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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1373795
異議申立番号 異議2020-700711  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-18 
確定日 2021-04-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6667565号発明「ゲル状水性化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6667565号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6667565号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成26年9月30日を出願日とする特願2014-200903号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成30年3月29日に新たな特許出願としたものであり、令和2年2月27日にその特許権の設定登録がされ、同2年3月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年9月18日に特許異議申立人田中和幸(以下、「申立人」ともいう。)は、特許異議の申立てを行った。

本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

令和 2年 9月18日差出: 申立人による特許異議の申立て
11月30日付け: 取消理由通知書
令和 3年 2月 5日差出: 意見書

第2 本件特許発明
特許第6667565号の請求項1?13の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物と、脂肪酸又はその塩と、水とを含有し、
下記一般式(1)で表される化合物の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、0.5質量%?15質量%であり、
下記一般式(1)で表される化合物は、PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマーであり、
脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、ゲル状水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、かつ、下記一般式で表される化合物(1)1gに対して0.33ミリモル?0.8ミリモルであり、
25℃で測定したときの硬度が5g?300gであり、
25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、10質量%以下であるゲル状水性化粧料。

【化1】

一般式(1)中、R^(1)は炭素数2?36でm価の炭化水素基を表し、R^(2)及びR^(4)は各々独立に炭素数1?4で2価の炭化水素基を表し、R^(3)はウレタン結合を有してもよい、直鎖、分岐鎖、又は脂肪族環若しくは芳香環を含むh+1価の炭化水素基を表し、R^(5)は2価の炭化水素基を表し、R^(6)は水素原子又はヒドロキシ基を表す。mは2以上の整数であり、hは1以上の整数であり、k及びnは括弧内の構造の繰り返し数を表し、各々独立に0?1000の範囲の整数であり、k及びnの両方が0になることはない。
【請求項2】
脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、ゲル状水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、かつ、一般式で表される化合物(1)1gに対して0.4ミリモル?0.7ミリモルであり、
25℃で測定したときの硬度が10g?200gである請求項1に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項3】
25℃で測定したときの硬度が10g?200gである請求項1に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項4】
脂肪酸骨格の炭素数が10?22である脂肪酸又はその塩を含む請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項5】
脂肪酸又はその塩における脂肪酸骨格の炭素数が12?22である請求項1?請求項4のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項6】
脂肪酸骨格の炭素鎖が分岐鎖である脂肪酸又はその塩を含む請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項7】
脂肪酸骨格の炭素鎖が二重結合又は三重結合を少なくとも1つ有する不飽和の炭素鎖である脂肪酸又はその塩を含む請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項8】
脂肪酸又はその塩が、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸及びベヘン酸から選ばれる少なくとも1つの脂肪酸又はその塩を含む請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項9】
脂肪酸又はその塩が、オレイン酸及びイソステアリン酸から選ばれる少なくとも1つの脂肪酸又はその塩である請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項10】
水の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して50質量%?95質量%である請求項1?請求項9のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項11】
更に、アスタキサンチン及びリコピンから選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1?請求項10のいずれか1項に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項12】
更に、アスコルビン酸誘導体を含有する請求項11に記載のゲル状水性化粧料。
【請求項13】
アスコルビン酸誘導体がアスコルビルリン酸ナトリウムである請求項12記載のゲル状水性化粧料。」
(以下、特許第6667565号の請求項1?13に係る発明を、その請求項に付された番号にしたがって、「本件特許発明1」?「本件特許発明13」のように記載し、また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)

第3 取消理由の概要及び特許異議申立理由の概要
1 令和 2年11月30日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和 2年11月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件特許発明1、4、5、7?11は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(特許法第29条第2項)
本件特許発明1、4?13は、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1、4?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)刊行物
引用文献1 国際公開第2013/002278号(申立人により提出された甲第2号証(以下、「甲2」という。)

2 申立理由の概要
申立人は、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張する。

(1)申立理由1(新規性欠如)
本件特許発明1、4、5、7?11は、甲第2号証に記載された発明であり、また、本件特許発明1、4、5、8、10は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る発明の特許は、同法第113条第2項に該当する。

(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件特許発明2、3、6、7、9、11?13は、甲第1号証?甲第7号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(3)証拠方法
甲第1号証:特開2011-231061号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2013/002278号(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特開2002-080329号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:特開2011-051944号公報(以下、「甲4」という。)
甲第5号証:特表2004-528355号公報(以下、「甲5」という。)
甲第6号証:特開2014-040385号公報(以下、「甲6」という。)
甲第7号証:特開2013-071920号公報(以下、「甲7」という。)

第4 当審の判断
取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立ての理由の順で、当審の判断を示す。

1 取消理由通知に記載した取消理由1(特許法29条1項3号)及び取消理由2(特許法29条2項)について
(1)引用文献1に記載された事項、及び、引用文献1に記載された発明
引用文献1には以下の事項が記載されている。

ア「[0001] 本発明は、アスタキサンチン含有組成物及びその製造方法、並びに、該アスタキサンチン含有組成物を含む化粧料に関する。

[0002] 近年、カロチノイド類の高い機能性に着目して、食品、化粧品、医薬品の原材料、及びそれらの加工品等へ添加することが検討・実施されている。

[0003] カロチノイド類の一種であるアスタキサンチンは、自然界では動植物界に広く分布しており、主として養殖魚や養鶏の色揚げ剤として使用されている。また、アスタキサンチンには、酸化防止効果、抗炎症効果、皮膚老化防止効果、シミやしわの形成予防効果などの機能を有することが知られており、アスタキサンチンを適用して種々の組成物が開示されている(特開平2-49091号公報、特開平5-155736号公報、特開2005-47860号公報、特開2005-28559号公報、特開2007-160287号公報参照。)。また、特開2000-229827号公報には、水性液体に対して優れた溶解性を示すリコピン複合体を主成分として含むトマト色素が、皮膚表面及び皮膚内での過酸化脂質の生成及び肌の炎症、黒化、シワ、タルミ等の老化現象を防止する効果を有することが開示されている。

[0004] しかしながら、アスタキサンチン、リコピンなどのカロチノイド類は、不安定な構造で酸化分解を受け易いことから、これを含有する組成物における保存安定性の低下は特に問題となる。また、リコピンについては結晶性が高く、これを含有する組成物を経時させた場合において、結晶体が組成物中に析出して保存安定性を低下するという問題もある。
従って、アスタキサンチン、リコピンのようなカロチノイド類を含有する組成物には、更なる保存安定性の向上が望まれているが、未だ提供されていないのが現状である。

[0005] 本発明は、前記の状況に鑑みなされたものであり、保存安定性に優れたアスタキサンチン含有組成物及びその製造方法、並びに、該アスタキサンチン含有組成物を含む保存安定性に優れた化粧料を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段
[0006] 本発明は以下のとおりである。
[1] アスタキサンチン100質量部と、リコピン0.1?1000質量部と、トコフェロール200?1000000質量部と、を含むアスタキサンチン含有組成物。
[2] リコピンが、トマトパルプ由来の脂溶性抽出物である[1]に記載のアスタキサンチン含有組成物。
[3] オイル組成物又は乳化組成物である[1]又は[2]に記載のアスタキサンチン含有組成物。
[4] 更に油剤を含む、[1]?[3]のいずれかに記載のアスタキサンチン含有組成物。
[5] アスタキサンチン100質量部と、リコピン1?200質量部と、トコフェロール10000?1000000質量部と、を含む[1]?[4]のいずれか1つに記載のアスタキサンチン含有組成物。
[6] アスタキサンチン100質量部と、リコピン1?200質量部と、トコフェロール200?5000質量部と、組成物全量に対して12質量%以下の油剤とを含む、[1]?[4]のいずれか1つに記載のアスタキサンチン含有組成物。
[7] 油剤が、ステアリン酸ポリグリセリル、オレイン酸ポリグリセリル、イソステアリン酸ポリグリセリル、ステアリン酸ポリオキシエチレン、イソステアリン酸ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンフィトステロール、エチルヘキサン酸セチル、スクワラン及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1つである、 [6]に記載のアスタキサンチン含有組成物。
[8] [1]?[7]のいずれか1つに記載のアスタキサンチン含有組成物を含む化粧料。
[9] アスタキサンチン100質量部と、リコピン0.1?1000質量部と、トコフェロール200?1000000質量部とを含む油相を調製すること、及び、調製された油相と水相成分を含む水相とを混合して乳化組成物を得ること、を含むアスタキサンチン含有組成物の製造方法。

[0007] 本発明によれば、保存安定性に優れたアスタキサンチン含有組成物及びその製造方法、並びに、該アスタキサンチン含有組成物を含む保存安定性に優れた化粧料を提供することができる。

[0008] 本発明のアスタキサンチン含有組成物は、(A)アスタキサンチン100質量部と、(B)リコピン0.1?1000質量部と、(C)トコフェロール200?1000000質量部と、を含むアスタキサンチン含有組成物である。

[0009] 本発明のアスタキサンチン含有組成物は、アスタキサンチン、リコピン、及びトコフェロールを特定の量で含有することにより、アスタキサンチン及びリコピンの分解、及び、リコピン結晶の系中における析出が効果的に抑制される。その結果、本発明のアスタキサンチン含有組成物は優れた保存安定性を有するものとなる。」

イ「[0033] (D) 他の成分
本発明のアスタキサンチン含有組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の成分を含んでもよい。
[0034] 他の成分は、本発明の組成物の形態、目的などに応じて適宜選択することができる。他の成分の好適な例としては、例えば、油剤、機能性油性成分、乳化剤、その他の添加成分などが挙げられる。
......
[0040] 本発明のアスタキサンチン含有組成物を乳化組成物とした場合においては、本発明で用いられる好ましい油剤としては、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、モノオレイン酸ヘキサグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、ステアリン酸ポリグリセリル-2、モノステアリン酸POE(5) 、POE(5)フィトステロール、エチルヘキサン酸セチル、スクワラン、オレイン酸などが挙げられる。また、油剤としてはステアリン酸ポリグリセリル、オレイン酸ポリグリセリル、イソステアリン酸ポリグリセリル、ステアリン酸ポリオキシエチレン、イソステアリン酸ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンフィトステロール、エチルヘキサン酸セチル、スクワラン及びオレイン酸なども好ましい。
これらの油剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
……
[0043] (機能性油性成分)
機能性油性成分としては、水性媒体に溶解せず、油性媒体に溶解する油溶性成分であれば、特に限定はなく、目的に応じた物性や機能性を有するものを適宜選択して使用することができる。該他の油性成分としては、通常、紫外線吸収剤、抗炎症剤、保湿剤、毛髪保護剤、美白剤、抗シミ剤、細胞賦活剤、エモリエント剤、角質溶解剤、帯電防止剤、脂溶性ビタミン類(前記トコフェロールを除く。)、メタボリックシンドローム改善剤、降圧剤、鎮静剤などとして使用されているものが挙げられる。
ここで、機能性油性成分とは、生物体内に存在した場合に生体において所望の生理学的作用の発揮が記載され得る油性成分を意味する。
[0044] 機能性油性成分の例としては、天然型セラミド類、スフィンゴ糖脂質などの糖修飾セラミドなどセラミド及びセラミド類縁体を含むセラミド類、オリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂類、流動パラフィン、パラフィン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、スクワランなどの炭化水素、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ホホバ油、ミツロウ、ラノリンなどのロウ類、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2ーオクチルドデシル、2ーエチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリルなどのエステル類、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸などの脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2ーオクチルドデカノールなどの高級アルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどのシリコン油、グリセリンの脂肪酸エステル類、その他、高分子類、他のカロチノイド類などの油溶性色素類、油溶性蛋白質などを挙げることができる。また、それらの混合物である各種の植物由来油、動物由来油も含まれる。」

ウ 「[0054] 他の添加成分としては、例えば、グリセリン、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール;グルコース、果糖、乳糖、麦芽糖、ショ糖、ペクチン、カッパーカラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピルグアガム、キサンタンガム、カラヤガム、タマリンド種子多糖、アラビアガム、トラガカントガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストリン等の単糖類又は多糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクトース、マルトトリイトール、キシリトールなどの糖アルコール;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩;カゼイン、アルブミン、メチル化コラーゲン、加水分解コラーゲン、水溶性コラーゲン、ゼラチン等の分子量5000超のタンパク質;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、シスチン、メチオニン、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アセチルヒドロキシプロリン等のアミノ酸及びそれらの誘導体;カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、酸化エチレン・酸化プロピレンブロック共重合体等の合成高分子;ヒドロキシエチルセルロース・メチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体;フラボノイド類(カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノン、ルチン)、アスコルビン酸又はその誘導体(アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸リン酸エステル、リン酸アスコルビルマグネシウム、リン酸アスコルビルナトリウム、硫酸アスコルビル、硫酸アスコルビル2ナトリウム塩、及びアスコルビル-2-グルコシド等)、トコトリエノール及びその誘導体、フェノール酸類(クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル)、リグナン類、クルクミン類、クマリン類、プテロスチルベン等を含むヒドロキシスチルベン、などを挙げることができ、その機能に基づいて、例えば機能性成分、賦形剤、粘度調整剤、ラジカル捕捉剤などとして含んでもよい。
その他、本発明においては、例えば、種々の薬効成分、pH調整剤、pH緩衝剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、着色剤など、通常、その用途で使用される他の添加物を併用することができる。」

エ 「[0119] [実施例23; ジェリー様美容液]
下記組成を有するジェリー様美容液を常法により調製した(全量100質量%)。
(成分) (質量%)
トマト抽出物(リコピン6%含有) 0.01
ヘマトコッカス藻抽出物(アスタキサンチン20%含有) 0.02
トコフェロール 0.01
セラミドIII、VI (LogP=6.6以上) 0.01
(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI) コポリマー0.5
加水分解コラーゲン 1.0
アセチルヒドロキシプロリン 1.0
エチルヘキシルグリセリン(LogP=1.93) 0.05
オレイン酸(LogP=6.36) 0.05
1,3-ブチレングリコール 1.0
グリセリン 2.0
メチルパラベン(LogP=1.96) 0.3
ステアリン酸スクロース(HLB=5) 0.01
オレイン酸ポリグリセリル-10(HLB=12) 0.01ステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB=5) 0.01
フェノキシエタノール 0.2
コラーゲン 1.0
クエン酸ナトリウム 1.0
ダマスクバラ花油 適量
香料 適量
精製水 残量」

オ 引用文献1には、特に上記エの記載からみて、以下の発明が記載されている。
「下記組成を有するジェリー様美容液 (全量100質量%)
トマト抽出物(リコピン6%含有) 0.01
ヘマトコッカス藻抽出物(アスタキサンチン20%含有) 0.02
トコフェロール 0.01
セラミドIII、VI (LogP=6.6以上) 0.01
(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI) コポリマー0.5
加水分解コラーゲン 1.0
アセチルヒドロキシプロリン 1.0
エチルヘキシルグリセリン(LogP=1.93) 0.05
オレイン酸(LogP=6.36) 0.05
1,3-ブチレングリコール 1.0
グリセリン 2.0
メチルパラベン(LogP=1.96) 0.3
ステアリン酸スクロース(HLB=5) 0.01
オレイン酸ポリグリセリル-10(HLB=12) 0.01ステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB=5) 0.01
フェノキシエタノール 0.2
コラーゲン 1.0
クエン酸ナトリウム 1.0
ダマスクバラ花油 適量
香料 適量
精製水 残量」
(以下、「引用発明」という。)

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー」、「オレイン酸」は、本件特許発明1における「PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマー」、「脂肪酸」にそれぞれ相当し、それらの含有量は、本件特許発明1における含有量の範囲内であり、さらに、オレイン酸の含有量は、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー1gに対して約0.354ミリモルであるから、本件特許発明1における0.33ミリモル?0.8ミリモルの範囲内である点において、一致する。
また、引用発明における水の含有量は、「91.82質量%-香料の含有量-ダマスクバラ花油の含有量」である。ここで、引用発明において「ダマスクバラ花油」と「香料」の配合量は「適量」とされており、「精製水」の含有量は「残量」とされているものの、「ダマスクバラ花油」も「香料」も化粧料においてごく微量配合される成分であるという本件出願時の技術常識を参照すれば、「精製水」の含有量は明らかに50質量%を上回るものであるから、引用発明の「ジェリー様美容液」は、本件特許発明1における「ゲル状水性化粧料」に相当する。
また、引用発明における「セラミドIII」、「セラミドVI」、「エチルヘキシルグリセリン」、「オレイン酸」、「メチルパラベン」、「ステアリン酸スクロース」、「オレイン酸ポリグリセリル-10」、「ステアリン酸ポリグリセリル-2」、「アスタキサンチン」、「リコピン」、「ダマスクバラ花油」は、本件特許発明1における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」に相当するところ、「ダマスクバラ花油」も「香料」も化粧料においてごく微量配合される成分であるという本件出願時の技術常識を参照すれば、引用発明における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」の含有量は、明らかに10質量%以下であると認められる。
そうすると、本件特許発明1と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「下記一般式(1)で表される化合物と、脂肪酸又はその塩と、水とを含有し、
下記一般式(1)で表される化合物の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、0.5質量%?15質量%であり、
下記一般式(1)で表される化合物は、PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマーであり、
脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、ゲル状水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、かつ、下記一般式で表される化合物(1)1gに対して0.33ミリモル?0.8ミリモルであり、
25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、10質量%以下であるゲル状水性化粧料。

【化1】

一般式(1)中、R^(1)は炭素数2?36でm価の炭化水素基を表し、R^(2)及びR^(4)は各々独立に炭素数1?4で2価の炭化水素基を表し、R^(3)はウレタン結合を有してもよい、直鎖、分岐鎖、又は脂肪族環若しくは芳香環を含むh+1価の炭化水素基を表し、R^(5)は2価の炭化水素基を表し、R^(6)は水素原子又はヒドロキシ基を表す。mは2以上の整数であり、hは1以上の整数であり、k及びnは括弧内の構造の繰り返し数を表し、各々独立に0?1000の範囲の整数であり、k及びnの両方が0になることはない。」

<相違点>
本件特許発明1は、「25℃で測定したときの硬度が5g?300gである」ことが特定されているのに対して、引用発明では特定されていない。

以下、相違点について検討する。
(ア)上述のとおり、引用発明においては、「25℃で測定したときの硬度が5g?300gである」ことは記載されていないから、この点において、本件特許発明1と相違しており、このことは、令和 3年 2月 5日差出の意見書における実験成績証明書(乙第1号証)において、引用発明とほぼ同一組成の組成物Aの硬度が2gであったことにより裏付けられている。
したがって、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。

(イ)次に、相違点の容易想到性について検討する。
引用発明のジェリー様美容液に関して、被請求人が提出した乙第1号証によればその硬度が2g程度であることが理解できるものであるが、引用文献1には、摘記事項ア?ウなどの記載を見ても、その硬度をより高い「25℃で測定したときの硬度が5?300g」とする動機づけが記載されているわけではなく、また、引用発明のジェリー様美容液の硬度をさらに高めて前記特定の範囲とするような技術常識も存在しない。
そうすると、引用発明において、「25℃で測定したときの硬度が5?300g 」とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明4、5、7?11について
請求項1を引用する本件特許発明4、5、7?11については、上記アと同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明6、12、13
本件特許発明6は、請求項1?5を引用し、また、本件特許発明12、13は、請求項11を直接又は間接的に引用するものであるところ、上記ア、イにおいて検討したように、本件特許発明1?5、11は新規性があり、かつ、進歩性を有するから、これらをさらに限定する本件特許発明6、12、13も同様に進歩性を有するものであり、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(3)まとめ
よって、本件特許発明1?13に係る特許は、取消理由通知で通知した理由によっては、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものではない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由の概略
取消理由通知で採用しなかった異議申立理由の概略は、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)のうち、以下の理由である。
ア 申立理由1
本件特許発明1、4、5、8、10は、技術常識(甲第1、2、4?7号証に記載された事項)によれば、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

イ 申立理由2
(ア) 本件特許発明2、3、6、7、9、12、13は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第1、2、4?7号証に記載された事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(イ) 本件特許発明11は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第1、2、4?7号証に記載された事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、本件特許発明11に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(ウ)本件特許発明2、3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2) 引用文献に記載された事項及び引用発明
ア 甲2に記載された事項、及び、甲2に記載された発明
甲2は、取消理由における引用文献1であり、甲2には、上記1(1)ア?オで指摘した事項が記載されている。さらに、加えて、[0037]、[0041]には、次の記載もある。

(カ)[0037] LogP値で判断される油剤としては低分子化合物が一般的であるが、本発明においては、特に限定されない。
LogP値で判断される油剤の例としては、エチルヘキシルグリセリン(LogP=1.93)、メチルパラベン(LogP=1.96)、エチルヘキサン酸エチル(LogP=2.85)、ラウリン酸(LogP=4.1)、ミリスチン酸(LogP=4.9)、ステアリン酸(LogP=6.61)、オレイン酸(LogP=6.36)、デカン酸(LogP=3.27)、メトキシケイ皮酸エチルヘキシル(LogP=4.96)、スクワラン(LogP=12.5)などが挙げられる。
LogP値は、一般的には分子構造から計算で求めることができる。本発明では、ChemDrawPro(CambridgeSoft社)で算出された値を流用するが、これに限定されるものではない。

(キ)[0041] 本発明のアスタキサンチン含有組成物を乳化組成物とした場合、油剤の含有量としては、組成物全質量に対して12質量%以下であることが好ましい。また、0.1質量%以上12質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。

(ク) 甲2には、特に上記1(1)エの記載からみて、以下の発明が記載されている。
「下記組成を有するジェリー様美容液 (全量100質量%)
トマト抽出物(リコピン6%含有) 0.01
ヘマトコッカス藻抽出物(アスタキサンチン20%含有) 0.02
トコフェロール 0.01
セラミドIII、VI (LogP=6.6以上) 0.01
(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI) コポリマー0.5
加水分解コラーゲン 1.0
アセチルヒドロキシプロリン 1.0
エチルヘキシルグリセリン(LogP=1.93) 0.05
オレイン酸(LogP=6.36) 0.05
1,3-ブチレングリコール 1.0
グリセリン 2.0
メチルパラベン(LogP=1.96) 0.3
ステアリン酸スクロース(HLB=5) 0.01
オレイン酸ポリグリセリル-10(HLB=12) 0.01ステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB=5) 0.01
フェノキシエタノール 0.2
コラーゲン 1.0
クエン酸ナトリウム 1.0
ダマスクバラ花油 適量
香料 適量
精製水 残量」
(以下、「甲2発明」という。)

イ 甲3に記載された事項、及び、甲3に記載された発明
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は毛髪処理剤組成物に関する。さらに詳しくは、粘度の温度安定性が高く、優れた使用感を有する毛髪処理剤組成物、特に毛髪コンディショニング剤に関する。
【0002】
【従来の技術】毛髪になめらかさや光沢を付与し、くし通りをよくするためのいわゆるコンディショニング効果を持つ毛髪処理剤組成物は、一般に、ヘアーリンス、ヘアートリートメント、ヘアーコンディショナー、ヘアーパック等の名称で市販されている。
【0003】これらの毛髪処理剤組成物の多くには主成分として第4級アンモニウム塩が配合されており、これが毛髪に吸着することにより、前記のコンディショニング効果が得られることは公知の事実である。
【0004】また、光沢、なめらかさ、しっとり感、まとまりやすさ等を向上させる目的で、高級アルコールを配合して第4級アンモニウム塩とのいわゆるゲル状の複合体を形成させ、さらには、液状油分、ワックス、シリコーン化合物、天然および合成高分子を適時添加することも公知である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の毛髪処理剤組成物は、塗布時及びすすぎ時においては毛髪をべたつかせずになめらかさ等を付与することができても、すすぎ後のタオルドライ時、毛髪を乾燥させる際、さらに乾燥後において、十分に満足することのできるなめらかさ及びまとまりやすさの効果を付与することが困難であった。
【0006】また、上述の毛髪コンディショニング剤においては、多くの場合、コンディショニング成分として第4級アンモニウム塩と高級アルコールとの複合体を応用しているが、調製される製品の粘度は、これらの配合量、配合比率によって決定されるため、処方上、制約が多く、所望の粘性に調整し、しかも使用感触を調整することは非常に困難であった。
【0007】さらに、上述の第4級アンモニウム塩と高級アルコールの複合体は、調製法により形成される構造がラメラ?ベシクル状に変化し、一定の粘性に調整することは困難であるばかりか、このような複合体を含有する毛髪コンディショニング剤の粘度の温度依存性は、上述の複合体の融点に密接に関連しており、具体的には融点付近の温度で急速に減粘が認められ、それに伴い製品の安定性も急激に低下する。
【0008】一方、上述のような問題を解決する目的で、化粧料等で汎用される増粘剤、例えば、カルボキシビニルポリマーやキサンタンガムなどのいわゆる高分子増粘剤をこれらの毛髪処理剤組成物に配合した場合には、さまざまな不都合を生じる。例えば、これらの高分子増粘剤の多くはアニオン性の高分子電解質であり、毛髪コンディショニング剤に配合されるカチオン性界面活性剤と複合体を形成し沈殿を生じるため、製品の安定性及び外観上好ましくない。また、アニオン性以外の高分子増粘剤を配合した場合、洗い流した後に、高分子特有のぬめりなど使用感上好ましくない性質が現れる。
【0009】さらに近年、化粧行動中における製品特性の評価に感性工学的手法が取り入れられ、さまざまな要因が、消費者の製品の嗜好に関係していることが分かってきた。特に毛髪コンディショニング剤においては、従来、洗い流し時、タオルドライ後、乾燥後の感触を向上させるべく、さまざまな検討がなされてきたが、上述の新たな検討手法を用いることで、消費者は製品を手に取り出す感触から、毛髪に塗布して伸ばす過程にも大きな関心を払っていることが分かってきた。このような過程では、製品の流動特性(レオロジー特性)を消費者に好まれるように調整することが重要となる。そのためにも適度な粘性を有する流動特性に優れた毛髪処理剤組成物が望まれている。
【0010】本発明者等は上述の課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、水溶性媒体中において会合し、それによってその水溶性媒体の粘度を増加させることができる疎水変性ポリエーテルウレタンと、カチオン性界面活性剤とを含有する組成物が、上記課題を解決し、毛髪処理剤組成物として優れた性能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】本発明の目的は、粘度の温度安定性が高く、優れた流動特性を有し、乾燥後に、毛髪をなめらかでまとまりやすくし、優れた使用感を有する毛髪処理剤組成物を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、下記の成分(A)及び(B)を含有することを特徴とする毛髪処理剤組成物を提供するものである。
(A)下記の一般式(1)で表される疎水変性ポリエーテルウレタン
【化4】
R^(1)-{(O-R^(2))_(k)-OCONH-R^(3)[-NHCOO-(R^(4)-O)_(n)-R^(5)]_(h)}_(m) (1)
〔式中、R^(1)、R^(2)及びR^(4)は、互いに同一でも異なっても良い炭化水素基を表し、R^(3)はウレタン結合を有しても良い炭化水素基を表し、R^(5)は直鎖、分岐鎖又は2級の炭化水素基(炭素原子数24以上。好ましくは炭素原子数24。)を表し、mは2以上の数であり、hは1以上の数であり、k及びnは独立に0?1000の範囲の数である〕
(B)カチオン性界面活性剤」

(イ)「【0054】本発明にかかる毛髪処理剤組成物には、上記疎水変性ポリエーテルウレタンを0.1?10重量%配合することが好適である。配合量が0.1重量%より少ない場合には添加効果が認められないことがあり、10重量%より多い場合には、粘度が高くなりすぎて、製造時の取り扱いに不都合を生じるようになり、作業効率が低下したり、実使用時に容器からの取り出しに不都合を生じたり、毛髪塗布時の伸びが悪くなる場合がある。」

(ウ)「【0058】カチオン性界面活性剤の配合量としては毛髪処理剤組成物全量中、0.01?10重量%であることが好ましい。すなわち、0.01重量%未満の配合量では、毛髪のなめらかさが得られない。また、10重量%より多い配合量では、界面活性剤の溶解性が不十分で飽和濃度以上の析出が見られる場合があったり、コンデョショニング効果の濃度依存性が見られなくなり、実質的にこれ以上の配合は無意味になる。」

(エ)「【0059】本発明の毛髪処理剤組成物には、さらに高級アルコール及び/又は高級脂肪酸を含有することが好ましい。
【0060】高級アルコールの具体例としては、例えば、デシルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル(バチルアルコール)、2-デシルテトラデシルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、ヘキシルドデカノール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の分岐鎖アルコール等が挙げられ、特に、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールが好ましく使用される。
【0061】高級脂肪酸の具体例としては、例えば、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、トール酸、イソステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が挙げられ、特に、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸が好ましく使用される。
【0062】上記高級アルコール及び/又は高級脂肪酸は、カチオン性界面活性剤と高級アルコール及び/又は高級脂肪酸とのモル比が1:2?1:10となるように配合されることが好ましく、さらに好ましくは、1:3?1:5となるように配合される。」

(オ)「【0063】「粘性」本発明の毛髪処理剤組成物の粘度は、25℃、1s^(-1)で測定して1?10Pa・sであるか、又は、25℃、100s^(-1)で測定して0.1?1Pa・sであることが好ましい。両者を満たすことが好ましい。25℃、1s^(-1)の測定条件(低ずり速度)では上記の高粘度の範囲が好ましい。上記範囲以外の粘度では、容器からの取り出しが困難になり、塗りのばし時の伸びが悪くなるなど、使用に不都合を生じるようになることがある。25℃、100s^(-1)の測定条件(高ずり速度)では上記の低粘度の範囲が好ましい。上記範囲以外の粘度では、使用場面で毛髪処理剤組成物を手に取った場合、垂れ落ち等を生じるとともに、組成物が希薄な印象を与え、いわゆるリッチな感触を与えることが困難になる。上記の粘度は、一般式(1)の特定の疎水変性ポリエーテルウレタンにより、容易に達成できる。粘度の測定法としては、市販のコーンプレート型又は二重円筒型粘度計、例えばCarri-Med社製CSL-100等を用いて測定することができる。」

(カ)「【0068】実施例に先だって、疎水変性ポリエーテルウレタンの製造例について示す。
<製造例A>温度計、窒素導入管及び攪拌機を付した容器1000mLの4つ口フラスコにポリエチレングリコール(PEG)(分子量約11000)(R^(1)-[(O-R^(2))k-OH]mに相当)を550部、下記一般式
【化10】

の分岐アルコールのエチレンオキサイド(EO)20モル付加物(HO-(R^(4)-O)n-R^(5)に相当)を198部仕込み、次いで、80℃に冷却しヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)(R^(3)-(NCO)_(h+1)に相当)29.6部を加え、窒素気流下80?100℃に2時間反応させ、イソシアネートが0%であることを確認し、常温で淡黄色固体の反応生成物を得た。
【0069】製造例Aと同様にして、種々の疎水変性ポリエーテルウレタンを調製することができる。例えば、「表1」に示される製造例A?Gによる疎水変性ポリエーテルウレタンは、本発明に好適に用いることができる。
【0070】
【表1】製造例A?G



(キ)「【0075】温度安定性(粘度)
調整したサンプルを50ml透明ガラス管に充填し、50℃、37℃、25℃、0℃の各恒温槽に保存し、6ヵ月経時した後のサンプル状態(粘度)を観察した。粘度測定は、コーンプレート又は二重円筒型粘度計を用い、25℃、1s^(-1)及び100s^(-1)における見かけの粘度を求めた。評価は以下のとおりに行った。
「評価」
A:当初粘度(25℃)と比較し各温度サンプル粘度が10%以下の変化
B:当初粘度(25℃)と比較し各温度サンプル粘度が20%以下の変化
C:当初粘度(25℃)と比較し各温度サンプル粘度が30%以下の変化
D:当初粘度(25℃)と比較し各温度サンプル粘度が30%より大きい変化」

(ク)「【0078】
【表4】「実施例12?14、比較例7?9:コンディショニングシャンプー」

【0079】上記検討より、本発明の毛髪処理剤組成物は、良好な塗布時感触、乾燥後の毛髪の感触、温度安定性を有することが分かる。」

(ケ)「【0080】
【表5】「実施例15?20:リンス」

【0081】上記検討より本発明の組成物に配合する疎水変性ポリエーテルウレタンの配合量は、0.1?10重量%が望ましいことが分かる。また、表2?5の結果から、優れた塗布時感触を得るためには、粘度が25℃、1s^(-1)で1?10Pa・s、25℃、100s^(-1)で0.1?1Pa・sであることが好ましいことが分かる。」

(コ)甲3に記載された発明
ここで、甲3には、上記(ク)及び(ケ)の記載事項からみて、以下の発明が記載されている。

「以下の組成からなる、粘度25℃1S^(-1)で9.0、25℃100S^(-1)で0.40のコンディショニングシャンプー
(質量%)
N-ココイル-N-メチルタウリンナトリウム 9.0
ヤシ脂肪酸アミドプロピルベタイン 3.0
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 0.15
ステアリルアルコール 1.0
パルミチン酸 0.1
化合物A 1.0
精製水 to 100 」
(以下、「甲3-1発明」という。)

「以下の組成からなる、粘度25℃1S^(-1)で7.0、25℃100S^(-1)で0.35のリンス
(質量%)
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 1.0
ステアリルアルコール 3.0
パルミチン酸 1.0
化合物A 5.0 L-グルタミン酸 0.1
精製水 to 100 」
(以下、「甲3-2発明」という。)

「以下の組成からなる、粘度25℃1S^(-1)で12.3、25℃100S^(-1)で0.44のリンス
(質量%)
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 1.0
ステアリルアルコール 3.0
パルミチン酸 1.0
化合物A 10.0 L-グルタミン酸 0.1
精製水 to 100 」
(以下、「甲3-3発明」という。)

ウ 甲1、甲4?7に記載された事項
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、疎水変性ポリエーテルウレタンを配合した増粘性組成物の記載があり(特許請求の範囲)、該疎水変性ポリエーテルウレタンについて、
「【0020】
<(a)成分>
本発明に用いられる(a)成分は下記式(I)で表される疎水変性ポリエーテルウレタンである。該コポリマーは会合性増粘剤である。会合性増粘剤は、親水基部を骨格とし、末端に疎水性部分をもつコポリマーであり、水性媒体中でコポリマーの疎水性部分同士が会合し増粘作用を示すものをいう。このような会合性増粘剤は、図1に示すように水性媒体中でコポリマーの疎水性部分同士が会合し、親水部がループ状、ブリッジ状をなし、増粘作用を示す。
【0021】

」との記載もある。また、【0061】に当該ポリエーテルウレタンの市販品として、「アデカノールGT-700」(旭電化工業(株)製)があること、【0085】に当該増粘性組成物は、化粧料として用いられること、も記載されている。

(イ) 甲4に記載された事項
甲4には、段落【0016】に、「PEG-240(分子量11000)」との記載がある。

(ウ) 甲5に記載された事項
甲5には、ポリエーテルウレタン増粘剤を含有する化粧料製剤が記載されており(特許請求の範囲)、段落【0027】に
「工業的適用
本発明に従ってポリエーテルウレタンで増粘する化粧用製剤は、皮膚および毛髪のケア、保護および清浄に使用する。従って該製剤は、化粧用および/または医薬用製剤、例えば ヘアシャンプー、ヘアローション、発泡浴剤、シャワー浴剤、クリーム、ゲル、ローション、アルコール性および水性/アルコール性の溶液、エマルジョン、ワックス/脂肪配合物、スティック状製剤、パウダーまたは軟膏である。・・・」
と記載されている。

(エ) 甲6に記載された事項
甲6には、疎水変性ポリエーテルウレタンを配合した乳化化粧料が記載されており(特許請求の範囲)、また、段落【0062】に、
「乳化化粧料の剤型としては、ややとろみのあるジェル状、乳液状等が好適剤型として挙げられる。化粧料の具体例としては、例えば、保湿ジェル、マッサージジェル、美容液、化粧水、乳液、メーキャップ化粧料、サンケア用品、ヘアセット剤やヘアジェル等の毛髪化粧料、染毛剤、 ボデイケア用品等に好ましく適用される。」
と記載されている。

(オ) 甲7に記載された事項
甲7には、段落【0056】に、
「本発明の水中油型乳化化粧料は、特に限定されないが、形状として液状、半固形状、固形状のものが挙げられる。また、製品形態としては、洗顔フォーム・クリーム、クレンジング、マッサージクリーム、パック、化粧水、乳液、クリーム、美容液、化粧下地、日焼け止めなどの皮膚用化粧料、ファンデーション、白粉、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、アイブロウ、コンシーラー、口紅、リップクリーム等の仕上げ用化粧料、ヘアミスト、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ポマード、チック、液体整髪料、セットローション、ヘアスプレー、等の頭髪用化粧料などを例示することができる。この中でも、日焼け止め、ファンデーション、化粧下地等が本発明の効果が発揮されやすい水中油型乳化化粧料である。」
と記載されている。

(3)対比・判断
ア 甲3に記載された発明を主引例発明とした場合
(ア)本件特許発明1について
a 甲3-1発明に対して
甲3-1発明における「パルミチン酸」は本件特許発明1における「脂肪酸又はその塩」に相当し、その含有量は、本件特許発明1における含有量の範囲内であり、パルミチン酸のモル含有量は、化合物A1gに対する割合を計算すると約0.39ミリモルであるから、本件特許発明1における0.33ミリモル?0.8ミリモルの範囲内である点において、一致する。
また、「精製水」は、本件特許発明1における「水」に相当する。
さらに、甲3-1発明における「ステアリルアルコール」及び「パルミチン酸」は、本件特許発明1における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」に相当するところ、甲3-1発明における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」の含有量は、本件特許発明1における10質量%以下の範囲において一致する。
また、本件特許発明1は、PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマー、脂肪酸又はその塩と、水以外の成分も含有することができるから、甲3-1発明に含まれる上記以外の成分を含む点は、両発明において相違点とはならない。
さらに、甲3-1発明における化合物Aは、ポリエチレングリコール(PEG)(分子量約11000)R^(1)-[(O-R^(2))_(k)-OH]_(m、)ただし、R^(1)=エチレン、R^(2)=エチレン、k=125、m=2に相当)と、下記一般式
【化10】

の分岐アルコールのエチレンオキサイド(EO)20モル付加物を198部仕込み、次いで、80℃に冷却しヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)29.6部を加え、窒素気流下80?100℃に2時間反応させた反応生成物であるから(上記(1)イ(カ))、本件特許発明1の「PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー」とPEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーである点に限り一致する。
そして、甲3-1発明における「コンディショニングシャンプー」は、その水の含有量を計算すると、85.75%であるから、本件特許発明1における「水性化粧料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3-1発明との一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーと、脂肪酸又はその塩と、水とを含有し、PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマーの含有量が、水性化粧料の全質量に対して、0.5質量%?15質量%であり、脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、かつ、PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー1gに対して0.33ミリモル?0.8ミリモルであり、25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分の含有量が、水性化粧料の全質量に対して、10質量%以下である水性化粧料。」

<相違点1>
本件特許発明1は「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」るのに対して甲3-1発明ではそのような特定がない点。

<相違点2>
「PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー」におけるPEG部分の構造が、本件特許発明1では「PEG-240」であるのに対して甲3-1発明では「ポリエチレングリコール(PEG)(分子量約11000)R^(1)-[(O-R^(2))_(k)-OH]_(m、)ただし、R^(1)=エチレン、R^(2)=エチレン、k=125、m=2に相当)」である点。

<相違点3>
水性化粧料について、本件特許発明1は「ゲル状」水性化粧料であるのに対して甲3-1発明では「ゲル状」とは特定されていない点。

以下、相違点について検討する。
(a)上述のとおり、甲3-1発明においては、「25℃で測定したときの硬度が5g?300gである」ことは特定されておらず、甲3-1発明の組成から「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」ることは本願出願時の技術常識から導くことはできないから、本件特許発明1と甲3-1発明とは、相違点1において相違するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではない。
(b) 次に、念のため、相違点の容易想到性につき、相違点1について検討する。
甲3は、粘度の温度安定性が高く、優れた流動特性を有し、乾燥後に、毛髪をなめらかでまとまりやすくし、優れた使用感を有する毛髪処理剤組成物を提供することを課題とし、当該課題を達成するために、「(A)一般式(1)で表される疎水変性ポリエーテルウレタン」と「(B)カチオン性界面活性剤」を組み合わせて用いることに特徴がある(上記(1)イ(ア)、(カ)?(ケ))。
しかしながら、甲3に好ましい物性として25℃で測定したときの硬度が5g?300gであることが示唆されている訳ではないから、甲3-1発明について「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」ることが動機づけられるとはいえず、当該硬度とすることは当業者が容易に想到しうることではない。
以上のとおりであるから、相違点2、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3-1発明及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件特許発明1と甲3-2に記載された発明の対比
甲3-2発明における「パルミチン酸」は本件特許発明1における「脂肪酸又はその塩」に相当し、その含有量は、本件特許発明1における含有量の範囲内であり、パルミチン酸のモル含有量は、化合物A1gに対する割合を計算すると約0.78ミリモルであるから、本件特許発明1における0.33ミリモル?0.8ミリモルの範囲内である点において、一致する。
また、「精製水」は、本件特許発明1における「水」に相当する。
さらに、甲3-2発明における「ステアリルアルコール」及び「パルミチン酸」は、本件特許発明1における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」に相当するところ、甲3-2発明における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」の含有量は、本件特許発明1における10質量%以下の範囲において一致する。
また、本件特許発明1は、PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマー、脂肪酸又はその塩と、水以外の成分も含有することができるから、甲3-2発明に含まれる上記以外の成分を含む点は、両発明において相違点とはならない。
さらに、甲3-2発明における化合物Aは、ポリエチレングリコール(PEG)(分子量約11000)R^(1)-[(O-R^(2))_(k)-OH]_(m、)ただし、R^(1)=エチレン、R^(2)=エチレン、k=125、m=2に相当)と、下記一般式
【化10】

の分岐アルコールのエチレンオキサイド(EO)20モル付加物を198部仕込み、次いで、80℃に冷却しヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)29.6部を加え、窒素気流下80?100℃に2時間反応させた反応生成物であるから(上記(1)イ(カ))、本件特許発明1の「PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー」とPEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーである点に限り一致する。
そして、甲3-2発明における「リンス」は、その水の含有量を計算すると、89.9%であるから、本件特許発明1における「水性化粧料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3-2発明との一致点と相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーと、脂肪酸又はその塩と、水とを含有し、PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマーが、水性化粧料の全質量に対して、0.5質量%?15質量%であり、脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、かつ、PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー1gに対して0.33ミリモル?0.8ミリモルであり、25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分の含有量が、水性化粧料の全質量に対して、10質量%以下である水性化粧料。」

<相違点1>
本件特許発明1は「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」るのに対して甲3-1発明ではそのような特定がない点。

<相違点2>
「PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー」におけるPEG部分の構造が、本件特許発明1では「PEG-240」であるのに対して甲3-2発明では「ポリエチレングリコール(PEG)(分子量約11000)R^(1)-[(O-R^(2))_(k)-OH]_(m、)ただし、R^(1)=エチレン、R^(2)=エチレン、k=125、m=2に相当)」である点。

<相違点3>
水性化粧料について、本件特許発明1は「ゲル状」水性化粧料であるのに対して甲3-2発明では「ゲル状」とは特定されていない点。

以下、相違点について検討する。
(a)上述のとおり、甲3-2発明においては、「25℃で測定したときの硬度が5g?300gである」ことは特定されておらず、甲3-2発明の組成から「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」ることは本願出願時の技術常識から導くことはできないから、本件特許発明1と甲3-2発明とは、相違点1において相違するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではない。
(b) 次に、念のため、相違点の容易想到性につき、相違点1について検討する。
甲3は、粘度の温度安定性が高く、優れた流動特性を有し、乾燥後に、毛髪をなめらかでまとまりやすくし、優れた使用感を有する毛髪処理剤組成物を提供することを課題とし、当該課題を達成するために、「(A)一般式(1)で表される疎水変性ポリエーテルウレタン」と「(B)カチオン性界面活性剤」を組み合わせて用いることに特徴がある(上記(1)イ(ア)、(カ)?(ケ))。
しかしながら、甲3に好ましい物性として25℃で測定したときの硬度が5g?300gであることが示唆されている訳ではないから、甲3-2発明について「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」ることが動機づけられるとはいえず、当該硬度とすることは当業者が容易に想到しうることではない。
以上のとおりであるから、相違点2、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3-2発明及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 本件特許発明1と甲3-3に記載された発明の対比
甲3-2発明と、甲3-3発明とは、粘度及び化合物Aの含有量が異なるものであり、パルミチン酸のモル含有量は、化合物A1gに対する割合を計算すると約0.39ミリモルとなる。
そして、本件特許発明1と甲3-3発明の対比は、甲3-2発明との対比と同様になり、両発明の一致点と相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーと、脂肪酸又はその塩と、水とを含有し、PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマーが、水性化粧料の全質量に対して、0.5質量%?15質量%であり、脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、かつ、PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー1gに対して0.33ミリモル?0.8ミリモルであり、25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分の含有量が、水性化粧料の全質量に対して、10質量%以下である水性化粧料。」

<相違点1>
本件特許発明1は「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」るのに対して甲3-3発明ではそのような特定がない点。

<相違点2>
「PEG/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマー」におけるPEG部分の構造が、本件特許発明1では「PEG-240」であるのに対して甲3-3発明では「ポリエチレングリコール(PEG)(分子量約11000)R^(1)-[(O-R^(2))_(k)-OH]_(m、)ただし、R^(1)=エチレン、R^(2)=エチレン、k=125、m=2に相当)」である点。

<相違点3>
水性化粧料について、本件特許発明1は「ゲル状」水性化粧料であるのに対して甲3-3発明では「ゲル状」とは特定されていない点。

以下、相違点について検討する。
(a)上述のとおり、甲3-3発明においては、「25℃で測定したときの硬度が5g?300gである」ことは特定されておらず、甲3-3発明の組成から「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」ることは本願出願時の技術常識から導くことはできないから、本件特許発明1と甲3-3発明とは、相違点1において相違するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではない。
(b) 次に、念のため、相違点の容易想到性につき、相違点1について検討する。
相違点1については甲3-2発明の相違点1と同様の判断となり、甲3に好ましい物性として25℃で測定したときの硬度が5g?300gであることが示唆されている訳ではないから、甲3-3発明について「25℃で測定したときの硬度が5g?300gであ」ることが動機づけられるとはいえず、当該硬度とすることは当業者が容易に想到しうることではない。
以上のとおりであるから、相違点2、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3-3発明及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

d 申立人の主張について
申立人は、甲第3号証の実施例14、18、19のコンディショニングシャンプー及びリンスについて、本件特許の出願の審査段階において提出された平成31年3月29日付の意見書における特許権者の説明により、本件増粘剤を0.5質量%?15質量%含み、脂肪酸又はその塩を脂肪酸換算で本件増粘剤1gに対し0.33ミリモル?0.8ミリモル含むことで、ゲル状水性化粧料の硬度が5g?300gになると解されること(主張1)、及び、甲第3号証の実施例14、18、19では塗布時感触の評価が優れているため、本件特許発明1で規定する硬度の範囲内の粘性を有すると考えられること、及び、化合物AがPEG-240/デシルテトラデセス-20/HDMIコポリマーとほぼ同じ物質であること(主張2)を主張している。
しかしながら、主張1について、平成31年3月29日付の上記意見書は特定の脂肪酸塩を用いた特定の組成の組成物についてのデータに過ぎず、本件増粘剤1gに対し0.33ミリモル?0.8ミリモル含む組成物全ての硬度が5g?300gになると解されるとはいえず、申立人の主張は採用できない。また、このことは、当審において通知した取消理由通知に対して提出された令和 3年 2月 5日差出の意見書における実験成績証明書(乙第1号証)において、本件増粘剤1gに対し0.354ミリモルの脂肪酸を含む組成物Aの硬度が2gであったことにより裏付けられている。
さらに、主張2について、申立人も「ほぼ同じ物質」と主張しているに過ぎないように、甲3-1?甲3-3発明の化合物Aのポリエチレングリコール(PEG)が分子量11000であり、甲4にPEG-240(分子量11000)との記載があるとしても、本件特許発明1の「PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDMIコポリマー」と甲3-1?甲3-3発明の化合物Aとが同一物質であるとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(イ)本件特許発明2?13について
a 本件特許発明4、5、8、10について
請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明4、5、8、10については、上記(ア)と同様の理由により、甲3に記載された発明ではない。

b 本件特許発明2、3、6、7、9、12、13について
請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2、3、6、7、9、12、13については、上記(ア)と同様の理由により、甲3に記載された発明及び技術常識(甲1、2,4?7)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 本件特許発明11について
本件特許発明11は、請求項1を直接引用するものであり、上記(ア)のとおり、本件特許発明1が、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないところ、本件特許発明11は、請求項1を直接引用して、「更に、アスタキサンチン及びリコピンから選ばれる少なくとも1つを含有する」ことが限定され、この点が甲3に記載された発明とのさらなる相違点となるから、本件特許発明11について、前記さらなる異なる相違点に対して、甲3に記載された発明にさらに、甲2に記載された事項及び技術常識(甲1、4?7)を組み合わせたとしても、当業者が容易に想到し得たものではない。

イ 甲2に記載された発明を主引用発明とした場合の対比・判断
(ア) 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2発明を対比する。
甲2発明の「(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー」、「オレイン酸」は、本件特許発明1における「PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマー」、「脂肪酸」にそれぞれ相当する。
また、甲2発明における水の含有量は、「91.82質量%-香料の含有量-ダマスクバラ花油の含有量」である。ここで、引用発明において「ダマスクバラ花油」と「香料」の配合量は「適量」とされており、「精製水」の含有量は「残量」とされているものの、「ダマスクバラ花油」も「香料」も化粧料においてごく微量配合される成分であるという本件出願時の技術常識を参照すれば、「精製水」の含有量は明らかに50質量%を上回るものであるから、甲2発明の「ジェリー様美容液」は、本件特許発明2における「ゲル状水性化粧料」に相当する。
また、甲2発明における「セラミドIII」、「セラミドVI」、「エチルヘキシルグリセリン」、「オレイン酸」、「メチルパラベン」、「ステアリン酸スクロース」、「オレイン酸ポリグリセリル-10」、「ステアリン酸ポリグリセリル-2」、「アスタキサンチン」、「リコピン」、「ダマスクバラ花油」は、本件特許発明3における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」に相当するところ、「ダマスクバラ花油」も「香料」も化粧料においてごく微量配合される成分であるという本件出願時の技術常識を参照すれば、甲2発明における「25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分」の含有量は、明らかに10質量%以下であると認められる。
そうすると、本件特許発明2と甲2発明との一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「下記一般式(1)で表される化合物と、脂肪酸又はその塩と、水とを含有し、
下記一般式(1)で表される化合物の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、0.5質量%?15質量%であり、
下記一般式(1)で表される化合物は、PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマーであり、
脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、ゲル状水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、
25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、10質量%以下であるゲル状水性化粧料。
【化1】

一般式(1)中、R^(1)は炭素数2?36でm価の炭化水素基を表し、R^(2)及びR^(4)は各々独立に炭素数1?4で2価の炭化水素基を表し、R^(3)はウレタン結合を有してもよい、直鎖、分岐鎖、又は脂肪族環若しくは芳香環を含むh+1価の炭化水素基を表し、R^(5)は2価の炭化水素基を表し、R^(6)は水素原子又はヒドロキシ基を表す。mは2以上の整数であり、hは1以上の整数であり、k及びnは括弧内の構造の繰り返し数を表し、各々独立に0?1000の範囲の整数であり、k及びnの両方が0になることはない。」

<相違点1>
本件特許発明2は、「25℃で測定したときの硬度が10g?200gである」ことが特定されているのに対して、甲2発明では特定されていない。
<相違点2>
本件特許発明2は、脂肪酸又はその塩の含有量は、一般式で示される化合物(1)の1gに対して0.4ミリモル?0.7ミリモルの範囲内であることが特定されているのに対し、甲2発明は、オレイン酸の含有量は、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー1gに対して約0.354ミリモルである。

以下、相違点1について検討する。
甲2には、PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマー等を配合したゲル状化粧料の粘度や硬度についての記載がない。
また、甲3には、粘度の温度安定性が高く、優れた流動特性を有し、乾燥後に、毛髪をなめらかでまとまりやすくし、優れた使用感を有する毛髪処理剤組成物が記載されており、甲2発明(ジェリー様美容液)と甲3に記載された毛髪処理剤組成物は異なる用途の化粧料にかかるものであり、その課題も異なるものであるから、甲2発明において、甲3に記載された事項を参照してその成分を調整することは当業者が容易に想到しうることではない。
仮に甲2発明において、甲3に記載された事項を参照したとしても、甲2発明のジェリー様美容液について、その硬度を「25℃で測定したときの硬度が10g?200g」とする動機付けとなるような記載はなく、甲2発明において、その硬度を「25℃で測定したときの硬度が10g?200g」となるようにすることは当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2発明を対比する。
本件特許発明3は、本件特許発明2よりも特定事項が少なく、「25℃で測定したときの硬度が10g?200gである」ことのみを特定するものである。
対比については、本件特許発明2と同様になり、本件特許発明3と甲2発明と一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「下記一般式(1)で表される化合物と、脂肪酸又はその塩と、水とを含有し、
下記一般式(1)で表される化合物の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、0.5質量%?15質量%であり、
下記一般式(1)で表される化合物は、PEG-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート コポリマーであり、
脂肪酸又はその塩の含有量が、脂肪酸換算で、ゲル状水性化粧料の全質量に対して0.01質量%?5質量%であり、かつ、下記一般式で表される化合物(1)1gに対して0.33ミリモル?0.8ミリモルであり、
25℃の水に対する溶解量が1質量%以下の液体成分の含有量が、ゲル状水性化粧料の全質量に対して、10質量%以下であるゲル状水性化粧料。

【化1】

一般式(1)中、R^(1)は炭素数2?36でm価の炭化水素基を表し、R^(2)及びR^(4)は各々独立に炭素数1?4で2価の炭化水素基を表し、R^(3)はウレタン結合を有してもよい、直鎖、分岐鎖、又は脂肪族環若しくは芳香環を含むh+1価の炭化水素基を表し、R^(5)は2価の炭化水素基を表し、R^(6)は水素原子又はヒドロキシ基を表す。mは2以上の整数であり、hは1以上の整数であり、k及びnは括弧内の構造の繰り返し数を表し、各々独立に0?1000の範囲の整数であり、k及びnの両方が0になることはない。」

<相違点>
本件特許発明3は、「25℃で測定したときの硬度が10g?200gである」ことが特定されているのに対して、甲2発明では特定されていない。

以下、相違点について検討するに、本件特許発明2の相違点1と同様の判断となり、本件特許発明3は、甲2発明及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
よって、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の申立理由1及び申立理由2には理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立によっては、本件の請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-04-16 
出願番号 特願2018-65103(P2018-65103)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 齋藤 恵
西村 亜希子
登録日 2020-02-27 
登録番号 特許第6667565号(P6667565)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 ゲル状水性化粧料  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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