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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23F
管理番号 1373796
異議申立番号 異議2020-701003  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-23 
確定日 2021-04-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6714502号発明「フルーティー香を増強するためのコーヒー豆の焙煎方法及びコーヒー抽出物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6714502号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6714502号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成28年12月28日に出願され、令和2年6月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、特許異議申立人 萩原 真紀(以下、「申立人α」という。) は令和2年12月23日に、特許異議申立人 神谷 高伸(以下、「申立人β」という。) は令和2年12月24日に、それぞれ特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明
特許第6714502号の請求項1?11に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(なお、以下では、請求項順にそれぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、……、「本件特許発明11」といい、まとめて「本件特許発明」という。)
「【請求項1】
コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する工程、及び
コーヒー豆とアルコールを接触させる工程、ここでコーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である、
を含んでなる、コーヒー豆の焙煎方法。
【請求項2】
コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する工程、
コーヒー豆とアルコールを接触させる工程、ここでコーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である、及び
当該焙煎コーヒー豆を水で抽出する工程、
を含んでなる、コーヒー抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記焙煎する工程は、前記接触させる工程と前記コーヒー豆を焙煎することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記接触させる工程におけるアルコールはアルコール水溶液である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コーヒー抽出物は、30ppb以上の酢酸エチルを含有する、請求項2?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記コーヒー抽出物は、10ppb以上のイソ吉草酸エチルを含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールは、エタノール、メタノール、プロパノール、及びその組み合わせからなる群より選ばれる、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の焙煎方法により得られる焙煎コーヒー豆及び/又は請求項2?7のいずれか1項に記載の方法により得られるコーヒー抽出物を配合することを含んでなる、コーヒー製品の製造方法。
【請求項9】
コーヒー抽出物が30ppb以上かつ3000ppb未満の酢酸エチルを含むことを特徴とする、請求項2?7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
コーヒー製品が0.15ppb以上かつ60ppb未満の酢酸エチルを含むことを特徴とする、請求項8に記載のコーヒー製品の製造方法。
【請求項11】
酢酸エチルを100gあたり0.14mg以上、及び
イソ吉草酸エチルを100gあたり0.048mg以上
含んでなる焙煎コーヒー豆。」

第3 申立理由の概要
1 申立人αによる申立理由の概要
申立人αは、証拠として、以下の甲第1号証?甲第10号証を提出し、次の申立理由α-A及び申立理由α-Bを主張している。

甲第1号証:特開平8-266265号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:Payel Ghosh et al.., “Processing and Drying of Coffee - A Review”, International Journal of Engineering Research & Technology, Vol.3, No.12 (2014),pp.784-794(以下、「甲α2」という。)(部分訳添付)
甲第3号証:Loren D. Gautz et al.., “Measuring Coffee Bean Moisture Content”, Engineer's Notebook, EN-3 (2008),pp.1-3(以下、「甲α3」という。)(部分訳添付)
甲第4号証:特開平2-20249号公報(以下、「甲α4」という。)
甲第5号証:玉村隆子 他6名,“ポーラスポリマービーズを用いた固相抽出法による泡盛の香気分析”,日本食品科学工学会誌,第48巻,第3号(2001年),202-209頁(以下、「甲α5」という。)
甲第6号証:山岡洋,“<シリーズ・泡盛の基本技術> 泡盛製造”,醸協,第96巻,第11号(2001年),736-742頁(以下、「甲α6」という。)
甲第7号証:実験者を萩原真紀とし、実験日を令和2年12月15日とし、作成日を令和2年12月21日とする実験成績証明書(以下、「甲α7」という。)
甲第8号証:国際公開第2011/108631号(以下、「甲α8」という。)
甲第9号証:宇都宮仁 他2名,“清酒に添加した匂い物質の閾値(第1報)”,J. Brew. Soc. Japan, Vol.99, No.9 (2004), pp.652-658(以下、「甲α9」という。)
甲第10号証:宇都宮仁 他2名,“清酒に添加した匂い物質の閾値(第2報)”,J. Brew. Soc. Japan, Vol.99, No.10 (2004), pp.729-734(以下、「甲α10」という。)

申立理由α-A:
本件特許発明1は、甲α2?甲α7の記載事項を参酌すると、甲1に記載された発明であり、本件特許発明2?11は、甲α2?甲α7の記載事項を参酌すると、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?11は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

申立理由α-B:
甲α8?甲α10の記載事項を参酌すると、コーヒー豆に接触されるアルコールの量が本件特許発明1又は本件特許発明2における数値範囲内にあることにより、従来技術による方法に比べて、フルーティー香が増強されることが裏付けられることを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者は理解できず、本件特許発明1及び本件特許発明2を直接的または間接的に引用する本件特許発明3?11についても同様である。
したがって、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

2 申立人βによる異議申立理由の概要
申立人βは、証拠として、以下の甲第1号証?甲第8号証を提出し、次の申立理由β-1A、申立理由β-2A、申立理由β-2B、申立理由β-3、及び申立理由β-4を主張している。

甲第1号証:特開平8-266265号公報(申立人αの提出した甲1と同じ文献。以下でも「甲1」という。)
甲第2号証:特開2008-73008号公報(以下、「甲β2」という。)
甲第3号証:玉城武 他3名,“泡盛新酒と古酒の一般成分含量の差異”,J. Brew. Soc. Japan, Vol.78, No.12 (1983), pp.970-972(以下、「甲β3」という。)
甲第4号証:福田央 他2名,“市販泡盛の揮発性成分組成の特定”,J. Brew. Soc. Japan, Vol.111, No.4 (2016), pp.261-270(以下、「甲β4」という。)
甲第5号証:国税庁,「泡盛の香りと味わいを表現する」,平成29年4月26日付け,[on line]、<https://www.nta.go.jp/about/organization/okinawa/sake/flavor_wheel.htm>及び「泡盛の香味に関する品質評価用語体系表」,平成29年4月26日付け,[on line]、<https://www.nta.go.jp/about/organization/okinawa/sake/flavor_wheel/pdf/03.pdf>(以下、「甲β5」という。)
甲第6号証:広瀬幸雄 他1名,「増補・コーヒー学講義」,(有)人間の科学新社,70-71頁,表紙、226頁及び奥付頁(以下、「甲β6」という。)
甲第7号証:特開2003-9767号公報(以下、「甲β7」という。)
甲第8号証:Anna K. Hjelmeland et al.,“HS-SPMEとAgilent 5975 GC/MSDによるワインの揮発性化合物プロファイリング:化学的プロフィールと官能特性の関連性”,Agilent Technologies, pp.1-8 (2013)(以下、「甲β8」という。)

申立理由β-1A:
本件特許発明1?本件特許発明3、本件特許発明5?本件特許発明9及び本件特許発明11は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

申立理由β-2A:
本件特許発明1?11は、甲1に記載された発明及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

申立理由β-2B:
本件特許発明1?11は、甲β2に記載された発明及び甲β2?甲β6及び甲β8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

申立理由β-3:
本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11は、本件特許明細書の記載からはフルーティー香の増強効果が奏されるか理解できない態様を含むので、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

申立理由β-4:
本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11は、本件特許明細書の記載からはフルーティー香の増強効果が奏されるか理解できない態様を含むので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11を当業者が実施できるように記載されておらず、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

第4 引用刊行物の記載
1 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

記載事項(甲1-1)
「【特許請求の範囲】
コーヒー豆に泡盛を加えること、あるいは泡盛にコーヒー豆を加えることを特徴とする飲料品の製造法。」

記載事項(甲1-2)
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、コーヒー豆に泡盛を加えることによってできた、あるいは泡盛にコーヒー豆を加えることによってできた、飲料品の製造方法に関するものである。」

記載事項(甲1-3)
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、コーヒー豆に泡盛を加えて、あるいは泡盛にコーヒー豆を加えて新しい風味の飲み物を作り出すため、次のような幾つかの手段を発見した。
(A)コーヒー生豆を泡盛に浸し、泡盛を染み込ませてから焙煎する。
……。」

記載事項(甲1-4)
「【0005】
【作用】このようにすると、コーヒーと泡盛が組み合わさったこれまでにない新しい風味の飲料品ができる。」

記載事項(甲1-5)
「【0006】
【実施例】泡盛コーヒーの作成方法として、次の五つの実施例があげられる。
(A)コーヒー豆を焙煎前の生豆の状態で泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎する。焙煎した豆はミルや臼などを使って挽き、熱湯や水でコーヒーを抽出する。
……。」

記載事項(甲1-6)
「【0007】
【発明の効果】この発明によれば、コーヒーと泡盛が組み合わさった新しい風味の飲料品ができる。」

(2)甲1に記載された発明
上記記載事項(甲1-1)、記載事項(甲1-3)及び記載事項(甲1-5)より、甲1には以下の発明が記載されていると認める。
「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎することからなる、コーヒー豆の焙煎方法」(以下、「甲1焙煎方法発明」という。)、
「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎することにより製造される焙煎コーヒー豆を、熱湯や水で抽出することにより、コーヒー抽出液を得る方法」(以下、「甲1抽出液製法発明」という。)、及び
「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎することにより製造される、焙煎コーヒー豆」(以下、「甲1焙煎豆発明」という。)

2 甲β2の記載事項及び甲β2に記載された発明
(1)甲β2の記載事項
甲β2には、以下の事項が記載されている。

記載事項(甲β2-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種を乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で充分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させることを特徴とする液体含浸法。
【請求項2】
請求項1の方法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味の成分を残して高品質の製品を実現することを特徴とする焙煎処理方法。
【請求項3】
請求項1の方法で液体を含浸させてなることを特徴とする真空袋入りの豆類。
【請求項4】
請求項2の方法で焙煎することにより、余分なアルコール分や水分を蒸発させてなることを特徴とする豆類。」

記載事項(甲β2-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥した黒豆や大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、コーヒー豆など(以下「豆類」又は「乾燥豆類」と総称する)に真空含浸法によって香りや芳香、甘味などの液体による風味を与える製造法に関する。」

記載事項(甲β2-3)
「【背景技術】
……。
【0003】
一方、特開2000-236813では、ハーブ等の乾燥した香材にアルコール水溶液を含浸させて含浸ハーブを作製する方法が提案されている。先ず、コーヒー豆を焙煎し、このコーヒー豆が熱い間に含浸ハーブをこのコーヒー豆と撹拌により混合する。含浸ハーブ及びコーヒー豆の撹拌時にコーヒー豆の上側又は側方から冷却用の風を送るとよい。アルコール水溶液及びコーヒー豆の余熱を巧みに用いることにより、ハーブ等の香材の香りや成分が十分に浸透し且つ乾燥状態の良い香材入りコーヒーを得ることができる。アルコール水溶液としては、ウォッカ、焼酎、ワイン等の酒類を用いることができる。
なお、特開平8-266265には、コーヒー豆に泡盛を添加することで、あるいはコーヒー豆を泡盛に漬け込むことで、コーヒーを風味豊かなものに変える方法が開示されている。
……
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの製法では、コーヒー豆を液体に浸漬したり、蒸煮したり、アルコール類を加えて、これらの成分をコーヒー豆に含浸させる方法である。そのため、完成までに長時間を要すると共に、作業内容が複雑で、製造コストが高くなり、販売上も不利である。また、折角付与した風味も消失し易く、長続きしない。本発明の技術的課題は、このような問題に着目し、比較的簡易な方法で確実かつ迅速に液体を乾燥豆類に含浸し、風味を長期間持続可能とすることにある。」

記載事項(甲β2-4)
「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の技術的課題は次のような手段によって解決される。請求項1は、黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種を乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で充分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させることを特徴とする豆類の液体含浸法である。このように、乾燥した状態の黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種を添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で充分な負圧に減圧するため、内部のコーヒー豆や食用豆類、種子類などの微小な隙間も真空状態にされる。
【0006】
そのため、真空状態の真空袋を密封してから、大気圧を加えて真空袋を収縮させると、予め添加されている少量の溶液が各豆類の微小隙間に吸入され含浸されることになる。このように、豆類の内部の微小隙間を真空機で充分な負圧にしてから、密封状態の真空袋を大気圧で加圧し、真空状態の微小隙間に液体を含浸させるので、目的の液体が一瞬にして乾燥豆などの材料の中に含浸されることになり、短時間に容易にかつ確実に含浸できる。しかも、負圧状態の微小隙間に真空含浸されるので、含浸された液体成分が消失しにくく、風味や味が長持ちする。
【0007】
請求項2は、請求項1の方法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味などの成分を残した高品質の豆類を実現することを特徴とする豆類の焙煎処理方法である。このように、真空含浸された豆類の使用に際しては、請求項1の方法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎する。その結果、余分なアルコール分や水分が蒸発するので、香りや味などの成分のみが微小隙間中に残り、香りや味の高い、風味豊かな高品質の豆類を実現でき、かつ風味が長続きする。
【0008】
請求項3は、請求項1の方法で添加溶液を含浸させてなることを特徴とする豆類である。このように、請求項1の方法で添加溶液を真空含浸させてなる豆類は、真空袋に入ったまま気密状態で保管したり販売でき、品質の低下を来さず、取り扱いも簡便である。しかも、負圧状態の微小隙間に添加液体が真空含浸されているので、時間が経過しても、或いは真空袋から出した状態でも、含浸された液体成分が消失しにくく、風味や味が長持ちする。
【0009】
請求項4は、請求項2の方法で焙煎することにより、余分なアルコール分や水分を蒸発させてなることを特徴とする豆類である。このように、請求項2の方法で焙煎してなる豆類は、余分なアルコール分や水分は蒸発させてあるので、香りや味などの成分だけが微小隙間中に残っている。したがって、直ちに使用したり、密封して販売するのに適している。香りや味などの成分は微小隙間中に残っているので、風味が消失し難く、時間が経過したり真空袋から出した状態でも長続きする。」

記載事項(甲β2-5)
「【発明の効果】
【0010】
請求項1のように、乾燥したコーヒー豆などの豆類を添加液体と共に収納した真空袋を真空機で充分に減圧するため、内部の豆類の微小な隙間も真空状態にされる。そのため、真空袋を密封してから、大気圧を加えて収縮させると、予め添加されている少量の溶液が各豆類の微小隙間に吸入され含浸される。このような真空含浸法で添加液体を乾燥豆類に浸透させるので、目的の液体が一瞬にして乾燥豆などの材料の中に含浸され、短時間に容易にかつ確実に含浸できる。しかも、負圧状態の微小隙間に真空含浸されるので、含浸された液体成分が消失しにくく、風味や味が長持ちする。
【0011】
請求項2のように、真空含浸された豆類の使用に際しては、請求項1の方法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎する。その結果、余分なアルコール分や水分が蒸発するので、香りや味などの成分のみが微小隙間中に残り、香りや味の高い、風味豊かな高品質の豆類を実現でき、かつ風味が長続きする。
【0012】
請求項3のように、請求項1の方法で添加溶液を真空含浸させてなる豆類は、真空袋に入ったまま気密状態で保管したり販売でき、品質の低下を来さず、取り扱いも簡便である。しかも、負圧状態の微小隙間に添加液体が真空含浸されているので、時間が経過したり真空袋から取り出しても、含浸された液体成分が消失しにくく、風味や味が長持ちする。
【0013】
請求項4のように、請求項2の方法で焙煎してなる豆類は、余分なアルコール分や水分は蒸発させてあるので、香りや味などの成分だけが微小隙間中に残っている。したがって、直ちに使用したり、密封して販売するのに適している。香りや味などの成分は微小隙間中に残っているので、風味が消失し難く、時間が経過したり真空袋から出した状態でも長続きする。」

記載事項(甲β2-6)
「【発明を実施するための最良の形態】
……。
【0018】
これらの乾燥豆類に含浸する液体としては、香りないし芳香、甘味を加えることによって風味を付加できる液体が適している。例えば、ブランデー、焼酎、泡盛、ウォッカ、ワインなどのアルコール飲料が適している。各種のハーブ類やシークヮーサー(ヒラミレモン)その他の果汁、糖類も適しており、香料としては、バニラ、シナモン、アーモンドなどが適しているが、これらに限定はされない。各種の調味料を含浸させることによって、味付けすることもできる。
【0019】
真空袋3中の豆類の使用に際しては、豆類を焙煎して、含浸した液体中の余分なアルコールや水分を蒸発させることが望ましい。その結果、香りや味の成分だけが微小隙間G中に残るので、風味に富んだ高品質の製品を実現でき、風味も長続きする。したがって、喫茶店などの業務用でも、家庭においても、風味豊かな製品を提供できる。焙煎状態で合成樹脂袋や缶、ビンなどで保管したり販売もできる。焙煎した豆類は、細かい粉末や粒状に粉砕して、菓子類にトッピングしたり、チンスコーなどの焼き菓子の生地に混ぜ込むこともできる。」

記載事項(甲β2-7)
「【産業上の利用可能性】
【0020】
以上のように、乾燥した豆類を添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で充分な負圧にしてから密封し、大気に戻す方法によると、添加液体が一瞬にして豆類などの材料の中に真空含浸されるので、処理も容易である。この豆類を焙煎して、余分なアルコールや水分を蒸発させることにより、香りや味が豊かな風味の高い高品質な製品を提供できる。」

上記記載事項(甲β2-1)、記載事項(甲β2-2)、記載事項(甲β2-4)及び記載事項(甲β2-6)から、甲β2には以下の発明が記載されていると認める。
「黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種を乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で十分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させる液体含浸法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味の成分を残す、焙煎処理方法。」(以下、「甲β2焙煎方法発明」という。)、
「黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種を乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で十分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させることを特徴とする液体含浸法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味の成分を残した豆類を製造する、豆類製造方法。」、(以下、「甲β2焙煎豆類製造方法」という。)
及び
「黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種を乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で十分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させることを特徴とする液体含浸法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味の成分を残した豆類。」(以下、「甲β2焙煎豆類発明」という。)

3 甲α4の記載事項
記載事項(甲α4-1)
「2.特許請求の範囲
(1) コーヒー生豆を水の存在下で加圧、加熱し、その後コーヒー生豆の細胞組織を破壊しない濃度のエチルアルコール水溶液に浸漬して前処理コーヒー生豆を製造する前処理工程と、該前処理コーヒー生豆を、超臨界状態のCO_(2 )とコーヒー生豆の細胞組織を破壊しない濃度のエチルアルコール水溶液または超臨界状態のCO_(2 )と水とからなる混合溶剤と接触させてカフエインを抽出する抽出工程と、カフエインを抽出したコーヒー生豆を乾燥する乾燥工程からなることを特徴とするコーヒー生豆の脱カフエイン法。」(1頁左下欄4?16行)

記載事項(甲α4-2)
「(産業上の利用分野)
本発明はコーヒー生豆からカフエインを除去する脱カフエイン法に関する。」(1頁右下欄19行?2頁左上欄1行)

記載事項(甲α4-3)
「 以下本発明方法を詳細に説明する。
(前処理工程)
本発明者が電子顕微鏡を用いて観察した結果のコーヒー生豆の内部の状態を第1図に示す。……。
第2図は本発明による脱カフエイン法を実施する前処理装置の概略線図である。……。
次に、上記前処理装置を用いてコーヒー生豆から脱カフエインする処理について説明する。
切込ホツパー1に入れられたコーヒー生豆はベルトコンベヤAにより搬送され、バケットエレベータBで持上げられ受入ホツパー2に入れられる。
圧力容器5の投入口3aを開いて受入ホツパー2から圧力容器3内にコーヒー生豆を投入した後投入口3aを閉じ、温水タンク4からバルブCを開いて所定量の温水(80?150℃)を給水し、その後所定圧力(1.5?4kg/cm^(2))の加圧水蒸気を圧力容器3内に供給し、所定時間(5?30分)蒸煮する。このときコーヒー生豆がムラなく蒸煮されるように回転羽根3bにより攪拌する。蒸煮中は圧力容器3の内圧(蒸煮温度)が常に一定になるように蒸気量を制御するとともに容器内の温度も監視する。
……。
所定時間上の蒸煮が終了した後圧力容器3の内圧を下げ、さらに容器内に残つた温水を排出する。
次にエチルアルコール水溶液タンク6からパルブCを用いて所定温度のエチルアルコール水溶液(2?30%)を圧力容器3に所定量だけ導入する。圧力容器3内ではコーヒー生豆が所定時間(60?200分間)浸漬され、容器内部を所定温度(10?50℃)に保つとともに回転羽根3bを回転してコーヒー生豆をゆるやかに攪拌する。この間にコーヒー生豆内の一部カフエインが溶出する。
エチルアルコール濃度が30%以上ではコーヒー生豆中に残留するエチルアルコールが無視できず、コーヒー液とした場合、異臭となつて好ましくなく、また2%以下の濃度では前記第1図(ロ)に示すような状態のコーヒー生豆が得られないので、前記したように前処理工程時のエチルアルコール水溶液の濃度は2?30%の範囲が好ましい。
……。
所定時間浸漬した後、圧力容器3からエチルアルコール水溶液を排出し、取出しバルブ3cを開いて内部のコーヒー生豆を取出す。回転羽根3bを回転させてコーヒー生豆を取出バルブ3cに誘導し容器内にコーヒー生豆が残留しないようにする。
圧力容器3から取り出されたコーヒー生豆は振動型のコンベヤAで搬送される。
コンベヤAで搬送された前処理コーヒー生豆はパケツトエレベータBで持上げられ、計量ホツパー7に送られ、ここで計量され、所定量(たとえば全体の1/4)ずつ超臨界状態CO_(2)^( )ガスによる抽出工程へ供給される。
本発明の前処理工程は、コーヒー豆を前記第1図(ロ)に示したような状態にし、次工程の抽出工程を容易にするものであつて、コーヒー生豆からカフエインを80?90%以上抽出するために長時間(数時間)処理する必要のある公知の水抽出法とは本質的に相違し、僅か5?30分の短時間の処理によって第1図(ロ)に示したような状態のコーヒー生豆にする処理である。」(3頁左上欄12行?4頁左下欄4行)

第5 当審の判断
1 甲1を主たる証拠とする新規性及び進歩性(申立理由α-A、申立理由β-1A、及び申立理由β-2A)についての判断
申立人αの申立理由α-A、申立人βの申立理由β-1A、及び申立理由β-2Aは、いずれも甲1を主たる証拠とするものであるので、まとめて判断する。
(1)甲1を主たる証拠とする新規性について
ア 本件特許発明1の新規性
(ア)本件特許発明1と甲1焙煎方法発明との対比
本件特許発明1と甲1焙煎方法発明とを対比すると、甲1焙煎方法発明における「コーヒー生豆」は本件特許発明1における「コーヒー豆」に相当すると認められ、甲1焙煎方法発明における「泡盛」がアルコールを含有するものであることは技術常識であるから、甲1焙煎方法発明における「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸」すことで、アルコールと接触することになることは明らかであり、本件特許発明1における「コーヒー豆とアルコールを接触させる工程」に相当すると認められる。
したがって、両者は、コーヒー豆を焙煎する工程及びコーヒー豆とアルコールを接触させる工程を有するコーヒー豆の焙煎方法である点で一致し、
・「コーヒー豆を焙煎する工程」が、本件特許発明1では、「アルコールの存在下で焙煎する」とされる一方、甲1焙煎方法発明では、「泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎する」とされる点で相違し(以下、「相違点1-1」という。)、
・「コーヒー豆とアルコールを接触させる工程」でのコーヒー豆とアルコールとの重量比について、本件特許発明1では、「ここでコーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である」とされる一方、甲1焙煎方法発明では、コーヒー豆とアルコールとの重量比は明示されていない点で相違する(以下、「相違点1-2」という。)。

(イ)相違点についての検討
まず、相違点1-1について検討する。
甲1には、甲1焙煎方法発明におけるコーヒー豆を焙煎する工程が、アルコールの存在下で焙煎するものか否かは明記されておらず、アルコールは水よりも揮発性の高い物質であり、乾燥時には速やかに蒸散することが技術常識であることを考慮すると、甲1焙煎方法発明において、「泡盛を十分に浸透させた後に乾燥させ、それから」(下線は当審による)行われるコーヒー豆を焙煎する工程においては、コーヒー豆中のアルコールはもはや乾燥により蒸散して残存していないと理解すべきで、甲1焙煎方法発明におけるコーヒー豆を焙煎する工程が、アルコールの存在下で焙煎するものと理解することはできない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人αは、その特許異議申立書10頁3?12行において、甲α2の記載及び甲α3の記載を根拠に「泡盛がコーヒー生豆に浸透することで、一旦エタノールがコーヒー生豆の水分に溶解した場合、その後、コーヒー生豆を乾燥させたとしても、乾燥したコーヒー生豆は9?12%の水分を含むのであるから、その水分に溶解しているエタノールがコーヒー生豆に存在することになる。」などと主張し、その特許異議申立書10頁13行?11頁1行において、甲α4の記載並びに甲α5及び甲α6を根拠に「泡盛はエタノール濃度が高く、その多くが30%程度のエタノールを含むことを考慮すると、泡盛に浸して泡盛を浸透させ、乾燥させた、甲1方法のコーヒー生豆は、その内部にエタノールを含むものである。」などと主張する。
しかし、甲α2及び甲α3には、コーヒー生豆乾燥時の水分含有量についての記載はあっても、泡盛を十分に浸透させた後に乾燥させたコーヒー豆についてのものであり、状況が異なるものであるし、アルコールが残存することを示す直接の記載はない。
甲α4の記載は、記載事項(甲α4-1)?記載事項(甲α4-3)に示されるとおり、甲α4に記載されたコーヒー生豆の脱カフェイン法の発明における前処理工程、抽出工程、及び乾燥工程のうち、前処理工程におけるコーヒー生豆の加圧水蒸気による蒸煮後のエタノール水溶液浸漬に用いられるエタノール水溶液の濃度が30%以上では、最終的に得られる脱カフェインコーヒー生豆に残留するエタノールが、コーヒー液とした場合に異臭となって好ましくないことを示すものである。一方、甲1焙煎方法発明は、甲α4に記載されたコーヒー生豆の脱カフェイン法の発明とは異なり、コーヒー生豆の加圧水蒸気による蒸煮を行うものではなく、また、甲1焙煎方法発明で得られるコーヒー豆を湯や水で抽出したコーヒーは、記載事項(甲1-4)及び記載事項(甲1-6)に記載されるとおり、「コーヒーと泡盛が組み合わさった新しい風味の飲料品」であって、異臭があるものとは認められないことからも、甲α4の記載を根拠に、甲1焙煎方法発明における焙煎時のコーヒー生豆にエタノールが残存しているとすることはできない。
したがって、甲α5及び甲α6に、泡盛はエタノール濃度が30%程度であるものが多いことが示されているからといって、甲1焙煎方法発明において、コーヒー豆中のアルコールが乾燥後も残存しているとすることは理解できず、甲1焙煎方法発明におけるコーヒー豆を焙煎する工程が、アルコールの存在下で焙煎するものと理解することはできない。

申立人βは、相違点1-1に関して直接的な主張はしていないものの、その特許異議申立書23頁17行?24頁1行において、甲β6のコーヒー生豆の水分量についての記載、甲β7の水に浸漬されたコーヒー生豆の飽和水分量についての記載及び甲β3の泡盛のアルコール分についての記載を根拠にして、「泡盛浸漬後のコーヒー生豆には、8?24.2%……の泡盛由来のアルコールが含まれていることになる。甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法では、コーヒー生豆を浸漬させた後、乾燥させてから焙煎させている。アルコールは、水よりも揮発性が高いため、泡盛浸漬後の乾燥により、コーヒー生豆中のアルコール分は水と共にある程度失われる乾燥後焙煎前のコーヒー生豆にどの程度のアルコール分が残存しているかは不明であるが、……。つまり、甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法では、泡盛浸漬後、焙煎する前のコーヒー生豆には、生豆100g当たり、2.0?4.0gのアルコール分が含まれている蓋然性が高い。」などと主張する。
しかし、申立人βによる推算は、コーヒー生豆への水とアルコールの吸着量が等しく、乾燥後のコーヒー生豆に含まれる水及びアルコールの含有量が泡盛浸漬前のコーヒー生豆の水分量と等しく、乾燥時における水の揮発性とアルコールの揮発性が等しいことを前提にしており、技術常識に照らして、上記前提は、甲1焙煎方法発明における焙煎時のコーヒー生豆の状態において成り立つものとはいえず、甲1焙煎方法発明における焙煎時のコーヒー生豆にエタノールが残存していることの根拠となるものではない。
したがって、たとえ、甲β6、甲β7及び甲β3の記載を参酌しても、甲1焙煎方法発明において、コーヒー豆中のアルコールが乾燥後も残存しているとすることはできず、甲1焙煎方法発明におけるコーヒー豆を焙煎する工程が、アルコールの存在下で焙煎するものとすることはできない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1焙煎方法発明ではない。

イ 本件特許発明2の新規性
(ア)本件特許発明2と甲1抽出液製法発明との対比
本件特許発明2と甲1抽出液製法発明とを対比すると、甲1抽出液製法発明における「コーヒー生豆」は本件特許発明2における「コーヒー豆」に相当すると認められ、甲1抽出液製法発明における「泡盛」がアルコールを含有するものであることは技術常識であるから、甲1抽出液製法発明における「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し」は、本件特許発明2における「コーヒー豆とアルコールを接触させる工程」に相当すると認められ、甲1抽出液製法発明における「焙煎コーヒー豆を、熱湯や水で抽出する」は、本件特許発明2における「焙煎コーヒー豆を水で抽出する工程」に相当すると認められる。
したがって、両者は、コーヒー豆を焙煎する工程、コーヒー豆とアルコールを接触させる工程及び焙煎コーヒー豆を水で抽出する工程を有するコーヒー豆の抽出方法である点で一致し、
上記アに示した本件特許発明1と甲1焙煎方法発明との対比における相違点でもある、相違点1-1及び相違点1-2で相違する。

(イ)小括
上記ア(イ)?(エ)に示したのと同様に、相違点1-1は実質的な相違点である。
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1抽出液製法発明ではない。

ウ 本件特許発明3?10の新規性
本件特許発明3?10はいずれも、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項をすべて、その発明特定事項とする発明であり、さらに技術的限定を加えたものであるので、上記ア及びイに示したとおり、本件特許発明1が甲1焙煎方法発明ではなく、本件特許発明2が甲1抽出液製法発明ではない以上、本件特許発明3?10は甲1焙煎方法発明又は甲1抽出液製法発明ではない。

エ 本件特許発明11の新規性
(ア)本件特許発明11と甲1焙煎豆発明との対比
本件特許発明11と甲1焙煎豆発明とを対比すると、両者は「焙煎コーヒー豆」である点で一致し、
・焙煎コーヒー豆が本件特許発明11では、
「酢酸エチルを100gあたり0.14mg以上、及び
イソ吉草酸エチルを100gあたり0.048mg以上
含んでなる」とされる一方、
甲1焙煎豆発明では、
「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎することにより製造される」とされて、含まれる酢酸エチルの割合及びイソ吉草酸エチルの割合が不明である点で相違する(以下、「相違点1-3」という。)。

(イ)相違点についての検討
相違点1-3について検討する。
甲1には、「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎することにより製造される」焙煎コーヒー豆に含まれる酢酸エチルの割合及びイソ吉草酸エチルの割合についての記載はない。
また、甲1の記載、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載から、「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎することにより製造される」焙煎コーヒー豆には、100gあたり0.14mg以上の酢酸エチル及び100gあたり0.048mg以上のイソ吉草酸エチルが含まれることが明らかであるとする根拠は見出せない。
したがって、相違点1-3は実質的な相違点である。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人αは、その特許異議申立書11頁7?9行において、「甲第7号証には、実験の結果、コーヒー生豆を泡盛に浸した場合に、コーヒー豆100gが接触するアルコールの重量は3.99?20.8gになることが示されている。」と述べるとともに、同12頁下から4行?13頁1行において、「甲1方法において、コーヒー生豆100gあたり3.99?20.8gのエタノールと接触させており、その後、焙煎したコーヒー豆は、当然、酢酸エチルを100gあたり0.14mg以上、イソ吉草酸エチルを100gあたり0.048mg以上含有するものと認められ、請求項11の構成要件を充足する。」と主張する。
しかし、甲1焙煎豆発明では、焙煎コーヒー豆が「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎することにより製造される」(下線は当審による)とされており、コーヒー豆を焙煎する工程においては、コーヒー豆中のアルコールは乾燥により蒸散して残存していないと理解されるし、甲1には、コーヒー生豆と泡盛との量比及び泡盛のエタノール濃度についての記載がないため、甲α7に示された実験が、甲1焙煎豆発明における、コーヒー生豆と泡盛に含まれるエタノールとの接触を再現したものとはいうことはできない。
また、焙煎したコーヒー豆に含まれる酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの含有量は、技術常識に照らして、コーヒー豆を焙煎する工程におけるアルコールの存否、コーヒー豆と接触するアルコールとコーヒー豆との重量比のみならず、焙煎温度・焙煎時間などの焙煎条件にも大きく影響されると認められるにもかかわらず、甲1には焙煎条件についての記載もないため、たとえ、甲α7に示された実験が、甲1焙煎豆発明におけるコーヒー生豆と泡盛に含まれるエタノールとの接触を再現したものといえるとしても、甲1焙煎豆発明に含まれる酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの含有量が、本件特許発明11と同程度であるとすることはできない。
したがって、申立人αの上記主張は受け入れられない。

申立人βは、その特許異議申立書23頁15行?24頁最終行及び同26頁24?34行において、「甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法で得られた焙煎コーヒー豆の酢酸エチルとイソ吉草酸エチルの含有量は、本件明細書の実施例1の「豆100gあたり1gのエタノール添加量」や[豆100gあたり5gのエタノール添加量]で得られた焙煎コーヒー豆と同程度である蓋然性が高い。」などと主張する。
しかし、甲1焙煎豆発明における焙煎前のコーヒー生豆に含有されるエタノール量についての申立人βによる推算は、コーヒー生豆への水とアルコールの吸着量が等しく、乾燥後のコーヒー生豆に含まれる水及びアルコールの含有量が泡盛浸漬前のコーヒー生豆の水分量と等しく、乾燥時における水の揮発性とアルコールの揮発性が等しいことを前提にしていることから、技術常識に照らして、甲1焙煎豆発明における焙煎時のコーヒー生豆の状態を表したものとはいえないし、焙煎したコーヒー豆に含まれる酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの含有量は、技術常識に照らして、コーヒー豆を焙煎する工程におけるアルコールの存否、コーヒー豆と接触するアルコールとコーヒー豆との重量比のみならず、焙煎温度・焙煎時間などの焙煎条件にも大きく影響されると認められるにもかかわらず、甲1には焙煎条件についての記載もないため、たとえ、申立人βによる推算が、甲1焙煎豆発明における焙煎時のコーヒー生豆の状態を表したものであるとしても、甲1焙煎豆発明に含まれる酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの含有量が、本件特許発明11と同程度であるとすることはできない。
したがって、申立人βの上記主張は受け入れられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明11は甲1焙煎豆発明ではない。

(2)甲1を主たる証拠とする進歩性について
ア 本件特許発明1の進歩性
(ア)本件特許発明1と甲1焙煎方法発明との対比
本件特許発明1と甲1焙煎方法発明とを対比すると、上記(1)ア(ア)に示したとおり、両者は、コーヒー豆を焙煎する工程及びコーヒー豆とアルコールを接触させる工程を有する方法である点で一致し、相違点1-1及び相違点1-2で相違する。

(イ)相違点についての検討
まず、相違点1-1について検討する。
甲1焙煎方法発明は、記載事項(甲1-3)、記載事項(1-4)及び記載事項(1-6)に示されるように、コーヒーと泡盛が組み合わさった新しい風味の飲料品を得るための方法とされており、「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎する」(下線は当審による)とされていることから、泡盛に含まれるアルコールは蒸散させる一方、泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分をコーヒー生豆中に残存させた状態で、コーヒー生豆を焙煎することにより、コーヒーと泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分が組み合わさった新しい風味の飲料品を得るための焙煎コーヒー豆を得ることを意図したものと認められる。
甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の泡盛中のアルコール割合に関する記載や、コーヒー豆中の水分の記載等を検討しても、甲1焙煎方法発明において、蒸散させることを意図していたアルコールを、風味に影響することが技術常識から懸念されるにもかかわらず、コーヒー生豆中にあえて残した状態で、コーヒー生豆の焙煎を行う動機づけはないといえるので、甲1焙煎方法発明において、懸念される成分を残すことが前提となるように変更し、相違点1-1に係る「コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
したがって、本件特許発明1は、相違点1-2について検討するまでもなく、甲1に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
そして、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおり、コーヒーのフルーティー香を増強するためのコーヒー豆を得ることができるという効果を奏するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「コーヒーのフルーティー香」は、焙煎されたコーヒー豆から抽出される成分のみにより生じる「フルーティー香」である一方、甲1に記載された「コーヒーと泡盛が組み合わさった新しい風味」とは、泡盛のアルコール以外の成分がコーヒー生豆の成分に混合・焙煎された後に抽出される成分により生じる風味であって、両者が異質なものであることは、技術常識に照らして明らかであり、また、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、コーヒーのフルーティー香を増強するためのコーヒー豆を得ることができるという本件特許発明1の効果が、当業者に予想し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明並びに甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人βは、相違点1-1に関して直接的な主張はしていないものの、その特許異議申立書23頁17行?24頁1行において、甲β6のコーヒー生豆の水分量についての記載、甲β7の水に浸漬されたコーヒー生豆の飽和水分量についての記載及び甲β3の泡盛のアルコール分についての記載を根拠にして、「泡盛浸漬後のコーヒー生豆には、8?24.2%……の泡盛由来のアルコールが含まれていることになる。甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法では、コーヒー生豆を浸漬させた後、乾燥させてから焙煎させている。アルコールは、水よりも揮発性が高いため、泡盛浸漬後の乾燥により、コーヒー生豆中のアルコール分は水と共にある程度失われる乾燥後焙煎前のコーヒー生豆にどの程度のアルコール分が残存しているかは不明であるが、……。つまり、甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法では、泡盛浸漬後、焙煎する前のコーヒー生豆には、生豆100g当たり、2.0?4.0gのアルコール分が含まれている蓋然性が高い。」などと主張し、その特許異議申立書22頁29?30行において、「甲1-1発明において、コーヒー生豆を浸漬させる泡盛の量をどの程度にするかは、当業者が通常行う設計事項に過ぎない」とも主張する。
しかし、申立人βによる推算は、コーヒー生豆への水とアルコールの吸着量が等しく、乾燥後のコーヒー生豆に含まれる水及びアルコールの含有量が泡盛浸漬前のコーヒー生豆の水分量と等しく、乾燥時における水の揮発性とアルコールの揮発性が等しいことを前提にしている。
したがって、技術常識に照らして、上記前提は、甲1焙煎方法発明における焙煎時のコーヒー生豆の状態において成り立つものとはいえず、甲1焙煎方法発明における焙煎時のコーヒー生豆にエタノールが残存していることの根拠となるものではない。
したがって、たとえ、甲β6、甲β7及び甲β3の記載を参酌しても、甲1焙煎方法発明において、コーヒー豆中のアルコールが乾燥後も残存しているとすることはできず、甲1焙煎方法発明におけるコーヒー豆を焙煎する工程が、アルコールの存在下で焙煎するものとすることはできない。
そして、上記(イ)に示したとおり、甲1焙煎方法発明は、泡盛に含まれるアルコールは蒸散させる一方、泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分をコーヒー生豆中に残存させた状態で、コーヒー生豆を焙煎することにより、コーヒーと泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分が組み合わさった新しい風味の飲料品を得るための焙煎コーヒー豆を得ることを意図したものと認められるものであって、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の泡盛中のアルコール割合に関する記載や、コーヒー豆中の水分の記載等を検討しても、甲1焙煎方法発明において、蒸散させることを意図していたアルコールを、風味に影響することが技術常識から懸念されるにもかかわらず、コーヒー生豆中にあえて残した状態で、コーヒー生豆の焙煎を行う動機づけはないといえるので、甲1焙煎方法発明において、懸念される成分を残すことが前提となるように変更し、相違点1-1に係る「コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
したがって、申立人βの上記主張は受け入れられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2の進歩性
(ア)本件特許発明2と甲1抽出液製法発明との対比
本件特許発明2と甲1抽出液製法発明とを対比すると、上記(1)イ(ア)に示したとおり、両者は、コーヒー豆を焙煎する工程、コーヒー豆とアルコールを接触させる工程及び焙煎コーヒー豆を水で抽出する工程を有する方法である点で一致し、
上記アに示した本件特許発明1と甲1焙煎方法発明との相違点でもある、相違点1-1及び相違点1-2で相違する。

(イ)相違点についての検討
まず、相違点1-1について検討する。
甲1抽出液製法発明は、記載事項(甲1-3)、記載事項(1-4)及び記載事項(1-6)に示されるように、コーヒーと泡盛が組み合わさった新しい風味の飲料品を得るための方法とされており、「コーヒー生豆を泡盛にしばらく浸し、泡盛を十分浸透させた後に乾燥させ、それから焙煎する」(下線は当審による)とされていることから、泡盛に含まれるアルコールは蒸散させる一方、泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分をコーヒー生豆中に残存させた状態で、コーヒー生豆を焙煎することで得られるコーヒー豆から抽出液を得ることにより、コーヒーと泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分が組み合わさった新しい風味の飲料品を得ることを意図したものと認められる。
甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の泡盛中のアルコール割合に関する記載や、コーヒー豆中の水分の記載等を検討しても、甲1抽出液製法発明において、蒸散させることを意図していたアルコールを、風味に影響することが技術常識から懸念されるにもかかわらず、コーヒー生豆中にあえて残した状態で、コーヒー生豆の焙煎を行う動機づけはないといえるので、甲1抽出液製法発明において、懸念される成分を残すことが前提となるように変更し、相違点1-1に係る「コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
したがって、本件特許発明2は、相違点1-2について検討するまでもなく、甲1に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
そして、本件特許発明2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおり、コーヒーのフルーティー香を増強されたコーヒー抽出液を得ることができるという効果を奏するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「コーヒーのフルーティー香」は、焙煎されたコーヒー豆から抽出される成分のみにより生じる「フルーティー香」である一方、甲1に記載された「コーヒーと泡盛が組み合わさった新しい風味」とは、泡盛のアルコール以外の成分がコーヒー生豆の成分に混合・焙煎された後に抽出される成分により生じる風味であって、両者が異質なものであることは、技術常識に照らして明らかであり、また、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、コーヒーのフルーティー香を増強されたコーヒー抽出液を得ることができるという本件特許発明2の効果が、当業者に予想し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、本件特許発明2は、甲1に記載された発明並びに甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人βは、相違点1-1に関して直接的な主張はしていないものの、その特許異議申立書23頁17行?24頁1行において、甲β6のコーヒー生豆の水分量についての記載、甲β7の水に浸漬されたコーヒー生豆の飽和水分量についての記載及び甲β3の泡盛のアルコール分についての記載を根拠にして、「泡盛浸漬後のコーヒー生豆には、8?24.2%……の泡盛由来のアルコールが含まれていることになる。甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法では、コーヒー生豆を浸漬させた後、乾燥させてから焙煎させている。アルコールは、水よりも揮発性が高いため、泡盛浸漬後の乾燥により、コーヒー生豆中のアルコール分は水と共にある程度失われる乾燥後焙煎前のコーヒー生豆にどの程度のアルコール分が残存しているかは不明であるが、……。つまり、甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法では、泡盛浸漬後、焙煎する前のコーヒー生豆には、生豆100g当たり、2.0?4.0gのアルコール分が含まれている蓋然性が高い。」などと主張する。
しかし、申立人βによる推算は、コーヒー生豆への水とアルコールの吸着量が等しく、乾燥後のコーヒー生豆に含まれる水及びアルコールの含有量が泡盛浸漬前のコーヒー生豆の水分量と等しく、乾燥時における水の揮発性とアルコールの揮発性が等しいことを前提にしていることから、技術常識に照らして、甲1抽出液製法発明における焙煎時のコーヒー生豆の状態を表したものとはいえず、甲1抽出液製法発明における焙煎時のコーヒー生豆にエタノールが残存していることの根拠となるものではない。
したがって、たとえ、甲β6、甲β7及び甲β3の記載を参酌しても、甲1抽出液製法発明において、コーヒー豆中のアルコールが乾燥後も残存しているとすることはできない。
そして、上記(イ)に示したとおり、甲1抽出液製法発明は、泡盛に含まれるアルコールは蒸散させる一方、泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分をコーヒー生豆中に残存させた状態で、コーヒー生豆を焙煎することで得られるコーヒー豆から抽出液を得ることにより、コーヒーと泡盛に含まれるアルコール以外の風味成分が組み合わさった新しい風味の飲料品を得ることを意図したものと認められるものであって、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、甲1抽出液製法発明において、蒸散させることを意図していたアルコールを、風味に影響することが技術常識から懸念されるにもかかわらず、コーヒー生豆中にあえて残した状態で、コーヒー生豆の焙煎を行う動機づけはないといえるので、甲1抽出液製法発明において、懸念される成分を残すことが前提となるように変更し、相違点1-1に係る「コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
したがって、申立人βの上記主張は受け入れられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明2は、甲1に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明3?10の進歩性
本件特許発明3?10はいずれも、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項をすべて、その発明特定事項とする発明であり、さらに技術的限定を加えたものであるので、上記ア及びイに示したとおり、本件特許発明1が、甲1焙煎方法発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明2が、甲1抽出液製法発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明3?10は、甲1焙煎方法発明又は甲1抽出液製法発明、並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明11の進歩性
(ア)本件特許発明11と甲1焙煎豆発明との対比
本件特許発明11と甲1焙煎豆発明とを対比すると、上記(1)エ(ア)に示したとおり、両者は「焙煎コーヒー豆」である点で一致し、相違点1-3で相違する。

(イ)相違点についての検討
相違点1-3について検討する。
甲1には、焙煎コーヒー豆に含まれる酢酸エチルの割合及びイソ吉草酸エチルの割合についての記載はなく、甲1の記載、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載から、甲1焙煎豆発明に対して、相違点1-3に係る
「酢酸エチルの含有量を100gあたり0.14mg以上、及び
イソ吉草酸エチルの含有量を100gあたり0.048mg以上
含んでなる」ものとすることの動機づけとなるものは見出せない。
したがって、本件特許発明11は、甲1に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
そして、本件特許発明11は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおり、コーヒーのフルーティー香を増強するための焙煎コーヒー豆であるという効果を奏するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「コーヒーのフルーティー香」は、焙煎されたコーヒー豆から抽出される成分のみにより生じる「フルーティー香」である一方、甲1に記載された「コーヒーと泡盛が組み合わさった新しい風味」とは、泡盛のアルコール以外の成分がコーヒー生豆の成分に混合・焙煎された後に抽出される成分により生じる風味であって、両者が異質なものであることは、技術常識に照らして明らかであり、また、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、本件特許発明11の効果が、当業者に予想し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、本件特許発明11は、甲1に記載された発明並びに甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人βは、その特許異議申立書22頁4?14行において、本件特許発明11と申立人βの認定した甲1-3発明(甲1焙煎豆発明に対応)との相違点を、
「前記相違点1に加えて、下記相違点で相違する。
相違点7:本件発明11に係る焙煎コーヒー豆は、酢酸エチルを100gあたり0.14mg以上、及びイソ吉草酸エチルを100gあたり0.048mg以上含んでなるのに対して、甲1-3発明に係る焙煎コーヒー豆は、甲1-1発明に係る焙煎方法により得られた焙煎コーヒー豆であることが記載されているのみであり、その酢酸エチル含有量とイソ吉草酸エチル含有量は不明である点。」としている。
ここで、申立人βのいう相違点1とは、同19頁21?24行に示された、本件特許発明1と申立人βの認定した甲1-1発明(甲1焙煎方法発明に対応)との相違点である、
「相違点1:本件発明1では、コーヒー生豆に接触させるアルコールの量が、コーヒー豆100gあたり0.1g以上のアルコールの重量であるのに対して、甲1-1発明ではコーヒー生豆に接触させるアルコールが泡盛であることは記載されているものの、アルコール量について特定されていない点。」である。
その上で、申立人βは、申立人βのいう相違点1については、同22頁15?32行において「相違点1は実質的な相違点とは言えず、……、コーヒー生豆を浸漬させる泡盛の量をどの程度にするかは、当業者が通常行う設計事項に過ぎない。」などと主張し、申立人βのいう相違点7については、同26頁24?34行において「甲1-1発明に係る方法及び甲1-2発明に係る方法で得られた焙煎コーヒー豆の酢酸エチルとイソ吉草酸エチルの含有量は、本件明細書の実施例1の「豆100gあたり1gのエタノール添加量」で得られた焙煎コーヒー豆と同程度である蓋然性が高い。……、相違点7は実質的な相違点とは言えず、相違点7によっては、本件発明11は、新規性及び進歩性を有するとは言えない。」などと主張する。
しかし、本件特許発明11は、その製造方法が発明特定事項とされていないので、申立人βのいう相違点1を、本件特許発明11と甲1焙煎豆発明との相違点として検討することはできない。
また、申立人βのいう相違点7については、上記相違点1-3に対応するものと認められるところ、相違点1-3は、上記(1)エに示したとおり、実質的な相違点であるし、上記(イ)に示したとおり、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載から、甲1焙煎豆発明に対して、相違点1-3に係る
「酢酸エチルの含有量を100gあたり0.14mg以上、及び
イソ吉草酸エチルの含有量を100gあたり0.048mg以上
含んでなる」ものとすることの動機づけとなるものは見出せない。
したがって、申立人βによる上記主張は受けいれられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明11は、甲1に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲1を主たる証拠とする新規性及び進歩性(申立理由α-A、申立理由β-1A、及び申立理由β-2A)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1?11は、甲1に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。。

2 甲β2を主たる証拠とする進歩性(申立理由β-2B)についての判断
(1)甲β2を主たる証拠とする進歩性について
ア 本件特許発明1の進歩性
(ア)本件特許発明1と甲β2焙煎方法発明との対比
本件特許発明1と甲β2焙煎方法発明とを対比すると、甲β2焙煎方法発明における「乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で十分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させる液体含浸法で真空含浸」は本件特許発明1における「接触」に相当すると認められ、甲β2焙煎方法発明における「焙煎」は本件特許発明1における「焙煎」に相当すると認められる。
したがって、両者は、対象物を焙煎する工程、及び対象物を物質に接触させる工程を含んでなる焙煎方法である点で一致し、
・対象物が、本件特許発明1では「コーヒー豆」である一方、甲β2焙煎方法発明では、「黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種」である点で相違し(以下、「相違点2-1)という。)、
・対象物と接触させる物質が、本件特許発明1では「アルコール」である一方、甲β2焙煎方法発明では、「添加液体」である点で相違し(以下、「相違点2-2」という。)、
・対象物を焙煎する工程が、本件特許発明1では、「アルコールの存在下で焙煎する」とされる一方、甲β2焙煎方法発明では、「真空袋から取り出して焙煎する」とされる点で相違し(以下、「相違点2-3」という。)、
・対象物と接触させる物質と対象物との重量比について、本件特許発明1では、「コーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である」とされる一方、甲β2焙煎方法発明では、対象物と接触させる物質との対象物との重量比は示されていない点で相違する(以下、「相違点2-4」という。)。

(イ)相違点についての検討
まず、相違点2-1について検討する。
甲β2焙煎方法発明において、対象物である「黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種」に挙げられているものの中から「コーヒー豆」を選択することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

次に、相違点2-2及び相違点2-3について検討する。
記載事項(甲β2-6)には、対象物と接触させる物質である「添加液体」に関して、「香りないし芳香、甘味を加えることによって風味を付加できる液体が適している。」と記載されるとともに、「例えば、ブランデー、焼酎、泡盛、ウォッカ、ワインなどのアルコール飲料が適している。各種のハーブ類やシークヮーサー(ヒラミレモン)その他の果汁、糖類も適しており、香料としては、……が適しているが、これらに限定はされない。」と記載されており、この中から「アルコール」を含むことの明らかな「ブランデー、焼酎、泡盛、ウォッカ、ワインなどのアルコール飲料」を選択すれば、対象物は当然「アルコール」と接触することになると認められる。
そして、記載事項(甲β2-1)には「……、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、……。」(請求項2)及び「……焙煎することにより、余分なアルコール分や水分を蒸発させてなる……。」(請求項4)と記載され、記載事項(甲β2-4)には「……、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、……。」(段落0007)及び「……焙煎することにより、余分なアルコール分や水分を蒸発させてなる……。」(段落0009)と記載され、記載事項(甲β2-5)には「……、真空袋から取り出して焙煎する。その結果、余分なアルコール分や水分が蒸発するので、……。」(段落0011)と記載され、記載事項(甲β2-6)には「……焙煎して、含浸した液体中の余分なアルコールや水分を蒸発させることが望ましい。」(段落0019)と記載され、記載事項(甲β2-7)には「焙煎して、余分なアルコールや水分を蒸発させることにより、……。」(段落0020)と記載されている(下線は当審による)ことから、記載事項(甲β2-6)に「添加液体」として例示されているものの中から、対象物質を「アルコール」と接触させることになる「ブランデー、焼酎、泡盛、ウォッカ、ワインなどのアルコール飲料」を選択すれば、対象物は当然アルコールの存在下で焙煎されることになることが記載されていると認められる。
したがって、甲β2焙煎方法発明において、対象物と接触させる物質である「添加液体」として、対象物を「アルコール」と接触させることになるとともに、対象物質をアルコールの存在下で焙煎させることになる、「ブランデー、焼酎、泡盛、ウォッカ、ワインなどのアルコール飲料」を選択することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

次に、相違点2-4について検討する。
甲β2には、甲β2焙煎方法発明において、対象物と接触させる物質である「添加液体」として、「ブランデー、焼酎、泡盛、ウォッカ、ワインなどのアルコール飲料」を選択する場合の、アルコール飲料の量及びアルコール濃度についての記載はない。
記載事項(甲β2-1)には「……焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味の成分を残して高品質の製品を実現する……。」(請求項2)と記載され、記載事項(甲β2-4)には「……焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味などの成分を残した高品質の豆類を実現する……。……焙煎する。その結果、余分なアルコール分や水分が蒸発するので、香りや味などの成分のみが微小隙間中に残り、香りや味の高い、風味豊かな高品質の豆類を実現でき、かつ風味が長続きする。」(段落0007)及び「……焙煎してなる豆類は、余分なアルコール分や水分は蒸発させてあるので、香りや味などの成分だけが微小隙間中に残っている。」(段落0009)と記載され、記載事項(甲β2-5)には「……焙煎する。その結果、余分なアルコール分や水分が蒸発するので、香りや味などの成分のみが微小隙間中に残り、香りや味の高い、風味豊かな高品質の豆類を実現でき、かつ風味が長続きする。」(段落0011)と記載され、記載事項(甲β2-6)には「……焙煎して、含浸した液体中の余分なアルコールや水分を蒸発させることが望ましい。その結果、香りや味の成分だけが微小隙間G中に残るので、風味に富んだ高品質の製品を実現でき、風味も長続きする。」(段落0019)と記載され、記載事項(甲β2-7)には「……焙煎して、余分なアルコールや水分を蒸発させることにより、香りや味が豊かな風味の高い高品質な製品を提供できる。」(段落0020)と記載されている(下線は当審による)ことから、甲β2には、対象物と接触させる物質である「添加液体」に含まれる香りや味の成分を残すことが重要である一方、アルコール及び水分は余分なものであって、焙煎はアルコール及び水分を蒸発させるためにおこなうものであることが示されているといえ、本件特許発明1の課題を認識していない以上、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、甲β2焙煎方法発明における、対象物と接触させる物質である「添加液体」に含まれるアルコールと対象物との本件特許発明1のコーヒーのフルーティ香を増強させるという意味で適切な重量比を、当業者が認識できるとはいえない。
したがって、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、甲β2焙煎方法発明において、相違点2-4に係る「コーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
仮に、甲β2焙煎方法発明において、相違点2-4に係る「コーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である」とすることを、当業者が容易に想到し得たことであるとしても、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおり、コーヒーのフルーティー香を増強するためのコーヒー豆を得ることができるという効果を奏するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「コーヒーのフルーティー香」は、焙煎されたコーヒー豆から抽出される成分のみにより生じる「フルーティー香」であって、甲β2に記載された「添加液体」に含まれる香りや味とは異質なものであることは、技術常識に照らして明らかであり、また、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、コーヒーのフルーティー香を増強するためのコーヒー豆を得ることができるという本件特許発明1の効果が、当業者に予想し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、本件特許発明1は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人βは、その特許異議申立書29頁9?12行において、本件特許発明1と申立人βの認定した甲2-1発明(甲β2焙煎方法発明に対応)との相違点を、
「相違点8:本件発明1では、コーヒー生豆に接触させるアルコールの量が、コーヒー豆100gあたり0.1g以上のアルコールの重量であるのに対して、甲2-1発明では、コーヒー生豆にアルコール飲料を吸収させることは記載されているものの、アルコール量について特定されていない点。」とした上で、
同32頁9行?33頁15行において、
「乾燥したコーヒー生豆に吸入される溶液の量について、甲第2号証には、真空袋に収容する溶液の量が「(予め添加されている)少量の溶液」であるとの記載がある(……)。ここで、「少量」が具体的にどの程度の量であるかについては記載されていないが、基準となる量は真空袋に共に収容されるコーヒー生豆の量と解されることから、「コーヒー生豆の量より明らかに少ない量」であると理解される。
このように、甲第2号証には、乾燥したコーヒー生豆に吸入されるアルコール飲料の種類や量については具体的に特定されていないが、甲2-1発明において、真空袋にコーヒー生豆と共に収納するアルコール飲料の種類を甲第2号証に例示されているアルコール飲料の中から適宜選択し、更に真空袋へのアルコール飲料の添加量をどの程度にするかは、当業者が適宜行う設計事項に過ぎない。したがって、相違点8によっては、本件発明1?本件発明11は、進歩性を有するとは言えない。」、及び、「甲第2号証には、甲2-1発明においては、乾燥した生豆の微小隙間に、アルコール飲料を吸入させることが記載されているものの(記載事項2-2)、乾燥したコーヒー生豆中の微小隙間がどの程度であるかについての記載はないが、甲2-1発明が「乾燥した豆類」を使用することと、当該微小隙間に液体が吸入されるとの記載から、当該微小隙間は、乾燥により水分が抜けることにより生じた隙間であると、理解できる。
ここで、……、当該微小隙間は、コーヒー生豆のおおよそ40%程度(……)である。甲2-1発明において、この微小隙間全体にアルコール飲料を吸入させたとすると、コーヒー生豆のおおよそ40%のアルコール飲料が吸入される。……。
これらが示すように、……、一般的なアルコール飲料を用いて甲2-1発明の方法を行った場合に満たされるものである。この点からも、相違点8によっては、本件発明1?本件発明11は、進歩性を有するとは言えない。」などと主張する。
しかし、本件特許発明1にいう「コーヒー豆とアルコールを接触させる工程、ここでコーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である」とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に「コーヒー豆と接触させるアルコールの重量は、本発明の効果が奏されるのであれば特に限定されない重量比により規定することもできる。例えば、アルコールの重量はコーヒー豆100gあたり、0.1g以上がより好ましく、……。」(段落0015)との記載があることからみても、コーヒー豆に接触させるアルコールとコーヒー豆の重量比を規定するものであって、コーヒー豆に吸収されるアルコールとコーヒー豆の重量比を規定するものでないことは明らかであるので、甲β2焙煎方法発明において、乾燥により水分が抜けることにより生じた微小隙間にアルコール飲料が吸入されることを前提にした推算を根拠とした申立人βの「一般的なアルコール飲料を用いて甲2-1発明の方法を行った場合に満たされるものである。」との主張は受け入れられない。
また、上記(イ)に示したとおり、甲β2には、アルコール及び水分は余分なものであって、焙煎はアルコール及び水分を蒸発させるためにおこなうものであることが示されており、本件特許発明1の課題を認識していない以上、対象物と接触させる物質である「添加液体」に含まれるアルコールと対象物との本件特許発明1のコーヒーのフルーティー香を増強させるという意味で適切な重量比を、甲β2の記載から当業者が認識できるとはいえないので、申立人βの「甲2-1発明において、真空袋にコーヒー生豆と共に収納するアルコール飲料の種類を甲第2号証に例示されているアルコール飲料の中から適宜選択し、更に真空袋へのアルコール飲料の添加量をどの程度にするかは、当業者が適宜行う設計事項に過ぎない。」との主張も受け入れられない。
したがって、申立人の上記主張は受け入れられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明1は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2の進歩性
(ア)本件特許発明2と甲β2焙煎豆類製造方法発明との対比
本件特許発明2と甲β2焙煎豆類製造方法発明とを対比すると、甲β2焙煎豆類製造方法発明における「乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で十分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させる液体含浸法で真空含浸」は本件特許発明1における「接触」に相当すると認められ、甲β2焙煎方法発明における「焙煎」は本件特許発明1における「焙煎」に相当すると認められる。
したがって、両者は、対象物を焙煎する工程、及び対象物を物質に接触させる工程を含んでなる方法である点で一致し、
・上記アに示した本件特許発明1と甲β2焙煎方法発明との相違点でもある、相違点2-1?相違点2-4、及び
・本件特許発明2は、焙煎コーヒー豆を水で抽出する工程も含む一方、甲β2焙煎豆類製造方法は、焙煎豆類を水で抽出する工程を含まない点で相違する(以下、「相違点2-5」という。)。

(イ)相違点についての検討
相違点2-4については、上記ア(イ)において相違点2-4について検討したことと同様に、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、甲β2焙煎豆類製造方法発明において、相違点2-4に係る「コーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
仮に、甲β2焙煎方法発明において、相違点2-4に係る「コーヒー豆100gあたりのアルコールの重量は0.1g以上である」とすることを、当業者が容易に想到し得たことであるとしても、本件特許発明2と甲β2焙煎方法発明とは、さらに相違点2-5でも相違する。
相違点2-5については、甲β2焙煎豆類製造方法発明は、記載事項(甲β2-3)(特に、その段落0004)に示されるとおり、「比較的簡易な方法で確実かつ迅速に液体を乾燥豆類に含浸し、風味を長期間持続可能とすること」を発明の課題とするものであって、そもそも、甲β2焙煎豆類製造方法発明において、水で抽出する工程をさらに設ける動機づけはない。
しかも、本件特許発明2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおり、コーヒーのフルーティー香を増強するコーヒー抽出物を得ることができるという効果を奏するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「コーヒーのフルーティー香」は、焙煎されたコーヒー豆から抽出される成分のみにより生じる「フルーティー香」であって、甲β2に記載された「添加液体」に含まれる香りや味とは異質なものであることは、技術常識に照らして明らかであり、また、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、コーヒーのフルーティー香を増強するコーヒー抽出物を得ることができるという本件特許発明2の効果が、当業者に予想し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、本件特許発明2は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
上記ア(ウ)に示したことと同様に、申立人βの主張は受け入れられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明2は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明3?10の進歩性
本件特許発明3?10はいずれも、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項をすべて、その発明特定事項とする発明であり、さらに技術的限定を加えたものであるので、上記ア及びイに示したとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2が、甲β2焙煎方法発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明3?10は、甲2β焙煎方法発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明11の進歩性
(ア)本件特許発明11と甲β2焙煎豆類発明との対比
本件特許発明11と甲β2焙煎豆類発明とを対比すると、両者は「焙煎豆」である点で一致し、
・焙煎豆が
本件特許発明11では、
「酢酸エチルを100gあたり0.14mg以上、及び
イソ吉草酸エチルを100gあたり0.048mg以上
含んでなる」とされる一方、
甲β2焙煎豆類発明では、
「黒豆、大豆、小豆等の豆類、カボチャやヒマワリなどの種子類、又はコーヒー豆などの少なくとも1種を乾燥状態で添加液体と共に収納した真空袋の内部を真空機で十分な負圧に減圧してから密封し、さらに大気圧を加えて真空袋を加圧収縮させることを特徴とする液体含浸法で真空含浸された豆類を、真空袋から取り出して焙煎することによって、余分なアルコール分や水分を蒸発させ、香りや味の成分を残した豆類」とされて、含まれる酢酸エチルの割合及びイソ吉草酸エチルの割合が不明である点で相違する(以下、「相違点2-6」という。)

(イ)相違点についての検討
相違点2-6について検討する。
甲β2には、焙煎コーヒー豆に含まれる酢酸エチルの割合及びイソ吉草酸エチルの割合についての記載はなく、甲1の記載、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載から、甲β2焙煎豆類発明に対して、相違点2-6に係る
「酢酸エチルの含有量を100gあたり0.14mg以上、及び
イソ吉草酸エチルの含有量を100gあたり0.048mg以上
含んでなる」ものとすることの動機づけとなるものは見出せない。
したがって、本件特許発明11は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
仮に、甲1の記載、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載から、甲β2焙煎豆類発明に対して、相違点2-6に係る
「酢酸エチルの含有量を100gあたり0.14mg以上、及び
イソ吉草酸エチルの含有量を100gあたり0.048mg以上
含んでなる」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たことであるとしても、本件特許発明11は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおり、コーヒーのフルーティー香を増強するための焙煎コーヒー豆であるという効果を奏するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「コーヒーのフルーティー香」は、焙煎されたコーヒー豆から抽出される成分のみにより生じる「フルーティー香」であって、甲β2に記載された「添加液体」に含まれる香りや味とは異質なものであることは、技術常識に照らして明らかであり、また、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載を検討しても、コーヒーのフルーティー香を増強するための焙煎コーヒー豆であるという本件特許発明11の効果が、当業者に予想し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、本件特許発明11は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人βは、その特許異議申立書31頁29行?32頁8行において、本件特許発明11と申立人βの認定した甲2-3発明(甲β2焙煎豆類発明に対応)との相違点を、
「前記相違点8に加えて、下記相違点で相違する。
相違点16:本件発明11に係る焙煎コーヒー豆は、酢酸エチルを100gあたり0.14mg以上、及びイソ吉草酸エチルを100gあたり0.048mg以上含んでなるのに対して、甲2-3発明に係る焙煎コーヒー豆は、甲2-1発明に係る焙煎方法により得られた焙煎コーヒー豆であることが記載されているのみであり、その酢酸エチル含有量とイソ吉草酸エチル含有量は不明である点。」としている。
ここで、申立人βのいう相違点8とは、同29頁9?12行に示された、本件特許発明1と申立人βの認定した甲2-1発明(甲β2焙煎方法発明に対応)との相違点である、
「相違点8:本件発明1では、コーヒー生豆に接触させるアルコールの量が、コーヒー豆100gあたり0.1g以上のアルコールの重量であるのに対して、甲2-1発明では、コーヒー生豆にアルコール飲料を吸収させることは記載されているものの、アルコール量について特定されていない点。」である。
その上で、申立人βのいう相違点8については、申立人βは、同32頁9行?33頁15行において、上記ア(ウ)に示したとおりの主張をし、申立人βのいう相違点16については、同35頁37行?36頁7行において「甲2-1発明に係る方法に本件特許の出願時の周知技術を適用して得られた焙煎コーヒー豆の酢酸エチルとイソ吉草酸エチルの含有量は、本件明細書の実施例1の「豆100gあたり1gのエタノール添加量」や「豆100gあたり5gのエタノール添加量」で得られた焙煎コーヒー豆と同程度である蓋然性が高い。……、相違点16によっては、本件発明11は進歩性を有するとは言えない。」
などと主張する。
しかし、本件特許発明11は、その製造方法が発明特定事項とされていないので、申立人βのいう相違点8を、本件特許発明11と甲β2焙煎豆類発明との相違点として検討することはできない。
また、申立人βのいう相違点16については、上記相違点2-6に対応するものと認められるところ、相違点2-6については、上記(イ)に示したとおり、甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7の記載から、甲β2焙煎豆類発明に対して、相違点2-6に係るものとすることの動機づけとなるものは見出せないので、本件特許発明11は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないし、仮に、甲β2焙煎豆類発明に対して、相違点2-6に係るものとすることを、当業者が容易に想到し得たことであるとしても、本件特許発明11の効果が、当業者に予想し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、申立人βによる上記主張は受けいれられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明11は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲β2を主たる証拠とする進歩性(申立理由β-2B)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1?11は、甲β2に記載された発明並びに甲1、甲α2?甲α7及び甲β2?甲β7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 サポート要件及び実施可能要件(申立理由α-B及び申立理由β-3並びに申立理由β-4)についての判断
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

記載事項(本-1)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、フルーティー香を増強するためのコーヒー豆の焙煎方法及びコーヒー抽出物の製造方法に関する。
……
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、先行技術により得られるコーヒー抽出物は、フルーティー香の強さに改善の余地がある。本発明は、フルーティー香を増強するためのコーヒー豆の焙煎方法及びコーヒー抽出物の製造方法の提供を目的とする。」

記載事項(本-2)
「【0010】
本明細書において、コーヒー抽出物に含まれる酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルの一部又は全ては、原料のコーヒー豆に由来してもよいし、又はそれ以外のものに由来してもよい。例えば、コーヒー抽出物に含まれる酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルは全て、原料のコーヒー豆に由来してもよい。その場合、コーヒー豆以外の原料に由来する酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルを配合する工程は行わなくてもよい。別の例として、コーヒー抽出物に含まれる酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルは、一部が原料のコーヒー豆に由来し、その残部が当該コーヒー豆以外の原料に由来してもよい。ここで、コーヒー豆以外の原料に由来する酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルの配合は、コーヒー豆の焙煎工程及び抽出工程のいずれか一方又は両方で行ってもよいし、これら工程とは別の工程として行ってもよい。好ましくは、コーヒー豆の抽出工程の後に酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルを配合することができる。前記いずれかの工程において、原料のコーヒー豆に由来する酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルの含量並びにコーヒー抽出物のBrixを測定し、コーヒー豆以外の原料に由来する酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルの配合量を決定することができる。
【0011】
本明細書でいう、コーヒー豆以外の原料に由来する酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルには、任意の手段により得られるものが含まれる。このような酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルとして、例えば、植物抽出物に含まれるもの、微生物発酵産物に含まれるもの、及び化学合成物などが挙げられる。或いは、当該植物抽出物、当該微生物発酵産物、又は当該化学合成物を濃縮又は精製手段に供することにより得られる酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルであってもよい。なお、当該濃縮は任意の濃縮度で行うことができ、そして当該精製は任意の精製度で行うことができる。また、コーヒー豆以外の原料に由来する酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルとして、市販の香料組成物等を用いることもできる。」

記載事項(本-3)
「【0013】
焙煎工程は、そのいずれかの時点において、コーヒー豆とアルコールが同じ系に存在していればよい。当該事項を達成する手段として、限定されないが、アルコールと接触させたコーヒー豆を焙煎することが挙げられる。ここで、アルコールと接触させたコーヒー豆とは、アルコールで洗浄されたコーヒー豆、アルコールに浸したコーヒー豆、及びアルコールを噴霧したコーヒー豆等を挙げることができるが、これらに限定されない。当該接触の回数、時間、及び時期等の条件は適宜設定することができる。コーヒー豆とアルコールの接触(接触工程)は、焙煎工程とは別の工程としてもよいし、焙煎工程の中で行うこともできる。例えば、当該接触を行った後に焙煎工程を行うことができる。或いは、焙煎工程においてアルコールを供給し、コーヒー豆とアルコールの接触を行うことができる。更に、コーヒー豆とアルコールの接触を行った後に焙煎工程を開始し、焙煎工程の途中でアルコールを追加することもできる。コーヒー豆とアルコールの接触は、好ましくは焙煎工程の前に行う。」

記載事項(本-4)
「【0016】
理論に拘束されないが、アルコール存在下でコーヒー豆を焙煎することによって、コーヒー豆に含まれる化合物(有機酸類と思われる)とアルコールが脱水縮合反応を起こす。例えばアルコールとしてエタノールを用いる場合、酢酸エチルやイソ吉草酸エチル等のエチルエステル化合物が生成すると考えられる。
【0017】
低級コーヒー豆を原料に用い、本発明の焙煎方法を行う場合、得られる焙煎コーヒー豆のフルーティー香をより等級の高いコーヒー豆から得られる焙煎コーヒー豆のフルーティー香に近づけることが可能となり得る。また、等級の高いコーヒー豆を原料に用い、本発明の焙煎方法を行う場合、得られるコーヒー豆のフルーティー香をより一層増強することが可能となり得る。」

記載事項(本-5)
「【0019】
焙煎コーヒー豆の酢酸エチル含量は、当該コーヒー豆を用いてコーヒー抽出液を得る場合に、当該コーヒー抽出液の酢酸エチル含量が好ましくは30ppb以上、より好ましくは70ppb以上、さらに好ましくは100ppb以上、さらにより好ましくは300ppb以上になるような量である。そのような酢酸エチルの含量は、限定されないが、例えば、焙煎コーヒー豆100gあたり、好ましくは0.14mg以上、より好ましくは0.34mg以上、さらに好ましくは0.48mg以上、さらにより好ましくは1.44mg以上の酢酸エチルであってよい。
【0020】
焙煎コーヒー豆のイソ吉草酸エチル含量は、当該コーヒー豆を用いてコーヒー抽出液を得る場合に、当該コーヒー抽出液のイソ吉草酸エチル含量が好ましくは10ppb以上、より好ましくは20ppb以上、さらに好ましくは30ppb以上、さらにより好ましくは50ppb以上になるような量である。そのようなイソ吉草酸エチルの含量は、限定されないが、例えば、焙煎コーヒー豆100gあたり、好ましくは0.048mg以上、より好ましくは0.096mg以上、さらに好ましくは0.14mg以上、さらにより好ましくは0.24mg以上のイソ吉草酸エチルであってよい。
ここで、焙煎コーヒー豆100gあたりの酢酸エチル含量、イソ吉草酸エチル含量は、次の式:
・酢酸エチル(mg)=コーヒー抽出液の酢酸エチルの濃度(mg/L)×抽出物の液量(L)×(1/抽出率)
・イソ吉草酸エチル(mg)=コーヒー抽出液のイソ吉草酸エチルの濃度(mg/L)×抽出物の液量(L)×(1/抽出率)
から導くことができる。例えば、焙煎コーヒー豆100gを抽出率25%で抽出して抽出液が1.2L得られ、当該抽出液を分析した結果、当該抽出液は酢酸エチル含量が30ppb(30×10-3mg/L)、イソ吉草酸エチル含量が10ppb(10×10-3mg/L)であるとすると、
焙煎コーヒー豆100gあたりの酢酸エチル含量は、30×10-3mg/L×1.2×(1/0.25)=0.14mg、イソ吉草酸エチル含量は、10×10-3mg/L×1.2×(1/0.25)=0.048mg
となる。但し、上記抽出率は、酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの移行率とほぼ等しいとみなす。」

記載事項(本-6)
「【0026】
低級コーヒー豆を原料に用い、本発明のコーヒー抽出物の製造方法を行う場合、得られるコーヒー抽出物のフルーティー香をより等級の高いコーヒー豆から得られるコーヒー抽出物のフルーティー香に近づけることが可能となり得る。また、等級の高いコーヒー豆を原料に用い、本発明のコーヒー抽出物の製造方法を行う場合、得られるコーヒー抽出物のフルーティー香をより一層増強することが可能となり得る。」

記載事項(本-7)
「【0029】
……。
[発明の効果]
本発明により、従来技術による方法に比べて、フルーティー香が増強された焙煎コーヒー豆及びコーヒー抽出物を得ることができる。」

記載事項(本-8)
「【0030】
以下に本発明の具体例を示す。以下の事項は本発明の理解を目的として提供されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
[実施例1]
<コーヒー豆の焙煎工程>
コーヒー生豆に接触させるエタノール量を変化させ、フルーティー香を増強させるために必要なエタノール量を検討した。
【0031】
コーヒー生豆(ベトナム産、G1)100gにエタノール水溶液10gを添加し、約1時間静置し、コーヒー生豆にエタノール水溶液を接触させた。その際、エタノール水溶液中のエタノール濃度を0%、1%、5%、10%、50%に設定した。即ち、コーヒー生豆100g当たりのエタノールの添加量は表1の通りである。なお、コーヒー生豆による液体の最大吸収量は、コーヒー生豆100gあたり約20gであることから、表1の添加量は概ね吸収量と見なすことが可能である。
【0032】
【表1】

【0033】
その後、コーヒー生豆を回収し、焙煎工程に供した。焙煎は、焙煎機(Meister-2.5、株式会社大和鉄工所)を用いて行った。焙煎機内部の温度が180℃に達した時点でコーヒー生豆を投入し、焙煎を開始した。コーヒー豆のL値が22程度になるまで焙煎を行った。焙煎中のコーヒー豆のL値は、焙煎機のサンプリング口から回収したコーヒー豆を色見本と目視で照合することにより判断した。焙煎後のコーヒー豆を大気条件下で冷却した。このようにして得られたコーヒー豆を焙煎コーヒー豆とした。
【0034】
<抽出工程>
得られた焙煎コーヒー豆をコーヒー豆粉砕機(デロンギ株式会社製)で粉砕した。得られた粉砕物10gに対して熱水(イオン交換水)150g(給湯倍率15倍)を投入して抽出を行った。抽出は、コーヒーメーカー(株式会社カリタ製)を用いて行った。得られた抽出液(抽出率:約20%、Brix:1.5?2.0)を流水で冷却した後、以下の分析および官能評価に用いた。
【0035】
<フルーティー香の分析>
上記により得られたコーヒー抽出液をイオン交換水で20倍に希釈し、その10mlをGC測定用ガラス製バイアル(20ml容)に分注した。そして、内部標準溶液として、ボルネオールを10μl、前記バイアルに添加した。さらに、香気成分のヘッドスペースへの揮発を促進させるために、NaCl 3gを前記バイアルに添加した。バイアルを密封し、分析用の試料とした。
【0036】
当該試料を、以下の条件に設定したGC-MSによる分析に供し、フルーティー香の指標成分として、酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルを測定した。
・GC本体装置:Agilent Technologies 7890A
・MS検出器:Agilent Technologies 5975C inert XL MSD with Triple-Axis Detector
・前処理装置:MultiPurpose Sampler MPS for GC
・試料注入条件:DHS(ダイナミックヘッドスペース)法
サンプル温度 25℃
圧力 160kPa
セプタムパージ流量 3 mL/min
スプリットレスモード
・カラム:HP-INNOWAX(長さ:60m、直径:0.250mm、厚さ:0.25 μm)
流量 1.5 mL/min
圧力 160 kPa
・オーブン:40℃→240℃(5℃/min)
・ポストラン:10min
・内部標準:ボルネオール。
【0037】
<官能評価>
専門のパネラー2人がコーヒー抽出物のフルーティ香の強さを5段階で評価した。1点を不合格とし、2点以上を合格とした。5段階評価の詳細は下記の通りである。
【0038】
1点:フルーティ香は殆ど感じない
2点:フルーティ香を感じる
3点:フルーティ香をはっきりと感じる
4点:フルーティ香を強く感じる
5点:フルーティ香を非常に強く感じる
<結果>
結果を表2に示す。コーヒー生豆をエタノールと接触させないで焙煎(従来法)した場合、コーヒー抽出物の酢酸エチル濃度は最も低かった(13ppb)。その一方、コーヒー生豆をエタノールと接触させて焙煎した場合、コーヒー抽出物中の酢酸エチル濃度は大幅に増強された。エタノールの添加量が高くなるにつれて酢酸エチル濃度が高くなっており、エタノール添加量と酢酸エチル濃度に相関があることが示唆された。具体的には、コーヒー生豆100g当たりのエタノール添加量を0.1g、0.5g、1g、5gとした場合、コーヒー抽出物中の酢酸エチル濃度は、それぞれ、61ppb、80ppb、168ppb、902ppbであった。
【0039】
コーヒー生豆をエタノールと接触させないで焙煎(従来法)した場合、コーヒー抽出物にはイソ吉草酸エチルは検出されなかった。その一方、コーヒー生豆をエタノールと接触させて焙煎することによって、コーヒー抽出物中にイソ吉草酸エチルが検出されるようになった。エタノールの添加量が高くなるにつれてイソ吉草酸エチル濃度が概ね高くなる傾向にあり、エタノール添加量とイソ吉草酸エチル濃度の間に関連性のあることが示唆された。具体的には、コーヒー生豆100g当たりのエタノール添加量を0.1g、0.5g、1g、5gとした場合、コーヒー抽出物中のイソ吉草酸エチル濃度は、それぞれ、23ppb、17ppb、18ppb、30ppbであった。
【0040】
そして、コーヒー抽出物中の酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチル濃度が高い程、官能的にもコーヒー抽出物のフルーティー香が強くなることが示された。具体的には、コーヒー生豆100g当たりのエタノール吸収量が0.1g以上になると、フルーティー香の増強を官能的に認識でき、上記の官能評価基準における2点と判断できた。さらに、コーヒー生豆100g当たりのエタノール吸収量を0.5g以上になると、フルーティー香のより一層の増強が官能的に認識でき、上記の官能評価基準における3点と判断できた。
【0041】
以上より、酢酸エチル及び/又はイソ吉草酸エチルは、コーヒーのフルーティー香の指標成分として利用できることが示された。そして、コーヒー生豆100g当たりのエタノール吸収量を0.1g以上にすることによって、フルーティー香が増強されると考えられる。そして、当該エタノール吸収量を0.1g以上にすれば、コーヒーのフルーティー香の増強を官能的に認識することができ(2点以上)、さらに、当該エタノール吸収量を0.5g以上にすれば、コーヒーのフルーティー香をより一層強く官能的に感じることができる(3点以上)。
【0042】
【表2】



(2)サポート要件(申立理由α-B及び申立理由β-3)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。

イ 本件特許発明のサポート要件
(ア)本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許発明の解決しようとする課題は、本件特許の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載(特に、記載事項(本-1)、記載事項(本-6)、記載事項(本-7))から、フルーティー香を増強するためのコーヒー豆の焙煎方法、フルーティー香を増強するためのコーヒー抽出物の製造方法、フルーティー香を増強するためのコーヒー豆及び/又はコーヒー抽出物を配合したコーヒー製品の製造方法、並びにフルーティー香を増強するためのコーヒー豆の提供であると認められる。

(イ)検討
本件特許の発明の詳細な説明には、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する工程の様々な態様が記載される(記載事項(本-3))とともに、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎することにより酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルが生成してフルーティー香が増強されることの一応の理論的説明が記載され(記載事項(本-2)、記載事項(本-4))、焙煎コーヒー豆又はその抽出物に含有される酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの好適な量及びその算出方法も記載されている(記載事項(本-5))。
そして、本件特許発明の方法に該当するコーヒー豆の焙煎方法及びコーヒー抽出物の製造方法の具体例、焙煎コーヒー豆に含まれる酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの分析値、及び、その焙煎コーヒー豆から得られた抽出物の官能評価方法・官能評価結果が、実施例として記載されている(記載事項(本-8))。
これらの記載は、本件特許発明1、3?4、7のコーヒー豆の焙煎方法によって得られる焙煎コーヒー豆がフルーティー香を増強するためのコーヒー豆であり、又は本件特許発明2?7、9のコーヒー抽出物の製造方法によって得られるコーヒー抽出物がフルーティー香を増強するためのコーヒー抽出物であり、本件特許発明8、10によって得られるコーヒー製品がフルーティー香を増強するためのコーヒー豆及び/又はコーヒー抽出物を配合したコーヒー製品であり、本件特許発明11の焙煎コーヒー豆がフルーティー香を増強するためのコーヒー豆であることを示すものであるから、これらの記載に接した当業者は、本件特許発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると認識できるといえる。

(ウ)特許異議申立人の主張について
申立人αは、その特許異議申立書13頁5行?17頁21行において、甲α8、知財高裁平成17年11月11日判決(平成17年(行ケ)第10042号)及び知財高裁平成29年6月8日判決(平成28年(行ケ)第10147号)(特許異議申立書15頁1行「平成28年(行ケ)第100147号」は誤記と認める)を引用した上で、「パネラー人数、対照の有無、官能表現等を総合的に考慮すると、本件明細書の実施例の官能評価結果が、フルーティー香の増強効果を示しているのか、客観的に正確に認識することができない。」、「1ppm以下の水準の濃度は、飲料における酢酸エチルの検知閾値よりも大幅に小さいので、溶液中に酢酸エチルが存在下としても、香味の相違を認識することはできない。コーヒー抽出物のように他の香気成分と共存する溶液ではより高濃度でないと、酢酸エチルの香気は認識できない。本件明細書の実施例の官能評価において酢酸エチルの香気を感じ取ることはできないはずである。」と主張するととともに、甲α9及び甲α10を示して「エタノール添加量依存的にイソ吉草酸エチルが増加しているとはいえないから、各試験水準の官能評価の評点の差異にイソ吉草酸エチルが影響していることを当業者は認識できない。」及び「上記官能評価からでは、コーヒー生豆100gに対してエタノールを0.1g以上添加したコーヒー抽出物について、増強されたフルーティー香が得られたことを当業者が理解することはできない。」などと主張する。
しかし、記載事項(本-8)には、官能評価について「専門のパネラー2人がコーヒー抽出物のフルーティ香の強さを5段階で評価した。1点を不合格とし、2点以上を合格とした。5段階評価の詳細は下記の通りである。」(段落0037)と記載されており、専門のパネラーが詳細に基準の定められた5段階評価をしていることが認められるから、その結果を「フルーティー香の増強効果を示しているのか、客観的に正確に認識することができない。」とすることはできず、記載事項(本-8)の記載に接した当業者は、その官能評価によりコーヒー抽出物のフルーティー香の強さを認識するといえる。
また、申立人αが「1ppm以下の水準の濃度は、飲料における酢酸エチルの検知閾値よりも大幅に小さいので、溶液中に酢酸エチルが存在下としても、香味の相違を認識することはできない。」との主張の根拠として示す甲α9及び甲α10は、清酒又はビールに含まれる酢酸エチルの検知閾値を示すものであって、アルコールの存在しないコーヒー抽出物における酢酸エチルの検知閾値を示すものではないし、液体飲料に含まれるアルコールの存否によって、その液体飲料に含まれるアルコール以外の香味成分についての飲用者の感じ方が変化することも技術常識といえるから、コーヒー抽出物に含まれる酢酸エチルが1ppm以下であれば、酢酸エチルによる香味の相違を当業者が認識することはできないとまではいえない。
したがって、申立人αの上記主張は受け入れられない。

申立人βは、その特許異議申立書36頁30行?37頁25行において、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11について、「本件明細書において、本件発明の効果であるフルーティー香の増強効果を奏することが実質的に記載されているのは、実施例の表2の「豆100gあたりのエタノール添加量(g)」が0.1?5gとして得られた焙煎コーヒー豆からの抽出液であり、酢酸エチル濃度が61?902ppb、イソ吉草酸エチル濃度が23?30ppbのもののみである。すなわち、コーヒー抽出液の酢酸エチル濃度が61?902ppbの範囲外であり、イソ吉草酸エチル濃度が23?30ppbの範囲外となる態様を含む本件発明5、本件発明6、本件発明9、及び本件発明11は、本件明細書の記載からはフルーティー香の増強効果が奏されるか理解できない態様を含む。」、及び「本件明細書の実施例には、酢酸エチル濃度が0.15ppb以上かつ60ppb未満であるコーヒーにおいて、本件発明の効果であるフルーティー香の増強効果が奏されることについては記載されていない。……すなわち、本件発明10は、本件明細書の記載からはフルーティー香の増強効果が奏されるか理解できない発明である。」などと主張する。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記(イ)に示したとおり、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する工程の様々な態様が記載される(記載事項(本-3))とともに、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎することにより酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルが生成してフルーティー香が増強されることの一応の理論的説明が記載され(記載事項(本-2)、記載事項(本-4))、焙煎コーヒー豆又はその抽出物に含有される酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの好適な量及びその算出方法も記載されている(記載事項(本-5))ことから、記載事項(本-8)に実施例として具体的に示されたもの以外のものであっても、これらの記載に接した当業者は、本件特許発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、申立人βの上記主張は受け入れられない。

(エ)小括
以上(ア)?(ウ)に示したとおり、本件特許発明について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(3)実施可能要件(申立理由β-4)について
実施可能要件の判断手法
方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。

イ 本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9、本件特許発明10及び本件特許発明11の実施可能要件
(ア)検討
本件特許の発明の詳細な説明には、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する工程の様々な態様が記載される(記載事項(本-3))とともに、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎することにより酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルが生成してフルーティー香が増強されることの一応の理論的説明が記載され(記載事項(本-2)、記載事項(本-4))、焙煎コーヒー豆又はその抽出物に含有される酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの好適な量及びその算出方法も記載されている(記載事項(本-5))。
そして、本件特許発明の方法に該当するコーヒー豆の焙煎方法及びコーヒー抽出物の製造方法の具体例、焙煎コーヒー豆に含まれる酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの分析値、及び、その焙煎コーヒー豆から得られた抽出物の官能評価方法・官能評価結果が、実施例として記載されている(記載事項(本-8))。
これらの記載に接した当業者は、本件特許発明5、本件特許発明6及び本件特許発明10の方法を使用することができ、本件特許発明11の物を生産し、かつ、その物を使用できるから、これらの記載は、当業者が、本件特許発明5、本件特許発明6及び本件特許発明10の方法を使用することができる程度の記載であり、本件特許発明11の物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載であるといえる。

(イ)特許異議申立人の主張について
申立人βは、その特許異議申立書36頁30行?37頁25行において、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9及び本件特許発明11について、「本件明細書において、本件発明の効果であるフルーティー香の増強効果を奏することが実質的に記載されているのは、実施例の表2の「豆100gあたりのエタノール添加量(g)」が0.1?5gとして得られた焙煎コーヒー豆からの抽出液であり、酢酸エチル濃度が61?902ppb、イソ吉草酸エチル濃度が23?30ppbのもののみである。すなわち、コーヒー抽出液の酢酸エチル濃度が61?902ppbの範囲外であり、イソ吉草酸エチル濃度が23?30ppbの範囲外となる態様を含む本件発明5、本件発明6、本件発明9、及び本件発明11は、本件明細書の記載からはフルーティー香の増強効果が奏されるか理解できない態様を含む。」、及び「本件明細書の実施例には、酢酸エチル濃度が0.15ppb以上かつ60ppb未満であるコーヒーにおいて、本件発明の効果であるフルーティー香の増強効果が奏されることについては記載されていない。……すなわち、本件発明10は、本件明細書の記載からはフルーティー香の増強効果が奏されるか理解できない発明である。」などと主張する。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記(イ)に示したとおり、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎する工程の様々な態様が記載される(記載事項(本-3))とともに、コーヒー豆をアルコールの存在下で焙煎することにより酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルが生成してフルーティー香が増強されることの一応の理論的説明が記載され(記載事項(本-2)、記載事項(本-4))、焙煎コーヒー豆又はその抽出物に含有される酢酸エチル及びイソ吉草酸エチルの好適な量及びその算出方法も記載されている(記載事項(本-5))ことから、記載事項(本-8)に実施例として具体的に示されたもの以外のものであっても、これらの記載に接した当業者は、本件特許発明を、当業者に期待される程度を超える過度の試行錯誤なく、実施できるといえる。
したがって、申立人βの上記主張は受け入れられない。

(ウ)小括
以上(ア)?(イ)に示したとおり、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9、本件特許発明10及び本件特許発明11について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(4)サポート要件及び実施可能要件(申立理由α-B及び申立理由β-3並びに申立理由β-4)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件特許発明5、本件特許発明6、本件特許発明9、本件特許発明10及び本件特許発明11について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-04-12 
出願番号 特願2016-254770(P2016-254770)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23F)
P 1 651・ 121- Y (A23F)
P 1 651・ 113- Y (A23F)
P 1 651・ 536- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 村上 騎見高
齊藤 真由美
登録日 2020-06-09 
登録番号 特許第6714502号(P6714502)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 フルーティー香を増強するためのコーヒー豆の焙煎方法及びコーヒー抽出物の製造方法  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
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