「【0048】
また、配線を構成する導電性フィラーの種類は、導電性が高いものであれば、特に限定されるものではない。例えば、銀、金、銅、ニッケル等の金属粉を採用すればよい。また、所望の導電性を発現させるため、エラストマーにおける導電性フィラーの充填率は、配線の体積を100vol%とした場合の20vol%以上であることが望ましい。一方、導電性フィラーの充填率が65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。加えて、配線の伸縮性が低下する。このため、50vol%以下であることが望ましい。」

(引7-ク)「【0052】
誘電層用塗料は、誘電層の形成成分(エラストマー、添加剤等)を溶剤に混合して調製すればよい。電極用塗料、配線用塗料についても、同様に、各々の形成成分を溶剤に混合して調製すればよい。各々の塗料は、採用する印刷法に適した粘度になるよう、適宜、固形分濃度を調整すればよい。
【0053】
本発明の静電容量型センサの製造方法として、例えば、以下の三態様が挙げられる。第一の方法は、誘電層の表面および裏面に、電極および配線を各々印刷する方法である。本方法では、まず、誘電層となるエラストマー製シートを準備する。そして、シート表面に、配線用塗料を印刷し、乾燥および架橋させる。続いて、同表面に、電極用塗料を印刷し、乾燥および架橋させる。その後、必要に応じて、電極および配線を覆うように絶縁被膜を形成する。次に、シートを裏返して、シートの裏面に、上記同様に、配線用塗料、電極用塗料を各々印刷し、乾燥および架橋させる。また、必要に応じて、電極および配線を覆うように絶縁被膜を形成する。」

(引7-ケ)「【0056】
<実施形態>
以下、本発明の静電容量型センサの実施形態例を説明する。なお、本発明の静電容量型センサの実施形態は、本実施形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することが可能である。
【0057】
まず、本実施形態の静電容量型センサの構成について説明する。図2に、静電容量型センサの上面図を示す。図3に、図2のIII-III断面図を示す。図2、図3に示すように、静電容量型センサ1は、誘電層2と一対の電極3a、3bと配線4a、4bとカバーフィルム5a、5bとを備えている。
【0058】
誘電層2は、ウレタンゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。誘電層2の厚さは、約300μmである。
【0059】
電極3aは、長方形状を呈している。電極3aは、誘電層2の上面に、スクリーン印刷により三つ形成されている。同様に、電極3bは、長方形状を呈している。電極3bは、誘電層2を挟んで電極3aと対向するように、誘電層2の下面に三つ形成されている。電極3bは、誘電層2の下面に、スクリーン印刷されている。このように、誘電層2を挟んで、電極3a、3bが三対配置されている。
【0060】
電極3a、3bは、アクリルゴム中に、ケッチェンブラックが充填されたエラストマー材料からなる。電極3a、3bにおけるケッチェンブラックの充填率は、電極3a、3bの体積を各々100vol%とした場合の約15vol%である。また、アクリルゴムにケッチェンブラックを混合したエラストマー組成物のパーコレーションカーブにおいて、臨界体積分率(φc)は約4vol%、飽和体積分率(φs)は約15vol%である。
【0061】
配線4aは、誘電層2の上面に形成された電極3aの一つ一つに、それぞれ接続されている。配線4aにより、電極3aとコネクタ6とが結線されている。配線4aは、誘電層2の上面に、スクリーン印刷により形成されている。同様に、配線4bは、誘電層2の下面に形成された電極3bの一つ一つに、それぞれ接続されている(図2中、点線で示す)。配線4bにより、電極3bとコネクタ(図略)とが結線されている。配線4bは、誘電層2の下面に、スクリーン印刷により形成されている。配線4a、4bは、ウレタンゴム中に、銀粉末が充填されたエラストマー材料からなる。
【0062】
カバーフィルム5aは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム5aは、誘電層2、電極3a、配線4aの上面を覆っている。同様に、カバーフィルム5bは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム5bは、誘電層2、電極3b、配線4bの下面を覆っている。カバーフィルム5a、5bは、本発明における絶縁被膜に含まれる。
【0063】
次に、静電容量型センサ1の動きについて説明する。例えば、静電容量型センサ1が上方から押圧されると、誘電層2、電極3a、カバーフィルム5aは一体となって、下方に湾曲する。圧縮により、誘電層2の厚さは小さくなる。その結果、電極3a、3b間のキャパシタンスは大きくなる。このキャパシタンス変化により、圧縮による変形が検出される。
【0064】
次に、本実施形態の静電容量型センサ1の作用効果について説明する。本実施形態の静電容量型センサ1によると、誘電層2、電極3a、3b、配線4a、4b、カバーフィルム5a、5bは、いずれもエラストマー材料からなる。このため、静電容量型センサ1の全体が柔軟であり、伸縮可能である。また、静電容量型センサ1が、圧縮、伸長等により変形すると、キャパシタンスが変化する。このキャパシタンス変化により、静電容量型センサ1は、様々な変形を検出することができる。また、配置場所の自由度も高い。
【0065】
また、電極3a、3b間には、比誘電率の高いウレタンゴム製の誘電層2が介在されている。よって、単に電極3a、3bを空隙を介して対向配置したものと比較して、キャパシタンスが大きく、検出感度が高い。また、電極3a、3bは伸縮可能であり、誘電層2の変形に追従して変形することができる。よって、繰り返し使用しても、電極3a、3bと誘電層2とは剥離しにくい。このため、静電容量型センサ1は耐久性に優れる。また、最表面には、カバーフィルム5a、5bが配置されている。このため、電極3a、3bおよび配線4a、4bからの導電を遮断することができる。よって、静電容量型センサ1の安全性は高い。
【0066】
なお、本実施形態の静電容量型センサ1には、誘電層2を狭んで対向する電極3a、3bが、三対形成されている。しかし、電極の数、大きさ、配置等は、用途に応じて、適宜決定すればよい。」

(引7-コ)「【0074】
製造された静電容量型センサ1について、伸長変形に対するキャパシタンス変化を測定した。測定は、静電容量型センサ1に形成された三対の電極のうち、一対の電極部分(センサユニット)について行った。すなわち、センサユニットの長手方向両端をジグで把持し、センサユニットを伸長させた。そして、伸長時のキャパシタンス変化を測定した。図4に、変形比に対するキャパシタンス変化を示す。ここで、変形比とは、電極の長手方向(伸長方向)における初期長さa_(0)に対する伸長後の長さaの比(a/a_(0))である。
【0075】
図4に示すように、変形比に対して、キャパシタンスは線形に増加した。つまり、伸長量が大きくなるに従って、キャパシタンスは増加した。また、センサユニットを、変形比1.5まで伸長しても(50%程度の伸長を行っても)、配線や電極の断線は生じなかった。このように、本発明の静電容量型センサは、伸縮柔軟性を有し、変形を正確に検出可能であることが確認された。」

(引7-サ【図2】




(引7-シ【図3】




(引7-ス【図4】




(イ)引用文献7に記載された発明
上記(引7-ア)ないし(引7-ス)の記載から、引用文献7には、

「 誘電層2と一対の電極3a、3bと配線4a、4bとカバーフィルム5a、5bとを備え、電極間の静電容量変化に基づいて変形を検出する静電容量型センサ1であって、
誘電層2は、厚さ約300μmのウレタンゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈しており、
電極3a、3bは、アクリルゴム中にケッチェンブラックが充填されたエラストマー材料からなり、
電極3aは、長方形状を呈し、誘電層2の上面にスクリーン印刷により三つ形成されており、
電極3bは、長方形状を呈し、誘電層2の下面にスクリーン印刷されて、誘電層2を挟んで電極3aと対向するように誘電層2の下面に三つ形成されており、
このように、誘電層2を挟んで、電極3a、3bが三対配置されており、
配線4a、4bは、ウレタンゴム中に、銀粉末が充填されたエラストマー材料からなり、
配線4aは、誘電層2の上面に、スクリーン印刷により形成されており、誘電層2の上面に形成された電極3aの一つ一つに、それぞれ接続され、配線4aにより、電極3aとコネクタ6とが結線されており、
配線4bは、誘電層2の下面に、スクリーン印刷により形成されており、誘電層2の下面に形成された電極3bの一つ一つに、それぞれ接続され、配線4bにより、電極3bとコネクタとが結線されており、
静電容量型センサ1の全体が柔軟で伸縮可能であり、静電容量型センサ1が圧縮、伸長等により変形するとキャパシタンスが変化し、このキャパシタンス変化により様々な変形を検出することができ、
三対の電極のうち、一対の電極部分(センサユニット)について、センサユニットの長手方向両端をジグで把持してセンサユニットを伸長させたとき、センサユニットを変形比1.5まで伸長しても(50%程度の伸長を行っても)、配線や電極の断線は生じない、
静電容量型センサ1。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(ウ)本願優先日前の2013年3月7日に国際公開され、原審の最後の拒絶理由において引用文献8として引用された国際公開第2013/031958号には、「カーボンナノチューブ複合材料及び導電材料」について、図1ないし9とともに次の事項が記載されている。

(引8-ア)「[0003] ポリマーフォームおよびエラストマーに導電性フィラーを配合したカーボンナノチューブ複合材料や導電材料は、各種の用途、たとえば、電子商品、コンピュータ、医用機器などにおいて、電磁遮蔽および/または静電気放散をさせるためのガスケットやシールとして広く用いられている。過去においては、通常、金属やカーボンブラックなどの微粒子をもちいることにより電気導電性を与えていた。電子部品の小型化と、プラスチック部品の利用が進むにつれて、特に民生用電子機器では、より高導電性を有するカーボンナノチューブ複合材料や導電材料が必要とされてきている。そこで、導電性に優れたカーボンナノチューブは、導電性フィラーとして注目されている。」

(引8-イ)「[0027] 本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料及び導電材料は、カーボンナノチューブが存在する導電領域が連続的な導電路を効率良く形成するため、少ないカーボンナノチューブの配合量で、高い導電性を有する。また、本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料及び導電材料は、カーボンナノチューブとマトリックス各々が優れた変形能を有し、互いの変形に追随して変形するため、ひずみなどの応力が繰り返されてもカーボンナノチューブが存在する導電領域の構造変化や亀裂、破断などを未然に防止することができる。これによって、本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料及び導電材料はひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を発揮できる。」

(引8-ウ)「[0047] 本発明のカーボンナノチューブ複合材料に用いるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブが好ましい。単層カーボンナノチューブは優れた変形能を有し、マトリックスの変形に追随して変形するため、好ましい。」

(引8-エ)「[0054][カーボンナノチューブ複合材料の用途]
本発明のカーボンナノチューブ複合材料は高導電性を備え、ひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を有するため導電材料として用いることができ、例えば、アクチュエータ、センサー、トランスデューサ等の電子機器や、太陽電池、有機EL等に用いることができる。」

(エ)本願優先日前に頒布され、原審の最後の拒絶理由において引用文献3として引用された特開2005-223025号公報には、「カーボンナノファイバーを用いる高分子アクチュエータ」について、図1ないし16とともに次の事項が記載されている。

(引3-ア)「【0011】
電極24の材料は、カーボンナノファイバーを用いる。カーボンナノファイバーは、例えば気相成長法によって得られるカーボンナノチューブ等を好適に用いることができる。この気相成長法によるカーボンナノファイバーは、直径が数十nm?百数十nm程度で、長さが数μm?十数μm程度の極細の繊維状をなすものである。
【0012】
電極材料としては、カーボンナノファイバーのみを用いるのが好適であるが、カーボンナノファイバーにグラファイトやカーボンなどの炭素成分を混入したものであってもよい。
この電極材料を用いて、柔軟性を有する高分子材料からなるシート体22の両面に電極24を形成する。
【0013】
電極24の形成方法の一例を説明する。
まず第1の方法としては、カーボンナノファイバーをエタノール等の溶媒中に分散してペースト状にし、このペーストをシート体22の両面に塗布し、次いで乾燥させて電極24とする。なお、乾燥させて後、表面をローラ等で押圧することによって、カーボンナノファイバーをシート体22表面に完全に付着させるようにするとよい。またこのように、押圧することによって、カーボンナノファイバーの一端側がシート体22の表面に食い込む(埋没)ようになる。
なお、カーボンナノファイバーの脱落防止のため、適宜な導電性樹脂による塗膜をカーボンナノファイバー上に形成するようにするとよい。
【0014】
カーボンナノファイバーは、前記のように、極細の繊維状をなすことから、この繊維状をなすカーボンナノファイバーが多数集合している電極24は、従来の金の微粒子が付着し合っている電極と相違し、シート体22が大きく変形しても、屈曲性に優れたカーボンナノファイバーはシートに追随して変形するので、繊維間が分離することなく、接触を保ったまま、シート体22の変形に追随するのである。
このように、シート体22が大きく変形しても、電極24がヒビ割れ等によって破壊されず、電極の機能が保たれるから、シート体22が大きく変形可能なのである。
すなわち、高分子材料からなるシート体22はもともとは大きな変形可能性を有していたものであった。
本発明では、カーボンナノファイバー同士が接触しているだけの柔らかく、かつカーボンナノファイバー同士の接触が維持されつつシート体22の変形に追従する電極24を設けたので、もともと大きな変形可能性のあった材料の変形を最大限取りだし可能としたものである。」

(引3-イ)「【0025】
本発明に係るアクチュエータは、柔軟性を有するシート体の変形を利用するものであるため、大きな力を要する分野でのアクチュエータとしては用いることはできないが、小さな力で駆動できる、微小電気部品におけるスイッチ駆動部、反射ミラーなどの角度切換駆動体などとして使用可能である。」

ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを比較すると、
(ア)引用発明の「静電容量型センサ1」は、その「誘電層2は、厚さ約300μmのウレタンゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈して」いるものであり、上記(引7-サ)の【図2】に示された上面図及び(引7-シ)の【図3】に示された断面図を参照すると、全体としてシート状の形状を有しているといえる。
したがって、引用発明の「静電容量型センサ1」は、本件補正発明の「静電容量型センサシート」に相当する。

(イ)引用発明の「圧縮、伸長等によ」る「変形」は、本件補正発明の「伸縮変形」に相当する。

(ウ)上記(引7-コ)の段落【0075】の「図4に示すように、変形比に対して、キャパシタンスは線形に増加した」との記載から、引用発明の「静電容量型センサ1」は「変形比」を検出することが可能であるから、引用発明の「変形を検出する」は、「変形比を検出する」ことを包含しているといえる。
そして、上記(引7-コ)の段落【0074】の記載によれば、ここでの「変形比」は、「電極の長手方向(伸長方向)における初期長さa_(0)に対する伸長後の長さaの比(a/a_(0))」であるから、「(変形比)-1」により「歪み量」に変換可能であり、本件補正発明の「歪み量」と技術的に等価であるといえる。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明の「静電容量型センサ1が圧縮、伸長等により変形するとキャパシタンスが変化し、このキャパシタンス変化により様々な変形を検出することができ」、「電極間の静電容量変化に基づいて変形を検出する静電容量型センサ1」は、本件補正発明の「伸縮変形歪み量及び伸縮変形歪み分布の少なくとも一方を測定するために用いられる静電容量型センサシート」のうち、「伸縮変形歪み量を測定するために用いられる静電容量型センサシート」に相当する。

(オ)引用発明の「誘電層2」は、本件補正発明の「誘電層」に相当する。

(カ)引用発明の「電極3a、3b」は、それぞれ「スクリーン印刷」により形成されるから、「層」を形成しているといえる。
すると、引用発明の「誘電層2の上面にスクリーン印刷により三つ形成されて」いる「電極3a」及び「誘電層2の下面にスクリーン印刷されて」「誘電層2の下面に三つ形成されて」いる「電極3b」は、それぞれ本件補正発明の「前記誘電層の表面に積層された表側電極層」及び「前記誘電層の裏面に積層された裏側電極層」に相当する。

(キ)「ウレタンゴム」は、「酢酸ビニルの共重合体」ではないから、引用発明の「誘電層2は、」「ウレタンゴム製であって」は、本件補正発明の「前記誘電層はウレタンゴムを含むエラストマー組成物(但し、酢酸ビニルの共重合体を含むものを除く)からなり」を満たす。

(ク)上記(引7-オ)の段落【0039】の「電極において、エラストマー中に配合されている導電性フィラーは、導電性を有する粒子であればよく、炭素材料や金属等の微粒子を用いればよい。・・・・・導電パスの形成が容易であるという理由から、炭素材料を用いることが望ましい。炭素材料としては、粒子径が小さく凝集しやすいという理由から、例えば、ケッチェンブラック等の導電性に優れるカーボンブラックが好適である。」との記載を参照すると、引用発明の「ケッチェンブラック」は、「導電性フィラー」としての「炭素材料」である。
そして、引用発明の「エラストマー材料」は、「電極」を構成するものであるから、当然導電性である。
すると、引用発明の「電極3a、3bは、アクリルゴム中にケッチェンブラックが充填されたエラストマー材料からなり」と、本件補正発明の「前記表側電極層及び裏側電極層は、導電成分としてカーボンナノチューブのみを含む導電性組成物からなり」とは、「前記表側電極層及び裏側電極層は、導電成分として炭素材料のみを含む導電性組成物からなり」で共通する。

(ケ)引用発明は、「センサユニットを変形比1.5まで伸長しても(50%程度の伸長を行っても)、配線や電極の断線は生じない」ものであるから、「静電容量型センサ1」全体としても伸長率50%程度の一軸引張りに耐えられるといえる。
すると、引用発明の「センサユニットを変形比1.5まで伸長しても(50%程度の伸長を行っても)、配線や電極の断線は生じない、静電容量型センサ1」と、本件補正発明の「一軸引張りに耐えられる伸長率が100%以上である、静電容量型センサシート」とは、「伸長率が50%程度までの一軸引張りに耐えられる、静電容量型センサシート」で共通する。

(コ)そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
(一致点)
「伸縮変形歪み量を測定するために用いられる静電容量型センサシートであって、
誘電層と、前記誘電層の表面に積層された表側電極層と、前記誘電層の裏面に積層された裏側電極層とを含み、
前記誘電層はウレタンゴムを含むエラストマー組成物(但し、酢酸ビニルの共重合体を含むものを除く)からなり、
前記表側電極層及び裏側電極層は、導電成分として炭素材料のみを含む導電性組成物からなり、
伸長率が50%程度までの一軸引張りに耐えられる、静電容量型センサシート。」
の点で一致し、以下の2点において相違する。

(相違点1)
「表側電極層及び裏側電極層」を構成する「導電性組成物」が「導電成分」として含む「炭素材料」が、本件補正発明においては「カーボンナノチューブ」であるのに対して、引用発明においては「ケッチェンブラック」である点。

(相違点2)
「伸長率が50%程度までの一軸引張りに耐えられる」ことについて、本件補正発明においては「一軸引張りに耐えられる伸長率が100%以上である」のに対して、引用発明においては「センサユニットを変形比1.5まで伸長しても(50%程度の伸長を行っても)、配線や電極の断線は生じない」ものの、変形比が1.5よりも大きい伸長に耐えられるかは不明な点。

エ 判断
(ア)相違点1について
本件出願の明細書の段落【0005】に「伸縮変形歪み量や伸縮変形歪み分布の測定に使用する静電容量型センサシートでは、その使用態様にもよるが、測定時の誘電層の変位量(伸長率)が100%を超えることも珍しくない。・・・・・特に、カーボンブラック等の導電性フィラーを用いて電極層を形成した場合には、誘電層の伸長にともなって電極層が伸長した際に導電パスが切断されやすく、伸縮変形歪み量及び伸縮変形歪み分布の測定に使用することができなかった。」、同段落【0008】に「本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い伸長率を有し、柔軟な測定対象物の変形や動作に追従することが可能で、かつ伸縮変形や繰り返し変形に対する耐久性に優れ、伸縮変形歪み量及び伸縮変形歪み分布の少なくとも一方を測定するために用いることができる静電容量型センサシートを提供することにある。」及び同段落【0015】に「本発明の静電容量型センサシートは、ウレタンゴム製の誘電層と、カーボンナノチューブを含む導電性組成物からなる電極層とを含んでいるため、高い伸長率を有し、柔軟な測定対象物の変形や動作に追従することが可能で測定精度に優れ、かつ伸縮変形や繰り返し変形に対しても誘電層と電極層との間で剥離が発生することがなく耐久性(長期信頼性)に優れ、伸縮変形歪み量及び伸縮変形歪み分布の少なくとも一方を測定するのに好適に使用することができる。」と記載されていることからみて、本件補正発明において「導電成分」としての「カーボンナノチューブ」の技術的意義は、「カーボンブラックよりも高い伸長率及び耐久性(長期信頼性)を保持させる」ことにあるといえる。
一方、引用文献8には、上記(引8-ア)の「過去においては、通常、金属やカーボンブラックなどの微粒子をもちいることにより電気導電性を与えていた。・・・・・より高導電性を有するカーボンナノチューブ複合材料や導電材料が必要とされてきている。そこで、導電性に優れたカーボンナノチューブは、導電性フィラーとして注目されている。」、(引8-イ)の「本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料及び導電材料は、カーボンナノチューブとマトリックス各々が優れた変形能を有し、互いの変形に追随して変形するため、ひずみなどの応力が繰り返されてもカーボンナノチューブが存在する導電領域の構造変化や亀裂、破断などを未然に防止することができる。」及び(引8-ウ)の「本発明のカーボンナノチューブ複合材料は高導電性を備え、ひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を有するため導電材料として用いることができ、例えば、アクチュエータ、センサー、トランスデューサ等の電子機器や、太陽電池、有機EL等に用いることができる。」との記載からみて、導電材料の一般技術分野において「高導電性及び優れた耐久性とするために、カーボンブラックの代わりにカーボンナノチューブを導電材料としてカーボンナノチューブ複合材料を構成する」ことが開示されているといえる。
そして、引用文献8には、その「導電材料」を「アクチュエータ、センサー、トランスデューサ等の電子機器」に用いることが記載されているものの、「電極」に用いることまでは記載されていないが、「アクチュエータ、センサーあるいはトランスデューサ等」の技術分野においては、例えば、本願優先日前に頒布され、原審の拒絶理由において引用された特表2012-500611号公報(最後の拒絶理由における引用文献2)に「【0014】・・・・・プラスチックは、少なくとも電極においてカーボンナノチューブを埋め込む母材を形成する。・・・・・」、特開2010-207985号公報(最後の拒絶理由における引用文献11)に「【0037】電極層46a、46bは、後述する誘電膜44の伸縮に応じて伸縮可能であることが望ましい。電極層46a、46bとしては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンに、バインダーとしてオイルやエラストマーを混合したペーストまたは塗料から電極を形成することが好ましい」、特開2010-110090号公報(最後の拒絶理由における引用文献12)に「【0017】一方、電極層20を形成するために誘電性エラストマー10の表層に含浸される炭素系導電性フィラーとしては、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック、グラファイトなどが好適である。・・・・・このようなアスペクト比を満たすことから、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブが特に好ましい。」、特開2010-109121号公報(最後の拒絶理由における引用文献1)に「【0031】誘電膜の表面に配置される電極の材質等は、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料や金属からなる導電材に、バインダーとしてオイルやエラストマーを混合したペーストまたは塗料を塗布した電極・・・・・を使用することができる。」あるいは特開2005-223025号公報(引用文献3)に「【0011】電極24の材料は、カーボンナノファイバーを用いる。カーボンナノファイバーは、例えば気相成長法によって得られるカーボンナノチューブ等を好適に用いることができる。」と記載されているように、「アクチュエータ、センサー等」において「電極の材料としてカーボンナノチューブを採用する」ことが本件出願優先日前において周知であることを考慮すると、引用文献8記載の「導電材料」の対象として「電極」が含まれていることは、本件出願の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)において自明な事項であるといえる。
そうすると、引用文献8の「カーボンナノチューブ複合材料」は、本件補正発明の「導電性組成物」に相当するといえる。
また、上記(引7-オ)の「【0039】電極において、エラストマー中に配合されている導電性フィラーは、導電性を有する粒子であればよく、炭素材料や金属等の微粒子を用いればよい。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。例えば、比較的安価で、導電パスの形成が容易であるという理由から、炭素材料を用いることが望ましい。炭素材料としては、粒子径が小さく凝集しやすいという理由から、例えば、ケッチェンブラック等の導電性に優れるカーボンブラックが好適である。【0040】導電性フィラーの形状は、球状、針状、角柱状等、特に限定されるものではない。例えば、導電性フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上が望ましい。例えば、アスペクト比の比較的大きな針状の導電性フィラーを用いると、三次元的な導電ネットワークを形成しやすく、少量で高い導電性が実現できる。加えて、電極伸縮時の導電性変化を抑制することができる。」からみて、また、粒子状のカーボンブラックである「ケッチェンブラック」よりも「カーボンナノチューブ」の方がアスペクト比を大きくすることができることも技術常識であるといえるから、引用発明において、「アスペクト比の比較的大きな針状の導電性フィラー」とするために、その「ケッチェンブラック」を「カーボンナノチューブ」へ変更することには、当業者において十分動機付けがあるといえる。
また、上記(引7-オ)の「【0039】・・・・・比較的安価で、導電パスの形成が容易であるという理由から、炭素材料を用いることが望ましい。」からみて、「カーボンナノチューブ」も、「ケッチェンブラック」と同様に代表的な炭素材料であって、排除されていないといえる。そして、引用発明においてその「ケッチェンブラック」を「カーボンナノチューブ」へ変更したとしても、上記(引7-イ)の段落【0007】に記載された「伸縮柔軟性を有し、曲げ等の変形が検出可能であると共に、センサ部品の集積化が容易で量産に好適な静電容量型センサを提供する」という課題を達成するのであるから、「カーボンナノチューブ」が「ケッチェンブラック」よりも高価であるとしても、該変更を阻害する要因になるとまではいえない。
してみると、引用発明において、上記引用文献8記載の技術事項及び周知の事項を転用して、相違点1における本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

(イ)相違点2について
本件補正発明の「伸長率」については、本件出願の明細書の段落【0025】には、「本発明の静電容量型センサシートは、一軸引張りに耐えられる伸長率が30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、100%以上であることが更に好ましく、200%以上であることが特に好ましい。一方、一軸引張りに耐えられる伸長率の上限は特に限定されないが、600%程度である。 上記伸長率を大きくすることで、柔軟な測定対象物の変形や動作に対する追従性が向上し、より正確に、かつ広い測定レンジで測定することが可能となるからである。」と記載されている。
上記記載からみて、本件補正発明の「伸長率100%以上」の下限値「100%」には臨界的意義はなく、単に「伸長率」が大きい方が望ましいことを意味しているにすぎず、当該数値は設計的事項であるといえる。
一方、上記(引7-カ)には「【0043】・・・・・誘電層の変形に対する追従性を高めるため、電極のヤング率を、0.1MPa以上10MPa以下とすることが望ましい。同様に、引張り試験(JIS K6251)における切断時伸びは、200%以上であることが望ましい。」との記載があり、該「切断時伸びは、200%以上」が本件補正発明の「伸長率100%以上」を直接に意味するものではないものの、引用発明における「配線や前記電極の断線は生じない」「変形比」を「1.5(50%程度の伸長)」より大きくする方が望ましいことを意味しているといえる。
そして、上記(引8-イ)の「本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料及び導電材料は、カーボンナノチューブとマトリックス各々が優れた変形能を有し、互いの変形に追随して変形する」からみて、カーボンブラックである「ケッチェンブラック」よりも「カーボンナノチューブ」の方が「マトリックス」の伸縮に対する追従性が高いのであるから、引用発明において、その「ケッチェンブラック」を「カーボンチューブ」に変更すれば、「電極の断線が生じない」「変形比」を1.5よりも大きくすることができることは、当業者であれば予測可能であり、当該「変形比」を2.0以上、すなわち、本件補正発明の「伸長率100%以上」とすることに、困難性があるとはいえない。
また、上記(引7-キ)に「所望の導電性を発現させるため、エラストマーにおける導電性フィラーの充填率は、配線の体積を100vol%とした場合の20vol%以上であることが望ましい。一方、導電性フィラーの充填率が65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。加えて、配線の伸縮性が低下する。このため、50vol%以下であることが望ましい。」と記載されているように、導電性フィラーである銀粉末の充填率を調整することにより配線の伸縮性は調整可能であり、「配線」の「断線が生じない」「変形比」を2.0以上とすることにも、困難性があるとはいえない。
加えて、上記(引8-イ)の記載を勘案すると、配線の伸縮性を電極の伸縮性と同程度のものとするために、配線の導電性フィラーとして銀粉末に代えてカーボンナノチューブを用いることも、当業者であれば容易に想到し得ることであるといえる。
してみると、引用発明に引用文献8記載の技術事項及び周知の事項を適用する場合に、相違点2に係る本件補正発明の構成を備えたものとすることは、設計的事項であるといえる。

(ウ)本件補正発明の奏する作用効果について
本件補正発明によってもたらされる効果は、上記引用文献7及び8の記載並びに周知の事項から予測し得る範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

(エ)したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献8記載の技術事項及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり、本件補正を却下する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成30年12月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし11に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし13に記載された発明に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、引用文献7を主たる引用例とした場合の、請求項とそれに対して引用された引用文献との関係は、以下のとおりである。

・請求項1に対して引用文献7、8
・請求項2ないし7に対して引用文献7、8、12及び13
・請求項8に対して引用文献7ないし9、12及び13
・請求項9に対して引用文献7ないし10、12及び13
・請求項10及び11に対して引用文献3及び7ないし13

引用文献1:特開2010-109121号公報
引用文献2:特表2012-500611号公報
引用文献3:特開2005-223025号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2012-54192号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:14906の化学商品,2006年 1月24日,第1263-1268頁(周知技術を示す文献)
引用文献6:菅沼克昭 他,プリンテッド・エレクトロニクスのための低温配線技術,エレクトロニクス実装学会誌,2011年,Vol.14,No.6,第471-476頁(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2010-43880号公報
引用文献8:国際公開第2013/031958号(周知技術を示す文献)
引用文献9:特開2009-20006号公報
引用文献10:特開2012-225727号公報(周知技術を示す文献)
引用文献11:特開2010-207985号公報(周知技術を示す文献)
引用文献12:特開2010-110090号公報(周知技術を示す文献)
引用文献13:特開2008-227384号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献7、8及び3の記載事項は、上記第2[理由]2(2)イに記載したとおりである。

4 当審の判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、導電性組成物について前記補正事項に係る限定を除いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]2(2)ウ及びエに記載したとおり、引用発明、引用文献8記載の技術事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献8記載の技術事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 請求人の主張について
1 請求人は、審判請求書及び上申書において、以下のように主張している。
(1)「ここでは、本願明細書に記載した(評価1:繰り返し変形に対する電気抵抗の変化の測定)の結果(本願明細書の段落[0091]?[0092]、図6及び図7)と比較するために、導電成分としてカーボンナノチューブに代えてカーボンブラックを採用し、導電成分を変更した以外は評価用サンプル1の作製(本願明細書の段落[0091])と同様の方法を用いて比較評価用サンプルを作製し、この比較評価用サンプルを繰り返し変形させた際の電気抵抗の変化を測定した。
・・・・・
結果を図Aに示します。
[図A]

この比較実験では、・・・・・ウレタンゴムを含むエラストマー組成物からなる誘電層と組み合わせて、導電成分としてカーボンナノチューブのみを含む導電性組成物からなる電極層を採用した場合には、導電成分としてカーボンブラックを含む導電性組成物からなる電極層を採用した場合に比べて、導電性の低下(電気抵抗の増加)を少なくすることができることが明らかです。
本願図面の図6に示した結果では、100回の繰り返し変形を行った際の電気抵抗値は、2回目の変形以降ほとんど変動していませんでした。また、図7に示した結果では、100回の繰り返し変形を行った後に電気抵抗の増加がみられたものの、100回目100%伸長時の電気抵抗値(63kΩ)は、2回目100%伸長時の電気抵抗値(51kΩ)の約1.24倍にすぎませんでした。
これに対して、上記図Aに示した結果では、100回目100%伸長時の電気抵抗値(2115kΩ)は、2回目100%伸長時の電気抵抗値(1174kΩ)に比べて約1.80倍と大きく増加していました。」(審判請求書【請求の理由】3.本願発明が特許されるべき理由(2)本願発明について(2-2)実験データの項)

(2)「従って、本願センサシートと引用文献7の静電容量型センサとは、電極層の構成が相違します。そして、面方向に大きく伸縮する変形を繰り返し行うのに適したセンサシートを提供しようとする当業者にとっては、引用文献7のセンサにおいて、導電成分としてカーボンナノチューブのみを含有する導電性組成物を敢えて電極層の材料として選択するべき理由が引用文献7には存在しません。
・・・・・
・・・・・一方、引用文献8は、カーボンナノチューブを含む複合材料を導電材料として使用することを記載しているものの、誘電層の両面に電極層を設けたセンサシートにおける電極層として使用できることは記載していません。また、引用文献8には、伸張率が100%以上となるような大きな変形が可能であることや、伸張率が100%以上となるような大きな変形を繰り返した際に、カーボンブラックを含む導電性の複合材料に比べて導電性が低下しにくいことを示す記載や示唆はありません。」(審判請求書【請求の理由】3.本願発明が特許されるべき理由(6)理由〔4〕についての項)

(3)「・・・・・引用文献3の発明は、電圧の印加により湾曲するアクチュエータに関する発明であり、このアクチュエータは、面方向における大きな伸縮変形が繰り返し行われるものではありません。また、引用文献3では、ウレタンゴムを含むエラストマー組成物からなる誘電層と、実質的にカーボンナノチューブのみからなる電極層との組み合わせを採用することで、面方向に大きく繰り返し変形させた際の導電性の低下を抑制することができることは記載も示唆もされていません。」(審判請求書【請求の理由】3.本願発明が特許されるべき理由(8)の項)

(4)「・・・・・本件請求人は、上記審判請求書における『3.本願発明が特許されるべき理由』の(8)欄に記載した通り、上記手続補正書に記載した請求項10に係る発明については、当該(8)欄に記載した理由により、進歩性を有する発明であると確信しております。
そのため、審判官殿の合議において、請求項1の発明については進歩性が認められないものの、請求項10については進歩性が認められるとの判断がなされた場合には、本件請求人としては、早期権利化の観点から請求項1に請求項10の要件を組み入れる補正を行う用意がございますので、そのような補正を行う機会を設けて戴きたく、上申いたします。」(上申書【上申の内容】2.前置報告書について(2)の項)

2 当審の見解
(1)本検出願の明細書の段落【0089】ないし【0092】に記載された、カーボンナノチューブとしてVGCF-X(長さ3μm、アスペクト比約200、炭素純度95%以上、登録商標、昭和電工社製)を用いた調整例2についての、繰り返し変形に対する電気抵抗の変化を測定した結果を示す図7は、以下のとおりである。
「【図7】



(2)審判請求書に記載されたケッチェンブラックを用いた比較実験の結果である[図A]と本件出願の図7とを比較すると、両者はともに電気抵抗の増加がみられ、その差異は、格別顕著なものではなく、引用文献8の記載から当業者ならば十分に予測し得る範囲であるといえる。

(3)引用文献7記載の発明(引用発明)において、「ケッチェンブラック」を「カーボンナノチューブ」に変更する理由(動機付け)が存在することは、上記第2[理由]2(2)エ(ア)相違点1についてで述べたとおりである。

(4)引用文献8の「導電材料」を「電極層」として使用できることが当業者において理解できることは、上記第2[理由]2(2)エ(ア)相違点1についてで述べたとおりである。
また、引用文献8には「カーボンナノチューブ」が「カーボンブラック」よりも導電性に優れ(上記(引8-ア)参照。)、繰り返し応力に対する導電領域の構造変化を起こしにくい(上記(引8-イ)参照。)旨の記載があることから、「カーボンナノチューブ」が「カーボンブラック」と比較して「導電性が低下しにくい」ことも引用文献8に記載されているといえる。

(5)上記(引3-イ)の「微小電気部品におけるスイッチ駆動部、反射ミラーなどの角度切換駆動体」からみて、その用途は「スイッチ駆動部」あるいは「反射ミラーの切換駆動体」であるのであるから、引用文献3の「アクチュエータ」も「繰り返し湾曲変形」するものである。また、上記(引3-ア)の「【0014】・・・・・シート体22が大きく変形しても、屈曲性に優れたカーボンナノファイバーはシートに追随して変形する」からみて、該「湾曲変形」は、「面方向における大きな伸縮変形」であるといえる。そして、「面方向に大きく繰り返し変形させた際の導電性の低下を抑制することができる」ことは、引用文献3の記載から当業者ならば十分に予測し得る範囲であるといえる。

(6)請求項10における「前記表側電極層及び裏側電極層は実質的にカーボンナノチューブのみからなる」との限定は、上記(引3-ア)の「【0012】電極材料としては、カーボンナノファイバーのみを用いるのが好適である」からみて、引用文献3に記載されているといえるから、請求項10に係る発明についても、進歩性があるとはいえない。

(7)したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-03 
結審通知日 2021-02-09 
審決日 2021-02-24 
出願番号 特願2015-508765(P2015-508765)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 537- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 伊藤 幸仙
渡戸 正義
発明の名称 静電容量型センサシート及び静電容量型センサ  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  
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