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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1373504
審判番号 不服2020-13486  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-28 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2018-521690「眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月 5日国際公開、WO2018/062552、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-521690号(以下「本件出願」という。)は、平成29年9月29日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年9月30日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 4月16日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 7月23日提出:意見書、手続補正書
令和 元年 9月20日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 3月 2日提出:意見書、手続補正書
令和 2年 5月19日付け:補正の却下の決定
令和 2年 5月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 9月28日提出:審判請求書、手続補正書

2 令和2年5月19日付けの補正の却下の決定の概要
令和2年5月19日付けの補正の却下の決定の概要は、令和2年3月2日にした手続補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるところ、当該手続補正後の本件出願の請求項1?9に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえないから、却下すべきものである、というものである。

1:特開2013-54275号公報
2:特開2001-159747号公報
3:特開平1-230003号公報
4:特開2000-266905号公報
5:特表2014-532123号公報
6:特表2006-524282号公報
7:特開昭62-225560号公報
8:特開2009-235602号公報
9:特開2008-233676号公報
10:特開平11-12959号公報
11:特開平9-131565号公報
12:特開平6-313801号公報
13:特開平10-39102号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2は副引用例であり、引用文献3?13は周知例として引用された文献である。)

3 原査定の概要
原査定の概要は、本件出願の請求項1?10に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1:特開2013-54275号公報
2:特開2001-159747号公報
3:特開平1-230003号公報
4:特開2000-266905号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2は副引用例であり、引用文献3?4は周知例として引用された文献である。)

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は、令和2年9月28日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項9に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
インドール系紫外線吸収剤と、水と、芳香族置換基を有するアルコールとを含有する50℃以上99℃以下の浸漬液に、基材を浸漬する工程、
を含む、眼鏡レンズの製造方法であって、
前記芳香族置換基を有するアルコールの含有量が、前記浸漬液中、1mL/L以上30mL/L以下である、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
浸漬後の前記基材の420nmの光のカット率が40%以上である、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記インドール系紫外線吸収剤が、式(I):
【化1】

〔式中、R^(1)は、-COOR^(11)、又は-CNであり、R^(11)は、炭素数1?6のアルキル基であり、R^(2)は、炭素数1?6のアルキル基であり、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基であり、a及びbはそれぞれ独立に0?2の整数である。〕で表される化合物である、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記インドール系紫外線吸収剤が、エチル-2-シアノ-3-(1-メチル-2-フェニル-1H-インドール-3-イル)アクリレート、及び1-メチル-2-フェニル-3-(2,2-ジシアノビニル)-1H-インドールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1?3のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記基材が、ポリカーボネート樹脂、ウレタンウレア樹脂、及び(チオ)ウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1?4のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記基材が、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートを含む重合性組成物を重合して得られる基材である、請求項1?5のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項7】
前記浸漬液が、界面活性剤を更に含有する、請求項1?6のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項8】
前記芳香族置換基を有するアルコールが、ベンジルアルコールである、請求項7に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
浸漬後の前記基材の視感透過率が70%以上である、請求項1?8のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2013-54275号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色レンズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡レンズでは、軽量で耐衝撃性に優れ、かつ染色しやすいとの利点からプラスチックレンズが多用されている。
紫外線は人体に対し種々の悪影響を与えると言われており、眼鏡レンズにおいても紫外線から目を保護するための紫外線カットレンズへの要望が高まってきている。プラスチックレンズに紫外線カット能を付与する方法として、特定の紫外線吸収剤をプラスチックレンズモノマーに添加し、重合してプラスチックレンズとする方法が開示されている(特許文献1参照)。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近の研究より、紫外線だけでなく、可視光線の青色領域(380nm?500nm)をカットすることにより、眩しさが低減され視認性、コントラストが向上することが明らかとなった。
また、目の健康に対して、可視光線の青色領域はエネルギーが強いため、網膜などの損傷、眼疾患、視界のチラツキ、コントラスト低下の原因と原因になると言われている。青色光による損傷を「ブルーライトハザード」といい、この領域の光をカットすることが望ましいと言われている。
【0005】
さらに一般的に光のエネルギーは光の波長に半比例することが知られており、レイリー散乱の散乱光エネルギーは波長の4乗に半比例することが知られている。よって380?450nmの短波長光をカットすることにより目が受ける光エネルギーを減らすことが、網膜などの損傷、眼疾患、視界のチラツキ、コントラスト低下の有効な対策であると考えられる。
しかし、従来の染色レンズでは380nm?450nmのカット能はまだ十分ではなく、この領域の光を効果的にカットした染色レンズの開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、380nm?450nmの短波長光吸収性能に優れた染色レンズおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の染色レンズは、下記一般式[I]で表される化合物(式中、R^(1)は分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、R^(2)は-CN若しくは-COOR^(3)、R^(3)は置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしR^(1)がメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)を用いて染色されたことを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
上記課題を解決するため、本発明の染色レンズの製造方法は、上記本発明の染色レンズを製造する方法であって、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を、上記一般式[I]で表される化合物を用いて染色することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、380nm?450nmの短波長光吸収性能に優れた染色レンズおよびその製造方法を提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の染色レンズおよびその製造方法について詳細に説明する。
本発明者らは、可視光線の短波長領域(380?450nm)の吸収性能に優れた染色レンズを開発すべく、可視光線の短波長領域の光を吸収する特性を有する種々の化合物を用いて、プラスチック基材を染色する方法の検討を行った。その結果、単に短波長領域の光吸収能を有する化合物を用いて染色を行うだけでは所望の光透過率特性を有する染色レンズを得られないことが判明した。詳述すると、後述の比較例4に示すように、短波長領域の光吸収能を有する染料を用いてプラスチック基材を染色した場合には、得られる染色レンズは波長380?450nmの短波長光をいくらか吸収するものの、波長450?500nm付近にも吸収を有し、染色レンズが着色しやすくなり、所望の色味のレンズが得られないという問題があった。本発明者らは鋭意研究の結果、下記一般式[I]で表される化合物を用いてプラスチック基材を染色した場合、380nm?450nmの短波長光のみを効果的にカットした染色レンズを提供できることを見出し本発明に至った。
【0013】
本発明の染色レンズは、下記一般式[I]で表される化合物(式中、R^(1)は分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、R^(2)は-CN若しくは-COOR^(3)、R^(3)は置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしR^(1)がメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)を用いて染色されたことを特徴とする。
【0014】
【化2】

【0015】
上記一般式[I]において、R^(1)としては分岐鎖状を有してもよい炭素数1?12のアルキル基若しくはアラルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロプル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基、ベンジル基などが挙げられる。
R^(2)は、ニトリル基(-CN)若しくはエステル基(-COOR^(3))である。R^(3)としては、置換基を有してもよい炭素数1?20のアルキル基若しくはアラルキル基が挙げられる。R^(3)の具体例としては、上記R^(1)で例示したもの及びβ-シアノエチル基、β-クロロエチル基、エトキシプロピル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルキル基、アルコキシアルキル基が挙げられる。但し、R^(1)がメチル基である場合、R^(3)はエチル基ではない。
【0016】
本発明の染色レンズは、レンズ基材となるプラスチック基材の少なくとも一方の表面を、上記一般式[I]で表される化合物を含む染色液を用いて染色することにより得られる。
【0017】
プラスチック基材は、例えば透明なプラスチックであるアクリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)、ポリ塩化ビニル樹脂、アリルジグリコールカーボネート樹脂、ハロゲン含有共重合体、イオウ含有共重合体等によって形成されたものである。
また、本実施形態では、プラスチック基材の屈折率(nd)としては、例えば、1.50、1.60、1.67、及び1.74のうちから選択されたものが用いられる。なお、プラスチック基材の屈折率を1.60以上にする場合、プラスチック基材としては、アリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、及びチオウレタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂等を使用することが好ましい。
【0018】
本発明において、プラスチック基材の染色に用いる染色液の組成は、上記一般式[I]で表される化合物を含有していれば特に限定されないが、上記一般式[I]で表される化合物と、バインダー樹脂と、溶剤を含んでなることが好ましい。また、染色液には、さらに染料が含有されていることも好ましい。
【0019】
染色液中の上記一般式[I]で表される化合物の含有量は、特に制限されないが、0.01質量%?10質量%が好ましく、0.05質量%?5質量%がより好ましい。染色液における上記一般式[I]で表される化合物の含有量を前記範囲とすることにより、効果的な短波長カット能力を有し、着色が少ない染色レンズを得ることができる。
・・・中略・・・
【0021】
本発明において、染色液に含有してもよい染料としては、分散染料、反応染料、直接染料、複合染料、酸性染料、金属錯塩染料、建染染料、硫化染料、アゾ染料、蛍光染料、樹脂着色用染料、その他機能性染料等が挙げられ、これら以外にも染料であれば特に制限されず使用可能である。これらの染料は1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用することも可能である。
染色液に染料を含有する場合、染色液中の染料の含有量は、0.1質量%?99.9質量%まで可能であるが、好ましくは0.001質量%?10質量%、より好ましくは0.01質量%?5質量%である。染色液の染料の含有量が前記範囲よりも少ない場合、充分な染色レンズが得にくくなる可能性がある。また、前記範囲よりも染料が多い場合、染料によっては凝集などを生じて使用困難となる可能性がある。
【0022】
本発明において、染色液に含有される溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、イソブチルアルコール、エチルエーテル、クロロベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,1,1-トリクロロエタン(メチルクロロホルム)、トルエン、1-ブタノール、2-ブタノール、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチルブチルケトン、アセトフェノン、安息香酸エステル、メチルシクロヘキサン等が挙げられ、上記一般式[I]で表される化合物および染料が十分溶解されるものであればどのようなものでもよく、1種若しくは2種以上の混合物を用いてもよい。
【0023】
染色液には必要に応じて、pH調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、つや消し剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤を併用してもよい。
【0024】
上記一般式[I]で表される化合物を含有する染色液を用いて、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を染色し、染色レンズを得る方法としては、下記2通りの方法が挙げられる。
(1)染色液をプラスチック基材(レンズ)の表面にコーティングして加熱し、染色液中レンズ表面を染色する方法(コート法)
(2)染色液中にプラスチック基材(レンズ)を浸漬して、レンズ表面を染色する方法(ディップ法)
これら2種の方法のうち、染色液の使用量が少なく、生産コストを抑えられるので、上記(1)のコート法が好ましい。
・・・中略・・・
【0029】
ディップ法によりプラスチック基材(レンズ基材)を染色する場合は、染色液中にレンズ基材を浸漬して、レンズ基材表面から染色液中の上記一般式[I]で表される化合物および染料を浸透、拡散させることにより、染色レンズを得ることができる。
ディップ法による染色においては、80℃?95℃に加熱した染色液にレンズ基材を浸漬することが好ましい。
浸漬終了後のレンズ基材を、例えば水洗い、溶剤による拭き取りなどにより洗浄してレンズ外面に付着した染色液を除去することにより、本発明の染色レンズを得ることができる。
【0030】
本発明の染色レンズは、上記一般式[I]で表される化合物を用いて染色されていることにより、プラスチック基材(レンズ基材)の表面からレンズ基材内部に上記一般式[I]で表される化合物が浸透、拡散している。
【0031】
本発明の染色レンズは、可視光線の短波長領域(380nm?450nm)の光を効果的にカットし、短波長光吸収性能に優れている。
さらに、本発明の染色レンズは、厚さ2mm換算した光線透過率(%)を波長(nm)に対して、光線透過率(%)を縦軸、波長(nm)を横軸としてプロットした透過率曲線(光線透過率曲線、分光透過率曲線)の、波長420nm?440nmにおける平均傾きが0.7?3.0(%/nm)の範囲内となる分光特性を有することもできる。ここで、光線の透過率曲線は、染色レンズの透過率曲線を測定した後にレンズ厚さ2mmあたりの透過率に換算することで得られたものを示すが、その他、レンズ中心厚を2mmとして、レンズ中心における光線透過率を測定し、波長(nm;横軸)に対して光線透過率(%;縦軸)をプロットした透過率曲線をそのまま採用することもできる。
・・・中略・・・
【0033】
このような光透過性能を有する本発明の染色レンズは、網膜などの損傷、眼疾患、視界のチラツキ、コントラスト低下の原因と原因になると言われている380nm?450nmの短波長光の吸収性能に特に優れているため、眼鏡レンズとして特に好適である。」

ウ 「【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
上記一般式[I]で表される化合物、染料、バインダー樹脂、溶剤から染色液を調製した。イエロー染料としてカヤロンポリエステルイエローAL染料0.1質量%、レッド染料としてカヤロンポリエステルレッドAUL-S染料0.2質量%、ブルー染料としてカヤロンポリエステルブルーAUL-S染料(いずれの染料も日本化薬株式会社製)0.3質量%、上記一般式[I]においてR^(1)=-CH_(3)、R^(2)=-CNである化合物0.5質量%を、ポリビニルアルコール20質量%、メチルエチルケトン73質量%と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0036】
調製した染色液を屈折率1.67のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、製ニコンライト4AS、サイズ80φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面に染料および上記一般式[I]で表される化合物を浸透、拡散させてレンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0037】
次に、染色されたプラスチックレンズ表面に、厚さ約1μmのウレタン系耐衝撃性向上コート、厚さ約2μmのシリコーン系耐擦傷性向上ハードコートを形成した。更にその上に真空蒸着法により厚さ約0.3μmの無機酸化物により形成される多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0038】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を比較例1と共に図1に記載した。その結果、実施例1の染色レンズは波長380nm?450の短波長光を効果的にカットしており、波長420nm?440nmにおける透過率曲線の平均傾きは1.9(%/nm)であった。
【0039】
(比較例1)
染料、バインダー樹脂、溶剤から染色液を調製した。イエロー染料としてカヤロンポリエステルイエローAL0.1質量%、レッド染料としてカヤロンポリエステルレッドAUL-S染料0.2質量%、ブルー染料としてカヤロンポリエステルブルーAUL-S染料(いずれの染料も日本化薬株式会社製)0.3質量%を、ポリビニルアルコール20質量%、メチルエチルケトン73.5質量%と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0040】
調製した染色液を屈折率1.67のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト4AS、サイズ80φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面に染料を浸透、拡散させてレンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0041】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、厚さ約1μmのウレタン系耐衝撃性向上コート、厚さ約2μmのシリコーン系耐擦傷性向上ハードコートを形成した。更にその上に真空蒸着法により厚さ約0.3μmの無機酸化物により形成された多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0042】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を実施例1と共に図1に記載した。その結果、比較例1の染色レンズは波長430nm以下の短波長光が効果的にカットされておらず、波長420nm?440nmにおける透過率曲線の平均傾きは0.6(%/nm)であった。
・・・中略・・・
【0046】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を図2に記載した。また、各サンプルの波長420nm?440nmにおける透過率曲線の平均傾きを表1に併記した。
図2および表1に示す結果より、上記一般式[I]で表される化合物を含む染色液を用いて染色したサンプル1?サンプル6の染色レンズは、波長380nm?450nmの短波長光を効果的にカットしていた。
【0047】
【表1】

・・・中略・・・
【0052】
(実施例5)
上記一般式[I]においてR^(1)=-CH_(3)、R^(2)=-COOC_(2)H_(5)である化合物0.5質量部を、ポリビニルアルコール20質量部、メチルエチルケトン73質量部と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0053】
調製した染色液を屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト3AS、サイズ75φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0054】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、耐衝撃性向上コート、耐擦傷性向上ハードコートおよび多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
・・・中略・・・
【0057】
得られた実施例3?6の染色レンズおよび比較例2のプラスチックレンズについて、レンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を図3に記載した。また、実施例3?6の染色レンズおよび比較例2のプラスチックレンズの波長420nm?440nmにおける透過率曲線の平均傾きを表2に示す。その結果、実施例3?6の染色レンズは波長380nm?450nmの短波長光を効果的にカットしていた。
【0058】
【表2】



(2)引用文献1に記載された発明
上記記載事項ア?イに基づけば、引用文献1の【0007】には、「染色レンズは、下記一般式[I]で表される化合物(式中、R^(1)は分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、R^(2)は-CN若しくは-COOR^(3)、R^(3)は置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしR^(1)がメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)を用いて染色された」こと、【0008】には、一般式[I]で表される化合物が「【化1】

」であること、【0009】には、「染色レンズの製造方法は、上記本発明の染色レンズを製造する方法であって、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を、上記一般式[I]で表される化合物を用いて染色する」こと、【0018】には、「プラスチック基材の染色に用いる染色液の組成は、」「一般式[I]で表される化合物と、バインダー樹脂と、溶剤を含んでなることが好ましい」こと、【0024】には、「一般式[I]で表される化合物を含有する染色液を用いて、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を染色し、染色レンズを得る方法としては、」「染色液中にプラスチック基材(レンズ)を浸漬して、レンズ表面を染色する方法(ディップ法)」「が挙げられる」こと、【0029】には、「ディップ法による染色においては、80℃?95℃に加熱した染色液にレンズ基材を浸漬することが好ましい」、【0033】には、「本発明の染色レンズは、」「眼鏡レンズとして特に好適である」ことが記載されている。

以上勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「プラスチック基材の少なくとも一方の表面を、一般式[I]で表される化合物を用いて染色する、染色レンズを製造する方法であって、
プラスチック基材の染色に用いる染色液の組成は、一般式[I]で表される化合物と、バインダー樹脂と、溶剤を含んでなり、
一般式[I]で表される化合物を含有する染色液を用いて、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を染色し、染色レンズを得る方法は、染色液中にプラスチック基材(レンズ)を浸漬して、レンズ表面を染色する方法(ディップ法)が挙げられ、ディップ法による染色において、80℃?95℃に加熱した染色液にレンズ基材を浸漬し、染色レンズは、眼鏡レンズである、染色レンズの製造方法。

一般式[I]で表される化合物(式中、R^(1)は分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、R^(2)は-CN若しくは-COOR^(3)、R^(3)は置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしR^(1)がメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)」

2 対比及び判断
(1)対比
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 眼鏡レンズの製造方法
引用発明の「染色レンズ」は、「眼鏡レンズ」であるから、本願発明の「眼鏡レンズ」に相当する。
そうしてみると、引用発明の「染色レンズの製造方法」は、本願発明の「眼鏡レンズの製造方法」に相当する。

イ インドール系紫外線吸収剤
本件出願の明細書【0010】には、「「インドール系紫外線吸収剤」とは、インドール環構造を有する化合物を意味する。」と記載されている。そして、引用発明の「一般式[I]で表される化合物」は、インドール環構造を有する化合物であることから、本願発明の「インドール系紫外線吸収剤」に相当する。

ウ 浸漬液に、基材を浸漬する工程
引用発明の「染色液」は、染色液中にプラスチック基材(レンズ)を浸漬して、レンズ表面を染色する方法(ディップ法)に使用されることから、浸漬液であるといえ、本願発明の「浸漬液」に相当する。また、引用発明の「プラスチック基材(レンズ)」又は「レンズ基材」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「基材」に相当する。
さらに、引用発明の「眼鏡レンズの製造方法」は、「80℃?95℃に加熱した染色液にレンズ基材を浸漬」する工程を含むことから、本願発明の「50℃以上99℃以下の浸漬液に、基材を浸漬する」という構成を具備する。また、引用発明の「染色液」は、「一般式[I]で表される化合物を含有する」ものである。そうすると、上記イからみて、引用発明の「レンズ基材を浸漬」する工程は、「染色液の組成は、一般式[I]で表される化合物と、バインダー樹脂と、溶剤を含んでなり、一般式[I]で表される化合物を含有する染色液を用いて、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を染色し、染色レンズを得る方法は、染色液中にプラスチック基材(レンズ)を浸漬して、レンズ表面を染色する方法(ディップ法)が挙げられ、ディップ法による染色において、80℃?95℃に加熱した染色液にレンズ基材を浸漬」する工程である。そうしてみると、引用発明の「浸漬」する工程は、本願発明の「基材を浸漬する工程」に相当し、「インドール系紫外線吸収剤」「を含有する50℃以上99℃以下の浸漬液に、基材を浸漬する」という点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
以上より、本願発明と引用発明とは、次の構成で一致する。
「 インドール系紫外線吸収剤を含有する50℃以上99℃以下の浸漬液に、基材を浸漬する工程、
を含む、眼鏡レンズの製造方法」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の「浸漬液」は、「水」「を含有する」のに対し、引用発明の「染色液」は、そのような構成であるか明らかでない点。

(相違点2)
本願発明の「浸漬液」は、「芳香族置換基を有するアルコール」を「含有」し、「芳香族置換基を有するアルコールの含有量が、前記浸漬液中、1mL/L以上30mL/L以下であ」るのに対し、引用発明の「染色液」は、芳香族置換基を有するアルコールを含有しているのか明らかでない点。

(相違点3)
本願発明の「眼鏡レンズ」は、「眼鏡レンズのYI値が、3以上13以下である」のに対し、引用発明の「染色レンズ」は、「染色レンズ」のYI値が明らかでない点。

(3)判断
事案に鑑みて、相違点3について検討する。
ア まず、引用文献1には、染色レンズのYI値は記載されておらず、染色前のプラスチック基材のYI値も記載されていない。また、引用文献1の【0019】には、「染色液中の上記一般式[I]で表される化合物の含有量は、特に制限されないが、0.01質量%?10質量%が好まし」いこと、「染色液における上記一般式[I]で表される化合物の含有量を前記範囲とすることにより、」「着色が少ない染色レンズを得ることができる」こと、【0021】には、「染色液に含有してもよい染料としては、分散染料、反応染料、直接染料、複合染料、酸性染料、金属錯塩染料、建染染料、硫化染料、アゾ染料、蛍光染料、樹脂着色用染料、その他機能性染料等が挙げられ、」「染色液中の染料の含有量は、」「好ましくは0.001質量%?10質量%」であることがそれぞれ記載されているものの、染色レンズのYI値を推認し得るような記載は、引用文献1にはない。そうすると、引用発明の「染色レンズ」が、相違点3に係る構成を具備する蓋然性が高いとはいえない。

イ 次に、引用発明において、当業者が、相違点3に係る構成に容易に想到し得たかについて、検討する。
引用文献1には、「380nm?450nmの短波長光吸収性能に優れた染色レンズ」「を提供する」との記載はあるものの(【0010】参照)、染色レンズのYI値を3以上13以下に調整するという点は開示されていない。
また、原査定の拒絶の理由で引用文献2?4として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2001-159747号公報(以下「引用文献2」という。)、特開平1-230003号公報(以下「引用文献3」という。)、特開2000-266905号公報(以下「引用文献4」という。)にも、上記の点について開示はなく、令和2年5月19日付けの補正の却下の決定で引用文献5?13として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特表2014-532123号公報(以下「引用文献5」という。)、特表2006-524282号公報(以下「引用文献6」という。)、特開昭62-225560号公報(以下「引用文献7」という。)、特開2009-235602号公報(以下「引用文献8」という。)、特開2008-233676号公報(以下「引用文献9」という。)、特開平11-12959号公報(以下「引用文献10」という。)、特開平9-131565号公報(以下「引用文献11」という。)、特開平6-313801号公報(以下「引用文献12」という。)、特開平10-39102号公報(以下「引用文献13」という。)にも、上記の点について開示はない。
(当合議体注:引用文献2の【0016】?【0018】に記載されているように、YI値が1.2?2.0程度であってもレンズは黄色味を帯びることからみると、引用文献1の【0070】に記載されているように、黄色の着色を問題視する引用発明の「染色レンズ」(眼鏡レンズ)において、YI値が「3以上13以下」である蓋然性が高いとはいえないし、当業者が、YI値として敢えて黄色味を帯びるような「3以上13以下」の範囲に調整することには、阻害要因があると考えることもできる。)

以上によれば、引用発明において、当業者が、眼鏡レンズである染色レンズのYI値を、上記相違点3に係る数値範囲とすることに容易に想到し得たということはできない。
したがって、上記相違点1、相違点2について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明、引用文献2?13に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)請求項2?9に係る発明について
本件出願の請求項2?9に係る発明は、いずれも、本願発明に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(3)で述べたのと同じ理由により、本件出願の請求項2?9に係る発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?13に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第3 原査定について
理由(特許法第29条第2項)について
上記「第2」「2」「(3)」?「(4)」で述べたとおり、本件出願の請求項1?9に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?13に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の請求項1?9に係る発明が、原査定において引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、明らかである。
よって、原査定における理由は、維持できない。

第4 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?9に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?13に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2018-521690(P2018-521690)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 説志  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神尾 寧
関根 洋之
発明の名称 眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズ  
代理人 大谷 保  

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