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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1373150
審判番号 不服2020-10360  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-27 
確定日 2021-05-10 
事件の表示 特願2016- 24596「コンデンサ組立体のための熱伝導性封入材料」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-171312、請求項の数(22)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)2月12日(パリ条約による優先権主張 2015年3月13日、米国)の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

令和 1年 7月24日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 2月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 3月18日付け:拒絶査定
令和 2年 7月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 8月11日 :手続補正書(方式)の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年3月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の以下の請求項に係る発明は、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1ないし22
・引用文献 1、2

・請求項 23
・引用文献 1ないし3

引用文献等一覧
1.特開2012-222343号公報
2.特開2005-210070号公報
3.特開2002-154529号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正によって請求項1に「前記熱伝導性材料が、ASTM D257-14に従って測定して約1×10^(12)Ω・cm以上の体積抵抗率を有する」という事項を追加する補正は、補正前の請求項1に記載のあった発明を特定するために必要な事項である「熱伝導性材料」を限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の減縮目的とするものである。
また、追加された事項は、願書に最初に添付した明細書の【0006】に「熱伝導性材料は、熱伝導性であるにもかかわらず、一般的に電気伝導性ではなく、したがって、ASTM D257-14に従って測定されるように、比較的高い体積抵抗率、例えば、約1×10^(12)Ω・cm以上、・・・を有する。」と記載されている。よって、上記請求項1に係る補正は、当初明細書に記載された事項であり、新規事項の追加には該当しない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、本願発明1ないし22は、独立特許要件を満たすものである。
よって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。


第4 本願発明
本願の請求項1ないし22に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明22」という。)は、令和2年7月27日提出の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
筐体、
前記筐体内に密封されているコンデンサ素子であって、焼結されたアノード体、前記アノード体の上に重ねた誘電体、および前記誘電体の上に重ねた固体電解質を含む、コンデンサ素子、ならびに
完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料であって、ISO22007-2:2014に従って測定して約1W/m・K以上の熱伝導率を有する、熱伝導性材料を含み、
前記熱伝導性材料が、ASTM D257-14に従って測定して約1×10^(12)Ω・cm以上の体積抵抗率を有する、
コンデンサ組立体。
【請求項2】
前記熱伝導性材料が、ASTM D570-98(2010)e-1に従って測定して約1%以下の吸湿度を示す、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項3】
前記熱伝導性材料が、ポリマーマトリックス内に分散された熱伝導性フィラーを含有する、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーが、金属フィラー、金属酸化物フィラー、窒化物フィラー、炭素フィラー、またはこれらの組合せを含む、請求項3に記載のコンデンサ組立体。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーが、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、鉄、コバルト、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボンブラック、カーボンフラーレン、片状黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、またはこれらの組合せを含む、請求項4に記載のコンデンサ組立体。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーが、約10?約500ナノメートルの平均サイズを有するフィラー粒子を含む、請求項3に記載のコンデンサ組立体。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーが、約1?約50マイクロメートルの平均サイズを有する粒子を含む、請求項3に記載のコンデンサ組立体。
【請求項8】
前記熱伝導性フィラーが、ナノスケールの粒子およびマイクロスケールの粒子を含有し、ミクロンスケールのフィラー粒子の平均サイズ対ナノスケールのフィラー粒子の平均サイズの比率が、約50:1以上である、請求項3に記載のコンデンサ組立体。
【請求項9】
前記ポリマーマトリックスが、オルガノポリシロキサンを含む、請求項3に記載のコンデンサ組立体。
【請求項10】
前記オルガノポリシロキサンが、ポリジメチルシロキサンである、請求項9に記載のコンデンサ組立体。
【請求項11】
前記オルガノポリシロキサンが、約5,000?約30,000g/molの分子質量を有する、請求項9に記載のコンデンサ組立体。
【請求項12】
熱伝導性フィラーが、前記熱伝導性材料の約25体積%?約95体積%を構成する、請求項3に記載のコンデンサ組立体。
【請求項13】
前記ポリマーマトリックスが、前記熱伝導性材料の約5体積%?約75体積%を構成する、請求項3に記載のコンデンサ組立体。
【請求項14】
前記コンデンサ組立体が、前記熱伝導性材料によって少なくとも部分的に封入されている複数のコンデンサ素子を含む、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項15】
前記アノード体がタンタルを含み、前記誘電体が五酸化タンタルを含む、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項16】
前記固体電解質が、導電性ポリマー層を含む、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項17】
前記導電性ポリマー層が、置換ポリチオフェンを含む、請求項16に記載のコンデンサ組立体。
【請求項18】
前記筐体が、気体雰囲気を画定し、不活性ガスが、前記気体雰囲気の約50質量%から100質量%を構成する、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項19】
前記筐体が、金属、セラミックス、またはこれらの組合せから形成される、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項20】
前記熱伝導性材料が、前記コンデンサ素子と直接接触している、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項21】
前記筐体が、上面を有する側壁、および前記側壁の上面上に置かれる蓋を画定する、請求項1に記載のコンデンサ組立体。
【請求項22】
前記熱伝導性材料が、前記蓋の上に配置される、請求項21に記載のコンデンサ組立体。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2012-222343号公報(平成24年11月12日出願公開、以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0001】
(タンタルコンデンサなどの)電解コンデンサは、これらの容積効率、信頼性、及びプロセス互換性により、回路設計においてますます使用されている。例えば、開発されてきたコンデンサの1つの種類に、(タンタルなどの)陽極と、陽極上に形成された(五酸化タンタル、Ta_(2)O_(5)などの)誘電性酸化膜と、固体電解質層と、陰極とを含む固体電解コンデンサがある。固体電解質層は、Sakata他に付与された米国特許第5,457,862号、Sakata他に付与された米国特許第5,473,503号、Sakata他に付与された米国特許第5,729,428号、及びKudoh他に付与された米国特許第5,812,367号に記載されるような導電性ポリマーから形成することができる。しかしながら、残念なことに、このような固体電解質の安定性は、ドープ状態から非ドープ状態に変化しやすい傾向、又はこの逆の傾向に起因して高温では不十分である。これらの及びその他の問題に対応して、使用中に酸素が導電性ポリマーと接触するのを制限するように密封されたコンデンサが開発されてきた。例えば、Rawal他に付与された米国特許出願第2009/0244812号には、不活性ガスの存在下でセラミックハウジング内に封入されて密封された導電性ポリマーコンデンサを含むコンデンサアセンブリが記載されている。Rawal他によれば、このセラミックハウジングは、高温環境で酸化しにくくするように、導電性ポリマーに供給される酸素及び水分の量を制限し、従ってコンデンサアセンブリの熱安定性を高める。しかしながら、この利点は得られるものの、依然として問題は残る。例えば、(約175℃を超える高温及び/又は約35ボルトを超える高電圧などの)極限状態では、コンデンサ素子が機械的に不安定になり、コンデンサ素子の層間剥離及び不十分な電気的性能を招くことがある。このことは、高容量用途で使用されるような比較的大きな陰極を使用した場合に特に問題となる。
(中略)
【0004】
従って、現在、極限状態での性能が向上した固体電解コンデンサが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの実施形態では、コンデンサ素子と、このコンデンサ素子を収容する内部キャビティを定めるハウジングとを含むコンデンサアセンブリを開示する。コンデンサ素子の表面及びハウジングの表面に隣接して、かつこれらに接触させてポリマー拘束物(Polymetric Restraint)を配置し、内部キャビティの少なくとも一部が、コンデンサ素子及びポリマー拘束物によって占められていない状態を保つようにする。このアセンブリは、陽極体に電気的に接触する陽極端子、及び固体電解質に電気的に接続する陰極端子も含む。
【0006】
本発明の別の実施形態では、コンデンサアセンブリの形成方法を開示する。この方法は、固体電解質で被覆された陽極酸化した焼結陽極体を含むコンデンサ素子をハウジングの内部キャビティ内に配置するステップを含む。陽極体は陽極終端に電気的に接続され、固体電解質は陰極終端に電気的に接続される。その後、コンデンサ素子の表面及びハウジングの表面に隣接して、かつこれらに接触させて熱硬化性材料を配置する。この熱硬化性材料を硬化させてポリマー拘束物を形成する。コンデンサ素子及びポリマー拘束物は、不活性ガスを含む気体雰囲気中でハウジング内に密封される。
(中略)
【0012】
大まかに言えば、本発明は、極限状態で熱的及び機械的に安定したコンデンサアセンブリに関する。不活性ガスを含む気体雰囲気中でハウジング内にコンデンサ素子を封入して密封し、これによりコンデンサの固体電解質に供給される酸素及び水分の量を制限することにより熱安定性がもたらされる。アセンブリに良好な機械的安定性を与えるために、コンデンサ素子の1又はそれ以上の表面に隣接して、かつこれらに接触させて配置したポリマー拘束物も使用する。理論によって制限することを意図するわけではないが、ポリマー拘束物の強度及び剛性は、コンデンサ素子が、使用中に受ける振動力に、層間剥離を伴わずにより良好に耐えるのに役立つことができると考えられる。このようにして、コンデンサアセンブリは、極限状態でより良好に機能することができる。
(中略)
【0014】
I.コンデンサ素子
高電圧用途では、多くの場合、コンデンサ素子の陽極は、1グラム当たり約70,000マイクロファラド*ボルト(「μF*V/g」)未満、実施形態によっては約2,000μF*V/g?約65,000μF*V/g、及び実施形態によっては約5,000μF*V/g?約50,000μF*V/gなどの比較的比電荷の低い粉末から形成されることが望ましい。当然ながら、低比電荷の粉末が望ましいこともあり得るが、これは決して必須条件ではない。すなわち、この粉末は、1グラム当たり約70,000マイクロファラド*ボルト(「μF*V/g」)又はそれ以上、実施形態によっては約80,000μF*V/g又はそれ以上、実施形態によっては約90,000μF*V/g又はそれ以上、実施形態によっては約100,000μF*V/g又はそれ以上、及び実施形態によっては約120,000μF*V/g?約250,000μF*V/gの比較的高い比電荷を有することもできる。
【0015】
粉末は、タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、チタニウム、これらの合金、これらの酸化物、これらの窒化物などのバルブ金属(すなわち、酸化できる金属)又はバルブ金属ベースの化合物を含むことができる。例えば、バルブ金属組成物は、ニオブの酸素に対する原子比が1:1.0±1.0、実施形態によっては1:1.0±0.3、実施形態によっては1:1.0±0.1、及び実施形態によっては1:1.0±0.05の酸化ニオブなどのニオブの導電性酸化物を含むことができる。例えば、酸化ニオブは、NbO_(0.7)、NbO_(1.0)、NbO_(1.1)、及びNbO_(2)とすることができる。このようなバルブ金属酸化物の例が、Fifeに付与された米国特許第6,322,912号、Fife他に付与された第6,391,275号、Fife他に付与された第6,416,730号、Fifeに付与された第6,527,937号、Kimmel他に付与された第6,576,099号、Fife他に付与された第6,592,740号、Kimmel他に付与された第6,639,787号、及びKimmel他に付与された第7,220,397号、並びにSchnitterに付与された米国特許出願公開第2005/0019581号、Schnitter他に付与された米国特許出願公開第2005/0103638号、Thomas他に付与された米国特許出願公開第2005/0013765号に記載されており、これらの特許は全てあらゆる目的によるこれらへの参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
(中略)
【0018】
結果として得られた粉末を、いずれかの従来の粉末プレス成形を使用して圧縮することができる。例えば、プレス成形は、ダイと1又は複数のパンチとを使用する単一ステーション圧縮プレスであってもよい。或いは、ダイ及び単一の下方パンチのみを使用するアンビル型圧縮プレス成型を使用することができる。単一ステーション圧縮プレス成型は、単動、複動、フローティングダイ、可動プラテン、対向ラム、ねじプレス、インパクトプレス、加熱プレス、鋳造又は定寸などの様々な能力を有するカムプレス、トグル/ナックルプレス及び偏心/クランクプレスのようないくつかの基本型で利用可能である。圧縮後、結果として得られた陽極体を、正方形、矩形、円形、長円形、三角形、六角形、八角形、七角形、五角形などのあらゆる所望の形状にダイスカットすることができる。陽極体は、容積に対する表面の割合を増やして、ESRを最小化するとともに静電容量の周波数応答を拡げるために、1又はそれ以上の畝、溝、凹部、又は窪みを含むという点において「溝付き」形状を有することもできる。次に、陽極体に、あらゆる結合剤/潤滑剤の全てではないがほとんどを除去する加熱ステップを施すことができる。例えば、通常、陽極体は、約150℃?約500℃の温度で動作する炉によって加熱される。或いは、例えば、Bishop他に付与された米国特許第6,197,252号に記載されるように、ペレットを水溶液と接触させることによって結合剤/潤滑剤を除去することもできる。
【0019】
形成されたら、陽極体を焼結する。焼結の温度、雰囲気、及び時間は、陽極の種類、陽極のサイズなどの様々な因子に依存することができる。通常、焼結は、約800℃?1900℃、実施形態によっては約1000℃?約1500℃、及び実施形態によっては約1100℃?約1400℃の温度で、約5分?約100分間、及び実施形態によっては約30分?約60分間行われる。必要に応じて、酸素原子が陽極に移動するのを制限する雰囲気内で焼結を行うこともできる。例えば、真空、不活性ガス、水素などの還元性雰囲気内で焼結を行うことができる。還元性雰囲気は、約10Torr?約2000Torr、実施形態によっては約100Torr?1000Torr、及び実施形態によっては約100Torr?約930Torrの圧力とすることができる。水素と(アルゴン又は窒素などの)その他のガスの混合物を使用することもできる。
(中略)
【0021】
陽極はまた、誘電体で被覆される。誘電体は、陽極上及び/又は陽極内に誘電体層が形成されるように焼結陽極を陽極的に酸化(「陽極酸化」)することにより形成することができる。例えば、タンタル(Ta)陽極を五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))に陽極酸化することができる。通常、陽極酸化は、陽極を電解質内に浸漬するなどして最初に陽極に溶液を加えることにより行われる。一般的には、(脱イオン水のような)水などの溶媒を使用する。イオン伝導率を高めるために、溶媒内で解離してイオンを形成できる化合物を使用することができる。このような化合物の例として、例えば、以下で電解質に関して説明するような酸が挙げられる。例えば、(リン酸などの)酸は、陽極酸化溶液の約0.01重量%?約5重量%、実施形態によっては約0.05重量%?約0.8重量%、及び実施形態によっては約0.1重量%?約0.5重量%を構成することができる。必要であれば、酸の混和物を使用することもできる。
(中略)
【0023】
コンデンサ素子は、コンデンサの陰極として機能する固体電解質も含む。例えば、硝酸マンガン(Mn(NO_(3))_(2))を熱分解することにより二酸化マンガン固体電解質を形成することができる。このような技術は、例えば、Sturmer他に付与された米国特許第4,945,452号に記載されており、該特許はあらゆる目的によるこの特許への参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
(中略)
【0039】
II.ポリマー拘束物
本発明のコンデンサアセンブリで使用するポリマー拘束物は、コンデンサ素子がハウジングから層間剥離する可能性を低下させるように構成される。この点、通常、このポリマー拘束物は、振動力を受けた場合でもコンデンサ素子を比較的一定の位置に保持するが、ヒビが入るほど強くはないある程度の強度を有する。例えば、この拘束物は、約25℃の温度で測定した場合、約1メガパスカル?約150メガパスカル(「MPa」)、実施形態によっては約2MPa?約100MPa、実施形態によっては約10MPa?約80MPa、及び実施形態によっては約20MPa?約70MPaの引張強度を有することができる。拘束物は、通常は導電性でないことが望ましい。
【0040】
上述した所望の強度特性を有するあらゆる様々な材料を使用することができるが、本発明での使用には、熱硬化性樹脂が特に適していることが判明している。このような樹脂の例として、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド、メラミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、シリコンポリマー、フェノール樹脂などが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、拘束物に1又はそれ以上のポリオルガノシロキサンを使用することができる。これらのポリマーに使用されるケイ素結合有機基は、一価の炭化水素及び/又は一価のハロゲン化炭化水素基を含むことができる。通常、このような一価の基は、1個?約20個の炭素原子、好ましくは1個?10個の炭素原子を有し、以下に限定されるわけではないが、アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ペンチル、オクチル、ウンデシル、及びオクタデシル)、シクロアルキル(例えば、シクロヘキシル)、アルケニル(例えば、ビニル、アリル、ブテニル、及びヘキセニル)、アリル(例えば、フェニル、トリル、キシリル、ベンジル、及び2-フェニルエチル)、及びハロゲン化炭化水素基(例えば、3,3,3-トリフロオロプロピル、3-クロロプロピル、及びジクロロフェニル)により例示される。通常は、有機基の少なくとも50%、及びより好ましくは少なくとも80%がメチルである。このようなメチルポリシロキサンの例として、例えば、ポリジメチルシロキサン(「PDMS」)、ポリメチル水素シロキサンなどを挙げることができる。さらに他の好適なメチルポリシロキサンとしては、ジメチルジフェニルポリシロキサン、ジメチル/メチルフェニルポリシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、メチルフェニル/ジメチルシロキサン、ビニルジメチル終端ポリジメチルシロキサン、ビニルメチル/ジメチルポリシロキサン、ビニルジメチル終端ビニルメチル/ジメチルポリシロキサン、ジビニルメチル終端ポリジメチルシロキサン、ビニルフェニルメチル終端ポリジメチルシロキサン、ジメチルヒドロ終端ポリジメチルシロキサン、メチルヒドロ/ジメチルポリシロキサン、メチルヒドロ終端メチルオクチルポリシロキサン、メチルヒドロ/フェニルメチルポリシロキサンなどを挙げることができる。
(中略)
【0044】
光開始剤、粘度調整剤、懸濁助剤、色素、応力低減剤、結合剤(シラン結合剤など)、非導電性充填剤(粘土、シリカ、アルミナなど)、安定剤などの、さらに他の添加剤を使用することもできる。好適な光開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインn-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2ジヒドロキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、4,4-ビスジアリルアミノベンゾフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸アルキル、2-エチルアントラキノン、キサントン、チオキサントン、2-クロロチオキサントンなどを挙げることができる。使用した場合、通常、このような添加剤は、総組成物の約0.1重量パーセント?約20重量パーセントを構成する。
【0045】
III.ハウジング
上述したように、ポリマー拘束物は、コンデンサ素子の1又はそれ以上の面に隣接して、かつこれらに接触して配置される。その後、ポリマー拘束物及びコンデンサ素子を、いずれもハウジング内に密封する。通常、密封は、使用中に固体電解質が酸化しないようにするために、少なくとも1つの不活性ガスを含む気体雰囲気中で行われる。不活性ガスとして、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドンなど、並びにこれらの混合物を挙げることができる。通常、不活性ガスは、約50重量%?約100重量%、実施形態によっては約75重量%?約100重量%、及び実施形態によっては約90重量%?約99重量%などのように、ハウジング内の雰囲気の大部分を構成する。必要であれば、比較的少量の、二酸化炭素、酸素、水蒸気などの非不活性ガスを使用することもできる。しかしながら、このような場合、通常、非不活性ガスは、ハウジング内の雰囲気の15重量%又はそれ以下、実施形態によっては10重量%又はそれ以下、実施形態によっては約5重量%又はそれ以下、実施形態によっては約1重量%又はそれ以下、及び実施形態によっては約0.01重量%?約1重量%を構成する。例えば、(相対湿度によって示される)水分含量は、約10%又はそれ以下、実施形態によっては約5%又はそれ以下、実施形態によっては約1%又はそれ以下、及び実施形態によっては約0.01?約5%であることができる。
(中略)
【0056】
コンデンサ素子を所望の態様で配置した後、本発明のポリマー拘束物を、コンデンサ素子の後面、前面、上面、下面、(単複の)側面、又はこれらのあらゆる組み合わせなどの1又はそれ以上の面に接触させて配置することができる。例えば、再び図1を参照すると、コンデンサ素子120の上面181及び後面177に接触させて単一のポリマー拘束物197を配置した1つの実施形態を示している。図1には単一の拘束物を示しているが、別の拘束物を使用して同じ機能を達成することもできると理解されたい。実際のところ、より一般的には、あらゆる数のポリマー拘束物を使用して、コンデンサ素子のあらゆる所望の面に接触させることができる。複数の拘束物を使用する場合、これらを互いに接触させても又は物理的に分離したままにしてもよい。例えば、1つの実施形態では、コンデンサ素子120の上面181及び前面179に接触する第2のポリマー拘束物(図示せず)を使用することができる。第1のポリマー拘束物197及び第2のポリマー拘束物(図示せず)は、互いに接触しても又は接触しなくてもよい。さらに別の実施形態では、ポリマー拘束物が、他の面とともに又はこれらの代わりに、コンデンサ素子120の下面183及び/又は(単複の)側面に接触することもできる。
【0057】
どのように施すかにかかわらず、通常は、ポリマー拘束物をハウジングの少なくとも1つの面に接触させて、起こり得る層間剥離に対してコンデンサ素子をさらに機械的に安定化させる役に立てることが望ましい。例えば、拘束物は、1又はそれ以上の側壁、外壁、蓋部などの内面に接触することができる。例えば、図1では、ポリマー拘束物197が、側壁124の内面107及び外壁123の内面109に接触している。ハウジングと接触するとは言うものの、ハウジングが定めるキャビティの少なくとも一部を空けて、不活性ガスがキャビティ内を流れて酸素と固体電解質の接触を制限できるようにすることが望ましい。例えば、通常は、キャビティ容量の少なくとも約5%、及び実施形態によってはキャビティ容量の約10%?約50%がコンデンサ素子及びポリマー拘束物によって占められていない状態を保つ。」

(2)引用文献1の上記記載及び図面から、次のことがいえる。
ア 段落【0005】によれば、引用文献1には、コンデンサ素子と、このコンデンサ素子を収容する内部キャビティを定めるハウジングとを含むコンデンサアセンブリが記載されており、段落【0012】によれば、ハウジング内にコンデンサ素子が密封される。
してみると、引用文献1には、ハウジングと、ハウジング内に密封されたコンデンサ素子とを含むコンデンサアセンブリが記載されている。

イ 段落【0006】、【0014】、【0015】、【0018】、【0019】の記載によれば、コンデンサ素子は、タンタル粉末を圧縮し焼結された焼結陽極体を含む。
そして、段落【0021】の記載によれば、焼結陽極体を陽極酸化して陽極上に誘電体層が形成される。
さらに、段落【0006】、【0023】の記載によれば、コンデンサ素子は、陽極酸化した焼結陽極体を被覆する固体電解質を含む。
してみると、コンデンサ素子は、タンタル粉末を圧縮し焼結された焼結陽極体、焼結陽極体を陽極酸化して陽極上に形成された誘電体層、および陽極酸化した焼結陽極体を被覆する固体電解質を含む。

ウ 段落【0012】、【0045】によれば、ポリマー拘束物は、コンデンサ素子の1又はそれ以上の面に隣接し、かつこれらに接触して配置され、ポリマー拘束物及びコンデンサ素子はハウジング内に密封される。よって、ポリマー拘束物は、コンデンサアセンブリに含まれるといえる。
そして、段落【0056】によれば、ポリマー拘束物は、コンデンサ素子の後面、前面、上面、下面、(単複の)側面、又はこれらのあらゆる組み合わせなどの1又はそれ以上の面に接触させて配置される。
してみると、コンデンサアセンブリは、コンデンサ素子の後面、前面、上面、下面、(単複の)側面、又はこれらのあらゆる組み合わせなどの1又はそれ以上の面に接触させて配置されるポリマー拘束物を含む。

エ 段落【0039】、【0040】によれば、ポリマー拘束物は、エポキシ樹脂又はシリコンポリマー等の熱硬化性樹脂からなる。
また、段落【0039】、【0044】によれば、ポリマー拘束物は、非導電性充填剤(シリカ又はアルミナ)を添加でき、段落【0039】によれば、ポリマー拘束物は、導電性でないことが望ましいことが記載されている。
してみると、ポリマー拘束物は、非導電性充填剤(シリカ又はアルミナ)が添加されたエポキシ樹脂又はシリコンポリマー等の熱硬化性樹脂からなり、導電性でない、といえる。

(3)上記アないしエによれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 ハウジングと、
ハウジング内に密封されたコンデンサ素子であって、タンタル粉末を圧縮し焼結された焼結陽極体、焼結陽極体を陽極酸化して陽極上に形成された誘電体層、および陽極酸化した焼結陽極体を被覆する固体電解質を含む、コンデンサ素子と、
コンデンサ素子の後面、前面、上面、下面、(単複の)側面、又はこれらのあらゆる組み合わせなどの1又はそれ以上の面に接触させて配置されるポリマー拘束物と、を含み、
ポリマー拘束物は、非導電性充填剤(シリカ又はアルミナ)が添加されたエポキシ樹脂又はシリコンポリマー等の熱硬化性樹脂からなり、導電性でない、
コンデンサアセンブリ。」

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-210070号公報(平成17年8月4日出願公開、以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0009】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、安価に製作され得ると共に、放熱性に優れた電解コンデンサ、特に大電流や高リップル電流を印加しても発生する熱を効率良く外部に放出することができる放熱特性に優れた電解コンデンサを提供することを目的とする。
(中略)
【0037】
この発明の電解コンデンサは、放熱性を必要とされるコンデンサであれば何でも良く、例えば、弁作用金属を用いたコンデンサ、セラミックスコンデンサ、フィルムコンデンサ、スチロールコンデンサ等を挙げることができる。中でも、弁作用金属を用いたコンデンサが好ましく、アルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ系(ニオブ酸化物を含む)コンデンサが特に好ましい。前記弁作用金属とは、その金属表面に生成する酸化物皮膜が電流を一方向にのみ流し、反対方向には非常に流しにくいような特性、即ち整流作用を有する酸化皮膜であるものである。
【0038】
次に、この発明の一実施形態に係る電解コンデンサ(1)の断面図を図1に示す。この電解コンデンサ(1)は、アルミニウム電解コンデンサであって、コンデンサ素子(2)と、該コンデンサ素子(2)を収容した有底円筒状の外装ケース(3)と、該外装ケース(3)の上面開口部を封口した電気絶縁性の封口部材(6)と、該封口部材(6)に対して貫通して配置された一対の電極端子(7)(7)と、該電極端子(7)の下端部とコンデンサ素子(2)とを接続するリード線(8)とを備えている。更に、前記外装ケース(3)と前記コンデンサ素子(2)との間の空隙にこれら(2)(3)に接触状態に熱伝導率が1W/m・K以上の熱伝導材(5)が介装されている。この電解コンデンサ(1)では、コンデンサ素子(2)で発生した熱は前記熱伝導材(5)を介して効率良く外装ケース(3)に伝熱されて外に放熱されるから、コンデンサ素子(2)が高温になるのを防止することができ、耐用寿命の長い電解コンデンサとなる。このように放熱性に優れているので、大電流や高リップル電流を印加した場合でもコンデンサ素子(2)の温度上昇を十分に抑制することができる。
(中略)
【0041】
前記熱伝導率が1W/m・K以上の熱伝導材(5)としては、アルミナ粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ホウ素粒子及び酸化亜鉛粒子からなる群より選ばれる1種または2種以上の粒子がマトリックス材中に分散されてなる熱伝導材を用いるのが好ましく、この場合にはコンデンサ素子(2)で発生した熱はこの熱伝導材(5)を介してさらに効率良く外装ケース(3)に伝熱されて外に放熱されるものとなり、コンデンサ素子(2)が高温になるのを一層効果的に防止することができる。中でも、前記熱伝導材(5)としては、マトリックス材中にアルミナ粒子が分散されてなる熱伝導材を用いるのが特に好ましく、この場合にはコンデンサ素子(2)が高温になるのをより一層効果的に防止することができる。
(中略)
【0045】
前記マトリックス材としては、上記例示した化合物以外に、例えば脂肪族系樹脂(ポリオレフィン等)、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の合成樹脂も使用することができる。前記合成樹脂は低分子量体であっても良いし、高分子量体であっても良い。また、前記合成樹脂はオイル状、ゴム状、硬化物のいずれであっても良い。これら合成樹脂の中でもポリオレフィンを用いるのが好ましく、特に好適な樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレンである。」

(2) 引用文献2の上記記載及び図面から、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。

「タンタル電解コンデンサにおいて、外装ケースとコンデンサ素子との間の空隙に、外装ケースとコンデンサ素子に接触状態に、熱伝導率が1W/m・K以上であり、アルミナ粒子が分散されたエポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の合成樹脂からなる熱伝導材が介装すること。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ハウジング」は、コンデンサ素子を密封するものであるから、本願発明1の「筐体」に相当する。
そして、引用発明の「ハウジング内に密封されたコンデンサ素子」は、本願発明1の「筐体内に密封されているコンデンサ素子」に相当する。

イ 引用発明の「タンタル粉末を圧縮し焼結された焼結陽極体」及び「焼結陽極体を陽極酸化して陽極上に形成された誘電体層」は、本願発明1の「焼結されたアノード体」及び「前記アノード体の上に重ねた誘電体」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「固体電解質」は、陽極酸化した焼結陽極体を被覆するものであって、焼結陽極体を酸化して陽極上に形成された誘電体層の上に位置していることは明らかであるから、本願発明1の「誘電体の上に重ねた固体電解質」に相当する。
よって、引用発明の「タンタル粉末を圧縮し焼結された焼結陽極体、焼結陽極体を陽極酸化して陽極上に形成された誘電体層、および陽極酸化した焼結陽極体を被覆する固体電解質を含む、コンデンサ素子」は、本願発明1の「焼結されたアノード体、前記アノード体の上に重ねた誘電体、および前記誘電体の上に重ねた固体電解質を含む、コンデンサ素子」に相当する。

ウ 本願発明1の「熱伝導性材料」の「封入」に関し、本願明細書の段落【0006】に「熱伝導性材料は、筐体内に含有され、少なくとも部分的に、および実施形態によっては完全に、コンデンサ素子を封入している。」、同段落【0048】に「本発明の熱伝導性材料は、コンデンサ素子を少なくとも部分的に封入するように、筐体内に配置される。特定の実施形態において、例えば、材料は、コンデンサ素子を完全に封入してもよい。」と記載されていることからすれば、「封入」とは、部分的に封入することも含まれる。
そして、引用発明の「ポリマー拘束物」は、コンデンサ素子の後面、前面、上面、下面、(単複の)側面、又はこれらのあらゆる組み合わせなどの1又はそれ以上の面に接触させて配置されることから、引用発明の「ポリマー拘束物」は、コンデンサ素子を少なくとも部分的に封入していることは明らかである。
よって、引用発明の「ポリマー拘束物」と、本願発明1の「熱伝導性材料」とは、「コンデンサ素子を封入する材料」である点で共通する。
ただし、該「コンデンサ素子を封入する材料」に関し、本願発明1は、「完全に」コンデンサ素子を封入する「熱伝導性材料」であって、「ISO22007-2:2014に従って測定して約1W/m・K以上の熱伝導率を有」し、「ASTM D257-14に従って測定して約1×10^(12)Ω・cm以上の体積抵抗率を有」しているのに対し、引用発明はその旨特定されていない。

(2)以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「 筐体、
前記筐体内に密封されているコンデンサ素子であって、焼結されたアノード体、前記アノード体の上に重ねた誘電体、および前記誘電体の上に重ねた固体電解質を含む、コンデンサ素子、ならびに
前記コンデンサ素子を封入する材料を含む、
コンデンサ組立体。」

(相違点)
「コンデンサ素子を封入する材料」に関し、本願発明1は、「完全に」コンデンサ素子を封入する「熱伝導性材料」であって、「ISO22007-2:2014に従って測定して約1W/m・K以上の熱伝導率を有」し、「ASTM D257-14に従って測定して約1×10^(12)Ω・cm以上の体積抵抗率を有」しているのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。

(3)上記相違点について判断する。
ア 引用文献1の記載(上記「第5」「1」「(1)」の段落【0001】、【0004】、【0012】を参照)によれば、引用文献1には、不活性ガスの存在下でセラミックハウジング内にコンデンサ素子を封入して密封し、高温環境で酸化しにくくするように、固体電解質を形成する導電性ポリマーに供給される酸素及び水分の量を制限し、熱安定性を高めるコンデンサアセンブリが従来技術として知られているものの、極限状態では、コンデンサ素子が機械的に不安定になり、コンデンサ素子の層間剥離及び不十分な電気的性能を招くことがあるという課題を解決するために、不活性ガスを含む気体雰囲気中でハウジング内にコンデンサ素子を封入して密封し、これによりコンデンサの固体電解質に供給される酸素及び水分の量を制限することにより熱安定性がもたらされ、さらに、アセンブリに良好な機械的安定性を与えるために、コンデンサ素子の1又はそれ以上の表面に隣接して、かつこれらに接触させて配置したポリマー拘束物も使用することが記載されている。
ここで、引用発明は、コンデンサ素子の後面、前面、上面、下面、(単複の)側面、又はこれらのあらゆる組み合わせなどの1又はそれ以上の面に接触させて配置されるポリマー拘束物を含むものの、ポリマー拘束物がコンデンサ素子の各面に対してどの程度接触するのか特定されておらず、引用文献1の記載及び図面を参酌しても、コンデンサ素子を完全に覆うようにポリマー拘束物を接触させる記載及び示唆は見当たらない。
そして、引用文献1の段落【0057】に「ハウジングが定めるキャビティの少なくとも一部を空けて、不活性ガスがキャビティ内を流れて酸素と固体電解質の接触を制限できるようにすることが望ましい。」と記載されており、さらに、引用文献1には、ポリマー拘束物をコンデンサ素子の面に接触させて配置させる工程を、不活性ガス雰囲気中で行うことも記載されていないことからすれば、引用発明のコンデンサアセンブリは、不活性ガスをコンデンサ素子と直接接触させることを前提とするものであって、ポリマー拘束物を完全にコンデンサ素子を封入するよう構成することには阻害要因がある。
よって、引用発明から、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」なる発明特定事項を導き出すことはできない。

イ また、引用文献2には、「タンタル電解コンデンサにおいて、外装ケースとコンデンサ素子との間の空隙に、外装ケースとコンデンサ素子に接触状態に、熱伝導率が1W/m・K以上であり、アルミナ粒子が分散されたエポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の合成樹脂からなる熱伝導材が介装すること。」(上記「第5」「2」「(2)」を参照)が記載されているものの、上記アで述べたように、引用発明のコンデンサアセンブリには、ポリマー拘束物を完全にコンデンサ素子を封入するよう構成することに阻害要因があるから、仮に、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を採用したとしても、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」なる発明特定事項を導き出すことはできない。

ウ よって、上記相違点に係る構成は、引用発明、及び、引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、及び、引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし本願発明21について
本願発明2ないし本願発明21も、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、及び、引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明22について

本願発明22も、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」と同一の構成を備えるものである。
ここで、原査定の拒絶の理由で引用された特開2002-154529号公報(以下、「引用文献3」という。)には、ケースと、該ケースとケース内に収納される物品との間で伝達される衝撃・振動を緩和するため、該ケースと物品との間に介在するよう配置された緩衝部材とからなる物品支持ケースにおいて、熱伝導材を含む層をケースの表面に設け、緩衝部材を熱伝導材を含んだ材料にて形成する技術事項(段落【0003】、【0033】、【0049】、【0076】を参照)が記載されているものの、上記「1」「(3)」「ア」で述べたように、引用発明のコンデンサアセンブリには、ポリマー拘束物を完全にコンデンサ素子を封入するよう構成することに阻害要因があるから、仮に、引用発明に引用文献3に記載された技術事項を採用したとしても、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」なる発明特定事項を導き出すことはできない。
したがって、本願発明22は、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術事項、及び、引用文献3に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
1 上記「第6」「1」「2」で述べたように、引用発明のコンデンサアセンブリには、ポリマー拘束物を完全にコンデンサ素子を封入するよう構成することに阻害要因があるから、引用発明から、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」なる発明特定事項を導き出すことはできないし、また、仮に、引用発明に引用文献2に記載された技術を採用したとしても、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」なる発明特定事項を導き出すことはできない。
よって、本願発明1ないし21は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、引用文献2に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 また、上記「第6」「3」で述べたように、引用発明のコンデンサアセンブリには、ポリマー拘束物を完全にコンデンサ素子を封入するよう構成することに阻害要因があるから、仮に、引用発明に、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術事項を採用したとしても、相違点に係る「完全に前記コンデンサ素子を封入する熱伝導性材料」なる発明特定事項を導き出すことはできない。
よって、本願発明22は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、引用文献2及び引用文献3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし22に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-04-16 
出願番号 特願2016-24596(P2016-24596)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 畑中 博幸
赤穂 嘉紀
発明の名称 コンデンサ組立体のための熱伝導性封入材料  
代理人 西島 孝喜  
代理人 那須 威夫  
代理人 近藤 直樹  
代理人 大塚 文昭  
代理人 須田 洋之  
代理人 上杉 浩  
代理人 田中 伸一郎  

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